説明

複合酸化物膜形成用の塗布液、並びに当該塗布液を使用した複合酸化物膜の製造方法及び電界効果トランジスタの製造方法

【課題】より簡便な、かつ高温の焼成を必要としない条件で、基板の所望の位置に複合酸化物の薄膜を形成させることのできる塗布液及びそれを使用した方法を提供すること。
【解決手段】インジウム(In)のキレート化合物(I)、亜鉛(Zn)のキレート化合物又は酢酸塩(Z)、及び有機溶媒(A)を含む複合酸化物膜形成用の塗布液を塗布して基材の表面に塗膜を形成し、次いでこの塗膜を焼成することにより複合酸化物膜に転換させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物膜形成用の塗布液、並びに当該塗布液を使用した複合酸化物膜の製造方法及び電界効果トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化インジウムガリウム亜鉛(InGaZnO)は、可視光領域全域で透明であり、半導体特性を有する。この化合物のアモルファス薄膜を活性層とした電界効果トランジスタは、2004年に野村らによって報告され、従来のアモルファスシリコン薄膜トランジスタの約10倍の電界効果移動度を示し、さらに低温で形成させることが可能であるという特徴を有する(例えば、特許文献1、非特許文献1を参照)。このため、上記電界効果トランジスタは、大型液晶ディスプレイ、3D表示可能な液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー等への実用化研究が進められている。
【0003】
また、酸化インジウム亜鉛(InZnO)もまた、可視光領域全域で透明であり、半導体特性を有することが知られている。そのため、この複合酸化物のアモルファス薄膜を活性層とした電界効果トランジスタもまた、各種表示デバイス等への応用研究が進んでいる(例えば、特許文献2を参照)。
【0004】
上記の複合酸化物のアモルファス薄膜は、一般に、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛等といった、複合酸化物を構成する金属の酸化物を減圧下で加熱し、生じた蒸気を基板の表面に接触させる蒸着法により形成されるのが一般的である。また、このような複合酸化物を形成させる別の方法として、金属の硝酸塩、塩酸塩又はアルコキシドを含む溶液を基材に塗布した後、これを高温で焼成することにより複合酸化物膜を形成させる塗布型材料を使用する方法も提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2005/088726号パンフレット
【特許文献2】特開2000−002892号公報
【特許文献3】特開2007−42689号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.Nomura et al.,Nature 432,488(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の蒸着法では、基板の所望とする位置に所望の厚さで複合酸化物の薄膜を形成させるのが難しいし、大型の減圧設備等が必要となるので設備面での多額の投資も必要である。また、上記の塗布型材料を使用した場合、塗布後にアルコキシドがパーティクルを形成させる問題を生じたり、焼成中にNO等の腐食性ガスを発生させることにより機器にダメージを与えたりする場合がある。さらに、金属の硝酸塩や塩酸塩は熱分解温度(すなわち焼成温度)が高いので、これらを含む塗布型材料を使用すると、基材の耐熱性やエネルギーコストの問題を生じる場合がある。
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、より簡便な、かつ高温の焼成を必要としない条件で、基板の所望の位置に複合酸化物の薄膜を形成させることのできる塗布液及びそれを使用した方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、複合酸化物を構成する金属のキレート化合物又は酢酸塩を有機溶媒に溶解させた塗布液を調製し、この塗布液を基板の所望の箇所に塗布した後に焼成することにより、より低温の焼成条件にて、基板の所望の位置に良好な複合酸化物の薄膜を形成させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の第1の態様は、インジウム(In)のキレート化合物(I)、亜鉛(Zn)のキレート化合物又は酢酸塩(Z)、及び有機溶媒(A)を含む複合酸化物膜形成用の塗布液である。
【0011】
本発明の第2の態様は、基板の表面に複合酸化物の膜を製造する方法であって、前記基板の表面に、上記複合酸化物膜形成用の塗布液を塗布して塗膜を形成させる塗膜形成工程と、前記塗膜を焼成することにより、前記塗膜を複合酸化物に転換させる焼成工程と、を含む複合酸化物膜の製造方法である。
【0012】
本発明の第3の態様は、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極が接合された活性層と、前記活性層及び前記ゲート電極の間にゲート絶縁膜と、を備える電界効果トランジスタの製造方法であって、前記活性層を形成させる工程として、上記複合酸化物膜形成用の塗布液から作製された塗膜を焼成し、当該塗膜を、前記活性層となる複合酸化物膜に転換させる焼成工程を含む電界効果トランジスタの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より簡便な、かつ高温の焼成を必要としない条件で、基板の所望の位置に複合酸化物の薄膜を形成させることのできる塗布液及びそれを使用した方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<複合酸化物膜形成用の塗布液>
まず、本発明の複合酸化物膜形成用の塗布液の一実施形態(以下、単に「本実施形態の塗布液」又は「塗布液」とも呼ぶ。)について説明する。この塗布液は、複合酸化物膜を構成する金属のキレート化合物又は酢酸塩を含み、基板に塗布された後で焼成を受けることにより、複合酸化物膜を形成させる。金属のキレート化合物及び酢酸塩は、金属元素と有機物とを含む化合物であり、焼成を受けることにより、有機物が熱分解するとともに金属元素が酸化され、複合酸化物の膜となる。
【0015】
本実施形態の塗布液は、インジウム(In)のキレート化合物(I)、亜鉛(Zn)のキレート化合物又は酢酸塩(Z)及び有機溶媒(A)を含有する。以下、これらの成分について説明する。
【0016】
[インジウム(In)のキレート化合物(I)]
インジウムのキレート化合物(以下、(I)成分とも呼ぶ。)は、インジウム元素に有機配位子が配位した化合物である。この化合物は、基材に塗布された後に焼成を受けることによって、有機配位子が熱分解するとともにインジウム元素が酸化を受け、複合酸化物の一成分であるインジウムの酸化物となる。この化合物は、有機配位子を有することにより、後述する有機溶媒(A)に対する溶解性を備える。また、この化合物は、有機配位子を有することにより、より低温の焼成条件で熱分解を受けて金属酸化物に転換される。
【0017】
インジウムのキレート化合物を構成する有機配位子としては、アセチルアセトン配位子、アセト酢酸メチル配位子、アセト酢酸エチル配位子、ビスピバロイルメタン配位子、ヘキサフルオロアセチルアセトン配位子、ビナフチル配位子等が例示されるが、特に限定されない。これらの配位子の中でもアセチルアセトン配位子が好ましく例示され、この場合、インジウムのキレート化合物は、インジウムアセチルアセトネートになる。
【0018】
本実施形態の塗布液における(I)成分の濃度は、0.001〜0.5mol/Kgであることが好ましく、0.01〜0.2mol/Kgであることがより好ましい。
【0019】
[亜鉛(Zn)のキレート化合物又は酢酸塩(Z)]
亜鉛のキレート化合物は、亜鉛元素に有機配位子が配位した化合物である。この化合物は、基材に塗布された後に焼成を受けることによって、有機配位子が熱分解するとともに亜鉛元素が酸化を受け、複合酸化物の一成分である亜鉛の酸化物となる。この化合物は、有機配位子を有することにより、後述する有機溶媒(A)に対する溶解性を備える。また、この化合物は、有機配位子を有することにより、より低温の焼成条件で熱分解を受けて金属酸化物に転換される。
【0020】
亜鉛のキレート化合物を構成する有機配位子としては、アセチルアセトン配位子、アセト酢酸メチル配位子、アセト酢酸エチル配位子、ビスピバロイルメタン配位子、ヘキサフルオロアセチルアセトン配位子、ビナフチル配位子等が例示されるが、特に限定されない。これらの配位子の中でもアセチルアセトン配位子、アセト酢酸メチル配位子が好ましく例示される。
【0021】
上記、亜鉛のキレート化合物の他に、亜鉛の酢酸塩を使用することも可能である。亜鉛の酢酸塩は、キレート化合物と同様に、基材に塗布された後に焼成を受けることによって、酢酸根が熱分解するとともに亜鉛元素が酸化を受け、複合酸化物の一成分である亜鉛の酸化物となる。亜鉛の酢酸塩もまた、後述する有機溶媒(A)に対する溶解性を備え、より低温の焼成条件で熱分解を受けて金属酸化物に転換される。
【0022】
なお、本実施形態の塗布液では、亜鉛のキレート化合物又は酢酸塩として、亜鉛のキレート化合物を単独で含んでもよいし、亜鉛の酢酸塩を単独で含んでもよいし、亜鉛のキレート化合物と亜鉛の酢酸塩とを含んでもよい。なお、以下、亜鉛のキレート化合物と亜鉛の酢酸塩とをまとめて、(Z)成分と呼ぶこともある。
【0023】
本実施形態の塗布液における亜鉛のキレート化合物の濃度は、0.001〜0.5mol/Kgであることが好ましく、0.01〜0.2mol/Kgであることがより好ましい。また、本実施形態の塗布液における亜鉛の酢酸塩の濃度は、0.001〜0.5mol/Kgであることが好ましく、0.01〜0.2mol/Kgであることがより好ましい。
【0024】
本実施形態の塗布液は、以上のように、複合酸化物膜を構成するための金属源として(I)成分及び(Z)成分を含む。そのため、この塗布液を基板に塗布し、次いで焼成することによって、インジウムと亜鉛との複合酸化物の膜が形成される。本実施形態の塗布液は、上記の金属源に加えて、さらにガリウム(Ga)のキレート化合物を含んでもよい。この場合、作製された塗布液を基板に塗布し、次いで焼成することによって、インジウムとガリウムと亜鉛との複合酸化物の膜が形成される。
【0025】
インジウムと亜鉛との複合酸化物の膜、及びインジウムとガリウムと亜鉛との複合酸化物の膜のいずれもが半導体特性を有する透明な薄膜である。これらは、アモルファス膜として形成された場合に、良好な半導体特性を発現する。また、インジウムと亜鉛との複合酸化物に対してガリウム加えた場合、インジウム及び亜鉛のみからなる複合酸化物の場合よりも、半導体特性が安定的に発現する。
【0026】
[ガリウム(Ga)のキレート化合物(G)]
上記のように、インジウムとガリウムと亜鉛との複合酸化物の膜を形成させる場合には、塗布液にガリウムのキレート化合物(以下、(G)成分とも呼ぶ。)を添加すればよい。この化合物は、基材に塗布された後に焼成を受けることによって、有機配位子が熱分解するとともにガリウム元素が酸化を受け、複合酸化物の一成分であるガリウムの酸化物となる。この化合物は、有機配位子を有することにより、後述する有機溶媒(A)に対する溶解性を備える。また、この化合物は、有機配位子を有することにより、より低温の焼成条件で熱分解を受けて金属酸化物に転換される。
【0027】
ガリウムのキレート化合物を構成する有機配位子としては、アセチルアセトン配位子、アセト酢酸メチル配位子、アセト酢酸エチル配位子、ビスピバロイルメタン配位子、ヘキサフルオロアセチルアセトン配位子、ビナフチル配位子等が例示されるが、特に限定されない。これらの配位子の中でもアセチルアセトン配位子が好ましく例示され、この場合、ガリウムのキレート化合物は、ガリウムアセチルアセトネートになる。
【0028】
本実施形態の塗布液における(G)成分の濃度は、0.001〜0.5mol/Kgであることが好ましく、0.001〜0.2mol/Kgであることがより好ましい。
【0029】
本実施形態の塗布液における上記(I)成分、(G)成分及び(Z)成分の含有比率は、形成される複合酸化物膜におけるインジウム、ガリウム及び亜鉛の元素比に影響を与えるので、On・Off比や移動度といった複合酸化物膜の半導体特性に大きな影響を及ぼす。良好な半導体特性を得るとの観点からは、(I)成分に含まれるインジウム元素、(G)成分に含まれるガリウム元素及び(Z)成分に含まれる亜鉛元素の元素比が、インジウム元素を1.0とした場合に、ガリウム元素が0〜2.0、かつ亜鉛元素が0.1〜2.0になることが好ましい。なお、塗布液が(G)成分を含まない場合、上記ガリウム元素の元素比は0になる。
【0030】
[有機溶媒(A)]
次に、本実施形態の塗布液に使用する有機溶媒(以下、単に「(A)成分」と呼ぶこともある。)について説明する。(A)成分は、塗布液中の成分を溶解させるとともに、塗布液に適切な塗布性を付与する。そして、(A)成分は、塗布液が基材に塗布された後、塗布された塗布液から蒸発して塗布膜を形成させる。この塗布膜は、上述の通り、焼成を受けることにより、複合酸化物膜となる。
【0031】
本発明者らは、本発明をなす過程で、意外にも、塗布液から形成される複合酸化物膜の表面状態が(A)成分の種類によって大きく異なる結果となることを見出した。複合酸化物膜の表面状態は、半導体特性の発現に大きな影響を与える因子であるので、これを適切な状態にすることは重要なことである。複合酸化物の表面状態は、(A)成分として適切な溶媒を選択することによって、良好なものとすることができる。なお、複合酸化物膜の表面状態が良好であるとは、形成される複合酸化物膜の表面における欠陥が少ないことを意味する。このような欠陥としては、例えば、膜の表面に形成される凸状の欠陥(いわゆる「ブツブツ」)が挙げられる。
【0032】
以上の観点から、本実施形態の塗布液では、(A)成分が、下記式(a1)で表されるグリコール系の化合物と、環状ケトン化合物とからなる群より選択される少なくとも1つを含むものであることが好ましい。
【0033】
【化1】

(式(a1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、水素原子又はアシル基であり、nは、1〜4の整数である。)
【0034】
このようなグリコール系の化合物としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類等が例示される。これらの中でも、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートがより好ましい。これらのグリコール系の化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
環状ケトン化合物は、ケト基を有する環状化合物であり、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、β−プロピオラクトン、γ−ブチルラクトン、δ−バレロラクトン等が例示される。これらの中でも、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトンがより好ましい。これらの環状ケトン化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
(A)成分は、上記グリコール系化合物単独であってもよいし、上記環状ケトン化合物単独であってもよいし、上記グリコール系化合物と上記環状ケトン化合物とを組み合わせたものであってもよい。さらに、(A)成分は、上記成分の他に、他の有機溶媒を含有するものであってもよい。
【0037】
[塩基性物質(B)]
本実施形態の塗布液は、さらに、塩基性物質(以下、「(B)成分」とも呼ぶ。)を含むことが好ましい。本実施形態の塗布液が(B)成分を含むことにより、酢酸塩の溶解性を補助できるので好ましい。
【0038】
(B)成分は、(A)成分に溶解するものであれば特に限定されないが、炭素数1〜8のアルキルアミン又はアルカノールアミンであることが好ましい。このような(B)成分としては、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン等のモノアルキルアミン;ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン等のジアルキルアミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン等のトリアルキルアミン;ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアルキルアルコールアミンが例示される。これらの(B)成分は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
塗布液中の(B)成分の含有量は、0.001〜0.5mol/Kgであることが好ましく、0.01〜0.2mol/Kgがより好ましい。塗布液中の(B)成分の含有量が上記範囲であることにより、酢酸塩の溶解性を補助できるので好ましい。
【0040】
本実施形態の塗布液は、上記の各成分を均一に混合することにより調製される。混合の手段は特に限定されない。上記の各成分を均一に混合した後、必要に応じてフィルタリングしてもよい。
【0041】
<複合酸化物膜の製造方法>
次に、本発明の複合酸化物膜の製造方法の一実施態様について説明する。本実施態様の複合酸化物の製造方法は、上記塗布液を基板に塗布して塗膜を形成させた後、当該塗膜を焼成することにより基板の表面に複合酸化物膜を形成させるものである。
【0042】
本実施態様の複合酸化物の製造方法は、塗膜形成工程と焼成工程とを含む。以下、各工程について説明する。
【0043】
[塗膜形成工程]
塗膜形成工程は、基板の表面に上記塗布液を塗布して塗膜を形成させる工程である。
【0044】
本工程で塗布液が塗布される基板としては、特に限定されず、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板、各種金属基板、セラミック基板等が例示される。基板の厚さの一例としては、0.1〜3mmが例示されるが、特に限定されない。
【0045】
塗布液を基板に塗布する手段としては、はけ塗り法、浸漬法、スプレー法、スピンコート法、インクジェットプリント法等が例示される。なお、パターン化された複合酸化物膜を基板の表面に形成させる必要がある場合には、基板の表面のうち複合酸化物を形成させない箇所に、フォトリソグラフィ法等の手段により予めマスクを形成させればよい。これにより、基板の表面のうちマスクの存在しない箇所のみに塗布膜が形成されるので、パターン化された複合酸化物膜を基板の表面に形成させることができる。また、インクジェットプリント法により、所望のパターン通りに塗布膜を基板の表面に形成させ、パターン化された複合酸化物膜を基板の表面に形成させてもよい。
【0046】
基板の表面に塗布された塗布液は、溶媒(上記(A)成分)が揮発することにより、塗布膜となる。溶媒を揮発させる方法としては、特に限定されず、自然乾燥させる方法や、温風を塗布面に当てる方法や、塗布面を適切な手段によって加熱する方法等が挙げられる。基板の表面に形成させる塗布膜の厚さは、要求される特性等を考慮して適宜設定すればよいが、一例として、乾燥膜厚として0.05〜0.2μmであることが挙げられる。
【0047】
[焼成工程]
塗布膜形成工程により塗布膜が形成された基板は、焼成工程に付される。この工程は、塗布膜に含まれる(I)成分、(G)成分及び(Z)成分を熱分解により複合酸化物に転換させる工程である。この工程を経ることにより、基板の表面に複合酸化物膜が形成される。
【0048】
焼成の際の温度としては、200〜500℃が好ましく例示され、焼成の時間としては、10〜500分間が例示されるが、これに限定されず、塗布膜の複合酸化物膜への転換状態を観察しながら、これらを適宜設定すればよい。また、焼成後の膜厚としては、0.01〜0.14μmが例示されるが、これに限定されず、複合酸化物膜に要求される性能等を考慮して適宜決定すればよい。既に述べたように、本発明の塗布液を使用することにより、金属のアルコキシド、硝酸塩又は塩酸塩を使用した塗布液よりも低温の条件で焼成を行うことが可能であり、耐熱性のやや劣る基材に対しても表面に複合酸化物膜を形成させることが可能になる。
【0049】
<電界効果トランジスタの製造方法>
次に、本発明の電界効果トランジスタの製造方法の一実施態様について説明する。本実施態様の電界効果トランジスタの製造方法は、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極が接合された活性層と、当該活性層及びゲート電極との間にゲート絶縁膜と、を備える電界効果トランジスタの製造方法であり、上記活性層を形成させる工程として、上記塗布液から作製された塗膜を焼成し、当該塗膜を、上記活性層となる複合酸化物に転換させる焼成工程を含むことを特徴とする。つまり、本実施態様の電界効果トランジスタの製造方法は、半導体特性が求められる電界効果トランジスタの活性層を、上記塗布液から形成させることを特徴とする。
【0050】
本実施態様の電界効果トランジスタの製造方法では、活性層を形成させる工程を除き、公知の方法を採用することができる。このような方法の一例として、基板の表面に形成されたゲート電極の表面にゲート絶縁膜を形成させ、次いでゲート絶縁膜の表面に活性層を形成させた後、ソース電極及びドレイン電極を互いに離間した状態で活性層に接合させることが挙げられる。ゲート絶縁膜及び各電極を構成する材料としては、公知のものを特に制限なく使用することができる。
【0051】
ゲート絶縁膜の表面に形成される活性層は、既に説明した複合酸化物膜である。ゲート絶縁膜の表面にこうした複合酸化物を形成させる方法は、既に説明した、基板の表面に複合酸化物膜を形成させる方法と同様であるから、ここでの説明を省略する。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
[塗布液の調製]
表1〜4に記載の配合にて各種原料を混合し、実施例1〜21及び比較例1〜8の塗布液を調製した。
塗布液の調製において、金属源として使用した化合物は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)及び亜鉛(Zn)の化合物であり、その化合物の種類は、表1〜4のIn、Ga及びZnと表示された行に示した通りである。これらの行に記載された名称のうち、キレートAはアセチルアセトン配位子が配位した化合物、塩Aは酢酸塩、キレートBはアセト酢酸メチル配位子が配位した化合物、塩Bは硝酸塩をそれぞれ意味する。
金属源として使用した化合物(In化合物、Ga化合物及びZn化合物)の塗布液中の濃度は、In化合物、Ga化合物及びZn化合物の複合有機金属化合物の合計量として0.08mol/Kgであり、その合計量に対するそれぞれの化合物の添加量(比率)を表1〜4に「In/Ga/Zn比」として示した。
【0054】
塗布液の調製において、溶媒として使用した化合物は、表1〜4の溶媒1及び溶媒2と表示された行に示した通りである。溶媒を1種類のみ使用した場合には、溶媒1欄にのみ溶媒名を記載し、溶媒を2種類使用した場合には、溶媒1欄及び溶媒2欄に溶媒名及びその溶媒の混合比を記載した。各溶媒名は、EGDMがエチレングリコールジメチルエーテルであり、PGPがプロピレングリコールモノプロピルエーテルであり、BCがブチルセロソルブ(商品名、化学名:エチレングリコールモノブチルエーテル)であり、CHがシクロヘキサノンであり、GBLがγ−ブチロラクトンである。
【0055】
塗布液の調製において、添加剤として使用した化合部は、表1〜4の添加物と表示された行に示した通りである。各添加剤名は、DEtAがジエチルアミンであり、MMAが2−メチルエタノールアミンであり、MIPAがモノイソプロパノールアミンであり、DEAがジエタノールアミンであり、MEAがモノエタノールアミンであり、AcAcがアセチルアセトンである。これらの添加剤のうち、DEtA、MMA、MIPA、DEA及びMEAが本発明における(B)成分に対応する。なお、塗布液における添加剤のモル濃度は、AcAcを除いてZn化合物のモル濃度と同じであり、AcAcは金属化合物の合計モル濃度に対して表4に記載の数値の倍率のモル濃度とした。
【0056】
実施例1〜21及び比較例1〜8の塗布液を、それぞれ、SiO基板に塗布し、これを乾燥させることで塗膜を形成させ、次いで得られた塗膜を表1〜4に記載した焼成温度で60分間、空気中で焼成して、焼成後膜厚が45nmの複合酸化物膜を得た。
【0057】
得られた複合酸化物膜の表面状態を電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名S−5200)で観察し、その結果を表1〜4の表面状態欄に示した。なお、表1の表面状態欄において各評価結果として記載した記号は、それぞれ以下の内容を意味する。
○:複合酸化物膜の表面状態が均一であり、良好である
×:複合酸化物膜の表面に欠陥、ストリエーション等が存在し、表面状態が不均一である
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
表1〜4に示すように、本発明の塗布液を使用することにより、金属の硝酸塩を使用した塗布液よりも低温の焼成条件で、良好な表面状態を有する複合酸化物膜を得ることができる。このため、本発明の塗布液を使用することにより、耐熱性のやや劣る基材の表面に対しても、塗布及び焼成という簡便な手順で良好な複合酸化物膜を形成させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム(In)のキレート化合物(I)、亜鉛(Zn)のキレート化合物又は酢酸塩(Z)、及び有機溶媒(A)を含む複合酸化物膜形成用の塗布液。
【請求項2】
さらに、ガリウム(Ga)のキレート化合物(G)を含む請求項1記載の複合酸化物膜形成用の塗布液。
【請求項3】
前記有機溶媒(A)が、下記式(a1)で表される化合物と環状ケトン化合物とからなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項1又は2記載の複合酸化物膜形成用の塗布液。
【化1】

(式(a1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、水素原子又はアシル基であり、nは、1〜4の整数である。)
【請求項4】
さらに塩基性化合物(B)を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の複合酸化物膜形成用の塗布液。
【請求項5】
前記塩基性化合物(B)が、炭素数1〜8のアルキルアミン及び炭素数1〜8のアルカノールアミンからなる群より選択される少なくとも1つである請求項5記載の複合酸化物膜形成用の塗布液。
【請求項6】
前記(I)に含まれるIn、前記(G)に含まれるGa及び前記(Z)に含まれるZnの元素比が、Inを1.0とした場合に、Gaが0〜2.0かつZnが0.1〜2.0である請求項1〜6のいずれか1項記載の複合酸化物膜形成用の塗布液。
【請求項7】
基板の表面に複合酸化物の膜を製造する方法であって、
前記基板の表面に、請求項1〜7のいずれか1項記載の複合酸化物膜形成用の塗布液を塗布して塗膜を形成させる塗膜形成工程と、
前記塗膜を焼成することにより、前記塗膜を複合酸化物に転換させる焼成工程と、
を含む複合酸化物膜の製造方法。
【請求項8】
ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極が接合された活性層と、前記活性層及び前記ゲート電極の間にゲート絶縁膜と、を備える電界効果トランジスタの製造方法であって、
前記活性層を形成させる工程として、請求項1〜7のいずれか1項記載の複合酸化物膜形成用の塗布液から作製された塗膜を焼成し、当該塗膜を、前記活性層となる複合酸化物膜に転換させる焼成工程を含む電界効果トランジスタの製造方法。

【公開番号】特開2012−174718(P2012−174718A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32103(P2011−32103)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】