触針式段差計における差動トランス用コア及びその製造方法
【課題】切削加工で製作されるコアを組み込んだ差動トランスを用いた触針式段差計の変位雑音を小さくすることのできるコア及びその製造方法を提供する。
【解決手段】差動トランスのコア6は、切削加工により形成したパーマロイ製の円筒状本体の表面を研磨処理して表面粗さを1μmオーダー以下にして構成される。また、触針式段差計における本発明による差動トランス用コア6の製造方法は、パーマロイを切削加工により円筒状本体を形成し、円筒状本体の表面を研磨し、その後磁性焼鈍することを含む。
【解決手段】差動トランスのコア6は、切削加工により形成したパーマロイ製の円筒状本体の表面を研磨処理して表面粗さを1μmオーダー以下にして構成される。また、触針式段差計における本発明による差動トランス用コア6の製造方法は、パーマロイを切削加工により円筒状本体を形成し、円筒状本体の表面を研磨し、その後磁性焼鈍することを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の表面形状を測定する触針式段差計における変位センサに用いる差動トランス用コア及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
触針式段差計は、一般に、試料の段差、膜厚、表面粗さなどを測定するのに用いられており、その構造の一例としては、添付図面の図1〜図5に示すように、棒状の第1の支持部材1はその中間部位に左右両横方向にのびる支点用針取付け部材2を備え、支点用針取付け部材2の両端には二つの支点用針3が取付けられている。これら二つの支点用針3は二つの支点受け部材4(図5)で支持され、それにより第1の支持部材1は支点受け部材4に支点用針3を介して揺動自在に支持される。第1の支持部材1の一端には、変位センサ5の測定子すなわちコア6が取付けられている。この変位センサ5は探針の垂直方向変位に応じて電気信号を発生する差動トランスから成り、コイル7を備えている。
【0003】
また、第1の支持部材1の他端には、探針に針圧を加える針圧発生装置8のコア9が設けられ、針圧発生装置8はコイル10を備えている。コア9は、コイル10の中心から軸方向にずれた位置に配置した高透磁率部材から成っている。
【0004】
第1の支持部材1における支点用針取付け部材2の両端の二つの支点用針3を結ぶ線上を中心として、第1の支持部材1の下面には、二つの磁石11を埋め込んだホルダー12が取付けられている。ホルダー12は図3に示すように断面台形の長手方向溝13を備え、この長手方向溝13の両側壁は下方へ向ってテーパー状に開いており、水平平面に対して傾斜面を構成している。ホルダー12に埋め込まれた二つの磁石11は、図1に示すように極性が互いに逆向きになるように配置されている。二つの磁石11を内蔵したホルダー12は軽くするためにカーボンで構成されている。
【0005】
図1、図2及び図4において、14は棒状の第2の支持部材でありその先端には探針15が下向きに取付けられ、他端は高透磁率部材16で構成されている。高透磁率部材16の長手方向の両端には上向きにのびるガイド突起17が形成され、これらガイド突起17の対向側面は上方に向って開いた傾斜面として形成される。この高透磁率部材16の傾斜面はホルダー12における長手方向溝13の両側壁の傾斜面と共に、第1の支持部材1に第2の支持部材14を取付ける際の互いの位置決めを確保すると共にガイドの役割を果たしている。第2の支持部材14の他端における高透磁率部材16は第1の支持部材1におけるホルダー12の溝13に嵌るようにされ、その際に第2の支持部材14の他端における高透磁率部材16はホルダー12の溝の底面に接触し、二つの磁石11には接触しないように構成されている。
【0006】
第1の支持部材1及び第2支持部材14は慣性モーメントを小さくするために軽いカーボンで構成されている。一方、密度が高く質量が大きい第2支持部材14における高透磁率部材16及び第1の支持部材1におけるホルダー12内の磁石11は、支点まわりの慣性モーメントを小さくするために、支点の近くに配置している。
【0007】
さらに図3に示すように、第2支持部材14における高透磁率部材16の下側には板状部材18が設けられ、この板状部材18は磁場遮蔽効果を高めるため、高透磁率の材料で構成され、この板状部材18により交換部品を第1の支持部材1におけるホルダー12の溝13に傾けて近づけても正しい位置に収まるようにしている。
【0008】
上述のように第1の支持部材1におけるホルダー12に埋め込まれた磁石11は極性が逆になるように配置したことにより、磁気双極子が離れた場所に作る磁場が小さくなるので、差動トランス5、針圧発生装置8及び試料での磁場を小さくできる。また、この配置により磁石11の下部では磁力線が第2の支持部材14における高透磁率部材16の中を通るので、その下方及び探針位置の試料での磁場が小さくなる。
【0009】
図5には、支点用針3を受ける支点受け部材4の構造を拡大して示している。支点受け部材4は図示したように支点用針3を受ける凹面4aを備え、この凹面は逆円錐形状に構成され、支点用針3を精度よく位置決めして受けるようにされている。
【0010】
このように構成した図示触針式表面形状測定器においては、両端にそれぞれ変位センサ5及び針圧発生装置8を備え、二つの支点受け部材4に支点用針3を介して揺動自在に支持された第1の支持部材1のホルダー12に、両端にそれぞれ探針15及び高透磁率部材16を備えた第2の支持部材14を磁石の吸着力によって固定する。この場合、ホルダー12における長手方向溝13の両側壁の傾斜面と第2の支持部材14の高透磁率部材16におけるガイド突起17の対向傾斜面とにより、第2の支持部材14は第1の支持部材1のホルダー12に対して予定の位置に正確に位置決めして簡単に固定できる。
【0011】
そして、針圧発生装置8のコイル10に所定の電流を流すことにより、その電流の大きさに応じて力が発生され、この力により針圧発生装置8のコア9はコイル10の中心へ引き込まれる。それにより第1及び第2の支持部材1、14は支点用針3を介して揺動し、探針15を試料に押し当てる。試料又は検出系を走査することにより、探針15は試料表面をなぞり、その表面形状に応じて、固定された支点のまわりに第1及び第2の支持部材1、14が微小に回転運動し、差動トランス5のコア6の変位が検出され、このコア6の変位を探針15の針先の変位に換算することにより試料の表面形状や段差が測定される。
【0012】
図6には差動トランスの一例を示す。図示差動トランスは、円筒形コア20と、この円筒形コア20を通す開口部を備えたコイルボビン21とを有し、コイルボビン21には、コイル22が巻回されている。23は、コイルボビン21の開口部を除いて、コイル外寸に合わせてコイルを外から覆っているシールドである。
【0013】
ところで、差動トランスを用いた触針式段差計には、差動トランスのコアにパーマロイを用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。探針の段差形状への追随性を良くするために、支点の周りの慣性モーメントを小さくする必要があり、そのためコアは軽い方が良く、その形状として中空の円筒型が用いられる。そのような形状のコアの製作方法としては、従来、引抜き、深絞り、切削加工が知られている。コアは形状加工後、磁性焼鈍が施され、加工で生じた内部応力が緩和されて、透磁率を大きく、保持力を小さくし、磁気特性が向上される。例えば、特許文献1で、その固有雑音を示したコアは、引抜きまたは深絞りで製作されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許公開2008−122254
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
パーマロイのコアを切削加工で製作すると、磁性焼鈍を施してもコアの固有雑音が大きく、そのために変位センサの雑音が大きくなり、変位分解能が低下する。
【0016】
従来用いられてきた引抜きや深絞り加工では、固有雑音の小さいコアを製作することができ、同じ形状の部品を大量に製作するには向いているが、それらの方法では専用の型が必要であり、また前段階として製作のための条件出しが必要であり、初期費用が発生する。また、それらの方法は切削加工に比べ特殊な方法で高い技術を要し、製作が難しく、さらにまた少量の製作ではコスト高となる。旋盤を用いた切削加工では、1個からの個別の加工が可能であり、少量、多品種の製作に向いている。
【0017】
コアの固有雑音はバルクハウゼン雑音と呼ばれ、差動トランスの交流の1次電圧により、強磁性体のコアの内部で磁壁が動く際に、内部の不純物や欠陥などに磁壁がトラップされて、滑らかに動かず、その動きが不連続になり、それが雑音の元となる。これは強磁性体のコア、固有に存在するもので避けられないものであり、変位センサの分解能の向上には、この固有雑音の低減が不可欠である。
【0018】
切削加工で製作したコアを組み込んだ差動トランスを用いた触針式段差計の電圧雑音密度を図7に、引抜き又は深絞りで製作したコアを組み込んだ差動トランスを用いた触針式段差計の雑音密度の典型例を図8に示す。これらグラフは、入力換算電圧雑音密度が4.5 nV/Hz0.5のロックインアンプを用いて、低域通過フィルターの遮断周波数が23Hzで計測した結果である。差動トランスの1次電圧などの条件は同じで、コアだけを変えた測定結果である。
【0019】
図8では、10Hz以下の低域で雑音密度が計測器のそれ(=4.5 nV/Hz0.5)に等しくなっているのに対して、図7の切削加工によるコアでは雑音密度が計測器のそれより大きい。つまり、センサのコアの固有雑音が現れている。
【0020】
計測器の雑音をNm、コアの固有雑音をNcとすると、測定時に現れるトータルの雑音Ntは次式となる(その他の雑音が十分に小さい場合)。
Nt = ( Nm2 +Nc2 )0.5 (1)
引抜きや深絞りによるコアでは固有雑音Ncが小さいのに対して、切削加工によるコアでは固有雑音Ncが大きく、そのために、測定時のトータルの雑音Ntが大きくなり、センサとしての変位分解能が低下する。すなわち、・引抜きや深絞り加工で製作されるコアは、その表面を比較的滑らかに仕上げることができるが、旋盤を用いた切削加工では、旋盤の刃の加工跡が残り、10から数10μmオーダーの凹凸が表面にできる。この表面の凹凸が固有雑音Ncを大きくしている。
【0021】
そのため、少量、多品種の製作に向いている切削加工で製作したコアの場合には、固有雑音を如何に小さくするかが課題となる。
【0022】
そこで、本発明は、このような課題を解決して切削加工で製作されるコアを組み込んだ差動トランスを用いた触針式段差計の変位雑音を小さくすることのできるコア及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の目的を達成するために、触針式段差計における本発明による差動トランス用コアは、切削加工により形成したパーマロイ製の円筒状本体を有し、該円筒状本体の表面を研磨処理して表面粗さを1μmオーダー以下にしたことを特徴としている。
【0024】
また、触針式段差計における本発明による差動トランス用コアの製造方法は、パーマロイを切削加工により円筒状本体を形成し、円筒状本体の表面を研磨し、その後磁性焼鈍することを特徴としている。
【0025】
本発明の別の実施形態によれば、差動トランス用コアの製造方法は、パーマロイを切削加工により円筒状本体を形成し、磁性焼鈍した後円筒状本体の表面を研磨することを特徴としている。
【0026】
本発明のコア製造方法において、表面の研磨は、粒度1μm(メッシュナンバー #8,000)のラッピングフィルムシートを用いて行われ得る。
【発明の効果】
【0027】
本発明の差動トランス用コアは、切削加工により形成したパーマロイ製の円筒状本体を有し、該円筒状本体の表面を研磨処理して表面粗さを1μmオーダー以下にしたことにより、引抜きや深絞り加工で製作したものと同じように固有雑音の小さいコアを低コストで提供することができる。
【0028】
また、本発明による差動トランス用コアの製造方法は、一実施形態では、パーマロイを切削加工により円筒状本体を形成し、円筒状本体の表面を研磨し、その後磁性焼鈍することより、また別の実施形態では、パーマロイを切削加工により円筒状本体を形成し、磁性焼鈍した後円筒状本体の表面を研磨することにより、引抜きや深絞り加工による方法に比較してコアの製造コストを低減できかつ製造工程を簡略化でき、しかもコアの固有雑音を小さくすることができる。
【0029】
さらに本発明のコア製造方法において、表面の研磨には、粒度1μm(メッシュナンバー #8,000)のラッピングフィルムシートを用いた場合には、切削加工だけのものより固有雑音が半分以下に小さくなり、引抜き、深絞り加工によるものと同程度にできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明が適用される触針式表面形状測定器の構成の一例を示す概略図。
【図2】図1における触針式表面形状測定器の要部を下から見た概略線図。
【図3】図1における触針式表面形状測定器のホルダー部分の構成を示す拡大部分断面図。
【図4】図1における触針式表面形状測定器のホルダー部分の構成を示す拡大部分断面図。
【図5】図1における触針式表面形状測定器の支点部の構造を示す拡大断面図。
【図6】差動トランスの要部の一例を示す断面図。
【図7】切削加工で製作されたコアの雑音密度の測定例を示すグラフ。
【図8】引抜き又は深絞り加工で製作されたコアの雑音密度の典型例を示すグラフ。
【図9】切削加工で製作されたパーマロイPB製のコアと引抜き又は深絞り加工で製作されたパーマロイPB製のコアとの1Hzでの雑音密度の比較、及び切削加工で製作されたパーマロイPB製のコアに対して磁性焼鈍後の表面研磨による雑音の低下を示すグラフ。
【図10】切削加工後、表面を研磨し、磁性焼鈍したパーマロイPC製のコアと、引抜き又は深絞り加工で製作されたパーマロイPB製のコアと、切削加工後、表面を研磨していないパーマロイPB製のコアの雑音の比較を示すグラフ。
【図11】図10の切削加工で製作されたパーマロイPC製のコアに対して磁性焼鈍後の表面研磨した試料▼の1次電圧振幅を1.4Vとした際の雑音密度の測定結果を示すグラフ。
【図12】図10の切削加工で製作されたパーマロイPC製のコアに対して磁性焼鈍後の表面研磨した試料▼の1次電圧振幅を2.1Vとした際の雑音密度の測定結果を示すグラフ。
【図13】図10の切削加工で製作されたパーマロイPC製のコアに対して磁性焼鈍後の表面研磨した試料▼の1次電圧振幅を2.1Vとした際の変位分解能(変位出力値の1秒間での標準偏差)の測定結果を示すグラフ。
【図14】図10の切削加工で製作されたパーマロイPC製のコアに対して磁性焼鈍後の表面研磨した試料▼の1次電圧振幅を2.1Vとした際の変位出力値の時間変化の測定例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0031】
引抜きや深絞り加工により製作したコアはその表面は比較的滑らかに仕上がるが、旋盤を用いた切削加工で製作したコアは、旋盤の刃の加工跡が残り、10から数10μmオーダーの凹凸が表面にできる。本発明によれば、旋盤を用いた切削加工で製作したコアの表面を研磨によりμmオーダーで滑らかにすることで、コアの固有雑音を小さくすることができる。この場合、旋盤での切削加工後に、表面を研磨し、磁性焼鈍することにより、コアの固有雑音は小さくできる。代わりに、切削加工後に磁性焼鈍し、その後に表面を研磨するだけでも固有雑音は小さくできる。つまり、研磨後に再び磁性焼鈍を行わなくても固有雑音は小さくできる。
【0032】
図9には、切削加工で製作されたパーマロイPB製のコアと引抜き又は深絞り加工で製作されたパーマロイPB製のコアとの固有雑音の比較を示している。1Hzでの電圧雑音密度を比較した。計測には入力換算電圧雑音密度が0.5 nV/Hz0.5 の低雑音のプリアンプを用いた。従って、測定結果に現れる雑音は、コアの固有雑音が支配的である。固有雑音は差動トランスの1次電圧と共に増大するので、同じ1次電圧の値で比較すればよい。また、固有雑音は1次コイルの励起周波数と共に増加するが、ここでは5kHzで一定にして比較している。
【0033】
図9において、●は引抜き又は深絞りで製作したコアの典型例で、形状加工後は磁性焼鈍されている。×、□、◇、△、○は切削加工で製作後、磁性焼鈍されたもので、いくつかの異なる試料(製作した業者も複数)の結果を示している。
【0034】
図9に示されているように、切削加工の試料は、引抜き、深絞りでの典型例より、固有雑音がかなり大きいことがわかる。なお、図9に示したいずれのコアもサイズは同じであり、用いた差動トランスのコイルも同じである。
【0035】
切削加工で製作した試料□と試料◇を、本発明に従って粒度1μm(メッシュナンバー #8,000)のラッピングフィルムシートで研磨して得られた試料がそれぞれ、■と◆で示されている。試料□と試料◇と比較して研磨処理した試料■と◆は固有雑音が半分以下に小さくなり、引抜き、深絞りの典型例と同程度にまでなっていることがわかる。
【0036】
図10には、切削加工後、本発明に従って研磨し、その後、磁性焼鈍したパーマロイPCの結果を▲で示している。なお、切削加工後、研磨をせずに磁性焼鈍したパーマロイPCの結果は、図9で示した研磨をしていないパーマロイPBと同様の結果となり、固有雑音は典型的には1Hzで10 nV/Hz0.5 程度の大きさで、パーマロイPBとパーマロイPCで特に差は見られなかった。図10に示すように切削後に研磨したパーマロイPCの固有雑音は小さく、引抜き、深絞りの典型例と同程度になっている。この試料の表面の一部には、切削加工の傷跡が残っていたので、その部分をさらに粒度1μm(メッシュナンバー #8,000)のラッピングフィルムシートで研磨して得られた試料を▼で示している。コアの固有雑音がさらに小さくなったことを示している。
【0037】
以上ことから、専用の型や特別の条件出しが不要で初期費用がかからず、少量、多品種のコアの製作に適した切削加工において、表面の加工跡を研磨により消し、表面粗さを1μmオーダー以下にすることで、コアの固有雑音を「引抜き、深絞りの典型例」と同程度に小さくすることができることが認められる。
【0038】
切削加工で製作し、本発明に従って表面を研磨後、磁性焼鈍し、残っていた切削跡をさらに研磨して表面を滑らかにしたパーマロイPCのコア(図10の▼で示す試料)の電圧雑音密度を図11に示す。この場合、特許文献1すなわち図6で示した差動トランスのコイルを用いている。コアのサイズも特許文献1に示したのと同じで長さ7mm、 外径4mm、 内径3.6mmである。差動トランスは特許文献1で示したように、ロックインアンプでその出力を測定している。図11では、入力換算電圧雑音密度0.5 nV/Hz0.5のプリアンプを前段に用いた。なお、測定結果には式(1)で示した雑音の他に、2次コイルの抵抗に起因する熱雑音も含まれる。
【0039】
ロックインアンプで測定した差動トランスの出力の時間変化のデータをフーリエ変換したのが、図7、図8、図11に示す雑音の周波数スペクトルである。図11は1次電圧の振幅が1.4 Vである時の結果であり、図7と同じなので(用いたコイルも同じ)、雑音密度のスペクトルを比較できる。本発明に従ってのコア表面の研磨によって、図7に比べて、図11では雑音密度が小さくなっていることがわかる。
【0040】
図12には同じコアで、1次電圧の振幅を2.1 Vにした場合の結果である。固有雑音が大きい試料では、1次電圧の増大に従い急速に固有雑音が大きくなるが、この試料では急速な増大は見られない。1次電圧が大きいほど変位センサとしての感度(2次電圧/変位量)が大きいので、1次電圧は大きい方がよいが、共に増大する固有雑音との兼ね合いで最適な1次電圧の値が決まる。
【0041】
図12のコア及び条件、即ち1次電圧の振幅が2.1 Vである時の差動トランスの出力を変位に換算した結果を図13及び図14に示す。なお、このときの感度は210 Vrms/mである。図13には、変位測定値の1秒間での標準偏差を5秒ごとに100回測定してプロットした結果を示し、○は、低域通過フィルターの遮断周波数が13Hzである時の結果であり、また・は、低域通過フィルターの遮断周波数が23Hzである時の結果である。低域通過フィルターの遮断周波数が13Hzである場合の標準偏差の100回測定の平均は0.0715 nmであり、差動トランスとしては非常に高い変位分解能が、簡単な切削加工で製作したコアの、簡単な表面研磨の処理で得られた。
【0042】
図14は図13と同じ測定での、差動トランス出力の時間変化の例である。この場合、遮断周波数は13Hzである。コアの変位に換算した値を1 ms毎に4秒間測定、プロットした例である。雑音の1秒間でのピーク−ピークが0.3 nm程度と小さく、差動トランスとしては変位分解能が非常に高いことがわかる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の表面形状を測定する触針式段差計における変位センサに用いる差動トランス用コア及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
触針式段差計は、一般に、試料の段差、膜厚、表面粗さなどを測定するのに用いられており、その構造の一例としては、添付図面の図1〜図5に示すように、棒状の第1の支持部材1はその中間部位に左右両横方向にのびる支点用針取付け部材2を備え、支点用針取付け部材2の両端には二つの支点用針3が取付けられている。これら二つの支点用針3は二つの支点受け部材4(図5)で支持され、それにより第1の支持部材1は支点受け部材4に支点用針3を介して揺動自在に支持される。第1の支持部材1の一端には、変位センサ5の測定子すなわちコア6が取付けられている。この変位センサ5は探針の垂直方向変位に応じて電気信号を発生する差動トランスから成り、コイル7を備えている。
【0003】
また、第1の支持部材1の他端には、探針に針圧を加える針圧発生装置8のコア9が設けられ、針圧発生装置8はコイル10を備えている。コア9は、コイル10の中心から軸方向にずれた位置に配置した高透磁率部材から成っている。
【0004】
第1の支持部材1における支点用針取付け部材2の両端の二つの支点用針3を結ぶ線上を中心として、第1の支持部材1の下面には、二つの磁石11を埋め込んだホルダー12が取付けられている。ホルダー12は図3に示すように断面台形の長手方向溝13を備え、この長手方向溝13の両側壁は下方へ向ってテーパー状に開いており、水平平面に対して傾斜面を構成している。ホルダー12に埋め込まれた二つの磁石11は、図1に示すように極性が互いに逆向きになるように配置されている。二つの磁石11を内蔵したホルダー12は軽くするためにカーボンで構成されている。
【0005】
図1、図2及び図4において、14は棒状の第2の支持部材でありその先端には探針15が下向きに取付けられ、他端は高透磁率部材16で構成されている。高透磁率部材16の長手方向の両端には上向きにのびるガイド突起17が形成され、これらガイド突起17の対向側面は上方に向って開いた傾斜面として形成される。この高透磁率部材16の傾斜面はホルダー12における長手方向溝13の両側壁の傾斜面と共に、第1の支持部材1に第2の支持部材14を取付ける際の互いの位置決めを確保すると共にガイドの役割を果たしている。第2の支持部材14の他端における高透磁率部材16は第1の支持部材1におけるホルダー12の溝13に嵌るようにされ、その際に第2の支持部材14の他端における高透磁率部材16はホルダー12の溝の底面に接触し、二つの磁石11には接触しないように構成されている。
【0006】
第1の支持部材1及び第2支持部材14は慣性モーメントを小さくするために軽いカーボンで構成されている。一方、密度が高く質量が大きい第2支持部材14における高透磁率部材16及び第1の支持部材1におけるホルダー12内の磁石11は、支点まわりの慣性モーメントを小さくするために、支点の近くに配置している。
【0007】
さらに図3に示すように、第2支持部材14における高透磁率部材16の下側には板状部材18が設けられ、この板状部材18は磁場遮蔽効果を高めるため、高透磁率の材料で構成され、この板状部材18により交換部品を第1の支持部材1におけるホルダー12の溝13に傾けて近づけても正しい位置に収まるようにしている。
【0008】
上述のように第1の支持部材1におけるホルダー12に埋め込まれた磁石11は極性が逆になるように配置したことにより、磁気双極子が離れた場所に作る磁場が小さくなるので、差動トランス5、針圧発生装置8及び試料での磁場を小さくできる。また、この配置により磁石11の下部では磁力線が第2の支持部材14における高透磁率部材16の中を通るので、その下方及び探針位置の試料での磁場が小さくなる。
【0009】
図5には、支点用針3を受ける支点受け部材4の構造を拡大して示している。支点受け部材4は図示したように支点用針3を受ける凹面4aを備え、この凹面は逆円錐形状に構成され、支点用針3を精度よく位置決めして受けるようにされている。
【0010】
このように構成した図示触針式表面形状測定器においては、両端にそれぞれ変位センサ5及び針圧発生装置8を備え、二つの支点受け部材4に支点用針3を介して揺動自在に支持された第1の支持部材1のホルダー12に、両端にそれぞれ探針15及び高透磁率部材16を備えた第2の支持部材14を磁石の吸着力によって固定する。この場合、ホルダー12における長手方向溝13の両側壁の傾斜面と第2の支持部材14の高透磁率部材16におけるガイド突起17の対向傾斜面とにより、第2の支持部材14は第1の支持部材1のホルダー12に対して予定の位置に正確に位置決めして簡単に固定できる。
【0011】
そして、針圧発生装置8のコイル10に所定の電流を流すことにより、その電流の大きさに応じて力が発生され、この力により針圧発生装置8のコア9はコイル10の中心へ引き込まれる。それにより第1及び第2の支持部材1、14は支点用針3を介して揺動し、探針15を試料に押し当てる。試料又は検出系を走査することにより、探針15は試料表面をなぞり、その表面形状に応じて、固定された支点のまわりに第1及び第2の支持部材1、14が微小に回転運動し、差動トランス5のコア6の変位が検出され、このコア6の変位を探針15の針先の変位に換算することにより試料の表面形状や段差が測定される。
【0012】
図6には差動トランスの一例を示す。図示差動トランスは、円筒形コア20と、この円筒形コア20を通す開口部を備えたコイルボビン21とを有し、コイルボビン21には、コイル22が巻回されている。23は、コイルボビン21の開口部を除いて、コイル外寸に合わせてコイルを外から覆っているシールドである。
【0013】
ところで、差動トランスを用いた触針式段差計には、差動トランスのコアにパーマロイを用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。探針の段差形状への追随性を良くするために、支点の周りの慣性モーメントを小さくする必要があり、そのためコアは軽い方が良く、その形状として中空の円筒型が用いられる。そのような形状のコアの製作方法としては、従来、引抜き、深絞り、切削加工が知られている。コアは形状加工後、磁性焼鈍が施され、加工で生じた内部応力が緩和されて、透磁率を大きく、保持力を小さくし、磁気特性が向上される。例えば、特許文献1で、その固有雑音を示したコアは、引抜きまたは深絞りで製作されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許公開2008−122254
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
パーマロイのコアを切削加工で製作すると、磁性焼鈍を施してもコアの固有雑音が大きく、そのために変位センサの雑音が大きくなり、変位分解能が低下する。
【0016】
従来用いられてきた引抜きや深絞り加工では、固有雑音の小さいコアを製作することができ、同じ形状の部品を大量に製作するには向いているが、それらの方法では専用の型が必要であり、また前段階として製作のための条件出しが必要であり、初期費用が発生する。また、それらの方法は切削加工に比べ特殊な方法で高い技術を要し、製作が難しく、さらにまた少量の製作ではコスト高となる。旋盤を用いた切削加工では、1個からの個別の加工が可能であり、少量、多品種の製作に向いている。
【0017】
コアの固有雑音はバルクハウゼン雑音と呼ばれ、差動トランスの交流の1次電圧により、強磁性体のコアの内部で磁壁が動く際に、内部の不純物や欠陥などに磁壁がトラップされて、滑らかに動かず、その動きが不連続になり、それが雑音の元となる。これは強磁性体のコア、固有に存在するもので避けられないものであり、変位センサの分解能の向上には、この固有雑音の低減が不可欠である。
【0018】
切削加工で製作したコアを組み込んだ差動トランスを用いた触針式段差計の電圧雑音密度を図7に、引抜き又は深絞りで製作したコアを組み込んだ差動トランスを用いた触針式段差計の雑音密度の典型例を図8に示す。これらグラフは、入力換算電圧雑音密度が4.5 nV/Hz0.5のロックインアンプを用いて、低域通過フィルターの遮断周波数が23Hzで計測した結果である。差動トランスの1次電圧などの条件は同じで、コアだけを変えた測定結果である。
【0019】
図8では、10Hz以下の低域で雑音密度が計測器のそれ(=4.5 nV/Hz0.5)に等しくなっているのに対して、図7の切削加工によるコアでは雑音密度が計測器のそれより大きい。つまり、センサのコアの固有雑音が現れている。
【0020】
計測器の雑音をNm、コアの固有雑音をNcとすると、測定時に現れるトータルの雑音Ntは次式となる(その他の雑音が十分に小さい場合)。
Nt = ( Nm2 +Nc2 )0.5 (1)
引抜きや深絞りによるコアでは固有雑音Ncが小さいのに対して、切削加工によるコアでは固有雑音Ncが大きく、そのために、測定時のトータルの雑音Ntが大きくなり、センサとしての変位分解能が低下する。すなわち、・引抜きや深絞り加工で製作されるコアは、その表面を比較的滑らかに仕上げることができるが、旋盤を用いた切削加工では、旋盤の刃の加工跡が残り、10から数10μmオーダーの凹凸が表面にできる。この表面の凹凸が固有雑音Ncを大きくしている。
【0021】
そのため、少量、多品種の製作に向いている切削加工で製作したコアの場合には、固有雑音を如何に小さくするかが課題となる。
【0022】
そこで、本発明は、このような課題を解決して切削加工で製作されるコアを組み込んだ差動トランスを用いた触針式段差計の変位雑音を小さくすることのできるコア及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の目的を達成するために、触針式段差計における本発明による差動トランス用コアは、切削加工により形成したパーマロイ製の円筒状本体を有し、該円筒状本体の表面を研磨処理して表面粗さを1μmオーダー以下にしたことを特徴としている。
【0024】
また、触針式段差計における本発明による差動トランス用コアの製造方法は、パーマロイを切削加工により円筒状本体を形成し、円筒状本体の表面を研磨し、その後磁性焼鈍することを特徴としている。
【0025】
本発明の別の実施形態によれば、差動トランス用コアの製造方法は、パーマロイを切削加工により円筒状本体を形成し、磁性焼鈍した後円筒状本体の表面を研磨することを特徴としている。
【0026】
本発明のコア製造方法において、表面の研磨は、粒度1μm(メッシュナンバー #8,000)のラッピングフィルムシートを用いて行われ得る。
【発明の効果】
【0027】
本発明の差動トランス用コアは、切削加工により形成したパーマロイ製の円筒状本体を有し、該円筒状本体の表面を研磨処理して表面粗さを1μmオーダー以下にしたことにより、引抜きや深絞り加工で製作したものと同じように固有雑音の小さいコアを低コストで提供することができる。
【0028】
また、本発明による差動トランス用コアの製造方法は、一実施形態では、パーマロイを切削加工により円筒状本体を形成し、円筒状本体の表面を研磨し、その後磁性焼鈍することより、また別の実施形態では、パーマロイを切削加工により円筒状本体を形成し、磁性焼鈍した後円筒状本体の表面を研磨することにより、引抜きや深絞り加工による方法に比較してコアの製造コストを低減できかつ製造工程を簡略化でき、しかもコアの固有雑音を小さくすることができる。
【0029】
さらに本発明のコア製造方法において、表面の研磨には、粒度1μm(メッシュナンバー #8,000)のラッピングフィルムシートを用いた場合には、切削加工だけのものより固有雑音が半分以下に小さくなり、引抜き、深絞り加工によるものと同程度にできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明が適用される触針式表面形状測定器の構成の一例を示す概略図。
【図2】図1における触針式表面形状測定器の要部を下から見た概略線図。
【図3】図1における触針式表面形状測定器のホルダー部分の構成を示す拡大部分断面図。
【図4】図1における触針式表面形状測定器のホルダー部分の構成を示す拡大部分断面図。
【図5】図1における触針式表面形状測定器の支点部の構造を示す拡大断面図。
【図6】差動トランスの要部の一例を示す断面図。
【図7】切削加工で製作されたコアの雑音密度の測定例を示すグラフ。
【図8】引抜き又は深絞り加工で製作されたコアの雑音密度の典型例を示すグラフ。
【図9】切削加工で製作されたパーマロイPB製のコアと引抜き又は深絞り加工で製作されたパーマロイPB製のコアとの1Hzでの雑音密度の比較、及び切削加工で製作されたパーマロイPB製のコアに対して磁性焼鈍後の表面研磨による雑音の低下を示すグラフ。
【図10】切削加工後、表面を研磨し、磁性焼鈍したパーマロイPC製のコアと、引抜き又は深絞り加工で製作されたパーマロイPB製のコアと、切削加工後、表面を研磨していないパーマロイPB製のコアの雑音の比較を示すグラフ。
【図11】図10の切削加工で製作されたパーマロイPC製のコアに対して磁性焼鈍後の表面研磨した試料▼の1次電圧振幅を1.4Vとした際の雑音密度の測定結果を示すグラフ。
【図12】図10の切削加工で製作されたパーマロイPC製のコアに対して磁性焼鈍後の表面研磨した試料▼の1次電圧振幅を2.1Vとした際の雑音密度の測定結果を示すグラフ。
【図13】図10の切削加工で製作されたパーマロイPC製のコアに対して磁性焼鈍後の表面研磨した試料▼の1次電圧振幅を2.1Vとした際の変位分解能(変位出力値の1秒間での標準偏差)の測定結果を示すグラフ。
【図14】図10の切削加工で製作されたパーマロイPC製のコアに対して磁性焼鈍後の表面研磨した試料▼の1次電圧振幅を2.1Vとした際の変位出力値の時間変化の測定例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0031】
引抜きや深絞り加工により製作したコアはその表面は比較的滑らかに仕上がるが、旋盤を用いた切削加工で製作したコアは、旋盤の刃の加工跡が残り、10から数10μmオーダーの凹凸が表面にできる。本発明によれば、旋盤を用いた切削加工で製作したコアの表面を研磨によりμmオーダーで滑らかにすることで、コアの固有雑音を小さくすることができる。この場合、旋盤での切削加工後に、表面を研磨し、磁性焼鈍することにより、コアの固有雑音は小さくできる。代わりに、切削加工後に磁性焼鈍し、その後に表面を研磨するだけでも固有雑音は小さくできる。つまり、研磨後に再び磁性焼鈍を行わなくても固有雑音は小さくできる。
【0032】
図9には、切削加工で製作されたパーマロイPB製のコアと引抜き又は深絞り加工で製作されたパーマロイPB製のコアとの固有雑音の比較を示している。1Hzでの電圧雑音密度を比較した。計測には入力換算電圧雑音密度が0.5 nV/Hz0.5 の低雑音のプリアンプを用いた。従って、測定結果に現れる雑音は、コアの固有雑音が支配的である。固有雑音は差動トランスの1次電圧と共に増大するので、同じ1次電圧の値で比較すればよい。また、固有雑音は1次コイルの励起周波数と共に増加するが、ここでは5kHzで一定にして比較している。
【0033】
図9において、●は引抜き又は深絞りで製作したコアの典型例で、形状加工後は磁性焼鈍されている。×、□、◇、△、○は切削加工で製作後、磁性焼鈍されたもので、いくつかの異なる試料(製作した業者も複数)の結果を示している。
【0034】
図9に示されているように、切削加工の試料は、引抜き、深絞りでの典型例より、固有雑音がかなり大きいことがわかる。なお、図9に示したいずれのコアもサイズは同じであり、用いた差動トランスのコイルも同じである。
【0035】
切削加工で製作した試料□と試料◇を、本発明に従って粒度1μm(メッシュナンバー #8,000)のラッピングフィルムシートで研磨して得られた試料がそれぞれ、■と◆で示されている。試料□と試料◇と比較して研磨処理した試料■と◆は固有雑音が半分以下に小さくなり、引抜き、深絞りの典型例と同程度にまでなっていることがわかる。
【0036】
図10には、切削加工後、本発明に従って研磨し、その後、磁性焼鈍したパーマロイPCの結果を▲で示している。なお、切削加工後、研磨をせずに磁性焼鈍したパーマロイPCの結果は、図9で示した研磨をしていないパーマロイPBと同様の結果となり、固有雑音は典型的には1Hzで10 nV/Hz0.5 程度の大きさで、パーマロイPBとパーマロイPCで特に差は見られなかった。図10に示すように切削後に研磨したパーマロイPCの固有雑音は小さく、引抜き、深絞りの典型例と同程度になっている。この試料の表面の一部には、切削加工の傷跡が残っていたので、その部分をさらに粒度1μm(メッシュナンバー #8,000)のラッピングフィルムシートで研磨して得られた試料を▼で示している。コアの固有雑音がさらに小さくなったことを示している。
【0037】
以上ことから、専用の型や特別の条件出しが不要で初期費用がかからず、少量、多品種のコアの製作に適した切削加工において、表面の加工跡を研磨により消し、表面粗さを1μmオーダー以下にすることで、コアの固有雑音を「引抜き、深絞りの典型例」と同程度に小さくすることができることが認められる。
【0038】
切削加工で製作し、本発明に従って表面を研磨後、磁性焼鈍し、残っていた切削跡をさらに研磨して表面を滑らかにしたパーマロイPCのコア(図10の▼で示す試料)の電圧雑音密度を図11に示す。この場合、特許文献1すなわち図6で示した差動トランスのコイルを用いている。コアのサイズも特許文献1に示したのと同じで長さ7mm、 外径4mm、 内径3.6mmである。差動トランスは特許文献1で示したように、ロックインアンプでその出力を測定している。図11では、入力換算電圧雑音密度0.5 nV/Hz0.5のプリアンプを前段に用いた。なお、測定結果には式(1)で示した雑音の他に、2次コイルの抵抗に起因する熱雑音も含まれる。
【0039】
ロックインアンプで測定した差動トランスの出力の時間変化のデータをフーリエ変換したのが、図7、図8、図11に示す雑音の周波数スペクトルである。図11は1次電圧の振幅が1.4 Vである時の結果であり、図7と同じなので(用いたコイルも同じ)、雑音密度のスペクトルを比較できる。本発明に従ってのコア表面の研磨によって、図7に比べて、図11では雑音密度が小さくなっていることがわかる。
【0040】
図12には同じコアで、1次電圧の振幅を2.1 Vにした場合の結果である。固有雑音が大きい試料では、1次電圧の増大に従い急速に固有雑音が大きくなるが、この試料では急速な増大は見られない。1次電圧が大きいほど変位センサとしての感度(2次電圧/変位量)が大きいので、1次電圧は大きい方がよいが、共に増大する固有雑音との兼ね合いで最適な1次電圧の値が決まる。
【0041】
図12のコア及び条件、即ち1次電圧の振幅が2.1 Vである時の差動トランスの出力を変位に換算した結果を図13及び図14に示す。なお、このときの感度は210 Vrms/mである。図13には、変位測定値の1秒間での標準偏差を5秒ごとに100回測定してプロットした結果を示し、○は、低域通過フィルターの遮断周波数が13Hzである時の結果であり、また・は、低域通過フィルターの遮断周波数が23Hzである時の結果である。低域通過フィルターの遮断周波数が13Hzである場合の標準偏差の100回測定の平均は0.0715 nmであり、差動トランスとしては非常に高い変位分解能が、簡単な切削加工で製作したコアの、簡単な表面研磨の処理で得られた。
【0042】
図14は図13と同じ測定での、差動トランス出力の時間変化の例である。この場合、遮断周波数は13Hzである。コアの変位に換算した値を1 ms毎に4秒間測定、プロットした例である。雑音の1秒間でのピーク−ピークが0.3 nm程度と小さく、差動トランスとしては変位分解能が非常に高いことがわかる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支点に揺動可能に取付けられた支持体の一端に探針を設け、探針の垂直方向変位を検出する変位センサの磁性体コアを設け、探針に針圧を加える針圧発生装置の磁性体コアを支持体に取付け、探針が捉えた試料の表面形状を支持体の支点回りの回転運動により変位センサで測定する触針式段差計における変位センサ用差動トランスのコアにおいて、
切削加工により形成したパーマロイ製の円筒状本体の表面を研磨処理して表面粗さを1μmオーダー以下にしたことを特徴とする差動トランスのコア。
【請求項2】
触針式段差計における差動トランスのコアの製造方法において、
パーマロイを切削加工により円筒状本体を形成し、円筒状本体の表面を研磨し、その後磁性焼鈍することを特徴とする差動トランスのコアの製造方法。
【請求項3】
表面の研磨に、粒度1μm(メッシュナンバー #8,000)のラッピングフィルムシートを用いることを特徴とする請求項2記載の差動トランスのコアの製造方法。
【請求項4】
触針式段差計における差動トランスのコアの製造方法において、
パーマロイを切削加工により円筒状本体を形成し、磁性焼鈍した後円筒状本体の表面を研磨することを特徴とする差動トランスのコアの製造方法。
【請求項5】
表面の研磨に、粒度1μm(メッシュナンバー #8,000)のラッピングフィルムシートを用いることを特徴とする請求項4記載の差動トランスのコアの製造方法。
【請求項1】
支点に揺動可能に取付けられた支持体の一端に探針を設け、探針の垂直方向変位を検出する変位センサの磁性体コアを設け、探針に針圧を加える針圧発生装置の磁性体コアを支持体に取付け、探針が捉えた試料の表面形状を支持体の支点回りの回転運動により変位センサで測定する触針式段差計における変位センサ用差動トランスのコアにおいて、
切削加工により形成したパーマロイ製の円筒状本体の表面を研磨処理して表面粗さを1μmオーダー以下にしたことを特徴とする差動トランスのコア。
【請求項2】
触針式段差計における差動トランスのコアの製造方法において、
パーマロイを切削加工により円筒状本体を形成し、円筒状本体の表面を研磨し、その後磁性焼鈍することを特徴とする差動トランスのコアの製造方法。
【請求項3】
表面の研磨に、粒度1μm(メッシュナンバー #8,000)のラッピングフィルムシートを用いることを特徴とする請求項2記載の差動トランスのコアの製造方法。
【請求項4】
触針式段差計における差動トランスのコアの製造方法において、
パーマロイを切削加工により円筒状本体を形成し、磁性焼鈍した後円筒状本体の表面を研磨することを特徴とする差動トランスのコアの製造方法。
【請求項5】
表面の研磨に、粒度1μm(メッシュナンバー #8,000)のラッピングフィルムシートを用いることを特徴とする請求項4記載の差動トランスのコアの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−220798(P2011−220798A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89355(P2010−89355)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
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