説明

走行体の先頭位置検出方法及び装置

【課題】背景の変化や走行体から発せられる光等の外乱による誤検知を可能な限り少なくした走行体の先頭位置検出方法及び装置を提供する。
【解決手段】本発明の走行体3の先頭位置検出方法は、走行体3の先頭部及び背景を画像センサ5により連続的に撮像し、撮像された画像を基に、連続する2つの画像間の差分画像を算出し、算出された差分画像に関し、走行体3の走行方向に垂直な方向に沿った輝度積算を行うことで差分投影輝度分布を算出し、算出された差分投影輝度分布に対し、所定の輝度閾値を超え始める位置を検出し、検出された位置を走行体3の先頭部の位置と認識する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車、自動車などの走行体の先頭位置の検出技術であって、特に、画像処理手法を用いた走行体の先頭位置の検出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新幹線や在来線の列車や地下鉄などにおいては、ホームからの転落や列車との接触事故防止などを目的とした安全対策の一つとして可動柵が備えられるようになってきている。
図1に示すように、可動柵は、駅ホームの端部に停車又は通過する列車と駅ホーム上の乗客とを隔離するように設けられた隔壁であり、停車した列車のドア部に対応する位置には、乗客が昇降するためのドアが設けられている。このドアの開閉は、通常、自動列車運転装置 (ATO) からの情報を基に行われるが、異常時には乗務員が操作することもある。
【0003】
しかしながら、上記の設備を駅に設置する場合、可動柵の設置費用のみならず、ATOの新設、それらシステムから発信される情報の管理システム等、設備設置には莫大な費用が掛かることが懸念される。
そこで、本願出願人らが、特許文献1のような技術を既に開発している。
特許文献1は、移動体の位置を検出するための位置検出装置であって、前記移動体の画像を当該移動体の背景の画像とともに撮像可能なように設置された画像センサと、前記画像センサによって撮像された、前記移動体が写っていない画像であるベース画像と、前記移動体が写った画像である検出用画像とを比較することにより、前記移動体の位置(特に先頭位置)を検出する位置検出部と、を有してなる位置検出装置を開示する。
【0004】
上記の如く、可動柵のドアの開閉は、自動列車運転装置 (ATO) からの情報を基に行われることが主流であるが、それに代え、特許文献1の位置検出装置から得られた列車の先頭位置を可動柵の開閉に用いることで、簡便な方法で且つ設置費用を抑えた可動柵システムの敷設が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−298501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、移動体である列車が写っていないベース画像と、列車が写った検出用画像とを比較することにより、列車の先頭位置を検出する技術となっているため、画像内に列車自体ではなくその背景の部分で変化するものがあると、その部分は外乱となり誤検知の原因となったりする。
また、列車の取り付けられた前方照明光の直接反射光(正反射光)、列車自身の影などは外乱光成分であり、列車の移動と共に画像上で輝度変化の位置が移動していく。こうした外乱光成分も、特許文献1に記載された技術においては、ベース画像と異なるために明確なエッジを生じる。しかも移動体と共に移動するエッジとなるため、移動体の位置検出において誤差となり易い。
【0007】
さらには、列車が画像センサの視野に接近するのに伴い、列車先頭部の前方照明光により背景全体の輝度分布が徐々に変化する。すなわち、移動体の存在しない背景部分において、ベース画像から輝度が徐々に変化する事になり、特許文献1に記載された技術において、偽のエッジを生じ誤検知の原因となる。
つまり、列車の先頭位置を検出する場合において、特許文献1の技術では、対応できない場合があり、幾つかの状況下においては走行体の先頭位置を誤検知することもあった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、走行体から発せられる光や走行体の影等の外乱による誤検知を可能な限り少なくした走行体の先頭位置検出方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係る走行体の先頭位置検出方法は、画像処理を用いて走行体の先頭位置を検出する検出方法であって、前記走行体の先頭部及び背景を画像センサにより連続的に撮像し、撮像された画像を基に、連続する2つの画像間の差分画像又は断続的に連なる2つの画像間の差分画像を算出し、算出された差分画像に関し、画像上の所定方向に沿った輝度積算を行うことで差分投影輝度分布を算出し、算出された差分投影輝度分布に対して所定の輝度閾値を適用することで、前記走行体の先頭部の位置を認識することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の検出方法は、画像処理を用いて走行体の先頭位置を検出する検出方法であって、前記走行体の先頭部及び背景を画像センサにより連続的に撮像し、連続する2つの画像のそれぞれ又は断続的に連なる2つの画像のそれぞれにおいて、画像上の所定方向に沿った輝度積算を行うことで投影輝度分布を算出し、算出された2つの投影輝度分布の差をとった差分投影輝度分布を算出し、算出された差分投影輝度分布に対して所定の輝度閾値を適用することで、前記走行体の先頭部の位置を認識することを特徴とする。
【0011】
なお、前記輝度積算を行うに際し、画像上の所定方向を走行体の走行方向に垂直な方向とすることは好ましい。
また好ましくは、前記輝度閾値を、前記走行体の速度に応じて可変な値とするとよい。
また、前記撮像された画像に存在する外乱輝度値による誤検知を排除すべく、前記分布波形に対する輝度閾値の適用範囲を予め規定しておくとよい。
【0012】
なお、外乱輝度値とは、走行体から発せられる光の直接反射光(正反射光)、走行体自体の影、また、電気的なノイズ等により生じる画像内に実際には存在しない輝度値などが挙げられる。
好ましくは、前記適用範囲は、前記走行体の移動情報を基に設定されると共に、前記走行体の速度に応じて可変な範囲幅とされているとよい。
【0013】
本発明に係る走行体の先頭位置検出装置は、画像処理を用いて走行体の先頭位置を検出する検出装置であって、前記走行体の先頭部及び背景を連続的に撮像可能な画像センサと、上記した走行体の先頭位置検出方法を用いて、走行体の先頭位置を検出するよう構成された画像処理部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る走行体の先頭位置検出方法及び装置によれば、走行体から発せられる光や走行体の影等の外乱による誤検知を可能な限り少なくし、確実且つ正確に走行体の先頭位置を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】画像センサが備えられた駅ホームを示す斜視図である。
【図2】走行体の先頭位置検出装置と可動柵とで構成されるシステムの概略図である。
【図3】走行体の先頭位置検出方法で行われる画像処理を説明するための図である。
【図4】差分投影輝度分布に輝度閾値を適用した図である。
【図5】走行体の先頭位置検出方法のフローチャートである。
【図6】走行体の先頭の概略位置を推定するための考え方を説明する図である。
【図7】走行体の先頭位置検出の他の方法を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。
本発明に係る走行体の先頭位置検出装置1は、新幹線や在来線、地下鉄などの駅ホーム2に設置されており、ここでは、走行体として軌道上を走行する列車3を想定し、駅ホーム2に進入する列車3の先頭部の位置を検出する実施形態を示す。
[第1実施形態]
図1は、走行体の先頭位置検出装置1(以下、検出装置と呼ぶこともある)が設置される駅ホーム2の状況を示したものである。
【0017】
この駅ホーム2には、駅ホーム2からの転落や走行体である列車3との接触事故防止などを目的とした安全対策の一つとして可動柵4が備えられている。可動柵4は、駅ホーム2に停車又は駅ホーム2を通過する列車3と、駅ホーム2上の乗客とを隔離するように設けられた隔壁であり、停車した列車3のドアに対応する位置には、乗客が昇降するためのドア4Aが設けられている。このドア4Aの開閉は、検出装置1が検出した「列車3の先頭位置の情報」を基にドア4Aの開閉を行う。
【0018】
本発明の走行体の先頭位置検出装置1は、画像処理の手法を用いて列車3の先頭位置を検出するものであり、列車3の先頭部の位置が、駅ホーム2上の所定位置(停止位置L)に達したか否かを検知する。
図1,図2に示す如く、検出装置1は、駅のホームに進入し停車する列車3の先頭を、背景である駅ホーム2や線路10などと共に撮像する画像センサ5を有している。画像センサ5は、CCDカメラ(ビデオカメラ等)で構成されており、例えば、毎秒30フレームの画像を連続的に出力する。
【0019】
この画像センサ5は、駅ホーム2の先頭側であって、駅ホーム2に設置された屋根6の下など、地上高さ3メートル程度の位置に設置されている。画像センサ5には、列車3の先頭部及びその背景を撮像可能とする撮像レンズが取り付けられ、時刻や天候に応じて露出量を最適とする自動露出機構が備えられている。
画像センサ5から出力される撮像画像は、パソコン又はDSP等で構成されるハードウエアからなる画像処理部7に取り込まれる。
【0020】
この画像処理部7内には、フレームメモリが備えられており、所定時間間隔(1/30又は1/15秒)で取り込まれる2次元の画像(640ピクセル×480ピクセル)が蓄積される。フレームメモリに蓄積された2次元画像に対して、後述する先頭位置を検出するための画像処理が行われる。
さらに、本実施形態の場合、検出された列車3の先頭位置を基に、列車3の先頭が駅ホーム2において定められた停止位置Lに正しく停止したか否かが判定され、この判定結果がドア制御部8へ送られて、ドア制御部8は、列車3が停止位置Lに正しく停止した場合に、可動柵4に対してドア4Aを開放する信号を発する。
【0021】
なお、検出された列車3の先頭位置を基に、乗務員が可動柵4のドア4Aを開放するようにしてもよい。
ところで、検出装置1は、画像センサ5が設置された位置よりも列車3の進行方向の手前側において、列車3の進入を検出するための走行体センサ9を有している。
走行体センサ9は、超音波センサ、赤外線センサなどのように、センサの前方の対象物の存否を検出するものであって、例えば、駅ホーム2中央部の屋根6下に設置され、列車3が画像センサ5の撮像範囲(視野)に入る前に、ホームへの列車3進入を検出するように配置されている。この走行体センサ9からの信号(列車3進入の信号)を基に、画像センサ5を作動させるようにすることで、列車3以外の進入を検出し誤検知を行う可能性が大幅に減る。
【0022】
走行体センサ9として、超音波や赤外線を用いたドップラセンサを用いることで、列車3の進入のみならず、進入してきた列車3の速度を求めることもできる。
次に、図3,図4ならびに図5のフローチャートを基に、画像処理部7で行われる「列車3の先頭の位置検出処理」の詳細について述べる。
画像処理部7で行われる列車3の先頭位置検出方法は、画像処理を用いて列車3の先頭位置を検出するアルゴリズムを有しており、列車3の先頭部及び背景を画像センサ5により連続的に撮像し、撮像された画像を基に、連続する2つの画像間の差分画像を算出し、算出された差分画像に関し、列車3の走行方向に垂直な方向に沿った輝度積算を行うことで投影輝度分布(以降、差分投影輝度分布と呼ぶこともある)を算出し、算出された投影輝度分布に対し、所定の輝度閾値を超え始める位置Sを検出し、検出された位置Sを列車3の先頭部の位置と認識するものである。
【0023】
詳しくは、まず、図5のS10において、走行体センサ9が駅ホーム2に列車3が進入したことを検知したとする。
列車進入を検知後、S11において、画像センサ5は、駅ホーム2や線路10などの背景を含む列車3の先頭部の画像を連続的に撮像する。撮像された画像は画像処理部7へ転送され、画像処理部7内のフレームメモリに蓄積される。画像センサ5による撮像の間隔は任意であるが、駅ホーム2への列車3の進入を確実に検知するために、1/30秒〜1秒が好ましい。
【0024】
図3の(a−1)〜(a−4)は、列車3が駅ホーム2に進入する様子を連続的に撮像した画面、又は断続的に撮像した画面(例えば、1フレーム飛ばしの画像)を模式的に示した図である。
(a−1)は、走行体センサ9は列車3の進入を検知しているものの、画像センサ5の撮像範囲内には列車3が進入していない状況である。(a−2),(a−3)は、画像センサ5内に列車3が進入していく状況を撮像したものである。列車3は、画像の左から右に向けて(画像のX座標に沿って座標原点の方へ)進入する。画像中のHは列車3のヘッドライトにより照らされている部分(正反射光H)を示す。
【0025】
(a−2)の状況から(a−3)の状況に遷移するうちに、列車3の速度は減速する。(a−4)は、列車3がホームの停止位置Lに正しく停止した状況を撮像したものである。(a−3)の状況から(a−4)への遷移において、列車3の速度は非常に低速となる。
次に、S12において、得られた撮像画像を基に2つの撮像画像の差をとり、差分画像を作成する。具体的には、(a−1)の画像上の座標(x1,y1)に存在する画素の輝度値と、(a−2)の画像上の座標(x1,y1)に存在する画素の輝度値との差を、全ての画素について計算することで差分画像が得られる。(a−1)と(a−2)との差分画像が図3の(b−1)であり、(b−1)画像には、列車3の先頭部と正反射光Hが現れる。
【0026】
図3の(b−2)は、(a−2)の画像と(a−1)の画像との差分画像であり、この差分画像には、画面中央まで進行した列車3の先頭、及びこの列車3から発せられる正反射光Hが存在する。正反射光Hは、画像の左端に存在する。列車3の先頭部に続く本体部(画像の右側)は、(a−2)の画像と(a−1)の画像との間に大きな変化が無いため、薄い(輝度の低い)画像で写り込む。なお、(a−1)において存在した正反射光Hは、差分画像においてはマイナス値となり表示されないこととなる。
【0027】
図3の(b−3)は、(a−3)の画像と(a−4)の画像との差分画像であり、この差分画像には、停止位置Lに停止した列車3の先頭部のみが存在する。(a−3)の状況から(a−4)への遷移において、列車3の速度は非常に低速であるため、(b−3)における列車3の先頭画像は非常に薄い(輝度の低い)ものとなっている。
その後、S13において、(b−1)〜(b−3)の差分画像それぞれについて、Y方向にプロジェクションを行って投影輝度分布を算出する。具体的には、各X座標において、Y座標に沿って並んでいる複数の画素の輝度値を足し合わせる(輝度値の積算を行う)ことで、投影輝度分布を得ることができる。なお、Y座標に沿った方向は、撮像画像において列車3が移動してゆく方向に垂直な方向である。
【0028】
このようにして算出された輝度分布は、差分画像に関する投影輝度分布であるため、以降「差分投影輝度分布」と呼ぶ。
以上の処理により得られた差分投影輝度分布が図3(c−1)〜図3(c−3)であり、それぞれが図3(b−1)〜図3(b−3)の差分画像にそれぞれ対応するものである。
【0029】
例えば、図3の(c−1)に示される差分投影輝度分布で、座標原点に近い側の凸波形は、ヘッドライトの正反射光Hに起因するものであり、外乱輝度値である。原点から遠い側の凸波形は、列車3の先頭部分に起因する輝度である。この先頭部分に起因する凸波形に関しては、列車3移動によるブレや撮像レンズの性能限界によるピンボケによって、そのエッジが若干ぼやけることとなる。そのため、先頭部分の凸波形は列車先頭部より若干手前から立ち上がるようになる。
【0030】
図3の(c−2)においては、列車3が駅ホーム2を進入すると共に、正反射光Hに起因する凸波形及び列車3の先頭部分に起因する凸波形は、原点側に移動する。また、列車3の速度低下に起因して先頭部分の輝度値が低いものとなっているため、列車3の先頭部の凸波形のピーク値は下がり、正反射光Hに起因する凸波形のピーク値に近いものとなっている。
【0031】
図3の(c−3)においては、ヘッドライトからの正反射光Hが画像センサ5の視野外へと移動するため、正反射光Hに起因する凸波形は無くなり、列車3の先頭部の凸波形のみとなる。列車3の停止に伴う速度低下に起因して先頭部の輝度値は極端に低くなり、列車3の先頭部の凸波形のピーク値は小さい値となる。凸波形のピーク値は、場合によっては、ヘッドライトの正反射光Hに起因する凸波形のピーク値より下がることもあり得る。
【0032】
係る状況下であっても精度よく列車3の先頭位置を検出するために、図4のように、差分投影輝度分布に対して「走行体の速度に応じて可変な動的な輝度閾値」を設け、列車3の先頭部分に起因する凸波形を検出し、列車3の画像上の位置を認識することとしている。
具体的には、S14において、走行体センサ9などを用いて駅ホーム2に進入してきた列車3の速度を検出し、その上で、列車3速度が下がると低輝度となるような輝度閾値を決定する。輝度閾値の決定の方法は様々なものが採用可能であるが、例えば、現時刻における列車3の速度の定数倍を輝度閾値としたり、現時刻に至るまでの列車3の平均速度の定数倍を輝度閾値としたりするとよい。現時刻に至るまでの列車3の平均速度の指数倍を輝度閾値としてもよい。なお、図4(a)〜図4(c)は図3(c−1)〜図3(c−3)と同じ差分投影輝度分布である。
【0033】
その後、S15において、図4(a)に示す如く、差分投影輝度分布に対し、輝度閾値TH1(高輝度値)を適用する。すると、輝度閾値TH1を超え始める位置P1は、列車3の先頭部分に起因する凸波形の先頭部となる。
S16において、この超え始める位置(輝度閾値TH1と凸波形の交点P1)を検出することで列車3の先頭位置を認識できる。なお前述したように、先頭部の凸波形に関しては、列車3移動によるブレや撮像レンズの性能限界によるピンボケによって、そのエッジが若干ぼやけており、列車先頭部より若干手前から立ち上がるようになる。そのため、輝度閾値TH1と凸波形の交点は、正確な列車先頭位置により近くなる。
【0034】
ところが、図4(b)から明らかなように、列車3の速度低下に伴って輝度閾値をTH1→TH2へと下げることで、列車3の先頭に起因する凸波形ではなく、ヘッドライトの正反射光Hに起因する凸波形を検知するようになる。そのため、本実施形態では、S14において、輝度閾値を適用する範囲、言い換えるならば、差分投影輝度分布において、列車先頭の凸波形を探索する範囲を限定する(ウインドを設ける)ようにしている。なお、輝度閾値TH(TH1〜TH3)の求め方については、後述する。
【0035】
探索する範囲(適用範囲)は、図4のL1〜L3に示すもので、当該範囲を説明するにあたって、X座標の右側(反原点側)を起点、X座標の左側(原点側)を終点と呼ぶ。
輝度閾値の適用範囲の起点に関しては、最初に得られた差分投影輝度分布(図4(a))においては、投影輝度分布のX座標の最大値(X座標の最も右側)とする。次に得られた差分投影輝度分布(図4(b))においては、図4(a)で得られた「輝度閾値TH1と凸波形の交点P1」の位置を輝度閾値の適用範囲の起点としている。その後得られる差分投影輝度分布(図4(c))においては、図4(b)で得られた「輝度閾値TH2と凸波形の交点P2」の位置を輝度閾値の適用範囲の起点としている。
【0036】
適用範囲の終点に関しては、起点と終点間の距離を列車3の速度が下がると短くなるように設定しておく。
例えば、図4(a)において、適用範囲は投影輝度分布のほぼ全長さL1=Lmaxであったのに対して、列車3の速度が遅くなった図4(b)では、L2(<L1)とし、列車3がほぼ停止した図4(c)では、L3(<L2)である。適用範囲L(L1〜L3)の求め方についても後述する。
【0037】
以上のように、列車3の先頭を検出するための輝度閾値を適用する範囲を、速度の低下に応じて減ずることで、ヘッドライトの正反射による凸波形(外乱輝度値)を検知範囲以外に置くことができ、外乱輝度値による誤検知を確実に防止することができる。
以上のS10〜S16をリアルタイム(画像を撮像するごと)に実行することで、撮像画像上における列車3の先頭位置を割り出し、その上でS17において、列車3の先頭位置と画像上での「列車3の停止位置L」とが一致しているか否かを判定する。なお、停止判定は、撮像画像上における列車3の先頭位置を基に、駅ホーム2に対する列車3の位置を算定し、その位置と駅ホーム2上の実際の停止位置Lとが一致しているか否かを判定してもよい。
【0038】
図2に示す如く、列車3が所定の位置に停止していると認識された場合は、その情報が乗務員に伝えられ、乗務員は可動柵4のドア4Aを開放してもよく、「列車3が停止位置Lに正しく停止したか否か」の情報を別途設けられたドア制御部8へ送るようにし、ドア制御部8は、「列車3が停止位置Lに正しく停止した」場合に、可動柵4に対してドア4Aを開放する信号を発するようにしてもよい。
【0039】
以上まとめるならば、本発明の走行体の先頭位置検出装置1は、フレーム間の差分画像を基に得られた差分投影輝度分布に対して動的な輝度閾値や動的な適用範囲(ウインド)を採用することで、撮像画像の背景状況の変化や列車3から発せられる光などの外乱による誤検知を可能な限り少なくし、確実且つ正確に走行体の先頭位置を検出することができるようになる。
【0040】
本発明の走行体の先頭位置検出装置1により正確に判定された列車3の先頭位置を用いて、駅ホーム2に敷設された可動柵4の操作を行うようにした場合、可動柵4の安全性の更なる向上に大きく寄与できるものとなる。
ところで、S10〜S17の処理を行う際に用いる輝度閾値TH(TH1〜TH3)、適用範囲L(L1〜L3)は、実際の現場状況に合わせて様々に決定可能であるが、本実施形態では、以下のように「センサの情報」を基に決定することとしている。
【0041】
すなわち、適用範囲L(L2)の算出方法としては、走行体センサ9により測定された列車3の速度vから算出される撮像画面上の移動量予測値を基にして求める。移動量予測値Lvは、式(1)で得られる。

Lv=αvτ (1)

ここで、αは列車の実空間と画面上の位置をつなぐパラメータで、画像センサ5の設置時に予めキャリブレーション(校正作業)により求めておく。また、τは撮像フレーム間の経過時間である。市販されている画像センサ5においては、1/15秒〜1/30秒のものが多く、τは実際に使用する画像センサ5のフレームレートに合わせて設定するとよい。
【0042】
なお、式(1)は、列車3の等速運動を仮定しているが、実際には加減速している可能性もあるので少し幅を広げておき、適用範囲L2を式(2)で算出する。

L2=β×Lv (2)

ここで、βは定数である。βの適正量は実計測データから求めてもよい。なお、適用範囲L2を式(3)で算出するようにしてもよい。

L2=Lv+γ (3)

ここで、γは定数である。γの適正量は実計測データから求めてもよい。
【0043】
また、輝度閾値TH(TH2)の算出方法としては、走行体センサ9により測定された列車3の速度vを変数として有する式(4)を用いるとよい。

TH2=K×(vτ)ξ (4)

ここで、τは撮像フレーム間の経過時間、Kは定数項である。ξは定数としてもよいし、速度の関数ξ(v)としてもよい。ξ=1とすると、TH2は単純に速度に比例する。
【0044】
なお、輝度閾値THは、列車3の速度が小さくなる程、その値も小さくなり、ノイズ信号を誤検出するようになる。そこで、輝度閾値の最小値TH3を予め決めておき、式(4)の結果がTH3より小さくなる場合は、TH3を輝度閾値として採用する。
一方、輝度閾値TH、適用範囲Lを「画像から得られる情報」を基に決定するもできる。
【0045】
図6には、画像センサ5により撮像された画像を基に作成された「駅ホーム2に進入してきた列車3の先頭位置の移動図」が示されている。この図では、横軸を時刻、縦軸を列車の画面上の先頭位置としている。列車3は撮像画面上を右から左へ進みつつ減速し、やがて停止するため、図6において、列車3の先頭位置は時刻の経過と共に縦軸で値の小さいほうへ移動していく。
【0046】
このような先頭位置の移動図(推移図)を用いれば、過去の列車先頭位置の変化から、次の画像フレームにおける画面上の移動量Lvを予測できる。例えば、式(5)の如く予想可能である。

Lv=Σn(Pi−Pi-1)/n (5)

式(5)は、i番目のフレームで得られた先頭位置Piと、(i−1)番目のフレーム画像で得られた先頭位置Pi-1の差を求め、この差をn個の区間について行い、nで割ってn回のフレーム間移動量の平均値を求めるものとなっている。この式(5)を式(1)の代わりに用いて、探索区間L2を算出することが可能である。なお、最初に適用する適用範囲L1は、前述の如くLmaxとする。
【0047】
また、適用範囲Lを「画像から得られる情報」を基に決定する場合には、輝度閾値TH2は、式(5)で得られるLvを式(4)のvτの代わりとし、式(4)で算出することもできる。
[第2実施形態]
次に、本発明に係る走行体の先頭位置検出方法及び装置の第2実施形態について述べる。
【0048】
第2実施形態が第1実施形態と比べて大きく異なる点は、差分投影輝度分布を求める手順が異なることにある。
すなわち、図7に示すように、走行体センサ9による列車進入を検知後(S20)、画像センサ5は、駅ホーム2や線路10などの背景を含む列車3の先頭部の画像を連続的に撮像する(S21)。撮像された画像は、図3の(a−1)〜(a−4)である。
【0049】
次に、S22において、図3の(a−1)〜(a−4)に示す各画像のそれぞれについて、投影輝度分布を算出する。具体的には、各X座標においてY座標に沿った向きで輝度値の積算を行う(Y方向にプロジェクションする)ことで、投影輝度分布を得ることができる。
その後、S23において、2画像間の投影輝度分布の差をとることで差分投影輝度分布を算出する。具体的には、図3(a−1)の投影輝度分布と図3(a−2)の投影輝度分布との差である差分投影輝度分布を算出する。この差分投影輝度分布は、図3(c−1)に示す第1実施形態での差分投影輝度分布と略同じとなる。
【0050】
同様に、図3(a−2)の投影輝度分布と図3(a−3)の投影輝度分布との差である差分投影輝度分布を算出する。この差分投影輝度分布は、図3(c−2)に示す第1実施形態での差分投影輝度分布と略同じとなる。図3(a−3)の投影輝度分布と図3(a−4)の投影輝度分布との差である差分投影輝度分布を算出する。この差分投影輝度分布は、図3(c−3)に示す第1実施形態での差分投影輝度分布と略同じとなる。
【0051】
得られた差分投影輝度分布に対して、S24〜S27の処理を行うことになるが、S24〜S27の処理は第1実施形態のS14〜S17の処理と略同様であるため、説明を省略する。奏する作用効果も第1実施形態と略同じであり、撮像画像の背景状況の変化や列車3から発せられる光などの外乱による誤検知を可能な限り少なくし、確実且つ正確に走行体の先頭位置を検出することができる。
【0052】
第2実施形態の先頭位置検出方法を実現するための装置としては、第1実施形態と同様のハードウエア(画像センサ5、画像処理部7、走行体センサ9)が採用可能である。なお、第2実施形態の画像処理は、画像処理の初期段階で投影輝度分布を求めているため、データ量の大きい2次元画像の処理量が全体として少ないアルゴリズムとなっている。ゆえに、高速処理が可能で計算負荷の少ない走行体の先頭位置検出方法となっている。
【0053】
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、走行体として列車3を例示したが、走行体としては、自動車や飛行機などであってもよく、工場等における搬送物品であってもよい。検出装置1による検出結果を基に、可動柵4のドア4Aの開閉を行うことを説明したが、本検出装置1の検出結果は、他の用途に利用されても何ら問題はない。
【0054】
また、実施形態の説明において使用した図(例えば、図3や図4)は、的確な説明を行うための概念図であり、画像や波形等に通常現れる微細なノイズや急峻なスパイク等を記載していないことに注意をすべきである。実際に撮像した画像には、様々なノイズやスパイクや外乱となりうる背景テクスチャが存在するものの、それらは、既存の画像処理手法を用いて除去可能であり、本発明の本質に何ら影響を与えるものではない。
【符号の説明】
【0055】
1 走行体の先頭位置検出装置
2 駅ホーム
3 列車
4 可動柵
4A ドア
5 画像センサ
6 屋根
7 画像処理部
8 ドア制御部
9 走行体センサ
10 線路
H ヘッドライトの正反射光
L 停止位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像処理を用いて走行体の先頭位置を検出する検出方法であって、
前記走行体の先頭部及び背景を画像センサにより連続的に撮像し、
撮像された画像を基に、連続する2つの画像間の差分画像又は断続的に連なる2つの画像間の差分画像を算出し、
算出された差分画像に関し、画像上の所定方向に沿った輝度積算を行うことで差分投影輝度分布を算出し、
算出された差分投影輝度分布に対して所定の輝度閾値を適用することで、前記走行体の先頭部の位置を認識する
ことを特徴とする走行体の先頭位置検出方法。
【請求項2】
画像処理を用いて走行体の先頭位置を検出する検出方法であって、
前記走行体の先頭部及び背景を画像センサにより連続的に撮像し、
連続する2つの画像のそれぞれ又は断続的に連なる2つの画像のそれぞれにおいて、画像上の所定方向に沿った輝度積算を行うことで投影輝度分布を算出し、
算出された2つの投影輝度分布の差をとった差分投影輝度分布を算出し、
算出された差分投影輝度分布に対して所定の輝度閾値を適用することで、前記走行体の先頭部の位置を認識する
ことを特徴とする走行体の先頭位置検出方法。
【請求項3】
前記輝度積算を行うに際し、画像上の所定方向を前記走行体の走行方向に垂直な方向としていることを特徴とする請求項1又は2に記載の走行体の先頭位置検出方法。
【請求項4】
前記輝度閾値を、前記走行体の速度に応じて可変な値としていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の走行体の先頭位置検出方法。
【請求項5】
前記撮像された画像に存在する外乱輝度値による誤検知を排除すべく、前記差分投影輝度分布に対する輝度閾値の適用範囲を予め規定しておくことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の走行体の先頭位置検出方法。
【請求項6】
前記適用範囲は、前記走行体の移動情報を基に設定されると共に、前記走行体の速度に応じて可変な範囲幅とされていることを特徴とする請求項5に記載の走行体の先頭位置検出方法。
【請求項7】
画像処理を用いて走行体の先頭位置を検出する検出装置であって、
前記走行体の先頭部及び背景を連続的に撮像可能な画像センサと、
請求項1〜6のいずれかに記載された走行体の先頭位置検出方法を用いて、走行体の先頭位置を検出するよう構成された画像処理部と、
を有することを特徴とする走行体の先頭位置検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−112365(P2011−112365A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266044(P2009−266044)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】