説明

親油性のペプチドホルモン誘導体

【課題】クリアランス速度が高く、反復投与を必要とするペプチドホルモンの放出特性を改善し、持続的作用特性を持つ類縁体を提供する。
【解決手段】親ペプチドホルモンのN末端のアミノ酸に親油性置換基W、またはC末端のアミノ酸に親油性置換基Zを導入することにより、修飾された薬理学的活性をもつペプチドホルモンまたはその類縁体であって、前記親油性置換基WとZが8〜40の炭素原子をもち、持続的作用特性を有するペプチドホルモンまたはその類縁体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、持続的作用特性を有する新規ペプチドホルモン誘導体およびその類縁体ならびにそれらの製造方法および使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ペプチドホルモンは、医療において広く用いられており、組み換えDNA技術により製造できるため、その重要性は今後も増大すると予想されている。天然のペプチドホルモンまたはその類縁体を治療に用いると、一般的にそれらのクリアランス速度は、高いことが分かる。治療薬のクリアランス速度が高いことは、長期間にわたって高い血中レベルを維持することが望まれる場合には反復投与を要することになるため、不都合である。高いクリアランス速度をもつペプチドホルモンの例として、:副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチコトロピン放出因子、アンギオテンシン、カルシトニン、インシュリンならびにその断片および類縁体、グルカゴン、グルカゴン様ペプチドならびにその類縁体および断片、インシュリン様増殖因子1(IGF-1)、インシュリン様増殖因子2(IGF-2)、エンテロガストリン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ソマトメジン、副甲状腺ホルモン、トロンボポイエチン、エリスロポイエチン、視床下部性放出因子、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、エンドルフィン類、エンケファリン類、バソプレッシン、オキシトシン、オピオイド類およびそれらの類縁体、スーパーオキシドジスムターゼ、インターフェロン、アスパラギナーゼ、アルギナーゼ、アルギニンデアミナーゼ、アデノシンデアミナーゼおよびリボヌクレアーゼがある。
【0003】
適切な薬学的組成物を利用することによって、ペプチドホルモンの放出特性(release profile)に影響を与えることが可能な場合もあるが、このアプローチは様々な欠点をもち、一般的には適用できない。そのため、ペプチドホルモンの投与における分野では、いまだ改良が必要とされている。
【発明の開示】
【0004】
発明の概要
本明細書において、ペプチドという用語は、小ペプチド、ポリペプチド、およびタンパクの全てを意味する。ペプチドおよびペプチドホルモンという用語は、天然および合成ペプチドホルモンならびにそれらの断片および類縁体を意味する。類縁体とは、親ペプチドの1以上のアミノ酸が欠失、もしくは他のアミノ酸で置換されているか、または1以上のアミノ酸が付加されており、質的に(必ずしも量的であることは要しない)親ペプチドと同じ薬理学的効果を維持しているものをいう。
【0005】
本発明は、持続的作用特性をもつペプチドホルモンの新規誘導体に関する。
【0006】
このため、最も包括的にいえば、本発明は、天然のペプチドホルモンまたはその類縁体のN末端またはC末端アミノ酸のいずれかに、8以上40以下の炭素原子を含む親油性置換基を導入して修飾した薬理学的活性を有するペプチドホルモンである。ただし、前記親油性置換基は、N末端のアミノ基に付着したとき負に帯電し得る基を含み、さらに前記ペプチドホルモンは、インシュリンまたはその類縁体ではない。
【0007】
本発明の1つの好適な実施態様によれば、親油性基Wに含まれるカルボキシル基は、親ペプチドのアミノ酸のN末端のα−アミノ基とアミド結合を形成する。
【0008】
本発明の他の好適な実施態様によれば、親油性基Wに含まれるカルボキシル基は、N末端のリジンのε−アミノ基とアミド結合を形成する。
【0009】
本発明の他の好適な実施態様によれば、親油性基Wは、スペーサーおよび巨大な親油性置換基からなっている。好ましくは、スペーサーは、コハク酸、グルタミン酸またはアスパラギン酸である。好ましくは、巨大な親油性置換基は、アミノ基を有するものをも含む直鎖脂肪酸である。コハク酸をスペーサーとして用いたときには、カルボキシル基のうちの一つは、親ペプチドのN末端のアミノ酸中のアミノ基とアミド結合を形成し、もう一方のカルボキシル基は巨大な親油性基中のアミノ基とアミド結合を形成する。グルタミン酸またはアスパラギン酸が、スペーサーとして用いられたときには、カルボキシル基のうち1つは、親ペプチドのN末端のアミノ酸中のアミノ基とアミド結合を形成し、巨大な親油性置換基は、好ましくは、直鎖脂肪酸または一部もしくは全部が水素化されたシクロペンタノフェナントレン骨格を含む酸のアシル基であり、そのアシル基が、スペーサーのアミノ基に付着している。
【0010】
本発明の他の好適な実施態様によれば、親油性基Zに含まれるアミノ基は、親ペプチドのC末端のアミノ酸のカルボキシル基とアミド結合を形成する。
【0011】
本発明の他の好適な実施態様によれば、Zは、アミノ基を有する直鎖脂肪酸である。
【0012】
本発明の他の好適な実施態様によれば、Zは、負に帯電し得る基を有する。
【0013】
本発明の他の好適な実施態様によれば、Zは、遊離のカルボン酸基を有する。
【0014】
本発明の他の好適な実施態様によれば、親油性基Zは、スペーサーおよび巨大な親油性置換基からなる。好ましくは、スペーサーは、リジン、グルタミン酸、またはアスパラギン酸である。リジンがスペーサーとして用いられるときは、1つの好適な実施態様において、巨大な親油性置換基は、直鎖脂肪酸または一部もしくは全部が水素化されているシクロペンタノフェナントレン骨格を含有する酸のアシル基であり、そのアシル基がスペーサー群のアミノ基に付着している。さらなる好適な実施態様において、リジンをスペーサーとして用いるときには、リジンのε−アミノ基と巨大な親油性置換基との間に、さらにスペーサーが挿入される。1つの好適な実施態様において、このようにさらに挿入されるスペーサーは、コハク酸であり、リジンのε−アミノ基および巨大な親油性置換基中のアミノ基とアミド結合を形成する。他の好適な実施態様においては、このようにさらに挿入されるスペーサーは、グルタミン酸またはアスパラギン酸であり、リジンのε−アミノ基、さらに巨大な親油性置換基中のカルボキシル基とアミド結合を形成する。ここで、前記親油性置換基は、好ましくは、直鎖脂肪酸または一部もしくは全部が水素化されたシクロペンタノフェナントレン骨格を有する。
【0015】
他の好適な実施態様においては、本発明は、当該発明のペプチド誘導体を薬剤として使用することに関する。
【0016】
他の好適な実施態様においては、本発明は、当該発明のペプチド誘導体を含有する薬剤に関する。
【0017】
他の好適な実施態様においては、本発明は、薬理学的受容能をもつキャリアーとともに、当該発明によるIGF−1誘導体を治療的有効量含んでなる治療を必要とする患者の骨粗鬆症を治療するための薬学的組成物に関する。
【0018】
他の好適な実施態様においては、本発明は、患者に薬理学的受容能をもつキャリアーとともに、当該発明によるIGF−1誘導体を治療的有効量投与することを含んでなる治療を必要とする患者の骨粗鬆症を治療する方法に関する。
【0019】
本発明に関連する親ペプチドのうち興味深い例は、以下のとおりである:
副腎皮質刺激ホルモン、コルチコトロピン放出因子、アンギオテンシン、カルシトニン、インシュリンならびにその断片および類縁体、グルカゴン、グルカゴン様ペプチドならびにその類縁体および断片(例えばGLP-1およびGLP-2ならびにその類縁体および断片)、インシュリン様増殖因子1、インシュリン様増殖因子2、エンテロガストリン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ソマトメジン、副甲状腺ホルモン、トロンボポイエチン、エリスロポイエチン、視床下部性放出因子、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、エンドルフィン類、エンケファリン類、バソプレッシン、オキシトシン、オピオイド類およびそれらの類縁体、スーパーオキシドジスムターゼ、インターフェロン、アスパラギナーゼ、アルギナーゼ、アルギニンデアミナーゼ、アデノシンデアミナーゼおよびリボヌクレアーゼ。
【0020】
特に好適なIGF−1およびIGF−1類縁体の誘導体の例は以下の通りである:
Lys68(Nε−テトラデカノイル)デス(69,70)ヒトIGF-1;
Lys68[Nε-γ-Glu(Nα−ヘキサデカノイルOH)]−OH デス(69,70)ヒトIGF-1;
Lys69(Nε−テトラデカノイル)デス(70)ヒトIGF−1;
Ser69−NH(CH2nCOOH デス(70)ヒトIGF−1(ここで、nは12以上24以下の整数);
Ser69−NH(CH2nCH3 デス(70)ヒトIGF−1(ここで、nは12以上24以下の整数);
Lys71(Nε−テトラデカノイル)ヒトIGF−1;
Ala70−NH(CH2nCOOH ヒトIGF−1、(ここで、nは12以上24以下の整数);および
Ala70−NH(CH2nCH3 ヒトIGF−1、(ここで、nは12以上24以下の整数)。
【0021】
好適なソマトスタチン誘導体は以下である:
Ala-Gly-Cys-Lys-Asn-Phe-Phe-Trp-Lys-Thr-Tyr-Thr-Ser-Cys-Lys[Nε-γ-Glu(Nα−テトラデカノイル−OH)]−OH(2つのシステイン残基は、ジスルフィド架橋で結合している)。
【0022】
好適なGLP-1誘導体は以下である:
His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Lys-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Lys[Nε-γ-Glu(Nα-テトラデカノイル)-OH]-OH。
【0023】
好適なANP類縁体は以下である:
Ser-Leu-Arg-Arg-Ser-Ser-Cys-Phe-Gly-Gly-Arg-Met-Asp-Arg-Ile-Gly-Ala-Gln-Ser-Gly-Leu-Gly-Cys-Asn-Ser-Phe-Arg-Tyr-Lys[Nε-γ-Glu(Nα-テトラデカノイル)-OH]-OH。
【0024】
好適なダイノルフィン類縁体の誘導体の型は以下である:
Tyr-Gly-Gly-Phe-Cys-Arg-Arg-D-Ala-Arg-Pro-Cys-NH-(CH2)nCOOH(ここで、nは8以上24以下の整数)。
【0025】
好適なエンテロガストリンの誘導体は以下である:
H-Ala-Pro-Gly-Pro-Arg-Lys(Nε-テトラデカノイル)-OH。
【0026】
発明の詳細な説明
薬学的組成物
本発明によるペプチド誘導体を含む薬学的組成物は、治療を要する患者に、非経口的に投与し得る。非経口投与は、注射器(ペン状注射器も可)を用いた皮下、筋肉内または静脈内注射によりなし得る。あるいは、非経口投与は、注入用ポンプを用いて行ってもよい。さらに、点鼻スプレーの形でペプチド誘導体を投与するために、組成物は、粉末または液体とすることもできる。さらにまた、ペプチド誘導体は、経皮的に投与してもよい。
【0027】
本発明の化合物を含有する薬学的組成物は、例えば、1985年のRemington's Pharmaceutical Sciencesに記載されているような従来技術によって、調製し得る。
【0028】
このため、本発明のペプチド誘導体の注射可能な組成物は、希望の最終産物を得るための添加物の溶解および混合を含む製薬産業の従来技術を用いて、適切に調製し得る。
【0029】
このため、1つの手順に従えば、ペプチド誘導体は、調製すべき組成物の最終容量よりわずかに少ない量の水に溶解される。必要なものとして等張剤(isotonicagents)、防腐剤および緩衝液が添加され、必要なら、酸(例えば塩酸)または塩基(例えば水酸化ナトリウム水溶液)を用いてpH値を調整する。最後に、溶液の容量を水で調整し、成分を希望の濃度にする。
【0030】
等張剤の例としては、塩化ナトリウム、マニトールおよびグリセロールがある。
【0031】
防腐剤の例としては、フェノール、m−クレゾール、メチルp−ヒドロキシ安息香酸、およびベンジルアルコールがある。
【0032】
適当な緩衝液の例としては、酢酸ナトリウムおよびリン酸ナトリウムがある。
【0033】
ある種のペプチドホルモンの点鼻投与用の組成物は、例えば、(ノボノルディクス A/Sに対する)European Patent第272097号に記載されているように調製し得る。
【0034】
この発明のペプチド誘導体は、様々な疾病の治療に用いることができる。使用すべきペプチド誘導体および患者に対する至適量のレベルは、治療すべき疾病;用いる該ペプチド誘導体の効力、年齢、体重、身体の活力、患者の食事を含む種々の要因;他の薬物との組み合わせ;患者の重症度などに依存する。本発明のペプチド誘導体の投薬量は、他の既知のペプチドホルモンと同様、その分野の熟練者によって、各患者ごとに決定することが望ましい。
【0035】
以下の実施例によって、さらに本発明の説明を行うが、これは保護の範囲を制限するものと解するべきではない。前記の記載および以下の例中で開示される特徴は、これらを独立でまたは任意に組み合わせて、本発明を多様な形態で実施するための基礎となろう。
【実施例】
【0036】
略称
Fmoc:9−フルオレニルメチルオキシカルボニル
For:ホルミル
Dde:1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロヘキシリジン)−エチル
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
Tbu:tert−ブチル
Acm:アセトアミドメチル
DIC:N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド
HOBT:1−ヒドロキシベンゾトリアゾール
TFA:トリフルオロ酢酸。
【0037】
分析
産物の分子量は、Bio-Ion 20装置(Bio-Ion Nordic AB、Uppsala, Sweden)を用いたプラズマ脱着質量分析(PDMS)により得た。
【0038】
親油性の決定
ヒトインシュリンに対するペプチドおよびペプチド誘導体の相対的親油性(K'rel)は、A)10%アセトニトリルを含む0.1M リン酸ナトリウム緩衝液、pH7.3、B)溶出用の50%アセトニトリル水溶液の混合液を用いた、LiChrosorb RP18(5μm、4×250mm)高速液体クロマトグラフィーカラムを、40℃で無勾配溶出させて測定した。溶出物は、214nmでの溶出液の紫外線吸収を観測することによってモニターした。空隙時間(vold time;t0)は、0.1mM 硝酸ナトリウムを注入して決定した。ヒトインシュリンの保持時間(tinsulin)は、A溶液とB溶液の比率を変えて、少なくとも2t0になるように調整した。
【0039】
K' rel=(tderivative−t0)/(tinsulin−t0)。
【0040】
実施例1
For-Nle-Leu-Phe-Nle-Tyr-Lys(Nε-テトラデカノイル)-OHの合成
For-Nle-Leu-Phe-Nle-Tyr-Ly-OHは、Bachem Feinchemikalien AG、スイスから購入した。本ペプチドは、ヒト好中球の強力な化学誘因物質である。表題の化合物は、17mgのFor-Nle-Leu-Phe-Nle-Tyr-Lys-OHを5mlのDMFに溶解し、その後35μlのトリエチルアミン、さらに20mgの固体のテトラデカノイン酸サクシニミジル−N−ヒドロキシ−エステルを添加して調製する。反応は、逆相C18シリカ物質を充填したカラムを用いた逆相高速液体クロマトグラフィーでモニターした。溶出には、0.1%TFA水溶液中のエタノールを30%から80%にする勾配を使用した。産物は、逆相C18シリカ材を充填したカラム(長さ250mm、直径20mm)で精製した。得られた化合物は、74%エタノール/0.1%TFA水溶液に溶かし、次にカラムにかけ、温度40℃、流速6ml/時間で、同じ緩衝液を用いて、イソクラティック溶出で精製した。収量は、20mgであった。化合物の同定は、PDMSによって確認した。
【0041】
PDMSによって示された分子量:1034、理論値:1034
ヒトインシュリンに対する表題の化合物の親油性は、8.2×103であった。
【0042】
参照
参照物質、For-Nle-Leu-Phe-Nle-Tyr-Lys-OHは、Bachem Feinchemikalien AG、スイスから購入し、そのまま用いた。ヒトインシュリンに対する参照物質の親油性は、2.3であった。
【0043】
実施例2
H-Tyr-D-Ala-Gly-Phe-Leu-Lys(Nεテトラデカノイル)-OHの合成
エンケファリン誘導体、H-Tyr-D-Ala-Gly-Phe-Leu-Lys(Nεテトラデカノイル)-OHは、(A-2435 Bachem Feinchemikalien AG、スイス)から作成された。Boc-Tyr-D-Ala-Gly-Phe-Leu-Lys-OHは、実施例1で述べたように、テトラデカノイン酸サクシニミジル−N−ヒドロキシエステルでアシル化した。反応混合液は、乾燥するまで蒸発させ、残存物をTFAに溶解し、これを乾燥するまで蒸発させ、エタノール/水/0.1%に溶かし込んで実施例1の記述のように逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製した.、収量は、15mgであった。
【0044】
PDMSで求めた分子量:909、理論値:907
ヒトインシュリンに対する表題の化合物の親油性は、2.3×103であった。
【0045】
参照
参照物質、H-Tyr-D-Ala-Gly-Phe-Leu-Lys-OH は、20mgのBoc-Tyr-D-Ala-Gly-Phe-Leu-Lys-OHを200μlのTFAに溶かし、乾燥するまで蒸発させることにより、合成した。残存物を5%酢酸に溶解させ、凍結乾燥した。ヒトインシュリンに対する参照物質の親油性は、3.0×10-3であった。
【0046】
実施例3
H-Pro-His-Pro-Phe-His-Phe-Phe-Val-Tyr-Lys(Nεテトラデカノイル)-OHの合成
Fmoc- Pro-His-Pro-Phe-His-Phe-Phe-Val-Tyr-Lys-OH ( Bachem Feinchemikalien AG、スイスより入手)は、レニンの強力な阻害剤であり、実施例1で述べたように、テトラデカノイン酸サクシニミジル−N−ヒドロキシ−エステルと反応させた。アシル化反応後、Fmoc基は、反応混合液に最終濃度20%になるようにピペリジンを添加して、除去した。表題の化合物は、実施例1に記載したように逆相高速液体クロマトグラフィーで分離した。収量は、23mgであった。
【0047】
PDMSで求めた分子量:1529.6、理論値:1529
ヒトインシュリンに対する相対的親油度は、5.3×103であった。
【0048】
参照
参照物質、H-Pro-His-Pro-Phe-His-Phe-Phe-Val-Tyr-Lys-OHは、Fmoc-Pro-His-Pro-Phe-His-Phe-Phe-Val-Tyr-Lys-OH(Bachem Feinchemikalien AG、スイスより入手)から合成した。具体的には、20mgのFmoc-Pro-His-Pro-Phe-His-Phe-Phe-Val-Tyr-Lys-OHを500μlの20%ビペリジンのDMF溶液に溶解し、20分放置した。参照物質は、実施例1に記載したように逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製した。
【0049】
ヒトインシュリンに対する参照物質の相対的親油度は、2.3×102であった。
【0050】
実施例4
Arg4、Arg9、Lys15(Nε-テトラデカノイル)ソマトスタチンの合成
表題の物質は、Saxon Biochemicals GMBH、ハノーバー、ドイツから入手した Fmoc-Arg4、Arg9、Lys15ソマトスタチンから合成した。50mgのFmoc-Arg4、Arg9、Lys15ソマトスタチンを346μlのDMFと53.9μlの4−メチルモルフォリンの混合液に溶かした。混合液を15℃に冷やし、100μlのDMFに溶かした15.9mgのテトラデカノイン酸サクシニミジル−N−ヒドロキシ−エステルを添加した。反応は、3時間20分進行させた後、5%酢酸のDMF溶液を4140μl添加して停止させた。表題の化合物は、逆相高速液体クロマトグラフィーを用いて、以下のように精製した:サンプルは、Lichrosorb RP-18(7μm)Merck、ドイツ、Art.9394.カラム(10×250mm)にかけた。カラムは、90%の緩衝液A(5omM tris、75mM (NH42SO4、硫酸でpH7.0に調整、20%アセトニトリル)と10%の緩衝液B(80%アセトニトリル)の混合液で平衡化されたものである。サンプルをカラムにのせて、流速4ml/時間、40℃で緩衝液A中の緩衝液Bの濃度を10%から90%にする線形勾配で溶出した。表題化合物を含む画分を乾燥するまで蒸発させ、50%酢酸に溶解し、4℃でBIO GEL P2(BIO RAD、カリフォルニア、アメリカ)カラムを使用したゲル濾過によって脱塩した。希望する産物を含む画分を水で希釈し、凍結乾燥した。収量は、2mgであった。化合物の同定は、PDMSにより確認した。
【0051】
PDMSで求めた分子量:2033、理論値:2032。
【0052】
豚における延長効果の測定
実施例4の表題ペプチドをボールトンとハンターの試薬(Boulton &Hunters'reagent;Boulton、A.E.and Hunter、W.M.(1973))を用いて、以下のように125Iでラベルした:
50nmolのペプチドを1mlのDMSOに溶解した後、400μlのDMFと2μlのN−エチルイソプロピルアミンを添加する。500μCiの放射能を含むボールトンとハンターの試薬に溶液を添加する。反応を20分間進行させ、エタノールアミンのDMF溶液10μlを加える。得られたポリペプチドを、上述のように流速1ml/分で、カラム(4×250mm)を用いた逆相高速液体クロマトグラフィーで精製、単離した。
【0053】
延長効果を測定するために、豚における消失速度を調べ、T50%を決定した。T50%、とは、外部のガンマカウンターを用いて測定したとき、注入部位から125Iでラベルしたペプチドのうちの50%が消失する時間である(Ribel、Uら、The Pigas a Model for Subcutaneous Absorption in Man.:M.Serrano-Rios、P.J.Lefebre(Eds):Diabetes 1985;Proceeding of the 12th Congress of the International Diabetes Federation,Madrid 、 Spain 、 1985(Excerpta Medica 、Amseterdam(1986)891-96)。
【0054】
豚の皮下に注射した125Iでラベルしたペプチド誘導体は、T50%が1.7±0.5時間(n=4)であったが、テトラデカノイル化されていない125Iでラベルしたペプチドでは0.7±0.1時間であった。
【0055】
参照
125Iでラベルした参照ペプチドは、Fmoc-Arg4、Arg9、Lys15ソマトスタチンから合成された。具体的には、20mgのFmoc-Arg4、Arg9、Lys15ソマトスタチンを1000μlの20%ピペリジン/DMFに溶解した。20分後、産物を逆相高速液体クロマトグラフィーで精製、脱塩、凍結乾燥し、実施例4で述べたようにボールトンとハンターの試薬でラベルする。
【0056】
実施例5
Lys15(Nε−テトラデカノイル)心房性ナトリウム利尿ペプチドの合成
ヒト(H-Ser-Leu-Arg-Arg-Ser-Ser-Cys-Phe-Gly-Gly-Arg-Met-Asp-Arg-Ile-Gly-Ala-Gln-Ser-Gly-Leu-Gly-Cys-Asn-Ser-Phe-Arg-Tyr-Lys(Nε-テトラデカノイル)−COOHは、標準的Fmoc固相ペプチド合成(Methods in Molecular Biology、Vol.35:Peptide syntheis Protocols)により合成した。C末端のリジンのε−アミノ基は、下記の手順に従ってテトラデカノイン酸サクシニミジル−N−ヒドロキシ−エステルを用いてアシル化した。合成は、ポリオキシエチレンを植え付けたた低架橋度のポリスチレンをベースとした樹脂(TentaGel Resin)上で、ポリプロピレンの注射器の中で手動でなされた。
【0057】
手順:
1グラムの樹脂に、3倍等量の酸に弱いであるリンカ−4−ヒドロキシメチルフェノキシ酢酸(HMPA)を添加する。活性化試薬として0.5倍等量の4-ジメチルアミノピリジン存在下、3倍等量のFmoc−Lys(Dde)−OHを第一のアミノ酸として結合させた。保護基であるFmocを20%ピペリジン/DMFを30分間作用させて、切断する。他の全てのアミノ酸は、活性化試薬としてDICとHOBTを1:1で混合したDMF溶液を用いて、Nα−Fmocで保護したアミノ酸の形で結合させた。アミノ酸のうちシステインは、Fmoc−Cys(Acm)−OHの形で結合させた。システインの保護基をはずし、10mMヨードのDMF溶液で2分間処理して酸化した。最後のFmoc保護基を除去した後、最後に結合したアミノ酸のNα基を、5倍等量のジ−tert−ブチルジ炭酸と結合させにより、Boc基で保護した。Nε−LysのDde保護基は、20分間、2%ヒドラジン/DMFで処理して切断し、遊離のNε基は、5倍量のテトラデカノイン三サクシニジミルN−ヒドロキシエステルを用いて切断した。Boc−、tBu保護基、HMPAリンカーは、1.5時間、95%TFA、5%水を作用させてアシル化した。TFA/水は、減圧下で蒸発させ、ペプチドはジエチルエーテル中でHCl塩として沈殿させて、10mM 炭酸水素アンモニウム(pH8.8)から凍結乾燥した。総収量は、35mgであった。、N末端の配列決定により、産物は正しい配列をもっていることが示された。
【0058】
PDMSによって示された分子量:3417
これは計算で求めた分子量にナトリウムを加えたものに相当する。
【0059】
実施例6
Lys30(Nε−デカノイル)グルカゴン
表題の化合物は、Saxon Biochemicals GMBH、ハノーバー、ドイツに合成を依頼し、購入した。
【0060】
4.32mgのLys30(Nε−デカノイル)グルカゴン(グルカゴン4mgに相当)を0.9%塩化ナトリウムを添加した1.8mM塩酸4ml(pHの測定値は、2.7)に溶解した。得られた溶液を濾過により除菌し、小瓶にうつした。
【0061】
2群のウサギ(n=6)に、1匹につき2IUのインシュリン アクトラピッド(Insulin Actrapid)を−60分に注射した。0分において、グループ1には、ウサギ1匹につきのモル等量のLys30(Nε−デカノイル)グルカゴン0.54mgを皮下に、グループ2には、ウサギ1匹につき0.5mgのグルカゴンを皮下に投与した。血液は、−60,0,15,30,60,120,180および240分に採取し、グルコース濃度をヘキソキナーゼ法で決定した。得られた血液のグルコース濃度を表にmg glucose/100mlの単位で示した。
【表1】

【0062】
表から明らかなように、グルカゴンの血中グルコースを上昇させる効果が、Lys30(Nε−デカノイル)グルカゴンで保持され、作用も延長している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬理学的活性を有するペプチドホルモン誘導体またはその類縁体であって、親ペプチドのN末端アミノ酸への親油性置換基Wの導入または親ペプチドのC末端アミノ酸への親油性置換基Zの導入により親ペプチドホルモンが修飾されており、前記親油性基は8以上40以下の炭素原子を有するペプチドホルモン誘導体またはその類縁体(ただし、前記親油性置換基は、N末端のアミノ基に付着したとき負に帯電し得る基を含み、さらに前記ペプチドホルモンはインシュリンまたはその類縁体ではない)。
【請求項2】
請求項1に記載のペプチドホルモン誘導体であって、前記親油性基Wが存在するペプチドホルモン誘導体。
【請求項3】
請求項2に記載のペプチドホルモン誘導体であって、前記Wが、12以上35以下のの炭素原子を有するペプチドホルモン誘導体。
【請求項4】
請求項1に記載のペプチドホルモン誘導体であって、前記Zが存在するペプチドホルモン誘導体。
【請求項5】
請求項4に記載のペプチドホルモン誘導体であって、前記Zが、12以上35以下の炭素原子を有するペプチドホルモン誘導体。
【請求項6】
請求項1に記載のペプチドホルモン誘導体であって、前記親ペプチドホルモンが、副腎皮質刺激ホルモン、コルチコトロピン放出因子、アンギオテンシン、カルシトニン、グルカゴン、グルカゴン様ペプチドならびにその類縁体および断片、インシュリン様増殖因子1、インシュリン様増殖因子2、エンテロガストリン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ソマトメジン、副甲状腺ホルモン、、トロンボポイエチン、エリスロポイエチン、視床下部性放出因子、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、エンドルフィン類、エンケファリン類、バソプレッシン、オキシトシン、オピオイド類およびそれらの類縁体、スーパーオキシドジスムターゼ、インターフェロン、アスパラギナーゼ、アルギナーゼ、アルギニンデアミナーゼ、アデノシンデアミナーゼおよびリボヌクレアーゼからなる群から選択されるペプチドホルモン誘導体。
【請求項7】
請求項2に記載のペプチドホルモン誘導体であって、前記Wに含有されるカルボキシル基が、N末端のαアミノ基とアミド結合を形成しているペプチドホルモン誘導体。
【請求項8】
請求項2に記載のペプチドホルモン誘導体であって、前記Wに含有されるカルボキシル基が、N末端のリジンのε−アミノ基とアミド結合を形成しているペプチドホルモン誘導体。
【請求項9】
請求項2に記載のペプチドホルモン誘導体であって、前記WがCH3(CH2)n((CH2)mCOOH)CHNH-CO(CH2)2CO-であり、nおよびmが整数で、炭素原子が8以上40以下、好ましくは12以上35以下であるペプチドホルモン誘導体。
【請求項10】
請求項2に記載のペプチドホルモン誘導体であって、前記Wは、一般式がCH3(CH2)rCO-NHCH(COOH)(CH2)2CO-の基であり、前記rが10以上24以下の整数であるペプチドホルモン誘導体。
【請求項11】
請求項2に記載のペプチドホルモン誘導体であって、前記Wは、一般式がCH3(CH2)sCO-NHCH((CH2)2COOH)CO-の基であり、前記sが8以上24以下の整数であるペプチドホルモン誘導体。
【請求項12】
請求項4に記載のペプチドホルモン誘導体であって、前記Zに含有されるアミノ基が、C末端アミノ酸のカルボキシル基とアミド結合を形成しているペプチドホルモン誘導体。
【請求項13】
請求項4に記載のペプチドホルモン誘導体であって、前記Zは、一般式-NHCH(COOH)(CH2)4NH-CO(CH2)mCH3の基であり、前記mが8以上18以下の整数である、すなわちZがNε−アシルリジン残基であるペプチドホルモン誘導体。
【請求項14】
請求項4に記載のペプチドホルモン誘導体であり、前記Zは、一般式が-NHCH(COOH)(CH2)4NH-CONH((CH2)2COOH)NH-CO(CH2)pCH3の基であり、前記pが10以上16以下の整数であるペプチドホルモン誘導体。
【請求項15】
請求項4に記載のペプチドホルモン誘導体であり、前記Zは、一般式が-NHCH(COOH)(CH2)4NH-CO(CH2)2CH(COOH)NH-CO(CH2)qCH3の基であり、前記qが10以上16以下の整数であるペプチドホルモン誘導体。
【請求項16】
請求項4に記載のペプチドホルモン誘導体であり、前記Zは、一般式-NHCH(COOH)(CH2)4NH-CO(CH2)2CH(COOH)NHCO(CH2)tCH3の基であり、前記tが0または1以上22以下の整数であるペプチドホルモン誘導体。
【請求項17】
請求項4に記載のペプチドホルモン誘導体であり、Gly-Lysジペプチドの形態のスペーサーが、親油性基Zと親ペプチドホルモンとの間に挿入されているペプチドホルモン誘導体。
【請求項18】
請求項4に記載のペプチドホルモン誘導体であり、前記Zは、一部または全部が水素化されたシクロペンタノフェナントレン骨格を含むペプチドホルモン誘導体。
【請求項19】
親ペプチドに比して持続的作用特性をもつ薬理学的活性を有するペプチドホルモン誘導体の製造方法であって、親ペプチドのN末端アミノ酸への親油性置換基Wの導入または親ペプチドホルモンのC末端アミノ酸への親油性置換基Zの導入により、親ペプチドホルモンを修飾することを含んでなり、前記親油性置換基は、8以上40以下の炭素原子を有する方法(ただし、親油性置換基がN末端アミノ基に付着したとき負に帯電し得る基を含むという条件、さらに前記ペプチドホルモンはインシュリンまたはその類縁体ではないという条件を満たす)。

【公開番号】特開2007−56023(P2007−56023A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−226151(P2006−226151)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【分割の表示】特願平8−527994の分割
【原出願日】平成8年3月18日(1996.3.18)
【出願人】(391032071)ノボ ノルディスク アクティーゼルスカブ (148)
【氏名又は名称原語表記】NOVO NORDISK AKTIE SELSXAB
【Fターム(参考)】