説明

表面形状計測装置

【課題】走査に用いる走査系の運動誤差を除去できる形状計測装置を提供する。
【解決手段】本発明の形状計測装置は、走査系を構成している回転スピンドル112及び直動スライド142と、スライド142上に設置されている変位センサ類で構成されている。回転スピンドル112により、計測試料120とその外周に設けられた補助試料114とが回転している。直線上に動く直動スライド142上では、計測試料形状計測用変位プローブ132と、その両側に補助試料114の表面形状及び走査系の運動誤差を計測できる2台の変位センサ134,136を設置している。試料外周部に設けた補助試料114を変位センサ134,136で2点測定して、表面形状を求めておくことにより、直動スライド142の真直度誤差、回転スピンドル112の回転運動誤差、熱膨張などによる系統誤差を全て除去できるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査系の運動誤差を除去した形で高精度にマイクロ非球面形状を計測できる形状計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変位センサを走査して形状を測定する走査型測定法は、球面や平面のみならず、非球面のような多様な被測定形状に対応できる。走査型測定は、さらに接触法と非接触法に大きく分けられる。
非接触法には、主に光プローブが用いられ、光学部品表面などを測定する際、表面を傷つけることなく測定することが可能であるが、傾斜角変化の大きい形状からの反射光が受け取りにくいことから、50度以上の傾斜角変化を持つ次世代マイクロ非球面測定には適していない。
一方、接触法は、プローブが接触する限り、原理的に傾斜角変化の大きい形状も計測が可能である。被測定表面を走査する際、その測定圧により表面を傷つける恐れがあるが、測定対象としてガラスや金型などの十分に硬い被測定表面などを選択すると、高横分解能、低測定力の変位センサを用いることで、十分に適用可能である。このようなことから、高横分解能、低測定力の接触式変位センサを用いる走査型測定は、次世代マイクロ非球面形状の精密ナノ測定に最適の計測法であることが分かる。
【0003】
±10nmの精度で次世代高精度マイクロ非球面形状を計測するためには、いろいろな試みがなされている。
(1)線形誤差の自律ナノ校正
高分解能のセンサに対応して、線形誤差の自律校正法について、本発明の発明者らが提案している(特許文献1参照)。これによって、高精度な構成基準を用いずに、変位センサの線形誤差を±5nmの精度で校正し、補正することができる。
【0004】
(2)プローブ先端球形状誤差の自律ナノ計測補正
接触プローブを用いる走査型測定の精度限界を決める重要なファクターとして、接触を検知するプローブ先端球の形状の不確かさがある。基準球を用いて、先端球の形状誤差を補正する方法は広く行われているが、この方法では、基準球の形状誤差を取り除くことはできず、測定値にそのまま含まれてしまう。特に非球面形状などの傾斜角が大きく変化する形状においては、先端球の接触する境域が大きく変わり、無視することができない誤差を生じる原因となる。
本発明の発明者らは、基準球の形状等の影響を受けずに±5nmの精度でプローブ球の形状を得る方法を提案した(特許文献2参照)。
【0005】
(3)運動誤差の自律ナノ計測補正
走査に使用するスライドの運動誤差については、平面補助試料を利用して、2本の非接触式静電容量型変位計を用いて、発明者らが提案した2点法を改良した合成法(特許文献3参照)により、±5nm程度の精度まで補正可能である。
【特許文献1】特開平10−332420号公報
【特許文献2】特開2003−279345号公報
【特許文献3】特開平9−210668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、マイクロ非球面レンズ等の表面形状計測において、走査系の誤差、特にスピンドルの回転運動の誤差も除去できる表面形状計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、計測試料とその周囲に配置した補助試料とを回転動作させるスピンドルと、直線運動を行うスライドとで構成した走査系と、前記計測試料の表面形状を計測する計測試料計測用変位プローブと、前記補助試料の表面形状を計測する2台の運動誤差計測用変位センサとで構成した計測系とを備え、前記変位プローブと前記2台の変位センサとを、前記変位プローブを中に挟んで配置して前記スライド上に載せ、前記走査系を構成する前記スピンドルとスライドが動作して、前記計測試料と前記補助試料を走査して、前記変位プローブ及び前記2台の変位センサの出力をサンプリングして、予め求めた前記補助試料の表面形状を用いて、前記走査系の運動誤差を含まない、前記計測試料の表面形状を求めることを特徴とする表面形状計測装置である。
前記補助試料の予め求めた表面形状は、前記2台の変位センサの1台で前記走査系の運動誤差を含む表面形状を計測し、次に、前記スピンドルを回転して補助試料を180度反転して設置してから、前記2台の変位センサの他の1台で前記走査系の運動誤差を含む表面形状を計測し、計測した2つのセンサの出力から前記走査系の運動誤差を含まない前記補助試料の表面形状を求めることが望ましい。
また、前記変位プローブは、先端部が球状の接触式であり、前記計測試料に対して、垂直より傾けて接触させるとよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、試料外周部に設けた補助試料を2つの変位センサで測定して、回転系の運動誤差を分離した形で表面形状を求めておくことにより、スライドの真直度誤差、スピンドルの回転運動誤差、熱膨張などによる系統誤差を、全て除去できるようにしている。
また、プローブを傾けることにより、先端のプローブ球の使用範囲を狭くすることができ、誤差をより少なくすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の形状計測装置の構成を示す概略図である。図1において、本発明の形状計測装置は、走査系を構成している回転スピンドル112及び直動スライド142と、スライド142上に設置されている計測系の変位センサ類で構成されている。スピンドル112により、計測試料120とその外周に設けられた補助試料114とが、スピンドル112上で回転している。直線状に動くスライド142上では、接触式変位プローブ132と、その両側に補助試料114の表面形状を計測できる2台の変位センサ134,136を設置している。
接触式変位プローブ132は、直径10μmの超微粒子シリカ球を用いて横分解能を高め、プローブスライドはエアベアリングで支持して、測定力が5mN程度になる接触型変位センサを実現している。
【0010】
図2は,この表面形状計測装置で用いている座標系の模式図である。さて、スライド142の走査方向はx軸方向(半径方向)であり、接触式変位プローブ132の測定方向がz軸方向である。接触式変位プローブ132や変位センサ134、136の出力は、z軸方向の変位である。図2のeSY,eCYは、スピンドル112のY軸周りのチルトモーション,スライド142のY軸周りのヨーイング誤差をそれぞれ表している。
これらの座標系は、走査を行うスピンドル112とスライド142を制御し、接触式変位プローブ132や変位センサ134,136の出力を入力してサンプリングを行うコンピュータ(図示せず)により、利用されている。
本発明は、試料外周部に設けた補助試料114を変位センサ134,136で2点測定することにより、スライド142の真直度誤差、スピンドル112の回転運動誤差、熱膨張などによる系統誤差を、それぞれの誤差を分離することはできないが、全て除去できるようにしている。
【0011】
<補助試料の表面形状>
さて、まず、反転法により補助試料114の表面形状を求める。
図3に示すように、変位センサ134で、スライド142の半径方向の位置(x)でスピンドル112を回転(θ)し、補助試料114をサンプリングして、以下のような補助試料114の表面形状f(x,θ)を求める。
【数1】

(x,θ)は、変位センサ134の出力であり、dは2つの変位センサ134,136の間の距離である。eST(x,θ)はスピンドル112のアキシャルモーション,eSY(x,θ)はスピンドル112のY軸周りのチルトモーション,eCT(x,θ)はスライド142のz軸方向真直度誤差、eCY(x,θ)はスライド142のY軸周りのヨーイング誤差である。
【0012】
つぎに、補助試料114を180度回転(反転)してスピンドル112に設置してから、スピンドルを回転させてセンサ136の出力l(x,θ)を同様にサンプリングすると、以下のようになる。
【数2】

式(1)+式(2)を計算して、補助試料の表面形状f(x,θ)を求めると、
【数3】

となる。式(3)では、回転系の運動誤差であるeSY(x,θ)とeCY(x,θ)が除かれている。
上述のようにして、補助試料114の表面形状f(x,θ)を、計測試料120の表面形状計測を行う前に得ておく。
なお、その他の運動誤差であるeST(x,θ)+eCT(x,θ)は、接触式変位プローブ132をスピンドル112の回転中心に合わせて設置し、その出力から得ることができる。
【0013】
<表面形状測定>
計測試料120の表面形状を計測するときは、スピンドル112とスライド142により半径方向(x)と円周方向(θ)に走査しながら、接触式変位プローブ132の出力l’,変位センサ134,136の出力l’,l’を得ることで行う。
プローブ132の出力l’は、
【数4】

と表される。ここで、g(x,θ)は測定試料の表面形状であり、e’ST(x,θ)はスピンドル112のアキシャルモーション,e’CT(x,θ)はスライド142のz軸方向真直度誤差を表している。ただし,走査系の回転運動誤差は補助試料形状測定時から変化してもかまわない。
【0014】
静電容量型センサ134,136の出力l’,l’は、
【数5】

である。なお、e’CY(x,θ)はスライド142のY軸周りのヨーイング誤差、e’SY(x,θ)はスピンドル112のY軸周りのチルトモーションである。
((5)+(6))/2を計算して、
【数6】

を得る。
【0015】
この式(7)で求めたe’ST(x,θ)+e’CT(x,θ)を式(4)に代入して、測定試料120の表面形状g(x,θ)を下に示すように求める。
【数7】

補助試料114の表面形状f(x,θ)が既知であるので、式(8)から計測試料120の表面形状g(x,θ)を得ることができる。
式(8)で分かるように、スピンドル112のアキシャルモーション(e’ST(x,θ)),スライド142のz軸方向真直度(e’CT(x,θ)),スピンドル112のY軸周りのチルトモーション(e’SY(x,θ)),スライド142のY軸周りのヨーイング誤差(e’CY(x,θ))が最終的に除かれている。
なお、上述の実施形態では、接触式変位センサや無接触式変位センサを用いているが、表面形状を計測できる変位センサであれば、上述の走査系の誤差を除く計測を行うことができる。
【0016】
<プローブの当て方>
図4は、接触式変位プローブ132が計測試料120に当たっている様子を示している。
図4の下部に示しているのは、接触式変位プローブ132の先端部分のプローブ球が凹面の計測試料を計測した場合に、計測試料に当たる部分の角度を示している。
図4(a)は、従来の計測試料を回転させず、直線的に走査を行った場合を示している。この場合、先端部分のプローブ球は、左右対称に大きい角度であたることになる。このように、プローブ球の広い範囲が使用されているので、傾斜のきつい面では誤差が大きくなる。
【0017】
図4(b)は、上述した計測試料を回転させて走査した場合を示している。この場合は、先端部分のプローブ球は、中心から半分しか計測試料に当たらない。そのため、プローブ球に当たる角度範囲が狭く、使用する範囲が少ないために誤差が少ない。
図4(c)は、図5に示すように、接触式変位プローブ132を傾けて、z軸(計測試料に垂直)に対して浅い角度で計測試料に当てている。このように、接触式変位プローブ132を傾けることにより、先端のプローブ球の使用範囲を狭くすることができ、誤差をより少なくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】形状計測装置の概略構成を示す図である。
【図2】形状計測装置の以下で使用する座標系を示す模式図である。
【図3】補助試料を走査して行うサンプリングを示す図である。
【図4】接触式変位プローブと計測試料とが当たる様子を示す模式図である。
【図5】接触式変位プローブを傾けて当てている構成を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測試料とその周囲に配置した補助試料とを回転動作させるスピンドルと、直線運動を行うスライドとで構成した走査系と、
前記計測試料の表面形状を計測する計測試料用変位プローブと、前記補助試料の表面形状を計測する2台の運動誤差計測用変位センサとで構成した計測系とを備え、
前記変位プローブと前記2台の変位センサは、前記変位プローブを中に挟んで配置して前記スライド上に載せ、
前記走査系を構成する前記スピンドルとスライドが動作して、前記計測試料と前記補助試料を走査して、前記変位プローブ及び前記2台の変位センサの出力をサンプリングし、
予め求めた前記補助試料の表面形状を用いて、前記走査系の運動誤差を含まない、前記計測試料の表面形状を求めることを特徴とする表面形状計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の表面形状計測装置において、
前記補助試料の予め求めた表面形状は、
前記2台の変位センサの1台で前記走査系の運動誤差を含む表面形状を計測し、
次に、前記スピンドルを回転して補助試料を180度反転設置してから、前記2台の変位センサの他の1台で、前記走査系の運動誤差を含む表面形状を計測し、
計測した2つの変位センサの出力から前記走査系の運動誤差を含まない、前記補助試料の表面形状を求めることを特徴とする表面形状計測装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面形状計測装置において、
前記変位プローブは、先端部が球状の接触式であり、前記計測試料に対して垂直より傾けて配置させることを特徴とする表面形状計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−300778(P2006−300778A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−124052(P2005−124052)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】