説明

超砥粒ホイールおよびそれを用いた研削加工法

【課題】超砥粒をビトリファイドボンドで結合した超砥粒層を有するビトリファイドボンド超砥粒ホイールにおいて、研削加工を継続しても、研削抵抗値が低い値で安定し切れ味の良好なビトリファイドボンド超砥粒ホイールおよびそれを用いた研削加工法を提供する。
【解決手段】超砥粒層には分散して配置された球状の小径気孔と、分散して配置された球状の中径気孔と、分散して配置された球状の大径気孔を含む。小径気孔はビトリファイドボンドが微少破砕して切れ味を維持することに作用し、中径気孔は超砥粒層の気孔率を上げることに作用し、大径気孔は切り屑の排出をスムーズにすることに作用する。小径気孔の平均気孔径は0.1〜2μm、中径気孔の平均気孔径は10〜50μm、大径気孔の平均気孔径は80〜200μmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超砥粒をビトリファイドボンドによって結合した超砥粒層を有する、有気孔のビトリファイドボンド超砥粒ホイールおよびそれを用いた研削加工法に関する。
【背景技術】
【0002】
超砥粒(ダイヤモンド砥粒、CBN砥粒)、一般砥粒(SiC砥粒、AL砥粒)などを砥粒とし、これらをビトリファイドボンドで結合したビトリファイドボンドホイールが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭54−39292号公報
【特許文献2】特開昭59−161269号公報
【特許文献3】特開平3−184771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のビトリファイドボンドホイールで研削加工を行うと、研削加工を継続するにつれて、研削抵抗値が高くなり、しかも研削抵抗値が安定しない問題が発生することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の問題点を解決するために、本発明は、超砥粒をビトリファイドボンドによって結合した超砥粒層を有するビトリファイドボンド超砥粒ホイールであって、超砥粒層には分散して配置された球状の小径気孔と、分散して配置された球状の中径気孔と、分散して配置された球状の大径気孔を含むことを特徴とする有気孔のビトリファイド超砥粒ボンドホイールである。
本発明は、超砥粒層に均一分散して配置された球状の小径気孔と中径気孔と大径気孔を含むことにより、超砥粒層が摩耗する過程において、超砥粒層に露出する気孔の総面積がほぼ一定であるので、超砥粒層が工作物に作用する面積が変化しない特長がある。従って、研削加工を継続しても、常に切れ味が良好で、研削抵抗値が低い値で安定する特長を有する。
本発明には、公知の組成のビトリファイドボンドを適用することができる。例えば、特開昭54−39292号公報の特許請求の範囲に開示されている以下の組成のビトリファイドボンドを適用することが可能である。
SiO:40〜60質量%、AL:2〜14質量%、B:9〜25質量%、P:1〜8質量%、RO(ROは、CaO、MgO、およびBaOより選ばれる1種類以上の酸化物):3〜14質量%、RO(ROは、LiO、NaOおよびKOより選ばれる1種類以上の酸化物):2〜4質量%、ZrO:2〜20質量%
より具体的には、特開昭54−39292号公報の実施例1に開示されている表1のNo.1〜No.8の組成のビトリファイドボンドを適用することができる。言うまでもなく、本発明に適用できるビトリファイドボンドは、これらの組成に限定されることはなく、その他の公知の組成であっても適用可能である。
【0006】
【表1】

【0007】
本発明において、球状とは、断面が略円形または略楕円形であり、その短径aと長径bの比a/bの平均値(以下、「真球度」という。)が0.5以上1以下のものを指す。従って、厳密な真球状、楕円球状などの、断面が数学的に厳密な円または楕円になる様な立体形状を、要求するものではない。本発明において用いられる小径気孔と中径気孔と大径気孔の真球度は、0.6〜1.0であることが好ましく、0.8〜1.0であることがより好ましい。
真球度を測定するには、ビトリファイドボンド超砥粒ホイールの超砥粒層をダイヤモンドロータリドレッサ等によって精度よくツルーイングする。そしてツルーイング完了後の超砥粒層の表面に露出した気孔の任意の100カ所について、短径aと長径bを測定し、その比(a/b)の平均値を真球度とする。
【0008】
本発明のビトリファイドボンド超砥粒ホイールの小径気孔の平均気孔径は0.1〜2μm、中径気孔の平均気孔径は10〜50μm、大径気孔の平均気孔径は80〜200μmであることが好ましい。
本発明のビトリファイドボンド超砥粒ホイールにおける気孔の大きさは、研削特性に大きな影響を与える要素であり、小径気孔の平均気孔径は0.2〜2μm、中径気孔は15〜50μm、大径気孔の平均気孔径は90〜200μmであることがより好ましい。小径気孔の平均気孔径は0.3〜2μm、中径気孔は20〜50μm、大径気孔の平均気孔径は100〜200μmであることが最も好ましい。
なお、小径気孔はビトリファイドボンドが微少破砕して切れ味を維持することに主として作用する。小径気孔の平均気孔径は0.1μm未満では微少破砕が低下するので好ましくなく、また2μmを越えると微少破砕が行われなくなるので好ましくない。
【0009】
そして、中径気孔は超砥粒層の気孔率を上げることに主として作用する。中径気孔の平均気孔径は10μm未満では気孔率を上げるのに効果的ではないので好ましくなく、また50μmを越えると気孔率が高くなり過ぎるので好ましくない。
【0010】
さらに、大径気孔は切り屑の排出をスムーズにすることに主として作用する。大径気孔の平均気孔径が80μm未満では切り屑が目詰まりし易くなるので好ましくなく、また200μmを越えると研削面の表面粗さが粗くなるので好ましくない。
【0011】
なお、気孔径を測定するには、ビトリファイドボンド超砥粒ホイールの超砥粒層をダイヤモンドロータリドレッサなどによって精度よくツルーイングする。ダイヤモンドドレッサの切り込みを停止後に十分なツルーイングアウトを行ってツルーイングを完了する。そして、ツルーイング完了後の超砥粒層の表面に露出した気孔の任意の100カ所について、気孔に外接する円を測定し、その円の直径の平均値を平均気孔径とする。
【0012】
本発明のビトリファイドボンド超砥粒ホイールにおいて、小径気孔と中径気孔と大径気孔の合計容量が超砥粒層に占める割合は、40〜80容量%であることが好ましい。
なお、小径気孔と中径気孔と大径気孔の合計容量が超砥粒層に占める割合が40容量%未満では、発明の十分な効果が得られないため好ましくなく、80容量%を越えるとビトリファイドボンド超砥粒ホイールの強度が著しく低下するので好ましくない。合計容量が超砥粒層に占める割合は、50〜80容量%であることがより好ましく、50〜78容量%であることが最も好ましい。
【0013】
本発明のビトリファイドボンド超砥粒ホイールにおいて、すべての気孔は球状の気孔形成剤によって形成されていることが好ましい。
気孔形成剤は球状で、焼成過程で消失する材質がこのましい。材質としては、樹脂、カーボン、無機質の中空体などが好ましい。
さらに、気孔形成剤は球状であることが好ましい。本発明において、球状とは、断面が略円形または略楕円形であり、その短径aと長径bの比(a/b)の平均値(以下、「真球度」という。)が0.5以上1以下のものを指す。従って、厳密な真球状、楕円球状などの、断面が数学的に厳密な円または楕円になる様な立体形状を、要求するものではない。本発明において用いられる気孔形成剤の真球度は、0.8〜1.0であることが好ましく、0.9〜1.0であることがより好ましい。
気孔形成剤の真球度を測定するには、気孔形成剤が樹脂中に分散して硬化させた試料を平面研磨して、その気孔形成剤の断面観察を行うことにより測定する。研磨完了後に樹脂の表面に露出した気孔形成剤の100カ所について、短径aと長径bを測定し、その比(a/b)の平均値を真球度とする。
【0014】
本発明のビトリファイドボンド超砥粒ホイールにおいて、ビトリファイドボンドの軟化温度は600〜900℃であることが好ましい。
ビトリファイドボンドの軟化温度が600℃未満では超砥粒の保持力が低下するために好ましくなく、900℃を越えると超砥粒が焼成過程で熱損傷を受けるおそれがあり好ましくない。本発明のビトリファイドボンド超砥粒ホイールにおいて、ビトリファイドボンドの軟化温度は650〜900℃であることがより好ましく、700〜900℃であることが最も好ましい。
【0015】
本発明のビトリファイドボンド超砥粒ホイールは、シリコン、サファイアおよび化合物半導体等の各種ウエハの研削加工に用いると、十分な発明の効果が得られるので好ましい。
【0016】
さらに本発明は、ビトリファイドボンド超砥粒ホイールを用いてシリコン、サファイアおよび化合物半導体等の各種ウエハを研削加工する方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のビトリファイドボンド超砥粒ホイールによれば、切れ味が良好で、研削抵抗値が低い値で安定するので良好な工作物の表面粗さが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明を実施するための形態については、実施例で詳しく説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の実施例1のビトリファイドボンド超砥粒ホイールの詳細は以下の通りである。
ビトリファイドボンドは、表1のNo.1を用いた。即ち、ビトリファイドボンドの組成は以下の通りである。
SiO:51.4質量%、AL:11質量%、B:17.8質量%、P:5.2質量%、RO(ROは、CaO、MgO、およびBaOより選ばれる1種類以上の酸化物):6.2質量%、RO(ROは、LiO、NaOおよびKOより選ばれる1種類以上の酸化物):3.1質量%、ZrO:5質量%、その他:0.3質量%
超砥粒としては、平均粒径2μmのダイヤモンド砥粒を用い、気孔形成剤として材質は樹脂、形状は球状で平均粒径2μm、33μm、154μmのものを用いた。
ビトリファイドボンドを20容量%と、ダイヤモンド砥粒を40容量%と、気孔形成剤を40容量%と、公知のバインダーを加えて混合した後、チップ状の成形体にプレスで成形し、大気雰囲気中において脱バインダー処理を行い、引き続いて大気雰囲気中において温度850℃で焼成を行った。
焼成の完了したチップは、接着剤を用いてアルミニウム合金製の台金に接着し、その後、ツルーイングとドレッシングを行い、実施例1のビトリファイドボンドダイヤモンドホイールを完成させた。
ホイールのサイズは外径200mm、超砥粒層の幅は4mm、超砥粒層の厚みは5mmのセグメント型カップホイール(JIS B4131 6A7S型)である。完成したビトリファイドボンドダイヤモンドホイールの小径気孔の平均気孔径は1.7μm、中径気孔の平均気孔径は29μm、大径気孔の平均気孔径は143μm、小径気孔と中径気孔と大径気孔の合計容量が超砥粒層に占める割合は67容量%であった。
この実施例1のビトリファイドボンドダイヤモンドホイールを縦型ロータリーテーブル方式の平面研削盤に取り付け、シリコンウエハの研削加工を行って、本発明の効果を確認した。
研削加工を行ったところ、切れ味は良好で安定しており、しかも、超砥粒層の厚み方向の摩耗量も少なかった。研削加工終了後に超砥粒層の厚み方向の摩耗量を測定したところ1.1μmであった。また、研削加工中の主軸モータの電流値は7.3Aであった。
ここでダイヤモンド砥粒の平均粒径は、株式会社島津製作所製のレーザ回折式粒度分布測定装置SALDシリーズで測定した平均粒径をいう。
【実施例2】
【0020】
本発明の実施例2のビトリファイドボンド超砥粒ホイールの詳細は以下の通りである。
ビトリファイドボンドは、実施例1と同じ、表1のNo.1を用いた。
超砥粒としては、平均粒径2μmのダイヤモンド砥粒を用い、気孔形成剤として材質は樹脂、形状は球状で平均粒径1.5μm、43μm、181μmのものを用いた。その他はすべて実施例1と同じ仕様、条件で実施例2のビトリファイドボンドダイヤモンドホイールを完成させた。
実施例1と同じ条件で研削加工を行ったところ、切れ味は良好で安定しており、しかも、超砥粒層の厚み方向の摩耗量も少なかった。研削加工終了後に超砥粒層の厚み方向の摩耗量を測定したところ1.0μmであった。また、研削加工中の主軸モータの電流値は7.2Aであった。
【実施例3】
【0021】
本発明の実施例3のビトリファイドボンド超砥粒ホイールの詳細は以下の通りである。
ビトリファイドボンドは、実施例1と同じ、表1のNo.1を用いた。
超砥粒としては、平均粒径2μmのダイヤモンド砥粒を用い、気孔形成剤として材質は樹脂、形状は球状で平均粒径1.5μm、17μm、86μmのものを用いた。その他はすべて実施例1と同じ仕様、条件で実施例3のビトリファイドボンドダイヤモンドホイールを完成させた。
実施例1と同じ条件で研削加工を行ったところ、切れ味は良好で安定しており、しかも、超砥粒層の厚み方向の摩耗量も少なかった。研削加工終了後に超砥粒層の厚み方向の摩耗量を測定したところ1.2μmであった。また、研削加工中の主軸モータの電流値は7.3Aであった。
【0022】
(比較例1)
一方、比較例1のビトリファイドボンドダイヤモンドホイールは、平均粒径2μmのダイヤモンド砥粒を用い、気孔形成剤として材質は樹脂、形状は不規則形状で平均粒径104μmのものを用い、その他はすべて実施例1と同じ仕様、条件で比較例1のビトリファイドボンドダイヤモンドホイールを完成させた。
そして実施例1と同様の研削加工を行ったところ、切れ味は不安定で、しかも、超砥粒層の厚み方向の摩耗量も大きかった。研削加工終了後に超砥粒層の厚み方向の摩耗量を測定したところ1.5μmであった。また、研削加工中の主軸モータの電流値は8.5Aであった。
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1の結果を表2にまとめて示す。
【0023】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、半導体分野での各種ウエハを研削加工する超砥粒ホイールやこの超砥粒ホイールを使った加工方法に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超砥粒をビトリファイドボンドによって結合した超砥粒層を有するビトリファイドボンド超砥粒ホイールであって、
前記超砥粒層には分散して配置された球状の小径気孔と、球状の中径気孔と、球状の大径気孔を含むことを特徴とする、有気孔のビトリファイドボンド超砥粒ホイール。
【請求項2】
前記小径気孔の平均気孔径は0.1〜2μm、前記中径気孔の平均気孔径は10〜50μm、前記大径気孔の平均気孔径は80〜200μmであることを特徴とする、請求項1記載のビトリファイドボンド超砥粒ホイール。
【請求項3】
前記小径気孔と、前記中径気孔と、前記大径気孔の合計容量が超砥粒層に占める割合は、40〜80容量%であることを特徴とする、請求項1または2記載のビトリファイドボンド超砥粒ホイール。
【請求項4】
前記小径気孔と前記中径気孔と前記大径気孔は球状の気孔形成剤によって形成されていることを特徴とする、請求項1から3記載のいずれか1項に記載のビトリファイドボンド超砥粒ホイール。
【請求項5】
前記ビトリファイドボンドの軟化温度は600〜900℃であることを特徴とする、請求項1から4記載のいずれか1項に記載のビトリファイドボンド超砥粒ホイール。
【請求項6】
シリコン、サファイアおよび化合物半導体等の各種ウエハの研削加工に用いられることを特徴とする、請求項1から5記載のいずれか1項に記載のビトリファイドボンド超砥粒ホイール。
【請求項7】
請求項1から5記載のいずれか1項に記載のビトリファイドボンド超砥粒ホイールを用いてシリコン、サファイアおよび化合物半導体等の各種ウエハを研削加工する方法。

【公開番号】特開2012−200831(P2012−200831A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69079(P2011−69079)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】