説明

超疎水性のナノテクスチャ表面を有する製品

本発明は、垂直で好ましくは規則的なタブの網状組織を含む、超疎水性を有するナノテクスチャ表面を有する製品であって、タブの網状組織は、タブの表面比率Φが、3%≦Φ≦13%、好ましくは、5%≦Φ≦12%、好ましくは、5%≦Φ≦13%、さらに好ましくは、5.5%≦Φ≦13%、さらに好ましくは、6%≦Φ≦13%、いっそう好ましくは、8%≦Φ≦13%であり、網状組織の間隔pが、100nm≦p≦250nmであり、タブの高さhが、100nm≦h≦400nm、好ましくは、250nm≦h≦400nm、さらに好ましくは、300≦h≦400nmであり、タブの側面が、柱の垂直軸に対して、最高で±20°、好ましくは±10°、さらに好ましくは±5°の角度で傾斜している、という条件を満たす製品に関わる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超疎水性を有する製品、特に眼用レンズなどの光学製品に一般的に係る。
【背景技術】
【0002】
多くの適用形態、特に光学およびより具体的には眼光学、において、製品の表面に水滴が付着したままになることを回避し、また、その洗浄を促すために、疎水性表面を有する製品を作製することは、好ましい。したがって、眼用レンズ、特に眼鏡用ガラス、において、例えば雨滴などの水滴がガラス表面に付着することを抑制するために、最終工程として疎水性コーティングをガラスに堆積することで、ガラスの汚れに対する感度を下げ、雨滴によって著しく汚損された場合のガラス表面の洗浄を促進することは、一般的なことである。
【0003】
従来より、そのような疎水性コーティングは、特に眼用レンズの防汚性コーティングの場合、フルオロシランおよびフルオロシラザンなどのフッ素化化合物を含む。そのようなコーティングは、とりわけ、特許文献1および特許文献2ならびに特許文献3に記載されている。最良の疎水性コーティングは、ノンテクスチャ(non textures)の場合(平滑な表面)に、水に対して110〜120°の接触角を持つ。
【0004】
一般に、ある表面は、水に対する接触角>90°の場合に疎水性を有すると考えられる。典型的な従来の疎水性表面は、90°より大きく120°以下の水に対する接触角を有する。表面は、水に対する接触角が120°より大きく、好ましくは130〜160°以上である場合に、超疎水性であると考えられる。
【0005】
平滑な疎水性表面は、その上に粗さを形成することによって、超疎水性とすることができることは公知である。表面粗さは、構造中に空気を閉じ込める効果があり、その結果、固体と空気とからなる複合表面上に水滴が乗る。一般的に“ファキール”効果(effet "fakir")として知られるこの効果は、大きい接触角(〜160°)および比較的小さい接触角ヒステリシス(30°未満、さらには10°未満)を実現させる。
【0006】
例えば、特許文献4は、凸部および凹部を有し、凸部間の距離が0.1〜200μmで、凸部の高さが0.1〜100μmである、自己洗浄表面の調製方法を記載している。より具体的には、上記出願に記載された方法は、溶媒が除去されると管形状の凸部を出現させる、疎水性材料溶液、分散系または乳剤の堆積を含む。しかし、凸部の高さがそれぞれナノメートルおよび/またはマイクロメートル領域に属し得ることを除けば、各高さは、同じテクスチャの表面にあっても著しい相違を示し、その結果、表面の疎水性は極めて不均質になる。
【0007】
また、マイクロメートルサイズのテクスチャを有する疎水性表面の場合、これらの表面に関わる問題は、テクスチャがつけられた表面の隙間における水滴の串刺し(empalement)である。したがって、テクスチャを有する表面に100μm以下の水滴が当たる場合、水滴は、少なくとも部分的に、柱間の隙間に侵入し(串刺効果(effet d'empalement))、その中に閉じ込められたままとなる。水滴は、蒸発する際に、隙間内に汚れ(除去が困難な汚れ)を残す。
【0008】
非特許文献1の論文は、以下の特徴を有する円柱アレイを含む超疎水性ナノ構造表面について記載している。
‐柱の表面比率Φ(柱で覆われた表面積の、総表面積に対する比率)=13%であり、
‐柱の高さh=268nmであり、
‐アレイ間隔(柱と柱の中心から中心への距離)p=300nmであり、
‐柱の直径d=124nmである。
【0009】
この記事は、任意の間隔において、形状比率h/dを増加させると最良の疎水構成が得られると述べている。したがって、d=117nm、h=792nmおよびp=300nmであるアレイは、優れた疎水構成を持っている。
【0010】
しかし、柱の高さが非常に高いと、機械的な観点から、またその結果として、疎水性の観点から、アレイが極めて脆弱であるという欠点が生じる。また、柱の高さが非常に高いと、コーティングの光学的な品質が損なわれる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,277,485号
【特許文献2】米国特許第6,183,872号
【特許文献3】国際公開第2006/049020号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願第2005/0136217号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】E. Martines et al., 2005, Superhydrophobicity and superhydrophilicity of regular nanopatterns., NANOLETTERS, Vol.5, No.10, pp.2097-2103.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、従来技術の欠点を改善する、具体的には、従来技術の表面ほど脆弱でない、超疎水性ナノテクスチャ表面を有する製品、特に眼鏡用の眼用レンズなどの光学製品、を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、水滴の串刺しに対する優れた防止特性を有する上述の製品である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明において、上述の目的は、垂直な、好ましくは規則的な、柱アレイを含み、該柱アレイが、以下の条件を満たすことで特徴づけられる、超疎水性のナノテクスチャ表面を有する製品を提供することで達成される。
‐柱の表面比率Φは、3%≦Φ≦13%、好ましくは、5%≦Φ≦13%、さらに好ましくは、5.5%≦Φ≦13%、さらに好ましくは、6%≦Φ≦13%、いっそう好ましくは、8%≦Φ≦13%であり、
好ましい範囲として、5%≦Φ≦12%、さらに好ましくは、6%≦Φ≦12%、7%≦Φ≦12%、5%≦Φ10%、いっそう好ましくは、8%≦Φ10%も挙げることができ、
‐アレイ間隔pは、100nm≦p≦250nmであり、
‐柱の高さhは、100nm≦h≦400nm、好ましくは、250nm≦h≦400nm、より好ましくは、300≦h≦400nmであり、
好ましい範囲として、150nm≦h≦350nmも挙げることができ、
‐柱の側面は、柱の垂直軸に対して、最大で±20°、好ましくは±10°、さらに好ましくは±5°の角度をなす。
【0016】
本願での使用において「規則的」とは、柱が実質的に同一の形状および同一の高さを有することを意味する。
【発明の効果】
【0017】
驚くことに、柱の高さが減少することによって、水滴の串刺しに対する防止特性の減少が予想されていたにも関わらず、本発明に基づくナノメートル規模のアレイは、串刺しに対する優れた防止特性を持っている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本明細書の以下の記載において、添付図面を参照する。
【0019】
【図1】図1は、本発明に基づくナノテクスチャシリコン表面(アレイ#1)の顕微鏡写真である。
【図2】図2は、液滴衝撃に対する抵抗を判定する装置の線図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に基づく柱アレイは、周期的でもランダムでもよいが、ランダムであることが好ましい。
【0021】
基体の表面は、平面でも曲面でもよいが、好ましくは、少なくとも柱間の面は平面である。
【0022】
本発明に基づく柱は、平行六面体、先端が丸い場合もある円柱、先端が丸い場合もある円錐、円錐台(先端を切った柱)、先端が丸い場合もある角錐、角錐台を典型とする、多様な形状を取り得る。
【0023】
先端が丸い円柱については、パラメータΦを決定するのに必要な直径は、柱の先端の丸みの底部で測定され、一般的には、50〜100nm、好ましくは、50nmより長く、より好ましくは、60nm以上で、さらに好ましくは、直径は60〜90nmの範囲で変化する。
【0024】
通常の設定では、直径は、柱の底面から3/4の高さで測定される。
【0025】
柱が平行六面体、角錐、角錐台、円錐または円錐台の場合、柱の底面から3/4の高さで柱の長辺または直径が測定され、一般的には50〜100nm、好ましくは、50nmより長く、さらに好ましくは、60nm以上となり、さらに好ましくは、長辺または直径は60〜90nmの範囲で変化する。
【0026】
典型的な周期的アレイでは、
‐Φ=a/p(断面が正方形の平行六面体の柱の場合)であり、
‐Φ=πd/4p(円柱)である。
【0027】
ランダムなアレイでは、これらの式は、間隔「p」を柱と柱の中心から中心への距離の平均値で置換して使用し得る。
【0028】
ランダムなアレイでは、Φの値は、代表的なサンプル(好ましくは、少なくとも100本の柱)の全ての柱の断面を加算し(断面の表面は上述のとおり測定された辺および直径に基づいて算出される)、サンプルの総表面で除算することでも算出される。
【0029】
ナノテクスチャ表面の粗さrは、露出表面に対する実表面の比率であり、アレイの幾何学的なパラメータに関係する。
【0030】
r=1+pdh/p(円柱または円錐台状の柱、d=円柱においては、先端の丸みの底部、または、円錐台状の柱においては、柱の底面から3/4の高さ、における柱の直径、h=柱の高さおよびp=アレイ間隔)。
【0031】
r=1+4ah/p(断面が正方形の平行六面体の柱、a=柱の辺、h=柱の高さおよびp=アレイ間隔)。
【0032】
本発明に基づく柱アレイは、全体的に、粗さr≧2(このシステムにおいて、ファキール状態が好まれることを保証する)を有し、好ましくは、次の条件を満たす:
【0033】
2.5≦r≦3.5。
【0034】
ヤング角度θとは、基板の平滑な(テクスチャのない)表面における液滴(本願では、脱イオン水)の論理的な接触角で、以下の関係式によって定義される。
【0035】
【数1】

【0036】
式中、γSVおよびγSLは、それぞれ、固体/蒸気および固体/液体の界面における表面エネルギーで、γは純水の表面張力である(72mN/m)。
【0037】
ヤング角度θが論理的に適切に定義されていれば、接触角は、実際には、2つの限界値の間に含まれる。実際、水滴を膨張させると、水滴の接触線が実質的に移動しないまま、接触角が最初に増加する。接触角は、最大値θに達するまで増加し、その時点から接触線が移動し始める。この角度θは「前進角」と呼ばれる。
【0038】
反対に、水滴の液体を汲み上げると、接触角が最小値θまで減少し、その点から接触線が後退し始めることが観察される。この角度θは「後退角」と呼ばれる。
【0039】
前進角と後退角の差(Δθ=θ−θ)は、接触角ヒステリシスであり、多くの場合θに近い。
【0040】
ヤング角度θは、θとθの二つの角度の間にある。ヒステリシスΔθ=10°、好ましくはΔθ=5°の場合、物質の平滑な(テクスチャのない)表面のヤング角度θは、次式で表される値に等しい。
【0041】
【数2】

【0042】
本発明の枠組みのなかで、前進角と後退角は、注入/ポンピングシリンジを備えたゴニオメータによって、15μlの脱イオン水の水滴を表面に堆積させ、水滴を20μl/分の速度で膨張および縮小(unswelling)させることで、測定される。好ましくは、柱の底面から3/4の高さhで測定された、柱の垂直軸に対して垂直な平面が、柱の側面に対してなす角度αは、α<θとなる角度である。一般的に、この角度αは、70°〜120°の間にある。
【0043】
本発明に基づくナノテクスチャ表面の柱の高さhは、可視光の波長(400〜800nm)より短いので、回折および光学的な問題の危険性は低くなった。
【0044】
本発明に基づくナノテクスチャ表面は、疎水性基板または疎水性物質薄層のナノテクスチャ表面を形成した後に被覆した基板の上に形成される。
【0045】
コーティングは、全面的であっても部分的であってもよい。部分的である場合は、柱の上部を覆う。好ましくは、疎水性コーティングは、ナノテクスチャ表面全体を覆う。
【0046】
コーティングの厚さは一般的に10nm以下、好ましくは1〜10nm、より好ましくは1〜5nmである。
【0047】
コーティングは、一般的には、フルオロシラン系またはフルオロシラザン系のコーティングである。これらは、好ましくは、各分子が少なくとも2つの加水分解性基を含む、フルオロシラン前駆体またはフルオロシラザン前駆体を堆積することによって得られる。フルオロシラン前駆体は、好ましくは、フルオロポリエーテル部分を有し、より好ましくは、ペルフルオロポリエーテル部分を有する。これらのフルオロシランは、周知であり、とりわけ、米国特許第5,081,192号、米国特許第5,763,061号、米国特許第6,183,872号、米国特許第5,739,639号、米国特許第5,922,787号、米国特許第6,337,235号、米国特許第6,277,485号および欧州特許第0933377号に記載されている。
【0048】
疎水性コーティングを形成するのに特に適したフルオロシランは、米国特許第6,277,485号に開示されたフルオロポリエーテル基を含むものである。
【0049】
このフルオロシランは、以下の一般式で表される。
【0050】
【化1】

【0051】
式中、Rは1価または2価ペルフルオロポリエーテル基であり、Rは、必要に応じて1以上のヘテロ原子または官能基を含み、必要に応じてハロゲンで置換され、好ましくは2〜16個の炭素原子を含む、2価のアルキレン、アリーレンまたはこれらの組み合わせであり、Rは、低級アルキル基であり(つまり、C〜Cのアルキル基)、Yはハロゲン原子、低級アルコキシ基(すなわち、C〜Cのアルコキシ基、好ましくはメトキシ基またはエトキシ基)、または、低級アシルオキシ基(RはC〜Cのアルキル基である−OC(O)R)であり、xは0もしくは1、または必要に応じて2であり、yは1(Rは1価)または2(Rは2価)である。好ましい化合物は、少なくとも1000の平均分子量を一般的に有する。好ましくは、Yは低級アルコキシ基であり、Rはペルフルオロポリエーテル基である。
【0052】
他の推奨されるフルオロシランとしては、式:
【0053】
【化2】

【0054】
(式中、n=5、7、9または11であり、Rは、好ましくは−CH、−Cおよび−CなどのC1〜C10のアルキル基である)を有するもの;
【0055】
CF(CFCHCHSi(OC((トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロ)オクチル‐トリエトキシシラン);
【0056】
CFCHCHSiCl
【0057】
【化3】


および
【0058】
【化4】

【0059】
(式中、n’=7または9であり、R”は上記で定義したとおりである。)が存在する。
【0060】
疎水性および/または疎油性コーティングの調製に等しく推奨されるフルオロシランを含む組成物が、米国特許第6,183,872号に開示されている。その組成物は、Si基を搭載した有機基を含み、以下の一般式で表され、5.10〜1.10の分子量を有するフルオロポリマーが含まれる。
【0061】
【化5】

【0062】
(式中、Rはペルフルオロアルキル基であり、Zはフルオロまたはトリフルオロメチル基であり、a、b、c、dおよびeは、それぞれ互いに独立に、a+b+c+d+eの合計が1以上、かつ、a、b、c、dおよびeと指定された括弧内に表された繰り返し単位の順番が記載された順番に限定されないことを条件とする、0または1以上の整数であり、YはHまたは炭素原子を1〜4個含むアルキル基であり、Xは水素、臭素またはヨウ素原子であり、Rは水酸基または加水分解性基であり、Rは水素原子または1価炭化水素基であり、mは0、1または2であり、nは1、2または3であり、n”は少なくとも1と等しく、好ましくは少なくとも2と等しい整数である。)
【0063】
上述のようなフッ素化疎水性コーティングを作製するための組成物は、KP 801M(R)(信越化学工業株式会社)、OPTOOL DSX(R)(ダイキン工業株式会社)およびKY 130(R)(信越化学工業株式会社)の商標名で販売されている。当然、これらの組成物の混合物を使用することもできる。
【0064】
むろん、光学製品の場合、ナノテクスチャ表面は、むきだし、または耐衝撃性、耐摩耗性および/または耐擦傷性および非反射性コーティングなど、複数の機能性コーティングの一つで被覆されたレンズ基板上に形成することができる。レンズは、着色レンズまたはフォトクロミックレンズでもよい。
【0065】
また、本発明に従って、ナノテクスチャ表面を調製し、次に、得られた型が、ナノ構造表面の逆転した複製である表面を含むように、該ナノテクスチャ表面を型に転写することもできる。
【0066】
得られた型は、剛性な型でも、好ましくは柔軟な型でもあり得、その後、それ自身がナノ構造表面の複製を光学製品に転写するために使用される。その典型的な方法は、製品またはミクロ構造の型の表面に硬化性組成物を塗布して、型と製品を押し付け合った後に、組成物を硬化させることによる。
【0067】
また、成型された光学製品の製造作業において、ナノ構造表面型を用いることができる。その際、基板材料がナノ構造表面型に鋳込まれ、その中で硬化される。
【0068】
型のナノ構造表面は、事前に、疎水性および/または疎油性、耐摩耗性、耐衝撃性コーティングなどの1種類以上のコーティングで、被覆されている可能性がある。
【0069】
ナノ構造を転写する方法は、米国特許第6,491,851号および欧州特許第1,551,611号に記載されている。
【0070】
本発明に基づくナノテクスチャ表面は、撥雨性表面、すなわち、雨滴の排水を補助して表面上での串刺しを回避し、それによって、表面上の塵の堆積を減少させる表面、として特に重要であることが示された。このような表面は、雨滴付着特性が低く、雨滴排水機能が速いことにより、光学製品、好ましくは眼用レンズ、特に眼鏡用ガラスにおいて、特に有用である。
【0071】
したがって、本発明は、製品、好ましくは、眼用レンズ、より具体的には眼鏡用ガラスなどの光学製品の表面に、撥雨性を付与する、上述のナノ構造表面の用法にも係る。
【実施例】
【0072】
以下の実施例は、本発明を非限定的に説明している。
【0073】
実施例
サンプルのシリコン基板の表面に、本発明に基づく疎水性材料の層で被覆され、以下の特徴を有する、ナノテクスチャの周期的アレイが設けられた。
アレイ#1:
間隔(p)=200nm
柱の表面比率(Φ)=pd/4p=11%
粗さ(r)=3.0
柱の外形:先端が丸い円柱
‐直径(d)=75nm
‐高さ(h)=350nm
サンプルの基板は3cm×3cmの正方形で、中心に1cmのテクスチャのある部分を有する。
【0074】
テクスチャ・アレイの製造
1.シリコンウェーハは、30秒間、4000rpmの回転速度および3000rpmの加速度で、メチルイソブチルケトン中の30g/lのポリ(メチルメタクリラート)(PMMA)溶液によってスピンコートされる。得られたコーティングの最終的な厚さは150nmである。
2.被覆されたウェーハは180℃のオーブンに30分間入れられる。
3.被覆されたウェーハの面は、所望のパターンに従って、コンピュータ制御電子ビーム(電子マスキング装置 Leica)で照射される。
4.照射された層は、次に、体積1/3のメチルイソブチルケトン/イソプロパノール溶液中で45秒間、現像される。
5.次に、40nmのクロム層が堆積される(従来の真空蒸着)。
6.PMMA層がアセトン処理によって除去される。シリコンに堆積されたクロムは損傷を受けないが、樹脂上のクロムは樹脂とともに除去される。
7.シリコンは、DPSIプログラムの制御の下で(4sccmSF−8sccmCHF−圧力=10mTorr−RF電力=15ワット)、反応性イオンエッチング(RIE)で7分間、50nm/分のエッチング速度でエッチングされ、350nmのエッチング深度を得る(sccm=立方センチメートル毎分(標準状態下)、0℃および101.325kPaの条件下)。
8.クロム層は、Cr−etch(R)(Chromium Etch 3144(ハネウェル)、過塩素酸および硝酸アンモニウム‐セリウム(IV)の混合物)として市販される溶液にサンプルを浸漬させることで、化学的に除去される。
【0075】
疎水性薄層の堆積
次に、疎水性材料(OPTOOL DSX(R))の幾何学的厚さが2nmの層を、以下の条件で堆積させる。
‐チャンバを真空ポンプで排気して、その気圧を3.10−5mbarにする、
‐低エネルギーでのアルゴンイオン・ボンバーディング:le=0,5A,V=80V,1分間、
‐OPTOOL DSX(R)のジュール効果による蒸発(蒸発速度:0.40nm/秒)、最終通気はゆっくりと行う(4分間)。
【0076】
水との接触角の測定
本発明に基づくナノテクスチャ表面の接触角を、上記のとおり測定した。結果は表1に示した。比較例として、疎水性材料で被覆されたシリコンウェーハの非ナノテクスチャ表面の、水との接触角を示した(測定は、DIGIDROP GBXで、マニュアルモード−三重点速度=0で行われる)。
【0077】
【表1】

【0078】
ナノ構造体は、前進角および後退角を著しく増加させるという利点を有する。ヒステリシスが穏やかな状態に維持されるので、カッシー状態であることが分かる。ウェンゼル状態であれば、ヒステリシスは約100〜140°となる。上記のような後退角は、平面では決して得られない。上記のような前進角および後退角の値は、水滴を球形に維持するもので、適切な値であるため、水滴は、表面に落下した時に跳ね返る。水滴はその後、表面を傾けると即座に転がって、簡単に排水される。
【0079】
液滴衝撃に対する抵抗
液滴衝撃テストに用いられた、実験的な配置の線図を図1で示した。液滴は、シリンジ駆動装置で駆動されたシリンジから投下された。観察は、高速度カメラで行った。
シリンジ駆動装置で駆動されたシリンジ1は、較正された寸法の液滴を投下させる。シリンジは、図2で概略が示されるように、液滴が高さHからサンプル上に落下するよう配置されている。
衝撃の観察は、毎秒2〜1000画像を撮影する高速度カメラによって行われる。写真は、光3を、ディフューザ4の裏に、カメラと対称の位置に配置して、側面から撮影される。
半径1.1〜2mmの液滴の、異なる高さ(3cm〜1m)からのナノテクスチャ表面に対する衝撃を実現し、跳ね返りを、それが1mの高さから投下された液滴のものであっても、必ず観察した。水は表面に侵入せず、跳ね返る。
【0080】
蒸発テスト
実施例の、ナノテクスチャ表面に置かれた液滴は、テストの分解能限度、20μm(蒸気よりわずかに大きい巨視的な液滴の寸法)、に達するまで、ファキール状態を維持しながら蒸発する。これらの液滴の変化は、液滴を側面から見るために、水平に配置された双眼鏡によって観察することができる。
ここで観察された反応は、100ミクロン未満の寸法の液滴の串刺しが確認された、より大きな構造体で観察された反応と大きく異なる。
結論:本実施例のナノテクスチャにおいて、液滴の串刺しは観察されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直で好ましくは規則的な柱アレイを含む、超疎水性のナノテクスチャ表面を有する製品であって、柱アレイは、
‐柱の表面比率Φが、3%≦Φ≦13%、好ましくは、5%≦Φ≦13%、さらに好ましくは、5.5%≦Φ≦13%、さらに好ましくは、6%≦Φ≦13%、いっそう好ましくは、8%≦Φ≦13%であり、
‐アレイ間隔pが、100nm≦p≦250nmであり、
‐柱の高さhが、100nm≦h≦400nm、好ましくは、250≦h≦400nm、さらに好ましくは、300≦h≦400nmであり、
‐柱の側面が、柱の垂直軸に対して、最高で±20°、好ましくは±10°、さらに好ましくは±5°の角度をなす、という条件を満たす製品。
【請求項2】
柱の高さが150≦h≦350nmである、請求項1に記載の製品。
【請求項3】
柱の表面比率Φが5%≦Φ≦12%、さらに好ましくは6%≦Φ≦12%、さらに好ましくは7%≦Φ≦12%である、請求項1または2に記載の製品。
【請求項4】
柱の表面比率Φが5%≦Φ≦10%、さらに好ましくは8%≦Φ≦10%である、請求項1または2に記載の製品。
【請求項5】
柱が平行六面体、円柱、円錐台または角錐台である、請求項1〜4のいずれかに記載の製品。
【請求項6】
柱の長辺または直径が50nm〜100nmの間で変化し、好ましくは50nmより大きく、さらに好ましくは60nmより大きく、いっそう好ましくは60〜90nmの間で変化する、請求項5に記載の製品。
【請求項7】
柱の先端が丸い形状である請求項1〜6のいずれかに記載の製品。
【請求項8】
ナノテクスチャ表面が粗さr≧2、好ましくは2.5≦r≦3.5である、請求項1〜7のいずれかに記載の製品。
【請求項9】
ナノテクスチャ表面が少なくとも部分的に1層の疎水性材料の層で被覆されている、請求項1〜8のいずれかに記載の製品。
【請求項10】
層の厚さが10nm未満、好ましくは1〜10nm、さらに好ましくは1〜5nmである、請求項9に記載の製品。
【請求項11】
製品が光学製品、好ましくは眼用レンズである、請求項1〜10のいずれかに記載の製品。
【請求項12】
ナノテクスチャ表面が防汚性コーティングである、請求項1〜11のいずれかに記載の製品。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の、柱アレイを含むナノテクスチャ表面の、製品の表面に撥雨性を付与するための用法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−520493(P2010−520493A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551251(P2009−551251)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【国際出願番号】PCT/FR2008/050350
【国際公開番号】WO2008/116994
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(594116183)エシロール アテルナジオナール カンパニー ジェネラーレ デ オプティック (69)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL COMPAGNIE GENERALE D’ OPTIQUE
【出願人】(508106611)サントル ナシオナル ド ラ ルシェルシュ シアンティフィック (セーエヌエールエス) (10)
【Fターム(参考)】