説明

複合材料の肉厚部品を製造する樹脂トランスファー成形による繊維構造体の高密度化

【課題】 肉厚で、かつ低気孔率であり、製造に時間が掛からない低コストの複合材料部品を製造する方法を提供する。
【解決手段】 製造しようとする部品の補強材を形成するための繊維構造体を、可撓性の膜により形成された少なくとも1つの壁を有する型(22)のなかに配置し、25重量%以下の揮発材料を含有し、かつその粘度が0.1Pa.s〜0.3Pa.sの範囲内になるような値の温度で、樹脂組成物を前記型のなかに注入する。温度を積極的に上昇させながら囲い(20)内に配置した前記型のなかで前記樹脂を重合させ、この重合工程は11体積%以下の残留気孔が存在する複合材料部品を得るために圧力下の重合の最終段階である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂トランスファー成形(RTM)にも適用される圧力下で樹脂を注入する方法を用いて繊維補強材と樹脂素地を備える複合材料部品の製造に関する。とくに本発明の利用分野は複合材料から肉厚部品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような部品の例として、炭素繊維補強材およびフェノール樹脂素地を有する複合材料から製造されるロケットエンジンノズルの末広がり部分を挙げることができる。勿論、本発明は、ロケットエンジンや航空機エンジンなどの部品、あるいは航空関係や宇宙関係の分野でのもっと一般的な用途部品、またはその他の分野などの広範な部品の製造に利用されるものである。
【0003】
複合材料の肉厚部品を製造する際に、予備含浸層または編み込み繊維や他の繊維組織のストリップに対して樹脂を用いる技術が通常利用されている。この技術では、所望の厚みが得られるまでシェーパーおよびマンドレル上で予備含浸層やストリップをドレーピングまたはワインディングし、次いで、オートクレーブ内で重合される樹脂のために巻き解いたフィルム、樹脂ドレイン繊維、および弾性膜に結果として生じる空白をカバーするように覆い、そして最終的には実質的に所望の形状をもつ部品を得る。
【0004】
このような方法は、可能性ある用途、例えばかなり高い低残留気孔率および強化繊維フラクションを満足する技術的成果に到達することを可能にする。この方法は不利益が工業的に存在するにもかかわらず実施されている。複数の後に続く工程としてドレーピングまたはワインディング後にオートクレーブ内で樹脂の含浸と重合を行う。環境と衛生と安全の問題が存在することから、溶剤の使用および廃物を処理するのに必要な特別の処理を含む浴中に通過させることにより含浸の操作が行われる。
【0005】
RTM法は、以前から知られ、かつ広範囲に用いられている方法である。この方法では、含浸繊維補強材を開放空気中に放置することなく、オートクレーブ内での重合により引き続き直ちに樹脂を注入することにより型内で繊維補強材に樹脂を含浸させる工程が与えられる。
【0006】
それにもかかわらず大きな厚みの繊維補強材に対して従来のRTM法を行うと、小さな残留気孔率をもつ複合材料部品を得ることが難しい。肉厚の繊維補強材に直角に芯部まで樹脂を含浸させ得るようにするために、樹脂を低粘度にする必要がある。溶剤の使用により樹脂の粘度を低下させること、重合している間に揮発性材料を放出する樹脂として特にフェノール樹脂を使用すること、これらが樹脂の重合が完了した後の複合材料内に高レベルの残留気孔率を出現させることを意味する。含浸と重合のサイクルを何度か繰り返すことにより気孔率を低下させることは可能になるが、非常に時間が掛かるうえにコストが増大するという問題点がある。
【発明の開示】
【0007】
(発明の目的と概要)
本発明の目的は、肉厚で、低気孔率であり、予備含浸補強材を用いる従来法や従来のRTM法における上述した問題を生じることがない、繊維補強材および樹脂素地を備える複合材料部品を製造する方法を提供することにある。
【0008】
この目的を達成するために本発明では以下の方法を用いて繊維補強材と樹脂素地を有する複合材料の肉厚部品を製造する。すなわち本発明の方法では、製造しようとする部品の補強材を形成するための繊維構造体を準備し、可撓性の膜により形成された少なくとも1つの壁を有する型のなかに前記繊維構造体を配置し、25重量%以下の揮発材料を含有し、かつその粘度が0.1Pa.s〜0.3Pa.sの範囲内になるような値の温度で、樹脂組成物を前記型のなかに注入し、温度を積極的に上昇させながら囲い(enclosure)内に配置した前記型のなかで前記樹脂を重合させ、この重合工程は、11体積%以下の残留気孔が存在する複合材料部品を得るために圧力下の重合の最終段階であることを特徴とする。
【0009】
ここで、用語「肉厚(thick)」部品とは、少なくとも5センチメートル(cm)の厚みをもつ部品のことを意味するものとする。
【0010】
繊維構造は、例えば糸またはトウ(tow)をワインディングすることにより形成される一次元タイプ(1D)のものであってもよいし、例えば繊維プライ(fiber plies)をドレーピングすることにより形成される二次元タイプ(2D)のものであってもよいし、例えば繊維プライをウィービングするか、ブレイディングするか、ニッティングするか、重ね合わせるかして互いに結合される三次元タイプ(3D)のものであってもよい。
【0011】
繊維プライは、その重ね厚みの厚み方向に延び出すエレメントにより「機械的」に相互に結合させることができる。プライまたは他に縫い目を厚み方向に通る糸または剛性エレメント(針または棒)の埋め込みにより、プライの面から外れたところに移動する繊維をニードリングにより縫い付けることができる。繊維構造は、製造される部品のための予成形体を構成するものであり、その結合力を保存している間において予成形体を取り扱うことができる。
【0012】
変形において、3D繊維構造を構成する繊維プライは、プライ同士を結合するばかりでなく繊維構造を変形しにくい硬いものとする有機または無機バインダのような結合剤により相互に結合させることができる。
【0013】
非剛直繊維予成形体を構成する3D繊維構造が認められ、その予成形体は部分的に高密度化することにより強化されて剛直にすることができる。
【0014】
非剛直繊維構造(非剛直1D、2D又は3D構造)では繊維構造を目が詰まったコンパクトな構造にすることが好ましい。繊維構造のコンパクト化は、圧力下での重合の期間に可撓性の膜を用いて少なくとも一部に施すことができる。
【0015】
剛直繊維構造では、繊維構造と前記可撓性膜との間にドレインを配置することが好ましい。このドレイン内に含まれる樹脂は、圧力下での最終重合の間において繊維構造のなかに樹脂が浸透するのを強要する。
【0016】
圧力下の重合の型の壁として可撓性の膜を存在させることにより、複合材料の気孔率が低減する。
【0017】
製造しようとする前記部品であって、かつ前記繊維構造体が適用される面とは反対側の面の一つのプロフィルに対応する面を備える剛性支持部品を持つ型を使用することが可能である。
【0018】
本発明の特徴によれば、揮発性材料を25重量%以下の含有量に減少させるために、型内に注入される前において樹脂組成物を予備蒸留処理することが可能である。
【0019】
使用される樹脂は、フェノール樹脂、特にレゾールタイプのような重縮合樹脂、あるいはフラン樹脂(furanic resin)のような重縮合樹脂である。微細分割形態の固体充填剤を樹脂に添加してもよい。
【0020】
好ましくは、重合工程は、被製造物の揮発性材料を除去するために、温度を第1の値まで上昇させ、かつ前記型内を吸引する初期段階と、前記第1の値よりもさらに温度を上昇させ、かつ前記繊維構造に1メガパスカル(MPa)以上、例えば1〜2.5MPaの範囲の圧力を印加するために前記囲いのなかの圧力を上昇させる最終段階とを含む。
【0021】
本発明の方法は、特に厚みが厚く、かつ低気孔率の部品の製造のために、RTM法に適合するように構成されているということをここに銘記する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
添付の図面を参照して以下の記述説明を読めば本発明のより良き理解の助けとすることができる。
【0023】
本発明方法の第1の工程10は、製造しようとする複合材料部品の補強材を構成する繊維構造を準備することからなる。繊維構造は、製造しようとする部品の形状に対応する形状の三次元(3D)繊維予成形体の形態としてもよい。それ自身が結合力を失うことなく取り扱うことができる十分な結合力を示す。公知の手段において、このような3D繊維予成形体は、フェルトであってもよく、また三次元のウィービング、ニッティング、ブレーディングにより得られるものであってもよく、あるいは二次元(2D)のプライの重ね合わせにより得られるものであってもよく、これらを結合したものであってもよい。2Dプライは、織布、単一方向性(UD)シート、複数のUDシートを互いに異なる向きに重ねて貼り合わせたマルチ方向性シートのいずれの形態であってもよい。2Dプライは、ニードリング、ステッチング、あるいはプライの重ね厚みを通る剛直エレメントまたは糸を挿入することにより互いに結合することができる。
【0024】
例えば、米国特許番号4790052および米国特許番号5226217には種々の可能な形状の3D繊維構造を製造することがそれぞれ記載されている。
【0025】
道具を用いて加工するときの支持の助けになるような形状を保存している間において、その取り扱いに好適の3D硬質繊維予成形体(3D stiffened fiber preform)を採用することも可能である。このような予成形体は、例えば予成形体の予備密度(pre-densification)により予成形体相互間の繊維が十分に結合される品質の繊維予成形体材料のなかに堆積させることにより非剛性3D繊維予成形体の強化を得ることができる。これは、化学蒸気浸潤(CVI)、または例えば樹脂のような強化材料の液体前駆体を予成形体に含浸させる液テクニックを用いることにより実施することができる。また、道具を用いて加工するときの間に繊維予成形体の形状が維持されるように、熱処理により前駆体を変態させる。
【0026】
剛直3D繊維予成形体は、有機(樹脂)または無機のバインダにより互いに結合されるプライを備えた2Dプライの重ね合わせにより得ることもできる。
【0027】
上述のように、例えば糸、トウ、リボンのワインディングにより得られる1D繊維構造としてもよいし、あるいは例えば2Dプライのドレーピングにより得られる2D繊維構造としてもよい。
【0028】
本発明方法の第2の工程11は、例えば図2に示す種類の密度装置の型のなかに繊維構造を配置することからなる。
【0029】
この装置は、トレイ23の上に置かれた繊維構造を含む型22を備えたオートクレーブを形成する囲い20を有している。本実施形態の型22について図2と図3を参照して以下に説明する。注入システム24は、タンクと、必要に応じて樹脂を加熱し加圧する手段とを備えている。
【0030】
配管26は、例えば型22の頂部に接続され、さらに真空源(図示せず)に接続されている。配管26に設けられた弁27は、型22内を吸引するか又は遮断するかに用いられる。
【0031】
さらに、配管28は、圧力下のガス供給源、例えば窒素供給源(図示せず)にオートクレーブ20を接続している。弁および圧力調整アッセンブリ29は、オートクレーブ20内に高圧ガスを供給するか又は遮断する所望の弁の役割を担うために配管28に設けられている。
【0032】
オートクレーブ20は、加熱手段、例えば温度調整手段(図示せず)に関する抵抗発熱型のヒータが設けられている。
【0033】
図2の装置において、樹脂は、型22のベースを介して型22内に導入され、真空源に連通することにより型22の内側を真空引きする動きの条件下で積極的に上昇し、高圧で搬送される樹脂により可能な限り助けとなる。自然に、型22を通る樹脂の流れの方向とは逆向きになること、または、特に製造しようとする部品が大きな寸法の部品である場合に、型22の種々の異なるレベルに樹脂を注入すること、などが他の性質として可能である。
【0034】
図3〜図5に示す環状の繊維構造は好適な型であり、ロケットエンジンノズルの末広がり部分の製造に関しての例である。繊維構造は、重ね合わされてニードリング(針刺し締結)により相互に結合されてなる(織布又はシートの)繊維プライで作製された炭素繊維の3D予成形体である。この予成形体は、その形状が、軸対称で環状であり、断頭円錐であるか、あるいは卵カップのようにプロフィルが曲がっていてもよい。末広がり部分の大きさに応じてその大きさを変えている。予成形体の厚みは、5cmを超え、15cmか又はそれ以上に大きくしてもよい。
【0035】
本来、繊維構造の形状と型の形状は、製造しようとする部品の形状にそれぞれ適宜合わせる必要がある。
【0036】
図3と図4の型は、予備密度化されてない繊維予成形体に好適のものであり、それは剛性ではなく、「乾燥」予成形体として知られてもいる。
【0037】
図3の型は、サポート33の上に載せられたベース32aと、実質的に断頭円錐形状の外観をもつコア32bとを持つ部品または支持具(support tooling)32を有し、製造しようとするノズルの末広がり部分の内部にガス気流が規定されるような面のプロフィルに対応するプロフィルを有する。
【0038】
製造しようとする末広がり部の予成形体30は、その形状が実質的に環状であり、ベース32aの上に載る1つの同心円端を備えるコア32bがベース32aの上に配置されている。
【0039】
樹脂拡散ドレイン34が予成形体30の外周面上に設けられている。このドレイン34は例えば格子(グリッド)の形態である。このアッセンブリは例えばシリコーンのような弾性体でつくられた可撓性気密膜36により被覆されている。カバー36は、ベース32aの周囲を把持するカラーと、コア32bの頂部でエクステンション32cの周囲を把持するカラーとにより、樹脂の漏れ出しがないように気密に取り付けられている。
【0040】
配管25と26は、コア32aの底部と頂部のそれぞれのレベルで膜36にて開口するように気密に接続されている。
【0041】
樹脂拡散チャンネル38は、予成形体30の底部の周囲をぐるりと巻いて延び出し、配管25により樹脂が送給されるようになっている。例えば、チャンネル38は突き刺しチューブにより構成される。
【0042】
配管25を介して導入される樹脂は、チャンネル38の内側にある予成形体の底部の周囲に広がり、ドレイン34から予成形体30に樹脂を浸潤させるために拡散ドレイン34に沿って前進する。余剰の樹脂は、吸引除去配管26により取り去られる。この吸引除去配管26は、支持具32の頂部において膜36内に形成されたオリフィスに接続されている。
【0043】
図3の支持具とは異なる雌型の剛性支持具42を有する型を図4に示す。この支持具は、その小径頂部端42cに近接し、かつ開口底部端を取り囲むカラー42aを備える断頭円錐部42bを有する。支持具の内面は、製造しようとする末広がり部の外面のために望ましいプロフィルに対応している。
【0044】
末広がり部の予成形体40は、支持具の断頭円錐部42bの内面と向き合っている。樹脂分散ドレイン44は、予成形体40の内面と向き合い、例えば格子の形態をなしている。可撓性漏れ止め膜46は、ドレイン44を覆い、弾性体、例えばシリコーンでできている。この膜46は、支持具42により形成されるアッセンブリの全ての内面を覆うように連続的に延び出している。膜は、その周縁においてカラー42aに対して漏れ止めのためにクランプ保持されている。膜は、その中央部において支持具の頂部42cと裏当てピース47との間の漏れ止めのためにクランプ保持されている。
【0045】
樹脂分散チャンネル48は、予成形体40の底部を取り囲むように延び出し、配管25により内側から樹脂が供給されるようになっている。例えば、チャンネル48は突き刺しチューブにより形成される。
【0046】
配管25により導入された樹脂は、予成形体の底部の周囲に広がり、分散ドレイン44に沿って移動し、ドレイン44を通って予成形体40のなかに浸透する。余剰の樹脂は吸引除去配管26により取り去られる。この配管26は支持具の頂部42c内に形成されたオリフィスに接続されている。
【0047】
統合強化剛性3D予成形体(consolidated rigid 3D preform)に好適の型を図5に示す。予成形体は、繊維同士を接合するためにCVIにより熱分解炭素(PyC)を堆積することにより統合強化してもよい。ここで、CVIとは熱分解炭素を堆積するための公知の堆積法をいう。
【0048】
統合強化繊維予成形体50は、内側の膜52と外側の膜54との間に漏れ止め様に包み込まれており、サポート53の上に立設されている。漏れ止め弾性体膜には例えばシリコーンを使用する。剥離プライ(delamination ply)55およびドレイン繊維56は、予成形体50の間に挿入され、かつ少なくとも膜54の外側に配置される。
【0049】
図5に示すように、膜52と54はサポート53において樹脂が漏れ出さないように互いに向き合い重ねてプレスされている。トレイにより搬送されるロッド57は、予成形体50の内面と向き合いプレスされた内側の膜52を支持している。
【0050】
樹脂分散チャンネル58は、予成形体50の底部の周囲を取り囲むように形成され、外側の膜54の下で、かつ配管25に漏れ止め様に接続されている。配管25を介して導入される樹脂は、ドレイン繊維56および剥離プライ55を通って予成形体のなかに浸透していく。余剰の樹脂はドレイン繊維56と配管26とによって保持される。剥離プライ55は樹脂の重合が完了した後に型から取り外される。
【0051】
繊維構造を囲い20内に装入した後に、次工程12に進み、型22のなかに樹脂を注入する準備をする。
【0052】
本発明方法は、重縮合樹脂、特にフェノール重縮合樹脂の素地を有する複合材料部品の製造に特に適している。特に、レゾールタイプのフェノール樹脂を用いることが可能である。RTM法に通常用いられるフェノール樹脂は低粘度である。フェノール樹脂は、その揮発材料含有量から知ることができる溶剤が大部分を占めており、その含有量は比較的大きく、一般に約40重量%にもなる。樹脂が重合している間に、揮発性材料は約15%もの気孔率を生じさせる。
【0053】
本発明の特徴によれば、樹脂は、比較的低い、25重量%以下、好ましくは20重量%以下の揮発性材料含有量を有するものが注入される。ここで、揮発性材料という用語は、樹脂および重合サイクル中にガス状形態物として排気されるその他の材料に関連する溶剤を意味するものとして使用される。
【0054】
適用可能な樹脂組成物中に存在する揮発性材料含有量によれば、低い揮発性材料含有量のために予備処理操作を行わなければならない必要があった。そのような予備処理には、中位の温度で樹脂を穏やかに保持する真空予備蒸留が存在する。その温度は、予備蒸留に達するには十分に高いところで選ばれるが、密度化される繊維予成形体に対する樹脂の注入の妨げとなることから樹脂の重合が起こらないところで選ばれる。フェノール樹脂、特にレゾールタイプのフェノール樹脂の場合に、上記の温度は例えば60℃〜90℃の範囲から選ばれる。
【0055】
樹脂組成物に粘性を与えるためには、肉厚の繊維予成形体に対しても芯部まで含浸されるほど十分に低い粘度とする。所望の粘度に達するために要求されるレベルまでその温度が上昇するように樹脂を加熱する必要がある。一般に、粘度は0.1Pa.s〜0.3Pa.sの範囲に入るようにし、好ましくは0.1Pa.s〜0.15Pa.sの範囲とする。25%以下の揮発性材料含有量のレゾールタイプのフェノール樹脂では65℃〜85℃の範囲の温度にすることが好ましく、その温度は樹脂の粘度が増加して射出注入の妨げとなる閾値を超えない温度にしなければならないものと理解される。
【0056】
所望の揮発性材料含有量と粘度を有する樹脂は、注入システム24に用いられる型22内に注入される(工程13)。その注入システム24は、所望の温度と圧力下で、例えば3キロパスカル(kPa)に到達するまでに樹脂組成物を生成するのに適合するものである。同時に、型の内部容量は弁27の開放により真空引きされる。カウンター圧力は、型の内側と外側との間の圧力バランスのために配管28を介してオートクレーブ20により印加され、各膜が膨張するのを防止する。
【0057】
樹脂を注入した後に、型22内で重合が行われる(工程14)。重合サイクル中に型およびオートクレーブの内部で生じる温度と圧力の変化の例を図6に示す。重合工程は、オートクレーブ20内の温度Tが保持しようとするレベルT1に上昇するまでの間の初期段階14aを含むものである。型22は弁27の開放により真空引き状態に維持される。オートクレーブ20内の圧力P1は、周囲の圧力と等しく維持するようにするか、または樹脂注入中に印加されるカウンター圧力と等しくすることも可能である。その温度は、例えば樹脂に含まれる揮発性材料を取り除くために樹脂から脱ガスを十分に実施する値T1まで上昇する。予成形体の内部で樹脂が連続的に十分に流動することが保たれている間に、配管26を介して揮発性材料が取り去られるので気孔で満たされるようになる。レゾールタイプのフェノール樹脂では、この温度T1を65℃〜85℃の範囲に入れる。重合サイクルにおいて真空脱ガスの初期段階の時間t1は、揮発性材料を十分に真空引きし、重合した後に、樹脂素地内の気孔率が所望の残留レベルとなりうるものを選択する。この時間t1は数時間または数十時間で間に合う。
【0058】
次に、圧力下で重合の最終段階14bを行う。この実施のために、真空引きの切り替えにより型22の排気を停止し、次いでオートクレーブ20を加圧し、オートクレーブ20の温度を最終重合温度Tfまで上昇させる。
【0059】
オートクレーブ内の圧力P2を、比較的高い、好ましくは1MPaより大きい、例えば1MPa〜2.5MPaの範囲に入るように上昇させる。圧力の効果の下において、樹脂組成物は繊維構造内の残留気孔のなかにじわじわと這い込んでいく。
【0060】
繊維軸は剛性ではなく、オートクレーブ内で圧力が繊維構造に負荷されると、気孔率が小さくなるばかりでなく、繊維構造の体積に比べてその体積がほんの僅かだけ増加した繊維体積フラクション(fiber volume fraction)を有する複合材料部品を得ることができる。この繊維体積フラクションは、繊維構造または繊維に占有される部分の見掛けの体積の断片部分である。
【0061】
非剛性繊維構造は圧力下での重合のそれより以前の段階で目が詰まったコンパクト化するか又は予備コンパクト化することができるということが認められる。
【0062】
剛性繊維構造において、オートクレーブ内の圧力は、繊維構造のなかに樹脂を這い込ませて型のドレナージ繊維内に樹脂組成物が収納されるようなものとする。これにより気孔率が減少する。
【0063】
最終重合温度Tfは使用される樹脂組成物のタイプに依存する。すなわち、レゾールタイプのフェノール樹脂では、温度Tfを160℃以上にすることが好ましい。
【0064】
重合が終了すると、オートクレーブの加熱を停止し、オートクレーブ内の圧力を元の大気圧に戻す。
【0065】
複合材料部品の残留気孔率を減少するようにするために、繊維構造の気孔内を樹脂で早く満たされるようにすると、固体充填物を含む樹脂組成物を用いることが可能になる。この充填物は、芯部までの繊維構造への樹脂注入が疑わしく注入の妨げとなるために、分割された形態とし、かつその量が制限されるべきである。したがって、固体充填物の重量百分率は10%以下とすることが好ましい。例えば、固体充填物にはカーボンブラックを使用することができる。
【0066】
繊維構造を製造するために用いられる材料として炭素繊維を記載しているが、その他の繊維として、有機または無機の繊維、あるいは例えばガラス繊維またはセラミック繊維(シリカ、アルミナ、…)を用いることもできる。
【0067】
さらに、樹脂組成物の準備工程、型内への樹脂の注入工程、および重合工程にフェノール樹脂の他に重縮合樹脂を使用することができ、上述したものに類似する手段を実施することができる。フランタイプの樹脂の使用も予測可能性がある。
【0068】
乾燥3D繊維予成形体サンプル上でテストを実施した。この予成形体サンプルは、マンドレル上に重ねあわされ、ニードリングにより互いに結合された炭素繊維プライでつくられ、110cmの軸長さと200cmの外径を有する実質的に断頭円錐形状の繊維予成形体である。
【0069】
レゾールタイプのフェノール樹脂組成物は、約20重量%の揮発性材料含有量をもつ予備蒸留されたものを用いた。予成形体サンプルを型のなかに配置し、型内を真空引きし、0.2MPaの圧力下で約85℃の温度で樹脂組成物を注入した。
【0070】
重合サイクルは、オートクレーブ内の圧力を上昇させることなく、型を真空引きしながら65℃〜85℃の範囲の温度に時間t1だけ保持する初期段階と、オートクレーブ内の圧力を1MPa〜2.5MPaの範囲に入る条件下で、オートクレーブの温度が約160℃に達するまで昇温する最終段階と、を含むものである。
【0071】
保持時間t1の値は数時間から数十時間までとし、種々の高密度化部品の結果として以下のことが認められた。
【0072】
・相対密度のばらつきが1.35〜1.43の範囲であった。
【0073】
・残留開気孔率のばらつきが5.9%〜10%の範囲であった。
【0074】
・コンパクト化率のばらつきが8%〜37%の範囲であった。ここで、コンパクト化率とは、得られた部品と繊維予成形体との間の体積の相対的な減少のことをいうものとする。
【0075】
・繊維フラクションのばらつきが38%〜54%の範囲であった。
【0076】
これらのテストは、RTMタイプ法を利用する肉厚の繊維組織を高密度化する本発明方法の利用を可能にし、11%以下の残留気孔率が得られ、「乾燥」繊維組織を用いるときに繊維フラクションが並外れて高いということを確認した。
【0077】
初期段階の時間t1として長い時間、例えば数十時間を選ぶことにより、小さい残留気孔率を得ることはできるが、コンパクト化の性能および繊維フラクションを増加させる性能が低下するという不都合がある。重合工程の初期段階の終わりに樹脂の粘度が増大するからである。
【0078】
勿論、上述したテストにおいて作製される部品の大きさよりもさらにサイズが大きな部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は本発明に係る方法を実施する際の連続工程を示す工程図。
【図2】図2は本発明の方法の実施を可能にする装置を示す全体概要図。
【図3】図3は非剛直繊維予成形体からロケットエンジンノズルの末広がり部分を製造するための型の一例を示す概略断面図。
【図4】図4は非剛直繊維予成形体からロケットエンジンノズルの末広がり部分を製造するための型の一例を示す概略断面図。
【図5】図5は剛直強化繊維予成形体からロケットエンジンノズルの末広がり部分を製造するための型の一例を示す概略断面図。
【図6】図6は本発明に係る方法を特に実施した際に、樹脂重合の工程の間に圧力および温度がそれぞれどのように変化するかを示す線図。
【符号の説明】
【0080】
20…オートクレーブ、
22…型、
24…注入システム、
25,26,28…配管、
27…弁、
29…弁および圧力調整アッセンブリ、
30,40,50…予成形体、
32…支持具、
34,44…樹脂拡散ドレイン、
36,46,52,54…膜、
38…チャンネル、
53…サポート、
55…プライ、
56…ドレイン繊維、
57…ロッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維補強材と樹脂素地を有する複合材料の肉厚部品を製造する方法において、
製造しようとする部品の補強材を形成するための繊維構造体を準備し、
可撓性の膜により形成された少なくとも1つの壁を有する型のなかに前記繊維構造体を配置し、
25重量%以下の揮発材料を含有し、かつその粘度が0.1Pa.s〜0.3Pa.sの範囲内になるような値の温度で、樹脂組成物を前記型のなかに注入し、
温度を積極的に上昇させながら囲い内に配置した前記型のなかで前記樹脂を重合させ、この重合工程は、11体積%以下の残留気孔が存在する複合材料部品を得るために圧力下の重合の最終段階であることを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項2】
繊維構造体は、相互に重ね合わされて接合された二次元繊維重ね厚みを有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記二次元繊維重ね厚みは、該重ね厚みを通って伸び出すエレメントにより互いに接合されていることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記二次元繊維重ね厚みは、有機または無機のバインダにより互いに接合されていることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項5】
非剛直繊維構造体に用いられ、前記繊維構造体は目を詰めてコンパクトにしていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記コンパクト化は、圧力下で前記最終重合する間において前記可撓性の膜を介して少なくとも一部の目を詰めることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
剛直繊維構造体に用いられ、前記繊維構造体と前記可撓性の膜との間に配置されるドレインと、圧力下で前記最終重合する間に前記繊維構造体のなかを強制的に貫通する前記ドレイン内に含まれる樹脂とを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
部分的な高密度化による統合により硬くなった繊維構造体に用いられることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
製造しようとする前記部品であって、かつ前記繊維構造体が適用される面とは反対側の面のプロフィルに対応する面を有する剛性支持部を備える型を使用することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
揮発性材料を25重量%以下の含有量に減少させるために、前記型内に注入される前において前記樹脂組成物を予備蒸留処理することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
フェノール樹脂およびフラン樹脂のうちから選択される樹脂を用いることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記樹脂組成物は固体充填物も含むことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記重合工程は、被製造物の揮発性材料を除去するために、温度を第1の値まで上昇させ、かつ前記型内を吸引する初期段階と、前記第1の値よりもさらに温度を上昇させ、かつ前記繊維構造に1MPa〜2.5MPaの範囲の圧力を印加するために前記囲いのなかの圧力を上昇させる最終段階と、を含むことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−524016(P2008−524016A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546149(P2007−546149)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【国際出願番号】PCT/FR2005/051100
【国際公開番号】WO2006/064167
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(502202281)スネクマ・プロピュルシオン・ソリド (48)
【氏名又は名称原語表記】SNECMA PROPULSION SOLIDE
【Fターム(参考)】