車両の制御装置
【課題】車両の走行中に駆動力源が停止された後に、駆動力源が再始動されたときに発生する変速機の係合ショックや係合部の引きずりを低減することが可能な制御を実現する。
【解決手段】車両の走行中にIG−Off(IG−On→IG−Off)があり、その後に、変速機の油圧低下が検出された場合には、車両の走行中に変速機の変速段を高速段Hiに設定(変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を実行する。このようにして変速機を高速段Hiとして変速比を最も小さい値としておくことにより、エンジンの再始動時に、変速機の入力軸の回転数と出力軸の回転数とに差があっても、その回転数差による係合ショックや係合部の引きずりを低減することができる。
【解決手段】車両の走行中にIG−Off(IG−On→IG−Off)があり、その後に、変速機の油圧低下が検出された場合には、車両の走行中に変速機の変速段を高速段Hiに設定(変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を実行する。このようにして変速機を高速段Hiとして変速比を最も小さい値としておくことにより、エンジンの再始動時に、変速機の入力軸の回転数と出力軸の回転数とに差があっても、その回転数差による係合ショックや係合部の引きずりを低減することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、特に、走行用の駆動力源としてエンジンと電動機とを備え、電動機が変速機を介して駆動輪に連結された車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、車両に搭載されたエンジン(内燃機関)からの排気ガスの排出量低減及び燃料消費率(燃費)の向上が望まれており、これを満足する車両として、走行用の駆動力源としてエンジンと電動機とを備えたハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車両が実用化されている。
【0003】
車両に搭載されるハイブリッドシステムの1つとして、例えば、サンギヤ、リングギヤ及びプラネタリキャリヤ(ピニオンギヤ)を回転要素とする機構であって、エンジンの出力を第1モータジェネレータ及び伝達軸(リングギヤ軸)へ分配(もしくはエンジンの出力と第1モータジェネレータの出力とを合成して伝達軸に出力)する動力分割機構と、第2モータジェネレータと、この第2モータジェネレータと駆動輪(出力軸)との間に設けられた変速機と、第1及び第2モータジェネレータとの間で電力の入出力が可能な蓄電装置(バッテリ)とを備え、第2モータジェネレータからの動力を変速機を介して駆動輪に出力するシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ハイブリッド車両に適用される変速機としては、摩擦係合要素であるクラッチやブレーキと遊星歯車装置とを用いて変速段(変速比)を設定するものがある。例えば、摩擦係合要素として2個の油圧式のブレーキを備え、一方のブレーキを係合し、他方のブレーキを解放する変速段(例えば低速段)と、他方のブレーキを係合し、一方のブレーキを解放する変速段(例えば高速段)とを切り替える自動変速機がある。そして、このような変速機の摩擦係合要素(ブレーキ)を係合/解放する油圧は、エンジンの動力により駆動される機械式オイルポンプや、電動モータにて駆動される電動オイルポンプによって供給されている。
【0005】
なお、ハイブリッド車両において、ハイブリッドシステムの起動/停止に関する技術として、下記の特許文献2に記載の技術がある。この特許文献2に記載の技術では、高速走行中に、車両起動停止スイッチがエンジン停止となる位置(Off位置やReady−Off)に操作された場合には、エンジン停止を禁止することで、バッテリの放電量が上限放電量を超えないようにすることで、バッテリを保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−120639号公報
【特許文献2】特開2007−216833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記したハイブリッド車両において、走行中にユーザ(ドライバ等)がハイブリッドシステムの停止操作(IG−Off操作)を行った場合にはエンジンが停止する場合がある。エンジンが停止すると、オイルポンプ(機械式オイルポンプや電動オイルポンプ等)も停止するので、変速機の油圧が低下して摩擦係合要素が解放状態になる。この後(走行中のIG−Off後)に、再始動操作(IG−On操作)が行われた場合はエンジンが再始動されるが、エンジンが再始動すると、これに伴って変速機(油圧制御回路)の油圧が立ち上がって変速機の摩擦係合要素が係合するようになる。このとき、変速機の出力軸は駆動輪にて被駆動回転されているので、その出力軸の回転数と変速機の入力軸(モータジェネレータ側)の回転数との間には差があり、こうした回転数差がある状態で変速機が係合すると、その係合時にショックが発生する場合がある。また、変速機の係合部(摩擦係合要素)の引きずりが懸念される。
【0008】
その対策として、エンジンを始動する際に、上記第2モータジェネレータを駆動して変速機の入力側の回転数を出力側の回転数に合わせるという制御(同期制御)が考えられるが、この場合、低温時などにおけるバッテリの出力制限(Wout)によって、第2モータジェネレータを駆動(トルク出力)できない場合には、再始動時の係合ショックや係合部の引きずりを低減することはできない。
【0009】
なお、上記特許文献2に記載の技術は、高速走行中に、車両起動停止スイッチがエンジン停止となる位置に操作された場合に、強制的なエンジン停止を禁止する技術であって、エンジン停止の後にIG−On操作された場合については考慮されておらず、また、走行中のエンジン停止による変速機の油圧低下についても考慮されていない。
【0010】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、車両走行中に駆動力源の停止があった後、駆動力源が再始動したときに発生する変速機の係合ショックや係合部の引きずりを低減することが可能な車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、走行用の駆動力源と、油圧式の変速機とを備え、前記駆動力源から駆動輪への動力伝達の遮断が可能な断接機構が設けられた車両の制御装置において、車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、前記変速機の油圧が低下したことを条件に、車両の走行中に前記変速機の変速比を小さい側の変速比に設定(具体的には、変速機の変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を実行することを特徴としている。
【0012】
より具体的には、走行用の駆動力源としてのエンジン及び電動機と、油圧式の変速機とを備え、前記電動機が前記変速機を介して駆動輪に連結された車両の制御装置において、車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、前記変速機の油圧が低下したことを条件に、車両の走行中に前記変速機の変速比を小さい側の変速比に設定(変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を実行することを特徴としている。
【0013】
本発明によれば、車両の走行中に駆動力源の停止があった後、変速機の油圧が低下した場合は車両の走行中に変速機の変速比を小さい側の変速比に設定(変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を行うので、駆動力源停止後に駆動力源(エンジン)が再始動されて変速機の油圧が立ち上がったときには、変速機の変速比は小さい側の変速比(例えば、高速段Hi)となる。このようにして変速機の変速比を小さい側の変速比としておくことにより、車両の走行中の駆動力源(エンジン)の再始動時に、変速機の入力軸の回転数と出力軸の回転数とに差があっても、その回転数差による係合ショックや係合部(摩擦係合要素)の引きずりを低減することができる。しかも、低温時等におけるバッテリの出力制限(Wout)により、変速機に連結のモータジェネレータを駆動(トルク出力)できない場合であっても、走行中の駆動力源停止後(IG−Off後)の駆動力源(エンジン)の再始動時における係合ショックや係合部の引きずりを低減することができる。
【0014】
本発明において、車両の走行中に駆動力源の停止(IG−Off)があった後、変速機の油圧低下のみを条件に、車両の走行中に変速機の変速比を小さい側の変速比に設定(変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を実行し、そのうえで車両の走行中に駆動力源(エンジン)を再始動するようにしてもよい。また、車両の走行中に駆動力源の停止(IG−Off)があった後、駆動力源の再始動要求(IG−Off→IG−On)があり、かつ、変速機の油圧低下という条件が成立した場合に、車両の走行中に変速機の変速比を小さい側の変速比に設定(変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を行ったうえで、車両の走行中に駆動力源(エンジン)を再始動するようにしてもよい。
【0015】
本発明の具体的な構成として、オイルポンプ(機械式オイルポンプ及び/または電動オイルポンプ)から供給される油圧によって前記変速機の複数の摩擦係合要素(特許請求の範囲に記載の「断接機構」の一例)を係合または解放することにより変速比を変更する構成とし、その変速機の複数の摩擦係合要素の全ての油圧が、当該摩擦係合要素が解放状態となる油圧にまで低下したことを検出する油圧低下検出手段を設ける。そして、車両の走行中に駆動力源の停止があった後、前記油圧低下検出手段にて前記変速機の油圧低下が検出された場合に、車両の走行中に変速機の変速比を小さい側の変速比に設定(変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を実行するという構成を挙げることができる。この場合、油圧低下検出手段としては、例えば、変速機の摩擦係合要素の油圧を検出する油圧スイッチを挙げることができる。
【0016】
なお、本発明において、走行中のIG−Off後に変速機の油圧低下を検出した場合には、車両の走行中に、変速機の変速比を最も小さい変速比(変速段を最も高い変速段)に設定する制御を実行することが好ましいが、変速機の係合時のショックや係合部の引きずりを低減することが可能であれば、変速機の変速比を最小変速比よりも大きい変速比(変速段を最高変速段よりも例えば1段低い変速段)を設定する制御を実行するようにしてもよい。
【0017】
本発明の他の構成として、走行用の駆動力源と、オイルが供給されることによって変速可能となる変速機と、オイルが供給されることによって係合される駆動力伝達機構と、少なくとも前記変速機に供給されるオイルの油路を切り替える油路切替部と、前記変速機と前記駆動力伝達機構とにオイルを供給するオイルポンプと、前記車両のシステムを起動及び停止する操作を受け付ける操作部とを備えた車両の制御装置において、前記車両の走行中に、前記操作部が操作されることによって前記車両のシステムが停止されることに伴い前記オイルポンプの吐出量が減少された後、前記変速機の変速比を小さくするような油路に前記油路切替部を制御するという構成を挙げることができる。
【0018】
なお、この構成において、前記操作部が操作されることによって前記車両のシステムが停止されることに伴い前記オイルポンプの吐出量が減少された後、さらに再度操作部が操作されて再起動指示がなされた際に、前記油路切替部を切り替えてから再起動を許可するようにしてもよいし、再起動を実行(エンジンによって駆動される機械式オイルポンプを備える場合はエンジンの始動、システム起動に伴って供給される電力によって駆動される電動オイルポンプを備える場合はシステム自体の再起動)するようにしてもよい。
【0019】
このような構成によれば、操作部(例えば、パワースイッチ)の操作により車両のシステムが停止されることに伴ってオイルポンプの吐出量が減少した後に、変速機の変速比を小さくする(変速比を最も小さい変速比にする)ような油路に切り替えるので、車両のシステムの停止操作があった後に、車両のシステムが再起動されて変速機の油圧が立ち上がったときには、変速機の変速比は小さい側の変速比(例えば、高速段Hi)となる。このようにして変速機の変速比を小さい側の変速比としておくことにより、車両走行中の車両システムの再起動時に、変速機の入力軸の回転数と出力軸の回転数とに差があっても、その回転数差による係合ショックや係合部(摩擦係合要素)の引きずりを低減することができる。しかも、低温時等におけるバッテリの出力制限(Wout)により、変速機に連結のモータジェネレータを駆動(トルク出力)できない場合であっても、走行中の駆動力源停止後(IG−Off後)の駆動力源(エンジン)の再始動時における係合ショックや係合部の引きずりを低減することができる。
【0020】
なお、この構成において、前記オイルが供給されることによって係合される駆動力伝達機構は、前記変速機の摩擦係合要素によって構成されていてもよいし、また、駆動力伝達機構は、例えば、駆動力源と変速機との間の動力伝達経路に設けられたものであってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、変速機の油圧が低下したことを条件に、車両の走行中に変速機の変速比を小さい側の変速比に設定する制御を行うので、車両の走行中に駆動力源が再始動されたときに発生する変速機の係合ショックや係合部の引きずりを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用する車両の一例を示す概略構成図である。
【図2】ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】動力分割機構の各回転要素の回転速度の相対的関係を示す共線図である。
【図4】変速機を構成しているラビニヨ型遊星歯車機構の各回転要素の回転速度の相対的関係を示す共線図である。
【図5】変速マップの一例を示す図である。
【図6】図1の車両に搭載された変速機の油圧制御回路の一部を示す回路構成図である。
【図7】図1の車両に搭載された変速機の変速段と、その変速段を成立させるためのリニアソレノイドバルブ及びブレーキの作動状態との関係を示す作動表である。
【図8】図1の車両のシフト操作装置を示す概略図である。
【図9】車両走行中にIG−Offされた場合の制御の一例を示すフローチャートである。
【図10】車両走行中にIG−Offされた場合の制御の他の例を示すフローチャートである。
【図11】本発明を適用する車両の他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は本発明を適用する車両の一例を示す概略構成図である。
【0025】
この例の車両は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)方式のハイブリッド車両HVであって、駆動系として、エンジン(内燃機関)1、主に発電機(ジェネレータ)として機能する第1モータジェネレータMG1、主に電動機(電動モータ)として機能する第2モータジェネレータMG2、動力分割機構3、変速機4、デファレンシャル装置6、駆動輪(後輪)7L,7R、及び、従動輪(前輪:図示せず)などを備えている。また、制御系として、ハイブリッドECU(Electronic Control Unit)100、エンジンECU200、及び、MG_ECU300などを備えている。これら、ハイブリッドECU100と、エンジンECU200と、MG_ECU300とは互いに通信可能に接続されている。
【0026】
次に、エンジン1、モータジェネレータMG1,MG2、動力分割機構3、変速機4、及び、ECU100,200,300などの各部について以下に説明する。
【0027】
−エンジン−
エンジン1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置であって、例えば、吸気通路に設けられたスロットルバルブ(図示せず)のスロットル開度(吸気空気量)、燃料噴射量、点火時期などの運転状態を制御できるように構成されている。エンジン1の運転状態はエンジンECU200によって制御される。エンジンECU200はハイブリッドECU100からの出力要求に応じて、上記した吸入空気量制御、燃料噴射量制御、及び、点火時期制御などを含むエンジン1の各種制御を実行する。
【0028】
エンジン1の出力は、クランクシャフト11及びダンパ2を介して動力分割機構3の入力軸31に伝達される。ダンパ2は、例えばコイルスプリング式トランスアクスルダンパであってエンジン1のトルク変動を吸収する。エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11の回転数はエンジン回転数センサ101によって検出される。
【0029】
エンジン1のクランクシャフト11には後述する機械式オイルポンプ401(図6参照)が連結されている。
【0030】
−モータジェネレータ−
第1モータジェネレータMG1は、入力軸31に対して回転自在に支持された永久磁石からなるロータMG1Rと、3相巻線が巻回されたステータMG1Sとを備えた交流同期発電機であって、発電機(ジェネレータ)として機能するとともに電動機(電動モータ)としても機能する。また、第2モータジェネレータMG2も同様に、永久磁石からなるロータMG2Rと、3相巻線が巻回されたステータMG2Sとを備えた交流同期発電機であって、電動機(電動モータ)として機能するとともに発電機(ジェネレータ)としても機能する。
【0031】
図2に示すように、第1モータジェネレータMG1、及び、第2モータジェネレータMG2は、それぞれ、インバータ301を介してHVバッテリ(蓄電装置)302に接続されている。インバータ301はMG_ECU300によって制御される。
【0032】
インバータ301は、各モータジェネレータMG1,MG2のそれぞれの制御用のIPM(Intelligent Power Module:インテリジェントパワーモジュール)を備えている。その各IPMは、複数(例えば6個)の半導体スイッチング素子(例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などによって構成されている。
【0033】
MG_ECU300は、ハイブリッドECU100からの出力要求に応じてインバータ301を制御して、各モータジェネレータMG1,MG2の力行または回生を制御する。具体的には、例えば、HVバッテリ302からの直流電流を、モータジェネレータMG1,MG2を駆動する交流電流に変換する一方、エンジン1の動力により第1モータジェネレータMG1で発電された交流電流、及び、回生ブレーキにより第2モータジェネレータMG2で発電された交流電流を、HVバッテリ302を充電するための直流電流に変換する。また、第1モータジェネレータMG1で発電された交流電流を走行状態に応じて、第2モータジェネレータMG2の駆動用電力として供給する。
【0034】
−動力分割機構−
動力分割機構3は、図1に示すように、外歯歯車のサンギヤS3と、このサンギヤS3に対して同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤR3と、これらサンギヤS3とリングギヤR3とに噛み合う複数のピニオンギヤP3と、この複数のピニオンギヤP3を自転かつ公転自在に保持するプラネタリキャリヤCA3とを備え、これらサンギヤS3、リングギヤR3、及び、プラネタリキャリヤCA3を回転要素として差動作用を行う遊星歯車機構である。
【0035】
図1の動力分割機構3において、プラネタリキャリヤCA3は入力要素であって、このプラネタリキャリヤCA3は入力軸31及びダンパ2を介してエンジン1のクランクシャフト11に連結されている。また、サンギヤS3は反力要素であり、このサンギヤS3には第1モータジェネレータMG1のロータMG1R(回転軸)が連結されている。そして、リングギヤR3が出力要素となっており、このリングギヤR3にリングギヤ軸32が連結されている。リングギヤ軸32は、変速機4の出力軸42、プロペラシャフト5及びデファレンシャル装置6等を介して左右の駆動輪7L,7Rに連結されている。
【0036】
図3に動力分割機構3の共線図を示す。この図3の共線図において、縦軸Y1、縦軸Y2、及び、縦軸Y3は、それぞれ、サンギヤS3(MG1)の回転速度、プラネタリキャリヤCA3(エンジン1)の回転速度、及び、リングギヤR3(出力:リングギヤ軸32)の回転速度を表す軸であり、縦軸Y1、縦軸Y2、縦軸Y3の相互の間隔は、縦軸Y1と縦軸Y2との間隔を「1」としたとき、縦軸Y2と縦軸Y3との間隔がギヤ比ρ(サンギヤS3の歯数ZS/リングギヤR3の歯数ZR)となるように設定されている。
【0037】
そして、このような構成の動力分割機構3において、プラネタリキャリヤCA3に入力されるエンジン1の出力トルクに対して、第1モータジェネレータMG1による反力トルクがサンギヤS3に入力されると、出力要素であるリングギヤR3には、エンジン1から入力されたトルクより大きいトルクが現れる。この場合、第1モータジェネレータMG1は発電機として機能する。
【0038】
また、リングギヤR3の回転速度(出力軸回転数)が一定であるとき、第1モータジェネレータMG1の回転速度を上下に変化させることにより、エンジン1の回転速度を連続的に(無段階に)変化させることができる。例えば、第1モータジェネレータMG1を駆動制御することによって、エンジン1の回転速度を、燃費が最もよい回転速度に設定する制御を実行することができる。なお、図3に示す破線は、第1モータジェネレータMG1の回転速度を実線で示す値から下げたときに、エンジン1の回転速度が低下する状態を示している。
【0039】
また、図3に1点鎖線で示すように、ハイブリッド車両HVの走行中にエンジン1が停止している状態では第1モータジェネレータMG1が逆回転しており、この状態から第1モータジェネレータMG1を電動モータとして機能させて正回転方向にトルクを出力させると、プラネタリキャリヤCA3に連結されているエンジン1に、このエンジン1を正回転させる向きのトルクが作用する。したがって、第1モータジェネレータMG1によってエンジン1を始動(モータリングもしくはクランキング)することができる。この場合、リングギヤ軸32には、その回転を止める方向のトルクが作用するので、車両走行のための駆動トルクは、第2モータジェネレータMG2の出力トルクを制御することにより維持でき、同時にエンジン1の始動を円滑に行うことができる。なお、この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称されている。
【0040】
−変速機−
変速機4は、図1に示すように、1組のラビニヨ型遊星歯車機構によって構成されている。具体的には、変速機4は、フロントサンギヤS41、リアサンギヤS42、ショートピニオンギヤP41、及び、ロングピニオンギヤP42などを備えており、フロントサンギヤS41にショートピニオンギヤP41が噛み合っているとともに、ショートピニオンギヤP41とリアサンギヤS42とがロングピニオンギヤP42に噛み合っている。
【0041】
ロングピニオンギヤP42は、各サンギヤS41,S42に対して同心円上に配置されたリングギヤR4に噛み合っている。ショートピニオンギヤP41及びロングピニオンギヤP42はプラネタリキャリヤCA4によって自転かつ公転自在に保持されている。そして、フロントサンギヤS41、リングギヤR4、ショートピニオンギヤP41及びロングピニオンギヤP42によってダブルピニオン型遊星歯車機構が構成されており、また、リアサンギヤS42、リングギヤR4、及び、ロングピニオンギヤP42によってシングルピニオン型遊星歯車機構が構成されている。
【0042】
以上の構成の変速機4において、リアサンギヤS42は入力要素であって、このリアサンギヤS42は第2モータジェネレータMG2のロータMGR2(回転軸)に入力軸41を介して連結されている。また、プラネタリキャリヤCA4は出力要素であり、このプラネタリキャリヤCA4に出力軸42が連結されている。出力軸42の回転数(出力軸回転数)は出力軸回転数センサ102によって検出される。
【0043】
そして、変速機4のフロントサンギヤS41は、ブレーキB1を介して非回転部材であるハウジング40に選択的に連結されており、ブレーキB1の係合によってフロントサンギヤ41の回転が阻止される。また、変速機4のリングギヤR4はブレーキB2を介して非回転部材であるハウジング40に選択的に連結されており、ブレーキB2の係合によってリングギヤR4の回転が阻止される。これらブレーキB1,B2は、摩擦力によって係合力を生じる摩擦係合要素であって、例えば、多板形式の摩擦係合要素や、バンド形式の摩擦係合要素である。ブレーキB1、B2は、それぞれ、油圧シリンダ(油圧サーボ)などのブレーキB1用油圧アクチュエータ、ブレーキB2用油圧アクチュエータによって発生させられる係合圧に応じてトルク容量が連続的に変化するように構成されている。
【0044】
なお、変速機4を構成する摩擦係合要素が、本発明でいう「駆動力源から駆動輪への動力伝達の遮断が可能な断接機構」に相当する。
【0045】
また、変速機4を構成する摩擦係合要素が、本発明でいう「オイルが供給されることによって係合される駆動力伝達機構」に相当する。
【0046】
図4に変速機4の共線図を示す。この図4の共線図において、縦軸Y4、縦軸Y5、縦軸Y6、及び、縦軸Y7は、それぞれ、フロントサンギヤS41の回転速度、リングギヤR4の回転速度、プラネタリキャリヤCA4(出力軸42)の回転速度、及び、リアサンギヤS42(MG2)の回転速度を表す軸である。
【0047】
そして、このような構成の変速機4において、ブレーキB1、B2を所定の状態に係合または解放することによって変速段(高速段Hi、低速段Lo)が設定される。
【0048】
具体的には、ブレーキB1を係合し、ブレーキB2を解放することによって、変速比が「1」よりも大きい高速段Hiが設定される(図4及び図7参照)。つまり、ブレーキB1が係合すると、フロントサンギヤS41の回転が固定され、その回転が固定されたフロントサンギヤS41と、第2モータジェネレータMG2によって回転するリアサンギヤS42(リングギヤR4)の回転とによって、プラネタリキャリヤCA4(出力軸42)が高速回転する。
【0049】
一方、ブレーキB2を係合し、ブレーキB1を解放することによって、高速段Hiよりも変速比が大きい低速段Loが設定される(図4及び図7参照)。つまり、ブレーキB2が係合すると、リングギヤR4の回転が固定され、その回転が固定されたリングギヤR4と、第2モータジェネレータMG2によって回転するリアサンギヤS42とによって、プラネタリキャリヤCA4(出力軸42)が低速回転する。このような変速機4のブレーキB1,B2の係合時または解放時の油圧は、後述する油圧制御回路400(図6参照)によって制御される。
【0050】
以上の変速機4の変速処理は、車速V及びアクセル開度Accに基づいて図5の変速マップを参照して実行される。
【0051】
図5の変速マップでは、アップシフト線(変速線)を実線で示し、ダウンシフト線(変速線)を破線で示している。この図5の変速マップにおいて、車両の運転状態(車速V、アクセル開度Acc)が、実線で示すアップシフト線を跨いで、図5の左側の領域から右側の領域に状態が変化した場合には、変速機4の変速段を低速段Loから高速段Hiに切り替える処理(アップシフト処理)が実行される。一方、車両の運転状態が、破線で示すダウンシフト線を跨いで、図5の右側の領域から左側の領域に状態が変化した場合には、変速機4の変速段を高速段Hiから低速段Loに切り替える処理(ダウンシフト処理)が実行される。このような変速機4の変速制御はハイブリッドECU100によって実行される。
【0052】
なお、上記変速制御に用いる車速Vは出力軸回転数センサ102(図1及び図2参照)の出力信号から算出することができる。また、アクセル開度Accは、アクセル開度センサ104(図2参照)の出力信号から得ることができる。なお、車速Vについては車速センサの出力信号から得るようにしてもよい。
【0053】
−油圧制御回路−
次に、変速機4の油圧制御回路400について図6を参照して説明する。
【0054】
この例の油圧制御回路400は、油圧源として、エンジン1によって回転駆動され、かつ、ブレーキB1,B2を作動させるのに十分な圧送性能をもってオイル(オートマチックトランスミッションフルード:ATF)を圧送する機械式オイルポンプ401を備えている。
【0055】
また、油圧制御回路400は、3ウェイソレノイドバルブ402、ライン圧コントロールバルブ403、モジュレータバルブ404、第1リニアソレノイドバルブSLB1、B1コントロールバルブ411、B1アプライコントロールバルブ412、第2リニアソレノイドバルブSLB2、B2コントロールバルブ421、及び、B2アプライコントロールバルブ422などを備えている。
【0056】
ライン圧コントロールバルブ403は、3ウェイソレノイドバルブ402からの油圧に応じて、機械式オイルポンプ401から圧送されたオイルの圧力(ライン圧PL)を低圧または高圧の一定のライン圧(2段階のライン圧)に調整する。
【0057】
モジュレータバルブ404は、上記ライン圧PLを元圧とし、そのライン圧PLの変動に関らず、低圧側のライン圧PLよりも低く設定した一定のモジュール圧PMを、3ウェイソレノイドバルブ402、第1リニアソレノイドバルブSLB1、及び、第2リニアソレノイドバルブSLB2の各入力ポートに供給する。
【0058】
第1リニアソレノイドバルブSLB1は、非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が開弁(連通)する常開型(N/O)のバルブであって、モジュール圧PMを元圧として、ハイブリッドECU100からの指令信号(駆動電流)に応じた制御圧PC1をB1コントロールバルブ411に出力する。第2リニアソレノイドバルブSLB2は、非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が閉弁(遮断)する常閉型(N/C)のバルブであって、モジュール圧PMを元圧として、ハイブリッドECU100からの指令信号(駆動電流)に応じた制御圧PC2をB2コントロールバルブ421に出力する。
【0059】
B1コントロールバルブ411は、ライン圧PLを元圧として、第1リニアソレノイドバルブSLB1からの制御圧PC1に応じた大きさのB1係合油圧PB1をブレーキB1にB1アプライコントロールバルブ412を通じて供給する。
【0060】
B2コントロールバルブ421は、ライン圧PLを元圧として、第2リニアソレノイドバルブSLB2からの制御圧PC2に応じた大きさのB2係合油圧PB2をブレーキB2にB2アプライコントロールバルブ422を通じて供給する。
【0061】
B1アプライコントロールバルブ412は、B2コントロールバルブ421から出力されたB2係合油圧PB2を受け入れる油室412aを備えており、その油室412aにB2係合油圧PB2が供給されていないときには開弁状態となり、B1コントロールバルブ411とブレーキB1との間の油路が開放される。一方、油室412aにB2係合油圧PB2が供給されると、B1アプライコントロールバルブ412が閉弁状態に切り替わってブレーキB1の係合が阻止される。
【0062】
また、B1アプライコントロールバルブ412にはブレーキB2用の油圧スイッチ(PS)423が接続されている。この油圧スイッチ423は、ブレーキB2にB2係合油圧PB2が供給され、ブレーキB2の油圧が所定の閾値以上であるときにOnとなり、ブレーキB2にB2係合油圧PB2が供給されずに、ブレーキB2の油圧が上記閾値よりも低い値に低下したときにOffとなるスイッチである。油圧スイッチ423のOn信号またはOff信号はハイブリッドECU100に入力される。なお、上記油圧スイッチ423の閾値(油圧低下検出閾値)については、ブレーキB2を係合状態にするために必要な油圧(作動圧)の下限値を閾値としている。
【0063】
上記B2アプライコントロールバルブ422は、B1コントロールバルブ411から出力されたB1係合油圧PB1を受け入れる油室422aを備えており、その油室422aにB1係合油圧PB1が供給されていないときには開弁状態となり、B2コントロールバルブ421とブレーキB2との間の油路が開放される。一方、油室422aにB1係合油圧PB1が供給されると、B2アプライコントロールバルブ422が閉弁状態に切り替わってブレーキB2の係合が阻止される。
【0064】
また、B2アプライコントロールバルブ422にはブレーキB1用の油圧スイッチ(PS)413が接続されている。この油圧スイッチ413は、ブレーキB1にB1係合油圧PB1が供給され、ブレーキB1の油圧が所定の閾値以上であるときにOnとなり、ブレーキB1にB1係合油圧PB1が供給されずに、ブレーキB1の油圧が上記閾値よりも低い値に低下したときにOffとなるスイッチである。油圧スイッチ413のOn信号またはOff信号はハイブリッドECU100に入力される。なお、上記油圧スイッチ413の閾値(油圧低下検出閾値)については、ブレーキB1を係合状態にするために必要な油圧(作動圧)の下限値を閾値としている。
【0065】
なお、上記機械式オイルポンプ401が停止している場合には、ブレーキB1及びブレーキB2の双方に係合油圧が供給されないので、ブレーキB1用の油圧スイッチ413及びブレーキB2用の油圧スイッチ423の出力信号は共にOff信号となる。
【0066】
図7は、以上の構成の油圧制御回路400の作動、つまり、リニアソレノイドバルブSLB1、SLB2の励磁状態(通電状態)とブレーキB1、B2の作動状態との関係を説明する図である。図7において、○印が励磁状態または係合状態を示し、×印が非励磁状態または解放状態を示している。
【0067】
この図7に示すように、第1リニアソレノイドバルブSLB1及び第2リニアソレノイドバルブSLB2が共に励磁状態である場合には、ブレーキB1が解放状態となり、ブレーキB2が係合状態となって変速機4の低速段Loが達成される。一方、第1リニアソレノイドバルブSLB1及び第2リニアソレノイドバルブSLB2が共に非励磁状態である場合には、ブレーキB1が係合状態となり、ブレーキB2が解放状態となって変速機4の高速段Hiが達成される。
【0068】
なお、以上の油圧制御回路400が、本発明でいう「少なくとも変速機に供給されるオイルの油路を切り替える油路切替部」に相当する。
【0069】
−シフト操作装置−
この例のハイブリッド車両HVには、図8に示すようなシフト操作装置8が設けられている。シフト操作装置8にはシフトレバー81が変位可能に設けられている。この例のシフト操作装置8には、前進走行用のドライブレンジ(Dレンジ)、アクセルオフ時の制動力(エンジンブレーキ)が大きな前進走行用のブレーキレンジ(Bレンジ)、後進走行用のリバースレンジ(Rレンジ)、中立のニュートラルレンジ(Nレンジ)が設定されており、ドライバが所望のレンジへシフトレバー81を変位させることが可能となっている。これらDレンジ、Bレンジ、Rレンジ、Nレンジの各位置はシフトポジションセンサ105によって検出される。シフトポジションセンサ105の出力信号はハイブリッドECU100に入力される。
【0070】
また、シフトレバー81の近傍には、駐車用のパーキングポジション(Pポジション)に設定するためのPポジションスイッチ106が設けられている。Pポジションスイッチ106は、シフトポジションをパーキングポジション(Pポジション)とパーキング以外のポジション(非Pポジション)との間で切り替えるためのスイッチであって、このPポジションスイッチ106がドライバによってオン操作されると、シフトポジションを「非Pポジション」から「Pポジション」に切り替えるP指令信号がハイブリッドECU100に入力される。なお、Pポジションから非Pポジションへの切り替え操作は、シフトレバー81の操作(例えば、Nレンジ、Dレンジ、Rレンジへの操作)によって行われる。
【0071】
−パワースイッチ−
ハイブリッド車両HVには、ハイブリッドシステム(車両システム)の起動と停止とを切り替えるためのパワースイッチ107が設けられている。パワースイッチ107は、例えば、跳ね返り式のプッシュスイッチあって、押圧操作されるごとに、スイッチOnとスイッチOffとが交互に切り替わるようになっている。なお、パワースイッチ107が、本発明でいう「操作部」に相当する。
【0072】
ここで、ハイブリッドシステムとは、エンジン1の運転制御、モータジェネレータMG1,MG2の駆動制御、エンジン1及びモータジェネレータMG1,MG2の協調制御などを含む各種制御を実行することによってハイブリッド車両HVの走行を制御するシステムである。
【0073】
パワースイッチ107は、ドライバを含むユーザにより操作された場合に、その操作に応じた信号(IG−On指令信号またはIG−Off指令信号)をハイブリッドECU100に出力する。ハイブリッドECU100は、パワースイッチ107から出力された信号などに基づいてハイブリッドシステムを起動または停止する。
【0074】
具体的には、ハイブリッドECU100は、パワースイッチ107の操作(On操作)によりIG−On指令信号が入力されると、上記ハイブリッドシステムを起動する。これにより車両が走行可能な状態(IG−On状態)となる。車両が走行可能な状態とは、ハイブリッドECU100の指令信号により車両走行を制御できる状態であって、ドライバがアクセルオンすれば、ハイブリッド車両HVが発進・走行できる状態(Ready−On状態)のことである。なお、Ready−On状態には、エンジン1が停止状態で、第2モータジェネレータMG2でハイブリッド車両HVの発進・走行が可能な状態も含まれる。
【0075】
また、ハイブリッドECU100は、例えば、ハイブリッドシステムが起動中で、停車時にPポジションであるときに、パワースイッチ107が操作(例えば、短押し)された場合にはハイブリッドシステムを停止する。
【0076】
さらに、この例では、ハイブリッド車両HVの走行中(ハイブリッドシステム起動中)において、パワースイッチ107が操作(長押し:例えば3秒)された場合には、ハイブリッドシステムを停止(IG−Off)させることが可能となっている。また、そのような車両走行中にハイブリッドシステムの停止があった後(IG−Off後)に、パワースイッチ107が操作(On操作)されたときには、その再始動要求(IG−Off→IG−On)に応じてハイブリッドシステムを再起動できるようになっている。この再起動時にエンジン始動条件が成立している場合には、エンジン1が再始動される。
【0077】
−ECU−
ハイブリッドECU100は、エンジン1の運転を制御するエンジンECU200と、モータジェネレータMG1,MG2の駆動を制御するMG_ECU300との間で制御信号やデータ信号を送受信し、エンジン1の運転制御、モータジェネレータMG1,MG2の駆動制御、並びに、エンジン1及びモータジェネレータMG1,MG2の協調制御などを含む各種制御を実行する電子制御装置である。
【0078】
ハイブリッドECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びバックアップRAMなどを備えている。
【0079】
ROMには、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAMはCPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMはエンジン1の停止時などにおいて保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0080】
なお、エンジンECU200及びMG_ECU300においても、CPU、ROM、RAM及びバックアップRAMなどを備えている。
【0081】
図2に示すように、ハイブリッドECU100には、エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11の回転数(エンジン回転数)を検出するエンジン回転数センサ101、出力軸42の回転数を検出する出力軸回転数センサ102、エンジン1のスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ103、アクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサ104、シフトポジションセンサ105、Pポジションスイッチ106、パワースイッチ107、HVバッテリ302の充放電電流を検出する電流センサ108、バッテリ温度センサ109、ブレーキペダルに対する踏力(ブレーキ踏力)を検出するブレーキペダルセンサ110、及び、変速機4を制御する油圧制御回路400に設けられた油圧スイッチ413,423などが接続されている。さらに、ハイブリッドECU100には、エンジン冷却水温を検出する水温センサ、吸入空気量を検出するエアフロメータなどのエンジン1の運転状態を示すセンサなどが接続されており、これらの各センサからの信号がハイブリッドECU100に入力される。
【0082】
そして、ハイブリッドECU100は、HVバッテリ302を管理するために、上記電流センサ108にて検出された充放電電流の積算値や、上記バッテリ温度センサ109にて検出されたバッテリ温度などに基づいて、HVバッテリ302の充電状態(SOC:State of Charge)や、HVバッテリ302の入力制限Win及び出力制限Woutなどを演算する。また、ハイブリッドECU100は、変速機4の油圧制御回路400に、上記した第1リニアソレノイドバルブSLB1及び第2リニアソレノイドバルブSLB2などの作動を制御する指令信号(駆動電流指令値)などを出力する。
【0083】
さらに、ハイブリッドECU100は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、エンジンECU200及びMG_ECU300に出力要求を送信して駆動力を制御する。具体的には、例えば、ブレーキペダルが操作された状態でパワースイッチ107が操作されることによってハイブリッドシステムが起動(Ready−On)されると、アクセル操作量Acc及び車速V等に基づいて運転者の要求駆動力Trを算出し、その要求駆動力Trが得られるように、エンジンECU200及びMG_ECU300に出力要求を送信して、エンジン1、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2の駆動を制御する。
【0084】
具体的には、例えば、(1)エンジン1を最適燃費曲線上で作動させて駆動力を発生させるとともに、要求駆動力Trに対する不足分を第2モータジェネレータMG2でアシストするアシスト走行モード、(2)要求駆動力Trの増大時つまり発進時や加速時にエンジン1の出力トルク及び第1モータジェネレータMG1の回生制動トルクを共に増加させせるとともに、第2モータジェネレータMG2の力行トルクを増大させる発進・加速モード、(3)エンジン1を停止した状態で第2モータジェネレータMG2を動力源とするモータ走行モード(EV走行モード)、(4)エンジン1の動力で第1モータジェネレータMG1により発電を行いながら第2モータジェネレータMG2を動力源として走行する充電走行モード、(5)エンジン1の動力を機械的に駆動輪7L,7Rに伝えて走行するエンジン走行モードなどの走行モードを、車両の走行状態に応じて切り替える。
【0085】
また、ハイブリッドECU100は、エンジン1が最適燃費曲線上で作動するように第1モータジェネレータMG1によってエンジン回転速度を制御する。
【0086】
さらに、ハイブリッドECU100は、第2モータジェネレータMG2を駆動してトルクアシストする場合、車速Vが遅い状態では変速機4の変速段を低速段Loに設定して出力軸42に付加するトルクを大きくする制御を実行し、また、車速Vが大きくなった場合には変速機4の変速段を高速段Hiに設定し、第2モータジェネレータMG2の回転速度を相対的に低下させて損失を低減して効率のよいトルクアシストを行う制御を実行する。また、コースト走行時(減速時)にはハイブリッド車両HVの有する慣性エネルギで第1モータジェネレータMG1及び/または第2モータジェネレータMG2を回転駆動することにより電力として回生し、その回生した電力をHVバッテリ302に充電する。なお、後進走行は、例えば変速機4を低速段Loとした状態で、第2モータジェネレータMG2を逆方向へ回転駆動することによって達成される。このとき、第1モータジェネレータMG1は無負荷もしくは最小トルクとされ、エンジン1の作動状態に関係なく出力軸42が逆回転することを許容する。
【0087】
さらに、ハイブリッドECU100は、下記のハイブリッドシステムの起動処理を実行する。
【0088】
−ハイブリッドシステムの起動処理−
次に、ハイブリッド車両HVにおけるハイブリッドシステムの起動処理を停車時と走行時とに場合分けして説明する。以下の処理は、ハイブリッドECU100によって実行される。
【0089】
[停車時]
停車時では、ブレーキペダルが踏まれた状態(ブレーキペダルセンサ110の出力信号から認識)でパワースイッチ107が操作(例えば、短押し)された場合に、ハイブリッドシステムの起動処理が開始される。ハイブリッドシステムが開始されると、まずは、予め設定されたシステムチェックが実行され、そのシステムチェックが完了すると、システムメインリレー(図示せず)が接続される。システムメインリレーは、HVバッテリ302とインバータ301とを接続または遮断するためのリレーである。このシステムメインリレーが接続されることにより、HVバッテリ302から供給される電力によってモータジェネレータMG1,MG2が駆動可能になるとともに、モータジェネレータMG1,MG2で発電された電力をHVバッテリ302に充電可能になる。
【0090】
そして、冷間時である場合またはHVバッテリ302のSOCが低下している場合、つまり、EV走行条件不成立(エンジン始動条件成立)の場合には、エンジン1が始動される。なお、エンジン1の始動は、HVバッテリ302の電力により駆動される第1モータジェネレータMG1によって行われる。その後、Ready−On状態(走行可能な状態)になり、コンビネーションメータ(図示せず)にその旨を示すインジケータランプが点灯される。
【0091】
一方、エンジン1の暖機が必要でない場合、及び、HVバッテリ302を充電する必要がない場合、つまり、EV走行条件成立の場合には、エンジン1が始動されることなく、Ready−On状態になり、コンビネーションメータにその旨を示すインジケータランプが点灯される。
【0092】
[走行時]
まず、本実施形態では、ハイブリッド車両HVの走行中において、ドライバを含む搭乗者(ユーザ)がパワースイッチ107を操作(Off操作)した場合、ハイブリッドシステムが停止状態(IG−Off状態)となる。また、この後(走行中にIG−Offとなった後)に、パワースイッチ107が操作(IG−On操作)されたときにはハイブリッドシステムを再起動できるようになっており、その再起動の際に、EV走行条件が不成立(エンジン始動条件成立)である場合にはエンジン1が始動される。
【0093】
ここで、この例のハイブリッド車両HVにおいて、上記変速機4(油圧制御回路400)の油圧は、エンジン1の動力で駆動する機械式オイルポンプ401によって供給されるので、走行中にIG−Offとなってエンジンが停止すると、これに伴って機械式オイルポンプ401も停止するため、変速機4の油圧が低下してブレーキB1,B2(摩擦係合要素)が解放状態になる。
【0094】
そして、このような状況(変速機4のブレーキB1及びB2の双方が解放した状態)から、ハイブリッドシステムが再起動してエンジンが再始動すると、これに伴って変速機4(油圧制御回路400)の油圧が立ち上がり、車両走行中に変速機4が係合(ブレーキB1またはB2が係合)するようになる。このとき、出力軸42は駆動輪7L,7Rにて被駆動回転されているので、その出力軸42の回転数と変速機4の入力軸41(第2モータジェネレータMG2)の回転数との間には差があり、こうした回転数差がある状態で変速機4が係合(Lo側のブレーキB2が係合)すると、その係合時にショックが発生する場合がある。また、変速機4の係合部(ブレーキB2)の引きずりが懸念される。この対策として、変速機4の入力軸41に連結された第2モータジェネレータMG2を駆動して変速機4の入力軸41の回転数を出力軸42の回転数に合わせるという制御(同期制御)が考えられるが、この場合、低温時等におけるHVバッテリ302の出力制限Woutによって、第2モータジェネレータMG2を駆動(トルク出力)できない場合には、エンジン1の再始動時の係合ショックや係合部の引きずりを低減することはできない。
【0095】
そのような点を考慮して、本実施形態では、車両走行中にハイブリッドシステムが停止し(IG−Off)、その後に、エンジンを再始動する際に発生する係合ショックや、変速機4の係合部の引きずりを確実に低減できるようにする。
【0096】
その具体的な制御(車両走行中にIG−Offされた場合の制御)の一例について、図9のフローチャートを参照して説明する。
【0097】
図9の制御ルーチンはハイブリッドECU100において所定時間毎(例えば数msec毎)に繰り返して実行される。なお、この例では、エンジン1の動力により走行([エンジン+モータ]走行も含む)している場合の制御について説明する。
【0098】
この図9の制御ルーチンが開始されると、まずは、ステップST101において、出力軸回転数センサ102の出力信号から算出される車速Vに基づいてハイブリッド車両HVが走行中であるか否かを判定する。その判定結果が否定判定(NO)である場合はリターンする。ステップST101の判定結果が肯定判定(YES)である場合(車両走行中である場合)はステップST102に進む。
【0099】
ステップST102では、車両走行中(ハイブリッドシステム起動中)に、パワースイッチ107の操作によりIG−Offされた否かを判定し、その判定結果が否定判定(NO)である場合はリターンする。ステップST102の判定結果が肯定判定(YES)である場合(走行中に[IG−Off→IG−Off]操作有りの場合)はステップST103に進む。なお、走行中にIG−Off操作(ハイブリッドシステムの停止操作)がされる一例としては、ドライバを含む搭乗者によるパワースイッチ107の誤操作などが考えられる。
【0100】
ここで、車両走行中にIG−Off操作された場合は、ハイブリッドシステムが停止される。このハイブリッドシステムの停止処理には、例えば、フューエルカット等によるエンジン1の停止、インバータ301のゲート遮断によるモータジェネレータMG1,MG2の駆動停止、システムメインリレーの遮断などが含まれる。
【0101】
ステップST103では、変速機4(油圧制御回路400)の油圧が低下(オイルポンプの吐出量が減少)したか否かを判定する。具体的には、油圧制御回路400の油圧スイッチ413(ブレーキB1用)及び油圧スイッチ423(ブレーキB2用)の両方の信号が共にOff信号であるか否かを判定し、その両方の信号が共にOff信号である場合は変速機4の油圧が低下したと判定(油圧低下の検出)してステップST104に進む。ステップST103の判定結果が否定判定(NO)である場合はリターンする。
【0102】
ステップST104においては、変速機4の変速段を高速段Hi(変速比を最も小さい変速比)に設定する制御を実行する。具体的には、油圧制御回路400の第1リニアソレノイドバルブSLB1を及び第2リニアソレノイドバルブSLB2を共に非励磁状態(非通電状態)として高速段Hi(図7参照)を設定する制御(変速機4の変速比を小さくするような油路に切り替える制御(油路切替部(油圧制御回路400)の制御))を実行する。この変速段を高速段Hiに設定する制御(リニアソレノイドバルブSLB1,SLB2:非励磁)が、本発明でいう「変速機の変速比を小さい側の変速比に設定する制御」に相当する。なお、この変速段を高速段Hiに設定する制御(リニアソレノイドバルブSLB1,SLB2:非励磁)を行った時点では変速機4の油圧が立ち上がっておらず、ブレーキB1及びブレーキB2は共に解放状態となっている。
【0103】
そして、そのような制御を実行したうえで、エンジン1を再始動する(EV走行条件が成立している場合はエンジン1の再始動を行わずにリターンする)。エンジン1が始動すると、これに伴って機械式オイルポンプ401が駆動して変速機4(油圧制御回路400)の油圧が立ち上がる。これによって変速機4のB1ブレーキが係合(B2ブレーキは解放状態)して変速機4の変速段が高速段Hiとなる。
【0104】
このようにして変速機4の変速段を高速段Hiとし、変速比を最も小さい値としておくことにより、エンジン1の再始動時(油圧が立ち上がり時)に、変速機4の入力軸41の回転数と出力軸42の回転数とに差があっても、その回転数差による変速機4の係合ショックを、変速段が低速段Loである場合(変速比が大きい場合)と比較して低減することができる。また、変速機4の係合部(ブレーキB1,B2)の引きずりを低減することができ、その係合面への影響(磨耗など)を少なくすることができる。しかも、低温時等におけるHVバッテリ302の出力制限Woutにより第2モータジェネレータMG2を駆動(トルク出力)できない場合であっても、走行中IG−Off後のエンジン1の再始動時における係合ショックや係合部の引きずりを低減することができる。
【0105】
なお、上記ステップST102が肯定判定時つまり[IG−On→IG−Off]時において、変速機4の変速段が高速段Hiである場合(変速比が最も小さい変速比である場合)は、そのまま高速段Hiの設定を維持できるように油圧制御回路400のリニアソレノイドバルブSLB1,SLB2を制御する(非励磁状態を維持する)。
【0106】
ここで、本実施形態において、車両の走行中にIG−Off(ハイブリッドシステムの停止)があった後、変速機4(油圧制御回路400)の油圧低下を検出した場合であっても、そのIG−Offの時点においてHVバッテリ302の出力制限Woutに余裕があり、第2モータジェネレータMG2の駆動(トルク出力)によって、変速機4の入力軸41の回転数を出力軸42の回転数に合わせる制御(同期制御)が可能である場合は、その制御を実行し、変速機4の変速段についてはIG−Off時点のままの変速段(低速段Loまたは高速段Hi)を維持するようにしてもよい。
【0107】
[変形例]
次に、車両走行中にIG−Offされた場合の制御の他の例について説明する。
【0108】
この例の制御では、車両走行中にIG−Off(ハイブリッドシステム停止)があった後、IG−Onの操作(再始動要求)があり、かつ、変速機4の油圧低下を検出した場合に、変速機4の変速段を高速段Hiに設定(変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を実行する点に特徴がある。
【0109】
その具体的な制御について図10のフローチャートを参照して説明する。図10の制御ルーチンはハイブリッドECU100において実行可能である。
【0110】
図10に示すステップST201及びステップST202の各処理は、上記した図9のフローチャートのステップST101及びステップST102の各処理と同じである。
【0111】
この例では、ステップST202の判定結果が肯定判定(YES)となった場合、つまり、ハイブリッド車両HVの走行中に、パワースイッチ107の操作によりIG−Offされた場合にはステップST203に進む。
【0112】
ステップST203では、走行中のIG−Off操作の後に、パワースイッチ107の操作によりIG−On(再始動要求)操作が行われた否かを判定し、その判定結果が否定判定(NO)である場合はリターンする。ステップST203の判定結果が肯定判定(YES)である場合([IG−Off→IG−On]となった場合)はステップST204及びステップST205の処理を実行する。すなわち、ステップST204では、変速機4(油圧制御回路400)の油圧が低下したか否かを判定し、その油圧低下がある場合はステップST205に進む。ステップST205では、変速機4の変速段を高速段Hi(変速比を最も小さい変速比)に設定する制御を実行する。そして、このような制御を実行したうえでエンジン1を再始動する。
【0113】
なお、上記ステップST204及びステップST205の各処理は、上記した図9のフローチャートのステップST103及びステップST104と同じ処理であるので、その具体的な説明は省略する。
【0114】
この例の制御によれば、走行中IG−Off後の再始動要求(IG−Off→IG−On)に応じてエンジン1が再始動され、変速機4(油圧制御回路400)の油圧が立ち上がったときには、変速機4の変速段を高速段Hi(変速比を最も小さい変速比)となるようにしているので、エンジン1の再始動時に変速機4の変速段が低速段Loである場合と比較して、油圧立ち上がり時における変速機4の係合ショックを低減することができる。また、変速機4の係合部(ブレーキB1,B2)の引きずりを低減することができ、その係合面への影響(磨耗など)を少なくすることができる。しかも、低温時等におけるHVバッテリ302の出力制限Woutにより第2モータジェネレータMG2を駆動(トルク出力)できない場合であっても、走行中IG−Off後のエンジンの再始動時における係合ショックや係合部の引きずりを低減することができる。
【0115】
なお、この例においても、上記ステップST202が肯定判定時つまり[走行中のIG−On→IG−Off]時に、変速機4の変速段が高速段Hiである場合(変速比が最も小さい場合)は、そのまま高速段Hiを維持するように油圧制御回路400のリニアソレノイドバルブSLB1,SLB2を制御する(非励磁状態を維持する)。
【0116】
また、この例の制御においても、車両の走行中にIG−Off(ハイブリッドシステムの停止)があった後、変速機4(油圧制御回路400)の油圧低下を検出した場合であっても、そのIG−Off時点においてHVバッテリ302の出力制限Woutに余裕があり、第2モータジェネレータMG2の駆動(トルク出力)によって、変速機4の入力軸41の回転数を出力軸42の回転数に合わせる制御(同期制御)が可能である場合は、その制御を実行し、変速機4の変速段についてはIG−Off時点のままの変速段(低速段Loまたは高速段Hi)を維持するようにしてもよい。
【0117】
−他の実施形態−
以上の例では、ブレーキB1,B2の油圧を検出する油圧スイッチ413,423の出力信号を用いて変速機4(油圧制御回路400)の油圧低下(ブレーキB1及びB2の油圧低下)を検出しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、図6に示す油圧制御回路400のライン圧PLを検出する油圧スイッチを設け、その油圧スイッチの出力信号を用いて変速機4の油圧低下を検出するようにしてもよい。また、油圧スイッチに替えて油圧センサ等の他の検出手段を用いて変速機4の油圧低下を検出するようにしてもよい。
【0118】
油圧センサを用いる場合、その油圧センサにて検出される油圧検出値が所定の判定閾値よりも小さいときに変速機の油圧が低下したと判定すればよい。なお、この場合、上記判定閾値については、変速機の係合部(摩擦係合要素)を係合状態にするために必要な油圧(作動圧)の下限値を判定閾値とすればよい。
【0119】
以上の例では、第2モータジェネレータMG2を連結する変速機4の変速段を高速段Hiと低速段Loとに切り替え可能な2段変速の変速機としているが、これに限定されることなく、3段以上の複数の変速段を有する変速機が搭載されたハイブリッド車両の制御にも本発明は適用可能である。この場合、走行中にIG−Off操作があった後に変速機の油圧低下を検出した場合には、変速機の変速段を最も高い変速段に設定(変速比を最も小さい変速比に設定)すればよい。また、第2モータジェネレータMG2を連結する変速機としては、ベルト式無段変速機などの無段変速機であってもよい。
【0120】
なお、複数段(例えば5段)の変速段を有する変速機(または無段変速機)が搭載された車両である場合、走行中のIG−Off後に油圧低下を検出した際に、変速機の変速段を最も高い変速段(変速比を最も小さい変速比)に設定する制御を実行することが好ましいが、係合ショックや係合部の引きずりを低減できるのであれば、最高変速段よりも低い変速段(例えば最高変速段よりも1段低い変速段)に設定(最小変速比よりも所定量だけ大きい変速比に設定)する制御を実行するようにしてもよい。
【0121】
以上の例では、変速機4を構成する摩擦係合要素を、駆動力源から駆動輪への動力伝達の遮断が可能な断接機構としているが、その断接機構は、例えば、駆動力源と変速機との間の動力伝達経路に設けられたものであってもよい。
【0122】
なお、変速機4を構成する摩擦係合要素は、本発明でいう「オイルが供給されることによって係合される駆動力伝達機構」の一例であり、このような駆動力伝達機構(オイルが供給されることによって係合される駆動力伝達機構)は、例えば、駆動力源と変速機との間の動力伝達経路に設けられていてもよい。
【0123】
以上の例では、2個のモータジェネレータMG1,MG2と動力分割機構3とが搭載された、いわゆるスプリット方式のハイブリッド車両の制御に本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限られることなく、駆動力伝達経路にクラッチを設けたハイブリッド車両の制御にも適用可能である。
【0124】
そのハイブリッド車両の一例を図11に示す。この例のハイブリッド車両500は、エンジン501、電動機及び発電機として機能するモータジェネレータ(MG)503、変速機(有段式の自動変速機(例えば前進5速)や、無段変速機など)505、モータジェネレータ503を駆動するインバータ511、モータジェネレータ503を駆動する電力を供給するとともに、モータジェネレータ503で発電された電力を蓄電するバッテリ512などを備えており、エンジン501とモータジェネレータ503とが第1クラッチ502を介して連結されている。また、モータジェネレータ503と変速機505とが第2クラッチ504を介して連結されている。
【0125】
この図11に示すハイブリッド車両500にあっては、第1クラッチ502を遮断(解放)し、第2クラッチ504を接続(係合)することにより、モータジェネレータ503のみによって駆動輪(後輪)506L,506Rを駆動することが可能である。また、第1クラッチ502及び第2クラッチ504の両方を接続(係合)することにより、エンジン501の駆動力によって駆動輪506L,506Rを駆動することが可能であるとともに、モータジェネレータ503による充電またはアシストトルクを発生させることが可能である。
【0126】
そして、図11に示すハイブリッド車両500においても、走行中にIG−Off操作があった後に変速機505の油圧低下を検出した場合には、変速機503の変速段を最も高い変速段に設定(変速比を最も小さい変速比に設定)するという制御を行うことで、走行中IG−Off後のエンジン501の再始動時における変速機505の係合ショックや係合部の引きずりを低減することができる。
【0127】
以上の例では、機械式オイルポンプが搭載されたハイブリッド車両の制御に本発明を適用した例について説明したが、本発明これに限られることなく、機械式オイルポンプと電動オイルポンプ(車両システム起動に伴って供給される電力によって駆動される電動オイルポンプ)とが搭載されたハイブリッド車両の制御にも適用可能である。この場合、車両走行中におけるハイブリッドシステムの再起動要求(IG−Off→IG−On)に応じて、電動オイルポンプを駆動するようにしてもよい。
【0128】
以上の例では、FR(フロントエンジン・リアドライブ)方式のハイブリッド車両の制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式のハイブリッド車両や、4輪駆動方式のハイブリッド車両の制御にも適用できる。
【0129】
以上の例では、第1モータジェネレータMG1及び第2モータジェネレータMG2の2つの回転電機が搭載されたハイブリッド車両の制御に、本発明を適用した例を示したが、3つ以上のモータジェネレータを備え、そのうちの少なくとも1つが車両の走行駆動力のアシストを行うハイブリッド車に適用することも可能である。なお、本発明は、駆動力源としてエンジンのみを搭載したコンベンショナル車両にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、車両の制御装置に利用可能であり、さらに詳しくは、走行用の駆動力源としてエンジンと電動機とを備え、電動機が変速機を介して駆動輪に連結されたハイブリッド車両の制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0131】
1 エンジン
3 動力分割機構
4 変速機
41 入力軸
42 出力軸
B1,B2 ブレーキ(摩擦係合要素)
7L,7R 駆動輪(後輪)
MG1 第1モータジェネレータ
MG2 第2モータジェネレータ
100 ハイブリッドECU
101 エンジン回転数センサ
102 出力軸回転数センサ
104 アクセル開度センサ
105 シフトポジションセンサ
107 パワースイッチ(操作部)
200 エンジンECU
300 MG_ECU
302 HVバッテリ
400 油圧制御回路
401 機械式オイルポンプ
413,423 油圧スイッチ
SLB1 第1リニアソレノイドバルブ
SLB2 リニアソレノイドバルブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、特に、走行用の駆動力源としてエンジンと電動機とを備え、電動機が変速機を介して駆動輪に連結された車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、車両に搭載されたエンジン(内燃機関)からの排気ガスの排出量低減及び燃料消費率(燃費)の向上が望まれており、これを満足する車両として、走行用の駆動力源としてエンジンと電動機とを備えたハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車両が実用化されている。
【0003】
車両に搭載されるハイブリッドシステムの1つとして、例えば、サンギヤ、リングギヤ及びプラネタリキャリヤ(ピニオンギヤ)を回転要素とする機構であって、エンジンの出力を第1モータジェネレータ及び伝達軸(リングギヤ軸)へ分配(もしくはエンジンの出力と第1モータジェネレータの出力とを合成して伝達軸に出力)する動力分割機構と、第2モータジェネレータと、この第2モータジェネレータと駆動輪(出力軸)との間に設けられた変速機と、第1及び第2モータジェネレータとの間で電力の入出力が可能な蓄電装置(バッテリ)とを備え、第2モータジェネレータからの動力を変速機を介して駆動輪に出力するシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ハイブリッド車両に適用される変速機としては、摩擦係合要素であるクラッチやブレーキと遊星歯車装置とを用いて変速段(変速比)を設定するものがある。例えば、摩擦係合要素として2個の油圧式のブレーキを備え、一方のブレーキを係合し、他方のブレーキを解放する変速段(例えば低速段)と、他方のブレーキを係合し、一方のブレーキを解放する変速段(例えば高速段)とを切り替える自動変速機がある。そして、このような変速機の摩擦係合要素(ブレーキ)を係合/解放する油圧は、エンジンの動力により駆動される機械式オイルポンプや、電動モータにて駆動される電動オイルポンプによって供給されている。
【0005】
なお、ハイブリッド車両において、ハイブリッドシステムの起動/停止に関する技術として、下記の特許文献2に記載の技術がある。この特許文献2に記載の技術では、高速走行中に、車両起動停止スイッチがエンジン停止となる位置(Off位置やReady−Off)に操作された場合には、エンジン停止を禁止することで、バッテリの放電量が上限放電量を超えないようにすることで、バッテリを保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−120639号公報
【特許文献2】特開2007−216833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記したハイブリッド車両において、走行中にユーザ(ドライバ等)がハイブリッドシステムの停止操作(IG−Off操作)を行った場合にはエンジンが停止する場合がある。エンジンが停止すると、オイルポンプ(機械式オイルポンプや電動オイルポンプ等)も停止するので、変速機の油圧が低下して摩擦係合要素が解放状態になる。この後(走行中のIG−Off後)に、再始動操作(IG−On操作)が行われた場合はエンジンが再始動されるが、エンジンが再始動すると、これに伴って変速機(油圧制御回路)の油圧が立ち上がって変速機の摩擦係合要素が係合するようになる。このとき、変速機の出力軸は駆動輪にて被駆動回転されているので、その出力軸の回転数と変速機の入力軸(モータジェネレータ側)の回転数との間には差があり、こうした回転数差がある状態で変速機が係合すると、その係合時にショックが発生する場合がある。また、変速機の係合部(摩擦係合要素)の引きずりが懸念される。
【0008】
その対策として、エンジンを始動する際に、上記第2モータジェネレータを駆動して変速機の入力側の回転数を出力側の回転数に合わせるという制御(同期制御)が考えられるが、この場合、低温時などにおけるバッテリの出力制限(Wout)によって、第2モータジェネレータを駆動(トルク出力)できない場合には、再始動時の係合ショックや係合部の引きずりを低減することはできない。
【0009】
なお、上記特許文献2に記載の技術は、高速走行中に、車両起動停止スイッチがエンジン停止となる位置に操作された場合に、強制的なエンジン停止を禁止する技術であって、エンジン停止の後にIG−On操作された場合については考慮されておらず、また、走行中のエンジン停止による変速機の油圧低下についても考慮されていない。
【0010】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、車両走行中に駆動力源の停止があった後、駆動力源が再始動したときに発生する変速機の係合ショックや係合部の引きずりを低減することが可能な車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、走行用の駆動力源と、油圧式の変速機とを備え、前記駆動力源から駆動輪への動力伝達の遮断が可能な断接機構が設けられた車両の制御装置において、車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、前記変速機の油圧が低下したことを条件に、車両の走行中に前記変速機の変速比を小さい側の変速比に設定(具体的には、変速機の変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を実行することを特徴としている。
【0012】
より具体的には、走行用の駆動力源としてのエンジン及び電動機と、油圧式の変速機とを備え、前記電動機が前記変速機を介して駆動輪に連結された車両の制御装置において、車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、前記変速機の油圧が低下したことを条件に、車両の走行中に前記変速機の変速比を小さい側の変速比に設定(変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を実行することを特徴としている。
【0013】
本発明によれば、車両の走行中に駆動力源の停止があった後、変速機の油圧が低下した場合は車両の走行中に変速機の変速比を小さい側の変速比に設定(変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を行うので、駆動力源停止後に駆動力源(エンジン)が再始動されて変速機の油圧が立ち上がったときには、変速機の変速比は小さい側の変速比(例えば、高速段Hi)となる。このようにして変速機の変速比を小さい側の変速比としておくことにより、車両の走行中の駆動力源(エンジン)の再始動時に、変速機の入力軸の回転数と出力軸の回転数とに差があっても、その回転数差による係合ショックや係合部(摩擦係合要素)の引きずりを低減することができる。しかも、低温時等におけるバッテリの出力制限(Wout)により、変速機に連結のモータジェネレータを駆動(トルク出力)できない場合であっても、走行中の駆動力源停止後(IG−Off後)の駆動力源(エンジン)の再始動時における係合ショックや係合部の引きずりを低減することができる。
【0014】
本発明において、車両の走行中に駆動力源の停止(IG−Off)があった後、変速機の油圧低下のみを条件に、車両の走行中に変速機の変速比を小さい側の変速比に設定(変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を実行し、そのうえで車両の走行中に駆動力源(エンジン)を再始動するようにしてもよい。また、車両の走行中に駆動力源の停止(IG−Off)があった後、駆動力源の再始動要求(IG−Off→IG−On)があり、かつ、変速機の油圧低下という条件が成立した場合に、車両の走行中に変速機の変速比を小さい側の変速比に設定(変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を行ったうえで、車両の走行中に駆動力源(エンジン)を再始動するようにしてもよい。
【0015】
本発明の具体的な構成として、オイルポンプ(機械式オイルポンプ及び/または電動オイルポンプ)から供給される油圧によって前記変速機の複数の摩擦係合要素(特許請求の範囲に記載の「断接機構」の一例)を係合または解放することにより変速比を変更する構成とし、その変速機の複数の摩擦係合要素の全ての油圧が、当該摩擦係合要素が解放状態となる油圧にまで低下したことを検出する油圧低下検出手段を設ける。そして、車両の走行中に駆動力源の停止があった後、前記油圧低下検出手段にて前記変速機の油圧低下が検出された場合に、車両の走行中に変速機の変速比を小さい側の変速比に設定(変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を実行するという構成を挙げることができる。この場合、油圧低下検出手段としては、例えば、変速機の摩擦係合要素の油圧を検出する油圧スイッチを挙げることができる。
【0016】
なお、本発明において、走行中のIG−Off後に変速機の油圧低下を検出した場合には、車両の走行中に、変速機の変速比を最も小さい変速比(変速段を最も高い変速段)に設定する制御を実行することが好ましいが、変速機の係合時のショックや係合部の引きずりを低減することが可能であれば、変速機の変速比を最小変速比よりも大きい変速比(変速段を最高変速段よりも例えば1段低い変速段)を設定する制御を実行するようにしてもよい。
【0017】
本発明の他の構成として、走行用の駆動力源と、オイルが供給されることによって変速可能となる変速機と、オイルが供給されることによって係合される駆動力伝達機構と、少なくとも前記変速機に供給されるオイルの油路を切り替える油路切替部と、前記変速機と前記駆動力伝達機構とにオイルを供給するオイルポンプと、前記車両のシステムを起動及び停止する操作を受け付ける操作部とを備えた車両の制御装置において、前記車両の走行中に、前記操作部が操作されることによって前記車両のシステムが停止されることに伴い前記オイルポンプの吐出量が減少された後、前記変速機の変速比を小さくするような油路に前記油路切替部を制御するという構成を挙げることができる。
【0018】
なお、この構成において、前記操作部が操作されることによって前記車両のシステムが停止されることに伴い前記オイルポンプの吐出量が減少された後、さらに再度操作部が操作されて再起動指示がなされた際に、前記油路切替部を切り替えてから再起動を許可するようにしてもよいし、再起動を実行(エンジンによって駆動される機械式オイルポンプを備える場合はエンジンの始動、システム起動に伴って供給される電力によって駆動される電動オイルポンプを備える場合はシステム自体の再起動)するようにしてもよい。
【0019】
このような構成によれば、操作部(例えば、パワースイッチ)の操作により車両のシステムが停止されることに伴ってオイルポンプの吐出量が減少した後に、変速機の変速比を小さくする(変速比を最も小さい変速比にする)ような油路に切り替えるので、車両のシステムの停止操作があった後に、車両のシステムが再起動されて変速機の油圧が立ち上がったときには、変速機の変速比は小さい側の変速比(例えば、高速段Hi)となる。このようにして変速機の変速比を小さい側の変速比としておくことにより、車両走行中の車両システムの再起動時に、変速機の入力軸の回転数と出力軸の回転数とに差があっても、その回転数差による係合ショックや係合部(摩擦係合要素)の引きずりを低減することができる。しかも、低温時等におけるバッテリの出力制限(Wout)により、変速機に連結のモータジェネレータを駆動(トルク出力)できない場合であっても、走行中の駆動力源停止後(IG−Off後)の駆動力源(エンジン)の再始動時における係合ショックや係合部の引きずりを低減することができる。
【0020】
なお、この構成において、前記オイルが供給されることによって係合される駆動力伝達機構は、前記変速機の摩擦係合要素によって構成されていてもよいし、また、駆動力伝達機構は、例えば、駆動力源と変速機との間の動力伝達経路に設けられたものであってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、変速機の油圧が低下したことを条件に、車両の走行中に変速機の変速比を小さい側の変速比に設定する制御を行うので、車両の走行中に駆動力源が再始動されたときに発生する変速機の係合ショックや係合部の引きずりを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用する車両の一例を示す概略構成図である。
【図2】ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】動力分割機構の各回転要素の回転速度の相対的関係を示す共線図である。
【図4】変速機を構成しているラビニヨ型遊星歯車機構の各回転要素の回転速度の相対的関係を示す共線図である。
【図5】変速マップの一例を示す図である。
【図6】図1の車両に搭載された変速機の油圧制御回路の一部を示す回路構成図である。
【図7】図1の車両に搭載された変速機の変速段と、その変速段を成立させるためのリニアソレノイドバルブ及びブレーキの作動状態との関係を示す作動表である。
【図8】図1の車両のシフト操作装置を示す概略図である。
【図9】車両走行中にIG−Offされた場合の制御の一例を示すフローチャートである。
【図10】車両走行中にIG−Offされた場合の制御の他の例を示すフローチャートである。
【図11】本発明を適用する車両の他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は本発明を適用する車両の一例を示す概略構成図である。
【0025】
この例の車両は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)方式のハイブリッド車両HVであって、駆動系として、エンジン(内燃機関)1、主に発電機(ジェネレータ)として機能する第1モータジェネレータMG1、主に電動機(電動モータ)として機能する第2モータジェネレータMG2、動力分割機構3、変速機4、デファレンシャル装置6、駆動輪(後輪)7L,7R、及び、従動輪(前輪:図示せず)などを備えている。また、制御系として、ハイブリッドECU(Electronic Control Unit)100、エンジンECU200、及び、MG_ECU300などを備えている。これら、ハイブリッドECU100と、エンジンECU200と、MG_ECU300とは互いに通信可能に接続されている。
【0026】
次に、エンジン1、モータジェネレータMG1,MG2、動力分割機構3、変速機4、及び、ECU100,200,300などの各部について以下に説明する。
【0027】
−エンジン−
エンジン1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置であって、例えば、吸気通路に設けられたスロットルバルブ(図示せず)のスロットル開度(吸気空気量)、燃料噴射量、点火時期などの運転状態を制御できるように構成されている。エンジン1の運転状態はエンジンECU200によって制御される。エンジンECU200はハイブリッドECU100からの出力要求に応じて、上記した吸入空気量制御、燃料噴射量制御、及び、点火時期制御などを含むエンジン1の各種制御を実行する。
【0028】
エンジン1の出力は、クランクシャフト11及びダンパ2を介して動力分割機構3の入力軸31に伝達される。ダンパ2は、例えばコイルスプリング式トランスアクスルダンパであってエンジン1のトルク変動を吸収する。エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11の回転数はエンジン回転数センサ101によって検出される。
【0029】
エンジン1のクランクシャフト11には後述する機械式オイルポンプ401(図6参照)が連結されている。
【0030】
−モータジェネレータ−
第1モータジェネレータMG1は、入力軸31に対して回転自在に支持された永久磁石からなるロータMG1Rと、3相巻線が巻回されたステータMG1Sとを備えた交流同期発電機であって、発電機(ジェネレータ)として機能するとともに電動機(電動モータ)としても機能する。また、第2モータジェネレータMG2も同様に、永久磁石からなるロータMG2Rと、3相巻線が巻回されたステータMG2Sとを備えた交流同期発電機であって、電動機(電動モータ)として機能するとともに発電機(ジェネレータ)としても機能する。
【0031】
図2に示すように、第1モータジェネレータMG1、及び、第2モータジェネレータMG2は、それぞれ、インバータ301を介してHVバッテリ(蓄電装置)302に接続されている。インバータ301はMG_ECU300によって制御される。
【0032】
インバータ301は、各モータジェネレータMG1,MG2のそれぞれの制御用のIPM(Intelligent Power Module:インテリジェントパワーモジュール)を備えている。その各IPMは、複数(例えば6個)の半導体スイッチング素子(例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などによって構成されている。
【0033】
MG_ECU300は、ハイブリッドECU100からの出力要求に応じてインバータ301を制御して、各モータジェネレータMG1,MG2の力行または回生を制御する。具体的には、例えば、HVバッテリ302からの直流電流を、モータジェネレータMG1,MG2を駆動する交流電流に変換する一方、エンジン1の動力により第1モータジェネレータMG1で発電された交流電流、及び、回生ブレーキにより第2モータジェネレータMG2で発電された交流電流を、HVバッテリ302を充電するための直流電流に変換する。また、第1モータジェネレータMG1で発電された交流電流を走行状態に応じて、第2モータジェネレータMG2の駆動用電力として供給する。
【0034】
−動力分割機構−
動力分割機構3は、図1に示すように、外歯歯車のサンギヤS3と、このサンギヤS3に対して同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤR3と、これらサンギヤS3とリングギヤR3とに噛み合う複数のピニオンギヤP3と、この複数のピニオンギヤP3を自転かつ公転自在に保持するプラネタリキャリヤCA3とを備え、これらサンギヤS3、リングギヤR3、及び、プラネタリキャリヤCA3を回転要素として差動作用を行う遊星歯車機構である。
【0035】
図1の動力分割機構3において、プラネタリキャリヤCA3は入力要素であって、このプラネタリキャリヤCA3は入力軸31及びダンパ2を介してエンジン1のクランクシャフト11に連結されている。また、サンギヤS3は反力要素であり、このサンギヤS3には第1モータジェネレータMG1のロータMG1R(回転軸)が連結されている。そして、リングギヤR3が出力要素となっており、このリングギヤR3にリングギヤ軸32が連結されている。リングギヤ軸32は、変速機4の出力軸42、プロペラシャフト5及びデファレンシャル装置6等を介して左右の駆動輪7L,7Rに連結されている。
【0036】
図3に動力分割機構3の共線図を示す。この図3の共線図において、縦軸Y1、縦軸Y2、及び、縦軸Y3は、それぞれ、サンギヤS3(MG1)の回転速度、プラネタリキャリヤCA3(エンジン1)の回転速度、及び、リングギヤR3(出力:リングギヤ軸32)の回転速度を表す軸であり、縦軸Y1、縦軸Y2、縦軸Y3の相互の間隔は、縦軸Y1と縦軸Y2との間隔を「1」としたとき、縦軸Y2と縦軸Y3との間隔がギヤ比ρ(サンギヤS3の歯数ZS/リングギヤR3の歯数ZR)となるように設定されている。
【0037】
そして、このような構成の動力分割機構3において、プラネタリキャリヤCA3に入力されるエンジン1の出力トルクに対して、第1モータジェネレータMG1による反力トルクがサンギヤS3に入力されると、出力要素であるリングギヤR3には、エンジン1から入力されたトルクより大きいトルクが現れる。この場合、第1モータジェネレータMG1は発電機として機能する。
【0038】
また、リングギヤR3の回転速度(出力軸回転数)が一定であるとき、第1モータジェネレータMG1の回転速度を上下に変化させることにより、エンジン1の回転速度を連続的に(無段階に)変化させることができる。例えば、第1モータジェネレータMG1を駆動制御することによって、エンジン1の回転速度を、燃費が最もよい回転速度に設定する制御を実行することができる。なお、図3に示す破線は、第1モータジェネレータMG1の回転速度を実線で示す値から下げたときに、エンジン1の回転速度が低下する状態を示している。
【0039】
また、図3に1点鎖線で示すように、ハイブリッド車両HVの走行中にエンジン1が停止している状態では第1モータジェネレータMG1が逆回転しており、この状態から第1モータジェネレータMG1を電動モータとして機能させて正回転方向にトルクを出力させると、プラネタリキャリヤCA3に連結されているエンジン1に、このエンジン1を正回転させる向きのトルクが作用する。したがって、第1モータジェネレータMG1によってエンジン1を始動(モータリングもしくはクランキング)することができる。この場合、リングギヤ軸32には、その回転を止める方向のトルクが作用するので、車両走行のための駆動トルクは、第2モータジェネレータMG2の出力トルクを制御することにより維持でき、同時にエンジン1の始動を円滑に行うことができる。なお、この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称されている。
【0040】
−変速機−
変速機4は、図1に示すように、1組のラビニヨ型遊星歯車機構によって構成されている。具体的には、変速機4は、フロントサンギヤS41、リアサンギヤS42、ショートピニオンギヤP41、及び、ロングピニオンギヤP42などを備えており、フロントサンギヤS41にショートピニオンギヤP41が噛み合っているとともに、ショートピニオンギヤP41とリアサンギヤS42とがロングピニオンギヤP42に噛み合っている。
【0041】
ロングピニオンギヤP42は、各サンギヤS41,S42に対して同心円上に配置されたリングギヤR4に噛み合っている。ショートピニオンギヤP41及びロングピニオンギヤP42はプラネタリキャリヤCA4によって自転かつ公転自在に保持されている。そして、フロントサンギヤS41、リングギヤR4、ショートピニオンギヤP41及びロングピニオンギヤP42によってダブルピニオン型遊星歯車機構が構成されており、また、リアサンギヤS42、リングギヤR4、及び、ロングピニオンギヤP42によってシングルピニオン型遊星歯車機構が構成されている。
【0042】
以上の構成の変速機4において、リアサンギヤS42は入力要素であって、このリアサンギヤS42は第2モータジェネレータMG2のロータMGR2(回転軸)に入力軸41を介して連結されている。また、プラネタリキャリヤCA4は出力要素であり、このプラネタリキャリヤCA4に出力軸42が連結されている。出力軸42の回転数(出力軸回転数)は出力軸回転数センサ102によって検出される。
【0043】
そして、変速機4のフロントサンギヤS41は、ブレーキB1を介して非回転部材であるハウジング40に選択的に連結されており、ブレーキB1の係合によってフロントサンギヤ41の回転が阻止される。また、変速機4のリングギヤR4はブレーキB2を介して非回転部材であるハウジング40に選択的に連結されており、ブレーキB2の係合によってリングギヤR4の回転が阻止される。これらブレーキB1,B2は、摩擦力によって係合力を生じる摩擦係合要素であって、例えば、多板形式の摩擦係合要素や、バンド形式の摩擦係合要素である。ブレーキB1、B2は、それぞれ、油圧シリンダ(油圧サーボ)などのブレーキB1用油圧アクチュエータ、ブレーキB2用油圧アクチュエータによって発生させられる係合圧に応じてトルク容量が連続的に変化するように構成されている。
【0044】
なお、変速機4を構成する摩擦係合要素が、本発明でいう「駆動力源から駆動輪への動力伝達の遮断が可能な断接機構」に相当する。
【0045】
また、変速機4を構成する摩擦係合要素が、本発明でいう「オイルが供給されることによって係合される駆動力伝達機構」に相当する。
【0046】
図4に変速機4の共線図を示す。この図4の共線図において、縦軸Y4、縦軸Y5、縦軸Y6、及び、縦軸Y7は、それぞれ、フロントサンギヤS41の回転速度、リングギヤR4の回転速度、プラネタリキャリヤCA4(出力軸42)の回転速度、及び、リアサンギヤS42(MG2)の回転速度を表す軸である。
【0047】
そして、このような構成の変速機4において、ブレーキB1、B2を所定の状態に係合または解放することによって変速段(高速段Hi、低速段Lo)が設定される。
【0048】
具体的には、ブレーキB1を係合し、ブレーキB2を解放することによって、変速比が「1」よりも大きい高速段Hiが設定される(図4及び図7参照)。つまり、ブレーキB1が係合すると、フロントサンギヤS41の回転が固定され、その回転が固定されたフロントサンギヤS41と、第2モータジェネレータMG2によって回転するリアサンギヤS42(リングギヤR4)の回転とによって、プラネタリキャリヤCA4(出力軸42)が高速回転する。
【0049】
一方、ブレーキB2を係合し、ブレーキB1を解放することによって、高速段Hiよりも変速比が大きい低速段Loが設定される(図4及び図7参照)。つまり、ブレーキB2が係合すると、リングギヤR4の回転が固定され、その回転が固定されたリングギヤR4と、第2モータジェネレータMG2によって回転するリアサンギヤS42とによって、プラネタリキャリヤCA4(出力軸42)が低速回転する。このような変速機4のブレーキB1,B2の係合時または解放時の油圧は、後述する油圧制御回路400(図6参照)によって制御される。
【0050】
以上の変速機4の変速処理は、車速V及びアクセル開度Accに基づいて図5の変速マップを参照して実行される。
【0051】
図5の変速マップでは、アップシフト線(変速線)を実線で示し、ダウンシフト線(変速線)を破線で示している。この図5の変速マップにおいて、車両の運転状態(車速V、アクセル開度Acc)が、実線で示すアップシフト線を跨いで、図5の左側の領域から右側の領域に状態が変化した場合には、変速機4の変速段を低速段Loから高速段Hiに切り替える処理(アップシフト処理)が実行される。一方、車両の運転状態が、破線で示すダウンシフト線を跨いで、図5の右側の領域から左側の領域に状態が変化した場合には、変速機4の変速段を高速段Hiから低速段Loに切り替える処理(ダウンシフト処理)が実行される。このような変速機4の変速制御はハイブリッドECU100によって実行される。
【0052】
なお、上記変速制御に用いる車速Vは出力軸回転数センサ102(図1及び図2参照)の出力信号から算出することができる。また、アクセル開度Accは、アクセル開度センサ104(図2参照)の出力信号から得ることができる。なお、車速Vについては車速センサの出力信号から得るようにしてもよい。
【0053】
−油圧制御回路−
次に、変速機4の油圧制御回路400について図6を参照して説明する。
【0054】
この例の油圧制御回路400は、油圧源として、エンジン1によって回転駆動され、かつ、ブレーキB1,B2を作動させるのに十分な圧送性能をもってオイル(オートマチックトランスミッションフルード:ATF)を圧送する機械式オイルポンプ401を備えている。
【0055】
また、油圧制御回路400は、3ウェイソレノイドバルブ402、ライン圧コントロールバルブ403、モジュレータバルブ404、第1リニアソレノイドバルブSLB1、B1コントロールバルブ411、B1アプライコントロールバルブ412、第2リニアソレノイドバルブSLB2、B2コントロールバルブ421、及び、B2アプライコントロールバルブ422などを備えている。
【0056】
ライン圧コントロールバルブ403は、3ウェイソレノイドバルブ402からの油圧に応じて、機械式オイルポンプ401から圧送されたオイルの圧力(ライン圧PL)を低圧または高圧の一定のライン圧(2段階のライン圧)に調整する。
【0057】
モジュレータバルブ404は、上記ライン圧PLを元圧とし、そのライン圧PLの変動に関らず、低圧側のライン圧PLよりも低く設定した一定のモジュール圧PMを、3ウェイソレノイドバルブ402、第1リニアソレノイドバルブSLB1、及び、第2リニアソレノイドバルブSLB2の各入力ポートに供給する。
【0058】
第1リニアソレノイドバルブSLB1は、非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が開弁(連通)する常開型(N/O)のバルブであって、モジュール圧PMを元圧として、ハイブリッドECU100からの指令信号(駆動電流)に応じた制御圧PC1をB1コントロールバルブ411に出力する。第2リニアソレノイドバルブSLB2は、非通電時において入力ポートと出力ポートとの間が閉弁(遮断)する常閉型(N/C)のバルブであって、モジュール圧PMを元圧として、ハイブリッドECU100からの指令信号(駆動電流)に応じた制御圧PC2をB2コントロールバルブ421に出力する。
【0059】
B1コントロールバルブ411は、ライン圧PLを元圧として、第1リニアソレノイドバルブSLB1からの制御圧PC1に応じた大きさのB1係合油圧PB1をブレーキB1にB1アプライコントロールバルブ412を通じて供給する。
【0060】
B2コントロールバルブ421は、ライン圧PLを元圧として、第2リニアソレノイドバルブSLB2からの制御圧PC2に応じた大きさのB2係合油圧PB2をブレーキB2にB2アプライコントロールバルブ422を通じて供給する。
【0061】
B1アプライコントロールバルブ412は、B2コントロールバルブ421から出力されたB2係合油圧PB2を受け入れる油室412aを備えており、その油室412aにB2係合油圧PB2が供給されていないときには開弁状態となり、B1コントロールバルブ411とブレーキB1との間の油路が開放される。一方、油室412aにB2係合油圧PB2が供給されると、B1アプライコントロールバルブ412が閉弁状態に切り替わってブレーキB1の係合が阻止される。
【0062】
また、B1アプライコントロールバルブ412にはブレーキB2用の油圧スイッチ(PS)423が接続されている。この油圧スイッチ423は、ブレーキB2にB2係合油圧PB2が供給され、ブレーキB2の油圧が所定の閾値以上であるときにOnとなり、ブレーキB2にB2係合油圧PB2が供給されずに、ブレーキB2の油圧が上記閾値よりも低い値に低下したときにOffとなるスイッチである。油圧スイッチ423のOn信号またはOff信号はハイブリッドECU100に入力される。なお、上記油圧スイッチ423の閾値(油圧低下検出閾値)については、ブレーキB2を係合状態にするために必要な油圧(作動圧)の下限値を閾値としている。
【0063】
上記B2アプライコントロールバルブ422は、B1コントロールバルブ411から出力されたB1係合油圧PB1を受け入れる油室422aを備えており、その油室422aにB1係合油圧PB1が供給されていないときには開弁状態となり、B2コントロールバルブ421とブレーキB2との間の油路が開放される。一方、油室422aにB1係合油圧PB1が供給されると、B2アプライコントロールバルブ422が閉弁状態に切り替わってブレーキB2の係合が阻止される。
【0064】
また、B2アプライコントロールバルブ422にはブレーキB1用の油圧スイッチ(PS)413が接続されている。この油圧スイッチ413は、ブレーキB1にB1係合油圧PB1が供給され、ブレーキB1の油圧が所定の閾値以上であるときにOnとなり、ブレーキB1にB1係合油圧PB1が供給されずに、ブレーキB1の油圧が上記閾値よりも低い値に低下したときにOffとなるスイッチである。油圧スイッチ413のOn信号またはOff信号はハイブリッドECU100に入力される。なお、上記油圧スイッチ413の閾値(油圧低下検出閾値)については、ブレーキB1を係合状態にするために必要な油圧(作動圧)の下限値を閾値としている。
【0065】
なお、上記機械式オイルポンプ401が停止している場合には、ブレーキB1及びブレーキB2の双方に係合油圧が供給されないので、ブレーキB1用の油圧スイッチ413及びブレーキB2用の油圧スイッチ423の出力信号は共にOff信号となる。
【0066】
図7は、以上の構成の油圧制御回路400の作動、つまり、リニアソレノイドバルブSLB1、SLB2の励磁状態(通電状態)とブレーキB1、B2の作動状態との関係を説明する図である。図7において、○印が励磁状態または係合状態を示し、×印が非励磁状態または解放状態を示している。
【0067】
この図7に示すように、第1リニアソレノイドバルブSLB1及び第2リニアソレノイドバルブSLB2が共に励磁状態である場合には、ブレーキB1が解放状態となり、ブレーキB2が係合状態となって変速機4の低速段Loが達成される。一方、第1リニアソレノイドバルブSLB1及び第2リニアソレノイドバルブSLB2が共に非励磁状態である場合には、ブレーキB1が係合状態となり、ブレーキB2が解放状態となって変速機4の高速段Hiが達成される。
【0068】
なお、以上の油圧制御回路400が、本発明でいう「少なくとも変速機に供給されるオイルの油路を切り替える油路切替部」に相当する。
【0069】
−シフト操作装置−
この例のハイブリッド車両HVには、図8に示すようなシフト操作装置8が設けられている。シフト操作装置8にはシフトレバー81が変位可能に設けられている。この例のシフト操作装置8には、前進走行用のドライブレンジ(Dレンジ)、アクセルオフ時の制動力(エンジンブレーキ)が大きな前進走行用のブレーキレンジ(Bレンジ)、後進走行用のリバースレンジ(Rレンジ)、中立のニュートラルレンジ(Nレンジ)が設定されており、ドライバが所望のレンジへシフトレバー81を変位させることが可能となっている。これらDレンジ、Bレンジ、Rレンジ、Nレンジの各位置はシフトポジションセンサ105によって検出される。シフトポジションセンサ105の出力信号はハイブリッドECU100に入力される。
【0070】
また、シフトレバー81の近傍には、駐車用のパーキングポジション(Pポジション)に設定するためのPポジションスイッチ106が設けられている。Pポジションスイッチ106は、シフトポジションをパーキングポジション(Pポジション)とパーキング以外のポジション(非Pポジション)との間で切り替えるためのスイッチであって、このPポジションスイッチ106がドライバによってオン操作されると、シフトポジションを「非Pポジション」から「Pポジション」に切り替えるP指令信号がハイブリッドECU100に入力される。なお、Pポジションから非Pポジションへの切り替え操作は、シフトレバー81の操作(例えば、Nレンジ、Dレンジ、Rレンジへの操作)によって行われる。
【0071】
−パワースイッチ−
ハイブリッド車両HVには、ハイブリッドシステム(車両システム)の起動と停止とを切り替えるためのパワースイッチ107が設けられている。パワースイッチ107は、例えば、跳ね返り式のプッシュスイッチあって、押圧操作されるごとに、スイッチOnとスイッチOffとが交互に切り替わるようになっている。なお、パワースイッチ107が、本発明でいう「操作部」に相当する。
【0072】
ここで、ハイブリッドシステムとは、エンジン1の運転制御、モータジェネレータMG1,MG2の駆動制御、エンジン1及びモータジェネレータMG1,MG2の協調制御などを含む各種制御を実行することによってハイブリッド車両HVの走行を制御するシステムである。
【0073】
パワースイッチ107は、ドライバを含むユーザにより操作された場合に、その操作に応じた信号(IG−On指令信号またはIG−Off指令信号)をハイブリッドECU100に出力する。ハイブリッドECU100は、パワースイッチ107から出力された信号などに基づいてハイブリッドシステムを起動または停止する。
【0074】
具体的には、ハイブリッドECU100は、パワースイッチ107の操作(On操作)によりIG−On指令信号が入力されると、上記ハイブリッドシステムを起動する。これにより車両が走行可能な状態(IG−On状態)となる。車両が走行可能な状態とは、ハイブリッドECU100の指令信号により車両走行を制御できる状態であって、ドライバがアクセルオンすれば、ハイブリッド車両HVが発進・走行できる状態(Ready−On状態)のことである。なお、Ready−On状態には、エンジン1が停止状態で、第2モータジェネレータMG2でハイブリッド車両HVの発進・走行が可能な状態も含まれる。
【0075】
また、ハイブリッドECU100は、例えば、ハイブリッドシステムが起動中で、停車時にPポジションであるときに、パワースイッチ107が操作(例えば、短押し)された場合にはハイブリッドシステムを停止する。
【0076】
さらに、この例では、ハイブリッド車両HVの走行中(ハイブリッドシステム起動中)において、パワースイッチ107が操作(長押し:例えば3秒)された場合には、ハイブリッドシステムを停止(IG−Off)させることが可能となっている。また、そのような車両走行中にハイブリッドシステムの停止があった後(IG−Off後)に、パワースイッチ107が操作(On操作)されたときには、その再始動要求(IG−Off→IG−On)に応じてハイブリッドシステムを再起動できるようになっている。この再起動時にエンジン始動条件が成立している場合には、エンジン1が再始動される。
【0077】
−ECU−
ハイブリッドECU100は、エンジン1の運転を制御するエンジンECU200と、モータジェネレータMG1,MG2の駆動を制御するMG_ECU300との間で制御信号やデータ信号を送受信し、エンジン1の運転制御、モータジェネレータMG1,MG2の駆動制御、並びに、エンジン1及びモータジェネレータMG1,MG2の協調制御などを含む各種制御を実行する電子制御装置である。
【0078】
ハイブリッドECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びバックアップRAMなどを備えている。
【0079】
ROMには、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAMはCPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMはエンジン1の停止時などにおいて保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0080】
なお、エンジンECU200及びMG_ECU300においても、CPU、ROM、RAM及びバックアップRAMなどを備えている。
【0081】
図2に示すように、ハイブリッドECU100には、エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11の回転数(エンジン回転数)を検出するエンジン回転数センサ101、出力軸42の回転数を検出する出力軸回転数センサ102、エンジン1のスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ103、アクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサ104、シフトポジションセンサ105、Pポジションスイッチ106、パワースイッチ107、HVバッテリ302の充放電電流を検出する電流センサ108、バッテリ温度センサ109、ブレーキペダルに対する踏力(ブレーキ踏力)を検出するブレーキペダルセンサ110、及び、変速機4を制御する油圧制御回路400に設けられた油圧スイッチ413,423などが接続されている。さらに、ハイブリッドECU100には、エンジン冷却水温を検出する水温センサ、吸入空気量を検出するエアフロメータなどのエンジン1の運転状態を示すセンサなどが接続されており、これらの各センサからの信号がハイブリッドECU100に入力される。
【0082】
そして、ハイブリッドECU100は、HVバッテリ302を管理するために、上記電流センサ108にて検出された充放電電流の積算値や、上記バッテリ温度センサ109にて検出されたバッテリ温度などに基づいて、HVバッテリ302の充電状態(SOC:State of Charge)や、HVバッテリ302の入力制限Win及び出力制限Woutなどを演算する。また、ハイブリッドECU100は、変速機4の油圧制御回路400に、上記した第1リニアソレノイドバルブSLB1及び第2リニアソレノイドバルブSLB2などの作動を制御する指令信号(駆動電流指令値)などを出力する。
【0083】
さらに、ハイブリッドECU100は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、エンジンECU200及びMG_ECU300に出力要求を送信して駆動力を制御する。具体的には、例えば、ブレーキペダルが操作された状態でパワースイッチ107が操作されることによってハイブリッドシステムが起動(Ready−On)されると、アクセル操作量Acc及び車速V等に基づいて運転者の要求駆動力Trを算出し、その要求駆動力Trが得られるように、エンジンECU200及びMG_ECU300に出力要求を送信して、エンジン1、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2の駆動を制御する。
【0084】
具体的には、例えば、(1)エンジン1を最適燃費曲線上で作動させて駆動力を発生させるとともに、要求駆動力Trに対する不足分を第2モータジェネレータMG2でアシストするアシスト走行モード、(2)要求駆動力Trの増大時つまり発進時や加速時にエンジン1の出力トルク及び第1モータジェネレータMG1の回生制動トルクを共に増加させせるとともに、第2モータジェネレータMG2の力行トルクを増大させる発進・加速モード、(3)エンジン1を停止した状態で第2モータジェネレータMG2を動力源とするモータ走行モード(EV走行モード)、(4)エンジン1の動力で第1モータジェネレータMG1により発電を行いながら第2モータジェネレータMG2を動力源として走行する充電走行モード、(5)エンジン1の動力を機械的に駆動輪7L,7Rに伝えて走行するエンジン走行モードなどの走行モードを、車両の走行状態に応じて切り替える。
【0085】
また、ハイブリッドECU100は、エンジン1が最適燃費曲線上で作動するように第1モータジェネレータMG1によってエンジン回転速度を制御する。
【0086】
さらに、ハイブリッドECU100は、第2モータジェネレータMG2を駆動してトルクアシストする場合、車速Vが遅い状態では変速機4の変速段を低速段Loに設定して出力軸42に付加するトルクを大きくする制御を実行し、また、車速Vが大きくなった場合には変速機4の変速段を高速段Hiに設定し、第2モータジェネレータMG2の回転速度を相対的に低下させて損失を低減して効率のよいトルクアシストを行う制御を実行する。また、コースト走行時(減速時)にはハイブリッド車両HVの有する慣性エネルギで第1モータジェネレータMG1及び/または第2モータジェネレータMG2を回転駆動することにより電力として回生し、その回生した電力をHVバッテリ302に充電する。なお、後進走行は、例えば変速機4を低速段Loとした状態で、第2モータジェネレータMG2を逆方向へ回転駆動することによって達成される。このとき、第1モータジェネレータMG1は無負荷もしくは最小トルクとされ、エンジン1の作動状態に関係なく出力軸42が逆回転することを許容する。
【0087】
さらに、ハイブリッドECU100は、下記のハイブリッドシステムの起動処理を実行する。
【0088】
−ハイブリッドシステムの起動処理−
次に、ハイブリッド車両HVにおけるハイブリッドシステムの起動処理を停車時と走行時とに場合分けして説明する。以下の処理は、ハイブリッドECU100によって実行される。
【0089】
[停車時]
停車時では、ブレーキペダルが踏まれた状態(ブレーキペダルセンサ110の出力信号から認識)でパワースイッチ107が操作(例えば、短押し)された場合に、ハイブリッドシステムの起動処理が開始される。ハイブリッドシステムが開始されると、まずは、予め設定されたシステムチェックが実行され、そのシステムチェックが完了すると、システムメインリレー(図示せず)が接続される。システムメインリレーは、HVバッテリ302とインバータ301とを接続または遮断するためのリレーである。このシステムメインリレーが接続されることにより、HVバッテリ302から供給される電力によってモータジェネレータMG1,MG2が駆動可能になるとともに、モータジェネレータMG1,MG2で発電された電力をHVバッテリ302に充電可能になる。
【0090】
そして、冷間時である場合またはHVバッテリ302のSOCが低下している場合、つまり、EV走行条件不成立(エンジン始動条件成立)の場合には、エンジン1が始動される。なお、エンジン1の始動は、HVバッテリ302の電力により駆動される第1モータジェネレータMG1によって行われる。その後、Ready−On状態(走行可能な状態)になり、コンビネーションメータ(図示せず)にその旨を示すインジケータランプが点灯される。
【0091】
一方、エンジン1の暖機が必要でない場合、及び、HVバッテリ302を充電する必要がない場合、つまり、EV走行条件成立の場合には、エンジン1が始動されることなく、Ready−On状態になり、コンビネーションメータにその旨を示すインジケータランプが点灯される。
【0092】
[走行時]
まず、本実施形態では、ハイブリッド車両HVの走行中において、ドライバを含む搭乗者(ユーザ)がパワースイッチ107を操作(Off操作)した場合、ハイブリッドシステムが停止状態(IG−Off状態)となる。また、この後(走行中にIG−Offとなった後)に、パワースイッチ107が操作(IG−On操作)されたときにはハイブリッドシステムを再起動できるようになっており、その再起動の際に、EV走行条件が不成立(エンジン始動条件成立)である場合にはエンジン1が始動される。
【0093】
ここで、この例のハイブリッド車両HVにおいて、上記変速機4(油圧制御回路400)の油圧は、エンジン1の動力で駆動する機械式オイルポンプ401によって供給されるので、走行中にIG−Offとなってエンジンが停止すると、これに伴って機械式オイルポンプ401も停止するため、変速機4の油圧が低下してブレーキB1,B2(摩擦係合要素)が解放状態になる。
【0094】
そして、このような状況(変速機4のブレーキB1及びB2の双方が解放した状態)から、ハイブリッドシステムが再起動してエンジンが再始動すると、これに伴って変速機4(油圧制御回路400)の油圧が立ち上がり、車両走行中に変速機4が係合(ブレーキB1またはB2が係合)するようになる。このとき、出力軸42は駆動輪7L,7Rにて被駆動回転されているので、その出力軸42の回転数と変速機4の入力軸41(第2モータジェネレータMG2)の回転数との間には差があり、こうした回転数差がある状態で変速機4が係合(Lo側のブレーキB2が係合)すると、その係合時にショックが発生する場合がある。また、変速機4の係合部(ブレーキB2)の引きずりが懸念される。この対策として、変速機4の入力軸41に連結された第2モータジェネレータMG2を駆動して変速機4の入力軸41の回転数を出力軸42の回転数に合わせるという制御(同期制御)が考えられるが、この場合、低温時等におけるHVバッテリ302の出力制限Woutによって、第2モータジェネレータMG2を駆動(トルク出力)できない場合には、エンジン1の再始動時の係合ショックや係合部の引きずりを低減することはできない。
【0095】
そのような点を考慮して、本実施形態では、車両走行中にハイブリッドシステムが停止し(IG−Off)、その後に、エンジンを再始動する際に発生する係合ショックや、変速機4の係合部の引きずりを確実に低減できるようにする。
【0096】
その具体的な制御(車両走行中にIG−Offされた場合の制御)の一例について、図9のフローチャートを参照して説明する。
【0097】
図9の制御ルーチンはハイブリッドECU100において所定時間毎(例えば数msec毎)に繰り返して実行される。なお、この例では、エンジン1の動力により走行([エンジン+モータ]走行も含む)している場合の制御について説明する。
【0098】
この図9の制御ルーチンが開始されると、まずは、ステップST101において、出力軸回転数センサ102の出力信号から算出される車速Vに基づいてハイブリッド車両HVが走行中であるか否かを判定する。その判定結果が否定判定(NO)である場合はリターンする。ステップST101の判定結果が肯定判定(YES)である場合(車両走行中である場合)はステップST102に進む。
【0099】
ステップST102では、車両走行中(ハイブリッドシステム起動中)に、パワースイッチ107の操作によりIG−Offされた否かを判定し、その判定結果が否定判定(NO)である場合はリターンする。ステップST102の判定結果が肯定判定(YES)である場合(走行中に[IG−Off→IG−Off]操作有りの場合)はステップST103に進む。なお、走行中にIG−Off操作(ハイブリッドシステムの停止操作)がされる一例としては、ドライバを含む搭乗者によるパワースイッチ107の誤操作などが考えられる。
【0100】
ここで、車両走行中にIG−Off操作された場合は、ハイブリッドシステムが停止される。このハイブリッドシステムの停止処理には、例えば、フューエルカット等によるエンジン1の停止、インバータ301のゲート遮断によるモータジェネレータMG1,MG2の駆動停止、システムメインリレーの遮断などが含まれる。
【0101】
ステップST103では、変速機4(油圧制御回路400)の油圧が低下(オイルポンプの吐出量が減少)したか否かを判定する。具体的には、油圧制御回路400の油圧スイッチ413(ブレーキB1用)及び油圧スイッチ423(ブレーキB2用)の両方の信号が共にOff信号であるか否かを判定し、その両方の信号が共にOff信号である場合は変速機4の油圧が低下したと判定(油圧低下の検出)してステップST104に進む。ステップST103の判定結果が否定判定(NO)である場合はリターンする。
【0102】
ステップST104においては、変速機4の変速段を高速段Hi(変速比を最も小さい変速比)に設定する制御を実行する。具体的には、油圧制御回路400の第1リニアソレノイドバルブSLB1を及び第2リニアソレノイドバルブSLB2を共に非励磁状態(非通電状態)として高速段Hi(図7参照)を設定する制御(変速機4の変速比を小さくするような油路に切り替える制御(油路切替部(油圧制御回路400)の制御))を実行する。この変速段を高速段Hiに設定する制御(リニアソレノイドバルブSLB1,SLB2:非励磁)が、本発明でいう「変速機の変速比を小さい側の変速比に設定する制御」に相当する。なお、この変速段を高速段Hiに設定する制御(リニアソレノイドバルブSLB1,SLB2:非励磁)を行った時点では変速機4の油圧が立ち上がっておらず、ブレーキB1及びブレーキB2は共に解放状態となっている。
【0103】
そして、そのような制御を実行したうえで、エンジン1を再始動する(EV走行条件が成立している場合はエンジン1の再始動を行わずにリターンする)。エンジン1が始動すると、これに伴って機械式オイルポンプ401が駆動して変速機4(油圧制御回路400)の油圧が立ち上がる。これによって変速機4のB1ブレーキが係合(B2ブレーキは解放状態)して変速機4の変速段が高速段Hiとなる。
【0104】
このようにして変速機4の変速段を高速段Hiとし、変速比を最も小さい値としておくことにより、エンジン1の再始動時(油圧が立ち上がり時)に、変速機4の入力軸41の回転数と出力軸42の回転数とに差があっても、その回転数差による変速機4の係合ショックを、変速段が低速段Loである場合(変速比が大きい場合)と比較して低減することができる。また、変速機4の係合部(ブレーキB1,B2)の引きずりを低減することができ、その係合面への影響(磨耗など)を少なくすることができる。しかも、低温時等におけるHVバッテリ302の出力制限Woutにより第2モータジェネレータMG2を駆動(トルク出力)できない場合であっても、走行中IG−Off後のエンジン1の再始動時における係合ショックや係合部の引きずりを低減することができる。
【0105】
なお、上記ステップST102が肯定判定時つまり[IG−On→IG−Off]時において、変速機4の変速段が高速段Hiである場合(変速比が最も小さい変速比である場合)は、そのまま高速段Hiの設定を維持できるように油圧制御回路400のリニアソレノイドバルブSLB1,SLB2を制御する(非励磁状態を維持する)。
【0106】
ここで、本実施形態において、車両の走行中にIG−Off(ハイブリッドシステムの停止)があった後、変速機4(油圧制御回路400)の油圧低下を検出した場合であっても、そのIG−Offの時点においてHVバッテリ302の出力制限Woutに余裕があり、第2モータジェネレータMG2の駆動(トルク出力)によって、変速機4の入力軸41の回転数を出力軸42の回転数に合わせる制御(同期制御)が可能である場合は、その制御を実行し、変速機4の変速段についてはIG−Off時点のままの変速段(低速段Loまたは高速段Hi)を維持するようにしてもよい。
【0107】
[変形例]
次に、車両走行中にIG−Offされた場合の制御の他の例について説明する。
【0108】
この例の制御では、車両走行中にIG−Off(ハイブリッドシステム停止)があった後、IG−Onの操作(再始動要求)があり、かつ、変速機4の油圧低下を検出した場合に、変速機4の変速段を高速段Hiに設定(変速比を最も小さい変速比に設定)する制御を実行する点に特徴がある。
【0109】
その具体的な制御について図10のフローチャートを参照して説明する。図10の制御ルーチンはハイブリッドECU100において実行可能である。
【0110】
図10に示すステップST201及びステップST202の各処理は、上記した図9のフローチャートのステップST101及びステップST102の各処理と同じである。
【0111】
この例では、ステップST202の判定結果が肯定判定(YES)となった場合、つまり、ハイブリッド車両HVの走行中に、パワースイッチ107の操作によりIG−Offされた場合にはステップST203に進む。
【0112】
ステップST203では、走行中のIG−Off操作の後に、パワースイッチ107の操作によりIG−On(再始動要求)操作が行われた否かを判定し、その判定結果が否定判定(NO)である場合はリターンする。ステップST203の判定結果が肯定判定(YES)である場合([IG−Off→IG−On]となった場合)はステップST204及びステップST205の処理を実行する。すなわち、ステップST204では、変速機4(油圧制御回路400)の油圧が低下したか否かを判定し、その油圧低下がある場合はステップST205に進む。ステップST205では、変速機4の変速段を高速段Hi(変速比を最も小さい変速比)に設定する制御を実行する。そして、このような制御を実行したうえでエンジン1を再始動する。
【0113】
なお、上記ステップST204及びステップST205の各処理は、上記した図9のフローチャートのステップST103及びステップST104と同じ処理であるので、その具体的な説明は省略する。
【0114】
この例の制御によれば、走行中IG−Off後の再始動要求(IG−Off→IG−On)に応じてエンジン1が再始動され、変速機4(油圧制御回路400)の油圧が立ち上がったときには、変速機4の変速段を高速段Hi(変速比を最も小さい変速比)となるようにしているので、エンジン1の再始動時に変速機4の変速段が低速段Loである場合と比較して、油圧立ち上がり時における変速機4の係合ショックを低減することができる。また、変速機4の係合部(ブレーキB1,B2)の引きずりを低減することができ、その係合面への影響(磨耗など)を少なくすることができる。しかも、低温時等におけるHVバッテリ302の出力制限Woutにより第2モータジェネレータMG2を駆動(トルク出力)できない場合であっても、走行中IG−Off後のエンジンの再始動時における係合ショックや係合部の引きずりを低減することができる。
【0115】
なお、この例においても、上記ステップST202が肯定判定時つまり[走行中のIG−On→IG−Off]時に、変速機4の変速段が高速段Hiである場合(変速比が最も小さい場合)は、そのまま高速段Hiを維持するように油圧制御回路400のリニアソレノイドバルブSLB1,SLB2を制御する(非励磁状態を維持する)。
【0116】
また、この例の制御においても、車両の走行中にIG−Off(ハイブリッドシステムの停止)があった後、変速機4(油圧制御回路400)の油圧低下を検出した場合であっても、そのIG−Off時点においてHVバッテリ302の出力制限Woutに余裕があり、第2モータジェネレータMG2の駆動(トルク出力)によって、変速機4の入力軸41の回転数を出力軸42の回転数に合わせる制御(同期制御)が可能である場合は、その制御を実行し、変速機4の変速段についてはIG−Off時点のままの変速段(低速段Loまたは高速段Hi)を維持するようにしてもよい。
【0117】
−他の実施形態−
以上の例では、ブレーキB1,B2の油圧を検出する油圧スイッチ413,423の出力信号を用いて変速機4(油圧制御回路400)の油圧低下(ブレーキB1及びB2の油圧低下)を検出しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、図6に示す油圧制御回路400のライン圧PLを検出する油圧スイッチを設け、その油圧スイッチの出力信号を用いて変速機4の油圧低下を検出するようにしてもよい。また、油圧スイッチに替えて油圧センサ等の他の検出手段を用いて変速機4の油圧低下を検出するようにしてもよい。
【0118】
油圧センサを用いる場合、その油圧センサにて検出される油圧検出値が所定の判定閾値よりも小さいときに変速機の油圧が低下したと判定すればよい。なお、この場合、上記判定閾値については、変速機の係合部(摩擦係合要素)を係合状態にするために必要な油圧(作動圧)の下限値を判定閾値とすればよい。
【0119】
以上の例では、第2モータジェネレータMG2を連結する変速機4の変速段を高速段Hiと低速段Loとに切り替え可能な2段変速の変速機としているが、これに限定されることなく、3段以上の複数の変速段を有する変速機が搭載されたハイブリッド車両の制御にも本発明は適用可能である。この場合、走行中にIG−Off操作があった後に変速機の油圧低下を検出した場合には、変速機の変速段を最も高い変速段に設定(変速比を最も小さい変速比に設定)すればよい。また、第2モータジェネレータMG2を連結する変速機としては、ベルト式無段変速機などの無段変速機であってもよい。
【0120】
なお、複数段(例えば5段)の変速段を有する変速機(または無段変速機)が搭載された車両である場合、走行中のIG−Off後に油圧低下を検出した際に、変速機の変速段を最も高い変速段(変速比を最も小さい変速比)に設定する制御を実行することが好ましいが、係合ショックや係合部の引きずりを低減できるのであれば、最高変速段よりも低い変速段(例えば最高変速段よりも1段低い変速段)に設定(最小変速比よりも所定量だけ大きい変速比に設定)する制御を実行するようにしてもよい。
【0121】
以上の例では、変速機4を構成する摩擦係合要素を、駆動力源から駆動輪への動力伝達の遮断が可能な断接機構としているが、その断接機構は、例えば、駆動力源と変速機との間の動力伝達経路に設けられたものであってもよい。
【0122】
なお、変速機4を構成する摩擦係合要素は、本発明でいう「オイルが供給されることによって係合される駆動力伝達機構」の一例であり、このような駆動力伝達機構(オイルが供給されることによって係合される駆動力伝達機構)は、例えば、駆動力源と変速機との間の動力伝達経路に設けられていてもよい。
【0123】
以上の例では、2個のモータジェネレータMG1,MG2と動力分割機構3とが搭載された、いわゆるスプリット方式のハイブリッド車両の制御に本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限られることなく、駆動力伝達経路にクラッチを設けたハイブリッド車両の制御にも適用可能である。
【0124】
そのハイブリッド車両の一例を図11に示す。この例のハイブリッド車両500は、エンジン501、電動機及び発電機として機能するモータジェネレータ(MG)503、変速機(有段式の自動変速機(例えば前進5速)や、無段変速機など)505、モータジェネレータ503を駆動するインバータ511、モータジェネレータ503を駆動する電力を供給するとともに、モータジェネレータ503で発電された電力を蓄電するバッテリ512などを備えており、エンジン501とモータジェネレータ503とが第1クラッチ502を介して連結されている。また、モータジェネレータ503と変速機505とが第2クラッチ504を介して連結されている。
【0125】
この図11に示すハイブリッド車両500にあっては、第1クラッチ502を遮断(解放)し、第2クラッチ504を接続(係合)することにより、モータジェネレータ503のみによって駆動輪(後輪)506L,506Rを駆動することが可能である。また、第1クラッチ502及び第2クラッチ504の両方を接続(係合)することにより、エンジン501の駆動力によって駆動輪506L,506Rを駆動することが可能であるとともに、モータジェネレータ503による充電またはアシストトルクを発生させることが可能である。
【0126】
そして、図11に示すハイブリッド車両500においても、走行中にIG−Off操作があった後に変速機505の油圧低下を検出した場合には、変速機503の変速段を最も高い変速段に設定(変速比を最も小さい変速比に設定)するという制御を行うことで、走行中IG−Off後のエンジン501の再始動時における変速機505の係合ショックや係合部の引きずりを低減することができる。
【0127】
以上の例では、機械式オイルポンプが搭載されたハイブリッド車両の制御に本発明を適用した例について説明したが、本発明これに限られることなく、機械式オイルポンプと電動オイルポンプ(車両システム起動に伴って供給される電力によって駆動される電動オイルポンプ)とが搭載されたハイブリッド車両の制御にも適用可能である。この場合、車両走行中におけるハイブリッドシステムの再起動要求(IG−Off→IG−On)に応じて、電動オイルポンプを駆動するようにしてもよい。
【0128】
以上の例では、FR(フロントエンジン・リアドライブ)方式のハイブリッド車両の制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式のハイブリッド車両や、4輪駆動方式のハイブリッド車両の制御にも適用できる。
【0129】
以上の例では、第1モータジェネレータMG1及び第2モータジェネレータMG2の2つの回転電機が搭載されたハイブリッド車両の制御に、本発明を適用した例を示したが、3つ以上のモータジェネレータを備え、そのうちの少なくとも1つが車両の走行駆動力のアシストを行うハイブリッド車に適用することも可能である。なお、本発明は、駆動力源としてエンジンのみを搭載したコンベンショナル車両にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、車両の制御装置に利用可能であり、さらに詳しくは、走行用の駆動力源としてエンジンと電動機とを備え、電動機が変速機を介して駆動輪に連結されたハイブリッド車両の制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0131】
1 エンジン
3 動力分割機構
4 変速機
41 入力軸
42 出力軸
B1,B2 ブレーキ(摩擦係合要素)
7L,7R 駆動輪(後輪)
MG1 第1モータジェネレータ
MG2 第2モータジェネレータ
100 ハイブリッドECU
101 エンジン回転数センサ
102 出力軸回転数センサ
104 アクセル開度センサ
105 シフトポジションセンサ
107 パワースイッチ(操作部)
200 エンジンECU
300 MG_ECU
302 HVバッテリ
400 油圧制御回路
401 機械式オイルポンプ
413,423 油圧スイッチ
SLB1 第1リニアソレノイドバルブ
SLB2 リニアソレノイドバルブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の駆動力源と、油圧式の変速機とを備え、前記駆動力源から駆動輪への動力伝達の遮断が可能な断接機構が設けられた車両の制御装置において、
車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、前記変速機の油圧が低下したことを条件に、車両の走行中に前記変速機の変速比を小さい側の変速比に設定する制御を実行することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両の制御装置において、
車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、前記変速機の油圧が低下したことを条件に、車両の走行中に前記変速機の変速比を最も小さい変速比に設定する制御を実行することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両の制御装置において、
走行用の駆動力源としてのエンジン及び電動機と、油圧式の変速機とを備え、前記電動機が前記変速機を介して駆動輪に連結された車両に適用され、
車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、前記変速機の油圧が低下したことを条件に、車両の走行中に前記変速機の変速比を小さい側の変速比に設定する制御を実行することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両の制御装置において、
車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、前記駆動力源の再始動要求があり、かつ、前記変速機の油圧が低下した場合に、車両の走行中に前記変速機の変速比を小さい側の変速比に設定する制御を行ったうえで、車両の走行中に前記駆動力源を再始動することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項3または4記載の車両の制御装置において、
オイルポンプから供給される油圧によって前記変速機の複数の摩擦係合要素を係合または解放することにより変速比を変更するように構成されているとともに、前記変速機の複数の摩擦係合要素の全ての油圧が、当該摩擦係合要素が解放状態となる油圧にまで低下したことを検出する油圧低下検出手段が設けられており、
車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、車両の走行中に前記油圧低下検出手段にて前記変速機の油圧低下が検出された場合に、車両の走行中に前記変速機の変速比を小さい側の変速比に設定する制御を実行することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
走行用の駆動力源と、オイルが供給されることによって変速可能となる変速機と、オイルが供給されることによって係合される駆動力伝達機構と、少なくとも前記変速機に供給されるオイルの油路を切り替える油路切替部と、前記変速機と前記駆動力伝達機構とにオイルを供給するオイルポンプと、前記車両のシステムを起動及び停止する操作を受け付ける操作部とを備えた車両の制御装置であって、
前記車両の走行中に、
前記操作部が操作されることによって前記車両のシステムが停止されることに伴い前記オイルポンプの吐出量が減少された後、前記変速機の変速比を小さくするような油路に前記油路切替部を制御することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項1】
走行用の駆動力源と、油圧式の変速機とを備え、前記駆動力源から駆動輪への動力伝達の遮断が可能な断接機構が設けられた車両の制御装置において、
車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、前記変速機の油圧が低下したことを条件に、車両の走行中に前記変速機の変速比を小さい側の変速比に設定する制御を実行することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両の制御装置において、
車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、前記変速機の油圧が低下したことを条件に、車両の走行中に前記変速機の変速比を最も小さい変速比に設定する制御を実行することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両の制御装置において、
走行用の駆動力源としてのエンジン及び電動機と、油圧式の変速機とを備え、前記電動機が前記変速機を介して駆動輪に連結された車両に適用され、
車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、前記変速機の油圧が低下したことを条件に、車両の走行中に前記変速機の変速比を小さい側の変速比に設定する制御を実行することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両の制御装置において、
車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、前記駆動力源の再始動要求があり、かつ、前記変速機の油圧が低下した場合に、車両の走行中に前記変速機の変速比を小さい側の変速比に設定する制御を行ったうえで、車両の走行中に前記駆動力源を再始動することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項3または4記載の車両の制御装置において、
オイルポンプから供給される油圧によって前記変速機の複数の摩擦係合要素を係合または解放することにより変速比を変更するように構成されているとともに、前記変速機の複数の摩擦係合要素の全ての油圧が、当該摩擦係合要素が解放状態となる油圧にまで低下したことを検出する油圧低下検出手段が設けられており、
車両の走行中に前記駆動力源の停止があった後、車両の走行中に前記油圧低下検出手段にて前記変速機の油圧低下が検出された場合に、車両の走行中に前記変速機の変速比を小さい側の変速比に設定する制御を実行することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
走行用の駆動力源と、オイルが供給されることによって変速可能となる変速機と、オイルが供給されることによって係合される駆動力伝達機構と、少なくとも前記変速機に供給されるオイルの油路を切り替える油路切替部と、前記変速機と前記駆動力伝達機構とにオイルを供給するオイルポンプと、前記車両のシステムを起動及び停止する操作を受け付ける操作部とを備えた車両の制御装置であって、
前記車両の走行中に、
前記操作部が操作されることによって前記車両のシステムが停止されることに伴い前記オイルポンプの吐出量が減少された後、前記変速機の変速比を小さくするような油路に前記油路切替部を制御することを特徴とする車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−92248(P2013−92248A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236222(P2011−236222)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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