説明

触針式測定装置

【課題】触針が測定点の直上に位置している状態において測定対象物の表面の測定点を実質的に真上から検知することを可能とする観察手段を備えた触針式測定装置を提供する。
【解決手段】触針式測定装置100において、長手軸線方向に延在する細長い触針110であって、測定対象物10の表面12の所定の測定点14に運ばれて同測定点14に接触するようにされる尖端部112を有する触針110と、該触針110の周囲の少なくとも一部に配置され、表面12の測定点14及び該測定点14の周囲からの光を受光する受光部130と、を備え、受光部130で受光した光に基づき、測定点14に対する尖端部112の位置決めを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物体の表面に触針を接触させることにより、物体表面にある穴の深さや表面形状を測定する触針式測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の表面に形成された微小穴の深さや、表面形状を測定する手段として触針を物体表面に接触させて測定する触針式測定装置が知られている。例えば、物体表面の微小穴の深さを測定する場合には、触針をその微小穴に整合した上方位置に合わせた後で、同触針をその微小穴内に降ろして測定を行う。この場合、微小穴の位置を精確に確認する必要がある。また、物体の表面形状を測定する場合でも、触針を測定始点に精確に位置決めする必要がある場合があり、その場合も、測定始点を精確に把握する必要がある。このように、触針を物体の所定の測定点に精確に位置決めする場合、従来は、以下のような方法がとられていた。
【0003】
まず触針を接触させる物体上の測定点をその直上から観察カメラでとらえ、観察カメラの画像情報に基づいて触針を該測定点の真上まで動かした後、該触針を測定点まで下降させる(特許文献1)。別の方法としては、測定点を斜め上方から観察カメラで観察しながら触針を測定点まで動かす(特許文献2,3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−21722号
【特許文献2】特開2000−97691号
【特許文献3】特開平11−2505号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、観察カメラで測定点を真上からとらえる方法では、触針を測定点に近づけるときに該触針が観察カメラの視界を遮るために、触針が測定点の直上に位置している状態では観察カメラによる測定点の観察ができなくなる。このため、上述のように観察カメラの画像情報を基にして触針の位置決めをするとしても、触針を動かす駆動装置の駆動誤差やガタツキにより触針を測定点に精確に位置合わせすることができない虞がある。
【0006】
測定点を斜め上方から観察する方法では、触針を測定点に近づけている状態を観察カメラで観察できるが、斜め方向からの観察では触針が測定点の真上に位置しているか否かを正確に判断することは、通常、非常に困難であり、このため触針の精確な位置決めが困難となる。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みて、触針が測定点の直上に位置している状態において測定対象物の表面の測定点を実質的に真上から検知することを可能とする観察手段を備えた触針式測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、
長手軸線方向に延在する細長い触針であって、測定対象物の表面の所定の測定点に運ばれて同測定点に接触するようにされる尖端部を有する触針と、
該触針の周囲の少なくとも一部に配置され、前記表面の前記測定点及び該測定点の周囲からの光を受光する受光部と、を備え、
前記受光部で受光した光に基づき、前記測定点に対する前記尖端部の位置決めを行うようにした触針式測定装置を提供する。
【0009】
この装置では、触針の尖端部を測定点に接触させる直前まで測定点を含めた対象物表面を把握することができるので、測定点に対する触針の尖端部の精確な位置決めが可能となる。
【0010】
具体的には、前記受光部は前記長手軸線方向に対して傾斜して配置された反射鏡からなっており、該反射鏡で反射された前記表面からの光を受光して前記表面の画像情報を取得する撮像手段をさらに備えているようにすることができる。
【0011】
このような構成により、撮像手段を触針の周囲に配置する必要がなく離れた位置に配置することできるので、撮像手段の配置やサイズの制約が大きく軽減され、観察に適した撮像装置及び光学系の選択が容易になる。
【0012】
好ましくは、前記撮像手段は、該撮像手段の視野を前記反射鏡に向かう方向と前記表面に向かう方向との間で変位可能に配置されており、前記視野を前記表面に向けることで前記反射鏡を介することなく前記表面を観察することができるようにすることができる。
【0013】
撮像手段による表面の直接観察は、測定点に対する観察視点を増やし、触針の尖端部の位置決めを効率よく行うことを可能とする。
【0014】
また、前記受光部は、前記触針を通す大きさとされた開口を有し、該開口に前記触針が通された状態で配置されているようにすることができる。
【0015】
触針の周囲を囲むように受光部を配置することができるようになるので、より多くの光を受光することができ、測定点の観察をより明りょうに行なえる。
【0016】
具体的には、前記受光部は前記触針に対して位置が固定されるように配置することができる。
【0017】
さらに具体的には、前記触針は、前記長手軸線方向に対して直角方向に延び且つ前記長手軸線方向において間隔をあけて互いに平行に配置されている一対の板バネを備える平行板バネ機構により保持されているようにすることができる。
【0018】
この場合、触針の長手軸線方向での変位は微小であり、板バネの長さをこの変位に対して大きなものにすれば、触針を実質的に長手軸線方向に直線状に動かすことが可能で、例えば細長い穴の中に触針を挿入するような場合でも触針の穴側面への接触を抑制することが可能となる。
【0019】
好ましくは、前記平行板バネ機構の前記一対の板バネの変位量を検知する検出器と、
該検出器を介して前記平行板バネ機構及び前記触針を上下動させる直動上下機構と、をさらに備え、
前記直動上下機構により前記触針を移動させて前記測定点に前記触針の前記尖端部を接触させ、このときの前記直動上下機構の移動量と前記検出器が検知した変位量とにより前記測定点の測定高さを求めるようにすることができる。
【0020】
直動上下機構により触針の上下動の移動距離が十分に得られるので、深い穴や大きな段差部の測定にも対応できるようになる。
【0021】
さらに具体的には、前記触針の前記尖端部は、外径が20μm以下で且つ該外径に対する長さの比が5以上であるようにすることができる。
【0022】
これは、例えば直径が25μmで深さが100μm程度の微細な穴の測定を可能にするものであり、従来、これほどの微細な穴の測定を可能とする製品は販売されていない。このような測定を可能にするのは、本発明における上述した測定点の直接的な位置把握による触針の精確な位置決めによるものである。
【0023】
また、本発明に係る測定装置は、前記測定対象物に接触する電極部と、
該電極部が接触する接触点と前記触針が接触する前記測定点との間の電気的導通を測定する導通測定手段と、をさらに備えるようにすることができる。
【0024】
このような構成により、例えば材料表面に金属薄膜の配線パターンが形成されている場合などに、表面形状の測定と合わせて該配線パターンの導通の確認を行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態にかかる触針式測定装置を示す概略図である。
【図2】図1の触針式測定装置の触針が測定点に接触している状態を示す図である。
【図3】本発明の別の実施形態に係る触針式測定装置を示す概略図である。
【図4】細孔の深さ測定に用いる触針の尖端部を示す図である。
【図5】本発明の別の実施形態に係る導通測定機能を備えた触針式測定装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本願発明の一実施形態に係る触針式測定装置100は、図1に示すように、測定部筐体140内に検出器116を備え、この検出器116に平行板バネ機構114を介して固定された触針110を備えている。測定部筐体140は直動上下機構150により保持されており、該直動上下機構150により触針110、平行板バネ機構114及び検出器116を上下動するようになっている。触針110は、長手軸線20に沿って延在する細長い形態を有し、その下端部には測定対象物10の測定表面12に接触する尖端部112を備えている。また、平行板バネ機構114は、長手軸線20に対して直角方向に延び且つ長手軸線20の方向において間隔をあけて互いに平行に配置されている一対の板バネからなっており、触針110を長手軸線20に沿って実質的に直線状に動かすように構成されている。さらに、測定部筐体140の下面側には、測定点からの光を受光する受光部としての反射鏡120が設けられている。この反射鏡120には触針110の長手軸線20に沿う方向に触針110の径よりもやや大きい開口124が形成されており、この反射鏡は触針110がその開口124に通された状態で触針110の周囲に配置されている。また、反射鏡120の反射面122は、長手軸線20に対しておよそ45度傾斜しており、測定点14からの光を反射して当該触針式装置100に配置された撮像手段130に導くようになっている。本実施形態では、撮像手段としてCCDカメラ130を用いており、このCCDカメラ130には焦点合わせや倍率調整を行なうためのレンズ群132が取り付けられている。
【0027】
図1に示すように触針110の尖端部112が測定表面12から離れている状態において、CCDカメラ130の焦点を測定点14に合せると、焦点位置から離れている触針110の像は大きくぼけて実質的に撮像される画像上には見えなくなり、測定点14周辺を実質的に真上から観察できるようになる。したがって、撮像された画像には、真上から観察された測定点14周辺の測定表面12が映っている状態となるので、この画像情報を基に測定点14に対する触針110の尖端部112の位置合わせを容易に行なうことができる。また、CCDカメラ130の焦点位置を測定点14に合わせつつ、直動上下機構150によって触針110とともに反射鏡120を下げていくと、次第に触針110の尖端部112にも焦点が合うようになって画像上に徐々に触針110の像が形成されるようになるので、触針110の尖端部120が測定点14に接触する直前において、触針110の像を基に触針110と測定点14との位置合わせを行なうことも可能である。
【0028】
また、CCDカメラ130はその方向を変位させることができるように配置されており、図2に示すように反時計回りに回転させることでこの視野を測定点14の方向に向けることができるようになっている。このようにCCDカメラ130で斜め方向から直接測定点14及び触針110の尖端部112を観察することによって、反射鏡120を介した実質的に真上からの観察では困難な、測定点14から尖端部112までの高さ方向の距離や触針110の尖端部112の接触状態を確認できるとともに、接触した位置の確認を行なうことができるようになる。なお、本実施形態では、CCDカメラ130の向きを変位可能として、一つのCCDカメラで上述の2つの観察形態をとることができるようにしたが、固定された2つのCCDカメラを用いて、反射鏡120を介した観察と直接的な測定点14の観察を各カメラが担うようにしてもよい。また、回転だけでなく平行移動を含めたCCDカメラの移動により視野の変更をするようにしてもよい。
【0029】
図3に示す別の実施形態に係る触針式測定装置200では、受光部としての反射鏡220が触針210の周囲の一部にのみ配置されている。図1の実施形態における反射鏡122と比べて本実施形態の反射面222は面積が小さくなっているので、その分だけ受光できる光量が少なくなってしまうが、より省スペースで配置できるという利点がある。図1に示したような反射鏡120では測定中に測定対象物と干渉してしまうような場合などには、このような反射鏡220が特に有効となる。また、上述のように斜め方向から直接測定点14を観察するカメラを別途設けている場合には、反射鏡122が無い側から観察するようにすれば、反射鏡122によって視界が遮られることがなく、より観察し易くできる。なお、本実施形態では反射鏡122が一つだけ設けられているが、複数の反射鏡を触針の周囲に配置するようにしてもよく、そのような場合には、該複数の反射鏡の隙間を通して斜め方向からの測定点の直接観察をCCDカメラで行なうようにしてもよい。
【0030】
以上に説明してきた触針式測定装置100,200は、触針120、220の位置決めが測定点14の直上で行えるので位置決め精度を向上させることができるという特徴を有すると共に、触針120,220が平行板バネ機構114により支持されることで長手軸線方向20に沿って直線状に動かすことができるという特徴も有する。これら特徴により、上述の触針式測定装置100,200は、アスペクト比の大きな穴の中に触針を穴側面に接触させることなく挿入する必要があるような用途に特に有効である。図4に示す触針310は、例えば直径が25μmで深さが100μmといった非常に微細で且つアスペクト比が大きい細孔16の深さを測定するために用いられるものである。この触針310の尖端部312は外径が約20μmで長さが100μm(アスペクト比5)となっている。このような細くて且つアスペクト比の大きい尖端部312を有する触針310を使用して表面形状を測定する際には、尖端部312を測定表面上で摺動させると触針310が損傷し易いため、通常ステップアンドリピート方式の測定方法がとられる。ここで、ステップアンドリピート方式とは、触針を下降させて測定表面に尖端部を接触させてその高さを記録し、その後に触針を上昇させて次の測定点まで移動して、再び触針を下降させて高さの測定及び記録を行ない、以降これらを繰り返していく測定方法である。例えば、細孔が規則的に連続して形成されているような測定対象の場合には、細孔の底面とその隣の細孔の間の上部表面とを順次測定していくようにすることで、各細孔の深さのばらつきを測定することができる。
【0031】
図5に示す別の実施形態に係る触針式測定装置400には、電極部450が設けられており、さらに電極部450と触針410に接続された導通測定手段460を備えている。触針410の尖端部412が測定表面12に接触している状態で同時に電極部450も接触させることで、2点間の電気的導通を測定することができる。例えば図5に示すような、スパッタ等の半導体プロセスで形成された金属薄膜18の配線パターンの導通や電気抵抗値を測定するような用途に有効である。
【0032】
以上本発明に係る触針式測定装置の実施形態を説明してきたが、本発明の範囲は上記実施形態に限定されるわけではなく、例えば受光部として反射鏡に代えて小型のカメラを触針の周囲に設けて直接測定点を観察するようにしてもよいし、または、受光部としての反射鏡からCCDカメラなどの撮像手段までの間に追加のレンズや反射鏡などの光学部品を配置して好ましい光学経路を設定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
10 測定対象物
12 測定表面
14 測定点
16 細孔
18 金属薄膜
20 長手軸線
100,200、400 触針式測定装置
110、210,310、410 触針
112、312、412 尖端部
114 平行板バネ機構
116 検出器
120、220 反射鏡
122、222 反射面
124 開口
130 撮像手段、CCDカメラ
132 レンズ群
140 測定部筐体
150 直動上下機構
450 電極部
460 導通測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手軸線方向に延在する細長い触針であって、測定対象物の表面の所定の測定点に運ばれて同測定点に接触するようにされる尖端部を有する触針と、
該触針の周囲の少なくとも一部に配置され、前記表面の前記測定点及び該測定点の周囲からの光を受光する受光部と、を備え、
前記受光部で受光した光に基づき、前記測定点に対する前記尖端部の位置決めを行うようにした触針式測定装置。
【請求項2】
前記受光部は前記長手軸線方向に対して傾斜して配置された反射鏡からなっており、該反射鏡で反射された前記表面からの光を受光して前記表面の画像情報を取得する撮像手段をさらに備えている、請求項1に記載の触針式測定装置。
【請求項3】
前記撮像手段は、該撮像手段の視野を前記反射鏡に向かう方向と前記表面に向かう方向との間で変位可能に配置されており、前記視野を前記表面に向けることで前記反射鏡を介することなく前記表面を観察することができるようになされている、請求項2に記載の触針式測定装置。
【請求項4】
前記受光部は、前記触針を通す大きさとされた開口を有し、該開口に前記触針が通された状態で配置されている、請求項1乃至3のいずれかに記載の触針式測定装置。
【請求項5】
前記受光部は前記触針に対して位置が固定されるように配置されている、請求項1乃至4のいずれかに記載の触針式測定装置。
【請求項6】
前記触針は、前記長手軸線方向に対して直角方向に延び且つ前記長手軸線方向において間隔をあけて互いに平行に配置されている一対の板バネを備える平行板バネ機構により保持されている、請求項1乃至5のいずれかに記載の触針式測定装置。
【請求項7】
前記平行板バネ機構の前記一対の板バネの変位量を検知する検出器と、
該検出器を介して前記平行板バネ機構及び前記触針を上下動させる直動上下機構と、をさらに備え、
前記直動上下機構により前記触針を移動させて前記測定点に前記触針の前記尖端部を接触させ、このときの前記直動上下機構の移動量と前記検出器が検知した変位量とにより前記測定点の測定高さを求めるようになっている、請求項6に記載の触針式測定装置。
【請求項8】
前記触針の前記尖端部は、外径が20μm以下で且つ該外径に対する長さの比が5以上である、請求項1乃至7のいずれかに記載の触針式測定装置。
【請求項9】
前記測定対象物に接触する電極部と、
該電極部が接触する接触点と前記触針が接触する前記測定点との間の電気的導通を測定する導通測定手段と、をさらに備える、請求項1乃至8のいずれかに記載の触針式測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−88271(P2013−88271A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228513(P2011−228513)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(501292142)株式会社小坂研究所 (16)
【Fターム(参考)】