説明

超伝導ダイヤモンド基板、超伝導デバイス及び製造方法

【課題】表面に(111)結晶面が存在すると共にBが高濃度でドープされ、優れた超伝導特性を有する超伝導ダイヤモンド積層膜、デバイス及び製造方法を提供する。
【解決手段】下層ダイヤモンド膜2は、表面がダイヤモンド(111)結晶面により構成され、前記表面にダイヤモンドの4角錐状の突起が形成されたものであり、気相合成により形成されている。また、超伝導ダイヤモンド膜4は、下層ダイヤモンド膜2上に積層され、ホウ素が高濃度に、例えば、ホウ素(B)と炭素(C)との原子数比(B/C)が、5.0%以上にドーピングされている。前記ダイヤモンド粒子は一定方向に配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導特性を有する気相合成ダイヤモンド基板、これを微細加工した超伝導デバイス及び超伝導ダイヤモンド基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド膜を超伝導体化するためには、B原子を取り込み易い(111)結晶面がダイヤモンド膜表面に存在することが必要であり、また超伝導デバイス化にはダイヤモンドを薄膜化することが望ましい。
【0003】
最近、硼素(B)を高濃度にドープした高圧合成ダイヤモンドが臨界温度2.3Kで超電導体となることが見出された(非特許文献1:以下、従来技術1という)。また、化学気相蒸着法(CVD法)を用いて、高濃度にBをドープしたダイヤモンドを合成し、低温測定を行なった結果、臨界温度12Kが達成された(非特許文献2:以下、従来技術2という)。
【0004】
【非特許文献1】E. A. Ekimov et al., Nature, Vol.428, p.542(2004)
【非特許文献2】Y. Takano et al., Appl. Phys. Lett., Vol.85, p.2851(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術1では、単結晶ダイヤモンドを基板としているので、基板自身が高価であり、表面積も高々数mm角であるので、超伝導デバイスを形成する場合に、微細加工が困難であるという問題点がある。
【0006】
また、従来技術2では、CVD(化学気相成長)法により多結晶ダイヤモンド層を合成しているが、図6に見られるように、シリコン基板上に直接高濃度にBをドーブしたダイヤモンド膜をCVD法により合成しているために、ダイヤモンド結晶中に結晶欠陥が多く発生し、またダイヤモンド層内にシリコン原子が不純物として含まれている可能性もあり、超伝導特性を低下させる原因となっている。
【0007】
図6のダイヤモンド膜の表面は(111)結晶面を有するダイヤモンド粒子が集合した多結晶体で構成されている。ダイヤモンド(111)結晶面は不純物原子を取り込み易い結晶面であり、ダイヤモンド膜はB/C=2%(ボロンと炭素との原子数比が2%)というように高濃度にBがドーピングされているが、ダイヤモンド粒子の配列が無秩序であるために、粒界密度が高く、電流が流れにくい材料構造となっている。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、表面に(111)結晶面が存在すると共にBが高濃度でドープされ、優れた超伝導特性を有する超伝導ダイヤモンド基板、デバイス及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る超伝導ダイヤモンド基板は、表面がダイヤモンド(111)結晶面により構成され、前記表面にダイヤモンドの4角錐状の突起が形成された気相合成による下層ダイヤモンド膜と、前記下層ダイヤモンド膜の上に積層され、ホウ素が高濃度にドーピングされた超伝導ダイヤモンド膜と、を有し、前記ダイヤモンドの4角錐状の突起は一定方向に配列していることを特徴とする。但し、本発明において、突起とは、下層ダイヤモンド膜の表面から、0.5μm以上の高さを有するものをいう。
【0010】
この超伝導ダイヤモンド基板において、前記4角錐状突起は、多少傾いていてもよいし、頂点又は辺の一部が欠けている場合も本発明の4角錐状突起に含まれる。また、この突起を構成するダイヤモンド粒子の配列方向は一定方向に配列されているが、この一定方向は厳密なものではなく、ほぼ一定の方向に配列されていればよい。
【0011】
例えば、前記ダイヤモンド粒子は一定方向に配列されている。また、前記超伝導ダイヤモンド膜中のホウ素(B)と炭素(C)との原子数比(B/C)が、5%以上であることが好ましい。更に、前記超伝導ダイヤモンド膜のカソードルミネッセンス(CL)強度が、横軸をエネルギー、縦軸をCL強度とした測定データにおいて、4.5eV以上のエネルギー範囲にあるCLバンド強度が4.5eV未満のエネルギー範囲にあるCLバンド強度の20倍以上であることが好ましい。
【0012】
そして、前記超伝導ダイヤモンド膜が、前記下層ダイヤモンド膜の上の所定の領域に選択的に積層することにより、超伝導ダイヤモンド基板による回路パターンが得られる。
【0013】
また、前記回路パターンの1箇所又は複数箇所の部分において、回路幅を1μm以下とすることにより、この部分でジョセフソン接合を構成することができる。
【0014】
更に、前記超伝導ダイヤモンド膜上に積層された絶縁層と、この絶縁層上に形成されホウ素が高濃度にドーピングされた第2超伝導ダイヤモンド膜とを有し、前記絶縁層を挟む超伝導ダイヤモンド膜及び第2超伝導ダイヤモンド膜との間でジョセフソン接合が構成されるように構成できる。
【0015】
前記絶縁層は、例えば、アンドープ・ダイヤモンド、窒素(N)、燐(P)又は硫黄(S)をドープしたダイヤモンド、窒化ホウ素(BN)、炭化珪素(SiC)、窒化シリコン(SiN)、及びアルミナ(Al)からなる群から選択された1種又は2種以上の材料で形成されている。この場合に、白金(Pt)膜からなる電極を設けることができる。
【0016】
上記超伝導ダイヤモンド基板により構成されるジョセフソン接合を使用することにより、超伝導サブミリ波発振素子、超伝導量子干渉素子又は超伝導デジタル集積回路等の超伝導デバイスを得ることができる。
【0017】
本発明に係る超伝導ダイヤモンド基板の製造方法は、ダイヤモンド(111)結晶面から構成され、表面にダイヤモンド粒子の4角錐状の突起を有する下層ダイヤモンド膜を気相合成により形成する工程と、前記下層ダイヤモンド膜の表面上に、ホウ素が高濃度にドーピングされたダイヤモンド膜を積層する工程とを有することを特徴とする。
【0018】
前記下層ダイヤモンド膜は、高配向性ダイヤモンド膜上に水素ガスで希釈された炭素原子を含むガスを使用して成膜することができる。又は、前記下層ダイヤモンド膜は、高配向性ダイヤモンド膜をエッチング処理することにより成膜することができる。
【0019】
また、前記超伝導ダイヤモンド膜は、マイクロ波CVD法により、反応ガス圧が80Torr(10664Pa)以上の条件で気相合成することにより成膜できる。
【0020】
更に、前記下層ダイヤモンド膜上に超伝導ダイヤモンド膜を積層し、不要な領域をエッチング除去することにより、前記超伝導ダイヤモンド膜を回路パターンに形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ダイヤモンド結晶欠陥が防止され、シリコン原子が不純物として混入することがなく、優れた超伝導特性を低コストで得ることができる。これにより、超伝導ダイヤモンドの実用化が可能となり、超伝導体、半導体及び絶縁体を同一の材料で実現できるという他の超伝導材料では得られないダイヤモンドの特性を利用して、超伝導膜及び超伝導デバイス等を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。本発明の実施形態に係る超伝導ダイヤモンド基板においては、シリコン等の適宜の基台上に、気相合成により、下層ダイヤモンド膜が形成されており、下層ダイヤモンド膜上に、Bを高濃度にドーピングした超伝導ダイヤモンド膜が形成されている。下層ダイヤモンド膜は、基台に対し(100)配向しており、面内でも、ほぼ一定方向に配向している、所謂高配向膜である。そして、この下層ダイヤモンド膜の表面にはダイヤモンドの4角錐状の突起が形成され、この4角錐状突起はダイヤモンド(111)結晶面から構成されている。この突起は、下層ダイヤモンド膜の表面から、0.5μm以上の高さを有する。
【0023】
このダイヤモンドの突起は一定方向に配列されている。また、超伝導ダイヤモンド膜中のホウ素(B)と炭素(C)との原子数比(B/C)が、5%以上であることが好ましい。前記原子数比は、50%未満とすることもできるが、現実的には、30%以下、更に好ましくは20%以下が良い。更に、超伝導ダイヤモンド膜4のカソードルミネッセンス(CL)強度が、横軸をエネルギー、縦軸をCL強度とした測定データにおいて、4.5eV以上のエネルギー範囲にあるCLバンド強度が4.5eV未満のエネルギー範囲にあるCLバンド強度の20倍以上であり、大きければ大きいほど好ましい。
【0024】
本発明によれば、ダイヤモンド中のB濃度が高く、超伝導特性が著しく向上した超伝導ダイヤモンド基板を得ることができる。先ず、第1に、超伝導デバイス等への応用については、広域面積の超伝導ダイヤモンド膜が必要であり、これには直径数インチの基板に成膜が可能なCVD法で合成したダイヤモンド膜が適している。
【0025】
第2に、高濃度にBをドーピングした超伝導ダイヤモンド膜の結晶欠陥を低減するためには、従来技術2のようにシリコン基板上に直接にダイヤモンドを合成するのではなく、適当な基台上に、先ず、例えばアンドープのダイヤモンド膜を合成し、この上に高濃度にBをドーピングしたダイヤモンド膜を合成することが必要である。この方法により、高濃度にBをドーピングした超伝導ダイヤモンド膜は下地の下層ダイヤモンド膜上に積層されるので、結晶欠陥密度は大幅に低減される。
【0026】
第3に、高濃度にBをドーピングするためには、下地の下層ダイヤモンド膜表面が(111)結晶面から構成されている必要がある。ダイヤモンド(111)結晶面は不純物原子を取り込み易い結晶面であり、ダイヤモンド膜はB/C=2%(ボロンと炭素との原子数比が2%)というように高濃度にBをドーピングすることができる。
【0027】
最後に、高濃度にBをドーピングした超伝導ダイヤモンド膜中の最大の欠陥である粒界密度を低減するには、下地の(111)結晶面を有する下層ダイヤモンド膜表面が、ピラミッド形状のダイヤモンド突起が一定方向に配列している構造を有すれば良い。このような表面形態を形成することは、図1に示すように、実際に可能である。図1のような表面構造を形成する方法は、実施例に示すが、一般には幾つかの方法があり、実施例の方法には限定されない。
【0028】
図1の表面形態を有する下地の下層ダイヤモンド膜を、基板上の所定の領域のみに選択的に成長させ、その表面上に高濃度にBをドービングした超伝導ダイヤモンド膜を積層すれば、任意に超伝導回路を微細加工できる。別の方法としては、図1の表面形態を有する下地の下層ダイヤモンド膜上に、高濃度にBをドービングした超伝導ダイヤモンド膜を、所定の領域に選択的に成長させることも可能である。更に、別の方式としては、基板全面に図1の表面形態を有する下地の下層ダイヤモンド膜を合成し、その表面上に高濃度にBをドーピングした超伝導ダイヤモンド膜を積層した後、例えばアルミニウム(Al)薄膜、酸化アルミニウム(Al)膜又は酸化シリコン(SiO)膜等のマスクを所定の領域に形成し、酸素等のプラズマでエッチング処理すれば、前記マスクの下方だけダイヤモンド基板が残り、必要ならば前記マスクを化学溶液で除去すれば、任意のパターンを有する超伝導回路を微細加工できる。更に、高エネルギーのイオンビーム等で、不要なダイヤモンド基板をエッチング除去して、回路パターンを形成することもできる。
【0029】
極低温で超伝導特性を示すダイヤモンドはダイヤモンド中のB原子濃度が、極端に高くなければならない。従来技術2では高濃度にBがドープされたダイヤモンド膜において、Bと炭素(C)の原子数比(B/C)をB/C=4.5%としている。しかしながら、本発明者らの研究によれば、B/C≧5%とすることにより、超伝導臨界温度が大幅に上昇することを見出した。通常の合成方法では、このような高濃度にBがドープされたダイヤモンド膜は微結晶化してしまい、超伝導特性が見られないが、本発明者らは、高濃度にBがドープされたダイヤモンド膜の気相合成をガス圧80Torr以上で行うことにより、ダイヤモンドの結晶性を損なうことなく、Bドーピング濃度を上げられることを見出した。この場合、投入マイクロ波は50kW以上、基板温度は800℃以上であった。これは、高ガス圧のプラズマを用いることにより、高濃度にBをドービングしたダイヤモンドでも、結晶性が損なわれないことを示している。
【0030】
B/C≧5%という高濃度にダイヤモンドがBドーピングされたことを検証する手段は幾つかあるが、本発明者らは簡便な方法として、高濃度にBがドーピングされたダイヤモンド膜のカソードルミネッセンス(CL)強度が、横軸をエネルギー、縦軸をCL強度とした測定データにおいて、4.5eV以上のエネルギー範囲にあるCLバンド強度が4.5eV未満のエネルギー範囲にあるCLバンド強度の20倍以上であれば、確実に超伝導特性が観測されることを見出した。この方法により、実際に極低温で電気伝導の測定を行なわなくとも、試料が超伝導特性を示すかどうかのスクリーニングが可能である。
【0031】
ダイヤモンド超伝導膜の主要な用途として、各種の超伝導デバイスが考えられるが、ジョセフソン接合はその基本構造である。
【0032】
ジョセフソン接合の第1の構造として、ダイヤモンド超伝導膜を微細加工して、一方の超伝導膜が他方の超伝導膜に点接触する構造を形成する。実際的には、超伝導膜の回路の一部に「くびれ」を形成することで、点接触と等価な構造を形成できる。本発明者らの研究によれば、「くびれ」の幅が1μm以下であれば、ジョセフソン効果を発現することができた。
【0033】
ジョセフソン接合の第2の構造として、高濃度にBがドーピングされた超伝導ダイヤモンド膜上に、厚さが約lnmの絶縁膜を蒸着し、更に高濃度にBがドーピングされた第2の超伝導ダイヤモンド膜を積層して、上記2つの超伝導ダイヤモンド膜に電極を形成して、極低温で電流を流せば、ジョセフソン効果が発現する。本発明においては、例えば、基板となる下層ダイヤモンド膜の表面はピラミッド構造の突起が一方向に配向した集合体であり、大きな凹凸があるにもかかわらず、上述のジョセフソン接合構造が機能することば、本発明において初めて見出された事実である。
【0034】
絶縁膜としては、先ず、アンドープ・ダイヤモンド膜、窒素(N)、燐(P)又は硫黄(S)をドープしたダイヤモンド膜、窒化ホウ素(BN)膜、炭化珪素(SiC)膜、窒化シリコン(SiN)膜、アルミナ(Al)膜が可能である。ダイヤモンド以外の絶縁膜では、その厚さが上記のように約lnmであるが、上記のダイヤモンドを絶縁膜5として用いた場合には、その膜厚が100nm程度でもジョセフソン効果が初めて見られた。これは、ダイヤモンド超伝導が、高濃度にBがドーブされたダイヤモンド膜中の正孔が超伝導作用をすることによるのであり、絶縁膜が上記ダイヤモンドの場合には、正孔がポテンシャル障壁なしに、価電子帯を通過することを示している。
【0035】
高濃度にBがドーブされた超伝導ダイヤモンド膜には、電極を形成する必要があるが、電極材料として様々な材料を試験した結果、白金(Pt)が最適であることが分かった。これは、Ptをダイヤモンド表面に蒸着する際に、Ptがダイヤモンド表面のミクロな凹凸に容易に喰い込むからである。
【0036】
以上の如く構成された超伝導ダイヤモンドジョセフソン接合素子を使用して、実際に(1)超伝導サブミリ波発振素子、(2)超伝導量子干渉素子、(3)超伝導デジタル集積回路を作製した結果、いずれの場合も、ジョセフソン接合が機能することが確認された。
【0037】
よって、本発明で示した方法により、超伝導臨界温度が高く、電流密度の高いダイヤモンド超伝導膜、及び超伝導デバイスが可能となる。
【0038】
なお、第2の超伝導ダイヤモンド膜の形成方法は、上記超伝導ダイヤモンド膜の場合と同一とすることができる。
【実施例1】
【0039】
図1に示すダイヤモンド表面構造を作製した。先ず、公知の技術(特許第3549227号、特許第3124422号、特許第3176493号、特許第3194820号)を用いて、ダイヤモンドの(100)結晶面が面内で同一方向に並んだ「高配向膜」を合成した。合成にはマイクロ波CVD装置を用い、2インチ径のシリコン・ウエハに膜厚30μmのアンドーブ・ダイヤモンドを合成した。
【0040】
次いで、原料ガスとして、水素(H)で0.5体積%に希釈したメタン(CH)を用い、ガス圧を100Torr(13333Pa)、基板温度を870℃に設定して、ダイヤモンドの積層を20時間行なった。この結果、図1に示す表面形態を有する下層ダイヤモンド膜が合成された。
【0041】
次いで、最大出力60kW、915MHzのマイクロ波CVD装置を用い、原料ガスとして、水素(H)で0.5体積%に希釈したメタン(CH)と100ppmに希釈したジボラン(B)を用い、ガス圧を100Torr(13333Pa)、基板温度を870℃に設定して、下層ダイヤモンド膜上に、超伝導ダイヤモンド膜を5時間成膜した。
【0042】
この結果、高濃度にBがドーブされたダイヤモンド膜が、厚さ10μm積層された。ダイヤモンド膜の表面形状は図1とほぼ同様であった。二次イオン質量分析(SIMS)によれば、積層したダイヤモンドでは、B/C=3%であった。
【0043】
この試料のカソードルミネッセンス(CL)を測定し、横軸をエネルギー、縦軸をCL強度としたデータで、4.5eV以上のエネルギー範囲にあるCLバンド強度が4.5eV未満のエネルギー範囲にあるCLバンド強度の約35倍であった。
【0044】
この試料をlcm角に切り出し、四隅にPt電極を蒸着し、極低温で電流−電圧特性を測定した結果、図2のデータが得られた。高濃度にBをドープしたダイヤモンド膜は約15Kで電気抵抗がゼロとなり、超伝導化した。
【実施例2】
【0045】
実施例1で合成した図1の表面形態を有する下層ダイヤモンド膜の表面上に、公知の「選択成長技術」(特開平3‐131003、論文:“Selected area deposition of diamond films” T.Inoue, H.Tachibana, K.Kumagai, K.Miyata, K.Nishimura, K.Kobashi, and A.Nakaue J.Appl. Phys., Vol.67, No.12, pp.7329-7336(1990) 参照)を用いて、概ね図5のような高濃度にBドープしたダイヤモンド膜で回路を形成した。図3はジョセフソン接合試験回路を示す。アンドープの下層ダイヤモンド膜15の上に、Bを高濃度でドープした超伝導ダイヤモンド膜10a、10bを選択成長させた。超伝導ダイヤモンド膜10aは端縁が平坦であるが、超伝導ダイヤモンド膜10bは端縁がV字形に絞り込まれており、その先端が超伝導ダイヤモンド膜10aの端縁に接触している。従って、この部分で幅方向に「くびれ」10cが生じた回路が構成されている。このくびれ10cは、選択成長によりくびれ形状を形成した後、更にイオンビーム・エッチングにより微細加工したもので、「くびれ」10cの最小幅は0.05μmである。超伝導ダイヤモンド膜10a、10bの各他方の端部には、Pt膜からなる電極11a、11bが形成されており、この電極11a、11b間に電流計12,電源13及び可変抵抗14が直列に接続されている。この回路(超伝導部分)を5Kに冷却し、電圧Vを±10mVの範囲でスイープしたところ、図4に示すように、V=0で振動電流が観測された。これは、「くびれ」10cにおけるジョセフソン効果による。以上の実験により、ダイヤモンド膜を用いてジョセフソン接合が形成できることが実証された。
【実施例3】
【0046】
実施例2と同様に、「選択成長」技術を用いて、図5に示すジョセフソン接合を作製した。このジョセフソン接合素子は、表面に突起を有する下層ダイヤモンド膜20上にBを高濃度にドーピングした超伝導ダイヤモンド膜21が選択的に形成されており、この超伝導ダイヤモンド膜21の端部にSiO膜22が形成されている。そして、この超伝導ダイヤモンド絶縁膜21及びSiO膜上に絶縁膜23が形成され、絶縁膜23,SiO膜22及び下層ダイヤモンド膜20上にBを高濃度にドーピングした第2超伝導ダイヤモンド膜24が選択的に形成されている。そして、超伝導ダイヤモンド膜21の表面に電極25が形成され、第2超伝導ダイヤモンド膜24の表面に電極26が形成されている。絶縁膜23と超伝導ダイヤモンド膜21,24が重複する面積は10μm×10μmである。絶縁膜23として、膜厚約50nmのアンドープ・ダイヤモンドを用いた素子を作製し、電流−電圧特性を測定した結果、実施例2と同様に、ジョセフソン接合に特有の電流が観測された。
【0047】
ダイヤモンド膜21,24として、窒素(N)、燐(P)又は硫黄(S)をドープしたダイヤモンドを用いても、特性に大きな変化はなかった。また、絶縁膜23として、厚さ数nmの窒化ホウ素(BN)、炭化珪素(SiC)、蜜化シリコン(SiN)、アルミナ(Al)を原子層蒸着(ALD)装置を用いて成膜しても、実施例2と同様の振動電流が観測された。
【実施例4】
【0048】
ジョセフソン接合が作製できたことが確認されたので、これを用いてテラヘルツ帯(サブミリ波)発振デバイス、超伝導量子干渉素子、超伝導デジタル集積回路を試作し、その動作を確認した。これらのデバイスは、通信機器等に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】下層ダイヤモンド膜の表面の4角錐状突起の形状を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】超伝導特性を示すグラフ図である。
【図3】本発明の実施例にて使用したジョセフソン接合試験回路を示す図である。
【図4】ジョセフソン接合の振動電流を示すグラフ図である。
【図5】本発明の実施例の絶縁膜を使用したジョセフソン接合素子を示す断面図である。
【図6】従来のシリコン基板上に形成されたBを高濃度でドープしたダイヤモンド膜の断面を示す電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0050】
1:シリコン基板1
2:下層ダイヤモンド膜
3:突起
4:超伝導ダイヤモンド膜
5:絶縁膜
6:第2超伝導ダイヤモンド膜
10a、10b:超伝導ダイヤモンド膜
10c:くびれ
11a、11b:電極
20:下層ダイヤモンド膜
21:超伝導ダイヤモンド膜
23:絶縁膜
24:第2超伝導ダイヤモンド膜
25,26:電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面がダイヤモンド(111)結晶面により構成され、前記表面にダイヤモンドの4角錐状の突起が形成された気相合成による下層ダイヤモンド膜と、
前記下層ダイヤモンド膜の上に積層され、ホウ素が高濃度にドーピングされた超伝導ダイヤモンド膜と、
を有し、前記ダイヤモンドの4角錐状の突起は一定方向に配列していることを特徴とする超伝導ダイヤモンド基板。
【請求項2】
前記超伝導ダイヤモンド膜中のホウ素(B)と炭素(C)との原子数比(B/C)が、5%以上であることを特徴とする請求項1に記載の超伝導ダイヤモンド基板。
【請求項3】
前記超伝導ダイヤモンド膜のカソードルミネッセンス(CL)強度が、横軸をエネルギー、縦軸をCL強度とした測定データにおいて、4.5eV以上のエネルギー範囲にあるCLバンド強度が4.5eV未満のエネルギー範囲にあるCLバンド強度の20倍以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の超伝導ダイヤモンド基板。
【請求項4】
前記超伝導ダイヤモンド膜が、前記下層ダイヤモンド膜の上の所定の領域に選択的に積層されており、回路パターンを構成していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超伝導ダイヤモンド基板。
【請求項5】
前記回路パターンの1箇所又は複数箇所の部分において、回路幅が1μm以下であり、この部分でジョセフソン接合が構成されていることを特徴とする請求項4に記載の超伝導ダイヤモンド基板。
【請求項6】
更に、前記超伝導ダイヤモンド膜上に積層された絶縁層と、この絶縁層上に形成されホウ素が高濃度にドーピングされた第2超伝導ダイヤモンド膜とを有し、前記絶縁層を挟む超伝導ダイヤモンド膜及び第2超伝導ダイヤモンド膜との間でジョセフソン接合が構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の超伝導ダイヤモンド基板。
【請求項7】
前記絶縁層は、アンドープ・ダイヤモンド、窒素(N)、燐(P)又は硫黄(S)をドープしたダイヤモンド、窒化ホウ素(BN)、炭化珪素(Sic)、窒化シリコン(SiN)、及びアルミナ(Al)からなる群から選択された1種又は2種以上の材料で形成されていることを特徴とする請求項6に記載の超伝導ダイヤモンド基板。
【請求項8】
前記超伝導ダイヤモンド膜上に形成された第1電極と前記第2超伝導ダイヤモンド膜上に形成された第2電極との白金(Pt)膜からなる電極を有することを特徴とする請求項7に記載の超伝導ダイヤモンド基板。
【請求項9】
前記請求項6乃至8のいずれか1項に記載の超伝導ダイヤモンド基板により構成されるジョセフソン接合を使用した超伝導サブミリ波発振素子であることを特徴とする超伝導デバイス。
【請求項10】
前記請求項6乃至8のいずれか1項に記載の超伝導ダイヤモンド基板により構成されるジョセフソン接合を使用した超伝導量子干渉素子であることを特徴とする超伝導デバイス。
【請求項11】
前記請求項6乃至8のいずれか1項に記載の超伝導ダイヤモンド基板により構成されるジョセフソン接合を使用した超伝導デジタル集積回路であることを特徴とする超伝導デバイス。
【請求項12】
ダイヤモンド(111)結晶面から構成され、表面にダイヤモンド粒子の4角錐状突起を有する下層ダイヤモンド膜を気相合成により形成する工程と、前記下層ダイヤモンド膜の表面上に、ホウ素が高濃度にドーピングされたダイヤモンド膜を積層する工程とを有することを特徴とする超伝導ダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項13】
前記超伝導ダイヤモンド膜は、マイクロ波CVD法により、反応ガス圧が80Torr(10664Pa)以上の条件で気相合成されたことを特徴とする請求項12に記載の超伝導ダイヤモンド基板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−103688(P2007−103688A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291920(P2005−291920)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】