説明

車両の動力伝達制御装置

【課題】AMTを搭載した車両に適用される車両の動力伝達制御装置であって、車両のユーザーがクラッチの適切な交換時期を容易に知ることができるものを提供すること。
【解決手段】この装置では、「内燃機関の出力軸と有段変速機の入力軸との回転速度差と、クラッチのクラッチトルクとを乗じて得られる、微小時間毎のクラッチ仕事量」を逐次積算していくことによって、クラッチの累積仕事量が逐次算出・更新されていく。このクラッチの累積仕事量に基づいて、クラッチの摩擦板の摩耗量が逐次推定されていく。逐次推定されるクラッチの摩擦板の摩耗量が第1所定値を超えたとき、「クラッチが摩耗した」との判定がなされる。第1所定値は、「クラッチの摩擦板を交換すべき時期」に対応する摩耗量に設定される。この判定がなされると、ユーザーに警告がなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の変速段を有し且つトルクコンバータを備えていない有段変速機と、内燃機関の出力軸と有段変速機の入力軸との間に介装されてクラッチトルク(クラッチが伝達し得るトルクの最大値)を調整可能なクラッチと、車両の走行状態に応じてクラッチアクチュエータ及び変速アクチュエータを用いてクラッチトルク及び有段変速機の変速段を制御する制御手段と、を備えた動力伝達制御装置が開発されてきている(例えば、特許文献1を参照)。係る動力伝達制御装置は、オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)とも呼ばれる。
【0003】
AMTを搭載した車両では、変速作動(変速機の変速段を変更する作動)が行われる際、変速作動の開始前にクラッチアクチュエータの作動によりクラッチが接合状態(クラッチトルク>0)から分断状態(クラッチトルク=0)へと変更され、クラッチが分断状態に維持された状態で変速アクチュエータの作動により変速作動が行われ、変速作動の終了後にクラッチアクチュエータの作動によりクラッチが分断状態から接合状態へと戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−97740号公報
【発明の概要】
【0005】
AMTを搭載した車両に使用される前記クラッチでは、通常、「内燃機関の出力軸と一体回転する第1摩擦板及び有段変速機の入力軸と一体回転する第2摩擦板からなる摩擦板」が備えられ、第1、第2摩擦板の原位置からの軸方向の相対移動量(クラッチストローク)を調整することによって前記クラッチトルクが調整される。
【0006】
ところで、車両の走行距離の増大等に応じて、前記クラッチの摩擦板の摩耗が不可避的に進行する。AMTを搭載した車両では、クラッチの摩擦板の摩耗の進行度合が把握されていなかった。従って、車両のユーザーは、クラッチ(の摩擦板)の適切な交換時期を知るため、クラッチが分断状態から接合状態へ移行する際のフィーリング等を利用した自身の感と経験に頼るしかなかった。車両のユーザーがクラッチ(の摩擦板)の適切な交換時期を容易に知ることができる装置の到来が望まれていたところである。
【0007】
本発明の目的は、AMTを搭載した車両に適用される車両の動力伝達制御装置であって、車両のユーザーがクラッチ(の摩擦板)の適切な交換時期を容易に知ることができるものを提供することにある。
【0008】
本発明による車両の動力伝達制御装置は、有段変速機(T/M)と、クラッチ(C/T)と、制御手段(ECU、ACT1,ACT2)とを備える。
【0009】
前記有段変速機は、前記内燃機関の出力軸(A1)から動力が入力される入力軸(A2)と、前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸(A3)とを備える。前記有段変速機は、減速比(前記出力軸の回転速度(No)に対する前記入力軸の回転速度(Ni)の割合)が異なる予め定められた複数の変速段を有し、且つトルクコンバータを備えていない。
【0010】
前記クラッチは、前記内燃機関の出力軸と前記有段変速機の入力軸との間に介装され、且つ、「前記内燃機関の出力軸と一体回転する第1摩擦板及び前記有段変速機の入力軸と一体回転する第2摩擦板からなる摩擦板」を備える。前記第1、第2摩擦板の原位置からの軸方向の相対移動量(=クラッチストロークSt)を調整することによって、前記摩擦板が伝達し得るトルクの最大値(=クラッチトルクTc)が調整可能となっている。
【0011】
前記制御手段は、前記車両の走行状態に基づいて、(クラッチアクチュエータACT1を作動させて)前記クラッチのクラッチストローク、及び(変速アクチュエータACT2を作動させて)前記有段変速機の変速段を制御する。
【0012】
この動力伝達制御装置の特徴は、前記クラッチの前記摩擦板の軸方向の摩耗量を推定する推定手段と、前記推定された摩擦板の摩耗量が第1所定値を超えたとの判定に基づいて前記クラッチが摩耗したと判定する判定手段と、を備えたことにある。ここにおいて、前記クラッチが摩耗したと判定したことに基づいて、前記車両のユーザーに警報を行うように構成されることが好適である。
【0013】
これによれば、前記第1所定値を、「クラッチ(の摩擦板)を交換すべき時期」に対応する値に設定することによって、車両のユーザーは、クラッチ(の摩擦板)の適切な交換時期を容易に知ることができる。
【0014】
具体的には、前記推定手段は、前記内燃機関の出力軸と前記有段変速機の入力軸との回転速度差と、前記クラッチのクラッチトルクとを乗じて得られる値を積算していくことによって前記クラッチの累積仕事量を算出し、前記クラッチの累積仕事量に基づいて前記摩擦板の摩耗量を推定するように構成され得る。
【0015】
この場合、クラッチの累積仕事量の算出に使用される、前記内燃機関の出力軸の回転速度、前記有段変速機の入力軸の回転速度、及びクラッチトルクとしては、対応する値を検出するセンサの検出値がそれぞれ使用され得る。また、クラッチトルクとしては、クラッチストロークとクラッチトルクとの関係を予め定めたマップ(後述する図2を参照)に、クラッチストロークセンサにより検出されたクラッチストロークの検出値を適用することにより得られるクラッチトルクの値も使用され得る。
【0016】
或いは、前記クラッチが、前記原位置における前記第1、第2摩擦板の軸方向の相対距離を調整する原位置調整機構を備える場合、前記推定手段は、前記クラッチのクラッチストロークを調整して、前記クラッチトルクがゼロより大きい接合状態と前記クラッチトルクがゼロとなる分断状態との境界に対応するクラッチストロークをタッチ点として取得する取得手段を備え、前記原位置調整機構が作動する毎にその作動の前後における前記タッチ点の移動量を算出し、前記タッチ点の移動量の積算値に基づいて前記摩擦板の摩耗量を推定するように構成され得る。
【0017】
この場合、前記原位置調整機構は、ユーザーの操作に基づいて手動で作動する構成を有していてもよいし、クラッチの作動状態に応じて(ユーザーの操作なしで)自動で作動する構成を有していてもよい。また、前記原位置調整機構の毎回の作動は、前記原位置における前記第1、第2摩擦板の軸方向の相対距離が最適な距離に一致するようになされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の動力伝達制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示したクラッチについての「ストローク−トルク特性」を規定するマップを示したグラフである。
【図3】図1に示した変速機についての「車速及びアクセル開度」と「選択される変速段」との関係を規定するマップを示したグラフである。
【図4】本発明の実施形態により実行されるクラッチ摩耗判定1の際の処理の流れを示したフローチャートである。
【図5】図4に示した処理において使用される、クラッチの累積仕事量とクラッチ摩耗量との関係を規定するマップを示したグラフである。
【図6】本発明の実施形態により実行されるクラッチ摩耗判定2の際の処理の流れを示したフローチャートである。
【図7】図6に示した処理において使用される、原位置調整機構の作動量積算値とクラッチ摩耗量との関係を規定するマップを示したグラフである。
【図8】本発明の実施形態により実行されるクラッチ摩耗警告についての処理の流れを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源として内燃機関を備え、且つ、トルクコンバータを備えない有段変速機とクラッチとを使用した所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)を搭載した車両である。
【0021】
この車両は、エンジンE/Gと、変速機T/Mと、クラッチC/Tと、を備えている。E/Gは、周知の内燃機関の1つであり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。E/Gの出力軸A1は、C/Tを介してT/Mの入力軸A2と接続されている。
【0022】
変速機T/Mは、前進用の複数(例えば、5つ)の変速段、後進用の1つの変速段、及びニュートラル段を有するトルクコンバータを備えない周知の有段変速機の1つである。T/Mの出力軸A3は、図示しないプロペラシャフト、図示しないディファレンシャル等を介して車両の駆動輪と接続されている。T/Mの変速段の切り替えは、変速アクチュエータACT2を制御することで実行される。変速段を切り替えることで、減速比(出力軸A3の回転速度Noに対する入力軸A2の回転速度Niの割合)が変更される。
【0023】
クラッチC/Tは、周知の構成の1つを備えていて、E/Gの出力軸とT/Mの入力軸との間で、伝達し得るトルクの最大値(クラッチトルクTc)を調整可能に構成されている。具体的には、クラッチC/Tは、エンジンE/Gの出力軸A1と一体回転するように設けられたフライホイール(前記「第1摩擦板」に対応)と、変速機T/Mの入力軸A2と一体回転するように設けられた摩擦クラッチ板(前記「第2摩擦板」に対応)と、を備える。以下、フライホイール及び摩擦クラッチ板を総称して「摩擦板」とも呼ぶ。
【0024】
摩擦クラッチ板は、フライホイールに対して同軸的に向き合うように、且つ、フライホイールに対する軸方向の位置が調整可能に配置・構成されている。摩擦クラッチ板の軸方向位置は、クラッチアクチュエータACT1により調整される。即ち、この車両には、クラッチペダルは備えられていない。
【0025】
以下、摩擦クラッチ板の「原位置」からの接合方向(圧着方向)への軸方向の移動量を「クラッチストローク(St)」と呼ぶ。「原位置」は、例えば、摩擦クラッチ板(摩擦板)の可動範囲内における基準となる位置、摩擦クラッチ板(摩擦板)の可動範囲におけるフライホイールから遠い側の端位置(ストッパに当接する位置)である。Stは、「摩擦クラッチ板とフライホイールとの原位置からの軸方向の相対移動量」と考えることもできる。摩擦クラッチ板が「原位置」にあるとき、Stが「0」となる。図2に示すように、Stを調整することにより、クラッチトルクTcが調整される。
【0026】
「Tc=0」の状態では、エンジンE/Gの出力軸A1と変速機T/Mの入力軸A2との間で動力が伝達されない。この状態を「分断状態」と呼ぶ。また、「Tc>0」の状態では、出力軸A1と入力軸A2との間で動力が伝達される。この状態を「接合状態」と呼ぶ。「接合状態」と「分断状態」との境界に対応するクラッチストロークをタッチ点と呼ぶ(図2を参照)。
【0027】
また、「接合状態」において、クラッチC/Tに滑りが発生していない状態(出力軸A1の回転速度Neと入力軸A2の回転速度Niとが一致している状態)を特に「完全接合状態」と呼び、クラッチC/Tに滑りが発生している状態(NeとNiとが一致していない状態)を特に「半接合状態」と呼ぶ。なお、C/Tでは、ACT1によって摩擦クラッチ板のみの軸方向位置を調整することによってクラッチストロークが調整されているが、ACT1によって摩擦クラッチ板及びフライホイールの両方の軸方向位置をそれぞれ調整することによってクラッチストロークが調整されてもよい。
【0028】
また、本装置は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサS1と、シフトレバーSFの位置を検出するシフト位置センサS2と、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するブレーキセンサS3と、出力軸A1の回転速度Neを検出する回転速度センサS4と、入力軸A2の回転速度Niを検出する回転速度センサS5と、クラッチストロークStを検出するクラッチストロークセンサS6と、車輪の回転速度を検出する車輪速度センサS7と、を備えている。
【0029】
更に、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサS1〜S7、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータACT1、ACT2を制御することで、C/TのクラッチストロークSt(従って、クラッチトルクTc)、及び、T/Mの変速段を制御する。また、ECUは、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することでE/Gの出力軸A1の駆動トルクを制御する。具体的には、アクセル開度が大きくなるに従ってE/Gの駆動トルクが大きくなるように燃料噴射量(スロットル弁の開度)が制御される。
【0030】
本装置では、シフトレバーSFの位置が「自動モード」に対応する位置にある場合、ECU内のROM(図示せず)に記憶された図3に示す変速マップに基づいて変速機T/Mの変速段が決定される。より具体的には、本装置では、車輪速度センサS7から得られる車輪速度に基づいて算出される車速と、アクセル開度センサS1から得られるアクセル開度との組み合わせが、変速マップ上におけるどの変速段の領域に対応するかにより、達成すべき1つの変速段(以下、「選択変速段」と呼ぶ。)が選択される。例えば、現在の車速がαで現在のアクセル開度がβである場合(図3に示す黒点を参照)、選択変速段として「3速」が選択される。
【0031】
図3に示す変速マップは、車速とアクセル開度との組み合わせに対して最適な変速段を適合する実験を、前記組み合わせを種々変更しながら繰り返し行うことにより取得され得る。一方、シフトレバーSFの位置が「手動モード」に対応する位置にある場合、運転者によるシフトレバーSFの操作に基づいて選択変速段が選択される。
【0032】
変速機T/Mでは、複数の変速段のうち現在の選択変速段が実現(確立)される。選択変速段が一定、且つ選択変速段が実現された状態で車両が走行する場合、通常、C/Tは完全接合状態に維持される。
【0033】
一方、選択変速段が変化したとき、変速機T/Mの変速作動(変速段が変更される際の作動)が行われる。変速作動の開始は、変速段の変更に関連して移動する部材(具体的には、スリーブ)の移動の開始に対応し、変速作動の終了は、その部材の移動の終了に対応する。変速作動が行われる際、変速作動の開始前にクラッチC/Tが接合状態(完全接合状態、Tc>0)から分断状態(Tc=0)へと変更され、クラッチが分断状態に維持された状態で変速作動が行われ、変速作動の終了後にクラッチが分断状態から接合状態(完全接合状態)へと戻される。以上、この車両は、AMTを搭載した車両である。
【0034】
(クラッチ摩耗判定の第1の例)
車両の走行距離の増大等に応じて、上述した「摩擦板」(摩擦クラッチ板及びフライホイールの両方、或いは何れか一方)の摩擦面の摩耗が不可避的に進行する。本装置では、摩擦板の軸方向の摩耗量(摩擦クラッチ板及びフライホイールの両方の摩耗量の和、或いは何れか一方のみの摩耗量、以下、「クラッチ摩耗量」と呼ぶ)が推定され、推定されたクラッチ摩耗量に基づいて「クラッチが摩耗した」との判定(クラッチ摩耗判定)がなされる。
【0035】
以下、本装置によるクラッチ摩耗判定の第1の例(クラッチ摩耗判定1)に関する処理の流れについて、図4に示すフローチャートを参照しながら説明する。図4に示すように、先ず、ステップ405では、クラッチC/Tの累積仕事量が算出される。この累積仕事量は、例えば、下記(1)式に従って算出・更新され得る。
【0036】
クラッチの累積仕事量=Σ(ΔN・Tc)・dT…(1)
【0037】
上記(1)式において、ΔNは、「E/Gの出力軸A1の回転速度Ne」と「T/Mの入力軸A2の回転速度Ni」との差である。Ne及びNiはそれぞれ、上述したセンサS4、S5の検出結果に基づいて取得され得る。Tcは、C/Tが発生するクラッチトルクである。このクラッチトルクは、例えば、クラッチトルクを直接検出するセンサ(図示せず)の検出結果に基づいて取得され得る。或いは、このクラッチトルクは、図2に示すマップに、上述したセンサS6により検出されたクラッチストロークの検出値を適用することによっても取得され得る。dTは、微小時間である。このように、クラッチの累積仕事量は、微小時間dTあたりのクラッチの仕事量「(ΔN・Tc)・dT」をdT毎に積算していくことによって算出・更新されていく。
【0038】
ステップ410では、図5に示すマップを利用して、クラッチの累積仕事量とクラッチ摩耗量とが比例関係にあるとの仮定に基づき、ステップ405で算出・更新されたクラッチの累積仕事量からクラッチ摩耗量が推定される。
【0039】
ステップ415では、ステップ410で推定されたクラッチ摩耗量が第1所定値を超えたか否かが判定され、「Yes」と判定される場合、ステップ420にて、「C/Tが摩耗した」との判定がなされる。ここで、第1所定値は、「C/Tの摩擦板を交換すべき時期」に対応する摩耗量に設定され得る。以上、クラッチ摩耗判定1では、「クラッチの累積仕事量」に基づいて推定されたクラッチ摩耗量を利用してクラッチ摩耗判定がなされる。
【0040】
(クラッチ摩耗判定の第2の例)
次に、本装置によるクラッチ摩耗判定の第2の例(クラッチ摩耗判定2)に関する処理の流れについて、図6に示すフローチャートを参照しながら説明する。図6に示すように、先ず、ステップ605では、クラッチC/Tの原位置調整機構(図示せず)が作動する。原位置調整機構とは、C/Tの「原位置」(クラッチストロークSt=0)における「摩擦クラッチ板とフライホイールとの軸方向の相対距離」を調整する機構である。
【0041】
原位置調整機構は、ユーザーの操作に基づいて手動で作動する構成を有していてもよいし、C/Tの作動状態に応じて(ユーザーの操作なしで)自動で作動する構成を有していてもよい。原位置調整機構の毎回の作動は、「原位置」における「摩擦クラッチ板とフライホイールとの軸方向の相対距離」が最適な距離に一致するようになされる。
【0042】
ステップ610では、現在(即ち、今回の原位置調整機構の作動完了後)におけるタッチ点(図2を参照)が検出される。例えば、車両停止中、且つ、E/Gがアイドリング状態にあり、且つ、T/Mがニュートラルの状態にある場合(即ち、E/Gの出力軸A1が回転中、且つ、T/Mの入力軸A2が回転停止中)において、クラッチストロークを「0」から徐々に増大していき、T/Mの入力軸A2が回転開始する時点に対応するクラッチストロークが、タッチ点として検出され得る。
【0043】
ステップ615では、タッチ点移動量が算出される。タッチ点移動量とは、今回の原位置調整機構の作動開始前と作動完了後の間のタッチ点のずれ量を指す。即ち、ステップ615では、原位置調整機構が作動する毎に、その作動の前後におけるタッチ点移動量が算出される。
【0044】
ステップ620では、その時点までに積算されてきた「タッチ点移動量積算値」に、ステップ615にて算出された今回のタッチ点移動量が積算されることによって、「タッチ点移動量積算値」が更新される。
【0045】
ステップ625では、「原位置調整機構の作動量積算値」が、ステップ620にて更新された「タッチ点移動量積算値」と等しい値に更新される。この処理は、「原位置調整機構の今回の作動量(今回の上記相対距離の変化量)が今回のタッチ点移動量と等しい」との仮定に基づく。
【0046】
ステップ630では、図7に示すマップを利用して、「原位置調整機構の作動量積算値」とクラッチ摩耗量とが比例関係にあるとの仮定に基づき、ステップ625で算出・更新された「原位置調整機構の作動量積算値」からクラッチ摩耗量が推定される。
【0047】
ステップ635では、ステップ630で推定されたクラッチ摩耗量が第1所定値を超えたか否かが判定され、「Yes」と判定される場合、ステップ640にて、「C/Tが摩耗した」との判定がなされる。ここで、第1所定値は、上述のステップ415で使用した値と同じ値である。以上、クラッチ摩耗判定2では、「原位置調整機構の作動量積算値」(即ち、タッチ点移動量積算値)に基づいて推定されたクラッチ摩耗量を利用してクラッチ摩耗判定がなされる。
【0048】
(クラッチ摩耗警告)
次に、本装置によるクラッチ摩耗警告に関する処理の流れについて、図8に示すフローチャートを参照しながら説明する。図8に示すように、先ず、ステップ805では、「クラッチが摩耗した」との判定がなされたか否か(即ち、図4のステップ420又は図6のステップ640が実行されたか否か)が判定され、「Yes」と判定される場合、ステップ810にて、車両のダッシュボード、メータパネル等に設けられた警報部(図1を参照)を利用して車両のユーザー(運転者)に警告がなされる。この警告は、例えば、ブザー音、ランプの点灯等によって達成される。この警告によって、車両のユーザーは、クラッチC/Tの摩擦板の適切な交換時期を容易に知ることができる。
【0049】
「クラッチが摩耗した」との判定がなされている場合(即ち、クラッチ摩耗量>第1所定値の場合)、ステップ815にて、ステップ410又はステップ630で推定されたクラッチ摩耗量が第2所定値(>第1所定値)を超えたか否かが判定され、「Yes」と判定される場合、ステップ820にて、E/Gのトルクが制限される。具体的には、E/Gが発生するトルクの最大値(上限値)がより小さい値に制限される。この処理によって、大きなアクセル開度に応じた大きなE/Gのトルクが発生し得なくなる。この結果、C/Tの摩耗の促進が抑制され得るとともに、ユーザーにクラッチC/Tの摩擦板の交換を促すことができる。
【0050】
クラッチ摩耗量>第2所定値の場合、ステップ825にて、ステップ410又はステップ630で推定されたクラッチ摩耗量が第3所定値(>第2所定値)を超えたか否かが判定され、「Yes」と判定される場合、ステップ830にて、T/Mの変速段の選択が制限される。具体的には、T/Mが有する複数の変速段のうち「減速比」が小さい高速側の変速段(例えば、5速のみ、或いは、4速及び5速)の選択が禁止される。この処理によって、ユーザーにクラッチC/Tの摩擦板の交換を更に促すことができる。
【0051】
クラッチ摩耗量>第3所定値の場合、ステップ835にて、ステップ410又はステップ630で推定されたクラッチ摩耗量が第4所定値(>第3所定値)を超えたか否かが判定され、「Yes」と判定される場合、ステップ840にて、車両を停止させる処理がなされる。具体的には、E/Gの燃料噴射を停止する処理、T/Mをニュートラル状態に維持する処理などのように、E/Gの出力がT/Mの出力軸A3に伝達され得なくするための処理が実行される。この処理によって、車両がなおも走行を継続することに起因してC/Tの摩擦板の摩耗が過度に進行することを抑制することができる。
【0052】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、1本の入力軸を備えた変速機と、その1本の入力軸に接続された1つのクラッチと、を含む動力伝達制御装置が適用されているが、2本の入力軸を備えた変速機と、それら2本の入力軸のそれぞれと接続された2つのクラッチと、を含む動力伝達制御装置が適用されてもよい。この装置は、ダブル・クラッチ・トランスミッション(DCT)とも呼ばれる。
【符号の説明】
【0053】
T/M…変速機、E/G…エンジン、C/T…クラッチ、A1…エンジンの出力軸、A2…変速機の入力軸、A3…変速機の出力軸、ACT1…クラッチアクチュエータ、ACT2…変速アクチュエータ、ECU…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と、前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の割合である減速比が異なる予め定められた複数の変速段を有する有段変速機と、
前記内燃機関の出力軸と前記有段変速機の入力軸との間に介装され、且つ前記内燃機関の出力軸と一体回転する第1摩擦板及び前記有段変速機の入力軸と一体回転する第2摩擦板からなる摩擦板を備えたクラッチであって、前記第1、第2摩擦板の原位置からの軸方向の相対移動量であるクラッチストロークを調整することによって、前記摩擦板が伝達し得るトルクの最大値であるクラッチトルクを調整可能なクラッチと、
前記車両の走行状態に基づいて、前記クラッチのクラッチストローク、及び前記有段変速機の変速段を制御する制御手段と、
を備えた車両の動力伝達制御装置であって、
前記クラッチの前記摩擦板の軸方向の摩耗量を推定する推定手段と、
前記推定された摩擦板の摩耗量が第1所定値を超えたとの判定に基づいて、前記クラッチが摩耗したと判定する判定手段と、
を備えた車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記推定手段は、
前記内燃機関の出力軸と前記有段変速機の入力軸との回転速度差と、前記クラッチのクラッチトルクとを乗じて得られる値を積算していくことによって前記クラッチの累積仕事量を算出し、前記クラッチの累積仕事量に基づいて前記摩擦板の摩耗量を推定するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記クラッチは、
前記原位置における前記第1、第2摩擦板の軸方向の相対距離を調整する原位置調整機構を備え、
前記推定手段は、
前記クラッチのクラッチストロークを調整して、前記クラッチトルクがゼロより大きい接合状態と前記クラッチトルクがゼロとなる分断状態との境界に対応するクラッチストロークをタッチ点として取得する取得手段を備え、
前記原位置調整機構が作動する毎にその作動の前後における前記タッチ点の移動量を算出し、
前記タッチ点の移動量の積算値に基づいて前記摩擦板の摩耗量を推定するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記判定手段は、
前記クラッチが摩耗したと判定したことに基づいて、前記車両のユーザーに警報を行うように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記判定手段は、
前記推定された摩擦板の摩耗量が前記第1所定値より大きい第2所定値を超えたとの判定に基づいて、前記内燃機関が発生するトルクの最大値を制限するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記判定手段は、
前記推定された摩擦板の摩耗量が前記第2所定値より大きい第3所定値を超えたとの判定に基づいて、前記有段変速機の複数の変速段のうち前記減速比が小さい高速側の変速段の選択を制限するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記判定手段は、
前記推定された摩擦板の摩耗量が前記第3所定値より大きい第4所定値を超えたとの判定に基づいて、前記内燃機関の出力が前記有段変速機の出力軸に伝達され得なくするための処理を施すように構成された車両の動力伝達制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−47537(P2013−47537A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185856(P2011−185856)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】