超伝導薄膜の製造方法及び超伝導デバイスの製造方法
【課題】膜表面における不純物としてのフッ素化合物の発生を抑制しながら、簡易な方法で、希土類元素、フッ素、鉄、ヒ素、及び酸素からなる超伝導体を含む超伝導薄膜を形成することができる超伝導薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】基体上に、分子線エピタキシー法により、少なくとも希土類元素の固体原料及び希土類三フッ化物の固体原料を用い、希土類元素、フッ素、鉄、ヒ素、及び酸素からなる超伝導体を含む超伝導薄膜を形成する工程を有する超伝導薄膜の製造方法である。
【解決手段】基体上に、分子線エピタキシー法により、少なくとも希土類元素の固体原料及び希土類三フッ化物の固体原料を用い、希土類元素、フッ素、鉄、ヒ素、及び酸素からなる超伝導体を含む超伝導薄膜を形成する工程を有する超伝導薄膜の製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導薄膜の製造方法及び超伝導デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の先端医療技術、先端科学における超高感度な計測分野を支える技術として、超伝導技術がある。
超伝導技術は、例えば、脳磁計などの生体磁気計測に用いられるSQUID (超伝導量子干渉素子)、テラヘルツ帯の高感度電磁波検出器、量子電圧標準装置などに利用されている。更に、超伝導技術による高感度検出技術の延長線上には、超伝導論理素子やメモリ素子への応用、またこれらを組み合わせた超伝導プロセッサ、超伝導集積回路の研究開発、超伝導コンピュータ応用への発展も期待されている。
超伝導技術については、省エネルギーで環境負荷も小さいという視点からも、将来の広い産業応用に向け、デバイスの動作温度の高温化および現在よりも高性能のデバイスの実現が要請されている。
【0003】
超伝導技術に用いる超伝導体として、2008年に発見された鉄系超伝導体は、銅酸化物高温超伝導体と同様に高い臨界温度(Tc)を有する有力な次世代超伝導デバイス材料である。
鉄系超伝導体は、これまでのニオブ(Nb)を主体とした超伝導デバイスに対し、動作温度が格段に高く、更に桁違いの高速性、高周波性を有する超伝導デバイスの材料として期待されている。さらに、鉄系超伝導体の接合は、半導体電子デバイスと一体化した全く新しい超伝導スピントロニクスデバイスの創成に繋がる可能性も期待されている。
鉄系超伝導体はその発見以来、デバイス応用を目的とした薄膜作製が精力的に試みられ、1111系の結晶構造を有する鉄系超伝導体REFeAs(O,F)(REは希土類元素、以下同じ。)の薄膜作製例がこれまでに数件報告されている。
【0004】
上記鉄系超伝導体REFeAs(O,F)を作製する方法としては、単結晶基板上にPLD法(パルスレーザー蒸着法)により常温でLaFeAs(O,F)の原料を堆積し、その後薄膜を取り出した後に石英管に真空封入し、高温でポストアニールを行うことで超伝導化して鉄系超伝導体LaFeAs(O,F)を得る方法が知られている(例えば、非特許文献1〜4参照)。
また、GaAs基板上に、分子線エピタキシー(Molecular beam exitaxy;MBE)法により、Fe、As、NdF3、Fe2O3を共蒸着させてNdFeAs(O,F)の薄膜を作製する方法も知られている(例えば、非特許文献5〜6参照)。非特許文献6では、MBE法により5〜6時間かけて成膜すると、成膜された薄膜上にNdOFが不純物として析出してくるが、この不純物が現れると超伝導化が起こることが報告されている。非特許文献6記載された方法に類似する方法として、GaAs基板又はMgO基板上にNdFeAsO膜を作製した後、NdFeAsO膜上にNdOFを堆積することによりFがドープされたNdFeAs(O,F)を得る方法も知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Supercond. Sci. Technol. 21 (2008) 122001
【非特許文献2】Appl. Phys. Lett. 93 (2008)162504
【非特許文献3】Supercond. Sci. Technol. 23 (2010) 022002
【非特許文献4】Phys. Rev. Lett. 104 (2010) 077001
【非特許文献5】Appl. Phys. Express 2 (2009) 093002
【非特許文献6】Appl. Phys. Lett. 97 (2010) 042509
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1〜4に記載の方法では、成膜後に後処理として高温のポストアニールを行う必要があるため、工程が複雑化する傾向がある。
また、上記非特許文献5〜6に記載の方法では、Fe、As、NdF3、Fe2O3を共蒸着させるため、Fの供給量(原子数)がNdの供給量(原子数)の3倍となり、Fの供給量が過剰となる。このため、上記非特許文献5〜6に記載の方法では、NdFeAs(O,F)膜上に不純物としてのフッ素化合物(NdOF)が析出するという問題がある。
更に、GaAs基板上にNdFeAsO膜を作製した後、NdFeAsO膜上にNdOFを堆積することによりFがドープされたNdFeAs(O,F)を得る方法でも、NdOFの残留が問題となる。
【0007】
従って本発明は、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、膜表面における不純物としてのフッ素化合物の発生を抑制しながら、簡易な方法で、希土類元素、フッ素、鉄、ヒ素、及び酸素からなる超伝導体を含む超伝導薄膜を形成することができる超伝導薄膜の製造方法を提供することである。
また、本発明の目的は、基体上に形成された超伝導薄膜と該超伝導薄膜上に形成された絶縁層との界面の汚染が抑制され、該界面における接合が良好な超伝導デバイスを製造することができる超伝導デバイスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 基体上に、分子線エピタキシー法により、少なくとも希土類元素の固体原料及び希土類三フッ化物の固体原料を用い、希土類元素、フッ素、鉄、ヒ素、及び酸素からなる超伝導体を含む超伝導薄膜を形成する工程を有する超伝導薄膜の製造方法。
【0009】
<2> 前記超伝導薄膜の形成は、比率〔希土類三フッ化物の蒸着速度/希土類元素の蒸着速度〕がモル比で0.01〜0.3となる条件で行う<1>に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【0010】
<3> 前記超伝導薄膜の形成は、前記基体を450℃〜800℃に加熱しながら行う<1>又は<2>に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【0011】
<4> 前記超伝導薄膜の形成は、少なくとも、鉄の固体原料、ヒ素の固体原料、希土類元素の固体原料、希土類三フッ化物の固体原料、及び酸素ガスを用いて行う<1>〜<3>のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【0012】
<5> 前記基体は、LaAlO3基板上にCaF2膜が設けられた基板である<1>〜<4>のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【0013】
<6> 前記超伝導薄膜の形成は、希土類三フッ化物及び希土類元素の蒸着量を検出し、検出された蒸着量に基づいて比率〔希土類三フッ化物の蒸着速度/希土類元素の蒸着速度〕がモル比で0.01〜0.3となるように希土類三フッ化物及び希土類元素の蒸着速度を制御しながら行う<1>〜<5>のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【0014】
<7> 基体上に、<1>〜<6>のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法を用いて第1の超伝導薄膜を形成する第1の超伝導薄膜形成工程と、
前記第1の超伝導薄膜上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層上に第2の超伝導薄膜を形成する第2の超伝導薄膜形成工程と、
を有する超伝導デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、膜表面における不純物としてのフッ素化合物の発生を抑制しながら、簡易な方法で、希土類元素、フッ素、鉄、ヒ素、及び酸素からなる超伝導体を含む超伝導薄膜を形成することができる超伝導薄膜の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、基体上に形成された超伝導薄膜と該超伝導薄膜上に形成された絶縁層との界面の汚染が抑制され、該界面における接合が良好な超伝導デバイスを製造することができる超伝導デバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明における鉄系超伝導体REFeAs(O,F)の母物質である、REFeAsOの構造の一部を概念的に示した図である。
【図2】本発明に好適に用いられる分子線エピタキシー装置の一例の概略図である。
【図3】本発明の超伝導デバイスの製造方法によって作製される超伝導デバイスの一例を示す概略断面図である。
【図4】実施例1で得られたSmFeAs(O,F)膜のX線回折測定結果である。
【図5】実施例1で得られたSmFeAs(O,F)膜の電気抵抗率(mΩcm)の温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<超伝導薄膜の製造方法>
本発明の超伝導薄膜の製造方法は、基体上に、少なくとも希土類元素の固体原料及び希土類三フッ化物の固体原料を用い、分子線エピタキシー法により、希土類元素(以下、「RE」ともいう)、フッ素(以下、「F」ともいう)、鉄(以下、「Fe」ともいう)、ヒ素(以下、「As」ともいう)、及び酸素(以下、「O」ともいう)からなる超伝導体(以下、「鉄系超伝導体REFeAs(O,F)」や「REFeAs(O,F)」ともいう)を含む超伝導薄膜を形成する工程を有する。
【0018】
本発明の超伝導薄膜の製造方法では、分子線エピタキシー法により前記超伝導薄膜を形成するので、PLD法(パルスレーザー蒸着法)等のその他の形成方法と比較して、成膜後のポストアニールを省略することができるので、超伝導薄膜を簡易に形成することができる。即ち、本発明の超伝導薄膜の製造方法によれば、真空蒸着装置(分子線エピタキシー装置)内で成膜された薄膜が(ポストアニールなどの後処理を経ることなく)そのまま超伝導薄膜となっている、いわゆるas-grownの状態で超伝導性を示す薄膜の形成が可能である。
更に、本発明の超伝導薄膜の製造方法では、希土類元素の供給源として希土類三フッ化物の固体原料に加えて希土類元素の固体原料を用いるので、希土類元素の供給源として希土類三フッ化物の固体原料のみを用いる方法と比較して、フッ素の供給量が過剰となることを抑制することができ、ひいては不純物としてのフッ素化合物の発生を抑制できる。このため、超伝導薄膜上に不純物としてのフッ素化合物が残留する現象を抑制しながら、超伝導薄膜を簡易に形成することができる。
以上により、本発明の超伝導薄膜の製造方法によれば、不純物としてのフッ素化合物の発生を抑制しながら、簡易な方法で前記超伝導薄膜を形成することができる。
【0019】
本発明の超伝導薄膜の製造方法は、必要に応じ、その他の工程(超伝導薄膜の形成前に基体上に前処理を施す工程等)を含んでいてもよい。
【0020】
図1は、本発明における鉄系超伝導体REFeAs(O,F)の母物質である、REFeAsOの構造の一部を概念的に示した図である。
図1に示すように、母物質REFeAsOの構造は、RE、Fe、As、及びOの4種の元素からなる1111系の結晶構造である。この母物質の酸素サイトの一部(4.5%〜20%程度)がフッ素に置換された構造が、鉄系超伝導体REFeAs(O,F)の構造である。
【0021】
本発明における超伝導薄膜に含まれる希土類元素(RE)には特に限定はなく、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのいずれであってもよい。
このうち、高い臨界温度(Tc)を持つという観点からは、Nd、Sm、Gdが好ましく、Smが特に好ましい。
【0022】
本発明の超伝導薄膜の製造方法において、鉄系超伝導体REFeAs(O,F)の各構成元素(RE、F、Fe、As、O)の供給源については、少なくとも希土類元素の固体原料及び希土類三フッ化物の固体原料を用いること以外には特に限定はない。
供給源として固体原料を用いる場合には、該固体原料を加熱により蒸発させ、蒸発により生じた蒸着種を基体上に蒸着させることで、当該蒸着種の構成元素を超伝導薄膜に供給する。
供給源として気体(ガス)を用いる場合には、当該ガスを導入しながら超伝導薄膜の形成を行うことで、当該ガスの構成元素を超伝導薄膜に供給する。
【0023】
REの供給源としては、例えば、RE(単体)の固体原料、REF3の固体原料、REOFの固体原料を用いることができる。
Fの供給源としては、例えば、REF3の固体原料、FeF2の固体原料、FeF3の固体原料を用いることができる。
Feの供給源としては、例えば、Fe(単体)の固体原料、Fe2O3の固体原料、FeF2の固体原料、FeF3の固体原料、FeAsの固体原料を用いることができる。
Asの供給源(蒸発源)としては、例えば、As(単体)の固体原料、AsO2の固体原料、FeAsの固体原料を用いることができる。
Oの供給源としては、例えば、O2(酸素ガス)、Fe2O3の固体原料、AsO2の固体原料、REOFの固体原料を用いることができる。
【0024】
本発明においては、少なくともRE(単体)の固体原料及びREF3の固体原料を含む複数の供給源を適宜組み合わせて用い、鉄系超伝導体REFeAs(O,F)の各構成元素(RE、F、Fe、As、O)を超伝導薄膜中に供給する。
より具体的には、各構成元素(RE、F、Fe、As、O)の供給源として、Feの固体原料、Asの固体原料、REの固体原料、REF3の固体原料、及びO2(酸素ガス)を用いる形態が特に好ましい。
この形態は、各元素の蒸発に必要な温度が1000℃を超えないという点で好適である。
【0025】
また、本発明においては、前記超伝導薄膜の形成を、比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕がモル比で0.01〜0.3となる条件で行うことが好ましい。
ここで、蒸着速度は、単位時間当たりの蒸着量(モル数)を表す。
前記比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕(モル比)が0.01以上であれば、超伝導薄膜中へのFの供給量を制御し易い。
前記比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕(モル比)0.3以下であれば、超伝導薄膜中へのFの供給量が過剰となることをより抑制できる。
前記比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕(モル比)は、0.01〜0.2が更に好ましく、0.05〜0.1が特に好ましい。
【0026】
本発明において、前記超伝導薄膜の形成を上記比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕で行う具体的な方法としては、(1)超伝導薄膜の形成前に予め上記比率となるようにREF3及びREの蒸着速度を調整しておき、調整された蒸着速度で超伝導薄膜を形成する方法や、(2)超伝導薄膜の形成を、REF3及びREの蒸着量を検出し検出された蒸着量に基づいてREF3及びREの蒸着速度を上記比率となるように制御しながら行う形態が挙げられる。
中でも、比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕(モル比)をより制御し易い点で、(2)の方法が好ましい。
(2)の方法は、例えば後述する分子線エピタキシー装置100のような、蒸着量検出センサー及び制御手段を備えた分子線エピタキシー装置によって行うことができる。
【0027】
また、本発明においては、前記超伝導薄膜の形成を、比率〔Feの蒸着速度/REの蒸着速度〕がモル比で0.8〜2.5(より好ましくは1.0〜2.0)となる条件で行うことも好ましい。
これにより、超伝導薄膜の中へのRE及びFeの供給量のバランスを容易に調整できるので、超伝導薄膜の超伝導特性をより向上させることができる。
【0028】
本発明において、前記超伝導薄膜の形成を上記比率〔Feの蒸着速度/REの蒸着速度〕で行う具体的な方法としては、(A)超伝導薄膜の形成前に予め上記比率となるようにFe及びREの蒸着速度を調整しておき、調整された蒸着速度で超伝導薄膜を形成する方法や、(B)超伝導薄膜の形成を、Fe及びREの蒸着量を検出し検出された蒸着量に基づいてFe及びREの蒸着速度を上記比率となるように制御しながら行う形態が挙げられる。
中でも、比率〔Feの蒸着速度/REの蒸着速度〕(モル比)の調整がより容易となる点で、(B)の方法が好ましい。
(B)の方法は、例えば後述する分子線エピタキシー装置100のような、蒸着量検出センサー及び制御手段を備えた分子線エピタキシー装置によって行うことができる。
【0029】
また、本発明の製造方法により製造される超伝導薄膜の膜厚には特に限定はないが、例えば10nm〜1000nmであり、好ましくは50nm〜300nmであり、より好ましくは100nm〜200nmである。
【0030】
また、本発明において、超伝導薄膜の形成中における基体の温度としては特に限定はなく、分子線エピタキシー法において通常用いられる温度(例えば、100℃〜800℃)とすることができる。
超伝導性をより効果的に発現させる観点からは、基体の温度は、450℃以上が好ましく、500℃以上がより好ましく、550℃以上が更に好ましく、600℃以上が特に好ましい。
【0031】
また、本発明における基体としては特に限定は無く、分子線エピタキシー法において通常用いられる基体(例えば、少なくとも超伝導薄膜が形成される面が結晶構造(好ましくは単結晶構造)を有する基体)を用いることができる。
また、前記基体の形状としては、表面に超伝導薄膜を形成できる形状であれば特に限定はなく、例えば、板状(フィルム状)、塊状、球状、筒状、棒状等が挙げられる。
本発明では、板状(フィルム状)の基体を「基板」という。
【0032】
また、本発明における基体としては、超伝導薄膜が形成される面の格子定数が、形成される超伝導薄膜の格子定数に近い基体(超伝導薄膜が形成される面に、形成される超伝導薄膜の格子定数に近いバッファ層が設けられた基体を含む)を用いることが好ましい。
このような基体の例としては、CaF2基板、LaAlO3基板、MgO基板、Al2O3基板、少なくとも超伝導薄膜が形成される面にCaF2層(バッファ層)が設けられたLaAlO3基板が挙げられる。
中でも、(表面にCaF2層を有しない)LaAlO3基板に比べて格段に良質な(不純物が極めて少ない)超伝導薄膜が得られるという点で、少なくとも超伝導薄膜が形成される面にCaF2層(バッファ層)が設けられたLaAlO3基板が特に好ましい。
【0033】
本発明の超伝導薄膜の製造方法は、例えば、下記の分子線エピタキシー装置を用いて好適に行うことができる。
また、本発明の超伝導薄膜の製造方法は、例えば、下記本発明の超伝導デバイスの製造方法のうちの第1の超伝導薄膜形成工程に用いることが好適である。
【0034】
<分子線エピタキシー装置>
以下、本発明に好適に用いることができる分子線エピタキシー装置について説明する。
本発明に好適に用いることができる分子線エピタキシー装置は、基体が配置される基体配置部、前記基体配置部の前記基体が配置される側に配置されるとともに固体原料を加熱して蒸発によりフッ素を含む蒸着種(例えばREF3)を生じさせる蒸発源を少なくとも含む複数の蒸発源、及び前記フッ素を含む蒸着種の蒸着量を検出する蒸着量検出センサーを内部に有する真空蒸着室と、前記蒸着量検出センサーと電気的に接続され、前記蒸着量検出センサーにより検出された蒸着量に基づいて求められた蒸着速度が所定の範囲よりも高いときには前記蒸着速度を下げ、前記蒸着速度が所定の範囲よりも低いときには前記蒸着速度を上げるように前記蒸着種の蒸着速度を制御する制御手段と、を備え、前記基体上に、分子線エピタキシー法により、希土類元素、フッ素、鉄、ヒ素、及び酸素からなる超伝導体を含む超伝導薄膜を形成する分子線エピタキシー装置である。
【0035】
上記の分子線エピタキシー装置によれば、フッ素を含む蒸着種(例えばREF3)の蒸着速度を、予め設定された所定の範囲内となるように制御しながら超伝導薄膜を形成することができるので、超伝導薄膜へのフッ素の供給量が過剰となることを抑制できる。
従って、超伝導薄膜上に不純物としてのフッ素化合物の発生することを抑制できる。
【0036】
図2は、本発明における分子線エピタキシー装置の一例である、分子線エピタキシー装置100を示す概略図である。但し、本発明における分子線エピタキシー装置は下記の分子線エピタキシー装置100の形態に限定されることはない。
図2に示すように、分子線エピタキシー装置100は、真空蒸着室10と、真空蒸着室10外に配置された制御手段30(制御手段)と、真空蒸着室10外に配置された電源40A、電源40B、電源40C、及び電源40Dと、を備えている。
【0037】
真空蒸着室10内には、基体配置部として、不図示の加熱手段(ヒーター等)を備えた基板ステージ12が設けられている。
基板ステージ12には基板14(基体)が、吸着又は接着により固定される。
また、真空蒸着室10には、基板14(基体)に対向する位置に、蒸発源としての、分子線セル20A、分子線セル20B、分子線セル20C、及び分子線セル20Dがそれぞれ配置されており、各分子線セルの内部には、それぞれ、固体原料(不図示)が収納されている。これにより、各固体原料の蒸発により生じた各蒸着種を、基板14に共蒸着できるようになっている。
一例として、例えば、分子線セル20AにFeの固体原料を収納し、分子線セル20BにAsの固体原料を収納し、分子線セル20CにREの固体原料を収納し、分子線セル20DにREF3の固体原料を収納する。但し、どの分子線セルにどの固体原料を収納しても良い。
分子線セル20A、分子線セル20B、分子線セル20C、及び分子線セル20Dとしては、分子線エピタキシー装置に通常用いられる坩堝やボートを用いることができる。
なお、分子線エピタキシー装置100では分子線セルの個数は4個となっているが、本発明では分子線セル(蒸発源)の個数には限定はなく、供給源の種類に応じて適宜設定できる。
【0038】
分子線セル20A、分子線セル20B、分子線セル20C、及び分子線セル20Dは、それぞれ、真空蒸着室10外の電源40A、電源40B、電源40C、及び電源40Dと電気的に接続されている。これにより、各電源から各分子線セルに電力を供給し、例えば抵抗加熱方式により分子線セル内の固体原料を加熱して、各固体原料から蒸着種を発生させることができるようになっている。
【0039】
真空蒸着室10内の基板ステージ12の近傍には、蒸着量検出センサー16A及び蒸着量検出センサー16Bが設けられており、これにより各蒸着種の蒸着量を検出できるようになっている。本実施形態では、フッ素を含む蒸着種(例えば、REF3)の蒸着量を少なくとも検出する。
蒸着量検出センサー16A及び蒸着量検出センサー16Bとしては、例えば、水晶振動子膜厚計や電子衝撃発光分光(EIES)を用いる。特に、電子衝撃発光分光(EIES)は、蒸発流の元素識別を行えるため、蒸着種ごとに蒸着量を検出できる点で好適である。
なお、図2の分子線エピタキシー装置100では蒸着量検出センサーの個数は2個となっているが、本発明では蒸着量検出センサーの個数には限定はない。
また、本実施形態において、1つの蒸着量検出センサーは、1種の蒸着種の蒸着量を検出するように構成されていてもよいし、2種以上の蒸着種の蒸着量を検出するように構成されていてもよい
【0040】
分子線エピタキシー装置100において、制御手段30は、蒸着量検出センサー16A及び蒸着量検出センサー16Bと電気的に接続されるとともに、電源40A、電源40B、電源40C、及び電源40Dと電気的に接続される。
制御手段30は、蒸着量検出センサーによって検出されたフッ素を含む蒸着種(例えば、REF3)の蒸着量に基づいて蒸着速度を算出する。そして、算出された蒸着速度が所定の範囲よりも速いときには、前記蒸着種の蒸着速度を下げるための電気信号を電源に送り、算出された蒸着速度が所定の範囲よりも遅いときには、前記蒸着種の蒸着速度を上げるための電気信号を電源に送る。算出された蒸着速度が所定の範囲内であるときは、前記蒸着種の蒸着速度を維持するための電気信号を電源に送る。電源(例えば電源40D)は、制御手段30から送信された電気信号に応じた電力を、対応する分子線セル(例えば分子線セル20D)に供給する。
このようにして、分子線エピタキシー装置100では、制御手段30により、フッ素を含む蒸着種の蒸着速度を制御しながら、超伝導薄膜を形成できるようになっている。
なお、分子線エピタキシー装置100では、制御手段30から電源40A、40B、40C、電源40Dを介して分子線セル20A、分子線セル20B、分子線セル20C、及び分子線セル20Dに電力を供給するように構成されているが、本発明における分子線エピタキシー装置はこの形態に限定されず、制御手段から各分子線セルに直接電力を供給できるように構成されていてもよい。
【0041】
また、真空蒸着室10にはガス供給手段(不図示)が接続されており、これにより真空蒸着室10内にガス(例えば、供給源としての酸素ガス、等)を供給できるようになっている。
また、真空蒸着室10には排気手段(不図示)が接続されており、これにより真空蒸着室10内を、例えば10−7Torr〜10−10Torrにまで排気できるようになっている。排気手段としては、例えば、ロータリーポンプ、メカニカルブースターポンプ、油拡散ポンプ、クライオポンプ、イオンポンプ、ターボ分子ポンプ等の公知の真空ポンプを(必要に応じ組み合わせて)用いることができる。
また、真空蒸着室10には、真空蒸着室10内の圧力を測定するための圧力測定手段(不図示)が接続されていてもよい。
【0042】
以上、本発明の製造方法に好適に用いることができる分子線エピタキシー装置の一例として、分子線エピタキシー装置100の構成を説明したが、本発明の製造方法では公知の分子線エピタキシー装置を用いてもよい。
【0043】
次に、分子線エピタキシー装置100を用いて超伝導薄膜を形成する一例について、分子線セル20AにFeの固体原料を収納し、分子線セル20BにAsの固体原料を収納し、分子線セル20CにREの固体原料を収納し、分子線セル20DにREF3の固体原料を収納した場合を例として説明する。
【0044】
まず、基板ステージ12に吸着又は接着により基板14を固定する。
次に、真空蒸着室10内を例えば10−7Torr〜10−10Torrに排気するとともに、基板14を例えば100℃〜800℃に加熱する。
【0045】
次に、電源40A、電源40B、電源40C、及び電源40Dからの電力の供給により、分子線セル20A(Fe)、分子線セル20B(As)、分子線セル20C(RE)、及び分子線セル20D(REF3)を抵抗加熱方式により加熱し、各固体原料から蒸着種を発生させる。
生じた蒸着種が、基板14の表面に共蒸着されて超伝導薄膜が形成される。
【0046】
このとき、基板14への超伝導薄膜の形成とともに、蒸着量検出センサー16A及び蒸着量検出センサー16Bにより、RE及びREF3の蒸着量が検出される。
制御手段30は、蒸着量検出センサーによって検出されたRE及びREF3の蒸着量に基づいてRE及びREF3の蒸着速度を算出し、比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕がモル比で0.01〜0.3となっているかどうかを判定する。
更に、制御手段30は、比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕が0.01〜0.3の範囲を外れているときには比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕が0.01〜0.3の範囲を入るような電気信号を電源40C及び40Dに送り、比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕が0.01〜0.3の範囲内であるときには現状の蒸着速度を維持するための電気信号を電源40C及び40Dに送る。
電源40C及び電源40Dは、制御手段30からの電気信号に応じた電力を、分子線セル20C(RE)、及び分子線セル20D(REF3)に供給する。
このようにして、分子線セル20C(RE)及び分子線セル20D(REF3)からは、比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕がモル比で0.01〜0.3となるような条件でRE及びREF3が発生し、発生したRE及びREF3が基体に蒸着される。
【0047】
<超伝導デバイスの製造方法>
本発明の超伝導デバイスの製造方法は、基体上に、既述の本発明の超伝導薄膜の製造方法を用いて第1の超伝導薄膜を形成する第1の超伝導薄膜形成工程と、前記第1の超伝導薄膜上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、前記絶縁層上に第2の超伝導薄膜を形成する第2の超伝導薄膜形成工程と、を有する。
【0048】
第1の超伝導薄膜形成工程は、既述の本発明の超伝導薄膜の製造方法を用いて第1の超伝導薄膜を形成する工程である。
第1の超伝導薄膜の形成の好ましい条件については、既述の本発明の超伝導薄膜の製造方法と同様である。
【0049】
前記絶縁層形成工程は、前記第1の超伝導薄膜形成工程で形成された第1の超伝導薄膜上に(好ましくは第1の超伝導薄膜と接するように)絶縁層を形成する工程である。
絶縁層形成工程については、公知の方法をそのまま用いることができる。
【0050】
第2の超伝導薄膜形成工程は、前記絶縁層上に第2の超伝導薄膜を形成する工程である。
第2の超伝導薄膜形成工程については、公知の方法をそのまま用いることができる。
また、第1の超伝導薄膜形成工程と同様の方法を用いてもよい。
【0051】
本発明の超伝導デバイスの製造方法は、必要に応じ、その他の工程(第1の超伝導薄膜の形成前に基体上に前処理を施す工程、等)を含んでいてもよい。
【0052】
図3は、本発明の超伝導デバイスの製造方法を用いて好適に作製できる鉄系超伝導デバイスの一例を示す概略断面図である。
図3に示すように、この一例に係る鉄系超伝導デバイス200は、単結晶基板210上に、第1のREFeAs(O,F)層220(第1の超伝導薄膜)、第1のREFeAs(O,F)層220に接する絶縁層230、及び第2のREFeAs(O,F)層240(第2の超伝導薄膜)がこの順に設けられた構造となっている。
【0053】
鉄系超伝導デバイス200は、超伝導体(S)/絶縁体(I)/超伝導体(S)の積層構造(SIS構造)を有するデバイスである。この超伝導デバイスにおける接合は、トンネル(積層)型ジョセフソン接合と呼ばれており、この超伝導デバイスは、トンネル(積層)型ジョセフソン素子と呼ばれている。
【0054】
金属系の超伝導エレクトロニクスの歴史から明らかなように、エレクトロニクスの高性能化には、クリーンな界面を有するトンネル型ジョセフソン素子が不可欠である。
しかしながら、REFeAs(O,F)層上にフッ素化合物層(不純物層)が形成される従来の超伝導薄膜の製造方法を用い、第1のREFeAs(O,F)層220を形成した場合には、第1のREFeAs(O,F)層220の形成と、絶縁層230の形成と、の間に、第1のREFeAs(O,F)層220上のフッ素化合物層を除去する工程が必要となる。例えば、アルゴンイオンミリングなどの手法を用いてこのフッ素化合物を取り除くと、第1のREFeAs(O,F)層220の表面(絶縁層230との界面)が著しく劣化することとなり、トンネル(積層)型ジョセフソン接合を良好に維持できない。
また、超伝導薄膜の成膜後にポストアニールを必須とする従来の超伝導薄膜の製造方法を用い、第1のREFeAs(O,F)層220を形成した場合においても、ポストアニールにより第1のREFeAs(O,F)層220の表面(絶縁層230との界面)が著しく劣化することとなり、トンネル(積層)型ジョセフソン接合を良好に維持できない。
【0055】
これに対し、本発明の超伝導薄膜の製造方法を用い、第1のREFeAs(O,F)層220を形成した場合には、フッ素化合物を除去する工程やポストアニールの工程を設ける必要がないため、第1のREFeAs(O,F)層220と絶縁層230との接合を良好に維持することができる。
【0056】
鉄系超伝導デバイス200において、単結晶基板210としては、例えば、上述の、CaF2基板、LaAlO3基板、MgO基板、Al2O3基板、少なくとも超伝導薄膜が形成される面にCaF2層(バッファ層)が設けられたLaAlO3基板を用いる。
第1のREFeAs(O,F)層220の層厚は、例えば、100nm〜200nmとする。
絶縁層230の層厚は、例えば、1nm〜10nmとする。
絶縁層230としては、例えば、酸化ケイ素層、酸化アルミニウム層、等を用いる。
第2のREFeAs(O,F)層240の層厚は、例えば、50nm〜100nmとする。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
〔実施例1〕
前述の分子線エピタキシー装置100(図2)と同様の構成の分子線エピタキシー装置を用い、CaF2層が蒸着されたLaAlO3単結晶基板(基板14;基板サイズ6mm×6mm×0.5mmt)のCaF2層上に、SmFeAs(O,F)膜を形成した。
Fe、As、Sm、及びFの供給源としては、Feの固体原料、Asの固体原料、Smの固体原料、及びSmF3の固体原料を用いた。ここでは、分子線セル20AにFeの固体原料を収納し、分子線セル20BにAsの固体原料を収納し、分子線セル20CにSmの固体原料を収納し、分子線セル20DにSmF3の固体原料を収納した。
酸素(O)の供給源としては、酸素ガス(O2)を用いた。
また、各個体原料から基板までの距離は、それぞれ400mmとした。
【0059】
まず、基板ステージ12に前記基板を、銀ペーストを用いて、基板ステージ12と前記基板の裏面(CaF2層が設けられていない側の面)とが接するようにして固定した。
この状態で、真空蒸着室内を圧力10−8〜10−9Torrとなるまで排気するとともに、基板温度が650℃となるように基板を加熱した。
【0060】
次に、真空蒸着室10内に酸素ガスを導入するとともに、各電源から各分子線セルに電力を供給し、抵抗加熱方式により各固体原料を加熱して各固体原料から蒸着種を生じさせた。
このようにして、各蒸着種(酸素を含む)を基板上(CaF2層上)に共蒸着させた。
このとき、イオンゲージ及び四重極形質量分析計(Q−mass)により、O2分圧が10−5〜10−7Torrとなるように、As分圧が10−5〜10−8Torrとなるように、それぞれ制御した。
また、共蒸着は、基板端から60mmの位置に設けられた蒸着量検出センサー16A及び16Bにより、Fe、Sm、及びSmF3の各蒸着量を検出し、フィードバック回路を備えた制御手段30により、Feの蒸着速度(R(Fe))、Smの蒸着速度(R(Sm))、及びSmF3の蒸着速度(R(SmF3))を調整しながら行った。具体的には、〔R(SmF3)/R(Sm)〕(モル比)が0.1となるように調整し、〔R(Fe)/R(Sm)〕(モル比)が1.1となるように調整した。
ここでは、蒸着量検出センサー16Aとして電子衝撃発光分光(EIES)を用いてFe及びSmの蒸着量を検出し、蒸着量検出センサー16Bとして水晶振動子膜厚計を用いてSmF3の蒸着量を検出した。
【0061】
以上により、基板上に、膜厚170nmのSmFeAs(O,F)膜を形成した。
【0062】
上記で得られたSmFeAs(O,F)膜について、X線回折測定を行った。
図4にX線回折測定の結果を示す。
図4中、「sub.」のピークはLaAlO3基板に由来するピークであり、「CaF2」はCaF2層に由来するピークである。
図4に示すように、「001」〜「007」のピークが観測され、単相のエピタキシャル薄膜が成長していることが確認された。
また、形成されたSmFeAs(O,F)膜は、図1に示す母物質の酸素サイト(酸素原子)の10%〜20%がフッ素原子で置換された構造の1111系の結晶構造(c0=8.478Å)であることが確認された。
ここで、SmFeAs(O,F)膜中におけるフッ素原子の量は、Phys.Rev.Lett.101(2008)087001に記載された、SmFeAs(O,F)膜の格子定数とフッ素原子の量との関係から見積もった。
【0063】
次に、上記で得られたSmFeAs(O,F)膜について、膜温度を変化させながら4端子法により電気抵抗率の測定を行い、超伝導特性を評価した。
図5に、上記で得られたSmFeAs(O,F)膜の電気抵抗率(mΩcm)の温度依存性を示す。
図5に示すように、上記で得られたSmFeAs(O,F)膜は、Tcon=51.0Kにおいて鋭い超伝導転移を示しており、鉄系超伝導体のこれまでの最高値に近い高い転移温度を有していた。
【符号の説明】
【0064】
10 真空蒸着室
12 基板ステージ
14 基板
16A、16B 蒸着量検出センサー
20A、20B、20C、20D 分子線セル
30 制御手段
40A、40B、40C、40D 電源
100 分子線エピタキシー装置
200 鉄系超伝導デバイス
210 単結晶基板
220 第1のREFeAs(O,F)層
230 絶縁層
240 第2のREFeAs(O,F)層
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導薄膜の製造方法及び超伝導デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の先端医療技術、先端科学における超高感度な計測分野を支える技術として、超伝導技術がある。
超伝導技術は、例えば、脳磁計などの生体磁気計測に用いられるSQUID (超伝導量子干渉素子)、テラヘルツ帯の高感度電磁波検出器、量子電圧標準装置などに利用されている。更に、超伝導技術による高感度検出技術の延長線上には、超伝導論理素子やメモリ素子への応用、またこれらを組み合わせた超伝導プロセッサ、超伝導集積回路の研究開発、超伝導コンピュータ応用への発展も期待されている。
超伝導技術については、省エネルギーで環境負荷も小さいという視点からも、将来の広い産業応用に向け、デバイスの動作温度の高温化および現在よりも高性能のデバイスの実現が要請されている。
【0003】
超伝導技術に用いる超伝導体として、2008年に発見された鉄系超伝導体は、銅酸化物高温超伝導体と同様に高い臨界温度(Tc)を有する有力な次世代超伝導デバイス材料である。
鉄系超伝導体は、これまでのニオブ(Nb)を主体とした超伝導デバイスに対し、動作温度が格段に高く、更に桁違いの高速性、高周波性を有する超伝導デバイスの材料として期待されている。さらに、鉄系超伝導体の接合は、半導体電子デバイスと一体化した全く新しい超伝導スピントロニクスデバイスの創成に繋がる可能性も期待されている。
鉄系超伝導体はその発見以来、デバイス応用を目的とした薄膜作製が精力的に試みられ、1111系の結晶構造を有する鉄系超伝導体REFeAs(O,F)(REは希土類元素、以下同じ。)の薄膜作製例がこれまでに数件報告されている。
【0004】
上記鉄系超伝導体REFeAs(O,F)を作製する方法としては、単結晶基板上にPLD法(パルスレーザー蒸着法)により常温でLaFeAs(O,F)の原料を堆積し、その後薄膜を取り出した後に石英管に真空封入し、高温でポストアニールを行うことで超伝導化して鉄系超伝導体LaFeAs(O,F)を得る方法が知られている(例えば、非特許文献1〜4参照)。
また、GaAs基板上に、分子線エピタキシー(Molecular beam exitaxy;MBE)法により、Fe、As、NdF3、Fe2O3を共蒸着させてNdFeAs(O,F)の薄膜を作製する方法も知られている(例えば、非特許文献5〜6参照)。非特許文献6では、MBE法により5〜6時間かけて成膜すると、成膜された薄膜上にNdOFが不純物として析出してくるが、この不純物が現れると超伝導化が起こることが報告されている。非特許文献6記載された方法に類似する方法として、GaAs基板又はMgO基板上にNdFeAsO膜を作製した後、NdFeAsO膜上にNdOFを堆積することによりFがドープされたNdFeAs(O,F)を得る方法も知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Supercond. Sci. Technol. 21 (2008) 122001
【非特許文献2】Appl. Phys. Lett. 93 (2008)162504
【非特許文献3】Supercond. Sci. Technol. 23 (2010) 022002
【非特許文献4】Phys. Rev. Lett. 104 (2010) 077001
【非特許文献5】Appl. Phys. Express 2 (2009) 093002
【非特許文献6】Appl. Phys. Lett. 97 (2010) 042509
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1〜4に記載の方法では、成膜後に後処理として高温のポストアニールを行う必要があるため、工程が複雑化する傾向がある。
また、上記非特許文献5〜6に記載の方法では、Fe、As、NdF3、Fe2O3を共蒸着させるため、Fの供給量(原子数)がNdの供給量(原子数)の3倍となり、Fの供給量が過剰となる。このため、上記非特許文献5〜6に記載の方法では、NdFeAs(O,F)膜上に不純物としてのフッ素化合物(NdOF)が析出するという問題がある。
更に、GaAs基板上にNdFeAsO膜を作製した後、NdFeAsO膜上にNdOFを堆積することによりFがドープされたNdFeAs(O,F)を得る方法でも、NdOFの残留が問題となる。
【0007】
従って本発明は、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、膜表面における不純物としてのフッ素化合物の発生を抑制しながら、簡易な方法で、希土類元素、フッ素、鉄、ヒ素、及び酸素からなる超伝導体を含む超伝導薄膜を形成することができる超伝導薄膜の製造方法を提供することである。
また、本発明の目的は、基体上に形成された超伝導薄膜と該超伝導薄膜上に形成された絶縁層との界面の汚染が抑制され、該界面における接合が良好な超伝導デバイスを製造することができる超伝導デバイスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 基体上に、分子線エピタキシー法により、少なくとも希土類元素の固体原料及び希土類三フッ化物の固体原料を用い、希土類元素、フッ素、鉄、ヒ素、及び酸素からなる超伝導体を含む超伝導薄膜を形成する工程を有する超伝導薄膜の製造方法。
【0009】
<2> 前記超伝導薄膜の形成は、比率〔希土類三フッ化物の蒸着速度/希土類元素の蒸着速度〕がモル比で0.01〜0.3となる条件で行う<1>に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【0010】
<3> 前記超伝導薄膜の形成は、前記基体を450℃〜800℃に加熱しながら行う<1>又は<2>に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【0011】
<4> 前記超伝導薄膜の形成は、少なくとも、鉄の固体原料、ヒ素の固体原料、希土類元素の固体原料、希土類三フッ化物の固体原料、及び酸素ガスを用いて行う<1>〜<3>のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【0012】
<5> 前記基体は、LaAlO3基板上にCaF2膜が設けられた基板である<1>〜<4>のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【0013】
<6> 前記超伝導薄膜の形成は、希土類三フッ化物及び希土類元素の蒸着量を検出し、検出された蒸着量に基づいて比率〔希土類三フッ化物の蒸着速度/希土類元素の蒸着速度〕がモル比で0.01〜0.3となるように希土類三フッ化物及び希土類元素の蒸着速度を制御しながら行う<1>〜<5>のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【0014】
<7> 基体上に、<1>〜<6>のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法を用いて第1の超伝導薄膜を形成する第1の超伝導薄膜形成工程と、
前記第1の超伝導薄膜上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層上に第2の超伝導薄膜を形成する第2の超伝導薄膜形成工程と、
を有する超伝導デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、膜表面における不純物としてのフッ素化合物の発生を抑制しながら、簡易な方法で、希土類元素、フッ素、鉄、ヒ素、及び酸素からなる超伝導体を含む超伝導薄膜を形成することができる超伝導薄膜の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、基体上に形成された超伝導薄膜と該超伝導薄膜上に形成された絶縁層との界面の汚染が抑制され、該界面における接合が良好な超伝導デバイスを製造することができる超伝導デバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明における鉄系超伝導体REFeAs(O,F)の母物質である、REFeAsOの構造の一部を概念的に示した図である。
【図2】本発明に好適に用いられる分子線エピタキシー装置の一例の概略図である。
【図3】本発明の超伝導デバイスの製造方法によって作製される超伝導デバイスの一例を示す概略断面図である。
【図4】実施例1で得られたSmFeAs(O,F)膜のX線回折測定結果である。
【図5】実施例1で得られたSmFeAs(O,F)膜の電気抵抗率(mΩcm)の温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<超伝導薄膜の製造方法>
本発明の超伝導薄膜の製造方法は、基体上に、少なくとも希土類元素の固体原料及び希土類三フッ化物の固体原料を用い、分子線エピタキシー法により、希土類元素(以下、「RE」ともいう)、フッ素(以下、「F」ともいう)、鉄(以下、「Fe」ともいう)、ヒ素(以下、「As」ともいう)、及び酸素(以下、「O」ともいう)からなる超伝導体(以下、「鉄系超伝導体REFeAs(O,F)」や「REFeAs(O,F)」ともいう)を含む超伝導薄膜を形成する工程を有する。
【0018】
本発明の超伝導薄膜の製造方法では、分子線エピタキシー法により前記超伝導薄膜を形成するので、PLD法(パルスレーザー蒸着法)等のその他の形成方法と比較して、成膜後のポストアニールを省略することができるので、超伝導薄膜を簡易に形成することができる。即ち、本発明の超伝導薄膜の製造方法によれば、真空蒸着装置(分子線エピタキシー装置)内で成膜された薄膜が(ポストアニールなどの後処理を経ることなく)そのまま超伝導薄膜となっている、いわゆるas-grownの状態で超伝導性を示す薄膜の形成が可能である。
更に、本発明の超伝導薄膜の製造方法では、希土類元素の供給源として希土類三フッ化物の固体原料に加えて希土類元素の固体原料を用いるので、希土類元素の供給源として希土類三フッ化物の固体原料のみを用いる方法と比較して、フッ素の供給量が過剰となることを抑制することができ、ひいては不純物としてのフッ素化合物の発生を抑制できる。このため、超伝導薄膜上に不純物としてのフッ素化合物が残留する現象を抑制しながら、超伝導薄膜を簡易に形成することができる。
以上により、本発明の超伝導薄膜の製造方法によれば、不純物としてのフッ素化合物の発生を抑制しながら、簡易な方法で前記超伝導薄膜を形成することができる。
【0019】
本発明の超伝導薄膜の製造方法は、必要に応じ、その他の工程(超伝導薄膜の形成前に基体上に前処理を施す工程等)を含んでいてもよい。
【0020】
図1は、本発明における鉄系超伝導体REFeAs(O,F)の母物質である、REFeAsOの構造の一部を概念的に示した図である。
図1に示すように、母物質REFeAsOの構造は、RE、Fe、As、及びOの4種の元素からなる1111系の結晶構造である。この母物質の酸素サイトの一部(4.5%〜20%程度)がフッ素に置換された構造が、鉄系超伝導体REFeAs(O,F)の構造である。
【0021】
本発明における超伝導薄膜に含まれる希土類元素(RE)には特に限定はなく、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのいずれであってもよい。
このうち、高い臨界温度(Tc)を持つという観点からは、Nd、Sm、Gdが好ましく、Smが特に好ましい。
【0022】
本発明の超伝導薄膜の製造方法において、鉄系超伝導体REFeAs(O,F)の各構成元素(RE、F、Fe、As、O)の供給源については、少なくとも希土類元素の固体原料及び希土類三フッ化物の固体原料を用いること以外には特に限定はない。
供給源として固体原料を用いる場合には、該固体原料を加熱により蒸発させ、蒸発により生じた蒸着種を基体上に蒸着させることで、当該蒸着種の構成元素を超伝導薄膜に供給する。
供給源として気体(ガス)を用いる場合には、当該ガスを導入しながら超伝導薄膜の形成を行うことで、当該ガスの構成元素を超伝導薄膜に供給する。
【0023】
REの供給源としては、例えば、RE(単体)の固体原料、REF3の固体原料、REOFの固体原料を用いることができる。
Fの供給源としては、例えば、REF3の固体原料、FeF2の固体原料、FeF3の固体原料を用いることができる。
Feの供給源としては、例えば、Fe(単体)の固体原料、Fe2O3の固体原料、FeF2の固体原料、FeF3の固体原料、FeAsの固体原料を用いることができる。
Asの供給源(蒸発源)としては、例えば、As(単体)の固体原料、AsO2の固体原料、FeAsの固体原料を用いることができる。
Oの供給源としては、例えば、O2(酸素ガス)、Fe2O3の固体原料、AsO2の固体原料、REOFの固体原料を用いることができる。
【0024】
本発明においては、少なくともRE(単体)の固体原料及びREF3の固体原料を含む複数の供給源を適宜組み合わせて用い、鉄系超伝導体REFeAs(O,F)の各構成元素(RE、F、Fe、As、O)を超伝導薄膜中に供給する。
より具体的には、各構成元素(RE、F、Fe、As、O)の供給源として、Feの固体原料、Asの固体原料、REの固体原料、REF3の固体原料、及びO2(酸素ガス)を用いる形態が特に好ましい。
この形態は、各元素の蒸発に必要な温度が1000℃を超えないという点で好適である。
【0025】
また、本発明においては、前記超伝導薄膜の形成を、比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕がモル比で0.01〜0.3となる条件で行うことが好ましい。
ここで、蒸着速度は、単位時間当たりの蒸着量(モル数)を表す。
前記比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕(モル比)が0.01以上であれば、超伝導薄膜中へのFの供給量を制御し易い。
前記比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕(モル比)0.3以下であれば、超伝導薄膜中へのFの供給量が過剰となることをより抑制できる。
前記比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕(モル比)は、0.01〜0.2が更に好ましく、0.05〜0.1が特に好ましい。
【0026】
本発明において、前記超伝導薄膜の形成を上記比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕で行う具体的な方法としては、(1)超伝導薄膜の形成前に予め上記比率となるようにREF3及びREの蒸着速度を調整しておき、調整された蒸着速度で超伝導薄膜を形成する方法や、(2)超伝導薄膜の形成を、REF3及びREの蒸着量を検出し検出された蒸着量に基づいてREF3及びREの蒸着速度を上記比率となるように制御しながら行う形態が挙げられる。
中でも、比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕(モル比)をより制御し易い点で、(2)の方法が好ましい。
(2)の方法は、例えば後述する分子線エピタキシー装置100のような、蒸着量検出センサー及び制御手段を備えた分子線エピタキシー装置によって行うことができる。
【0027】
また、本発明においては、前記超伝導薄膜の形成を、比率〔Feの蒸着速度/REの蒸着速度〕がモル比で0.8〜2.5(より好ましくは1.0〜2.0)となる条件で行うことも好ましい。
これにより、超伝導薄膜の中へのRE及びFeの供給量のバランスを容易に調整できるので、超伝導薄膜の超伝導特性をより向上させることができる。
【0028】
本発明において、前記超伝導薄膜の形成を上記比率〔Feの蒸着速度/REの蒸着速度〕で行う具体的な方法としては、(A)超伝導薄膜の形成前に予め上記比率となるようにFe及びREの蒸着速度を調整しておき、調整された蒸着速度で超伝導薄膜を形成する方法や、(B)超伝導薄膜の形成を、Fe及びREの蒸着量を検出し検出された蒸着量に基づいてFe及びREの蒸着速度を上記比率となるように制御しながら行う形態が挙げられる。
中でも、比率〔Feの蒸着速度/REの蒸着速度〕(モル比)の調整がより容易となる点で、(B)の方法が好ましい。
(B)の方法は、例えば後述する分子線エピタキシー装置100のような、蒸着量検出センサー及び制御手段を備えた分子線エピタキシー装置によって行うことができる。
【0029】
また、本発明の製造方法により製造される超伝導薄膜の膜厚には特に限定はないが、例えば10nm〜1000nmであり、好ましくは50nm〜300nmであり、より好ましくは100nm〜200nmである。
【0030】
また、本発明において、超伝導薄膜の形成中における基体の温度としては特に限定はなく、分子線エピタキシー法において通常用いられる温度(例えば、100℃〜800℃)とすることができる。
超伝導性をより効果的に発現させる観点からは、基体の温度は、450℃以上が好ましく、500℃以上がより好ましく、550℃以上が更に好ましく、600℃以上が特に好ましい。
【0031】
また、本発明における基体としては特に限定は無く、分子線エピタキシー法において通常用いられる基体(例えば、少なくとも超伝導薄膜が形成される面が結晶構造(好ましくは単結晶構造)を有する基体)を用いることができる。
また、前記基体の形状としては、表面に超伝導薄膜を形成できる形状であれば特に限定はなく、例えば、板状(フィルム状)、塊状、球状、筒状、棒状等が挙げられる。
本発明では、板状(フィルム状)の基体を「基板」という。
【0032】
また、本発明における基体としては、超伝導薄膜が形成される面の格子定数が、形成される超伝導薄膜の格子定数に近い基体(超伝導薄膜が形成される面に、形成される超伝導薄膜の格子定数に近いバッファ層が設けられた基体を含む)を用いることが好ましい。
このような基体の例としては、CaF2基板、LaAlO3基板、MgO基板、Al2O3基板、少なくとも超伝導薄膜が形成される面にCaF2層(バッファ層)が設けられたLaAlO3基板が挙げられる。
中でも、(表面にCaF2層を有しない)LaAlO3基板に比べて格段に良質な(不純物が極めて少ない)超伝導薄膜が得られるという点で、少なくとも超伝導薄膜が形成される面にCaF2層(バッファ層)が設けられたLaAlO3基板が特に好ましい。
【0033】
本発明の超伝導薄膜の製造方法は、例えば、下記の分子線エピタキシー装置を用いて好適に行うことができる。
また、本発明の超伝導薄膜の製造方法は、例えば、下記本発明の超伝導デバイスの製造方法のうちの第1の超伝導薄膜形成工程に用いることが好適である。
【0034】
<分子線エピタキシー装置>
以下、本発明に好適に用いることができる分子線エピタキシー装置について説明する。
本発明に好適に用いることができる分子線エピタキシー装置は、基体が配置される基体配置部、前記基体配置部の前記基体が配置される側に配置されるとともに固体原料を加熱して蒸発によりフッ素を含む蒸着種(例えばREF3)を生じさせる蒸発源を少なくとも含む複数の蒸発源、及び前記フッ素を含む蒸着種の蒸着量を検出する蒸着量検出センサーを内部に有する真空蒸着室と、前記蒸着量検出センサーと電気的に接続され、前記蒸着量検出センサーにより検出された蒸着量に基づいて求められた蒸着速度が所定の範囲よりも高いときには前記蒸着速度を下げ、前記蒸着速度が所定の範囲よりも低いときには前記蒸着速度を上げるように前記蒸着種の蒸着速度を制御する制御手段と、を備え、前記基体上に、分子線エピタキシー法により、希土類元素、フッ素、鉄、ヒ素、及び酸素からなる超伝導体を含む超伝導薄膜を形成する分子線エピタキシー装置である。
【0035】
上記の分子線エピタキシー装置によれば、フッ素を含む蒸着種(例えばREF3)の蒸着速度を、予め設定された所定の範囲内となるように制御しながら超伝導薄膜を形成することができるので、超伝導薄膜へのフッ素の供給量が過剰となることを抑制できる。
従って、超伝導薄膜上に不純物としてのフッ素化合物の発生することを抑制できる。
【0036】
図2は、本発明における分子線エピタキシー装置の一例である、分子線エピタキシー装置100を示す概略図である。但し、本発明における分子線エピタキシー装置は下記の分子線エピタキシー装置100の形態に限定されることはない。
図2に示すように、分子線エピタキシー装置100は、真空蒸着室10と、真空蒸着室10外に配置された制御手段30(制御手段)と、真空蒸着室10外に配置された電源40A、電源40B、電源40C、及び電源40Dと、を備えている。
【0037】
真空蒸着室10内には、基体配置部として、不図示の加熱手段(ヒーター等)を備えた基板ステージ12が設けられている。
基板ステージ12には基板14(基体)が、吸着又は接着により固定される。
また、真空蒸着室10には、基板14(基体)に対向する位置に、蒸発源としての、分子線セル20A、分子線セル20B、分子線セル20C、及び分子線セル20Dがそれぞれ配置されており、各分子線セルの内部には、それぞれ、固体原料(不図示)が収納されている。これにより、各固体原料の蒸発により生じた各蒸着種を、基板14に共蒸着できるようになっている。
一例として、例えば、分子線セル20AにFeの固体原料を収納し、分子線セル20BにAsの固体原料を収納し、分子線セル20CにREの固体原料を収納し、分子線セル20DにREF3の固体原料を収納する。但し、どの分子線セルにどの固体原料を収納しても良い。
分子線セル20A、分子線セル20B、分子線セル20C、及び分子線セル20Dとしては、分子線エピタキシー装置に通常用いられる坩堝やボートを用いることができる。
なお、分子線エピタキシー装置100では分子線セルの個数は4個となっているが、本発明では分子線セル(蒸発源)の個数には限定はなく、供給源の種類に応じて適宜設定できる。
【0038】
分子線セル20A、分子線セル20B、分子線セル20C、及び分子線セル20Dは、それぞれ、真空蒸着室10外の電源40A、電源40B、電源40C、及び電源40Dと電気的に接続されている。これにより、各電源から各分子線セルに電力を供給し、例えば抵抗加熱方式により分子線セル内の固体原料を加熱して、各固体原料から蒸着種を発生させることができるようになっている。
【0039】
真空蒸着室10内の基板ステージ12の近傍には、蒸着量検出センサー16A及び蒸着量検出センサー16Bが設けられており、これにより各蒸着種の蒸着量を検出できるようになっている。本実施形態では、フッ素を含む蒸着種(例えば、REF3)の蒸着量を少なくとも検出する。
蒸着量検出センサー16A及び蒸着量検出センサー16Bとしては、例えば、水晶振動子膜厚計や電子衝撃発光分光(EIES)を用いる。特に、電子衝撃発光分光(EIES)は、蒸発流の元素識別を行えるため、蒸着種ごとに蒸着量を検出できる点で好適である。
なお、図2の分子線エピタキシー装置100では蒸着量検出センサーの個数は2個となっているが、本発明では蒸着量検出センサーの個数には限定はない。
また、本実施形態において、1つの蒸着量検出センサーは、1種の蒸着種の蒸着量を検出するように構成されていてもよいし、2種以上の蒸着種の蒸着量を検出するように構成されていてもよい
【0040】
分子線エピタキシー装置100において、制御手段30は、蒸着量検出センサー16A及び蒸着量検出センサー16Bと電気的に接続されるとともに、電源40A、電源40B、電源40C、及び電源40Dと電気的に接続される。
制御手段30は、蒸着量検出センサーによって検出されたフッ素を含む蒸着種(例えば、REF3)の蒸着量に基づいて蒸着速度を算出する。そして、算出された蒸着速度が所定の範囲よりも速いときには、前記蒸着種の蒸着速度を下げるための電気信号を電源に送り、算出された蒸着速度が所定の範囲よりも遅いときには、前記蒸着種の蒸着速度を上げるための電気信号を電源に送る。算出された蒸着速度が所定の範囲内であるときは、前記蒸着種の蒸着速度を維持するための電気信号を電源に送る。電源(例えば電源40D)は、制御手段30から送信された電気信号に応じた電力を、対応する分子線セル(例えば分子線セル20D)に供給する。
このようにして、分子線エピタキシー装置100では、制御手段30により、フッ素を含む蒸着種の蒸着速度を制御しながら、超伝導薄膜を形成できるようになっている。
なお、分子線エピタキシー装置100では、制御手段30から電源40A、40B、40C、電源40Dを介して分子線セル20A、分子線セル20B、分子線セル20C、及び分子線セル20Dに電力を供給するように構成されているが、本発明における分子線エピタキシー装置はこの形態に限定されず、制御手段から各分子線セルに直接電力を供給できるように構成されていてもよい。
【0041】
また、真空蒸着室10にはガス供給手段(不図示)が接続されており、これにより真空蒸着室10内にガス(例えば、供給源としての酸素ガス、等)を供給できるようになっている。
また、真空蒸着室10には排気手段(不図示)が接続されており、これにより真空蒸着室10内を、例えば10−7Torr〜10−10Torrにまで排気できるようになっている。排気手段としては、例えば、ロータリーポンプ、メカニカルブースターポンプ、油拡散ポンプ、クライオポンプ、イオンポンプ、ターボ分子ポンプ等の公知の真空ポンプを(必要に応じ組み合わせて)用いることができる。
また、真空蒸着室10には、真空蒸着室10内の圧力を測定するための圧力測定手段(不図示)が接続されていてもよい。
【0042】
以上、本発明の製造方法に好適に用いることができる分子線エピタキシー装置の一例として、分子線エピタキシー装置100の構成を説明したが、本発明の製造方法では公知の分子線エピタキシー装置を用いてもよい。
【0043】
次に、分子線エピタキシー装置100を用いて超伝導薄膜を形成する一例について、分子線セル20AにFeの固体原料を収納し、分子線セル20BにAsの固体原料を収納し、分子線セル20CにREの固体原料を収納し、分子線セル20DにREF3の固体原料を収納した場合を例として説明する。
【0044】
まず、基板ステージ12に吸着又は接着により基板14を固定する。
次に、真空蒸着室10内を例えば10−7Torr〜10−10Torrに排気するとともに、基板14を例えば100℃〜800℃に加熱する。
【0045】
次に、電源40A、電源40B、電源40C、及び電源40Dからの電力の供給により、分子線セル20A(Fe)、分子線セル20B(As)、分子線セル20C(RE)、及び分子線セル20D(REF3)を抵抗加熱方式により加熱し、各固体原料から蒸着種を発生させる。
生じた蒸着種が、基板14の表面に共蒸着されて超伝導薄膜が形成される。
【0046】
このとき、基板14への超伝導薄膜の形成とともに、蒸着量検出センサー16A及び蒸着量検出センサー16Bにより、RE及びREF3の蒸着量が検出される。
制御手段30は、蒸着量検出センサーによって検出されたRE及びREF3の蒸着量に基づいてRE及びREF3の蒸着速度を算出し、比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕がモル比で0.01〜0.3となっているかどうかを判定する。
更に、制御手段30は、比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕が0.01〜0.3の範囲を外れているときには比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕が0.01〜0.3の範囲を入るような電気信号を電源40C及び40Dに送り、比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕が0.01〜0.3の範囲内であるときには現状の蒸着速度を維持するための電気信号を電源40C及び40Dに送る。
電源40C及び電源40Dは、制御手段30からの電気信号に応じた電力を、分子線セル20C(RE)、及び分子線セル20D(REF3)に供給する。
このようにして、分子線セル20C(RE)及び分子線セル20D(REF3)からは、比率〔REF3の蒸着速度/REの蒸着速度〕がモル比で0.01〜0.3となるような条件でRE及びREF3が発生し、発生したRE及びREF3が基体に蒸着される。
【0047】
<超伝導デバイスの製造方法>
本発明の超伝導デバイスの製造方法は、基体上に、既述の本発明の超伝導薄膜の製造方法を用いて第1の超伝導薄膜を形成する第1の超伝導薄膜形成工程と、前記第1の超伝導薄膜上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、前記絶縁層上に第2の超伝導薄膜を形成する第2の超伝導薄膜形成工程と、を有する。
【0048】
第1の超伝導薄膜形成工程は、既述の本発明の超伝導薄膜の製造方法を用いて第1の超伝導薄膜を形成する工程である。
第1の超伝導薄膜の形成の好ましい条件については、既述の本発明の超伝導薄膜の製造方法と同様である。
【0049】
前記絶縁層形成工程は、前記第1の超伝導薄膜形成工程で形成された第1の超伝導薄膜上に(好ましくは第1の超伝導薄膜と接するように)絶縁層を形成する工程である。
絶縁層形成工程については、公知の方法をそのまま用いることができる。
【0050】
第2の超伝導薄膜形成工程は、前記絶縁層上に第2の超伝導薄膜を形成する工程である。
第2の超伝導薄膜形成工程については、公知の方法をそのまま用いることができる。
また、第1の超伝導薄膜形成工程と同様の方法を用いてもよい。
【0051】
本発明の超伝導デバイスの製造方法は、必要に応じ、その他の工程(第1の超伝導薄膜の形成前に基体上に前処理を施す工程、等)を含んでいてもよい。
【0052】
図3は、本発明の超伝導デバイスの製造方法を用いて好適に作製できる鉄系超伝導デバイスの一例を示す概略断面図である。
図3に示すように、この一例に係る鉄系超伝導デバイス200は、単結晶基板210上に、第1のREFeAs(O,F)層220(第1の超伝導薄膜)、第1のREFeAs(O,F)層220に接する絶縁層230、及び第2のREFeAs(O,F)層240(第2の超伝導薄膜)がこの順に設けられた構造となっている。
【0053】
鉄系超伝導デバイス200は、超伝導体(S)/絶縁体(I)/超伝導体(S)の積層構造(SIS構造)を有するデバイスである。この超伝導デバイスにおける接合は、トンネル(積層)型ジョセフソン接合と呼ばれており、この超伝導デバイスは、トンネル(積層)型ジョセフソン素子と呼ばれている。
【0054】
金属系の超伝導エレクトロニクスの歴史から明らかなように、エレクトロニクスの高性能化には、クリーンな界面を有するトンネル型ジョセフソン素子が不可欠である。
しかしながら、REFeAs(O,F)層上にフッ素化合物層(不純物層)が形成される従来の超伝導薄膜の製造方法を用い、第1のREFeAs(O,F)層220を形成した場合には、第1のREFeAs(O,F)層220の形成と、絶縁層230の形成と、の間に、第1のREFeAs(O,F)層220上のフッ素化合物層を除去する工程が必要となる。例えば、アルゴンイオンミリングなどの手法を用いてこのフッ素化合物を取り除くと、第1のREFeAs(O,F)層220の表面(絶縁層230との界面)が著しく劣化することとなり、トンネル(積層)型ジョセフソン接合を良好に維持できない。
また、超伝導薄膜の成膜後にポストアニールを必須とする従来の超伝導薄膜の製造方法を用い、第1のREFeAs(O,F)層220を形成した場合においても、ポストアニールにより第1のREFeAs(O,F)層220の表面(絶縁層230との界面)が著しく劣化することとなり、トンネル(積層)型ジョセフソン接合を良好に維持できない。
【0055】
これに対し、本発明の超伝導薄膜の製造方法を用い、第1のREFeAs(O,F)層220を形成した場合には、フッ素化合物を除去する工程やポストアニールの工程を設ける必要がないため、第1のREFeAs(O,F)層220と絶縁層230との接合を良好に維持することができる。
【0056】
鉄系超伝導デバイス200において、単結晶基板210としては、例えば、上述の、CaF2基板、LaAlO3基板、MgO基板、Al2O3基板、少なくとも超伝導薄膜が形成される面にCaF2層(バッファ層)が設けられたLaAlO3基板を用いる。
第1のREFeAs(O,F)層220の層厚は、例えば、100nm〜200nmとする。
絶縁層230の層厚は、例えば、1nm〜10nmとする。
絶縁層230としては、例えば、酸化ケイ素層、酸化アルミニウム層、等を用いる。
第2のREFeAs(O,F)層240の層厚は、例えば、50nm〜100nmとする。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
〔実施例1〕
前述の分子線エピタキシー装置100(図2)と同様の構成の分子線エピタキシー装置を用い、CaF2層が蒸着されたLaAlO3単結晶基板(基板14;基板サイズ6mm×6mm×0.5mmt)のCaF2層上に、SmFeAs(O,F)膜を形成した。
Fe、As、Sm、及びFの供給源としては、Feの固体原料、Asの固体原料、Smの固体原料、及びSmF3の固体原料を用いた。ここでは、分子線セル20AにFeの固体原料を収納し、分子線セル20BにAsの固体原料を収納し、分子線セル20CにSmの固体原料を収納し、分子線セル20DにSmF3の固体原料を収納した。
酸素(O)の供給源としては、酸素ガス(O2)を用いた。
また、各個体原料から基板までの距離は、それぞれ400mmとした。
【0059】
まず、基板ステージ12に前記基板を、銀ペーストを用いて、基板ステージ12と前記基板の裏面(CaF2層が設けられていない側の面)とが接するようにして固定した。
この状態で、真空蒸着室内を圧力10−8〜10−9Torrとなるまで排気するとともに、基板温度が650℃となるように基板を加熱した。
【0060】
次に、真空蒸着室10内に酸素ガスを導入するとともに、各電源から各分子線セルに電力を供給し、抵抗加熱方式により各固体原料を加熱して各固体原料から蒸着種を生じさせた。
このようにして、各蒸着種(酸素を含む)を基板上(CaF2層上)に共蒸着させた。
このとき、イオンゲージ及び四重極形質量分析計(Q−mass)により、O2分圧が10−5〜10−7Torrとなるように、As分圧が10−5〜10−8Torrとなるように、それぞれ制御した。
また、共蒸着は、基板端から60mmの位置に設けられた蒸着量検出センサー16A及び16Bにより、Fe、Sm、及びSmF3の各蒸着量を検出し、フィードバック回路を備えた制御手段30により、Feの蒸着速度(R(Fe))、Smの蒸着速度(R(Sm))、及びSmF3の蒸着速度(R(SmF3))を調整しながら行った。具体的には、〔R(SmF3)/R(Sm)〕(モル比)が0.1となるように調整し、〔R(Fe)/R(Sm)〕(モル比)が1.1となるように調整した。
ここでは、蒸着量検出センサー16Aとして電子衝撃発光分光(EIES)を用いてFe及びSmの蒸着量を検出し、蒸着量検出センサー16Bとして水晶振動子膜厚計を用いてSmF3の蒸着量を検出した。
【0061】
以上により、基板上に、膜厚170nmのSmFeAs(O,F)膜を形成した。
【0062】
上記で得られたSmFeAs(O,F)膜について、X線回折測定を行った。
図4にX線回折測定の結果を示す。
図4中、「sub.」のピークはLaAlO3基板に由来するピークであり、「CaF2」はCaF2層に由来するピークである。
図4に示すように、「001」〜「007」のピークが観測され、単相のエピタキシャル薄膜が成長していることが確認された。
また、形成されたSmFeAs(O,F)膜は、図1に示す母物質の酸素サイト(酸素原子)の10%〜20%がフッ素原子で置換された構造の1111系の結晶構造(c0=8.478Å)であることが確認された。
ここで、SmFeAs(O,F)膜中におけるフッ素原子の量は、Phys.Rev.Lett.101(2008)087001に記載された、SmFeAs(O,F)膜の格子定数とフッ素原子の量との関係から見積もった。
【0063】
次に、上記で得られたSmFeAs(O,F)膜について、膜温度を変化させながら4端子法により電気抵抗率の測定を行い、超伝導特性を評価した。
図5に、上記で得られたSmFeAs(O,F)膜の電気抵抗率(mΩcm)の温度依存性を示す。
図5に示すように、上記で得られたSmFeAs(O,F)膜は、Tcon=51.0Kにおいて鋭い超伝導転移を示しており、鉄系超伝導体のこれまでの最高値に近い高い転移温度を有していた。
【符号の説明】
【0064】
10 真空蒸着室
12 基板ステージ
14 基板
16A、16B 蒸着量検出センサー
20A、20B、20C、20D 分子線セル
30 制御手段
40A、40B、40C、40D 電源
100 分子線エピタキシー装置
200 鉄系超伝導デバイス
210 単結晶基板
220 第1のREFeAs(O,F)層
230 絶縁層
240 第2のREFeAs(O,F)層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、分子線エピタキシー法により、少なくとも希土類元素の固体原料及び希土類三フッ化物の固体原料を用い、希土類元素、フッ素、鉄、ヒ素、及び酸素からなる超伝導体を含む超伝導薄膜を形成する工程を有する超伝導薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記超伝導薄膜の形成は、比率〔希土類三フッ化物の蒸着速度/希土類元素の蒸着速度〕がモル比で0.01〜0.3となる条件で行う請求項1に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記超伝導薄膜の形成は、前記基体を450℃〜800℃に加熱しながら行う請求項1又は請求項2に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記超伝導薄膜の形成は、少なくとも、鉄の固体原料、ヒ素の固体原料、希土類元素の固体原料、希土類三フッ化物の固体原料、及び酸素ガスを用いて行う請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記基体は、LaAlO3基板上にCaF2膜が設けられた基板である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記超伝導薄膜の形成は、希土類三フッ化物及び希土類元素の蒸着量を検出し、検出された蒸着量に基づいて、比率〔希土類三フッ化物の蒸着速度/希土類元素の蒸着速度〕がモル比で0.01〜0.3となるように希土類三フッ化物及び希土類元素の蒸着速度を制御しながら行う請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【請求項7】
基体上に、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法を用いて第1の超伝導薄膜を形成する第1の超伝導薄膜形成工程と、
前記第1の超伝導薄膜上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層上に第2の超伝導薄膜を形成する第2の超伝導薄膜形成工程と、
を有する超伝導デバイスの製造方法。
【請求項1】
基体上に、分子線エピタキシー法により、少なくとも希土類元素の固体原料及び希土類三フッ化物の固体原料を用い、希土類元素、フッ素、鉄、ヒ素、及び酸素からなる超伝導体を含む超伝導薄膜を形成する工程を有する超伝導薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記超伝導薄膜の形成は、比率〔希土類三フッ化物の蒸着速度/希土類元素の蒸着速度〕がモル比で0.01〜0.3となる条件で行う請求項1に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記超伝導薄膜の形成は、前記基体を450℃〜800℃に加熱しながら行う請求項1又は請求項2に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記超伝導薄膜の形成は、少なくとも、鉄の固体原料、ヒ素の固体原料、希土類元素の固体原料、希土類三フッ化物の固体原料、及び酸素ガスを用いて行う請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記基体は、LaAlO3基板上にCaF2膜が設けられた基板である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記超伝導薄膜の形成は、希土類三フッ化物及び希土類元素の蒸着量を検出し、検出された蒸着量に基づいて、比率〔希土類三フッ化物の蒸着速度/希土類元素の蒸着速度〕がモル比で0.01〜0.3となるように希土類三フッ化物及び希土類元素の蒸着速度を制御しながら行う請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【請求項7】
基体上に、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の超伝導薄膜の製造方法を用いて第1の超伝導薄膜を形成する第1の超伝導薄膜形成工程と、
前記第1の超伝導薄膜上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層上に第2の超伝導薄膜を形成する第2の超伝導薄膜形成工程と、
を有する超伝導デバイスの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2012−153954(P2012−153954A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15353(P2011−15353)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】
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