説明

被金属めっき材

【課題】銀めっきなどの金属めっき層で問題となる密着強度不足、及び、特に銀鏡反応による銀めっきの「シケ」とよばれるめっき腐食の発生に関する耐食性を向上させた金属めっき材を提供する。
【解決手段】基材の表面に、少なくともアンダーコート層、金属めっき層、トップコート層を備えた被金属めっき材において、該アンダーコート層および該トップコートの少なくとも1つにベンゾトリアゾール化合物を含有することを特徴とする被金属めっき材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被金属めっき材、及びその製造方法に関し、詳しくは、プラスチックや金属等の基材の表面に金属めっき処理により形成された金属めっき層を有する材料(被金属めっき材)に関する。更に詳しくは、銀鏡反応を利用した化学めっき法によって形成された銀めっき層の安定性に優れた被金属めっき材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の表面加工として、電解めっき法、蒸着めっき法、銀鏡反応を利用した銀めっき法などが提案されている。とくに銀鏡反応を利用した銀めっき法は、電解めっき法に比べ、装置への投資が少なく、基本的には金属から非金属までの各種材料に銀めっき層を形成することができるという利点がある。
【0003】
しかしながら、銀めっき層は、空気中の酸性ガスや用水中の塩素イオン等の影響によって、「シケ」と呼ばれる、いわゆる腐食が起こりやすいという欠点がある。この銀めっき層の腐食の問題は、特に上記した銀鏡反応を利用した銀めっき法で起こりやすい。
【0004】
また、銀鏡反応を利用して形成された銀めっき層は、電解めっき法に比べて銀粒子の密度が疎であり、銀粒子間の接着力、アンダーコート層あるいはトップコート層との接着力が弱いという問題がある。特にこの問題は高湿下で顕著になる。
【0005】
銀めっき層の補強、あるいは変色や腐食を防止するために、アンダーコート層あるいはトップコート層に特定の樹脂を被覆することが知られている(特許文献1、2)。しかしながら、これらの樹脂を選択するだけでは、銀めっき層の腐食や、銀めっき層との接着力は充分ではなく、銀めっき層の強度を充分に向上させるまでには至っていない。
【0006】
また銀めっき層の変色や腐食を防止するために、アンダーコート層あるいはトップコート層にベンゾチアゾール系金属不活性化剤を含有させたり(特許文献3)、銀めっき層を銀と反応もしくは親和性を有する有機化合物で処理する方法(特許文献4)が提案されている。しかしながら、これらの方法だけでは、やはり銀めっき層の腐食や、銀めっき層との接着力は充分ではなく、さらに改良が求められていた。
【特許文献1】特開2003−019765号公報
【特許文献2】特開2003−155580号公報
【特許文献3】特開2003−238901号公報
【特許文献4】特開2004−169157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、銀鏡層の耐腐食性、および銀鏡層とアンダーコート層およびトップコート層との接着性を飛躍的に高めた被金属めっき材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、基本的に以下の発明によって達成された。
(1)基材の表面に、少なくともアンダーコート層、金属めっき層を備えた被金属めっき材において、該アンダーコート層にベンゾトリアゾール化合物を含有することを特徴とする被金属めっき材。
(2)基材の表面に、少なくとも金属めっき層、トップコート層を備えた被金属めっき材において、該トップコート層にベンゾトリアゾール化合物を含有することを特徴とする被金属めっき材。
(3)基材の表面に、少なくともアンダーコート層、金属めっき層、トップコート層を備えた被金属めっき材において、該アンダーコート層および該トップコートの両方にベンゾトリアゾール化合物を含有することを特徴とする被金属めっき材。
(4)金属めっき層を設けた後、ベンゾトリアゾール化合物を含有する処理液で金属めっき層を処理したことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の被金属めっき材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属めっき層に隣接したアンダーコート層および/またはトップコート層にベンゾトリアゾール化合物を含有していることから、金属とくに銀鏡層との接着が格段に向上するだけでなく、銀鏡層の耐腐食性を飛躍的に向上させることができる。特に、少なくともアンダーコート層にベンゾトリアゾール化合物を含有することが好ましく、さらにアンダーコート層とトップコート層の両方にベンゾトリアゾール化合物を含有することが好ましい。更には前記の被金属めっき材の銀鏡層をベンゾトリアゾール化合物を含有する処理液で処理することによって、一段と銀めっき層の強度及び耐腐食性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、銀めっきが施される基材としては、プラスチック樹脂やガラス板のような絶縁性の基材、あるいは金属等の導電性の基材が挙げられる。これらの基材の表面には、予め、アンダーコート層を設けられる。アンダーコート層としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スチレン化アルキッド(ウレタン)樹脂、アクリル樹脂、アクリル化アルキッド(ウレタン)樹脂、アクリルシリコン樹脂、メラミン樹脂、2液硬化型ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、特開平10−309774号公報に記載されているアルコキシチタニウムエステル並びにエポキシ基を有するシランカップリング剤及びエポキシ樹脂のうちの少なくとも一方を含有する塗料、前記特許文献1に記載の水酸基とカルボキシル基を有する塗料等からなるアンダーコート層が挙げられる。
【0011】
銀めっきに先立って、上記アンダーコート層の表面に、2〜3質量%程度の塩化第一すず溶液を塗布もしくは浸漬させて、塩化すずをアンダーコート層表面に吸着させるのが好ましい。塩化すずをアンダーコート層に吸着させた後、余剰の塩化すずを水洗除去するのが好ましい。また、上記塩化すずの代わりにパラジウムを用いることもできる。
【0012】
塩化すず溶液としては、特開2003−129249号公報、特開2003−13240号公報に記載のような、第一すず化合物と第二すず化合物を併用したり、第一すず溶液に空気を吹き込んだものであってもよい。
【0013】
銀鏡反応を利用した銀めっき法は、アンモニア性硝酸銀([Ag(NH32+ OH-)溶液(トレンス試薬)と還元剤溶液とを基材上で混合されるように塗布することにより酸化還元反応を引き起こし、基材表面に銀(Ag)を析出させる方法である。前記還元剤溶液としては、グリオキサール等のアルデヒド基を有する有機化合物(R−CHO)、亜硫酸ナトリウム又はチオ硫酸ナトリウムが好適に使用される。前記アンモニア性硝酸銀溶液とアルデヒド基を有する有機化合物とを銀鏡反応させる際の反応を以下に示す。
【0014】
2[Ag(NH32+ OH- + R−CHO
→ 2Ag + R−CO2NH4 + H2O + 3NH3
【0015】
銀めっき層は、水洗浄するのが好ましい。水洗浄後、特許文献4に記載されるような、銀めっき層を銀と反応もしくは親和性を有する有機化合物で処理する方法を適用することが好ましいが、その際に当該有機化合物としてベンゾトリアゾール化合物を含有する処理液とすることが好ましい。もちろん、ベンゾトリアゾール以外の有機化合物であっても、あるいはベンゾトリアゾールと併用して他の有機化合物を用いてもよい。
【0016】
その後、更にトップコート層を設けることが好ましい。本発明に好ましく用いられるトップコート層は、特許文献2に記載のシリコンアクリル樹脂や、前記アンダーコート層で記述したような樹脂を使用することができる。
【0017】
本発明においては、アンダーコート層とトップコート層のいずれかにベンゾトリアゾール化合物を含有する。少なくともアンダーコート層にベンゾトリアゾール化合物を含有することが好ましく、さらにアンダーコート層とトップコート層の両方にベンゾトリアゾール化合物を含有することが特に好ましい。更には前記アンダーコート層の被金属めっき材の銀鏡層をベンゾトリアゾール化合物を含有する処理液で処理することによって、一段と銀めっき層の接着強度及び耐腐食性が向上する。
【0018】
本発明に用いられるベンゾトリアゾール化合物としては、ベンゾトリアゾール並びにメチル、エチルのようなアルキル基、メトキシ、エトキシのようなアルコキシ基、クロル、ブロムのようなハロゲン原子等の置換基が置換していても良い。これらのベンゾトリアゾール化合物は2種以上を組み合わせても良い。
【0019】
本発明に用いられるベンゾトリアゾール化合物の使用量は、アンダーコート層、トップコート層の場合には、樹脂100質量部に対して、0.01〜40質量部の範囲で変化させることができる。銀鏡層を処理する処理液の場合には、処理液1リットル当たり1〜200ミリモルの範囲で変化させることができる。
【実施例1】
【0020】
基材としてABS樹脂板を脱脂し、水洗、乾燥させ、この基材表面に、市販のアンダーコート剤(大橋化学工業製のアンダーブラックNo.0128)を、硬化剤(大橋化学工業製のアンダーブラック用硬化剤−N)と共にシンナーに、10:2:4の割合で混合して塗布し、シンナーを蒸発させた後、80℃で1時間加熱乾燥してアンダーコート層を形成させた。
【0021】
次に、前記アンダーコート層の表面に、3質量%の塩化第1すず及び1質量%の塩酸を含有する塩化すず溶液をスプレー塗布して活性化処理を行った後、イオン交換水にてアンダーコート層の表面をスプレー洗浄した。
【0022】
次に、硝酸銀0.01モル%のイオン交換水溶液をスプレー塗布し、イオン交換水にてスプレー洗浄した。
【0023】
次に、特開2003−293148号公報の実施例1に記載の銀鏡用めっき液を調製し、双頭スプレーガン(明治機械製作所製F100−S13−R−8)を用いてアンダーコート層の表面に、同時にスプレー塗布して、銀鏡めっきすることによって、アンダーコート層の表面に均一な厚さの銀めっき層が形成された。その後、イオン交換水にて銀めっき層の表面をスプレー洗浄し、乾燥させた。
【0024】
続いて、銀めっき層の表面に、トップコート剤(大橋化学工業製トップコートTDMクリヤー)と硬化剤(大橋化学工業製トップコート用硬化剤LP)とシンナーを5:1:4の割合で混合してスプレー塗布し、シンナーを蒸発させた後、70℃で1時間加熱乾燥して、トップコート層を形成させた(比較試料1−1)。
【0025】
上記比較試料1−1のアンダーコート層の樹脂100重量部に対して5重量部の2−メルカプトベンゾチアゾールを含有させる以外は同様にして比較試料2−1を作製した。
【0026】
上記比較試料1−1のアンダーコート層の樹脂100重量部に対して5重量部の1−フェニル−5−メルカプトテトラゾールを含有させる以外は同様にして比較試料3−1を作製した。
【0027】
上記比較試料1−1のアンダーコート層の樹脂100重量部に対して5重量部の5−ニトロベンツイミダゾールを含有させる以外は同様にして比較試料4−1を作製した。
【0028】
上記比較試料1−1のアンダーコート層の樹脂100重量部に対して5重量部のベンゾトリアゾールを含有させる以外は同様にして本発明試料1−1を作製した。
【0029】
上記比較試料1−1のアンダーコート層の樹脂100重量部に対して5重量部の6−メチルベンゾトリアゾールを含有させる以外は同様にして本発明試料2−1を作製した。
【0030】
上記のようにして作製した本発明試料と比較試料の銀めっき層の耐塩水噴霧性、アンダーコート層あるいはトップコート層への接着性、及び耐変色性試験を以下の通りに行った。
【0031】
<耐塩水噴霧性試験>
JIS K 5400に準じて360時間の耐塩水噴霧性試験を行った。
【0032】
<接着性試験>
耐塩水噴霧性試験の後の試料に対して、カッターナイフで銀めっき層を貫通する碁盤目を切り、セロファンテープを用いて銀めっき層の接着性を評価するテーピング試験(碁盤目テーピング試験、JISG 0202)を行い、銀めっき層の剥離状況を目視にて判定した。
【0033】
<耐変色性試験>
紫外光を20Wで15cmの距離で48時間照射し、変色の状態を目視観察した。
【0034】
上記試験の結果、比較試料1−1〜4−1は、傷を付けたところから銀めっき層が5〜10mmあるいはそれ以上も大きく剥がれ落ち、銀めっき層も激しいくもりが生じて銀光沢が低下し、また紫外光照射によって黄色に変色していた。一方、本発明試料1−1及び2−1は、銀めっき層の剥離は切り目から1mm以内であり、また銀めっき層も高い銀光沢を有しており、くもりの発生はなく、また紫外光照射による変色も全くなかった。
【実施例2】
【0035】
実施例1の各試料において、アンダーコート層に用いた同じ化合物を、トップコート層の樹脂100重量部に対して3重量部含有する以外は実施例1と同様に比較試料1−2〜4−2及び本発明試料1−2〜2−2を作製して試験した。
【0036】
試験条件は耐塩水噴霧性試験を480時間、紫外光照射時間を72時間とした。試験の結果、比較試料1−2〜4−2は、傷を付けたところから銀めっき層が比較試料1−1〜4−1と同様に大きく剥がれ落ち、銀めっき層も激しいくもりが生じて銀光沢が低下し、また紫外光照射によって黄色に変色していた。一方、本発明試料1−2及び2−2は、銀めっき層の剥離は切り目から0.5mm以内であり、また銀めっき層も高い銀光沢を有しており、くもりの発生はなく、また紫外光照射による変色も全くなかった。
【実施例3】
【0037】
実施例1の本発明試料および実施例2の本発明試料において、硝酸銀水溶液をスプレー塗布し洗浄した後、1リットル当たりジエチレングリコール50g、亜硫酸ナトリウム2g、ベンゾトリアゾール2gを含む処理液をスプレー塗布し、洗浄する以外は同様に試験した。本発明試料はいずれも、銀めっき層の剥離は認められず、また銀めっき層もより高い銀光沢を有しており、くもりの発生も紫外光照射による変色も全くなかった。
【0038】
実施例1および実施例2における比較試料において、硝酸銀水溶液をスプレー塗布し洗浄した後、1リットル当たりジエチレングリコール50g、亜硫酸ナトリウム2g、ベンゾトリアゾール2gを含む水性処理液をスプレー塗布し、洗浄する以外は同様に試験した。実施例1および実施例2における比較試料に対してわずかな改善がみられるだけで、まったく実用に供さないものであった。
【0039】
実施例1および実施例2における比較試料において、硝酸銀水溶液をスプレー塗布し洗浄した後、1リットル当たりジエチレングリコール50g、亜硫酸ナトリウム2g、2−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン2gを含む水性処理液をスプレー塗布し、洗浄する以外は同様に試験した。実施例1および実施例2における比較試料に対してある程度の改善はみられるが、実用に供さないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、少なくともアンダーコート層、金属めっき層を備えた被金属めっき材において、該アンダーコート層にベンゾトリアゾール化合物を含有することを特徴とする被金属めっき材。
【請求項2】
基材の表面に、少なくとも金属めっき層、トップコート層を備えた被金属めっき材において、該トップコート層にベンゾトリアゾール化合物を含有することを特徴とする被金属めっき材。
【請求項3】
基材の表面に、少なくともアンダーコート層、金属めっき層、トップコート層を備えた被金属めっき材において、該アンダーコート層および該トップコートの両方にベンゾトリアゾール化合物を含有することを特徴とする被金属めっき材。
【請求項4】
金属めっき層を設けた後、ベンゾトリアゾール化合物を含有する処理液で金属めっき層を処理したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の被金属めっき材。

【公開番号】特開2007−169685(P2007−169685A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366411(P2005−366411)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】