説明

誘電体材料の製造方法

【課題】誘電体層が薄い場合においても、電気特性に優れ、ショート率の低い積層セラミックコンデンサを製造することができる誘電体材料を提供する。
【解決手段】チタン酸バリウムからなる1次原料粉末を粉砕処理して、2次原料粉末を得る工程を備えており、前記1次原料粉末の比表面積が、6.1〜11.0m/gであり、前記2次原料粉末の粒度分布のD99値が、0.35μm以下であり、前記1次原料粉末に対する前記2次原料粉末の比表面積の増加量が、5.0m/g以下であるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、誘電体層が薄い場合においても電気特性に優れ、ショート率の低い積層セラミックコンデンサを得ることができる誘電体材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの誘電体層を構成するセラミックとしては、例えばチタン酸バリウム系の誘電体セラミックが用いられている。当該チタン酸バリウムは、比表面積が小さいほど比誘電率が大きいことが知られており、誘電体層の厚みが2〜3μmの場合においては、比表面積が6m/g以下のチタン酸バリウムが用いられてきた。
【0003】
しかしながら、誘電体層の厚みがより薄い場合は、比表面積が6m/g以下の比較的粒径の大きなチタン酸バリウムを用いると、誘電体層の厚み方向に対するチタン酸バリウムの粒子の個数が少なくなるため、粒界により絶縁性を発現することが難しく、ショートの発生を抑制して充分な信頼性を確保することが困難であった。
【0004】
このため、特許文献1及び特許文献2には、XRD回折のピーク強度の解析結果を用いて、積層セラミックコンデンサの特性を制御することが開示されている。
【特許文献1】特許3934352
【特許文献2】特開2005−41730
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的にチタン酸バリウムは比表面積が大きくなる(粒径が小さくなる)と結晶性(テトラゴナリティー)が低下する傾向にあるため、XRD回折のピークが不明瞭になり、XRD回折のピーク強度を用いて精度の高い解析を行うことは困難になる。このため、特許文献1や特許文献2に記載の方法によって、積層セラミックコンデンサの特性を精度良く制御することは困難であると考えられる。
【0006】
そこで本発明は、上記現状に鑑み、誘電体層が薄い場合においても、電気特性に優れ、ショート率の低い積層セラミックコンデンサを得ることができる誘電体材料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る誘電体材料の製造方法は、チタン酸バリウムからなる1次原料粉末を粉砕処理して、2次原料粉末を得る工程を備えており、前記1次原料粉末の比表面積が、6.1〜11.0m/gであり、前記2次原料粉末の粒度分布のD99値が、0.35μm以下であり、前記1次原料粉末に対する前記2次原料粉末の比表面積の増加量が、5.0m/g以下であることを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、チタン酸バリウムを主たる成分とする誘電体材料の原料粉末が、所定の範囲の比表面積や粒度分布を有するので、誘電体層が薄い場合であっても、積層セラミックコンデンサのショート率を低下するとともに、充分な静電容量を確保することができる。
【0009】
前記2次原料粉末は、特性調整のための金属化合物を含有していてもよい。
【0010】
本発明に係る製造方法により得られた誘電体材料の焼結体からなる誘電体層を備えている積層セラミックコンデンサもまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、誘電体層が薄い場合であっても、電気特性に優れ、ショート率の低い積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1について図面を参照して説明する。
【0013】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、図1に示すように、誘電体層3と内部電極4とが交互に積層されてなるコンデンサチップ体2と、このコンデンサチップ体2の表面に設けられ内部電極4と導通する外部電極5と、を備えている。内部電極4は、その端部がコンデンサチップ体2の対向する2つの表面に交互に露出するように積層されて、コンデンサチップ体2の当該表面上に形成されて所定のコンデンサ回路を構成する外部電極5と、電気的に接続している。
【0014】
誘電体層3は、チタン酸バリウム(BaTiO)を主たる成分とする誘電体材料の焼結体からなるものであり、当該誘電体材料は、チタン酸バリウムからなる1次原料粉末を粉砕処理して、2次原料粉末を得る工程を経て製造される。誘電体層3一層あたりの厚みは、2μm未満であることが好ましく、より好ましくは1.5μm以下である。
【0015】
チタン酸バリウムからなる1次原料粉末は、固相反応、水熱合成法、蓚酸法、ゾルゲル法等の公知の方法から適宜選択して製造することができる。
【0016】
前記1次原料粉末の比表面積は、6.1〜11.0m/gであり、好ましくは6.3〜10.5m/gであり、より好ましくは7〜9.5m/gである。比表面積が6.1m/g未満であると、粒径が大きすぎるので、誘電体層3が薄いと、誘電体層3の厚み方向に対する粒子の個数が少なくなり、ショートの発生率が上昇して、充分な信頼性を確保することが困難になる。一方、比表面積が11.0m/gを超えると、比誘電率が低下するので、積層セラミックコンデンサの静電容量が低下する。なお、本実施形態における比表面積は、例えばBET法により測定されたものである。
【0017】
前記1次原料粉末の粉砕処理は、回転するディスク、ロータ又はピン等の攪拌体が内蔵されたミル内に1次原料粉末を入れて、玉石とともに攪拌することによって実施される。ミル内において、攪拌体は、玉石を強制的に振動させ、それによって、1次原料粉末に対して、分散及び粉砕作用を及ぼす。
【0018】
当該粉砕処理において、前記攪拌体は、例えば7〜15m/sの周速で回転することが好ましい。なお、周速とは、攪拌体の最外周の速度をいう。周速が7m/s未満であると、凝集しているチタン酸バリウム粒子の解砕が不充分であるので、得られるグリーンシートの表面粗さが大きくなり、積層セラミックコンデンサのショート発生率が高くなることがある。一方、周速が15m/sを超えると、チタン酸バリウムの結晶性が低下して微粉末化し、比誘電率が低下することより、積層セラミックコンデンサの静電容量が低下することがある。
【0019】
また、前記玉石としては、粒径0.2mm以下のものが好ましい。粒径が0.2mmを超えると、チタン酸バリウムの結晶性が低下して微粉末化し、比誘電率が低下することより、積層セラミックコンデンサの静電容量が低下することがある。
【0020】
当該粉砕処理の際に、前記1次原料粉末にトルエン、エタノール、アセトン等の有機溶剤を加えて、前記粉砕処理を湿式で行うことにより2次原料粉末をスラリーとして得ることができる。
【0021】
また、当該粉砕処理の際に、必要に応じて前記1次原料粉末に特性調整のための金属化合物を加えてもよい。前記金属化合物としては、例えば、希土類元素、Mg、Mn、Si等の元素の酸化物が挙げられる。前記希土類元素としては、例えば、Yや、Dy、Ho、Yb、Sm等のランタノイドが挙げられる。
【0022】
当該粉砕処理により、凝集しているチタン酸バリウム粒子を解砕して、チタン酸バリウムと前記金属化合物とを均一に分散、混合することができる。
【0023】
前記粉砕処理により得られた2次原料粉末は、粒度分布のD99値が0.35μm以下であり、好ましくは0.2〜0.3μmである。D99値が0.35μmを超えると、前記粉砕処理による前記1次原料粉末の解砕が不充分で、2次原料粉末中でもチタン酸バリウム粒子が凝集しているので、得られるグリーンシートの表面粗さが大きくなり、焼成後は誘電体層の厚みのバラツキに起因して電界強度が不均一になるため、積層セラミックコンデンサのショート発生率が高くなり信頼性が低いものとなる。
【0024】
前記1次原料粉末の比表面積に対する前記2次原料粉末の比表面積の増加量、即ち前記粉砕処理による原料粉末の比表面積の増加量は、5.0m/g以下であり、好ましくは4.0m/g以下であり、より好ましくは1.0〜3.0m/gである。比表面積の増加量が5.0m/gを超えると、主成分であるチタン酸バリウムの結晶性が低下して微粉末化し、比誘電率が低下することより、積層セラミックコンデンサの静電容量が低下する。
【0025】
このようにして製造された2次原料粉末のスラリーに、ポリビニルブチラール、エチルセルロース等の有機バインダを適宜添加し混合することにより得られた誘電体材料を、ポリエチレンテレフタレート等からなるフィルム上に塗布することによりグリーンシートが成形される。
【0026】
内部電極4としては特に限定されず、例えば、Cu、Ni、W、Mo、Ag等の金属又はこれらの合金等が挙げられる。
【0027】
外部電極5としては特に限定されず、例えば、Cu、Ni、W、Mo、Ag等の金属又はこれらの合金;In−Ga、Ag−10Pd等の合金;カーボン、グラファイト、カーボンとグラファイトとの混合物等からなるものが挙げられる。
【0028】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法としては特に限定されないが、例えば、以下のようにして製造される。まず、前記グリーンシート上に、上記の各種金属等を含有する内部電極4用導電ペーストを所定形状にスクリーン印刷して、内部電極4用導電性ペースト膜を形成する。
【0029】
次いで、上述のように内部電極4用導電性ペースト膜が形成された複数のグリーンシートを積層するとともに、これらグリーンシートを挟むように、導電性ペースト膜が形成されていないグリーンシートを積層して、圧着した後、必要に応じてカットすることによって、積層体(グリーンチップ)を得る。

【0030】
そして、得られたグリーンチップに脱バインダ処理を施した後、当該グリーンチップを例えば還元性雰囲気中において焼成して、コンデンサチップ体2を得る。
【0031】
得られたコンデンサチップ体2には、誘電体層3を再酸化するためアニール処理を施すことが好ましい。
【0032】
次に、コンデンサチップ体2の端面から露出した内部電極4の各端縁それぞれに外部電極5が電気的に接続するように、コンデンサチップ体2の端面上に、上記の各種金属等からなる外部電極5用導電性ペーストを塗布し、焼き付けることによって外部電極5を形成する。そして、必要に応じ、外部電極5表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0034】
(1次原料粉末の製造)
1次原料粉末として、表1に示すように異なる比表面積のチタン酸バリウムを、固相法を用いて次のとおり調製した。即ち、炭酸バリウム(BaCO)と酸化チタン(TiO)とを秤量して、ボールミルに入れ、水を加え湿式で約20時間混合した。そして、得られたスラリーを脱水し、900℃以上の温度で焼成し、チタン酸バリウム(BaTiO)を合成した。
【0035】
(2次原料粉末の製造)
得られたチタン酸バリウム100重量部に対して、特性調整用の金属化合物として、MgOをMg換算で1.0重量部、MnをMn換算で0.2重量部、SiOをSi換算で1.5重量部、YをY換算で1.0重量部となるように各化合物の粉末を各々秤量して添加し、更にトルエン−エタノール混合溶剤及び分散剤を添加し、混合してスラリーを得た。
【0036】
前記スラリーをφ0.05mmのPSZ(部分安定化ジルコニア、PARTIALLY STABILIZED ZIRCONIA)からなる玉石を用い、ビーズミルにより粉砕処理を行ない、2次原料粉末のスラリーを得た。
【0037】
(誘電体材料の製造)
粉砕処理によって得られた2次原料粉末のスラリーに、ポリビニルブチラール系有機バインダ及び可塑剤を加えφ0.1mmのPSZからなる玉石を用い、ビーズミルにより粉砕処理を行なった。
【0038】
これにより得られたスラリーを用い、PETフィルム上に焼成後の誘電体層厚みが1.4μmとなるようにグリーンシートを形成した。
【0039】
(積層セラミックコンデンサの製造)
各グリーンシート上に、Ni粉末からなる内部電極用の導電ペーストを所定形状にスクリーン印刷した後、導電ペースト膜が形成されたグリーンシートを積層し、熱圧着して一体化し、積層体(グリーンチップ)を作製した。
【0040】
該積層体を空気中にて加熱することにより有機バインダを除去した後、1150℃の還元雰囲気で2時間焼成した後、N雰囲気中1000℃で2時間再酸化処理し誘電体磁器組成物を得た。
【0041】
次に、得られたコンデンサチップ体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてInーGa電極を前記端面に塗布することによって形成し、積層セラミックコンデンサを得た。
【0042】
得られた積層セラミックコンデンサの誘電体層一層あたりの厚みは1.4μmで、有効誘電体層は5層であった。
【0043】
1次原料粉末、2次原料粉末、及び、得られた積層セラミックコンデンサについて、以下のようにして各種特性を評価し、結果を表1に記載した。
【0044】
(1次原料粉末の評価)
BET法により比表面積(以下SSAともいう。)を測定した。
【0045】
(2次原料粉末の評価)
2次原料粉末のスラリーをエタノールで希釈した後、堀場製作所製のLA920を用いて粒度分布測定を行い、D99値を記録した。また、得られた2次原料粉末のスラリーを乾燥し、熱処理を加えて粉末にした後、BET法により比表面積を測定した。
【0046】
(積層セラミックコンデンサの評価)
得られた積層セラミックコンデンサについて電気特性を測定した。容量変化率は、恒温槽の中に試料を入れ、−55〜85℃の各温度において周波数1kHz、測定電圧0.5Vの条件で静電容量を測定し、25℃の静電容量に対する静電容量の変化を求めることによって算出した。評価基準としては、X5R規格については規格を満足した場合を良好と評価し、比誘電率(25℃)については2000以上を良好と評価した。
【0047】
更に、各積層セラミックコンデンサの抵抗値を絶縁抵抗計で測定して、抵抗値が100kΩ以下になるサンプルを不良品と判定することにより、100個のサンプルからショート率(ショート発生率)を求めた。ショート率については50%以下を良好と評価した。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示す結果より、比較例1は、1次原料粉末の比表面積が小さく2次原料粉末のD99値が大きいことより、比較的粒径の大きなチタン酸バリウム粒子が凝集していたと思われ、得られた積層セラミックコンデンサはショート率が高く信頼性が低いものであった。
【0050】
比較例2は、1次原料粉末の比表面積が大きいことより、得られた積層セラミックコンデンサは比誘電率が低く容量変化率も大きく所望の特性を満たさなかった。また、ショート率も高く信頼性が低いものであった。
【0051】
比較例3は、粉砕処理による原料粉末の比表面積増加量が大きいことより、2次原料粉末はチタン酸バリウムの結晶性が低下して微粉末化したものであったと思われ、得られた積層セラミックコンデンサは比誘電率が低く、またショート率が高く信頼性が低いものであった。
【0052】
比較例4は、2次原料粉末のD99値が大きいことより、2次原料粉末中のチタン酸バリウム粒子は凝集していたものと思われ、得られた積層セラミックコンデンサはショート率が高く信頼性が低いものであった。
【0053】
一方、本発明に包含される各実施例のいずれにおいても、得られた積層セラミックコンデンサは比誘電率が高く、かつ、容量変化率も小さく所望の特性を満たすものであり、また、ショート率が低く信頼性が高いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの模式断面図。
【符号の説明】
【0055】
1・・・積層セラミックコンデンサ
2・・・コンデンサチップ体
3・・・積層体層
4・・・内部電極
5・・・外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムからなる1次原料粉末を粉砕処理して、2次原料粉末を得る工程を備えており、
前記1次原料粉末の比表面積が、6.1〜11.0m/gであり、
前記2次原料粉末の粒度分布のD99値が、0.35μm以下であり、
前記1次原料粉末に対する前記2次原料粉末の比表面積の増加量が、5.0m/g以下である誘電体材料の製造方法。
【請求項2】
前記2次原料粉末は、特性調整のための金属化合物を含有している請求項1記載の誘電体材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法により得られた誘電体材料の焼結体からなる誘電体層を備えている積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−143734(P2009−143734A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319619(P2007−319619)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(591003770)三星電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】