説明

負荷駆動装置およびそれを備える車両ならびに負荷駆動装置の制御方法

【課題】並列接続された複数の蓄電装置を含む負荷駆動装置において、複数の蓄電装置の能力を十分に生かして動力性能を確保するとともに各部品を過電流から適切に保護する。
【解決手段】Wout算出部104は、各蓄電装置の制限値Wout1,Wout2を加算して蓄電部の出力電力制限値Woutを算出する。超過電流FB制御部108は、電流IB1,IB2,IBTの少なくとも1つが予め定められたしきい値を超過すると、超過電流FB制御を実行する。Woutf補正処理部112は、電流IB1,IB2,IBTの少なくとも1つがしきい値に達したタイミングで、モータパワー算出部110に与えられる出力電力制限値Woutをモータパワー指令値Pmに補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、負荷駆動装置およびそれを備える車両ならびに負荷駆動装置の制御方法に関し、特に、並列接続された複数の蓄電装置を含む負荷駆動装置における過電流防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2002−84666号公報(特許文献1)は、電気自動車用のバッテリシステムを開示する。このバッテリシステムにおいては、バッテリは、直列接続された複数の単位電池セルを含む。複数の単位電池セルの各々には、放電回路が設けられる。走行用モータの停止時にマイコンが定期的に起動され、各単位電池セルのSOCが算出される。そして、単位電池セル間のSOCの偏差が所定値以上の場合には、マイコンからの放電制御信号によって放電回路が駆動される。これにより、各単位電池セルの容量が補正される。
【0003】
このバッテリシステムによれば、複数の単位電池セルの自己放電量のばらつきを容易に補正することができる。その結果、バッテリの容量を十分に引き出せるとともに、バッテリシステムの信頼性を向上できるとされる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−84666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハイブリッド自動車や電気自動車などの電動車両において、加速性能や走行持続距離などの走行性能を高めるために蓄電部の大容量化が進んでいる。蓄電部を大容量化するための一手段としては、複数の蓄電装置を並列接続する構成が検討されている。このようなシステムにおいては、複数の蓄電装置の能力を十分に生かして車両の動力性能を確保しつつ、各蓄電装置における部品(たとえばヒューズ)および各蓄電装置からの合計電流を受ける部品(システムメインリレーや、蓄電部に接続される昇圧装置のパワー素子など)を過電流から適切に保護する必要がある。上記の特開2002−84666号公報では、このような課題およびその解決手法については検討されていない。
【0006】
この発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、その目的は、並列接続された複数の蓄電装置を含む負荷駆動装置において、複数の蓄電装置の能力を十分に生かして動力性能を確保するとともに各部品を過電流から適切に保護することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によれば、負荷駆動装置は、蓄電部と、駆動装置と、複数の第1の電流センサと、第2の電流センサと、制御装置とを備える。蓄電部は、並列接続された複数の蓄電装置を含む。駆動装置は、蓄電部から供給される電力を用いて負荷を駆動する。複数の第1の電流センサは、複数の蓄電装置に対応して設けられ、各センサは、対応の蓄電装置の入出力電流を検出する。第2の電流センサは、蓄電部の入出力電流を検出する。制御装置は、複数の第1の電流センサおよび第2の電流センサの各々の検出値、ならびに各蓄電装置の出力電力に対して設定される制限値(Wout1,Wout2)に基づいて駆動装置を制御する。制御装置は、電力制限値算出部と、フィードバック制御部と、電力制限値補正部とを含む。電力制限値算出部は、各蓄電装置の制限値を加算して、蓄電部から出力可能な電力を示す出力電力制限値(Wout)を算出する。フィードバック制御部は、複数の第1の電流センサおよび第2の電流センサの少なくとも1つの検出値が予め定められたしきい値を超過すると、その超過量に基づいて出力電力制限値を補正する超過電流フィードバック制御を実行する。電力制限値補正部は、複数の第1の電流センサおよび第2の電流センサの少なくとも1つの検出値が上記しきい値に達したタイミングで、負荷のパワーを示す値に出力電力制限値(Woutf)を補正する。
【0008】
好ましくは、しきい値は、複数の第1の電流センサおよび第2の電流センサの検出値ごとに設定される。フィードバック制御部は、複数の制御演算部と、最大値選択部とを含む。複数の制御演算部は、複数の第1の電流センサおよび第2の電流センサの検出値ごとにフィードバック制御演算を実行する。最大値選択部は、各制御演算部により算出される制御量のうち最大のものを選択して、出力電力制限値の補正量として出力する。
【0009】
さらに好ましくは、各制御演算部は、積分項を含む。電力制限値補正部は、出力電力制限値が負荷のパワーを示す値となるように積分項を補正する。
【0010】
また、この発明によれば、車両は、上述したいずれかの負荷駆動装置と、負荷駆動装置によって駆動される電動機と、電動機によって駆動される駆動輪とを備える。
【0011】
また、この発明によれば、制御方法は、負荷駆動装置の制御方法である。負荷駆動装置は、蓄電部と、駆動装置と、複数の第1の電流センサと、第2の電流センサとを備える。蓄電部は、並列接続された複数の蓄電装置を含む。駆動装置は、蓄電部から供給される電力を用いて負荷を駆動する。複数の第1の電流センサは、複数の蓄電装置に対応して設けられ、各センサは、対応の蓄電装置の入出力電流を検出する。第2の電流センサは、蓄電部の入出力電流を検出する。そして、制御方法は、各蓄電装置の出力電力に対して設定される制限値(Wout1,Wout2)を加算して、蓄電部から出力可能な電力を示す出力電力制限値(Wout)を算出するステップと、複数の第1の電流センサおよび第2の電流センサの少なくとも1つの検出値が予め定められたしきい値に達したタイミングで、負荷のパワーを示す値に出力電力制限値(Woutf)を補正するステップと、複数の第1の電流センサおよび第2の電流センサの少なくとも1つの検出値が上記しきい値を超過すると、その超過量に基づいて出力電力制限値を補正する超過電流フィードバック制御を実行するステップとを含む。
【0012】
好ましくは、しきい値は、複数の第1の電流センサおよび第2の電流センサの検出値ごとに設定される。超過電流フィードバック制御を実行するステップは、複数の第1の電流センサおよび第2の電流センサの検出値ごとにフィードバック制御演算を実行するステップと、フィードバック制御演算を実行するステップにより算出される制御量のうち最大のものを選択して、出力電力制限値の補正量として出力するステップとを含む。
【0013】
さらに好ましくは、フィードバック制御演算は、積分項を含む。出力電力制限値を補正するステップは、出力電力制限値が負荷のパワーを示す値となるように積分項を補正するステップを含む。
【発明の効果】
【0014】
この発明においては、出力電力制限値(Wout)は、各蓄電装置の制限値(Wout1,Wout2)を加算して求められる。また、複数の第1の電流センサおよび第2の電流センサの少なくとも1つの検出値がしきい値を超過すると、超過電流フィードバック制御が実行される。さらに、複数の第1の電流センサおよび第2の電流センサの少なくとも1つの検出値がしきい値に達したタイミングで、負荷のパワーを示す値に出力電力制限値が補正される。これにより、蓄電部の出力電力が不必要に制限されることなく、複数の蓄電装置および蓄電部の各出力電流がしきい値以下に抑えられる。
【0015】
したがって、この発明によれば、並列接続された複数の蓄電装置を含む負荷駆動装置において、複数の蓄電装置の能力を十分に生かして動力性能を確保するとともに各部品を過電流から適切に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の形態による負荷駆動装置を備える車両の全体構成図である。
【図2】図1に示す制御装置の構成を詳細に説明するための機能ブロック図である。
【図3】蓄電装置の制限値の一例を示した図である。
【図4】蓄電装置の制限値の参考例を示した図である。
【図5】電流および出力電力制限値を示した図である。
【図6】図2に示す超過電流FB制御部の詳細な機能ブロック図である。
【図7】図1に示す制御装置により実行される処理の手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0018】
図1は、この発明の実施の形態による負荷駆動装置を備える車両の全体構成図である。図1を参照して、車両100は、蓄電部10と、システムメインリレー(以下「SMR(System Main Relay)」とも称する。)20と、昇圧コンバータ30と、インバータ40と、モータジェネレータ50と、駆動輪55と、制御装置60と、電流センサ82,84,86とを備える。
【0019】
蓄電部10は、蓄電装置B1,B2と、ヒューズ72,74とを含む。蓄電装置B1,B2は、並列に接続される。各蓄電装置B1,B2は、再充電可能な直流電源であり、たとえば、ニッケル水素やリチウムイオン等の二次電池によって構成される。各蓄電装置B1,B2は、走行用の電力を蓄えており、昇圧コンバータ30へ電力を供給する。また、車両100の制動時には、モータジェネレータ50によって発電された電力を受けて充電される。なお、各蓄電装置B1,B2を、二次電池に代えて大容量のキャパシタ等によって構成してもよい。
【0020】
ヒューズ72,74は、それぞれ蓄電装置B1,B2に対応して設けられる。ヒューズ72は、蓄電装置B1に所定の過電流が流れると蓄電装置B1の電路を遮断するように構成される。また、ヒューズ74も、蓄電装置B2に所定の過電流が流れると蓄電装置B2の電路を遮断するように構成される。
【0021】
電流センサ82は、蓄電装置B1に流れる電流IB1を検出し、その検出値を制御装置60へ出力する。電流センサ84は、蓄電装置B2に流れる電流IB2を検出し、その検出値を制御装置60へ出力する。
【0022】
SMR20は、蓄電部10と昇圧コンバータ30との間に設けられる。SMR20は、制御装置60によって駆動される。制御装置60からオン指令を受けると、SMR20は、蓄電部10を昇圧コンバータ30に電気的に接続する。一方、制御装置60からオフ指令を受けると、SMR20は、蓄電部10を昇圧コンバータ30から電気的に切離す。
【0023】
電流センサ86は、蓄電部10の入出力電流を示す電流IBTを検出し、その検出値を制御装置60へ出力する。すなわち、電流センサ86は、電流IB1と電流IB2との合計電流を検出する。
【0024】
昇圧コンバータ30は、SMR20とインバータ40との間に設けられる。昇圧コンバータ30は、制御装置60からの信号PWCに基づいて、正極線PL2および負極線NL間の電圧(以下「システム電圧」とも称する。)を蓄電部10の出力電圧以上に昇圧する。昇圧コンバータ30は、たとえば、正極線PL1に接続されるリアクトルと、正極線PL2および負極線NL間に直列接続される上アームおよび下アームとを含む電流可逆チョッパ回路によって構成される。
【0025】
インバータ40は、昇圧コンバータ30とモータジェネレータ50との間に設けられる。インバータ40は、制御装置60からの信号PWIに基づいて、昇圧コンバータ30から供給される直流電力を三相交流に変換してモータジェネレータ50へ出力し、モータジェネレータ50を駆動する。また、車両100の制動時、インバータ40は、モータジェネレータ50により発電された三相交流電力を信号PWIに基づいて直流に変換し、正極線PL2へ出力する。インバータ40は、たとえば、三相分のスイッチング素子を含むブリッジ回路によって構成される。
【0026】
モータジェネレータ50は、駆動輪55に機械的に連結される。モータジェネレータ50は、インバータ40によって駆動され、走行用の駆動力を発生する。また、モータジェネレータ50は、車両100の制動時、車両の運動エネルギーを駆動輪55から受けて発電する。なお、車両100がハイブリッド車両であれば、モータジェネレータ50は、図示されないエンジンに機械的に連結され、エンジンの動力を用いて発電し、かつ、エンジンの始動も行なうものとして、ハイブリッド車両に組み込まれてもよい。
【0027】
制御装置60は、システム電圧や蓄電部10の電圧の各検出値に基づいて、昇圧コンバータ30を駆動するための信号PWCを生成する。制御装置60は、その生成された信号PWCを昇圧コンバータ30へ出力する。なお、システム電圧や蓄電部10の電圧は、図示されない電圧センサによって検出される。
【0028】
また、制御装置60は、電流IB1,IB2の検出値をそれぞれ電流センサ82,84から受ける。さらに、制御装置60は、電流IBTの検出値を電流センサ86から受ける。そして、制御装置60は、電流IB1,IB2,IBTの各検出値、および蓄電装置B1,B2の出力電力に対してそれぞれ設定される制限値Wout1,Wout2に基づいて、モータジェネレータ50を駆動するための信号PWIを生成する。制御装置60は、その生成された信号PWIをインバータ40へ出力する。
【0029】
図2は、図1に示した制御装置60の構成を詳細に説明するための機能ブロック図である。図2を参照して、制御装置60は、各Wout設定部102と、Wout算出部104と、減算部106と、超過電流フィードバック(FB)制御部108と、モータパワー算出部110と、Woutf補正処理部112と、モータトルク算出部114と、インバータ制御部116とを含む。
【0030】
各Wout設定部102は、蓄電装置B1の出力電力の制限値Wout1および蓄電装置B2の出力電力の制限値Wout2を設定する。制限値Wout1(Wout2)は、蓄電装置B1(B2)の充電状態(以下「SOC(State Of Charge)」とも称する。)や温度等に基づいて設定される。なお、蓄電装置B1(B2)のSOCは、蓄電装置B1(B2)の電圧検出値や電流IB1(IB2)の検出値を用いて、種々の公知の手法により算出することができる。
【0031】
Wout算出部104は、各Wout設定部102により設定された制限値Wout1,Wout2を加算して、蓄電部10から出力可能な電力を示す出力電力制限値Woutを算出する。
【0032】
減算部106は、超過電流FB制御部108(後述)から受ける制御量CBを、Wout算出部104により算出された出力電力制限値Woutから減算する。減算部106は、その減算結果を出力電力制限値Woutfとしてモータパワー算出部110へ出力する。すなわち、出力電力制限値Woutfは、Wout算出部104により算出された出力電力制限値Woutを超過電流FB制御により補正したものである。
【0033】
超過電流FB制御部108は、電流IB1,IB2,IBTの各検出値を受ける。超過電流FB制御部108は、電流IB1,IB2,IBTの検出値の少なくとも1つが予め定められたしきい値を超過すると、その超過量に基づいて超過電流FB制御を実行する。詳しくは、超過電流FB制御部108は、しきい値を超過した電流がしきい値を下回るように、しきい値からの超過量に基づいて出力電力制限値Woutを補正する。なお、超過電流FB制御の演算結果は、出力電力制限値Woutを補正するための制御量CBとして減算部106へ出力される。
【0034】
ここで、電流IB1,IB2,IBTの検出値の少なくとも1つがしきい値に達したタイミングで、超過電流FB制御の積分項がWoutf補正処理部112により補正される。詳しくは、モータパワー算出部110に与えられる出力電力制限値Woutfがモータジェネレータ50のパワーを示す値(たとえばモータパワー指令値Pm)となるように超過電流FB制御の積分項が補正される。なお、超過電流FB制御部108の積分項が補正されても、その補正後の超過電流FB制御は許容される。
【0035】
すなわち、電流IB1,IB2,IBTの検出値の少なくとも1つがしきい値に達すると、そのタイミングで、超過電流FB制御の積分項を補正することによって出力電力制限値Woutfがモータジェネレータ50のパワーを示す値に補正される。さらに、電流IB1,IB2,IBTの検出値の少なくとも1つがしきい値を超過すると、超過電流FB制御部108により超過電流FB制御が実行される。
【0036】
モータパワー算出部110は、アクセル開度を示すアクセル開度信号ACC、および車両速度を示す車速信号VSを受ける。なお、アクセル開度および車両速度の各々は、図示されないセンサによって検出される。モータパワー算出部110は、アクセル開度や車両速度等に基づいて、モータジェネレータ50(図1)に対して要求されるモータパワーを示すモータパワー指令値Pmを算出する。ここで、減算部106から受ける出力電力制限値Woutfをモータパワー指令値Pmが超える場合には、モータパワー指令値Pmは出力電力制限値Woutfに制限される。
【0037】
Woutf補正処理部112は、モータジェネレータ50のパワーを示す値(たとえばモータパワー指令値Pm)をモータパワー算出部110から受ける。そして、電流IB1,IB2,IBTの検出値の少なくとも1つがしきい値に達すると、Woutf補正処理部112は、モータパワー算出部110に与えられる出力電力制限値Woutfがモータジェネレータ50のパワーを示す値となるように超過電流FB制御の積分項を補正する。なお、電流IB1,IB2,IBTの検出値の少なくとも1つがしきい値に達したか否かは、超過電流FB制御部108から通知を受けて判断してもよいし、電流IB1,IB2,IBTの検出値をWoutf補正処理部112が受けて判断してもよい。
【0038】
モータトルク算出部114は、モータパワー算出部110により算出されたモータパワー指令値Pmを受ける。そして、モータトルク算出部114は、モータパワー指令値Pmをモータジェネレータ50の回転数Nmで除算して、モータジェネレータ50に対して要求されるモータトルクを示すトルク指令値TRを算出する。
【0039】
インバータ制御部116は、トルク指令値TRで示されるモータトルクをモータジェネレータ50が出力するようにインバータ40(図1)を駆動するためのPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成する。インバータ制御部116は、その生成されたPWM信号を信号PWIとしてインバータ40へ出力する。
【0040】
上述のように、この実施の形態においては、蓄電部10は、並列接続された蓄電装置B1,B2によって構成される。そして、蓄電部10の出力電力制限値Woutは、蓄電装置B1,B2の制限値Wout1,Wout2を加算することによって算出される。
【0041】
図3は、蓄電装置B1,B2の制限値Wout1,Wout2の一例を示した図である。図3を参照して、蓄電装置B1,B2が同一のものであったとしても、設置環境により蓄電装置B1,B2の温度やSOC等にばらつきが生じるなどして制限値Wout1,Wout2に差異が生じ得る。ここで、この実施の形態では、制限値Wout1,Wout2の加算値を蓄電部10の出力電力制限値Woutとしている。よって、制限値Wout1,Wout2に差異が生じても、蓄電部10が出力し得る最大限の電力をモータジェネレータ50へ供給できる。
【0042】
しかしながら、制限値Wout1,Wout2に差異が生じているにも拘わらず蓄電装置B1,B2の内部抵抗に大きな差異がないような場合には、蓄電装置B1,B2からの出力が平均化されることにより、制限値が小さい方の蓄電装置(図3ではB1)において制限値を超え得る。そこで、この実施の形態では、上述の超過電流FB制御が動作すると、モータパワー算出部110に与えられる出力電力制限値Woutfを、モータジェネレータ50のパワーを示す値(モータパワー指令値Pm)に絞ることとしたものである。これにより、モータジェネレータ50の動力性能を最大限に確保しつつ、過電流防止による部品保護も実現することが可能となる。
【0043】
なお、部品保護の観点からは、図4に示すように、蓄電装置B1,B2の制限値Wout1,Wout2のうち小さい方(図4ではWout1)を2倍したものを蓄電部10の出力電力制限値Woutとすることも考えられる。しかしながら、この場合は、制限値Wout1,Wout2のうち大きい方(図4ではWout2)において不感帯が生じることとなり、蓄電装置B2の能力を最大限に用いることができなくなる。そこで、上述のように、この実施の形態では、出力電力制限値Woutを制限値Wout1,Wout2の加算値とし、かつ、超過電流FB制御の動作時は出力電力制限値Woutfをモータパワー値に補正することで、蓄電部10からモータジェネレータ50への電力供給能力を最大限に確保しつつ部品保護にも配慮したものである。
【0044】
図5は、電流IBおよび出力電力制限値Woutfを示した図である。図5を参照して、電流IBは、電流IB1,IB2,IBTのうち、時刻t1において上限値IBUに達したものを示す。すなわち、時刻t1において、電流IB1,IB2,IBTのいずれかが上限値IBUに達したものとする。なお、上限値IBUは、電流IB1(IB2),IBT毎に異なる。
【0045】
時刻t1において電流IBが上限値IBUに達すると、電流IBに基づく超過電流FB制御が動作する。さらに、この実施の形態では、電流IBが上限値IBUに達したタイミングで、モータパワー算出部110に与えられる出力電力制限値Woutfがモータジェネレータ50のパワーを示す値(たとえばモータパワー指令値Pm)に補正される。これにより、時刻t1以降の電力超過および電流超過を確実に防止することができる。
【0046】
図6は、図2に示した超過電流FB制御部108の詳細な機能ブロック図である。図6を参照して、超過電流FB制御部108は、超過電流算出処理部122,124と、PI制御部126,128,130と、最大値選択部132とを含む。
【0047】
超過電流算出処理部122は、電流センサ82,84(図1)からそれぞれ電流IB1,IB2の検出値を受ける。そして、超過電流算出処理部122は、電流IB1が予め定められたしきい値を超過すると、その超過電流ΔI1を算出してPI制御部126へ出力する。同様に、超過電流算出処理部122は、電流IB2が上記しきい値を超過すると、その超過電流ΔI2を算出してPI制御部128へ出力する。なお、上記しきい値は、たとえば、蓄電装置B1,B2にそれぞれ設けられるヒューズ72,74の仕様に基づいて決定される。
【0048】
超過電流算出処理部124は、電流センサ86(図1)から電流IBTの検出値を受ける。そして、超過電流算出処理部124は、電流IBTが予め定められたしきい値を超過すると、その超過電流ΔITを算出してPI制御部130へ出力する。なお、この超過電流算出処理部124において用いられる上記しきい値は、たとえば、SMR20や昇圧コンバータ30を構成するパワー素子等の仕様に基づいて決定される。
【0049】
PI制御部126は、電流IB1についての超過電流ΔI1を入力として比例積分(PI)演算を実行し、その演算結果を制御量CB1として出力する。PI制御部128は、電流IB2についての超過電流ΔI2を入力として比例積分演算を実行し、その演算結果を制御量CB2として出力する。PI制御部130は、電流IBTについての超過電流ΔITを入力として比例積分演算を実行し、その演算結果を制御量CBTとして出力する。
【0050】
ここで、電流IB1,IB2,IBTの少なくとも1つが対応のしきい値に達したタイミングで、Woutf補正処理部112(図2)によってPI制御部126,128,130の積分項が補正される。具体的には、出力電力制限値Woutfがモータジェネレータ50のパワーを示す値(たとえばモータパワー指令値Pm)となるように積分項が補正される。
【0051】
最大値選択部132は、PI制御部126,128,130からそれぞれ制御量CB1,CB2,CBTを受ける。そして、最大値選択部132は、制御量CB1,CB2,CBTのうち絶対値が最大のものを選択して制御量CBとして減算部106(図2)へ出力する。
【0052】
すなわち、この超過電流FB制御部108においては、蓄電装置B1,B2および蓄電部10毎に電流しきい値が設定される。そして、電流IB1,IB2,IBT毎に超過電流FB制御が実行され、制御量が最大のものが最終的な制御量CBとして出力される。これにより、蓄電装置B1,B2毎に部品保護を実現できるとともに、蓄電部10から電流を受けるSMR20や昇圧コンバータ30等の部品保護も実現できる。
【0053】
図7は、図1に示した制御装置60により実行される処理の手順を説明するためのフローチャートである。この図7では、出力電力制限値Woutの補正処理に関する手順について示される。なお、フローチャートに示される処理は、一定時間ごとまたは所定の条件の成立時にメインルーチンから呼出されて実行される。
【0054】
図7を参照して、制御装置60は、電流センサ82,84,86からそれぞれ電流IB1,IB2,IBTの検出値を取得する(ステップS10)。次いで、制御装置60は、蓄電装置B1,B2の制限値Wout1,Wout2を加算して蓄電部10の出力電力制限値Woutを算出する(ステップS20)。
【0055】
次いで、制御装置60は、電流IB1,IB2,IBTの少なくとも1つが予め定められたしきい値に達したか否かを判定する(ステップS30)。電流IB1,IB2,IBTの少なくとも1つがしきい値に達したと判定されると(ステップS30においてYES)、制御装置60は、超過電流FB制御の積分項を補正することによって、出力電力制限値Woutfをモータパワー指令値Pmに補正する(ステップS40)。なお、電流IB1,IB2,IBTのいずれもしきい値に達していないと判定されたときは(ステップS30においてNO)、ステップS40の処理は実行されずにステップS50へ処理が移行される。
【0056】
次いで、制御装置60は、電流IB1,IB2,IBTの少なくとも1つがしきい値を超過しているか否かを判定する(ステップS50)。電流IB1,IB2,IBTの少なくとも1つがしきい値を超過していると判定されると(ステップS50においてYES)、制御装置60は、電流IB1,IB2,IBT毎に上述した超過電流FB制御演算を実行する(ステップS60)。そして、制御装置60は、電流IB1,IB2,IBT毎に算出された制御量CB1,CB2,CBTのうち最大のものを選択してWout補正量(制御量)として出力する(ステップS70)。
【0057】
なお、ステップS50において電流IB1,IB2,IBTのいずれもしきい値を超えていないと判定されたときは(ステップS50においてNO)、ステップS60,S70は実行されずにステップS80へ処理が移行される。
【0058】
以上のように、この実施の形態においては、蓄電部10の出力電力制限値Woutは、蓄電装置B1,B2の制限値Wout1,Wout2を加算して求められる。また、電流センサ82,84および電流センサ86の少なくとも1つの検出値がしきい値を超過すると、超過電流FB制御が実行される。さらに、電流センサ82,84および電流センサ86の少なくとも1つの検出値がしきい値に達したタイミングで、モータジェネレータ50のパワーを示す値(たとえばモータパワー指令値Pm)に出力電力制限値Woutfが補正される。これにより、蓄電部10の出力電力が不必要に制限されることなく、蓄電装置B1,B2および蓄電部10の各出力電流がしきい値以下に抑えられる。
【0059】
したがって、この実施の形態によれば、並列接続された複数の蓄電装置B1,B2を含む負荷駆動装置において、複数の蓄電装置B1,B2の能力を十分に生かして動力性能を確保するとともに各部品を過電流から適切に保護することができる。
【0060】
なお、上記の実施の形態においては、蓄電部10は、並列接続された2つの蓄電装置B1,B2を含むものとしたが、3つ以上の蓄電装置を並列接続して蓄電部10を構成してもよい。また、上記の実施の形態は、昇圧コンバータ30を備えるものとしたが、この発明は、昇圧コンバータ30を備えないシステムにも適用可能である。
【0061】
また、上記の実施の形態において、車両100は、モータジェネレータ50を唯一の走行用動力源とする電気自動車であってもよいし、走行用動力源としてエンジンをさらに搭載したハイブリッド車両であってもよく、さらには、蓄電部10に加えて燃料電池をさらに搭載した燃料電池車であってもよい。
【0062】
なお、上記において、インバータ40は、この発明における「駆動装置」の一実施例に対応する。また、電流センサ82,84は、この発明における「複数の第1の電流センサ」の一実施例に対応し、電流センサ86は、この発明における「第2の電流センサ」の一実施例に対応する。
【0063】
さらに、Wout算出部104は、この発明における「電力制限値算出部」の一実施例に対応し、超過電流FB制御部108は、この発明における「フィードバック制御部」の一実施例に対応する。また、さらに、Woutf補正処理部112は、この発明における「電力制限値補正部」の一実施例に対応し、PI制御部126,128,130は、この発明における「複数の制御演算部」の一実施例に対応する。
【0064】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
10 蓄電部、20 SMR、30 昇圧コンバータ、40 インバータ、50 モータジェネレータ、55 駆動輪、60 制御装置、72,74 ヒューズ、82,84,86 電流センサ、100 車両、102 各Wout設定部、104 Wout算出部、106 減算部、108 超過電流FB制御部、110 モータパワー算出部、112 Woutf補正処理部、114 モータトルク算出部、116 インバータ制御部、B1,B2 蓄電装置、PL1,PL2 正極線、NL 負極線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列接続された複数の蓄電装置を含む蓄電部と、
前記蓄電部から供給される電力を用いて負荷を駆動する駆動装置と、
前記複数の蓄電装置に対応して設けられ、各々が対応の蓄電装置の入出力電流を検出する複数の第1の電流センサと、
前記蓄電部の入出力電流を検出する第2の電流センサと、
前記複数の第1の電流センサおよび前記第2の電流センサの各々の検出値、ならびに前記複数の蓄電装置の各々の出力電力に対して設定される制限値に基づいて前記駆動装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記複数の蓄電装置の各々の前記制限値を加算して、前記蓄電部から出力可能な電力を示す出力電力制限値を算出する電力制限値算出部と、
前記複数の第1の電流センサおよび前記第2の電流センサの少なくとも1つの検出値が予め定められたしきい値を超過すると、その超過量に基づいて前記出力電力制限値を補正する超過電流フィードバック制御を実行するフィードバック制御部と、
前記複数の第1の電流センサおよび前記第2の電流センサの少なくとも1つの検出値が上記しきい値に達したタイミングで、前記負荷のパワーを示す値に前記出力電力制限値を補正する電力制限値補正部とを含む、負荷駆動装置。
【請求項2】
前記しきい値は、前記複数の第1の電流センサおよび前記第2の電流センサの検出値ごとに設定され、
前記フィードバック制御部は、
前記複数の第1の電流センサおよび前記第2の電流センサの検出値ごとにフィードバック制御演算を実行する複数の制御演算部と、
前記複数の制御演算部の各々により算出される制御量のうち最大のものを選択して、前記出力電力制限値の補正量として出力する最大値選択部とを含む、請求項1に記載の負荷駆動装置。
【請求項3】
前記複数の制御演算部の各々は、積分項を含み、
前記電力制限値補正部は、前記出力電力制限値が前記負荷のパワーを示す値となるように前記積分項を補正する、請求項2に記載の負荷駆動装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の負荷駆動装置と、
前記負荷駆動装置によって駆動される電動機と、
前記電動機によって駆動される駆動輪とを備える車両。
【請求項5】
負荷駆動装置の制御方法であって、
前記負荷駆動装置は、
並列接続された複数の蓄電装置を含む蓄電部と、
前記蓄電部から供給される電力を用いて負荷を駆動する駆動装置と、
前記複数の蓄電装置に対応して設けられ、各々が対応の蓄電装置の入出力電流を検出する複数の第1の電流センサと、
前記蓄電部の入出力電流を検出する第2の電流センサとを備え、
前記制御方法は、
前記複数の蓄電装置の各々の出力電力に対して設定される制限値を加算して、前記蓄電部から出力可能な電力を示す出力電力制限値を算出するステップと、
前記複数の第1の電流センサおよび前記第2の電流センサの少なくとも1つの検出値が予め定められたしきい値に達したタイミングで、前記負荷のパワーを示す値に前記出力電力制限値を補正するステップと、
前記複数の第1の電流センサおよび前記第2の電流センサの少なくとも1つの検出値が前記しきい値を超過すると、その超過量に基づいて前記出力電力制限値を補正する超過電流フィードバック制御を実行するステップとを含む、負荷駆動装置の制御方法。
【請求項6】
前記しきい値は、前記複数の第1の電流センサおよび前記第2の電流センサの検出値ごとに設定され、
前記超過電流フィードバック制御を実行するステップは、
前記複数の第1の電流センサおよび前記第2の電流センサの検出値ごとにフィードバック制御演算を実行するステップと、
前記フィードバック制御演算を実行するステップにより算出される制御量のうち最大のものを選択して、前記出力電力制限値の補正量として出力するステップとを含む、請求項5に記載の負荷駆動装置の制御方法。
【請求項7】
前記フィードバック制御演算は、積分項を含み、
前記出力電力制限値を補正するステップは、前記出力電力制限値が前記負荷のパワーを示す値となるように前記積分項を補正するステップを含む、請求項6に記載の負荷駆動装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−60787(P2012−60787A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201843(P2010−201843)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】