説明

超音波探知装置

【課題】振動子の数が少なくても、グレーティングローブによる偽像を除去して探知対象物の検出精度を向上させることが可能な超音波探知装置を提供する。
【解決手段】受信ビーム信号形成部9a,9bで形成された2つの受信ビーム信号の位相差を、位相差算出部11で走査角度ごとに算出し、メインローブ受信信号検出部12は、位相差算出部11で算出された位相差の変化態様に基づいて、各走査角度における受信ビーム信号がメインローブで受信された信号かグレーティングローブで受信された信号かを判定し、メインローブで受信された信号に基づく探知対象物の画像を表示し、グレーティングローブで受信された信号に基づく探知対象物の画像を表示しないように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、探知対象物で反射した超音波エコーを複数の振動子で受信して探知対象物の画像を表示する超音波探知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図22は、超音波探知装置の一例である水中探知装置で海底地形を探知する様子を示す図である。水中探知装置100は、海面200を航行する船舶150に搭載されており、船舶150の船底に設けられた送受波器101を備えている。送受波器101は、超音波を送受信する振動子を有しており、船舶150の進行方向と垂直な面内において、扇状の超音波送信ビーム(図示省略)を下方に放射し、その後、扇状の探知範囲201をペンシル状の受信ビーム102により走査する。そして、水中探知装置100は、受信ビーム102の走査により受信された海底202からの超音波エコー(以下、単に「エコー」という)を送受波器101で受信し、当該受信信号に基づいて探知対象物である海底の画像を表示部に表示する。
【0003】
図23は、送受波器101の受信時の指向特性を示す図である。MLはメインローブであり、破線は指向特性の主軸を示している。GLはメインローブMLの左右に生じるグレーティングローブである。
【0004】
図22で示したように、鉛直下方を向いた受信ビーム102aにより送受波器101の鉛直下方を探知するとき、海底地点202aからのエコーがメインローブMLにより受信されるとともに、海底地点202aよりも遠方の海底地点202bなどからのエコーがグレーティングローブGLにより受信される。この場合、メインローブMLにより受信したエコーに加えて、グレーティングローブGLにより受信したエコーも鉛直下方から到来したエコーであるとして処理されるため、表示部には、メインローブMLで受信したエコーの画像のほかに、グレーティングローブGLで受信したエコーの画像も表示される。後者の画像は、本来の探知対象物の画像ではない偽像である。
【0005】
また、右下方を向いた受信ビーム102bにより海底地点202bの方向を探知するとき、海底地点202bからのエコーがメインローブMLにより受信されるとともに、海底地点202aおよびその近辺からのエコーがグレーティングローブGLにより受信されるため、この場合も偽像が表示される。
【0006】
このように、本来の探知対象物の画像とともに偽像が表示されると、水中探知装置100のオペレータが海底などの探知対象物を誤判定するおそれがある。なお、実際には、メインローブMLとグレーティングローブGLのほかに、サイドローブも生じるが、図23ではサイドローブの図示を省略してある。
【0007】
ところで、送受波器における振動子の配列ピッチをd、超音波の波長をλとしたとき、グレーティングローブは、θ=sin−1(nλ/d)の角度に発生することが知られている。例えば、d=1λの場合はθ=±90°の角度にグレーティングローブが発生し、d=1.2λの場合はθ=±56°の角度にグレーティングローブが発生する。また、ビームをティルトさせ、δの方位に整相した場合は、δ±θの方向にグレーティングローブが発生する。現実的にグレーティングローブの影響をなくすためには、振動子の配列ピッチを1λ程度とすればよいが、そうすると振動子の数が非常に多くなってコストが増加することになる。また、球形の送受波器において放射面が円形のランジュバン振動子を配列する場合は、構造上どうしても配列ピッチの粗い部分が生じるため、これに起因してグレーティングローブが発生する。
【0008】
グレーティングローブを抑制する方法として、例えば下記の特許文献1に示されているような方位別に送信周波数を異ならせる方法や、後処理の画像信号処理において低減を行う方法などが従来から行われているが、これらは複雑な処理を必要とする割には、グレーティングローブの抑制効果が十分ではない。また、下記の特許文献2には、振動子を2つの振動子群に分割して得られる略平行な2つの受信ビームからなるスプリットビームを用い、スプリットビームの位相差が所定値以上の場合は、エコーがサイドローブで受信されたものとして、当該エコーの画像を表示しないようにすることで、サイドローブによる偽像の表示を抑制した超音波探知装置が示されているが、グレーティングローブによる偽像の対策については言及されていない。
【0009】
【特許文献1】特許第4057812号公報
【特許文献2】特開2006−208110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来の超音波探知装置にあっては、振動子の数を低減しようとすると配列ピッチが粗くなって、グレーティングローブが不可避的に発生し、このグレーティングローブによる偽像を除去することが困難であった。
【0011】
本発明は、上記のような問題点に鑑み、振動子の数が少なくても、グレーティングローブによる偽像を除去して探知対象物の検出精度を向上させることが可能な超音波探知装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の超音波探知装置は、探知対象物で反射した超音波エコーを複数の振動子で受信し、当該受信信号に基づいて前記探知対象物の画像を表示する超音波探知装置であって、各振動子の受信信号を整相することにより、2つの受信ビーム信号を探知範囲内の走査角度ごとに形成する受信ビーム信号形成部と、この受信ビーム信号形成部で形成された2つの受信ビーム信号の位相差を走査角度ごとに算出する位相差算出部と、この位相差算出部で算出された位相差の変化態様に基づいて、各走査角度における受信信号がメインローブで受信された信号かグレーティングローブで受信された信号かを判定する判定手段と、この判定手段の判定結果に応じて、メインローブで受信された信号に基づく探知対象物の画像を表示し、グレーティングローブで受信された信号に基づく探知対象物の画像を表示しないように制御する制御手段とを備えている。
【0013】
このようにすると、2つの受信ビーム(スプリットビーム)を用いて、各受信ビーム信号の位相差の変化態様が、メインローブで受信された信号とグレーティングローブで受信された信号とで異なることを利用して、メインローブで受信された信号を抽出することができる。そして、抽出された信号に基づいて探知対象物の画像のみを表示することにより、グレーティングローブで受信された信号に基づく偽像が表示されなくなるため、探知対象物を誤判定するおそれが解消される。その結果、たとえ振動子の数が少なくてグレーティングローブが発生した場合でも、信号処理によってグレーティングローブによる偽像を除去することができ、検出精度が向上する。
【0014】
本発明では、位相差の変化態様として、位相差特性曲線のゼロクロス点近傍における位相差の変化量を用いることができる。この場合、判定手段は、変化量が所定量以上である場合に、受信信号がメインローブで受信された信号であると判定する。
【0015】
このようにすると、メインローブで受信された信号のゼロクロス点近傍の位相差変化量が、グレーティングローブで受信された信号のゼロクロス点近傍の位相差変化量より大きいことを利用して、メインローブで受信された信号を抽出することができる。ここで、位相差変化量には、位相差特性曲線の傾きのほか、位相差の変化幅も含まれる。
【0016】
また、位相差の変化態様としては、位相差特性曲線のゼロクロス点の前後で位相差が所定範囲にわたって変化するときの走査角度幅を用いてもよい。この場合、判定手段は、走査角度幅が所定幅未満である場合に、受信信号がメインローブで受信された信号であると判定する。
【0017】
このようにすると、メインローブで受信された信号のゼロクロス点近傍の前後の走査角度幅が、グレーティングローブで受信された信号のゼロクロス点近傍の前後の走査角度幅より小さいことを利用して、メインローブで受信された信号を抽出することができる。
【0018】
本発明では、メインローブで受信された信号かグレーティングローブで受信された信号かの判定に加えて、サイドローブで受信された信号か否かを判定するようにしてもよい。
【0019】
例えば、位相差の変化態様として位相差の変化量を用いる場合は、前記の所定量として第1の所定量とこれより大きい第2の所定量とを設定し、位相差の変化量が第1の所定量未満であれば、グレーティングローブで受信された信号であると判定し、位相差の変化量が第1の所定量以上で第2の所定量未満であれば、メインローブで受信された信号であると判定し、位相差の変化量が第2の所定量以上であれば、サイドローブで受信された信号であると判定する。そして、グレーティングローブおよびサイドローブで受信された信号に基づく探知対象物の画像を表示しないようにする。
【0020】
このようにすると、グレーティングローブだけでなくサイドローブで受信された信号に基づく偽像も除去することができるので、検出精度を更に向上させることができる。
【0021】
また、位相差の変化態様として走査角度幅を用いる場合は、前記の所定幅として第1の所定幅とこれより小さい第2の所定幅とを設定し、走査角度幅が第1の所定幅以上であれば、グレーティングローブで受信された信号であると判定し、走査角度幅が第1の所定幅未満で第2の所定幅以上であれば、メインローブで受信された信号であると判定し、走査角度幅が第2の所定幅未満であれば、サイドローブで受信された信号であると判定する。そして、グレーティングローブおよびサイドローブで受信された信号に基づく探知対象物の画像を表示しないようにする。
【0022】
この場合も、グレーティングローブだけでなくサイドローブで受信された信号に基づく偽像を除去することができるので、検出精度を更に向上させることができる。
【0023】
本発明は、受信ビームを走査させずに所定の方位に固定した場合にも適用することができる。この場合、受信ビーム信号形成部は、各振動子の受信信号を整相することにより、2つの受信ビーム信号を探知範囲内の所定方位に形成し、位相差算出部は、受信ビーム信号形成部で形成された2つの受信ビーム信号の位相差を時間軸上で算出し、判定手段は、位相差算出部で算出された位相差の変化態様に基づいて、各時刻における受信信号がメインローブで受信された信号かグレーティングローブで受信された信号かを判定する。
【0024】
このようにすると、例えばスキャニングソナーにおいてティルト角を一定角度に固定し、受信ビームを所定方位に形成することによって探知を行う場合、時間軸上の位相差に基づきメインローブで受信された信号かグレーティングローブで受信された信号かを判定することができる。
【0025】
また、本発明においては、位相差算出部で算出された位相差の標準偏差を算出する標準偏差算出部を更に設け、この標準偏差算出部で算出された標準偏差に基づいて、メインローブで受信された信号が魚群による信号か海底または海面による信号かを判定し、海底または海面による信号と判定した場合は、受信ビーム信号の振幅を減衰させるようにしてもよい。
【0026】
このようにすると、魚群からのエコーは位相差のばらつきが大きく、海底や海面からのエコーは位相差のばらつきが小さいことを利用して、両者を判別することができる。そして、エコーが海底や海面からのものである場合は、受信ビーム信号の振幅を減衰させることで、魚群のエコー画像を明瞭に表示することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、振動子の数が少なくても、グレーティングローブによる偽像を除去して探知対象物の検出精度を向上させることが可能な超音波探知装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態では、超音波探知装置の一例である水中探知装置に本発明を適用した場合について説明する。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態による水中探知装置50の全体構成を示したブロック図である。1は超音波を送受信する送受波器、2は送受波器1に設けられている複数の振動子、2a,2bは複数の振動子2を分割して得られる振動子群である。3は各部の制御を行う制御部、4は送受波器1の送信・受信を切り換える送受信切換回路、5は振動子2に与える送信信号を生成する送信信号生成部である。6は送受波器1で受信された受信信号を増幅する受信アンプ、7は受信信号からノイズを除去するバンドパスフィルタ(BPF)、8は受信信号をデジタル信号に変換するA/D変換器である。9a,9bはそれぞれ振動子群2a,2bの受信信号を整相して受信ビーム信号を形成する受信ビーム信号形成部、10は各受信ビーム信号を合成して振幅を算出する振幅算出部である。11は各受信ビーム信号の位相差を算出する位相差算出部、12は算出された位相差に基づいてメインローブで受信された信号を検出するメインローブ受信信号検出部、13はメインローブで受信された信号に対して画像処理を行う画像処理部、14は処理された画像を表示する表示部である。
【0030】
送受波器1は、図2に示すように、表面外周に沿って複数の振動子2が配列された球状または円筒状の送受波器からなる。そして、図3(a)に示すように、複数の振動子2のうち、所定領域の振動子(黒丸で示す)を2つの振動子群2a,2bに分割し、各振動子群2a,2bについて実質的に平行な2つの受信ビーム(スプリットビーム)RBa,RBbが形成されるようにする。MLは、メインローブの方位を表している。図3(a)は、走査角度が−90°である状態を表しており、エコー受信時にはこの状態から、駆動する振動子を矢印A方向へ1個ずつずらしながらスキャンを開始し、走査角度が0°である図3(b)の状態を経て、走査角度が+90°となる図3(c)の状態に至るまでスキャンを行う。なお、本実施形態では、海面に対して垂直方向にスキャンを行う場合を例に挙げる。
【0031】
送信信号生成部5は、送受信切換回路4を介して、送受波器1の各振動子2へ送信信号(例えば40kHzの正弦波信号)を所定の周期で出力する。この送信信号により各振動子2が駆動され、送受波器1から扇状の超音波送信ビームが一斉に水中に放射される。放射された送信ビームは海底で反射し、反射したエコーは、上述した送受波器1のスキャン動作により、振動子2で受信されて電気信号に変換される。
【0032】
振動子2の受信信号は、送受信切換回路4を介して受信アンプ6に入力され、増幅される。増幅された受信信号は、バンドパスフィルタ(BPF)7で所定の帯域幅以外の周波数の信号成分がノイズとして除去された後、A/D変換器8でデジタル信号に変換される。A/D変換器8は、所定のサンプリング周期で、送信信号と同じ周波数の内部的な正弦波信号の第1位相と、第1位相と90°位相の異なる第2位相とで受信信号をサンプリングし、サンプリングした信号を順次出力する。第1位相でサンプリングした信号をI信号とし、第2位相でサンプリングした信号をQ信号とすると、A/D変換器8からI+jQ(jは虚数単位)で表されるIQ信号が得られる。デジタル信号に変換された受信信号は、受信ビーム信号形成部9a,9bに入力される。
【0033】
受信ビーム信号形成部9a,9bでは、図4の概念図に示すように、振動子群2a、2bで受信された信号に対してそれぞれ遅延処理を施すことにより、受信信号の位相を整相する。また、整相した各受信信号にガウス関数やハニング窓などによって決められるウエイト値を乗算する。そして、振動子群2a側の整相された受信信号を加算することによって、一方の受信ビーム信号Yaが形成され、振動子群2b側の整相された受信信号を加算することによって、他方の受信ビーム信号Ybが形成される。これらの受信ビーム信号Ya,Ybは、振幅算出部10および位相差算出部11へ入力される。
【0034】
振幅算出部10は、受信ビーム信号形成部9a,9bからそれぞれ出力される受信ビーム信号Ya,Ybを合成して、信号強度すなわち振幅を算出する。受信ビーム信号YaをIa+jQaとし、受信ビーム信号YbをIb+jQbとすると、振幅Pは下記の式(1)で算出される。
P=√{(Ia+Ib)+(Qa+Qb)
・・・(1)
【0035】
位相差算出部11は、受信ビーム信号形成部9a,9bからそれぞれ出力される受信ビーム信号Ya,Ybの位相差φを、下記の式(2)によって算出する。
φ=tan−1(Qa/Ia)−tan−1(Qb/Ib)
・・・(2)
【0036】
上記演算の結果、振幅算出部10および位相差算出部11からは、それぞれ1走査分の走査角度ごとの振幅データと位相差データとが順次出力される。これらのデータは、メインローブ受信信号検出部12へ入力される。メインローブ受信信号検出部12は、位相差の変化態様に基づいて、各走査角度における受信ビーム信号がメインローブで受信された信号(以下、「メインローブ受信信号」という)かグレーティングローブで受信された信号(以下、「グレーティングローブ受信信号」という)かを判定する。そして、判定結果に応じて、メインローブ受信信号を有効とし、グレーティングローブ受信信号を無効とすることで、メインローブ受信信号に基づく探知対象物の画像を表示し、グレーティングローブ受信信号に基づく探知対象物の画像を表示しないように制御を行う。この動作の詳細については後述する。メインローブ受信信号検出部12は、本発明における判定手段および制御手段の一実施形態を構成している。
【0037】
メインローブ受信信号検出部12からは、有効な振幅データ、すなわちメインローブ受信信号の振幅データが画像処理部13へ出力される。画像処理部13は、メインローブ受信信号検出部12からの振幅データの受信時刻および走査角度の情報に基づき、表示部14におけるエコー画像の表示位置を求める。そして、その表示位置に振幅データに応じた濃淡または色彩でエコー画像を描画する。
【0038】
図5〜図7は、シミュレーションによって求めた1走査分の受信ビーム信号の振幅特性および位相差特性を示したグラフである。このシミュレーションでは、走査角度を1°ずつ変えながら、−90°から+90°までの範囲を走査した(図3の(a)〜(c)に相当)。
【0039】
図5は、20個の振動子をピッチ0.6λで円形配列し、音源方向を0°とし、ウエイト値としてガウス2σを用いた場合の特性を示している。この場合は、ピッチが1λ未満なのでグレーティングローブが発生しておらず、図5(a)の振幅特性では、メインローブ受信信号30だけが表れている。
【0040】
図6は、10個の振動子をピッチ1.2λで円形配列し、音源方向を0°とし、ウエイト値としてガウス2σを用いた場合の特性を示している。この場合は、ピッチが1λ以上なのでグレーティングローブが発生し、図6(a)の振幅特性ではメインローブ受信信号30に加えて、±56°の角度(方向)でグレーティングローブ受信信号31が表れている。ここで、グレーティングローブの発生角度をθとすると、グレーティングローブのビーム幅は、メインローブのビーム幅の1/cosθ倍となる。これは送受波器1の開口面積とビーム幅の関係によるものである。この結果、グレーティングローブのビーム幅はメインローブのビーム幅よりも広がる。本発明では、この特徴を利用してグレーティングローブを除去する。
【0041】
図7は、10個の振動子をピッチ1.2λで円形配列し、音源方向を+56°とし、ウエイト値としてガウス2σを用いた場合の特性を示している。この場合も、ピッチが1λ以上なのでグレーティングローブが発生し、図7(a)の振幅特性では、+56°の角度におけるメインローブ受信信号30に加えて、0°の角度でグレーティングローブ受信信号31が表れている。ここでのメインローブ受信信号30の角度幅は、図5(a)および図6(a)のメインローブ受信信号30の角度幅と同じである。これは、振動子が円形配列されていることから、送受波器1の受信ビームに対する開口面積が走査角度にかかわらず一定となるためである。なお、−56°の角度にグレーティングローブ受信信号が表れていないのは、振動子が円形配列のため−56°にある振動子は音源からみて陰となり、音波が届かないためである。
【0042】
図8は、メインローブ受信信号検出部12における処理の詳細を示したフローチャートである。
【0043】
図8において、ステップS1では、位相差のゼロクロス点(位相差特性曲線が位相差0°の軸と交差する点)が算出される。具体的には、1走査分の位相差データを走査角度の負側から正側に向かって調べることにより、位相差のゼロクロス点を算出する。ゼロクロス点であるための条件は、連続する(すなわち、走査角度が1°だけ異なる)2つの位相差データが異符号であること、および両データの位相差の変化幅が所定値以下(例えば100°以下)であることである。図5(b)、図6(b)、図7(b)における黒丸が、ゼロクロス点Zを表している。
【0044】
ステップS2では、位相差のゼロクロス点Z近傍における位相差の変化量αを算出する。この変化量αは、位相差特性曲線の傾きであってもよいし、所定の走査角度範囲における位相差の変化幅であってもよい。以下では、変化量αを傾きとして説明する。
【0045】
ステップS3では、変化量αをあらかじめ設定された所定値(所定量)Xと比較する。図6(b)および図7(b)からわかるように、ゼロクロス点Z近傍における位相差特性曲線の傾きをみると、メインローブ受信信号30の位相差特性曲線40の傾きのほうが、グレーティングローブ受信信号31の位相差特性曲線41の傾きより大きくなっている。したがって、ステップS3での比較の結果、変化量αが所定値X以上であれば(X≦α)、ステップS4に移り、そのときの受信ビーム信号はメインローブ受信信号であると判断して、当該信号の振幅データを有効とする。一方、ステップS3での比較の結果、変化量αが所定値X未満であれば(α<X)、ステップS5に移り、そのときの受信ビーム信号はグレーティングローブ受信信号であると判断して、当該信号の振幅データを無効とする。このようにして、ゼロクロス点近傍における位相差特性曲線の傾きに基づいて、受信ビーム信号がメインローブ受信信号かグレーティングローブ受信信号かを判定することができ、判定結果に応じてメインローブ受信信号の振幅データのみを抽出することができる。
【0046】
その後、ステップS6において、全てのゼロクロス点Zを処理したか否かが判断される。すなわち、1走査分の信号処理が終了したか否かが判断される。そして、全てのゼロクロス点Zが処理されたと判断された場合には、ステップS7に移る。その一方、全てのゼロクロス点Zが処理されていないと判断された場合には、ステップS3に戻る。
【0047】
たとえば、図6のシミュレーションによって求めた1走査分の受信ビーム信号の場合、まず、3個のゼロクロス点Zが算出される(ステップS1)。そして、走査角度が−56°のゼロクロス点Zにおける位相特性曲線の変化量α(傾き)が算出され(ステップS2)、変化量αと所定値Xとが比較される(ステップS3)。−56°のゼロクロス点Zではα<Xなので、ステップS5で振幅データが無効とされた後、ステップS6に移る。ステップS6では、2個のゼロクロス点Zが未処理なので、(ステップS6:No)、ステップS3に戻る。次の0°のゼロクロス点ZではX≦αなので、ステップS4で振幅データが有効とされた後、ステップS6に移る。ステップS6では、1個のゼロクロス点Zが未処理なので、(ステップS6:No)、ステップS3に戻る。次の+56°のゼロクロス点Zではα<Xなので、ステップS5で振幅データが無効とされた後、ステップS6に移る。ステップS6では、全てのゼロクロス点Zについて処理が完了しているので(ステップS6:YES)、ステップS7へ移る。
【0048】
ステップS7では、全走査分の処理が完了したか否か、すなわち最大探知距離からの受信信号を処理したか否かが判断される。そして、全走査分の処理が完了したと判断された場合には(ステップS7:YES)、ステップS8に移る。その一方、全走査分の処理が完了していないと判断された場合には(ステップS7:NO)、ステップS1に戻る。
【0049】
次に、ステップS8において、ステップS4で有効であると判断された振幅データが画像処理部13に出力される。すなわち、メインローブ受信信号の振幅データのみが画像処理部13に出力され、グレーティングローブ受信信号の振幅データは画像処理部13に出力されない。
【0050】
たとえば、図6および図7のシミュレーションによって求めた1走査分の受信ビーム信号では、メインローブ受信信号30の振幅データのみが画像処理部13に出力され、グレーティングローブ受信信号31の振幅データは画像処理部13に出力されない。
【0051】
画像処理部13は、メインローブ受信信号検出部12から出力される振幅データの受信時刻および走査角度の情報に基づいて、表示部14に表示される画像の表示位置を算出する。そして、表示部14には、有効な振幅データに応じた濃淡または色彩により探知対象物(海底)の画像が表示される。すなわち、表示部14には、メインローブ受信信号に基づく画像のみが表示され、グレーティングローブ受信信号に基づく画像(偽像)は表示されない。
【0052】
図9〜図13は、シミュレーションによって得られた画像の例である。
【0053】
図9は、図5のシミュレーションに対応しており、20個の振動子をピッチ0.6λで円形配列し、魚群無しとした場合の画像である。この場合は振動子のピッチが1λ未満であるので、メインローブによる海底画像G1以外に、グレーティングローブによる海底画像(偽像)は表示されない。なお、海底画像G1は、実際には赤色や黄色などの鮮明な色で表示される。
【0054】
図10と図11は、図6のシミュレーションに対応しており、10個の振動子をピッチ1.2λで円形配列し、魚群無しとした場合の画像である。図10は本発明による処理を施す前の画像であり、振動子のピッチが1λ以上のため、メインローブによる海底画像G1以外に、グレーティングローブによる海底画像(偽像)G2が表示されている。図11は本発明による処理を施した後の画像であり、図10のグレーティングローブによる海底画像(偽像)G2が消えていることがわかる。
【0055】
図12と図13は、それぞれ図10と図11に魚群を重ね合わせた場合の画像である。図12は本発明による処理を施す前の画像であり、メインローブによる海底画像G1および魚群画像G3に加えて、グレーティングローブによる海底画像(偽像)G2および魚群画像(偽像)G4が表示されている。図13は本発明による処理を施した後の画像であり、図12のグレーティングローブによる海底画像(偽像)G2および魚群画像(偽像)G4が消えていることがわかる。なお、魚群画像G3も、実際には赤色や黄色などの鮮明な色で表示される。
【0056】
以上説明したように、本実施形態では、メインローブ受信信号30のゼロクロス点Z近傍の位相差変化量が、グレーティングローブ受信信号31のゼロクロス点Z近傍の位相差変化量より大きいことを利用して、メインローブ受信信号を抽出することができる。そして、抽出されたメインローブ受信信号30に基づいて、探知対象物である海底や魚群の画像G1,G3のみを表示することにより、グレーティングローブ受信信号31に基づく海底や魚群の画像(偽像)G2,G4が表示されなくなるため、探知対象物を誤判定するおそれが解消される。その結果、たとえ振動子2の数が少なくてグレーティングローブが発生した場合でも、信号処理によってグレーティングローブによる偽像を除去することができ、検出精度が向上する。
【0057】
図8の手順においては、ステップS3で位相差の変化量を所定値と比較したが、位相差の変化量に代えて、ゼロクロス点Zの前後で位相差が所定範囲にわたって変化するときの走査角度幅を用いてもよい。例えば、図6(b)および図7(b)において、ゼロクロス点Zの前後で位相差(縦軸)が±180°変化するときの走査角度幅(横軸)をみると、メインローブ受信信号30の走査角度幅のほうが、グレーティングローブ受信信号31の走査角度幅より小さくなっている。そこで、この関係を利用してメインローブ受信信号30を抽出することができる。
【0058】
図14は、この場合の手順を示したフローチャートであり、図8と同一処理を行うステップには同一符号を付してある。図14では、ステップS2aにおいて、位相差がゼロクロス点から±180°変化するときの走査角度幅βを算出する。次に、ステップS3aにおいて、走査角度幅βを所定値(所定幅)Yと比較する。比較の結果、走査角度幅βが所定値Y未満であれば(β<Y)、ステップS4に移り、そのときの受信ビーム信号はメインローブ受信信号30であると判断して、当該信号の振幅データを有効とする。一方、ステップS3aでの比較の結果、走査角度幅βが所定値Y以上であれば(Y≦β)、ステップS5に移り、そのときの受信ビーム信号はグレーティングローブ受信信号31であると判断して、当該信号の振幅データを無効とする。その他の処理については図8の場合と同じであるので、説明は省略する。
【0059】
以上述べた実施形態では、グレーティングローブによる偽像を除去する方法について説明したが、実際にはグレーティングローブ以外にサイドローブによっても偽像が発生する。画面上に表れるサイドローブの偽像は、グレーティングローブの偽像ほど顕著なものではないが、探知対象物の画像と混在することで誤判定の原因となる。そこで、このサイドローブによる偽像を除去する方法について以下に説明する。
【0060】
図15は、別のシミュレーションによって求めた1走査分の受信ビーム信号の振幅特性および位相差特性を示したグラフである。ここでは、10個の振動子をピッチ1.2λで円形配列し、音源方向を0°と38°の2方向とし、ウエイト値としてガウス2σを用いた場合の特性を示している。このシミュレーションでも、図5〜図7の場合と同様に、走査角度を1°ずつ変えながら、−90°から+90°までの範囲を走査した。
【0061】
図15(a)では、0°方向の音源によるグレーティングローブ受信信号31が±56°の方向に表れており、38°方向の音源によるグレーティングローブ受信信号32が−18°と+90°の方向に表れている。33はサイドローブにより受信された信号(以下、「サイドローブ受信信号」という)である。サイドローブ受信信号の場合、音源が1つであれば、位相差特性曲線は通常ゼロクロスしないが、音源が複数の場合は、図15(b)のように位相差特性曲線43がゼロクロスすることがある。
【0062】
図15(b)からわかるように、ゼロクロス点Z近傍における位相差特性曲線の傾きをみると、メインローブ受信信号30の位相差特性曲線40の傾きは、グレーティングローブ受信信号31,32の位相差特性曲線41,42の傾きより大きく、サイドローブ受信信号33の位相差特性曲線43の傾きより小さくなっている。したがって、この関係を利用して、メインローブ受信信号30のみを抽出し、グレーティングローブ受信信号31,32とサイドローブ受信信号33を除去することができる。なお、図15(b)における3つの位相差特性曲線43のうち、左側と右側の位相差特性曲線43に対応するサイドローブ受信信号が図15(a)に表れていないのは、図15(a)の振幅範囲が0dB〜−40dBであり、実際のサイドローブ受信信号はこの範囲外に存在しているためである。
【0063】
図16は、この場合の手順を示したフローチャートであり、図8と同一処理を行うステップには同一符号を付してある。図16では、ステップS11において、変化量α(ここでは傾き)を所定値(所定量)X1,X2と比較する。ここで、X1とX2は、X1<X2の関係にある。比較の結果、変化量αが所定値X1未満であれば(α<X1)、ステップS12に移り、そのときの受信ビーム信号はグレーティングローブ受信信号31,32であると判断して、当該信号の振幅データを無効とする。一方、ステップS11での比較の結果、変化量αが所定値X1以上で所定値X2未満であれば(X1≦α<X2)、ステップS13に移り、そのときの受信ビーム信号はメインローブ受信信号30であると判断して、当該信号の振幅データを有効とする。また、ステップS11での比較の結果、変化量αが所定値X2以上であれば(X2≦α)、ステップS14に移り、そのときの受信ビーム信号はサイドローブ受信信号33であると判断して、当該信号の振幅データを無効とする。その他の処理については図8の場合と同じであるので、説明は省略する。
【0064】
図16の手順によれば、グレーティングローブだけでなくサイドローブで受信された信号に基づく偽像も除去することができるので、検出精度を更に向上させることができる。
【0065】
図16の手順においては、ステップS11で位相差の変化量を所定値と比較したが、位相差の変化量に代えて、ゼロクロス点Zの前後で位相差が所定範囲にわたって変化するときの走査角度幅を用いてもよい。例えば、図15(b)において、ゼロクロス点Zの前後で位相差(縦軸)が±180°変化するときの走査角度幅(横軸)をみると、メインローブ受信信号30の走査角度幅は、サイドローブ受信信号33の走査角度幅より大きく、グレーティングローブ受信信号31,32の走査角度幅より小さくなっている。そこで、この関係を利用してメインローブ受信信号30を抽出することができる。
【0066】
図17は、この場合の手順を示したフローチャートであり、図14と同一処理を行うステップには同一符号を付してある。図17では、ステップS2aにおいて、位相差がゼロクロス点から±180°変化するときの走査角度幅βを算出する。次に、ステップS11aにおいて、走査角度幅βを所定値(所定幅)Y1,Y2と比較する。ここで、Y1とY2は、Y1<Y2の関係にある。比較の結果、走査角度幅βが所定値Y1未満であれば(β<Y1)、ステップS12aに移り、そのときの受信ビーム信号はサイドローブ受信信号33であると判断して、当該信号の振幅データを無効とする。一方、ステップS11aでの比較の結果、走査角度幅βが所定値Y1以上で所定値Y2未満であれば(Y1≦β<Y2)、ステップS13aに移り、そのときの受信ビーム信号はメインローブ受信信号30であると判断して、当該信号の振幅データを有効とする。また、ステップS11aでの比較の結果、走査角度幅βが所定値Y2以上であれば(Y2≦β)、ステップS14aに移り、そのときの受信ビーム信号はグレーティングローブ受信信号31,32であると判断して、当該信号の振幅データを無効とする。その他の処理については図14の場合と同じであるので、説明は省略する。
【0067】
図17の手順によっても、グレーティングローブだけでなくサイドローブで受信された信号に基づく偽像を除去することができるので、検出精度を更に向上させることができる。
【0068】
以上述べた実施形態では、受信ビームを走査させて探知を行う場合について述べたが、本発明は、受信ビームを走査させずに所定の方位に固定して探知を行う場合にも適用することができる。例えば、スキャニングソナーにおいてティルト角を一定角度に固定し、受信ビームを所定方位に形成することによって探知を行う場合、時間軸上の位相差に基づきメインローブで受信された信号かグレーティングローブで受信された信号かを判定することができる。
【0069】
図18は、この場合の実施形態を説明する概念図である。なお、水中探知装置の構成は図1と同じである。スキャニングソナーの送受波器1から、ティルト角をγに固定した状態で超音波を水中に送信し、送受波器1の上下に分割した振動子群で海底Bからのエコーを受信した場合、受信ビーム信号形成部9a,9bで形成された各受信ビーム信号の位相差は、図のような変化をする。すなわち、グレーティングローブGLによる受信ビーム信号の位相差は、区間T1に示すように、時間(距離)とともに+180°から−180°まで、比較的大きな傾きで連続的に変化し、かつゼロクロスする。一方、メインローブMLによる受信ビーム信号の位相差は、区間T2に示すように、時間(距離)とともに+180°から−180°まで、比較的小さな傾きで連続的に変化し、かつゼロクロスする。また、海底Bからのエコーが受信されない区間(T1,T2以外の区間)では、位相差はランダムに変化する。
【0070】
したがって、この特性を利用して、メインローブ受信信号検出部12で、各時刻(距離)における受信ビーム信号がメインローブMLで受信された信号かグレーティングローブGLで受信された信号かを判定し、メインローブ受信信号のみを抽出することができる。そして、抽出されたメインローブ受信信号に基づいて、海底画像を表示することにより、グレーティングローブ受信信号に基づく海底画像(偽像)が表示されなくなるため、探知対象物を誤判定するおそれが解消され、検出精度が向上する。なお、本実施形態においても、位相差特性曲線の傾きに代えて、所定時間内における位相差の変化幅や、ゼロクロス点の前後で位相差が所定範囲にわたって変化するときの時間幅を用いることができる。
【0071】
図19は、本発明の他の実施形態による水中探知装置60の全体構成を示したブロック図である。図19では、図1と同一部分に同一符号を付してある。図19においては、図1の構成に加えて、標準偏差算出部15、ばらつき判定部16、および振幅減衰処理部17が追加されている。その他の構成については図1と同じである。
【0072】
漁撈においては、魚群の画像だけが表示されることが望ましいが、一般に、海底や海面からのエコーによる受信信号のレベルは、魚群からのエコーによる受信信号のレベルに比べて大きく、レベル情報だけでは、魚群からのエコーを海底や海面からのエコーと分離して検出することは難しい。そこで、図19の実施形態は、メインローブ受信信号が魚群による信号か海底(または海面)による信号かを判定できるようにしたものである。
【0073】
標準偏差算出部15は、位相差算出部11で算出されたメインローブ受信信号の位相差に基づいて、所定のサンプリング点(例えば400点)にわたる位相差の標準偏差、すなわちばらつきを算出する。
【0074】
図20に示すように、送受波器1の上下に分割した振動子群により、n1〜n4の各サンプリング点(時刻)で魚群Fからのエコーを受信した場合、受信ビーム信号の特性は図21のようになる。図21(a)は位相差、図21(b)は振幅を表している。図21(a)で黒丸で示したように、魚群によるエコーの場合は、位相差のばらつきが大きくなる。これは、魚群には規則性がなく、密度も不均一であることに起因している。一方、海底(または海面)によるエコーの場合は、魚群の場合に比べて位相差のばらつきは小さい。
【0075】
ばらつき判定部16は、上記のような特性を利用して、標準偏差算出部15で算出された標準偏差を基準値と比較し、標準偏差が基準値以上であれば、メインローブ受信信号が魚群による信号であると判定し、標準偏差が基準値未満であれば、メインローブ受信信号が海底(または海面)による信号であると判定する。
【0076】
振幅減衰処理部17は、ばらつき判定部16において標準偏差が基準値未満と判定された場合(海底または海面の場合)、振幅算出部10で算出された振幅を減衰させる処理を行う。この場合の減衰量は、例えば次式により決定される。
減衰量=(標準偏差−標準偏差閾値)×減衰倍率 ・・・(3)
一例として、標準偏差閾値は0.04、減衰倍率は400である。一方、ばらつき判定部16において標準偏差が基準値以上と判定された場合(魚群の場合)、振幅減衰処理部17は、振幅算出部10で算出された振幅を減衰させる処理を行わない。
【0077】
この結果、メインローブで受信されたエコーのうち、海底(または海面)からのエコーの信号レベルが減衰するため、魚群からのエコーの信号レベルが相対的に高くなって、表示部14において魚群の画像を明瞭に表示することができる。すなわち、SN比が向上して魚群の検出精度が向上する。本実施形態は、魚群の大きさがメインビームの幅以上である場合に特に有効である。
【0078】
以上のように、上述した各実施形態によれば、受信ビーム信号の位相差の変化態様が、メインローブの場合とグレーティングローブ等の場合とで異なることを利用して、メインローブで受信された信号のみを抽出できるので、振動子2の数が少なくても、信号処理によって偽像を除去することができる。このため、探知対象物を誤判定するおそれが解消され、検出精度を向上させることが可能となる。
【0079】
本発明は、上述した以外にも種々の実施形態を採用することができる。たとえば、上記実施形態では、海面に対して垂直方向にスキャンを行う場合を例に挙げたが、海面に対して水平方向にスキャンを行う場合にも本発明を適用することができる。
【0080】
また、図8、図14、図16、図17の実施形態では、全走査分の処理が完了した後(ステップS7:YES)、振幅データを画像処理部13に出力する(ステップS8)例を示したが、これに限らず、1走査分の信号処理を行う毎に、振幅データを画像処理部13に出力するようにしてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、1走査分の受信ビーム信号のゼロクロス点Zを全て算出した後、各ゼロクロス点Zについて位相差の変化量または走査角度幅を検証する例を示したが、これに限らず、ゼロクロス点Zを算出する毎に、そのゼロクロス点Zについて位相差の変化量または走査角度幅を検証するようにしてもよい。
【0082】
また、図8、図14、図16、図17のステップS1の前に、受信信号の強度が所定の値以上であるか否かを判定するステップを追加し、受信信号の強度が所定の値以上になってから、位相差のゼロクロス点Zの算出を開始するようにしてもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、複数の振動子2を円形配列した例を挙げたが、これに限らず、複数の振動子2が直線状あるいは平面状に配置されていてもよい。
【0084】
さらに、上記実施形態では、本発明を水中探知装置に適用した例を示したが、これに限らず、本発明は医療用の超音波探知装置などにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の一実施形態による水中探知装置の全体構成を示したブロック図である。
【図2】送受波器の概略構成図である。
【図3】送受波器によるスキャンを説明する図である。
【図4】受信信号の位相の整相を説明する概念図である。
【図5】シミュレーションによる受信ビーム信号の振幅特性と位相差特性を示したグラフである。
【図6】他のシミュレーションによる受信ビーム信号の振幅特性と位相差特性を示したグラフである。
【図7】他のシミュレーションによる受信ビーム信号の振幅特性と位相差特性を示したグラフである。
【図8】メインローブ受信信号検出部の処理の詳細を示したフローチャートである。
【図9】シミュレーションによって得られた画像の例である。
【図10】他のシミュレーションによって得られた画像の例である。
【図11】他のシミュレーションによって得られた画像の例である。
【図12】他のシミュレーションによって得られた画像の例である。
【図13】他のシミュレーションによって得られた画像の例である。
【図14】他の実施形態におけるメインローブ受信信号検出部の処理の詳細を示したフローチャートである。
【図15】他のシミュレーションによる受信ビーム信号の振幅特性と位相差特性を示したグラフである。
【図16】他の実施形態におけるメインローブ受信信号検出部の処理の詳細を示したフローチャートである。
【図17】他の実施形態におけるメインローブ受信信号検出部の処理の詳細を示したフローチャートである。
【図18】他の実施形態を説明する概念図である。
【図19】他の実施形態による水中探知装置の全体構成を示したブロック図である。
【図20】送受波器でエコーを受信する場合のサンプリング点を説明する図である。
【図21】受信ビーム信号の位相差と振幅の特性を示す図である。
【図22】水中探知装置で海底地形を探知する様子を示す図である。
【図23】送受波器の受信時の指向特性を示す図である。
【符号の説明】
【0086】
1 送受波器
2 振動子
2a,2b 振動子群
9a,9b 受信ビーム信号形成部
10 振幅算出部
11 位相差算出部
12 メインローブ受信信号検出部
13 画像処理部
14 表示部
15 標準偏差算出部
16 ばらつき判定部
17 振幅減衰処理部
30 メインローブ受信信号
31,32 グレーティングローブ受信信号
33 サイドローブ受信信号
40〜43 位相差特性曲線
50,60 水中探知装置
Z ゼロクロス点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
探知対象物で反射した超音波エコーを複数の振動子で受信し、当該受信信号に基づいて前記探知対象物の画像を表示する超音波探知装置において、
各振動子の受信信号を整相することにより、2つの受信ビーム信号を探知範囲内の走査角度ごとに形成する受信ビーム信号形成部と、
前記受信ビーム信号形成部で形成された2つの受信ビーム信号の位相差を走査角度ごとに算出する位相差算出部と、
前記位相差算出部で算出された位相差の変化態様に基づいて、各走査角度における受信ビーム信号がメインローブで受信された信号かグレーティングローブで受信された信号かを判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に応じて、メインローブで受信された信号に基づく探知対象物の画像を表示し、グレーティングローブで受信された信号に基づく探知対象物の画像を表示しないように制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする超音波探知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波探知装置において、
前記位相差の変化態様が、位相差特性曲線のゼロクロス点近傍における位相差の変化量であり、
前記判定手段は、前記変化量が所定量以上である場合に、受信ビーム信号がメインローブで受信された信号であると判定することを特徴とする超音波探知装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波探知装置において、
前記位相差の変化態様が、位相差特性曲線のゼロクロス点近傍の前後で位相差が所定範囲にわたって変化するときの走査角度幅であり、
前記判定手段は、前記走査角度幅が所定幅未満である場合に、受信ビーム信号がメインローブで受信された信号であると判定することを特徴とする超音波探知装置。
【請求項4】
請求項2に記載の超音波探知装置において、
前記判定手段は、各走査角度における受信ビーム信号がサイドローブで受信された信号か否かを判定する機能を更に備え、
前記所定量として第1の所定量とこれより大きい第2の所定量とを設定した場合、前記位相差の変化量が第1の所定量未満であれば、グレーティングローブで受信された信号であると判定し、前記位相差の変化量が第1の所定量以上で第2の所定量未満であれば、メインローブで受信された信号であると判定し、前記位相差の変化量が第2の所定量以上であれば、サイドローブで受信された信号であると判定し、
前記制御手段は、グレーティングローブおよびサイドローブで受信された信号に基づく探知対象物の画像を表示しないように制御することを特徴とする超音波探知装置。
【請求項5】
請求項3に記載の超音波探知装置において、
前記判定手段は、各走査角度における受信ビーム信号がサイドローブで受信された信号か否かを判定する機能を更に備え、
前記所定幅として第1の所定幅とこれより小さい第2の所定幅とを設定した場合、前記走査角度幅が第1の所定幅以上であれば、グレーティングローブで受信された信号であると判定し、前記走査角度幅が第1の所定幅未満で第2の所定幅以上であれば、メインローブで受信された信号であると判定し、前記走査角度幅が第2の所定幅未満であれば、サイドローブで受信された信号であると判定し、
前記制御手段は、グレーティングローブおよびサイドローブで受信された信号に基づく探知対象物の画像を表示しないように制御することを特徴とする超音波探知装置。
【請求項6】
探知対象物で反射した超音波エコーを複数の振動子で受信し、当該受信信号に基づいて前記探知対象物の画像を表示する超音波探知装置において、
各振動子の受信信号を整相することにより、2つの受信ビーム信号を探知範囲内の所定方位に形成する受信ビーム信号形成部と、
前記受信ビーム信号形成部で形成された2つの受信ビーム信号の位相差を時間軸上で算出する位相差算出部と、
前記位相差算出部で算出された位相差の変化態様に基づいて、各時刻における受信ビーム信号がメインローブで受信された信号かグレーティングローブで受信された信号かを判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に応じて、メインローブで受信された信号に基づく探知対象物の画像を表示し、グレーティングローブで受信された信号に基づく探知対象物の画像を表示しないように制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする超音波探知装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の超音波探知装置において、
前記位相差算出部で算出された位相差の標準偏差を算出する標準偏差算出部を更に備え、
前記標準偏差算出部で算出された標準偏差に基づいて、メインローブで受信された信号が魚群による信号か海底または海面による信号かを判定し、海底または海面による信号と判定した場合は、受信ビーム信号の振幅を減衰させることを特徴とする超音波探知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−71841(P2010−71841A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240518(P2008−240518)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】