説明

車両の制振制御装置

【課題】 駆動出力制御による車両のピッチ・バウンス振動制振制御装置に於いて、車両の前後方向の振動の発生又は増幅、制振効果の悪化を回避すること。
【解決手段】 本発明の車両の制振制御装置は、車輪と路面との接地個所に於いて発生する車輪に作用する車輪トルク又はその推定値に基づいてピッチ又はバウンス振動振幅を抑制するよう車両の駆動トルクを補償する駆動トルク補償部を含み、車両に於いて前後方向の振動を発生又は増幅する駆動トルクを生ずるノイズ周波数成分が車輪トルク又はその推定値に含まれているか否かを判定するノイズ周波数成分判定手段と、ノイズ周波数成分が含まれていると判定されるときに駆動トルクの補償成分に於けるノイズ周波数成分の寄与を低減するノイズ周波数成分低減手段とが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の制振制御装置に係り、より詳細には、車両の駆動出力(駆動力又は駆動トルク)を制御して車体の振動を抑制する制振制御装置に係る。
【背景技術】
【0002】
車両の走行中のピッチ・バウンス等の振動は、車両の加減速時に車体に作用する制駆動力(若しくは慣性力)又はその他の車体に作用する外力により発生するところ、それらの力は、車輪(駆動時には、駆動輪)と接地路面上との間に作用するトルク(以下、「車輪トルク」と称する。)に反映される。そこで、車両の制振制御の分野に於いて、車両のエンジン又はその他の駆動装置の駆動出力制御を通して車輪トルクを調節して、車両の走行中に於ける車体の振動を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。かかる駆動出力制御による制振制御に於いては、所謂車体のばね上・ばね下振動の力学的モデルを仮定して構築された運動モデルを用いて、車両の加減速要求があった場合又は車体に外力(外乱)が作用して車輪トルクに変動があった場合に車体に生ずるピッチ・バウンス振動を予測し、その予測された振動が抑制されるように車両の駆動装置の駆動出力が調節される。このような形式の制振制御の場合、サスペンションによる制振制御の如く発生した振動エネルギーを吸収することにより抑制するというよりは、振動を発生する力の源を調節して振動エネルギーの発生が抑えられることになるので、制振作用が比較的速やかであり、また、エネルギー効率が良いなどの利点を有する。また、駆動出力制御による制振制御に於いては、制御対象が駆動装置の駆動出力(駆動トルク)に集約されるので、制御の調節が比較的に容易である。
【0003】
上記の如き駆動出力制御による制振制御を行う制振制御装置(又は駆動出力制御装置)に於いては、既に述べた如く、車輪に於いて実際に発生している車輪トルクが制御に於ける外乱として制振制御装置に対してフィードバックされ、外乱による振動の制振のために必要な駆動出力の調節量は、車両に実際に発生している車輪トルクに基づいて決定される。しかしながら、車両の走行中の車輪トルクの値が直接に検出可能なセンサ、例えば、ホイールトルクセンサやホイール六分力計など、は、車両の設計上又はコスト上の問題により、試験車両等を除き、通常の車両には搭載されない。そこで、上記の如き制振制御装置に於いては、外乱入力としてフィードバックされる車輪トルク値として、車輪速、車両の駆動装置の出力軸の回転速等のその他の容易に検出可能なパラメータに基づいて推定される車輪トルク推定値が使用されている(例えば、本願出願人による特願2006−284642参照。)。
【特許文献1】特開2004−168148
【特許文献2】特開2006−69472
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の如き駆動出力制御による制振制御では、駆動装置の出力に変動を与えることとなるが、外乱入力として制振制御装置に入力される車輪トルク値又はその推定値の振動成分の周波数が車体のピッチ・バウンス振動の周波数(通常、1〜5Hz程度まで)に対応している場合には、駆動出力変動による車輪トルクの変動と車体のピッチ・バウンス振動とが互いに低減又は相殺されるので、制振制御による駆動出力の変動は、車両の前後方向の加減速力には反映されない。しかしながら、外乱入力として制振制御装置に入力される車輪トルク値又はその推定値には、種々の周波数帯域の車体のピッチ・バウンス振動の制振に殆ど寄与しない振動成分や実際の(真の)車輪トルク値の変動ではない振動成分が含まれる場合がある(以下、そのような振動を「ノイズ振動」と称する。)。そのようなノイズ振動は、制振制御装置に入力され、駆動装置の出力に反映されると、車両の加減速力となり、車両の前後方向振動の誘発又は増幅、或いは、ピッチ・バウンス方向の制振効果の悪化を引き起こす場合がある。
【0005】
かかる制振制御に於けるノイズ振動に関し、本発明の発明者は、これまでの開発研究において、車両の前後方向振動を誘発又は増幅するノイズ振動は、車両の車輪又は駆動装置の構造(タイヤの質量、寸法又は剛性上のアンバランス又はフラットスポット等のアンバランス、エンジンの気筒間の出力のばらつき、駆動系装置の共振、車輪トルクの推定に用いる車輪速又は回転速センサの異常など)に起因して発生し車輪トルク又はその推定に用いられる車輪速又は駆動装置の回転速の信号に含まれる振動の成分であることを見出した。本発明の発明者による知見によれば、上記の如きノイズ振動は、通常は、車両の製造・組立時又は出荷前までに車輪又は駆動装置の構造を調整して、通常の車両の走行上(制振制御を実行しない場合)では問題にならない程度に抑制されているところ、そのような抑制されている振動でも、制振制御を介して、車両の前後方向の振動を惹起する場合があることが明らかになった。しかしながら、そのような車両の車輪又は駆動装置の構造に起因するノイズ振動の周波数帯域は、車速、駆動装置の出力軸の回転速、駆動系の共振周波数等に依存し、予め推定可能である。そこで、本願出願人による特願2007−071106号に於いて、本発明の発明者は、そのようなノイズ振動の成分の周波数を車速、駆動装置の出力軸の回転速、駆動系の共振周波数に基づいて推定し、制振制御のための駆動装置への制御指令(駆動トルクの補償成分)から、推定されたノイズ振動の周波数帯域の成分を周波数成分除去手段により低減又は除去することにより、車両の前後方向振動の誘発又は増幅を抑制することを提案した(ただし、ノイズ振動とピッチ・バウンス振動との周波数帯域が重複する場合には、駆動装置への要求駆動力における制振制御による変動量が低減される。)。
【0006】
しかしながら、実際の車両に於いて観測されるノイズ振動には、車両の製造・組立時又は出荷前では、観測されないか或いは制振制御の実行中でも悪影響が出ないように小さく抑制されていても、車両の使用中に於いて、経年変化等の種々の要因により、新たに発生し或いは増大する振動も存在し、そのような車両の使用中に新たに発生又は増大するノイズ振動も制振制御の実行中に車両の前後振動を誘発し又は増幅してしまうことがある。また、車両に於いて使用中に於いて、原因不明のノイズ振動が発生する場合も起き得る。
【0007】
かくして、本発明の主要な一つの課題は、上記の如き駆動出力制御による制振制御装置に於いて、車両の使用開始後に新たに発生し又は増大するノイズ振動により惹起される車両の前後方向の振動の発生又は増幅、或いは、車両のピッチ・バウンス振動に対する制振効果の悪化を回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、車両の駆動出力制御による車体のピッチ又はバウンス振動を抑制する制振制御を実行する形式の制振制御装置であって、車両の走行中に観測される種々のパラメータに基づいて制振制御の実行中に車両の前後方向振動を惹起する原因となっているノイズ振動の特性を検出し、その検出結果に基づいてノイズ振動の制振制御装置の制御出力に対する悪影響を低減するよう構成された制振制御装置が提供される。
【0009】
本発明による車両の制振制御装置は、その構成に於いて、車両の車輪と路面との接地個所に於いて発生する車輪に作用する車輪トルク又はその推定値に基づいてピッチ又はバウンス振動振幅を抑制するよう車両の駆動トルクを補償する駆動トルク補償部を含み、更に、駆動トルク補償部に入力されると車両に於いて前後方向の振動を発生又は増幅する駆動トルクを生ずるノイズ周波数数成分が車輪トルク又はその推定値に含まれているか否かを判定するノイズ周波数成分判定手段と、車輪トルク又はその推定値にノイズ周波数成分が含まれていると判定されるときに駆動トルク補償部により補償される駆動トルクに於けるノイズ周波数成分の寄与を低減するノイズ周波数成分低減手段とが設けられていることを特徴とする。なお、ここで、「ノイズ周波数成分」とは、車両のピッチ・バウンス振動の制振に寄与せず、車両の前後方向の振動を惹起するノイズ振動の周波数成分のことである。
【0010】
制振制御装置は、外乱入力として車輪トルク値又はその推定値の信号を受信して、その信号を処理して、駆動トルクの補償、即ち、修正を行う(通常、駆動トルクを修正するための補償量を算出し、その補償量を駆動装置の制御に反映させる。)。既に触れたように、かかる制振制御装置に於いて、外乱入力される車輪トルク値又はその推定値の信号に於いて、ノイズ振動が重畳していると、制振制御装置による制振制御が実行されて駆動出力の変動が与えられたときに、車両の前後方向振動が誘発され、或いは、増幅されることとなる。そこで、上記の本発明に於いては、ノイズ周波数成分判定手段によって、車輪トルク又はその推定値に含まれているか否かを判定するとともに、ノイズ周波数成分の発生が検出又は推定される場合には、ノイズ周波数成分低減手段によって、駆動トルク補償部により補償される駆動トルクに於けるノイズ周波数成分の寄与を低減し、これにより、制振制御により惹起され得る車両の前後方向振動を抑制し、より好ましくは、その発生を防止することが試みられる。
【0011】
上記の本発明の装置の一つの態様に於いて、ノイズ周波数成分判定手段は、ノイズ周波数成分の周波数帯域を特定する手段を含み、ノイズ周波数成分の周波数帯域が特定可能なときは、ノイズ周波数成分低減手段が、駆動トルク補償部から車両の駆動装置へ与えられる駆動トルクの補償成分、即ち、制振制御により与えられる駆動トルクの変動成分、に於けるノイズ周波数成分の周波数帯域の振動成分を低減するようになっていてよい。これにより、補償成分中のノイズ周波数成分だけが低減され、車輪にピッチ・バウンス振動を惹起するトルク変動があった場合には、ノイズ周波数成分による前後振動が抑制又は防止された態様にて、ピッチ・バウンス振動を惹起する成分を抑制又は相殺する成分が反映され、良好な制振効果が得られることとなる。
【0012】
上記の態様に於いて、ノイズ周波数成分の周波数帯域の振動成分の低減手段は、典型的には、ノイズ振動の周波数成分を除去するバンドカットフィルター又はノイズ振動の周波数成分以外の周波数帯域の成分を通過させるバンドパスフィルターであってよい。また、制振制御装置に於いて、典型的には、信号の伝達及び演算処理は線形の演算式に従って実行されるので、ノイズ周波数成分の周波数帯域の振動成分の低減処理は、制振制御装置が車輪トルク値又はその推定値を受信して駆動装置へ駆動トルクの補償成分を送信する間の任意の段階で実行されてよいことは理解されるべきである。しかしながら、制振制御装置に於いてノイズ周波数成分を含む信号を処理することは、無駄であり、また、信号中にノイズ周波数成分が存在することによる演算誤差も生じる可能性もある。従って、好適には、制振制御装置に入力される前の信号、即ち、車輪トルク値又はその推定値に於いてノイズ周波数成分の周波数帯域の振動成分を低減しておくことにより駆動トルクの補償成分に於けるノイズ周波数成分の周波数帯域の振動成分が低減される。
【0013】
また、ノイズ周波数成分の周波数帯域の特定に際しては、ノイズ周波数成分判定手段は、車輪トルク値の周波数が反映されている任意の値(本明細書に於いてそのような値を「車輪トルク指標値」とする。)、例えば、車輪速、その微分値、駆動装置の出力軸の回転速、その微分値、車輪速又は車両の駆動装置の出力軸の回転速に基づいて推定される車輪トルク推定値、車両の前後方向加速度、又は、駆動トルク補償部から車両の駆動装置へ与えられる駆動トルクの補償成分のうちのいずれか又は全てに於いて、ノイズ周波数成分が含まれているか否かを判定するようになっていてよい。(上記のいずれの値も、車輪トルク値と線形の演算式により関連付けられるので、車輪トルクに生じたノイズ周波数成分を有する値である。)車輪トルク指標値に実際にノイズ周波数成分が含まれているか否かは、車輪トルク指標値の周波数解析(例えば、FFT)を実行することにより、検出されるようになっていてよい。
【0014】
更に、上記の如くノイズ周波数成分の周波数帯域を特定する場合、典型的には、ノイズ周波数成分に含まれる種々の振動成分の周波数帯域が車両の車速の関数であるか否か、車両の駆動装置の出力軸の回転速の関数であるか否か、或いは、車両の走行状態によらず不変であるか否かが判定されるようになっていてよい。前記の特願2007−071106号に於いても記載されているように、本発明の発明者による開発研究によれば、制振制御の実行中に車両の前後振動を惹起するノイズ振動の多くは、車両の車輪又は駆動装置の構造に起因して発生し、その周波数は、車速若しくは車輪速又は駆動装置の回転速に依存するか(即ち、車輪速又は駆動装置の回転速の関数であるか)、或いは、駆動系の共振周波数等であることが見出されている。従って、本発明の装置で除去しようとしている車両の使用中の車輪又は駆動装置の構造の経時的な変化により発生又は増大するノイズ振動も、上記の如き周波数特性を有している可能性が高い。そこで、本発明の装置に於いても、上記の如く、ノイズ周波数成分に車速若しくは駆動装置の出力軸の回転速の関数又は不変(例えば、駆動系の共振周波数)の周波数帯域である成分が含まれているかを確認し、ノイズ周波数成分の周波数帯域を特定できるようになっていてよい。(ノイズ周波数成分が車両の運転・走行状態によらず、不変である場合は、ノイズ周波数成分の除去は容易であるが、可変である場合、その周波数帯域の特性又は依存性を迅速に特定することは、処理装置の演算速度が非常に速くなければ、通常、困難である。しかしながら、上記の如く、車速又は駆動装置の出力軸の回転速の関数であるか否かを狙って周波数帯域の特定を試みることにより、車両の運転・走行状態が変化しても、ノイズ周波数成分の帯域を容易に特定できることとなる。)
【0015】
かくして、上記の構成に於いて、ノイズ周波数成分に車両の車速の関数であるの周波数帯域の成分が含まれていると判定されたときには、ノイズ周波数成分低減手段に於いて低減される振動成分の周波数帯域は、車両の車速の関数として決定されてよく、ノイズ周波数成分に駆動装置の出力軸の回転速の関数である周波数帯域の成分が含まれていると判定されたときには、ノイズ周波数成分低減手段に於いて低減される振動成分の周波数帯域は、回転速の関数として決定されてよい。そして、ノイズ周波数成分に周波数帯域が不変の振動成分が含まれていると判定されたときには、その判定された周波数帯域不変のノイズ周波数成分の振動成分を低減するようになっていてよい。
【0016】
なお、ノイズ周波数成分に周波数帯域が車両の車速若しくは駆動出力軸の回転速の関数であるか、又は不変である振動成分が含まれているか否かの判定及び各々に対応する特定の周波数成分の低減又は除去は、いずれか一つ又は二つのみ実行されてもよいことは理解されるべきである。また、上記の構成に於いて、ノイズ周波数成分にノイズ周波数成分判定手段が周波数帯域の特定のできない振動成分が含まれるとき、又は、ノイズ周波数成分判定手段により特定されたノイズ周波数成分の周波数帯域が制振制御装置により抑制されるべきピッチ又はバウンス振動の周波数と重複するときには、ノイズ周波数成分のみの低減又は除去は困難なので、ノイズ周波数成分低減手段は、駆動トルクの補償成分の制御ゲインを低減する、即ち、補償成分又はその指令値の絶対値を低減し(場合によっては、補償成分=0とする。)、制振制御による車両の前後方向振動の発生又は増幅を抑制するようになっていてよい。(ただし、その場合は、制振効果も低減する。)
【0017】
ところで、既に述べた如く、車両の製造・組立時又はその出荷前までに抑制されていたノイズ周波数成分の原因となる異常な又は望ましくない振動は、車両の使用中の車輪又は駆動装置の構造の経時的な変化により、新たに出現し又は増大すると考えられる。そして、その出現又は増大時期は、車輪又は駆動装置の使用量に依存すると考えられるので、車両の車輪又は駆動装置の使用量を監視し、その使用量が所定値を超えたときには、ノイズ周波数成分が発生しているものとして推定することができる。従って、上記の本発明の装置のもう一つの態様に於いて、ノイズ周波数成分判定手段は、車両の車輪又は駆動装置の使用量が所定値を超えたときにノイズ周波数数成分が車輪トルク又はその推定値に含まれていると推定するようになっていてもよい。この場合、ノイズ周波数成分の存在を検出するための構成は、省略されてよく、従って、装置の設計、調整、製造のための労力又はコストが軽減することができる。
【0018】
上記の態様に於いて、ノイズ周波数成分の発生の推定のために監視される車両の車輪又は駆動装置の使用量としては、例えば、車両の走行距離、車輪トルク値若しくはその推定値或いは駆動トルク補償部から車両の駆動装置へ与えられる駆動トルクの補償成分の反転回数(反転する毎に、車輪又は駆動装置に負担がかかる)であってよい。また、車両の車輪又は駆動装置が使用されて、車両の各構成要素の構造又は特性に経時変化があると、駆動トルクの補償成分、即ち、車輪トルクの目標値(車両の駆動要求がないとき)と、車輪トルクの実際値との間にずれが生ずることとなる。そこで、車両の車輪又は駆動装置の使用量として
所定の期間に於ける駆動トルクの補償成分と車輪トルク値又はその推定値との比が参照されてよい。(所定の期間の比を見るのは、目標値と実際値には、制御の遅れや過渡的なずれが存在し得るので、瞬時値では、車両の車輪又は駆動装置の使用量を的確に判定できないからである。なお、所定の期間は、車両の駆動要求のないときが選択される。)
【発明の効果】
【0019】
総じて、本発明は、駆動出力制御により車両のピッチ・バウンス振動の制振を行う制振制御装置の作動に於いて、制振制御のための駆動トルク制御の実行に伴って車体が前後方向に振動する現象のメカニズムを研究し、そのような車体の前後方向振動の少なくとも一部が、外乱入力として入力される車輪トルク値又はその推定値に含まれているノイズ振動の周波数成分によって生じ得るということと、車両の製造・組立時又は出荷時では、観測されないか又は問題とならないノイズ振動でも、車両の使用開始後に発生又は増大する場合があり、これにより、制振制御中に車体の前後方向振動が誘発又は増幅し得ることがあるということを見出したことにより為されたものである。そして、特に、本発明の制振制御装置では、車両の使用開始後に発生又は増幅するノイズ振動の存在を検出又は推定して、ノイズ振動による車体の前後方向振動を抑制(理想的には完全に阻止)できるようにした。
【0020】
本発明の制振制御装置のうち、ノイズ振動の周波数成分を駆動トルクの制振制御のための補償成分から除去する態様に於いては、ピッチ又はバウンス振動の制振効果を発揮する車輪トルク値又はその推定値の周波数成分については、制振作用が有効に発揮できるゲインを以って制振制御装置に入力され、(ノイズ周波数成分がそのピッチ又はバウンス振動の周波数に合致しない限り、)良好な制振効果が得られるだけの制御量にて駆動トルク制御が実行可能となることは理解されるべきである。なお、課題を解決するための手段に列記された種々の態様は、一つの制振制御装置に於いて、車両の製造コスト等に応じて、選択的に実現されるようになっていてよく、或いは、列記された態様の全てが一つの制振制御装置で実現できるようになっていてよい。また、本発明の装置に於いて、車両に組み込まれた状態で、装置自身でノイズ周波数成分の有無を検出し又は周波数帯域を検出できるようになっている場合には、ノイズ周波数成分が予め推定可能であるかないかによらず、ノイズ周波数成分の寄与を低減できることとなる。従って、特願2007−071106号に提案されている如き、除去すべき周波数成分又はその帯域の算定処理を予め設定しておかなくても良い(ただし、除去すべき周波数成分又はその帯域の算定処理を予め設定しておいた方がその周波数帯域に対するノイズ振動の除去は、確実であり精度は良くなるので、一つの制振制御装置に於いて、特願2007−071106号に提案されている構成が同時に搭載されていてもよい。実施形態の欄参照。)
【0021】
また、特記されるべきことは、本発明の制振制御装置に於いては、車両の車輪又は駆動装置の構造に起因するノイズ周波数成分が駆動トルクの制御から排除(又は低減)されるので、制振制御の目的のためだけに車両の車輪のタイヤ、センサ又は駆動装置を構成する各部品の寸法等の公差を厳しくしたり、各部品の設定の精度、耐久性等を高くする必要はなくなり、従って、車両製造及び調整のためのコスト、労力が低減できることとなる。
【0022】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
【0024】
装置の構成
図1(A)は、本発明の制振制御装置の好ましい実施形態が搭載される自動車等の車両を模式的に示している。同図に於いて、左右前輪12FL、12FRと、左右後輪12RL、12RRを有する車両10には、通常の態様にて、運転者によるアクセルペダル14の踏込みに応じて後輪に駆動力又は駆動トルクを発生する駆動装置20が搭載される。駆動装置20は、図示の例では、エンジン22から、トルクコンバータ24、自動変速機26、差動歯車装置28等を介して、駆動トルク或いは回転駆動力が後輪12RL、12RRへ伝達されるよう構成される。しかしながら、エンジン22に代えて電動機が用いられる電気式、或いは、エンジンと電動機との双方を有するハイブリッド式の駆動装置であってもよい。また、車両は、四輪駆動車又は前輪駆動車であってもよい。なお、簡単のため図示していないが、車両10には、通常の車両と同様に各輪に制動力を発生する制動系装置と前輪又は前後輪の舵角を制御するためのステアリング装置が設けられる。
【0025】
駆動装置20の作動は、電子制御装置50により制御される。電子制御装置50は、通常の形式の、双方向コモン・バスにより相互に連結されたCPU、ROM、RAM及び入出力ポート装置を有するマイクロコンピュータ及び駆動回路を含んでいてよい。電子制御装置50には、各輪に搭載された車輪速センサ30i(i=FL、FR、RL、RR)からの車輪速を表す信号Vwi(i=FL、FR、RL、RR)と、Gセンサ32からの車両の前後方向加速度α、車両の各部に設けられたセンサからのエンジンの回転速ne、変速機の回転速no、アクセルペダル踏込量θa等の信号が入力される。なお、上記以外に、本実施形態の車両に於いて実行されるべき各種制御に必要な種々のパラメータを得るための各種検出信号が入力されてよいことは理解されるべきである。電子制御装置50は、図1(B)に於いてより詳細に模式的に示されているように、駆動装置20の作動を制御する駆動制御装置50aと制動装置(図示せず)の作動を制御する制動制御装置50bとから構成されてよい。制動制御装置に於いては、各輪の車輪速センサ30FR、FL、RR、RLからの、車輪が所定量回転する毎に逐次的に生成されるパルス形式の電気信号が入力され、かかる逐次的に入力されるパルス信号の到来する時間間隔を計測することにより車輪の回転速が算出され、これに車輪半径が乗ぜられることにより、車輪速値が算出される。そして、車輪速値は、下記に述べる如く、車輪トルク推定値を算出するために、駆動制御装置50aへ送信される。なお、車輪回転速から車輪速への演算は、駆動制御装置50aにて行われてもよい。その場合、車輪回転速が制動制御装置50bから駆動制御装置50aへ与えられる。
【0026】
駆動制御装置50aに於いては、運転者からの駆動要求がアクセルペダル踏込量θaに基づいて運転者の要求する駆動装置の目標出力トルク(要求駆動トルク)が決定される。しかしながら、本発明の駆動制御装置に於いては、駆動トルク制御による車体のピッチ/バウンス振動制振制御を実行するべく、要求駆動トルクが修正され、その修正された要求駆動トルクに対応する制御指令が駆動装置20へ与えられる。かかるピッチ/バウンス振動制振制御に於いては、概して述べれば、
(1)駆動輪に於いて路面との間に作用する力による駆動輪の車輪トルク推定値の算出、
(2)車体振動の運動モデルによるピッチ/バウンス振動状態量の演算、
(3)ピッチ/バウンス振動状態量を抑制する車輪トルクの修正量(要求駆動トルク補償成分)の算出とこれに基づく要求駆動トルクの補償又は修正
が実行される。(1)の車輪トルク推定値は、後述の如く、制動制御装置50bから受信した駆動輪の車輪速値(又は、駆動輪の車輪回転速)、或いは、エンジンの回転速neに基づいて算出されてよい。なお、本発明の制振制御装置は、(1)−(3)の処理作動に於いて実現されることは理解されるべきである。
【0027】
車体のピッチ/バウンス振動制振制御を行う駆動トルク制御の構成
車両に於いて、運転者の駆動要求に基づいて駆動装置が作動して車輪トルクの変動が生ずると、図2(A)に例示されている如き車体10に於いて、車体の重心Cgの鉛直方向(z方向)のバウンス振動と、車体の重心周りのピッチ方向(θ方向)のピッチ振動が発生し得る。また、車両の走行中に路面から車輪上に外力又はトルク(外乱)が作用すると、その外乱が車両に伝達され、やはり車体にバウンス方向及びピッチ方向の振動が発生し得る。そこで、図示の実施形態に於いては、車体のピッチ・バウンス振動の運動モデルを構築し、そのモデルに於いて要求駆動トルク(を車輪トルクに換算した値)と、現在の車輪トルク(の推定値)とを入力した際の車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dt、即ち、車体振動の状態変数を算出し、モデルから得られた状態変数が0に収束するように、即ち、ピッチ/バウンス振動が抑制されるよう駆動装置の駆動トルクが調節される(要求駆動トルクが修正される。)。
【0028】
図2(B)は、本発明の実施形態に於ける駆動トルク制御の構成を制御ブロックの形式で模式的に示したものである(なお、各制御ブロックの作動は、(C0、C3を除き)電子制御装置50の駆動制御装置50a又は制動制御装置50bのいずれかにより実行される。)。図2(B)を参照して、本発明の実施形態の駆動トルク制御に於いては、概して述べれば、運転者の駆動要求を車両へ与える駆動制御器と、車体のピッチ/バウンス振動を抑制するよう運転者の駆動要求を修正するための制振制御器とから構成される。駆動制御器に於いては、運転者の駆動要求、即ち、アクセルペダルの踏み込み量(C0)が、通常の態様にて、要求駆動トルクに換算された後(C1)、要求駆動トルクが、駆動装置の制御指令に変換され(C2)、駆動装置(C3)へ送信される。[制御指令は、ガソリンエンジンであれば、目標スロットル開度、ディーゼルエンジンであれば、目標燃料噴射量、モータであれば、目標電流量などである。]
【0029】
一方、制振制御器は、フィードフォワード制御部分(補償成分演算部)とフィードバック制御部分とから構成される。フィードフォワード制御部分は、所謂、最適レギュレータの構成を有し、ここでは、下記に説明される如く、C1の要求駆動トルクを車輪トルクに換算した値(運転者要求車輪トルクTw0)が車体のピッチ・バウンス振動の運動モデル部分(C4)に入力され、運動モデル部分(C4)では、入力されたトルクに対する車体の状態変数の応答が算出され、その状態変数を最小に収束する運転者要求車輪トルクの修正量、即ち、補償成分U(=KX)が算出される(C5)。また、フィードバック制御部分に於いては、車輪トルク推定器(C6)にて、後に説明される如く車輪トルク推定値Twが算出され、車輪トルク推定値は、フィードバック制御ゲインFB(運転モデルに於ける運転者要求車輪トルクTw0と車輪トルク推定値Twとの寄与のバランスを調整するためのゲイン)が乗ぜられた後、外乱入力として、要求車輪トルクに加算されて運動モデル部分(C4)へ入力され、これにより、外乱に対する要求車輪トルクの補償成分も算出される。C5の要求車輪トルクの補償成分は、駆動装置の要求トルクの単位に換算されて、加算器(C1a)に送信され、かくして、要求駆動トルクは、ピッチ・バウンス振動が発生しないように修正された後、制御指令に変換されて(C2)、駆動装置(C3)へ与えられることとなる。
【0030】
上記のフィードバック制御部分の車輪トルク推定器の入力信号は、車輪速r・ω若しくは車輪の回転速ω又はエンジン回転速ne(又は変速機の回転速no)を表す信号が入力される。しかしながら、本発明の装置に於いては、これらの入力信号は、後により詳細に説明される如く、車体のピッチ/バウンス振動の制振に寄与しないノイズ振動の周波数成分を除去するバンドカットフィルター(C7)を介して車輪トルク推定器へ入力される。
【0031】
バンドカットフィルターに於いて除去される成分の周波数帯域は、車両の使用開始時に於いては、予め実験的又は理論的に決定された車速の関数又は回転速の関数により、或いは、駆動装置20及びそれらの懸架装置(図示せず)の共振周波数に基づいて定められるようになっていてよい。しかしながら、実際の車両に於いては、その使用開始後に、上記の如きノイズ振動が新たに出現したり、使用開始前には問題にならない程度に抑えられていた振動成分(従って、予め除去されるように準備されていない)が増大する場合もある。そこで、本実施形態に於いては、車輪速r・ω若しくは車輪の回転速ω、エンジン回転速ne(又は変速機の回転速no)及び/又はGセンサからの前後加速度値αに基づいて、車輪トルク値に混在するノイズ振動の有無を検出する振動検出器C8が設けられる。振動検出器C8は、後により詳細に説明される如く、ノイズ振動の周波数帯域を検出し、ノイズ振動の周波数成分がバンドカットフィルターにより除去可能であるときには、バンドカットフィルターに於いて除去される成分の周波数帯域を調整し、ノイズ振動の周波数成分が除去できないと判定される場合には、フィードバック制御ゲイン、バンドカットフィルターC7の出力ゲイン又は駆動制御器へ送られる駆動トルク(又は要求車輪トルク)の補償成分の制御ゲインを低減する機能を有する。
【0032】
また、更に、車両の使用開始後のノイズ振動の新たな出現又は増大の可能性は、車両の車輪又は駆動装置の使用量又は負担が増すとともに増大する。そこで、本実施形態に於いては、車両の車輪又は駆動装置の使用量(走行履歴等)を参照して、制振制御器から駆動制御器へ送信される駆動トルクの補償成分の制御ゲインを低減する補償低減器C9が設けられていてよい。車両の車輪又は駆動装置の使用量としては、後述の如く、車両の走行距離、車輪トルク推定値若しくは駆動トルクの補償成分の反転回数、駆動トルクの補償成分と車輪トルク推定値との比又は差分が参照されてよい。(補償低減器は、車両の車輪又は駆動装置の使用量を参照してノイズ振動の有無を推定するノイズ周波数成分判定手段としての機能と、制御ゲインを低減して駆動トルクに於けるノイズ周波数成分の寄与を低減するノイズ周波数成分低減手段としての機能を有することとなる。)
【0033】
制振制御の原理
本発明の実施形態に於ける制振制御に於いては、既に触れたように、まず、車体のバウンス方向及びピッチ方向の力学的運動モデルを仮定して、運転者要求車輪トルクTw0と車輪トルク推定値Tw(外乱)とを入力としたバウンス方向及びピッチ方向の状態変数の状態方程式を構成する。そして、かかる状態方程式から、最適レギュレータの理論を用いてバウンス方向及びピッチ方向の状態変数を0に収束させる入力(トルク値)を決定し、得られたトルク値に基づいて要求駆動トルクが修正される(ピッチ・バウンス方向の状態変数が0となるとき車両の状態は正常であるということができる。従って、ここでの要求駆動トルクの「修正」は、駆動トルク制御に於けるピッチ・バウンス方向について車両の状態を正常なものとするための駆動トルクの「補償」であるということができる。)。
【0034】
車体のバウンス方向及びピッチ方向の力学的運動モデルとして、例えば、図3(A)に示されている如く、車体を質量M及び慣性モーメントIの剛体Sとみなし、かかる剛体Sが、弾性率kfと減衰率cfの前輪サスペンションと弾性率krと減衰率crの後輪サスペンションにより支持されているとする(車体のばね上振動モデル)。この場合、車体の重心のバウンス方向の運動方程式とピッチ方向の運動方程式は、下記の数1の如く表される。
【数1】

ここに於いて、Lf、Lrは、それぞれ、重心から前輪軸及び後輪軸までの距離であり、rは、車輪半径であり、hは、重心の路面からの高さである。なお、式(1a)に於いて、第1、第2項は、前輪軸から、第3、4項は、後輪軸からの力の成分であり、式(1b)に於いて、第1項は、前輪軸から、第2項は、後輪軸からの力のモーメント成分である。式(1b)に於ける第3項は、駆動輪に於いて発生している車輪トルクT(=Tw0+Tw)が車体の重心周りに与える力のモーメント成分である。
【0035】
上記の式(1a)及び(1b)は、車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dtを状態変数ベクトルX(t)として、下記の式(2a)の如く、(線形システムの)状態方程式の形式に書き換えることができる。
dX(t)/dt=A・X(t)+B・u(t) …(2a)
ここで、X(t)、A、Bは、それぞれ、
【数2】

であり、行列Aの各要素a1-a4及びb1-b4は、それぞれ、式(1a)、(1b)のz、θ、dz/dt、dθ/dtの係数をまとめることにより与えられ、
a1=-(kf+kr)/M、a2=-(cf+cr)/M、
a3=-(kf・Lf-kr・Lr)/M、a4=-(cf・Lf-cr・Lr)/M、
b1=-(Lf・kf-Lr・kr)/I、b2=-(Lf・cf-Lr・cr)/I、
b3=-(Lf2・kf+Lr2・kr)/I、b4=-(Lf2・cf+Lr2・cr)/I
である。また、u(t)は、
u(t)=T
であり、状態方程式(2a)にて表されるシステムの入力である。従って、式(1b)より、行列Bの要素p1は、
p1=h/(I・r)
である。
【0036】
状態方程式(2a)に於いて、
u(t)=−K・X(t) …(2b)
とおくと、状態方程式(2a)は、
dX(t)/dt=(A−BK)・X(t) …(2c)
となる。従って、X(t)の初期値X0(t)をX0(t)=(0,0,0,0)と設定して(トルク入力がされる前には振動はないものとする。)、状態変数ベクトルX(t)の微分方程式(2c)を解いたときに、X(t)、即ち、バウンス方向及びピッチ方向の変位及びその時間変化率、の大きさを0に収束させるゲインKが決定されれば、ピッチ・バウンス振動を抑制するトルク値u(t)が決定されることとなる。
【0037】
ゲインKは、所謂、最適レギュレータの理論を用いて決定することができる。かかる理論によれば、2次形式の評価関数
J=1/2・∫(XQX+uRu)dt …(3a)
(積分範囲は、0から∞)
の値が最小になるとき、状態方程式(2a)に於いてX(t)が安定的に収束し、評価関数Jを最小にする行列Kは、
K=R−1・B・P
により与えられることが知られている。ここで、Pは、リカッティ方程式
-dP/dt=AP+PA+Q−PBR−1
の解である。リカッティ方程式は、線形システムの分野に於いて知られている任意の方法により解くことができ、これにより、ゲインKが決定される。
【0038】
なお、評価関数J及びリカッティ方程式中のQ、Rは、それぞれ、任意に設定される半正定対称行列、正定対称行列であり、システムの設計者により決定される評価関数Jの重み行列である。例えば、ここで考えている運動モデルの場合、Q、Rは、
【数3】

などと置いて、式(3a)に於いて、状態ベクトルの成分のうち、特定のもの、例えば、dz/dt、dθ/dt、のノルム(大きさ)をその他の成分、例えば、z、θ、のノルムより大きく設定すると、ノルムを大きく設定された成分が相対的に、より安定的に収束されることとなる。また、Qの成分の値を大きくすると、過渡特性重視、即ち、状態ベクトルの値が速やかに安定値に収束し、Rの値を大きくすると、消費エネルギーが低減される。
【0039】
実際の制振制御装置の作動に於いては、図2(B)のブロック図に示されている如く、運動モデルC4に於いて、トルク入力値を用いて式(2a)の微分方程式を解くことにより、状態変数ベクトルX(t)が算出される。次いで、C5にて、上記の如く状態変数ベクトルX(t)を0又は最小値に収束させるべく決定されたゲインKを運動モデルC4の出力である状態ベクトルX(t)に乗じた値U(t)が、(駆動装置のトルクに換算されて)加算器(C1a)に於いて、要求駆動トルクから差し引かれる(運動モデルC4の演算のために、運動モデルC4のトルク入力値にもフィードバックされる。(状態フィードバック))。式(1a)及び(1b)で表されるシステムは、共振システムであり、任意の入力に対して状態変数ベクトルの値は、実質的には、システムの固有振動数を概ね中心とした或るスペクトル特性を有する帯域の周波数成分のみとなる。かくして、U(t)(の換算値)が要求駆動トルクから差し引かれるよう構成することにより、要求駆動トルクのうち、システムの固有振動数の成分、即ち、車体に於いてピッチ・バウンス振動を引き起こす成分が修正され、車体に於けるピッチ・バウンス振動が抑制されることとなる。車輪トルク推定器から送信されてくるTw(外乱)に於いてピッチ・バウンス振動を引き起こす変動が発生した場合には、そのTw(外乱)による振動が収束するよう駆動装置へ入力される要求トルク指令が−U(t)を用いて修正される。
【0040】
通常の自動車等の車両のピッチ・バウンス方向の振動の共振周波数は、概ね1〜2Hz程度であり、かかる周波数帯域の振動の速さは、現在の車両に於ける要求指令に対する車輪トルクの制御応答の速さによれば、車輪に於けるトルク外乱を検出し、その外乱に対する補償量を車輪の駆動トルクに反映させることのできるレベルである。従って、ピッチ・バウンス振動を惹起し得る車輪に発生した外乱トルク及びこれによるピッチ・バウンス振動は、制振制御による要求駆動トルクの修正により駆動装置の出力する駆動トルクの変動によって相殺されることとなる。
【0041】
なお、車体のバウンス方向及びピッチ方向の力学的運動モデルとして、例えば、図3(B)に示されている如く、図3(A)の構成に加えて、前輪及び後輪のタイヤのばね弾性を考慮したモデル(車体のばね上・下振動モデル)が採用されてもよい。前輪及び後輪のタイヤが、それぞれ、弾性率ktf、ktrを有しているとすると、図3(B)から理解される如く、車体の重心のバウンス方向の運動方程式とピッチ方向の運動方程式は、下記の数4の如く表される。
【数4】

ここに於いて、xf、xrは、前輪、後輪のばね下変位量であり、mf、mrは、前輪、後輪のばね下の質量である。式(4a)−(4b)は、z、θ、xf、xrとその時間微分値を状態変数ベクトルとして、図3(A)の場合と同様に、式(2a)の如き状態方程式を構成し(ただし、行列Aは、8行8列、行列Bは、8行1列となる。)、最適レギュレータの理論に従って、状態変数ベクトルの大きさを0に収束させるゲイン行列Kが決定される。実際の制振制御は、図3(A)の場合と同様である。
【0042】
車輪トルク推定値の算出
図2(B)の制振制御器のフィードバック制御部分に於いて、フィードフォワード制御部分へ外乱として入力される車輪トルクは、理想的には、各輪にトルクセンサを設け、実際に検出されればよい。しかしながら、既に述べた如く、通常の車両の各輪にトルクセンサを設けることは困難なので、走行中の車両に於けるその他の検出可能な値から車輪トルク推定器(C6)にて推定された車輪トルク推定値が用いられる。
【0043】
車輪トルク推定値Twは、典型的には、駆動輪の車輪速センサから得られる車輪回転速ω又は車輪速値r・ωの時間微分を用いて、
Tw=M・r・dω/dt …(5)
と推定することができる。ここに於いて、Mは、車両の質量であり、rは、車輪半径である。[駆動輪が路面の接地個所に於いて発生している駆動力の総和が、車両の全体の駆動力M・G(Gは、加速度)に等しいとすると、車輪トルクTwは、
Tw=M・G・r …(5a)
にて与えられる。車両の加速度Gは、車輪速度r・ωの微分値より、
G=r・dω/dt …(5b)
で与えられるので、車輪トルクは、式(5)の如く推定される。]
【0044】
また、車輪速センサに異常が発生し、車輪速の検出精度が悪化した場合には、式(5)による車輪トルク推定値の精度も悪化するので、その場合には、駆動輪の車輪回転速又は車輪速は、駆動装置の回転速から算出されてよい。駆動装置のエンジン又はモータの出力軸の回転速neを用いる場合には、駆動輪の車輪回転速は、
ωe=ne×トランスミッション(変速機)ギア比×デフ(差動装置)ギア比 …(8)
により与えられる。また、変速機の出力軸の回転速noを用いる場合には、
ωo=no×デフギア比 …(9)
により与えられる。そして、式(8)又は(9)の駆動輪の車輪回転速ωの推定値は、式(5)に代入され、車輪トルク推定値が算出される。
【0045】
式(8)又は(9)による車輪トルク推定値の算出は、例えば、下記の条件(a)−(d)のいずれかが成立したときに実行されるようになっていてよい。
(a)車輪速センサの信号に異常が発生し、「異常状態」と判定されたとき。
(b)ABS、VSC、TRC等のその他の制御装置又は制動制御装置50b(図1B)に於いて、車輪速センサの異常を判定したとき。
(c)車輪速センサの信号から算出される車輪速と、駆動装置の出力軸の回転速から式(8)により算出される車輪速との差が、所定期間、所定値を越えているとき。
(d)車輪速センサの信号から算出される車輪速と、変速機の出力軸の回転速から式(9)により算出される車輪速との差が、所定期間、所定値を越えているとき。
【0046】
制振制御による車両の前後方向振動の発生又は増幅のメカニズム
実際の車両の車輪に於いては、車輪又は駆動装置の構造に起因して、例えば、タイヤのアンバランスやエンジンの“気筒のばらつき”、駆動装置及びその懸架装置等の共振などに起因して、トルクの振動が発生する場合があり、かかるトルクの振動によって車両の前後方向の振動が発生することがある。従って、通常の車両に於いては、車両の設計及び組立の段階で、そのような前後方向振動を許容可能なレベルまで低減するべく車輪トルクの振動を抑制するよう車両の各部が調整される。しかしながら、かかる車輪トルクの振動が、低レベルであっても制振制御装置の外乱入力から入力され、これにより駆動トルクの修正が実行されると、上記の如き車両の前後方向振動が増幅されてしまう現象が発見された。また、同様の現象は、車両の設計及び組立の段階では、観測されないか又は殆ど駆動出力に影響が現れないほど抑えられていた振動が、車両の使用中に車両の各部の経年変化などの理由によって顕著になることによっても発生し得る。
【0047】
既に述べた如く、上記の制振制御装置に於けるピッチ・バウンス振動の運動モデルは、式(1a)及び(1b)から理解されるように、或る共振周波数に於いて変位(状態ベクトル)が増大する共振モデルである。従って、状態ベクトルX(t)にゲインKを乗じて算出される要求駆動トルクの補償成分に於いて、周波数帯域が共振周波数から離れた成分は、共振周波数帯域の成分に比して相対的に小さくなるので、ピッチ・バウンス振動の共振周波数から外れた周波数のトルク振動成分は、一見、制振制御装置の作動に於いて殆ど影響を及ぼさないように思われる。
【0048】
しかしながら、制振制御システムは、線形システムであり、車輪トルクの振動成分に於いて、ピッチ・バウンス振動の共振周波数よりも高い周波数成分、即ち、速い変動成分が含まれていると、かかる高い周波数成分が制振制御装置に入力された際、要求駆動トルクの補償成分に於いて、低レベルであっても対応する高い周波数成分が発生し、駆動装置へ制御指令として送られることとなる。そうすると、現在の車両に於ける要求指令に対する車輪トルクの制御応答の速さでは、高い周波数成分の駆動トルクの制御指令に対して駆動装置から伝達される車輪上での駆動トルクの変化が追従できずに遅れが発生し、かかる応答の遅れによって、車輪トルクの振動を相殺するのではなく、反って増大し、これにより、許容レベル以下に抑えられていた車両の前後方向振動が増幅してしまう場合がある。
【0049】
また、実際の車両の車輪トルクの検出値若しくは推定値に於いては、センサの構造又は精度等に起因して、真の車輪トルクの変動ではない振動が乗る場合がある。この場合には、その振動周波数によらず、かかる真の車輪トルクの変動ではない振動が制振制御装置に入力されることにより、要求駆動トルクの制御指令に狂いが発生して、制振制御の効果が悪化したり、(相殺しようとする車輪トルクが実際には発生していないことにより)車両の前後方向に振動が発生してしまうこととなる。
【0050】
なお、本明細書に於いては、上記の如き、ピッチ・バウンス振動の制振に寄与せず、反って、車両の前後方向振動の発生又は増幅する原因となり得る車輪トルク値の振動成分を「ノイズ振動」と称している。
【0051】
上記の如き制振制御を実行することにより発生又は増幅される車両の前後方向振動の特性は、ノイズ振動の発生源及び伝達経路に依存し、以下の如く分類することができる。
【0052】
(a)車速依存の前後方向振動
制振制御の実行により発生又は増幅される車両の前後方向振動に於いて、振動周波数が車速の関数である成分、即ち、車速依存の成分が含まれる場合がある。かかる車速依存の振動成分は、以下の要因により増幅又は発生する。
【0053】
(i)タイヤのアンバランス
実際に車両の車輪に使用されるタイヤに於いては、質量、寸法又は剛性上のアンバランス又はフラットスポット等の所謂「タイヤのアンバランス」が存在する。かかるタイヤのアンバランスが存在すると、車輪が一回転する間に車輪速又は車輪上に作用するトルクが変動する。従って、一回転に数回のトルク変動が発生するものとすると、トルク変動の周波数は、車輪の回転周波数の整数倍になるので、車輪速の関数、即ち、車速の関数である。この車輪が回転する毎に生ずるタイヤのアンバランスによるトルク変動は、通常の車両の走行上に問題がない程度に低レベルであっても、車輪速センサによる車輪速値又はエンジン回転センサによる回転速に乗って制振制御装置に入力されると、その車速の関数の周波数成分が要求駆動トルクの補償成分に重畳する。そして、かかるトルク変動の周波数が、ピッチ・バウンス振動の共振周波数(約1〜2Hz程度)よりも高く、駆動トルクの制御応答の遅れが発生する場合には、上記の如く、トルク変動が増幅されるよう駆動トルクが制御されてしまうこととなり得る。
【0054】
(ii)車輪速センサの信号出力のアンバランス
典型的な車輪速センサは、当業者に於いて知られているように、車輪とともに回転するロータの周囲に形成された複数のセレーション(歯)が電磁ピックアップ等の信号発生手段の前を通過する毎に、信号発生手段からパルスが発生させられ、そのパルスの単位時間当たりの発生頻度から車輪速値が換算される。このような形式の場合、例えば、ロータ上のセレーションの間隔にむらが在ったり、欠損があると、車輪が一回転する間に車輪速値が変動することとなる。また、車輪速センサにより得られる車輪速値に於いて、センサの精度等その他の理由で、車輪が一回転する間に車輪速値が変動する場合も在り得る。そのような車輪速値に基づいて推定された車輪トルク推定値が制振制御装置の外乱入力へ入力され、制振制御による要求駆動トルクの修正が実行されると、要求駆動トルクの指令値に、車輪の回転周波数の整数倍の周波数の成分が発生し、かかる周波数の駆動トルクの変動が駆動装置から出力されることとなる。この場合、実際の車輪トルクに於いて変動はないにもかかわらず、駆動トルクが変動することになるので、周波数によらず、車輪トルクが変動し、本来の制振効果を損ねたり、車両の前後方向振動を発生することになる。
【0055】
(b)駆動出力軸回転速依存の前後方向振動
制振制御の実行により発生又は増幅される車両の前後方向振動に於いて、更に、振動周波数がエンジンの回転速の関数である成分、即ち、回転速依存の成分が含まれている場合がある。かかる回転速依存の振動成分は、以下の要因により増幅又は発生する。
【0056】
(i)エンジンの気筒間のばらつき
通常の自動車等の車両に搭載される多気筒エンジンに於いては、気筒毎に発生トルクやエネルギー損失に差、即ち、ばらつき、が在ることにより、エンジンの出力軸が数回転する間の出力トルクに変動が生ずる場合があり(4気筒の場合、2回転又は4回転する間に一度)、これにより、車両に於いて前後方向振動が発生することとなる。かかる“気筒のばらつき”は、通常走行に於いて問題にならない許容可能なレベルであったとしても、制振制御装置が作動し、エンジン出力軸が回転する毎に、気筒のばらつきによるトルク変動が車輪速センサによる車輪速値又はエンジン回転センサによる回転速値に乗って制振制御装置に入力されると、エンジン回転速の関数である周波数成分が要求駆動トルクの補償成分に重畳する。そして、これらのトルク変動は、低レベルであっても、その周波数は、エンジン回転数の回転周波数を整数で除した値であるから、通常、ピッチ・バウンス振動の共振周波数(約1〜2Hz程度)よりも高いので、駆動トルクの制御応答の遅れの影響が重なって、気筒のばらつきによるトルク変動が増幅されるよう駆動トルクが制御されてしまうこととなり得る。
【0057】
(ii)エンジン回転速(駆動出力軸回転速)センサの信号出力のアンバランス
エンジンの回転速センサの信号出力に於いても、車輪速センサの場合に類似して、エンジンの出力軸が一回転する間の検出値に於いて、むら、即ち、アンバランスが発生する場合がある。その場合、そのような回転速値に基づいて推定された車輪トルク推定値が制振制御装置の外乱入力へ入力され、制振制御による要求駆動トルクの修正が実行されると、要求駆動トルクの補償成分に、エンジン出力軸の回転周波数の整数倍の周波数の成分が発生し、かかる周波数の駆動トルクの変動が駆動装置から出力され、車両の前後方向振動が発生することになる。
【0058】
(c)駆動系機構の共振周波数の前後方向振動
車両に搭載されるエンジン、エンジンからの出力トルクを駆動輪まで伝達する動力伝達装置、並びに、これらの装置及び駆動輪を懸架するための懸架装置を含む駆動系機構に於いては、当業者に於いて理解される如く、或る周波数帯域(通常、7〜11Hz程度)の力が与えられると共振し、これにより、車輪に於いて、その共振周波数のトルク変動が発生する。そこで、通常の車両の設計時及び組立時に於いては、そのような共振が車両の走行上問題にならないレベルまで低減されるよう各装置の構造が調整される。しかしながら、制振制御装置が作動し、駆動系機構の共振によるトルク変動が車輪速センサによる車輪速値又はエンジン回転センサによる回転速値に乗って制振制御装置に入力されると、その共振周波数の周波数成分が要求駆動トルクの補償成分に重畳する。また、車両の使用に伴って、駆動系機構の各部の経年変化により、新たな共振振動が出現したり、組立・設定調整時には非常に小さく抑えられていた共振振動が増大し、そのような振動の周波数成分が要求駆動トルクの補償成分に重畳する場合もある。そして、駆動系共振の周波数は、ピッチ・バウンス振動の共振周波数(約1〜2Hz程度)よりも高いので、駆動トルクの制御応答の遅れの影響が重なって、駆動系共振のトルク変動が増幅されるよう駆動トルクが制御されてしまうこととなり得る。
【0059】
また、(a)及び(b)に説明した車速依存の振動成分或いは回転速依存の振動成分(センサの出力信号のアンバランスを含む)の周波数が駆動系機構の共振周波数に合致する場合、駆動装置の制御指令に、駆動系機構の共振周波数の成分が含まれることとなり、駆動装置がわざわざ駆動系機構の共振周波数の振動出力を発生することになるので、駆動系共振のトルク変動が増幅され、従って、車両の前後方向振動が増大することとなり得る。
【0060】
ノイズ振動の検出と除去
上記の如き制振制御による車両の前後方向振動の発生又は増幅を回避するべく、本実施形態の制振制御装置に於いては、上記のノイズ振動の発生の有無及びその周波数帯域を検出する振動検出器C8と、検出されたノイズ振動を除去するバンドカットフィルターC7が組み込まれる。以下、ノイズ振動の検出処理と除去処理について説明する。
【0061】
(a)ノイズ振動の検出
既に述べた如く、ノイズ振動の一部は、車両の組立・調整時のタイヤ又は駆動装置、駆動系機構の状態から推定できる。しかしながら、車両の使用又は走行中に、タイヤ、駆動装置又は駆動系機構或いはセンサの状態は変化し、車両の組立・調整時に予測できた周波数とは別の周波数帯域の振動が出現又は増大したり、或いは、予測されていたノイズ振動の周波数帯域が変化することが起き得る。そこで、本実施形態の装置に於いては、まず、振動検出器C8により、制振制御器の外乱入力である車輪トルク推定値に重畳し得る又は重畳しているノイズ振動の有無とその周波数帯域の検出が為される。
【0062】
車輪トルク推定値のノイズ振動の存否及び周波数帯域は、発明の開示の欄に於いて既に述べた如く、車輪トルク推定値中に含まれる周波数成分を含む任意の「車輪トルク指標値Twes」、即ち、車輪トルク推定値だけでなく、例えば、車輪速r・ω、その微分値、駆動装置の出力軸の回転速ne、その微分値、車両の前後方向加速度α、或いは、駆動トルクの補償成分U(車輪トルク単位でも駆動トルク単位であってもよい。)を周波数解析することにより検出することができる。これらのうち、駆動装置の出力軸の回転速及びその微分値は、車両が停止中に於いても駆動系機構の共振によるノイズ振動や周波数が駆動装置の回転速依存のノイズ振動が検出できる。また、車両の前後方向加速度を参照すると、実際に車両に前後方向振動が生じているか否か及びその周波数帯域が検出できることとなる。ノイズ振動の検出のために、いずれの車輪トルク指標値の周波数解析を実行するかは、当業者に於いて任意に選択されてよく、また、上記の全ての車輪トルク指標値を解析してノイズ振動を検出するようになっていてよい。
【0063】
図4及び5は、振動検出器C8により実行されるノイズ振動検出処理をフローチャートの形式にて表したものである。かかる処理では、概して述べれば、下記の(i)〜(iii)の処理、
(i)FFT解析を用いた車輪トルク指標値の周波数解析による振動スペクトルの検出、
(ii)振動スペクトルの強度が所定値以上である周波数の検出、
(iii)車速又は駆動出力軸回転速依存の周波数帯域に於ける振動スペクトルの強度が所定値以上であるか否かの検出
を複数回(例えば、5回)実行し(データ取得処理)、各サイクルの検出結果を保存した後、それらの検出結果から、車輪トルク指標値中の振動に於いて、強い振幅の現れる周波数の“特性”、即ち、周波数帯域が一定又は不変であるか否か、周波数帯域が車速又は駆動装置の出力軸の回転速の関数として表されるか否か、これら以外のもの(周波数が可変であるが、車速にも回転速にも依存しない振動)であるか否かがそれぞれ判定される(データ判定処理)。なお、図4及び5の演算処理は、車両の走行中、所定の期間毎又は所定の走行距離毎に実行されてよい。
【0064】
(データ取得処理)
図4を参照して、まず、データ取得処理に於いては、典型的には、公知の任意の態様のFFT解析により、上記の如き車輪トルク指標値Twesの周波数解析が実行され、車輪トルク指標値の振動スペクトルI[φ](φは、周波数)が算出される(ステップ10:図6(A)参照)。なお、振動スペクトルの取得帯域は、例えば、1Hz〜現在の駆動出力軸の回転周波数又はその数倍(例えば、エンジンの気筒数倍)であってよい(以下、振動スペクトルの最大値は、φmaxと表す。)。かかる振動スペクトルは、一回の信号の取得・演算では、誤差又は結果のばらつきが大きい場合があるので、好ましくは、複数回実行され(ステップ20)、その複数回の結果スペクトルの各周波数の平均値が、(今回のサイクルの)振動スペクトルI[φ]として決定されることが好ましい(ステップ30)。(添え字i(例えば、i=1〜imax)は、データ取得処理のサイクルを表す符合である。imaxは、データ取得処理サイクルの実行回数に相当する。図4、5の説明に於いて以下同様。)また、これと同時に、そのかかる解析中(解析のための車輪トルク指標値データの取得期間中)の車速の平均値Vxm、駆動出力軸の回転速の平均値nemが算出され記憶される。車速は、例えば、従動輪の車輪速センサからの車輪速値、GPSからの情報などに基づいて任意に決定されてよい。
【0065】
車輪トルク指標値の振動スペクトルI[φ]の解析が完了すると、各周波数φの振動スペクトルの強度値I(φ)が所定値Ioを超えているか否か、即ち、
(φ)>Io …(10)
であるかが判定され(ステップ40)、かかる判定結果は、周波数φをパラメータとして定義される配列κ(φ)に格納される(以下、配列κ(φ)を「スペクトル判定配列」と称する。)。本実施形態に於いては、式(10)が成立するときは、κ(φ)=1とし(ステップ42)、式(10)が不成立のときは、κ(φ)=0が代入される(ステップ44)。これにより、強度値I(φ)が所定値Ioを超えているときのみ、配列κ(φ)が1に設定されるので、図6(B)の左図に示されている如く、振幅の大きい周波数と小さい周波数とがまず判定されることとなる。なお、上記の所定値Ioの大きさは、実験的に又は理論的に任意に設定されてよく、また、車輪トルク指標値の種類によって、適宜変更されてよい。例えば、車両の前後加速度が車輪トルク指標値として用いられる場合、車両の前後加速度に於いて振動が検出されたということは、既に、車両の前後振動が発生していることになるので、判定基準を厳しく、即ち、所定値Ioの大きさを比較的低く設定した方がよいであろう。一方、車輪速値が車輪トルク指標値として用いられる場合、車輪速値は、駆動装置の出力に反映される前に、運動モデルC4を通して処理され、運動モデルC4の共振周波数から外れる帯域の周波数成分は、相対的に低減されるので、上記の判定基準は、さほどに厳しくしなくてもよいであろう。
【0066】
かくして、上記のスペクトル判定配列が定義されると、その結果に基づいて、車速又は回転速の関数である周波数帯域に振動が存在しているか否かが判定される(最初の段階では、可能性があるか否かが判定される。)。
【0067】
まず、車速依存の振動の周波数Nw[rot/sec]は、下記の式で与えられる。
Nw=kw×Vxm[km/hour]/3.6[(m/sec)/(km/hour)]/2πRw[m/rot] …(11)
ここで、Vxm、Rwは、それぞれ、今回のデータ取得期間中の車速の平均値、車輪半径である。kwは、車輪が一回転する間に、タイヤ又は車輪速センサの信号出力のアンバランスに起因して発生する信号の変動の回数に相当する。そして、(kwにより与えられる)周波数Nwのκi(φ)が1のとき、車速依存の振動が存在する可能性があることとなる。そこで、振動の車速依存性の判定に於いては、車輪一回転当たりの変動の回数kw(kwは、1から、Nwが振動スペクトルの最大周波数φmaxに到達する際のkwまでの整数)の各々に対して、周波数帯域Nwr[kw]をNwr(kw)±ΔNrと設定し(ステップ50)、帯域Nwr[kw]の各々に於けるκ(φ)の和が所定値κw以上であるか否か、即ち、
【数5】

が判定される。(ステップ52)。式(11a)の値が所定値κwより大きいとき、Nwr[kw]の帯域に振動が発生していると判定することができる。
【0068】
しかしながら、車速依存性の振動の場合には、車速が変化すると、Nwは変化するので、一回の式(11a)の算出値だけでは、車速依存性であるか否かは判定できない(図6(A)の右図参照)。そこで、車輪一回転当たりの変動の回数kwをパラメータとした配列λw(kw)を定義し、式(11a)が成立するときには、λw(kw)=1、式(11a)が不成立のときには、λw(kw)=0と設定し、今回のサイクルの振動スペクトルの状態を一先ず記録し、かかる配列は、後で車速依存性の振動が存否及び周波数帯域の検出に用いられることとなる。
【0069】
駆動装置の出力軸の回転速依存の振動の周波数Ne[rot/sec]は、下記の式
Ne1=ke1×nem[rot/min]/60[(sec/min)] …(12a)
及び
Ne2=1/ke2×nem[rot/min]/60[(sec/min)] …(12b)
によって与えられる。ここで、nemは、今回のサイクルのデータ取得期間中の駆動出力軸回転速である。ke1は、駆動出力軸回転速が一回転する間に、回転速センサの信号出力のアンバランスに起因して発生する信号の変動の回数に相当し、ke2は、1度のトルク変動が発生するまでのエンジンの回転数に相当する。そこで、車速依存性の判定の場合と同様に、初めに、ke1(ke1は、1から、Ne1が振動スペクトルの最大周波数に到達する際のke1までの整数)の各々に対して、周波数帯域Ne1r[ke1]をNe1r(ke1)±ΔNrと設定し(ステップ60)、ke2(ke1は、2から、Ne2が振動スペクトルの最小周波数に到達する際のke2までの整数)の各々に対して、周波数帯域Ne2r[ke2]をNe2r(ke2)±ΔNrと設定して(ステップ70)、帯域Ne1r[ke1]、Ne2r[ke2]の各々に於けるκ(φ)の和が、それぞれ、所定値κe1、κe2より大きいか否か、即ち、
【数6】

が判定される(ステップ62、72)。そして、式(13a)又は(13b)の値が所定値κe1、κe2より大きいとき、対応する帯域に振動が発生していることとなる。回転速依存性の振動の場合には、回転速が変化すると、Ne1、Ne2もするので、車速依存性の検出の場合と同様に、ke1及びke2を各々パラメータとした配列λe1(ke1)、λe2(ke2)を定義し、式(13a)、(13b)が成立するとき、λe1=1、λe2=1(ステップ64、74)、式(13a)、(13b)が不成立のとき、λe1=0、λe2=0(ステップ66、68)が設定される。
【0070】
かくして、周波数解析のデータ配列κ(φ)、λw、λe1、λe2を格納されると、一回のデータ取得処理サイクルが完了する。そして、かかるデータ取得処理サイクルは、所定回数(例えば、5回)繰替えされる(ステップ80)。なお、或るデータ取得処理サイクルの完了後から次のデータ取得処理サイクルが実行される期間に、車速及び回転速が有意に変化していることが好ましい(車速及び回転速しないと、それらに対する依存性が判定できない。)。図示していないが、一つのサイクルの完了後、次のサイクルは、車速及び回転速が各々所定量変化したときに、開始されるようになっていてもよい。
【0071】
(データ判定処理)
上記の如く、データ取得処理サイクルが所定回数繰替えされ、各サイクルに於いて、それぞれ強い振幅を有する周波数が記憶された後、データ判定処理が実行される。データ判定処理では、既に述べた如く、強い振幅の現れる周波数の“特性”が決定される。
【0072】
具体的には、図5に例示されている如く、まず、各データ取得処理サイクルで取得されたスペクトル判定配列κ(φ)が、全てのφについて、周波数毎に合算される(ステップ100:図6(B)の右図参照)。即ち、
【数7】

κi(φ)は、所定値Ioを超える大きな振幅がある周波数φに於いて、1となるので、κ(φ)は、所定値Ioを超える大きな振幅が検出される頻度の高い周波数φに於いて増大することとなる。そこで、
合算された配列κ(φ)について、
κ(φ)>κo …(14b)
が成立しているか否かが検査され(κoは、データ取得処理の繰り返し回数か、それよりも低い任意に設定される所定値であってよい。例えば、繰り返し回数imaxが5回ならば、3。)、条件(14b)が成立している周波数帯域が、車両の走行・運転状況によらず(図4で検出した振動スペクトルの全てに於いて)、大きな振動を生ずる、即ち、周波数不変のノイズ振動の発生している周波数帯域として認定される(ステップ110)。
【0073】
なお、かかる周波数不変のノイズ振動を除去するためのバンドカットフィルターを設定するためには、周波数不変のノイズ振動の発生帯域の下限値及び上限値を検出しておくことが好ましい。そこで、ステップ110に於いては、例えば、図6(C)に例示されている如く、式(14b)が成立するか(図中“Y”)否か(“N”)を、φについて逐次的に検査し、式(14b)が成立している周波数がlogφにして所定の区間以上(例えば、0.2以上)継続したことを検出した場合には、式(14b)が成立した周波数の最小値が周波数不変の振動帯域の下限として認定される。その後、式(14b)が不成立の状態がlogφにして所定の区間以上(例えば、0.2以上)継続したことを検出したときに、式(14b)が不成立の周波数の最小値が周波数不変の振動帯域の上限として認定されるようになっていてよい。そして、かくして認定された帯域の上限値と下限値がバンドカットフィルターにより除去される領域の境界を設定するための値として記憶される。ただし、帯域の上下限値の決定する手法は、上記のアルゴリズムに限らず、当業者により適宜構成されてよいことは理解されるべきであり、そのような場合も本発明の範囲に属する。また、特に、駆動系機構の共振周波数は、通常、7〜11Hzであるので、条件式(14b)が5〜13Hz程度に於いて成立しているか否かを判定し、成立している周波数点が所定数以上であるときには、駆動系機構の共振が発生したとして、5〜13Hzの帯域のバンドカットフィルターが設定されるようになっていてもよい。
【0074】
上記の如く周波数不変の振動の発生周波数が特定された後、続いて、周波数が車速又は回転速依存である振動の有無及びそれらの振動の周波数帯域を与えるkw、ke1、ke2が決定される。かかる処理に於いては、まず、各データ取得処理サイクルで取得された配列λw、λe1、λe2の値が、それぞれkw、ke1、ke2毎に合算される(ステップ130)。即ち、
【数8】

かかる式(15)のλw(kw)、λe1(ke1)、λe2(ke2)の各値は、それぞれ、式(11)又は式(12a,b)とにより与えられる周波数を有する(大きな振幅の)振動の発生の頻度が高いほど増大する。従って、大きいなλw(kw)、λe1(ke1)、λe2(ke2)の値を与えるkw、ke1、ke2は、式(11)又は式(12a,b)により与えられる周波数、即ち、車速又は回転速の関数である周波数を有するノイズ振動を与えるパラメータとして認定することができる。そこで、式(15)のλw、λe1、λe2について、所定値以上であるか否か、即ち、
λw(kw)≧λwo …(16a)
λe1(ke1)≧λe1o …(16b)
λe2(ke2)≧λe2o …(16c)
であるか否かが、全てのkw、ke1、ke2について検査される(ステップ140)ここで、λwo、λe1o、λe2oは、それぞれ、データ取得処理サイクルの繰り返し回数か、それよりも低い任意に設定される所定値であってよい。例えば、繰り返し回数imaxが5回ならば、3。)そして、上記の条件式(16a〜c)が成立するkw、ke1、ke2が、車速又は回転速依存のノイズ振動の周波数を決定するkw、ke1、ke2として記憶される(ステップ145)。
【0075】
かくして、周波数が不変又は車速若しくは回転速に依存する振動の有無及び周波数帯域が特定されると、周波数が可変であるが、車速にも回転速にも依存しない振動の存否が判定される。このために、まず、上記の処理に於いて、スペクトル判定配列κ(φ)の各値から、周波数不変の振動と車速又は駆動出力軸回転速依存の周波数を有する振動の寄与が除去される(ステップ150)。かかる処理に於いては、例えば、前記の記憶されたkw、ke1、ke2と、上記の振動スペクトルを決定した際の車速値Vxm及び/又は回転速nemの値とから、車速又は駆動出力軸回転速依存の振動が存在していた周波数帯域を再度、式(11)及び/又は(12a、b)を用いて再度決定する。しかる後、決定された車速又は駆動出力軸回転速依存の振動が存在していた周波数帯域のκ(φ)の値を、κ(φ)=0に再設定する。そして、更に、上記に於いて、周波数不変の振動の周波数帯域に対応するκ(φ)についても、全て、κ(φ)=0に再設定する。これにより、配列κ(φ)に於いては、振動スペクトルの検出時に、車速又は駆動出力軸回転速依存の振動以外の周波数可変の振動が存在していた周波数帯域に対応する配列値のみが、κ(φ)=1に設定されることとなる。
【0076】
そこで、上記の如く、再設定されたκ(φ)についての総計、即ち、
【数9】

を演算し(ステップ160)、
κ1<κtotal…(17b)
が成立しているか否かが判定される(ステップ165:κ1は、任意に設定されてよい正の整数である。)。式(17a)の値が大きければ大きいほど、発生周波数が定まらず、しかも車速・回転速の依存性のない振動が多く存在することになる。そこで、条件(17b)が成立するときには、振動スペクトルの計測中に、周波数が可変であるが、車速にも駆動出力軸回転速にも依存しない振動が、有意な量存在していたことが推定できることとなる。
【0077】
上記の如き車速にも駆動出力軸回転速にも依存しない周波数可変の振動が存在する場合には、その周波数を制振制御の際にリアルタイムに特定してバンドカットフィルターでピンポイント的に車輪トルク値から除去又は低減することは困難なので、そのような周波数特性を有する振動が所定量以上存在する場合には、制振制御による駆動トルクの補償成分の制御ゲインが低減されることとなる。
【0078】
(b)ノイズ振動の除去
バンドカットフィルターC7は、振動検出器C8の検出結果、即ち、車速又は回転速依存のノイズ振動に対応するパラメータkw、ke1、ke2と、周波数不変の振動の帯域の下限値及び上限値の情報を受信して、車輪速又は回転速が車輪トルク推定器C6に入力される前に、車輪速又は回転速に於ける、振動検出器C8の検出結果に基づいて決定される周波数帯域の成分(ノイズ周波数成分)の除去又は低減を行う。なお、振動検出器C8の検出結果が利用できないときには、車両の製造・組立時に発生が予測されているノイズ振動に対応するkw、ke1、ke2の値、及び周波数不変の振動の帯域の下限値及び上限値が初期値として利用されてよい。
【0079】
車速依存の前後方向振動を発生又は増幅するノイズ振動の周波数Nw[rot/sec]は、既に述べた如く、下記の式
Nw=kw×Vx[km/hour]/3.6[(m/sec)/(km/hour)]/2πRw[m/rot] …(18)
によって算定される。ここで、Vx、Rwは、それぞれ、車速(現在値でよい。)、車輪半径である。従って、かかる車速依存のノイズ振動を除去するためのバンドカットフィルターの除去周波数帯域[Nw]は、Nwをパラメータとして参照して、Nwを略中心とする所定の半値幅ΔNwの帯域(図7(A)参照)となるよう設定される。ΔNwの値、除去振幅比及び除去周波数帯域のスペクトル特性(プロファイルの形状)は、想定されるノイズ振動の振幅、車両に於ける制御指令に対する駆動トルクの応答速度を考慮して、理論的に又は実験的に決定されてよい。なお、ノイズ振動を生ずるkwの値は、複数存在する場合もあり、そのような場合、図7(A)に図示されている如く、除去帯域も複数となる。kwの初期値は、車両の組立時に、タイヤの形状の計測、車輪速センサの信号出力の計測をすることにより、或いは、制振制御装置を作動せずに、車両をテスト走行させることにより計測することができる。
【0080】
駆動出力軸回転速依存の前後方向振動を発生又は増幅するノイズ振動の周波数Ne[rot/sec]は、下記の式
Ne1=ke1×ne[rot/min]/60[(sec/min)] …(19a)
及び
Ne2=1/ke2×ne[rot/min]/60[(sec/min)] …(19b)
によって特定される。ここで、neは、現在の駆動出力軸の回転速である。従って、かかる回転速依存のノイズ振動を除去するためのバンドカットフィルターの除去周波数帯域[Ne1]又は[Ne2]は、Ne1及びNe2をパラメータとして参照して、Ne1及びNe2を略中心とする所定の半値幅ΔNe1又はΔNe2の帯域(図7(B)参照)となるよう設定される。ΔNe1、ΔNe2の値、除去振幅比及び除去周波数帯域のスペクトル特性は、想定されるノイズ振動の振幅、車両に於ける制御指令に対する駆動トルクの応答速度を考慮して、理論的に又は実験的に決定されてよい。回転速依存のノイズ振動を与えるke1、ke2も複数存在する場合があり、その場合、図示の如く、除去帯域は、複数となる。ke1及びke2の初期値は、車両の組立時に、回転速センサの信号出力の計測及び各気筒の発生トルクの計測をすることにより、或いは、制振制御装置を作動せずに、車両をテスト走行させることにより計測することができる。
【0081】
駆動系機構の共振周波数等の、車両の走行・運転状態によらず、周波数不変の振動について、除去周波数帯域[Nc]のスペクトル特性は、振動検出器の上下限値の間の値が包含されるよう決定される(図7(C))。除去振幅比、又はスペクトルの形状は、想定されるノイズ振動の振幅、車両に於ける制御指令に対する駆動トルクの応答速度を考慮して、任意に理論的に又は実験的に設定されるようになっていてよい(この場合も除去帯域は、複数であってよい。)。なお、周波数不変の振動(Nc)の除去周波数帯域は、初期値として、車両の組立及び調整時に計測された駆動系機構の共振周波数が除去されるよう設定されていてよい。
【0082】
上記のバンドカットフィルターは、振動検出器C8の検出結果に応じて、除去周波数帯域が可変の「可変バンドカットフィルター」であり、公知のディジタルフィルタ技術又はアナログフィルタ技術を用いて当業者に於いて任意に構成されてよい。(特に、駆動系機構の共振周波数のノイズ振動を除去するために、除去周波数帯域が固定の「固定バンドカットフィルター」が組み込まれていてもよい。)
【0083】
ところで、車速又は回転速依存の発生周波数帯域を有するノイズ振動の周波数は変動するので、その周波数帯域がピッチ・バウンス振動の周波数帯域に重なる場合も在り得る。例えば、車速依存のノイズ振動の周波数は、車速が低速域(毎時7〜35km)になると、そのときのノイズ振動周波数は、1〜5Hz程度となる。そのような場合、真の車輪トルク振動とそうでない振動(センサの信号出力のアンバランスに起因するノイズ振動)とをバンドカットフィルターで弁別することは困難である。そこで、そのような場合には、車輪トルク推定値(Tw)に起因する制御量を低減すべく、制御ゲインの低減が行われてよい。その場合、例えば、フィードバック制御ゲインFBが低減される(バンドカットフィルターC7の出力ゲイン又は補償低減器C9に於ける駆動トルクの補償成分の制御ゲインが低減されてもよい。)。
【0084】
図8は、ノイズ振動が除去された車輪トルク推定値を車輪回転速値ω(車輪速値r・ωであってもよい。)に基づいて式(5)を用いて算出し運動モデルへ入力するまでの演算処理過程をフローチャートの形式にて表したものである。同図を参照して、まず、駆動輪の車輪回転速値ωが、図7(C)に例示されている如き周波数不変の振動を除去するための除去周波数帯域[Nc]を有するバンドカットフィルターに通され、車輪回転速値ωから駆動系機構の共振周波数に相当する周波数成分が除去される(ステップ210)。次いで、式(19a)及び(19b)により駆動出力軸回転速ne依存のノイズ振動の周波数Ne1及びNe2を算出し(ステップ220)、ステップ10の処理後の車輪回転速値ωが、Ne1及びNe2に基づいて除去周波数帯域[Ne1]及び[Ne2](図7(B))が決定される可変バンドカットフィルターに通され、車輪回転速値ωから、更に、駆動出力軸回転速依存のノイズ振動の周波数成分が除去される(ステップ230)。
【0085】
しかる後、式(18)により車速Vxに基づいて、車速Vx依存のノイズ振動の周波数Nwを算出し(ステップ240)、算出された周波数Nwに基づいて、車速Vx依存のノイズ振動の除去をするための可変バンドカットフィルターの除去周波数帯域[Nw]が決定される(図7(A))。ここで、かかる除去周波数帯域[Nw]が、制振制御装置に於いて制振したいピッチ・バウンス振動の制振周波数帯域[Nt]、例えば、1〜5Hz、と重複しない場合(ステップ250−252)、即ち、
Nthi<Nwlo …(20a)又は
Nwhi<Ntlo …(20b)
が成立するときには(ここで、Nwlo、Nwhiは、除去周波数帯域[Nw]の最低及び最高周波数であり、Ntlo、Nthiは、ピッチ・バウンス振動の制振周波数帯域[Nt]の最低及び最高周波数である。図7(A)の如く、除去帯域が複数在る場合には、それぞれの帯域の上下限値について、式(20a,b)が検査される。)、ステップ230の処理後の車輪回転速値ωは、除去周波数帯域[Nw]のバンドカットフィルターに通され(ステップ260)、式(5)を用いた車輪トルク推定値Twの算出(ステップ270)が実行される。これにより、車輪トルク推定値に於いては、車両の前後方向振動を発生又は増幅するノイズ振動成分が除去された状態となり、車輪トルク推定値Twは、制御ゲインFBが乗算されて(ステップ280)、運動モデルC4(図2B)の演算に使用される。
【0086】
他方、車速Vx依存のノイズ振動の除去をするための可変バンドカットフィルターの除去周波数帯域[Nw]がピッチ・バウンス振動の制振周波数帯域[Nt]と重複するとき、即ち、式(20a)及び(20b)のいずれも成立しないとき(ステップ250−252)、ステップ230の処理後の車輪回転速値ωは、そのまま式(5)を用いた車輪トルク推定値Twの算出に使用される(ステップ275)。従って、この場合、車輪トルク推定値Twには、車速Vx依存のノイズ振動が含まれている可能性があるので、低減された制御ゲインFBxが車輪トルク推定値Twに乗算され(ステップ285)、運動モデルC4(図2B)の演算に使用される。低減された制御ゲインFBxは、ノイズ振動の振幅が予め概ね推定できる場合には(車両の組立時又は設定時に計測することができる場合又は振動スペクトルの強度I(φ)の値から推定できる場合には)、
FBx=FB×(f−fo)/f …(13)
により与えられてよい。ここで、FBは、通常時の制御ゲインであり、foは、推定された車輪回転速値に於けるノイズ振動の振幅であり、fは、現在の車輪回転速値の振幅である。なお、本実施形態の運動モデルは、線形モデルであるので、車輪トルク推定値Twに低減された制御ゲインFBxを乗ずることにより、車輪トルク推定値Twに対応する要求駆動トルクの修正量は低減する。ノイズ振動の振幅が推定できない場合には、FBは、予め定められた任意の所定値に低減されてよい。
【0087】
更に、上記の図8では、通常の車両に於いてはあまり想定されないので省略されているが、回転速依存のノイズ振動の発生周波数帯域[Ne1]、[Ne2]についてもそれらがピッチ・バウンス振動の制振周波数域[Nt]に重複するか否かを判定し、重複する場合には、周波数帯域[Ne]の除去を行わずに、低減された制御ゲインを用いて、車輪トルク推定値Twを運動モデルC4へ入力するようになっていてよい。
【0088】
図9は、回転速依存及び車速依存のノイズ振動の全ての発生周波数帯域[Ne1]、[Ne2]、[Nw]について、それらの各々がピッチ・バウンス振動の制振周波数域[Nt]に重複するか否かによって、信号の処理方法を変更する場合の処理過程の例をフローチャートの形式にて示したものである。同図を参照して、まず、図8の例と同様に、駆動輪の車輪回転速値ωが、図7(C)に例示されている如き周波数不変のノイズ振動を除去するための除去周波数帯域[Nc]を有するバンドカットフィルターに通され、駆動系機構の共振周波数等の周波数不変の振動に相当する周波数成分が除去される(ステップ310)。次いで、駆動出力軸回転速ne依存のノイズ振動の周波数Ne1と及びNe2の算出、これらの各々に対応する除去周波数帯域[Ne1]及び[Ne2]の決定、車速Vx依存のノイズ振動の周波数Nwの算出、及び、これに対応する除去周波数帯域[Nw]の決定が行われる(ステップ320)。
【0089】
しかる後、帯域[Ne1]、[Ne2]、[Nw]が順に選択され、各々の帯域が制振したいピッチ・バウンス振動の制振周波数帯域[Nt]と重複しているか否かが判定され(ステップ340、345)、重複していない場合には、車輪回転速ωが、図8の場合と同様に、選択された帯域の可変バンドカットフィルターに通されて、ノイズ振動の周波数成分の帯域の信号が除去され(ステップ350)、重複している場合には、制御ゲインFBの低減が実行される(ステップ360)。除去周波数帯域と制振周波数帯域とが重複しているか否かは、図8の例と同様に、それぞれの除去周波数帯域の最高値(Nxhi)及び最低値(Nxlo)について、
Nthi<Nxlo …(20a’)又は
Nxhi<Ntlo …(20b’)
が成立するか否かにより判定されてよい(Nxには、Ne1、Ne2、Nwが順に設定される。図7(A)及び(B)の如く、除去帯域が複数在る場合には、それぞれの帯域の上下限値について、式(20a’,b’)が検査される。)。また、制御ゲインの低減は、ノイズ振動の振幅fox(帯域[Ne1]、[Ne2]、[Nw]のそれぞれのノイズ振動の振幅)が予め概ね推定できる場合には、
FB←FB−FB(fox/f)
により、即ち、FB(fox/f)を制御ゲインFBから差し引くことにより為されてよい。(従って、[Ne1]又は[Ne2]と[Nw]とが共に[Nt]に重複するときには、最終的なFBの値は、FB(1−foNE1又はNE2/f−fow/f)となる。)なお、制御ゲインFBの低減が、任意の所定値を引き算又は乗算することにより為されてもよい。
【0090】
そして、ノイズ周波数成分の除去又は制御ゲインの低減が実行された後、処理された車輪回転速値ωを用いて式(5)により算出された車輪トルク推定値に制御ゲインFBが乗算された値が、運動モデルC4へ入力される(ステップ380、390)。
【0091】
なお、車速依存のノイズ振動、回転速依存のノイズ振動、駆動系機構の共振周波数のノイズ振動のいずれか一つ又は二つのみ除去するようになっていてもよい。また、車輪トルク推定値をエンジン回転速ne又は変速機回転速noを用いて算出する場合も、図8又は図9と同様の処理によりノイズ振動の除去が行われてよい。
【0092】
駆動トルク補償成分の制御ゲインの低減
既に触れたように、本発明の制振制御装置に於いては、上記までに説明された構成に加えて、補償低減器C9が設けられてよい。補償低減器C9は、上記のノイズ振動検出処理に於いて、車速にも駆動出力軸回転速にも依存しない周波数可変の振動が検出された場合、或いは、車両の車輪又は駆動装置の使用量が増大した場合に制振制御器から駆動制御器へ送信される駆動トルクの補償成分の制御ゲインを低減するよう機能する。
【0093】
補償低減器C9の作動に於いては、次の条件が成立しているか否かが判定される。
(1)振動検出器C8から車速にも駆動出力軸回転速にも依存しない周波数可変の振動の存在する情報を受信したとき
(2)車両の使用開始後の走行距離が所定値を越えたとき(走行距離は、車両上に搭載される任意の走行制御装置から情報を取得するようになっていてよい。)
(3)車輪トルク推定値の反転回数が所定値を超えたとき(車輪トルク推定値の反転回数は、車輪トルク推定器から車輪トルク推定値を受信してその反転時、即ち、変化が増大から減少へ又は減少から増大に転換する時(微分値の正負の反転時など)をカウントすることにより得られてよい。)
(4)補償成分の反転回転が所定値を超えたとき(補償成分の反転回数は、その反転時、即ち、変化が増大から減少へ又は減少から増大に転換する時(微分値の正負の反転時など)をカウントすることにより得られてよい。)
(5)所定の期間の補償成分の和又は平均値と車輪トルク推定値の和又は平均値の比が所定値を超えたとき
【0094】
上記の(1)の条件が成立する状態は、既に触れたように、振動検出器C8に於いて、車速にも駆動出力軸回転速にも依存しない周波数可変の振動が検出され、その振動の周波数は、どの周波数帯域に出現するかを予測することは困難な状態である。また、上記の(2)〜(4)の条件が成立する状態は、車両の使用開始後の走行距離が長くなり、或いは、車輪トルク推定値又は補償成分の反転回数が多くなることにより、車両の車輪又は駆動装置の使用による構成要素の経年変化が進んでいる状態であり、車両の製造・組立時では観測されない振動の発生が予想される状態である。そして、上記の(5)の条件が成立する状態は、車両の車輪又は駆動装置の使用による構成要素の経年変化が進み、補償成分、即ち、車輪トルク値の目標値と、車輪トルク推定値、即ち、車輪トルク値の目標値との差が大きくなっていると推定される状態である。
【0095】
かくして、上記の(1)〜(5)のいずれかが成立する場合には、そのときの車両の状態は、予定された制振制御を実行できないか或いは実行しにくくなっている状態と判断できる。そこで、上記の(1)〜(5)のいずれかが成立したとき、補償低減器C9は、乗算演算器C5からの出力を駆動トルクに換算して得られる補償成分に、1未満の係数を乗じた値、即ち、低減された補償成分を加算器C1aへ送信する。
【0096】
なお、補償低減器C9に於いては、上記の条件(1)〜(5)のいくつかのみ判定するようになっていてもよい。条件(2)〜(5)の各所定値は、それぞれ、予め実験的に又は理論的に任意に設定されてよい。また、制御ゲインの低減量は、条件(2)〜(5)に於いて参照される各変数の値に依存して決定されてよく、例えば、各変数の値が大きくなればなるほど、制御ゲインが小さくなるよう設定されてもよい。条件(1)については、前記の式(17a)のκtotalを受信してその値が増大するほど制御ゲインが小さくなるよう設定されてもよい。
【0097】
かくして、上記の実施形態によれば、車輪トルクの外乱入力に於いて、ノイズ振動が発生し、車両の前後方向振動の発生又は増幅又はそのおそれがあるときであっても、ノイズ振動の除去又は補償成分の低減により、車両の前後方向振動の発生又は増幅が抑制されることとなる。
【0098】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
【0099】
例えば、上記の実施形態に於ける車輪トルク推定値が車輪速から推定されるものであるが、車輪トルク推定値が車輪速から以外のパラメータから推定されるものであってもよい。また、上記の実施形態に於ける制振制御は、運動モデルとしてばね上又はばね上・ばね下運動モデルを仮定して最適レギュレータの理論を利用した制振制御であるが、本発明の概念は、車輪トルクを利用するものであれば、ここに紹介されているもの以外の運動モデルを採用したもの或いは最適レギュレータ以外の制御手法により制振を行うものにも適用され、そのような場合も本発明の範囲に属する。更に、ノイズ振動の有無及びその周波数帯域・特性は、例示されている以外の方法・アルゴリズムにより検出されてもよく、そのような場合も本発明の範囲に属すると理解されるべきである。
【0100】
また、上記の説明に於いて、車輪又は駆動装置等の構造に起因して発生するノイズ振動の例をいくつか列挙しているが、起振源によらず、発生周波数帯域が車速又は駆動装置の出力軸の回転速に基づいて推定可能であれば、周波数成分除去手段を用いて除去されることとなる。また、本発明の概念は、車両の製造・組立時にノイズ振動の周波数帯域を特定する場合に適用されてよく、そのような場合も本発明の範囲に属すると理解されるべきである。更に、車輪トルク推定値の算出のための車輪速値等の信号を、制振制御により制振することを狙ったピッチ・バウンス振動の周波数帯域を通すバンドパスフィルターに通すことによりノイズ振動を除去するようにしても同様の効果が得られる。この場合も、制御ゲインは、ノイズ振動の帯域がピッチ・バウンス振動の周波数帯域に重複する場合に低減されてよい。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】図1Aは、本発明による制振制御装置の好ましい実施形態が実現される自動車の模式図を示している。図1Bは、図1Aの電子制御装置の内部構成をより詳細な模式図である。
【図2】図2Aは、本発明の好ましい実施形態の一つである制振制御装置に於いて抑制される車体振動の状態変数を説明する図である。図2Bは、本発明の好ましい実施形態に於ける制振制御の構成を制御ブロック図の形式で表した図である。
【図3】図3は、本発明の好ましい実施形態の制振制御装置に於いて仮定される車体振動の力学的運動モデルを説明する図である。図3Aは、ばね上振動モデルを用いた場合であり、図3Bは、ばね上・ばね下振動モデルを用いた場合である。
【図4】図4は、振動検出器C8に於けるノイズ振動検出処理のデータ取得処理をプローチャートの形式で表したものである。S50〜S58に於いては、kwに1以上の整数が順に与えられる(Nwrの上限がφmaxを超えるまで)。S60〜S68に於いては、ke1に1以上の整数が順に与えられる(Ne1rの上限がφmaxを超えるまで)。S70〜S78に於いては、ke2に2以上の整数が順に与えられる(Ne2rの下限が振動スペクトルの最小周波数を下回るまで)。
【図5】図5は、振動検出器C8に於けるノイズ振動検出処理のデータ判定処理をプローチャートの形式で表したものである。S120〜S148に於いては、xに、w、e1、e2が順次設定される(順番は、任意である。)。S130〜S145に於いては、kxに1又は2以上の整数が順に与えられる(図4のkw、ke1、ke2の場合と同様)。
【図6】図6(A)は、FFT解析により、車輪トルク指標値(左)の振動スペクトル(右)を取得する過程を模式的に示した図である。(B)は、左図が、(A)の振動スペクトルに於いて、強度I(φ)が所定値Ioを超える周波数帯域が1、それ以外が0に設定されるスペクトル判定配列κiをグラフ化して表した図であり、右図は、複数回(図示の例では5回)取得されたスペクトル判定配列κiの合算値κをグラフ化して表した図である。(C)は、周波数不変の振動帯域の下限値及び上限値を決定する処理を図式化して説明した図である。Yは、式(14b)が成立するデータ(周波数)点であり、Nは、式(14b)が成立しないデータ(周波数)点である。図示の例では、周波数φの小さい方から、逐次的に式(14b)を検査していき、式(14b)が成立する点が、logΔφ(Δφは、周波数の間隔)にして0.2以上続いたとき、その最初の点を下限値として設定し、しかる後、式(14b)が成立しない点が、logΔφ(Δφは、周波数の間隔)にして0.2以上続いたとき、その最初の点の一つ前の点を上限値として設定する。図示の如く、配列κに於いて、周波数不変の振動帯域が2以上存在する場合も在り得る。
【図7】図7は、ノイズ振動を除去するバンドカットフィルターの除去周波数帯域のプロファイルを示す模式図である。(A)は、車速依存のノイズ振動を除去するバンドカットフィルターの除去周波数帯域[Nw]であり、(B)は、回転速依存のノイズ振動を除去するバンドカットフィルターの除去周波数帯域[Ne1]又は[Ne2]であり、(C)は、駆動系機構の共振を発生又は増幅するノイズ振動を除去するバンドカットフィルターの除去周波数帯域[Nc]である。図示の例では、除去帯域が2乃至3存在するが、除去帯域は、任意数存在していてもよく、また、ノイズ振動が検出されない場合には、除去帯域が存在しないこととなる。
【図8】図8は、ノイズ振動成分が除去された車輪トルク推定値Twを算出する演算処理過程の一つの実施例をフローチャートの形式にて表したものである。
【図9】図9は、ノイズ振動成分が除去された車輪トルク推定値Twを算出する演算処理過程のもう一つの実施例をフローチャートの形式にて表したものである。ステップ330からステップ375までに於いては、xに、w、e1、e2が順次設定される(順番は、任意である。)。
【符号の説明】
【0102】
10…車体
12FL、FR、RL、RR…車輪
14…アクセルペダル
20…駆動装置
30FL、FR、RL、RR…車輪速センサ
32…Gセンサ
50…電子制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動出力を制御することにより前記車両のピッチ又はバウンス振動を抑制する車両の制振制御装置であって、前記車両の車輪と路面との接地個所に於いて発生する車輪に作用する車輪トルク又はその推定値に基づいて前記ピッチ又はバウンス振動振幅を抑制するよう前記車両の駆動トルクを補償する駆動トルク補償部を含み、前記駆動トルク補償部に入力されると前記車両に於いて前後方向の振動を発生又は増幅する駆動トルクを生ずるノイズ周波数成分が前記車輪トルク又はその推定値に含まれているか否かを判定するノイズ周波数成分判定手段と、前記車輪トルク又はその推定値に前記ノイズ周波数成分が含まれていると判定されるときに前記駆動トルク補償部により補償される駆動トルクに於ける前記ノイズ周波数成分の寄与を低減するノイズ周波数成分低減手段とが設けられていることを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1の装置であって、前記ノイズ周波数成分判定手段が前記ノイズ周波数成分の周波数帯域を特定する手段を含み、前記ノイズ周波数成分の周波数帯域が特定可能なときには、前記ノイズ周波数成分低減手段が、前記駆動トルク補償部から前記車両の駆動装置へ与えられる前記駆動トルクの補償成分に於ける前記ノイズ周波数成分の周波数帯域の振動成分を低減することを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項2の装置であって、前記ノイズ周波数成分低減手段が、前記車輪トルク値又はその推定値に於ける前記ノイズ周波数成分の周波数帯域の振動成分を低減することにより前記駆動トルクの補償成分に於ける前記ノイズ周波数成分の周波数帯域の振動成分を低減することを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項2又は3の装置であって、前記ノイズ周波数成分判定手段が、前記ノイズ周波数成分が前記車両の車速の関数である周波数帯域の振動成分を含んでいるか否かを判定し、前記ノイズ周波数成分に前記車両の車速の関数である周波数帯域の振動成分が含まれていると判定されたときには、前記ノイズ周波数成分低減手段が、前記駆動トルクの補償成分に於ける前記車両の車速の関数として決定される周波数帯域の振動成分を低減することを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項2又は3の装置であって、前記ノイズ周波数成分判定手段が、前記ノイズ周波数成分が前記車両の駆動装置の出力軸の回転速の関数である周波数帯域の振動成分を含んでいるか否かを判定し、前記ノイズ周波数成分に前記回転速の関数である周波数帯域の振動成分が含まれていると判定されたときには、前記ノイズ周波数成分低減手段が、前記駆動トルクの補償成分に於ける前記回転速の関数として決定される周波数帯域の振動成分を低減することを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項2又は3の装置であって、前記ノイズ周波数成分判定手段が、前記ノイズ周波数成分が前記車両の走行状態によらず周波数が不変である振動成分を含んでいるか否かを判定し、前記ノイズ周波数成分に周波数帯域が不変である振動成分が含まれていると判定されたときには、前記ノイズ周波数成分低減手段が、前記駆動トルクの補償成分に於ける前記車両の走行状態によらず周波数が不変の前記ノイズ周波数成分の周波数帯域の振動成分を低減することを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項2又は3の装置であって、前記ノイズ周波数成分判定手段が、前記ノイズ周波数成分に周波数帯域を特定できない振動成分が含まれると判定したとき、又は、前記ノイズ周波数成分判定手段により特定された前記ノイズ周波数成分の周波数帯域が前記制振制御装置により抑制されるべき前記ピッチ又はバウンス振動の周波数と重複するときには、前記ノイズ周波数成分低減手段が前記駆動トルクの補償成分の制御ゲインを低減することを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の装置であって、前記ノイズ周波数成分判定手段が、前記車輪速、前記車輪速の微分値、前記駆動装置の出力軸の回転速、前記回転速の微分値、前記車輪速又は前記車両の駆動装置の出力軸の回転速に基づいて推定される車輪トルク推定値、前記車両の前後方向加速度及び前記駆動トルク補償部から前記車両の駆動装置へ与えられる前記駆動トルクの補償成分から成る群から選択される車輪トルク指標値に前記ノイズ周波数成分が含まれているか否かを検出する手段を含むことを特徴とする装置。
【請求項9】
請求項8の装置であって、前記ノイズ周波数成分判定手段が、前記車輪トルク指標値の周波数解析により、前記車輪トルク指標値に前記ノイズ周波数成分が含まれているか否かを判定することを特徴とする装置。
【請求項10】
請求項1の装置であって、前記ノイズ周波数成分判定手段が前記車両の車輪又は駆動装置の使用量が所定値を超えたときに前記ノイズ周波数数成分が前記車輪トルク又はその推定値に含まれていると推定することを特徴とする装置。
【請求項11】
請求項10の装置であって、前記車両の車輪又は駆動装置の使用量が、前記車両の走行距離、前記車輪トルク値又はその推定値の反転回数、前記駆動トルク補償部から前記車両の駆動装置へ与えられる前記駆動トルクの補償成分の反転回数、及び、所定の期間に於ける前記駆動トルクの補償成分と前記車輪トルク値又はその推定値との比から成る群から選択される量であることを特徴とする装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−18606(P2009−18606A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180787(P2007−180787)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】