車両のコーストニュートラル制御装置
【課題】コースト走行時、ニュートラル制御中の燃費向上と、加速要求に対する応答性確保と、の両立を達成すること。
【解決手段】車両のコーストニュートラル制御装置は、エンジン1の駆動力が伝達されるトルクコンバータ2と、トルクコンバータ2と駆動輪6,6との間に配置される前進クラッチ31と、走行中、摩擦要素解放条件が成立すると前進クラッチ31を解放状態とするコーストニュートラル制御手段を備える。コーストニュートラル制御手段(図5)は、前進クラッチ31の解放後、前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧を、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)と閾値とから検知するトルク発生油圧検知手段と、検知されたトルク発生油圧に基づいて、前進クラッチ31に供給する油圧を制御する摩擦要素圧制御手段と、閾値を車速または車速に相当する値に応じて変更する閾値変更手段と、を有する。
【解決手段】車両のコーストニュートラル制御装置は、エンジン1の駆動力が伝達されるトルクコンバータ2と、トルクコンバータ2と駆動輪6,6との間に配置される前進クラッチ31と、走行中、摩擦要素解放条件が成立すると前進クラッチ31を解放状態とするコーストニュートラル制御手段を備える。コーストニュートラル制御手段(図5)は、前進クラッチ31の解放後、前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧を、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)と閾値とから検知するトルク発生油圧検知手段と、検知されたトルク発生油圧に基づいて、前進クラッチ31に供給する油圧を制御する摩擦要素圧制御手段と、閾値を車速または車速に相当する値に応じて変更する閾値変更手段と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセル解放によるコースト走行中、駆動力伝達経路に配置される摩擦要素を解放する制御を行う車両のコーストニュートラル制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンアイドリング運転によるDレンジ停車時、発進ショックの防止対策として、トルクコンバータの下流位置に配置される摩擦要素に対しクリープを防止するトルク容量を持たせる油圧を指示する自動変速機のクリープ防止装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来、燃料消費を低減させることを目的とし、アクセル解放による車両走行中、駆動力伝達経路に配置される摩擦要素を完全解放状態とするコーストニュートラル制御を行う車両の走行制御装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−220260号公報
【特許文献2】特開2007−138996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記2つの従来技術を組み合わせると、摩擦要素が締結状態である走行中、少なくともアクセルペダルが解放されていることを含む摩擦要素解放条件が成立すると、摩擦要素にクリープを防止するトルク容量を持たせた滑り締結状態にするものとなる。
しかし、このように組み合わされた従来技術は、ショック防止を確保するために摩擦要素にトルク容量を持たせる制御となるため、トルク容量を持った摩擦要素がエンジン負荷となり、アイドル回転数を維持するのに必要なエンジンへの燃料噴射量が増大する、という問題がある。
【0006】
一方、特許文献2に記載された従来技術は、摩擦要素を完全解放状態とするコーストニュートラル制御を行うため、アイドル回転数を維持するための燃料噴射量を低減できる。しかし、コースト走行途中でアクセル踏み込み操作により加速要求した場合、摩擦要素がトルク容量を持つまでのロスストローク等により締結作動遅れを生じ、加速要求に対して応答性を確保することができない、という問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、コースト走行時、ニュートラル制御中の燃費向上と、加速要求に対する応答性確保と、の両立を達成することができる車両のコーストニュートラル制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の車両のコーストニュートラル制御装置は、流体伝動装置と、摩擦要素と、コーストニュートラル制御手段と、を備える手段とした。
前記流体伝動装置は、エンジンの駆動力が伝達される。
前記摩擦要素は、前記流体伝動装置と駆動輪との間に配置される。
前記コーストニュートラル制御手段は、前記摩擦要素が締結状態である走行中、少なくともアクセルペダルが解放されていることを含む摩擦要素解放条件が成立すると、前記摩擦要素を解放状態とする。
そして、前記コーストニュートラル制御手段は、トルク発生油圧検知手段と、摩擦要素圧制御手段と、閾値変更手段と、を有する。
前記トルク発生油圧検知手段は、前記摩擦要素の解放後、前記摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧を、前記流体伝動装置の入出力回転速度差と閾値とから検知する。
前記摩擦要素圧制御手段は、前記トルク発生油圧検知手段により検知された前記摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧に基づいて、前記摩擦要素に供給する油圧を制御する。
前記閾値変更手段は、前記閾値を車速または車速に相当する値に応じて変更する。
【発明の効果】
【0009】
よって、摩擦要素が締結状態である走行中に摩擦要素解放条件が成立すると、摩擦要素を解放状態とするコーストニュートラル制御が実行される。このコーストニュートラル制御では、摩擦要素の解放後、摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧が、流体伝動装置の入出力回転速度差と、車速または車速に相当する値に応じて変更する閾値と、から検知される。そして、摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧検知に基づいて、摩擦要素に供給する油圧が制御される。
すなわち、摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧を検知するに際し、流体伝動装置の入出力回転速度差の閾値を車速または車速に相当する値、すなわち、摩擦要素の下流側に連結される部材のイナーシャ(回転慣性)に応じて変更するようにしている。このため、走行時にコーストニュートラル制御を実行した場合、車速または車速に相当する値の変動に伴って摩擦要素の下流側連結部材のイナーシャが変動するにもかかわらず、摩擦要素がトルク容量を発生し始める寸前の状態に維持される。
この結果、コースト走行時、ニュートラル制御中の燃費向上と、加速要求に対する応答性確保と、の両立を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1のコーストニュートラル制御装置が適用されたベルト式無段変速機搭載車両の駆動系と制御系を示す全体システム図である。
【図2】実施例1のコーストニュートラル制御装置が適用された車両のベルト式無段変速機構を示す斜視図である。
【図3】実施例1のコーストニュートラル制御装置が適用された車両のベルト式無段変速機構のベルトの一部を示す斜視図である。
【図4】実施例1のCVTコントロールユニットにて実行されるコーストニュートラル制御開始判定処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図5】実施例1のCVTコントロールユニットにて実行されるコーストニュートラル制御における前進クラッチ油圧制御処理およびオフセット処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1の前進クラッチ油圧制御処理にてトルク容量を発生し始める油圧を検知するに際に用いられる制限値1,2(閾値)の設定例1を示す制限値特性図である。
【図7】実施例1の前進クラッチ油圧制御処理にてトルク容量を発生し始める油圧を検知するに際に用いられる制限値1,2(閾値)の設定例2を示す制限値特性図である。
【図8】比較例である停車時クリアニュートラル制御でのエンジン回転数Ne・タービン回転数Nt・Limit1,Limit2・プライマリ回転数Npri・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図9】比較例である停車時クリアニュートラル制御をコースト走行時まで拡大適用した際における(a)Npri<<<Neである場合と(b)Npri<Neである場合とでプライマリ回転数Npriの違いにより同じタービン回転数Ntが得られるクラッチ圧の違いを示す比較特性図である。
【図10】比較例である停車時クリアニュートラル制御をコースト走行時まで拡大適用した際にエンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriが同じ回転数で推移する究極形を示す特性図である。
【図11】実施例1のベルト式無段変速機搭載車両において定常走行からコースト減速を経過して停車する際に実行されるコーストニュートラル制御作用を説明するためのアクセル開度APO・ブレーキBRK・車速・クラッチ圧・燃料噴射量の各特性を示すタイムチャートである。
【図12】実施例1のベルト式無段変速機搭載車両において定常走行からコースト減速を経過して停車する際に実行されるコーストニュートラル制御作用を説明するためのプライマリ回転数Npri・エンジン回転数Ne・タービン回転数Nt・制限値1,制限値2・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図13】実施例1のコーストニュートラル制御においてエンジン回転数を下げるオフセット処理を行った場合のプライマリ回転数Npri・エンジン回転数Neの各特性を示すタイムチャートである。
【図14】本発明のコーストニュートラル制御においてエンジン回転数Neを上げるオフセット処理を行った後にプライマリ回転数Npriが上がってきたときのオフセット処理例を示すタイムチャートである。
【図15】本発明のコーストニュートラル制御においてエンジン回転数Neを常にプライマリ回転数Npriにオフセット分を加えた回転数に維持するオフセット処理例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の車両のコーストニュートラル制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1のコーストニュートラル制御装置が適用されたベルト式無段変速機搭載車両の駆動系と制御系を示す。図2および図3は、ベルト式無段変速機構を示す。以下、図1〜図3に基づき全体システム構成を説明する。
【0013】
ベルト式無段変速機搭載車両の駆動系は、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、ベルト式無段変速機構4と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。
【0014】
前記エンジン1は、ドライバーのアクセル操作による出力トルクの制御以外に、外部からのエンジン制御信号によりエンジン回転数や燃料噴射量が制御可能である。このエンジン1には、スロットルバルブ開閉動作や燃料カット動作等により出力トルク制御を行う出力トルク制御アクチュエータ10を有する。
【0015】
前記トルクコンバータ2は、トルク増大機能を有する流体伝動装置であり、トルク増大機能を必要としないときには、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。このトルクコンバータ2は、エンジン出力軸11にコンバータハウジング22を介して連結されたタービンランナ23と、トルクコンバータ出力軸21に連結されたポンプインペラ24と、ワンウェイクラッチ25を介して設けられたステータ26と、を構成要素とする。
【0016】
前記前後進切替機構3は、ベルト式無段変速機構4への入力回転方向を前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、ダブルピニオン式遊星歯車30と、前進クラッチ31(摩擦要素)と、後退ブレーキ32と、を有する。前記ダブルピニオン式遊星歯車30は、サンギヤがトルクコンバータ出力軸21に連結され、キャリアが変速機入力軸40に連結される。前進クラッチ31は、前進走行時に締結し、ダブルピニオン式遊星歯車30のサンギヤとキャリアを直結する。前記後退ブレーキ32は、後退走行時に締結し、ダブルピニオン式遊星歯車30のリングギヤをケースに固定する。
【0017】
前記ベルト式無段変速機構4は、ベルト接触径の変化により変速機入力軸40の入力回転数と変速機出力軸41の出力回転数の比である変速比を無段階に変化させる無段変速機能を有する。このベルト式無段変速機構4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、ベルト44と、を有する。前記プライマリプーリ42は、固定プーリ42aとスライドプーリ42bにより構成され、スライドプーリ42bは、プライマリ油圧室45に導かれるプライマリ油圧によりスライド動作する。前記セカンダリプーリ43は、固定プーリ43aとスライドプーリ43bにより構成され、スライドプーリ43bは、セカンダリ油圧室46に導かれるセカンダリ油圧によりスライド動作する。前記ベルト44は、図2に示すように、プライマリプーリ42のV字形状をなすシーブ面42c,42dと、セカンダリプーリ43のV字形状をなすシーブ面43c,43dに掛け渡されている。このベルト44は、図3に示すように、環状リングを内から外へ多数重ね合わせた2組の積層リング44a,44aと、打ち抜き板材により形成され、2組の積層リング44a,44aに対する挟み込みにより互いに連接して環状に設けられた多数のエレメント44bにより構成される。そして、エレメント44bには、両側位置にプライマリプーリ42のシーブ面42c,42dと、セカンダリプーリ43のシーブ面43c,43dと接触するフランク面44c,44cを有する。
【0018】
前記終減速機構5は、ベルト式無段変速機構4の変速機出力軸41からの変速機出力回転を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6,6に伝達する機構である。この終減速機構5は、変速機出力軸41とアイドラ軸50と左右のドライブ軸51,51に介装され、減速機能を持つ第1ギヤ52と、第2ギヤ53と、第3ギヤ54と、第4ギヤ55と、差動機能を持つディファレンシャルギヤ56を有する。
【0019】
ベルト式無段変速機搭載車の制御系は、図1に示すように、変速油圧コントロールユニット7と、CVTコントロールユニット8と、を備えている。
【0020】
前記変速油圧コントロールユニット7は、プライマリ油圧室45に導かれるプライマリ油圧と、セカンダリ油圧室46に導かれるセカンダリ油圧を作り出す油圧制御ユニットである。この変速油圧コントロールユニット7は、オイルポンプ70と、レギュレータ弁71と、ライン圧ソレノイド72と、減圧弁73、プライマリ油圧ソレノイド74と、減圧弁75、セカンダリ油圧ソレノイド76と、を備えている。
【0021】
前記レギュレータ弁71は、オイルポンプ70から吐出圧を元圧とし、ライン圧PLを調圧する弁である。このレギュレータ弁71は、ライン圧ソレノイド72を有し、オイルポンプ70から圧送された油の圧力を、CVTコントロールユニット8からの指令に応じて所定のライン圧PLに調圧する。
【0022】
前記減圧弁73は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧としてプライマリ油圧室45に導くプライマリ油圧を減圧制御により調圧するノーマリーハイのスプールバルブである。この減圧弁73は、プライマリ油圧ソレノイド74を備え、CVTコントロールユニット8からの指令に応じてライン圧PLを減圧して指令プライマリ油圧に制御する。
【0023】
前記減圧弁75は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧としてセカンダリ油圧室46に導くセカンダリ油圧を減圧制御により調圧するノーマリーハイのスプールバルブである。この減圧弁75は、セカンダリ油圧ソレノイド76を備え、CVTコントロールユニット8からの指令に応じてライン圧PLを減圧して指令セカンダリ油圧に制御する。
【0024】
前記CVTコントロールユニット8は、車速やスロットル開度等に応じた目標変速比を得る制御指令を両油圧ソレノイド74,76に出力する変速比制御、スロットル開度等に応じた目標ライン圧を得る制御指令をライン圧ソレノイド72に出力するライン圧制御、前進クラッチ31と後退ブレーキ32の締結/解放を制御する前後進切替制御、ロックアップクラッチ20の締結/解放を制御するロックアップ制御、等を行う。このCVTコントロールユニット8には、プライマリ回転センサ80、セカンダリ回転センサ81、セカンダリ油圧センサ82、油温センサ83、インヒビタースイッチ84、ブレーキスイッチ85、アクセル開度センサ86、車速センサ87、タービン回転センサ88等からのセンサ情報やスイッチ情報が入力される。また、エンジンコントロールユニット90からはエンジン回転センサ91からのエンジン回転数情報等の必要情報を入力し、エンジンコントロールユニット90へはエンジン回転数制御指令やフューエルカット指令やフューエルカットリカバー指令等を出力する。
【0025】
図4は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるコーストニュートラル制御開始判定処理の構成および流れを示す(コーストニュートラル制御手段)。以下、図4の各ステップについて説明する。
【0026】
ステップS1では、インヒビタースイッチ84からのスイッチ信号に基づき、選択されているレンジ位置がDレンジであるか否かを判断する。YES(Dレンジ選択)の場合はステップS2へ進み、NO(Dレンジ以外のレンジ選択)の場合はステップS7へ進む。
【0027】
ステップS2では、ステップS1でのDレンジ選択であるとの判断に続き、アクセル開度センサ86からのセンサ信号に基づき、アクセルOFF(アクセル足離し状態)であるか否かを判断する。YES(アクセルOFF)の場合はステップS3へ進み、NO(アクセルON)の場合はステップS7へ進む。
【0028】
ステップS3では、ステップS2でのアクセルOFFであるとの判断に続き、ブレーキスイッチ85からのスイッチ信号に基づき、ブレーキON(ブレーキ踏み込み状態)であるか否かを判断する。YES(ブレーキON)の場合はステップS4へ進み、NO(ブレーキOFF)の場合はステップS7へ進む。
【0029】
ステップS4では、ステップS3でのブレーキONであるとの判断に続き、エンジン1への燃料噴射量のフューエルカット状態(FC状態)から復帰するフューエルカットリカバー状態(FCR状態)の出力であるか否かを判断する。YES(FCR状態)の場合はステップS5へ進み、NO(FC状態)の場合はステップS7へ進む。
すなわち、燃費効果が最も高いのは、燃料を噴射していないフューエルカット状態(FC状態)であり、コーストニュートラル制御は、FCR後の燃費を極力向上させるための制御である。したがって、FC状態のときには、コーストニュートラル制御は行わない。
【0030】
ステップS5では、ステップS4でのFCR状態であるとの判断に続き、車速センサ87からのセンサ信号に基づき、検出された車速が設定値以下であるか否かを判断する。YES(車速≦設定値)の場合はステップS6へ進み、NO(車速>設定値)の場合はステップS7へ進む。
ここで、設定値は、定常走行状態からコースト減速状態に移行した後、車速の低下勾配が安定する車速域の車速値(例えば、12km/h)に設定される。
【0031】
ステップS6では、ステップS5での車速≦設定値であるとの判断に続き、図5に示すフローチャートにしたがって、前進クラッチ31のトルク容量を発生し始める寸前の状態に維持するコーストニュートラル制御を実行し、リターンへ進む。
【0032】
ステップS7では、ステップS1,S2,S3,S4,S5でのNOであるとの判断に続き、現在の運転状態に応じた通常制御を実行し、リターンへ進む。
【0033】
図5は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるコーストニュートラル制御における前進クラッチ油圧制御処理およびオフセット処理の構成および流れを示す(コーストニュートラル制御手段、オフセット手段)。以下、図5の各ステップについて説明する。なお、図4のステップS6にてコーストニュートラル制御が開始されると、直ちに前進クラッチ31の油圧低下を開始し、その後、エンジン回転数Neがアイドル回転数に達するまで待って図5の処理を開始する。
【0034】
ステップS21では、プライマリ回転数Npriとエンジン回転数Neの差が、予め設定された第1設定値Aを超えているか否かを判断する。YES(Npri−Ne>A)の場合はステップS22へ進み、NO(Npri−Ne≦A)の場合はステップS28へ進む。
ここで、第1設定値Aは、エンジン回転センサ91が正確に判断可能な最低回転速度(例えば、50rpm)に設定される。なお、プライマリ回転数Npriは、摩擦要素である前進クラッチ31の出力側回転数であり、実施例1では、プライマリ回転数Npriを「車速に相当する値」として用いる。
【0035】
ステップS22では、ステップS21でのNpri−Ne>Aであるとの判断に続き、流体伝動装置であるトルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2をセットし、ステップS23へ進む(閾値変更手段)。
ここで、制限値1は、トルクコンバータ2の負荷特性に基づき決まる値(例えば、10〜50rpm)であり、Npri−Ne>Aであるとき、図6のC領域に示すように、車速に相当するプライマリ回転数Npriが低下するほど徐々に小さくなる値に設定する。あるいは、制限値1は、Npri−Ne>Aであるとき、図7のC領域に示すように、プライマリ回転数Npriが低下するほど段階的に小さくなる値に設定する。
一方、制限値2は、トルクコンバータ2の負荷特性に基づき決まる値(例えば、10〜50rpm)であり、Npri−Ne>Aであるとき、図6のC領域に示すように、プライマリ回転数Npriが低下するほど徐々に大きくなる値に設定する。あるいは、制限値2は、Npri−Ne>Aであるとき、図7のC領域に示すように、プライマリ回転数Npriが低下するほど段階的に大きくなる値に設定する。
つまり、入出力回転速度差(Ne−Nt)の制限値1,2による目標範囲(閾値)は、プライマリ回転数Npriが低下するほど小さく設定される。
【0036】
ステップS23では、ステップS22での制限値1,2のセットに続き、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差が制限値2を超えているか否か、つまり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1,2による範囲)を下回っているか否かを判断する。YES(Ne−Nt>制限値2)の場合はステップS24へ進み、NO(Ne−Nt≦制限値2)の場合はステップS25へ進む(トルク発生油圧検知手段)。
ここで、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差(Ne−Nt)は、流体伝動装置であるトルクコンバータ2の入出力回転速度差に相当する。
【0037】
ステップS24では、ステップS23でのNe−Nt>制限値2であり、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っているとの判断に続き、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により上げる指令を出力し、リターンへ進む(摩擦要素圧制御手段)。
【0038】
ステップS25では、ステップS23でのNe−Nt≦制限値2であるとの判断に続き、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差が制限値1未満であるか否か、つまり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1,2による範囲)を上回っているか否かを判断する。YES(Ne−Nt<制限値1)の場合はステップS26へ進み、NO(Ne−Nt≧制限値1)の場合はステップS27へ進む(トルク発生油圧検知手段)。
【0039】
ステップS26では、ステップS25でのNe−Nt<制限値1であり、タービン回転数Ntが目標範囲を上回っているとの判断に続き、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により下げる指令を出力し、リターンへ進む(摩擦要素圧制御手段)。
【0040】
ステップS27では、ステップS25での制限値1≦Ne−Nt≦制限値2であるとの判断に続き、現状の所定勾配による油圧変化(油圧上げ変化、油圧下げ変化)を維持し、リターンへ進む(摩擦要素圧制御手段)。
【0041】
ステップS28では、ステップS21でのNpri−Ne≦Aであるとの判断に続き、プライマリ回転数Npriとエンジン回転数Neの差が、予め設定された第2設定値B未満であるか否かを判断する。YES(Npri−Ne<B)の場合はステップS29へ進み、NO(Npri−Ne≧B)の場合はステップS35へ進む。
ここで、第2設定値Bは、エンジン回転センサ91が正確に判断可能な最低回転速度(例えば、50rpm)に設定される。
【0042】
ステップS29では、ステップS28でのNpri−Ne<Bであるとの判断に続き、流体伝動装置であるトルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2をセットし、ステップS30へ進む(閾値変更手段)。
ここで、制限値1は、Npri−Ne<Bであるとき、図6のD領域に示すように、車速に相当するプライマリ回転数Npriが低下するほど徐々に大きくなる値に設定する。あるいは、制限値1は、Npri−Ne<Bであるとき、図7のD領域に示すように、プライマリ回転数Npriが低下するほど段階的に大きくなる値に設定する。
一方、制限値2は、Npri−Ne<Bであるとき、図6のD領域に示すように、プライマリ回転数Npriが低下するほど徐々に小さくなる値に設定する。あるいは、制限値2は、Npri−Ne<Bであるとき、図7のD領域に示すように、プライマリ回転数Npriが低下するほど段階的に小さくなる値に設定する。
つまり、入出力回転速度差(Ne−Nt)の制限値1,2による目標範囲(閾値)は、プライマリ回転数Npriが低下するほど大きく設定される。
【0043】
ステップS30では、ステップS29での制限値1,2のセットに続き、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差が制限値2を超えているか否か、つまり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1,2による範囲)を下回っているか否かを判断する。YES(Ne−Nt>制限値2)の場合はステップS31へ進み、NO(Ne−Nt≦制限値2)の場合はステップS32へ進む(トルク発生油圧検知手段)。
【0044】
ステップS31では、ステップS30でのNe−Nt>制限値2であり、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っているとの判断に続き、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により下げる指令を出力し、リターンへ進む(摩擦要素圧制御手段)。
【0045】
ステップS32では、ステップS30でのNe−Nt≦制限値2であるとの判断に続き、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差が制限値1未満であるか否か、つまり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1,2による範囲)を上回っているか否かを判断する。YES(Ne−Nt<制限値1)の場合はステップS33へ進み、NO(Ne−Nt≧制限値1)の場合はステップS34へ進む(トルク発生油圧検知手段)。
【0046】
ステップS33では、ステップS32でのNe−Nt<制限値1であり、タービン回転数Ntが目標範囲を上回っているとの判断に続き、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により上げる指令を出力し、リターンへ進む(摩擦要素圧制御手段)。
【0047】
ステップS34では、ステップS32での制限値1≦Ne−Nt≦制限値2であるとの判断に続き、現状の所定勾配による油圧変化(油圧上げ変化、油圧下げ変化)を維持し、リターンへ進む(摩擦要素圧制御手段)。
【0048】
ステップS35では、ステップS28でのB≦Npri−Ne≦Aである、つまり、エンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriが近づきすぎているとの判断に続き、エンジン回転数Neからエンジン回転数下げ量ΔNe(=オフセット量NeOFFSET)を差し引いた値が、エンジンアイドル回転数下限値Nelimit未満であるか否かを判断する。YES(Ne−ΔNe<Nelimit)の場合はステップS36へ進み、NO(Ne−ΔNe≧Nelimit)の場合はステップS37へ進む。
ここで、オフセット量NeOFFSETは、燃費の悪化代が問題とならない回転速度、例えば、100rpmに設定される。
【0049】
ステップS36では、ステップS35でのNe−ΔNe<Nelimitである、つまり、エンジン回転数を低下させることができないとの判断に続き、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ上昇させる指令を出力し、ステップS37へ進む。
【0050】
ステップS37では、ステップS36でのエンジン回転数上げ、あるいは、ステップS38でのエンジン回転数復帰条件が不成立であるとの判断に続き、エンジン回転数上げに伴ってNe>Npriの関係が成立するため、ステップS28〜ステップS34と同様に、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている場合は油圧を下げ、上回っている場合は油圧を上げるというパターン2によるクラッチ油圧制御を実行し、ステップS38へ進む。
なお、パターン2によるクラッチ油圧制御での目標範囲は、オフセット前のエンジン回転数Neを用いて図6および図7の領域Eに示す制限値1,2を決めた範囲とする。
【0051】
ステップS38では、ステップS37でのパターン2によるクラッチ油圧制御に続き、エンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriの差が、オフセット量NeOFFSETと第2設定値Bを加えた値を超えているか否か、つまり、エンジン回転数Neの復帰条件が成立するか否かを判断する。YES(Ne−Npri>NeOFFSET+B)の場合はステップS39へ進み、NO(Ne−Npri≦NeOFFSET+B)の場合はステップS37へ戻る。
【0052】
ステップS39では、ステップS38でのNe−Npri>NeOFFSET+Bであり、エンジン回転数Neの復帰条件成立との判断に続き、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ下降させる復帰指令を出力し、リターンへ進む。
【0053】
ステップS40では、ステップS35でのNe−ΔNe≧Nelimitである、つまり、エンジン回転数を低下させることができるとの判断に続き、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSET(=ΔNe)だけ下降させる指令を出力し、ステップS41へ進む。
【0054】
ステップS41では、ステップS40でのエンジン回転数下げ、あるいは、ステップS42でのエンジン回転数復帰条件が不成立であるとの判断に続き、エンジン回転数下げに伴ってNe<Npriの関係が成立するため、ステップS21〜ステップS27と同様に、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている場合は油圧を上げ、上回っている場合は油圧を下げるというパターン1によるクラッチ油圧制御を実行し、ステップS42へ進む。
なお、パターン1によるクラッチ油圧制御での目標範囲は、オフセット前のエンジン回転数Neを用いて図6および図7の領域Eに示す制限値1,2を決めた範囲とする。
【0055】
ステップS42では、ステップS41でのパターン1によるクラッチ油圧制御に続き、プライマリ回転数Npriとエンジン回転数Neの差が第1設定値A以下であるか否か、つまり、エンジン回転数Neの復帰条件が成立するか否かを判断する。YES(Npri−Ne≦A)の場合はステップS43へ進み、NO(Npri−Ne>A)の場合はステップS41へ戻る。
【0056】
ステップS43では、ステップS42でのNpri−Ne≦Aであり、エンジン回転数Neの復帰条件成立との判断に続き、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ上昇させる復帰指令を出力し、リターンへ進む。
なお、ステップS35〜ステップS43は、オフセット手段に相当する。
【0057】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例の課題」の説明を行う。続いて、実施例1のコーストニュートラル制御装置における作用を、「コースト減速走行時のニュートラル制御作用」、「コーストニュートラル制御でのクラッチ油圧制御作用」、「エンジン回転数のオフセット作用」に分けて説明する。
【0058】
[比較例の課題]
アクセル足離し停車時において、再加速時のラグ・ヘジ感対策としてクリアニュートラル制御を実行するものを比較例とする。この比較例でのクリアニュートラル制御は、図8に示すように、クラッチ解放後、クラッチがトルク容量を発生し始める油圧を、流体伝動装置の入出力回転速度差(Ne−Nt)と、上下限リミッタLimit1,Limit2と、から検知する。つまり、(Ne−Nt)の閾値を上下限リミッタLimit1,Limit2により与え、(Ne−Nt)が上下限リミッタLimit1,Limit2による目標範囲に収束するように、(Ne−Nt)が上限リミッタLimit1を下回るとクラッチ圧を上げ、(Ne−Nt)が下限リミッタLimit2を上回るとクラッチ圧を下げる。
【0059】
比較例のクリアニュートラル制御は、アクセル足離しによるコースト停車時に実行されるため、図8に示すように、エンジン回転数Ne(=アイドル回転数)とプライマリ回転数Npri(=0rpm)がほぼ一定の状態であり、クラッチ下流側のイナーシャ変動を考慮する必要が無い。このため、クラッチ圧制御を回転数フィードバック制御により実施するときは、(Ne−Nt)の閾値を上下限のそれぞれ1点で持っていれば、クラッチがトルク容量を持つ寸前の状態を維持できる。
【0060】
しかし、比較例のクリアニュートラル制御をアクセル足離しによるコースト走行時に適用する場合は、車速の変化に伴いプライマリ回転数Npriが変化する状態、つまり、クラッチ下流側のイナーシャ変動がある状態で実行することになる。このため、(Ne−Nt)の閾値を上下限のそれぞれ1点で持っているだけでは、クリアニュートラル制御中の燃費向上と、加速要求に対する応答性確保と、を両立することができない。以下、その理由を説明する。
【0061】
比較例のクリアニュートラル制御技術は、(Ne−Nt)の閾値である上下限リミッタLimit1,Limit2を、車速または車速に相当する値に応じて変更していなく、車速または車速に相当する値に対して固定値で与えている。なお、この説明では、「車速または車速に相当する値」として、プライマリ回転数Npri(プライマリプーリの入力回転数=クラッチ出力回転数)を用いる。
【0062】
例えば、Npri<<<Neである場合、図9(a)に示すように、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差(Ne−Nt)が所定値のときのクラッチ圧Paは、リターンスプリング力RTNから僅かに上回った圧力になる。これに対し、Npri<Neである場合、図9(b)に示すように、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差(Ne−Nt)が図9(a)と同じ所定値であるときのクラッチ圧Pbは、リターンスプリング力RTNから大きく上回った圧力になる。つまり、プライマリ回転数Npriが低いときであるか、プライマリ回転数Npriが高いときであるかにより、同じタービン回転数Ntを得るためのクラッチ圧Pa,Pbが異なり、両クラッチ圧Pa,Pbに差圧ΔPが発生する。
【0063】
したがって、Npri<<<Neである場合(例えば、Npri≒0)とNpri<Neである場合とで、プライマリ回転数Npriにかかわらず同一の閾値を用いると、クラッチがトルク容量を発生し始める正確な油圧を得ることができない。例えば、Npri<<<Neに適した閾値に設定されている場合、Npri<Neでは、クラッチがトルク容量を発生し始める油圧より大きな油圧が得られるため、エンジン負荷が大きくなり燃費が低下する。また、Npri<Neに適した閾値に設定されている場合、Npri<<<Neでは、クラッチがトルク容量を発生し始める油圧より小さな油圧が得られることになるため、加速要求に対して、クラッチを締結状態とするまでに時間を要し、応答性を確保することができない。なお、上述した問題は、Npri>>>Neである場合とNpri>Neである場合も、同様に生じる。
【0064】
すなわち、クリアニュートラル制御によりクラッチ解放状態にすることで、エンジン負荷を小さくすることができるため、エンジンがアイドル回転数を維持するための燃料消費量が低減し、燃費向上が達成される。しかし、比較例において、Npri<<<Neに適した閾値を設定すると、Npri<Neでは、クラッチがトルク容量を持つことになり、エンジン負荷が増加し、同じエンジン回転数を維持するためには多くの燃料が必要となることで燃費悪化を招く。
【0065】
一方、クリアニュートラル制御は、クラッチ解放状態とするものの、完全解放状態(クラッチのリターンスプリングが伸びた状態)とはせずに、トルク容量が発生しない程度の解放状態とすることで、加速要求に対する応答性を確保している。なお、トルク容量が発生しない程度の解放状態とは、クラッチのリターンスプリングが押しつぶされているが、クラッチプレート同士のトルク伝達が行われない程度の解放状態をいう。しかし、比較例において、Npri<Neに適した閾値を設定すると、Npri<<<Neでは、クラッチプレート同士にクリランスを持つ解放状態になり、再加速要求時にクラッチプレートのクリランスを詰めるロスストロークが生じ、トルク容量の発生が遅れることで、加速要求に対する応答性を確保できない。
【0066】
さらに、比較例のクリアニュートラル制御をアクセル足離しによるコースト走行時に適用する場合、エンジン回転数特性とプライマリ回転数特性がコースト減速の途中位置で交差することがあるため、下記の新たな課題が生じる。ここで、両回転数特性が交差する理由は、例えば、コースト減速走行時、ほぼ一定回転数(=アイドル回転数)で推移するエンジン回転数Neに対し、車速低下に伴って低下勾配を持ちながらプライマリ回転数Npriが推移することによる。
【0067】
そこで、両回転数特性が交差する究極形として、プライマリ回転数Npriとエンジン回転数Neの差(Npri−Ne)が同じである場合を想定する。この場合には、図10に示すように、クラッチ油圧を上げたり下げたり制御しても、流体伝動装置の入出力軸回転速度差(Ne−Nt)の変化はゼロのままである。つまり、プライマリ回転数Npriとエンジン回転数Neの差(Npri−Ne)が所定値以下の状況である場合には、クラッチ油圧を制御したとしても、流体伝動装置の入出力軸回転速度差(Ne−Nt)が殆ど変化しないことになる。ここで、Npri−Neの所定値としては、エンジン回転センサ91が正確に判断可能な最低回転速度(例えば、50rpmであり、50rpm以下は、センサ特性上正確に判断するのが難しい。)に設定される。
【0068】
したがって、プライマリ回転数Npriとエンジン回転数Neの差(Npri−Ne)が所定値以下であるコースト走行状況のときには、流体伝動装置の入出力軸回転速度差(Ne−Nt)に基づいて、クラッチがトルク容量を発生し始める油圧を検知することができない。
【0069】
[コースト減速走行時のニュートラル制御作用]
上記のように、燃費向上を目指すためには、比較例のクリアニュートラル制御の適用領域を停車領域からコースト走行領域まで拡大することが必要である。以下、これを反映するコースト減速走行時のニュートラル制御作用を説明する。
【0070】
Dレンジ選択時、アクセル踏み込み操作による定常走行時には、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS7→リターンへと進む流れが繰り返される。このとき、ステップS7では、Dレンジ圧を前進クラッチ31に付与してクラッチ締結し、トルク伝達を確保する定常走行時のクラッチ締結制御が実行される。
【0071】
ドライバーが停車を意図し、Dレンジ選択状態のままでアクセル足離し操作とブレーキ踏み込み操作を行うことで、フューエルカット制御が行われると、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS7→リターンへと進む流れが繰り返される。つまり、Dレンジ選択条件とアクセルOFF条件とブレーキON条件の成立を開始条件として、ステップS4にて燃料噴射を停止するフューエルカット制御が開始される。
【0072】
そして、ブレーキ操作とフューエルカット制御により車両が減速し、車速がFCR開始車速になってフューエルカットリカバー制御が開始されるが、車速が設定値を超えている間は、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS7→リターンへと進む流れが繰り返される。つまり、車速がFCR開始車速になっても、設定値(=コーストニュートラル制御開始車速)に達しない間は、コーストニュートラル制御を行わない。
【0073】
そして、フューエルカットリカバー状態で、車速が設定値以下になると、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→リターンへと進む流れが繰り返される。つまり、コースト減速走行時にフューエルカットリカバー状態で車速がコーストニュートラル制御開始車速以下になると、前進クラッチ31のトルク容量を発生し始める寸前の状態に維持するコーストニュートラル制御が実行される(ステップS6)。
【0074】
上記のように、コーストニュートラル制御の開始条件として、ステップS4にてFCR状態条件を含めている。この理由は、フューエルカット制御が行われている場合、燃料を噴射していないため、燃費向上効果が最も高い。よって、フューエルカット制御中は、コーストニュートラル制御(燃料は噴射しているが燃料噴射量を低減することで、燃費を極力向上させる制御)を行わない方が高い燃費効果を狙えることによる。
【0075】
さらに、コーストニュートラル制御の開始条件として、ステップS4にて車速で決まるFCR状態条件に、さらに、ステップS5の車速条件を加えている。以下、この理由を説明する。まず、FCR開始車速は、エンジンストールの防止を意図して設定される車速であり、例えば、12km/h〜18Km/hに設定される。しかしながら、エアコン等の補機運転中はエンジン1への負荷が高くなるため、FCR開始車速は高く設定される(例えば、30km/h)。このような高車速(30km/h)にFCR開始車速が設定されていると、FCR状態であることを条件としてコーストニュートラル制御を開始した場合、コーストニュートラル制御を実行する頻度が高くなる。そして、コーストニュートラル制御を実行する頻度が高くなると、前進クラッチ31の耐久性低下につながる(コーストニュートラル制御中は、前進クラッチ31がトルク容量を発しし始める寸前の状態を維持するため、クラッチ締結・解放を繰り返しており、クラッチ摩耗が進む)。したがって、ステップS4のFCR状態条件とステップS5の車速条件の成立により、コーストニュートラル制御を実行することで、前進クラッチ31の耐久性が低下することを抑制することができると共に燃費向上を図ることができることによる。
【0076】
上記コーストニュートラル制御開始判定処理およびフューエルカット処理/フューエルカットリカバー処理をタイムチャートによりあらわしたのが図11である。以下、図11に基づき、コーストニュートラル制御作用およびフューエルカット/リカバー作用を説明する。なお、図11において、時刻taは、フューエルカット開始時刻である。また、エアコン等の補機が運転していない状態であり、FCR開始車速=設定値(=コーストニュートラル制御開始車速)であるため、時刻tbは、コーストニュートラル制御開始時刻であると同時にフューエルカットリカバー開始時刻である。時刻tcは、停車開始時刻である。
【0077】
まず、Dレンジ選択時には、コースト減速やコースト停車にかかわらず、前進クラッチ31をDレンジ圧にて締結する場合、前進クラッチ31の完全締結によりエンジン1にとっての負荷が大きい。このため、図11の実線による燃料噴射量特性に示すように、時刻tb以降の全フューエルカットリカバー領域において、エンジン1の回転数をアイドル回転数に維持するために多くの燃料を噴射する必要があり、燃料消費が増大する。
【0078】
これに対し、比較例のように、停車時にクリアニュートラル制御を採用すると、車両が停止する時刻tc以降の燃料噴射量を抑制することができる。つまり、図11の領域Fが停車時クリアニュートラル制御の採用による燃料噴射量の減少分となる。
【0079】
さらに、実施例1のように、コースト減速走行域まで拡大してクリアニュートラル制御を採用すると、車速が設定値未満となる時刻tb以降の燃料噴射量を抑制することができる。つまり、図11の領域Fに領域Gを加えた時刻tb以降の全フューエルカットリカバー領域において燃料噴射量を抑制でき、高まっている燃費向上要求に応えて燃料消費を抑えることができる。
【0080】
[コーストニュートラル制御でのクラッチ油圧制御作用]
上記のように、走行域までコーストニュートラル制御を拡大した時、燃費向上と応答性確保とを両立するには、クラッチ下流側のイナーシャ影響にかかわらず前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める寸前の状態を維持することが望ましい。以下、図5および図12に基づき、これを反映するコーストニュートラル制御でのクラッチ油圧制御作用を説明する。
【0081】
Npri−Ne>Aであり、Ne−Nt>制限値2のときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS24→リターンへと進む。すなわち、ステップS22では、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2がセットされる。そして、ステップS24では、Ne−Nt>制限値2であり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1〜制限値2)を下回っているため、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により上げる指令が出力される。
【0082】
Npri−Ne>Aであり、Ne−Nt<制限値1のときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS25→ステップS26→リターンへと進む。すなわち、ステップS22では、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2がセットされる。そして、ステップS26では、Ne−Nt<制限値1であり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1〜制限値2)を上回っているため、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により下げる指令が出力される。
【0083】
Npri−Ne>Aであり、制限値1≦Ne−Nt≦制限値2のときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS25→ステップS27→リターンへと進む。すなわち、ステップS22では、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2がセットされる。そして、ステップS27では、制限値1≦Ne−Nt≦制限値2であり、タービン回転数Ntが目標範囲内(制限値1〜制限値2内)にあるため、前進クラッチ31に対する現状の所定勾配による油圧変化(油圧上げ変化、油圧下げ変化)が維持される。
【0084】
Npri−Ne<Bであり、Ne−Nt>制限値2のときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS28→ステップS29→ステップS30→ステップS31→リターンへと進む。すなわち、ステップS29では、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2がセットされる。そして、ステップS31では、Ne−Nt>制限値2であり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1〜制限値2)を下回っているため、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により下げる指令が出力される。
【0085】
Npri−Ne<Bであり、Ne−Nt<制限値1のときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS28→ステップS29→ステップS30→ステップS32→ステップS33→リターンへと進む。すなわち、ステップS29では、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2がセットされる。そして、ステップS33では、Ne−Nt<制限値1であり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1〜制限値2)を上回っているため、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により上げる指令が出力される。
【0086】
Npri−Ne<Bであり、制限値1≦Ne−Nt≦制限値2のときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS28→ステップS29→ステップS30→ステップS32→ステップS34→リターンへと進む。すなわち、ステップS29では、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2がセットされる。そして、ステップS34では、制限値1≦Ne−Nt≦制限値2であり、タービン回転数Ntが目標範囲内(制限値1〜制限値2内)にあるため、前進クラッチ31に対する現状の所定勾配による油圧変化(油圧上げ変化、油圧下げ変化)が維持される。
【0087】
次に、定常走行からコースト減速を経過して停車する際に実行されるコーストニュートラル制御作用の一例を示す図12のタイムチャートを用い、前進クラッチ31のクラッチ油圧制御作用を説明する。
【0088】
図12の時刻t1では、図4のステップS6にてコーストニュートラル制御が開始されると、直ちに前進クラッチ31の油圧低下が開始される。そして、時刻t1から遅れてエンジン回転数Neが低下を開始し、さらに、遅れてタービン回転数Ntが低下を開始する。その後、エンジン回転数Neがアイドル回転数に達する時刻t2になると、図5のフローチャートに基づきクラッチ油圧制御処理が開始される。
【0089】
図12の時刻t2から時刻t8までがNpri−Ne>Aの条件が成立する領域であり、図5のフローチャートのステップS21〜ステップS27により前進クラッチ31への油圧が制御される。
このNpri−Ne>Aの条件が成立する領域のうち、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている時刻t3,t5,t7では、前進クラッチ31への油圧が上げられる。
つまり、エンジン回転数Neより車速相当のプライマリ回転数Npriが高いときは、前進クラッチ31への油圧を上げ、プライマリ回転数Npriによるイナーシャ影響を高めることで、タービン回転数Ntが目標範囲に向かって上昇する。
一方、Npri−Ne>Aの条件が成立する領域のうち、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている時刻t4,t6では、前進クラッチ31への油圧が下げられる。
つまり、エンジン回転数Neより車速相当のプライマリ回転数Npriが高いときは、前進クラッチ31への油圧を下げ、プライマリ回転数Npriによるイナーシャ影響を低く抑えることで、タービン回転数Ntが目標範囲に向かって下降する。
したがって、図12の時刻t2から時刻t8までのNpri−Ne>Aの条件が成立する領域では、上記前進クラッチ31への油圧制御を行うことで、タービン回転数Ntが目標範囲である制限値1〜制限値2の範囲内に収束する。
【0090】
図12の時刻t11から時刻t14までがNpri−Ne<Bの条件が成立する領域であり、図5のフローチャートのステップS28〜ステップS34により前進クラッチ31への油圧が制御される。
このNpri−Ne<Bの条件が成立する領域のうち、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている時刻t12,t14では、前進クラッチ31への油圧が下げられる。
つまり、エンジン回転数Neより車速相当のプライマリ回転数Npriが低く、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っているときは、前進クラッチ31への油圧を下げ、プライマリ回転数Npriによるイナーシャ影響を低く抑えることで、タービン回転数Ntが目標範囲に向かって上昇する。
このNpri−Ne<Bの条件が成立する領域のうち、タービン回転数Ntが目標範囲を上回っている時刻t13では、前進クラッチ31への油圧が上げられる。
つまり、エンジン回転数Neより車速相当のプライマリ回転数Npriが低く、タービン回転数Ntが目標範囲を上回っているときは、前進クラッチ31への油圧を上げ、プライマリ回転数Npriによるイナーシャ影響を高めることで、タービン回転数Ntが目標範囲に向かって下降する。
したがって、図12の時刻t11から時刻t14までのNpri−Ne<Bの条件が成立する領域では、上記前進クラッチ31への油圧制御を行うことで、タービン回転数Ntが目標範囲である制限値1〜制限値2の範囲内に収束する。
【0091】
上記のように、実施例1では、停車時のクリアニュートラル制御をコースト走行域まで拡大して適用するに際し、閾値である制限値1,2による目標範囲を車速または車速に相当する値に応じて変更する構成を採用した。
この構成により、走行時にコーストニュートラル制御を実行した場合、プライマリ回転数Npriの変動に伴って前進クラッチ31の下流側に連結される部材のイナーシャ(回転慣性)が変動するにもかかわらず、前進クラッチ11がトルク容量を発生し始める寸前の状態に維持される。
したがって、コースト走行時、ニュートラル制御中の燃費向上と、加速要求に対する応答性確保と、の両立が達成される。
【0092】
実施例1では、車速に相当する値として、前進クラッチ11の出力側回転数であるプライマリ回転数Npriを用いる構成を採用した。
例えば、車速を用いて閾値である制限値1,2を設定する構成とした場合、摩擦要素である前進クラッチ11から駆動輪6,6までの間にはベルト式無段変速機構4などが配置されているため、ベルト式無段変速機構4の変速比や部品バラツキ等の影響を受ける。
これに対し、前進クラッチ11の出力側回転数であるプライマリ回転数Npriを用いることで、変速比や部品バラツキ等の影響を受けることがなく、車速を用いるよりコーストニュートラル制御の制御精度が向上する。
【0093】
実施例1では、Npri−Ne>Aである場合、プライマリ回転数Npriが低下するほど閾値である目標範囲を小さく設定し、|Ne−Nt|が目標範囲より小さくなったときの油圧を、前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧とする。Npri−Ne<Bである場合、プライマリ回転数Npriが低下するほど閾値である目標範囲を大きく設定し、|Ne−Nt|が目標範囲より大きくなったときの油圧を、前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧とする構成を採用した。
この構成により、エンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriの大小関係が変化しても、前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧が確実に検知される。
【0094】
[エンジン回転数のオフセット作用]
上記のように、(Ne−Nt)を用いたニュートラル制御をコースト走行域まで拡大して適用する場合には、前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧を、入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づいて検知できないことがあるという課題を解決することが必要である。以下、図5および図12,図13に基づき、これを反映するエンジン回転数Neのオフセット作用を説明する。
【0095】
B≦Npri−Ne≦Aであり、かつ、Ne−ΔNe<Nelimitであるときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS28→ステップS35→ステップS36→ステップS37→ステップS38へと進む。そして、ステップS38にてエンジン回転数復帰条件が不成立である間は、ステップS37→ステップS38へと進む流れが繰り返される。ステップS36では、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ上昇させる指令が出力される。ステップS37では、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている場合はクラッチ油圧を下げ、上回っている場合はクラッチ油圧を上げるというパターン2によるクラッチ油圧制御が実行される。
そして、ステップS38にてエンジン回転数復帰条件が成立であると判断されると、ステップS38からステップS39→リターンへと進む。ステップS39では、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ下降させる復帰指令が出力される。
【0096】
このように、エンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriが近づきすぎているときであって、エンジン回転数の低下が許容されないときには、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ上昇させることで、エンジン回転数Neをプライマリ回転数Npriから強制的に乖離させ、前進クラッチ31の油圧制御を確保するようにしている。
【0097】
一方、B≦Npri−Ne≦Aであり、かつ、Ne−ΔNe≧Nelimitであるときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS28→ステップS35→ステップS40→ステップS41→ステップS42へと進む。そして、ステップS42にてエンジン回転数復帰条件が不成立である間は、ステップS41→ステップS42へと進む流れが繰り返される。ステップS40では、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ下降させる指令が出力される。ステップS41では、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている場合はクラッチ油圧を上げ、上回っている場合はクラッチ油圧を下げるというパターン1によるクラッチ油圧制御が実行される。
そして、ステップS42にてエンジン回転数復帰条件が成立であると判断されると、ステップS42からステップS43→リターンへと進む。ステップS43では、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ上昇させる復帰指令が出力される。
【0098】
このように、エンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriが近づきすぎているときであって、エンジン回転数の低下が許容されるときには、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ下降させることで、エンジン回転数Neをプライマリ回転数Npriから強制的に乖離させ、前進クラッチ31の油圧制御を確保するようにしている。
【0099】
次に、定常走行からコースト減速を経過して停車する際に実行されるコーストニュートラル制御作用の一例を示す図12および図13のタイムチャートを用い、エンジン回転数Neのオフセット作用を説明する。
【0100】
図12の時刻t8では、B≦Npri−Ne≦Aであり、かつ、Ne−ΔNe<Nelimitであるという条件が成立し、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS28→ステップS35→ステップS36へと進むことで、エンジン回転数Neがオフセット量NeOFFSETだけ上昇する。そして、エンジン回転数復帰条件が不成立である時刻t8から時刻t11までの間においては、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている時刻t9では、前進クラッチ31の油圧を下げる。そして、タービン回転数Ntが目標範囲を上回っている時刻t10では、前進クラッチ31の油圧を上げるというクラッチ油圧制御が実行される。
そして、時刻t11にてエンジン回転数復帰条件が成立すると、図5のフローチャートにおいて、ステップS38からステップS39→リターンへと進むことで、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ下降し、元のエンジン回転数Neに復帰する。
【0101】
図13の時刻t8では、B≦Npri−Ne≦Aであり、かつ、Ne−ΔNe≧Nelimitであるという条件が成立し、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS28→ステップS35→ステップS40へと進むことで、エンジン回転数Neがオフセット量NeOFFSETだけ下降する。そして、エンジン回転数復帰条件が不成立である時刻t8から時刻t11までの間においては、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っていると前進クラッチ31の油圧を上げ、タービン回転数Ntが目標範囲を上回っていると、前進クラッチ31の油圧を下げるというクラッチ油圧制御が実行される。
そして、時刻t11にてエンジン回転数復帰条件が成立すると、図5のフローチャートにおいて、ステップS42からステップS43→リターンへと進むことで、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ上昇し、元のエンジン回転数Neに復帰する。
【0102】
上記のように、実施例1では、B≦Npri−Ne≦Aである場合、エンジン回転数Neをオフセット(現在のエンジン回転数Neに対して増加または減少)させる構成を採用した。
すなわち、B≦Npri−Ne≦Aであり、エンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriが近づきすぎている状況では、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づいて、前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧を検知することができない。
したがって、前進クラッチ31のトルク容量が発生し始める油圧を検知できない状況においては、エンジン回転数Neをオフセットさせることで、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づく前進クラッチ31の油圧制御が確保される。
【0103】
実施例1では、エンジン回転数Neを増加させるオフセット制御を行う構成を採用した(ステップS36)。
例えば、エンジン回転数Neを低下させるとオイルポンプ吐出圧が低下する。オイルポンプ吐出圧が低下することにより、ベルト挟持圧が低下してベルト滑りが発生したり、ベルト式無段変速機構4のロー側への戻りが行われなかったりする、という問題が生じる。
これに対し、エンジン回転数Neを増加させることで、前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧が検知されると共に、オイルポンプ吐出圧の低下による問題の発生を防止する。
【0104】
実施例1では、エンジン回転数Neの増加後、Ne−Npri>NeOFFSET+Bとなった場合(ステップS38でYES)、オフセット量NeOFFSETだけ増加させたエンジン回転数Neを増加前のエンジン回転数Neに減少させる構成を採用した(ステップS39)。
例えば、エンジン回転数Neの増加後、増加前のエンジン回転数Neに減少させることなく増加状態を維持すると、上昇させたエンジン回転数Neを維持するための燃料消費量が増大する。
これに対し、エンジン回転数Neの復帰条件が成立すると、増加前のエンジン回転数Neに減少させることで、入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づいて前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧の検知を確保しながら、燃費の悪化を招くことが抑制される。
【0105】
実施例1では、エンジン回転数Neを減少させるオフセット制御を行う構成を採用した(ステップS40)。
つまり、エンジン回転数Neを減少させた場合、エンジン回転数Neを増加させる場合に比べ燃費消費量が減少する。
したがって、エンジン回転数Neを減少させるオフセット制御を行うことで、入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づいて前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧の検知を確保しながら、より一層の燃費向上が達成される。
【0106】
実施例1では、エンジン回転数Neを減少させることができないと判断した場合(ステップS35でYES)、エンジン回転数Neを増加させる構成を採用した(ステップS36)。
例えば、エンジン回転数Neを低下させた場合、エンジンストールが生じたり、振動が発生したりするようなことがある。
したがって、エンジン回転数Neを減少させることに支障がある場合は、エンジン回転数Neを増加させることで、発進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧が検知されると共に、エンジンストールや振動が防止される。
【0107】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両のコーストニュートラル制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0108】
(1) エンジン1の駆動力が伝達される流体伝動装置(トルクコンバータ2)と、
前記流体伝動装置(トルクコンバータ2)と駆動輪6,6との間に配置される摩擦要素(前進クラッチ31)と、
前記摩擦要素(前進クラッチ31)が締結状態である走行中、少なくともアクセルペダルが解放されていることを含む摩擦要素解放条件が成立すると、前記摩擦要素(前進クラッチ31)を解放状態とするコーストニュートラル制御手段(図4のステップS6)と、を備え、
前記コーストニュートラル制御手段(図5)は、
前記摩擦要素(前進クラッチ31)の解放後、前記摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧を、前記流体伝動装置(トルクコンバータ2)の入出力回転速度差(Ne−Nt)と閾値とから検知するトルク発生油圧検知手段(ステップS23,S25,S30,S32)と、
前記トルク発生油圧検知手段(ステップS23,S25,S30,S32)により検知された前記摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧に基づいて、前記摩擦要素(前進クラッチ31)に供給する油圧を制御する摩擦要素圧制御手段(ステップS24,S26,S27,S31,S33,S34)と、
前記閾値を車速または車速に相当する値に応じて変更する閾値変更手段(ステップS22,S29)と、
を有する。
このため、コースト走行時、ニュートラル制御中の燃費向上と、加速要求に対する応答性確保と、の両立を達成することができる。
【0109】
(2) 前記閾値変更手段(ステップS22,S29)は、前記車速に相当する値として、前記摩擦要素(前進クラッチ31)の出力側回転数(プライマリ回転数Npri)を用いる。
このため、(1)の効果に加え、摩擦要素(前進クラッチ11)の下流側に配置される部品による誤差影響を受けることがなく、車速を用いる場合に比べ、コーストニュートラル制御の制御精度を向上させることができる。
【0110】
(3) 前記閾値変更手段(ステップS22,S29)は、(エンジン回転数)<(車速または車速に相当する値)である場合、前記車速または車速に相当する値が低下するほど前記閾値を小さく設定し、(エンジン回転数)>(車速または車速に相当する値)である場合、前記車速または車速に相当する値が低下するほど前記閾値を大きく設定し(図6および図7)、
前記トルク発生油圧検知手段(ステップS23,S25,S30,S32)は、(エンジン回転数)<(車速または車速に相当する値)である場合、前記流体伝動装置(トルクコンバータ2)の入出力回転速度差(Ne−Nt)の絶対値が前記閾値より小さくなったときの油圧を、前記摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧とし(ステップS25)、(エンジン回転数)>(車速または車速に相当する値)である場合、前記流体伝動装置(トルクコンバータ2)の入出力回転速度差(Ne−Nt)の絶対値が前記閾値より大きくなったときの油圧を、前記摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧とする(ステップS31)。
このため、上記(1),(2)の効果に加え、エンジン回転数Neと車速または車速に相当する値(プライマリ回転数Npri)の大小関係が変化しても、摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧を確実に検知することができる。
【0111】
(4) 前記コーストニュートラル制御手段(図5)は、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値である場合、前記エンジン回転数Neをオフセットさせるオフセット手段(ステップS35〜ステップS43)を有する。
このため、上記(1)〜(3)の効果に加え、摩擦要素(前進クラッチ31)のトルク容量が発生し始める油圧を検知できない状況においては、エンジン回転数Neをオフセットさせることで、流体伝動装置(トルクコンバータ2)の入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づく摩擦要素(前進クラッチ31)の油圧制御を確保することができる。
【0112】
(5) 前記オフセット手段(ステップS35〜ステップS43)は、前記エンジン回転数Neを増加させる(ステップS36)。
このため、上記(4)の効果に加え、エンジン回転数Neを増加させることで、摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧を検知できると共に、オイルポンプ吐出圧の低下による問題の発生を防止することができる。
【0113】
(6) 前記オフセット手段(ステップS35〜ステップS43)は、前記エンジン回転数Neの増加後、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値となった場合、前記エンジン回転数Neを増加前の回転速度に減少させる。
このため、上記(5)の効果に加え、エンジン回転数Neの復帰条件が成立すると、増加前のエンジン回転数Neに減少させることで、入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づいて摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧の検知を確保しながら、燃費の悪化を招くことを抑制することができる。
【0114】
(7) 前記オフセット手段(ステップS35〜ステップS43)は、前記エンジン回転数Neを減少させる(ステップS40)。
このため、上記(4)の効果に加え、エンジン回転数Neを減少させるオフセット制御を行うことで、入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づいて摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧の検知を確保しながら、より一層の燃費向上を達成することができる。
【0115】
(8) 前記オフセット手段(ステップS35〜ステップS43)は、前記エンジン回転数Neを減少させることができないと判断した場合(ステップS35でYES)、前記エンジン回転数Neを増加させる(ステップS36)。
このため、上記(7)の効果に加え、エンジン回転数Neを減少させることに支障がある場合は、エンジン回転数Neを増加させることで、摩擦要素(発進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧が検知できると共に、エンジンストールや振動を防止することができる。
【0116】
以上、本発明の車両のコーストニュートラル制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0117】
実施例1では、入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値として制限値1,2による目標範囲を設定する例を示した。つまり、クリアニュートラル制御でのクラッチ油圧は、バラツキ等により変動するため、目標範囲のように幅を持たせて常にクリアニュートラル検知を行っている。しかし、入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値として1つの目標値を設定し、閾値との偏差によるフィードバック制御により摩擦要素の油圧制御を行うような例としても良い。
【0118】
実施例1では、摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧にて制御している。これは、トルク容量が発生する直前を検知することが困難(制御ロジックが複雑)となるため、簡易的に上記油圧を検知している。しかし、トルク容量を発生し始める直前の油圧を指示するようにしても良い(例えば、トルク容量を発生し始める油圧から所定油圧低下させた油圧を指示する)。
【0119】
実施例1では、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値である場合、エンジン回転数Neのオフセット処理を実施し、摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧を検知できるようにしている。しかし、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値である場合、クラッチ油圧として、学習制御等により取得した初期学習値を用いるようにしても良い。
【0120】
実施例1では、プライマリ回転数Npriが低下しているという条件下で、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値である場合、エンジン回転数Neを増加または減少させ、復帰条件が成立したら元のエンジン回転数Neに復帰させる例を示した。しかし、図14に示すように、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値である場合、エンジン回転数Neを増加させた後、プライマリ回転数Npriが途中で上がってきた場合、エンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriの乖離幅を確保するようにエンジン回転数Neを低下させるような例としても良い。さらに、図15に示すように、プライマリ回転数Npriがエンジンアイドル回転数以下の場合は、常にエンジン回転数Ne=プライマリ回転数Npri+オフセット量NeOFFSETにより制御するようにしても良い。
【0121】
実施例1では、本発明のコーストニュートラル制御装置を、ベルト式無段変速機(ベルトCVT)を搭載した車両に適用する例を示した。しかし、本発明のコーストニュートラル制御装置は、トロイダル式無段変速機や複数の変速段を持つ自動変速機(AT)を搭載した車両に対しても適用することができる。要するに、エンジン、流体伝動装置、摩擦要素、駆動輪を備えた車両であれば適用できる。
【符号の説明】
【0122】
1 エンジン
2 トルクコンバータ(流体伝動装置)
3 前後進切替機構
31 前進クラッチ(摩擦要素)
4 ベルト式無段変速機構
5 終減速機構
6,6 駆動輪
7 変速油圧コントロールユニット
8 CVTコントロールユニット
80 プライマリ回転センサ
84 インヒビタースイッチ
85 ブレーキスイッチ
86 アクセル開度センサ
87 車速センサ
88 タービン回転数センサ
90 エンジンコントロールユニット
91 エンジン回転数センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセル解放によるコースト走行中、駆動力伝達経路に配置される摩擦要素を解放する制御を行う車両のコーストニュートラル制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンアイドリング運転によるDレンジ停車時、発進ショックの防止対策として、トルクコンバータの下流位置に配置される摩擦要素に対しクリープを防止するトルク容量を持たせる油圧を指示する自動変速機のクリープ防止装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来、燃料消費を低減させることを目的とし、アクセル解放による車両走行中、駆動力伝達経路に配置される摩擦要素を完全解放状態とするコーストニュートラル制御を行う車両の走行制御装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−220260号公報
【特許文献2】特開2007−138996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記2つの従来技術を組み合わせると、摩擦要素が締結状態である走行中、少なくともアクセルペダルが解放されていることを含む摩擦要素解放条件が成立すると、摩擦要素にクリープを防止するトルク容量を持たせた滑り締結状態にするものとなる。
しかし、このように組み合わされた従来技術は、ショック防止を確保するために摩擦要素にトルク容量を持たせる制御となるため、トルク容量を持った摩擦要素がエンジン負荷となり、アイドル回転数を維持するのに必要なエンジンへの燃料噴射量が増大する、という問題がある。
【0006】
一方、特許文献2に記載された従来技術は、摩擦要素を完全解放状態とするコーストニュートラル制御を行うため、アイドル回転数を維持するための燃料噴射量を低減できる。しかし、コースト走行途中でアクセル踏み込み操作により加速要求した場合、摩擦要素がトルク容量を持つまでのロスストローク等により締結作動遅れを生じ、加速要求に対して応答性を確保することができない、という問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、コースト走行時、ニュートラル制御中の燃費向上と、加速要求に対する応答性確保と、の両立を達成することができる車両のコーストニュートラル制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の車両のコーストニュートラル制御装置は、流体伝動装置と、摩擦要素と、コーストニュートラル制御手段と、を備える手段とした。
前記流体伝動装置は、エンジンの駆動力が伝達される。
前記摩擦要素は、前記流体伝動装置と駆動輪との間に配置される。
前記コーストニュートラル制御手段は、前記摩擦要素が締結状態である走行中、少なくともアクセルペダルが解放されていることを含む摩擦要素解放条件が成立すると、前記摩擦要素を解放状態とする。
そして、前記コーストニュートラル制御手段は、トルク発生油圧検知手段と、摩擦要素圧制御手段と、閾値変更手段と、を有する。
前記トルク発生油圧検知手段は、前記摩擦要素の解放後、前記摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧を、前記流体伝動装置の入出力回転速度差と閾値とから検知する。
前記摩擦要素圧制御手段は、前記トルク発生油圧検知手段により検知された前記摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧に基づいて、前記摩擦要素に供給する油圧を制御する。
前記閾値変更手段は、前記閾値を車速または車速に相当する値に応じて変更する。
【発明の効果】
【0009】
よって、摩擦要素が締結状態である走行中に摩擦要素解放条件が成立すると、摩擦要素を解放状態とするコーストニュートラル制御が実行される。このコーストニュートラル制御では、摩擦要素の解放後、摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧が、流体伝動装置の入出力回転速度差と、車速または車速に相当する値に応じて変更する閾値と、から検知される。そして、摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧検知に基づいて、摩擦要素に供給する油圧が制御される。
すなわち、摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧を検知するに際し、流体伝動装置の入出力回転速度差の閾値を車速または車速に相当する値、すなわち、摩擦要素の下流側に連結される部材のイナーシャ(回転慣性)に応じて変更するようにしている。このため、走行時にコーストニュートラル制御を実行した場合、車速または車速に相当する値の変動に伴って摩擦要素の下流側連結部材のイナーシャが変動するにもかかわらず、摩擦要素がトルク容量を発生し始める寸前の状態に維持される。
この結果、コースト走行時、ニュートラル制御中の燃費向上と、加速要求に対する応答性確保と、の両立を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1のコーストニュートラル制御装置が適用されたベルト式無段変速機搭載車両の駆動系と制御系を示す全体システム図である。
【図2】実施例1のコーストニュートラル制御装置が適用された車両のベルト式無段変速機構を示す斜視図である。
【図3】実施例1のコーストニュートラル制御装置が適用された車両のベルト式無段変速機構のベルトの一部を示す斜視図である。
【図4】実施例1のCVTコントロールユニットにて実行されるコーストニュートラル制御開始判定処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図5】実施例1のCVTコントロールユニットにて実行されるコーストニュートラル制御における前進クラッチ油圧制御処理およびオフセット処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1の前進クラッチ油圧制御処理にてトルク容量を発生し始める油圧を検知するに際に用いられる制限値1,2(閾値)の設定例1を示す制限値特性図である。
【図7】実施例1の前進クラッチ油圧制御処理にてトルク容量を発生し始める油圧を検知するに際に用いられる制限値1,2(閾値)の設定例2を示す制限値特性図である。
【図8】比較例である停車時クリアニュートラル制御でのエンジン回転数Ne・タービン回転数Nt・Limit1,Limit2・プライマリ回転数Npri・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図9】比較例である停車時クリアニュートラル制御をコースト走行時まで拡大適用した際における(a)Npri<<<Neである場合と(b)Npri<Neである場合とでプライマリ回転数Npriの違いにより同じタービン回転数Ntが得られるクラッチ圧の違いを示す比較特性図である。
【図10】比較例である停車時クリアニュートラル制御をコースト走行時まで拡大適用した際にエンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriが同じ回転数で推移する究極形を示す特性図である。
【図11】実施例1のベルト式無段変速機搭載車両において定常走行からコースト減速を経過して停車する際に実行されるコーストニュートラル制御作用を説明するためのアクセル開度APO・ブレーキBRK・車速・クラッチ圧・燃料噴射量の各特性を示すタイムチャートである。
【図12】実施例1のベルト式無段変速機搭載車両において定常走行からコースト減速を経過して停車する際に実行されるコーストニュートラル制御作用を説明するためのプライマリ回転数Npri・エンジン回転数Ne・タービン回転数Nt・制限値1,制限値2・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図13】実施例1のコーストニュートラル制御においてエンジン回転数を下げるオフセット処理を行った場合のプライマリ回転数Npri・エンジン回転数Neの各特性を示すタイムチャートである。
【図14】本発明のコーストニュートラル制御においてエンジン回転数Neを上げるオフセット処理を行った後にプライマリ回転数Npriが上がってきたときのオフセット処理例を示すタイムチャートである。
【図15】本発明のコーストニュートラル制御においてエンジン回転数Neを常にプライマリ回転数Npriにオフセット分を加えた回転数に維持するオフセット処理例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の車両のコーストニュートラル制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1のコーストニュートラル制御装置が適用されたベルト式無段変速機搭載車両の駆動系と制御系を示す。図2および図3は、ベルト式無段変速機構を示す。以下、図1〜図3に基づき全体システム構成を説明する。
【0013】
ベルト式無段変速機搭載車両の駆動系は、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、ベルト式無段変速機構4と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。
【0014】
前記エンジン1は、ドライバーのアクセル操作による出力トルクの制御以外に、外部からのエンジン制御信号によりエンジン回転数や燃料噴射量が制御可能である。このエンジン1には、スロットルバルブ開閉動作や燃料カット動作等により出力トルク制御を行う出力トルク制御アクチュエータ10を有する。
【0015】
前記トルクコンバータ2は、トルク増大機能を有する流体伝動装置であり、トルク増大機能を必要としないときには、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。このトルクコンバータ2は、エンジン出力軸11にコンバータハウジング22を介して連結されたタービンランナ23と、トルクコンバータ出力軸21に連結されたポンプインペラ24と、ワンウェイクラッチ25を介して設けられたステータ26と、を構成要素とする。
【0016】
前記前後進切替機構3は、ベルト式無段変速機構4への入力回転方向を前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、ダブルピニオン式遊星歯車30と、前進クラッチ31(摩擦要素)と、後退ブレーキ32と、を有する。前記ダブルピニオン式遊星歯車30は、サンギヤがトルクコンバータ出力軸21に連結され、キャリアが変速機入力軸40に連結される。前進クラッチ31は、前進走行時に締結し、ダブルピニオン式遊星歯車30のサンギヤとキャリアを直結する。前記後退ブレーキ32は、後退走行時に締結し、ダブルピニオン式遊星歯車30のリングギヤをケースに固定する。
【0017】
前記ベルト式無段変速機構4は、ベルト接触径の変化により変速機入力軸40の入力回転数と変速機出力軸41の出力回転数の比である変速比を無段階に変化させる無段変速機能を有する。このベルト式無段変速機構4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、ベルト44と、を有する。前記プライマリプーリ42は、固定プーリ42aとスライドプーリ42bにより構成され、スライドプーリ42bは、プライマリ油圧室45に導かれるプライマリ油圧によりスライド動作する。前記セカンダリプーリ43は、固定プーリ43aとスライドプーリ43bにより構成され、スライドプーリ43bは、セカンダリ油圧室46に導かれるセカンダリ油圧によりスライド動作する。前記ベルト44は、図2に示すように、プライマリプーリ42のV字形状をなすシーブ面42c,42dと、セカンダリプーリ43のV字形状をなすシーブ面43c,43dに掛け渡されている。このベルト44は、図3に示すように、環状リングを内から外へ多数重ね合わせた2組の積層リング44a,44aと、打ち抜き板材により形成され、2組の積層リング44a,44aに対する挟み込みにより互いに連接して環状に設けられた多数のエレメント44bにより構成される。そして、エレメント44bには、両側位置にプライマリプーリ42のシーブ面42c,42dと、セカンダリプーリ43のシーブ面43c,43dと接触するフランク面44c,44cを有する。
【0018】
前記終減速機構5は、ベルト式無段変速機構4の変速機出力軸41からの変速機出力回転を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6,6に伝達する機構である。この終減速機構5は、変速機出力軸41とアイドラ軸50と左右のドライブ軸51,51に介装され、減速機能を持つ第1ギヤ52と、第2ギヤ53と、第3ギヤ54と、第4ギヤ55と、差動機能を持つディファレンシャルギヤ56を有する。
【0019】
ベルト式無段変速機搭載車の制御系は、図1に示すように、変速油圧コントロールユニット7と、CVTコントロールユニット8と、を備えている。
【0020】
前記変速油圧コントロールユニット7は、プライマリ油圧室45に導かれるプライマリ油圧と、セカンダリ油圧室46に導かれるセカンダリ油圧を作り出す油圧制御ユニットである。この変速油圧コントロールユニット7は、オイルポンプ70と、レギュレータ弁71と、ライン圧ソレノイド72と、減圧弁73、プライマリ油圧ソレノイド74と、減圧弁75、セカンダリ油圧ソレノイド76と、を備えている。
【0021】
前記レギュレータ弁71は、オイルポンプ70から吐出圧を元圧とし、ライン圧PLを調圧する弁である。このレギュレータ弁71は、ライン圧ソレノイド72を有し、オイルポンプ70から圧送された油の圧力を、CVTコントロールユニット8からの指令に応じて所定のライン圧PLに調圧する。
【0022】
前記減圧弁73は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧としてプライマリ油圧室45に導くプライマリ油圧を減圧制御により調圧するノーマリーハイのスプールバルブである。この減圧弁73は、プライマリ油圧ソレノイド74を備え、CVTコントロールユニット8からの指令に応じてライン圧PLを減圧して指令プライマリ油圧に制御する。
【0023】
前記減圧弁75は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧としてセカンダリ油圧室46に導くセカンダリ油圧を減圧制御により調圧するノーマリーハイのスプールバルブである。この減圧弁75は、セカンダリ油圧ソレノイド76を備え、CVTコントロールユニット8からの指令に応じてライン圧PLを減圧して指令セカンダリ油圧に制御する。
【0024】
前記CVTコントロールユニット8は、車速やスロットル開度等に応じた目標変速比を得る制御指令を両油圧ソレノイド74,76に出力する変速比制御、スロットル開度等に応じた目標ライン圧を得る制御指令をライン圧ソレノイド72に出力するライン圧制御、前進クラッチ31と後退ブレーキ32の締結/解放を制御する前後進切替制御、ロックアップクラッチ20の締結/解放を制御するロックアップ制御、等を行う。このCVTコントロールユニット8には、プライマリ回転センサ80、セカンダリ回転センサ81、セカンダリ油圧センサ82、油温センサ83、インヒビタースイッチ84、ブレーキスイッチ85、アクセル開度センサ86、車速センサ87、タービン回転センサ88等からのセンサ情報やスイッチ情報が入力される。また、エンジンコントロールユニット90からはエンジン回転センサ91からのエンジン回転数情報等の必要情報を入力し、エンジンコントロールユニット90へはエンジン回転数制御指令やフューエルカット指令やフューエルカットリカバー指令等を出力する。
【0025】
図4は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるコーストニュートラル制御開始判定処理の構成および流れを示す(コーストニュートラル制御手段)。以下、図4の各ステップについて説明する。
【0026】
ステップS1では、インヒビタースイッチ84からのスイッチ信号に基づき、選択されているレンジ位置がDレンジであるか否かを判断する。YES(Dレンジ選択)の場合はステップS2へ進み、NO(Dレンジ以外のレンジ選択)の場合はステップS7へ進む。
【0027】
ステップS2では、ステップS1でのDレンジ選択であるとの判断に続き、アクセル開度センサ86からのセンサ信号に基づき、アクセルOFF(アクセル足離し状態)であるか否かを判断する。YES(アクセルOFF)の場合はステップS3へ進み、NO(アクセルON)の場合はステップS7へ進む。
【0028】
ステップS3では、ステップS2でのアクセルOFFであるとの判断に続き、ブレーキスイッチ85からのスイッチ信号に基づき、ブレーキON(ブレーキ踏み込み状態)であるか否かを判断する。YES(ブレーキON)の場合はステップS4へ進み、NO(ブレーキOFF)の場合はステップS7へ進む。
【0029】
ステップS4では、ステップS3でのブレーキONであるとの判断に続き、エンジン1への燃料噴射量のフューエルカット状態(FC状態)から復帰するフューエルカットリカバー状態(FCR状態)の出力であるか否かを判断する。YES(FCR状態)の場合はステップS5へ進み、NO(FC状態)の場合はステップS7へ進む。
すなわち、燃費効果が最も高いのは、燃料を噴射していないフューエルカット状態(FC状態)であり、コーストニュートラル制御は、FCR後の燃費を極力向上させるための制御である。したがって、FC状態のときには、コーストニュートラル制御は行わない。
【0030】
ステップS5では、ステップS4でのFCR状態であるとの判断に続き、車速センサ87からのセンサ信号に基づき、検出された車速が設定値以下であるか否かを判断する。YES(車速≦設定値)の場合はステップS6へ進み、NO(車速>設定値)の場合はステップS7へ進む。
ここで、設定値は、定常走行状態からコースト減速状態に移行した後、車速の低下勾配が安定する車速域の車速値(例えば、12km/h)に設定される。
【0031】
ステップS6では、ステップS5での車速≦設定値であるとの判断に続き、図5に示すフローチャートにしたがって、前進クラッチ31のトルク容量を発生し始める寸前の状態に維持するコーストニュートラル制御を実行し、リターンへ進む。
【0032】
ステップS7では、ステップS1,S2,S3,S4,S5でのNOであるとの判断に続き、現在の運転状態に応じた通常制御を実行し、リターンへ進む。
【0033】
図5は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるコーストニュートラル制御における前進クラッチ油圧制御処理およびオフセット処理の構成および流れを示す(コーストニュートラル制御手段、オフセット手段)。以下、図5の各ステップについて説明する。なお、図4のステップS6にてコーストニュートラル制御が開始されると、直ちに前進クラッチ31の油圧低下を開始し、その後、エンジン回転数Neがアイドル回転数に達するまで待って図5の処理を開始する。
【0034】
ステップS21では、プライマリ回転数Npriとエンジン回転数Neの差が、予め設定された第1設定値Aを超えているか否かを判断する。YES(Npri−Ne>A)の場合はステップS22へ進み、NO(Npri−Ne≦A)の場合はステップS28へ進む。
ここで、第1設定値Aは、エンジン回転センサ91が正確に判断可能な最低回転速度(例えば、50rpm)に設定される。なお、プライマリ回転数Npriは、摩擦要素である前進クラッチ31の出力側回転数であり、実施例1では、プライマリ回転数Npriを「車速に相当する値」として用いる。
【0035】
ステップS22では、ステップS21でのNpri−Ne>Aであるとの判断に続き、流体伝動装置であるトルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2をセットし、ステップS23へ進む(閾値変更手段)。
ここで、制限値1は、トルクコンバータ2の負荷特性に基づき決まる値(例えば、10〜50rpm)であり、Npri−Ne>Aであるとき、図6のC領域に示すように、車速に相当するプライマリ回転数Npriが低下するほど徐々に小さくなる値に設定する。あるいは、制限値1は、Npri−Ne>Aであるとき、図7のC領域に示すように、プライマリ回転数Npriが低下するほど段階的に小さくなる値に設定する。
一方、制限値2は、トルクコンバータ2の負荷特性に基づき決まる値(例えば、10〜50rpm)であり、Npri−Ne>Aであるとき、図6のC領域に示すように、プライマリ回転数Npriが低下するほど徐々に大きくなる値に設定する。あるいは、制限値2は、Npri−Ne>Aであるとき、図7のC領域に示すように、プライマリ回転数Npriが低下するほど段階的に大きくなる値に設定する。
つまり、入出力回転速度差(Ne−Nt)の制限値1,2による目標範囲(閾値)は、プライマリ回転数Npriが低下するほど小さく設定される。
【0036】
ステップS23では、ステップS22での制限値1,2のセットに続き、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差が制限値2を超えているか否か、つまり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1,2による範囲)を下回っているか否かを判断する。YES(Ne−Nt>制限値2)の場合はステップS24へ進み、NO(Ne−Nt≦制限値2)の場合はステップS25へ進む(トルク発生油圧検知手段)。
ここで、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差(Ne−Nt)は、流体伝動装置であるトルクコンバータ2の入出力回転速度差に相当する。
【0037】
ステップS24では、ステップS23でのNe−Nt>制限値2であり、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っているとの判断に続き、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により上げる指令を出力し、リターンへ進む(摩擦要素圧制御手段)。
【0038】
ステップS25では、ステップS23でのNe−Nt≦制限値2であるとの判断に続き、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差が制限値1未満であるか否か、つまり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1,2による範囲)を上回っているか否かを判断する。YES(Ne−Nt<制限値1)の場合はステップS26へ進み、NO(Ne−Nt≧制限値1)の場合はステップS27へ進む(トルク発生油圧検知手段)。
【0039】
ステップS26では、ステップS25でのNe−Nt<制限値1であり、タービン回転数Ntが目標範囲を上回っているとの判断に続き、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により下げる指令を出力し、リターンへ進む(摩擦要素圧制御手段)。
【0040】
ステップS27では、ステップS25での制限値1≦Ne−Nt≦制限値2であるとの判断に続き、現状の所定勾配による油圧変化(油圧上げ変化、油圧下げ変化)を維持し、リターンへ進む(摩擦要素圧制御手段)。
【0041】
ステップS28では、ステップS21でのNpri−Ne≦Aであるとの判断に続き、プライマリ回転数Npriとエンジン回転数Neの差が、予め設定された第2設定値B未満であるか否かを判断する。YES(Npri−Ne<B)の場合はステップS29へ進み、NO(Npri−Ne≧B)の場合はステップS35へ進む。
ここで、第2設定値Bは、エンジン回転センサ91が正確に判断可能な最低回転速度(例えば、50rpm)に設定される。
【0042】
ステップS29では、ステップS28でのNpri−Ne<Bであるとの判断に続き、流体伝動装置であるトルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2をセットし、ステップS30へ進む(閾値変更手段)。
ここで、制限値1は、Npri−Ne<Bであるとき、図6のD領域に示すように、車速に相当するプライマリ回転数Npriが低下するほど徐々に大きくなる値に設定する。あるいは、制限値1は、Npri−Ne<Bであるとき、図7のD領域に示すように、プライマリ回転数Npriが低下するほど段階的に大きくなる値に設定する。
一方、制限値2は、Npri−Ne<Bであるとき、図6のD領域に示すように、プライマリ回転数Npriが低下するほど徐々に小さくなる値に設定する。あるいは、制限値2は、Npri−Ne<Bであるとき、図7のD領域に示すように、プライマリ回転数Npriが低下するほど段階的に小さくなる値に設定する。
つまり、入出力回転速度差(Ne−Nt)の制限値1,2による目標範囲(閾値)は、プライマリ回転数Npriが低下するほど大きく設定される。
【0043】
ステップS30では、ステップS29での制限値1,2のセットに続き、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差が制限値2を超えているか否か、つまり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1,2による範囲)を下回っているか否かを判断する。YES(Ne−Nt>制限値2)の場合はステップS31へ進み、NO(Ne−Nt≦制限値2)の場合はステップS32へ進む(トルク発生油圧検知手段)。
【0044】
ステップS31では、ステップS30でのNe−Nt>制限値2であり、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っているとの判断に続き、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により下げる指令を出力し、リターンへ進む(摩擦要素圧制御手段)。
【0045】
ステップS32では、ステップS30でのNe−Nt≦制限値2であるとの判断に続き、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差が制限値1未満であるか否か、つまり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1,2による範囲)を上回っているか否かを判断する。YES(Ne−Nt<制限値1)の場合はステップS33へ進み、NO(Ne−Nt≧制限値1)の場合はステップS34へ進む(トルク発生油圧検知手段)。
【0046】
ステップS33では、ステップS32でのNe−Nt<制限値1であり、タービン回転数Ntが目標範囲を上回っているとの判断に続き、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により上げる指令を出力し、リターンへ進む(摩擦要素圧制御手段)。
【0047】
ステップS34では、ステップS32での制限値1≦Ne−Nt≦制限値2であるとの判断に続き、現状の所定勾配による油圧変化(油圧上げ変化、油圧下げ変化)を維持し、リターンへ進む(摩擦要素圧制御手段)。
【0048】
ステップS35では、ステップS28でのB≦Npri−Ne≦Aである、つまり、エンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriが近づきすぎているとの判断に続き、エンジン回転数Neからエンジン回転数下げ量ΔNe(=オフセット量NeOFFSET)を差し引いた値が、エンジンアイドル回転数下限値Nelimit未満であるか否かを判断する。YES(Ne−ΔNe<Nelimit)の場合はステップS36へ進み、NO(Ne−ΔNe≧Nelimit)の場合はステップS37へ進む。
ここで、オフセット量NeOFFSETは、燃費の悪化代が問題とならない回転速度、例えば、100rpmに設定される。
【0049】
ステップS36では、ステップS35でのNe−ΔNe<Nelimitである、つまり、エンジン回転数を低下させることができないとの判断に続き、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ上昇させる指令を出力し、ステップS37へ進む。
【0050】
ステップS37では、ステップS36でのエンジン回転数上げ、あるいは、ステップS38でのエンジン回転数復帰条件が不成立であるとの判断に続き、エンジン回転数上げに伴ってNe>Npriの関係が成立するため、ステップS28〜ステップS34と同様に、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている場合は油圧を下げ、上回っている場合は油圧を上げるというパターン2によるクラッチ油圧制御を実行し、ステップS38へ進む。
なお、パターン2によるクラッチ油圧制御での目標範囲は、オフセット前のエンジン回転数Neを用いて図6および図7の領域Eに示す制限値1,2を決めた範囲とする。
【0051】
ステップS38では、ステップS37でのパターン2によるクラッチ油圧制御に続き、エンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriの差が、オフセット量NeOFFSETと第2設定値Bを加えた値を超えているか否か、つまり、エンジン回転数Neの復帰条件が成立するか否かを判断する。YES(Ne−Npri>NeOFFSET+B)の場合はステップS39へ進み、NO(Ne−Npri≦NeOFFSET+B)の場合はステップS37へ戻る。
【0052】
ステップS39では、ステップS38でのNe−Npri>NeOFFSET+Bであり、エンジン回転数Neの復帰条件成立との判断に続き、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ下降させる復帰指令を出力し、リターンへ進む。
【0053】
ステップS40では、ステップS35でのNe−ΔNe≧Nelimitである、つまり、エンジン回転数を低下させることができるとの判断に続き、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSET(=ΔNe)だけ下降させる指令を出力し、ステップS41へ進む。
【0054】
ステップS41では、ステップS40でのエンジン回転数下げ、あるいは、ステップS42でのエンジン回転数復帰条件が不成立であるとの判断に続き、エンジン回転数下げに伴ってNe<Npriの関係が成立するため、ステップS21〜ステップS27と同様に、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている場合は油圧を上げ、上回っている場合は油圧を下げるというパターン1によるクラッチ油圧制御を実行し、ステップS42へ進む。
なお、パターン1によるクラッチ油圧制御での目標範囲は、オフセット前のエンジン回転数Neを用いて図6および図7の領域Eに示す制限値1,2を決めた範囲とする。
【0055】
ステップS42では、ステップS41でのパターン1によるクラッチ油圧制御に続き、プライマリ回転数Npriとエンジン回転数Neの差が第1設定値A以下であるか否か、つまり、エンジン回転数Neの復帰条件が成立するか否かを判断する。YES(Npri−Ne≦A)の場合はステップS43へ進み、NO(Npri−Ne>A)の場合はステップS41へ戻る。
【0056】
ステップS43では、ステップS42でのNpri−Ne≦Aであり、エンジン回転数Neの復帰条件成立との判断に続き、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ上昇させる復帰指令を出力し、リターンへ進む。
なお、ステップS35〜ステップS43は、オフセット手段に相当する。
【0057】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例の課題」の説明を行う。続いて、実施例1のコーストニュートラル制御装置における作用を、「コースト減速走行時のニュートラル制御作用」、「コーストニュートラル制御でのクラッチ油圧制御作用」、「エンジン回転数のオフセット作用」に分けて説明する。
【0058】
[比較例の課題]
アクセル足離し停車時において、再加速時のラグ・ヘジ感対策としてクリアニュートラル制御を実行するものを比較例とする。この比較例でのクリアニュートラル制御は、図8に示すように、クラッチ解放後、クラッチがトルク容量を発生し始める油圧を、流体伝動装置の入出力回転速度差(Ne−Nt)と、上下限リミッタLimit1,Limit2と、から検知する。つまり、(Ne−Nt)の閾値を上下限リミッタLimit1,Limit2により与え、(Ne−Nt)が上下限リミッタLimit1,Limit2による目標範囲に収束するように、(Ne−Nt)が上限リミッタLimit1を下回るとクラッチ圧を上げ、(Ne−Nt)が下限リミッタLimit2を上回るとクラッチ圧を下げる。
【0059】
比較例のクリアニュートラル制御は、アクセル足離しによるコースト停車時に実行されるため、図8に示すように、エンジン回転数Ne(=アイドル回転数)とプライマリ回転数Npri(=0rpm)がほぼ一定の状態であり、クラッチ下流側のイナーシャ変動を考慮する必要が無い。このため、クラッチ圧制御を回転数フィードバック制御により実施するときは、(Ne−Nt)の閾値を上下限のそれぞれ1点で持っていれば、クラッチがトルク容量を持つ寸前の状態を維持できる。
【0060】
しかし、比較例のクリアニュートラル制御をアクセル足離しによるコースト走行時に適用する場合は、車速の変化に伴いプライマリ回転数Npriが変化する状態、つまり、クラッチ下流側のイナーシャ変動がある状態で実行することになる。このため、(Ne−Nt)の閾値を上下限のそれぞれ1点で持っているだけでは、クリアニュートラル制御中の燃費向上と、加速要求に対する応答性確保と、を両立することができない。以下、その理由を説明する。
【0061】
比較例のクリアニュートラル制御技術は、(Ne−Nt)の閾値である上下限リミッタLimit1,Limit2を、車速または車速に相当する値に応じて変更していなく、車速または車速に相当する値に対して固定値で与えている。なお、この説明では、「車速または車速に相当する値」として、プライマリ回転数Npri(プライマリプーリの入力回転数=クラッチ出力回転数)を用いる。
【0062】
例えば、Npri<<<Neである場合、図9(a)に示すように、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差(Ne−Nt)が所定値のときのクラッチ圧Paは、リターンスプリング力RTNから僅かに上回った圧力になる。これに対し、Npri<Neである場合、図9(b)に示すように、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差(Ne−Nt)が図9(a)と同じ所定値であるときのクラッチ圧Pbは、リターンスプリング力RTNから大きく上回った圧力になる。つまり、プライマリ回転数Npriが低いときであるか、プライマリ回転数Npriが高いときであるかにより、同じタービン回転数Ntを得るためのクラッチ圧Pa,Pbが異なり、両クラッチ圧Pa,Pbに差圧ΔPが発生する。
【0063】
したがって、Npri<<<Neである場合(例えば、Npri≒0)とNpri<Neである場合とで、プライマリ回転数Npriにかかわらず同一の閾値を用いると、クラッチがトルク容量を発生し始める正確な油圧を得ることができない。例えば、Npri<<<Neに適した閾値に設定されている場合、Npri<Neでは、クラッチがトルク容量を発生し始める油圧より大きな油圧が得られるため、エンジン負荷が大きくなり燃費が低下する。また、Npri<Neに適した閾値に設定されている場合、Npri<<<Neでは、クラッチがトルク容量を発生し始める油圧より小さな油圧が得られることになるため、加速要求に対して、クラッチを締結状態とするまでに時間を要し、応答性を確保することができない。なお、上述した問題は、Npri>>>Neである場合とNpri>Neである場合も、同様に生じる。
【0064】
すなわち、クリアニュートラル制御によりクラッチ解放状態にすることで、エンジン負荷を小さくすることができるため、エンジンがアイドル回転数を維持するための燃料消費量が低減し、燃費向上が達成される。しかし、比較例において、Npri<<<Neに適した閾値を設定すると、Npri<Neでは、クラッチがトルク容量を持つことになり、エンジン負荷が増加し、同じエンジン回転数を維持するためには多くの燃料が必要となることで燃費悪化を招く。
【0065】
一方、クリアニュートラル制御は、クラッチ解放状態とするものの、完全解放状態(クラッチのリターンスプリングが伸びた状態)とはせずに、トルク容量が発生しない程度の解放状態とすることで、加速要求に対する応答性を確保している。なお、トルク容量が発生しない程度の解放状態とは、クラッチのリターンスプリングが押しつぶされているが、クラッチプレート同士のトルク伝達が行われない程度の解放状態をいう。しかし、比較例において、Npri<Neに適した閾値を設定すると、Npri<<<Neでは、クラッチプレート同士にクリランスを持つ解放状態になり、再加速要求時にクラッチプレートのクリランスを詰めるロスストロークが生じ、トルク容量の発生が遅れることで、加速要求に対する応答性を確保できない。
【0066】
さらに、比較例のクリアニュートラル制御をアクセル足離しによるコースト走行時に適用する場合、エンジン回転数特性とプライマリ回転数特性がコースト減速の途中位置で交差することがあるため、下記の新たな課題が生じる。ここで、両回転数特性が交差する理由は、例えば、コースト減速走行時、ほぼ一定回転数(=アイドル回転数)で推移するエンジン回転数Neに対し、車速低下に伴って低下勾配を持ちながらプライマリ回転数Npriが推移することによる。
【0067】
そこで、両回転数特性が交差する究極形として、プライマリ回転数Npriとエンジン回転数Neの差(Npri−Ne)が同じである場合を想定する。この場合には、図10に示すように、クラッチ油圧を上げたり下げたり制御しても、流体伝動装置の入出力軸回転速度差(Ne−Nt)の変化はゼロのままである。つまり、プライマリ回転数Npriとエンジン回転数Neの差(Npri−Ne)が所定値以下の状況である場合には、クラッチ油圧を制御したとしても、流体伝動装置の入出力軸回転速度差(Ne−Nt)が殆ど変化しないことになる。ここで、Npri−Neの所定値としては、エンジン回転センサ91が正確に判断可能な最低回転速度(例えば、50rpmであり、50rpm以下は、センサ特性上正確に判断するのが難しい。)に設定される。
【0068】
したがって、プライマリ回転数Npriとエンジン回転数Neの差(Npri−Ne)が所定値以下であるコースト走行状況のときには、流体伝動装置の入出力軸回転速度差(Ne−Nt)に基づいて、クラッチがトルク容量を発生し始める油圧を検知することができない。
【0069】
[コースト減速走行時のニュートラル制御作用]
上記のように、燃費向上を目指すためには、比較例のクリアニュートラル制御の適用領域を停車領域からコースト走行領域まで拡大することが必要である。以下、これを反映するコースト減速走行時のニュートラル制御作用を説明する。
【0070】
Dレンジ選択時、アクセル踏み込み操作による定常走行時には、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS7→リターンへと進む流れが繰り返される。このとき、ステップS7では、Dレンジ圧を前進クラッチ31に付与してクラッチ締結し、トルク伝達を確保する定常走行時のクラッチ締結制御が実行される。
【0071】
ドライバーが停車を意図し、Dレンジ選択状態のままでアクセル足離し操作とブレーキ踏み込み操作を行うことで、フューエルカット制御が行われると、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS7→リターンへと進む流れが繰り返される。つまり、Dレンジ選択条件とアクセルOFF条件とブレーキON条件の成立を開始条件として、ステップS4にて燃料噴射を停止するフューエルカット制御が開始される。
【0072】
そして、ブレーキ操作とフューエルカット制御により車両が減速し、車速がFCR開始車速になってフューエルカットリカバー制御が開始されるが、車速が設定値を超えている間は、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS7→リターンへと進む流れが繰り返される。つまり、車速がFCR開始車速になっても、設定値(=コーストニュートラル制御開始車速)に達しない間は、コーストニュートラル制御を行わない。
【0073】
そして、フューエルカットリカバー状態で、車速が設定値以下になると、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→リターンへと進む流れが繰り返される。つまり、コースト減速走行時にフューエルカットリカバー状態で車速がコーストニュートラル制御開始車速以下になると、前進クラッチ31のトルク容量を発生し始める寸前の状態に維持するコーストニュートラル制御が実行される(ステップS6)。
【0074】
上記のように、コーストニュートラル制御の開始条件として、ステップS4にてFCR状態条件を含めている。この理由は、フューエルカット制御が行われている場合、燃料を噴射していないため、燃費向上効果が最も高い。よって、フューエルカット制御中は、コーストニュートラル制御(燃料は噴射しているが燃料噴射量を低減することで、燃費を極力向上させる制御)を行わない方が高い燃費効果を狙えることによる。
【0075】
さらに、コーストニュートラル制御の開始条件として、ステップS4にて車速で決まるFCR状態条件に、さらに、ステップS5の車速条件を加えている。以下、この理由を説明する。まず、FCR開始車速は、エンジンストールの防止を意図して設定される車速であり、例えば、12km/h〜18Km/hに設定される。しかしながら、エアコン等の補機運転中はエンジン1への負荷が高くなるため、FCR開始車速は高く設定される(例えば、30km/h)。このような高車速(30km/h)にFCR開始車速が設定されていると、FCR状態であることを条件としてコーストニュートラル制御を開始した場合、コーストニュートラル制御を実行する頻度が高くなる。そして、コーストニュートラル制御を実行する頻度が高くなると、前進クラッチ31の耐久性低下につながる(コーストニュートラル制御中は、前進クラッチ31がトルク容量を発しし始める寸前の状態を維持するため、クラッチ締結・解放を繰り返しており、クラッチ摩耗が進む)。したがって、ステップS4のFCR状態条件とステップS5の車速条件の成立により、コーストニュートラル制御を実行することで、前進クラッチ31の耐久性が低下することを抑制することができると共に燃費向上を図ることができることによる。
【0076】
上記コーストニュートラル制御開始判定処理およびフューエルカット処理/フューエルカットリカバー処理をタイムチャートによりあらわしたのが図11である。以下、図11に基づき、コーストニュートラル制御作用およびフューエルカット/リカバー作用を説明する。なお、図11において、時刻taは、フューエルカット開始時刻である。また、エアコン等の補機が運転していない状態であり、FCR開始車速=設定値(=コーストニュートラル制御開始車速)であるため、時刻tbは、コーストニュートラル制御開始時刻であると同時にフューエルカットリカバー開始時刻である。時刻tcは、停車開始時刻である。
【0077】
まず、Dレンジ選択時には、コースト減速やコースト停車にかかわらず、前進クラッチ31をDレンジ圧にて締結する場合、前進クラッチ31の完全締結によりエンジン1にとっての負荷が大きい。このため、図11の実線による燃料噴射量特性に示すように、時刻tb以降の全フューエルカットリカバー領域において、エンジン1の回転数をアイドル回転数に維持するために多くの燃料を噴射する必要があり、燃料消費が増大する。
【0078】
これに対し、比較例のように、停車時にクリアニュートラル制御を採用すると、車両が停止する時刻tc以降の燃料噴射量を抑制することができる。つまり、図11の領域Fが停車時クリアニュートラル制御の採用による燃料噴射量の減少分となる。
【0079】
さらに、実施例1のように、コースト減速走行域まで拡大してクリアニュートラル制御を採用すると、車速が設定値未満となる時刻tb以降の燃料噴射量を抑制することができる。つまり、図11の領域Fに領域Gを加えた時刻tb以降の全フューエルカットリカバー領域において燃料噴射量を抑制でき、高まっている燃費向上要求に応えて燃料消費を抑えることができる。
【0080】
[コーストニュートラル制御でのクラッチ油圧制御作用]
上記のように、走行域までコーストニュートラル制御を拡大した時、燃費向上と応答性確保とを両立するには、クラッチ下流側のイナーシャ影響にかかわらず前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める寸前の状態を維持することが望ましい。以下、図5および図12に基づき、これを反映するコーストニュートラル制御でのクラッチ油圧制御作用を説明する。
【0081】
Npri−Ne>Aであり、Ne−Nt>制限値2のときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS24→リターンへと進む。すなわち、ステップS22では、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2がセットされる。そして、ステップS24では、Ne−Nt>制限値2であり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1〜制限値2)を下回っているため、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により上げる指令が出力される。
【0082】
Npri−Ne>Aであり、Ne−Nt<制限値1のときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS25→ステップS26→リターンへと進む。すなわち、ステップS22では、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2がセットされる。そして、ステップS26では、Ne−Nt<制限値1であり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1〜制限値2)を上回っているため、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により下げる指令が出力される。
【0083】
Npri−Ne>Aであり、制限値1≦Ne−Nt≦制限値2のときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS25→ステップS27→リターンへと進む。すなわち、ステップS22では、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2がセットされる。そして、ステップS27では、制限値1≦Ne−Nt≦制限値2であり、タービン回転数Ntが目標範囲内(制限値1〜制限値2内)にあるため、前進クラッチ31に対する現状の所定勾配による油圧変化(油圧上げ変化、油圧下げ変化)が維持される。
【0084】
Npri−Ne<Bであり、Ne−Nt>制限値2のときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS28→ステップS29→ステップS30→ステップS31→リターンへと進む。すなわち、ステップS29では、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2がセットされる。そして、ステップS31では、Ne−Nt>制限値2であり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1〜制限値2)を下回っているため、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により下げる指令が出力される。
【0085】
Npri−Ne<Bであり、Ne−Nt<制限値1のときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS28→ステップS29→ステップS30→ステップS32→ステップS33→リターンへと進む。すなわち、ステップS29では、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2がセットされる。そして、ステップS33では、Ne−Nt<制限値1であり、タービン回転数Ntが目標範囲(制限値1〜制限値2)を上回っているため、前進クラッチ31への締結油圧を所定勾配により上げる指令が出力される。
【0086】
Npri−Ne<Bであり、制限値1≦Ne−Nt≦制限値2のときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS28→ステップS29→ステップS30→ステップS32→ステップS34→リターンへと進む。すなわち、ステップS29では、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値である目標範囲を設定する制限値1と制限値2がセットされる。そして、ステップS34では、制限値1≦Ne−Nt≦制限値2であり、タービン回転数Ntが目標範囲内(制限値1〜制限値2内)にあるため、前進クラッチ31に対する現状の所定勾配による油圧変化(油圧上げ変化、油圧下げ変化)が維持される。
【0087】
次に、定常走行からコースト減速を経過して停車する際に実行されるコーストニュートラル制御作用の一例を示す図12のタイムチャートを用い、前進クラッチ31のクラッチ油圧制御作用を説明する。
【0088】
図12の時刻t1では、図4のステップS6にてコーストニュートラル制御が開始されると、直ちに前進クラッチ31の油圧低下が開始される。そして、時刻t1から遅れてエンジン回転数Neが低下を開始し、さらに、遅れてタービン回転数Ntが低下を開始する。その後、エンジン回転数Neがアイドル回転数に達する時刻t2になると、図5のフローチャートに基づきクラッチ油圧制御処理が開始される。
【0089】
図12の時刻t2から時刻t8までがNpri−Ne>Aの条件が成立する領域であり、図5のフローチャートのステップS21〜ステップS27により前進クラッチ31への油圧が制御される。
このNpri−Ne>Aの条件が成立する領域のうち、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている時刻t3,t5,t7では、前進クラッチ31への油圧が上げられる。
つまり、エンジン回転数Neより車速相当のプライマリ回転数Npriが高いときは、前進クラッチ31への油圧を上げ、プライマリ回転数Npriによるイナーシャ影響を高めることで、タービン回転数Ntが目標範囲に向かって上昇する。
一方、Npri−Ne>Aの条件が成立する領域のうち、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている時刻t4,t6では、前進クラッチ31への油圧が下げられる。
つまり、エンジン回転数Neより車速相当のプライマリ回転数Npriが高いときは、前進クラッチ31への油圧を下げ、プライマリ回転数Npriによるイナーシャ影響を低く抑えることで、タービン回転数Ntが目標範囲に向かって下降する。
したがって、図12の時刻t2から時刻t8までのNpri−Ne>Aの条件が成立する領域では、上記前進クラッチ31への油圧制御を行うことで、タービン回転数Ntが目標範囲である制限値1〜制限値2の範囲内に収束する。
【0090】
図12の時刻t11から時刻t14までがNpri−Ne<Bの条件が成立する領域であり、図5のフローチャートのステップS28〜ステップS34により前進クラッチ31への油圧が制御される。
このNpri−Ne<Bの条件が成立する領域のうち、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている時刻t12,t14では、前進クラッチ31への油圧が下げられる。
つまり、エンジン回転数Neより車速相当のプライマリ回転数Npriが低く、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っているときは、前進クラッチ31への油圧を下げ、プライマリ回転数Npriによるイナーシャ影響を低く抑えることで、タービン回転数Ntが目標範囲に向かって上昇する。
このNpri−Ne<Bの条件が成立する領域のうち、タービン回転数Ntが目標範囲を上回っている時刻t13では、前進クラッチ31への油圧が上げられる。
つまり、エンジン回転数Neより車速相当のプライマリ回転数Npriが低く、タービン回転数Ntが目標範囲を上回っているときは、前進クラッチ31への油圧を上げ、プライマリ回転数Npriによるイナーシャ影響を高めることで、タービン回転数Ntが目標範囲に向かって下降する。
したがって、図12の時刻t11から時刻t14までのNpri−Ne<Bの条件が成立する領域では、上記前進クラッチ31への油圧制御を行うことで、タービン回転数Ntが目標範囲である制限値1〜制限値2の範囲内に収束する。
【0091】
上記のように、実施例1では、停車時のクリアニュートラル制御をコースト走行域まで拡大して適用するに際し、閾値である制限値1,2による目標範囲を車速または車速に相当する値に応じて変更する構成を採用した。
この構成により、走行時にコーストニュートラル制御を実行した場合、プライマリ回転数Npriの変動に伴って前進クラッチ31の下流側に連結される部材のイナーシャ(回転慣性)が変動するにもかかわらず、前進クラッチ11がトルク容量を発生し始める寸前の状態に維持される。
したがって、コースト走行時、ニュートラル制御中の燃費向上と、加速要求に対する応答性確保と、の両立が達成される。
【0092】
実施例1では、車速に相当する値として、前進クラッチ11の出力側回転数であるプライマリ回転数Npriを用いる構成を採用した。
例えば、車速を用いて閾値である制限値1,2を設定する構成とした場合、摩擦要素である前進クラッチ11から駆動輪6,6までの間にはベルト式無段変速機構4などが配置されているため、ベルト式無段変速機構4の変速比や部品バラツキ等の影響を受ける。
これに対し、前進クラッチ11の出力側回転数であるプライマリ回転数Npriを用いることで、変速比や部品バラツキ等の影響を受けることがなく、車速を用いるよりコーストニュートラル制御の制御精度が向上する。
【0093】
実施例1では、Npri−Ne>Aである場合、プライマリ回転数Npriが低下するほど閾値である目標範囲を小さく設定し、|Ne−Nt|が目標範囲より小さくなったときの油圧を、前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧とする。Npri−Ne<Bである場合、プライマリ回転数Npriが低下するほど閾値である目標範囲を大きく設定し、|Ne−Nt|が目標範囲より大きくなったときの油圧を、前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧とする構成を採用した。
この構成により、エンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriの大小関係が変化しても、前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧が確実に検知される。
【0094】
[エンジン回転数のオフセット作用]
上記のように、(Ne−Nt)を用いたニュートラル制御をコースト走行域まで拡大して適用する場合には、前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧を、入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づいて検知できないことがあるという課題を解決することが必要である。以下、図5および図12,図13に基づき、これを反映するエンジン回転数Neのオフセット作用を説明する。
【0095】
B≦Npri−Ne≦Aであり、かつ、Ne−ΔNe<Nelimitであるときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS28→ステップS35→ステップS36→ステップS37→ステップS38へと進む。そして、ステップS38にてエンジン回転数復帰条件が不成立である間は、ステップS37→ステップS38へと進む流れが繰り返される。ステップS36では、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ上昇させる指令が出力される。ステップS37では、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている場合はクラッチ油圧を下げ、上回っている場合はクラッチ油圧を上げるというパターン2によるクラッチ油圧制御が実行される。
そして、ステップS38にてエンジン回転数復帰条件が成立であると判断されると、ステップS38からステップS39→リターンへと進む。ステップS39では、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ下降させる復帰指令が出力される。
【0096】
このように、エンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriが近づきすぎているときであって、エンジン回転数の低下が許容されないときには、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ上昇させることで、エンジン回転数Neをプライマリ回転数Npriから強制的に乖離させ、前進クラッチ31の油圧制御を確保するようにしている。
【0097】
一方、B≦Npri−Ne≦Aであり、かつ、Ne−ΔNe≧Nelimitであるときには、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS28→ステップS35→ステップS40→ステップS41→ステップS42へと進む。そして、ステップS42にてエンジン回転数復帰条件が不成立である間は、ステップS41→ステップS42へと進む流れが繰り返される。ステップS40では、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ下降させる指令が出力される。ステップS41では、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている場合はクラッチ油圧を上げ、上回っている場合はクラッチ油圧を下げるというパターン1によるクラッチ油圧制御が実行される。
そして、ステップS42にてエンジン回転数復帰条件が成立であると判断されると、ステップS42からステップS43→リターンへと進む。ステップS43では、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ上昇させる復帰指令が出力される。
【0098】
このように、エンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriが近づきすぎているときであって、エンジン回転数の低下が許容されるときには、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ下降させることで、エンジン回転数Neをプライマリ回転数Npriから強制的に乖離させ、前進クラッチ31の油圧制御を確保するようにしている。
【0099】
次に、定常走行からコースト減速を経過して停車する際に実行されるコーストニュートラル制御作用の一例を示す図12および図13のタイムチャートを用い、エンジン回転数Neのオフセット作用を説明する。
【0100】
図12の時刻t8では、B≦Npri−Ne≦Aであり、かつ、Ne−ΔNe<Nelimitであるという条件が成立し、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS28→ステップS35→ステップS36へと進むことで、エンジン回転数Neがオフセット量NeOFFSETだけ上昇する。そして、エンジン回転数復帰条件が不成立である時刻t8から時刻t11までの間においては、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っている時刻t9では、前進クラッチ31の油圧を下げる。そして、タービン回転数Ntが目標範囲を上回っている時刻t10では、前進クラッチ31の油圧を上げるというクラッチ油圧制御が実行される。
そして、時刻t11にてエンジン回転数復帰条件が成立すると、図5のフローチャートにおいて、ステップS38からステップS39→リターンへと進むことで、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ下降し、元のエンジン回転数Neに復帰する。
【0101】
図13の時刻t8では、B≦Npri−Ne≦Aであり、かつ、Ne−ΔNe≧Nelimitであるという条件が成立し、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS28→ステップS35→ステップS40へと進むことで、エンジン回転数Neがオフセット量NeOFFSETだけ下降する。そして、エンジン回転数復帰条件が不成立である時刻t8から時刻t11までの間においては、タービン回転数Ntが目標範囲を下回っていると前進クラッチ31の油圧を上げ、タービン回転数Ntが目標範囲を上回っていると、前進クラッチ31の油圧を下げるというクラッチ油圧制御が実行される。
そして、時刻t11にてエンジン回転数復帰条件が成立すると、図5のフローチャートにおいて、ステップS42からステップS43→リターンへと進むことで、エンジン回転数Neをオフセット量NeOFFSETだけ上昇し、元のエンジン回転数Neに復帰する。
【0102】
上記のように、実施例1では、B≦Npri−Ne≦Aである場合、エンジン回転数Neをオフセット(現在のエンジン回転数Neに対して増加または減少)させる構成を採用した。
すなわち、B≦Npri−Ne≦Aであり、エンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriが近づきすぎている状況では、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づいて、前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧を検知することができない。
したがって、前進クラッチ31のトルク容量が発生し始める油圧を検知できない状況においては、エンジン回転数Neをオフセットさせることで、トルクコンバータ2の入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づく前進クラッチ31の油圧制御が確保される。
【0103】
実施例1では、エンジン回転数Neを増加させるオフセット制御を行う構成を採用した(ステップS36)。
例えば、エンジン回転数Neを低下させるとオイルポンプ吐出圧が低下する。オイルポンプ吐出圧が低下することにより、ベルト挟持圧が低下してベルト滑りが発生したり、ベルト式無段変速機構4のロー側への戻りが行われなかったりする、という問題が生じる。
これに対し、エンジン回転数Neを増加させることで、前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧が検知されると共に、オイルポンプ吐出圧の低下による問題の発生を防止する。
【0104】
実施例1では、エンジン回転数Neの増加後、Ne−Npri>NeOFFSET+Bとなった場合(ステップS38でYES)、オフセット量NeOFFSETだけ増加させたエンジン回転数Neを増加前のエンジン回転数Neに減少させる構成を採用した(ステップS39)。
例えば、エンジン回転数Neの増加後、増加前のエンジン回転数Neに減少させることなく増加状態を維持すると、上昇させたエンジン回転数Neを維持するための燃料消費量が増大する。
これに対し、エンジン回転数Neの復帰条件が成立すると、増加前のエンジン回転数Neに減少させることで、入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づいて前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧の検知を確保しながら、燃費の悪化を招くことが抑制される。
【0105】
実施例1では、エンジン回転数Neを減少させるオフセット制御を行う構成を採用した(ステップS40)。
つまり、エンジン回転数Neを減少させた場合、エンジン回転数Neを増加させる場合に比べ燃費消費量が減少する。
したがって、エンジン回転数Neを減少させるオフセット制御を行うことで、入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づいて前進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧の検知を確保しながら、より一層の燃費向上が達成される。
【0106】
実施例1では、エンジン回転数Neを減少させることができないと判断した場合(ステップS35でYES)、エンジン回転数Neを増加させる構成を採用した(ステップS36)。
例えば、エンジン回転数Neを低下させた場合、エンジンストールが生じたり、振動が発生したりするようなことがある。
したがって、エンジン回転数Neを減少させることに支障がある場合は、エンジン回転数Neを増加させることで、発進クラッチ31がトルク容量を発生し始める油圧が検知されると共に、エンジンストールや振動が防止される。
【0107】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両のコーストニュートラル制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0108】
(1) エンジン1の駆動力が伝達される流体伝動装置(トルクコンバータ2)と、
前記流体伝動装置(トルクコンバータ2)と駆動輪6,6との間に配置される摩擦要素(前進クラッチ31)と、
前記摩擦要素(前進クラッチ31)が締結状態である走行中、少なくともアクセルペダルが解放されていることを含む摩擦要素解放条件が成立すると、前記摩擦要素(前進クラッチ31)を解放状態とするコーストニュートラル制御手段(図4のステップS6)と、を備え、
前記コーストニュートラル制御手段(図5)は、
前記摩擦要素(前進クラッチ31)の解放後、前記摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧を、前記流体伝動装置(トルクコンバータ2)の入出力回転速度差(Ne−Nt)と閾値とから検知するトルク発生油圧検知手段(ステップS23,S25,S30,S32)と、
前記トルク発生油圧検知手段(ステップS23,S25,S30,S32)により検知された前記摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧に基づいて、前記摩擦要素(前進クラッチ31)に供給する油圧を制御する摩擦要素圧制御手段(ステップS24,S26,S27,S31,S33,S34)と、
前記閾値を車速または車速に相当する値に応じて変更する閾値変更手段(ステップS22,S29)と、
を有する。
このため、コースト走行時、ニュートラル制御中の燃費向上と、加速要求に対する応答性確保と、の両立を達成することができる。
【0109】
(2) 前記閾値変更手段(ステップS22,S29)は、前記車速に相当する値として、前記摩擦要素(前進クラッチ31)の出力側回転数(プライマリ回転数Npri)を用いる。
このため、(1)の効果に加え、摩擦要素(前進クラッチ11)の下流側に配置される部品による誤差影響を受けることがなく、車速を用いる場合に比べ、コーストニュートラル制御の制御精度を向上させることができる。
【0110】
(3) 前記閾値変更手段(ステップS22,S29)は、(エンジン回転数)<(車速または車速に相当する値)である場合、前記車速または車速に相当する値が低下するほど前記閾値を小さく設定し、(エンジン回転数)>(車速または車速に相当する値)である場合、前記車速または車速に相当する値が低下するほど前記閾値を大きく設定し(図6および図7)、
前記トルク発生油圧検知手段(ステップS23,S25,S30,S32)は、(エンジン回転数)<(車速または車速に相当する値)である場合、前記流体伝動装置(トルクコンバータ2)の入出力回転速度差(Ne−Nt)の絶対値が前記閾値より小さくなったときの油圧を、前記摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧とし(ステップS25)、(エンジン回転数)>(車速または車速に相当する値)である場合、前記流体伝動装置(トルクコンバータ2)の入出力回転速度差(Ne−Nt)の絶対値が前記閾値より大きくなったときの油圧を、前記摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧とする(ステップS31)。
このため、上記(1),(2)の効果に加え、エンジン回転数Neと車速または車速に相当する値(プライマリ回転数Npri)の大小関係が変化しても、摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧を確実に検知することができる。
【0111】
(4) 前記コーストニュートラル制御手段(図5)は、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値である場合、前記エンジン回転数Neをオフセットさせるオフセット手段(ステップS35〜ステップS43)を有する。
このため、上記(1)〜(3)の効果に加え、摩擦要素(前進クラッチ31)のトルク容量が発生し始める油圧を検知できない状況においては、エンジン回転数Neをオフセットさせることで、流体伝動装置(トルクコンバータ2)の入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づく摩擦要素(前進クラッチ31)の油圧制御を確保することができる。
【0112】
(5) 前記オフセット手段(ステップS35〜ステップS43)は、前記エンジン回転数Neを増加させる(ステップS36)。
このため、上記(4)の効果に加え、エンジン回転数Neを増加させることで、摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧を検知できると共に、オイルポンプ吐出圧の低下による問題の発生を防止することができる。
【0113】
(6) 前記オフセット手段(ステップS35〜ステップS43)は、前記エンジン回転数Neの増加後、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値となった場合、前記エンジン回転数Neを増加前の回転速度に減少させる。
このため、上記(5)の効果に加え、エンジン回転数Neの復帰条件が成立すると、増加前のエンジン回転数Neに減少させることで、入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づいて摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧の検知を確保しながら、燃費の悪化を招くことを抑制することができる。
【0114】
(7) 前記オフセット手段(ステップS35〜ステップS43)は、前記エンジン回転数Neを減少させる(ステップS40)。
このため、上記(4)の効果に加え、エンジン回転数Neを減少させるオフセット制御を行うことで、入出力回転速度差(Ne−Nt)に基づいて摩擦要素(前進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧の検知を確保しながら、より一層の燃費向上を達成することができる。
【0115】
(8) 前記オフセット手段(ステップS35〜ステップS43)は、前記エンジン回転数Neを減少させることができないと判断した場合(ステップS35でYES)、前記エンジン回転数Neを増加させる(ステップS36)。
このため、上記(7)の効果に加え、エンジン回転数Neを減少させることに支障がある場合は、エンジン回転数Neを増加させることで、摩擦要素(発進クラッチ31)がトルク容量を発生し始める油圧が検知できると共に、エンジンストールや振動を防止することができる。
【0116】
以上、本発明の車両のコーストニュートラル制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0117】
実施例1では、入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値として制限値1,2による目標範囲を設定する例を示した。つまり、クリアニュートラル制御でのクラッチ油圧は、バラツキ等により変動するため、目標範囲のように幅を持たせて常にクリアニュートラル検知を行っている。しかし、入出力回転速度差(Ne−Nt)の閾値として1つの目標値を設定し、閾値との偏差によるフィードバック制御により摩擦要素の油圧制御を行うような例としても良い。
【0118】
実施例1では、摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧にて制御している。これは、トルク容量が発生する直前を検知することが困難(制御ロジックが複雑)となるため、簡易的に上記油圧を検知している。しかし、トルク容量を発生し始める直前の油圧を指示するようにしても良い(例えば、トルク容量を発生し始める油圧から所定油圧低下させた油圧を指示する)。
【0119】
実施例1では、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値である場合、エンジン回転数Neのオフセット処理を実施し、摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧を検知できるようにしている。しかし、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値である場合、クラッチ油圧として、学習制御等により取得した初期学習値を用いるようにしても良い。
【0120】
実施例1では、プライマリ回転数Npriが低下しているという条件下で、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値である場合、エンジン回転数Neを増加または減少させ、復帰条件が成立したら元のエンジン回転数Neに復帰させる例を示した。しかし、図14に示すように、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値である場合、エンジン回転数Neを増加させた後、プライマリ回転数Npriが途中で上がってきた場合、エンジン回転数Neとプライマリ回転数Npriの乖離幅を確保するようにエンジン回転数Neを低下させるような例としても良い。さらに、図15に示すように、プライマリ回転数Npriがエンジンアイドル回転数以下の場合は、常にエンジン回転数Ne=プライマリ回転数Npri+オフセット量NeOFFSETにより制御するようにしても良い。
【0121】
実施例1では、本発明のコーストニュートラル制御装置を、ベルト式無段変速機(ベルトCVT)を搭載した車両に適用する例を示した。しかし、本発明のコーストニュートラル制御装置は、トロイダル式無段変速機や複数の変速段を持つ自動変速機(AT)を搭載した車両に対しても適用することができる。要するに、エンジン、流体伝動装置、摩擦要素、駆動輪を備えた車両であれば適用できる。
【符号の説明】
【0122】
1 エンジン
2 トルクコンバータ(流体伝動装置)
3 前後進切替機構
31 前進クラッチ(摩擦要素)
4 ベルト式無段変速機構
5 終減速機構
6,6 駆動輪
7 変速油圧コントロールユニット
8 CVTコントロールユニット
80 プライマリ回転センサ
84 インヒビタースイッチ
85 ブレーキスイッチ
86 アクセル開度センサ
87 車速センサ
88 タービン回転数センサ
90 エンジンコントロールユニット
91 エンジン回転数センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動力が伝達される流体伝動装置と、
前記流体伝動装置と駆動輪との間に配置される摩擦要素と、
前記摩擦要素が締結状態である走行中、少なくともアクセルペダルが解放されていることを含む摩擦要素解放条件が成立すると、前記摩擦要素を解放状態とするコーストニュートラル制御手段と、を備え、
前記コーストニュートラル制御手段は、
前記摩擦要素の解放後、前記摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧を、前記流体伝動装置の入出力回転速度差と閾値とから検知するトルク発生油圧検知手段と、
前記トルク発生油圧検知手段により検知された前記摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧に基づいて、前記摩擦要素に供給する油圧を制御する摩擦要素圧制御手段と、
前記閾値を車速または車速に相当する値に応じて変更する閾値変更手段と、
を有することを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両のコーストニュートラル制御装置において、
前記閾値変更手段は、前記車速に相当する値として、前記摩擦要素の出力側回転数を用いることを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された車両のコーストニュートラル制御装置において、
前記閾値変更手段は、(エンジン回転数)<(車速または車速に相当する値)である場合、前記車速または車速に相当する値が低下するほど前記閾値を小さく設定し、(エンジン回転数)>(車速または車速に相当する値)である場合、前記車速または車速に相当する値が低下するほど前記閾値を大きく設定し、
前記トルク発生油圧検知手段は、(エンジン回転数)<(車速または車速に相当する値)である場合、前記流体伝動装置の入出力回転速度差の絶対値が前記閾値より小さくなったときの油圧を、前記摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧とし、(エンジン回転数)>(車速または車速に相当する値)である場合、前記流体伝動装置の入出力回転速度差の絶対値が前記閾値より大きくなったときの油圧を、前記摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧とすることを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか1項に記載された車両のコーストニュートラル制御装置において、
前記コーストニュートラル制御手段は、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値である場合、前記エンジン回転数をオフセットさせるオフセット手段を有することを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載された車両のコーストニュートラル制御装置において、
前記オフセット手段は、前記エンジン回転数を増加させることを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載された車両のコーストニュートラル制御装置において、
前記オフセット手段は、前記エンジン回転数の増加後、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値となった場合、前記エンジン回転数を増加前の回転速度に減少させることを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【請求項7】
請求項4に記載された車両のコーストニュートラル制御装置において、
前記オフセット手段は、前記エンジン回転数を減少させることを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載された車両のコーストニュートラル制御装置において、
前記オフセット手段は、前記エンジン回転数を減少させることができないと判断した場合、前記エンジン回転数を増加させることを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【請求項1】
エンジンの駆動力が伝達される流体伝動装置と、
前記流体伝動装置と駆動輪との間に配置される摩擦要素と、
前記摩擦要素が締結状態である走行中、少なくともアクセルペダルが解放されていることを含む摩擦要素解放条件が成立すると、前記摩擦要素を解放状態とするコーストニュートラル制御手段と、を備え、
前記コーストニュートラル制御手段は、
前記摩擦要素の解放後、前記摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧を、前記流体伝動装置の入出力回転速度差と閾値とから検知するトルク発生油圧検知手段と、
前記トルク発生油圧検知手段により検知された前記摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧に基づいて、前記摩擦要素に供給する油圧を制御する摩擦要素圧制御手段と、
前記閾値を車速または車速に相当する値に応じて変更する閾値変更手段と、
を有することを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両のコーストニュートラル制御装置において、
前記閾値変更手段は、前記車速に相当する値として、前記摩擦要素の出力側回転数を用いることを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された車両のコーストニュートラル制御装置において、
前記閾値変更手段は、(エンジン回転数)<(車速または車速に相当する値)である場合、前記車速または車速に相当する値が低下するほど前記閾値を小さく設定し、(エンジン回転数)>(車速または車速に相当する値)である場合、前記車速または車速に相当する値が低下するほど前記閾値を大きく設定し、
前記トルク発生油圧検知手段は、(エンジン回転数)<(車速または車速に相当する値)である場合、前記流体伝動装置の入出力回転速度差の絶対値が前記閾値より小さくなったときの油圧を、前記摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧とし、(エンジン回転数)>(車速または車速に相当する値)である場合、前記流体伝動装置の入出力回転速度差の絶対値が前記閾値より大きくなったときの油圧を、前記摩擦要素がトルク容量を発生し始める油圧とすることを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか1項に記載された車両のコーストニュートラル制御装置において、
前記コーストニュートラル制御手段は、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値である場合、前記エンジン回転数をオフセットさせるオフセット手段を有することを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載された車両のコーストニュートラル制御装置において、
前記オフセット手段は、前記エンジン回転数を増加させることを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載された車両のコーストニュートラル制御装置において、
前記オフセット手段は、前記エンジン回転数の増加後、|(エンジン回転数)−(車速または車速に相当する値)|≦所定値となった場合、前記エンジン回転数を増加前の回転速度に減少させることを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【請求項7】
請求項4に記載された車両のコーストニュートラル制御装置において、
前記オフセット手段は、前記エンジン回転数を減少させることを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載された車両のコーストニュートラル制御装置において、
前記オフセット手段は、前記エンジン回転数を減少させることができないと判断した場合、前記エンジン回転数を増加させることを特徴とする車両のコーストニュートラル制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−172744(P2012−172744A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34241(P2011−34241)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
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