説明

誘電体磁器組成物および電子部品

【課題】還元性雰囲気中での焼成が可能であり、電圧印加時における電歪量が低減されており、容量温度特性がEIA規格のX6S特性(−55〜105℃、ΔC/C=±22%以内)を満足でき、しかも高い比誘電率を実現しつつ、高温加速寿命が改善された誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】BaTiO、SrTiOおよびCaTiOを含む主成分を有する誘電体磁器組成物であって、前記主成分を構成する前記BaTiO、SrTiOおよびCaTiOが、それぞれ互いに、実質的に固溶しておらず、BaTiO結晶粒子、SrTiO結晶粒子およびCaTiO結晶粒子の形態で含有され、コンポジット構造を形成しており、前記SrTiO結晶粒子のうち少なくとも一部の結晶粒子は、SrTiOを主成分として含有し、球形状を有する中心層と、前記中心層の周囲に存在し、SrTiO以外の成分が拡散している拡散層と、を有する表面拡散構造を有している誘電体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐還元性を有する誘電体磁器組成物と、この誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサなどの電子部品とに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、小型、大容量、高信頼性の電子部品として広く利用されており、電気機器および電子機器の中で使用される個数も多数にのぼる。近年、機器の小型かつ高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサに対する更なる小型化、大容量化、低価格化、高信頼性化への要求はますます厳しくなっている。
【0003】
現在、小型、高容量のセラミックコンデンサには、一般に、強誘電体セラミック材料が使われている。このような強誘電体セラミック材料は、電界を印加した際に、機械的歪みが発生するという電歪現象を伴うため、強誘電体セラミック材料を用いたセラミックコンデンサに電圧を印加すると、電歪現象による振動が発生する。
【0004】
特に、このような電歪現象は、セラミックコンデンサを回路基板上に実装した場合に、たとえば、電圧の変動により、コンデンサ自身だけでなく、基板や、さらには周りの部品を振動させる原因となり、ときに可聴振動数(20〜20000Hz)の振動音を発することがある。この振動音は人に不快な音域の場合もあり、対策が必要とされていた。
【0005】
これに対し、たとえば、特許文献1では、電歪現象によるセラミックコンデンサの振動の基板への伝達を抑止するために、外部端子電極と基板とを接続するための電極接続部をセラミックコンデンサに設け、コンデンサ素子本体の下面と基板との間に一定の離隔距離を設けることが提案されている。
【0006】
しかしながら、この文献のように、電極接続部により、一定の離隔距離を設ける方法を採用すると、セラミックコンデンサの製造コストが高くなってしまうという点や、コンデンサの高さ方向が大きくなってしまい、小型化が困難となってしまうという点より、さらなる改良が望まれていた。
【0007】
また、特許文献2には、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムおよびチタン酸バリウムを含有し、これら3つの組成モル比について少なくともチタン酸バリウムの組成モル比が0.3以下であり、正方晶または斜方晶の少なくとも何れか一方の結晶構造を含むことを特徴とする誘電体磁器組成物が開示されている。この文献記載の誘電体磁器組成物は、特に、第3次高調波歪み(THD)を低減することを目的としている。しかしながら、この文献の誘電体磁器組成物では、上述した電歪現象の改善については十分ではなく、しかも、主成分であるチタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムおよびチタン酸バリウムを互いに固溶させた構成を採用しているため、容量温度特性が十分ではなく、たとえば、EIA規格のX6S特性(−55〜105℃、ΔC/C=±22%以内)を満足することができなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2004−335963号公報
【特許文献2】特開2000−264729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、還元性雰囲気中での焼成が可能であり、電圧印加時における電歪量が低減されており、容量温度特性がEIA規格のX6S特性(−55〜105℃、ΔC/C=±22%以内)を満足でき、しかも高い比誘電率を実現しつつ、高温加速寿命が改善された誘電体磁器組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、主成分として、BaTiO、SrTiOおよびCaTiOを含有する誘電体磁器組成物において、これらが互いに、実質的に固溶せず、BaTiO結晶粒子、SrTiO結晶粒子およびCaTiO結晶粒子の形態で含有させ、コンポジット構造を形成させるとともに、前記SrTiO結晶粒子のうち少なくとも一部の粒子を、特定の表面拡散構造を有する粒子で構成することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の誘電体磁器組成物は、
BaTiO、SrTiOおよびCaTiOを含む主成分を有し、
前記主成分を構成する前記BaTiO、SrTiOおよびCaTiOが、それぞれ互いに、実質的に固溶しておらず、BaTiO結晶粒子、SrTiO結晶粒子およびCaTiO結晶粒子の形態で含有され、コンポジット構造を形成しており、
前記SrTiO結晶粒子のうち少なくとも一部の粒子は、SrTiOを主成分として含有し、球形状を有する中心層と、前記中心層の周囲に存在し、SrTiO以外の成分が拡散している拡散層と、を有する表面拡散構造を有している。
【0012】
好ましくは、前記表面拡散構造を有するSrTiO結晶粒子の中心層の短径をL1、長径をL2とした場合に、前記L1とL2とが、L2/L1=1〜2の関係にある。
【0013】
好ましくは、前記表面拡散構造を有するSrTiO結晶粒子の存在割合が、前記誘電体磁器組成物を構成する全結晶粒子に対して、10〜60%である。
【0014】
好ましくは、前記表面拡散構造を有するSrTiO結晶粒子の中心層は、その表面の70%以上が前記拡散層で覆われた構成となっている。
【0015】
好ましくは、主成分として含有される前記BaTiO、SrTiOおよびCaTiOの組成モル比を、組成式{(BaSrCa)O}TiOで示した場合に、前記式中の記号x、y、zおよびmが、
0.19≦x≦0.23、
0.25≦y≦0.31、
0.46≦z≦0.54、
x+y+z=1、
0.980≦m≦1.01、
である。
【0016】
好ましくは、前記誘電体磁器組成物が、副成分として、V、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素の酸化物から選択される1種以上をさらに含み、
前記V、Ta、Nb、W、MoおよびCrの酸化物の含有量が、前記主成分100モルに対して、V、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素換算で、0.02モル以上、0.40モル未満である。
【0017】
好ましくは、前記誘電体磁器組成物が、副成分として、Mnの酸化物をさらに含み、前記Mnの酸化物の含有量が、前記主成分100モルに対して、MnO換算で、0.3〜1モルである。
【0018】
好ましくは、前記誘電体磁器組成物が、副成分として、Siの酸化物をさらに含み、前記Siの酸化物の含有量が、前記主成分100モルに対して、SiO換算で、0.1〜0.5モルである。
【0019】
本発明に係る電子部品は、上記いずれかの誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する。電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の誘電体磁器組成物は、主成分としてBaTiO、SrTiOおよびCaTiOを含み、かつ、これらが、それぞれ互いに実質的に固溶せず、BaTiO結晶粒子、SrTiO結晶粒子およびCaTiO結晶粒子の形態で含有され、コンポジット構造を形成している。そのため、容量温度特性(特に、EIA規格のX6S特性)および電圧印加時における電歪量を低減することができる。
【0021】
しかも、本発明では、SrTiO結晶粒子のうち少なくとも一部の粒子を、特定の表面拡散構造を有する粒子で構成している。そのため、上記各特性を良好に保ちながら、高い比誘電率を実現しつつ、高温加速寿命の改善が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図、
図2(A)は本発明の一実施形態に係る表面拡散粒子の断面図、図2(B)は表面拡散粒子に形成されている拡散層の測定方法を説明するための図、
図3(A)、図3(B)は本発明の実施例に係る誘電体層の断面写真、
図4(A)、図4(B)は比較例に係る誘電体層の断面写真である。
【0023】
積層セラミックコンデンサ1
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0024】
内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0025】
誘電体層2
誘電体層2は、本発明の誘電体磁器組成物を含有する。
誘電体層2に含有される誘電体磁器組成物は、BaTiO、SrTiOおよびCaTiOを含む主成分を有する。
【0026】
本実施形態において、主成分を構成する上記BaTiO、SrTiOおよびCaTiOは、それぞれ互いに、実質的に固溶していない状態で含有されている。すなわち、本実施形態では、これらBaTiO、SrTiOおよびCaTiOは、それぞれ別々の結晶粒子としてのBaTiO結晶粒子、SrTiO結晶粒子およびCaTiO結晶粒子として含有され、コンポジット構造を形成している。
【0027】
ただし、BaTiO、SrTiOおよびCaTiOは、実質的にBaTiO結晶粒子、SrTiO結晶粒子およびCaTiO結晶粒子として含有されていれば良く、たとえば、BaTiOの結晶粒子とSrTiOの結晶粒子との界面付近においては、一部固溶相が形成されていても構わない。
【0028】
BaTiO、SrTiOおよびCaTiOを、それぞれ互いに、実質的に固溶していない状態とし、コンポジット構造を形成させることにより、誘電率を維持しながら、容量温度特性の向上を図ることができ、特に、EIA規格のX6S特性(−55〜105℃、ΔC/C=±22%以内)を満足させることができる。なお、この理由としては、たとえば、非固溶とし、コンポジット構造とすることにより、BaTiOに由来するキュリー温度のピークが残存すること等によると考えられる。
【0029】
主成分を構成するBaTiO、SrTiOおよびCaTiOが互いに固溶しているか否かについては、たとえば、誘電体層2のX線回折により確認することができる。具体的には、誘電体層2に対して、X線源にCu−Kα線を用いたX線回折を行い、2θ=30〜35°の範囲に、それぞれBaTiO、SrTiOおよびCaTiOに起因する分離可能な3つの回折ピークが観測されるか否かにより確認することができる。なお、2θ=30〜35°の範囲に観測される回折ピークは、それぞれBaTiOの(110)面の回折ピーク、SrTiOの(110)面の回折ピーク、およびCaTiOの(121)面の回折ピークである。
【0030】
誘電体層2を構成するBaTiO結晶粒子、SrTiO結晶粒子およびCaTiO結晶粒子の平均結晶粒子径は、好ましくは0.2〜2μmである。平均結晶粒子径が小さすぎると、比誘電率および容量温度特性が劣化する傾向にある。一方、大きすぎると、高温負荷寿命が劣化する傾向にある。
【0031】
本実施形態においては、誘電体層2に含有されるSrTiO結晶粒子のうち、少なくとも一部の粒子は、図2(A)に示すような、表面拡散構造を有する表面拡散粒子20となっている。図2(A)に示すように、表面拡散粒子20は、SrTiOを主成分として含有し、球形状を有する中心層20aと、中心層20aの周囲に存在し、SrTiO以外の成分が拡散している拡散層20bと、から構成される。
【0032】
中心層20aは、SrTiOを主成分として含有していれば良いが、たとえば、中心層20aにおけるSrTiOの含有量は、好ましくは90モル%以上である。中心層20aにおけるSrTiOの含有割合は、たとえば、透過型電子顕微鏡(TEM)によるエネルギー分散型X線分光法などにより測定することができる。
【0033】
一方、拡散層20bは、SrTiO以外の成分が拡散する構成を有している。このようなSrTiO以外の成分としては、たとえば、主成分として含有されるBaTiO、CaTiOや後述する各種副成分(V、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素の酸化物、Mnの酸化物、Siの酸化物)などが挙げられる。
【0034】
拡散層20b中における、SrTiOの含有量は、次の範囲であることが好ましい。
すなわち、Ti原子に対するSr原子の比率(モル比)であるSr/Tiが、Sr/Ti=0.15〜0.4の範囲であることが好ましい。このSr/Tiの値は、拡散層20b中に含有されるBaTiO、SrTiOおよびCaTiOの合計量に対する、SrTiOの含有割合を意味することとなる。拡散層20bにおけるSr/Tiの値は、たとえば、透過型電子顕微鏡(TEM)によるエネルギー分散型X線分光法などにより測定することができる。
【0035】
誘電体層2に含有されるSrTiO結晶粒子のうち、少なくとも一部の粒子を、上記構成を有する表面拡散粒子20とすることにより、比誘電率を高く保ちながら、高温加速寿命の向上を図ることができる。さらには、製品間における高温加速寿命のバラツキをも改善することができる。この理由としては、SrTiO結晶粒子に拡散層を形成することにより、SrTiO結晶粒子の中心部への電界の集中を緩和できることによると考えられる。
【0036】
なお、SrTiO結晶粒子が、中心層20aと拡散層20bとを有する表面拡散粒子20となっているか否かは、たとえば、SrTiO結晶粒子について、透過型電子顕微鏡(TEM)によるエネルギー分散型X線分光法により分析することにより判断することができる。具体的には、まず、SrTiO結晶粒子に対して、SrTiO結晶粒子の略中心を通る直線上において、SrTiO結晶粒子表面からの深さが20nmの点におけるSr、Tiの各原子の含有割合を測定する(図2(B)における、測定点a1、a2)。次いで、90度ずらして同一の粒子に対して、表面からの深さが20nmの点におけるSr、Tiの各原子の含有割合を測定する(図2(B)における、測定点b1、b2)。そして、合計4点の測定点(図2(B)における、測定点a1、a2、b1、b2)における測定結果から、Sr/Ti比を求め、Sr/Ti比の値に基づいて、表面拡散粒子20となっているか否かを判断する。本実施形態では、Sr/Ti=0.15〜0.4の範囲となっている粒子を、表面拡散粒子20と判断する。
【0037】
また、誘電体層2に含有される結晶粒子が、SrTiO結晶粒子であるか否かは、結晶粒子の中心付近のSrTiOの含有量を測定することにより判断することができる。本実施形態では、SrTiOの含有量が90モル%以上となっている粒子をSrTiO結晶粒子と判断する。
【0038】
一方で、拡散層20bが形成されていない場合には、SrTiO結晶粒子の表面付近においては、他の成分(たとえば、BaTiO、CaTiO等)は実施的に含有されていないこととなり、そのため、その表面付近には、主としてSrTiOが含有されることとなり、Sr/Ti比の値が1に近いものとなる。また、拡散層20bが形成されているが、中心層20aの一部のみを覆うような構成である場合にも、同様に、Sr/Ti比の値が1に近いものとなる。
【0039】
表面拡散粒子20における、中心層20aは実質的に球形状を有していれば良く、必ずしも厳密な意味での真球である必要はない。中心層20aは、たとえば、その短径をL1、その長径をL2とした場合に、L1とL2とが、L2/L1=1〜2の範囲にあることが好ましく、特にL2/L1=1〜1.7の範囲にあることが好ましい。中心層20aが球形状を有しない場合には、高温加速寿命の向上効果が得難くなる。
【0040】
また、表面拡散粒子20において、中心層20aの周囲に存在する拡散層20bの被覆率は高い方が好ましく、具体的には、中心層20aは、その表面の70%以上、より好ましくは80%以上が拡散層20bに覆われていることが好ましい。中心層20aに対する拡散層20bの被覆率を高くすることにより、高温加速寿命の向上効果を高めることができる。
【0041】
上記構成を有する表面拡散粒子20の存在割合は、誘電体層2を構成する全結晶粒子(すなわち、BaTiO結晶粒子、SrTiO結晶粒子およびCaTiO結晶粒子)の個数を100%とした場合に、個数割合で、好ましくは10〜60%、より好ましくは15〜50%である。また、全SrTiO結晶粒子の個数を100%とした場合には、同様に、個数割合で、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。表面拡散粒子20の存在割合が少なすぎると、高温加速寿命の向上効果が得難くなる。
【0042】
また、主成分を構成するBaTiO、SrTiOおよびCaTiOの組成モル比については特に限定されないが、これらを組成式{(BaSrCa)O}TiOで示した場合に、前記式中の記号x、y、zおよびmが、好ましくは、
0.19≦x≦0.23、
0.25≦y≦0.31、
0.46≦z≦0.54、
0.980≦m≦1.01、
であり、より好ましくは、
0.195≦x≦0.225、
0.255≦y≦0.305、
0.465≦z≦0.535、
0.985≦m≦1.0095、
である。なお、上記式において、x+y+z=1である。
記号x、y、zおよびmを上記範囲とすることにより、DCバイアス特性の向上効果と、電圧印加時における電歪量の低減効果と、を高めることができる。また、上記組成式において、酸素(O)量は、上記式の化学量論組成から若干偏倚してもよい。
【0043】
上記式中、xは、BaTiOの含有割合を示す。主成分中のBaTiOの含有量が増加すると、強誘電性が強くなる傾向にある。xが小さ過ぎると、比誘電率が低くなってしまう傾向にある。特に、比誘電率が低すぎる場合には、所望の容量を得るためには、誘電体層2の積層数を増加させる必要が生じてくるため、製造コストが増加してしまうという問題や、コンデンサの小型化が困難となってしまうという問題が発生してしまう。一方、xが大き過ぎると、比誘電率は向上するものの、電圧印加時の電歪量が高くなり、さらにはDCバイアス特性が悪化する傾向にある。
【0044】
上記式中、yは、SrTiOの含有割合を示す。主成分中のSrTiOの含有量が増加すると、常誘電性が強くなる傾向にある。yが小さ過ぎると、比誘電率が低くなってしまう傾向にある。一方、yが大き過ぎると、DCバイアス特性が悪化する傾向にある。
【0045】
上記式中、zは、CaTiOの含有割合を示す。CaTiOは、主に焼結安定性を向上させる効果や、絶縁抵抗値を向上させる効果を有する。zが小さ過ぎると、DCバイアス特性が悪化する傾向にある。一方、zが大き過ぎると、比誘電率が低下してしまう傾向にある。
【0046】
主成分中のBaTiOの含有量が増加すると、強誘電性が強くなる一方で、主成分中のSrTiO,CaTiOの含有量が増加すると、常誘電性が強くなる傾向にあり、記号x、y、zを上記範囲とすることにより、強誘電相と常誘電相とのバランスを図ることができる。
【0047】
上記式中、mは、ペロブスカイト構造のAサイトと、Bサイトと、の比(Ba,SrおよびCaと、Tiと、の比)を示す。mを0.980以上とすることにより、焼成時における誘電体粒子の粒成長を抑制することができる。また、mを1.01以下とすることにより、焼成温度を高くしなくても緻密な焼結体を得ることができる。mが小さすぎると、誘電体粒子の微細化が困難となり、DCバイアス特性が悪化する傾向にある。一方、mが大きすぎると、焼結温度が高くなり過ぎてしまい、焼結が困難となる傾向にある。
【0048】
誘電体磁器組成物には、上記した主成分に加えて、副成分として、V、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素の酸化物から選択される1種以上がさらに含有されていることが好ましい。
【0049】
副成分としてのV、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素の酸化物は、高温加速寿命を改善する効果と、製品間における高温加速寿命のバラツキを低減する効果を有する。これらの酸化物の含有量は、主成分100モルに対して、V、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各酸化物換算で、好ましくは、0.02モル以上、0.40モル未満、より好ましくは0.03〜0.30モル、さらに好ましくは0.05〜0.20モルである。これらの酸化物の含有量が少な過ぎると、上記効果が得難くなる。一方、多過ぎると、IRが低下する傾向にある。
上記含有量は各元素換算の含有量であり、たとえば、Vの酸化物において、V元素換算での含有量が0.10モルである場合には、その酸化物であるV換算での含有量は0.05モルとなる。
なお、後述するように、本実施形態では、これらV、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素の酸化物は、主成分の原料として用いるBaTiO粉末、SrTiO粉末およびCaTiO粉末のうち、少なくともSrTiO粉末と、予め反応させた状態で、誘電体磁器組成物中に含有させる。
【0050】
また、誘電体磁器組成物には、副成分として、V、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素の酸化物から選択される1種以上に加えて、Mnの酸化物と、Siの酸化物と、がさらに含有されていることが好ましい。
【0051】
Mnの酸化物は、焼結を促進する効果、および高温負荷寿命を改善する効果を有する。Mnの酸化物の含有量は、上記主成分100モルに対して、MnO換算で、好ましくは0.3〜1モルであり、より好ましくは0.3〜0.8モルである。Mnの酸化物の含有量が少な過ぎると、焼結性が悪化するとともに、高温負荷寿命に劣る傾向にある。一方、含有量が多過ぎると、IR不良率が悪化してしまう場合がある。
【0052】
Siの酸化物は、主として焼結助剤として作用するが、薄層化した際の初期絶縁抵抗の不良率を改善する効果を有する。Siの酸化物の含有量は、上記主成分100モルに対して、SiO換算で、好ましくは0.1〜0.5モルであり、より好ましくは0.15〜0.45モルである。Siの酸化物の含有量が少な過ぎると、焼成温度が上昇してしまう場合がある。一方、多過ぎると、IR不良率が悪化してしまう傾向にある。
【0053】
なお、本実施形態においては、Siの酸化物を複合酸化物の形態で含有させても良い。このような複合酸化物としては、SiOと、誘電体磁器組成物に含有される他の主成分や副成分を構成する元素の酸化物と、の複合酸化物が挙げられ、たとえば、CaSiO、SrSiO、(Ca,Sr)SiO、MnSiO、BaSiOなどが挙げられる。これら複合酸化物を使用する場合には、焼成後の組成が所望の範囲となるように、適宜調整すればよい。
【0054】
また、本実施形態においては、必要に応じて、上記以外の副成分を含有させても良い。このような副成分としては、特に限定されないが、たとえば、Ba、Ca、Sr、Li、Mg、Al、Zr、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの各元素の酸化物などが挙げられる。
【0055】
誘電体層2の厚みは、特に限定されないが、好ましくは2〜20μmである。誘電体層2の厚みをこのような範囲とすることにより、定格電圧の高い(たとえば100V以上)中耐圧用途に対応させることができる。誘電体層2を薄くしすぎると、ショート不良率が悪化する場合がある。一方、厚くしすぎると、コンデンサの小型化が困難となってしまう。
【0056】
内部電極層3
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、Ni、Cu、Ni合金またはCu合金が好ましく、特にNiまたはNi合金が好ましい。内部電極層3の主成分をNiやNi合金とした場合には、誘電体が還元されないように、低酸素分圧(還元雰囲気)で焼成することが好ましい。内部電極層3の厚さは、好ましくは0.5〜2μm、より好ましくは0.8〜1.5μmである。
【0057】
外部電極4
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0058】
積層セラミックコンデンサ1の製造方法
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0059】
まず、誘電体層用ペーストに含まれる誘電体原料(誘電体磁器組成物粉末)を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0060】
誘電体原料としては、上記した主成分および副成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。塗料化する前の状態で、誘電体原料の粒径は、通常、平均粒径0.1〜1μm程度である。
【0061】
本実施形態では、上記主成分の原料として、BaTiO粉末、SrTiO粉末およびCaTiO粉末を使用するとともに、しかも、これらBaTiO粉末、SrTiO粉末、CaTiO粉末は、互いに予め反応させることなく用いる。主成分の原料として、これらの粉末を使用し、しかも、予め互いに反応させることなく用いることにより、焼結後の誘電体磁器組成物において、主成分を構成することとなるBaTiO、SrTiOおよびCaTiOを、それぞれ互いに、実質的に固溶していない構成とすることができる。すなわち、焼結後の誘電体磁器組成物において、これらの複合酸化物を、BaTiO結晶粒子、SrTiO結晶粒子およびCaTiO結晶粒子の形態で存在させ、コンポジット構造を形成させることができる。
【0062】
さらに、本実施形態では、主成分の原料のうち、少なくともSrTiO粉末、好ましくはSrTiO粉末に加えて、BaTiO粉末およびCaTiO粉末を、副成分として誘電体磁器組成物中に含まれるV、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素の酸化物から選択される1種以上と予め反応させて、反応粉(好ましくは、固溶粉)として用いる。
【0063】
少なくともSrTiO粉末、さらにはBaTiO粉末およびCaTiO粉末を、V、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素の酸化物から選択される1種以上と予め反応させて、反応粉として用いることにより、焼成後の誘電体層2を構成するSrTiO結晶粒子のうち、少なくとも一部の粒子を上述した構成を有する表面拡散粒子20とすることができる。具体的には、焼成時に、SrTiO粉末が、BaTiOおよびCaTiOを取り込んでいき、SrTiO粉末の表面付近に、SrTiO、BaTiOおよびCaTiOを含有する拡散層が形成されることとなる。
【0064】
さらには、これらSrTiO粉末を含む主成分原料に、V、Ta、Nb、W、MoおよびCrのうち少なくとも1種と反応させる(好ましくは、固溶させる)ことで、V、Ta、Nb、W、Mo、Crが、SrTiO結晶粒子表面の一部分に偏在してしまうことを防止することもできる。
【0065】
各主成分の原料(SrTiO粉末、さらにはBaTiO粉末およびCaTiO粉末)に、予め反応させるV、Ta、Nb、W、Mo、Crの各元素の酸化物の比率は特に限定されない。
【0066】
また、本実施形態では、焼成後の誘電体磁器組成物中に含有させるV、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素の酸化物のうち、少なくとも一部を、主成分の原料と予め反応させておくという構成を採用すれば良いが、特に、焼成後の誘電体磁器組成物中に含有させるV、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素の酸化物の全量を、主成分の原料と予め反応させておくことが好ましい。V、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素の酸化物の全量を、予め反応させておくことにより、これらの添加効果をより高めることができる。
【0067】
なお、このような反応粉を得る方法としては、特に限定されない。
たとえば、SrTiO粉末を反応粉とする場合を例示すると、SrTiO粉末と、V、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素の酸化物と、をボールミルやビーズミル等で混合し、700〜1300℃で仮焼きし、固相反応させる方法が挙げられる。あるいは、SrCOおよびTiOと、V、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素の酸化物と、を同様に混合し、700〜1300℃で仮焼きし、固相反応させる方法も挙げられる。このような方法を採用することにより、反応を略均一なものとすることができ、固溶粉とすることができる。
また、BaTiO粉末、CaTiO粉末を反応粉とする場合においても、SrTiO粉末の場合と同様とすれば良い。
【0068】
主成分以外の原料(たとえば、副成分の原料)としては、各酸化物や焼成により各酸化物となる化合物を、そのまま用いても良いし、あるいは、予め仮焼きし、焙焼粉として用いても良い。
【0069】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ブチラール樹脂、アクリル樹脂等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、ターピネオール、アセトン、トルエン、エタノール、キシレン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0070】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0071】
内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。なお、内部電極層用ペーストとしては、市販の電極用ペーストを使用してもよいし、あるいは市販の電極用材料をペースト化したものを使用してもよい。また、内部電極層用ペーストには、必要に応じて共材を含有させても良い。共材としては、誘電体層用ペーストに含まれる誘電体原料と同様の組成を有するもの(たとえば、BaTiO粉末、SrTiO粉末、CaTiO粉末等)を使用すれば良い。
【0072】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0073】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0074】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0075】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0076】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間とする。また、焼成雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。
【0077】
グリーンチップ焼成時の雰囲気は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10−9〜10−14Paとすることが好ましい。酸素分圧が上記範囲未満であると、内部電極層の導電材が異常焼結を起こし、途切れてしまうことがある。また、酸素分圧が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0078】
また、焼成時の保持温度は、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1360℃である。保持温度が上記範囲未満であると緻密化が不十分となり、前記範囲を超えると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層構成材料の拡散による容量温度特性の悪化、誘電体磁器組成物の還元が生じやすくなる。
【0079】
これ以外の焼成条件としては、昇温速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜3時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間とする。また、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。
【0080】
還元性雰囲気中で焼成した場合、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0081】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−1〜10Paとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、前記範囲を超えると内部電極層の酸化が進行する傾向にある。
【0082】
アニールの際の保持温度は、1100℃以下、特に500〜1100℃とすることが好ましい。保持温度が上記範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、IRが低く、また、高温加速寿命が短くなりやすい。一方、保持温度が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極層が誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性の悪化、IRの低下、高温加速寿命の低下が生じやすくなる。なお、アニールは昇温過程および降温過程だけから構成してもよい。すなわち、温度保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0083】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜20時間、より好ましくは2〜10時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0084】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0085】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、例えばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4表面に、めっき等により被覆層を形成する。
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0086】
本実施形態によれば、積層セラミックコンデンサの誘電体層2を、主成分として、BaTiO、SrTiOおよびCaTiOを含有し、これらが互いに、実質的に固溶せず、コンポジット構造とし、誘電体層2に含有されるSrTiO結晶粒子のうち少なくとも一部の粒子を、特定の表面拡散構造を有する表面拡散粒子20としている。そのため、本実施形態の積層セラミックコンデンサは、容量温度特性がEIA規格のX6S特性(−55〜105℃、ΔC/C=±22%以内)を満足し、電圧印加時における電歪量の低減されており、しかも、高い比誘電率を実現しつつ、高温加速寿命を向上させることができる。
【0087】
なお、本実施形態では、上記電圧印加時における電歪量に関し、以下のような特性を有する。
すなわち、一対の内部電極層3に挟まれている誘電体層2の層数をN層とした場合に、セラミックコンデンサを基板に固定し、ガラスエポキシ基板などの積層セラミックコンデンサ1が実装されるような通常の基板に固定したセラミックコンデンサ1に対し、AC:0.2Vrms/μm、DC:4V/μm、周波数:1kHzの条件で電圧を印加した際における素子本体10表面の振動幅で定義される電歪量を、好ましくは、0.125N[nm]未満、より好ましくは0.1N[nm]以下とすることができる。
特に、本実施形態では、500以上という高い誘電率を実現しつつ、電圧印加時における電歪量を上記範囲とすることができる。
【0088】
上記電圧印加条件における、AC、DCの値は、誘電体層の厚み1μm当たりの印加電圧である。すなわち、たとえば、誘電体層の厚みを5μmとした場合における印加電圧は、AC:1.0Vrms(=0.2Vrms/μm×5μm)、DC:20V(=4V/μm×5μm)である。また、上記電歪量は、誘電体層2の厚みが変化すると、それに伴い変化する傾向にある。そのため、本実施形態においては、誘電体層2の厚みが、好ましくは2〜20μm、特に5μmの場合に、上記所定範囲となることが好ましい。
【0089】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0090】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、本発明の誘電体磁器組成物で構成される誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0092】
実施例1
反応粉の調製
まず、主成分の原料としてのSrTiO粉末と、副成分の原料としてのVと、を準備した。そして、これらSrTiO粉末とVとをボールミルで15時間、湿式混合し、乾燥した後に、1000℃で仮焼きすることにより、予めVと反応させたSrTiO粉末を調製した。
本実施例では、SrTiO粉末に予め反応させるVの量は、SrTiO粉末100モルに対して、V元素換算で、0.33モルとした(表1中、Rstで示した。)。
【0093】
さらに、上記と同様にして、予めVと反応させたBaTiO粉末と、予めVと反応させたCaTiO粉末とを調製した。本実施例では、BaTiO粉末に予め反応させるVの量は、BaTiO粉末100モルに対して、V元素換算で、0.35モルとした(表1中、Rbtで示した。)。また、CaTiO粉末と反応させるVの量は、CaTiO粉末100モルに対して、V元素換算で、0.51モルとした(表1中、Rctで示した。)。
【0094】
誘電体層用ペーストの調製
次いで、予めVと反応させたSrTiO粉末、BaTiO粉末およびCaTiO粉末と、副成分の原料としてのMnCO、SiOと、主成分のAサイトおよびBサイトの比(Ba,SrおよびCaと、Tiと、の比)を調整するための原料として、TiOと、をボールミルで15時間、湿式粉砕し、乾燥して、誘電体原料を得た。なお、各原料の混合割合は、焼成後の組成が表1に示す組成となるように調整した。ただし、表1において、各副成分の添加量は主成分100モルに対するモル数であり、MnO、SiOについては各酸化物換算で、VについてはV元素換算で、それぞれ添加量を示した。また、副成分の原料であるMnCOは、焼成後にMnOとなる化合物である。
【0095】
そして、得られた誘電体原料100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂10重量部と、可塑剤としてのジブチルフタレート(DOP)5重量部と、溶媒としてのアルコール100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0096】
積層セラミックコンデンサ試料の作製
そして、上記にて調製した誘電体層用ペーストと、内部電極層用ペーストと、を用い、以下のようにして、図1に示される積層型セラミックチップコンデンサ1を製造した。なお、本実施例においては内部電極層用ペーストとして、市販のコンデンサ電極用のペースト(導電性粒子として、主にNi粒子を含有するペースト)を使用した。
【0097】
まず、得られた誘電体層用ペーストを用いて、ドクターブレード法にて、PETフィルム上に、グリーンシートを形成した。次いで、このグリーンシートの上に、内部電極層用ペーストを用いて、スクリーン印刷により、電極パターンを印刷し、電極パターンの印刷されたグリーンシートを製造した。なお、電極パターンの印刷されたグリーンシートの厚みは、乾燥後の厚みで6.5μmとした。次いで、上記のグリーンシートとは別に、誘電体層用ペーストを用いて、ドクターブレード法にて、PETフィルム上に電極パターンの印刷されていないグリーンシートを製造した。
【0098】
そして、上記にて製造した各グリーンシートを次の順序にて積層し、得られた積層体を加圧することにより、グリーンチップを製造した。
すなわち、まず、電極パターンの印刷されていないグリーンシートを合計の厚みが300μmとなるまで積層した。その上に、電極パターンの印刷されたグリーンシートを5枚積層した。さらにその上に、電極パターンの印刷されていないグリーンシートを合計の厚さが300μmとなるまで積層し、積層体とした。そして、得られた積層体について、温度80℃、圧力1t/cmの条件で加熱・加圧して、グリーンチップを得た。
【0099】
次いで、得られたグリーンチップを所定のサイズに切断し、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、積層セラミック焼成体を得た。
脱バインダ処理条件は、昇温速度:30℃/時間、保持温度:250℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1240℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNとHとの混合ガス(H:3%)とした。
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1000℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガスとした。
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、水温を20℃としたウェッターを用いた。
【0100】
次いで、得られた積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Gaを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、2.5mm×2.5mm×3.2mmであり、誘電体層の厚み5μm、内部電極層の厚み1.5μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は4とした。
得られたコンデンサ試料について、SrTiO結晶粒子表面からの深さ20nmの点における各原子の含有比率(Sr/Ti、Ba/Ti、Ca/Ti)、比誘電率および高温加速寿命(HALT)を下記に示す方法により測定した。得られた結果を表1に示す。
【0101】
SrTiO結晶粒子表面からの深さ20nmの点における各原子の含有比率(Sr/Ti、Ba/Ti、Ca/Ti)
まず、透過型電子顕微鏡(TEM)によるエネルギー分散型X線分光法により、SrTiO結晶粒子に対して、SrTiO結晶粒子の略中心を通る直線上において、SrTiO結晶粒子表面からの深さが20nmの点におけるSr、Ba、Ca、Tiの各原子の含有割合を測定した。次いで、90度ずらして同一の粒子に対して、表面からの深さが20nmの点におけるSr、Ba、Ca、Tiの各原子の含有割合を測定した。そして、この測定を10個のSrTiO結晶粒子について行い、得られた結果を平均することにより、Sr/Ti、Ba/Ti、Ca/Ti比(モル比)を求めた。結果を表1に示す。
なお、本実施例では、SrTiOの含有量が90モル%以上となっている粒子をSrTiO結晶粒子と判断した。
【0102】
比誘電率ε
まず、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの信号を入力し、静電容量Cを測定した。そして、比誘電率ε(単位なし)を、誘電体層の厚みと、有効電極面積と、測定の結果得られた静電容量Cとに基づき算出した。比誘電率は高いほうが好ましく、本実施例では500以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0103】
高温加速寿命(HALT
高温加速寿命(HALT)は、得られたサンプルを、175℃で16V/μmの直流電圧の印加状態に保持し、平均寿命時間を測定することにより評価した。本実施例では、印加開始から絶縁抵抗が2桁落ちるまでの時間を寿命と定義した。また、この高温加速寿命は、10個のコンデンサ試料について行い、これらの結果を平均することにより評価した。本実施例では1時間以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0104】
また、本実施例では、上記評価に加えて、容量温度特性(X6S特性)および電圧印加による電歪量を、下記の方法により測定、評価した。
【0105】
容量温度特性(X6S特性)
コンデンサ試料について、−55℃、25℃および105℃の各温度における静電容量を測定し、25℃における静電容量に対する−55℃および105℃での静電容量の変化率△C(単位は%)を算出した。本実施例では、静電容量の変化率が、EIA規格のX6S特性(−55〜105℃、ΔC=±22%以内)を満たしている試料を良好とした。その結果、実施例1のコンデンサ試料は、X6S特性を満足し、良好な結果となった。
【0106】
電圧印加による電歪量
電圧印加による電歪量は、次の方法で測定した。すなわち、まず、コンデンサ試料を、所定パターンの電極がプリントしてあるガラスエポキシ基板にハンダ付けすることにより固定した。次いで、基板に固定したコンデンサ試料に対して、AC:0.2Vrms/μm、DC:4V/μm、周波数:1kHzの条件で電圧を印加し、電圧印加時におけるコンデンサ試料表面の振動幅を測定し、これを電歪量とした。なお、コンデンサ試料表面の振動幅の測定には、レーザードップラー振動計を使用した。また、本実施例では、10個のコンデンサ試料を用いて測定した値の平均値を電歪量とした。電歪量は低いほうが好ましく、実施例1のコンデンサ試料は、電歪量が0.5nm以下となり、良好な結果であった。
【0107】
比較例1
SrTiO粉末、BaTiO粉末およびCaTiO粉末にVを予め反応させず、Vの添加時期を、他の副成分の原料であるMnCO、SiOと同様とした以外は、実施例1と同様にして(すなわち、実施例1と同じ組成として)、コンデンサ試料を作製し、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
評価
表1に、実施例1および比較例1における誘電体組成、SrTiO粉末、BaTiO粉末およびCaTiO粉末に予め反応させたV量、SrTiO結晶粒子表面からの深さ20nmの点における各原子の含有比率(Sr/Ti、Ba/Ti、Ca/Ti)、比誘電率および高温加速寿命(HALT)の結果を示す。
また、図3(A)、図3(B)に実施例1に係る誘電体層の断面写真(TEM写真)、図4(A)、図4(B)に比較例1に係る誘電体層の断面写真(TEM写真)をそれぞれ示す。
【0110】
図3(A)より、SrTiO粉末、BaTiO粉末およびCaTiO粉末に予めVを反応させた実施例1においては、SrTiOを主成分として含有し、球形状を有する中心層20aと、中心層20aの周囲に存在し、SrTiO以外の成分が拡散している拡散層20bと、からなる表面拡散粒子20が多数存在していることが確認できる。なお、実施例1においては、このような表面拡散粒子20の存在割合は、全結晶粒子の個数を100%とした場合に、個数割合で、30%となっていた。
【0111】
また、実施例1においては、中心層20aの短径L1と、長径L2との比L2/L1=1.29であった。このL2/L1は、10個の表面拡散粒子20を用いて測定した結果を平均することにより求めた。なお、測定に用いた10個の表面拡散粒子20は、全てL2/L1=1〜2の範囲内となっていた。図3(B)に、L2/L1の測定に用いたSrTiO結晶粒子(表面拡散粒子)の断面写真(TEM写真)の一例を示す。
【0112】
そして、この実施例1においては、表1より、SrTiO結晶粒子表面からの深さ20nmの点におけるSr/Tiが、0.26となっており、各特性(容量温度特性および電圧印加時における電歪量)を良好に保ちながら、比誘電率を500以上としつつ、高温加速寿命(HALT)が147時間と極めて長くなる結果となった。
【0113】
これに対して、比較例1においては、図4(A)からも確認できるように、表面拡散粒子20は存在しない結果となった。特に、比較例1においては、SrTiO結晶粒子の拡大写真である図4(B)からも確認できるように、SrTiO結晶粒子は球形状とならずに、しかも、拡散層は偏在した形で形成される結果となった。また、比較例1においては、中心層20aの短径L1と、長径L2との比L2/L1=2.12であった。
そして、比較例1では、誘電体組成を実施例1と同じとしたにも拘わらず、高温加速寿命(HALT)が0.2時間となり、高温加速寿命(HALT)に劣る結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2(A)は本発明の一実施形態に係る表面拡散粒子の断面図、図2(B)は表面拡散粒子に形成されている拡散層の測定方法を説明するための図である。
【図3】図3(A)、図3(B)は本発明の実施例に係る誘電体層の断面写真である。
【図4】図4(A)、図4(B)は比較例に係る誘電体層の断面写真である。
【符号の説明】
【0115】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
20… 表面拡散粒子
20a… 中心層
20b… 拡散層
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaTiO、SrTiOおよびCaTiOを含む主成分を有する誘電体磁器組成物であって、
前記主成分を構成する前記BaTiO、SrTiOおよびCaTiOが、それぞれ互いに、実質的に固溶しておらず、BaTiO結晶粒子、SrTiO結晶粒子およびCaTiO結晶粒子の形態で含有され、コンポジット構造を形成しており、
前記SrTiO結晶粒子のうち少なくとも一部の粒子は、SrTiOを主成分として含有し、球形状を有する中心層と、前記中心層の周囲に存在し、SrTiO以外の成分が拡散している拡散層と、を有する表面拡散構造を有している誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記表面拡散構造を有するSrTiO結晶粒子の中心層の短径をL1、長径をL2とした場合に、前記L1とL2とが、L2/L1=1〜2の関係にある請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記表面拡散構造を有するSrTiO結晶粒子の存在割合が、前記誘電体磁器組成物を構成する全結晶粒子に対して、10〜60%である請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記表面拡散構造を有するSrTiO結晶粒子の中心層は、その表面の70%以上が前記拡散層で覆われた構成となっている請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
主成分として含有される前記BaTiO、SrTiOおよびCaTiOの組成モル比を、組成式{(BaSrCa)O}TiOで示した場合に、前記式中の記号x、y、zおよびmが、
0.19≦x≦0.23、
0.25≦y≦0.31、
0.46≦z≦0.54、
x+y+z=1、
0.980≦m≦1.01、
である請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
前記誘電体磁器組成物が、副成分として、V、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素の酸化物から選択される1種以上をさらに含み、
前記V、Ta、Nb、W、MoおよびCrの酸化物の含有量が、前記主成分100モルに対して、V、Ta、Nb、W、MoおよびCrの各元素換算で、0.02モル以上、0.40モル未満である請求項1〜5のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
前記誘電体磁器組成物が、副成分として、Mnの酸化物をさらに含み、
前記Mnの酸化物の含有量が、前記主成分100モルに対して、MnO換算で、0.3〜1モルである請求項1〜6のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項8】
前記誘電体磁器組成物が、副成分として、Siの酸化物をさらに含み、
前記Siの酸化物の含有量が、前記主成分100モルに対して、SiO換算で、0.1〜0.5モルである請求項1〜7のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−269542(P2007−269542A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96649(P2006−96649)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】