説明

裏面反射鏡

【課題】基板がプラスチックで安定性の高い高反射率の裏面反射鏡を提供する。
【解決手段】本発明は、プラスチック基板に構成された裏面反射鏡であって、増反射ミラーコートがプラスチック基板の表面上に設けられ、前記増反射ミラーコートは、基板密着層と、増反射中間層と、反射層と、保護層とからなり、前記増反射中間層は、前記プラスチック基板の屈折率より高い屈折率をもち、波長が420nmから750nmにおいて、又は、波長が400nmから780nmにおいて、0.3%以下の吸収性をもつ高屈折率層と、前記プラスチック基板の屈折率より低い屈折率をもつ低屈折率層とが交互に積層されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏面反射鏡、さらに詳しくは、基板がプラスチックで安定性の高い高反射率の裏面反射鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック基板の裏面反射鏡は、機械的に確実に保持することが容易で、かつ反射面の保護を保護層の蒸着や塗布で容易に行うことができる利点があることから、過酷な環境や耐久性を必要とする車載等、広く使用されている。
【0003】
従来のプラスチック基板の裏面反射鏡、特に増反射を目的とするものとして、MoO3及びWO3の少なくとも一方の物質を含む層とSi酸化物からなる層とを交互に形成した増反射層と、前記増反射層のSi酸化物からなる層に接して形成した金属層とを有することを特徴とする裏面反射鏡が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
チタン酸ランタンを裏面反射鏡の増反射層の材料として使用する従来技術は存在しない。
チタン酸ランタンを反射防止コーティングの材料として使用している従来技術として、光ピックアップ装置に使用するものであって、350nm<λ1<450nmを満足する波長λ1の光を出射する光源を備えた光学装置に用いられる樹脂を基材とした光学素子であって、前記樹脂は脂環式構造を有する重合体を含有する樹脂であり、前記光学素子の少なくとも1つの光学面に反射防止膜が成膜され、前記反射防止膜は、前記波長λの光束を通過させたときに第1の屈折率を有する低屈折率層と、前記波長λの光束を通過させたときに前記第1の屈折率より高い第2の屈折率を有する高屈折率層とを有し、前記低屈折率層が、酸化シリコン、フッ化アルミニウム、フッ化イットリウム、フッ化マグネシウム、酸化シリコンと酸化アルミニウムとの混合物、又は、これらの混合物により形成されているともに、前記高屈折率層が、酸化スカンジウム、酸化ニオビウム、酸化ランタン、チタン酸プラセオジウム、チタン酸ランタン、ランタンアルミネート、酸化イットリウム、酸化ハフニューム、酸化ジルコニューム、酸化タンタル、酸化タンタルとチタンの混合物、窒化シリコン又はこれらの混合物により形成されていることを特徴とする光学素子が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
従来の増反射金属ミラーコーティングを有するプラスチック基板表面反射鏡として、合成樹脂基板に、SiOの第1層、SiO2の第2層、Alの第3層に、低屈折率物質(弗化マグネシュウム、二酸化珪素等)と高屈折物質(酸化ジルコニュウム、酸化セリュウム、五酸化タンタリュウム、チタン酸化物等)の組み合わせによる増反射膜の第4層を施した表面反射鏡が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
従来の他の増反射金属ミラーコーティングを有するプラスチック基板反射鏡として、プラスチック部品の表面に金属を真空蒸着し、該金属膜上に、弗化セリュウムCeF3を少なくとも60重量%以上含有する物質よりなる反射層を形成し、該反射層の上に、酸化セリュウムCeO2を少なくとも60重量%以上含有する物質よりなる層を光学的膜厚(λ0)4000〜15000Åで蒸着した増反射層を設けた増反射金属ミラーコーティングが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3560638号公報
【特許文献2】特開2005−266780号公報
【特許文献3】特開平4−62363号公報
【特許文献4】特開平2−66157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
引用文献1のプラスチック基板の裏面反射鏡は、MoO3およびWO3が高温高湿環境で密着性が劣化する恐れが高く、C−F基を有する撥水処理剤やシラン化合物を主成分とする封止剤等を塗布する等水分封止め処理を施さなければならない問題がある。また、WO3は、可視光や紫外線の照射によって分子が励起されて可逆的に着色するエレクトロクロミック性があり、反射光を着色させるおそれがある。
【0009】
すなわち、引用文献1等によって提案されている裏面反射鏡は、反射層が100℃の高温試験において、熱膨張による基板伸縮に対応できず、クラック発生や剥離が避けられない問題がある。
【0010】
引用文献2によって提案されているのは、反射防止膜であって、裏面反射鏡には利用できない。
【0011】
引用文献3の増反射金属ミラーコーティングを有するプラスチック基板表面反射鏡においては、第1層のSiOが黄(茶)色系であり、第1層によって短波長側の吸収すなわち400nm以下の光透過が不良であり、着色・反射低下をもたらす問題がある。さらに、第1層のSiOと第2層のSiO2は第4層の第3層への密着性を高めるために設けられているが、その密着強度は不十分である。
【0012】
引用文献4の増反射金属ミラーコーティングを有するプラスチック基板反射鏡においては、弗化セリュウムCeF3層及び酸化セリュウムCeO2層を含むことによって機械的強度が弱く、特に表面反射膜としては強度・耐久性に関し大きな問題を有している。酸化セリュウムCeO2は、短波長側400nm以下で2〜4%の吸収があり、波長透過特性は好ましくない。酸化セリュウムCeO2はまた、吸湿性があり、高温高湿環境で密着性が劣化する恐れがある。
【0013】
一方、可視域光学部品の薄膜コーティング材料選定で問題となるのは、近紫外域400nm前後の吸収である。400nm 以外の420〜750nmでの吸収が、測定分解能以下で検出できない程度の場合でも、400nm前後が1%の吸収があると、膜が黄色く着色したように見え、照明系の照明光の外観の色味を損なうこととなる。また、通常、プラスチック樹脂基板自体、この近紫外域400nmより短い波長域での吸収が多く、透過率が低くなってしまう。従って、透過率を向上させるため、吸収率0.3%以下の膜吸収が少ない材料を選定することが望ましい。
【0014】
(発明の目的)
本発明は、従来の増反射コーティングや反射防止コーティングに関する上述した問題点に鑑みなされたものであって、プラスチック基板に用いるための、増反射コーティング層を設けることによって高い反射率,特にLED光源の発する光に対し高い反射率で無着色で反射する裏面反射鏡を提供することを目的とする。
本発明はまた、高温高湿環境でも密着性が落ちず剥離せず、しかも耐久性の高い裏面反射鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、プラスチック基板に構成された裏面反射鏡であって、
増反射ミラーコートが裏面反射鏡に設けられており、
前記増反射ミラーコートは、
基板密着層と、増反射中間層と、反射層と、保護層とからなり、
前記増反射中間層は、前記プラスチィック基板の屈折率より高い屈折率をもち波長420〜750nm又は波長400〜780nmにおいて0.3%以下の吸収性をもつ高屈折率層と、前記プラスチィック基板の屈折率より低い屈折率をもつ低屈折率層とが交互に積層されてなる、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の裏面反射鏡によれば、プラスチック基板に用い、増反射コーティング層を設けることによって高い反射率,特にLED光源の発する光に対し高い反射率で無着色で反射する裏面反射鏡を形成することができる。
本発明の裏面反射鏡によればまた、高温高湿環境でも密着性が落ちず剥離せず、しかも耐久性の高い裏面反射鏡を形成することができる。
【0017】
(発明の実施態様)
本発明の実施態様は、以下のとおりである。
前記プラスチック基板の表面上には、第1層から第7層が、この順序でコーティングされてなり、
前記第1層は、前記基板密着層を構成し、かつ、酸化ケイ素(SiOx x<2)からなり、
前記第2層は、前記増反射中間層のうちの1つの層を構成し、かつ、前記低吸収高屈折率の材料からなり、
前記第3層は、前記増反射中間層のうちの1つの層を構成し、かつ、前記低屈折率の材料からなり、
前記第4層は、前記増反射中間層のうちの1つの層を構成し、かつ、前記低吸収高屈折率の材料からなり、
前記第5層は、前記増反射中間層のうちの1つの層を構成し、かつ、前記低屈折率の材料からなり、
前記第6層は、前記反射層を構成し、かつ、アルミニュウムからなり、
前記第7層は、前記基板密着層を構成し、かつ、二酸化ケイ素(SiO2)からなる、
ことを特徴とする。
【0018】
本発明の他の実施態様は、以下のとおりである。
前記前記低吸収高屈折率の材料が、チタン酸ランタン(LaTiO3)であることを特徴とする。
前記チタン酸ランタン(LaTiO3)が、屈折率1.90以上にチタン酸ランタン(LaTiO3)であることを特徴とする。
前記低屈折率の材料が、二酸化ケイ素(SiO2)であることを特徴とする。
前記二酸化ケイ素(SiO2)が、屈折率1.40〜1.50の二酸化ケイ素(SiO2)であることを特徴とする。
前記酸化ケイ素(SiOx)が、一酸化ケイ素(SiO)を主成分とすることを特徴とする。
前記一酸化ケイ素(SiO)が、屈折率1.45〜1.55、膜厚0.45λ以上であることを特徴とする。
前記反射層が、膜厚100nm以上であるアルミニュウムからなることを特徴とする。
【0019】
本明細書において、酸化ケイ素(SiOx x<2)は、一酸化ケイ素(SiO)と二酸化ケイ素(SiO2)が存在する状態を示し、一酸化ケイ素(SiO)のみが存在する状態や、二酸化ケイ素(SiO2)のみが存在する状態は含まない。
【0020】
前記実施態様で選出したチタン酸ランタン、酸化アルミニウム、二酸化珪素は、400nmにおける膜吸収は、いずれも0.1〜0.3%であり、膜自体の着色はほとんど見られない。
【0021】
しかし、この吸収に対する仕様は、使用する光源によって異なる。例えば、図3に示す車載用白色LEDの場合、輝度が400nmから立ち上がり始め、450nmと560nmに2つのピークをもち、750nmにかけて減少する特性をもつ。この場合、400nm以下の吸収は問題にならず、420〜750nmの吸収が仕様上すなわち使用上問題となる演色性が低く、青白い光を避けることができ、かつ高輝度・高効率を得ることができる。ここで、高演色性白色とは、一般に発光効率は高くないが、ブロードスペクトルが得られ、対象物を照明したとき、対象物の色調を正しく表現できる性質をいう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の実施形態の裏面反射鏡の蒸着膜構成図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態の裏面反射鏡の分光反射率特性図である。
【図3】図3は、本発明の裏面反射鏡を適切に使用の車載用白色LEDの分光反射率特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態の裏面反射鏡の構成及び製造方法について説明する。本発明の実施形態の裏面反射鏡は、光源ランプがLED である車載ヘッドライト等に好適に使用されるものである。
【0024】
(構成)
裏面反射鏡1は、図1に示すように、ポリカーボネートPCの基板10に、第1層11〜第7層17をコーティングしてなる。第1層11〜第7層17の物質、屈折率、波長550nmの光学的膜厚、物理膜厚を、表1に示す。
【表1】

基板10のポリカーボネート(PC)は、例えば、帝人化成株式会社によって販売されているパンライトL−1225ZL100(登録商標)である。
第1層を、密着層と呼ぶ。
第2層12から第5層15を、反射率を向上させるためのもので、反射中間層と呼ぶ。
第6層を、反射層と呼ぶ。
第7層を、保護層と呼ぶ。
【0025】
(製造方法)
基板10を、蒸着装置(図示せず)に配置し、40℃程度に加熱し、真空度2.0×10-3Paまで真空排気する。排気時間は可能な限り長くして、基板10表面の付着水分を離脱させて排除することが望ましい。40℃程度の加熱は蒸着終了まで保持される。40℃程度の低温の加熱は、基板10の変形を防ぐとともに、後述する第6層16が散乱面化することを防ぐためにも望ましい。
【0026】
2.0×10-3Paまで真空排気後、酸素を導入し、真空度2.0×10-2Paを保持しながら、第1層11を蒸着する。第1層11の蒸着材料は、屈折率1.49〜1.54の酸化珪素(SiOx,x=1又は2、層が形成されていく程酸化が進み、SiOに加えてSiO2が形成される。層の組成としては、SiOx,x<2の酸化数となる)で、光学的膜厚0.45λである。
第1層11の蒸着開始時の蒸着材料は、酸化珪素(SiO)である。蒸発源として抵抗加熱源又は電子ビーム加熱源を使用することは、基板10と第1層11の密着性を向上させるために望ましい。
【0027】
ポリカーボネートPC基板10の屈折率は、1.58である。酸素流入量を少なくすると、第1層11の酸化珪素の屈折率を1.54とすることができる。第1層11の酸化珪素の屈折率1.54は、基板10の屈折率1.58に非常に近くなり、基板10と第1層11の界面反射が少なくなる利点がある。
【0028】
第2層12は、高屈折率蒸着物質の1つである、屈折率1.85〜1.90のチタン酸ランタン(LaTiO3)を使用し、膜厚を0.45λとする。蒸着は、電子ビーム加熱源を使用し、酸素流入量を調節することによって真空度7.0×10-2Paを保持しながら、成膜速度0.6nm/secで行う。
【0029】
第3層13は、低屈折率蒸着物質の1つである、屈折率1.43〜1.46の二酸化珪素(SiO2)を使用し、膜厚を0.36λとする。蒸着は、プラズマガンを使用し、酸素流入量を調節することによって真空度2.3×10-2Paを保持しながら、成膜速度0.6nm/secで行う。
【0030】
イオンエネルギーにより膜充填密度を高めることができるプラズマガンは、放電電圧100〜110V、放電電流29A程度の低出力で作動させる。低出力に調整されたプラズマガンを使用することによって、プラズマガンを使用しないときに較べ、二酸化珪素(SiO2)膜への応力が緩和され、耐熱性が向上し、さらに、高温環境でのクラック発生が少なくなる。
【0031】
第4層14は、第2層12と同様に、高屈折率蒸着物質の1つである、屈折率1.85〜1.90のチタン酸ランタン(LaTiO3)を使用し、膜厚を0.27λとする。蒸着は、電子ビーム加熱源を使用し、酸素流入量を調節することによって真空度7.0×10-2Paを保持しながら、成膜速度0.6nm/secで行う。
【0032】
第5層15は、第3層と同様に、低屈折率蒸着物質の1つである、屈折率1.43〜1.46の二酸化珪素(SiO2)を使用し、膜厚を0.215λとする。蒸着は、プラズマガンを使用し、酸素流入量を調節することによって真空度2.3×10-2Paを保持しながら、成膜速度0.6nm/secで行う。
【0033】
第6層16は反射層であり、抵抗加熱源を使用し、アルミニュウム(Al)を、成膜速度2nm/secで、物理膜厚100nmに蒸着した。成膜速度は、速い程表面の平滑性がよい蒸着を行うことができ、散乱を抑え反射率を向上させることができるため、早い成膜速度が望ましい。蒸着温度が40℃を超えると、蒸着表面が散乱反射面になる恐れが高くなる。
【0034】
第7層17は、保護層であり、低屈折率蒸着物質の1つである、屈折率1.45〜1.47の二酸化珪素(SiO2)を使用し、膜厚を0.25λとする。蒸着は、抵抗加熱源又は電子ビーム加熱源を使用し、酸素流入量を調節することによって真空度2.3×10-2Paを保持しながら、成膜速度0.6nm/secで行う。
【0035】
上述した本発明の実施形態の裏面反射鏡について、さらに説明する。
(1)実施形態の裏面反射鏡の分光反射率は、図2に示すように、特に可視域、430〜680nmの反射率を90%以上と高い反射率を有する。
【0036】
(2)密着層である第1層の酸化珪素(SiOx,x=1又は2)は、ポリカーボネート(PC)はじめ他のプラスチック樹脂に対しても高い密着性を有する。簡易な粘着テープを使用した剥離試験でもまったく問題はない。また、基板の種類や形状に合わせて膜厚を調整することによって、反射率を大きく変化させることなく密着力を制御することができる。
【0037】
第1層の酸化珪素(SiOx,x=1又は2)による密着性の高さは、ポリカーボネート(PC)基板が自由曲面のような複雑な面形状に対しても反射増加膜を均一厚さかつ確実に密着させ、反射面への入射角度0〜60°の広い角度範囲において変化の少ない反射特性を得ることができる。
【0038】
また、第1層の酸化珪素(SiOx,x=1又は2)の光学的膜厚を0.45λまで厚くすることで、ポリカーボネート(PC)基板の熱膨張や収縮によって発生する反射増加膜にかかる応力を軽減して、高温耐久性を高めている。その結果、100℃の高温試験やヒートショック試験においても、反射増加膜や全反射層のクラックの発生を有効に阻止することができる。さらに、60℃、90%、240時間の高温高湿試験でも、剥離、金属反射膜の変質・変色、クラック発生等についてまったく問題がなく、過酷な車載用途にも十分耐えるものである。
【0039】
酸化チタン(TiO2)は、光触媒効果を有し、紫外線UVが照射されると光触媒効果によってポリカーボネート(PC)基板を分解して光吸収層を形成する恐れがある。酸化珪素(SiOx,x=1又は2)は、光触媒効果を有しない。
【0040】
密着層として、従来公知の炭素を含む有機薄膜を使用すると、樹脂基板の熱膨張による応力変化をある程度吸収する。しかし、膜形成を浸漬法等湿式成膜法を使用するため、光学的面精度が低く、複雑な形状になり、膜厚がばらつき、高精度の反射膜を形成することはできない。
【0041】
(2)反射増加膜に、屈折率1.85〜1.90のチタン酸ランタン(LaTiO3)層を含めることで、耐環境性の高い裏面反射鏡としている。
仮に、チタン酸ランタン(LaTiO3)に代えて酸化チタン(TiO2)を使用すると、屈折率は2.35と高く高い反射率を得ることができる。しかし、蒸着による樹脂基板の変形・変質を避けるために、無加熱すなわち常温で蒸着すると、膜の充填密度が低くなり、曇りや表面の粗面化による散乱が発生し、耐環境性も低い。
【0042】
仮にまた、チタン酸ランタン(LaTiO3)に代えて酸化ランタン(La23)を使用し、蒸着による樹脂基板の変形・変質を避けるために、無加熱すなわち常温で蒸着すると、屈折率は1.80と低く、高い反射率を得ることができない。
仮にまた、チタン酸ランタン(LaTiO3)に代えて酸化ジルコニウム(ZrO2)を使用した場合も、酸化ランタン(La23)を使用した場合と同様に、蒸着による樹脂基板の変形・変質を避けるために、無加熱すなわち常温で蒸着すると、屈折率は1.80と低く、高い反射率を得ることができない。
【0043】
(3)反射増加膜に、低屈折率蒸着物質の1つである、屈折率1.43〜1.46の二酸化珪素(SiO2)を使用し、電子ビーム加熱源を使用し、低エネルギーのイオンアシスト蒸着又はプラズマアシスト蒸着によって、膜厚を0.36λとした。イオンアシスト蒸着又はプラズマアシスト蒸着は、弱い圧縮応力の蒸着膜を成膜することができ、膜の基板への高い密着力と高い高温耐久性を実現した。
【0044】
(4)反射層の第6層16は、抵抗加熱源を使用し、アルミニュウム(Al)を、成膜速度2nm/secで、物理膜厚100nmに蒸着した。
アルミニュウム(Al)は、可視域反射率が88%であり、可視域反射率に関し銀(Ag)に劣るが、機械的強度が高く耐蝕性に優れている。アルミニュウム(Al)の反射率は、理論的に物理膜厚が70nmで最大になるが、機械的耐久性を考慮すると、100nm以上が好ましい。
【0045】
仮に、アルミニュウム(Al)に代えて金(Au)を使用すると、可視域反射率が約40%であり、不都合である。
【0046】
仮にまた、アルミニュウム(Al)に代えて銀(Ag)を使用すると、可視域反射率が98%と高く好ましい。しかし、銀(Ag)は、腐食性が高く、大気に曝されると硫化銀(AgS)が形成され、さらにオゾンと化合して、黒褐色の酸化物を形成し、反射率を低下させる。
【0047】
(5)保護層の第7層17を、屈折率1.45〜1.47の二酸化珪素(SiO2)を使用して、膜厚と0.25λとすることにより、優れた機械的強度、耐酸性、耐環境性を実現し、厳しい車載用途にも十分耐えるものである。例えば、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール等各種アルコール系溶剤をシルボン紙に含ませ、約200gの加重で10往復擦っても、膜に異常は現れなかった。
保護層は、二酸化珪素(SiO2)に代えて酸化アルミニュウム(Al23)を使用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
10 基板
11 第1層
12 第2層
13 第3層
14 第4層
15 第5層
16 第6層
17 第7層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基板に構成された裏面反射鏡であって、
増反射ミラーコートがプラスチック基板の表面上に設けられ、
前記増反射ミラーコートは、
基板密着層と、増反射中間層と、反射層と、保護層とからなり、
前記増反射中間層は、前記プラスチック基板の屈折率より高い屈折率をもち、波長が420nmから750nmにおいて、又は、波長が400nmから780nmにおいて、0.3%以下の吸収性をもつ高屈折率層と、前記プラスチック基板の屈折率より低い屈折率をもつ低屈折率層とが交互に積層されてなる、
ことを特徴とする裏面反射鏡。
【請求項2】
前記プラスチック基板の表面上には、第1層から第7層が、この順序でコーティングされてなり、
前記第1層は、前記基板密着層を構成し、かつ、酸化ケイ素(SiOx x<2)からなり、
前記第2層は、前記増反射中間層のうちの1つの層を構成し、かつ、前記低吸収高屈折率の材料からなり、
前記第3層は、前記増反射中間層のうちの1つの層を構成し、かつ、前記低屈折率の材料からなり、
前記第4層は、前記増反射中間層のうちの1つの層を構成し、かつ、前記低吸収高屈折率の材料からなり、
前記第5層は、前記増反射中間層のうちの1つの層を構成し、かつ、前記低屈折率の材料からなり、
前記第6層は、前記反射層を構成し、かつ、アルミニュウムからなり、
前記第7層は、前記基板密着層を構成し、かつ、二酸化ケイ素(SiO2)からなる、
ことを特徴とする請求項1に記載の裏面反射鏡。
【請求項3】
前記低吸収高屈折率の材料が、チタン酸ランタン(LaTiO3)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の裏面反射鏡。
【請求項4】
前記チタン酸ランタン(LaTiO3)は、屈折率が1.90以上のチタン酸ランタン(LaTiO3)であることを特徴とする請求項3に記載の裏面反射鏡。
【請求項5】
前記低屈折率の材料が、二酸化ケイ素(SiO2)であることを特徴とする請求項1又は4に記載の裏面反射鏡。
【請求項6】
前記二酸化ケイ素(SiO2)は、屈折率が1.40から1.50の二酸化ケイ素(SiO2)であることを特徴とする請求項5に記載の裏面反射鏡。
【請求項7】
前記酸化ケイ素(SiOx)は、一酸化ケイ素(SiO)を主成分とすることを特徴とする請求項1又は6に記載の裏面反射鏡。
【請求項8】
前記一酸化ケイ素(SiO)は、屈折率が1.45から1.55であり、膜厚が0.45λ以上であることを特徴とする請求項7に記載の裏面反射鏡。
【請求項9】
前記反射層が、膜厚100nm以上であるアルミニュウムからなることを特徴とする請求項1又は8に記載の裏面反射鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−95658(P2011−95658A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251943(P2009−251943)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000133227)株式会社タムロン (355)
【Fターム(参考)】