説明

車両の変速制御装置

【課題】アシスト駆動源(モータ)を備える自動変速制御装置において、変速時間を可能な限り短くし、節度感のある変速をおこなう自動変速装置を提供する。
【解決手段】内燃機関と、車両の状態に応じて変速可能な有段変速機と、前記内燃機関と前記変速機の間に配置され駆動力を伝達・遮断するクラッチと、前記クラッチを係合・切断するクラッチ制御手段と、前記内燃機関または前記変速機の出力軸上に配設され、アシスト駆動力を発生するモータと、前記モータの目標アシスト駆動力を算出する目標アシスト駆動力算出手段と、前記クラッチによる駆動力の伝達・遮断に応じて、前記モータに前記目標アシスト駆動力を発生させるアシスト駆動力制御手段と、を備える車両の変速制御装置であって、前記アシスト駆動力制御手段は、変速時のクラッチの切断による駆動力の遮断時に、前記モータに目標アシスト駆動力までステップ状に立ち上がるアシスト駆動力を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関とともに、モータジェネレータ(バッテリーに蓄えられた電力から駆動力を発生し、駆動力から電力を回生する)を備えた車両に関し、特に自動化されたクラッチ装置と自動化された変速機構を備えた車両の変速制御装置に関連する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関(エンジン)を動力源とする車両において、制御信号により変速可能な有段歯車変速機と制御信号により係合・切断動作する機械的なクラッチ装置を組み合わせることにより車両の状態に応じて、クラッチが係合・切断されるとともに有段歯車変速機のギヤ段が変更されるといった一連の変速動作が行われるAMT(オートメイテッドトランスミッション)と呼ばれる自動変速制御装置が知られていた。
【0003】
かかる自動変速制御装置では、変速時のクラッチが切断されている間、エンジンからのトルクが車輪に伝達されていないため、ドライバーが加速を要求している場合でも車両の加速度が0になり、加速感喪失の問題があった。また、変速動作の後期のクラッチ係合動作時に、エンジンの吹き上がり等によるエンジンの回転数と変速機の入力軸回転数の差に起因して過大な変速ショックが発生するといった問題があった。
【0004】
このような問題を解決するために、特開平11−69509号公報では、内燃機関と電動機を駆動源として備えるハイブリッド車両に、有段歯車変速機式の自動変速機を適用し、クラッチの切断時に補助としての電動機の駆動トルクを増大させることで加速感の喪失(減速感の発生)を回避している。また、電動機の発生する駆動トルクは、アクセルペダルのアクセル開度量、アクセル開度変化量と、エンジン回転数から予測された変速後のエンジントルクから算出される。予測されたエンジントルクに基づいて電動機の駆動トルクが発生するため、運転者のアクセルペダル操作に応じた変速及び車両の加速を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−69509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される変速制御装置は、変速時の電動機の駆動トルクは、検出されるクラッチ装置のクラッチのミートポイント、若しくはあらかじめ設定されたミートポイントに基づいて、発生または増大されている。すなわち、半クラッチ状態を検出、若しくは推定して半クラッチ状態を利用することでエンジンから変速機への駆動力の急な遮断を回避し、一方で電動機のアシスト駆動力を発生、増大することで、変速ショックを低減しているものと理解される。かかる自動変速装置では、変速時にクラッチが所定時間半クラッチ状態になった後、クラッチが完全切断され、変速段が変更され、再びクラッチが係合される。このような変速動作は、加速を要求している運転者には、実際の変速時間以上に長く感じられ、加速感の喪失につながってしまう。
【0007】
そこで、本発明は上記した問題を解決するためになされたものであり、変速動作において、変速ショックが少なく、かつ俊敏な変速を実現する有段変速式の変速制御装置を提供することを技術的課題とする
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題を解決するために請求項1において講じた技術的手段は、内燃機関と、車両の状態に応じて変速可能な有段変速機と、前記内燃機関と前記変速機の間に配置され駆動力を伝達・遮断するクラッチと、前記クラッチを係合・切断するクラッチ制御手段と、前記内燃機関または前記変速機の出力軸上に配設され、アシスト駆動力を発生するモータと、前記モータの目標アシスト駆動力を算出する目標アシスト駆動力算出手段と、前記クラッチによる駆動力の伝達・遮断に応じて、前記モータに前記目標アシスト駆動力を発生させるアシスト駆動力制御手段と、を備える車両の変速制御装置であって、前記アシスト駆動力制御手段は、変速時のクラッチの切断による駆動力の遮断時に、前記モータに目標アシスト駆動力までステップ状に直接立ち上がるアシスト駆動力を発生させる車両の変速制御装置とした。
【0009】
上記の問題を解決するために請求項1加えて請求項2において講じた技術的手段は、前記アシスト駆動力制御手段は、前記変速機の変速時の前記クラッチ係合時に、前記目標アシスト駆動力に補償トルクを加えた駆動力を前記モータに発生させる車両の変速制御装置とした。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、有段変速機式の自動変速装置において、変速時にクラッチ切断による内燃機関から変速機への駆動力の急な減少に応じて、モータがステップ関数状のアシスト駆動力を変速機の出力軸に発生する。従って、クラッチの切断動作時にトルク抜けによる変速ショックを緩和するために半クラッチ状態を必要とせず、俊敏でスポーティな変速動作および変速感を達成する車両の自動変速装置を提供できる。
【0011】
請求項2の発明によれば、変速時のクラッチ係合動作時に、クラッチの係合負荷による内燃機関の回転数低下に対するトルク低下を見込んでモータに駆動力を発生させることで、クラッチの係合動作時に必要な、変速ショックを緩和するための半クラッチ動作を短時間し、迅速なクラッチ係合できるようになり、さらに俊敏な変速動作をする車両の自動変速装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係わる自動変速装置の全体をしめすシステム図である。
【図2】本発明に係わる主要部の機械的構成を示す図である。
【図3】本発明に係わる変速制御のクラッチ切断のフローチャートである。
【図4】本発明に係わる変速制御のクラッチ係合のフローチャートである。
【図5】本発明に係わる変速制御の各変化量のタイムチャートである。
【図6】本発明に関わる変速制御装置を用いた車両の時間と車速の関係を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について説明する。図1、図2に示されたように本実施の形態に係る車両1は、内燃機関10としてエンジン10と、有段変速機20としてギヤ噛み合い式変速機20と、エンジン10と変速機20の間に配置されるクラッチ21と、クラッチ制御手段22として、AMT−ECU25からの信号によりクラッチ21を係合・切断するクラッチアクチュエータ22と、変速機20の出力軸20aにギヤ嵌合するように設けられたディファレンシャルギヤ20bのリングギヤ20cにギヤ嵌合するモータジェネレータ30とを備える。エンジン10は、エンジン−ECU15からの信号に従いスロットル開度、燃焼、回転数等が制御され、出力が決定される。変速機20には、ギヤ段制御手段23として、AMT−ECU25からの信号に基づいてギヤ段のシフトを行うシフトアクチュエータ23が備えられており、車両の状態に基づいて、変速機20のギヤ段が自動的に確立・変更される。クラッチ21、クラッチ制御手段22、変速機20およびギヤ段制御手段23とこれらに制御信号を送信するAMT−ECU25により、自動化されたマニュアルトランスミッションであるAMT(オートメイテッド・マニュアル・トランスミッション)システム26が構成される。つまり、本実施の形態においては、周知のAMTシステム26にジェネレータモータ(M/G)30を付加する形で、車両の駆動システム2が構成される。本実施の形態ではM/G30として高応答、高トルクを特徴とするIPMモータ30とした。エンジン−ECU15、AMT−ECU25、M/G−ECU35は、エンジン回転数、スロットル開度、車速、ギヤ段、アクセル開度、M/G回転数、バッテリー充電量等の情報を基に、相互に制御信号を交信して、車両1の走行状態、エネルギ消費率を最適に統合制御する。
【0014】
次に、車両1の状態による動力の伝達について説明する。まず、車両1の停止からの発進時には、滑らかな発進をするために、M/G−ECU35からの制御信号により、M/G30のみがバッテリーの給電をうけ、駆動力(トルク)を発生する。トルクは、変速機20の出力軸20aにギヤ嵌合したディファレンシャルギヤ20bのリングギヤ20cに入力され、トランスアクスル3を介してのタイヤ4に伝達される。
【0015】
所定の速度まで車速が上昇すると、エンジン10が始動しトルクを発生すると同時に、M/G30が停止し、エンジン単独の走行に移行する。また、運転者がアクセルペダルを大きく踏み込み急加速の意思を示したときには、M/G30とエンジン10がトルクを発生することで車両は加速する。
【0016】
車両1が減速状態にあるときには、車両1の運動エネルギを回生するために、タイヤ4の回転をM/G30に入力させて、M/G30により発電し、バッテリー(図示なし)に充電する。
【0017】
以上のように構成された車両1の自動変速装置において、高速段への変速時の変速フローについて説明する。図3は、変速開始からクラッチ切断までの変速プログラムのフローチャートを示している。ステップ100では、AMT−ECU25があらかじめ設定されたギヤ段スケジュールのマップに基づき、現在の変速機20のギヤ段の変更が必要か否かを判断する。現在のギヤ段とマップのギヤ段が一致している場合(No)には、プログラムを終了し、一致していない場合(Yes)には、ステップ200に進む。ステップ200では、目標アシスト駆動力算出手段35であるM/G−ECU35が、運転者の操作によるアクセルペダル開度、エンジンのスロットル開度、エンジン回転数、車速等から現在のエンジン10のトルクを算出し、変速ショック生じさせないように、つまり、現在の加速を維持するようにM/G30が発生すべき目標アシストトルク(目標アシスト駆動力)を演算し、決定する。ステップ300では、目標アシスト駆動力制御手段35であるM/G−ECU35がM/G30に目標アシストトルクを発生するように駆動制御する。このとき、アシストトルクが駆動開始(ゼロ)から目標アシストトルクの最大値到達までできる限り短時間で到達するように、M/G30のコイルに印加される電流値はデューティ制御され、コイルに流れる電流制御波形は正弦波・矩形波が適宜選択される。ステップ400では、AMT−ECU25がM/G発生トルクに応じて、クラッチアクチュエータ22に信号を送信し、クラッチ21の切断を開始し迅速にクラッチ21を完全切断する。
【0018】
図4は、変速機20の高速段へ変速時のクラッチ21の切断状態から係合完了までの変速プログラムのフローチャートを示している。AMT−ECU25からの変速信号に基づいて、シフトアクチュエータ23が変速機のギヤ段を変更し高速ギヤ段が確立した後、ステップ110に移行する。ステップ110では、AMT−ECU25は、現在のエンジン回転数が規定値よりも大きいかどうかを判断する。たとえば、車速が一定の条件の下、高速段への変速が行われた場合は、変速機20のギヤ比が変更されるため変速機20のインプットシャフトの回転数は、変速前よりも小さくなる必要があり、これに一致してエンジン回転数が小さくなる必要がある。これは、エンジン回転数と変速機のインプットシャフト回転数との差が大きいままクラッチを係合してしまうと、エンジン10がタイヤ4の回転に対して抵抗負荷となり、過大な変速ショックを生じるからである。
【0019】
つまりAMT−ECU25は、アクセル開度、車速、変速機のギヤ比変化等から演算される変速後のエンジン回転数に対して決定される規定値よりも現在のエンジン回転数が大きいかどうかを判断し、小さい場合(No)にはクラッチ21の係合を開始し、大きい場合(Yes)にはステップ120に進む。ステップ120では、エンジン回転数が高いため、エンジン−ECU15がスロットル(図示なし)を閉制御してエンジンの回転数を下げる処理をする。ステップ120の後、再びステップ110へ戻り、現在のエンジン回転数の判定をする。ステップ110とステップ120のループは、エンジン回転数が規定値よりも小さくなるまで行われる。ステップ130、140では、M/G−ECU35がM/G30の発生するアシストトルクを暫時減少させるとともに、AMT−ECU25がクラッチアクチュエータ22を制御することにより、クラッチ21を完全係合させる。
【0020】
次に、上記の高速段側への変速プログラムをタイムチャートを使用して詳述する。まず、比較例として、従来の変速制御(半クラッチを利用して変速ショックを低減)について説明する。図5(b)は、1速から2速への変速を示すタイムチャートで横軸は時間を示しており、各線は図中上からそれぞれ、エンジン回転数n_eg、変速機のインプット軸回転数n_in、変速機の出力軸に設けられたディファレンシャルギヤ20bからトランスアクスル3への出力t_out、M/G−ECU35からの信号により発生するM/G30の出力するM/G発生トルクt_m、クラッチアクチュエータ22のストロークに対応するクラッチストロークst_clである。変速は、時刻t1から開始され時刻t4で完了する。なお、この図5(b)は、運転者が加速の意思を示しており、アクセルペダルが変速中一定に踏まれていた場合のタイムチャートである。変速において、時刻t1からt2までは、クラッチアクチュエータ22によりクラッチ21の切断動作が行われ、時刻t2からt3まではクラッチ21の完全切断中であり、シフトアクチュエータ23により変速機のギヤ段の変更が行われ、時刻t3からt4まではクラッチアクチュエータ22によりクラッチ21の係合が行われる。M/G30は、変速が開始されクラッチ21が切断側に動き始めた時点t1からアシストトルクt_asiを発生しはじめ、変速機10のギヤ段変更中(時刻t2からt3)は、最大値(変速中)を維持し、その後クラッチ21の係合動作(時刻t3からt4の中間)で、発生を終了する。この間にM/G30により発生したアシストトルクは、変速機10のディファレンシャルギヤ20bのリングギヤ20cを介して、トランスアクスル3に伝達され、図5(b)中に示されるように、トランスアクスル4のアウトプットトルクt_outは、変速完了後のギヤ比に対して定まるアウトプットトルクt_outに略一定に保たれる(図5中斜線部のアシストトルクt_asi)。
【0021】
以上のようにM/G発生トルクt_mがクラッチ切断時のトルク遮断をアシストするように制御された変速制御装置において、クラッチ係合中のクラッチストローク制御、M/Gの制御を詳述する。クラッチ21は、AMT−ECU22からの制御信号によりクラッチアクチュエータ21が、プレッシャプレート(図示なし)をクラッチディスク(図示なし)に押圧して係合させることでトルクを伝達し、プレッシャプレートをクラッチディスクから離間させて、切断しトルク伝達を遮断するように構成されている。時刻t1からt2では、クラッチアクチュエータ22はクラッチ21を切断させるように動作し、時刻t1からt5まではすばやくクラッチ21を切断する。時刻t5からt6は、クラッチ21は半係合状態いわゆる半クラッチ状態にあり、エンジン10から変速機20のインプットシャフトに入力されるトルクは減少し、インプット回転数n_inおよびアウトプットトルクt_outが減少し車両の加速が減少する。これは、急にクラッチを切断してしまうと伝達されるトルクがゼロになり、運転者の意思とは関係なく車両の加速がゼロになって、運転者が車両に対して引き込み感を強く感じてしまうからである。半クラッチで伝達トルクを減少させ、徐々に車両の加速減少させ、クラッチを完全切断し、引き込み感を回避している。一方で、半クラッチ状態(時刻t4からt5)でトルク伝達量を完全に制御することはクラッチディスクの経年変化、摩耗等から困難であるため、M/G30がクラッチ21の切断と同期してトルクを発生開始(時刻t1)する。このトルクは、クラッチ切断による伝達トルクの減少に対して、アウトプットトルクt_outの減少を緩やかに変化させるアシストトルクt_asiである。これらの、半クラッチ状態(時刻t4からt5)とM/G30の発生するアシストトルクt_asiの作用により、アウトプットトルクt_out及びインプット回転数n_inは緩やかに減少し、変速ショックを最小限に抑えられる。時刻t5では、車両の加速の減少が十分におこなわれた状態であり、クラッチアクチュエータ22はクラッチ21を迅速に切断させ、完全切断状態になり、それに起因するトルク不足を補う形で、M/G−ECU35の信号に基づきM/G30がトルクの発生を増加させる。
【0022】
時刻t2からt3は、クラッチ21は完全切断状態であり、シフトアクチュエータ23により変速機20のギヤ段(速度段)が変更される。この間は、エンジン10は無負荷で吹き上がりが生じてしまうため、エンジン−ECU15がエンジン10のスロットルを閉制御して、エンジン回転数を強制的に減少させる。また、M/G30はアウトプットトルクt_outを一定に維持するために、高出力で一定にアシストトルクt_asiを発生するようにM/G−ECU35に制御される。
【0023】
ギヤ段の変更完了後、時刻t3からクラッチ21の係合が開始される。クラッチ係合動作(時刻t3からt4)も切断動作時(時刻t1からt2)と同様にアウトプットトルクt_outの急激な変化を抑制するために半クラッチ状態が利用される。半クラッチ状態で、徐々にM/G30の発生するアシストトルクt_asiが徐々に1次関数的に減少され、M/G発生トルクt_mがゼロになる。エンジン回転数n_egとインプット回転数n_inが同一になった時点でクラッチアクチュエータ22がクラッチ21を半クラッチ状態から完全係合させ、変速ショックを可及的に回避する方式で変速が完了する。
【0024】
しかしながら、上記の従来の変速制御(半クラッチを利用して変速ショックを低減)では、特に運転者が急加速を要求している場合やスポーティな走行を要求している場合には、半クラッチによる車両の加速の減少が変速時間を延ばし運転者の要求を阻害してしまっていた。そこで、本発明の制御では、M/G30のアシストトルクを積極的に利用することで半クラッチを可及的に使わずに、急なアウトプットトルクの変化を抑制して、スポーティな変速感を実現するものであり、詳細を以下に説明する。
【0025】
図5(a)は、本発明による変速時の各変化量のタイムチャートを示しており、図中上より、エンジン回転数N_eg、変速機のインプット軸回転数N_in、変速機10の出力軸20bに設けられたディファレンシャルギヤ20bからトランスアクスル3への出力T_out、M/G−ECU35からの信号により発生するM/G30の出力するM/G発生トルクT_m、クラッチアクチュエータ22のストロークに対応するクラッチストロークST_clである。時刻T1からT2でクラッチ21が切断され、時刻T2からT3のクラッチ完全切断時に変速機20のギヤ段変更が行われ、時刻T3からT4でクラッチが係合し、変速が完了する。なお、時刻T2からT3の制御は、従来の時刻t2からt3までの制御と同じであり、比較をするために図面5(a)のT2と(b)のt2を一致させて表示している。
【0026】
まず、時刻T1からT2のクラッチ切断時のクラッチ制御、M/G制御について説明する。M/G−ECU35はAMT−ECU25からの変速要求信号により、変速時にM/G30が発生すべき最大の目標アシストトルク(目標アシスト駆動力)を、アクセルペダル開度、車速、現在の変速機のギヤ段等に基づいて算出する。この後、時刻T1にてM/G−ECU35は、目標アシストトルクまでステップ状に立ち上がるM/G発生トルクT_mを発生するように、M/G30を制御する。このときの具体的な制御方法としては、M/G30の各コイルに通電する電流波形をサイン波から一時的に矩形波に切換えて、トルク効率を向上する方法などが挙げられる。これと同時に、AMT−ECU25は、M/G30の発生すべきアシストトルクT_asiを算出して、アウトプットトルクT_outの変化率が所定値内に収まる範囲で、クラッチアクチュエータ22を制御して、クラッチ21をできる限り迅速に切断する。このようにして、本発明は変速時のクラッチ切断時間を、変速ショックを回避し、アウトプットトルクT_outを最適に変化させつつ、可及的に短時間化している。
【0027】
時刻T2からT3までの制御は、従来の制御と同様であるので説明を省略する。
【0028】
時刻T3からT4では、AMT−ECU25によりクラッチ21の係合制御が実行され、半クラッチ状態を利用する方式でクラッチ21が係合される。しかしながら、このクラッチの係合は、従来の制御方法に比べて短時間で行われるため、M/G30の発生するM/G発生トルクT_mは、従来の制御方法と比べて異なる。この制御について説明する。従来のクラッチ係合よりも早いクラッチ係合を行うと、エンジンは、無負荷で運転している状態から、負荷が入力されるため、エンジン10の回転は減少しトルクが減少する。結果として、M/G30がアシストトルクを発生しているにもかかわらず、エンジントルクが過剰に減少することでアウトプットトルクT_outが落ち込み、過大な変速ショックが生じてしまうのである。本実施の形態では、従来の制御方法に対して、図5(a)のように、三角状のエンジン10のトルクダウン補償トルクT_comを余分に発生させることで、早いクラッチ係合においても、最小限の変速ショックで変速を可能としている。
【0029】
図6は、車速がゼロの状態から、アクセルペダルを一定に踏み込んで、車両を加速していった場合の時間と車速の関係を示しており、車速が所定値を越える度に上記の変速が実行され高速段へギヤ段が変更される。線aは本発明の変速制御装置による関係を示したもので、線bは従来の変速制御装置の関係を示したものである。図6中の水平の線は、変速を表しており、水平の線が長いほど変速時間に時間を要し、車速が上昇するのに時間を要することがわかる。
【0030】
本発明によれば、モータによるアシスト駆動源付き自動変速機の変速制御において、半クラッチを用いて変速ショックを抑制している従来の方法と比較して、変速ショックを大きくすることなく、クラッチの切断と係合を早めることで、従来の制御方法ではそれぞれ約300msec必要とされていた切断時間(t1からt2:図5(b)中)と係合時間(t3からt4:図5(b)中)を約半分ずつにすることができ、変速時間t(約900msec(図5(b)中))を変速時間T(約600msec(図5(a)中))にでき、節度感のあるスポーティな変速感を実現する車両の自動変速機を提供することができる。
【0031】
本実施の形態においては、クラッチの切断によるトルク遮断時の補助駆動源として、トルクを発生しかつ発電もできるモータジェネレータ(M/G)で自動変速装置を構成したが、トルク発生のみできるモータで構成してもよい。
【0032】
また、本発明の実施形態では、クラッチとギヤ段を変速機を制御するECUとM/Gを制御するECUを別々に構成したが、これらを駆動制御ECUとして一体に構成してもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 ・・・車両
10・・・エンジン
15・・・エンジン−ECU
20・・・変速機(ギヤ噛み合い式変速機)
21・・・クラッチ
22・・・クラッチアクチュエータ
23・・・シフトアクチュエータ
25・・・AMT−ECU
30・・・モータジェネレータ(M/G)
35・・・M/G−ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
車両の状態に応じて変速可能な有段変速機と、
前記内燃機関と前記変速機の間に配置され駆動力を伝達・遮断するクラッチと、
前記クラッチを係合・切断するクラッチ制御手段と、
前記内燃機関または前記変速機の出力軸上に配設され、アシスト駆動力を発生するモータと、
前記モータの目標アシスト駆動力を算出する目標アシスト駆動力算出手段と、
前記クラッチによる駆動力の伝達・遮断に応じて、前記モータに前記目標アシスト駆動力を発生させるアシスト駆動力制御手段と、を備える車両の変速制御装置であって、
前記アシスト駆動力制御手段は、変速時のクラッチの切断による駆動力の遮断時に、前記モータに目標アシスト駆動力までステップ状に直接立ち上がるアシスト駆動力を発生させることを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項2】
前記アシスト駆動力制御手段は、前記変速機の変速時の前記クラッチ係合時に、前記目標アシスト駆動力に補償駆動力を加えた駆動力を前記モータに発生させることを特徴とする請求項1に記載の車両の変速制御装置。
【請求項3】
内燃機関と、
車両の状態に応じて変速可能な有段変速機と、
前記内燃機関と前記変速機の間に配置され駆動力を伝達・遮断するクラッチと、
前記クラッチを係合・切断するクラッチ制御手段と、
前記内燃機関または前記変速機の出力軸上に配設され、アシスト駆動力を発生するモータと、
前記有段変速機のギヤ段の変更が必要なときの前記内燃機関のトルクに基づき、前記モータの目標アシスト駆動力を算出する目標アシスト駆動力算出手段と、
前記クラッチによる駆動力の伝達・遮断に応じて、前記モータに前記目標アシスト駆動力を発生させるアシスト駆動力制御手段と、を備える車両の変速制御装置であって、
前記アシスト駆動力制御手段は、変速時のクラッチの切断による駆動力の遮断時に、前記モータに目標アシスト駆動力までステップ状に直接立ち上がるアシスト駆動力を発生させることを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項4】
内燃機関と、
車両の状態に応じて変速可能な有段変速機と、
前記内燃機関と前記変速機の間に配置され駆動力を伝達・遮断するクラッチと、
前記クラッチを係合・切断するクラッチ制御手段と、
前記内燃機関または前記変速機の出力軸上に配設され、アシスト駆動力を発生するモータと、
前記モータの目標アシスト駆動力を算出する目標アシスト駆動力算出手段と、
前記クラッチによる駆動力の伝達・遮断に応じて、前記モータに前記目標アシスト駆動力を発生させるアシスト駆動力制御手段と、を備える車両の変速制御装置であって、
前記アシスト駆動力制御手段は、変速時のクラッチの切断による駆動力の遮断時に、前記モータに、前記クラッチの完全切断状態における目標アシスト駆動力まで段差なく上昇するアシスト駆動力を発生させることを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項5】
前記モータは前記出力軸上に配設されたタイヤにトルクを伝達するとともに、前記タイヤの回転を前記モータに入力して発電可能なことを特徴とする請求項1から請求項4にいずれか一に記載の車両の変速制御装置。
【請求項6】
前記アシスト駆動力制御手段は、前記変速機の変速時の前記クラッチ係合時に、前記内燃機関のトルクの減少を補償する補償駆動力を考慮したアシスト駆動力を前記モータに発生させることを特徴とする請求項1から請求項5にいずれか一に記載の車両の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−274718(P2009−274718A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123748(P2009−123748)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【分割の表示】特願2003−429589(P2003−429589)の分割
【原出願日】平成15年12月25日(2003.12.25)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】