説明

負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上牽引機

【課題】
従来の自動変速機を内蔵した巻上牽引機は、クラッチ切替える伝達プレートを機械的にスライドさせる接触式の切替え方式であるため、切替え時の内部抵抗が大きく、操作性が悪いという課題を有していた。
【解決手段】
ハンドホイール6に連結された入力管14の内周に設けられた外側磁性体16と、入力管14の回転を増速装置を介して高速回転し、入力管14の回転中心上に軸芯を有する中間軸24に固設した内側磁性体23と、前記外側磁性体16と内側磁性体23の中間に、中間軸24の軸線方向に移動可能な出力管26の一端に設けられ、前記外側磁性体16と内側磁性体23とのいずれか一方と対向可能な外側及び内側歯部を有する中間磁性体24出力管26の駆動を駆動力伝達手段を介して巻上牽引機の駆動部材12に伝達する出力伝達手段25を備えた巻上牽引機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドホイールと駆動部材間の駆動力伝達装置に自動変速機を内蔵した巻上牽引機に関するもので、詳しくは、無負荷時と低荷重時に高速早送り動作を行う負荷感応型自動変速機を内蔵した巻上牽引機に関する。
【背景技術】
【0002】
巻上牽引機は、ロードチェーンの吊下げる最大荷重および作業者がハンドチェーンに加えることができる最大手引き力に基づき、減速比が決定されており、無負荷時にハンドチェーンを引いても、上記の減速比でロードチェーンが作動するため、極めて作業効率が悪いという課題を有していた。
【0003】
この課題を解決するため、巻上牽引機のハンドチェーン(入力側)とロードチェーン(出力側)の間に変速装置を内蔵し、無負荷時にロードチェーンの巻取り速度を高速にするようにした巻上牽引機が開発されている。
【0004】
上記変速装置を内蔵した巻上牽引機は、ハンドホイールからの回転トルクを1対1の回転比で駆動軸に伝達する第1クラッチ手段と、巻取り速度を高速とする増速変速装置に伝達する第2クラッチ手段と、前記、第1クラッチ手段と、第2クラッチ手段とを係脱するための伝達プレートとを備え、ロードシーブに負荷が掛かる場合にハンドホイールを回転すると、第1クラッチ手段が係合し、第2クラッチ手段を解放する方向に前記伝達プレートが移動し、巻取り速度を高速から低速に切り替え、無負荷時には第2クラッチが係合し、巻取り速度を高速にする自動変速装置を備えたものである。〔特許文献1〕
上記した特許文献1に記載された巻上牽引機の自動変速装置は、ハンドホイールからの回転トルクを1対1の回転比で駆動軸に伝達する第1クラッチ手段と、増速変速装置に伝達する第2クラッチ手段と、第1、第2クラッチ手段の切換えを行う伝達プレートを備え、切換え時には伝達プレートをスライドさせ、機械的にクラッチ手段を切換えるようにしたものである。
【特許文献1】特開2001-146391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された巻上牽引機の自動変速機は、2つのクラッチ機構を備え、無負荷時には高速巻上げを可能にするものであるが、伝達プレートを機械的にスライドさせる接触式の切替え方式であるため、切替え時の内部抵抗が大きく、操作性が悪いという課題を有していた。
【0006】
本発明は上記課題を解決するもので、巻上牽引機に磁気変速装置を内蔵するとともに、磁気変速装置の機軸をロードチェーン及びハンドホイールの駆動軸と同一軸線上に配置し、また、磁気変速装置の軸受け構造を巻上牽引機本体に固設される外周フレームと、ハンドホイールを固定する入力管と変速装置の出力を巻上牽引機の駆動部材に伝達する出力管の三層構造とすることで、変速装置の内部抵抗を減少し、操作性を改善するとともに、作業者が荷重の状態が変化する度に煩雑な変速操作を行う必要が無く、また、定格以上の荷重を巻上げようとした場合には、過負荷保護機能による安全操作が可能で、かつ、ハンドホイールとロードチェーンのオフセット量を小さくして、巻上牽引機本体のバランスを改善し、操作時の振れを抑制できる小型・軽量化が可能な負荷感応型自動変速機を内蔵した巻上牽引機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するため、巻上牽引機のハンドホイールと駆動部材間に負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上牽引機であって、ハンドホイールに連結された入力管の端面に設けられた外側磁性体と、入力管の回転を増速装置を介して高速回転し、入力管の回転中心上に軸芯を有する出力軸に固設された内側磁性体と、前記外側磁性体と内側磁性体の中間に、磁性体位置切り替え手段により、出力軸の軸線方向に移動可能な出力管の一端に設けられ、前記外側磁性体と内側磁性体とのいずれか一方の歯部と噛合可能な外側及び内側歯部を有し、高速及び低速回転の切り替えを行う中間磁性体と、出力管の駆動を駆動力伝達手段を介して巻上牽引機の駆動部材に伝達する出力伝達手段を備え、負荷トルクにより中間磁性体を内側磁性体または外側磁性体に対向させ、駆動部材の回転を高速または低速回転に切り替えることを特徴とする。
【0008】
また、前記入力管を巻上牽引機に固設された外周フレームの内周に回転自在に軸支し、出力伝達手段を入力管の内周に回転自在に軸支し、入力管及び出力伝達手段の回転中心を巻上牽引機の駆動軸と同一軸線上に設けたことを特徴とする。
【0009】
また、前記増速装置は、入力管の端部に設けたプラネタリーキャリアに軸着された遊星歯車と、外周フレームの端部に設けたアウターギヤ支持フレームの開口部内面に設けられ、前記遊星歯車が内接噛合するアウターギヤと、太陽ギヤ軸の端部に設けられ、前記遊星歯車と内接噛合する太陽ギヤであることを特徴とする。
【0010】
また、前記磁気位置切り替え手段は、出力管の他端に設けられた中間円板に固設された位置切り替え磁石と、出力伝達手段に固設され、前記位置切り替え磁石に対向する一対の出力管移動磁石と、出力管移動磁石の両側に設けられた出力管戻し磁石であり、一定以上のトルクが出力伝達手段と中間円板間に加わると、両部材伝達手段の相対位置が移動し、磁石の反発により中間円板を軸方向にスライドさせ、トルクが低下すると原位置に復帰するように中間円板と出力伝達手段を磁気的に結合したことを特徴とする。
【0011】
また、前記駆動力伝達手段は、低トルク時に出力管と出力伝達手段を磁気的に連結する磁石と、高トルク時に出力管と出力伝達手段を機械的に連結する高トルク伝達部材であることを特徴とする。
【0012】
また、前記中間磁性体の外側及び内側歯部間に磁性体連結用磁石を設けたことを特徴とする。
【0013】
また、前記出力伝達手段をクラッチ板に設けた係合孔に係合する連結手段でクラッチ板と連結し、クラッチ板を介して駆動部材を駆動することを特徴とする。
【0014】
また、前記出力伝達手段を駆動部材に設けた係合孔に係合する連結手段で駆動部材と連結したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の負荷感応変速装置を内蔵した巻上牽引機は、動力伝達の切替えを磁気を用いた非接触回転スラスト変換機構によって実現するので、変速機内部の機械的接触は歯車および軸受け部分のみ限定されるため、スムーズな切替え操作が可能となり、また、作業者は荷重の状態が変化する度に煩雑な変速操作を行う必要はなくなり、また、磁気クラッチを用いた負荷感応変速機は、過負荷に対してスリップするため、定格以上の荷重を巻き上げようとした場合には、スリップし過負荷保護機能を奏するので、安全操作が可能となる。
【0016】
また、動力入力手段であるハンドホイールから磁気式負荷感応型変速機に伝達する伝達手段を入力管とし、入力管内に磁気式負荷感応型変速機を内蔵するようにしたので、入力手段と磁気式負荷感応型変速機の出力手段を磁気式負荷感応型変速機の軸方向において、同一方向に配置することが可能となり、巻き上げ機の本体フレームの側面直近に配置することができ、巻上機全体を小形化でき、かつ、ハンドホイールに巻き掛けたチェーンを操作しても、本体の振れ量を抑えることができて、操作性を向上できるという効果を有する。
【0017】
また、入力管を収納する外側フレームを、本体フレームの側面に備えると共に、外側フレームの内周で入力管を軸支するようにしたので、磁気式変速装置を、変速装置を備えない巻き上げ装置に追加する場合でも、簡単な改造で追加できるという効果を有する。
【0018】
また、変速機軸と巻上牽引機の駆動軸を同一軸線上にオフセット配置したので、出力伝達手段を入力管の内周に回転自在にかつ径方向内側に配置したので、巻上牽引機本体の小型化が可能となり、巻上牽引機本体の重量バランスを改善でき、かつ、ハンドホイールとロードチェーンのオフセットを短縮できるので手引き時に生ずる振れを減少することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の負荷感応型自動変速装置を備えた巻上牽引機の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0020】
図1はオーバロード機構を有しない形態の巻上牽引機の側面断面図、図2はオーバロード機構を有する形態の巻上牽引機側面断面図、図3は高トルク低速回転時の負荷感応型自動変速装置の側面断面図、図4は低トルク高速回転時の負荷感応型自動変速装置の側面断面図、図5は負荷感応型自動変速装置の分解概要図、図6は低負荷低速回転時の負荷感応型自動変速装置の正面断面図、図7は高負荷低速回転時の負荷感応型自動変速装置の正面断面図、図8(a)は高負荷低速回転時のスケルトン図、(b)は低負荷高速回転時のスケルトン図、図9(a)はスラスト変換機構の構成説明図、(b)は円周方向断面図、図10(a)は磁気クラッチ機構の構成説明図、(b)は円周方向断面図である。
【0021】
図において、1は巻上牽引機、2はロードシーブ及び減速ギヤ用軸受を備えた本体フレーム、3は本体フレーム2.2間に回転可能に軸支され、図示しないロードチェーンを巻き上げ巻き下げするロードシーブ、3aはロードシーブ3の中空軸に軸着されたロードギヤ、4はロードシーブ3の挿通孔に回転自在に貫装された駆動軸で、一端にはピニオン5a、他端には雄ネジ5bが設けられている。6はリンクチェーンが掛架されるハンドホイールで、後記する入力管14に連結手段14aで固設され、外周フレーム20に回転自在に軸支されている。6aは後記する連結手段14aが嵌装される連結孔、7は駆動軸4のピニオン5aと噛合し、ロードギヤ3aと噛合する図示しない減速歯車(小)と同軸に軸着された減速ギヤ(大)で、駆動軸4の回転を減速してロードシーブ3に伝達している。8は駆動軸4に回転不能に軸着された受圧部材で、ボス部8aには一対のブレーキ板10a、10bと、ブレーキ板10a、10bに挟装される逆転防止用爪車11が回転可能に外装されている。12は雌ネジ12aを有し、前記駆動軸4の雄ネジ5bに螺合する駆動部材で、正転することでブレーキ板10a、10b及び逆転防止用爪車11を介して受圧部材8を押圧し、駆動部材12の回転を駆動軸4に伝達するように構成され、逆転することで前記押圧方向とは逆方向にスライドして逆転防止用爪車11との係合を解放し逆転(巻き下げ)を可能にするように構成されている。12bは後記する出力円板25に固着され駆動部材12に向かって突出する連結部材25aが嵌装される連結孔である。連結部材25aと連結孔12bは、前記駆動部材12の正・逆転に伴なう軸方向のスライドを阻害することなく回転力のみを伝達する構成となっている。
【0022】
次に、巻上牽引機に備えられる負荷感応型自動変速装置について説明する。
【0023】
14はハンドホイール6の連結孔6aと連結手段14aで連結され、後記する外周フレーム20に回転自在に外周を軸支される中空の入力軸である入力管、15は外周を後記する外側コ字状磁性体16の入力管16取付面の反対側側面に取設されたプラネタリーキヤリア、16は外周フレーム20に軸受け19cを介して内接し、外周を軸支され、入力管14の端面で円周方向内側に開口し、プラネタリーキヤリア15と同速度で回転する断面コ字型の磁性体からなる外側コ字状磁性体で、後記する中間磁性体29の外側歯部29aと対向する歯部16aを有する。17はプラネタリーキヤリア15に設けたギヤ軸13に軸着された遊星ギヤ、18は前記ギヤ軸13の一端及び遊星ギヤ軸13を軸支する遊星ギヤ支持板である。遊星ギヤ17は後記する太陽ギヤ軸24に設けた太陽ギヤ24aに噛合し、軸芯が太陽ギヤ24aの周りを回転し、後記するアウターギヤ支持フレーム22に設けたアウターギヤ21と内接噛合するように構成されている。20はフランジ20aが巻上牽引機本体に固設され、一端にアウターギヤ支持フレーム22が固設される外周フレーム、22は外周フレーム20の開口部に固設されたアウターギヤ支持フレームで、開口部に遊星歯車装置を構成するアウターギヤ21が設けられている。24は遊星ギヤ支持板18に設けられた軸受け19a、プラネタリーキヤリア15の内周に設けられた軸受け19c及び後記する出力伝達手段25の内周に設けられた中空軸25bに設けられた軸受け19d、19dで軸支された出力軸である太陽ギヤ軸、24aは太陽ギヤ軸24の先端部に設けた太陽ギヤである。太陽ギヤ24aは前記した通り遊星ギヤ17と噛合し増速手段を構成する。23は太陽ギヤ軸24に該軸の軸芯と同芯円周上に等間隔で配置され、該軸24と一体で回転するように固設された断面コ字型の磁性体からなる内側コ字状磁性体で、図10(b)に示すように、後記する中間磁性体29の内側歯部29bに対向する歯部23aと出力回転を内側コ字状磁性体23に伝達する伝達部23bを有する。25は連結手段25aで駆動部材12と動力伝達可能に連結され、入力管14の内周に設けた軸受け19fで外周を軸支される出力伝達手段である出力円板、25bは出力円板25の内周で後記する高トルク伝達部材支持板28側に延出する中空軸である。連結手段25aは丸棒体で駆動部材12に設けた係合孔12bと係合し、駆動部材12にトルクを伝達する。26は前記した中空軸25aの外周に嵌装された中空の出力軸である出力管で、一端には磁性体位置切り替え手段を有する中間円板27を備え、他端には外側コ字状磁性16と対向する断面コ字型の外側歯29aと内側コ字状磁性体23と対向する断面コ字型の内側歯29bを備えた磁性体からなる中間磁性体29が設けられている。中間磁性体29は図10(b)に示すように、外側コ字状磁性体16と内側コ字状磁性体23のいずれか一方と対向可能となっており、中間磁性体29が軸線方向右側に1/2ピッチ移動すると、図3及び図8(a)に示すように、外側コ字状磁性体16と対向し、軸線方向左側に1/2ピッチ移動すると、図4及び図8(b)に示すように内側コ字状磁性体23と対向するように構成されている。28は一端が出力円板25に固設され、中間円板27に設けたトルク伝達孔27bに嵌挿され、中間円板27と出力円板25を動力伝達可能に連結する高トルク伝達部材、28aは高トルク伝達部材28の他端を固着する高トルク伝達部材支持板である。30は中間磁性体間に設けられた磁性体連結用磁石で、一対の中間磁性体の一方がN極で他方がS極になるように配置され、外側コ字状磁性体及び内側コ字状磁性体のいずれか一方に対向可能に配置されている。中間磁性体29の外側歯29aと内側歯29bの歯部は前記磁石30より外側、内側にそれぞれ突出している。31は中間円板27に設けた磁石、32aは出力円板25に設けた中間円板27移動用磁石、32bは中間円板27移動用磁石の両側に配設され、中間円板27に戻し力を与える磁石である。磁石31と32a、32bは互いに対向して、位相及び極性と異にして配置されており、一定以上のトルクが前記した出力円板25と中間円板27間に加わると、出力円板25と中間円板27が相対的に所定角度回転変位し、出力円板25の磁石32aの先端の部分が中間円板27の磁石31の先端部分に移動し、両磁石は同極が対向するため反発し、その反発力によって中間円板27は軸線方向にスライドして移動する。従って、中間円板27と出力円板25間に所定のトルク以上の力が加わると、両円板の相対位置が移動し、そのトルクが低下すると原位置に復帰するように両者は磁石31及び32a、32bを介して磁気的に結合されている。図2に示す実施例において、35は駆動部材12とクラッチ押え37間に介装されたクラッチ板、36はクラッチ板35の両側に設けられた磨耗板、37は駆動部材12の雌ネジ部12aとクラッチ板35間に設けられたクラッチ押え、38はクラッチ押え37を介してクラッチ板35を付勢する押圧バネ、39は押圧35のバネ力を調整するトルク設定用ナット、40は駆動部材の雌ネジ12の所定量以上の弛みを防止するストッパーである。駆動部材12、クラッチ板35、磨耗板36、クラッチ押え37、押圧バネ38、ナット39でオーバーロードリミット機構を構成する。上記したオーバーロードリミット機構を備えた形態では、図2に記載する通り、出力円板25は連結手段25aでクラッチ板35と連結され、クラッチ板35を介して駆動部材12に駆動力が伝達される。
【0024】
次に自動変速装置の高速・低速の切り替え手段について説明する。
【0025】
図9に示すように、出力管26の端部に設けた中間円板27には永久磁石M1(31)を、出力伝達手段である出力円板25には中間円板27移動用磁石MOA(32a)と、この中間円板移動用MOA(32a)の両側に、中間円板27に戻し力を与える磁気バネ用磁石MOB(32b)をそれぞれ配置する。最初に負荷トルクが小さい場合は、中間円板27に配置した磁石M1と出力円板25に配置した磁石MOAの異極同士が対向して吸引する。このため中間円板27を出力円板25に近づける方向にスラストが発生し、中間円板27は軸方向にスライドして太陽ギヤ24で高速回転する内側コ字状磁性体23側に接続し、変速機は、図8(b)に示す高速モードで動作する。この動作時、中間磁性体29は内側コ字状磁性体23と対向する位置にスライドし、中間磁性体29に設けた磁石30により、両磁性体は磁気結合し、中間磁性体29の内歯29bが内側コ字状磁性体23の歯部23aと噛合し、高速モードで動作する。この状態は中間円板27と出力円板25間に所定以上の軸線方向に移動する力が作用するまではこの位置を保持する。また、このとき、中間円板27の磁石M1のS極は、磁気バネ用磁石MOBのS極に対向し、中間円板26aの磁石M1のN極は磁気バネ用磁石MOB'のN極に対向するため、前記のような中間円板移動用磁石MOAと吸引している状態におていは、磁石M1が両側から受ける反発力による磁気的バネ作用によって所定位置が保持される。
【0026】
次に、負荷トルクが増大すると、中間円板27と出力円板25を結合する磁気的バネ要素に戻れ力が生じ、その力が前記磁気バネの保持力を超えると、両円板が相対回転する。その結果磁石の位置関係が変化し、中間円板27の磁石M1が中間円板移動用磁石側MOA側に移動し、両磁石の同極が対向するため、相互に反発し、中間円板27に作用するスラスト方向が反転し、中間磁性体29は入力管14に設けられた外側コ字状磁性体16と対向する位置にスライドし、中間磁性体29に設けた磁石30により、両磁性体は磁気結合し、中間磁性体29の外歯29aが外側コ字状磁性体16の歯部16aと噛合し、変速機は低速モードに遷移して、出力円板25に設けた連結手段25aを介して巻上牽引機の駆動部材12または図2に示すクラッチ板35を高負荷に対応した低速回転を行う。
【0027】
上記した通り、本実施の形態の負荷型自動変速装置は、低負荷高速時には、図8(b)に示すように出力管26の中間磁性体29は内側コ字状磁性体23に接続し、ハンドホイール6に連結する入力管14の回転は、遊星ギヤ17、遊星ギヤ17と噛合する太陽歯車24aで増速され、太陽ギヤ軸24を増速回転し、太陽ギヤ軸24に固設された内側コ字状磁性体23の歯23aと中間磁性体29の内歯29bが噛合し、中間磁性体29及び出力管26が高速回転し、出力円板25に設けた連結手段25aを介して巻上牽引機の駆動部材12または図2に示すクラッチ板35を低負荷に対応した高速回転を行う。
【0028】
上記した動作時において、高負荷低速時には、図8(a)に示すように、出力管26の中間磁性体29は入力管14に設けた外側コ字状磁性体16に接続し、外側コ字状磁性体16の歯部16aと中間磁性体29の外側歯29aが噛合し、出力管26は入力管14と同速で回転する。この動作時に、出力管26に設けた中間円板27と出力円板25の磁気的連結は遮断されているので、出力管26が回転すると、出力円板25に設けた高トルク伝達部材28と中間円板27に設けたトルク伝達孔27aの相対位置が図6から、高トルク伝達部材28がトルク伝達孔27aの端部に当接する図7の状態に変位し、出力管26の回転は高トルク伝達部材28を介して出力円板25を低速回転し、出力円板25に設けた連結手段25aを介して巻上牽引機の駆動部材12または図2に示すクラッチ板35を低速回転する。
【0029】
駆動部材12が高速または低速で回転すると、駆動部材12はブレーキ板10a、10b、爪車11を受圧部材8に押圧し、受圧部材8を介して駆動軸4を回転し、駆動軸4の端部に設けたピニオンギヤ5aと噛合する減速ギヤ7と噛合するロードギヤ3aを介してロードシーブ3を回転する。
【0030】
また、図2に示す実施例のように、駆動部材12と変速装置の出力円板25間にクラッチ板35、磨耗板36、クラッチ押え37、押圧バネ38、トルク設定用ナット39からなるフリクションクラッチ手段を備える構成とすると、吊り上げ荷重が超過しても、フリクションクラッチが滑ることで、自動変速機に所定のトルク以上の負荷が掛かるのを防ぎ、変速装置の故障の発生を防止することができる。フリクションクラッチのトルク値はトルク設定用ナット39で押圧バネ38のバネ力を所定値に調整することで適宜設定される。
【0031】
上記実施の形態において、外側コ字状磁性体16は外周フレーム20に設けた軸受け19eによって外周を軸支する構成として説明したが、入力管14を外周フレーム20に設けた軸受けで軸支し、外側コ字状磁性体16の軸受けを省略することもできる。また、プラネタリキャリア15の軸受けを外周フレーム20に設けた軸受けで軸支することもできる。
【0032】
また、外側コ字状磁性体16を入力管14の端面に直接設けることもできる。
【0033】
また、ハンドホイール6を連結する入力管14を軸受け19eで外周フレーム20に回転可能に軸支する構成として説明したが、ハンドホイール6を本体フレームによって軸支するようにすることも、また、駆動部材12の外周で軸支する構成とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】オーバロード機構を有しない形態の巻上牽引機の側面断面図。
【図2】オーバロード機構を有する形態の巻上牽引機の側面断面図。
【図3】高トルク低速回転時の負荷感応型自動変速装置の側面断面図。
【図4】低トルク高速回転時の負荷感応型自動変速装置の側面断面図。
【図5】負荷感応型自動変速装置の分解概要図。
【図6】低負荷高速回転時の負荷感応型自動変速装置の正面断面図。
【図7】高負荷低速回転時の負荷感応型自動変速装置の正面断面図。
【図8】(a)は高負荷低速回転時のスケルトン図、(b)は低負荷高速回転時のスケルトン図。
【図9】(a)はスラスト変換機構の構成説明図、(b)は断面図。
【図10】(a)は磁気クラッチ機構の構成説明図、(b)は断面図。
【符号の説明】
【0035】
3 ロードシーブ
4 駆動軸
6 ハンドホイール
7 減速ギヤ
8 受圧部材
10a、10b ブレーキ板
11 爪車
12 駆動部材
14 入力管
15 プラネタリーキャリア
16 外側コ字状磁性体
17 遊星ギヤ
19a〜19e 軸受け
20 外周フレーム
21 アウターギヤ
23 内側コ字状磁性体
24 太陽ギヤ軸/出力軸
25 出力円板
25a 連結手段
25b 中空軸
26 出力管
27 中間円板
27a 連結孔
28 高トルク伝達部材
29 中間磁性体
30 磁石
35 クラッチ板
36 磨耗板
37 クラッチ押え
38 押圧バネ
39 トルク設定用ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上牽引機のハンドホイールと駆動部材間に負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上牽引機であって、ハンドホイールに連結された入力管の端面に設けられた外側磁性体と、入力管の回転を増速装置を介して高速回転し、入力管の回転中心上に軸芯を有する出力軸に固設された内側磁性体と、前記外側磁性体と内側磁性体の中間に、磁性体位置切り替え手段により、出力軸の軸線方向に移動可能な出力管の一端に設けられ、前記外側磁性体と内側磁性体のいずれか一方の歯部と噛合可能な外側及び内側歯部を有し、高速及び低速回転の切り替えを行う中間磁性体と、出力管の駆動を駆動力伝達手段を介して巻上牽引機の駆動部材に伝達する出力伝達手段を備え、負荷トルクにより中間磁性体を内側磁性体または外側磁性体に対向させ、駆動部材の回転を高速または低速回転に切り替えることを特徴とする負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上牽引機。
【請求項2】
前記入力管を巻上牽引機に固設された外周フレームの内周に回転自在に軸支し、出力伝達手段を入力管の内周に回転自在に軸支し、入力管及び出力伝達手段の回転中心を巻上牽引機の駆動軸と同一軸線上に設けたことを特徴とする請求項1記載の負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上牽引機。
【請求項3】
前記増速装置は、入力管の端部に設けたプラネタリーキャリアに軸着された遊星歯車と、外周フレームの端部に設けたアウターギヤ支持フレームの開口部内面に設けられ、前記遊星歯車が内接噛合するアウターギヤと、太陽ギヤ軸の端部に設けられ、前記遊星歯車と内接噛合する太陽ギヤであることを特徴とする請求項1記載の負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上牽引機。
【請求項4】
前記磁性体位置切り替え手段は、出力管の他端に設けられた中間円板に固設された位置切り替え磁石と、出力伝達手段に固設され、前記位置切り替え磁石に対向する一対の出力管移動磁石と、出力管移動磁石の両側に設けられた出力管戻し磁石であり、一定以上のトルクが出力伝達手段と中間円板間に加わると、両部材の相対位置が移動し、磁石の反発により中間円板を軸方向にスライドさせ、トルクが低下すると原位置に復帰するように、中間円板と出力伝達手段を磁気的に結合したことを特徴とする請求項1記載の負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上牽引機。
【請求項5】
前記駆動力伝達手段は、低トルク時に出力管と出力伝達手段を磁気的に連結する磁石と、高トルク時に出力管と出力伝達手段を機械的に連結する高トルク伝達部材であることを特徴とする請求項1記載の負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上牽引機。
【請求項6】
前記中間磁性体の外側及び内側歯部間に磁性体連結用磁石を設け、中間磁性体の歯部を外側磁性体と内側磁性体のいずれか一方の歯部と噛合するように磁気的に結合することを特徴とする請求項1記載の負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上牽引機。
【請求項7】
前記出力伝達手段をクラッチ板に設けた係合孔に係合する連結手段でクラッチ板と連結し、クラッチ板を介して駆動部材を駆動することを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上牽引機。
【請求項8】
前記出力伝達手段を駆動部材に設けた係合孔に係合する連結手段で駆動部材と連結したことを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上牽引機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−236209(P2009−236209A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82730(P2008−82730)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000129367)株式会社キトー (101)
【Fターム(参考)】