説明

超低残留反射及び低応力レンズコーティング

光学レンズ又はその他の光学製品に反射防止(AR)コーティングをコーティングするための方法が提供される。これらのレンズは、低い反射率を有し、ほぼ白色の反射光を発し、かつ低応力ARコーティングを有し、低応力レンズ基材を提供するモールディング工程を使用して製造される光学レンズに理想的に適合する。1の態様において、この方法は特殊なコーティング組成物を使用し、その1つは高屈折率組成物であり、他方は低屈折率組成物である。別の態様においては従来の気相蒸着装置とともに光学モニタを使用する方法が開示されており、それにおいては光学基準レンズを使用し、反射光の特定の光の周波数を測定し、次にこの測定値を用いて所望の光学的なコーティングが達成された時点を決定する。さらに別の態様においては、好ましくは反射光の青色対緑色対赤色の特定の比を使用して、各層の光学的な厚さを計算する。また、各層の光学的な厚さを必要に応じて調整し、低屈折率層/高屈折率層間における引張応力と圧縮応力の差を最小にすることによって、ARコーティングの応力がコントロールされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学レンズ用の低応力、低残留反射多層反射防止コーティングに関し、特に、高屈折率反射防止コーティングを形成するための組成物及び低屈折率反射防止コーティングを形成するための組成物、また好ましくは上記組成物を用い、通常の真空蒸着チャンバを用い、反射防止コーティングの光学的性質をコントロールするために光学モニタを用いる光学レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学技術分野においては、ガラスその他の表面からの光の反射が望ましくなく、視覚的不快感を与えることがよく知られている。反射光は、この種の望ましくない効果の中でも特に、使用者に目の眩む感覚を与え、あるいは像を不鮮明にする。光学レンズの場合には特にこれが問題となり、光学レンズ表面からの光の反射を低減するための組成物及び方法が開発されてきた。
【0003】
従来技術においては、可視スペクトルの全範囲にわたって残留反射を比較的小さい値に確実に保持することを設計上の主たる目標として、非常に多数の反射防止(AR)コーティングが提案されている。単層または二層コーティングは顕著な進歩を示したが、依然として望ましいとされるよりも残留反射が多く、従来技術はAR特性の向上を3層以上の層を有するARコーティングに頼っている。
【0004】
積層された各AR層の光学的な厚さは、通常、AR効果が最適化又は最大になるようにコントロールされるが、よく知られているように、層の光学的な厚さは、それぞれの層の実際の厚さ(幾何学的な厚さ)と屈折率の積である。光学的な厚さは、通常、使用されるコーティング用に指定された基準光線の波長の小数倍を用いて記述される。設定波長は、多くの場合、約510ナノメートル(nm)〜550nmである。各AR層の光学的な厚さは、Nを屈折率、dを層の幾何学的な厚さ、λを基準波長として、次に示す一般式によって定義することができる:
=xλ
この式において、xは数で、通常は小数であり、波長に乗じる小数を表し、aは、コーティングされる層を表す整数であり、低い数ほど眼鏡レンズに近い層を示す。通常、xは0.25であり、1/4波長の光学的な厚さを表す。
【0005】
今日、当技術分野でよく知られているように、各層の光学的な厚さを調整して、屈折率の異なる基材上において同一の結果を得ることができる。
【0006】
各AR層の形成においては、積層された層が、厚さ測定のための光の波長の1/4、すなわちλ/4ごとに干渉の最大値を示す。従って、0.25の倍数の光学的な厚さを伴うこの現象を利用することによって、従来、光学的なAR層の厚さがその形成の間にコントロールされている。
【0007】
以下の説明においては、便宜上ポリカーボネートレンズについて述べるが、当業者であれば理解されるとおり、本発明は、ポリウレタン、アクリルガラス、CR−39等の他のレンズ材料にも適用できる。ポリカーボネートレンズ内の応力は、複屈折及び光学的な歪みをもたらす。通常の環境下では見えないが、2つの偏光を与えたフィラメントの間にポリカーボネートを配置したときそれが明瞭になり、これが、ガラス、CR−39、及びその他のこの種の材料のレンズよりポリカーボネートレンズが光学的に劣るとされる理由の1つである。オプティマ(Optima)社によって開発された、新しいポリカーボネートレンズ(商品名レゾリューション(Resolution)、登録商標)は、この応力ならびに複屈折がなく、したがって現時点においては、ARコーティングを提供する現行の処理ならびにその内在的な応力が、その種のレンズメーカのより大きな関心事となっている。
【0008】
さらに、ARコーティングは現状では0.75%から1.5%までの残留反射の間で変動する残留緑色反射を有する。この緑色は、見かけ上も目障りであり、また人間の目が知覚する緑色光の量を減少させる緑色フィルタとして作用する。フィルタリング効果を伴わない、より低い残留反射が、コーティングのパフォーマンスならびに見た目の両方においてはるかに望ましい。また白色光だけが反射されることが好ましい。
【0009】
ARコーティングの現行の設計及び製造は、今日の業界で充分に理解されており、残留色は、製造をより簡単かつ安価にしようとする設計の中にあって通常は放置されている。現行の技術では、ARコーティングを形成するために必要な個々の層の物理的な厚さのコントロールにクォーツクリスタルモニタを使用している。現行のコーティング基準は、4層HLHLコーティングを必要とし、ここでHはその固有屈折率で選択される高屈折率の誘電体材料を表し、Lも同様にその固有屈折率で選択される低屈折率の誘電体材料を表す。各層は、通常、選択された光学的な1/4波長の高屈折率又は低屈折率の材料からなる。低屈折率材料には、SiO及びMgFが含まれる。高屈折率材料には、次の材料:Zr、Hf、Ta、Ti、Sb、Y、Ce、及びYbの酸化物サブグループが含まれる。これらに限定されるわけではないが、これらの材料は今日もっとも広く使用されている。
【0010】
今日製造されている多くのARコーティングは、接着層、緩衝層、耐磨耗層、及び疎水性表面層をも含む。これらの層は、消費者の観点からのコーティングのパフォーマンスを向上させるために使用されるが、ARコーティングの光学的品質にはほとんど効果を奏していない。
【0011】
ARコーティングの形成における別の懸念は、高屈折率及び低屈折率の材料が、ARコーティング膜に圧縮応力及び引張応力を同時にもたらすことである。しかしながら現行の反射防止(AR)コーティング技術は、コーティング自体に内在する応力の量を考慮していない。これは、今日市場に出ているポリカーボネートレンズ等の現行のレンズが、ARコーティングによって追加的に発生する応力の量が重要でないと見なされるほど多くの応力をすでに有しているためである。このことは、現行の製造技術において使用される層の数の制限が試みられている理由の1つである。概して言えば、シリカ等の低屈折率材料は、高屈折率材料によってもたらされる圧縮応力の約5倍の引張応力を生じる。追加された層によってコーティングが厚くなりすぎた場合には、低屈折率材料と高屈折率材料により生じる応力の差によってAR膜が分離し、レンズから剥離し、さらには逆の光学的効果を生じることもあり得る。
【0012】
現行の技術が層の数を制限している別の理由に、クォーツクリスタルモニタでは、付与された材料の物理的な厚さしか測定できないことが挙げられる。しかしながらARコーティングは、光学的品質に基づいて設計されており、それは使用されている材料の屈折率に大きく依存する。これらの屈折率は、利用可能なO、コーティング速度、及び蒸着温度等のコーティング条件の変化によってシフトすることになる。コーティング内に残る緑色反射は、正常な製造の間におけるこれらの欠陥を巧みに隠し、非常に広い緑色の可視スペクトル内の高いピークの反射は製造の間にシフトすることがあり、熟練した専門家以外には気付かれないことがある。
【0013】
残留色を伴わない、すなわち白色のARコーティングを形成するため、及び全体的な残留反射を低くするために、製造者は、通常いくつかのAR層を追加しなければならない。これらの層によってもたらされる厚さの増大により、応力が増大し、ARコーティングの層間剥離の可能性が大きくなるので、レンズ製造者はこれらの競合する問題に対処しなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来技術の問題及び欠点に鑑みて、光学レンズ又はその他の光学製品上に高屈折率のARコーティングを形成するための組成物を提供することを1つの目的とする。
【0015】
本発明の別の目的は、光学レンズ又はその他の光学製品上に低屈折率のARコーティングを形成するための組成物を提供することである。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、上記の組成物を使用したARコーティングを有する光学レンズ又はその他の光学製品の製造方法を提供することである。
【0017】
また本発明は、光学レンズ又はその他の光学製品上に所望のAR光学コーティングを付与するため、ARコーティングを有する光学レンズの、光学モニタを使用した製造方法を提供することをさらに別の目的とする。
【0018】
さらに本発明は、低い残留反射を有し、反射光が基本的に白色光であり、かつARコーティングが低い応力を有するARコーティングを、光学レンズ及びその他の光学製品にコーティングするための方法を提供することを別の目的とする。
【0019】
さらにまた本発明は、本発明の方法を使用して製造される光学レンズ及びその他の光学製品を提供することを別の目的とする。
【0020】
本発明のその他の目的並びに利点は、部分的には自明となり、また部分的にはこの明細書から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記及びその他の目的及び利点は、当業者においては明らかとなろうが、その第1の態様においては、光学レンズ上に高屈折率のARコーティングを形成するためのセリウム酸化物及びチタンの酸化物の混合物からなる組成物についての本発明の中で達成され、それにおいてはセリウム酸化物がこの組成物中約25重量%未満である。
【0022】
本発明の別の態様においては、光学レンズ上に低屈折率のARコーティングを形成するためのシリコン酸化物及びアルミニウム酸化物の混合物からなる組成物が提供され、それにおいてはアルミニウム酸化物がこの組成物中約10重量%未満である。
【0023】
本発明のさらに別の態様においては、反射防止(AR)コーティングを有する光学レンズの製造方法が提供され、当該方法は次の各工程:
1又は複数の光学レンズ及び光学基準レンズを供給する工程;
それらのレンズ及び光学基準レンズを真空蒸着チャンバ内の同一コーティング面内に配置し、当該真空析出チャンバは光学基準レンズと連絡する光学モニタを有するものである工程;
前記チャンバ内に少なくとも1つの高屈折率ARコーティング組成物源及び少なくとも1つの低屈折率ARコーティング組成物源を供給する工程;
光学モニタによる決定に従い、所望の光学的な厚さのコーティングが得られるまでレンズ上に高屈折率組成物の層を付与する工程;
光学モニタによる決定に従い、所望の光学的な厚さのコーティングが得られるまでレンズ上に低屈折率組成物の層を付与する工程;及び、
これらのARを付与する工程を、所望のARコーティングが形成されるまで反復する工程;
を含み、上記において光学モニタは、オン/オフ光線をチャンバ内の光学基準レンズに向けるための手段、基準レンズから反射される光を特定周波数において測定するための手段、この測定値を用いて所望の光学的なコーティングの厚さが達成された時点を決定するための手段を含む。
【0024】
本発明の別の態様においては、反射防止(AR)コーティングを有する光学レンズの製造方法が提供され、当該方法は次の工程:
光学レンズを供給する工程;
レンズを真空蒸着装置の真空チャンバ内に配置する工程;
真空チャンバ内に少なくとも1つの高屈折率ARコーティング組成物源及び少なくとも低屈折率ARコーティング組成物源を提供する工程であって、それにおいては高屈折率材料の1つがセリウム酸化物及びチタン酸化物の混合物からなり、低屈折率材料の1つがSiOを含む工程;
所望の光学的な厚さのコーティングが得られるまでレンズ上に高屈折率材料を付与する工程;
所望の光学的な厚さのコーティングが得られるまでレンズ上に低屈折率材料を付与する工程;及び、
これらの付与工程を、所望の反射防止コーティングが形成されるまで反復する工程を包含する。
【0025】
本発明の別の態様においては、反射防止(AR)コーティングを有する光学レンズの製造方法が提供され、当該方法は次の工程:
光学レンズを供給する工程;
レンズを真空析出装置の真空チャンバ内に配置する工程;
真空チャンバ内に少なくとも1つの高屈折率ARコーティング組成物源及び少なくとも低屈折率ARコーティング組成物源を供給する工程;
所望の光学的な厚さのコーティングが形成されるまでレンズ上に高屈折率材料の層を付与する工程;
所望の光学的な厚さのコーティングが形成されるまでレンズ上に低屈折率材料の層を付与する工程;及び、
これらの塗布工程を、所望の反射防止コーティングが形成されるまで反復する工程
を含み、それにおいては、青色光:緑色光:赤色光の割合が実質的に白色反射光を提供するように、反射防止コーティングからの反射光がコントロールされることを条件とする。
【0026】
本発明のさらに別の態様においては、ARコーティング層の光学的な厚さが、必要に応じて調整され、隣接する層の引張応力と圧縮応力の差を最小にする。
【0027】
本発明のさらに別の態様においては、上記方法によって製造された光学レンズまたはその他の光学製品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の特徴は新規で、発明に特徴的な要素は特許請求の範囲に示される。図面は説明のためにのみ用いられ、縮尺通りに描かれてはいない。しかし、発明そのものは、その構成に関しても操作方法に関しても、添付の図面に即した詳細な説明を参酌して理解されるであろう。
【0029】
図1〜3を参照して本発明の好ましい態様を説明し、図中では発明の同様の特徴を示すのに同様の符号を用いる。発明の特徴は、図において必ずしもその縮尺で表されていない。
【0030】
出願人は、発生する残留反射とコーティング応力に関してARコーティングのコントロールを可能にする、低屈折率及び高屈折率双方の反射防止コーティング組成物を発明した。これにより、所望のレンズを得るために、必要に応じてAR層の数を大幅に増加させることが可能となる。出願人は、光学的厚さとコーティングされる物質の割合をコントロールするために光学モニタを使用する。光学モニタはレンズと同時にコーティング物質を受ける特殊な試験ガラスを使用する。コーティングを本来の場所で光学的に測定することにより、屈折率のわずかな違いを自動的に修正でき、要求される正確な光学的厚さで層のコーティングを停止することができる。一の層で生じるエラーは次の層の不適合を引き起こしうるので、このことは非常に重要である。この点で、光学モニタは光学的に正確である上に、必要に応じて次の層の多少の修正をすることができる。
【0031】
出願人の発明の最終的な目的は、望まれない残留着色が少なく、低反射及び低応力で、見栄えのよいコーティングである。
【0032】
本発明は特定の態様に則して説明されるが、当業者であれば特許請求の範囲に記載された発明の範囲と精神から離れずに変更が可能であることが分かるであろう。ARコーティングは特にポリカーボネートレンズのために開発されたが、この技術は、ガラス、CR−39を含む有機及び無機のいかなるレンズ素材、及び1.40から>1.90のインデックスのレンズにも利用可能である。
【0033】
図1について説明すると、レンズに反射防止コーティングを蒸着する従来の真空チャンバが符号10で表され、これは符号30で表される光学モニタを含む。
【0034】
従来のいずれの真空チャンバも使用可能であるが、代表的な例としては、米国特許第3,695,910号;第5,026,469号;及び第5,124,019号に示されたものが挙げられ、これらの特許は参照により取り込まれる。
【0035】
真空チャンバは、頂部に透明部分18を有するチャンバ11を含む。真空チャンバ内には、コーティング材料13a、13b、13c及び13dをそれぞれ保持するのに用いられる容器12a、12b、12c及び12dが配置されている。容器とコーティング材料の数は、レンズ基材に塗布される所望の反射防止コーティングにより異なることが当業者には分かるであろう。
【0036】
Eガン14は、電子を供給するのに用いられ、容器内の材料を揮発させるために各容器に向けられる。揮発させる材料によって、容器はEガンの電子が容器と材料に当たる位置へと移動する。材料は蒸発し、チャンバの中に矢印で示すように広がる。基材保持部15は湾曲し(通常はドーム型)、揮発した材料はすべての基材上に均等に付与される。揮発した材料を均等に付与するために、通常は分配シールドが用いられる。4つの基材が符号16a〜16dで示されている。通常は、75〜140個の基材が1つのドームに配置される。基準基材17は基材保持部15の中央部に配置され、基材保持部15上の基材16と同じ組成及び同じ速度で、揮発した材料によってコートされる。導入口32はある種のAR層のために酸化物を形成するのに用いられるOのような気体用に使用される。
【0037】
作業の際には、所望の容器及びコーティング材料が真空チャンバ内で移動し、Eガンの電子が容器と材料に当たる位置に移動し、Eガンは容器に電子を当て、コーティング材料を揮発させる。コーティング材料は蒸発し、蒸気が基材保持部15に保持された基材16のそれぞれをコーティングする。基準基材17も同様にコーティングされる。このようなコーティング工程と真空チャンバは従来から用いられ、上記特許に示されているように本技術分野でよく知られている。真空蒸着が好ましいが、スパッタリングのような他の方法も用いられる。
【0038】
コーティング作業の間、光学モニタを使用するのが好ましく、高密度光線20が光源19から発射される。光線20はライトチョッパー21を通過し、これは光線のオン・オフを行い、オン/オフ光線22を提供する。オン/オフ光線のシークエンスは、モニタの終端部の光検知部29と同調する。光線オフの間、光検知部29はなお大量の環境光を受けるので、このことは重要である。オフの間に受ける光はノイズとしてプログラムされるので、ライトがオンの時に受ける光から引き算される。これにより測定が想定される光のみを実際に測定することが可能となる。
【0039】
分断された光22も焦点レンズ21aを通過して高反射率ミラー23に当てられる。高反射率ミラー23は、光線を反射光線24に変え、透明開口部18に向け、チャンバ内に入射してチャンバ内に配置された基準基材17に当てる。上記のように、基準基材17はコーティングされる基材16と同じ曲線上に配置されている。これにより、実際のAR工程において、基準基材17はコーティングされる各基材と同じAR材料を受けることができる。
【0040】
反射ビーム24が基準基材17に到達するとき、光の大部分は基準基材を透過する。裏側表面から約5%、表側表面から約5%が反射する。光線はモニターガラスの表裏の表面から反射する光線がわずかに異なる角度で戻るように、小さい入射角度でチャンバに入ることが好ましい。基準基材の表側表面から反射した光線のみが測定されるので、このことは重要である。この表側表面から反射した光線は第2の反射光線25として示されている。裏側表面からの反射光は図示されていない。
【0041】
この元の光の5%にあたる表側表面から反射した光線25は透明部18を経てチャンバから出て、第2の反射ミラー26に当たり、光検知器29に向かう。光線25は、光検知器29に到達する前に特定の周波数の光のみを透過させる光線フィルタ27を通過する。この特定の周波数の光は光線28として示され、この光線は次に光検知器29に入射する。
【0042】
本発明の方法によれば、正確に所望の光周波数を有する光学コーティングが得られる。このため、光学コーティングを設計し形成するために、所望のARコーティングの厚さは特定の光周波数によって設計されなければならない。光フィルタ27は特定の光周波数のみ透過させるようにARコーティングの設計の際に設計者によって選択される。周波数は通常は480〜530nmである。
【0043】
検出器29へと続く特定の周波数の光は、受光量が測定され、検出器はより正確で読み取り可能な強度に光を増幅する。高解像A/Dコンバータとマイクロプロセッサの使用により、検出器は光の変化を0.01%まで検出可能である。光検出器29は、光強度のデータを蒸発制御システム31に送り、ここでその情報を用いて付与される材料の各層の光学的厚さを決定し、所望の光学的厚さのコーティングがレンズ上になされたときに付与される材料の蒸発を停止するタイミングを決定する。光学モニタ30はコーティング工程の間、光学挙動の変化を読み取り、同時にレンズ表面上の光学挙動の実際の変化を読み取るので、モニタは非常に正確になる。モニタ30により、また、システムはコーティング工程の間、反射率のシフトの多少の修正を行うことができる。モニタ30はコーティングの光学挙動に依存し、基材上にコーティングされる材料の物理的厚さには依存しないことに留意すべきである。
【0044】
ARコーティングの応力も上記のように、設計上ARコーティングの光学的厚さを変化させて層の引張力と圧縮力の差が最低になるようにコントロールすることができる。光学厚さの変化は、通常光学特性に重大な影響を与えないため、0.5λ刻みである。
【0045】
図2は、レンズ基材上の本発明のARコーティングを示す。全てのコーティングは設計上も実際の製造でも、基材から始まって順に外側へコーティングされる。この基材は応力のないポリカーボネート光学レンズである。このレンズは本発明の譲受人に譲渡された米国特許第6,042,754号に示された特許製法により形成されたものである。記載する工程はこの特定のレンズについてのものであるが、異なるレンズ材料に対する補正のためのAR層の厚さの修正を行いつつ、反射率が1.40から1.9又はそれ以上のいかなるレンズ素材に使用することも可能である。全ての厚さの測定は1/4波光学厚み(QWOT)(0.25λ)である。処方の設計のために用いられ、かつ実際の製造工程で用いられる周波数は470〜580nmである。ARコーティング層は、コーティングされた光学レンズの反射光中の青色光:緑色光:赤色光の量の割合をコントロールすることにより、ここで論じられたように計算される。青色は37.16%、緑色は28.57%、赤色は34.27%に調整された。計算された光学的厚さは製造上の要求に合わせて変化しうることは理解されるであろう。
【0046】
図2に示されるレンズの詳細は以下の通りである:
基材51−反射率約1.59のポリカーボネートレンズである。
プライマー52−プライマーは最終ハードコーティングがより容易に密着するように使用される。おおよその厚さは0.5〜1.0ミクロンである。反射率は1.50である。
ハードコート53−厚さ3.5〜5.0ミクロンのポリシロキサンベースの熱硬化性素材である。反射率は1.49である。
L1…54−SiOのような低屈折率素材である。厚さは約1.70〜1.9QWOTである。反射率は約1.45〜1.5である。
H1…55−低い応力と大きい反射率を有するように設計された本発明の高屈折率素材である。厚さは約0.10〜0.25である。
L2…56−L1と同じ素材である。厚さは約0.10〜0.25QWOTである。
H2…57−H1と同じ素材である。厚さは約1.00〜1.25QWOTである。
L3…58−L1と同じ素材である。厚さは約0.01〜0.1QWOTである。
H3…59−H1と同じ素材である。厚さは約1.25〜1.50QWOTである。
M1…60−接着力向上及び耐引掻き強度向上に用いられる中間屈折率素材である。厚さは約0.01〜0.1QWOTである。
L4…61−L1と同じ素材である。厚さは約1.75〜2.00QWOTである。
Hydro…62−なめらかな表面を形成するために外側表面に付与されるポリシロキサンである。レンズを汚れにくくする。厚さ約0.01〜0.25QWOTである。屈折率は約1.40〜1.50である。
【0047】
このレンズは低応力、低反射率、低残留色を有しており、反射光はほぼ白色であった。最終的なレンズは図3の曲線70と同様の曲線を有している。
【0048】
図3は、本発明のARコーティングと現在市販されている通常のARコーティングレンズとの相違を示すグラフである。このグラフは光学的優位性のみ示し、コーティングの応力の減少性能を示してはいない。曲線70は現在市販されている通常のARコーティングの残留反射を示し、ピーク70aは緑色のスペクトルで、従来のレンズの残留緑色反射を示す。極小値70b及び70cはそれぞれ青色光及び赤色光反射を示す。
【0049】
上記のように、これは製造工程におけるコーティング厚さのばらつきを隠すので商業的に受け入れ可能である。ピークの反射70a(曲線の最高点)は曲線全体を左右に動かすことによって左右に調整できる。この結果、緑色の残留色は青色寄りや黄色寄りに変わる。加えて、ARコーティング会社は右側の最小値が0.75%程度の反射率になるように、曲線を回転することができる。その結果、残留反射の総量は顕著に増大する。また、他の結果として、残留色は明確な緑黄色を示すようになる。
【0050】
曲線71は、図2のレンズで示された本発明のARコーティングを示す。注目すべきは、総残留反射は従来の曲線70よりはるかに低い。また、可視スペクトルの両側の赤外及び紫外の領域にさらに(より広く)広がっている。レンズ上の全てのARコーティングは入射光の角度(表面に当たる角度)によって色を変える傾向があるので、このことは重要なファクターである。この明瞭な色の変化は、入射角度が大きくなるにつれて曲線が左に移動することによってもたらされる。曲線全体の幅が小さくなるほど、色が早く変化する。緑色が突然黄色、オレンジ色、赤色に変化するので、これは非常に目立つ。曲線71ははるかに広い幅を有し、また色がない。入射角が大きくなるにつれ、曲線は左へ移動し始めるが、角度が45℃のような極端な大きさになるまで色は変化しない。
【0051】
出願人の発明は、一の側面では、符号70で示された従来の曲線を符号71で示された白色光の曲線へと変化させることを目標としている。白色光の曲線71は白色の反射光を発する色の組み合わせであり、従来の曲線70で示されるような優勢な緑色反射をもたない。
【0052】
出願人は、反射防止コーティングからの反射光における青色光:緑色光:赤色光の割合を調整することにより、ほぼ白色光を発する符号71で示される曲線が得られることを見出した。ある種の光学パラメータを特定することにより光学レンズの薄膜の厚さを計算するのに、コンピュータソフトウエアを用いることが知られている。コンピュータソフトウエアはこの光学パラメータをARコーティングの薄膜厚さを計算して提供するために用いる。例えば、単に青色、緑色及び赤色のレベルを特定することによっては白色光は生じず、曲線70のような緑色のピークと残留緑色反射を生じるであろう。
【0053】
白色反射を発するように、反射光における青色ピーク、緑色ピーク及び赤色ピークの割合をコントロールするのが、出願人の発明の重要な特徴である。これら3つの光は白色反射を発するように特定の割合にコントロールされる。通常、色ピークパーセントにおいて、青色ピークは約34から40%、好ましくは36〜38%、例えば37%であり、緑色ピークは約24〜32%、好ましくは26〜30%、例えば29%であり、赤色ピークは約30〜38%、好ましくは32〜36%、例えば34%である。これらの割合が、他の光学的特性、例えば使用される材料の反射率と、光学的厚さの範囲全体にわたる反射率の表と共にコンピュータソフトウエアに入力されると、ソフトウエアは特定の青色、緑色、赤色のピークを得るのに必要なAR層を計算する。標準的なコンピュータソフトウエアプログラムは「Essential MacLeod」(オプティカルコーティングデザインプログラム、著作権:シンフィルムセンター社、1995−2003、バージョン8.6、シンフィルムセンター社発行)である。他の同様の公知のソフトウエアプログラムも上記割合に合うフィルム厚さを計算するために用いることができる。上記割合に合う光学的厚さは、この分野で知られているように手作業で計算することもできる。よく知られている計算方法は米国特許第4,609,267号に示され、この特許は参照によりここに取り込まれるが、他の光学的厚さの計算方法も使用することができる。
【0054】
本発明の他の側面では、ARコーティングが低い応力を有することが重要である。高い応力は光学歪みをもたらし、ARコーティングが剥離する可能性があるからである。薄膜に形成されたとき、高屈折率材料と低屈折率物質が異なる応力を有することが見出された。低い応力を有するARコーティングを形成するために、層間の応力の差を最小化するのが本発明の特徴である。
【0055】
例えば、二酸化ケイ素はコートされたとき、引張応力を与える、典型的な低屈折率物質である。一方、高屈折率物質は、通常、コートされたとき圧縮応力を与える。しかし、通常圧縮応力は低屈折率物質の引張応力より小さい。従って、圧縮応力と引張応力の差が生じ、剥離と光学歪みをもたらし得る。
【0056】
従って、必要に応じて、引張応力と圧縮応力のバランスをとるように、光学コーティングの隣接する層を調節することが出願人の発明の重要な特徴である。これにはまず、青色光、緑色光、赤色光の所望の反射ピーク(割合)を特定し、各層の光学的厚さを上記のように計算する。コンピュータ計算によりAR層の光学的厚さと数が決定されたら、各層間の応力のバランスをとるために各層の光学的厚さを0.5λづつ変化させる。例えば、低屈折率層が0.25λの光学的厚さを有し、5の引張応力を与え、隣接する高屈折率層が0.25λの光学的厚さを有し、圧縮応力が2のみであるならば、高屈折率層の光学的厚さは、先の低屈折率層の引張応力とのバランスをとるために大きくするのが好ましい。この例では、高屈折率層の光学的厚さは、圧縮応力を大きくして低屈折率層の引張応力に近づけるために0.75λ又は1.25λに調整されるであろう。一の層と隣接する層の光学的厚さの増加は、コートされたレンズの白色反射に重大な影響を及ぼさない。レンズの光学的厚さは通常0.5λづつ増加するからである。
【0057】
本発明を特定の好ましい実施態様との関連において説明したが、上記記載に照らして、種々の変形、修正、バリエーションが可能であることは当業者には明らかであろう。従って、特許請求の範囲には、本発明の真実の範囲及び精神に含まれる限り、このような変形、修正、バリエーションも含まれると考える。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】基材にコーティングを蒸着させるのに用いられる従来の真空チャンバとその真空チャンバと連関して用いられる光学モニタとを示す模式図である。
【図2】本発明の組成物と方法を用いて製造された反射防止コーティングを含むレンズを示す図である。
【図3】従来の反射防止コーティングと本発明による反射防止コーティングの、波長に対する反射率(%)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学レンズ上に高屈折率の反射防止コーティングを形成するための組成物であって、セリウム酸化物及びチタン酸化物の混合物からなり、セリウム酸化物がこの組成物中約25重量%未満である組成物。
【請求項2】
光学レンズ上に低屈折率の反射防止コーティングを形成するための組成物であって、ケイ素酸化物及びアルミニウム酸化物の混合物からなり、アルミニウム酸化物がこの組成物中約10重量%未満である組成物。
【請求項3】
反射防止(AR)コーティングを有する光学レンズの製造方法であって、次の各工程:
1又は複数の光学レンズ及び光学基準レンズを供給する工程;
それらのレンズ及び光学基準レンズを真空蒸着チャンバ内の同一コーティング面内に配置し、当該真空蒸着チャンバは光学基準レンズと通信する光学モニタを有するものである工程;
前記チャンバ内に少なくとも1つの高屈折率ARコーティング組成物源及び少なくとも1つの低屈折率ARコーティング組成物源を供給する工程;
光学モニタによる決定に従い、所望の光学的厚さのコーティングが得られるまでレンズ上に高屈折率組成物を付与する工程;
光学モニタによる決定に従い、所望の光学的厚さのコーティングが得られるまでレンズ上に低屈折率組成物を付与する工程;及び、
これらのAR付与工程を、所望のARコーティングが形成されるまで反復する工程
を含み、前記光学モニタは、オン/オフ光線をチャンバ内の光学基準レンズに当てるための手段、この基準レンズからの反射光を特定周波数において測定するための手段、この測定値を使用して所望の光学的なコーティングの厚さが達成された時点を決定するための手段を含む方法。
【請求項4】
反射防止(AR)コーティングを有する光学レンズの製造方法であって、次の各工程を含む製造方法:
光学レンズを供給する工程;
レンズを真空蒸着装置の真空チャンバ内に配置する工程;
真空チャンバ内に少なくとも1つの高屈折率反射防止組成物源及び少なくとも1つの低屈折率反射防止組成物源を提供する工程であって、それにおいては高屈折率材料の1つがセリウム酸化物及びチタン酸化物の混合物からなり、低屈折率材料の1つがSiOを含む工程;
所望の光学的な厚さのコーティングが得られるまでレンズ上に高屈折率材料を付与する工程;
所望の光学的な厚さのコーティングが得られるまでレンズ上に低屈折率材料を付与する工程;及び、
前記付与工程を、所望の反射防止コーティングが形成されるまで反復する工程。
【請求項5】
セリウム酸化物が組成物の約25重量%未満であることを特徴とする、請求項4の方法。
【請求項6】
アルミニウム酸化物が組成物の約10重量%未満であることを特徴とする、請求項5の方法。
【請求項7】
反射防止(AR)コーティングを有する光学レンズの製造方法であって、次の工程:
光学レンズを供給する工程;
レンズを真空蒸着装置の真空チャンバ内に配置する工程;
真空チャンバ内に少なくとも1つの高屈折率ARコーティング組成物源及び少なくとも1つの低屈折率ARコーティング組成物源を供給する工程;
所望の光学的な厚さのコーティングが形成されるまでレンズ上に高屈折率材料の層を付与する工程;
所望の光学的な厚さのコーティングが形成されるまでレンズ上に低屈折率材料の層を付与する工程;及び、
前記付与工程を、所望の反射防止コーティングが形成されるまで反復する工程
を含み、青色光:緑色光:赤色光の割合が実質的に白色反射光を提供するように、反射防止コーティングからの反射光がコントロールされることを条件とする製造方法。
【請求項8】
青色光:緑色光:赤色光の割合が、約34〜40%:24〜32%:30〜38%である、請求項7の方法。
【請求項9】
青色光:緑色光:赤色光の割合が、約36〜38%:26〜30%:32〜36%である、請求項8の方法。
【請求項10】
層の引張応力と圧縮応力の差を最小にするためにARコーティング層の光学的厚さを調整する工程をさらに含む、請求項7の方法。
【請求項11】
請求項3の方法により製造された光学製品。
【請求項12】
請求項4の方法により製造された光学製品。
【請求項13】
請求項5の方法により製造された光学製品。
【請求項14】
請求項6の方法により製造された光学製品。
【請求項15】
請求項7の方法により製造された光学製品。
【請求項16】
請求項8の方法により製造された光学製品。
【請求項17】
請求項9の方法により製造された光学製品。
【請求項18】
請求項10の方法により製造された光学製品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2007−505369(P2007−505369A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533162(P2006−533162)
【出願日】平成16年5月18日(2004.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/015478
【国際公開番号】WO2004/106979
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(597056165)オプティマ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】