説明

補酵素Q10粒子の製造方法

【課題】 簡単な設備及び簡便な操作で、高含有量でかつ粉体流動特性に優れた原末並みに微細な補酵素Q10粒子を効率的に工業生産できる製造方法を提供すること。
【解決手段】 下記(1)および(2)の工程を含有する、補酵素Q10粒子の製造方法。
(1)補酵素Q10と水とを、界面活性剤存在下で補酵素Q10の融点以上の温度で乳化分散し、O/Wエマルジョンを調製する、(2)該O/Wエマルジョンを、水溶性分散剤存在下、撹拌にて流動させながら補酵素Q10の固化温度以下まで冷却して、固形粒子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補酵素Q10粒子の製造方法に関する。補酵素Q10は、優れた、食品、栄養機能食品、特定保健用食品、栄養補助剤、栄養剤、動物薬、飲料、飼料、化粧品、医薬品、治療薬、予防薬等として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
補酵素Q10は、人の生体内の細胞中におけるミトコンドリアの電子伝達系構成成分であり、ミトコンドリア内において酸化と還元を繰り返すことで、電子伝達系における伝達成分としての機能を担っているほか、還元型補酵素Q10は抗酸化作用を持つことが知られている。
【0003】
補酵素Q10のうち、酸化型補酵素Q10は、欧米では健康食品として、日本では鬱血性心不全薬として用いられており、近年では、日本でも健康食品、栄養補助食品や化粧品としても用いられてきている。特に、健康食品、栄養補助食品の分野においては、酸化型補酵素Q10をソフトカプセル化した商品が主流となっている。
【0004】
また還元型補酵素Q10を含有する補酵素Q10は、従来の酸化型のみの補酵素Q10よりも、経口吸収性に優れること等、近年、その有効性が知られるようになった。
【0005】
補酵素Q10の原末は、例えば、合成、発酵、天然物からの抽出等の方法により補酵素Q10粗精製物を得た後、クロマトグラフィーにより流出液中の補酵素Q10区分を濃縮し、晶析により結晶化して得ることができる。しかしながら、このようにして得られる補酵素Q10の原末は、板状結晶、または針状結晶の形態をとっており、固体表面へのハリツキや原末の凝集が生じやすく、粉体流動特性が非常に悪いことが知られている。また補酵素Q10を打錠用途やソフトカプセル用途として使用する場合には、製剤充填時の均一性を確保するため、最大粒子径を300μm以下とする必要がある。そのため補酵素Q10の原末を改良し、微細で粉体流動特性に優れた粒子を造粒できる技術の開発が望まれていた。
【0006】
補酵素Q10のうち、酸化型補酵素Q10の造粒または顆粒化方法には、例えば流動層装置等において、賦形剤を酸化型補酵素Q10に混合させながら、被覆物質で噴霧コーティングした例(特許文献1)が知られている。しかしながら、このようにして得られる酸化型補酵素Q10の粒子は、賦形剤やコーティングに使用した物質を多量に含有しているため、粒子中の酸化型補酵素Q10含有量は高くない。
【0007】
補酵素Q10のうち、酵素Q10を対象とした造粒方法には、貧溶媒中に還元型補酵素Q10の高濃度液相を添加し、造粒する方法(特許文献2)が知られているが、同造粒方法では微細な粒子を製造することが難しい上、高濃度液相を調製するタンクや送液するポンプ等の付帯設備が必要となる。
【0008】
ところで、一般的な脂溶性物質の固化造粒方法を対象とした報告の中には、水中に低融点物質を融点以上の温度で溶融、液滴化させた後、冷却固化して造粒した例(特許文献3)がある。
【特許文献1】特開2006−213601
【特許文献2】特開2004−130201
【特許文献3】特開平9−124405
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、補酵素Q10の原末は板状結晶、または針状結晶の形態をとっているため、静電気が発生しやすく、これにより製剤装置等、固体表面へのハリツキや原末の凝集が生じ、計量時の作業効率が低下したり、打錠時やカプセル充填時に原末容器や製剤装置への付着が起こり、補酵素Q10の製剤化がスムーズにできない等、生産性や操作性において問題があった。
【0010】
また、従来の補酵素Q10の造粒方法は、多量の賦形剤を使用するため、得られる粒子における補酵素Q10の含有量の低下を招き、食品や医薬品用途に混合する際、製造効率が悪化したり、粉体流動特性が十分でない等の問題があった。
【0011】
本発明の課題は、簡単な設備及び簡便な操作で、高含有量かつ粉体流動特性に優れた原末並みに微細な補酵素Q10粒子を効率的に工業生産できる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、補酵素Q10を水に乳化分散し、油状化した補酵素Q10をO/Wエマルジョンに調製する工程と、該O/Wエマルジョンを水溶性分散剤存在下で流動させながら、補酵素Q10の固化温度以下まで冷却し、固形粒子を得る工程という撹拌・分散条件が異なる2つの工程の操作を行うことで、高含有量で粉体流動特性に優れ、なおかつ原末並みに微細な補酵素Q10粒子を効率的に工業的に可能な方法で生産できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち本発明は、(1)補酵素Q10と水とを、界面活性剤存在下で補酵素Q10の融点以上の温度で乳化分散し、O/Wエマルジョンを調製する、(2)該O/Wエマルジョンを水溶性分散剤存在下で撹拌にて流動させながら補酵素Q10の固化温度以下まで冷却して固形粒子を得る、という2つの工程を含有することを特徴とする補酵素Q10粒子の製造方法である。また、本発明は、Dr.CARRの粉体流動特性指標が80以上で、平均粒子径が1〜300μmの球形粒子であることを特徴とする補酵素Q10粒子に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により得られる補酵素Q10の粒子は、粒度が均一で粉体流動特性に優れており、原末容器や製剤装置への付着、原末の凝集が生じにくく、装置への充填性に優れている。また、本発明の製造方法は、簡単な設備を用いて、簡便な操作で実施できるだけでなく、補酵素Q10を高含有し、かつ原末並みに微細な補酵素Q10の粒子の製造が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明における補酵素Q10の粒子の製造方法は、下記(1)および(2)の工程を含有する補酵素Q10粒子の製造方法である。
【0017】
(1)補酵素Q10と水とを、界面活性剤存在下で補酵素Q10の融点以上の温度で乳化分散し、O/Wエマルジョンを調製する。
【0018】
(2)該O/Wエマルジョンを、水溶性分散剤存在下、撹拌にて流動させながら補酵素Q10の固化温度以下まで冷却して、固形粒子を得る。
【0019】
補酵素Q10は広く生体に分布する必須成分であり、上述したように、酸化型と還元型が存在する。本発明においては、補酵素Q10として、酸化型補酵素Q10、還元型補酵素Q10のいずれを用いた場合においても、粉体流動特性に優れた粒子を得ることができる。もちろん、補酵素Q10として酸化型補酵素Q10と還元型補酵素Q10の混合物であっても構わない。 本発明の製造方法は上記いずれの形態にも適用できるが、還元型補酵素Q10の方が酸化型補酵素Q10より、経口吸収性やその他薬理効果において優れていることから、補酵素Q10として還元型補酵素Q10あるいは酸化型補酵素Q10と還元型補酵素Q10の混合物に適用するのが一般的には好ましい。混合物である場合の酸化型補酵素Q10と還元型補酵素Q10の混合比は特に限定されないが、好ましくは補酵素Q10中の還元型補酵素Q10の割合が20重量%以上、より好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、特に好ましくは80重量%以上である。なお、本明細書において、補酵素Q10とのみ記載した場合は、酸化型、還元型を問わず、両者が混在する場合には混合物全体も表すものである。
【0020】
本発明の製造方法における補酵素Q10の仕込み濃度は特に限定されないが、生産性の観点からは、水に対する補酵素Q10の仕込み濃度が高いほど好ましく、例えば、上記工程(1)における、水に対する補酵素Q10の割合が、1重量%以上、特に5重量%以上であることが好ましい。一方、水に対する補酵素Q10の仕込み濃度が30重量%以上となる場合は、粒子径のコントロールが困難で、均一な粒子を得ることが難しいため、それ以下とするのが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法では、上記工程(1)において、補酵素Q10の油状物を、O/Wエマルジョンに調製するために、HLBが6以上の界面活性剤存在下で乳化分散を行うのが好ましく、水相中における油滴分散形成の観点から、そのHLBは8以上がより好ましく、特に10以上が好ましい。また、上記、界面活性剤としては、食品用又は医薬品用として使用できるものが好ましく、例えば、グリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、およびレシチン類を挙げることができる。
上記グリセリン脂肪酸エステル類としては、例えば、モノグリセリン脂肪酸有機酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。モノグリセリン脂肪酸有機酸エステルとしては、具体的には、モノグリセリンステアリン酸クエン酸エステル、モノグリセリンステアリン酸酢酸エステル、モノグリセリンステアリン酸コハク酸エステル、モノグリセリンカプリル酸コハク酸エステル、モノグリセリンステアリン酸乳酸エステル、モノグリセリンステアリン酸ジアセチル酒石酸エステル等が挙げられる。モノグリセリン脂肪酸エステルとしては、モノグリセリンラウリン酸エステル、モノグリセリンミリスチン酸エステル、モノグリセリンオレイン酸エステル、モノグリセリンステアリン酸エステル等が挙げられる。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、具体的には、トリグリセリンモノラウリン酸エステル、トリグリセリンモノミリスチン酸エステル、トリグリセリンモノオレイン酸エステル、トリグリセリンモノステアリン酸エステル、ペンタグリセリンモノミリスチン酸エステル、ペンタグリセリントリミリスチン酸エステル、ペンタグリセリンモノオレイン酸エステル、ペンタグリセリントリオレイン酸エステル、ペンタグリセリンモノステアリン酸エステル、ペンタグリセリントリステアリン酸エステル、ペンタグリセリンモノステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノカプリル酸エステル、ヘキサグリセリンジカプリル酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノミリスチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノパルミチン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンジステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0022】
上記ショ糖脂肪酸エステル類としては、ショ糖の水酸基の1つ以上に炭素数が各々6〜18、好ましくは6〜12の脂肪酸をエステル化したものが挙げられる。具体的には、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0023】
上記ソルビタン脂肪酸エステル類としては、ソルビタン類の水酸基の1つ以上に炭素数が各々6〜18、好ましくは6〜12の脂肪酸をエステル化したものが挙げられる。具体的には、ソルビタンモノステアリン酸エステル、ソルビタンモノオレイン酸エステル等が挙げられる。
【0024】
上記レシチン類としては、例えば、卵黄レシチン、精製大豆レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、ジセチルリン酸、ステアリルアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールアミン、カルジオリピン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、リゾレシチン、及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0025】
言うまでもなく、ここで示した界面活性剤は2種以上を合わせて使用することもできる。
【0026】
工程(1)において、これらの界面活性剤を水相中に添加する濃度は特に限定されないが、その濃度が0.001〜5重量%となる範囲で含まれることが好ましく、より好ましくは、濃度0.01〜1重量%の範囲である。
【0027】
本発明の製造方法の工程(1)において、油状化した補酵素Q10をO/Wエマルジョンに調製する際、補酵素Q10が溶融する温度、すなわち補酵素Q10の融点以上の温度とする必要がある。補酵素Q10が十分に溶融し、固形成分が存在しない状態とするためには、上記工程(1)において、補酵素Q10と水との混合物を、50℃〜80℃の温度条件下で乳化分散するのが好ましく、さらには55℃〜60℃の温度条件下で乳化分散するのが好ましい。
【0028】
上記補酵素Q10のO/Wエマルジョンを調製するため行う乳化分散には、各種の汎用されている乳化分散機、例えばホモミキサー、ホモディスパー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、コロイドミル、超音波乳化機等を用いることができる。
【0029】
本発明の製造方法では、工程(1)において前述の方法で調製した補酵素Q10のO/Wエマルジョンを、次の工程(2)において、水溶性分散剤の添加された水相中で流動させながら冷却し、補酵素Q10の固形粒子を得る。
【0030】
本発明の製造方法の工程(2)において使用できる水溶性分散剤としては、特に限定されないが、食品用又は医薬品用として使用できるものが好ましい。そのような水溶性分散剤としては、例えば、アラビアガム、ゼラチン、寒天、澱粉、ペクチン、カラギーナン、カゼイン、アルギン酸類、大豆多糖類、プルラン、セルロース類、およびキサンタンガム等を挙げることができる。
【0031】
上記アルギン酸類としては、例えば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等が挙げられる。
【0032】
上記大豆多糖類は、大豆より抽出した水溶性の多糖類で、ガラクトース、アラビノース、ガラクツロン酸、キシロース、フルコース、グルコース、ラムノース等の多糖類から構成されるものである。
【0033】
上記セルロース類としては、例えば、結晶セルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等が挙げられる。
【0034】
ここで示した水溶性分散剤は2種以上を合わせて使用することもできる。
【0035】
工程(2)において、上記水溶性分散剤を水相中に添加する濃度は特に限定されないが、水に対して濃度0.001〜10重量%となる範囲で含まれることが好ましく、より好ましくは、濃度0.005〜3重量%の範囲である。
【0036】
本発明においては、工程(2)において、水溶性分散剤を、補酵素Q10を分散する水相に添加することで、得られる粒子中の補酵素Q10を高含有率に維持したまま、粉体流動特性に優れた原末並みに微細な補酵素Q10粒子を得ることができる。
【0037】
本発明の製造方法の工程(2)においては、工程(1)で調製したO/Wエマルジョンの形状を維持したまま、補酵素Q10の融点以下の温度で補酵素Q10を固化させる必要がある。工程(2)において、固化させるためには、補酵素Q10の融点以下とすればよいが、得られる補酵素Q10粒子の物性の観点からは、40℃以下の温度まで冷却することが好ましく、さらには35℃以下の温度まで冷却することが好ましい。
【0038】
上記工程(2)において、O/Wエマルジョンを冷却する際、冷却速度が速すぎると、得られる補酵素Q10粒子の均一度は低くなり、粒子径をコントロールすることが困難になることから、冷却速度は、0.5℃/min以下であることが好ましく、さらには0.2℃/min以下であることが好ましい。冷却速度の下限は特に限定されないが、冷却速度が極端に遅い場合は、粒子生成時に微粉発生が多くなる等、生産性の問題が生じるため、冷却速度は0.01℃/min以上が好ましく、0.05℃/min以上であることがより好ましい。
【0039】
本発明の製造方法の工程(2)においては、工程(1)で調製したO/Wエマルジョンの形状を維持したまま冷却する必要があるため、該O/Wエマルジョンを冷却する場合の撹拌を、単位容積当たりの所要動力が0.01kW/m以上の条件で行うことが好ましく、0.05kW/m以上の条件で行うことがより好ましい。撹拌所要動力の上限は特に限定されないが、所要動力が著しく大きい場合、液自由表面からの気泡の巻き込みが激しくなり、補酵素Q10が固化する際に、変形等の障害が生じるため、撹拌所要動力の上限は1.5kW/m以下であることが好ましく、より好ましくは1.0kW/m以下である。
【0040】
本発明の製造方法において、工程(1)でのO/Wエマルジョンを調製する際の界面活性剤の仕込み方法、および、工程(2)での水溶性分散剤の仕込み方法は、補酵素Q10のO/Wエマルジョンの調製が可能で、O/Wエマルジョンを冷却して微細な固形粒子が得られる範囲内であれば特に制限は無く、先に工程(1)において界面活性剤と水溶性分散剤とを一括で仕込むこともできる。
【0041】
本発明の製造方法では、補酵素Q10のO/Wエマルジョンの調製工程(工程(1))、および補酵素Q10の固形粒子を得るための冷却工程(工程(2))において、使用する装置の組み合わせを限定するものでは無く、これら2つの独立した工程がそれぞれ実施できれば、例えば、撹拌槽の外部循環ラインに乳化分散機を組み合わせた、単一の装置にて実施することも可能である。
【0042】
本発明の製造方法において、このようにして得られた補酵素Q10固形粒子は、例えば、遠心分離、加圧濾過、減圧濾過等による固液分離、さらに、必要に応じてケーキ洗浄を行い、さらに、真空乾燥などの乾燥処理を行って、乾燥粒子として取得される。
【0043】
特に、還元型補酵素Q10は、分子酸素によって酸化され、酸化型補酵素Q10を副生しやすいため、本発明において、補酵素Q10として還元型補酵素Q10や還元型補酵素Q10と酸化型補酵素Q10の混合物を使用する場合、上記一連の操作は、脱酸素雰囲気下で実施するのが好ましい。脱酸素雰囲気は、不活性ガスによる置換、減圧、沸騰やこれらを組み合わせることにより達成できる。上記不活性ガスとしては、例えば窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、水素ガス、炭酸ガスを挙げることができ、好ましくは窒素ガスである。
【0044】
本発明の製造方法により得られる補酵素Q10粒子は、球形で粉体流動特性に優れた粒子である。具体的には、Dr.CARRの粉体流動特性指数が80以上の補酵素Q10粒子である。粉体流動特性の観点から、その指数は高いほど好ましく、上記好ましい製造条件を適宜選択することで、80以上の補酵素Q10粒子を得ることが出来る。公知の晶析方法で得られる補酵素Q10原末のように、Dr.CARRの粉体流動特性指数が50を下回る場合、流動性が悪くなり、補酵素Q10粒子の移送時の効率が悪化したり、装置充填がスムーズにできない等、生産性や操作性の問題がある。
【0045】
なお、Dr.CARRの粉体流動特性指数は、粒子の安息角、圧縮度、スパチュラ角、均一度を総合的に評価した指数であり、CHENICAL ENGINEERING−January 18、1965において定義されたものである。Dr.CARRの粉体流動特性指数に関する定義を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
本発明の製造方法によって得られる補酵素Q10粒子の形状は上述したように球形となる。その平均粒子径としては、製造時の撹拌速度や冷却速度等によって特に限定されず、適宜調製できるが、打錠用途やソフトカプセル用途として使用する場合には平均粒子径が1〜300μmとすることが好ましい。補酵素Q10粒子の平均粒子径が300μmを超える場合、例えば打錠時やソフトカプセルの充填時に充填量が均一にならない等の問題がある。
【0048】
本発明の製造方法においては、微量の界面活性剤や水溶性分散剤以外に、造粒のための賦形剤やコーティング剤を必要としないことから、得られる補酵素Q10粒子における補酵素Q10含有量は高く、例えば、粒子中の補酵素Q10含有量が90重量%以上、より好ましくは95重量%以上となる。粒子中の補酵素Q10の含有量が高いほど、食品や医薬品用途に混合する際、製造効率が向上し、また製剤化における設計の自由度が高くなるため好ましい。但し、必要に応じて、本発明の製造方法によって得られた補酵素Q10粒子に、賦形剤を添加・混合したり、コーティングを行うことを排除するものではない。
【0049】
本発明の製造方法により得られる補酵素Q10粒子は、そのままの形態で、打錠やソフトカプセルへの充填が可能であるほか、親和性のある油脂類等に溶解、混合する等、補酵素Q10原末と同様に加工して使用することができる。
【実施例】
【0050】
次に本発明を実施例により具体的に説明する。実施例および比較例においては、補酵素Q10粒子の原料として、株式会社カネカ製の酸化型補酵素Q10(原末)および還元型補酵素Q10(原末)を使用した。実施例中の粒子中の補酵素Q10の含有量は、下記HPLC分析により求めたが、得られた補酵素Q10の含有量は本発明における含有量の限界値を規定するものではない。
【0051】
(HPLC分析条件)
カラム:SYMMETRY C18(Waters製)250mm(長さ)4.6mm(内径)、移動相;COH:CHOH=4:3(v:v)、検出波長;210nm、流速;1mL/min、還元型補酵素Q10の保持時間;9.1min、酸化型補酵素Q10の保持時間;13.3min。
【0052】
(実施例1)
デカグリセリンモノオレイン酸エステル(理研ビタミン製、ポエムJ−0381V)0.01重量%を含有するイオン交換水500mLを55℃に加温し、酸化型補酵素Q10(原末)30gを加え、補酵素Q10が十分に溶融した状態で、ホモジナイザーで乳化分散し、酸化型補酵素Q10のO/Wエマルジョンを調製した。つづいて、該O/Wエマルジョンを内容積1000mLの撹拌装置付きセパラブルフラスコに仕込み、さらに液中のアラビアガム濃度が1重量%となるよう、アラビアガム水溶液を添加し、総液量を600mLとした上で、ディスクタービン翼を用いて撹拌した(単位容積当たりの撹拌所要動力 0.34kW/m)。その後、該O/Wエマルジョンをその撹拌条件のまま0.2℃/minの冷却速度で35℃まで冷却してから、吸引濾過、真空乾燥して補酵素Q10粒子を得た。得られた粒子の補酵素Q10含有量は99.4重量%であった。得られた補酵素Q10粒子をマイクロスコープ(キーエンス製デジタルマイクロスコープVH−6200、以下同じ)で観察したところ、平均粒子径約42μmの球状粒子となっていた。また、得られた還元型補酵素Q10粒子を走査型電子顕微鏡(日立製作所製S−800、以下SEMと称する)で観察したところ、図1に示したような球形の粒子形状が観察された。さらに、得られた補酵素Q10粒子をパウダーテスタ(ホソカワミクロン製パウダーテスタPT?R型、以下同じ)により、粉体流動特性の評価を行ったところ、Dr.CARRの粉体流動特性指数は83.5となり、流動特性の程度は「良好(Good)」となった。
【0053】
(実施例2)
酸化型補酵素Q10の代わりに還元型補酵素Q10(原末)30gを用い、すべて窒素雰囲気下による操作のもとで、その他は実施例1と同じ方法・条件により還元型補酵素Q10粒子を得た。得られた粒子の還元型補酵素Q10含有量は99.2重量%であった。得られた還元型補酵素Q10粒子をマイクロスコープで観察したところ、平均粒子径約28μmの球状粒子となっていた。また、得られた還元型補酵素Q10粒子をパウダーテスタにより、粉体流動特性の評価を行ったところ、Dr.CARRの粉体流動特性指数は81.0となり、流動特性の程度は「良好(Good)」となった。
【0054】
(比較例1)
実施例1の原料として使用した酸化型補酵素Q10原末をマイクロスコープで観察したところ、平均粒子径約40μmの結晶形であった。また、酸化型補酵素Q10原末をSEMで観察したところ、図2に示したような板状の結晶形が観察された。さらに、酸化型補酵素Q10原末をパウダーテスタにより、粉体流動特性の評価を行ったところ、Dr.CARRの粉体流動特性指数は41.0となり、流動特性の程度は「やや不良(Poor)」となった。
【0055】
(比較例2)
実施例2の原料として使用した還元型補酵素Q10原末をマイクロスコープで観察したところ、平均粒子径約45μmの微粉であった。また、還元型補酵素Q10原末をパウダーテスタにより、粉体流動特性の評価を行ったところDr.CARRの粉体流動特性指数は48となり、流動特性の程度は「やや不良(Poor)」となった。
【0056】
(比較例3)
内容積1000mLの撹拌装置付きセパラブルフラスコに、酸化型補酵素Q10(原末)を10gと、99.5%エタノールを200mL仕込み、補助溶剤としてハイオレイックサフラワー油3mLを加えて45℃で完全に溶解した後、マックスブレンド翼を用いて150rpmで回転撹拌しながら、0.2℃/minの冷却速度で10℃まで冷却した。吸引濾過、真空乾燥して得られた補酵素Q10粒子の補酵素Q10含有量は99.5重量%であった。得られた補酵素Q10粒子をマイクロスコープで観察したところ、平均粒子径約130μmの球状の凝集結晶となっていた。また、得られた補酵素Q10粒子をパウダーテスタにより、粉体流動特性の評価を行ったところ、Dr.CARRの粉体流動特性指数は74.5となり、流動特性の程度は「やや良好(Fair)」となった。
【0057】
表2に実施例1〜2において得られた補酵素Q10粒子、および比較例1〜3の補酵素Q10原末および補酵素Q10粒子の平均粒子径、補酵素Q10含有量、粉体流動特性の評価結果を示す。
【0058】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例1により得られた本発明の補酵素Q10粒子のSEM写真である。
【図2】比較例1の補酵素Q10原末のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)および(2)の工程を含有する、補酵素Q10粒子の製造方法。
(1)補酵素Q10と水とを、界面活性剤存在下で補酵素Q10の融点以上の温度で乳化分散し、O/Wエマルジョンを調製する
(2)該O/Wエマルジョンを、水溶性分散剤存在下、撹拌にて流動させながら補酵素Q10の固化温度以下まで冷却して、固形粒子を得る
【請求項2】
工程(1)における、水に対する補酵素Q10の割合が1重量%以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(1)における、界面活性剤の水に対する割合が、0.001〜5重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
界面活性剤が、HLBが6以上のグリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、およびレシチン類からなる群より選択される少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(2)における、水溶性分散剤の水に対する割合が0.001〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
水溶性分散剤が、アラビアガム、ゼラチン、寒天、澱粉、ペクチン、カラギーナン、カゼイン、アルギン酸類、大豆多糖類、プルラン、セルロース類、およびキサンタンガムからなる群より選択される少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
工程(2)における冷却速度が、0.01〜0.5℃/minであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(2)における冷却時の撹拌を、単位容積当たりの撹拌所要動力が0.01〜1.5kW/mの条件で行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
補酵素Q10が還元型補酵素Q10を含有するものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
平均粒子径が1〜300μmの球形粒子で、かつ、Dr.CARRの粉体流動特性指数が80以上であることを特徴とする補酵素Q10粒子。
【請求項11】
請求項1〜9いずれか記載の製造方法によって得られる、請求項10記載の補酵素Q10粒子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−29755(P2009−29755A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197210(P2007−197210)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】