説明

超親水性を有するロールとその製造方法

溶射により、異物の付着防止が可能な超親水性ロールとその製造方法および使用方法を提供する。そのためには、ロール表面に、金属、合金、セラミックスまたはそれらの混合物からなる耐食性に優れるアンダーコート層を形成し、さらに該層の上面に接触するようにアナターゼ型二酸化チタン粒子を主体とする溶射材料を半溶融状態にして溶射し、アナターゼ型の比率が50%以上である二酸化チタン膜を形成する。光触媒性を有するロール表面を紫外線照射することにより、光励起した触媒表面が高度に親水化され、ロール表面に薄い水膜を均一に形成することができ、ロール表面の異物付着防止効果を発現し、自己浄化性を維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、主として製紙業において使用される超親水性を有するロールの製造方法や使用方法に関する。
【背景技術】
資源のリサイクル・地球の環境保全が求められる中、製紙業界においては紙の全生産量の約80〜90%が古紙からのリサイクルによって供給されている。このため、古紙に含まれる背のり等の異物が製紙原料中に混入する事例が多くなっている。また製紙用機械には、その製造のあらゆる工程においてロールが用いられていて、ロール工程での異物混入の影響が大きい。
例えば、湿紙工程ではワイヤロール、ワイヤリターンロール等が使われ、プレス工程ではプレスロール、ペーパーロール、フェルトロール等が使われている。それらの材質は、主に硬質ゴムあるいは鉄鋼材料である。このような製紙用ロールを使用する工程において、原料中に含まれる背のり等の粘着性異物が混入するとロール表面に付着し、さらにロール表面の異物と湿紙が接触した場合、異物と接触した湿紙は紙繊維を奪われ、紙の穴あき等の重大な問題を引き起こす。
ロール表面に異物が付着した場合、その異物を除去するために、ロール表面にドクターブレードを接触させる方法が従来から行われてきた。ドクターブレードの材質は接触するロールの材質に応じて適宜選択し使用される。硬質ゴムロールには樹脂製ブレード、鉄鋼ロールにはカーボン繊維強化樹脂製ブレード等が用いられる。
また、ロール表面への異物付着防止策として、ロール表面の材質を工夫する方法がある。例えば、ロール表面を非粘着性のテフロンでコーティングする方法、およびテフロンでライニングを施す方法がある。
【発明の開示】
従来の、ロール表面に付着した異物を除去する方法や、異物付着防止としてロール表面の材質を工夫する方法には、それぞれ以下のような問題点が存在する。
ドクターブレードをロール表面に接触させて異物を除去する方法では、ドクターブレードの取り付け直後には付着物が効率的に除去されるが、ロール表面との接触によるドクターブレード先端の摩耗が時間の経過に伴って進行し、効率的な付着物除去が困難となるので、ブレード設置位置の調整が繰り返し必要となる。
また、ロール表面を非粘着性樹脂で改質する方法では、テフロンの硬さが低いために、製紙工程におけるワイヤとの接触によりロール表面のテフロン層が急激に摩耗を起こし、結果として長期間の使用には耐えないため、頻繁な取替え作業が必要となる。
本発明は、以上の課題を解決するために種々検討し、上記課題の解決を図ったものである。即ち、光触媒能のある二酸化チタンを紫外線で光励起すると、表面が高度に親水化され、水の接触角が5°以下になる。この現象をロール上で再現し、利用することを検討した。その結果、製紙用ロールの表面に光触媒を含む層を形成し、紫外線を照射し、高度の親水性を付与すると、ロールと湿紙との間に均一な水の薄膜が形成され、長期間にわたって異物の付着防止効果と表面の自己浄化性を持つことが明らかとなった。
課題を解決するための検討について更に詳述する。光触媒性材料を含む層をロール表面に形成し、紫外線照射により高度な親水性を発揮させるには、高い含有率でアナターゼ型二酸化チタンを表面に形成する必要がある。しかし、アナターゼ型二酸化チタンは1127Kでルチル型へと相変態を起こす。このため、アナターゼ型を皮膜中に多く形成させるためには、溶射材料を半溶融状態として比較的低温で溶射する必要がある。このことにより、二酸化チタン膜は相当量の気孔を皮膜中に含むことになる。
超親水性ロールの基材は鉄鋼材料が主であるため、気孔率の高い二酸化チタン皮膜のみでは水分が皮膜表面から基材に容易に浸透する。このため、腐食を引き起こし、皮膜剥離の原因となる。通常、気孔を多く含む溶射皮膜では、気孔へ樹脂等を含浸する封孔処理が行われているが、該皮膜は光触媒機能を有するために封孔剤が分解され、封孔効果を長期間維持できない。無機系封孔剤を用いることも可能であるが、該封孔剤では硬化時の収縮率が大きいために十分な封孔効果が得られない。したがって、二酸化チタン膜の下にアンダーコート層を形成することで、超親水性を長期間維持できる方法を案出した。
アンダーコート層として、金属、合金、セラミックスまたはそれらの混合物からなる溶射皮膜層を形成し、さらに光触媒層として、アナターゼ型二酸化チタン粒子を主成分とする溶射材料を半溶融状態にして溶射し層形成した。この光触媒層は膜厚0.4mm以上あり、皮膜表面におけるアナターゼ型二酸化チタンの比率が50%以上であった。
この二酸化チタン溶射皮膜は、光励起により高い超親水性を発現するとともに、比較的高い硬度を有する酸化物系セラミックスであるため、製紙工程でのワイヤによる摩耗も少なく、結果として、超親水性を長期間維持できることが明らかとなった。繰り返すと、本発明の二酸化チタン溶射皮膜は、防汚性、耐腐食性、耐磨耗性、長期耐用性を兼ね備えていることが明らかとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明による超親水性を有するロールとその製造方法の実施形態について以下に説明する。製紙機械で用いられるロールの材質は硬質ゴムまたは鉄鋼材料であるが、超親水性を付与するロールとしては、溶射成膜過程における基材の温度上昇による変形等を考慮すると、鉄鋼材料が望ましい。
また、金属、合金、セラミックスまたはそれらの混合物からなるアンダーコート層の形成方法としては溶射法が適し、特に溶射法の中でも緻密な皮膜が得られる高速フレーム溶射法(HVOF)による成膜が好ましい。溶射材料には、金属ではニッケル等が使用でき、合金としてはニッケルクロム合金、ニッケルアルミニウム合金、ニッケルクロム鉄モリブデン合金や、ニッケルクロムシリコンボロン等の自溶性合金等が使用できる。セラミックスとしては金属酸化物、金属炭化物が使用できる。合金とセラミックスとの混合物としては、ニッケルクロムシリコンボロンにタングステンカーバイドを含むもの、タングステンカーバイドニッケルクロム、タングステンカーバイドコバルトクロム等が使用できる。
また、超親水性を発現する光触媒機能材料である二酸化チタンについては、光触媒能を有していれば使用できるが、溶射材料として好ましいものは、一次粒径1〜10μmの原料粉末を造粒し、25〜100μmの大きさに調整したもので、結晶構造としてアナターゼ型の含有率の高いものが良い。皮膜形成方法としては溶射法が適しているが、特に酸化物、炭化物等のセラミックス材料の溶射法として使用されているプラズマ溶射法が望ましい。ただし、プラズマ溶射法における溶射条件は、溶射材料の加熱温度が二酸化チタンのアナターゼ型からルチル型への相変態温度1127Kを超えない条件を満たす必要がある。
本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、親水性の度合いの評価は次のように行った。
(親水性の度合い)
それぞれのロール表面に一定量の水を滴下し、紫外線照射前後で接触角を測定し、次のように判定した。
○ 接触角5°以下(超親水性)
△ 接触角5〜20°
× 接触角20°以上
(実施例)製紙用ペーパーロールの表面に、本発明の耐食性を有する超親水性皮膜を形成する。先ず、前処理工程として、ショットブラスト装置を使用し、鉄鋼材ロール表面に市販のアランダム(#60)を投射する。次に、高速フレーム溶射装置を使用してアンダーコート層を形成する。ニッケルクロム鉄モリブデン合金粒子を溶射材料として使用し、前処理したロール表面に溶射する。更に、造粒したアナターゼ型二酸化チタン粒子を溶射材料とし、プラズマ溶射装置を使用して、アンダーコート層に接触するように二酸化チタン皮膜を溶射する。後工程として、研磨により溶射皮膜の凹凸を除去し、Ra0.5〜1μmの表面粗さとする。
この皮膜はエックス線回折分析の結果、50%のアナターゼ相と50%のルチル相であることが確認された。
従来の鉄鋼材料ロール(No.1試料)と二酸化チタン膜を形成したロール(No.2試料)の表面に水滴を落とし水との接触角を自動接触角計にて測定した。また、これら試料の表面にBLB蛍光灯(紫外線)を0.5mW/cmの照度で照射した後の接触角も併せて測定した。その結果を表1に示す。

表1から分かるように、紫外線照射により本発明によるロール表面が光励起を受け、高度に親水化されていることが分かった。
【産業上の利用の可能性】
本発明により、超親水性皮膜を表面に均一に形成した製紙用ロールの製造と使用が可能となった。この処理皮膜は耐食性および耐摩耗性を併せもつため、超親水性を長期間保持でき、従ってメンテナンスが容易で、ランニングコストの低いロールの提供が可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属、合金、セラミックス、またはそれらの混合物からなるアンダーコート層を形成し、その上に二酸化チタン皮膜を形成し、皮膜中のアナターゼ型二酸化チタンの比率が50%以上であることを特徴とする溶射皮膜。
【請求項2】
請求項1記載の溶射皮膜を形成するに際し、二酸化チタンを半溶融状態で溶射することにより、光触媒能の保持を可能にした二酸化チタン皮膜の溶射方法。
【請求項3】
請求項1記載の溶射皮膜を表面に形成したロール。
【請求項4】
請求項3のロールを使用するに際し、ロール表面にUV光を照射して二酸化チタンを活性化させ、異物の付着を防止する使用方法。

【国際公開番号】WO2004/001091
【国際公開日】平成15年12月31日(2003.12.31)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−515476(P2004−515476)
【国際出願番号】PCT/JP2003/006162
【国際出願日】平成15年5月16日(2003.5.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
【出願人】(591056950)倉敷ボーリング機工株式会社 (3)
【Fターム(参考)】