説明

車両の制御装置

【課題】車両減速時にエンジンへの燃料供給の停止およびスロットル弁の開動作を行うことでモータ・ジェネレータを回生動作させる車両において、回生から力行に移行直後に発生するエンジンの一時的な過大トルクにより車両に生じるショックを抑制する。
【解決手段】エンジンおよびモータ・ジェネレータを備えた車両において、車両減速時にエンジンへの燃料供給を停止し、同エンジンの電子制御スロットル弁の開度を大きくしてモータ・ジェネレータに回生動作を行わせる車両の制御装置を前提とする。回生動作終了直前のエンジンの回転数と、エンジン1の電子制御スロットル弁の開度とに基づいて、力行移行直後に発生する一時的に過大なエンジントルクの大きさに釣り合う回生トルクTmを推定する(ST3)。力行移行後、所定時間経過時に推定した回生トルクTmをモータ・ジェネレータに発生させる(ST5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンおよびモータ・ジェネレータを搭載した車両の制御装置に関する。特に、回生動作から力行動作に移行した直後に発生する車両のショックを抑制するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、走行用駆動源としてエンジンおよびモータ・ジェネレータを備えることで、燃費の向上を図ったハイブリッド車両が普及している。このようなハイブリッド車両の制御装置の一例が特許文献1に開示されている。同文献に開示されたハイブリッド車両の制御装置は、エンジンの始動直後のギヤを切り替える瞬間のショックを低減するために、モータ・ジェネレータの慣性トルクを補正して、上記ギヤを切り替える瞬間にアシスト入力軸回転数の変化を抑制し、ショックを低減するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4326925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般にハイブリッド車両がアクセルオフの状態で減速するとき、エンジンおよびモータ・ジェネレータは車輪側から駆動される被駆動の状態となるが、このとき、モータ・ジェネレータを発電機として機能させることで、バッテリーを充電する回生動作が行われる。回生効率を高めるためには、エンジンブレーキの作用をできるだけ小さくすることが望ましい。そのためには、回生時にエンジンへの燃料供給を停止するとともに、スロットル弁の開度をできるだけ大きくすることが望ましい。
【0005】
図5は、このような回生動作を実行させた場合における、アクセルのON/OFF状態、モータ回生のON/OFF状態、スロットル弁の開度、エンジントルク、車両の加速度などの一例を示したタイムチャートである。このタイムチャートでは、時間t0でアクセルONからアクセルOFFとされ、力行状態(モータ回生OFF)から回生状態(モータ回生ON)に移行している。この回生状態では、エンジンおよびモータ・ジェネレータが被駆動の状態となって、車両が減速している(車両の加速度がマイナスになっている)が、この間、モータ・ジェネレータによる回生効率を高めるために、スロットル弁の開度が大きくされ、エンジントルクの大きさ(エンジンブレーキの作用)が小さくなるように制御される。
【0006】
時間t1では、アクセルOFFからアクセルONとされ、回生状態(モータ回生ON)から力行状態(モータ回生OFF)へ移行している。力行状態へ移行すると同時に、一旦スロットル弁の開度が全閉近くまで閉じられた後、アクセル踏み込み量に応じたスロットル制御が行われる。このことから、力行移行直後の時間t2において一時的に過剰なエンジントルクが発生してしまい、これが車両にショックを与え、乗員に不快感を与えるおそれがあった。
【0007】
特許文献1に開示されているハイブリッド車両の制御装置は、エンジンの始動直後のギヤを切り替える瞬間のショックを低減するために、モータ・ジェネレータの慣性トルクを補正するものの、回生動作中にスロットル弁を全開にし、その後力行に移行した直後の急激なエンジントルクの上昇に着目したものではない。また、同文献のハイブリッド車両の制御装置は、エンジンの回転速度とモータ・ジェネレータの回転速度との差に応じてモータ・ジェネレータのトルクを補正することにより、エンジンの始動直後のギヤを切り替える瞬間のショックを低減するものであるが、ショックの大きさを予め予測するものではないため、ショック抑制のタイミングが遅くなる場合がある。
【0008】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、車両減速時にエンジンへの燃料供給の停止およびスロットル弁の開動作を行うことでモータ・ジェネレータを回生動作させる車両において、回生から力行に移行した直後に発生するエンジンの一時的な過大トルクにより車両に生じるショックを抑制することを可能とした車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の車両の制御装置は、エンジンおよびモータ・ジェネレータを備えた車両において、車両減速時に前記エンジンへの燃料供給を停止し、同エンジンのスロットル弁の開度を大きくして前記モータ・ジェネレータに回生動作を行わせるものを前提としており、回生動作終了直前の前記エンジンの回転数と、回生動作終了直前の前記エンジンのスロットル弁の開度とに基づいて、力行移行直後に発生する一時的に過大なエンジントルクの大きさに釣り合う回生トルクを推定する推定手段と、前記力行移行後、所定時間経過時に前記推定手段が推定した回生トルクを前記モータ・ジェネレータに発生させる回生制御手段と、を備えることを特徴としている。
【0010】
かかる構成を備える車両の制御装置によれば、力行移行直後に発生する一時的に過大なエンジントルクの大きさに釣り合う回生トルクが推定され、力行移行後、所定時間経過時にその回生トルクをモータ・ジェネレータが発生するので、力行に移行直後に発生する上記過大なエンジントルクと上記回生トルクとが打ち消し合い、これにより、車両に発生していたショックが抑制されるようになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両減速時にエンジンへの燃料供給の停止およびスロットル弁の開動作を行うことでモータ・ジェネレータを回生動作させる車両において、力行移行直後に発生するエンジンの一時的に過大トルクに起因して車両に発生するショックが解消ないし抑制される。また、エンジンの一時的に過大なトルクが発生する前に回生トルクを推定するため、タイムラグなく、車両に発生するショックを解消ないし抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の制御装置を適用したハイブリッド車両におけるシステム構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両の制御装置において、回生状態から力行状態に移行する場合における各種の数値の変化を示したタイムチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係る車両の制御装置が実行する処理動作の具体的な手順例を示したフローチャートである。
【図4】回生動作終了直前のエンジン回転数Ne1と、回生動作終了直前の電子制御スロットル弁の開度θと、ショックを打ち消すのに必要な回生トルクTmとの関係を設定したマップの一例である。
【図5】従来例に係る車両の制御装置において、回生状態から力行状態に移行する場合における各種の数値の変化を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置について説明する。本実施形態では、ハイブリッド車両の制御装置を例に挙げて説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態におけるハイブリッド車両100は、走行用駆動源として、エンジン1およびモータ・ジェネレータ2を備えている。エンジン1の駆動力は、クラッチ3、変速機4、駆動軸5等を介して駆動輪6に伝達される。モータ・ジェネレータ2の駆動力は、減速機等からなる動力伝達機構7、駆動軸5等を介して駆動輪6に伝達される。エンジン1の運転は、中央制御装置8によって制御され、モータ・ジェネレータ2の力行および回生動作は、モータ制御装置9により制御される。10は、モータ・ジェネレータ2の電源としてのモータ用バッテリーである。
【0015】
エンジン1は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどであり、その吸気系に電子制御スロットル弁11を備えている。
【0016】
モータ・ジェネレータ2は、走行用駆動源として機能するとともに、エンジン1、駆動輪6などに駆動される回生状態で発電機としても機能する。
【0017】
モータ制御装置9は、車両の走行に必要な駆動力をモータ・ジェネレータ2が出力するように、モータ・ジェネレータ2に供給する電力を制御する。また、モータ制御装置9は、車両が減速走行をしているときに、回生動作を行うモータ・ジェネレータ2から出力される電力によりモータバッテリー10を充電する。このようなモータ制御装置9は、例えばインバータあるいはDC−DCコンバータを備えるものである。
【0018】
中央制御装置8は、中央演算装置、メモリ、入出力インタフェース等からなるマイクロコンピュータを主体に構成されている。この中央制御装置8の入力インタフェースには、アクセル操作量検出センサ21から出力されるアクセル操作量情報a、エンジン回転数センサ22から出力されるエンジン回転数情報b、スロットル開度センサ16から出力される、電子制御スロットル弁11のスロットル開度情報c、モータ用バッテリー10の充電量Eを検出する充電量検出センサ17から出力される充電量情報eなどが入力される。一方、中央制御装置8の出力インタフェースからは、電子制御スロットル11に対する弁開度指令情報gが、変速機4に対する減速比指令情報hが、モータ制御装置9に対する指令情報iが出力される。
【0019】
図2は、上記ハイブリッド車100において、回生状態から力行状態に移行する際における、アクセルのON/OFF状態、モータ回生(回生動作)のON/OFF状態、電子制御スロットル弁11の弁開度、エンジントルク、車両の加速度などを示したタイムチャートである。このタイムチャートでは、時間t0でアクセルONからアクセルOFFとされており、これを検出した中央制御装置8は、力行状態(モータ回生OFF)から回生状態(モータ回生ON)に移行させるべく、モータ制御装置7に回生指令iを送信する。さらに、中央制御装置8は、エンジン1への燃料供給を停止するとともに、回生動作(エネルギー回収)の効率を上げるべく、電子制御スロットル弁11に弁開度指令情報gを送信して、弁開度を非回生時よりも大きくさせる(例えば全開にする)。
【0020】
その後、時間t1において、アクセルOFFからアクセルONとされると、中央制御装置8は、回生から力行移行直後に発生する一時的に過大なエンジントルクの大きさに釣り合う回生トルクTmを推定する。
【0021】
ここで、回生トルクTmの推定は、回生動作終了直前のエンジン回転数Ne1と、回生動作終了直前の電子制御スロットル弁11の開度θと、エンジン回転数Ne1、弁開度θおよび上記回生トルクTmの対応関係を設定した図4に示すようなマップとに基づいて行われる。同図に示すマップは、横軸が回生動作終了直前のエンジン回転数Ne1を示し、縦軸が推定される回生トルクTmを示しており、回生動作終了直前の電子制御スロットル弁11の各開度θ1〜θ3ごとに、エンジン回転数Ne1と上記回生トルクとの関係を表している。すなわち、中央制御装置8は、回生動作終了直前のエンジン回転数Ne1と、回生動作終了直前の電子制御スロットル弁11の開度θと、をマップに当てはめて得られる値を推定される上記回生トルクTmとして読み出す。
【0022】
なお、マップに設定される各種パラメータの関係は、シミュレーション、実験等により求めることができる。また、上記マップでは、回生動作終了直前の電子制御スロットル弁11の開度θは3種類のみ示しているが、開度θの種類は3種類より多くても少なくてもよい。また、上記マップでは、各弁開度θ1〜θ3について、エンジン回転数Ne1と回生トルクTmとが線型の関係にあるが、実際に、シミュレーション、実験等により求められた場合の関係は、線型の関係になるとは限らない。ただし、回生動作終了直前のエンジン回転数Ne1が高くなるほど、前記回生トルクTmが大きくなり、回生動作終了直前の電子制御スロットル弁11の開度θが大きくなるほど、前記回生トルクTmが大きくなることに変わりはない。
【0023】
中央制御装置8は、力行移行後、所定時間Tの経過時(時間t3)に推定した回生トルクTmをモータ・ジェネレータ2に所定短時間T1だけ発生させる。そうすると、時間t2の前後において、発生するエンジンの一時的に過大なトルクと、発生させた上記回生トルクTmが駆動軸5より上流側で互いに打ち消し合う。その結果、エンジンの一時的に過大になるトルクに起因して車両に発生していたショックが解消ないし抑制されるようになる。なお、所定時間Tは、力行移行後エンジントルクが一時的に過大になるまでの時間とすることが望ましく、この所定時間Tは、経験値、実験、シミュレーション等から決定することができる。
【0024】
以下、上記制御を実行する際の具体的な手順例について図3に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0025】
ステップST1において、中央制御装置8は、回生状態から力行状態に移行したか否かを判定する。ここで肯定判定した場合は、通常の力行状態における電子制御スロットル制御を開始し(ステップST2)、力行状態に移行した直後に、力行移行直後に発生する一時的に過大なエンジントルクの大きさに釣り合う回生トルクTmを推定する(ステップST3)。この回生トルクTmは、既述したように、回生動作終了直前のエンジン回転数Ne1と、回生動作終了直前の電子制御スロットル弁11の開度θとから、既述のマップ(図4参照)を参照して求められる。
【0026】
ステップST4において、中央制御装置8は、上記回生トルクの推定値Tmが所定の閾値を超えるか否かを判定する。ここで、肯定判定した場合は、その後、一時的に過大なエンジントルクが発生するものとみなして、ステップST5へ移行する。一方、否定判定した場合には、その後、一時的に過大なエンジントルクは発生しないものとみなして、ステップST7へ移行する。
【0027】
ステップST5において、中央制御装置8は、力行移行後所定時間Tが経過したか否かを判定する。ここで、肯定判定した場合、ステップST6に移行し、否定判定した場合はこの判定を繰り返す。
【0028】
ステップST6において、中央制御装置8は、モータ制御装置9を介して、モータ・ジェネレータ2に対して、前記ST3で推定した回生トルクTmを所定短時間T1だけ発生させる。これにより、時間t2の前後において一時的に過大なエンジントルクと所定短時間T1だけ発生させた回生トルクTmが駆動軸5より上流側(駆動力源側)で互いに打ち消し合い、車両に発生するショックが解消ないし抑制される。
【0029】
ステップST7において、中央制御装置8は、モータ制御装置9を介して、通常のモータアシスト制御(力行制御)を実行する。
【0030】
一方、ステップST1で否定判定した後、中央制御装置8は、電子制御スロットル弁11を全開状態にし(ステップST8)、エンジン1への燃料供給を停止するとともに、モータ制御装置9に対して回生動作を行わせる(ステップST9)。既に、電子制御スロットル弁11が全開状態にあり、エンジン1への燃料供給が停止され、回生動作が行われている場合は、これらの状態および動作が力行状態に移行するまで継続される。
【0031】
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、回生から力行に移行直後に発生するエンジンの一時的に過大なトルクに釣り合う回生トルクTmを推定し、力行に移行後、所定時間Tが経過した時にその回生トルクTmをモータ・ジェネレータ2が発生するようになっている。これにより、力行移行直後に一時的に発生する過大なエンジントルクを回生トルクTmによって駆動輪よりも駆動源側で打ち消すことができ、車両に発生するショックが解消ないし抑制される。また、一時的に過大なエンジントルクが発生する前に上記回生トルクの推定値Tmが求められるため、タイムラグなく、車両に発生するショックを解消ないし抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、例えば、エンジンおよびモータ・ジェネレータを搭載したハイブリッド車両の制御装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 エンジン
2 モータ・ジェネレータ
8 中央制御装置
9 モータ制御装置
11 電子制御スロットル弁
16 スロットル開度センサ
21 アクセル操作量検出センサ
22 エンジン回転数センサ
100 ハイブリッド車両(車両)
b エンジン回転数情報
c スロットル開度情報
g 弁開度指令情報
i モータ制御装置に対する指令情報


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンおよびモータ・ジェネレータを備えた車両において、車両減速時に前記エンジンへの燃料供給を停止し、同エンジンのスロットル弁の開度を大きくして前記モータ・ジェネレータに回生動作を行わせる車両の制御装置において、
回生動作終了直前の前記エンジンの回転数と、回生動作終了直前の前記エンジンのスロットル弁の開度とに基づいて、力行移行直後に発生する一時的に過大なエンジントルクの大きさに釣り合う回生トルクを推定する推定手段と、
前記力行移行後、所定時間経過時に前記推定手段が推定した回生トルクを前記モータ・ジェネレータに発生させる回生制御手段と、
を備えることを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−71585(P2013−71585A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211767(P2011−211767)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】