説明

超電導薄膜材料の製造方法、超電導機器、および超電導薄膜材料

【課題】臨界電流値を向上することのできる超電導薄膜材料の製造方法、超電導機器、および超電導薄膜材料を提供する。
【解決手段】超電導薄膜材料の製造方法は、気相法により超電導層3を形成する気相工程と、超電導層3に接するように、液相法により超電導層4を形成する液相工程とを備えている。超電導層3と金属基板1との間に中間層2を形成する工程がさらに備えられていることが好ましい。金属基板1は金属よりなっており、かつ中間層2は岩石型、ペロブスカイト型、またはパイロクロア型のいずれかの結晶構造を有する酸化物よりなっており、かつ超電導層3および超電導層4はいずれもRE123系の組成を有していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導薄膜材料の製造方法、超電導機器、および超電導薄膜材料に関し、より特定的には、RE123系の組成を有する超電導薄膜材料の製造方法、超電導機器、および超電導薄膜材料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ビスマス系の超電導体を用いた超電導線材と、RE123系の超電導体を用いた超電導線材との2種類の超電導線材の開発が特に進められている。このうちRE123系の超電導線材は、液体窒素温度(77.3K)での臨界電流密度がビスマス系の超電導線材よりも高いという利点を有している。また、低温下および一定磁場下における臨界電流値が高いという利点を有している。このため、RE123系の超電導線材は次世代の高温超電導線材として期待されている。
【0003】
一方で、RE123系の超電導体はビスマス系の超電導体のように銀シースで被覆することができないので、配向金属基板上に気相法のみまたは液相法のみによって超電導体(超電導薄膜材料)を成膜する方法で製造される。
【0004】
ここで、従来のRE123系の超電導薄膜材料の製造方法が、たとえば特開2003−323822号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1には、レーザ蒸着法(PLD法)を用いて金属テープ基板上に中間層を形成し、次にPLD法を用いてRE123系の組成を有する第1の超電導層を中間層上に形成し、次にレーザ蒸着法を用いてRE123系の組成を有する第2の超電導層を第1の超電導層上に形成する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−323822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超電導線材の臨界電流値を増加するためには、超電導薄膜材料の膜厚を厚くし、電流が流れる部分の断面積を大きくすればよい。しかしながら、従来の超電導線材は、超電導薄膜材料の膜厚の増加に伴って、臨界電流密度が低下し、臨界電流値の増加が徐々に鈍くなる性質があった。このため、臨界電流密度および臨界電流値を向上することができないという問題があった。
【0006】
また、配向金属基板上に液相法のみによって超電導薄膜材料を成膜する方法では、超電導薄膜材料が結晶成長しにくいという問題があった。
【0007】
したがって、本発明の一の目的は、臨界電流密度および臨界電流値を向上することのできる超電導薄膜材料の製造方法、超電導機器、および超電導薄膜材料を提供することである。
【0008】
また、本発明の他の目的は、超電導薄膜材料が結晶成長しやすい超電導薄膜材料の製造方法、超電導機器、および超電導薄膜材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の局面に従う超電導薄膜材料の製造方法は、気相法により気相成長超電導層を形成する気相工程と、気相成長超電導層に接するように、液相法により液相成長超電導層を形成する液相工程とを備えている。
【0010】
本発明の他の局面に従う超電導薄膜材料の製造方法は、気相法により気相成長超電導層を形成するn(nは2以上の整数)回の気相工程と、液相法により液相成長超電導層を形成するn回の液相工程とを備えている。n回の気相工程のうち第1気相工程において第1気相成長超電導層を形成し、n回の液相工程のうち第1液相工程において第1気相成長超電導層に接するように第1液相成長超電導層を形成する。n回の気相工程のうち第k(kはn≧k≧2を満たす整数)気相工程において、第k−1液相成長超電導層に接するように第k気相成長超電導層を形成し、n回の液相工程のうち第k液相工程において、第k気相成長超電導層に接するように第k液相成長超電導層を形成する。
【0011】
本願発明者らは、膜厚の増加に伴う臨界電流密度の低下を抑止するためには、超電導薄膜材料の表面の平滑性および超電導薄膜材料の結晶の緻密性が重要な要因になることを見出した。気相法では、形成される膜の膜厚が厚くなるに従って膜が形成される表面の温度が低下し、それによりa軸配向粒が多くなる現象が見られる。このため、気相法のみによって成膜された従来の超電導薄膜材料では、膜厚が厚くなるに従って表面平滑性が悪くなる。また、液相法では、形成される膜の膜厚が厚くなるに従って(特に1μmを越える膜厚になると)超電導薄膜材料の結晶の緻密性が低下する。このため、従来においては超電導薄膜材料の膜厚を増加しても所望の臨界電流密度および臨界電流値が得られなかった。
【0012】
そこで、本発明の超電導薄膜材料の製造方法においては、気相法により気相成長超電導層が形成され、気相成長超電導層に接するように液相法により液相成長超電導層が形成される。これにより、液相成長超電導層を形成する際には、気相成長超電導層の表面の凹凸に液体が入り込み、気相成長超電導層の表面を核として液相成長超電導層の結晶成長が起こるので、気相成長超電導層の表面の凹凸が平滑化される。また、気相成長超電導層および液相成長超電導層の両方によって超電導薄膜材料が構成されるので、気相成長超電導層または液相成長超電導層のいずれか一方のみにより超電導薄膜材料が構成される場合に比べて、気相成長超電導層および液相成長超電導層の各々の膜厚を薄くすることができる。これにより、超電導薄膜材料の表面の凹凸が平滑化され、超電導薄膜材料の結晶の緻密性の低下を抑止することができる。その結果、超電導薄膜材料の表面の平滑性および超電導薄膜材料の結晶の緻密性が良好な状態で超電導薄膜材料の膜厚を厚くすることができるので、膜厚の増加に伴う臨界電流密度の低下を抑止することができ、臨界電流密度および臨界電流値を向上することができる。
【0013】
また、液相法による液相成長超電導層の成長の初期段階では、結晶成長の核となる層が必要である。従来の液相法のみによって超電導薄膜材料を成膜する方法では、結晶成長の核となる層が無いため、結晶成長しにくかった。これに対して、本発明の製造方法によれば、気相成長超電導層が液相法における結晶成長の核となるので、超電導薄膜材料が結晶成長しやすい。
【0014】
加えて、本発明の他の局面に従う超電導薄膜材料の製造方法によれば、気相成長超電導層および液相成長超電導層を複数回交互に形成することにより超電導薄膜材料を製造するので、気相成長超電導層および液相成長超電導層の各々の膜厚が薄い状態で超電導層の総膜厚を厚くすることができる。これにより、臨界電流値を一層増加することができる。
【0015】
本発明の一の局面に従う超電導薄膜材料の製造方法において好ましくは、気相工程において基板の表面側に気相成長超電導層を形成する。基板の裏面側に気相法により裏面側気相成長超電導層を形成する裏面側気相工程と、裏面側気相成長超電導層に接するように、液相法により裏面側液相成長超電導層を形成する裏面側液相工程とがさらに備えられている。
【0016】
これにより、基板の両面に超電導薄膜材料を形成することができるので、超電導線材の電流の経路を増やすことができ、臨界電流密度および臨界電流値を一層向上することができる。
【0017】
なお、「基板の表面」、「基板の裏面」とは、基板における2つの主面を区別しているに過ぎず、2つの主面のうちいずれの主面が表面であってもよい。
【0018】
本発明の一の局面に従う超電導薄膜材料の製造方法において好ましくは、気相工程において基板の表面側に気相成長超電導層を形成する。気相成長超電導層と基板との間に中間層を形成する工程がさらに備えられている。基板は金属よりなっており、かつ中間層は岩石型、ペロブスカイト型、またはパイロクロア型のいずれかの結晶構造を有する酸化物よりなっており、かつ気相成長超電導層および液相成長超電導層はいずれもRE123系の組成を有している。
【0019】
本発明の他の局面に従う超電導薄膜材料の製造方法において好ましくは、第1気相工程において基板の表面側に第1気相成長超電導層を形成する。第1気相成長超電導層と基板との間に中間層を形成する工程がさらに備えられている。基板は金属よりなっており、かつ中間層は岩石型、ペロブスカイト型、またはパイロクロア型のいずれかの結晶構造を有する酸化物よりなっており、かつ第1〜第n気相成長超電導層および第1〜第n液相成長超電導層はいずれもRE123系の組成を有している。
【0020】
これにより、結晶配向性および表面平滑性に優れた超電導薄膜材料が得られ、臨界電流密度および臨界電流値を向上することができる。
【0021】
本発明の一の局面に従う超電導薄膜材料の製造方法において好ましくは、液相工程の後に、液相成長超電導層に接するように超電導層を形成する工程がさらに備えられている。
【0022】
本発明の他の局面に従う超電導薄膜材料の製造方法において好ましくは、第n液相工程の後に、第n液相成長超電導層に接するように超電導層を形成する工程がさらに備えられている。
【0023】
液相法によって成長された超電導層は気相法によって成長された超電導層に比べて表面平滑性に優れているので、これにより、表面平滑性の優れた超電導層の上に超電導層を形成することができる。
【0024】
上記製造方法において好ましくは、気相法がレーザ蒸着法、スパッタリング法、または電子ビーム蒸着法のいずれかである。
【0025】
上記製造方法において好ましくは、液相法が有機金属堆積法(MOD法)である。
これにより、結晶配向性および表面平滑性に優れた超電導薄膜材料が得られ、臨界電流密度および臨界電流値を向上することができる。
【0026】
本発明の超電導機器は、上記の超電導薄膜材料の製造方法により製造された超電導薄膜材料が用いられている。
【0027】
本発明の超電導機器によれば、臨界電流密度および臨界電流値を向上することができる。
【0028】
本発明の超電導薄膜材料は、第1超電導層と、第1超電導層に接するように形成された第2超電導層とを備える超電導薄膜材料であって、臨界電流値が110(A/cm幅)を越えている。
【0029】
なお、本願明細書における「RE123系」とは、RExBayCuz7-dにおいて、0.7≦x≦1.3、1.7≦y≦2.3、2.7≦z≦3.3であることを意味する。また、「RE123系」のREは、希土類元素およびイットリウム元素の少なくともいずれかを含む材質を意味する。また、希土類元素としては、たとえばネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ホルミニウム(Ho)、サマリウム(Sm)などが含まれる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の超電導薄膜材料の製造方法、超電導機器、および超電導薄膜材料によれば、臨界電流密度および臨界電流値を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における超電導薄膜材料の構成を概略的に示す部分断面斜視図である。図1を参照して、本実施の形態における超電導薄膜材料10は、テープ状の形状を有しており、金属基板1と、中間層2と、気相成長超電導層(第1超電導層)としての超電導層3と、液相成長超電導層(第2超電導層)としての超電導層4とを備えている。超電導薄膜材料10はたとえば超電導機器などに用いられる。
【0032】
金属基板1は、たとえばステンレス、ニッケル合金(たとえばハステロイ)、または銀合金などの金属よりなっている。
【0033】
中間層2は金属基板1の表面1a上に形成されており、拡散防止層として機能する。中間層2は、たとえば岩石型、ペロブスカイト型、またはパイロクロア型のいずれかの結晶構造を有する酸化物よりなっており、具体的には、酸化セリウム、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、またはバリウムジルコニアなどの材質よりなっている。
【0034】
超電導層3および超電導層4は中間層2上に積層して形成されている。超電導層3および超電導層4は、実質的に同じ材質の材料よりなっており、たとえばRE123系の組成を有している。
【0035】
なお、図1においては中間層2を設けた構成について説明したが、中間層2は省略されてもよい。
【0036】
次に、本実施の形態における超電導薄膜材料の製造方法について説明する。
図2は、本発明の実施の形態1における超電導薄膜材料の製造方法を示すフロー図である。図1および図2を参照して、本実施の形態の超電導薄膜材料の製造方法では、始めに金属基板1が準備され(ステップS1)、この金属基板1の表面1a上に、たとえばYSZよりなる中間層2がレーザ蒸着法により形成される(ステップS2)。次に、この中間層2上に、たとえばRE123系の組成を有する超電導層3が気相法により形成される(ステップS3)。超電導層3を形成する際の気相法としては、たとえばレーザ蒸着法、スパッタリング法、または電子ビーム蒸着法などが用いられる。続いて、超電導層3に接するように、たとえばRE123系の組成を有する超電導層4がMOD法などの液相法により形成される(ステップS4)。以上の工程により超電導薄膜材料10が完成する。
【0037】
なお、中間層2が省略される場合には、上記の中間層2の形成工程(ステップS2)が省略され、超電導層3の形成工程(ステップS3)において超電導層3が金属基板1の表面1aに接するように形成される。
【0038】
図3は、本発明の実施の形態1における超電導層の形成の様子を模式的に示す図である。図3(a)を参照して、本実施の形態の超電導薄膜材料10およびその製造方法によれば、超電導層3は気相法により形成されるので、超電導層3の膜厚d1が厚い場合にはその表面S1に凹凸が存在する場合がある。しかし、図3(b)を参照して、液相法により超電導層4を形成する際には、超電導層4の成分が含まれている溶液が凹凸の中に入り込み、超電導層3の表面S1を核として超電導層4の結晶成長が起こる。これにより、平滑化された表面S2が得られる。また、図3(a)、(b)を参照して、超電導層3の膜厚d1および超電導層4の膜厚d2を合わせた膜厚が超電導薄膜材料の膜厚d3となるので、超電導層3の膜厚d1および超電導層4の膜厚d2をそれほど厚くしなくても超電導薄膜材料の膜厚d3を厚くすることができる。これにより、超電導層3の表面S1の平滑性を保つことができ、かつ超電導層4の結晶の緻密性の低下を抑止することができる。その結果、超電導薄膜材料の表面S2の平滑性および超電導薄膜材料の結晶の緻密性が良好な状態で超電導薄膜材料の膜厚を厚くすることができるので、膜厚の増加に伴う臨界電流密度の低下を抑止することができ、臨界電流密度および臨界電流値を向上することができる。
【0039】
また、液相法により超電導層4を形成する際に超電導層3が結晶成長の核となるので、超電導薄膜材料が結晶成長しやすい。
【0040】
また、岩石型、ペロブスカイト型、またはパイロクロア型のいずれかの結晶構造を有する酸化物よりなる中間層2を超電導層3と金属基板1との間に形成し、かつ超電導層3および超電導層4はいずれもRE123系の組成を有していることにより、表面の平滑性および結晶の緻密性に優れた超電導薄膜材料が得られ、臨界電流密度および臨界電流値を向上することができる。
【0041】
また、気相法がレーザ蒸着法、スパッタリング法、または電子ビーム蒸着法のいずれかであることにより、表面の平滑性および結晶の緻密性に優れた超電導薄膜材料が得られ、臨界電流密度および臨界電流値を向上することができる。
【0042】
また、液相法がMOD法であることにより、表面の平滑性および結晶の緻密性に優れた超電導薄膜材料が得られ、臨界電流密度および臨界電流値を向上することができる。
【0043】
なお、本実施の形態においては、超電導薄膜材料を構成する層うち最上の層が超電導層4である場合について示したが、図4に示すように、超電導層4を形成した(ステップS4)後に、超電導層4に接するように別の超電導層9が形成されてもよい。この超電導層9は気相法によって形成されてもよいし、液相法によって形成されてもよい。これにより、表面平滑性の優れた超電導層4の上に別の超電導層9を形成して超電導薄膜材料の厚膜化を図ることができる。
【0044】
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2における超電導薄膜材料の構成を概略的に示す部分断面斜視図である。図5を参照して、本実施の形態における超電導薄膜材料10は、金属基板1、中間層2、第1気相成長超電導層としての超電導層3、および第1液相成長超電導層としての超電導層4の他に、第2気相成長超電導層としての超電導層5と、第2液相成長超電導層としての超電導層6とをさらに備えている。
【0045】
超電導層5および超電導層6は超電導層4上に積層して形成されている。超電導層5および超電導層6は、実質的に同じ材質の材料よりなっており、たとえばRE123系の組成を有している。
【0046】
次に、本実施の形態における超電導薄膜材料の製造方法について説明する。
図6は、本発明の実施の形態2における超電導薄膜材料の製造方法を示すフロー図である。図5および図6を参照して、本実施の形態の超電導薄膜材料の製造方法では、超電導層4を形成した(ステップS4)後に、超電導層4に接するように、たとえばRE123系の組成を有する超電導層5が気相法により形成される(ステップS5)。超電導層5を形成する際の気相法としては、たとえばレーザ蒸着法、スパッタリング法、または電子ビーム蒸着法などが用いられる。続いて、超電導層5に接するように、たとえばRE123系の組成を有する超電導層6がMOD法などの液相法により形成される(ステップS6)。以上の工程により超電導薄膜材料10が完成する。
【0047】
なお、これ以外の超電導薄膜材料10およびその製造方法は、図1および図2に示す実施の形態1における超電導薄膜材料およびその製造方法と同様であるため、同一の部分には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0048】
本実施の形態における超電導薄膜材料10およびその製造方法によれば、実施の形態1の超電導薄膜材料およびその製造方法と同様の効果を得ることができる。加えて、気相法による超電導層の形成と液相法による超電導層の形成とを2回交互に行なうことにより超電導薄膜材料を製造するので、超電導層3〜超電導層6の各々の膜厚が薄い状態で超電導薄膜材料の膜厚を厚くすることができる。これにより、臨界電流値を一層増加することができる。
【0049】
なお、本実施の形態においては、気相法により気相成長超電導層を形成する2回の気相工程と、液相法により液相成長超電導層を形成する2回の液相工程とが交互に行なわれる場合について示した。しかし、気相法による超電導層の形成と液相法による超電導層の形成とが2回以上交互に行なわれてもよい。
【0050】
なお、本実施の形態においては、超電導層6が超電導薄膜材料を構成する層うち最上の層である場合について示したが、超電導層6を形成した(ステップS6)後に、超電導層6に接するように別の超電導層が形成されてもよい。この超電導層は気相法によって形成されてもよいし、液相法によって形成されてもよい。これにより、表面平滑性の優れた超電導層6の上に別の超電導層を形成して超電導薄膜材料の厚膜化を図ることができる。
【0051】
(実施の形態3)
図7は、本発明の実施の形態3における超電導薄膜材料の構成を概略的に示す部分断面斜視図である。図7を参照して、本実施の形態における超電導薄膜材料10は、裏面側気相成長超電導層としての超電導層7と、裏面側液相成長超電導層としての超電導層8とをさらに備えている。
【0052】
超電導層7および超電導層8は金属基板1の裏面1b側に積層して形成されている。超電導層7および超電導層8は、実質的に同じ材質の材料よりなっており、たとえばRE123系の組成を有している。
【0053】
次に、本実施の形態における超電導薄膜材料の製造方法について説明する。
図8は、本発明の実施の形態3における超電導薄膜材料の製造方法を示すフロー図である。図7および図8を参照して、本実施の形態の超電導薄膜材料の製造方法では、超電導層6を形成した(ステップS6)後に、金属基板1の裏面1bに接するように、たとえばRE123系の組成を有する超電導層7が気相法により形成される(ステップS7)。超電導層7を形成する際の気相法としては、たとえばレーザ蒸着法、スパッタリング法、または電子ビーム蒸着法などが用いられる。続いて、超電導層7に接するように、たとえばRE123系の組成を有する超電導層8がMOD法などの液相法により形成される(ステップS8)。以上の工程により超電導薄膜材料10が完成する。
【0054】
本実施の形態における超電導薄膜材料10およびその製造方法によれば、実施の形態1の超電導薄膜材料およびその製造方法と同様の効果を得ることができる。加えて、金属基板1の表面1a側および裏面1b側の両方に超電導薄膜材料を形成することができるので、超電導線材の電流の経路を増やすことができ、臨界電流密度および臨界電流値を一層向上することができる。
【0055】
なお、超電導層7の形成(ステップS7)および超電導層8の形成(ステップS8)の一連の工程が行なわれるタイミングは任意であり、たとえば金属基板1を準備した(ステップS1)直後に行なわれてもよいし、超電導層3を形成した(ステップS2)直後に行なわれてもよい。また、金属基板1と超電導層7との間に中間層が形成されてもよい。
【0056】
実施の形態1〜3においてはRE123系の組成を有する材料よりなる超電導層を形成する場合について示したが、本発明はこのような場合に限定されるものではなく、たとえばビスマス系などの他の材質の超電導層を形成する製造方法にも適用することができる。
【0057】
また、実施の形態1〜3では金属基板1の表面1aに中間層2が形成される場合について示したが、中間層2は省略されてもよい。この場合には、超電導層3が金属基板1に接するように形成される。
【実施例1】
【0058】
本実施例では、超電導薄膜材料として以下の比較例A、本発明例B、本発明例C、比較例D、および比較例Eの各々を製造し、臨界電流値および表面平滑性を測定した。
【0059】
比較例A:Ni合金基板上に気相蒸着法を用いて金属系酸化物よりなる中間層を成膜した。中間層の表面の表面粗さRaは5nmであった。続いてPLD法を用いて中間層の上にHoBa2Cu3x(HoBCO)よりなる超電導層を0.2μmの膜厚で成膜した。
【0060】
本発明例B:始めに比較例Aと同様の構造を作製した。続いて、超電導層上にMOD法を用いてHoBa2Cu3x(HoBCO)よりなる超電導層を0.3μmの膜厚で成膜した。これにより、超電導層の総膜厚は0.5μmとなった。
【0061】
本発明例C:始めに本発明例Bと同様の構造を作製した。続いて、超電導層上にPLD法を用いてHoBa2Cu3x(HoBCO)よりなる超電導層を0.3μmの膜厚で成膜した。これにより、超電導層の総膜厚は0.8μmとなった。
【0062】
比較例D:始めに比較例Aと同様の構造を作製した。続いて、超電導層上にPLD法を用いてHoBa2Cu3x(HoBCO)よりなる超電導層を0.3μmの膜厚で成膜した。これにより、超電導層の総膜厚は0.5μmとなった。
【0063】
比較例E:始めに比較例Dと同様の構造を作製した。続いて、超電導層上にPLD法を用いてHoBa2Cu3x(HoBCO)よりなる超電導層を0.3μmの膜厚で成膜した。これにより、超電導層の総膜厚は0.8μmとなった。
【0064】
比較例A、本発明例B、本発明例C,比較例D、および比較例Eの各々で測定された1cm幅当たりの臨界電流値および表面粗さRaを表1、図9、および図10に示す。なお、表面粗さRaとは、JIS(Japanese Industrial Standards)に規定された算術平均粗さRaのことを意味する。
【0065】
【表1】

【0066】
表1、図9、および図10を参照して、比較例A、本発明例B、および本発明例Cの各々を比較して、超電導層の膜厚が厚くなるに従って臨界電流値が増加している。比較例A、比較例D、および比較例Eの各々を比較した場合にも、超電導層の厚くなるに従って臨界電流値が増加している。これは、超電導層の膜厚が厚くなるに従って電流が流れる部分の断面積が大きくなるためである。また、本発明例Bと比較例Dとを比較して、本発明例Bと比較例Dとは同じ膜厚であるにも関わらず、本発明例Bの方が表面粗さRaが小さく、かつ臨界電流値が大きい。本発明例Cと比較例Eとを比較した場合にも、本発明例Cと比較例Eとは同じ膜厚であるにも関わらず、本発明例Cの方が表面粗さRaが小さく、かつ臨界電流値が大きい。このことから、本発明例のように気相法で超電導層を形成した後に液相法で超電導層を形成することで、超電導層の表面平滑性を向上でき、臨界電流密度および臨界電流値を向上できることが分かる。
【0067】
以上に開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態および実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものと意図される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、たとえば超電導限流器、磁場発生装置、超電導ケーブル、超電導ブスバー、および超電導コイルなどを含む超電導機器に適している。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態1における超電導薄膜材料の構成を概略的に示す部分断面斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1における超電導薄膜材料の製造方法を示すフロー図である。
【図3】本発明の実施の形態1における超電導層の形成の様子を模式的に示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1における他の超電導薄膜材料の構成を概略的に示す部分断面斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態2における超電導薄膜材料の構成を概略的に示す部分断面斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態2における超電導薄膜材料の製造方法を示すフロー図である。
【図7】本発明の実施の形態3における超電導薄膜材料の構成を概略的に示す部分断面斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態3における超電導薄膜材料の製造方法を示すフロー図である。
【図9】本発明の実施例1における超電導層の膜厚と臨界電流値Icとの関係を示す図である。
【図10】本発明の実施例1における超電導層の膜厚と表面粗さRaとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 金属基板、1a 表面、1b 裏面、2 中間層、3〜9 超電導層、10 超電導薄膜材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相法により気相成長超電導層を形成する気相工程と、
前記気相成長超電導層に接するように、液相法により液相成長超電導層を形成する液相工程とを備えた、超電導薄膜材料の製造方法。
【請求項2】
前記気相工程において基板の表面側に前記気相成長超電導層を形成し、
前記基板の裏面側に気相法により裏面側気相成長超電導層を形成する裏面側気相工程と、
前記裏面側気相成長超電導層に接するように、液相法により裏面側液相成長超電導層を形成する裏面側液相工程とをさらに備えたことを特徴とする、請求項1に記載の超電導薄膜材料の製造方法。
【請求項3】
気相法により気相成長超電導層を形成するn(nは2以上の整数)回の気相工程と、
液相法により液相成長超電導層を形成するn回の液相工程とを備え、
前記n回の気相工程のうち第1気相工程において第1気相成長超電導層を形成し、
前記n回の液相工程のうち第1液相工程において前記第1気相成長超電導層に接するように第1液相成長超電導層を形成し、
前記n回の気相工程のうち第k(kはn≧k≧2を満たす整数)気相工程において、第k−1液相成長超電導層に接するように第k気相成長超電導層を形成し、
前記n回の液相工程のうち第k液相工程において、第k気相成長超電導層に接するように第k液相成長超電導層を形成することを特徴とする、超電導薄膜材料の製造方法。
【請求項4】
前記液相工程の後または前記第n液相工程の後に、前記液相成長超電導層または前記第n液相成長超電導層に接するように超電導層を形成する工程をさらに備えた、請求項1〜3のいずれかに記載の超電導薄膜材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の超電導薄膜材料の製造方法により製造された超電導薄膜材料を用いた超電導機器。
【請求項6】
第1超電導層と、前記第1超電導層に接するように形成された第2超電導層とを備える超電導薄膜材料であって、臨界電流値が110(A/cm幅)を越えることを特徴とする、超電導薄膜材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−220467(P2007−220467A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39395(P2006−39395)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超電導応用基盤技術研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】