複列アンギュラ軸受
【課題】転動寿命の向上を図ることができ、しかもコストの低減を達成できる複列アンギュラ軸受を提供する。
【解決手段】外径面に内側転走面28、29を有する内輪24A、24Bと、内径面に外側転走面26、27を有する外輪25と、外輪25の外側転走面26、27と内輪24A、24Bの内側転走面28、29との間に転動自在に収容された転動体30とを備えた複列アンギュラ軸受である。外輪25と内輪24との少なくとも一方を、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いて冷間ローリングにて成形した塑性加工品としたものである。
【解決手段】外径面に内側転走面28、29を有する内輪24A、24Bと、内径面に外側転走面26、27を有する外輪25と、外輪25の外側転走面26、27と内輪24A、24Bの内側転走面28、29との間に転動自在に収容された転動体30とを備えた複列アンギュラ軸受である。外輪25と内輪24との少なくとも一方を、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いて冷間ローリングにて成形した塑性加工品としたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複列アンギュラ軸受に関し、特に自動車等の車両において車輪を車体に対して回転自在に支持するための車輪用軸受装置に最適な複列アンギュラ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪用軸受装置等に用いる複列アンギュラ軸受には、図12に示すように、軸受100は、内周に複列の外側転走面120、121が形成された外輪105と、外周に外側転走面に対向する内側転走面118、119が形成された一対の内輪108、109と、外輪105の外側転走面120、121と内輪108、109の内側転走面118、119との間に転動自在に収容された複列の転動体122とを備える。
【0003】
外輪105と内輪108、109との間の軸方向開口部はシール部材S、Sにて塞がれている。このため、外輪105の内径面の軸方向の開口端部にシール装着溝110、111が設けられている。
【0004】
内輪108、109は、大径部112と小径部113とを備え、大径部112と小径部113との間の連設部114の外径面に転走面118(119)が形成される。
【0005】
外輪105は、一般的には、図13に示すように、短円筒体の素材150を、クロスハッチングで示す範囲を削り成形することになる。この素材150は、図14(a)に示すように、ファイバーフローFが軸方向に延びている。このため、成形された外輪105においても図14(b)に示すように、ファイバーフローFが軸方向に延びている。ファイバーフローとは、材料の組織の流れを言い、繊維状金属組織とも言う。
【0006】
また、内輪108(109)も、図15に示すように、短円筒体の素材151を、クロスハッチングで示す範囲を削り成形することになる。この際、この素材151は、図16に示すように、ファイバーフローFが軸方向に延びている。このため、成形された内輪108(109)においても、ファイバーフローFが軸方向に延びている。
【0007】
自動車の車輪用軸受装置等に用いる複列アンギュラ軸受では、耐食性が要求される。このため、軸受の外輪や内輪にステンレス鋼(JIS SUS440C)等が使用される。SUS440C(マルテンサイト系ステンレス)は、焼入れ焼戻しを実施することにより、軸受用鋼として必要な硬度である55HRC以上の硬度を達成しつつ、所定の耐食性を確保可能な耐食軸受用鋼である。
【0008】
しかし、近年の耐食軸受の用途の広がり等に伴い、耐食軸受に対して要求される耐食性のレベルはさらに上昇している。耐食性に優れた鋼としては、たとえばJIS SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼が挙げられる。SUS304は、SUS440Cを超える耐食性を有しているため、耐食性の観点からはSUS440Cよりも優れている。
【0009】
そこで、軸受の内輪や外輪にオーステナイト系ステンレス鋼を用いたものがある(特許文献1及び特許文献2)。
【特許文献1】特開2001−330038号公報
【特許文献2】特開2002−147467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、SUS材は、軸受に一般的に使用されるSUJ2等の鋼材と比べてCr等の希少金属が多く含まれ、単価が高くコスト高となる。しかも、図13に示すような成形方法では、外輪の形状として内径面に転走面やシール装着溝等を成形する必要があり、除去される重量(マテリアルロス=投入重量−製品重量)が多くなり、その分材料コストが増加する。内輪においても、除去される重量が多くなり、その分材料コスト高となっていた。
【0011】
また、図14や図16に示すような切削加工では、ファイバーフローが転走面において分断される。このため、転走面において亀裂や剥離が発生し易く、寿命が比較的短くなっていた。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みて、転動寿命の向上を図ることができ、しかもコストの低減を達成できる複列アンギュラ軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の複列アンギュラ軸受は、外径面に転走面を有する内輪と、内径面に転走面を有する外輪と、外輪の外側転走面と内輪の内側転走面との間に転動自在に収容された転動体とを備えた複列アンギュラ軸受であって、外輪と内輪との少なくとも一方を、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いて冷間ローリングにて成形した塑性加工品としたものである。ここで、冷間ローリング(冷間転造)とは、熱を加えずに冷たいまま(常温)で素材(ブランク)を回転させながら圧延していく加工方法である。すなわち、内外径がワーク(加工後の完成品)より小さな、基本的に内外径ストレートなブランク(素材)を、加工したい形状に設計された2つの治具(内径用と外径用)にはさんで回転させながら圧延(転造)し、ワークを形成する加工方法である。
【0014】
本発明の複列アンギュラ軸受は、外輪と内輪との少なくとも一方を冷間ローリングにて成形した塑性加工品としたので、塑性加工品の歩留まりの向上等を図ることができる。すなわち、冷間ローリングは、素材の余計な部分を削り落としていく切削加工とは異なり、製品外径より細い素材を拡径して成形することができ、材料の無駄が生じない。また、加工時間が短いことと、工具が長寿命であることなどから、切削加工と比べて生産性が高くなる。さらに、使用する工具(成形ロール、マンドレル)は加工品に応じて取り替える必要があるが、安定した加工精度を得ることができる。さらには、切削加工とは異なり、ファイバーフローが切断されないため、転走面における亀裂や剥離等の発生を抑えることができ、製品として長寿命を図ることができる。
【0015】
また、本発明の複列アンギュラ軸受は、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いた塑性加工品であるので、焼入れ焼戻しにより高強度及び高硬度となる。
【0016】
塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きが、転走面の肩部乃至その近傍を除いて、転走面の接線方向に対して15°以下であるのが好ましい。ファイバーフローの傾きがこのようなものであれば、ファイバーフローは転走面形状に近い形で流れることになる。なお、ファイバーフローの傾きとは、転走面の曲率中心からファイバーフローの断面が析出している点までの直線で結び、その直線と前記点との交点における直線との直交線と、前記点でのファイバーフローの接線とが成す角度である。
【0017】
塑性加工品は、C:0.90〜1.20重量%、Si:1.0重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.040重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.75重量%以下、Cr:16.0〜18.0重量%、Mo:0.75重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼を球状化焼鈍したブランクを用い、塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きが、転走面の肩部乃至その近傍を除いて、転走面の接線方向に対して15°以下であるとともに、少なくとも転走面の表面の硬度を焼入れ焼戻しにより55〜64HRCとするのが好ましい。
【0018】
塑性加工品は、C:0.50〜0.75重量%、Si:0.5重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.030重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.60重量%以下、Cr:11.5〜13.5重量%、Mo:0.50重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼を球状化焼鈍したブランクを用い、塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きが、転走面の肩部乃至その近傍を除いて、転走面の接線方向に対して15°以下であるとともに、少なくとも転走面の表面の硬度を焼入れ焼戻しにより55〜64HRCとするのが好ましい。
【0019】
ここで、球状化焼鈍とは、鋼中の炭化物を球状にし、均一に分散させる熱処理である。このため、球状化焼鈍を行うことによって、塑性加工や機械加工を容易にし、あるいは機械的性質を改善することができる。塑性加工品中の炭化物は、長径長さをaとし、短径長さをbとしたときに、(a+b)/2≦50μmであるのが好ましく、特に、(a+b)/2≦30μmであるのが好ましい。
【0020】
塑性加工品が外輪であれば、外径面の軸方向中央部に周方向溝(環状凹部)が設けられることになる。これは、塑性加工後の形状をほぼ均一の肉厚とすることで、冷間ローリングによる塑性加工時にブランクをほぼ均一に圧延することができるため、塑性加工を容易とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の車輪用軸受装置では、冷間ローリング加工にて外輪や内輪が成形されるので、製品の歩留まり及び生産性の向上を図ることができて、コスト低減を達成できる。しかも、外輪や内輪は安定した加工精度及び長寿命を得ることができ、軸受の品質向上を達成できる。また、外輪や内輪の軽量化を図ることができて、自動車の低燃費化を達成できる。このように、円筒状の素材を削り出して成形しないので、切削加工での材料の除去量が減り、材料の無駄が少なくなって、コスト低減を図ることができる。
【0022】
塑性加工品はマルテンサイト系ステンレス鋼であるので、焼入れ焼戻しにより高強度及び高硬度となる。このため、高品質の製品を提供できる。また、マルテンサイト系ステンレス鋼の耐食性は他の系統のステンレス鋼よりも一般に劣るが、SUJ2に比べて耐食性に優れ、自動車の車輪用軸受装置等に要求される耐食性に十分対応することができる。
【0023】
塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きを、転走面の接線方向に対して15°以下であるように設定することによって、ファイバーフローは転走面形状に近い形で流れることになる。これによって、転走面における亀裂や剥離等の発生を抑えることができ、製品として長寿命化を図ることができる。
【0024】
C:0.90〜1.20重量%、Si:1.0重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.040重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.75重量%以下、Cr:16.0〜18.0重量%、Mo:0.75重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼を球状化焼鈍したブランク、又は、C:0.50〜0.75重量%、Si:0.5重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.030重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.60重量%以下、Cr:11.5〜13.5重量%、Mo:0.50重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼を球状化焼鈍したブランクを用いた場合、球状化焼鈍を行うことによって、塑性加工や機械加工を容易にし、あるいは機械的性質を改善することができる。このため、この軸受の生産性の向上を一層図ることができ、しかも、転走面の表面の硬度を焼入れ焼戻しにより55〜64HRCとすることによって、転動体が長期にわたって安定して転動することができる。
【0025】
塑性加工品が外輪であれば、外径面の軸方向中央部に周方向溝(環状凹部)が設けられることになるので、塑性加工が容易となり、また、軽量化および低コスト化を図ることができる。また、塑性加工品中の炭化物を、長径長さをaとし、短径長さをbとしたときに、(a+b)/2≦50μmと規定することによって、粗大な炭化物がなくなり、炭化物のサイズを小さくすることができる。このため、応力集中が生じても亀裂の発生を抑えることができ、しかも、転動時の騒音を少なくできる。さらに、加工精度の低下を防止でき、高品質の加工を行うことができる。特に、(a+b)/2≦30μmとすることによって、一層高品質のものを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下本発明の実施の形態を図1〜図11に基づいて説明する。図1に第1実施形態の複列アンギュラ軸受を示し、軸受は、内周に複列の外側転走面26、27が形成された外輪25と、外周に外輪25の外側転走面26、27に対向する内側転走面28、29が形成された一対の内輪24A、24Bと、外輪25の外側転走面26、27と内輪24A、24Bの内側転走面28、29との間に転動自在に収容された複列の転動体30とを備える。転動体30は外輪25と内輪24A、24Bとの間に介在される保持器31に保持される。転がり軸受の両開口部(外輪25と内輪24A、24Bとの間の開口部)にはシール部材Sが装着されている。
【0027】
外輪25は、図2に示すように、外径面50の軸方向中央部に環状凹部51が形成され、これに対応して内径面52の軸方向中央部に周方向凸部(膨出部)53が設けられている。そして、この周方向凸部53の両側に外側転走面26、27が形成され、さらに、外側転走面26、27の外側にシール装着溝54、55が形成されている。
【0028】
一方の内輪24Aと、他方の内輪24Bとは共通の部品にて構成できる。なお、この軸受2は、車輪用軸受装置に使用するものであるので、一方の内輪24Aをアウトボード側の内輪24と呼び、他方の内輪24Bをインボード側の内輪24と呼ぶ。車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウトボード側(図面左側)と呼び、中央寄りをインボード側(図面右側)と呼ぶ。図1に示すように、内輪24(24A、24B)は、厚肉部85と薄肉部86とを有する短円筒体からなり、厚肉部85と薄肉部86との間の外径面に転走面28(29)が形成される。厚肉部85の外径面がシール装着面63となる。
【0029】
次にこの転がり軸受の外輪25の製造方法を説明する。この外輪製造方法は、図3に示すように、長尺状のパイプ材Pを所定寸に切断し旋削して、短寸の素材34を成形する。その後、この素材34に対して冷間ローリング加工を行うことになる。冷間ローリング(冷間転造)とは、熱を加えずに冷たいまま(常温)で素材(ブランク)を回転させながら圧延していく加工方法である。すなわち、内外径がワーク(加工後の完成品)より小さな、基本的に内外径ストレートなブランク(素材)を、加工したい形状に設計された2つの治具(内径用と外径用)にはさんで回転させながら圧延(転造)し、ワークを形成する加工方法である。
【0030】
素材34としては、C:0.90〜1.20重量%、Si:1.0重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.040重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.75重量%以下、Cr:16.0〜18.0重量%、Mo:0.75重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼Aを球状化焼鈍したものを使用することができる。ここで、球状化焼鈍とは、鋼中の炭化物を球状にし、均一に分散させる熱処理である。このため、球状化焼鈍を行うことによって、塑性加工や機械加工を容易にし、あるいは機械的性質を改善することができる。
【0031】
この場合、Si量を1.0重量%以下としたのは、冷間ローリング加工性の向上を図るためである。また、C量を0.90〜1.20重量%としたのは、軸受の外輪として必要な焼入れ焼戻し後の硬度を確保するためである。
【0032】
また、素材34としては、C:0.50〜0.75重量%、Si:0.5重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.030重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.60重量%以下、Cr:11.5〜13.5重量%、Mo:0.50重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼Bを球状化焼鈍したものであってもよい。
【0033】
この場合も、Si量を0.5重量%以下としたのは、冷間ローリング加工性の向上を図るためである。また、C量を0.50〜0.75重量%としたのは、軸受の外輪として必要な焼入れ焼戻し後の硬度を確保するためである。なお、マルテンサイト系ステンレス鋼Bの場合、マルテンサイト系ステンレス鋼Aよりも炭化物が小さくなる。
【0034】
冷間ローリング工程では、図4に示すようなローリング装置にて冷間ローリング加工を行う。ローリング装置は、内径用のマンドレル47と、外径用の成形ロール48とを備える。マンドレル47の外周面に、外輪25の内径面を成形する外輪内径面成形部67が形成され、成形ロール48の外径面に、外輪25の外径面を成形する外輪外径面成形部68が形成されている。
【0035】
外輪内径面成形部67は、転走面成形部67a、67aと、シール溝成形部67b,67bとを備える。また、外輪外径面成形部68は、環状凹部成形部68aと、外径面成形部68b、68bとを備える。
【0036】
この場合、マンドレル47に、図5(a)に示す円筒状の素材34を外嵌し、マンドレル47と成形ロール48とで素材34を挟んだ状態で、成形ロール48をその軸心廻りに回転させる。これによって、外輪25を成形することができる。
【0037】
ところで、素材34におけるファイバーフローFは、図5(a)に示すように、軸方向に沿った流れとなっている。このため、冷間ローリングにて成形された外輪25のファイバーフローFは、図5(b)に示すような流れになっている。
【0038】
この場合、図6に示すように、塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きが転走面26(27)の肩部乃至その近傍を除いて、転走面26(27)の接線方向に対して15°以下である。すなわち、転走面26(27)の曲率中心O(図5(b)参照)からファイバーフローFの断面が析出している点P1までの直線Lで結び、その直線Lと点P1との交点における直線Lとの直交線Tと、点P1でのファイバーフローFの接線T1とが成す角度αが15°以下であることである。
【0039】
また、塑性加工品である外輪25中の炭化物は、長径長さをaとし、短径長さをbとしたときに、(a+b)/2≦50μmである。図7に示すように、長径長さとは長手方向の最大長さであり、短径長さとは短手方向(長手方向と直交する方向)の長さの最大長さである。
【0040】
素材34としては、図8(a)に示すような形状のものであってもよい。すなわち、図8に示す素材34は、その外径面34aが円筒面であるが、その内径面34bが軸方向中央部の小径部37と、この小径部37の両側に設けられる中径部38a、38bと、軸方向端部に設けられる大径部39a、39bとを備える。
【0041】
この素材34を使用すれば、中径部38a、38bが転走面26、27を構成し、大径部39a、39bがシール装着溝54、55を構成することになる。このため、各部位の変形量を小さくでき、加工性の向上を図ることができる。また、この素材34におけるファイバーフローFは、図8(a)に示すように、軸方向に沿った流れとなっている。このため、冷間ローリングにて成形された外輪25のファイバーフローFは、図8(b)に示すような流れになっている。
【0042】
また、小径部37にて第1の周方向凸隆部35が形成され、中径部38a、38bにて第2の周方向凸隆部36が形成される。そして、この第1の周方向凸隆部35が転走面26、27間の肩部71を構成することになり、第2の周方向凸隆部35にてカウンタボア72(各転走面26、27におけるシール装着溝54、55側に形成される肩部)を構成することになる。
【0043】
このように、ブランク34が内径面に転走面間の肩部71を構成する周方向凸隆部35を備えたものであれば、外輪肩部(軌道面肩部)の充足具合がよくなり、微小クラックの発生を抑えることができる。これにより、車両の旋回走行時にタイヤからのモーメント荷重により軸受が傾き、転動体30が肩部71の近くを通る場合にも、微小クラックがないため、転動寿命に悪影響を与えることがない。しかも肩部71の不充足により、乗上げ状況に個体差が発生することもない。
【0044】
カウンタボア72の段が圧延(ローリング)開始時にマンドレル47の凹部(カウンタボア形成部75、75(図4参照))に入ることで、素材34が成形ロール48とマンドレル47の空間の幅方向の丁度中央に位置することができ、圧延初期の挙動が安定する。これにより、圧延が左右均等にされることになり、充足具合も左右均等となる。すなわち、クラックが発生し易い場所を充足させることができる。成形された製品は高品質となる。
【0045】
しかも、「充足不足を解消するために、ブランクの肉厚を大として、転走面の肩部等を成形し、その後、旋削する」という従来において行われていた作業を行うことがなくなって、生産性の向上及びコスト低減を図ることができる。
【0046】
ローリング加工後は、加熱炉や高周波加熱等で焼入れ焼戻しして表面硬化させた後、切削加工を行う。この場合、軸方向端部のシール装着溝54、55、転走面26、27、両端面56、57、及び外径面50の切削を行う。このため、これらの切削を焼入鋼切削と呼ぶことができる。すなわち、焼入鋼切削は、単に切削のことであり、切削は通常生材の状態で行うので、熱処理後(焼入れ焼戻し後)の切削であることを明確にするために焼入鋼切削と称した。焼入れ焼戻し後に切削を行うため、素材の熱処理変形をこの切削過程で除去することができる。焼入れ焼戻しを行うと、引張残留応力が残り易く、そのままでは疲労強度が低下する。このため、表面を切削すれば、最表面部に圧縮残留応力を付与させることができ、これにより疲労強度が向上する。この場合、少なくとも転走面26、27の底面の硬度を55〜64HRCとする。切削加工の後は、シール装着溝54、55、転走面26、27、外径面50の研削加工を行ない、その後軸受に組み立てる。研削加工時には、両端面56、57も研削してもよい。また、加工工程を、熱処理後の焼入鋼切削ではなく、ローリング加工後に生材の状態で旋削を行う。従来の工程としてもよい。
【0047】
本発明の複列アンギュラ軸受では、冷間ローリング加工にて外輪25が成形されるので、製品の歩留まり及び生産性の向上を図ることができて、コスト低減を達成できる。しかも、外輪25は安定した加工精度及び長寿命を得ることができ、軸受の品質向上を達成できる。また、外輪25の軽量化を図ることができて、自動車の低燃費化を達成できる。このように、円筒状の素材を削り出して成形しないので、切削加工での材料の除去量が減り、材料の無駄が少なくなって、コスト低減を図ることができる。
【0048】
塑性加工品はマルテンサイト系ステンレス鋼であるので、焼入れ焼戻しにより高強度及び高硬度となる。このため、高品質の製品を提供できる。また、マルテンサイト系ステンレス鋼の耐食性は他の系統のステンレス鋼よりも一般に劣るが、SUJ2に比べて耐食性に優れ、自動車の車輪用軸受装置等に要求される耐食性に十分対応することができる。
【0049】
塑性加工品の転走面のファイバーフローFの傾きを、転走面26、27の接線方向に対して15°以下であるように設定することによって、ファイバーフローFは転走面形状に近い形で流れることになる。これによって、転走面26、27における亀裂や剥離等の発生を抑えることができ、製品として長寿命化を図ることができる。
【0050】
マルテンサイト系ステンレス鋼を球状化焼鈍したブランクを用いた場合、球状化焼鈍を行うことによって、塑性加工や機械加工を容易にし、あるいは機械的性質を改善することができる。このため、この軸受の生産性の向上を一層図ることができ、しかも、転走面の表面の硬度を焼入れ焼戻しにより55〜64HRCとすることによって、転動体が長期にわたって安定して転動することができる。
【0051】
ところで、大きな炭化物(共晶炭化物)が存在すると、そこに応力集中すれば、亀裂が発生し易くなくなる。長径長さをaとし、短径長さをbとしたときに、(a+b)/2≦50μmと規定することによって、炭化物のサイズを小さくすることができる。このため、応力集中が生じても亀裂の発生を抑えることができ、しかも、転動時の騒音を少なくできる。さらに、加工精度の低下を防止でき、高品質の加工を行うことができる。特に、(a+b)/2≦30μmとすることによって、一層高品質のものを提供できる。
【0052】
次に図9は第2実施形態を示し、この場合、内輪24A、24Bも冷間ローリング加工にて成形している。内輪24(24A、24B)は、大径部60と、小径部61と、大径部60と小径部61との間のテーパ状部62とからなる。この場合、大径部60の外径面がシール装着面63となり、テーパ状部62の外径面が内側転走面28(29)となる。
【0053】
内輪24も、外輪25と同様、ほぼ内輪24の形状となった素形状の内輪素材を、冷間ローリングにより成形する。この素材を、加熱炉や高周波加熱等で焼入れ焼戻しして表面硬化させた後、切削加工を行う。すなわち、焼入鋼切削を行う。この場合、内径面、両端面65、66、シール装着面63、及び内側転走面28(29)が焼入鋼切削される。切削加工は、熱処理後の焼入鋼切削ではなく、ローリング加工後に生材の状態で旋削を行なう、従来の工程としてもよい。
【0054】
また、内輪24の素材としても、外輪25の素材と同様のマルテンサイト系ステンレス鋼を、球状化焼鈍したものを用いる。また、少なくとも転走面28(29)の硬度を55〜64HRCとする。
【0055】
このため、この図9に示す軸受では、外輪25に加え、内輪24A、24Bもマルテンサイト系ステンレス鋼を用いて冷間ローリングにて成形した塑性加工品としているので、内輪24A、24Bに対して、前記外輪25が有する効果と同様の作用効果を奏する。このため、極めて高品質の軸受を、低価格で提供できる。
【0056】
また、前記成形方法では、素材として一個の内輪を取り出すものであるが、一つの素材にて一対の内輪を取り出すものであってもよい。すなわち、一対の内輪の取り出し可能な図10に示すような円筒体の素材70を成形して、図11(a)に示すように、冷間ローリングにて内輪構成素材73(一対の内輪が一体連結された形状のもの)を成形する。すなわち、この内輪構成素材73は、軸方向中央の円筒状の本体部74と、この本体部74の両端にテーパ状部75a、75bを介して連設される端部大径部76a、76bとを有する円筒体から構成される。
【0057】
このように構成した内輪構成素材73をその軸方向中央で切断して、一対の内輪24(24A)、24(24B)を成形する。すなわち、中央線L1に沿って内輪構成素材73を切断することになる。この際、内輪構成素材73を、加熱炉や高周波加熱等で焼入れ焼戻しして表面硬化させた後、切断及び切削加工を行う。端部大径部76aが内輪24の大径部60となり、小径の本体部74が内輪24の小径部61となり、テーパ部75aの外径面が内輪24の内側転走面28(29)となる。また、内径面、両端面65、66、シール装着面63、及び内側転走面28(29)が焼入鋼切削される。なお、内輪構成素材73を2つに切断する作業は、熱処理前であっても熱処理後であってもよい。また、切削加工は、熱処理後の焼入鋼切削ではなく、ローリング加工後に生材の状態で旋削を行なう、従来の工程としてもよい。
【0058】
内輪構成素材73としては、図11(b)に示すような形状のものであってもよい。図11(b)に示す内輪構成素材73は、軸方向中央部の大径部77と、この大径部77の両端にテーパ部78a、78bを介して連設される端部小径部79a、79bとを有する円筒体から構成される。
【0059】
塑性加工による成形後に中央線L1に沿って内輪構成素材73を切断することになる。この際、内輪構成素材73を、加熱炉や高周波加熱等で焼入れ焼戻しして表面硬化させた後、切断及び切削加工を行う。なお、内輪構成素材73を2つに切断する作業は、熱処理前であっても熱処理後であってもよい。また、切削加工は、熱処理後の焼入鋼切削ではなく、ローリング加工後に生材の状態で旋削を行なう、従来の工程としてもよい。また、図11(a)に示す内輪構成素材73では、その切断端面が小径側の端面66となるのに対して、図11(b)に示す内輪構成素材73では、その切断端面が大径側の端面65となる。
【0060】
このように、図10に示すような素材70を使用すれば、一度に一対の内輪24を成形することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、前記実施形態では、外輪25を成形するブランクとして、前記実施形態では、パイプ材にて成形していたが、丸棒状のバー材を所定寸に切断し、この切断片を熱間鍛造等にて成形するようにしてもよい。また、内輪24にマルテンサイト系ステンレス鋼を用いて冷間ローリングにて成形した塑性加工品とすれば、外輪25に図12に示す従来の外輪105を用いたものであってもよい。なお、この複列アンギュラ軸受の用途として、車輪用軸受装置に限るものではなく、複列アンギュラ軸受を使用する種々の装置や機構に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1実施形態を示す複列アンギュラ軸受の断面図である。
【図2】前記複列アンギュラ軸受の外輪の拡大断面図である。
【図3】前記複列アンギュラ軸受の外輪の製造工程図である。
【図4】前記複列アンギュラ軸受の外輪を成形する冷間ローリング加工機の簡略図である。
【図5】ファイバーフローを示し、(a)は素材の簡略断面図であり、(b)は製品の簡略断面図である。
【図6】外輪の要部のファイバーフローを示す簡略図である。
【図7】炭化物の簡略図である。
【図8】他の形状の素材を用いた場合のファイバーフローを示し、(a)は素材の簡略断面図であり、(b)は製品の簡略断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態を示す複列アンギュラ軸受の断面図である。
【図10】前記図9に示す複列アンギュラ軸受の内輪を成形するための素材を示す簡略図である。
【図11】図9に示す複列アンギュラ軸受の内輪を成形するための内輪構成素材を示し、(a)は第1の内輪構成素材の簡略断面図であり、(b)は第2の内輪構成素材の簡略断面図である。
【図12】従来の複列アンギュラ軸受の断面図である。
【図13】従来の複列アンギュラ軸受の外輪の製造方法を示す断面図である。
【図14】ファイバーフローを示し、(a)は素材の簡略断面図であり、(b)は製品の簡略断面図である。
【図15】従来の複列アンギュラ軸受の内輪の製造方法を示す断面図である。
【図16】従来の複列アンギュラ軸受の内輪のファイバーフローを示す簡略図である。
【符号の説明】
【0063】
24 内輪
24A 内輪
24B 内輪
25 外輪
26、27 外側転走面
28、29 内側転走面
30 転動体
50 外径面
51 環状凹部
71 肩部
【技術分野】
【0001】
本発明は、複列アンギュラ軸受に関し、特に自動車等の車両において車輪を車体に対して回転自在に支持するための車輪用軸受装置に最適な複列アンギュラ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪用軸受装置等に用いる複列アンギュラ軸受には、図12に示すように、軸受100は、内周に複列の外側転走面120、121が形成された外輪105と、外周に外側転走面に対向する内側転走面118、119が形成された一対の内輪108、109と、外輪105の外側転走面120、121と内輪108、109の内側転走面118、119との間に転動自在に収容された複列の転動体122とを備える。
【0003】
外輪105と内輪108、109との間の軸方向開口部はシール部材S、Sにて塞がれている。このため、外輪105の内径面の軸方向の開口端部にシール装着溝110、111が設けられている。
【0004】
内輪108、109は、大径部112と小径部113とを備え、大径部112と小径部113との間の連設部114の外径面に転走面118(119)が形成される。
【0005】
外輪105は、一般的には、図13に示すように、短円筒体の素材150を、クロスハッチングで示す範囲を削り成形することになる。この素材150は、図14(a)に示すように、ファイバーフローFが軸方向に延びている。このため、成形された外輪105においても図14(b)に示すように、ファイバーフローFが軸方向に延びている。ファイバーフローとは、材料の組織の流れを言い、繊維状金属組織とも言う。
【0006】
また、内輪108(109)も、図15に示すように、短円筒体の素材151を、クロスハッチングで示す範囲を削り成形することになる。この際、この素材151は、図16に示すように、ファイバーフローFが軸方向に延びている。このため、成形された内輪108(109)においても、ファイバーフローFが軸方向に延びている。
【0007】
自動車の車輪用軸受装置等に用いる複列アンギュラ軸受では、耐食性が要求される。このため、軸受の外輪や内輪にステンレス鋼(JIS SUS440C)等が使用される。SUS440C(マルテンサイト系ステンレス)は、焼入れ焼戻しを実施することにより、軸受用鋼として必要な硬度である55HRC以上の硬度を達成しつつ、所定の耐食性を確保可能な耐食軸受用鋼である。
【0008】
しかし、近年の耐食軸受の用途の広がり等に伴い、耐食軸受に対して要求される耐食性のレベルはさらに上昇している。耐食性に優れた鋼としては、たとえばJIS SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼が挙げられる。SUS304は、SUS440Cを超える耐食性を有しているため、耐食性の観点からはSUS440Cよりも優れている。
【0009】
そこで、軸受の内輪や外輪にオーステナイト系ステンレス鋼を用いたものがある(特許文献1及び特許文献2)。
【特許文献1】特開2001−330038号公報
【特許文献2】特開2002−147467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、SUS材は、軸受に一般的に使用されるSUJ2等の鋼材と比べてCr等の希少金属が多く含まれ、単価が高くコスト高となる。しかも、図13に示すような成形方法では、外輪の形状として内径面に転走面やシール装着溝等を成形する必要があり、除去される重量(マテリアルロス=投入重量−製品重量)が多くなり、その分材料コストが増加する。内輪においても、除去される重量が多くなり、その分材料コスト高となっていた。
【0011】
また、図14や図16に示すような切削加工では、ファイバーフローが転走面において分断される。このため、転走面において亀裂や剥離が発生し易く、寿命が比較的短くなっていた。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みて、転動寿命の向上を図ることができ、しかもコストの低減を達成できる複列アンギュラ軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の複列アンギュラ軸受は、外径面に転走面を有する内輪と、内径面に転走面を有する外輪と、外輪の外側転走面と内輪の内側転走面との間に転動自在に収容された転動体とを備えた複列アンギュラ軸受であって、外輪と内輪との少なくとも一方を、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いて冷間ローリングにて成形した塑性加工品としたものである。ここで、冷間ローリング(冷間転造)とは、熱を加えずに冷たいまま(常温)で素材(ブランク)を回転させながら圧延していく加工方法である。すなわち、内外径がワーク(加工後の完成品)より小さな、基本的に内外径ストレートなブランク(素材)を、加工したい形状に設計された2つの治具(内径用と外径用)にはさんで回転させながら圧延(転造)し、ワークを形成する加工方法である。
【0014】
本発明の複列アンギュラ軸受は、外輪と内輪との少なくとも一方を冷間ローリングにて成形した塑性加工品としたので、塑性加工品の歩留まりの向上等を図ることができる。すなわち、冷間ローリングは、素材の余計な部分を削り落としていく切削加工とは異なり、製品外径より細い素材を拡径して成形することができ、材料の無駄が生じない。また、加工時間が短いことと、工具が長寿命であることなどから、切削加工と比べて生産性が高くなる。さらに、使用する工具(成形ロール、マンドレル)は加工品に応じて取り替える必要があるが、安定した加工精度を得ることができる。さらには、切削加工とは異なり、ファイバーフローが切断されないため、転走面における亀裂や剥離等の発生を抑えることができ、製品として長寿命を図ることができる。
【0015】
また、本発明の複列アンギュラ軸受は、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いた塑性加工品であるので、焼入れ焼戻しにより高強度及び高硬度となる。
【0016】
塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きが、転走面の肩部乃至その近傍を除いて、転走面の接線方向に対して15°以下であるのが好ましい。ファイバーフローの傾きがこのようなものであれば、ファイバーフローは転走面形状に近い形で流れることになる。なお、ファイバーフローの傾きとは、転走面の曲率中心からファイバーフローの断面が析出している点までの直線で結び、その直線と前記点との交点における直線との直交線と、前記点でのファイバーフローの接線とが成す角度である。
【0017】
塑性加工品は、C:0.90〜1.20重量%、Si:1.0重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.040重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.75重量%以下、Cr:16.0〜18.0重量%、Mo:0.75重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼を球状化焼鈍したブランクを用い、塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きが、転走面の肩部乃至その近傍を除いて、転走面の接線方向に対して15°以下であるとともに、少なくとも転走面の表面の硬度を焼入れ焼戻しにより55〜64HRCとするのが好ましい。
【0018】
塑性加工品は、C:0.50〜0.75重量%、Si:0.5重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.030重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.60重量%以下、Cr:11.5〜13.5重量%、Mo:0.50重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼を球状化焼鈍したブランクを用い、塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きが、転走面の肩部乃至その近傍を除いて、転走面の接線方向に対して15°以下であるとともに、少なくとも転走面の表面の硬度を焼入れ焼戻しにより55〜64HRCとするのが好ましい。
【0019】
ここで、球状化焼鈍とは、鋼中の炭化物を球状にし、均一に分散させる熱処理である。このため、球状化焼鈍を行うことによって、塑性加工や機械加工を容易にし、あるいは機械的性質を改善することができる。塑性加工品中の炭化物は、長径長さをaとし、短径長さをbとしたときに、(a+b)/2≦50μmであるのが好ましく、特に、(a+b)/2≦30μmであるのが好ましい。
【0020】
塑性加工品が外輪であれば、外径面の軸方向中央部に周方向溝(環状凹部)が設けられることになる。これは、塑性加工後の形状をほぼ均一の肉厚とすることで、冷間ローリングによる塑性加工時にブランクをほぼ均一に圧延することができるため、塑性加工を容易とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の車輪用軸受装置では、冷間ローリング加工にて外輪や内輪が成形されるので、製品の歩留まり及び生産性の向上を図ることができて、コスト低減を達成できる。しかも、外輪や内輪は安定した加工精度及び長寿命を得ることができ、軸受の品質向上を達成できる。また、外輪や内輪の軽量化を図ることができて、自動車の低燃費化を達成できる。このように、円筒状の素材を削り出して成形しないので、切削加工での材料の除去量が減り、材料の無駄が少なくなって、コスト低減を図ることができる。
【0022】
塑性加工品はマルテンサイト系ステンレス鋼であるので、焼入れ焼戻しにより高強度及び高硬度となる。このため、高品質の製品を提供できる。また、マルテンサイト系ステンレス鋼の耐食性は他の系統のステンレス鋼よりも一般に劣るが、SUJ2に比べて耐食性に優れ、自動車の車輪用軸受装置等に要求される耐食性に十分対応することができる。
【0023】
塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きを、転走面の接線方向に対して15°以下であるように設定することによって、ファイバーフローは転走面形状に近い形で流れることになる。これによって、転走面における亀裂や剥離等の発生を抑えることができ、製品として長寿命化を図ることができる。
【0024】
C:0.90〜1.20重量%、Si:1.0重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.040重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.75重量%以下、Cr:16.0〜18.0重量%、Mo:0.75重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼を球状化焼鈍したブランク、又は、C:0.50〜0.75重量%、Si:0.5重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.030重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.60重量%以下、Cr:11.5〜13.5重量%、Mo:0.50重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼を球状化焼鈍したブランクを用いた場合、球状化焼鈍を行うことによって、塑性加工や機械加工を容易にし、あるいは機械的性質を改善することができる。このため、この軸受の生産性の向上を一層図ることができ、しかも、転走面の表面の硬度を焼入れ焼戻しにより55〜64HRCとすることによって、転動体が長期にわたって安定して転動することができる。
【0025】
塑性加工品が外輪であれば、外径面の軸方向中央部に周方向溝(環状凹部)が設けられることになるので、塑性加工が容易となり、また、軽量化および低コスト化を図ることができる。また、塑性加工品中の炭化物を、長径長さをaとし、短径長さをbとしたときに、(a+b)/2≦50μmと規定することによって、粗大な炭化物がなくなり、炭化物のサイズを小さくすることができる。このため、応力集中が生じても亀裂の発生を抑えることができ、しかも、転動時の騒音を少なくできる。さらに、加工精度の低下を防止でき、高品質の加工を行うことができる。特に、(a+b)/2≦30μmとすることによって、一層高品質のものを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下本発明の実施の形態を図1〜図11に基づいて説明する。図1に第1実施形態の複列アンギュラ軸受を示し、軸受は、内周に複列の外側転走面26、27が形成された外輪25と、外周に外輪25の外側転走面26、27に対向する内側転走面28、29が形成された一対の内輪24A、24Bと、外輪25の外側転走面26、27と内輪24A、24Bの内側転走面28、29との間に転動自在に収容された複列の転動体30とを備える。転動体30は外輪25と内輪24A、24Bとの間に介在される保持器31に保持される。転がり軸受の両開口部(外輪25と内輪24A、24Bとの間の開口部)にはシール部材Sが装着されている。
【0027】
外輪25は、図2に示すように、外径面50の軸方向中央部に環状凹部51が形成され、これに対応して内径面52の軸方向中央部に周方向凸部(膨出部)53が設けられている。そして、この周方向凸部53の両側に外側転走面26、27が形成され、さらに、外側転走面26、27の外側にシール装着溝54、55が形成されている。
【0028】
一方の内輪24Aと、他方の内輪24Bとは共通の部品にて構成できる。なお、この軸受2は、車輪用軸受装置に使用するものであるので、一方の内輪24Aをアウトボード側の内輪24と呼び、他方の内輪24Bをインボード側の内輪24と呼ぶ。車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウトボード側(図面左側)と呼び、中央寄りをインボード側(図面右側)と呼ぶ。図1に示すように、内輪24(24A、24B)は、厚肉部85と薄肉部86とを有する短円筒体からなり、厚肉部85と薄肉部86との間の外径面に転走面28(29)が形成される。厚肉部85の外径面がシール装着面63となる。
【0029】
次にこの転がり軸受の外輪25の製造方法を説明する。この外輪製造方法は、図3に示すように、長尺状のパイプ材Pを所定寸に切断し旋削して、短寸の素材34を成形する。その後、この素材34に対して冷間ローリング加工を行うことになる。冷間ローリング(冷間転造)とは、熱を加えずに冷たいまま(常温)で素材(ブランク)を回転させながら圧延していく加工方法である。すなわち、内外径がワーク(加工後の完成品)より小さな、基本的に内外径ストレートなブランク(素材)を、加工したい形状に設計された2つの治具(内径用と外径用)にはさんで回転させながら圧延(転造)し、ワークを形成する加工方法である。
【0030】
素材34としては、C:0.90〜1.20重量%、Si:1.0重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.040重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.75重量%以下、Cr:16.0〜18.0重量%、Mo:0.75重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼Aを球状化焼鈍したものを使用することができる。ここで、球状化焼鈍とは、鋼中の炭化物を球状にし、均一に分散させる熱処理である。このため、球状化焼鈍を行うことによって、塑性加工や機械加工を容易にし、あるいは機械的性質を改善することができる。
【0031】
この場合、Si量を1.0重量%以下としたのは、冷間ローリング加工性の向上を図るためである。また、C量を0.90〜1.20重量%としたのは、軸受の外輪として必要な焼入れ焼戻し後の硬度を確保するためである。
【0032】
また、素材34としては、C:0.50〜0.75重量%、Si:0.5重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.030重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.60重量%以下、Cr:11.5〜13.5重量%、Mo:0.50重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼Bを球状化焼鈍したものであってもよい。
【0033】
この場合も、Si量を0.5重量%以下としたのは、冷間ローリング加工性の向上を図るためである。また、C量を0.50〜0.75重量%としたのは、軸受の外輪として必要な焼入れ焼戻し後の硬度を確保するためである。なお、マルテンサイト系ステンレス鋼Bの場合、マルテンサイト系ステンレス鋼Aよりも炭化物が小さくなる。
【0034】
冷間ローリング工程では、図4に示すようなローリング装置にて冷間ローリング加工を行う。ローリング装置は、内径用のマンドレル47と、外径用の成形ロール48とを備える。マンドレル47の外周面に、外輪25の内径面を成形する外輪内径面成形部67が形成され、成形ロール48の外径面に、外輪25の外径面を成形する外輪外径面成形部68が形成されている。
【0035】
外輪内径面成形部67は、転走面成形部67a、67aと、シール溝成形部67b,67bとを備える。また、外輪外径面成形部68は、環状凹部成形部68aと、外径面成形部68b、68bとを備える。
【0036】
この場合、マンドレル47に、図5(a)に示す円筒状の素材34を外嵌し、マンドレル47と成形ロール48とで素材34を挟んだ状態で、成形ロール48をその軸心廻りに回転させる。これによって、外輪25を成形することができる。
【0037】
ところで、素材34におけるファイバーフローFは、図5(a)に示すように、軸方向に沿った流れとなっている。このため、冷間ローリングにて成形された外輪25のファイバーフローFは、図5(b)に示すような流れになっている。
【0038】
この場合、図6に示すように、塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きが転走面26(27)の肩部乃至その近傍を除いて、転走面26(27)の接線方向に対して15°以下である。すなわち、転走面26(27)の曲率中心O(図5(b)参照)からファイバーフローFの断面が析出している点P1までの直線Lで結び、その直線Lと点P1との交点における直線Lとの直交線Tと、点P1でのファイバーフローFの接線T1とが成す角度αが15°以下であることである。
【0039】
また、塑性加工品である外輪25中の炭化物は、長径長さをaとし、短径長さをbとしたときに、(a+b)/2≦50μmである。図7に示すように、長径長さとは長手方向の最大長さであり、短径長さとは短手方向(長手方向と直交する方向)の長さの最大長さである。
【0040】
素材34としては、図8(a)に示すような形状のものであってもよい。すなわち、図8に示す素材34は、その外径面34aが円筒面であるが、その内径面34bが軸方向中央部の小径部37と、この小径部37の両側に設けられる中径部38a、38bと、軸方向端部に設けられる大径部39a、39bとを備える。
【0041】
この素材34を使用すれば、中径部38a、38bが転走面26、27を構成し、大径部39a、39bがシール装着溝54、55を構成することになる。このため、各部位の変形量を小さくでき、加工性の向上を図ることができる。また、この素材34におけるファイバーフローFは、図8(a)に示すように、軸方向に沿った流れとなっている。このため、冷間ローリングにて成形された外輪25のファイバーフローFは、図8(b)に示すような流れになっている。
【0042】
また、小径部37にて第1の周方向凸隆部35が形成され、中径部38a、38bにて第2の周方向凸隆部36が形成される。そして、この第1の周方向凸隆部35が転走面26、27間の肩部71を構成することになり、第2の周方向凸隆部35にてカウンタボア72(各転走面26、27におけるシール装着溝54、55側に形成される肩部)を構成することになる。
【0043】
このように、ブランク34が内径面に転走面間の肩部71を構成する周方向凸隆部35を備えたものであれば、外輪肩部(軌道面肩部)の充足具合がよくなり、微小クラックの発生を抑えることができる。これにより、車両の旋回走行時にタイヤからのモーメント荷重により軸受が傾き、転動体30が肩部71の近くを通る場合にも、微小クラックがないため、転動寿命に悪影響を与えることがない。しかも肩部71の不充足により、乗上げ状況に個体差が発生することもない。
【0044】
カウンタボア72の段が圧延(ローリング)開始時にマンドレル47の凹部(カウンタボア形成部75、75(図4参照))に入ることで、素材34が成形ロール48とマンドレル47の空間の幅方向の丁度中央に位置することができ、圧延初期の挙動が安定する。これにより、圧延が左右均等にされることになり、充足具合も左右均等となる。すなわち、クラックが発生し易い場所を充足させることができる。成形された製品は高品質となる。
【0045】
しかも、「充足不足を解消するために、ブランクの肉厚を大として、転走面の肩部等を成形し、その後、旋削する」という従来において行われていた作業を行うことがなくなって、生産性の向上及びコスト低減を図ることができる。
【0046】
ローリング加工後は、加熱炉や高周波加熱等で焼入れ焼戻しして表面硬化させた後、切削加工を行う。この場合、軸方向端部のシール装着溝54、55、転走面26、27、両端面56、57、及び外径面50の切削を行う。このため、これらの切削を焼入鋼切削と呼ぶことができる。すなわち、焼入鋼切削は、単に切削のことであり、切削は通常生材の状態で行うので、熱処理後(焼入れ焼戻し後)の切削であることを明確にするために焼入鋼切削と称した。焼入れ焼戻し後に切削を行うため、素材の熱処理変形をこの切削過程で除去することができる。焼入れ焼戻しを行うと、引張残留応力が残り易く、そのままでは疲労強度が低下する。このため、表面を切削すれば、最表面部に圧縮残留応力を付与させることができ、これにより疲労強度が向上する。この場合、少なくとも転走面26、27の底面の硬度を55〜64HRCとする。切削加工の後は、シール装着溝54、55、転走面26、27、外径面50の研削加工を行ない、その後軸受に組み立てる。研削加工時には、両端面56、57も研削してもよい。また、加工工程を、熱処理後の焼入鋼切削ではなく、ローリング加工後に生材の状態で旋削を行う。従来の工程としてもよい。
【0047】
本発明の複列アンギュラ軸受では、冷間ローリング加工にて外輪25が成形されるので、製品の歩留まり及び生産性の向上を図ることができて、コスト低減を達成できる。しかも、外輪25は安定した加工精度及び長寿命を得ることができ、軸受の品質向上を達成できる。また、外輪25の軽量化を図ることができて、自動車の低燃費化を達成できる。このように、円筒状の素材を削り出して成形しないので、切削加工での材料の除去量が減り、材料の無駄が少なくなって、コスト低減を図ることができる。
【0048】
塑性加工品はマルテンサイト系ステンレス鋼であるので、焼入れ焼戻しにより高強度及び高硬度となる。このため、高品質の製品を提供できる。また、マルテンサイト系ステンレス鋼の耐食性は他の系統のステンレス鋼よりも一般に劣るが、SUJ2に比べて耐食性に優れ、自動車の車輪用軸受装置等に要求される耐食性に十分対応することができる。
【0049】
塑性加工品の転走面のファイバーフローFの傾きを、転走面26、27の接線方向に対して15°以下であるように設定することによって、ファイバーフローFは転走面形状に近い形で流れることになる。これによって、転走面26、27における亀裂や剥離等の発生を抑えることができ、製品として長寿命化を図ることができる。
【0050】
マルテンサイト系ステンレス鋼を球状化焼鈍したブランクを用いた場合、球状化焼鈍を行うことによって、塑性加工や機械加工を容易にし、あるいは機械的性質を改善することができる。このため、この軸受の生産性の向上を一層図ることができ、しかも、転走面の表面の硬度を焼入れ焼戻しにより55〜64HRCとすることによって、転動体が長期にわたって安定して転動することができる。
【0051】
ところで、大きな炭化物(共晶炭化物)が存在すると、そこに応力集中すれば、亀裂が発生し易くなくなる。長径長さをaとし、短径長さをbとしたときに、(a+b)/2≦50μmと規定することによって、炭化物のサイズを小さくすることができる。このため、応力集中が生じても亀裂の発生を抑えることができ、しかも、転動時の騒音を少なくできる。さらに、加工精度の低下を防止でき、高品質の加工を行うことができる。特に、(a+b)/2≦30μmとすることによって、一層高品質のものを提供できる。
【0052】
次に図9は第2実施形態を示し、この場合、内輪24A、24Bも冷間ローリング加工にて成形している。内輪24(24A、24B)は、大径部60と、小径部61と、大径部60と小径部61との間のテーパ状部62とからなる。この場合、大径部60の外径面がシール装着面63となり、テーパ状部62の外径面が内側転走面28(29)となる。
【0053】
内輪24も、外輪25と同様、ほぼ内輪24の形状となった素形状の内輪素材を、冷間ローリングにより成形する。この素材を、加熱炉や高周波加熱等で焼入れ焼戻しして表面硬化させた後、切削加工を行う。すなわち、焼入鋼切削を行う。この場合、内径面、両端面65、66、シール装着面63、及び内側転走面28(29)が焼入鋼切削される。切削加工は、熱処理後の焼入鋼切削ではなく、ローリング加工後に生材の状態で旋削を行なう、従来の工程としてもよい。
【0054】
また、内輪24の素材としても、外輪25の素材と同様のマルテンサイト系ステンレス鋼を、球状化焼鈍したものを用いる。また、少なくとも転走面28(29)の硬度を55〜64HRCとする。
【0055】
このため、この図9に示す軸受では、外輪25に加え、内輪24A、24Bもマルテンサイト系ステンレス鋼を用いて冷間ローリングにて成形した塑性加工品としているので、内輪24A、24Bに対して、前記外輪25が有する効果と同様の作用効果を奏する。このため、極めて高品質の軸受を、低価格で提供できる。
【0056】
また、前記成形方法では、素材として一個の内輪を取り出すものであるが、一つの素材にて一対の内輪を取り出すものであってもよい。すなわち、一対の内輪の取り出し可能な図10に示すような円筒体の素材70を成形して、図11(a)に示すように、冷間ローリングにて内輪構成素材73(一対の内輪が一体連結された形状のもの)を成形する。すなわち、この内輪構成素材73は、軸方向中央の円筒状の本体部74と、この本体部74の両端にテーパ状部75a、75bを介して連設される端部大径部76a、76bとを有する円筒体から構成される。
【0057】
このように構成した内輪構成素材73をその軸方向中央で切断して、一対の内輪24(24A)、24(24B)を成形する。すなわち、中央線L1に沿って内輪構成素材73を切断することになる。この際、内輪構成素材73を、加熱炉や高周波加熱等で焼入れ焼戻しして表面硬化させた後、切断及び切削加工を行う。端部大径部76aが内輪24の大径部60となり、小径の本体部74が内輪24の小径部61となり、テーパ部75aの外径面が内輪24の内側転走面28(29)となる。また、内径面、両端面65、66、シール装着面63、及び内側転走面28(29)が焼入鋼切削される。なお、内輪構成素材73を2つに切断する作業は、熱処理前であっても熱処理後であってもよい。また、切削加工は、熱処理後の焼入鋼切削ではなく、ローリング加工後に生材の状態で旋削を行なう、従来の工程としてもよい。
【0058】
内輪構成素材73としては、図11(b)に示すような形状のものであってもよい。図11(b)に示す内輪構成素材73は、軸方向中央部の大径部77と、この大径部77の両端にテーパ部78a、78bを介して連設される端部小径部79a、79bとを有する円筒体から構成される。
【0059】
塑性加工による成形後に中央線L1に沿って内輪構成素材73を切断することになる。この際、内輪構成素材73を、加熱炉や高周波加熱等で焼入れ焼戻しして表面硬化させた後、切断及び切削加工を行う。なお、内輪構成素材73を2つに切断する作業は、熱処理前であっても熱処理後であってもよい。また、切削加工は、熱処理後の焼入鋼切削ではなく、ローリング加工後に生材の状態で旋削を行なう、従来の工程としてもよい。また、図11(a)に示す内輪構成素材73では、その切断端面が小径側の端面66となるのに対して、図11(b)に示す内輪構成素材73では、その切断端面が大径側の端面65となる。
【0060】
このように、図10に示すような素材70を使用すれば、一度に一対の内輪24を成形することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、前記実施形態では、外輪25を成形するブランクとして、前記実施形態では、パイプ材にて成形していたが、丸棒状のバー材を所定寸に切断し、この切断片を熱間鍛造等にて成形するようにしてもよい。また、内輪24にマルテンサイト系ステンレス鋼を用いて冷間ローリングにて成形した塑性加工品とすれば、外輪25に図12に示す従来の外輪105を用いたものであってもよい。なお、この複列アンギュラ軸受の用途として、車輪用軸受装置に限るものではなく、複列アンギュラ軸受を使用する種々の装置や機構に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1実施形態を示す複列アンギュラ軸受の断面図である。
【図2】前記複列アンギュラ軸受の外輪の拡大断面図である。
【図3】前記複列アンギュラ軸受の外輪の製造工程図である。
【図4】前記複列アンギュラ軸受の外輪を成形する冷間ローリング加工機の簡略図である。
【図5】ファイバーフローを示し、(a)は素材の簡略断面図であり、(b)は製品の簡略断面図である。
【図6】外輪の要部のファイバーフローを示す簡略図である。
【図7】炭化物の簡略図である。
【図8】他の形状の素材を用いた場合のファイバーフローを示し、(a)は素材の簡略断面図であり、(b)は製品の簡略断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態を示す複列アンギュラ軸受の断面図である。
【図10】前記図9に示す複列アンギュラ軸受の内輪を成形するための素材を示す簡略図である。
【図11】図9に示す複列アンギュラ軸受の内輪を成形するための内輪構成素材を示し、(a)は第1の内輪構成素材の簡略断面図であり、(b)は第2の内輪構成素材の簡略断面図である。
【図12】従来の複列アンギュラ軸受の断面図である。
【図13】従来の複列アンギュラ軸受の外輪の製造方法を示す断面図である。
【図14】ファイバーフローを示し、(a)は素材の簡略断面図であり、(b)は製品の簡略断面図である。
【図15】従来の複列アンギュラ軸受の内輪の製造方法を示す断面図である。
【図16】従来の複列アンギュラ軸受の内輪のファイバーフローを示す簡略図である。
【符号の説明】
【0063】
24 内輪
24A 内輪
24B 内輪
25 外輪
26、27 外側転走面
28、29 内側転走面
30 転動体
50 外径面
51 環状凹部
71 肩部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径面に転走面を有する内輪と、内径面に転走面を有する外輪と、外輪の外側転走面と内輪の内側転走面との間に転動自在に収容された転動体とを備えた複列アンギュラ軸受であって、外輪と内輪との少なくとも一方を、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いて冷間ローリングにて成形した塑性加工品としたことを特徴とする複列アンギュラ軸受。
【請求項2】
前記塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きが、転走面の肩部乃至その近傍を除いて、転走面の接線方向に対して15°以下であることを特徴とする請求項1に記載の複列アンギュラ軸受。
【請求項3】
前記塑性加工品は、C:0.90〜1.20重量%、Si:1.0重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.040重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.75重量%以下、Cr:16.0〜18.0重量%、Mo:0.75重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼を球状化焼鈍したブランクを用い、塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きが、転走面の肩部乃至その近傍を除いて、転走面の接線方向に対して15°以下であるとともに、少なくとも転走面の表面の硬度を焼入れ焼戻しにより55〜64HRCとしたことを特徴とする請求項1に記載の複列アンギュラ軸受。
【請求項4】
塑性加工品は、C:0.50〜0.75重量%、Si:0.5重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.030重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.60重量%以下、Cr:11.5〜13.5重量%、Mo:0.50重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼を球状化焼鈍したブランクを用い、塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きが、転走面の肩部乃至その近傍を除いて、転走面の接線方向に対して15°以下であるとともに、少なくとも転走面の表面の硬度を焼入れ焼戻しにより55〜64HRCとしたことを特徴とする請求項1に記載の複列アンギュラ軸受。
【請求項5】
前記塑性加工品が外輪であり、この外輪の外径面の軸方向中央部に周方向溝が設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の複列アンギュラ軸受。
【請求項6】
前記塑性加工品中の炭化物は、長径長さをaとし、短径長さをbとしたときに、(a+b)/2≦50μmであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の複列アンギュラ軸受。
【請求項7】
前記塑性加工品中の炭化物は、長径長さをaとし、短径長さをbとしたときに、(a+b)/2≦30μmであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の複列アンギュラ軸受。
【請求項1】
外径面に転走面を有する内輪と、内径面に転走面を有する外輪と、外輪の外側転走面と内輪の内側転走面との間に転動自在に収容された転動体とを備えた複列アンギュラ軸受であって、外輪と内輪との少なくとも一方を、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いて冷間ローリングにて成形した塑性加工品としたことを特徴とする複列アンギュラ軸受。
【請求項2】
前記塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きが、転走面の肩部乃至その近傍を除いて、転走面の接線方向に対して15°以下であることを特徴とする請求項1に記載の複列アンギュラ軸受。
【請求項3】
前記塑性加工品は、C:0.90〜1.20重量%、Si:1.0重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.040重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.75重量%以下、Cr:16.0〜18.0重量%、Mo:0.75重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼を球状化焼鈍したブランクを用い、塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きが、転走面の肩部乃至その近傍を除いて、転走面の接線方向に対して15°以下であるとともに、少なくとも転走面の表面の硬度を焼入れ焼戻しにより55〜64HRCとしたことを特徴とする請求項1に記載の複列アンギュラ軸受。
【請求項4】
塑性加工品は、C:0.50〜0.75重量%、Si:0.5重量%以下、Mn:1.0重量%以下、P:0.030重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:0.60重量%以下、Cr:11.5〜13.5重量%、Mo:0.50重量%以下を含むマルテンサイト系ステンレス鋼を球状化焼鈍したブランクを用い、塑性加工品の転走面のファイバーフローの傾きが、転走面の肩部乃至その近傍を除いて、転走面の接線方向に対して15°以下であるとともに、少なくとも転走面の表面の硬度を焼入れ焼戻しにより55〜64HRCとしたことを特徴とする請求項1に記載の複列アンギュラ軸受。
【請求項5】
前記塑性加工品が外輪であり、この外輪の外径面の軸方向中央部に周方向溝が設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の複列アンギュラ軸受。
【請求項6】
前記塑性加工品中の炭化物は、長径長さをaとし、短径長さをbとしたときに、(a+b)/2≦50μmであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の複列アンギュラ軸受。
【請求項7】
前記塑性加工品中の炭化物は、長径長さをaとし、短径長さをbとしたときに、(a+b)/2≦30μmであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の複列アンギュラ軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−197899(P2009−197899A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40114(P2008−40114)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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