説明

計測装置

【課題】簡易な構成で参照面と被検面との間の絶対距離を高精度かつ高速に計測可能な計測装置を提供すること
【解決手段】波長走査干渉計は、複数の光源IL1〜IL3と、複数の光束を合成するビームスプリッタ103bと、ビームスプリッタ103bからの光を参照光束と被検光束に分割し、干渉計ユニット300によって検出された干渉信号に基づいて参照面と被検面との間の絶対距離を決定する処理部107と、を有する。干渉計ユニットは、複数の種類の光束に対応する複数の種類の干渉縞のそれぞれを、合成された干渉信号S100として検出する単一の光検出部106を有し、処理部は、合成された干渉信号に対してFFTを行って複数の種類の光束のそれぞれについて絶対距離L〜Lを取得し、取得した複数の絶対距離を演算して一つの絶対距離Lを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、参照面と被検面との間の絶対距離を計測する計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波長走査干渉計は、光源が発する光の波長を時間的に走査することによって得られる干渉光の強度や位相の時間的な変化に基づいて参照面と被検面との間の絶対距離を求める。波長走査干渉計では、波長走査範囲を大きくすると計測分解能及び精度が向上する。また、最大の計測レンジは、光源が発生する光のコヒーレンス長に依存するため、長い絶対距離を計測するためには、コヒーレンス長の大きい光を発生するシングルモードレーザを使用することが好ましい。
【0003】
非特許文献1は、各波長における干渉光の強度を高速フーリエ変換(FFT)処理して変調周波数のピークを検出することにより、絶対距離を得る波長走査干渉計を提案している。また、特許文献1は、互いに離散した複数の波長走査範囲をそれぞれ異なる光源で走査することで、実効的な波長走査範囲を拡大し、分解能を向上する波長走査干渉計測方式を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−128707号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】郭志徹他、「波長走査干渉計における信号処理」、精密光学会誌、日本、社団法人精密光学会、2003年、第69巻第6号第831頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された波長走査干渉計は、複数の光源を用いて精度を向上させるために光源の数と同数の光検出部を設けているため、コストアップを招いていた。この場合、複数の光源による波長走査を同時に行わずに、単一の光検出部で逐次的に干渉信号を計測することも可能であるが、その場合は計測速度の低下を招いて計測時間がかかってしまう。
【0007】
本発明は、簡易な構成で参照面と被検面との間の絶対距離を高精度かつ高速に計測可能な計測装置を提供することを例示的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の計測装置は、参照面と被検面との間の絶対距離を計測する計測装置であって、複数の種類の光束の波長を互いに離散した複数の波長走査範囲において互いに異なる波長走査速度で連続的に走査する光源部と、前記光源部から発せられた前記複数の種類の光束を合成する光束合成手段と、前記光束合成手段によって合成された光束を参照光束と被検光束に分割し、前記参照面で反射された前記参照光束と前記被検面で反射された前記被検光束とによって形成される干渉縞を干渉信号として検出する干渉計ユニットと、前記干渉計ユニットによって検出された干渉信号に基づいて前記絶対距離を決定する処理部と、を有し、前記干渉計ユニットは、前記複数の種類の光束に対応する複数の種類の干渉縞のそれぞれを、合成された干渉信号として検出する単一の光検出部を有し、前記処理部は、前記合成された干渉信号を周波数解析して前記複数の種類の光束のそれぞれについて前記絶対距離を取得し、取得した複数の絶対距離を演算して一つの絶対距離を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易な構成で参照面と被検面との間の絶対距離を高精度かつ高速に計測可能な計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の計測装置(波長走査干渉計)のブロック図である。
【図2】図1に示す3つの光源の波数走査範囲を示す図である。
【図3】図1に示す処理部の動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】干渉信号とそれに対してFFTを行った結果を示す図である。
【図5】図1に示す処理部の動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】干渉信号S1およびその位相を示す図である。
【図7】位相の傾きを計算する方法を示す図である。
【図8】位相の傾きを計算する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の計測装置(波長走査干渉計)は、参照面と被検面との間の絶対距離を高速かつ高精度に計測し、光源部、光束合成手段、干渉計ユニットおよび処理部を有する。
【0012】
光源部は、互いに離散したN個(個数Nは2以上の整数)の波長走査範囲(波数走査範囲)を有する複数の種類の光束を発生し、その波数を連続的に走査するN個の種類の光源と、光源の波数を走査するために各光源に設けられた駆動部と、を有する。駆動部は、後述する単一の光検出部に対しては、異なる速度で波長を走査する。
【0013】
光束合成手段は、後述する単一の光検出器に入射する、光源部から発せられた複数の種類の光束を合成し、合成された光束を干渉計ユニットに出力する。
【0014】
干渉計ユニットは、入射光束を参照光束と被検光束に分割し、参照面で反射された参照光束と前記被検面で反射された被検光束とによって形成される干渉縞を干渉信号として検出する。干渉計ユニットは、それぞれの波数走査範囲における参照光束と被検光束との干渉縞の検出信号である干渉信号(ビート信号)を単一の光検出部において検出する。従来は、異なる光源からの光束を光学的に分離した後、それぞれの干渉信号を検出するため、光源数と同数の光検出部を使用していたが、本実施例では、複数の光源部から発せられた光束を同一の光検出部に入射させることで光検出部の数を削減している。その際、本実施例では、各光源が異なる速度で波長を走査し、処理部が複数の種類の干渉信号を分離できるように構成し、複数の光束が同時に光検出部に送られて高速な計測を達成することができる。
【0015】
なお、この単一の光検出部に加えて、更に光検出部が設けられてもよい。この場合は、光検出部の総数は単一ではなくなるが、光源数(複数の種類の光束の数)よりも少ない数となる。例えば、3つの光源が設けられた場合に2つの光検出部が設けられてもよい。
【0016】
処理部は、干渉計ユニットによって検出された干渉信号に基づいて前記絶対距離を決定する。
【0017】
図1は、本実施形態の計測装置(波長走査干渉計)100のブロック図である。計測装置100は、位置が固定された参照面101と被検面102との間の光路長差を絶対距離Lとして求める。
【0018】
計測装置100は、互いに離散した複数(ここでは3個)の波長走査範囲を走査するための3個の光源IL1、IL2、IL3を含む光源部を有する。光源IL1、IL2、IL3は半導体レーザ(例えば、垂直共振器面発光レーザ(Vertical Cavity Surface Emitting LASER:VCSEL)であってもよい。
【0019】
処理部107は、光源部の不図示の駆動部に与える電流を変化させることによって光源IL1、IL2、IL3から射出される光束の波長(換言すれば、光束の波数)を連続的に変化させるプロセッサ(マイクロコンピュータ)である。本実施形態は、後述するように、周波数解析としてのFFT後の周波数を分離するために、3つの光源に対した互いに異なる波長走査速度を設定している。
【0020】
光源IL1は波長λ11から波長λ12の第1の波長走査範囲を、光源IL2は波長λ21から波長λ22の第2の波長走査範囲を、光源IL3は波長λ31から波長λ32の第3の波長走査範囲を同時に走査する。このとき、3つの光源から出力される光の波長走査範囲が重なっている部分が前記範囲であれば足り、3つの光源の発光開始時期が同時であることは不要である。「同時」としているのは、光源を一つずつ点灯すると計測速度が低下するからであり、高速な計測を達成するためである。
【0021】
図2は、3つの光源IL1、IL2、IL3の波数走査範囲を示す図であり、横軸は時間tであり、縦軸は波数kである。波長をλとしたときにk=2π/λで与えられる波数kを用いて表現すると、光源IL1は波数k11(=2π/λ11)から波数k12(=2π/λ12)の波数走査範囲を走査する。同様に、光源IL2は波数k21(=2π/λ21)から波数k22(=2π/λ22)の波数走査範囲を走査する。光源IL3は波数k31(=2π/λ31)から波数k22(=2π/λ32)の波数走査範囲を走査する。
【0022】
光源IL1、IL2、IL3から射出された光束L1、L2、L3は、ビームスプリッタ103a、103bによって合波される。これにより、複数の光源による波長走査を同時に行うことができ、計測速度の低下を防止することができる。
【0023】
合波された光束L1、L2、L3は、ビームスプリッタ(光束分離手段)103bによって、波数計測ユニット200に提供される光束L11、L21、L31と、干渉計ユニット300に提供される光束L12、L22、L32にそれぞれ分割される。
【0024】
波数計測ユニット200では、入射した光束L11、L21、L31を基に、光源IL1、IL2、IL3から射出される光束の各時刻における波数が計測され、得られた波数計測データは処理部107に提供される。波数計測ユニット200は、ファブリペローエタロンやガスセルの透過光強度を用いた波数計測などの公知の技術を用いればよい。
【0025】
干渉計ユニット300に入射した光束L12、L22、L32は、ビームスプリッタ(光束分離手段)103cによって、参照面101に提供される参照光束L13、L23、L33と、被検面102に提供される被検光束L14、L24、L34と、に分割される。
【0026】
参照面101で反射した参照光束L13、L23、L33と被検面102から後方散乱した被検光束L14、L24、L34とは、ビームスプリッタ(光束合成手段)103cによって合波される。合波された光束は、フォトダイオードなどの光検出部106によって受光され、複数の種類の光束に対応する複数の種類の干渉縞が合成された干渉信号S100として検出される。干渉信号S100は、時間に従って変化する。干渉信号S100は、第1の干渉信号S10、第2の干渉信号S20、第3の干渉信号S30を足し合わせた干渉信号である。
【0027】
第1の干渉信号S10は、参照光束L13と被検光束L14の干渉によって形成される干渉信号である。第2の干渉信号S20は、参照光束L23と被検光束L24の干渉によって形成される干渉信号である。第3の干渉信号S30は、参照光束L33と被検光束L34の干渉によって形成される干渉信号である。
【0028】
干渉信号S10、S20、S30は、それぞれ光源IL1、IL2、IL3から射出される光の波長走査範囲における干渉信号である。従来技術によれば、干渉信号S100から干渉信号S10、S20、S30を分離することができないため、それぞれ個別の光検出部を設けなければならないが、本実施形態では分離できるような波長走査速度を設定している。
【0029】
図3は、処理部107が参照面101と被検面102との間の絶対距離を取得するために行う動作を説明するためのフローチャートである。処理部107は、時間的に変化する干渉信号S100に基づいて、図3に示すフローチャートに従って、参照面101と被検面102との間の絶対距離を計算する。図3に示すフローチャートにおいて、「ST」はステップ(工程)の略であり、コンピュータに各ステップ(手順)を実行させるためのプログラムとして具現化される。これは、後述する図5にも当てはまる。
【0030】
まず、処理部107は、波数を走査したときの干渉信号S100を光検出部106から取得し(ST10)。次に、処理部107は、干渉信号S100に周波数解析であるFFTを行い、干渉信号S10、S20、S30にそれぞれ対応するピークP1、P2、P3にスペクトル分離を行う(S12)。従来のように、波長走査速度がほぼ等しい状態ではスペクトル分離ができない。
【0031】
ここで、干渉信号S10、S20、S30、S100は時刻tに対して次式で表される。
【0032】
【数1】

【0033】
但し、A、A、Aは参照光束IL13、IL23、IL33の振幅強度、B、B、Bは被検光束IL13、IL23、IL33の振幅強度、k、k、kは時刻tの光源IL1、IL2、IL3から射出される光束の波数、Lは絶対距離である。簡単のため空間の屈折率は1とし、分散はないものとしている。
【0034】
図4(a)に時間的に変化する干渉信号S100を示しており、横軸は時間tで、縦軸は信号強度である。図4(b)に干渉信号S100にFFTを行った結果を示しており、横軸は周波数fであり、縦軸は強度である。
【0035】
ここで、波数k、k、kはそれぞれ異なる速度で走査されるため、干渉信号S10、S20、S30はそれぞれ異なる周波数成分を持つ。従って、波数k、k、kの走査速度に十分な差を設けておけば、干渉信号S100に対してフーリエ変換することで、図4(b)に示すように、それぞれの波数走査範囲におけるピークP1、P2、P3を分離することができる。
【0036】
波数k、k、kの走査速度差は、ピークP1、P2、P3が、分離可能な走査速度差が必要であり、例えば、ピークP1、P2、P3のピーク周波数差を半値周波数幅よりも大きくすることが好ましい。
【0037】
次に、処理部107は、分離されたピークP1に対応する周波数(ピーク周波数)から絶対距離Lを得て(ST14)。同様に、処理部107は、分離されたピークP2に対応する周波数から絶対距離Lを得て(ST16)、分離されたピークP3に対応する周波数から絶対距離Lを得る(ST18)。このように、処理部107は、合成された干渉信号S100を周波数解析して複数の種類の光束L12、L22、L32のそれぞれについて絶対距離L、L、Lを取得し、取得した複数の絶対距離を演算して一つの絶対距離Lを出力する。演算は、単純平均、加重平均、あるいは、図5〜8を参照して後述する位相接続など種類は問わない。
【0038】
次に、処理部107は、絶対距離L、L、Lを平均して絶対距離L4を得る(ST20)。このようにピーク周波数から絶対距離を得る場合、非特許文献1で報告されているように、FFT後の離散化されたデータのピッチ(以下、FFT後のピッチ)の1/100程度の計測精度が得られる。
【0039】
従って、特許文献1と同様に、3つのピーク周波数から絶対距離を得ることで、実効的な波数走査範囲を拡大することができるため、絶対距離の計測精度を向上することができる。特許文献1によれば、波数走査範囲と同数の光検出部を設けて、干渉信号S10、S20、S30をそれぞれ検出する必要があったが、それぞれの波数走査範囲を異なる速度で走査することにより、単一の光検出部のみで、精度向上効果を得ることができる。また、干渉信号S10、S20、S30は分離されたピークに対して逆高速フーリエ変換(IFFT)を行うことで、干渉信号S100から分離することができる。
【0040】
図5は、処理部107が参照面101と被検面102との間の絶対距離Lよりも高精度な絶対距離を取得するために行う動作を説明するためのフローチャートである。
【0041】
まず、処理部107は、分離されたピークに対して逆高速フーリエ変換(IFFT)を行うことで分離された干渉信号S10、S20、S30を取得する(ST22)。
【0042】
次に、処理部107は、時間に従って変化する干渉信号S10、S20、S30を、波数計測ユニット200から提供される波数計測データに基づいて、波数に従って変化する第1の干渉信号S1、第2の干渉信号S2、第3の干渉信号S3に変換する(ST24)。
【0043】
ここで、干渉信号S1は波数kに対して次式で表される。φ’は干渉信号の位相、Mは干渉次数、φは±πの範囲に含まれる干渉信号の位相の端数成分(以下、端数位相と呼ぶ)である。
【0044】
【数2】

【0045】
図6(a)は、波数k(横軸)と第1の干渉信号S1の強度i(縦軸)との関係を示している。図6(b)は波数k(横軸)と第1の干渉信号S1の位相φ’(縦軸)との関係を示している。ここでの波数kは相対的な値であるので、位相φ’は波数k11における位相を基準としたものである。
【0046】
数式2に示すように、絶対距離Lの2倍(2L)は、図6(b)に示す波数kに対する第1の干渉信号S1の位相φ’の傾きに相当する。ここで、干渉信号S1、S2、S3は、図6(a)に示す信号強度を有するから、以下に示すように、離散フーリエ変換(DFT)を用いて、信号強度に基づいて干渉信号の位相が決定される。
【0047】
そこで、処理部107は、ST14で得られた絶対距離Lを使用して波数k11〜波数k12の範囲内で第1の干渉信号S1をDFTすることによって任意の波数kにおける第1の干渉信号S1の端数位相を決定する(ST26)。ここでは、一例として、第1の干渉信号S1の端数位相(第1の位相の端数成分)として、波数k11における端数位相φ11を決定するものとする。
【0048】
端数位相φは、数式3に従って計算される。
【0049】
【数3】

【0050】
数式3により、例えば、波数k11における端数位相φ11や、波数k12における端数位相φ12など、任意の波数における第1の干渉信号S1の端数位相(第1の位相の端数成分)を決定することができる。数式3によって決定される端数位相φは、±πの範囲のみであり、干渉次数は不明である。
【0051】
干渉信号S1の位相φ’の傾きは2Lとして既に得られているため、位相φ’は、波数k11における端数位相φ11を基準として、図6(b)のように表すことができる。以降、端数位相φ11のように、プライム(’)がついていない位相は±πの範囲とし、φ11’のようにプライム(’)がついている位相はφ11を基準とする相対的な位相とする。ここで、位相φ’を波数k11における端数位相φ11を基準としたが、任意の波数における位相を基準とすることができる。
【0052】
ST14で得られる絶対距離Lは、絶対距離の真値に対して誤差をもつ。非特許文献1に報告されている信号処理技術を用いることや、FFTの際に適切なゼロ詰めを行うこと等により、絶対距離Lの精度はFFT後のピッチの1/100程度の精度となる。
【0053】
また、波数kにおける干渉信号S1の位相の傾きは2Lであるので、絶対距離の計算精度がFFT後のピッチの1/100であるときに数式3に従って計算される端数位相φの精度は、波数走査範囲の全域において2π/100以下となる。
【0054】
図3に示す絶対距離の決定方法は、FFTによって絶対距離(位相の傾き)および平均化による精度が高められた絶対距離を得ることができる。これに対して、図5に示す処理を加えることにより、波数kに対する1つの干渉信号に基づいて、位相の傾きのみならず任意の波数における端数位相を得ることができる。
【0055】
同様に、処理部107は、ST16で得られた絶対距離Lを使用して波数k21〜波数k22の範囲内で第2の干渉信号S2をDFTすることによって任意の波数kにおける第2の干渉信号S2の端数位相(第2の位相の端数成分)を決定する(ST28)。ここでは、一例として、第2の干渉信号S2の端数位相として、波数k21における端数位相φ21を決定するものとする。
【0056】
次に、図7を参照しながら、位相の傾き2L12を決定する方法について説明する(S30)。直線LN1は、S26で決定した波数k11における干渉信号S1の位相φ11および位相の傾き2Lによって決定される直線である。直線LN2は、(2πM12+φ21)で表される位相φ21’と位相φ11’とで決定される直線である。M12は、波数k11における干渉信号S1と波数k21における干渉信号S2との間の干渉次数差(第1の干渉次数差)であり、数式4によって決定することができる。
【0057】
【数4】

【0058】
「round()」は、引数を整数に丸める関数を示す。M12を正しく求めるためには、数式5の不等式を満たす必要がある。
【0059】
【数5】

【0060】
δφは位相誤差を示し、数式5から、位相誤差δφが小さくなるほど、k21とk11の差、即ち、IL1とIL2の波長走査範囲の離散間隔を大きくできることが分かる。前述の通り、位相誤差δφを2π/100未満にする場合、数式5より、最大の効果を得るためには、(k21−k11)が(k12−k11)の50倍以下とされる。
【0061】
ここで、処理部107は、S28において端数位相φ21を求めているため、数式4により、第1の干渉次数差M12を決定することで、数式6のように、直線LN2の傾き2L12(第2の位相の傾き)から絶対距離L12を決定することができる。
【0062】
【数6】

【0063】
数式6に従って計算された絶対距離L12は、図3において計算された絶対距離Lの(k21−k11)/(k12−k11)に精度(誤差)が向上している。これは、第1の干渉次数差M12を決定することにより、k11からk12の波数走査範囲における位相と、波数k21における位相とを接続することができ、k11からk21までの波数走査範囲を走査した場合と同等の絶対距離精度が得られることを示している。
【0064】
次に、処理部107は、S26と同様の方法で、第3の干渉信号S3の端数位相を決定する(S32)。具体的には、S32では、第3の干渉信号S3と絶対距離Lに基づいて波数k31〜波数k32の波長走査範囲内の任意の波数kにおける端数位相(第3の位相の端数成分)を決定する。ここでは、一例として、第3の干渉信号S3の端数位相として、波数k31における端数位相φ31を求めるものとする。
【0065】
次に、処理部107は、S30と同様の方法で、波数k11における間信号と波数k31における干渉信号との間の干渉次数差(第2の干渉次数差)M13を決定する(S34)。干渉次数差M13は数式7によって定義される。
【0066】
第2の干渉次数差M13を正しく求めるためには、数式8の不等式を満たす必要がある。干渉次数差M13を決定することで、図8に示す直線LN3を決定することができるので、数式9に従って絶対距離L13を計算することができる。
【0067】
【数7】

【0068】
【数8】

【0069】
【数9】

【0070】
ここで、数式8より、(k31−k11)は、(k21−k11)の最大50倍まで大きくすることができ、(k31−k11)は、(k12−k11)の最大2500倍まで大きくすることができる。
【0071】
数式9に従って計算される絶対距離L13は、絶対距離L12の1/50、絶対距離Lの1/2500の精度に向上している。即ち、IL1またはIL2による波数走査範囲とIL3による波数走査範囲の離散間隔は、IL1による波数走査範囲とIL2による波数走査範囲の離散間隔よりも大きくすることができ、波数走査範囲の数によって指数関数的に精度を向上させることが可能となる。
【0072】
波数走査範囲がN個(ここでは、Nは3以上の整数)である場合において、第(i−1)の波長走査範囲と第iの波長走査範囲との離散間隔は、第(i−2)の波長走査範囲と前記第(i−1)の波長走査範囲との離散間隔よりも大きいことが好ましい。
【0073】
以上、計測装置100によれば、複数の波数走査範囲を用い、実効的な波数走査範囲を拡大しながらも、単一の光検出部を用いた簡易な構成で、参照面101と被検面102との間の絶対距離を高精度に得ることができる。
【0074】
図5の方法は、干渉信号S1、S2、S3に対して、それぞれ絶対距離L、L、Lを基にしたDFTにより端数位相を算出しているが、波数走査速度の違いを考慮した上で、干渉信号S100にDFTを行っても同様に端数位相を算出することができる。本実施形態では3つの光源(N=3)を用いたが、必要な精度に応じて、光源を増加または減少させてもよい。
【0075】
例えば、複数の波長走査範囲の個数がN個(Nは4以上の整数)である場合を考える。処理部107は、第iの波長走査範囲について干渉計ユニット300によって検出された第(i−1)の干渉信号に基づいて、第iの波長走査範囲に含まれる任意の波数における第iの干渉信号の位相である第iの位相の端数成分を決定する。また、処理部107は、第(i−1)の位相の傾きに基づいて、第1の位相と第iの位相との間の干渉次数差である第(i−1)の干渉次数差を決定する。また、処理部107は、第(i−1)の干渉次数差と、第1の位相の端数成分と、第iの位相の端数成分とに基づいて、光束の波数に対する第1の干渉信号から第iの干渉信号までを含む干渉信号の位相の傾きである第iの位相の傾きを決定する。処理部107は、これらの処理をi=3からi=Nとなるまでiを1ずつ増加させながら繰り返す。これによって、処理部107は、第Nの位相の傾きを決定し、第Nの位相の傾きから絶対距離を決定する。この場合、上述したように、第(i−1)の波長走査範囲と第iの波長走査範囲との離散間隔は、第(i−2)の波長走査範囲と第(i−1)の波長走査範囲との離散間隔よりも大きくすることができる。
【0076】
本実施形態では波数計測ユニットにおける波数計測誤差を無視できるものとして扱ったが、無視できない波長計測誤差がある場合は、同様に干渉次数差決定ができる程度に離散間隔を小さくすればよい。また、被検面102や計測環境によって各波長走査範囲の離散間隔を調整することもできる。この場合、高速な調整は必要ではないと考えられるため、例えば、VCSELの温度を変更して波長走査範囲を調整すればよい。また、本実施形態では、周波数解析にFFTを用いたが、最大エントロピー法などの他の公知の周波数解析方法を用いてもよい。
【0077】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
計測装置(波長走査干渉計)は絶対距離を計測する用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
100…計測装置、106…光検出部、107…処理部、300…干渉計ユニット、IL1〜IL3…光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照面と被検面との間の絶対距離を計測する計測装置であって、
複数の種類の光束の波長を互いに離散した複数の波長走査範囲において互いに異なる波長走査速度で連続的に走査する光源部と、
前記光源部から発せられた前記複数の種類の光束を合成する光束合成手段と、
前記光束合成手段によって合成された光束を参照光束と被検光束に分割し、前記参照面で反射された前記参照光束と前記被検面で反射された前記被検光束とによって形成される干渉縞を干渉信号として検出する干渉計ユニットと、
前記干渉計ユニットによって検出された干渉信号に基づいて前記絶対距離を決定する処理部と、
を有し、
前記干渉計ユニットは、前記複数の種類の光束に対応する複数の種類の干渉縞のそれぞれを、合成された干渉信号として検出する単一の光検出部を有し、
前記処理部は、前記合成された干渉信号を周波数解析して前記複数の種類の光束のそれぞれについて前記絶対距離を取得し、取得した複数の絶対距離を演算して一つの絶対距離を出力することを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記処理部は、
前記複数の波長走査範囲の1つである第1の波長走査範囲について前記干渉計ユニットによって検出された第1の干渉信号に基づいて、前記光束の波数に対する前記第1の干渉信号の位相の傾きである第1の位相の傾きと、前記第1の波長走査範囲に含まれる任意の波数における前記第1の干渉信号の位相である第1の位相の端数成分とを決定し、
前記複数の波長走査範囲の他の1つである第2の波長走査範囲について前記干渉計ユニットによって検出された干渉信号に基づいて、前記第2の波長走査範囲に含まれる任意の波数における前記第2の干渉信号の位相である第2の位相の端数成分を決定し、
前記第1の位相の傾きと、前記第1の位相の端数成分と、前記第2の位相の端数成分とに基づいて、前記第1の位相と前記第2の位相との間の干渉次数差である第1の干渉次数差を決定し、
前記第1の干渉次数差と、前記第1の位相の端数成分と、前記第2の位相の端数成分とに基づいて、前記光束の波数に対する前記第1の干渉信号および前記第2の干渉信号を含む干渉信号の位相の傾きである第2の位相の傾きを決定することを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記第1の干渉信号を周波数解析することによって前記第1の干渉信号の位相の傾きを求め、前記第1の干渉信号の位相の傾きを使って前記第1の干渉信号を離散フーリエ変換することによって前記第1の位相を求めることを特徴とする請求項2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記複数の波長走査範囲の個数は3個であり、
前記処理部は、更に、
第3の波長走査範囲について前記干渉計ユニットによって検出された第3の干渉信号に基づいて、前記第3の波長走査範囲に含まれる任意の波数における前記第3の干渉信号の位相である第3の位相の端数成分を決定し、
前記第2の位相の傾きに基づいて、前記第1の位相と前記第3の位相との間の干渉次数差である第2の干渉次数差を決定し、
前記第2の干渉次数差と、前記第1の位相の端数成分と、前記第3の位相の端数成分とに基づいて、前記光束の波数に対する前記第1の干渉信号から前記第3の干渉信号までを含む干渉信号の位相の傾きである第3の位相の傾きを決定し、
前記第3の位相の傾きから前記絶対距離を決定することを特徴とする請求項2または3に記載の計測装置。
【請求項5】
前記複数の波長走査範囲の個数はN個(Nは4以上の整数)であり、
前記処理部は、
第iの波長走査範囲について前記干渉計ユニットによって検出された第(i−1)の干渉信号に基づいて、前記第iの波長走査範囲に含まれる任意の波数における前記第iの干渉信号の位相である第iの位相の端数成分を決定し、
第(i−1)の位相の傾きに基づいて、前記第1の位相と前記第iの位相との間の干渉次数差である第(i−1)の干渉次数差を決定し、
前記第(i−1)の干渉次数差と、前記第1の位相の端数成分と、前記第iの位相の端数成分とに基づいて、前記光束の波数に対する前記第1の干渉信号から前記第iの干渉信号までを含む干渉信号の位相の傾きである第iの位相の傾きを決定する、
という処理をi=3からi=Nとなるまでiを1ずつ増加させながら繰り返することによって第Nの位相の傾きを決定し、前記第Nの位相の傾きから前記絶対距離を決定することを特徴とする請求項2又は3に記載の計測装置。
【請求項6】
第(i−1)の波長走査範囲と前記第iの波長走査範囲との離散間隔は、第(i−2)の波長走査範囲と前記第(i−1)の波長走査範囲との離散間隔よりも大きいことを特徴とする請求項5に記載の計測装置。

【図2】
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【図7】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−64682(P2013−64682A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204336(P2011−204336)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】