説明

走査用対物レンズ、走査型プローブ、及び走査型内視鏡

【課題】小型かつ広視野角でありつつも良好な光学性能を有する走査用対物レンズを提供すること。
【解決手段】所定の湾曲面上を所定の軌跡で移動する光ファイバ射出端から射出された光を対象物上で走査させるための走査用対物レンズであって、光ファイバの射出端側から順に、正のパワーを有する第一レンズ群、正のパワーを有する第二レンズ群を有し、該第一レンズ群及び該第二レンズ群を所定の条件を満たすように構成した走査用対物レンズを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、極細径の光ファイバの先端を共振させて対象物を光走査して画像情報を取得する走査型プローブ、走査型内視鏡、及びこれらに好適な対物レンズ(以下、「走査用対物レンズ」と記す。)に関する。
【背景技術】
【0002】
医師が患者の体腔内を診断する際に使用する医療機器として、電子スコープが一般的に知られている。この種の電子スコープの先端部は、当該スコープの挿入部が患者の体腔内や微少な隙間に円滑に挿入されるように小型に設計されている。電子スコープの先端部には、種々の部品が実装されている。先端部の設計上可能な最小外形寸法は、寸法の大きい実装部品(例えば固体撮像素子)によって実質的に規定される。従って、先端部を細径化させるためには、より一層小型化された固体撮像素子等を選択することが望まれる。しかし、例えば固体撮像素子は、一般に小型であるほど、解像度やダイナミックレンジ、SN比等に関する性能が低下する。そのため、先端部を細径化させたい場合であっても、小型な固体撮像素子を安易に選択することはできない。
【0003】
そこで、固体撮像素子自体を不要とした構成を採用することによって、従来型の電子スコープ(つまり、固体撮像素子を搭載した電子スコープ)よりも細径化させることが可能な走査型プローブが提案されている。この種の走査型プローブを有する医療用観察システムの具体的構成例は、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の走査型プローブは、単一の光ファイバの先端を共振させて所定の走査光により対象物を所定の走査パターンで走査する。かかる走査型プローブは、対象物からの反射光を検出して光電変換しビデオプロセッサに順次出力する。ビデオプロセッサは、光電変換された信号を処理して画像化しモニタに出力する。医師は、このようにして得られた体腔内の映像を、電子スコープを使用した場合と同じくモニタを通じて観察し診断や施術等を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,856,712号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の走査型プローブは、光ファイバの射出端に走査用対物レンズ(マイクロレンズ)を備えている。当該走査型プローブにおいては、従来型の電子スコープと異なり、光源(ここでは光ファイバの射出端)が移動する。そのため、従来型の電子スコープに搭載されている対物レンズの場合と同じ技術的思想をもって走査用対物レンズを設計すると、従来想定し得ない異質の問題が生じることが想定される。例えば、光ファイバの射出端である光源が移動すると、その移動軌跡が描く仮想的な面は平面ではなく対物レンズに対して凸な曲面になる。そのため、像面湾曲が非常に大きくなることが想定される。このように、特許文献1に記載の走査用対物レンズには種々の問題が内在する。それにも拘わらず、特許文献1においてはこれらの問題が看過されており、当該走査用対物レンズの具体的構成について何ら記載がされていない。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、良好な画像を撮影するために好適に構成された走査型プローブ、走査型内視鏡、及び該走査型プローブ又は該走査型内視鏡に搭載された走査用対物レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る走査用対物レンズは、極細径の光ファイバの先端を共振させて対象物を光走査して画像情報を取得する走査型プローブに搭載される小型で視野角の広い走査用対物レンズであって、対物レンズ側に凸の湾曲面上を所定の軌跡で周期的に移動する光ファイバ射出端から射出された光を対象物上で走査させるのに適した光学性能を有している。具体的には、当該走査用対物レンズは、光ファイバの射出端側から順に、正のパワーを有する第一レンズ群、正のパワーを有する第二レンズ群を有している。そして、第一レンズ群の焦点距離をf1(単位:mm)と定義し、第二レンズ群の焦点距離をf2(単位:mm)と定義し、該第一レンズ群の各面のうち射出端側に最も近い面の曲率半径をR1a(単位:mm)と定義し、該第一レンズ群の各面のうち対象物側に最も近い面の曲率半径をR1b(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(1)、(2)
0.60<f1/f2<1.25・・・(1)
0.95<|R1a/R1b|<2.50・・・(2)
を同時に満たすように構成されている。
【0008】
条件式(1)の上限を超えると、光ファイバの射出端からの光を光軸側に屈折させる第一レンズ群のパワーが弱くなるため、レンズ径を大きく設計せざるを得ない。また、全系の正のパワーを確保するために第二レンズ群にパワーを負担させざるを得ず、第二レンズ群の中でも強い正のパワーを持つ光ファイバ射出端側の面の曲率半径が小さくなる。このことは、上記光ファイバ射出端側の面でのペッツバール値が大きくなり、像面湾曲の発生が大きくなることを意味する。条件式(1)の下限を下回ると、第一レンズ群のパワーが強くなり過ぎて、第一レンズ群に起因するコマ収差及び非点収差の発生が大きくなる。
【0009】
条件式(2)の上限を超えると、第一レンズ群の対象物側の面による非点収差の発生が大きくなると共に、光ファイバの射出端からの光を光軸側に屈折させる第一レンズ群の射出端側の面のパワーが弱くなるため、レンズ径を大きく設計せざるを得ない。条件式(2)の下限を下回ると、第一レンズ群の光ファイバ射出端側の面のパワーが強くなり過ぎて、当該レンズ面によるコマ収差の発生が大きくなる。
【0010】
本発明に係る走査用対物レンズは、光ファイバ射出端の移動軌跡が描く仮想的な面(すなわち物体面)の湾曲に伴って大きく発生した像面湾曲をより一層良好に補正するため、第二レンズ群の各面のうち対象物側に最も近い面が凹面であって、該凹面の曲率半径をR2b(単位:mm)と定義し、全系の焦点距離をf(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(3)
1.25<R2b/f<4.80・・・(3)
を満たすように構成されてもよい。
【0011】
条件式(3)の上限を超えると、第二レンズ群の対象物側の面のパワーが弱いため、像面湾曲が補正不足になる。条件式(3)の下限を下回ると、第二レンズ群の正のパワーを確保するために、第二レンズ群の光ファイバ射出端側の面の曲率半径を小さく設定せざるを得ない。その結果として、該射出端側の面による像面湾曲の発生が大きくなり、周辺解像度が著しく劣化する。また、該射出端側の面の曲率半径が小さくなるため、第二レンズ群のコバ厚を十分に確保できない。コバ厚が薄くなることによって第二レンズ群の加工が難しくなり、製造技術面の不利益が大きい。更に、第二レンズ群の対象物側の面のパワーが強くなり過ぎて、該面によるコマ収差の発生が大きくなる。
【0012】
ここで、第一レンズ群は、色収差を良好に補正すべく、射出端側から順に、第一の負レンズ、第一の正レンズが配置され、互いを貼り合わせた接合レンズであって、該第一レンズ群の光軸上の厚みをd1(単位:mm)と定義し、該第一の負レンズの光軸上の厚みをd11(単位:mm)と定義し、該第一の負レンズのe線に対するアッベ数をν11と定義し、該第一の正レンズのe線に対するアッベ数をν12と定義した場合に、次の条件式(4)、(5)
0.35<d11/d1<0.60・・・(4)
20<ν12−ν11・・・(5)
を同時に満たす構成としてもよい。
【0013】
条件式(4)の上限を超えると、第一の正レンズのコバ厚を確保するために接合面の曲率半径を大きくせざるを得なくなり、色収差が補正不足になる。条件式(4)の下限を下回ると、接合面での光束径が小さいため、軸上色収差を良好に補正できない。条件式(5)を満たさない場合には、接合面の曲率半径が小さくなるため、第一の正レンズのコバ厚を確保するのが難しくなる。加工自体も難しくなり、製造技術面の不利益が大きい。
【0014】
また、第二レンズ群は、像面湾曲及び軸上色収差をより一層良好に補正すべく、光ファイバの射出端側から順に、第二の正レンズ、第二の負レンズが配置され、互いを貼り合わせた接合レンズであって、該第二の負レンズのe線に対するアッベ数をν22と定義した場合に、次の条件式(6)
ν22<25・・・(6)
を満たす構成としてもよい。
【0015】
条件式(6)を満たさないと、軸上色収差が補正不足となる。
【0016】
第一、第二レンズ群の少なくとも一方は単レンズとしてもよい。
【0017】
本発明に係る走査用対物レンズは、更なる広視野角化や良好な収差補正を達成し、若しくは第一レンズ群又は第二レンズ群の設計の自由度を高めるべく、第二レンズ群の後段に、負のパワーを有する第三レンズ群を有する構成としてもよい。
【0018】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る走査型プローブ又は走査型内視鏡は、所定の光源から射出された光を対象物に向けて伝送する光ファイバと、該光ファイバ射出端が所定の湾曲面上を所定の軌跡で周期的に移動するように該光ファイバを振動させる振動手段と、射出端から射出された光を対象物上で走査させるための上記の何れかに記載の走査用対物レンズと、該走査された光の反射光を受光して所定の画像処理装置に出力する光出力手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明によれば、小型かつ広視野角でありつつも良好な光学性能を有する走査用対物レンズ、及び該走査用対物レンズを搭載した走査型プローブ及び走査型内視鏡が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態の走査型医療用プローブの構成を概略的に示す側面図である。
【図2】本発明の実施形態の走査型医療用プローブの先端部の内部構造を概略的に示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態の走査型医療用プローブが有するシングルモードファイバの射出端が移動するXY近似面を説明するための図である。
【図4】走査型医療用プローブにおける物体高と像高との関係を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態(実施例1)の走査用対物レンズの構成を示す側面図である。
【図6】本発明の実施例1の走査用対物レンズの各種収差図である。
【図7】本発明の実施例1の走査用対物レンズの横収差図である。
【図8】本発明の実施例2の走査用対物レンズの構成を示す側面図である。
【図9】本発明の実施例2の走査用対物レンズの各種収差図である。
【図10】本発明の実施例2の走査用対物レンズの横収差図である。
【図11】本発明の実施例3の走査用対物レンズの構成を示す側面図である。
【図12】本発明の実施例3の走査用対物レンズの各種収差図である。
【図13】本発明の実施例3の走査用対物レンズの横収差図である。
【図14】本発明の実施例4の走査用対物レンズの構成を示す側面図である。
【図15】本発明の実施例4の走査用対物レンズの各種収差図である。
【図16】本発明の実施例4の走査用対物レンズの横収差図である。
【図17】本発明の実施形態の別の変形例(実施例5)の走査用対物レンズの構成を示す側面図である。
【図18】本発明の実施例5の走査用対物レンズの各種収差図である。
【図19】本発明の実施例5の走査用対物レンズの横収差図である。
【図20】本発明の実施形態の変形例(実施例6)の走査用対物レンズの構成を示す側面図である。
【図21】本発明の実施例6の走査用対物レンズの各種収差図である。
【図22】本発明の実施例6の走査用対物レンズの横収差図である。
【図23】本発明の実施例7の走査用対物レンズの構成を示す側面図である。
【図24】本発明の実施例7の走査用対物レンズの各種収差図である。
【図25】本発明の実施例7の走査用対物レンズの横収差図である。
【図26】比較例1の走査用対物レンズの構成を示す側面図である。
【図27】比較例1の走査用対物レンズの各種収差図である。
【図28】比較例1の走査用対物レンズの横収差図である。
【図29】比較例2の走査用対物レンズの構成を示す側面図である。
【図30】比較例2の走査用対物レンズの各種収差図である。
【図31】比較例2の走査用対物レンズの横収差図である。
【図32】比較例3の走査用対物レンズの構成を示す側面図である。
【図33】比較例3の走査用対物レンズの各種収差図である。
【図34】比較例3の走査用対物レンズの横収差図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付された各図面を参照しつつ、本発明の実施形態の走査用対物レンズ、及び該走査用対物レンズを搭載した走査型医療用プローブについて説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態の走査型医療用プローブ100の構成を概略的に示す側面図である。図1においては、説明の便宜上、走査型医療用プローブ100の先端部130についてだけ、内部の構造を示している。図2は、先端部130の内部構造を概略的に示す斜視図である。なお、以降においては、走査型医療用プローブ100の構成を説明するにあたり、便宜上、走査型医療用プローブ100の長手方向をZ方向、Z方向に直交しかつ互いに直交する二方向をX方向、Y方向と定義する。かかる定義によれば、例えば図1の先端部130の内部構造図は、走査型医療用プローブ100の中心軸AXを含むYZ平面での先端部130の側断面図となっている。
【0023】
図1に示されるように、走査型医療用プローブ100の基端には、走査型医療用プローブ100と光源装置又は画像処理装置(何れも不図示)とを光学的に又は電気的に接続するコネクタ部150が備えられている。コネクタ部150から先端部130にかけては、可撓性を有するシース132(図2では便宜上図示省略)が備えられ、走査型医療用プローブ100が有する各種内蔵部品を保護している。シース132の外径は、走査型医療用プローブ100が固体撮像素子を搭載しない構成であるため、従来型の電子スコープの外径に比べて格段に細い。そのため、走査型医療用プローブ100は、従来型の電子スコープに比べてより一層の低浸襲性が達成されている。
【0024】
図1に示されるように、走査型医療用プローブ100は、シングルモードファイバ112を有している。シングルモードファイバ112は、コネクタ部150から先端部130に亘って延びた形状を有し、シース132に収容されている。シングルモードファイバ112の入射端(不図示)は、コネクタ部150と光源装置とを接続させたときに、当該入射端と光源とが高効率で結合するように、コネクタ部150の内部に精度良く位置決めされている。当該入射端に入射された光束は、シングルモードファイバ112の内部を全反射を繰り返すことによって伝播される。伝播された光束は、シングルモードファイバ112の射出端112bから射出される。
【0025】
図1又は図2に示されるように、シース132内部には、支持体134が設けられている。シングルモードファイバ112の先端部112cは、支持体134の貫通穴に挿入され通されて片持ち梁の状態で支持されている。支持体134は、一対のアクチュエータ136、138、内枠144(図2では便宜上図示省略)も支持している。アクチュエータ136、138は、圧電アクチュエータであって、圧電素子上の所定位置に電極が形成されている。各電極は、終端がコネクタ部150の内部に収容された電線(不図示)と接続されている。アクチュエータ136、138には、コネクタ部150と画像処理装置とを接続させたとき、所定期間中、各電線を介して、位相が互いに直交しかつ振幅がリニアに増加する所定周波数の交流電圧が印加される。
【0026】
アクチュエータ136、138はそれぞれ、所定周波数の交流電圧が印加されたときに、X、Y方向に所定の横振動モードで共振するように、材料及び形状が選択され構成されている。シングルモードファイバ112の射出端112bは、アクチュエータ136、138によるX、Y方向への運動エネルギーが合成されることにより、XY平面に近似する面(以下、「XY近似面」と記す。)上において中心軸AXを中心に所定の軌跡を描くように回転する。所定の軌跡は、例えば中心軸AXを中心とした渦巻状の軌跡である。上記所定期間中の射出端112bの渦巻状の軌跡の径は、アクチュエータ136、138に印加される電圧に比例して大きくなる。シングルモードファイバ112の入射端に入射された光束は、上記所定期間中、射出端112bから射出され続ける。なお、所定の軌跡は、中心軸AXを中心とした軌跡に限られない。所定の軌跡は、例えばラスタスキャン(水平走査)軌跡のような直線的な軌跡であってもよい。
【0027】
図1に示されるように、内枠144の先端は、光軸が中心軸AXと一致する位置に配置された走査用対物レンズ140(図2では便宜上図示省略)によって封止されている。シングルモードファイバ112の射出端112bから射出された光束は、走査用対物レンズ140を介して観察対象上にスポットを形成する。なお、図1においては、図面を簡略化するため、走査用対物レンズ140が単一のレンズで示されている。しかし、本実施形態の走査用対物レンズ140は、複数枚のレンズで構成されている。走査用対物レンズ140の具体的構成については、後に詳細に説明する。
【0028】
図2に示されるように、支持体134の端面134aには、円環状に並ぶ複数の貫通穴が形成されている。各貫通穴には、検出用ファイバ142が差し込まれている。なお、図2中、検出用ファイバ142については、図面を明瞭にする便宜上一本だけを破線で示している。検出用ファイバ142は、貫通穴から走査用対物レンズ140側に延在する部分がシース132と内枠144との間のスペースに狭持されており、先端(入射端142a)が走査型医療用プローブ100の先端面に位置している。図2において図示省略するが、各検出用ファイバ142は支持体134の後方で束ねられており、単一の光ファイババンドルを構成している。
【0029】
走査用対物レンズ140を介して観察対象上に形成されたスポットは、当該観察対象で反射され、検出用ファイバ142に入射する。入射端142aに入射された光束は、光ファイババンドルの内部を終端に向かって伝播される。光ファイババンドルの終端に到達した光束は、光学コネクタ部150を介して画像処理装置の光検出器に入射され検出されて、画像化処理に用いられる。
【0030】
これまでの説明で明らかなように、走査型医療用プローブ100は、従来型の電子スコープと異なり、光源(物点であって、ここではシングルモードファイバ112の射出端112b)が不動でなく、XY近似面(物体面)上を移動している。ここで、走査型医療用プローブには、医師による病変部の発見を好適に補助すべく、例えば100°(「走査型医療用プローブ100の中心軸AXを基準に±50°」と同義である。)以上の広視野角が基本的仕様として求められる。広視野角を達成するには、シングルモードファイバ112の射出端112bの移動範囲を大きく設定する必要がある。しかし、射出端112bの移動範囲が拡大するほど走査用対物レンズ140を大径化させなければ、諸収差を良好に抑えることが困難になる。
【0031】
図3は、シングルモードファイバ112の射出端112bが移動するXY近似面を説明するための図である。図3においては、図説の便宜上、共振エネルギーによって動かされているシングルモードファイバ112の先端部112cのみを模式的に示す。図3に示されるように、XY近似面は、XY平面に対してシングルモードファイバ112の基端側に湾曲している(別の表現によれば、走査用対物レンズ140側に凸となるような湾曲面である)。XY平面に対するXY近似面の湾曲量は、中心軸AXから離れるほど増加していく。
【0032】
図4は、走査型医療用プローブにおける物体高(光源の光軸からの距離)と像高(光源の像の光軸からの距離)との関係を説明するための図である。図4に示される走査型医療用プローブは、本実施形態の走査用対物レンズ140と相違した構成として走査用対物レンズLを有している。
【0033】
図4中符号FCは、物体面がXY平面である場合における走査用対物レンズLの像面(観察面)である。走査用対物レンズLは、良好な性能を得るため、種々の収差がコントロールされた結果、像面湾曲が理想的な像面Pに対してアンダー方向に残存している。しかし、残存する像面湾曲量は、許容量以下に抑えられている。かかる場合、仕様を満たす周辺解像度が結果的に得られるため、問題がない。一方、図4中符号FC’は、物体面がXY近似面である場合における走査用対物レンズLの像面である。この場合、物体高に応じてアンダー方向に湾曲した物体面が、もともと残存しているアンダー方向の像面湾曲に更なる湾曲を生じさせている。そのため、周辺解像度が低下する。本発明においては、このアンダー方向に大きく生じた像面湾曲を良好に補正する。
【0034】
本出願人は、上記の光源(シングルモードファイバ112の射出端112b)の移動に伴う諸問題を認識し、当該諸問題を解決する具体的手段として、走査用対物レンズ140を以下のように構成している。
【0035】
図5は、本発明の実施例1(詳しくは後述)の走査用対物レンズ140の構成を示す側面図である。ここでは、図5を利用して、本発明の実施形態の走査用対物レンズ140について説明することとする。なお、図5をはじめとする走査用対物レンズ140の各構成図は、図中左側がシングルモードファイバ112の射出端112b(物体)側であり、図中右側が像面(観察面)である。
【0036】
図5に示されるように、走査用対物レンズ140は、物体側から順に、第一レンズ群L1、第二レンズ群L2を有している。第一レンズ群L1、第二レンズ群L2は共に、正のパワーを有している。なお、第一レンズ群L1、第二レンズ群L2の各群は、一枚構成に限らず、複数枚構成、例えば複数枚を貼り合わせた接合レンズとしてもよい。以降においては、説明の便宜上、走査用対物レンズ140を構成する各光学部品の物体側の面、像側の面をそれぞれ、第一面、第二面と記す。また、第一レンズ群L1の各面のうち物体側に最も近い第一面に符号r11を、第一レンズ群L1の各面のうち像面側に最も近い第二面に符号r12を、それぞれ付す。第二レンズ群L2の各面のうち物体側に最も近い第一面に符号r21を、第二レンズ群L2の各面のうち像面側に最も近い第二面に符号r22を、それぞれ付す。
【0037】
走査用対物レンズ140は、第一レンズ群L1の焦点距離をf1(単位:mm)と定義し、第二レンズ群L2の焦点距離をf2(単位:mm)と定義し、第一レンズ群L1の第一面r11の曲率半径をR1a(単位:mm)と定義し、第一レンズ群L1の第二面r12の曲率半径をR1b(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(1)、(2)を同時に満たすように構成されている。
0.60<f1/f2<1.25・・・(1)
0.95<|R1a/R1b|<2.50・・・(2)
【0038】
シングルモードファイバが振動すると射出光が光軸から離れる方向に射出されるため、従来は、シングルモードファイバの振幅以上に走査用対物レンズを大径化させる必要があった。しかし、条件式(1)、(2)が同時に満たされるように走査用対物レンズ140を構成すると、光源側に配置された第一レンズ群L1に正のパワーを持たせてシングルモードファイバ112の射出端112bからの光束を光軸側に屈折させることにより、上記問題に起因する走査用対物レンズ140の大径化が効果的に抑えられると同時に像面湾曲、コマ収差、非点収差等も良好に抑えられる。
【0039】
条件式(1)の上限を超えると、シングルモードファイバ112の射出端112bからの光束を光軸側に屈折させる第一レンズ群L1のパワーが弱くなるため、走査用対物レンズ140を大径化せざるを得ない。また、全系の正のパワーを確保するために第二レンズ群L2にパワーを負担させざるを得ず、第二レンズ群L2の中でも強い正のパワーを持つ第一面r21の曲率半径が小さくなってこの面でのペッツバール値が大きくなり、像面湾曲の発生が大きくなる。
【0040】
条件式(1)の下限を下回ると、第一レンズ群L1のパワーが強くなり過ぎて、第一レンズ群L1に起因するコマ収差及び非点収差の発生が大きくなる。
【0041】
条件式(2)の上限を超えると、第一レンズ群L1の第二面r12による非点収差の発生が大きくなると共に、シングルモードファイバ112の射出端112bからの光束を光軸側に屈折させる第一レンズ群L1の第一面r11のパワーが弱くなるため、走査用対物レンズ140を大径化せざるを得ない。
【0042】
条件式(2)の下限を下回ると、第一レンズ群L1の第一面r11のパワーが強くなり過ぎて、第一面r11によるコマ収差の発生が大きくなる。
【0043】
走査用対物レンズ140は、物体面がアンダー方向に湾曲したことに伴って大きく発生した像面湾曲を良好に補正するため、第二レンズ群L2の第二面r22が凹面に形成され、かつ、第二面r22の曲率半径をR2b(単位:mm)と定義し、走査用対物レンズ140の全系の焦点距離をf(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(3)を満たすように構成されている。
1.25<R2b/f<4.80・・・(3)
【0044】
条件式(3)の上限を超えると、第二面r22の負のパワーが弱いため、像面湾曲が補正不足になる。
【0045】
条件式(3)の下限を下回ると、第二レンズ群L2の正のパワーを確保するために、第二レンズ群L2の第一面r21(凸面)の曲率半径を小さく設定せざるを得ない。その結果として、第一面r21による像面湾曲の発生が大きくなり、周辺解像度が著しく劣化する。また、第一面r21の曲率半径が小さくなるため、第二レンズ群L2のコバ厚を十分に確保できない。コバ厚が薄くなることによって第二レンズ群L2の加工が難しくなり、製造技術面の不利益が大きい。更に、第二レンズ群L2の第二面r22のパワーが強くなり過ぎて、第二面r22によるコマ収差の発生が大きくなる。
【0046】
複数種類の波長の光を用いて観察対象を撮影する場合には、走査用対物レンズ140において色収差が発生する。この種の色収差による画像の劣化は、画像処理装置側の処理によって電気的にある程度は補正することができる。しかし、画像の電気的補正は、色再現性が悪く、ノイズも増加する。また、色収差で波長毎の分解能が異なった場合、その差を補正するのは困難である。そのため、走査用対物レンズ140における色収差の発生自体を抑えることが望ましい。
【0047】
図20は、本発明の実施例6(詳しくは後述)の走査用対物レンズ140の構成を示す側面図である。ここでは、図20を利用して、本実施形態の変形例であって、色収差が良好に補正された走査用対物レンズ140について説明することとする。なお、当該変形例又は後述する実施例、比較例において、前述の実施形態の構成と同一の又は同様の構成には同一の又は同様の符号を付して説明を省略する。
【0048】
図20に示されるように、変形例の走査用対物レンズ140は、物体側から順に、第一レンズ群L1、第二レンズ群L2、第三レンズ群L3を有している。第一レンズ群L1は、屈折力の異なる正負二枚のレンズを接合した接合レンズであり、全体として正のパワーを有している。ここで、接合レンズにおける物体側のレンズを正レンズとした場合、接合面が物体側に凹面になる。そのため、軸上光線が接合面の法線に対して浅い角度で入射されることとなり、軸上色収差補正の効果が十分に得られない。また、像面側に配置される負レンズの分散を高くせざるを得ないため、第一レンズ群L1の第二面12による色収差の発生が大きくなる。そこで、変形例の第一レンズ群L1は、物体側から順に、負レンズL11、正レンズL12が配置され、両レンズが貼り合わせられた接合レンズとなっている。
【0049】
第一レンズ群L1、第二レンズ群L2は共に正のパワーを、第三レンズ群L3は負のパワーを、それぞれ有している。なお、負レンズL11と正レンズL12との接合面に符号r13を付す。また、第三レンズ群L3の各面のうち物体側に最も近い第一面に符号r31を、第三レンズ群L3の各面のうち像面側に最も近い第二面に符号r32を、それぞれ付す。
【0050】
変形例の走査用対物レンズ140は、軸上色収差と倍率色収差が良好に補正されるよう、第一レンズ群L1の光軸上の厚みをd1(単位:mm)と定義し、負レンズL11の光軸上の厚みをd11(単位:mm)と定義し、負レンズL11のe線に対するアッベ数をν11と定義し、正レンズL12のe線に対するアッベ数をν12と定義した場合に、次の条件式(4)、(5)を同時に満たすように構成されている。
0.35<d11/d1<0.60・・・(4)
20<ν12−ν11・・・(5)
【0051】
条件式(4)の上限を超えると、正レンズL12のコバ厚を確保するために接合面r13の曲率半径を大きくせざるを得なくなり、色収差が補正不足になる。
【0052】
条件式(4)の下限を下回ると、接合面r13での光束径が小さいため、軸上色収差を良好に補正できない。
【0053】
条件式(5)を満たさない場合には、接合面r13の曲率半径が小さくなるため、正レンズL12のコバ厚を確保するのが難しくなる。加工自体も難しくなり、製造技術面の不利益が大きい。
【0054】
変形例の走査用対物レンズ140は、第三レンズ群L3の第一面31が凹面に形成されている。第三レンズ群L3にパワーを負担させることにより、更なる広視野角化や良好な収差補正が達成され、若しくは第一レンズ群L1又は第二レンズ群L2の設計の自由度が高まる。
【0055】
図17は、本発明の実施例5(詳しくは後述)の走査用対物レンズ140の構成を示す側面図である。ここでは、図17を利用して、本実施形態の別の変形例であって、色収差が良好に補正された走査用対物レンズ140について説明することとする。
【0056】
図17に示されるように、別の変形例の走査用対物レンズ140は、物体側から順に、第一レンズ群L1、第二レンズ群L2、カバーガラスCGを有している。第一レンズ群L1は、負レンズL11と正レンズL12とを接合した接合レンズであり、物体側に負レンズL11が配置されている。第二レンズ群L2は、正レンズL21と負レンズL22とを接合した接合レンズであり、物体側に正レンズL21が配置されている。第一レンズ群L1、第二レンズ群L2は共に正のパワーを有している。なお、正レンズL21と負レンズL22との接合面に符号r23を付す。また、カバーガラスCGの第一面に符号rCG1を、第二面に符号rCG2を、それぞれ付す。
【0057】
変形例の走査用対物レンズ140は、軸上色収差が良好に補正されるよう、第二レンズ群L2の正レンズL21が低分散性硝材であり、負レンズL22が高分散性硝材で構成されている。変形例の走査用対物レンズ140は、負レンズL22のe線に対するアッベ数をν22と定義した場合に、次の条件式(6)を満たすように構成されている。
ν22<25・・・(6)
【0058】
正レンズL21は強い正のパワーを有するため、正レンズL21を分散の大きい硝材で構成した場合には軸上色収差の発生が大きくなる。そこで、条件式(6)を満たすように負レンズL22を高分散性硝材で構成し、更に第二面r22(対象物側の面)を凹面にすることにより、像面湾曲と軸上色収差が同時に良好に補正される。条件式(6)を満たさないと、軸上色収差が補正不足となる。
【0059】
次に、これまで説明された走査用対物レンズ140の具体的数値実施例を7例説明する。各数値実施例1〜7の走査用対物レンズ140は、図1に示される走査型医療用プローブ100の先端部130に配置されている。
【実施例1】
【0060】
本発明の実施例1の走査用対物レンズ140の構成は、上述したように、図5に示される通りである。本実施例1の走査用対物レンズ140の仕様、具体的には、開口数NA、全系の焦点距離f(単位:mm)、光学倍率m、半視野角ω(単位:deg)、バックフォーカスBF(単位:mm)、像高Y(単位:mm)は、次に表す通りである。
NA:0.008
f :0.45
m :−15.467
ω :50.4
BF:6.93
y :8.43
【0061】
本実施例1の走査用対物レンズ140の具体的数値構成(設計値)は、表1に示される。表1において、R(単位:mm)は光学部材の各面の曲率半径を、D(単位:mm)は光軸上の光学部材厚又は光学部材間隔を、Neはe線の屈折率を、νeはe線のアッベ数を、それぞれ示す。なお、表1中、第一レンズ群L1の第一面r11、第二面r12にそれぞれ、面番号1、2を付す。第二レンズ群L2の第一面r21、第二面r22にそれぞれ、面番号3、4を付す。なお、本実施例1をはじめとする各数値実施例及び比較例において、シングルモードファイバ112の射出端112bは、半径3.94mmの球面(XY近似面)上を移動する。
【0062】
(表1)
面番号 R D Ne νe
1 1.731 0.850 1.88814 40.5
2 -0.931 0.120 - -
3 0.620 0.620 1.88814 40.5
4 0.846 - - -
【0063】
図6(a)〜(d)は、本実施例1の走査用対物レンズ140の各種収差図である。具体的には、図6(a)は、e線、g線、C線での球面収差及び軸上色収差を示す。図6(b)は、e線、g線、C線での倍率色収差を示す。図6(a)、(b)中、実線はe線での収差を、破線はg線での収差を、一点鎖線はC線での収差を、それぞれ示す。図6(c)は、非点収差を示す。図6(c)中、実線はサジタル成分を、破線はメリディオナル成分を、それぞれ示す。図6(d)は、歪曲収差を示す。図6(a)〜(c)の各図の縦軸は像高を、横軸は収差量を、それぞれ示す。また、図6(d)の縦軸は像高を、横軸は像の歪曲量を、それぞれ示す。
【0064】
図7(a)〜(d)は、本実施例1の走査用対物レンズ140の各像高におけるe線の横収差図である。図7(a)〜(d)の各図の縦軸は横収差量を、横軸は入射瞳座標を、それぞれ示す。本図においては、横軸の左側が上光線を、右側が下光線を、それぞれ示す。図7(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ、像高0.00mm、3.54mm、6.03mm、8.43mmに対応する光線の横収差図である。
【0065】
本実施例1の走査用対物レンズ140は、図6、7に示されるように、各種収差が良好に補正されていることが分かる。なお、本実施例1の各図表についての説明は、他の数値実施例及び比較例で提示される各図表においても適用される。
【実施例2】
【0066】
次に、本発明の実施例2について説明する。図8は、本実施例2の走査用対物レンズ140の構成を示す側面図である。本実施例2の走査用対物レンズ140は、物体側から順に、第一レンズ群L1、第二レンズ群L2を有している。各群は、単レンズで構成されている。本実施例2の走査用対物レンズ140の具体的仕様は、次に表す通りである。
NA:0.008
f :0.44
m :−16.363
ω :49.5
BF:7.16
y :8.41
【0067】
表2は、本実施例2の走査用対物レンズ140の具体的数値構成(設計値)を示す。なお、表2中の面番号の割り振りは本実施例1と同一である。
【0068】
(表2)
面番号 R D Ne νe
1 1.450 0.738 1.82017 46.4
2 -0.908 0.063 - -
3 0.618 0.620 1.88814 40.5
4 1.748 - - -
【0069】
図9(a)は本実施例2の走査用対物レンズ140の球面収差及び軸上色収差を、図9(b)は倍率色収差を、図9(c)は非点収差を、図9(d)は歪曲収差を、それぞれ示す。図10(a)〜(d)は、本実施例2の走査用対物レンズ140の各像高におけるe線の横収差図である。本実施例2の走査用対物レンズ140は、図9,10に示されるように、各種収差が良好に補正されていることが分かる。
【実施例3】
【0070】
次に、本発明の実施例3について説明する。図11は、本実施例3の走査用対物レンズ140の構成を示す側面図である。本実施例3の走査用対物レンズ140は、物体側から順に、第一レンズ群L1、第二レンズ群L2、カバーガラスCGを有している。各群は、単レンズで構成されている。本実施例3の走査用対物レンズ140は、本実施例1と同様に、各群が単レンズで構成されている。本実施例3の走査用対物レンズ140の具体的仕様は、次に表す通りである。
NA:0.008
f :0.46
m :−16.221
ω :59.3
BF:7.09
y :12.31
【0071】
表3は、本実施例3の走査用対物レンズ140の具体的数値構成(設計値)を示す。なお、表3中面番号1〜4の割り振りは実施例1と同一である。面番号5はカバーガラスCGの第一面rCG1に、面番号6はカバーガラスCGの第二面rCG2に、それぞれ対応する。
【0072】
(表3)
面番号 R D Ne νe
1 1.259 0.668 1.88814 40.5
2 -1.259 0.125 - -
3 0.564 0.557 1.88814 40.5
4 1.689 0.070 - -
5 INFINITY 0.300 1.51825 63.9
6 INFINITY - - -
【0073】
図12(a)は本実施例3の走査用対物レンズ140の球面収差及び軸上色収差を、図12(b)は倍率色収差を、図12(c)は非点収差を、図12(d)は歪曲収差を、それぞれ示す。図13(a)〜(d)は、本実施例3の走査用対物レンズ140の各像高におけるe線の横収差図である。本実施例3の走査用対物レンズ140は、図12,13に示されるように、各種収差が良好に補正されていることが分かる。
【実施例4】
【0074】
次に、本発明の実施例4について説明する。図14は、本実施例4の走査用対物レンズ140の構成を示す側面図である。本実施例4の走査用対物レンズ140は、物体側から順に、第一レンズ群L1、第二レンズ群L2、カバーガラスCGを有している。第一レンズ群L1は、物体側から順に、負レンズL11、正レンズL12が配置された接合レンズである。二群レンズL2は、単レンズで構成されている。本実施例4の走査用対物レンズ140の具体的仕様は、次に表す通りである。
NA:0.008
f :0.44
m :−16.345
ω :50.7
BF:6.85
y :8.72
【0075】
表4は、本実施例4の走査用対物レンズ140の具体的数値構成(設計値)を示す。なお、表4中、負レンズL11の第一面r11、負レンズL11と正レンズL12との接合面r13、正レンズL12の第二面r12にそれぞれ、面番号1,2,3を付す。二群レンズL2の第一面r21、第二面r22にそれぞれ、面番号4,5を付す。カバーガラスCGの第一面rCG1、第二面rCG2にそれぞれ、面番号6,7を付す。
【0076】
(表4)
面番号 R D Ne νe
1 1.624 0.446 1.93430 18.7
2 0.696 0.496 1.77621 49.3
3 -0.696 0.062 - -
4 0.546 0.645 1.73234 54.4
5 0.671 0.062 - -
6 INFINITY 0.350 1.51825 63.9
7 INFINITY - - -
【0077】
図15(a)は本実施例4の走査用対物レンズ140の球面収差及び軸上色収差を、図15(b)は倍率色収差を、図15(c)は非点収差を、図15(d)は歪曲収差を、それぞれ示す。図16(a)〜(d)は、本実施例4の走査用対物レンズ140の各像高におけるe線の横収差図である。本実施例4の走査用対物レンズ140は、図15,16に示されるように、各種収差が良好に補正されていることが分かる。
【実施例5】
【0078】
次に、本発明の実施例5について説明する。本実施例5の走査用対物レンズ140の構成は、上述したように、図17に示される通りである。本実施例5の走査用対物レンズ140の具体的仕様は、次に表す通りである。
NA:0.007
f :0.44
m :−17.538
ω :49.1
BF:7.30
y :8.77
【0079】
表5は、本実施例5の走査用対物レンズ140の具体的数値構成(設計値)を示す。なお、表5中、負レンズL11の第一面r11、負レンズL11と正レンズL12との接合面r13、正レンズL12の第二面r12にそれぞれ、面番号1,2,3を付す。正レンズL21の第一面r21、正レンズL21と負レンズL22との接合面r23、負レンズL22の第二面r22にそれぞれ、面番号4,5,6を付す。カバーガラスCGの第一面rCG1、第二面rCG2にそれぞれ、面番号7,8を付す。
【0080】
(表5)
面番号 R D Ne νe
1 1.756 0.391 1.93430 18.7
2 0.818 0.592 1.83945 42.5
3 -0.818 0.063 - -
4 0.635 0.441 1.83945 42.5
5 INFINITY 0.302 1.85504 23.6
6 0.794 0.050 - -
7 INFINITY 0.400 1.51825 63.9
8 INFINITY - - -
【0081】
図18(a)は本実施例5の走査用対物レンズ140の球面収差及び軸上色収差を、図18(b)は倍率色収差を、図18(c)は非点収差を、図18(d)は歪曲収差を、それぞれ示す。図19(a)〜(d)は、本実施例5の走査用対物レンズ140の各像高におけるe線の横収差図である。本実施例5の走査用対物レンズ140は、図18,19に示されるように、各種収差が良好に補正されていることが分かる。
【実施例6】
【0082】
次に、本発明の実施例6について説明する。本実施例6の走査用対物レンズ140の構成は、上述したように、図20に示される通りである。本実施例6の走査用対物レンズ140の具体的仕様は、次に表す通りである。
NA:0.008
f :0.43
m :−16.956
ω :50.0
BF:6.95
y :8.57
【0083】
表6は、本実施例6の走査用対物レンズ140の具体的数値構成(設計値)を示す。なお、表6中、負レンズL11の第一面r11、負レンズL11と正レンズL12との接合面r13、正レンズL12の第二面r12にそれぞれ、面番号1,2,3を付す。二群レンズL2の第一面r21、第二面r22にそれぞれ、面番号4,5を付す。第三レンズ群L3の第一面r31、第二面r32にそれぞれ、面番号6,7を付す。
【0084】
(表6)
面番号 R D Ne νe
1 1.371 0.625 1.93430 18.7
2 0.701 0.450 1.73234 54.4
3 -0.762 0.060 - -
4 0.557 0.662 1.88814 40.5
5 0.833 0.080 - -
6 -1.000 0.340 1.51825 63.9
7 INFINITY - - -
【0085】
図21(a)は本実施例6の走査用対物レンズ140の球面収差及び軸上色収差を、図21(b)は倍率色収差を、図21(c)は非点収差を、図21(d)は歪曲収差を、それぞれ示す。図22(a)〜(d)は、本実施例6の走査用対物レンズ140の各像高におけるe線の横収差図である。本実施例6の走査用対物レンズ140は、図21,22に示されるように、各種収差が良好に補正されていることが分かる。
【実施例7】
【0086】
次に、本発明の実施例7について説明する。図23は、本実施例7の走査用対物レンズ140の構成を示す側面図である。本実施例7の走査用対物レンズ140は、物体側から順に、第一レンズ群L1、第二レンズ群L2を有している。各群は、単レンズで構成されている。本実施例7の走査用対物レンズ140の具体的仕様は、次に表す通りである。
NA:0.008
f :0.44
m :−16.108
ω :50.1
BF:7.01
y :8.43
【0087】
表7は、本実施例7の走査用対物レンズ140の具体的数値構成(設計値)を示す。なお、表7中の面番号の割り振りは本実施例1と同一である。
【0088】
(表7)
面番号 R D Ne νe
1 1.330 0.722 1.88814 40.5
2 -0.997 0.060 - -
3 0.657 0.664 1.88814 40.5
4 2.079 - - -
【0089】
図24(a)は本実施例7の走査用対物レンズ140の球面収差及び軸上色収差を、図24(b)は倍率色収差を、図24(c)は非点収差を、図24(d)は歪曲収差を、それぞれ示す。図25(a)〜(d)は、本実施例7の走査用対物レンズ140の各像高におけるe線の横収差図である。本実施例7の走査用対物レンズ140は、図24,25に示されるように、各種収差が良好に補正されていることが分かる。
【0090】
表8は、本実施例1〜7における各条件式(1)〜(6)の値を示す図である。表8に示されるように、本実施例1〜7の何れにおいても各条件式が満たされている。そのため、本実施例1〜7の何れの走査用対物レンズ140においても、小型化かつ広視野角化が達成されると同時に良好な光学性能が発揮される。
【0091】
(表8)
実施例1 実施例2 実施例3 実施例4 実施例5 実施例6 実施例7
(1) 0.703 0.926 1.048 0.648 0.680 1.030 0.847
(2) 1.859 1.597 1.000 2.333 2.147 1.799 1.334
(3) 1.876 3.982 3.712 1.525 1.813 1.937 4.736
(4) - - - 0.473 0.398 0.581 -
(5) - - - 30.6 23.8 35.7 -
(6) - - - - 23.6 - -
【0092】
次に、これまで説明された本実施例の走査用対物レンズ140の光学性能を検証する。検証するにあたり、次の3例を比較例として挙げる。
【0093】
図26、図29はそれぞれ、比較例1、2の走査用対物レンズ240の構成を示す側面図である。比較例1、2の走査用対物レンズ240は、本実施例1と同じく、物体側から順に、第一レンズ群L1、第二レンズ群L2を有している。各群は、単レンズで構成されている。比較例1の走査用対物レンズ240の具体的仕様は、次に表す通りである。
NA:0.008
f :0.47
m :−15.562
ω :49.5
BF:7.22
y :8.51
【0094】
表9は、比較例1の走査用対物レンズ240の具体的数値構成(設計値)を示す。なお、表9中の面番号の割り振りは本実施例1と同一である。
【0095】
(表9)
面番号 R D Ne νe
1 1.183 0.906 1.88814 40.5
2 -1.286 0.139 - -
3 0.628 0.661 1.88814 40.5
4 0.590 - - -
【0096】
図27(a)は比較例1の走査用対物レンズ240の球面収差及び軸上色収差を、図27(b)は倍率色収差を、図27(c)は非点収差を、図27(d)は歪曲収差を、それぞれ示す。図28(a)〜(d)は、比較例1の走査用対物レンズ240の各像高におけるe線の横収差図である。
【0097】
比較例2の走査用対物レンズ240の具体的仕様は、次に表す通りである。
NA:0.008
f :0.45
m :−16.235
ω :50.1
BF:7.21
y :8.73
【0098】
表10は、比較例2の走査用対物レンズ240の具体的数値構成(設計値)を示す。なお、表10中の面番号の割り振りは本実施例1と同一である。
【0099】
(表10)
面番号 R D Ne νe
1 1.039 0.703 1.88814 40.5
2 -0.998 0.121 - -
3 0.681 0.675 1.88814 40.5
4 2.342 - - -
【0100】
図30(a)は比較例2の走査用対物レンズ240の球面収差及び軸上色収差を、図30(b)は倍率色収差を、図30(c)は非点収差を、図30(d)は歪曲収差を、それぞれ示す。図31(a)〜(d)は、比較例2の走査用対物レンズ240の各像高におけるe線の横収差図である。
【0101】
図32は、比較例3の走査用対物レンズ240の構成を示す側面図である。比較例3の走査用対物レンズ240は、本実施例4と同じく、物体側から順に、負レンズL11と正レンズL12とを接合した第一レンズ群L1、第二レンズ群L2、カバーガラスCGを有している。比較例3の走査用対物レンズ240の具体的仕様は、次に表す通りである。
NA:0.008
f :0.44
m :−16.603
ω :50.0
BF:6.99
y :8.62
【0102】
表11は、比較例3の走査用対物レンズ240の具体的数値構成(設計値)を示す。なお、表11中の面番号の割り振りは本実施例4と同一である。
【0103】
(表11)
面番号 R D Ne νe
1 1.254 0.312 1.93430 18.9
2 0.481 0.625 1.77621 49.6
3 -0.700 0.063 - -
4 0.552 0.650 1.73234 54.7
5 0.661 0.050 - -
6 INFINITY 0.330 1.51825 64.1
7 INFINITY - - -
【0104】
図33(a)は比較例3の走査用対物レンズ240の球面収差及び軸上色収差を、図33(b)は倍率色収差を、図33(c)は非点収差を、図33(d)は歪曲収差を、それぞれ示す。図34(a)〜(d)は、比較例3の走査用対物レンズ240の各像高におけるe線の横収差図である。
【0105】
表12は、比較例1〜3における各条件式(1)〜(6)の値を示す図である。
【0106】
(表12)
比較例1 比較例2 比較例3
(1) 0.549 0.753 0.615
(2) 0.920 1.041 1.791
(3) 1.258 5.193 1.500
(4) - - 0.333
(5) - - 30.6
(6) - - -
【0107】
表12に示されるように、比較例1においては、条件式(1)及び(2)の下限を下回るため、第一レンズ群L1のパワーが強くなり過ぎて、当該レンズに起因する周辺部でのコマ収差及び非点収差の発生が大きい。
【0108】
表12に示されるように、比較例2においては、条件式(3)の上限を超えるため、第二レンズ群L2の第二面r22の負のパワーが弱くなり、像面湾曲が補正不足になる。
【0109】
表12に示されるように、比較例3においては、条件式(4)の下限を下回るため、第一レンズ群L1の接合面での光束径が小さくなり、軸上色収差を良好に補正できない。ここで、表13に、本実施例4〜6、比較例3の各例の走査用対物レンズの軸上色収差を示す。表13中の軸上色収差は、e線に対するg線とC線のズレを示している。表13に示されるように、本実施例4〜6の走査用対物レンズ140は、比較例3の走査用対物レンズ240と異なり、軸上色収差が良好に補正されていることが分かる。
【0110】
(表13)
実施例4 実施例5 実施例6 比較例3
g線 0.013 0.041 0.044 -0.473
C線 0.283 0.339 0.371 0.535
【0111】
このように、本実施例1〜7の走査用対物レンズ140は、比較例1〜3との比較検証結果から分かるように、少なくとも条件式(1)、(2)を同時に満たすことにより、小型化かつ広視野角化が達成されると同時に走査型医療用プローブに適した良好な光学性能も達成する。
【0112】
以上が本発明の実施形態の説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば走査用対物レンズ140又は走査型医療用プローブ100の特徴的構成は医療分野に限らず、工業用の製品分野の機器にも適用可能である。また、走査用対物レンズ140又は走査型医療用プローブ100の特徴的構成は、プローブ形態の機器だけでなく、走査型内視鏡の形態の機器にも適用可能である。
【0113】
本実施例1〜3、7では、第一レンズ群L1、第二レンズ群L2が何れも単レンズであるレンズ構成が例示されている。本実施例4、6では、第一レンズ群L1、第二レンズ群L2が、順に接合レンズ、単レンズであるレンズ構成が例示されている。本実施例5では、第一レンズ群L1、第二レンズ群L2が何れも接合レンズであるレンズ構成が例示されている。本発明の技術的思想の範囲における別の実施例としては、第一レンズ群L1、第二レンズ群L2が、順に単レンズ、接合レンズであるレンズ構成も想定される。
【符号の説明】
【0114】
100 走査型医療用プローブ
140 走査用対物レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズ側に凸の湾曲面上を所定の軌跡で移動する光ファイバ射出端から射出された光を対象物上で走査させるための走査用対物レンズであって、
前記射出端側から順に、正のパワーを有する第一レンズ群、正のパワーを有する第二レンズ群を有し、
前記第一レンズ群の焦点距離をf1(単位:mm)と定義し、前記第二レンズ群の焦点距離をf2(単位:mm)と定義し、該第一レンズ群の各面のうち前記射出端側に最も近い面の曲率半径をR1a(単位:mm)と定義し、該第一レンズ群の各面のうち前記対象物側に最も近い面の曲率半径をR1b(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(1)、(2)
0.60<f1/f2<1.25・・・(1)
0.95<|R1a/R1b|<2.50・・・(2)
を同時に満たすことを特徴とする走査用対物レンズ。
【請求項2】
前記第二レンズ群の各面のうち前記対象物側に最も近い面が凹面であって、該凹面の曲率半径をR2b(単位:mm)と定義し、全系の焦点距離をf(単位:mm)と定義した場合に、次の条件式(3)
1.25<R2b/f<4.80・・・(3)
を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の走査用対物レンズ。
【請求項3】
前記第一レンズ群は、前記射出端側から順に、第一の負レンズ、第一の正レンズが配置され、互いを貼り合わせた接合レンズであって、該第一レンズ群の光軸上の厚みをd1(単位:mm)と定義し、該第一の負レンズの光軸上の厚みをd11(単位:mm)と定義し、該第一の負レンズのe線に対するアッベ数をν11と定義し、該第一の正レンズのe線に対するアッベ数をν12と定義した場合に、次の条件式(4)、(5)
0.35<d11/d1<0.60・・・(4)
20<ν12−ν11・・・(5)
を同時に満たすことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の走査用対物レンズ。
【請求項4】
前記第一レンズ群は単レンズであることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の走査用対物レンズ。
【請求項5】
前記第二レンズ群は、前記射出端側から順に、第二の正レンズ、第二の負レンズが配置され、互いを貼り合わせた接合レンズであって、該第二の負レンズのe線に対するアッベ数をν22と定義した場合に、次の条件式(6)
ν22<25・・・(6)
を満たすことを特徴とする、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の走査用対物レンズ。
【請求項6】
前記第二レンズ群は単レンズであることを特徴とする、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の走査用対物レンズ。
【請求項7】
前記第二レンズ群の後段に、負のパワーを有する第三レンズ群を有することを特徴とする、請求項1から請求項6の何れか一項に記載の走査用対物レンズ。
【請求項8】
所定の光源から射出された前記光を前記対象物に向けて伝送する前記光ファイバと、
前記光ファイバ射出端が前記所定の湾曲面上を前記所定の軌跡で周期的に移動するように該光ファイバを振動させる振動手段と、
前記射出端から射出された前記光を前記対象物上で走査させるための請求項1から請求項7の何れか一項に記載の走査用対物レンズと、
前記走査された光の反射光を受光して所定の画像処理装置に出力する光出力手段と、
を有することを特徴とする走査型プローブ。
【請求項9】
所定の光源から射出された前記光を前記対象物に向けて伝送する前記光ファイバと、
前記光ファイバ射出端が前記所定の湾曲面上を前記所定の軌跡で周期的に移動するように該光ファイバを振動させる振動手段と、
前記射出端から射出された前記光を前記対象物上で走査させるための請求項1から請求項7の何れか一項に記載の走査用対物レンズと、
前記走査された光の反射光を受光して所定の画像処理装置に出力する光出力手段と、
を有することを特徴とする走査型内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2011−43793(P2011−43793A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108930(P2010−108930)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】