説明

超音波洗浄装置

【課題】被洗浄物の均一な洗浄が行え、かつダメージを低減できる超音波洗浄装置を実現すること。
【解決手段】超音波洗浄装置は、被洗浄物8を洗浄液7で浸した洗浄槽2と、前記洗浄槽2の底面に配置され、前記洗浄液7を振動させる複数の超音波振動素子302と、前記素子毎の共振周波数を記憶するメモリ部409と、発振周波数を切り替え可能な発振部402と、前記素子302をランダムに切り替えて、前記メモリ部409に記憶された素子毎の共振周波数に基づいて前記発振部402を制御し、前記素子に高周波電力を供給する制御部401とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体ウェハ等の精密洗浄に用いられる超音波洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハ、液晶用のガラス、ハードディスク等の微細加エ品の精密洗浄には、高周波の超音波洗浄装置が用いられている。汚れは1μm未満の粒子等であり、洗浄槽内に満たされた洗浄液中を伝わる超音波振動、あるいは、洗浄液と超音波振動の相乗効果により、汚れを剥離させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−47733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、年々、半導体洗浄は高性能、多様化しており、汚れの粒子形状は大小様々、固着状態・粒子材質も様々であり、その上洗浄対象の精密度が格段に上がっているため、洗浄むら、被洗浄物へのダメージが顕著となっている。このため、超音波洗浄装置は洗浄性能の安定性が特に重要視されている。
【0005】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、洗浄むら及び被洗浄物へのダメージを低減できる超音波洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明に係る超音波洗浄装置の第1の態様は、被洗浄物を洗浄液で浸した洗浄槽と、前記洗浄槽の底面に配置され、前記洗浄液を振動させる複数の超音波振動素子と、前記素子毎の共振周波数を記憶する記憶部と、発振周波数を切り替え可能な発振部と、前記素子をランダムに切り替えて、前記記憶部に記憶された素子毎の共振周波数に基づいて前記発振部を制御し、前記素子に高周波電力を供給する制御部とを具備するものである。
【0007】
上記第1の態様によれば、超音波振動素子の特性にばらつきがある場合でも、素子毎の固有の共振周波数に合わせて発振器より高周波電力を供給することにより、各振動素子は最大効率で振動する。そして、これをランダムに切り替えることにより時間平均で見ると、全振動素子が均一に振動していることになる。したがって、被洗浄物の均一な洗浄が行え、かつダメージを低減できる超音波洗浄装置を実現することが可能となる。
【0008】
また、本発明の第2の態様は、上記第1の態様において、前記素子の切り替え間隔および前記高周波電力の出力電力値の少なくとも一方を設定する設定手段をさらに具備するものである。
上記第2の態様によれば、例えば、素子の切り替え間隔を洗浄液に定在波が発生しないような時間間隔に調整することができる。このようにすることで、定在波の発生を抑制し、ムラのない洗浄が可能となる。
【0009】
さらに、本発明の第3の態様は、上記第1の態様において、前記素子毎に前記発振部により複数の発振周波数の高周波電力を供給し、電流の測定値が最小の周波数を共振周波数として検出する検出手段をさらに具備するものである。
上記第3の態様によれば、超音波振動素子毎の共振周波数を自動的に検出することができる。共振は高周波電力の電圧値と電流値を測定し、その位相差が0の状態であり、即ち、効率最大ということになる。効率が悪い、即ち位相がずれているということは当然電流値が大きくなるため、効率最大=電流値最小といえる。さらに、電流値が最小であれば、伝送路の損失も減少するというメリットがある。
【発明の効果】
【0010】
すなわちこの発明によれば、洗浄むら及び被洗浄物へのダメージを低減できる超音波洗浄装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る超音波洗浄装置の構成を示すブロック図。
【図2】超音波振動素子の振動特性を示す図。
【図3】超音波振動モジュールの記憶部に記憶されるメモリテーブルを示す図。
【図4】制御値設定画面の一例を示す図。
【図5】超音波発振器の周波数切替え処理を示す図。
【図6】図1の超音波洗浄装置の共振周波数検出処理を示すフローチャート。
【図7】超音波振動モジュールの記憶部に記憶されるメモリテーブルを示す図。
【図8】本発明の第2実施形態に係る超音波洗浄装置の構成を示すブロック図。
【図9】図8の超音波洗浄装置の共振周波数検出処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照してこの発明に係る超音波洗浄装置の実施の形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る超音波洗浄装置の構成を示すブロック図である。
超音波洗浄装置は、洗浄する半導体ウェハ8等の被洗浄物を浸すための洗浄液7が満たされる石英槽(洗浄槽)2と、純水6が満たされた中にこの石英槽2を格納する外槽1を有している。さらに、超音波洗浄装置は、超音波振動モジュール3、超音波発振器4、及び制御値設定用端末(PC)5を備える。
【0013】
超音波振動モジュール3は、超音波振動板301、超音波振動素子302−1〜n、記憶部303、及び接栓部304を有する。超音波振動板301は、外槽1の底面に配置され、超音波振動板301には、超音波振動素子302−1〜nが接続される。超音波振動素子302−1〜nには、接栓部304を介して超音波発振器4から高周波電力が供給される。
【0014】
図2は、超音波振動素子302−1〜nの振動特性を示したもので、横軸に周波数[kHz]を、縦軸に振動効率[%]を表す。振動効率が最大となる周波数(共振周波数)が、発振周波数の最適値となる。図2に示すように、超音波振動素子302−1〜nは、共振周波数および振動効率に「ばらつき」がある。そこで、各超音波振動素子302−1〜nの共振周波数を後述する方法で自動的に検出し、超音波振動素子302−1〜n毎の共振周波数[kHz]および振動効率[%]を格納したメモリテーブルを記憶部303に記憶しておく。図3に、メモリテーブルの一例を示す。記憶部303は、無線ICタグ(RFID:Radio Frequency Identification)等で構成してもよい。
【0015】
超音波発振器4は、発振器402、アンプ部403、整合部404、電流測定部405、電力測定部406、及び接栓部411,412と、各部の動作を制御する制御部401を有し、高周波電力を超音波振動モジュール3に供給する。さらに、制御部401には、表示部407、操作スイッチ等の操作部408、メモリ部409が接続される。表示部407には、電力測定部406により測定された電力値などが表示される。操作部408は、電力値や発振周波数等の設定操作に用いられる。
【0016】
PC5は、制御部501、表示部502、操作部503、及び接栓部504を有し、超音波発振器4の制御部401の各種制御値の設定を行う。
図4は、PC5の表示部502に表示される制御値設定画面11の一例である。ユーザはこの画面を介して、超音波振動素子302−1〜n毎に各種制御値を設定することができる。図4において、「共振周波数(kHz)」は、上記図3のメモリテーブルと同じ値に設定される。「アンプ部の初期増幅率(倍)」は、発振周波数の切り替え時に、アンプ部403が出力電力を短時間で所定電力(例えば500W)に達するようにするために制御するための初期値である。「発振時間」は、発振周波数の切替え間隔を制御する値であり、予め、洗浄効率等を考慮して決めておく。「発振順序」は、超音波振動素子302−1〜nの発振順序を制御する値であり、例えば、乱数を使用して制御する、又は乱数を利用して予め決めておく。これらの設定内容は、接栓部504を介して超音波発振器4に入力され、メモリ部409に記憶される。
【0017】
次に、このように構成された超音波洗浄装置の動作について説明する。図5は、超音波発振器4の周波数切替え処理を示す図である。制御部401は、メモリ部409に記憶された設定内容(共振周波数、アンプ部の初期増幅率、発振順序、及び発振時間)に基づいて、発振部402、アンプ部403および整合部404を順次切替えて制御し、設定された高周波電力を供給して超音波振動素子302−1〜nを発振させる。
【0018】
ここで、上記図1を用いて、定在波の発生する原理と、定在波の抑制方法について説明する。定在波は、超音波振動板301で振動させた超音波が石英槽2の洗浄液中を進行波として進行し、この進行波が液面で反射して反射波となり、進行波と反射波の位相が重なることで振動位置が動かなくなることにより発生する。洗浄液中に定在波が発生することにより、洗浄液中の超音波振動エネルギーが抑制されて被洗浄物8の洗浄効果が大幅に低下してしまう。
【0019】
そこで、本実施形態では、洗浄液中の定在波を抑圧するために、超音波振動板301で振動させた超音波が洗浄液7の液面に到達するまでに発振周波数を切り替える。このようなタイミングで発振周波数を切り替えることで、超音波の進行波と反射波の干渉を抑圧し、洗浄効果の低下を防止することができる。
【0020】
以下に、発振周波数の切替え時間の一実施例について説明する。
石英槽2の洗浄液7の水深をa1、超音波の水中速度をv1、超音波が底面から水面までに到達する時間をs1とする。超音波の水中速度v1は、超音波周波数に関係なく約1530m/sである。
【0021】
超音波の到達時間s1は、下式より求めることができる。
s1=a1/v1
ここで、水深a1を0.5mとすると、到達時間s1は、33.3ms(0.0333秒)となる。洗浄液7中の定在波を抑圧するためには、発振周波数の切替え時間s2を33.3ms以下に設定する。
s2≦s1
図6は、超音波振動モジュール3の各超音波振動素子の共振周波数を自動的に検出するためのフローチャートである。図1の構成では、超音波振動素子302−1〜nは並列接続しているため、各素子の共振周波数を直接検出することができない。このため、超音波振動モジュール3を1つの超音波振動素子とみなし、その素子が複数の共振周波数を持っているものとして、共振周波数を自動的に検出する。
【0022】
ステップS11において、制御部401は初期設定を行う。具体的には、発振周波数範囲の入力(最小周波数fmin=950kHz,最大周波数fmax=1100kHz)、可変幅の入力(fstep=0.1kHz)、超音波振動素子数nの入力、および電流値闘値ithの入力を行う。
【0023】
ステップS12において、制御部401は、発振部402の発振周波数fを最小周波数fminに制御し、アンプ部403および整合部404により所定電圧を超音波振動素子に印加する。制御部401は、電流測定部405により電流値iを測定し、発振周波数fと測定した電流値iを一対でメモリ部409に書き込む。
【0024】
ステップS13において、制御部401は、発振部402に対して発振周波数f=最小周波数fmin+可変幅fstepに制御する。制御部401は、発振周波数fが最大周波数fmaxを超えるまで、ステップS12,S13の処理を繰り返し行う(ステップS14)。
【0025】
発振周波数fが最大周波数fmaxを超えると(ステップS14:YES)、制御部401は、メモリ部409のデータから、電流値iが小さい順にn個の超音波振動素子を選択する(ステップS15)。電流値iが電流値闘値ithを超えない場合(ステップS16:NO)は、選択の電流値iから外す(ステップS17)。電流値iが電流値闘値ith以上の場合(ステップS16:YES)は、選択した電流値iから振動効率を算出又はテーブルから選択し、図7に示すように、周波数の低い順に、周波数とその周波数の振動効率を超音波振動モジュール3の記憶部303に書き込む(ステップS18)。
【0026】
(第2実施形態)
図8は、本発明の第2実施形態に係る超音波洗浄装置の構成を示すブロック図である。上記第1実施形態における図1との相違点は、各々の超音波振動素子302−1〜nに直接的に電力を供給する構成にある。そのため、超音波発振器4には切替部413が追加され、接栓部412A、及び接栓部304Aは、この切替部413に対応する接続端子を有する。なお、図8において、上記図1と同一の部分には同一符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0027】
図9は、超音波振動モジュール3の各超音波振動素子の共振周波数を自動的に検出するためのフォローチャートである。上記図6の場合と異なり、図8の構成では、各超音波振動素子302−1〜nの共振周波数を直接検出することが可能である。
ステップS21において、制御部401は初期設定を行う。具体的には、発振周波数範囲の入力(最小周波数fmin=950kHz,最大周波数fmax=1100kHz)、可変幅の入力(fstep=0.1kHz)、超音波振動素子数nの入力を行う。またステップS22において、制御部401は、超音波振動素子番号N=0に初期化しておく。
【0028】
ステップS23において、制御部401は、発振部402の発振周波数fを最小周波数fminに設定し、超音波振動素子番号Nを1増分させる。
ステップS25において、制御部401は、アンプ部403および整合部404により所定電圧を超音波振動素子に印加する。制御部401は、電流測定部405により電流値を測定し、超音波振動素子番号Nと発振周波数fと測定した電流値とを対応付けてメモリ部409に書き込む。
【0029】
ステップS26において、制御部401は発振部402に対して発振周波数f=最小周波数fmin+可変幅fstepに制御する。制御部401は、発振周波数fが最大周波数fmaxを超えるまで、ステップS25,S26の処理を繰り返し行う(ステップS27)。
【0030】
発振周波数fが最大周波数fmaxを超えると(ステップS27:YES)、制御部401は、メモリ部409のデータから、電流値が最小の周波数を共振周波数として選択する。電流値から素子の振動効率を算出又はテーブルから選択し、超音波振動モジュール3の記憶部303に素子番号、共振周波数、及び振動効率を書き込む(ステップS28)。
その後、ステップS23に移行して各素子について上記処理を繰り返し行い、ステップS24において超音波振動素子番号Nが超音波振動素子数nを超え、全ての素子について共振周波数の検出を行い終了する。
【0031】
以上述べたように、上記第1及び第2実施形態によれば、被洗浄物の均一な洗浄が行え、かつダメージを低減できる超音波洗浄装置を実現することが可能となる。
一般に超音波洗浄機では、複数の振動素子を使用し、個々の振動素子は固有の共振周波数を持つが、通常はそれぞれが出来るだけ近くなるように選別を行って使用する。それによって各振動素子は均等に振動を行い、ムラのない洗浄が出来る。ただし、選別にはコストの兼ね合いで限界が生ずる。本実施形態では、あらかじめ振動素子の特性を測定しておき、発振する際にはその情報に合わせて発振器より高周波電力を供給することにより、各振動素子は最大効率で振動する。これを順次切り替えることにより時間平均で見ると、全振動素子が均一に振動していることになる。
【0032】
また、洗浄槽には洗浄液は満たされるが、振動面から照射された超音波は液面で反射する。このときある一定の割合で振動面に帰る成分が存在し、進行波と反射波による干渉により定在波が発生する場合がある。定在波が発生した場合、節と腹が交互に存在するため、その部分で縞状に洗浄ムラが生じる。なお、この定在波が発生する条件は水中の音速、周波数によって決まる超音波の波長と液深がある一定の関係となったときに生ずる。液面は常に変動しており、水中の音速は液温や洗浄液の物性によって変化する傾向を持つ。よって定在波が発生したり、消滅したり不安定な状態が続く場合が考えられる。
【0033】
これに対し、上記実施形態では、定在波が定常的に発生しないよう、周波数を常に変動させて発振させるように制御する。周波数は連続的に変化させる必要はなく、ある周波数範囲内で断続的にあらかじめプログラムされた様に発振することも可能であり、乱数によってランダムに発振することも可能である。プログラムにおいては、洗浄効果が最適となるように使用者自身実験を行って決めることも可能である。
【0034】
また、共振は高周波電力の電圧値と電流値を測定し、その位相差が0の状態であり、即ち、効率最大ということになる。効率が悪い、即ち位相がずれているということは当然電流値が大きくなるため、効率最大=電流値最小といえる。さらに、電流値が最小であれば、伝送路の損失も減少するというメリットがある。
【0035】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1…外槽、2…石英槽(洗浄槽)、3…超音波振動モジュール、4…超音波発振器、5…制御値設定用端末(PC)、6…純水、7…洗浄液、8…被洗浄物(半導体ウェハ)、301…超音波振動板、302…超音波振動素子、303…記憶部、304…接栓部、401…制御部、402…発振部、403…アンプ部、404…整合部、405…電流測定部、406…電力測定部、407…表示部、408…操作部、409…メモリ部、411,412…接栓部、501…制御部、502…表示部、503…操作部、504…接栓部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被洗浄物を洗浄液で浸した洗浄槽と、
前記洗浄槽の底面に配置され、前記洗浄液を振動させる複数の超音波振動素子と、
前記素子毎の共振周波数を記憶する記憶部と、
発振周波数を切り替え可能な発振部と、
前記素子をランダムに切り替えて、前記記憶部に記憶された素子毎の共振周波数に基づいて前記発振部を制御し、前記素子に高周波電力を供給する制御部と
を具備することを特徴とする超音波洗浄装置。
【請求項2】
前記素子の切り替え間隔および前記高周波電力の出力電力値の少なくとも一方を設定する設定手段をさらに具備することを特徴とする請求項1記載の超音波洗浄装置。
【請求項3】
前記素子毎に前記発振部により複数の発振周波数の高周波電力を供給し、電流の測定値が最小の周波数を共振周波数として検出する検出手段をさらに具備することを特徴とする請求項1記載の超音波洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−86059(P2013−86059A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230965(P2011−230965)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000166650)株式会社日立国際電気エンジニアリング (100)
【Fターム(参考)】