説明

被覆層構造体の施工方法及び被覆層構造体

【課題】 FRP防水・防食の現場施工において、作業効率を効果的に改善させることができ、且つ施工中の臭気をも低減できる施工方法を提供する。
【解決手段】 FRP層fを含む被覆層構造体である防水層1を現場施工する施工方法である。この施工方法は、樹脂が液状未硬化である間にFRP層fの表面を透明性を有するフィルム状部材2で覆うとともに加圧及び脱泡して平滑化し、前記樹脂が硬化した後にフィルム状部材2を除去する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP防水、防食被覆層の施工方法及びこの施工方法を用いた被覆層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP層を含む被覆層構造体による防水又は防食処理は、浴室、住宅の屋上、バルコニー、屋上駐車場、プール、工場床等をはじめ、上水又は下水用のコンクリート槽等の土木用途にも広く用いられている。一般的なFRP防水・防食は、不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂を繊維補強基材に塗布含浸させ、FRP層を現場施工にて形成することにより行われる。FRP層を含む被覆層構造体は、水密性、下地追従性、耐摩耗性、耐衝撃性、耐候性、耐薬品性等に優れており、防水層や防食層として特に適した特性を有している。
【0003】
FRP防水の代表的な施工工程の概略は、次のようなものである。先ず下地にプライマーを塗布し硬化乾燥させる。次にシート状に加工された繊維補強基材(ガラス繊維チョップドストランドマット等)を敷き、この繊維補強基材に樹脂を含浸させ脱泡作業後硬化させてFRP層を形成する。次に中塗りを行い、十分に硬化させたのち、研磨等による表面仕上げや清掃を行う。そして更にトップコートを塗り重ね、硬化させて完成となる。これら一連の作業を現場施工にて行う(非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】日本建築学会編 「FRP防水工事施工指針(案)・同解説」(社)日本建築学会 2000年7月1日発行、p.20−41
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したFRP防水の現場施工において、作業効率を大きく向上させる技術は存在していなかった。上記従来工法では、チョップストランドマット等の繊維補強基材に樹脂を塗布することにより現場施工にてFRP層を形成するため、当該FRP層の表面は繊維補強基材に起因する凹凸や毛羽立ちが顕著であった。これら凹凸や毛羽立ちを解消して平滑な被覆層構造体に仕上げるために、FRP層の上に中塗り等の上塗りを行い且つ表面調整(表面研磨等)及び清掃を行っていた。中塗り層の役割は、a)樹脂層を増やして防水・防食性能を向上させる b)長期的に樹脂を極力露出させない c)着色された中塗りを塗布することにより硬化後のバリや毛羽等の存在を視認しやすくする のa)〜c)が挙げられる。毛羽等を残しままトップコートを塗布すると、将来の被覆層の耐久性に重大な影響を与える。従って、特に上記役割b)及びc)を有する中塗り工程は従来必須であり、中塗りを硬化させるための待ち時間も必要であった。
【0005】
また、特にラジカル硬化型樹脂は酸素に触れると硬化しないので、樹脂中にパラフィンワックス等の酸素硬化阻害防止剤(空気遮断剤)を入れているが、酸素硬化阻害を完全に防止することができず、特に低温や薄膜の場合には樹脂が硬化しにくいという問題があった。また、従来工法では、FRP層の硬化時間は気温等に左右され必ずしも一定でなく、FRP層が硬化したか否かを正確に判断するのが困難であるため、硬化時間を余分に見積もらざるをえない傾向にあった。さらに、FRP層の施工後ほこりや汚れが付着したり、屋外での施工の場合は降雨の影響を大きく受けるという問題もあった。これらの問題点は、現場で樹脂を塗布する現場施工の工法を採る以上不可避的なものであり、これらの点を改善することは基本的に困難であると考えられてきた。更に、樹脂中のスチレンモノマー等に起因する臭気は、施工者の作業効率を低下させるとともに、近隣住民等への影響が大きく、近年の環境重視の傾向とも相まってより一層重要な問題となってきている。本発明はこれらの問題点を効果的に改善するものである。
【0006】
即ち本発明は、現場施工のFRP防水に関し、作業効率を効果的に改善させることができ、且つFRP層の表面硬化度を高く且つ均一とすることができる施工方法及び被覆層構造体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、繊維補強基材に熱硬化性樹脂が含浸されてなるFRP層を含む防水用又は防食用の被覆層構造体の施工方法であって、層状に配置された前記繊維補強基材の上から前記樹脂を塗布して前記樹脂を前記繊維補強基材に含浸させて前記FRP層を形成し、前記樹脂が液状未硬化である間に前記FRP層の表面を透明性を有するフィルム状部材で覆うとともに加圧及び脱泡して平滑化し、前記樹脂が硬化した後に前記フィルム状部材を除去する工程を含むことを特徴とする被覆層構造体の施工方法である。
【0008】
単に繊維補強基材に樹脂を含浸させた状態では、FRP層の表面は繊維補強基材の形態を反映した凹凸面となり、且つ繊維補強基材の毛羽立ちが顕著であるが、硬化中のFRP層をフィルム状部材で覆い且つ加圧脱泡することにより、FRP層の表面が平滑化され毛羽立ちも抑えられる。よって、中塗りや表面調整を行わなくても平滑な仕上がりの被覆層構造体を得ることができ、更にはトップコートが無くても(つまりFRP層が最表層であっても)平滑な仕上がりの被覆層構造体とすることができる。よって、工程数を大幅に削減しうる。更に、フィルム状部材により空気を遮断することができるので、FRP層の表面硬化度を高く且つ均一とすることができる。また、硬化中のFRP層に付着するほこりや汚れ等が防止できる。更に、フィルム状部材の剥がれ具合によってFRP層の硬化状態を判断できるので、硬化のための無駄な待ち時間を減らすことができる。更に、屋外施工の場合における降雨の影響を少なくすることができる。また、フィルム状部材は透明性を有するものとしたので、不透明なフィルム状部材を用いた場合と比較してFRP層の表面に発生したピンホールを見つけやすくなる。なお、本発明において「透明性」とは、半透明を含む概念である。
【0009】
前記熱硬化性樹脂が重合性モノマー架橋型熱硬化性樹脂である不飽和ポリエステル樹脂及び/又はビニルエステル樹脂である場合は、FRP防水・防食に優れた性能を有する被覆層構造体とすることができる。また上記不飽和ポリエステル樹脂を用いた場合は、スチレンモノマーによる臭気が特に問題となるが、上述のようにフィルム状部材で覆うことにより硬化中のスチレンモノマーの揮散を大幅に低減できる。したがって、汎用され被覆層構造体として特に優れた特性を有する不飽和ポリエステル樹脂を用いながら臭気を大幅に低減できる。
【0010】
前記樹脂を光硬化性樹脂としてもよい。この場合、硬化中にフィルム状部材を通して樹脂に光を照射することができ、硬化時間をより一層短縮することができる。よって、施工効率が更に高まると共に、臭気もより一層抑制される。また前記樹脂を(メタ)アクリロイル基を有するラジカル硬化型の樹脂としてもよい。この場合、臭気の点で特に問題となるスチレンモノマーを含まない樹脂とすることができ、施工中に発生する臭気をより一層低減することができる。また一般に(メタ)アクリロイル基を有するラジカル硬化型の樹脂は酸素による硬化阻害の影響が大きいが、フィルム状部材で覆うことによりFRP層の表面硬化度を高く且つ均一とすることができる。
【0011】
前記フィルム状部材は、ASTM D882に準拠して測定されたヤング率が1GPa〜5GPaの素材からなり、且つ厚みが40μm〜500μmであるのが好ましい。ヤング率が1Gpaよりも小さい場合や、厚みが40μmより薄い場合は、フィルム状部材の曲げ剛性が小さいため(コシが弱いため)、敷設の際に空気を噛みやすくなり、またフィルム状部材による平滑化効果が減少する場合がある。ヤング率が5Gpaを超える場合や、厚みが500μmを超える場合は、フィルム状部材の曲げ剛性が高すぎて平滑化効果が低下する場合があり、またフィルム状部材のコストが高くなる。
【0012】
前記被覆層構造体は、平場を覆う水平部と、前記平場の周囲の立面を覆い前記水平部と連続して設けられた立上り部とを有するのが好ましい。立上り部では重力の作用によってFRP層の繊維補強基材が浮き上がりやすいため、FRP層の平滑度が水平部よりも更に悪化する傾向にある。また立上り部は水平部と比較して表面調整の作業に手間がかかる。しかし立上り部をもフィルム状部材で覆って平滑化することにより、立上り部の表面調整作業が不要とすることができ、且つ表面が平滑で仕上がりのよい立上り部を形成することができる。また、FRP層が平滑化されているから、特に塗布の手間が大きい立上り面において中塗りやトップコートの省略が可能となり、施工効率が更に向上する。
【0013】
本発明の被覆層構造体は、平場を覆う水平部と、前記平場の周囲の立面を覆い前記水平部と連続して設けられた立上り部とを有し現場施工される防水用又は防食用の被覆層構造体であって、樹脂が液状未硬化である間に透明性を有するフィルム状部材で覆うとともに加圧及び脱泡し且つ硬化後に前記フィルム状部材を除去することにより平滑化されたFRP層と、前記水平部において前記FRP層の上に設けられた水平部上塗り層と、前記立上り部において前記FRP層の表面に設けられた立上り部上塗り層と、を有し、前記立上り部上塗り層は、前記水平部上塗り層よりも層数が少ないことを特徴とする。
また本発明における他の被覆層構造体は、平場を覆う水平部と、前記平場の周囲の立面を覆い前記水平部と連続して設けられた立上り部とを有し、現場施工される防水用又は防食用の被覆層構造体であって、樹脂が液状未硬化である間に透明性を有するフィルム状部材で覆うとともに加圧及び脱泡し且つ硬化後に前記フィルム状部材を除去することにより平滑化されたFRP層と、前記水平部において前記FRP層の上に設けられた水平部上塗り層と、を有し、前記立上り部においては、前記FRP層が最表層とされたことを特徴とする被覆層構造体である。
【0014】
立上り部は水平部よりも水が溜まりにくく、また屋外においては日光の照射量が水平部よりも少ないなど、立上り部への要求性能は水平部よりも低い傾向にある。よって立上り部においてはFRP層の上塗りを水平部よりも少なくしたいところである。しかし従来は立上り部の平滑な仕上がりを確保する必要から、立上り部にも水平部と同じ上塗りをする場合が多く、且つ立上り部の表面調整、清掃が必要であった。しかしFRP層をフィルム状部材により平滑化することにより、立上り部の上塗りを水平部より少なくしても平滑な仕上がりの被覆層構造体とすることができる。更に、フィルム状部材によりFRP層の表面が平滑化されるので、FRP層の表面を露出させても外観上問題がない。よって立上り部にはFRP層の上塗りを不要とすることもできる。
【発明の効果】
【0015】
フィルム状部材を用いることにより、FRP防水の現場施工において作業効率を効果的に改善させることができ、且つ施工中の臭気をも大幅に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の第1実施形態である施工方法により形成された被覆層構造体の一例である防水層1の断面図である。この防水層1は、コンクリート等よりなり水平面を上面とする下地3を被覆するものであり、浴室、住宅の屋上やバルコニー、屋上駐車場、プール、工場床等の防水層として施工される。本実施形態においては、防水層1は4つの層よりなり、具体的には下層側から順に、プライマー層p、FRP層f、トップコート層tから構成されている。プライマーとしては一般に一液性湿気硬化型ウレタンプライマーが用いられる。
なお、防水層1の積層構成は本実施形態の例に限定されるものではなく、プライマー層p、トップコート層tの有無や層数などは、防水層1の用途や要求性能、更には下地3の状態等により適宜選択される。また各層の材質(樹脂の種類)はFRP防水分野で一般に汎用されている公知慣用のものを使用することができる。
【0017】
この防水層1は現場で施工されるものであり、その概略工程(1)〜(8)について図2を適宜参照しながら説明する。なお、各工程において塗布される樹脂が硬化剤を必要とするものである場合は、塗布の前に適宜硬化剤と混合しておく。
(1)下地3の表面を平滑に仕上げる下地調整及び清掃を行った後、墨出しを行う。
(2)プライマー層pを塗布する。
(3)プライマー層pを硬化乾燥させる。
(4)次に、繊維補強基材の樹脂が含浸されてなるFRP層fを形成する。この工程の概略は次の(4a)〜(4c)よりなる。なお、以下の下塗りAや下塗りBの多くは繊維補強基材中に含浸されることとなるため、図1や図2等では、下塗りA、下塗りB、及び繊維補強基材層を合わせた層を簡略化して単一のFRP層fとして示している。
(4a)下塗りAを塗布する。
(4b)下塗りAが硬化する前に繊維補強基材を層状に敷設する。具体的には、ガラス繊維よりなるチョップストランドマットを敷設して上記下塗りAの表面に貼り付ける。
(4c)上記チョップストランドマットの上から下塗りBを塗布し、チョップストランドマットに樹脂を含浸させる。
(5)透明なポリエステルフィルム(PETフィルム)等よりなるフィルム状部材2を敷設し、当該フィルム状部材2でFRP層fの表面を覆う。フィルム状部材2は、フィルム状部材2の長手方向に沿って敷設し、且つ空気の侵入を防ぐべく一方側から他方側に向かって(図2(a)の白抜き矢印参照)敷設する。この際、ローラー(豚毛のローラーや亜鉛メッキした鉄ローラー等)によりフィルム状部材2とFRP層fとの間に入り込む空気を抜きながらフィルム状部材2を敷設する。さらに、フィルム状部材2が敷設された状態(図2(b)に示す)でフィルム状部材2の上からローラー等により圧力を加えてFRP層fを平坦化するとともに脱泡して、FRP層fの表面を平滑化する。
(6)フィルム状部材2が敷設された状態(図2(b)に示す)でFRP層fを硬化させる。
(7)FRP層fが硬化した後、フィルム状部材2を除去する(図2(c)に示す状態)。
(8)トップコート層tを塗布し、硬化させる。
【0018】
なお、上記実施形態において、下地3は平坦である。下地に起伏や突起部がある場合は、フィルム状部材を塗膜に密着させることができないので、本発明は下地3が平坦であることが好ましい。ただし、一方向のみに滑らかな曲率を有する曲面など、フィルム状部材を皺のない状態で密着させることのできる下地3であれば、本発明の適用が可能である。
【0019】
上記工程(7)において、FRP層fの硬化状態は、フィルム状部材2の剥がれ具合によって判断することができる。樹脂層の硬化時間は、気温や湿度あるいは僅かな層厚の差など施工現場の諸条件により微妙に変化するため、正確に把握するのが難しい。従来は、FRP層fが完全硬化したか否かの判断が難しく、十分な硬化を確保するため余分な硬化時間を見積もっていたため、作業の待ち時間が長くなっていた。しかし本実施形態では、フィルム状部材の剥がれ具合によってFRP層の硬化状態を判断できるので、無駄な待ち時間を減らすことができた。
【0020】
フィルム状部材2を敷設する前におけるFRP層fの表面31は、繊維補強基材(チョップストランドマット)に起因する凹凸や毛羽立ちが顕著であるが、フィルム状部材2を敷設することにより、フィルム状部材2を敷設した後におけるFRP層fの平滑化された表面32は、フィルム状部材2の表面状態と同様に平滑化され、毛羽立ちも抑えられている(図2(a)参照)。
【0021】
ここで、上記実施形態と比較するため、従来の施工方法の工程(以下、従来工程ともいう)を示す。なお図3は以下に示す従来方法により施工された防水層10の断面図であり、図4は防水層10のうち中塗り層nまでが塗布された状態を示す断面図である。ここでは、上記実施形態の工程番号と区別するため、工程番号の後にjを付すこととする。工程(1)〜(4)は上記実施形態と同じであるので省略し、上記工程(4)後の工程を以下に示す。
(5j)FRP層fの樹脂(即ちチョップストランドマットに含浸された上記下塗りA及び下塗りB)を硬化させる。
(6j)中塗り層nを塗布する。
(7j)中塗り層nを硬化させる。
(8j)中塗り層nの表面41(図4参照)を研磨等により平滑化する表面調整を行い、更に清掃を行う。
(9j)トップコート層tを塗布し、硬化させる。
【0022】
図3及び図4に示すように、従来工程におけるFRP層fの表面33にはチョップストランドマットに起因して凹凸や毛羽立ちが不可避的に発生している。FRP層fの樹脂が硬化する際に樹脂は収縮するが、チョップストランドマット等の繊維補強基材は収縮しないので、凹凸や毛羽立ちはより一層顕著なものとなり、中塗り層nの上面41の平滑度は、表面粗度Raで100〜300μm程度のオーダーとなる。そして、FRP層fの上に塗布された中塗り層nの表面41にも凹凸や毛羽立ちが発生するが(図4参照)、これはFRP層f表面33の凹凸や毛羽立ちが反映されたものである。表面41の凹凸や毛羽立ちを除去するために、上記工程(8j)において表面調整が必要となり、この表面調整の後処理として清掃も必要となる。中塗り層nの役割は、a)樹脂層を増やして防水・防食性能を向上させる b)長期的に樹脂を極力露出させない c)着色された中塗りを塗布することにより硬化後のバリや毛羽等の存在を視認しやすくする のa)〜c)が挙げられる。毛羽等を残しままトップコートを塗布すると、将来の被覆層の耐久性に重大な悪影響を与える。従って、特に上記役割b)及びc)を有する中塗り工程は従来必須であり、中塗り層nを硬化させるための待ち時間も必要であった。
上述したように、FRP層fの内部にはチョップストランドマット等の繊維補強基材部分があるため、FRP層fの表面は凹凸面となり且つ毛羽立ちが顕著である。FRP層f表面の平滑度は極めて悪いものであり、且つ毛羽立ちも顕著であるので、FRP層fの上に中塗り層nを設けてもなお、中塗り層nの表面に凹凸や毛羽立ちが発生し、表面調整が必要である(上記工程(8j)参照)。
【0023】
このように、従来の施工方法では、防水層1の表面仕上がりとして通常求められる程度の表面平滑性を確保しようとすると、FRP層fの上に必ず樹脂層を設け且つ表面調整を行う必要があった。しかも、FRP層fの表面を表面調整することはできないから、表面調整はFRP層fの上塗り層(上記中塗り層nなど)において行う必要があった。FRP層fの表面を表面調整で研磨等すると、FRP層f内の繊維補強基材が切除されてしまうからである。
【0024】
これに対して上述した本発明の実施形態における施工方法では、フィルム状部材2によりFRP層fの表面33が平滑化されているので、中塗り層nを設けなくてもFRP層fの上面を平滑化でき、且つ表面調整や清掃が不要となる。更には、FRP層fの上に樹脂層を設けなくても(即ちFRP層fを最表層としても)、防水層1表面に必要な平滑性を確保することができる。従来のようにフィルム状部材を用いない工法では、FRP層fの表面の平滑度はRa(JIS B0601−1994に規定された算術平均粗さRa)で100〜300μm程度又はそれ以上のオーダーとなる。これに対して上記実施形態では、フィルム状部材で被覆することにより、当該フィルム状部材の表面状態がFRP層fに転写されるので、FRP層fの表面はRaで数μm程度又はそれ以下のオーダーにまで平滑化される。よって、中塗り層nやトップコート層tが無くても、防水層1に通常要求される程度の平滑性を得ることができる。なお、トップコート層tや中塗り層nを設ける目的は、防水層の表面平滑性の点のみではなく、樹脂層を増やして防水性や防食性を向上させるなどの目的もある。したがって本発明の被覆層構造体においても、用途や施工場所等により必要に応じて中塗り層nやトップコート層tなどを設けても良いことはいうまでもない。ただし、一般的な防水用途においては、中塗り層nが無くても(FRP層fの上層がトップコート層tのみであっても)十分な性能の防水層となりうる。また、防食ライニング用の被覆層構造体においては、プライマー層pとFRP層fの2層のみで十分な性能を有する場合がある。よって本発明では、従来と比べて工程数の大幅な削減が可能となる。
【0025】
以上に記載した点を含め、実施形態の施工方法による作用効果は以下のように列記することができる。
(ア)FRP層fに上塗りしなくても平滑な仕上がりの防水層を得ることができる。
(イ)表面調整が不要となる。
(ウ)フィルム状部材2により酸素による硬化阻害の影響が激減するので、FRP層の表面硬化度を高く且つ均一とすることができる。
(エ)硬化中はフィルム状部材2で覆われているから、硬化中におけるFRP層fへのほこりや汚れ等の付着が防止できる。
(オ)フィルム状部材2の剥がれ具合によってFRP層fの硬化状態を判断できるので、FRP層fが硬化したか否かを正確に判断でき、硬化のための無駄な待ち時間を減らすことができる。
(カ)硬化中のFRP層fをフィルム状部材2で保護することにより、屋外施工の場合における降雨の影響を少なくすることができる。
(キ)FRP層fの樹脂中にスチレンモノマー等の臭気発生原因物質が含まれている場合でも、フィルム状部材2で覆うことにより硬化中に発生する臭気を低減することができる。
(ク)フィルム状部材2は繰り返し使用することができるため、施工コストが低くなる。
(ケ)フィルム状部材2により空気を遮断して硬化させるため、FRP層fの塗膜の品質が化学的に安定し且つ品質向上を図ることができる。
(コ)上記各効果により、施工時間が大幅に短縮される。
(サ)塗工層が少なくなる分だけ樹脂の使用量を減らすことができる。
【0026】
施工時間に関して、例えば冬場における施工で説明すると、上記従来工法では、FRP層fの硬化工程(前記工程5j)として1〜2時間が必要であり、この時間は現場施工者にとって待ち時間となる。更に中塗り層nの塗布後にも中塗り層nを硬化させるために1〜2時間の待ち時間が必要となる。更に、表面調整や清掃にも時間を要する。
これに対して上記実施形態の工法では、従来必要でなかった工程として、フィルム状部材を敷設後にローラー等で加圧して脱泡する工程が必要となる。しかしながらこの工程や、FRP層fの硬化時間内に(つまり硬化するまでに)行われるものであり、従来は待ち時間であった時間を利用して作業することになる。したがって上記実施形態の工程では、少なくとも、従来工程における(5j)、(6j)、(7j)、(8j)の作業時間を合計した時間について従来工法よりも施工時間が短いこととなる。また、特に防食用途の被覆層構造体では、プライマー層とFRP層の2層のみでトップコートが不要となる場合も多いため、更に工程数が少なくなり、施工時間が短縮化される。
【0027】
図5は、本発明の別の実施形態である防水層40の断面図である。この防水層40は、平場(略水平な下地面)を覆う水平部41と、前記平場の周囲の立面を覆い水平部41と連続して設けられた立上り部42とを有する。この防水層40も現場施工されたものであり、樹脂が液状未硬化である間に透明性を有するフィルム状部材で覆い且つ硬化後に前記フィルム状部材を除去することにより平滑化されたFRP層fと、水平部41においてFRP層fの上に設けられた水平部上塗り層43としての中塗り層n及びトップコート層tと、立上り部42においてFRP層fの表面32に設けられた立上り部上塗り層44としてのトップコート層tと、を有している。立上り部上塗り層44はトップコート層tの1層のみであるのに対し、水平部上塗り層43は中塗り層nとトップコート層tの2層である。よって、立上り部上塗り層44や水平部上塗り層43よりも層数が少ない。
【0028】
防水層40のうち水平部41の施工工程は、上述した第1実施形態の工程(1)〜(8)の工程(7)と工程(8)との間に中塗り層nを塗布し硬化させる工程を設けた以外は、工程(1)〜(8)と同じである。また立上り部42の施工工程は、工程(1)〜(8)と同じである。なお、立上り部42のFRP層fを覆うフィルム状部材と、水平部41のFRP層fを覆うフィルム状部材とは別個のものを用いる。連続した一枚のフィルム状部材で水平部41及び立上り部42の両方を覆うと、両者の境界である隅角部分に皺や隙間が発生しやすいからである。なお、下地3の隅角部にはモルタルよりなる入隅面取60を設けており、防水層40と下地3との間に隙間ができにくいようにしている。
【0029】
図6は、図5の実施形態とは別の実施形態である防水層50の断面図である。この防水層50は、平場を覆う水平部51と、前記平場の周囲の立面を覆い水平部51と連続して設けられた立上り部52とを有する。防水層50は現場施工によるものであって、樹脂が液状未硬化である間に透明性を有するフィルム状部材で覆い且つ硬化後に前記フィルム状部材を除去することにより平滑化されたFRP層fと、水平部51においてFRP層fの上に設けられた水平部上塗り層53としてのトップコート層tと、を有し、立上り部52においては、FRP層fが最表層とされている。
【0030】
防水層50のうち水平部51の施工工程は、上述した第1実施形態の工程(1)〜(8)と同じである。また立上り部52の施工工程は、上述した工程(1)〜(8)のうち工程(1)〜(7)までで完了し、工程(8)は不要である。
【0031】
立上り部42,52は水平部41,51よりも水が溜まりにくく、また屋外においては日光の照射量が水平部よりも少ないなど、立上り部42,52への要求性能は水平部41,51よりも低い傾向にある。よって立上り部42,52においては水平部41,51よりもFRP層fの上塗りを少なくしたいところである。しかし従来はFRP層f表面に凹凸や毛羽立ちが顕著であるため、立上り部の平滑性を確保すべく、立上り部にも水平部と同じ上塗りをする場合が多かった。しかし防水層40及び防水層50ではFRP層fの表面32をフィルム状部材により平滑化した。よって防水層40では、立上り部42の上塗りを水平部41より少なくしても平滑な仕上がりの防水層40とすることができる(図5参照)。更に防水層50では、フィルム状部材によりFRP層fの表面32が平滑化され、FRP層fの表面32を露出させても外観上問題がないので、立上り部52にはFRP層fの上塗りを省略できた(図6参照)。
【0032】
水平部においては、FRP層を施工する際に置かれたチョップストランドマットに作用する重力は、チョップストランドマットを施工面に押さえ付ける方向に作用するが、立上り部では状況が異なり、重力の作用によってチョップストランドマットが浮き上がりやすくなる。よって立上り部のFRP層は繊維補強基材の目が露出しやすく、且つFRP層の平滑度が水平部よりも更に悪化する傾向にある。また水平面の表面調整作業と比較して立上り部の表面調整作業には手間がかかる。しかし立上り部42,52をフィルム状部材で覆って平滑化することにより、立上り部42,52の表面調整作業を不要とすることができ、且つ表面が平滑で仕上がりのよい立上り部42,52が形成されている。
【0033】
さらに、立上り部42,52は水平面である水平部41,51よりも塗布の手間が大きい。よって、防水層40や防水層50のように、立上り部42,52の上塗りを省略できることは、施工作業の効率化及び作業時間短縮の効果が極めて高い。
【0034】
上記プライマーとしては、公知慣用のウレタン系,エポキシ系,ビニルエステル系,不飽和ポリエステル系,アクリル系等の樹脂液があげられ、そのなかでも一液湿気硬化型ウレタンが好ましい。
【0035】
FRP層に使用する熱硬化性樹脂としては、例えば不飽和ポリエステル樹脂,ビニルエステル樹脂,ビニルウレタン樹脂,メタクリル酸メチル樹脂(MMA),アクリルシラップ,エポキシ樹脂,フェノール樹脂やそれらの光硬化性樹脂等があげられる。なかでも、重合性モノマー架橋型熱硬化性樹脂である不飽和ポリエステル樹脂,およびビニルエステル樹脂が好適である。
【0036】
上記不飽和ポリエステル樹脂としては、α,β−不飽和二塩基酸またはその酸無水物と、芳香族飽和二塩基酸またはその酸無水物と、グリコール類の重縮合によって製造されるもので、場合によっては、酸成分として脂肪族あるいは脂環族飽和二塩基酸を併用して製造された不飽和ポリエステル30〜80重量部を、スチレンモノマーに代表されるα,β−不飽和単量体70〜20重量部に溶解して得られるものがあげられる。また、ビニルエステル樹脂とは、不飽和ポリエステルの末端をビニル変性したもの、あるいはエポキシ樹脂骨格の末端をビニル変性したもの等である。これらには、必要により、増粘剤,充填剤,硬化剤,硬化促進剤,低収縮化剤等が添加される。
【0037】
また必要に応じて、上記熱硬化性樹脂にはチキソ剤や充填剤を上記各樹脂に添加することにより、その樹脂の粘度と揺変度(チキソ・インデックス)とを上げたりして立ち上がり部の施工性を向上させても良い。
【0038】
上記チキソ剤としては、微粒子のシリカ粉末(例えば、商品名:アエロジル)等があげられ、上記充填剤としては、重質炭酸カルシウム,軽質炭酸カルシウム,クレー,カオリン,水酸化アルミニウム,タルク,マイカ,ガラスパウダー,ガラスビーズ,微小中空球体(シラス,フィライト等)等があげられる。
【0039】
上記増粘剤としては、不飽和ポリエステル樹脂の官能基と化学的に結合して樹脂粘度を高めるものであれば、どのようなものでもよく、例えば、ジイソシアネート類や、金属アルコキシド類、二価金属の酸化物および水酸化物等があげられる。
さらに、上記硬化剤としては、上記熱硬化性樹脂に作用するもので、例えばアゾイソブチロニトリルのようなアゾ化合物、t−ブチルパーベンゾエート,t−パーオクトエース,ベンゾイルパーオキサイド,メチルエチルケトンパーオキサイド,ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等をあげることができる。
また、上記硬化促進剤としては、有機酸の金属塩類、特にコバルト塩、例えばナフテン酸コバルト,アセチル酸コバルト,アセチルアセトンコバルト等があげられる。
【0040】
一方、光硬化性樹脂としては、感光性化合物と樹脂とをブレンドしてなる樹脂組成物からなるもの、感光基を有する樹脂等があげられる。これらの光硬化性樹脂は、紫外線,電子線,可視光線等で照射すると硬化するものである。一般に光硬化樹脂は過酸化物硬化の樹脂と比較して硬化時間が短い傾向にあるが、本発明で光硬化性樹脂を用いた場合には、硬化中にフィルム状部材を通して樹脂に光を照射することができ、硬化時間をより一層短縮することができる。したがって作業時間を短縮でき、且つ硬化中に発生する臭気をより一層低減することができる。光硬化性樹脂としては、光硬化性ポリエステル樹脂等、FRP防水で使用されている公知のものを使用することができる。また可視光領域の波長の光照射で硬化可能な光硬化樹脂とすると、紫外線硬化と比較して光源の制約が少なく且つ人体に安全であり、また塗膜厚が厚い場合も硬化しやすいので好ましい。可視光領域の波長の光で硬化可能な一液型の不飽和ポリエステル樹脂としては、例えば昭和高分子株式会社製の製品名リゴラックLC−57やリゴラックLC−50を挙げることができる。
【0041】
FRP層fの樹脂を(メタ)アクリロイル基を有するラジカル硬化型の樹脂としてもよい。この場合、臭気の点で特に問題となるスチレンモノマーを含まない樹脂とすることができ、臭気をより一層低減することができる。またこの場合、酸素による硬化阻害の影響が大きいが、フィルム状部材で被覆することにより表面の硬化度を高く且つ均一とすることができる。また塗膜表面に浮遊して離型剤として作用しうるパラフィンワックスの含有量を低減させつことができ、FRP層fと上塗り層との接着性を高めることができる。
【0042】
(メタ)アクリロイル基を有するラジカル硬化型の樹脂としては、ポリエーテルアクリルウレタン樹脂やビニルエステル樹脂等、分子末端に(メタ)アクリロイル基を有する樹脂(A)と、乾性油及び/又はそれらの脂肪酸化合物を用いた空乾性付与型化合物(B)と、分子量160以上の(メタ)アクリロイル基を有するエチレン性不飽和単量体(C)の(A)、(B)、(C)成分からなる樹脂組成物を例示することができる。化合物(B)としては、不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂に、アマニ油、大豆油、綿実油などヨウ素価130以上の油脂をけん化して得られた脂肪油脂肪酸を用いて空乾性成分を導入したものが例示される。化合物(C)としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーなどが例示される。このような(メタ)アクリロイル基を有するラジカル硬化型の樹脂は、酸素硬化阻害を比較的受けやすい為、フィルム状部材を用いて空気を遮断する本発明の効果が特に高い。
【0043】
一般にFRP層の樹脂(ラジカル硬化型樹脂など)には、酸素硬化阻害防止剤としてパラフィンワックスを含有させる。FRP層の樹脂として(メタ)アクリロイル基を有するラジカル硬化型の樹脂及びアクリルモノマーを用いたノンスチレン樹脂の場合には、酸素による硬化阻害の影響が更に大きいため、パラフィンワックスやポリエチレンワックスなどの酸素硬化阻害防止剤を更に多く(樹脂組成物100重量部に対して1重量部以上程度)含有させる。本実施形態では、フィルム状部材2で空気を遮断しているので、酸素による硬化阻害に影響がほどんど無くなり、FRP層の表面硬化度を高く且つ均一とすることができる。また酸素硬化阻害防止剤としてのパラフィンワックスの含有量を低減することができ、更にはパラフィン及びワックスを含有しない樹脂とすることも可能である。よって、FRP層とこれに隣接する上塗り層との層間密着性を向上させることができる。
【0044】
また、FRP層fの樹脂を不飽和ポリエステル樹脂とした場合は、防水又は防食目的の被覆層構造体として優れた特性が得られる反面、スチレンモノマーによる臭気が特に問題となる。しかし上述のように硬化中のFRP層fをフィルム状部材2で覆うことにより、硬化中のスチレンモノマーの揮散を大幅に低減できる。したがって、防水又は防食目的用の被覆層構造体用樹脂として特に優れた特性を有する不飽和ポリエステル樹脂を用いながら臭気を大幅に低減できる。
【0045】
なお、FRP層としてプリプレグシートを用いた場合には、当該プリプレグシートに張られたフィルムによりスチレンモノマー等の揮散が抑えられるので、臭気を大幅に低減できる。しかしプリプレグシートとすると空気を噛みやすく、また皺も発生しやすくなる。また、シートとシートとのジョイント部に重なり部分ができてしまうので、平滑な仕上げ面を得ることができない。更にプリプレグシートは半硬化状態であるから、他層との密着が悪く剥離しやすい。よって、平滑な被覆層構造体を得ることができず、また現場施工の被覆層構造体に要求される平滑性(外観)や性能を得ることができない。つまり、プリプレグシートを用いた方法は、本発明のような現場施工の場合とは適用分野が異なり、本発明の用途(特に浴室をはじめ住宅の屋上やバルコニー、屋上駐車場、プール、工場床等の防水層)には用いることができない。
【0046】
本発明で用いるフィルム状部材の素材は特に限定されず、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ビニロン、ポリカーボネート、トリアセテート、セロハン、等各種のプラスチックフィルムを用いることができる。ただし、ASTM D882に準拠して測定されたヤング率が1GPa〜5GPaであり、且つ厚みが40μm〜500μmである素材よりなるフィルム状部材が好ましい。ヤング率が1Gpaよりも小さい場合や、厚みが40μmより薄い場合は、フィルム状部材の曲げ剛性が小さいため(コシが弱いため)、敷設の際に空気を追い出しにくくなって空気を噛みやすくなり、またフィルム状部材による平滑化効果が減少する場合がある。よって厚みは50μm以上がより好ましく、60μm以上が更に好ましく、70μm以上が特に好ましい。一方、上記ヤング率が5Gpaを超える場合や、厚みが500μmを超える場合は、フィルム状部材の柔軟性が低下して空気を噛みやすくなる場合があり、またフィルム状部材のコストが高くなる。よって、上記厚みは350μm以下がより好ましく、250μm以下が更に好ましく、125μm以下が更に好ましく、100μm以下が特に好ましい。
【0047】
上記範囲のヤング率や厚みを有するフィルム状部材としては、コストや入手容易性の観点からPETフィルム(ヤング率4Gpa程度)、ナイロン6フィルム(ヤング率1.5〜2Gpa)、ナイロン66フィルム(ヤング率2Gpa)、ポリプロピレンフィルム(ヤング率1.5〜4Gpa)、硬質ポリ塩化ビニルフィルム(ヤング率1〜4Gpa)などが好適に用いられる。
【0048】
またフィルム状部材の透明性を高くすると、光硬化性樹脂を用いた場合に硬化速度をより早くすることができる点で好ましい。よって、JIS K6714に準拠して測定される全光線透過率(550nm)が80%以上のものが好ましい。またフィルム状部材の引張り伸びが大きすぎると、空気を追い出しにくくなったり平滑化効果が減少したりする。よって、フィルム状部材の引張り伸び(JIS C2318−72による測定)は、MD(縦方向)とTD(横方向)のいずれも400%以下であるのが好ましい。
【0049】
本発明で用いる繊維補強基材としては、アミド,アラミド,ビニロン,ポリエステル,フェノール等の有機繊維や、ガラス繊維,カーボン繊維,金属繊維,セラミック繊維等があげられる。なかでも施工性,経済性の点で、ガラス繊維,有機繊維が好ましい。また、その形態は、特に限定されるものではないが、通常、ガラスロービングを20〜100mmにカットして、チョップドストランドをマット状にしたガラスマットが多く用いられる。なかでも特に、FRP防水材工業会が規格化している、FRP防水工事用ガラスチョップドストランドマットが好ましい。そして、その目付は、1m2 当り380〜600gのものを1〜2プライで用いることが好適である。また、上記ガラスマット以外に、ガラス繊維を平織り,朱子織り等の織地にしたもの等も用いることができる。
また、上記繊維材としては、ガラスマット,ガラスサーフェースマット,有機繊維不織布(ポリエステル,ビニロン等),炭素繊維等があげられ、なかでも、樹脂含有率を上げる点で、目付量の小さいガラスサーフェースマット,有機繊維不織布(ポリエステルやビニロン等)が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態である施工方法により形成された被覆層構造体の一例である防水層の断面図である。
【図2】図1の防水層の施工工程を説明するための断面図である。
【図3】従来の施工方法により形成された防水層の断面図である。
【図4】図3の防水層の施工課程の中途段階における断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態である防水層の断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態である防水層の断面図である。
【符号の説明】
【0051】
f FRP層
1 防水層(被覆層構造体)
2 フィルム状部材
3 下地
40 防水層(被覆層構造体)
41 水平部
42 立上り部
43 水平部上塗り層
44 立上り部上塗り層
50 防水層(被覆層構造体)
51 水平部
52 立上り部
53 水平部上塗り層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維補強基材に熱硬化性樹脂が含浸されてなるFRP層を含む防水用又は防食用の被覆層構造体の施工方法であって、
層状に配置された前記繊維補強基材に前記樹脂を塗布して前記樹脂を前記繊維補強基材に含浸させて前記FRP層を形成し、前記樹脂が液状未硬化である間に前記FRP層の表面を透明性を有するフィルム状部材で覆うとともに加圧及び脱泡して平滑化し、前記樹脂が硬化した後に前記フィルム状部材を除去する工程を含むことを特徴とする被覆層構造体の施工方法。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂が重合性モノマー架橋型熱硬化性樹脂である不飽和ポリエステル樹脂及び/又はビニルエステル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の被覆層構造体の施工方法。
【請求項3】
前記樹脂は光硬化性樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の被覆層構造体の施工方法。
【請求項4】
前記樹脂は(メタ)アクリロイル基を有するラジカル硬化型の樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の被覆層構造体の施工方法。
【請求項5】
前記フィルム状部材は、ASTM D882に準拠して測定されたヤング率が1GPa〜5GPaの素材からなり、且つ厚みが40μm〜500μmであることを特徴とする請求項1に記載の被覆層構造体の施工方法。
【請求項6】
前記被覆層構造体は、平場を覆う水平部と、前記平場の周囲の立面を覆い前記水平部と連続して設けられた立上り部とを有することを特徴とする請求項1に記載の被覆層構造体の施工方法。
【請求項7】
平場を覆う水平部と、前記平場の周囲の立面を覆い前記水平部と連続して設けられた立上り部とを有し、現場施工される防水用又は防食用の被覆層構造体であって、
液状未硬化である間に透明性を有するフィルム状部材で覆うとともに加圧及び脱泡し且つ硬化後に前記フィルム状部材を除去することにより平滑化されたFRP層と、
前記水平部において前記FRP層の上に設けられた水平部上塗り層と、
前記立上り部において前記FRP層の表面に設けられた立上り部上塗り層と、
を有し、
前記立上り部上塗り層は、前記水平部上塗り層よりも層数が少ないことを特徴とする被覆層構造体。
【請求項8】
平場を覆う水平部と、前記平場の周囲の立面を覆い前記水平部と連続して設けられた立上り部とを有し、現場施工される防水用又は防食用の被覆層構造体であって、
樹脂が液状未硬化である間に透明性を有するフィルム状部材で覆うとともに加圧及び脱泡し且つ硬化後に前記フィルム状部材を除去することにより平滑化されたFRP層と、
前記水平部において前記FRP層の上に設けられた水平部上塗り層と、を有し、
前記立上り部においては、前記FRP層が最表層とされたことを特徴とする被覆層構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−168279(P2006−168279A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−366680(P2004−366680)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(392024079)双和化学産業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】