説明

試料中の分析物の存在を検出するための方法および装置

試料中の分析物の存在を検出するためのセンサ検定の方法が提供される。方法の態様は、試料および近接標識を含む検定組成物と接触する近接センサなどのセンサを設けることを含む。次に、近接標識と分析物とに結合するように構成された捕獲プローブが、標識化分析物を生成するために検定組成物中に導入される。捕獲プローブの導入後に、センサから試料中の標識化分析物の存在を検出するための信号が獲得される。また、手持ち式装置を含むセンサ装置と、本発明の方法を実施するのに利用できるキットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援の受領確認
本発明は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)による助成番号CA119367、米国国防脅威削減局(Defense Threat Reduction Agency)による助成番号HDTRA1−07−1−0030、および米国国立科学財団(National Science Foundation)による助成番号ECCS−0801385の下での政府支援を受けてなされたものである。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
米国特許法第35編第119条(e)に従い、本出願は、その開示が参照により本明細書に組み込まれる、2009年4月13日に出願された米国仮特許出願第61/168,922号の出願日の優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0003】
序論
ナノテクノロジーは、分子事象を、巨視的計測により測定できる信号へと変換することができるため、タンパク質などの分析物を迅速に高感度で検出するのに適する。高感度で特異的な分析物検出の高い必要性に迫られて、研究者らは正確な検出のためにナノスケールへの移行を開始している。しかし、分析物検出プラットフォームの圧倒的多数は、検出に先立ち一連の時間集約的で、手間のかかる洗浄ステップを必要とする。実験室環境では、そのような要件を実施するのは簡単である。しかし、臨床での迅速な診断で、第三世界諸国において、あるいは市販のものを一般消費者が使用する場合には、この要件は実用性を欠く。
【0004】
例えば第三世界諸国では、医療診断検査機関や十分に訓練された技師を利用する機会は限られている。その結果、これらの地域における診断の大多数は、患者の徴候および症状に基づくものになる。
【0005】
この患者治療の方法はインフルエンザの診断といった簡単明瞭な状況においては適するが、圧倒的多数の疾患は単純な観察によって判断することができない。これと対照的に先進諸国では、医療上の意思決定はますます分子検査に基づくものになりつつあり、分子検査においては、血清およびその他の体液中の疾病特異的な分析物の定量的検出が事実上あらゆる治療の基礎となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願第12/234,506号明細書
【特許文献2】米国特許出願第10/829,505号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】オスターフェルド等(Osterfeld,S.J.et al.)「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ(Proceedings of the National Academy of Sciences)」,105,20637−40 (2008年)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
概要
試料中の分析物の存在を検出するためのセンサ検定の方法が提供される。方法の態様は、試料および近接標識を含む検定組成物と接触する近接センサなどのセンサを設けることを含む。次に、近接標識と分析物とに結合するように構成された捕獲プローブが、標識化分析物を生成するために検定組成物中に導入される。捕獲プローブの導入後に、センサから試料中の標識化分析物の存在を検出するための信号が獲得される。また、手持ち式装置を含む近接センサ装置と、本発明の方法を実施するのに利用できるキットも提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本開示の実施形態による試料中の分析物の存在を検出する方法を示す図である。
【図2】本開示の実施形態による試料中の分析物の存在を検出するための装置を示す概略図である。
【図3A】本開示の実施形態による試料中の分析物の存在を検出するためのシステムを示す概略図である。
【図3B】本開示の実施形態による試料中の分析物の存在を検出するためのシステムにおいて位置決めされた装置を示す概略図である。
【図4】本開示の実施形態による、(a)センサにおける信号、(b)センサにおける差分信号、ならびに(c)3つの別個の周波数成分、およびフィールド周波数における電磁干渉を示すセンサにおける信号のスペクトルの例を示すグラフである。
【図5】近接センサのための励起信号および磁場発生器のための励起信号を発生するのに使用される回路を示す回路図である。
【図6】本開示の実施形態による近接センサごとのアナログフロントエンドを示す回路図である。
【図7(a)】本開示の実施形態による電磁コイル駆動を示す回路図である。
【図7(b)】本開示の実施形態による平面電磁石および磁束ガイドを示す写真である。
【図8】本開示の実施形態によるタンパク質検出検定を使った捕獲される抗原に対する(実施形態によっては、例えばサンドイッチELISA検定の状況などにおける検出抗体とすることもできる)捕獲プローブの重畳リアルタイム結合曲線を示すグラフである。(1μg/mL(5nM)から10pg/mL(50fM)までの範囲に及ぶ癌胎児性抗原(CEA)の濃度が検査され、バックグラウンドより上で検出可能であるものとして示された。検定は15分間にわたって実行され、したがって、(15分の囲み内に指示される)15分において観測された信号を使って較正曲線が生成された。)
【図9】本開示の実施形態による検定の較正曲線を示すグラフである。(検定における定量化可能なタンパク質検出の下限は約50fMであった。)
【図10】本開示の実施形態による、血管内皮増殖因子(VEGF)のみに特異的な表面捕獲リガンドを有するセンサへのVEGF、CEA、および上皮細胞接着分子(EpCAM)の結合を示すグラフである。(エポキシおよびウシ血清アルブミン(BSA)で被覆されたセンサが負の対照として使用された。)
【図11】本開示の実施形態による試料中の分析物の存在を検出するための手持ち式装置を示す写真である。(差込み図には近接センサの配列の拡大図が示されている。)
【図12】本開示の実施形態によるデータ収集基板(DAQ)を示す写真である。
【図13】本開示の実施形態による電磁コイル基板を示す写真である。
【図14】本開示の実施形態による試料中の分析物の存在を検出するためのシステムを示す写真である。
【図15】本開示の実施形態による近接センサのリアルタイムモニタリングを示すグラフである。(y軸の単位は、百万分の1(ppm)単位で提示される初期磁気抵抗に正規化された磁気抵抗の変化である。)
【図16(a)】本開示の実施形態による抗体交差反応性検定を例示する図である。
【図16(b)】配列中の近接センサごとの、百万分の1(ppm)単位で提示される初期磁気抵抗に正規化された磁気抵抗の変化を示すグラフである。
【図16(c)】抗EGFR捕獲プローブが最初に導入され、EpCAM結合センサとの交差反応性を示した、抗体交差反応性検定を示すグラフである。
【図16(d)】抗Trop2捕獲プローブが最初に導入され、EFGR結合センサとの交差反応性を示した、抗体交差反応性検定を示す別のグラフである。
【図17】本開示の実施形態による、EpCAMタンパク質およびTrop2タンパク質が検定組成物から除外された対照実験を示す図およびグラフである。
【図18】本開示の実施形態による、EGFRタンパク質が検定組成物から除外された対照実験を示す図およびグラフである。
【図19】本開示の実施形態による抗体交差反応性実験を示す図およびグラフである。
【図20(a)】本開示の実施形態による、抗Trop2、抗EpCAMおよび抗CEAの各捕獲プローブ間に交差反応性がないことを示す対照実験を示すグラフである。
【図20(b)】本開示の実施形態による、抗EGFR、抗B2M、および抗CEAの各捕獲プローブ間に交差反応性がないことを示す対照実験を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
試料中の分析物の存在を検出するためのセンサ検定の方法が提供される。方法の態様は、試料および近接標識を含む検定組成物と接触するセンサ(近接センサなど)を設けることを含む。次に、近接標識と分析物とに結合するように構成された捕獲プローブが、標識化分析物を生成するために検定組成物中に導入される。捕獲プローブの導入後に、センサから試料中の標識化分析物の存在を検出するための信号が獲得される。また、手持ち式装置を含むセンサ装置と、本発明の方法を実施するのに利用できるキットも提供される。
【0011】
本発明をさらに詳細に説明する前に、本発明は説明する特定の実施形態だけに限定されるものではなく、したがって当然ながら様々な実施形態を取り得ることを理解すべきである。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものであり、本明細書で使用する用語は限定のためのものではなく特定の実施形態を説明するためのものにすぎないことも理解すべきである。
【0012】
値の範囲が提供される場合には、当該範囲の上限と下限との間の、文脈上明らかに別の意味に解されるのでない限り下限の単位の10分の1までの各介在値、および当該範囲内の他の任意の定められるまたは介在する値が本発明に包含されるものと理解する。これらより小さい範囲の上限および下限は、そのより小さい範囲内に独立に含まれていてもよく、やはり本発明に包含され、定められる範囲における任意の明確に除外される限界に従う。定められる範囲がこれらの限界の一方または両方を含む場合には、それら含まれる限界のどちらかまたは両方を除く範囲も本発明に含まれる。
【0013】
本明細書においてはいくつかの範囲を「約」という語が前につく数値で提示する。「約」という語は、本明細書では、「約」が前につく正確な数、ならびに「約」が前につく数に近く、またはその数を近似する数を文字で表現するのに使用する。ある数が具体的に列挙される数に近いか、またはその数を近似するかどうか判定する際に、その近い、または近似する記載されない数は、それが提示される状況において、具体的に列挙される数と実質的に等価な数を提供する数とすることができる。
【0014】
特に定義しない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。本発明の実施または試験に際しては、本明細書において説明するのと類似の、または等価の任意の方法および材料を使用することもできるが、次に代表的な例示的方法および材料の例を説明する。
【0015】
本明細書において引用するすべての文献および特許は、あたかも各個別の文献または特許が参照により組み込まれるべきであると具体的、個別的に指示されたかのように参照により本明細書に組み込まれ、各文献がそれとの関連で引用される方法および/または材料を開示し、説明するために参照により本明細書に組み込まれるものである。任意の文献の引用は、出願日に先立つその開示のためのものであり、先願発明が理由で本発明にそのような文献に先行する権利が与えられないことを容認するものと解釈すべきではない。さらに、提示する公開の日付は実際の公開の日付と異なる場合もあり、それについては別途確認される必要がある。
【0016】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈上明確に定めない限り、複数形を含むことに注意する。さらに、特許請求の範囲は任意選択の要素を除外するように草案される場合もあることにも注意する。したがって、この記述は、特許請求要素の列挙と関連した「solely」、「only」などといった排他的用語の使用、あるいは「negative(消極的)」限定の使用のための先行基礎となることを意図したものである。
【0017】
また、明確にするために別々の実施形態の状況において説明される本発明のいくつかの特徴は、単一の実施形態において組み合わせて提供されてもよいことも理解する。また逆に、簡潔にするために単一の実施形態の状況において説明される本発明の様々な特徴も、別々に提供されても、任意の適切な部分的組み合わせとして提供されてもよい。各実施形態のすべての組み合わせは、そのような組み合わせが動作可能な工程および/または装置/システム/キットを包含する限りにおいて、本発明により明確に包含され、あたかもありとあらゆる組み合わせが個別的、明示的に開示されたかのように本明細書において開示されるものである。加えて、そのような変形を説明する実施形態において記載されるすべての部分的組み合わせもまた、本発明により明確に包含され、あたかもありとあらゆる化学基の部分的組み合わせが本明細書において個別的、明示的に開示されたかのように本明細書において開示されるものである。
【0018】
本開示を読むと当業者には明らかになるように、本明細書において説明され、図示される個別実施形態はそれぞれ、本発明の範囲または趣旨を逸脱することなく、その他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴から分離することも、それらと組み合わせることも容易にできる別個の構成部分および特徴を有する。列挙される方法はいずれも列挙されるイベントの順序で実行することもでき、論理的に可能な他の任意の順序で実行することもできる。
【0019】
以下の各項においては、最初に、方法の実施形態の態様をより詳細に説明する。次に、本発明の方法を実施する際に使用され得るシステムおよびキットの実施形態を考察する。
【0020】
方法
先に要約したように、方法の実施形態は、分析物が試料中に存在するかどうか判定すること、例えば、試料中の1つまたは複数の分析物の有無を判定することなどを対象とする。方法のいくつかの実施形態においては、試料中の1つまたは複数の分析物の存在が定性的または定量的に判定され得る。定性測定は、試料中の分析物の存在に関する単純な当否の結果がユーザに提供される測定を含む。定量測定は、試料中の分析物の量に関して、低、中、高などの大まかな尺度の結果がユーザに提供される半定量測定と、分析物の濃度の厳密な測定値がユーザに提供される細かい尺度の結果の両方を含む。
【0021】
実施形態によっては、方法は試料中の分析物のユニプレックス分析を含む。「ユニプレックス分析」とは、試料が試料中の1つの分析物の存在を検出するために分析されることを意味する。例えば試料は、対象とする分析物と、対象としない他の分子実体からなる混合物を含み得る。場合によっては、方法は、試料混合物中の対象とする分析物の存在を判定するための試料のユニプレックス分析を含む。
【0022】
いくつかの実施形態は、試料中の2つ以上の分析物のマルチプレックス分析を含む。「マルチプレックス分析」とは、相互に異なる2つ以上の分析物の存在が判定されることを意味する。例えば各分析物は、その分子構造、配列などにおいて検出可能な差異を含み得る。場合によっては、分析物の数は2より大きく、例えば、4以上、6以上、8以上など最大20以上までの別個の分析物であり、例えば、100以上を含めて50以上の別個の分析物である。いくつかの実施形態においては、方法は2から100の別個の分析物のマルチプレックス分析を含み、例えば4から50の別個の分析物であり、これには4から20の別個の分析物が含まれる。
【0023】
場合によっては、方法は試料中の1つまたは複数の分析物の存在を判定する無洗浄の方法である。「無洗浄」とは、試薬および/または試料のセンサ表面との接触後に洗浄ステップが行われないことを意味する。このように、これらの実施形態の検定の間には、非結合試薬または非結合試料がセンサ表面から除去されるステップが行われない。したがって方法は、1つまたは複数の別個の試薬および/または試料のセンサ表面への順次の接触を含み得るが、検定中のどの時点においても、試料表面がセンサ表面から非結合の試薬または試料を除去するように流体と接触することはない。例えば、いくつかの実施形態においては、センサ表面の試料との接触後に洗浄ステップが行われない。場合によっては、方法は、センサの近接標識との接触後に洗浄ステップを含まない。いくつかの例では、センサ表面の捕獲プローブとの接触後に洗浄ステップが行われない。
【0024】
先に要約したように、方法の態様は、最初に、試料および近接標識を含む検定組成物と接触する近接センサといったセンサを設けることを含む。次に、近接標識と分析物とに結合するように構成された捕獲プローブが検定組成物中に導入される。捕獲プローブの導入後に、センサから試料中の分析物の存在を検出するための信号が獲得される。次に、これらの各ステップをより詳細に説明する。
【0025】
試料および近接標識を含む検定組成物と接触するセンサの製造
方法の態様は、試料および近接標識と接触するセンサを製造することを含む。したがって方法は、センサを、試料および近接標識を含む検定組成物と接触させる装置を製造することを含む。
【0026】
試料
前述のように、本発明の方法において検定され得る検定組成物は試料および近接標識を含む。本発明の方法において検定され得る試料は様々なものとすることができ、これには単純試料と複合試料の両方が含まれ得る。単純試料は、対象とする分析物を含む試料であり、対象としない1つまたは複数の分子実体を含んでいてもいなくてもよく、これらの非対象分子実体の数は低く、例えば10以下、5以下などである。単純試料は、試料から潜在的妨害分子実体を除去するなど、何らかのやり方で処理された初期の生物試料または他の試料を含み得る。「複合試料」とは、対象とする分析物を有していてもいなくてもよいが、対象としない多くの異なるタンパク質および他の分子も含む試料を意味する。場合によっては、本発明の方法において検定される複合試料は、分子構造の点において互いに異なる、20以上など、10以上の別個の(すなわち異なる)分子実体を含む複合試料であり、これには100以上、例えば10以上、10以上(15,000、20,000、25,000以上など)の別個の(すなわち異なる)分子実体が含まれる。
【0027】
いくつかの実施形態においては、対象とする試料は、それだけに限らないが、尿、血液、血清、血漿、唾液、汗、便、口腔粘膜検体、脳脊髄液、細胞溶解産物試料などといった生物試料である。試料は生物試料とすることもでき、DNA、RNA、タンパク質およびペプチドをうまく抽出するための従来からの方法を使って、ヒト、動物、植物、菌類、酵母、細菌、培養組織、培養ウイルス、またはそれらの組み合わせに由来する生物試料の中から抽出することもできる。場合によっては、対象とする試料は、水、食品または土壌の試料である。
【0028】
前述のように、本発明の方法において検定され得る試料は1つまたは複数の対象とする分析物を含み得る。検出可能な分析物の例には、それだけに限らないが、例えば、二本鎖または一本鎖DNA、二本鎖または一本鎖RNA、DNA−RNAハイブリッド、DNAアプタマー、RNAアプタマーなどの核酸;例えば、抗体、ダイアボディ、Fabフラグメント、DNAまたはRNA結合タンパク質、リン酸化タンパク質(リン酸化プロテオミクス)、ペプチドアプタマー、エピトープなどの修飾ありまたはなしのタンパク質およびペプチド;阻害物質、活性化物質、リガンドなどといった小分子;オリゴ糖または多糖類;これらの混合物などが含まれる。
【0029】
近接標識
前述のように、本発明の方法において検定され得る検定組成物は試料および近接標識を含む。近接標識は、近接標識がセンサの近くに位置するときに近接センサなどのセンサにより検出可能な標識化部分である。検出時の近接標識とセンサ表面との距離は特定の近接標識およびセンサ表面の性質に応じて変化し得るが、場合によってはこの距離はセンサの表面から1nmから200nmまでの範囲、例えば5nmから150nmまでにおよび、これには5nmから100nmまでが含まれる。いくつかの実施形態においては、近接標識は、対象とする分析物に特異的に結合するように構成された検出可能な標識である。「特異的結合」、「特異的に結合する」などの用語は、第1の結合分子または部分(標的特異性結合部分など)が、溶液または反応混合物中の他の分子または部分に対して、第2の結合分子または部分(標的分子など)に直接、優先的に結合することができることをいう。いくつかの実施形態においては、第1の結合分子または部分と第2の結合分子または部分とが結合複合体において相互に対して特異的に結合されるときのそれらの間の親和性は、10−6M未満、10−7M未満、10−8M未満、10−9M未満、10−10M未満、10−11M未満、10−12M未満、10−13M未満、10−14M未満、または10−15M未満のK(解離定数)を特徴とする。
【0030】
対象とする分析物に対する近接標識の結合は、対象とする分析物が、よって結合される近接標識が近接センサといったセンサの近くに位置するときに、センサにより検出されることを可能にする。場合によっては、近接標識は対象とする分析物に直接結合するように構成される。場合によって、近接標識は対象とする分析物に間接的に結合するように構成される。例えば、近接標識は捕獲プローブに特異的に結合するように構成されていてもよく、捕獲プローブは対象とする分析物に特異的に結合するように構成されていてもよい。よって、捕獲プローブに対する近接標識および対象とする分析物の結合により対象とする分析物に近接標識が間接的に結合されて、例えば、標識化分析物が生成される。場合によっては、捕獲プローブに対する近接標識および分析物の結合は同時に生じる。
【0031】
いくつかの実施形態においては、近接標識は結合対の一方のメンバを用いて機能化される。「結合対」または「特異的結合対」とは、結合複合体において相互に対して特異的に結合する2つの相補的結合分子または部分を意味する。例えば、近接標識は結合対の第1のメンバを用いて機能化することができ、対象とする分析物は結合対の第2のメンバを用いて機能化することができる。よって、結合対の第1のメンバと第2のメンバとを接触させることにより、近接標識と対象とする分析物との間の結合複合体を形成することができる。別の例では、近接標識は結合対の第1のメンバを用いて機能化され、捕獲プローブは結合対の第2のメンバを用いて機能化される。よって、結合対の第1のメンバと第2のメンバとを接触させることにより、近接標識と捕獲プローブとの間の結合複合体を形成することができる。前述のように、場合によっては、捕獲プローブは、対象とする分析物に特異的に結合するように構成される。したがって、近接標識は、近接標識と捕獲プローブとの間に形成される結合複合体を介して対象とする分析物に間接的に結合され得る。適切な特異的結合対には、それだけに限らないが、受容体/リガンド対のメンバ、受容体のリガンド結合部分、抗体/抗原対のメンバ、抗体の抗原結合フラグメント、ハプテン、レクチン/炭水化物対のメンバ、酵素/基質対のメンバ、ビオチン/アビジン、ビオチン/ストレプトアビジン、ジゴキシン/抗ジゴキシンなどが含まれる。
【0032】
いくつかの実施形態においては、近接標識はストレプトアビジンを用いて機能化され、捕獲プローブはビオチンを用いて機能化される。したがって、近接標識は、ストレプトアビジンとビオチンとの間の特異的結合相互作用を介して捕獲プローブに特異的に結合し得る。また、別の種類の結合相互作用もあり得る。例えば、近接標識はビオチンを用いて機能化することができ、捕獲プローブはストレプトアビジンを用いて機能化することができる。あるいは、近接標識および捕獲プローブは、前述のように、他の特異的結合対の相補的メンバを用いて機能化することもできる。
【0033】
場合によっては、近接標識は結合対の一方のメンバと安定的に会合する。「安定的に会合する」とは、近接標識と結合対のメンバとが、その使用条件下において、例えば検定条件下において、その相互に対する空間的位置を維持することを意味する。したがって、近接標識と結合対のメンバとは、非共有結合的にまたは共有結合的に安定して相互に会合し得る。非共有結合性会合の例には、非特異的吸着、静電気に基づく結合(イオン−イオン対相互作用など)、疎水性相互作用、水素結合相互作用などが含まれる。共有結合の例には、結合対のメンバと近接標識の表面に存在する官能基との間に形成される共有結合が含まれる。
【0034】
いくつかの実施形態においては、近接標識はコロイド状である。「コロイド」または「コロイド状の」という用語は、ある物質が別の物質全体に分散されている混合物をいう。コロイドは分散相と連続相という2つの相を含む。場合によっては、コロイド状の近接標識は溶液中に分散されたままであり、溶液中から沈殿または沈降することがない。溶液中に分散されたままのコロイド状の近接標識は、バックグラウンド信号の最小化および近接標識と近接センサとの非特異的相互作用を助長し得る。例えば方法は、試料および近接標識を含む検定組成物と近接センサを、試料中の対象とする分析物が近接センサの表面に結合されるように接触させることを含み得る。コロイド状の近接標識は溶液中に分散されたままであるため、近接標識は近接センサにおいて検出可能な信号を誘発するのに十分なほど近接センサの近くに位置することがなく、そのためバックグラウンド信号の最小化が助長される。場合によっては、表面結合分析物に対する近接標識の特異的結合により近接標識は、近接センサにおいて検出可能な信号が誘発されるように近接センサの近くに位置決めされる。
【0035】
(例えば本明細書で説明するような)様々な方法において用いられ得る近接標識は様々なものとすることができ、これには、近接標識が近接センサの表面の近くに位置するときに近接センサにおいて検出可能な信号を誘発する任意の種類の標識が含まれ得る。例えば近接標識には、それだけに限らないが、磁気標識、光学標識(表面増強ラマン散乱(SERS)標識など)、蛍光標識などが含まれ得る。これらの種類の各近接標識について以下でさらに詳細に論じる。
【0036】
磁気標識
いくつかの実施形態においては、近接標識は磁気標識である。磁気標識は、磁気近接センサと十分に会合するときに、磁気近接センサにより検出することができ、磁気近接センサに信号を出力させる標識化部分である。例えば、磁気近接センサの表面付近における磁気標識の存在は、磁気近接センサにおける検出可能な変化、例えば、それだけに限らないが、抵抗、コンダクタンス、インダクタンス、インピーダンスなどの変化を誘発し得る。場合によっては、磁気近接センサの表面付近における磁気標識の存在は、磁気近接センサの抵抗の検出可能な変化を誘発する。対象とする磁気標識は、磁気標識の中心とセンサの表面との距離が、100nm以下を含む150nm以下など、200nm以下である場合に磁気近接センサと十分に会合することができる。
【0037】
いくつかの例では、磁気標識は、常磁性、超常磁性、強磁性、強磁性、反強磁性の各材料から選択される1つまたは複数の材料、それらの組み合わせなどを含む。例えば磁気標識は超常磁性材料を含み得る。いくつかの実施形態においては、磁気標識は、外部磁場がないときに非磁性になるように構成される。「非磁性」とは、磁気標識の磁化が0であり、またはある一定の期間にわたって平均して0になることを意味する。場合によっては、磁気標識は、時間の経過と共に磁気標識の磁化が不規則に反転することにより非磁性となり得る。外部磁場がないときに非磁性になるように構成された磁気標識は、溶液中の磁気標識の分散を助長し得る。というのは、非磁性標識は通常、外部磁場がないときには凝集しないからである。いくつかの実施形態においては、磁気標識は、超常磁性材料または合成反強磁性材料を含む。例えば磁気標識は、反強磁性結合された強磁性体の2つ以上の層を含み得る。
【0038】
いくつかの実施形態においては、磁気標識は高モーメント磁気標識である。磁気標識の磁気モーメントは、それが外部磁場と整列しようとする傾向の尺度である。「高モーメント」とは、磁気標識が外部磁場と整列しようとするより大きな傾向を有することを意味する。高い磁気モーメントを有する磁気標識は、近接センサの表面付近における磁気標識の存在の検出を円滑化し得る。というのは、外部磁場を用いて磁気標識の磁化を誘発することがより容易になるからである。
【0039】
いくつかの実施形態においては、磁気標識には、それだけに限らないが、Co、Co合金、フェライト、窒化コバルト、酸化コバルト、Co−Pd、Co−Pt、鉄、酸化鉄、鉄合金、Fe−Au、Fe−Cr、Fe−N、Fe、Fe−Pd、Fe−Pt、Fe−Zr−Nb−B、Mn−N、Nd−Fe−B、Nd−Fe−B−Nb−Cu、Ni、Ni合金、それらの組み合わせなどが含まれる。高モーメント磁気標識の例には、それだけに限らないが、Co、FeまたはCoFeナノ結晶が含まれ、これらは室温で超常磁性とすることができる。実施形態によっては、磁気標識の表面は修飾される。いくつかの例では、磁気標識は、前述のように、結合対の一方のメンバと磁気標識の安定的な会合を助長するように構成された層を用いて被覆され得る。例えば、磁気標識は、金の層、ポリ−L−リジン修飾ガラスの層、デキストランなどを用いて被覆され得る。いくつかの実施形態においては、磁気標識は、デキストランポリマーに埋め込まれた1つまたは複数の酸化鉄心を含む。加えて、磁気標識の表面は、1つまたは複数の界面活性剤を用いて修飾されてもよい。場合によっては、界面活性剤は磁気標識の水溶性の増大を助長する。いくつかの実施形態においては、磁気標識の表面は不動態化層で修飾される。不動態化層は、検定条件における磁気標識の化学的安定性を助長し得る。例えば磁気標識は、金、酸化鉄、ポリマー(ポリメタクリル酸メチル膜など)を含む不動態化層で被覆され得る。
【0040】
いくつかの実施形態においては、磁気標識は球形を有する。あるいは磁気標識は、円盤、棒、コイル、または繊維とすることもできる。場合によっては、磁気標識のサイズは、磁気標識が対象とする結合相互作用を妨害しないようなものとする。例えば磁気標識は、磁気標識が分析物に対する捕獲プローブの結合を妨害しないように、分析物および捕獲プローブのサイズと同等のサイズとすることができる。場合によっては、磁気標識は磁気ナノ粒子である。実施形態によっては、磁気標識の平均直径は5nmから250nmまでであり、例えば5nmから150nmまでなどで、これには10nmから100nmまで、例えば25nmから75nmまでが含まれる。例えば、5nm、10nm、20nm、25nm、30nm、35nm、40nm、45nm、50nm、55nm、60nm、70nm、80nm、90nm、または100nmの平均直径を有する磁気標識、ならびにこれらの値のうちの任意の2つの間の範囲にある平均直径を有する磁気標識が、本発明の方法と共に使用され得る。場合によっては、磁気標識は、50nmの平均直径を有する。
【0041】
磁気標識およびその生体分子への結合については、その開示が参照により全体として本明細書に組み込まれる、2008年9月19日に出願された、「Analyte Detection with Magnetic Sensors」という名称の米国特許出願第12/234,506号明細書にさらに記載されている。
【0042】
光学標識
いくつかの実施形態においては、近接標識は光学標識である。光学標識は、それだけに限らないが、ラマン分光法、表面増強ラマン分光法(SERS)、表面プラズモン共鳴などといった光学標識検出技術を使って検出できる標識化部分である。
【0043】
場合によっては、光学標識は表面増強ラマン散乱(SERS)標識を含む。SERS標識は、近接センサ(表面プラズモン共鳴(SPR)検出器など)と十分に会合するときに検出できる標識化部分である。例えば、SPR検出器の表面付近におけるSERS標識の存在は、SERS標識による検出可能なラマン散乱の検出可能な増強を誘発し得る。対象とするSERS標識は、SERS標識の中心とセンサの表面との距離が、100nm以下を含め、150nm以下など200nm以下である場合に近接センサと十分に会合することができる。
【0044】
いくつかの実施形態においては、SERS標識は、コア、ラマンレポータ分子の層、およびコーティングを含む。コアは、それだけに限らないが、金属などの材料を含むことができる。コアは金属コアとすることができる。例えばコアは、それだけに限らないが、金、銀、プラチナ、銅、アルミニウム、遷移金属(Zn、Ni、Cdなど)、半導体(CdSe、CdS、InAsなど)、およびこれらの組み合わせといった材料を含むことができる。場合によっては、コアは金コアである。
【0045】
ラマンレポータ分子の層は、それだけに限らないが、イソチオシアネート基を有する有機色素分子(以下、「イソチオシアネート色素」という)、2つ以上の硫黄原子を有する有機色素分子(以下、「多硫黄有機色素」という)、それぞれが硫黄原子を組み込む2つ以上の複素環を有する有機色素分子(以下、「多複素硫黄有機色素」という)、ベンゾトリアゾール色素、それらの組み合わせなどといった分子を含むことができる。いくつかの実施形態においては、ラマンレポータ分子は、共鳴ラマン増強を使って信号強度をさらに増幅することができるように、可視スペクトルにおいて強い電子遷移を有する共鳴ラマンレポータを含む。
【0046】
共鳴ラマンレポータは、それだけに限らないが、有機色素、生体分子、ポルフィリン、金属ポルフィリン、それらの組み合わせなどを含み得る。場合によっては、共鳴ラマンレポータは、それだけに限らないが、マラカイトグリーンイソチオシアネート(MGITC)、テトラメチルローダミン−5−イソチオシアネート(TRITC)、X−ローダミン−5−イソチオシアネートおよびX−ローダミン−6−イソチオシアネート(XRITC)、3,3’−ジエチルチアジカルボシアニンヨージド(DTDC)ならびにこれらの組み合わせを含む。
【0047】
いくつかの実施形態においては、ラマンレポータ分子は、それだけに限らないが、チアシアニン色素、ジチアシアニン色素、チアカルボシアニン色素(チアカルボシアニン色素、チアジカルボシアニン色素、およびチアトリカルボシアニン色素など)、ならびにジチアカルボシアニン色素(ジチアカルボシアニン色素、ジチアジカルボシアニン色素、およびジチアトリカルボシアニン色素など)、それらの組み合わせなどを含む。
【0048】
さらに、ラマンレポータ分子は、それだけに限らないが、以下のうちの1つまたは複数を含むことができる:3,3’−ジエチル−9−メチルチアカルボシアニンヨージド;1,1’−ジエチル−2,2’−キノトリカルボシアニンヨージド;3,3’−ジエチルチアシアニンヨージド;4−アセトアミド−4’−イソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸二ナトリウム塩;ベンゾフェノン−4−イソチオシアナート;4,4’−ジイソチオシアナトジヒドロスチルベン−2,2’−ジスルホン酸二ナトリウム塩;4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸二ナトリウム塩;N−(4−(6−ジメチルアミノ−2−ベンゾフラニル)フェニルイソチオシアナート;7−ジメチルアミノ−4−メチルクマリン−3−イソチオシアナート;エオシン−5−イソチオシアナート;エリトロシン−5−イソチオシアナート;フルオレセイン−5−イソチオシアナート;(S)−1−p−イソチオシアナートベンジルジエチレントリアミン5酢酸;オレゴングリーン488イソチオシアナート;テトラメチルローダミン−5−イソチオシアネート;テトラメチルローダミン−6−イソチオシアネート;テトラメチルローダミン−5−(および−6)−イソチオシアネート;X−ローダミン−5−(および−6)−イソチオシアネート、それらの組み合わせなど。
【0049】
ベンゾトリアゾール色素には、それだけに限らないが、アゾベンゾトリアゾイル−3,5−ジメトキシフェニルアミン、ジメトキシ−4−(6’−アゾベンゾトリアゾリル)フェノール、したがって組み合わせなどが含まれ得る。
【0050】
いくつかの実施形態においては、コーティングは封入材料を含む。封入材料は、それだけに限らないが、シリカ、ポリマー(合成ポリマー、バイオポリマーなど)、金属酸化物(酸化鉄、酸化銅、二酸化チタン、金属硫化物、それらの組み合わせなど)、金属硫化物、ペプチド、タンパク質、炭水化物、脂質、核酸、これらそれぞれの塩錯体、それらの組み合わせなどの材料を含み得る。
【0051】
場合によっては、SERS標識は球形であり、250nm以下、例えば150nm以下、100nm以下、50nm以下などの平均直径を有する。いくつかの場合には、SERS標識は、10nmから150nmなど、5nmから250nmの平均直径を有し、これには30nmから90nmが含まれる。例えば、SERS標識は50nmの平均直径を有していてもよい。
【0052】
いくつかの実施形態においては、光学標識は荷電標識を含む。荷電標識は、正味の正電荷または負電荷を有する標識化部分である。荷電標識は、正味の正電荷または負電荷を有する前述の光学標識のいずれかを含んでいてもよい。例えば、いくつかの実施形態においては、荷電標識は正味の正電荷を有する。別の例では、荷電標識は正味の負電荷を有する。荷電標識は、近接センサ(表面プラズモン共鳴(SPR)検出器など)と十分に会合するときに検出され得る。例えば、SPR検出器の表面付近における荷電標識の存在は、検出器の表面プラズモン共鳴における検出可能な変化を誘発し得る。対象とする荷電標識は、荷電標識の中心とセンサの表面との距離が100nm以下を含む150nm以下など200nm以下である場合に、近接センサと十分に会合し得る。
【0053】
蛍光標識
いくつかの実施形態においては、近接標識は蛍光標識である。蛍光標識は、蛍光検出器により検出できる標識化部分である。例えば、対象とする分析物に対する蛍光標識の結合は、対象とする分析物が蛍光検出器により検出されることを可能にする。蛍光標識の例には、それだけに限らないが、試薬と接触すると蛍光を発する蛍光分子、電磁放射(UV、可視光、x線など)で照射されると蛍光を発する蛍光分子が含まれる。
【0054】
適切な蛍光分子(蛍光体)には、それだけに限らないが、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、カルボキシフルオレセインのスクシンイミジルエステル、フルオレセインのスクシンイミジルエステル、フルオレセインジクロロトリアジンの5−異性体、ケージ化カルボキシフルオレセイン−アラニン−カルボキサミド、オレゴングリーン488、オレゴングリーン514;ルシファーイエロー、アクリジンオレンジ、ローダミン、テトラメチルローダミン、テキサスレッド、ヨウ化プロピジウム、JC−1(5,5’,6,6’−テトラクロロ−1,1’,3,3’−テトラエチルベンゾイミダゾイルカルボシアニンヨージド)、テトラブロモローダミン123、ローダミン6G、TMRM(テトラメチルローダミンメチルエステル)、TMRE(テトラメチルローダミンエチルエステル)、テトラメチルローザミン、ローダミンBおよび4−ジメチルアミノテトラメチルローザミン、緑色蛍光タンパク質、青色シフト緑色蛍光タンパク質、シアン色シフト緑色蛍光タンパク質、赤色シフト緑色蛍光タンパク質、黄色シフト緑色蛍光タンパク質、4−アセトアミド−4’−イソチオシアナトスチルベン−2,2’ジスルホン酸;アクリジン、アクリジンイソチオシアネートといったアクリジンおよび誘導体;5−(2’−アミノエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸(EDANS);4−アミノ−N−[3−ビニルスルホニル)フェニル]ナフタルイミド−3,5二スルホン酸塩;N−(4−アニリノ−1−ナフチル)マレイミド;アントラニルアミド;4,4−ジフルオロ−5−(2−チエニル)−4−ボラ−3a,4aジアザ−5−インダセン−3−プロピオン酸BODIPY;カスケードブルー;ブリリアントイエロー;クマリンおよび誘導体:クマリン、7−アミノ−4−メチルクマリン(AMC、クマリン120)、7−アミノ−4−トリフルオロメチルクマリン(クマリン151);シアニン色素;シアノシン;4’,6−ジアミジノ(diaminidino)−2−フェニルインドール(DAPI);5’,5”−ジブロモプロガロール−スルホンフタレイン(sulfonaphthalein)(ブロモピロガロールレッド);7−ジエチルアミノ−3−(4’−イソチオシアナトフェニル)−4−メチルクマリン;ジエチレントリアミンペンタアセテート;4,4’−ジイソチオシアナトジヒドロ−スチルベン−2,2’−ジスルホン酸;4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸;5−(ジメチルアミノ]ナフタレン−1−スルホニルクロリド(DNS、ダンシルクロリド);4−ジメチルアミノフェニルアゾフェニル−4’−イソチオシアネート(DABITC);エオシンおよび誘導体:エオシン、エオシンイソチオシアネート、エリトロシンおよび誘導体:エリトロシンB、エリトロシン、イソチオシアネート;エチジウム;フルオレセインおよび誘導体:5−カルボキシフルオレセイン(FAM)、5−(4,6−ジクロロトリアジン−2−イル)アミノフルオレセイン(DTAF)、2’,7’−ジメトキシ−4’5’−ジクロロ−6−カルボキシフルオレセイン(JOE)、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、QFITC、(XRITC);フルオレスカミン;IR144;IR1446;マラカイトグリーンイソチオシアネート;4−メチルウンベリフェロンオルトクレゾールフタレイン;ニトロチロシン;パラローズアニリン;フェノールレッド;B−フィコエリトリン;o−フタルジアルデヒド;ピレンおよび誘導体:ピレン、ピレンブチレート、スクシンイミジル1−ピレン;酪酸量子ドット;リアクティブレッド(Cibacron(登録商標)Brilliant Red 3B−A)ローダミンおよび誘導体:6−カルボキシ−X−ローダミン(ROX)、6−カルボキシローダミン(R6G)、リサミンローダミンBスルホニルクロリドローダミン(Rhod)、ローダミンB、ローダミン123、ローダミンXイソチオシアネート、スルホローダミンB、スルホローダミン101、スルホローダミン101のスルホニルクロリド誘導体(テキサスレッド);N,N,N’,N’テトラメチル−6−カルボキシローダミン(TAMRA);テトラメチルローダミン;テトラメチルローダミン(hodamine)イソチオシアネート(TRITC);リボフラビン;5−(2’−アミノエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸(EDANS)、4−(4’−ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸(DABCYL)ロゾール酸;CAL Fluor Orange560;テルビウムキレート誘導体;Cy3;Cy5;Cy5.5;Cy7;IRD700;IRD800;La Jolla Blue;フタロシアニン;ならびにナフタロシアニン、クマリンおよび関連色素、ロードルなどのキサンテン色素、レソルフィン、ビマン、アクリジン、イソインドール、ダンシル色素、ルミノールなどのアミノフタル酸ヒドラジド、イソルミノール誘導体、アミノフタルイミド、アミノナフタルイミド、アミノベンゾフラン、アミノキノリン、ジシアノヒドロキノン、蛍光ユーロピウムおよびテルビウム錯体、それらの組み合わせなどが含まれる。
【0055】
適切な蛍光タンパク質および色素産生タンパク質には、例えば、増強GFPといった「ヒト化」誘導体;ウミシイタケ(Renilla reniformis)、ラニラムレリ(Renilla mulleri)、あるいはチロサルクスゲルニ(Ptilosarcus guernyi)といった別の種に由来するGFP;「ヒト化」組換え型GFP(hrGFP);花虫類動物に由来する様々な蛍光および有色のタンパク質のいずれか;それらの組み合わせなど、それだけに限らないが、オワンクラゲ(Aequoria victoria)に由来する緑色蛍光タンパク質(GFP)またはその誘導体を含むGFPが含まれるが、それだけに限らない。
【0056】
センサ
前述のように、本発明の方法の実施形態は、試料および近接標識を含む検定組成物と接触する近接センサなどのセンサを設けることを含む。所与の実施形態に応じて、多種多様なセンサが用いられ得る。例えばセンサは、近接型または非近接型のセンサとすることができる。例えば、非近接型センサは、蛍光標識またはラマン標識と共に撮像装置(CCDカメラなど)を用いることができる。いくつかの例では、センサは近接センサである。説明を容易にするために、次に本発明の態様を、近接センサの状況においてさらに説明する。
【0057】
場合によっては、近接センサは、近接センサと近接標識との間の直接の物理的接触なしで付近の近接標識の存在を検出するように構成されるセンサである。いくつかの実施形態においては、近接センサは、試料中の分析物の存在を検出するように構成される。例えば、近接標識は分析物に対して直接的または間接的に結合され、分析物はさらに、近接センサに対して直接的または間接的に結合され得る。結合される近接標識が近接センサの検出範囲内に位置する場合には、近接センサは、結合された近接標識の存在を指示し、よって分析物の存在を指示する信号を提供することができる。
【0058】
場合によっては、近接センサは、近接センサの表面から1nmから200nmまで、例えば5nmから150nmまでの検出範囲を有し、これには、近接センサの表面から5nmから100nmまで、例えば5nmから50nmまでが含まれ、5nmから25nmまでが含まれる。「検出範囲」とは、近接標識の存在が近接検出器において検出可能な信号を誘発することになる近接検出器の表面からの距離を意味する。場合によっては、近接センサの検出範囲内に入るのに十分なほど近接センサの表面の近くに位置する近接標識が、近接センサにおいて検出可能な信号を誘発する。いくつかの例では、近接センサの検出範囲より大きい近接センサの表面からの距離のところに位置する近接標識は、近接センサにおいて検出可能な信号を誘発しない。例えば、磁気標識は1/rに比例する磁束を有していてもよく、rは近接センサと磁気標識との距離である。よって、至近距離(近接センサの検出範囲内など)に位置する磁気標識だけが近接センサにおいて検出可能な信号を誘発する。
【0059】
いくつかの実施形態においては、近接センサの表面は分析物に直接結合するように機能化される。例えば近接センサの表面は、それだけに限らないが、非特異的吸着、静電気に基づく結合(イオン−イオン対相互作用など)、疎水性相互作用、水素結合相互作用などを含む、分析物と近接センサとの共有結合または非共有結合性会合を可能にするように機能化され得る。
【0060】
場合によっては、近接センサの表面は、分析物に特異的に結合する表面捕獲リガンドを含む。表面捕獲リガンドは近接センサの表面に結合され得る。例えば、ポリエチレンイミン(PEI)などのカチオンポリマーを使って、物理吸着(physabsorption)によりセンサ表面に荷電抗体を非特異的に結合することができる。あるいは、表面捕獲リガンド上の遊離アミンまたは遊離チオール基を利用した共有結合化学を使って、近接センサの表面に表面捕獲リガンドを共有結合的に結合することもできる。例えば、N−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)対1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)結合システムを使って、近接センサの表面に表面捕獲リガンドを共有結合的に結合することができる。
【0061】
表面捕獲リガンドは、特異的結合対の一方のメンバを含み得る。例えば、適切な特異的結合対には、それだけに限らないが、受容体/リガンド対のメンバ、受容体のリガンド結合部分、抗体/抗原対のメンバ、抗体の抗原結合フラグメント、ハプテン、レクチン/炭水化物対のメンバ、酵素/基質対のメンバ、ビオチン/アビジン、ビオチン/ストレプトアビジン、ジゴキシン/抗ジゴキシンなどが含まれる。いくつかの実施形態においては、近接センサの表面は、対象とする分析物に特異的に結合する抗体を含む。したがって、近接センサを、対象とする分析物を含む検定組成物と接触させると、近接センサの表面に結合された表面捕獲リガンド(抗体など)への分析物の結合を生じ得る。
【0062】
本発明の方法において使用され得る近接センサは様々なものとすることができ、これには、近接標識が近接センサの表面付近に位置するときに検出可能な信号を提供する任意の種類のセンサが含まれる。例えば、近接センサには、それだけに限らないが、磁気センサ(スピンバルブ検出器、磁気トンネル接合(MTJ)検出器などといった巨大磁気抵抗(GMR)センサ)、表面プラズモン共鳴(SPR)検出器、蛍光検出器などが含まれ得る。これらの種類の各近接センサについて以下でさらに詳細に論じる。
【0063】
磁気センサ
いくつかの実施形態においては、近接センサは磁気センサである。磁気センサは、磁気センサの表面に近接する磁気標識に応答して電気信号を発生するように構成され得る。磁気センサには、それだけに限らないが、巨大磁気抵抗(GMR)センサを含む磁気抵抗センサ装置が含まれ得る。例えば、磁気センサは、局所磁場の変化により誘発される磁気センサの抵抗の変化を検出するように構成され得る。場合によっては、磁気センサの至近距離にある近接標識(磁気標識など)の結合が、前述のように、磁気センサの抵抗における検出可能な変化を誘発する。例えば、印加外部磁場の存在下においては、磁気センサ付近の磁気標識が磁化され得る。磁化された磁気標識の局所磁場は、下にある磁気センサの抵抗における検出可能な変化を誘発し得る。よって、磁気標識の存在は、磁気センサの抵抗の変化を検出することにより検出することができる。いくつかの実施形態においては、磁気センサは、500mOhm以下など、1Ohm以下の抵抗の変化を検出するように構成され、この変化には、100mOhm以下、または50mOhm以下、または25mOhm以下、または10mOhm以下、または5mOhm以下、または1mOhm以下が含まれる。
【0064】
いくつかの例では、GMRセンサは多層薄膜構造である。GMRセンサは、強磁性材料と非磁性材料との交互層を含み得る。強磁性材料には、それだけに限らないが、パーマロイ(NiFe)、鉄・コバルト(FeCo)、ニッケル・鉄・コバルト(NiFeCo)、ニッケル酸化物(NiO)、コバルト酸化物(CoO)、ニッケル・コバルト複合酸化物(NiCoO)、酸化鉄(Fe)などが含まれ得る。場合によっては、非磁性材料は、それだけに限らないが、銅、金、銀などといった導電性非磁性材料である。
【0065】
いくつかの実施形態においては、強磁性層は、5nmから25nmなど1nmから50nmの厚さを有し、これには5nmから10nmが含まれる。場合によっては、非磁性層は、1nmから25nmなど1nmから50nmの厚さを有し、これには1nmから10nmが含まれる。
【0066】
場合によっては、GMRセンサには、それだけに限らないが、スピンバルブ検出器および磁気トンネル接合(MTJ)検出器が含まれ、これらそれぞれについて以下でさらに詳細に論じる。
【0067】
スピンバルブ検出器
場合によっては、磁気センサはスピンバルブ検出器である。いくつかの例では、スピンバルブ検出器は、第1の強磁性層と、第1の強磁性層上に配置された非磁性層と、非磁性層上に配置された第2の強磁性層とを含む多層構造である。第1の強磁性層は、その磁化ベクトルがある一定の方向に固定されるように構成され得る。場合によっては、第1の強磁性層を「ピン止め層」という。第2の強磁性層は、その磁化ベクトルが印加磁場の下で自由に回転し得るように構成され得る。場合によっては、第2の強磁性層を「自由層」という。
【0068】
いくつかの例では、スピンバルブ検出器の電気抵抗は、ピン止め層の磁化ベクトルに対する自由層の磁化ベクトルの相対的向きに依存する。2つの磁化ベクトルが平行であるとき、抵抗は最低になり、2つの磁化ベクトルが逆平行であるとき、抵抗は最高になる。抵抗の相対的変化を磁気抵抗(MR)比という。いくつかの実施形態においては、スピンバルブ検出器は、3%から15%など、1%から20%のMR比を有し、これには5%から12%が含まれる。場合によっては、スピンバルブ検出器のMR比は、100Oeなどの小磁場において10%以上である。スピンバルブ検出器の表面付近における磁気標識の存在に起因するスピンバルブ検出器の抵抗の変化は、前述のように検出され得る。
【0069】
いくつかの実施形態においては、磁気標識に起因するスピンバルブ検出器からの信号は、磁気標識とスピンバルブ検出器の自由層との距離に依存する。場合によっては、磁気標識からの電圧信号は、磁気標識の中心から自由層の中心面までの距離が増大するにつれて減少する。よって、いくつかの例では、スピンバルブ検出器の自由層は、スピンバルブ検出器の表面に位置決めされる。自由層をスピンバルブ検出器の表面に位置決めすると、自由層と任意の結合される磁気標識との距離を最小化することができ、それによって磁気標識の検出を助長することができる。
【0070】
いくつかの実施形態においては、スピンバルブ検出器は、スピンバルブ検出器表面の1つまたは複数に配置された不動態化層を含み得る。場合によっては、不動態化層は、50nm以下など60nm以下の厚さを有し、この厚さには、40nm以下、30nm以下、20nm以下、10nm以下が含まれる。例えば不動態化層は1nmから10nm、例えば1nmから5nmまでの厚さを有していてもよく、これには1nmから3nmまでが含まれる。いくつかの実施形態においては、不動態化層は、金、チタン、SiO、Si、それらの組み合わせなどを含む。
【0071】
磁気トンネル接合検出器
いくつかの実施形態においては、磁気センサは磁気トンネル接合(MTJ)検出器である。場合によっては、MTJ検出器は、第1の強磁性層と、第1の強磁性層上に配置された絶縁層と、絶縁層上に配置された第2の強磁性層とを含む多層構造を含む。絶縁層は、薄い絶縁トンネル障壁とすることができ、アルミナ、MgOなどを含み得る。場合によっては、第1の強磁性層と第2の強磁性層との間の電子トンネル効果は、これら2つの強磁性層の相対的磁化に依存する。例えば、いくつかの実施形態においては、第1の強磁性層と第2の強磁性層の磁化ベクトルが平行であるときにトンネル電流が高く、第1の強磁性層と第2の強磁性層の磁化ベクトルが逆平行であるときにトンネル電流が低い。
【0072】
場合によっては、MTJ検出器は、10%から250%など1%から300%のMR比を有し、これには25%から200%が含まれる。MTJ検出器の表面付近における磁気標識の存在に起因するMTJ検出器の抵抗の変化は、前述のように検出され得る。
【0073】
いくつかの実施形態においては、第2の強磁性層(MTJ検出器の表面に配置されたMTJ検出器の層など)は、より多くの層のうちの(two of more layers)2つを含む。例えば、第2の強磁性層は、第1の層と、第1の層上に配置された第2の層とを含み得る。場合によっては、第1の層は、金属薄層(金層など)である。金属薄層は、50nm以下など60nm以下の厚さを有していてもよく、これには40nm以下、30nm以下、20nm以下、または10nm以下が含まれる。第2の層は、例えば、銅、アルミニウム、パラジウム、パラジウム合金、パラジウム酸化物、プラチナ、プラチナ合金、プラチナ酸化物、ルテニウム、ルテニウム合金、ルテニウム酸化物、銀、銀合金、銀酸化物、スズ、スズ合金、スズ酸化物、チタン、チタン合金、チタン酸化物、それらの組み合わせなどの導電性金属を含み得る。
【0074】
場合によっては、MTJ検出器は、会合する磁気標識と自由層の表面との距離が1nmから200nmまで、例えば5nmから150nmまでの範囲に及ぶように構成され、この距離には、5nmから100nmまで、例えば5nmから50nmまでが含まれ、5nmから25nmまでが含まれる。
【0075】
スピンバルブ検出器について前述したように、いくつかの例では、MTJ検出器は、MTJ検出器表面の1つまたは複数の上に配置された不動態化層を含み得る。場合によっては、不動態化層は50nm以下など60nm以下の厚さを有し、これには、40nm以下、30nm以下、20nm以下、10nm以下が含まれる。例えば不動態化層は1nmから10nm、例えば1nmから5nmまでの厚さを有していてもよく、これには1nmから3nmまでが含まれる。場合によっては、不動態化層は、金、チタン、SiO、Si、それらの組み合わせなどを含む。
【0076】
スピンバルブ検出器(スピンバルブ膜検出器ともいう)および磁気トンネル接合(MTJ)検出器については、その開示が参照により全体として本明細書に組み込まれる、2008年9月19日に出願された、「Analyte Detection with Magnetic Sensors」という名称の米国特許出願第12/234,506号明細書に記載されている。検出器はさらに、その開示が参照により全体として本明細書に組み込まれる、2004年4月22日に出願された、「Magnetic nanoparticles,magnetic detector arrays,and methods for their use in detecting biological molecules」という名称の米国特許出願第10/829,505号明細書にも記載されている。
【0077】
表面プラズモン共鳴(SPR)検出器
いくつかの実施形態においては、近接センサは表面プラズモン共鳴(SPR)検出器を含む。表面プラズモン共鳴とは、表面プラズモン、例えば表面電磁波などが、電子または光(可視やIRなど)により共鳴的に励起される量子力学的効果をいう。場合によっては、表面プラズモンは、近接センサの表面に沿って伝搬する。表面プラズモンが近接センサの表面上の凸凹に接触する場合、表面プラズモンはそのエネルギーの一部を光として放出し得る。いくつかの例では、近接センサの表面上の凸凹は、前述のように、近接センサの表面に直接的または間接的に結合された対象とする分析物など、近接センサの表面に結合された分子を含む。表面プラズモン放射光は、近接センサの表面の至近距離にある分析物の存在を判定するための適切な検出器により検出され得る。いくつかの実施形態においては、表面に結合された対象とする分析物は、前述のように、SERS標識といった近接標識に結合され得る。場合によっては、SPR検出器の表面付近におけるSERS標識の存在は、SERS標識による検出可能なラマン散乱の増強を誘発し得る。
【0078】
表面プラズモン共鳴検出器は、基材の表面上に配置された金属膜を含み得る。いくつかの例では、金属膜は、それだけに限らないが、銀、金、銅、チタン、クロムなどといった金属を含む。金属膜のいくつかの実施形態は1nmから100nmまで、例えば5nmから75nmの範囲に及ぶ厚さを有し、これには10nmから50nmまでが含まれる。
【0079】
場合によっては、表面プラズモン共鳴検出器は検出器を含む。この検出器は、前述のように、表面プラズモン放射光を検出するように構成され得る。いくつかの例では、この検出器は、光電子増倍管(PMT)、電荷結合素子(CCD)、増感型電荷結合素子(ICCD)、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサなどを含む。
【0080】
蛍光検出器
場合によっては、近接センサは蛍光検出器を含む。前述のように、近接標識のいくつかの実施形態は対象とする分析物に直接的または間接的に結合され得る蛍光標識を含み、対象とする分析物はさらに近接センサの表面に直接的または間接的に結合され得る。場合によっては、近接センサの表面に結合される蛍光標識化分析物は蛍光検出器により検出される。例えば、蛍光標識は電磁放射(可視、UV、x線など)と接触させることができ、電磁放射は蛍光標識を励起し、蛍光標識に検出可能な電磁放射(可視光など)を放出させる。放出される電磁放射は、近接センサの表面上の分析物の存在を判定するための適切な検出器を用いて検出され得る。
【0081】
場合によっては、蛍光検出器は検出器を含む。検出器は、前述のように、蛍光標識からの放射光を検出するように構成され得る。いくつかの例では、検出器は、光電子増倍管(PMT)、電荷結合素子(CCD)、増感型電荷結合素子(ICCD)、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサなどを含む。
【0082】
検定組成物の生成
前述のように、本発明の方法の実施形態は、検定組成物と接触する近接センサを設けることを含む。いくつかの例では、検定組成物は試料および近接標識を含む。試料および近接標識の実施形態については先に詳細に論じた。
【0083】
場合によっては、方法は、近接センサを試料および近接標識と順次に接触させることにより検定組成物を生成することを含む。したがって方法は、近接センサの表面上の原位置で検定組成物を生成することを含み得る。例えば方法は、近接センサを最初に試料と、続いて近接標識と接触させることを含み得る。あるいは、方法は、近接センサを最初に近接標識と、続いて試料と接触させることを含んでいてもよい。
【0084】
別の実施形態においては、方法は、試料と近接標識とを組み合わせて検定組成物を生成し、次いで検定組成物を近接センサと接触させることを含む。例えば方法は、最初に別個の容器において試料と近接標識とを組み合わせて検定組成物を生成することを含み得る。次いで検定組成物を前述のように近接センサを接触させることができる。続いて方法は、以下で詳細に説明するように、検定組成物中に捕獲プローブを導入することを含み得る。
【0085】
検定組成物中への捕獲プローブの導入
本発明の方法の態様は、検定組成物中に捕獲プローブを導入することを含む。前述のように、検定組成物は試料および近接標識を含み得る。いくつかの実施形態においては、捕獲プローブは近接標識と試料中の分析物とに結合するように構成される。
【0086】
捕獲プローブ
捕獲プローブは、標的とされるタンパク質または核酸配列(対象とする分析物など)に特異的に結合する任意の分子とすることができる。分析物の性質に応じて、捕獲プローブは、それだけに限らないが、(a)核酸の検出のための標的DNAまたはRNA配列の一意的な領域に対して相補的なDNA一本鎖;(b)タンパク質およびペプチドの検出のためのペプチド分析物のエピトープに対する抗体;(c)特異的結合対のメンバといった任意の認識分子とすることができる。例えば、適切な特異的結合対には、それだけに限らないが、受容体/リガンド対のメンバ、受容体のリガンド結合部分、抗体/抗原対のメンバ、抗体の抗原結合フラグメント、ハプテン、レクチン/炭水化物対のメンバ、酵素/基質対のメンバ、ビオチン/アビジン、ビオチン/ストレプトアビジン、ジゴキシン/抗ジゴキシンなどが含まれる。
【0087】
いくつかの実施形態においては、捕獲プローブは抗体を含む。捕獲プローブ抗体は、対象とする分析物に特異的に結合し得る。場合によっては、捕獲プローブは修飾抗体である。修飾抗体は、対象とする分析物に特異的に結合するように構成することができ、また、特異的結合対の1つまたは複数のさらに別のメンバを含むこともできる。特異的結合対の1つまたは複数のメンバは、特異的結合対の相補的メンバに特異的に結合するように構成され得る。いくつかの例では、特異的結合対の相補的メンバは、前述のように、近接標識に結合される。例えば、捕獲プローブは、対象とする分析物に特異的に結合する抗体とすることができる。加えて、捕獲プローブはビオチンを含むように修飾されてもよい。前述のように、いくつかの実施形態においては、近接標識はストレプトアビジンを含むように修飾され得る。したがって、捕獲プローブは、(抗体−抗原相互作用などにより)対象とする分析物に特異的に結合し、(ストレプトアビジン−ビオチン相互作用などにより)近接標識に特異的に結合するように構成され得る。場合によっては、捕獲プローブは、対象とする分析物と近接標識とに結合するように構成される。言い換えると、捕獲プローブは、捕獲プローブに対する分析物の特異的結合が、捕獲プローブが近接標識に特異的に結合することのできる能力を著しく妨害することのないように構成され得る。同様に、捕獲プローブは、捕獲プローブに対する近接標識の特異的結合が、捕獲プローブが分析物に特異的に結合することのできる能力を著しく妨害することのないようにも構成され得る。
【0088】
検定組成物中への捕獲プローブの導入は、捕獲プローブが対象とする分析物に特異的に結合することを可能にする。場合によっては、捕獲プローブは、それによって対象とする分析物の存在が検出できるように識別することができる。捕獲プローブは、本明細書で説明する方法のいずれかにより識別され得る。例えば、前述のように分析物は、選択の近接センサ(磁気センサ、蛍光検出器、表面プラズモン共鳴検出器など)に直接的または間接的に結合され得る。検定組成物中への捕獲プローブの導入後に、捕獲プローブは対象とする分析物に接触し、これに特異的に結合することができる。前述のように捕獲プローブは、近接標識と対象とする分析物とに結合するように構成されてもよい。いくつかの例では、捕獲プローブが表面結合分析物と近接標識とに同時に結合することにより、近接センサにおいて検出可能な信号が誘発されるように、近接標識が近接センサの検出範囲内に位置決めされる。
【0089】
場合によっては、捕獲プローブの対象としない部分への非特異的結合による偽陽性信号が最小化される。例えば、近接センサの表面に結合されず、溶液中に留まる対象としない他の部分への捕獲プローブの非特異的結合は、近接センサにおいて検出可能な信号を誘発しない。というのは、捕獲プローブに結合された近接標識は近接センサの検出範囲内に位置することにならないからである。
【0090】
前述のように、近接標識は、近接標識が検定組成物溶液中に分散されたままであるように、コロイド状とすることができる。いくつかの例では、捕獲プローブの近接センサの表面への拡散および分析物への結合のカイネティクスは、近接標識の近接センサの表面への拡散のカイネティクスと比べて著しく速い。捕獲プローブの分析物への結合についてのカイネティクスが近接標識の近接センサの表面への拡散より速いことにより、近接センサの検出範囲内における近接標識の非特異的配置に起因する偽陽性信号の最小化が助長され得る。
【0091】
検定組成物中に捕獲プローブを導入する工程
前述のように方法は、検定組成物中に捕獲プローブを導入することを含む。いくつかの実施形態においては、捕獲プローブは、検定組成物を近接センサに接触させた後で検定組成物に加えられる。よって方法は、最初に試料および近接標識を含む検定組成物を生成することを含み得る。次いで検定組成物を近接センサと接触させることができる。続いて、検定組成物中に捕獲プローブを導入することができる。
【0092】
また他の方法も可能である。例えば方法は、最初に試料および近接標識を含む検定組成物を生成し、次いで検定組成物に捕獲プローブを導入し、続いて検定組成物を近接センサに接触させることを含んでいてもよい。前述の方法のどちらにおいても、近接標識は、検定組成物に捕獲プローブを加える前に検定組成物に存在する。
【0093】
捕獲プローブは、任意の便利な流体操作法により検定組成物中に導入され得る。例えば、検定組成物中への捕獲プローブの導入は、それだけに限らないが、注射器、ピペット、スポイト、アンプル、または、微小流体操作装置など、他の流体操作装置の使用を含み得る。
【0094】
前述のように、場合によっては、方法は、試料中の1つまたは複数の分析物の存在を判定する無洗浄の方法である。したがって、いくつかの実施形態においては、検定組成物中への捕獲プローブの導入は、捕獲プローブが検定組成物中に導入される前にも後にも洗浄ステップを含まない。よって、近接センサを捕獲プローブと接触させる前にも後にも洗浄ステップが行われない。
【0095】
試料中の1つまたは複数の分析物の存在を判定するための信号の獲得
また本発明の方法の実施形態は、近接センサから試料中の分析物の存在を検出するための信号を獲得することも含む。前述のように近接標識は、直接的または間接的に分析物に結合させることができ、分析物はさらに直接的または間接的に近接センサに結合させることができる。結合された近接標識が近接センサの検出範囲内に位置する場合には、近接センサは、結合された近接標識の存在を指示し、よって分析物の存在を指示する信号を提供することができる。
【0096】
前述のように、本発明の方法およびシステムにおいては、それだけに限らないが、磁気センサ、表面プラズモン共鳴検出器、蛍光検出器などといった様々な種類の近接センサが使用され得る。磁気センサは、磁気センサの表面に近接する磁気標識に応答して電気信号を発生するように構成され得る。例えば、磁気センサの抵抗の変化が局所磁場の変化により誘発され得る。場合によっては、磁気センサの至近距離における近接標識(磁気標識など)の結合が、磁気センサの局所磁場における検出可能な変化を誘発する。例えば、対象とする分析物に結合された磁気標識により生じる磁場は、試料中に分散されたままである非結合磁気標識により生じる磁場を上回り得る。磁気センサの局所磁場における変化は、磁気センサの抵抗の変化として検出され得る。
【0097】
いくつかの実施形態においては、近接標識は、表面増強ラマン分光法(SERS)標識といった光学標識であり、近接センサは表面プラズモン共鳴(SPR)検出器である。前述のように、SPR検出器内の表面プラズモンがセンサの表面上の凸凹に接触する場合、表面プラズモンはそのエネルギーの一部を光として放出し得る。近接センサの表面上の凸凹は、近接センサの表面に直接的または間接的に結合された対象とする分析物や、近接センサの検出範囲内に位置する対象とする分析物に直接的または間接的に結合された近接標識といった、近接センサの表面に結合された分子を含み得る。表面プラズモン放射光は、近接センサの表面の至近距離にある分析物の存在を判定するための、光電子増倍管(PMT)、電荷結合素子(CCD)、増感型電荷結合素子(ICCD)、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサなどといった適切な検出器により検出され得る。
【0098】
いくつかの実施形態においては、近接標識は蛍光標識であり、近接センサは蛍光検出器である。前述のように、蛍光標識は電磁放射(可視、UV、x線など)と接触させることができ、電磁放射は蛍光標識を励起し、蛍光標識に検出可能な電磁放射(可視光など)を放出させる。放出される電磁放射は、近接センサの表面上の分析物の存在を判定するための、PMT、CCD、ICCD、CMOSセンサなどといった適切な検出器を用いて検出され得る。
【0099】
また方法の態様は、装置からリアルタイム信号を獲得することも含み得る。したがって方法の実施形態は、近接センサからリアルタイム信号を獲得することを含む。「リアルタイム」とは、信号が生成されると同時に、またはその直後に観測されることを意味する。したがって、いくつかの実施形態は、対象とする結合相互作用(対象とする分析物の近接センサへの結合など)の発生と関連付けられる信号のリアルタイムの進展を観測することを含む。リアルタイム信号は、所与の期間にわたって獲得される2つ以上のデータ点を含んでいてもよく、いくつかの実施形態においては、獲得される信号は、対象とする所与の期間にわたって連続して獲得される(例えばトレースなどの形の)連続したデータ点の集合である。対象とする期間は様々なものとすることができ、場合によっては0.5分から60分まで、例えば1分から30分の範囲におよび、これには5分から15分が含まれる。また、信号中のデータ点の数も様々なものとすることができ、場合によっては、データ点の数はリアルタイム信号の時間全体にわたる連続したデータを提供するのに十分な数である。
【0100】
実施形態によっては、信号は、検定装置が湿潤状態にある間に観測される。「湿潤」または「湿潤状態」とは、検定組成物(試料、近接標識、および捕獲プローブを含む検定組成物など)がまだ近接センサの表面と接触していることを意味する。したがって、対象としない非結合部分または余分な近接標識もしくは捕獲プローブを除去するための洗浄ステップを行う必要が生じない。いくつかの実施形態においては、近接標識および近接センサの使用は、前述のように、「湿潤」検出を容易にする。というのは、近接標識により近接センサにおいて誘発される信号は、近接標識と近接センサの表面との距離が増大するにつれて減少するからである。例えば、磁気近接標識および磁気センサの使用は、前述のように、「湿潤」検出を容易にし得る。というのは、磁気標識により発生する磁場は、磁気標識と磁気センサの表面との距離が増大するにつれて減少するからである。場合によっては、表面結合分析物に結合された磁気標識の磁場は、溶液中に分散された非結合磁気標識からの磁場を上回る。溶液中に分散された非結合磁気標識は、磁気センサの表面からより大きい距離のところにあってブラウン運動を行っている可能性もあり、ブラウン運動は非結合磁気標識が磁気センサの抵抗における検出可能な変化を誘発する能力を低減し得る。
【0101】
対象とする所与の結合相互作用について、方法は、単一の結合対メンバ濃度または複数の結合対濃度、例えば、2つ以上、3つ以上、5つ以上、10以上の異なる結合対濃度についてのリアルタイム信号を獲得することを含み得る。例えば所与の検定では、必要に応じて、同じ捕獲プローブ濃度を有する同じセンサを複数の異なる結合対メンバ濃度と接触させてもよく、あるいはその逆でもよく、あるいは、異なる濃度の捕獲プローブと結合対メンバの組み合わせとしてもよい。
【0102】
図1に、本開示の実施形態による試料中の分析物の存在を検出する方法の図を示す。方法の第1のステップ(図1(a))では、近接センサ10が対象とする分析物12を含む検定組成物16と接触した状態で設けられる。近接センサ10の表面は、分析物12に特異的に結合する表面捕獲リガンド11を含むように修飾されている。また検定組成物16は、表面捕獲リガンド11に特異的に結合しない他の部分13も含み得る。図1(b)に示すように、分析物12は表面捕獲リガンド11に特異的に結合し、よって分析物を近接センサ10の表面に結合する。表面捕獲リガンド11に対して非相補的なその他の部分13は、表面捕獲リガンド11に結合せず、溶液中に留まる。方法の第2のステップ(図1(c))では、検定組成物16に近接標識14が加えられる。図1に示す実施形態では、近接標識14はストレプトアビジンで修飾された磁気標識(不図示)である。近接標識14はコロイド状であり、したがって、近接標識14は検定組成物16中に分散されたままであり、近接センサ10の表面に沈降しない。よって、図1(c)に示すように、近接標識14は検定組成物16中に分散され、有意に検出可能な量として近接センサ10の検出範囲内に位置することがない。方法の第3のステップ(図1(d))では、捕獲プローブ15が検定組成物16中に導入される。捕獲プローブ15は分析物12に特異的に結合する。加えて、捕獲プローブ15はビオチンを含むように修飾されている。図1(e)に示すように、ストレプトアビジン標識化近接標識14は、ビオチン化捕獲プローブ15に特異的に結合する。よって、近接標識14は、ストレプトアビジン−ビオチン相互作用により捕獲プローブ15に特異的に結合される。捕獲プローブ15への近接標識14の結合後に、近接標識14は、近接センサ10の検出範囲内となるのに十分な近接センサ10の表面の至近距離に保持される。図1に示す実施形態では、近接センサ10は磁気センサ(巨大磁気抵抗(GMR)センサなど)である。近接標識14が近接センサ10の検出範囲内にあるとき、近接標識14は近接センサ10において検出可能な信号を誘発することができる。
【0103】
必要な場合には、上記の分析物検出方法は、前述のプロトコルを実行するように構成されたソフトウェアおよび/またはハードウェアを使用して実行され得る。例えば、いくつかの実施形態においては、試料中の分析物の存在を検出する方法は、試料受け部材と、試料が試料受け部材に配置されると試料が近接センサと接触するように試料受け部材と関連付けられた近接センサとを含む手持ち式分析物検出装置を設けること、検定組成物が試料および近接標識を含む、近接センサと接触する検定組成物を生成すること、検定組成物中に、近接標識と分析物とに結合するように構成された捕獲プローブを導入すること、分析物検出装置を活性化および信号処理部に動作可能に結合すること、ならびに活性化および信号処理部から分析物検出結果を受け取ることを含む。装置およびシステムのさらに別の態様について以下でより詳細に論じる。
【0104】
抗体交差反応性
方法の態様は、抗体交差反応性を検出することを含む。抗体交差反応性とは、抗原と、異なるが類似する抗原に特異的な抗体との間の結合をいう。例えば、抗体は、特定のエピトープにおいて抗原に特異的に結合し得る。加えて抗体は、異なる抗原上の類似のエピトープにも特異的に結合し得る。異なる抗原上の類似のエピトープに対する抗体の結合を抗体交差反応性という。いくつかの実施形態においては、試料中の分析物の存在を検出するための装置は近接センサの配列を含む。場合によっては、各近接センサは、異なる各表面捕獲リガンドが別個の分析物に特異的に結合するようにその表面と会合する異なる表面捕獲リガンドを有する。いくつかの例では、方法は、近接センサの配列を試料および近接標識を含む検定組成物と接触させることを含む。試料は、配列内の対応する抗体に特異的に結合する2つ以上の異なる分析物を含み得る。場合によっては、方法は、検定組成物中に捕獲プローブを順次に導入することをさらに含み、異なる各捕獲プローブは別個の分析物に特異的に結合するように構成される。また各捕獲プローブは、前述のように、近接標識に結合して検出可能な信号を生成するようにも構成される。また方法は、前述のように、近接センサから信号を獲得することも含み得る。検定組成物中に各捕獲プローブを順次に導入することにより、各捕獲プローブのそれに対応する分析物への特異的結合を、配列内の特定の近接センサにおける信号として検出することができる。加えて、捕獲プローブと他の分析物との間の交差反応性も、配列内の他の近接センサにおける信号として検出することができる。いくつかの実施形態においては、各捕獲プローブの導入の間に洗浄ステップが行われない。例えば、各捕獲プローブは、洗浄ステップなしで検定組成物に順次に加えることができる。
【0105】
いくつかの実施形態においては、方法は、近接センサの配列を、近接標識を含む検定組成物と接触させることを含む。また方法は、検定組成物中に2つ以上の異なる捕獲プローブを導入することも含むことができ、異なる各捕獲プローブは別個の分析物に特異的に結合するように構成される。場合によっては、方法は、検定組成物中に2つ以上の分析物を順次に導入することを含む。検定組成物に分析物を導入すると、分析物はそれに対応する表面捕獲リガンドとそれに対応する捕獲プローブとに特異的に結合し得る。前述の方法と同様に、検定組成物中に各分析物を順次に導入することにより、各分析物のそれに対応する捕獲プローブへの特異的結合を、配列内の特定の近接センサにおける信号として検出することができる。加えて、捕獲プローブと他の分析物との間の交差反応性も、配列内の他の近接センサにおける信号として検出することができる。いくつかの実施形態においては、各分析物の導入の間に洗浄ステップが行われない。例えば各分析物は、洗浄ステップなしで検定組成物に順次に加えることができる。
【0106】
装置およびシステム
本開示の態様は、試料中の分析物の存在を検出するための装置およびシステムをさらに含む。本発明の装置およびシステムの代表的な実施形態について以下でより詳細に示す。
【0107】
装置
試料中の分析物の存在を検出するための装置は、前述のように、試料受け部材と近接センサとを含む。近接センサは、試料が試料受け部材に配置されると試料が近接センサに接触するように試料受け部材と関連付けられている。本発明の近接センサ装置のさらに別の態様について以下で説明する。
【0108】
試料受け部材は様々な構成のうちのいずれとしてもよく、その場合試料受け部材は、試料を近接センサと接触した状態で保持するように構成される。したがって、試料受け部材の構成には、それだけに限らないが、近接センサがウェルの底面または側面と関連付けられたウェル型構成、近接センサの表面の上方に延在する1つまたは複数の壁を含む試料受け部材などが含まれ得る。例えば試料受け部材は、近接センサを取り囲み、近接センサの表面の上方に延在する壁を含み得る。壁は、近接センサの表面に対して実質的に垂直とすることができる。場合によっては、試料受け部材の壁は、近接センサの表面の上方に、試料受け部材により定義される空間の体積以下の容量の試料を受けることのできる空間の体積を定義する。
【0109】
いくつかの実施形態においては、装置は、最小限の量の試料から検出可能な信号を生成するように構成される。場合によっては、装置は、1mL以下、例えば500μL以下のサイズの試料から検出可能な信号を生成するように構成され、この試料サイズには100μL以下、例えば50μL以下、または25μL以下、または10μL以下などが含まれる。したがって場合によっては、試料受け部材は、検出可能な信号を生成するのに必要とされる最小限の量の試料を受けるように構成される。例えば試料受け部材は、1mL以下、例えば500μL以下の試料を受けるように構成することができ、これには100μL以下、例えば50μL以下、または25μL以下、または10μL以下などが含まれる。
【0110】
前述のように、試料中の分析物の存在を検出するための装置は、試料受け部材と近接センサとを含み得る。場合によっては、近接センサは、前述のように、磁気センサである。実施形態によっては、装置は、試料中の分析物の存在を検出するためのシステムに接続するように構成される。したがって、いくつかの実施形態においては、装置は磁場発生器を含まない。磁場発生器は、試料中の分析物の存在を検出するためのシステムに含めることができ、装置に含まれなくてもよい。よって検定プロトコルは、試料中の分析物の存在を検出するためのシステムに分析物検出装置を動作可能に結合することを含み得る。場合によっては、分析物検出装置は、以下でさらに説明するように、システムの活性化および信号処理部に動作可能に結合され得る。
【0111】
いくつかの実施形態においては、試料中の分析物の存在を検出するための装置は、携帯式装置とするように構成される。「携帯式」とは、装置を、手持ち式とし、ひざの上に置いて使用し、またはポケット、ベルトなどに装着されるなど装着可能とし得ることを意味する。したがってこれらの実施形態の装置は、携帯できる寸法とされ、そのように構成される。場合によっては、装置は、25mmから125mmを含む10mmから300など1mmから700mmの範囲に及ぶ長さ、25mmから125mmを含む10mmから300など1mmから700mmの範囲に及ぶ幅、および25mmから125mmを含む10mmから300mmなど1mmから700mmの範囲に及ぶ高さを有する。装置は携帯式とすることができるため、装置は特段に努力しなくても平均的な人間が運ぶのに適した重さを有し、場合によっては、装置は、10lb(約4.54kg)以下、例えば5lb(約2.27kg)以下の重さであり、この重さには、2lb(約0.91kg)以下、1lb(約0.45kg)以下、0.5lb(約0.23kg)以下さえもが含まれる。携帯式装置は臨床環境でも実験室環境でも操作することができ、装置が携帯可能なサイズであることにより、装置の使い勝手、および臨床環境または実験室環境間での装置の運搬性が助長され得る。いくつかの例では、携帯式装置は、実施に際して臨床環境または実験室環境を必要とせずに操作することができる。例えば携帯式装置は、技師もおらず実験設備も利用できない可能性のある現場環境や遠隔地で使用されてもよい。場合によっては、装置は、手持ち式装置とするように構成される。したがって、装置の試料受け部材および近接センサは手持ち式ハウジング内に存在し得る。
【0112】
近接センサ装置構成
近接センサ装置は、センサ構成に関してなど、多種多様な構成を有し得る。場合によっては、近接センサ装置は、装置がバッチ用途に構成されるかそれとも流通用途に構成されるかなどに応じて異なる構成を有し得る。したがって、試料および近接標識を含む検定組成物と接触する装置の近接センサを提供する任意の構成が用いられ得る。したがって構成には、それだけに限らないが、ウェル構成(センサがウェルなどの試料受け部材の底面または壁と関連付けられる)や、例えばセンサが流体の入力および出力を有するフローセルの壁と関連付けられる流通構成などが含まれ得る。
【0113】
いくつかの実施形態においては、本発明の近接センサ装置はバイオチップ(バイオセンサチップなど)である。「バイオチップ」または「バイオセンサチップ」とは、基材表面上に2つ以上の別個の近接センサを表示する基材表面を含む近接センサ装置を意味する。いくつかの実施形態においては、近接センサ装置は近接センサの配列を有する基材表面を含む。
【0114】
「配列」は、アドレス指定可能な領域、例えば空間的にアドレス指定可能な領域などの任意の2次元または実質的に2次元(および3次元)の構成を含む。配列が「アドレス指定可能」なのは、それが配列上の特定の所定の場所(「アドレス」など)に位置する複数のセンサを有するときである。配列特徴物(センサなど)は、介在空間により隔てることができる。任意の所与の基材は、基材の前面に配置された1個、2個、4個またはそれ以上の配列を保持し得る。用途に応じて、配列のいずれかまたはすべてが同じであっても、相互に異なっていてもよく、各配列が複数の別個の近接センサを含んでいてもよい。配列は1つまたは複数の近接センサを含むことができ、これには、2個以上、4個以上、8個以上、10個以上、50個以上、もしくは100個以上の近接センサが含まれる。例えば、64個の近接センサを8×8配列に構成することができる。いくつかの実施形態においては、近接センサは、1cm未満など、10cm未満または5cm未満の面積を有する配列に構成することができ、これには50mm未満、20mm未満、例えば10mm未満などが含まれ、あるいはさらに小さくてもよい。例えば、近接センサは、10μm×10μmから200μm×200μmの範囲内の寸法を有していてもよく、これには100μm×100μm以下の寸法が含まれ、例えば75μm×75μm以下、50μm×50μm以下などとすることができる。
【0115】
前述のように、近接センサのうちの少なくとも一部または全部が、センサの表面と安定的に会合する表面捕獲リガンドを有する。所与の装置が2つ以上近接センサを含む場合、各センサは、その表面と会合する同じまたは異なる表面捕獲リガンドを有し得る。したがって、異なる表面捕獲リガンドは、そのような装置のセンサ表面上に、異なる各表面捕獲リガンドが別個の分析物に特異的に結合するように存在し得る。別の場合には、近接センサ装置は、近接センサの表面が分析物に直接結合するように機能化されるように、いかなる表面捕獲リガンドにも束縛されない近接センサを含む。場合によっては、近接センサは、近接センサの表面上に配置された障壁層を含む。障壁層は、近接センサの表面への表面捕獲リガンドまたは分析物の結合を阻害するように構成され得る(例えば、そのような阻害される近接センサは、基準信号または制御電気信号のソースとして使用され得る)。
【0116】
マルチセンサ装置においては、近接センサの合間に、どんな表面捕獲リガンドも保持せず、分析物に直接結合するように機能化されない面積が存在し得る。そのようなセンサ間の面積は、存在するときには、様々な大きさおよび構成のものとすることができる。場合によっては、これらのセンサ間の面積は、例えば、センサ間の面積が疎水性材料および/または壁などの流体障壁で被覆される場合など、異なるセンサ間での流体運動を阻害し、または妨げるように構成され得る。
【0117】
いくつかの実施形態においては、装置の基材は、別個のセンサの1つまたは複数の配列を保持することができ、(他の形状も可能であるが)直方体として形成され、1cmから5cmを含む1cmから10cmなど1cmから20cmまでの範囲に及ぶ長さ、1cmから3cmを含む1cmから5cmなど0.5cmから10cmまでの範囲に及ぶ幅、および1mmから3mmを含む0.5mmから5mmなど0.1cmから5cmまでの範囲に及ぶ厚さを有する。
【0118】
近接センサを、プロセッサ、表示器などといったシステムの構成部分に電子的に結合するように構成された、導電リード線などの電子通信要素を設けることができる。加えて、所与の近接センサ装置は、近接センサ配列以外にも他の様々な構成部分も含むことができる。他の装置構成要素には、それだけに限らないが、信号処理構成部分、データ表示構成部分(グラフィカル・ユーザ・インターフェースなど)、データ入力装置および出力装置、電源、流体操作構成部分、有線または無線通信構成部分が含まれ得る。
【0119】
本開示の実施形態による試料中の分析物の存在を検出するための装置20の一例を図2に示す。装置20は基材21を含む。基材21上には試料受け部材22が配置されている。試料受け部材22は、基材21の表面上に試料を含むように構成されている。図2に示す試料受け部材22は円形の形状であるが、それだけに限らないが、正方形、楕円形、長方形、三角形などといった他の形状も可能である。また装置は、基材21の表面上に配置された近接センサ24の配列23も含む。試料受け部材22は近接センサ24の配列23を取り囲み、近接センサ24と接触する試料を保持する。配列23は図2に示す4より少ない、または多い数の近接センサ24を含んでいてもよい。また装置20は、図3Aおよび図3Bに示すシステム30の活性化および信号処理部に装置20を電子的に結合するように構成されたインターフェース25も含む。
【0120】
システム
試料中の分析物の存在を検出するためのシステムが提供される。いくつかの実施形態においては、システムは、前述のように、手持ち式分析物検出装置を含む。加えてシステムは、手持ち式分析物検出装置に動作可能に結合するように構成された活性化および信号処理部も含む。
【0121】
システムの実施形態はさらにコンピュータベースのシステムを含む。システムは、前述のように、結合相互作用を定性的に、かつ/または定量的に評価するように構成され得る。「コンピュータベースのシステム」とは、近接センサからの信号を分析するのに使用されるハードウェア、ソフトウェア、およびデータ記憶構成部分をいう。コンピュータベースのシステムのハードウェアは、中央処理装置(CPU)、入力、出力、およびデータ記憶構成部分を含み得る。様々なコンピュータベースのシステムのどれでも本発明のシステムにおける使用に適する。データ記憶構成部分は、前述のように近接センサからの信号を記録するための装置を含む任意のコンピュータ可読媒体、または近接センサからの信号を記憶することのできるアクセス可能なメモリ構成部分を含み得る。
【0122】
コンピュータ可読媒体上にデータ、プログラミングまたは他の情報を「記録する」ことは、当分野において公知の任意のそのような方法を使って情報を記憶するための工程をいう。記憶される情報にアクセスするのに使用される方法に応じて、任意の好都合なデータ記憶構造を選択することができる。記憶のためには、例えばワード・プロセシング・テキスト・ファイル、データベース形式など、様々なデータ・プロセッサ・プログラムおよび形式を使用することができる。
【0123】
いくつかの実施形態においては、システムは活性化および信号処理部を含む。活性化および信号処理部は、手持ち式分析物検出装置に動作可能に結合するように構成され得る。場合によっては、活性化および信号処理部は分析物検出装置に電気的に結合される。活性化および信号処理部は、例えば、分析物検出装置との間の双方向通信を提供するように電気的に結合され得る。例えば活性化および信号処理部は、それだけに限らないが、近接センサなどの分析物検出装置の構成部分に電力、活性化信号などを提供するように構成され得る。したがって活性化および信号処理部は、活性化信号発生器を含み得る。活性化信号発生器は、それだけに限らないが、近接センサなどの分析物検出装置の構成部分に電力、活性化信号などを提供するように構成され得る。場合によっては、活性化および信号処理部は近接センサの両端に1mVから100Vまで、例えば100mVから50Vの範囲に及ぶ電圧を印加するように構成され、この電圧には500mVから10V、例えば500mVから5Vなどが含まれる。場合によっては、活性化および信号処理部は、近接センサの両端に1Vの電圧を印加するように構成される。
【0124】
加えて、活性化および信号処理部は、分析物検出装置の近接センサからなど、分析物検出装置から信号を受信するようにも構成され得る。前述のように、分析物検出装置の近接センサからの信号は、試料中の分析物の存在を検出するのに使用され得る。場合によっては、活性化および信号処理部は、近接センサからの信号を受信したことに応答して分析物検出結果を出力するように構成されたプロセッサを含み得る。よって、活性化および信号処理部のプロセッサは、近接センサからの信号を受信し、所定のアルゴリズムに従って信号を処理し、試料中の分析物の存在に関連する結果を獲得し、その結果を可聴形式または人間が読める形式でユーザに出力するように構成され得る。
【0125】
「プロセッサ」とは、必要とされる機能を果たす任意のハードウェアおよび/またはソフトウェアの組み合わせをいう。例えば、この場合のプロセッサは、電子コントローラ、メインフレーム、サーバ、またはパーソナルコンピュータ(デスクトップや携帯式など)の形で利用できるようなプログラマブル・ディジタル・マイクロプロセッサとすることができる。プロセッサがプログラマブルである場合、適切なプログラミングを、リモートの場所からプロセッサに伝えることもでき、あるいは(磁気、光、または半導体素子のいずれに基づくものであれ携帯用または据え置き型のコンピュータ可読記憶媒体などの)コンピュータプログラム製品に事前に保存することもできる。例えば、磁気媒体または光ディスクは、プログラミングを保持することができ、プロセッサとやりとりする適切な読取通信装置により読み取ることができる。
【0126】
前述のように、いくつかの実施形態においては、分析物検出装置は、磁気センサである近接センサを含み、近接標識は磁気標識である。これらの実施形態においては、システムは磁場発生器を含み得る。磁場発生器は、近接センサ装置がシステムに接続されるときに近接センサが位置する領域において磁場が発生するように位置決めされ得る。磁場発生器は、1つまたは複数の、例えば、2つ以上、3つ以上、4つ以上などの磁場発生構成部分を含み得る。いくつかの実施形態においては、システムは、近接センサ装置がシステムに接続されるときに近接センサの対向する側面に位置する2つの磁場発生器を含む。場合によっては、磁場発生器は、平面電磁石といった1つまたは複数の電磁石を含み得る。磁場発生器はさらに磁束ガイドを含み得る。磁束ガイドは、磁場発生器の磁束を、磁束が磁気センサの磁化困難軸の方向と実質的に整列するように方向づけるように構成され得る。
【0127】
場合によっては、本発明のシステムは、近接センサに印加される電流(感知電流など)を変調するように構成される。また本発明のシステムは、磁場発生器により発生する磁場を変調するようにも構成され得る。感知電流および磁場を変調することにより、センサからの信号の磁気抵抗成分と抵抗成分との分離を助長にし、信号対雑音比を増大させることができる。磁気標識の存在を検出するために、近接センサの抵抗の変化が電圧の検出可能な変化へと変換されるように近接センサに感知電流を印加することができる。場合によっては、センサからの信号(図4(a)および図4(b)参照)は、磁気標識からの信号以外にも、近接センサと磁場発生器との間の雑音や干渉といった他の構成成分を含む。磁気標識からの信号は、磁気標識からの信号をその他の構成成分と分離することにより検出することができる。いくつかの例では、検出可能な信号は、雑音を最小化し、感知電流を変調することによって生成される。場合によっては、センサからの信号は周波数fcarrierを有し、磁場は周波数ffieldを有する。周波数領域では、感知電流を変調することにより、磁気標識からの信号を、センサ周波数と磁場周波数との和(fcarrier+ffield)と差(fcarrier−ffield)の両方にシフトすることができる。(図4(c)を参照)したがって、磁気標識からの信号と、近接センサと磁場発生器との間の干渉を分離することができる。
【0128】
また、センサに印加される電流と磁場を変調することは、雑音を最小化することにより信号対雑音比の増大も助長し得る。例えば、センサからの信号は、白色雑音、ピンクノイズ(1/f雑音など)、ブラウンノイズなどといった雑音を含み得る。いくつかの例では、雑音は磁化1/f雑音、例えば磁場発生器により発生する磁場の揺らぎなどに起因するものであり、この揺らぎはさらに磁気センサの抵抗の揺らぎを生じさせ得る。磁気センサの抵抗の揺らぎは磁化1/f雑音を生じさせ得る。場合によっては、磁場の周波数が低いときに、磁化1/f雑音は信号中の他の雑音構成成分より大きくなる。いくつかの実施形態においては、磁場の周波数を増大させるなど磁場を変調することにより、信号対雑音比が増大するように磁化1/f雑音の低減が助長される。
【0129】
また、本発明のシステムの実施形態は以下の構成部分、すなわち、(a)後述するように、ユーザコンピュータなどを介してシステムと1ユーザまたは複数のユーザとの間で情報を転送するように構成された有線または無線の通信モジュール、および(b)近接センサからの信号の定性分析および/または定量分析に関与する1つまたは複数のタスクを実行するためのプロセッサも含むことができる。
【0130】
いくつかの実施形態においては、コンピュータプログラム製品は、制御論理(プログラムコードを含むコンピュータ・ソフトウェア・プログラム)が記憶されているコンピュータ使用可能媒体を含むものとして説明される。制御論理は、コンピュータのプロセッサにより実行されると、プロセッサに本明細書で説明する機能を実施させる。別の実施形態においては、いくつかの機能が、例えばハードウェア状態機械などを使って、主にハードウェアにおいて実施される。本明細書で説明する機能を果たすようなハードウェア状態機械の実施は、任意の好都合な方法および技術を使って実現することができる。
【0131】
近接センサ装置と活性化および信号処理部とに加えて、システムは、それだけに限らないが、モニタ、スピーカなどのデータ出力装置、インターフェースポート、ボタン、スイッチ、キーボードなどのデータ入力装置、流体操作構成部分、電源、電力増幅器、有線または無線通信構成部分などといったいくつかのさらに別の構成部分を含み得る。例えばシステムは、マイクロ流体操作構成部分といった流体操作構成部分を含み得る。いくつかの実施形態においては、マイクロ流体操作構成部分は、流体が近接センサに接触するように装置の試料受け部材に流体を送るように構成される。場合によっては、流体は、検定組成物、試料、近接標識、捕獲プローブ、試薬などのうちの1つまたは複数を含む。いくつかの例では、マイクロ流体操作構成部分は1mL以下、例えば500μL以下など少量の流体を送るように構成され、これには100μL以下、例えば50μL以下、または25μL以下、または10μL以下などが含まれる。
【0132】
いくつかの実施形態においては、システムは高感度分析物検出器である。「高感度」とは、システムが、試料中の分析物の濃度が低い状況において試料中の分析物を検出するように構成されていることを意味する。場合によっては、システムは、試料中の対象とする分析物の存在を指示する検出可能な信号を生成するように構成され、その場合の試料中の分析物の濃度は1μm以下であり、例えば100nM以下、または10nM以下、または1nM以下などであり、これには100pM以下、または10pM以下、または1pM以下が含まれ、例えば500fM以下、または250fM以下、100fM以下、または50fM以下、または25fM以下、例えば10fM以下、または5fM以下、または1fM以下などである。
【0133】
いくつかの実施形態においては、システムは表示器を含む。表示器は、前述のように、活性化および信号処理部から獲得される分析物検出結果の視覚表示を提供するように構成され得る。表示器は定性的分析物検出結果を表示するように構成され得る。例えば、定性的表示は、試料が対象とする特異的分析物を含む、または含まないという定性的指標をユーザに表示するように構成され得る。
【0134】
別の実施形態においては、表示器は、分析物検出結果が定量的結果、例えば、試料中の分析物の濃度の定量的測定などである分析物検出結果を表示するように構成され得る。例えば、システムが定量的分析物検出結果を出力するように構成される実施形態では、システムは、定量的分析物検出結果を表示するように構成された表示器を含み得る。いくつかの例では、定量的分析物検出結果は、試料中の分析物の量が低い、中程度、高いなど、試料中の分析物の濃度の異なる範囲と関連する定量的指標に対応し得る。例えば定量的表示は、「低い」量の分析物は50fMから10pMまでの範囲に及ぶ分析物濃度に対応し、「中程度の」量の分析物は10pMから100pMまでの範囲に及ぶ分析物濃度に対応し、「高い」量の分析物は100pMから10nM以上の分析物濃度に対応するように構成され得る。いくつかの実施形態においては、定量的表示は、定量的指標を表示するように構成された英数字表示、またはそれぞれが異なる定量的指標に対応する異なる有色光(LED、OLEDなど)もしくは異なる記号を含む。例えば定量的表示は、試料中の低い量の分析物に対応する緑色の光と、試料中の中程度の量の分析物に対応する橙色の光と、試料中の高い量の分析物に対応する赤色の光とを含み得る。場合によっては、異なる有色光は、それだけに限らないが、多色(3色などの)LEDといった単一の定量的指標に含まれていてもよい。
【0135】
試料中の分析物の存在を検出するためのシステム30の一例を図3Aおよび図3Bに示す。システム30は活性化および信号処理部31を含み、活性化および信号処理部31はインターフェース32を介して分析物検出装置20に動作可能に結合するように構成されている。また活性化および信号処理部31は表示器33にも動作可能に結合されており、表示器33は活性化および信号処理部31から獲得される分析物検出結果の視覚表示を提供するように構成されている。またシステム30は電源34も含み、電源34は活性化および信号処理部31に電力を供給する。また電源34は電力増幅器37を介して磁石35および36にも電力を供給する。図3Bに示すように、試料に対する検定を行うために、分析物検出装置20は磁石35と磁石36との間に位置決めされている。分析物検出装置20のインターフェース25はシステム30のインターフェース32に動作可能に結合されている。分析物検出装置20は近接センサ24に電流を供給する。対象とする分析物が前述のように近接センサ24の表面に結合される場合には、近接センサ24において信号が誘発される。信号は活性化および信号処理部31により検出、処理され、分析物検出結果が表示器33上でユーザに表示される。システム30の装置20と磁石35および36との正しい位置合わせを可能にするために、装置20内の位置合わせ用孔に挿入されるシステム30上のピン、あるいはその逆の場合のピン、あるいは他の好都合な位置合わせ手順など、任意の好都合な位置合わせ機構を用いることができる。
【0136】
有用性
本発明の方法、システムおよびキットは、試料中の1つまたは複数の分析物の有無の判定、および/または定量化が求められる多種多様な用途において使用することができる。いくつかの実施形態においては、方法は、試料中の1組のバイオマーカ、例えば2つ以上の別個のタンパク質バイオマーカなどの検出を対象とする。例えば本発明の方法は、被験者における疾病条件の進行中の管理または治療などにおいて、被験者における疾病条件の診断において使用され得るように、血清試料中の2つ以上の疾病バイオマーカの迅速な臨床的検定において使用することができる。
【0137】
いくつかの実施形態においては、本発明の方法、システムおよびキットは、バイオマーカの検出に使用することができる。場合によっては、本発明の方法、システムおよびキットは、特定のバイオマーカの有無、ならびに、血液、血漿、血清、および、それだけに限らないが、唾液、尿、脳脊髄液、涙液、汗、胃腸液、羊水、粘膜液、胸膜液、皮脂、呼気などといった他の体液または排出物中の特定のバイオマーカの濃度の増減を検出するのに使用され得る。
【0138】
バイオマーカの有無またはバイオマーカの濃度の有意な変化は、疾病のリスク、個人における疾病の存在を診断し、または個人における疾病のための治療を調整するのに使用することができる。例えば、特定のバイオマーカの存在またはバイオマーカ集団の存在は、個人に施される薬物治療または投薬の処方計画の選択に影響を及ぼし得る。可能な薬物治療を評価するに際して、バイオマーカは、生存または不可逆的罹患といった自然な終点の代理として使用することができる。治療により健康状態の改善に直接つながるバイオマーカが変化する場合、そのバイオマーカは、特定の治療または投与の処方計画の臨床的利益を評価するための代理終点として使用することができる。よって、個人において検出される特定のバイオマーカまたはバイオマーカ集団に基づく個別診断および治療が、本発明の方法およびシステムにより円滑化される。さらに、疾病と関連付けられるバイオマーカの早期検出も、本発明の方法およびシステムのピコモルおよび/またはフェムトモルの感度により容易になる。単一チップ上で複数のバイオマーカを検出できることが、感度、拡張性、および使い勝手のよさと組み合わさることにより、本開示の検定の方法およびシステムは、携帯式の、ポイントオブケア(point−of−care=医療実施時点)の、またはベッドサイドの多重化分子診断に使用することができる。
【0139】
いくつかの実施形態においては、本発明の方法、システムおよびキットは、疾病または疾病状態についてのバイオマーカを検出するのに使用することができる。場合によっては、疾病は、それだけに限らないが、癌、腫瘍、乳頭腫、肉腫、癌腫などといった細胞増殖性の疾病である。よって、本発明の方法、システムおよびキットは、癌、腫瘍、乳頭腫、肉腫、癌腫などといった細胞増殖性の疾病などの疾病の存在を検出するのに使用することができる。いくつかの例では、癌を検出するための対象とする特定のバイオマーカまたは細胞増殖性の疾病の指標には、それだけに限らないが、以下のものが含まれる。炎症の指標であるC−反応性タンパク質、細胞周期およびアポトーシス制御を助長する、p53などの転写因子、日光性角化症および扁平上皮癌の指標であるポリアミン濃度、増殖相にある細胞の核において表現される細胞周期関連のタンパク質である増殖性細胞核抗原(PCNA)、IGF−Iなどの成長因子、IGFBP−3などの成長因子結合タンパク質、遺伝子発現を調節する長さ約21〜23個のヌクレオチドからなる一本鎖RNA分子であるマイクロRNA、膵臓癌および大腸癌のバイオマーカである炭水化物抗原CA19.9、前立腺癌のバイオマーカである前立腺特異的膜抗原、サイクリン依存キナーゼ、上皮成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、タンパク質チロシンキナーゼ、エストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体(PR)の過剰発現など。
【0140】
いくつかの実施形態においては、本発明の方法、システムおよびキットは、感染性の疾病または疾病状態についてのバイオマーカを検出するのに使用することができる。場合によっては、バイオマーカは、それだけに限らないが、タンパク質、核酸、炭水化物、小分子などといった分子バイオマーカとすることができる。例えば、本発明の方法、システムおよびキットは、センサ表面を、HIVカプシドタンパク質p24、糖蛋白質120および41、CD4+細胞などに対する抗体を用いて機能化することにより、HIV/AIDS診断および/または治療モニタリングのためにHIVウイルス量および患者CD4数をモニタするのに使用することができる。本発明の方法、システムおよびキットにより検出され得る特定の疾病または疾病状態には、それだけに限らないが、細菌性感染、ウイルス性感染、遺伝子発現の増減、染色体異常(欠失や挿入など)が含まれる。例えば、本発明の方法、システムおよびキットは、それだけに限らないが、無菌性髄膜炎、ボツリヌス中毒症、コレラ、大腸菌感染症、手足口病、ヘリコバクター感染症、出血性結膜炎、ヘルパンギナ、心筋炎、パラチフス熱、急性灰白髄炎、細菌性赤痢、腸チフス熱、ビブリオ属菌敗血症、ウイルス性下痢などといった胃腸感染症を検出するのに使用することができる。加えて、本発明の方法、システムおよびキットは、それだけに限らないが、アデノウイルス感染症、非定型肺炎、トリインフルエンザ、ブタインフルエンザ、腺ペスト、ジフテリア、インフルエンザ、麻疹、髄膜炎菌性脳脊髄膜炎、流行性耳下腺炎、パラインフルエンザ、百日咳(whooping chough)、肺炎、肺ペスト、RSウイルス感染症、風疹、猩紅熱、敗血性ペスト、重症急性呼吸器症候群(SARS)、結核といった呼吸器感染症を検出するのに使用することもできる。加えて、本発明の方法、システムおよびキットは、それだけに限らないが、クロイツフェルト−ヤコブ病、牛海綿状脳症(すなわち狂牛病)、パーキンソン病、アルツハイマー病、狂犬病などといった神経系疾患を検出するのに使用することもできる。加えて、本発明の方法、システムおよびキットは、それだけに限らないが、AIDS、軟性下疳、クラミジア、尖圭コンジローム、陰部疱疹、淋疾、鼠径リンパ肉芽腫、非特異性尿道炎、梅毒などといった泌尿生殖器の疾病を検出するのに使用することもできる。加えて、本発明の方法、システムおよびキットは、それだけに限らないが、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎などといったウイルス性肝炎疾患を検出するのに使用することもできる。加えて、本発明の方法、システムおよびキットは、それだけに限らないが、エボラ出血熱、腎症候性出血熱(HFRS)、ラッサ出血熱、マールブルグ出血熱などといった出血熱疾患を検出するのに使用することもできる。加えて、本発明の方法、システムおよびキットは、それだけに限らないが、炭疽病、トリインフルエンザ、ブルセラ症、クロイツフェルト−ヤコブ病、牛海綿状脳症(すなわち狂牛病)、腸毒性(enterovirulent)大腸菌感染症、日本脳炎、レプトスピラ症、Q熱、狂犬病、重症急性呼吸器症候群(SARS)などといった人畜共通感染症を検出するのに使用することもできる。加えて、本発明の方法、システムおよびキットは、それだけに限らないが、デング出血熱、日本脳炎、ダニ媒介脳炎、西ナイル熱、黄熱などといったアルボウイルス感染症を検出するのに使用することもできる。加えて、本発明の方法、システムおよびキットは、それだけに限らないが、アシネトバクターバウマニー、カンジダアルビカンス、腸球菌種(Enterococci sp.)、肺炎杆菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌などといった抗生物質抵抗性感染症を検出するのに使用することもできる。加えて、本発明の方法、システムおよびキットは、それだけに限らないが、猫爪病、発疹熱、発疹チフス、ヒトエーリキア症(human ehrlichosis)、日本紅斑熱、シラミ媒介型回帰熱、ライム病、マラリア、塹壕熱、恙虫病などといった動物媒介感染症を検出するのに使用することもできる。
【0141】
同様に、本発明の方法、システムおよびキットは、心臓血管性疾患、中枢神経疾患、腎不全、糖尿病、自己免疫疾患、および他の多数の疾病を検出するのに使用することもできる。
【0142】
いくつかの実施形態においては、本発明の方法、システムおよびキットは、食品および/または環境安全のための試料中の1つまたは複数の分析物の有無の検出、および/または定量化に使用することができる。例えば、本発明の方法、システムおよびキットは、潜在的な生物兵器(biological warfare agents)を含む、細菌、ウイルス、カビなどの感染症因子の検出のためなど、潜在的に汚染されている水、土壌または食品の試料中の分析物の存在を判定するのに使用することができる。
【0143】
場合によっては、本発明の方法、システムおよびキットは、実施するために実験室環境を必要とせずに使用することができる。同等の分析研究用実験装置と比べて、本発明の装置およびシステムは、携帯式手持ち式システムとして比較に値する分析感度を提供する。場合によっては、重さおよび運用費用は、典型的な据え置き型実験装置よりも少ない。加えて、本発明のシステムおよび装置は、試料中の1つまたは複数の分析物を検出するための医学的訓練を受けていない人が、市販のものを使って自宅で検査するために自宅環境において利用することができる。また、本発明のシステムおよび装置は、迅速な診断のために、病室など臨床環境において利用することもでき、あるいは費用その他の理由で据え置き型の研究実験装置が設けられない環境においても利用することができる。
【0144】
コンピュータ関連の実施形態
様々なコンピュータ関連の実施形態も提供される。具体的には、以上の各項において説明したデータ分析の方法を、コンピュータを使って行うことができる。したがって、対象とする結合相互作用の定性測定および/または定量測定を提供するために、前述の方法を使って生成されるデータを分析するためのコンピュータベースのシステムが提供される。
【0145】
いくつかの実施形態においては、方法は、「プログラミング」としてコンピュータ可読媒体上に符号化され、「コンピュータ可読媒体」という用語は、本明細書で使用する場合、実行および/または処理のためにコンピュータに命令および/またはデータを提供することに関与する任意の記憶媒体または伝送媒体をいう。記憶媒体の例には、そのような装置がコンピュータに内蔵または外付けされているか否かを問わず、フロッピーディスク、磁気テープ、CD−ROM、DVD−ROM、BD−ROM、ハード・ディスク・ドライブ、ROMまたは集積回路、光磁気ディスク、半導体記憶素子、PCMCIAカードといったコンピュータ可読カードなどが含まれる。コンピュータ可読媒体上には情報を含むファイルを「記憶」することができ、その場合「記憶する」とは、コンピュータにより後でアクセスすることができ、取り出すことができるように情報を記録することを意味する。媒体の例には、それだけに限らないが、プログラミングが物理構造と関連付けられる、例えばその上に記録されるなどの物理媒体といった非一過性媒体が含まれる。非一過性媒体は無線プロトコルによる送信状態にある電子信号を含まない。
【0146】
コンピュータ可読媒体に関して、「固定記憶」とは永続的な記憶をいう。固定記憶は、コンピュータまたはプロセッサへの給電の打切りによって消去されない。コンピュータ・ハード・ドライブ、CD−ROM、DVD−ROM、BD−ROM、およびフロッピーディスクはすべて固定記憶の例である。ランダム・アクセス・メモリ(RAM)は非固定記憶の一例である。固定記憶内のファイルは編集し、書き換えることができる。
【0147】
キット
前述の方法の1つまたは複数の実施形態を実施するためのキットも提供される。本発明のキットは様々なものとすることができ、様々な装置および試薬を含み得る。試薬および装置には、本明細書において近接センサ装置またはその構成部分(近接センサ配列やチップなど)、近接標識、捕獲プローブ、表面捕獲リガンド、バッファなどに関連して言及したものが含まれる。試薬、近接標識、捕獲プローブなどは、それらを個々に望みどおりに使用することができるように、別々の容器において提供することができ得る。あるいは、1つまたは複数の試薬、近接標識、捕獲プローブなどを、それらがあらかじめ組み合わされてユーザに提供されるように、同じ容器において提供してもよい。
【0148】
いくつかの実施形態においては、キットは、本明細書で説明したような手持ち式分析物検出装置と、近接標識とを含む。加えてキットは、近接標識と分析物とに結合するように構成された捕獲プローブも含み得る。またキットは、試料中の分析物の存在を検出するためのシステムも含み得る。したがって、キットは、手持ち式分析物検出装置に動作可能に結合するように構成された活性化および信号処理部を含み得る。場合によっては、手持ち式分析物検出装置は使い捨て可能である。「使い捨て可能」とは、手持ち式分析物検出装置が一度だけ使用して廃棄するように構成されていることを意味する。後に続く検定では未使用の手持ち式分析物検出装置が使用される。したがって、本発明のキットは、1つまたは複数の、例えば、2個以上、4個以上、6個以上、8個以上、10個以上などの手持ち式分析物検出装置を含み得る。
【0149】
場合によっては、キットは、少なくとも、(例えば前述のような)方法において使用できる試薬と、コンピュータにロードされると、近接センサから獲得されるリアルタイム信号から、対象とする結合相互作用を定性的に、かつ/または定量的に判定するようにコンピュータを動作させるコンピュータプログラムが記憶されているコンピュータ可読媒体と、そこからコンピュータプログラムを獲得すべきアドレスを有する物理的基板とを含む。
【0150】
上記構成部分に加えて、本発明のキットはさらに本発明の方法を実施するための命令を含む。これらの命令は様々な形態として本発明のキットに存在することができ、キットにはこれらの形態のうちの1つまたは複数が存在し得る。これらの命令が存在し得る1つの形態は、情報が印刷されている1枚または複数の紙など適切な媒体または基板上、キットの包装、パッケージ挿入物などにおける印刷情報としてである。さらに別の手段は、情報が記録されているディスケット、CD、DVDなどのコンピュータ可読媒体である。存在し得るさらに別の手段は、インターネットを介して除去された部位(removed site)にある情報にアクセスするのに使用され得るウェブサイトアドレスである。キットには任意の好都合な手段が存在していてよい。
【0151】
以下の実施例は、限定のためではなく例示のために提供するものである。
【0152】
実験
近接センサ配列の製造
150μmの熱酸化物を有するシリコンウェーハ上に、ハード・ディスク・ドライブの読取りヘッドの層順序と同様の層順序を有するスピンバルブ膜を、イオンミリングにより、それぞれが、直列に接続され、100μm×100μmの面積をカバーするように配置された1.5μm×100μmの32個の線形セグメントからなる個々のセンサへとパターン成形した。各センサは40kΩの公称抵抗値と、12%の最大磁気抵抗を有した。耐食リード線(Ta 5/Au 300/Ta 5)nmをスパッタ蒸着させ、リフトオフによりパターン成形した。各センサは、イオン・ビーム・スパッタ堆積により室温で蒸着された3層酸化物(SiO 10/Si 10/SiO 10)nmを用いて不動態化した。リード線は、さらに別の3層酸化物(SiO 100/Si 100/SiO 100)nmを用いて不動態化した。2液型エポキシ(EP5340、Eager Plastics、米国イリノイ州シカゴ)を使って、セラミック製84ピン・チップ・キャリア(LCC08423、Spectrum Semiconductor Materials、米国カリフォルニア州サンノゼ)上にチップおよび試薬ウェル(Tygon(登録商標)チューブ、1/4インチ(約0.635cm)ID×3/8インチ(約0.953cm)OD、長さ6mm)を組み立てた。同じエポキシの0.5mm層を使ってセンサのうちのいくつかをマスクして、後続の生体機能化のために2つの隣接する分離された部位を作り出した。マスクされたセンサは、近接標識結合を検出することができなくなり、電気信号基準として使用した。
【0153】
図11に、本開示の実施形態による試料中の分析物の存在を検出するための手持ち式装置1100の写真を示す。装置1100は、近接センサ配列1101と、近接センサ配列1101の表面に試料を含むように構成された試料受け部材1102とを含む。差込み図には近接センサ配列1101の拡大図が示されている。
【0154】
表面処理
組み立てられた近接センサ配列を、アセトン、メタノール、イソプロパノール、および脱イオン水で十分に洗浄した。10分間のUVオゾン処理(UVO Cleaner Model 42、Jelight、米国カリフォルニア州アーバイン)を使って有機残渣を除去した。生体機能化の基層を形成するために、2%のポリエチレンイミン(PEI、CAS 9002−98−6、Sigma−Aldrich)の脱イオン水溶液を2分間にわたり近接センサの表面に塗布した。次いで近接センサを脱イオン水ですすぎ、次いで5分間にわたり150°Cで焼成して吸着されたPEIを凝固させた。
【0155】
電子回路
以下で図12〜図14に示すシステムのための電子回路を説明する。図12に、本開示の実施形態によるデータ収集(DAQ)基板1200の写真を示す。DAQ基板1200はアナログとディジタル両方の部分回路を備えるものであった。アナログ回路は、励起信号発生部分回路と場信号発生部分回路とを含むものであった。加えてDAQ基板1200はフロントエンド1201も含むものであった。加えてDAQ基板1200は電源1203も含むものであった。またDAQ基板1200上には、ディジタル信号処理(DSP)を行い、すべてのユーザ相互作用を処理するマイクロプロセッサ1202も含まれていた。
【0156】
図13に、本開示の実施形態による電磁コイル基板1300の写真を示す。電磁コイル基板1300は、センサを変調するための磁場を発生させるのに使用される電力増幅器1301および平面電磁石1302を含むものであった。また電磁コイル基板は磁束ガイド1303も含むものであった。
【0157】
図14に、本開示の実施形態による試料中の分析物の存在を検出するためのシステム1400の写真を示す。システムは、データ収集(DAQ)基板1402に接続された電磁コイル基板1401を含むものであった。DAQ基板1402は、定量的分析物検出結果を表示するように構成されたLED指示器1403を含むものであった。加えてDAQ基板1402は、複数のボタン(オン/オフボタン1404、リセットボタン1405、スタートボタン1406、補助ボタン1407など)、ならびにLED(電源LED1408、状況LED1409、LED指示器1403など)も含むものであった。またシステム1400は、試料中の分析物の存在を検出するように構成された使い捨ての手持ち式分析物検出装置1410も含むものであった。使い捨て可能な手持ち式分析物検出装置1410は、プリント回路基板(PCB)上に実装された近接センサ配列1414(GMRセンサ配列など)を含み、他の電子回路(磁場発生器など)を含まないものであった。使い捨て可能な手持ち式分析物検出装置1410は、試料受け部材1411を含むものであった。試料受け部材1411は、近接センサ配列1414を取り囲み、近接センサ配列1414と接触する試料を含むように構成された。試料受け部材1411および近接センサ配列1414は、平面電磁石1412および磁束ガイド1413の間に位置決めされた。
【0158】
図5に、センサのための励起信号を生成し、調整するのに使用した回路の一部分の回路図を示す。センサは0.5Vのピーク振幅、1Vのオフセットを有する正弦波信号により励起した。10ビットのディジタル/アナログ変換器(DAC)を有する直接ディジタル合成(DDS)チップ500を使って信号を合成した。後続の信号調整回路で出力をレベルシフトし、利得を適用した。信号はセンサを駆動する前にバッファされた。また同一の回路で電磁コイルを駆動するのに使用される信号も生成した。電磁コイルのための励起信号も、正弦波信号であるが、660mVのピーク振幅および360mVのオフセットを有するものであった。図5に示す回路は、抵抗器501、502、503および可調整抵抗器504、505を含むものであった。また回路はコンデンサ506、507も含むものであった。加えて回路は増幅器508、509、510、および511も含むものであった。また図5の回路図には電圧出力512も示されており、電圧出力512はセンサに励起信号Vexciteを出力するように構成された(図6参照)。
【0159】
センサのためのフロントエンド(図6)は、高利得計測増幅器を有する従来のホイートストンブリッジを含むものであった。近接センサは図6に示す抵抗器600であった。ホイートストンブリッジの基準センサ(ブリッジの左半分など)は、8個のセンサすべてにおいて共用された。ホイートストンブリッジからの信号は、小さな差分成分を有する大きな同相モードを含むものであった(図4(a)および図4(b)参照)。センサごとのばらつき(DCオフセット)を除去するために、信号を高域フィルタ(HPF)にかけた。フィルタリングの後、信号の同相モード電圧を、計測増幅器のために高利得領域にあるように調整した。信号をマイクロプロセッサの内部のアナログ/ディジタル変換器(ADC)によりディジタル化する前に、低域アンチエイリアス補正フィルタ(AAF)を使用した。各センサは図6に示すような回路を含むものであった。図6に示す回路は、ホイートストンブリッジの一部として抵抗器601、602も含むものであった。加えて回路は、抵抗器603、604、605およびコンデンサ606、607、608も含むものであった。図6の回路図には増幅器609も示されている。また回路図には電圧入力610も示されており、電圧入力610は、図5に示すセンサ励起回路から励起信号Vexciteを入力するように構成されている。また図6の回路図には電圧出力611も示されており、電圧出力611は、センサからシステムの活性化および信号処理部に信号Voutを出力するように構成されている。
【0160】
図7(a)に、本開示の実施形態による電磁コイル駆動回路のための回路図を示す。電磁コイル駆動回路は、抵抗器703、704、705、706、および707を含むものであった。加えて電磁コイル駆動回路は、トランジスタ708、709、およびダイオード710も含むものであった。また電磁コイル駆動回路は電源711も含むものであった。コイル基板は平面電磁石コイル700を含み、平面電磁石コイル700は4層回路基板上のトレースでできているものであった。センサを励起するのに十分な大きさの磁場を発生させるためには、コイルに相当な量の電流を提供する必要があった。この電流を処理するために、電力増幅器701を使用した。平面電磁石コイル700は誘導性が大きく、すなわち400μHであり、4.5Ωの抵抗成分を有するものであった。平面電磁石コイル700の表面に、磁束ガイド702として働く軟質磁性材料を取り付けた。磁束ガイド702は、磁束をGMRセンサの磁化困難軸の方向に向けるように構成した。試料中の分析物の存在を検出するための装置712は、その近接センサ配列713が平面電磁コイル700および磁束ガイド702の間に位置決めされた状態で示されている。
【0161】
信号は、図12に示すように、マイクロプロセッサ1202(Microchip dsPIC30F6012A、Microchip Technology,Inc.、米国アリゾナ州チャンドラー)によりディジタル化され、処理された。マイクロプロセッサ1202は、すべての干渉信号(励起音、結合磁場、およびその他の雑音)から側音を隔離するために高次のディジタルフィルタを適用した。側音を分離した後で、信号の二乗平均平方根値(RMS)を計算した。この値は有色発光ダイオード(LED)指示器1204によりユーザに表示された。近接センサ配列中の各近接センサは対応するLED指示器1204を有する。LED指示器1204は、試料中の低い量の分析物に対応する緑色の光と、試料中の中程度の量の分析物に対応する橙色の光と、試料中の高い量の分析物に対応する赤色の光とを発する3色LEDである。信号処理に加えて、マイクロプロセッサ1202は、DDSチップの初期設定、電力を節約するための電磁石のオン、オフの切換え、複数のボタン(オン/オフボタン1205、リセットボタン1206、スタートボタン1207、補助ボタン1208など)およびLED(電源LED1209、状況LED1210、LED指示器1204など)を含むユーザインターフェースの操作といった、ハウスキーピング作業も行った。
【0162】
結果
センサ信号を使用可能な出力に変換するために、最初に較正曲線を生成した。較正曲線を使って、未知の試料からの測定信号を曲線上の別個の領域へと変換することにより、タンパク質検出を獲得することが可能になった。リアルタイム結合曲線をある範囲のタンパク質濃度にわたってモニタした(図8)。図8に、公知の結腸直腸の癌腫瘍マーカである様々な濃度の癌胎児性抗原(CEA)に対する検出抗体のリアルタイム結合曲線を示す。
【0163】
検定は、信号が発生するのに十分な時間を与えると同時にポイントオブケアで使用するのに十分な迅速さも有するように15分間にわたって実行した。較正曲線を生成するために、15分で獲得した信号を、タンパク質濃度の関数としてグラフに記入した(図9)。検出の下限は約50fMであることが観測され、これはELISAより1桁以上高い感受性である。
【0164】
検定の特異性、多重化能力、および再現性を示すために、血管内皮増殖因子(VEGF)、CEAおよび上皮細胞接着分子(EpCAM)のタンパク質検出を、2つのセンサ上でモニタした(図10)。また、2つの負の対照、すなわちエポキシ被覆対照およびウシ血清アルブミン(BSA)対照も1回の検定においてモニタした。VEGFのみに特異的な表面捕獲リガンドを有するセンサを培養した後、VEGFをモニタしている両方のセンサが再現可能なタンパク質検出信号を発した。加えて、CEAおよびEpCAMに対する非相補的抗体はどちらも、反応の高特異性を指示する信号をほとんど発しなかった。また、BSA対照も平坦なままであり、検定の非特異的結合がごくわずかしかないことを示した。またエポキシ対照も平坦なままであり、電子回路からの雑音寄与がほとんどないことを示した。
【0165】
各センサからの信号は有色LEDによりユーザに表示された。マイクロプロセッサの内部には、対象とするタンパク質ごとの較正曲線と、対応する閾値濃度(検出不能、低、中、高など)を含むいくつかの表をプログラム設定した。15分の培養時間における信号値が所定の閾値と比較され、適切な色が選択され、LEDごとに表示した。1回の検定において8個のセンサがモニタされたため、信号入力から色灯出力への変換は、システム上の指示器ごとに8回繰り返された。表は使用前にシステムに事前にプログラム設定し、ユーザが指示器の色を観測することにより試料中の対象とする分析物の大まかな定量的検出を判定することができるようにした。
【0166】
抗体交差反応性検定
GMRセンサチップの製造および表面化学
ハード・ディスク・ドライブの読取りヘッドの層順序と同様の層順序を有するスピンバルブ膜を、イオンミリングにより、シリコンウェーハの150μmの熱酸化物上で個々のセンサへとパターン成形した。GMRスピンバルブセンサ配列は、オスターフェルド等(Osterfeld,S.J.et al.)「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ(Proceedings of the National Academy of Sciences)」,105,20637−40 (2008年)に従って製造した。製造後に、GMRセンサ表面を最初にアセトン、メタノールおよびイソプロパノールで洗浄し、窒素雰囲気中で乾燥させた。チップを10分間にわたり酸素プラズマ(PDC−32G Basic Plasma Cleaner、Harrick Plasma、米国ニューヨーク州イサカ)に暴露することにより有機物質を除去した。その後、チップに2%のポリエチレンイミン(PEI、CAS 9002−98−6、Sigma−Aldrich)の脱イオン水溶液を加えた。3分間の培養の後、チップを脱イオン水ですすぎ、次いで、150°Cで15分間にわたって焼成した。次に、圧電非接触スポッタ(Scienion sciFlexarrayer、BioDot、米国カリフォルニア州アーバイン)を用いて、表面捕獲リガンドの3×360ピコリットル液滴を蒸着させた(総量1ナノリットル)。抗EGFR、抗CEA、抗EpCAM、抗Trop2、抗β2ミクログロブリン、抗スルビビン、抗PRDX6、抗セルピン、抗HE4、抗AGR2、抗CA125、抗TNF−α、抗インスリン、抗GCSF、抗ラクトフェリン、抗VTCN、抗SLPI、抗メソテリンおよび抗エオタキシンをそれぞれ、100μg/mLから1mg/mLの濃度で少なくとも3つのセンサの上に配置した。加えて、対照センサも、1%ウシ血清アルブミン(BSA)のリン酸緩衝食塩水(PBS)液で覆った。また、基準センサ群にも2液型エポキシを堆積させた。表面捕獲リガンドを、90%の相対湿度において室温で1時間にわたって培養した。その後反応ウェルを洗浄用緩衝液(0.1%BSAおよび0.5%Tween20のPBS)で洗浄し、次いで、50μLの1%BSAのPBS液で30分間にわたって遮断した。
【0167】
反応ウェルに分析物を加えた後は、洗浄ステップは不要であった。提示する実験の一部については、反応が錯綜するのを最小限に抑えるために最初に洗浄ステップを行ったが、洗浄を行わない検定も行った。
【0168】
磁気近接標識
磁気近接標識は、Miltenyi Biotech Inc.から市販のものを購入した。磁気近接標識は、10%の磁性材料を有するデキストランポリマー(wt/wt)に埋め込まれた約12個の10nm酸化鉄ナノ粒子を含むものであった。磁気近接標識の表面を、ストレプトアビジンを用いて機能化した。磁気近接標識全体は直径が約50nmであり、ゼータ電位は−11mVであり、並進拡散係数は8.56×10−12−1であった。磁気近接標識は、センサ表面に非特異的に沈降することのないように、コロイド状態で安定していた。
【0169】
抗体交差反応性検定プロトコル
10ng/mLの対象とする分析物の溶液を含む反応ウェルに20μLの試料を加えた。以下のタンパク質を検査した:EGFR、β2ミクログロブリン、スルビビン、PRDX6、EpCAM、CEA、セルピン、HE4、AGR2、CA125、Trop2、TNF−α、インスリン、GCSF、ラクトフェリン、VTCN、SLPI、メソテリン、エオタキシン、およびBSA。5分間の培養の後、試料を洗浄用緩衝液(0.1%BSAおよび0.05%Tween20のPBS液)で洗い流し、ストレプトアビジン(MACS 130−048−102、Miltenyi Biotec、米国カリフォルニア州オーバーン)を用いて機能化された20μのL磁気近接標識を反応ウェルに加えた。10μg/mLの濃度の対象とする標的分析物に対して相補的な10μLの各ビオチン化捕獲プローブを順次に導入した。各捕獲プローブの導入時に、反応ウェルにおいて迅速で十分な混合が行われるように、溶液を即座に10回ピペットで出し入れした。GMRセンサを抗体交差反応性についてリアルタイムでモニタした。
【実施例】
【0170】
実施例1
20の特異な標的タンパク質の集団に対する抗上皮成長因子受容体(EGFR)抗体の交差反応性を調べた。抗体表面捕獲リガンドにより各タンパク質を選択的に捕獲した後で、磁気近接標識を加えた。GMR信号をリアルタイムでモニタした。試料および磁気近接標識を加えたときにはGMR信号の有意な発生は生じなかった(図15)。次にビオチン化抗EGFR捕獲プローブを加えた。捕獲プローブを導入した後で、磁気近接標識は、近接センサの検出範囲内において、下にあるGMRセンサにより検出されるのに十分な高濃度でセンサ表面に結合された(図15)。配列中の各センサは個々にアドレス指定可能であり、これらをリアルタイムでモニタした。したがって、異なる時点において異なる捕獲プローブを順次に加えたときに、抗体集団において交差反応する特異的な抗体捕獲プローブを判定することができた。負の対照センサはウシ血清アルブミン(BSA)で被覆され、負の対照センサからの信号は平坦なままであり、ごくわずかな非特異的結合しか示さなかった。
【0171】
大多数のタンパク質は検出可能な交差反応を示さなかったが、検定では、抗EGFR抗体により結合されたEGFR以外に2つのタンパク質、上皮細胞接着分子(EpCAM)と、ヒト栄養膜細胞表面抗原(Trop2、GA733−1、M1S1、またはEGP−1ともいう)とを検出することができた(図16(a)および図16(b))。図16(a)に抗体交差反応性検定の図を示す。近接センサ1601、1602、1603および1604はそれぞれ、センサ表面に結合された異なる表面捕獲リガンド1605、1606、1607および1608有していた。例えば、近接センサ1601はその表面に抗EpCAM表面捕獲リガンド1605が結合されており、近接センサ1602はその表面に抗EGFR表面捕獲リガンド1606が結合されており、近接センサ1603はその表面に抗Trop2表面捕獲リガンド1607が結合されており、近接センサ1604はその表面に抗CEA表面捕獲リガンド1608が結合されていた。また図16(a)には、表面捕獲リガンドに結合された分析物も示されている。例えば、図16(a)には、抗EpCAM表面捕獲リガンド1605に結合されたEp−CAM1609、抗EGFR表面捕獲リガンド1606に結合されたEGFR1610、抗Trop2表面捕獲リガンド1607に結合されたTrop2 1611、および抗CEA表面捕獲リガンド1608に結合されたCEA1612が示されている。加えて、図16(a)には、Ep−CAM1609およびTrop2 1611上のEGF様のドメインと交差反応し、これに結合するEGFR1610も示されている。抗EGFR捕獲プローブ1613を導入すると、抗EGFR捕獲プローブ1613は、抗EGFR表面捕獲リガンド1606に結合されたEGFR1610に特異的に結合し、Ep−CAM1609およびTrop2 1611上のEGF様のドメインに結合されたEGFR1610にも特異的に結合する。捕獲プローブ1613への近接標識1614の結合により、近接標識1614が近接センサの検出範囲内に位置決めされ、抗EGFR表面捕獲リガンド1606へのEGFR1610の結合の検出が可能になり、Ep−CAM1609およびTrop2 1611上のEGF様のドメインに対するEGFR1610の交差反応性の検出も可能になる。
【0172】
図16(c)に示すように、抗EGFR抗体捕獲プローブを最初に検定組成物に加えた。EGFRタンパク質に結合された抗EGFR抗体捕獲プローブは、百万分の1(ppm)単位で提示される初期磁気抵抗に正規化された磁気抵抗の変化により示された。加えて前述のように、抗EGFR抗体捕獲プローブはEpCAMタンパク質にも結合した。しかし、抗CEA捕獲プローブを加えたときにはそのような交差反応は観測されず、抗CEA表面捕獲リガンドを有するセンサだけが結合曲線を示した。非相補的抗体(HIVなど)およびBSA対照センサ上には検出可能な信号が生じず、磁気近接標識の沈降または非特異的結合がないことを示した。同様に、図16(d)に示すように、抗Trop2捕獲プローブを加えたときに、抗Trop2捕獲プローブは、Trop2タンパク質に結合されたセンサに結合しただけでなく、EGFRタンパク質に結合されたセンサにも結合した。しかし、抗CEA抗体はやはり交差反応を示さなかった。
【0173】
図20(a)に、抗Trop2、抗EpCAMおよび抗CEAの各捕獲プローブの間での交差反応性を示さない対照実験のグラフを示す。抗Trop2捕獲プローブ、抗EpCAM捕獲プローブおよび抗CEA捕獲プローブの導入は、検査されたタンパク質の間で交差反応も非特異的結合も示さなかった。同様に、別の組の実験においても、抗EGFR抗体、抗B2M抗体および抗CEA抗体の導入は、検査されたタンパク質の間で交差反応も非特異的結合も示さなかった。図20(b)に、抗EGFR、抗B2M、および抗CEAの各捕獲プローブの間で交差反応性を示さない対照実験のグラフを示す。加えて、抗EGFR抗体および抗CEA抗体は、捕獲プローブを加えたときのより迅速な信号の発生によって示されるように、抗B2M抗体より高い結合親和性を有していた。
【0174】
Trop2およびEpCAMがない対照実験(図17)、ならびにEGFRタンパク質がない対照実験(図18)は、それぞれ、交差反応性を示さず、交差反応が捕獲プローブ−分析物相互作用によるものであり、捕獲プローブが表面捕獲リガンドに結合することによるものではないことが示した(図17および図18参照)。図17に、EpCAMタンパク質およびTrop2タンパク質を検定組成物から除外した対照実験の図およびグラフを示す。前述の他のすべてのタンパク質は含めた。抗EGFR捕獲プローブ1701を加えると、EGFRセンサ1702だけが検出可能な信号を発生し、抗EGFR捕獲プローブ1701は使用したその他の表面捕獲リガンド1703、1704のいずれにも結合しないことが示された。抗EGFR捕獲プローブ1701は、Trop2タンパク質およびEpCAMタンパク質自体とのみ交差反応した。図18に、EGFRタンパク質を検定組成物から除外した対照実験の図およびグラフを示す。図17に示す対照実験と同様に、他のすべてのタンパク質を含めた。抗Trop2捕獲プローブ1801を加えると、Trop2センサ1802のみが検出可能な信号を発生し、抗Trop2捕獲プローブ1801は使用したその他の表面捕獲リガンドのいずれにも結合しないことが示された。よって、EGF様のドメインに結合することのできるEGFRは、捕獲されたTrop2およびEpCAMタンパク質のEGF様のドメイン、ならびに捕獲されたEGFRタンパク質に結合した。
【0175】
図19に、前述のように、抗EGFR抗体捕獲プローブの代わりに抗Trop2抗体捕獲プローブ1901を導入した場合の抗体交差反応性検定の図およびグラフを示す。20の異なる表面捕獲リガンドがそれぞれ異なる近接センサに結合された。20のタンパク質すべてを10ng/mLの濃度で培養した。洗浄後に、磁気近接標識1902を加え、続いて抗Trop2捕獲プローブ1901を加えた。検定は5分間にわたって行い、EGFRセンサ1903およびTrop2センサ1904上で信号が生じた。よって、抗EGFR表面捕獲リガンド1905を用いて機能化されたEGFRセンサ1903上の抗Trop2捕獲プローブ1901の間の交差反応性結合を観測した。よって、抗体交差反応性検定では、両方向での交差反応性を検出することができた(例えば、Ep−CAMおよびTrop2上のEGF様のドメインに対するEGFRの交差反応性と、抗EGFR表面捕獲リガンドを用いて機能化されたEGFRセンサに結合されたEGFRに対するTrop2の交差反応性など)(図16(a)、図16(b)および図19参照)。
【0176】
前述の発明は、理解を明確にするために例を引いてある程度詳細に説明しているが、本発明の教示を踏まえれば、添付の特許請求の範囲の趣旨または範囲を逸脱することなく、本発明に特定の変更および改変が加えられ得ることが当業者には容易に明らかになるであろう。
【0177】
したがって、以上の説明は単に本発明の原理を示すものにすぎない。当業者は、本明細書には明示的に説明され、または図示されていないが、本発明の原理を具現化し、その趣旨および範囲に含まれる様々な構成を考案することができることが理解されるであろう。さらに、本明細書に記載されるすべての例および条件付きの表現は、主として、読者が本発明の原理、および発明者らによる技術の発展に寄与する概念を理解するのを助けるためのものであり、そのような具体的に記載される例および条件だけに限定されないものと解釈すべきである。さらに、本発明の原理、態様、および実施形態を記載する本明細書におけるすべての記述、ならびにその具体例は、それらの構造的均等物と機能的均等物との両方を包含すべきものである。加えて、そのような均等物には、現在知られている均等物と、将来において開発される均等物の両方を、すなわち、構造にかかわらず同じ機能を果たす、開発される任意の要素を含むことも意図されている。したがって本発明の範囲は、本明細書において図示し、説明した例示的実施形態だけに限定すべきものではない。むしろ、本発明の範囲および趣旨は添付の特許請求の範囲により具現化されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の分析物の存在を検出する方法であって、
試料および近接標識を含む検定組成物と接触するセンサを設けること、
前記検定組成物中に、前記近接標識と前記分析物とに結合して標識化分析物を生成するように構成された捕獲プローブを導入すること、ならびに
前記センサから、前記試料中の前記標識化分析物の存在を検出するための信号を獲得すること
を含む方法。
【請求項2】
前記センサを前記試料および前記近接標識と順次に接触させることにより前記検定組成物を生成することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記センサは、前記分析物に特異的に結合する表面捕獲リガンドを備える請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記センサは前記分析物に直接結合するように機能化された表面を備える請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記試料と前記近接標識とを組み合わせて前記検定組成物を生成し、次いで前記センサを前記検定組成物と接触させることを含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記センサは、前記分析物に特異的に結合する表面捕獲リガンドを備える請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記センサは近接センサである請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記近接センサは磁気センサであり、前記近接標識は磁気標識である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記近接センサは表面プラズモン共鳴センサであり、前記近接標識は、光学標識と荷電標識からなる群の中から選択される請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記試料中の2つ以上の分析物の存在を検出することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
分析物または抗体の交差反応性を検出することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記近接センサは手持ち式装置の構成部分である請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記試料中の前記分析物の存在は定性的に検出される請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記試料中の前記分析物の存在は定量的に検出される請求項1に記載の方法。
【請求項15】
試料中の分析物の存在を検出するための装置であって、
試料受け部材と、
前記試料が前記試料受け部材に配置されると前記試料がセンサに接触するように前記試料受け部材と関連付けられた前記センサと
を備え、前記試料受け部材および前記センサは手持ち式ハウジング内にある装置。
【請求項16】
前記センサは近接センサである請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記近接センサは磁気センサを備える請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記近接センサは磁気センサの配列を備える請求項16に記載の装置。
【請求項19】
前記装置を活性化および信号処理部に電気的に結合するように構成されたインターフェースをさらに備える請求項15に記載の装置。
【請求項20】
試料中の分析物の存在を検出するためのシステムであって、
(a)手持ち式分析物検出装置であり、
(i)試料受け部材と、
(ii)前記試料が前記試料受け部材に配置されると前記試料が近接センサに接触するように前記試料受け部材と関連付けられた前記近接センサと
を備える前記装置と、
(b)前記手持ち式分析物検出装置に動作可能に結合するように構成された活性化および信号処理部と
を備えるシステム。
【請求項21】
前記近接センサは磁気センサを備える請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記近接センサは磁気センサの配列を備える請求項20に記載のシステム。
【請求項23】
前記活性化および信号処理部は活性化信号発生器と磁場発生器とを備える請求項21に記載のシステム。
【請求項24】
前記手持ち式分析物検出装置は磁場発生器を含まない請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記活性化および信号処理部は、前記近接センサから信号を受信したことに応答して分析物検出結果を出力するように構成されたプロセッサを備える請求項23に記載のシステム。
【請求項26】
前記分析物検出結果は定性的結果である請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記分析物検出結果は定量的結果である請求項25に記載のシステム。
【請求項28】
試料中の分析物の存在を検出する方法であって、
(a)手持ち式分析物検出装置であり、
(i)試料受け部材と、
(ii)前記試料が前記試料受け部材に配置されると前記試料が近接センサに接触するように前記試料受け部材と関連付けられた前記近接センサと
を備える前記装置を設けること、
(b)前記試料および近接標識を含む、前記近接センサと接触する検定組成物を生成すること、
(c)前記検定組成物中に、前記近接標識と前記分析物とに結合するように構成された捕獲プローブを導入すること、
(d)前記分析物検出装置を活性化および信号処理部に動作可能に結合すること、ならびに
(e)前記活性化および信号処理部から分析物検出結果を受け取ること
を含む方法。
【請求項29】
前記試料および前記近接標識を前記試料受け部材へと順次に導入することにより前記検定組成物を生成することを含む請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記近接センサは磁気センサであり、前記近接標識は磁気標識である請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記試料中の2つ以上の分析物の存在を検出することを含む請求項30に記載の方法。
【請求項32】
試料中の分析物を検出するためのキットであって、
(a)手持ち式分析物検出装置であり、
(i)試料受け部材と、
(ii)前記試料が前記試料受け部材に配置されると前記試料が近接センサに接触するように前記試料受け部材と関連付けられた前記近接センサと
を備える前記装置と、
(b)近接標識と、
(c)前記近接標識と前記分析物とに結合するように構成された捕獲プローブと
を備えるキット。
【請求項33】
前記手持ち式分析物検出装置に動作可能に結合するように構成された活性化および信号処理部をさらに備える請求項32に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16(a)】
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【図16(b)】
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【図16(c)】
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【図16(d)】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20(a)】
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【図20(b)】
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【公表番号】特表2012−523576(P2012−523576A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506135(P2012−506135)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【国際出願番号】PCT/US2010/030919
【国際公開番号】WO2011/022093
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(500429147)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リーランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (13)
【Fターム(参考)】