説明

車両の車体前下部構造

【課題】車体の前端部に設けられたエネルギー吸収体が、前突時に、その衝撃力により所望状態に塑性変形するようにして、衝突エネルギーが効果的に吸収されるようにする。
【解決手段】車両の車体前下部構造は、閉断面構造とされて左右サイドメンバ7,7に支持される前クロスメンバ9と、前クロスメンバ9の後方で左右サイドメンバ7,7に支持される後クロスメンバ11と、前クロスメンバ9に取り付けられ、前突時の衝撃力Fに基づく衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収体37と、前端部が前クロスメンバ9の後部の上、下面のうち、いずれか一方の面に結合され、後端部が後クロスメンバ11に結合されるクレードル42とを備える。前クロスメンバ9へのクレードル42の前端部の結合部45近傍で、前クロスメンバ9を構成する上、下部板15,16のうち、いずれか一方の板を他方の板に向けて膨出させ、その膨出部46を他方の板に結合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前突時の衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収体を車体の前端部に設けた車両の車体前下部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の車体前下部構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車両の車体前下部構造は、車体の幅方向に延びてこの車体の前端部を構成し、かつ、その長手方向の各部が閉断面構造とされる前クロスメンバと、この前クロスメンバに取り付けられ、前突(前進走行中の衝突)時の衝撃力を受けて、この衝撃力に基づく衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収体とを備えている。
【0003】
また、従来、上記車両の車体前下部構造について、より具体的構成のものとして、図5に示すものがある。これにつき説明すると、車両51の車体52の前下部構造は、この車体52の前後方向に延びる左右一対のサイドメンバ53,53と、車体52の幅方向に延び、その長手方向の各部が閉断面構造とされて上記左右サイドメンバ53,53の前端部側にそれぞれ支持される前クロスメンバ54と、この前クロスメンバ54の後方で上記左右サイドメンバ53,53にそれぞれ支持される後クロスメンバ55と、上記前クロスメンバ54に取り付けられ、前突時の衝撃力Fを受けて塑性変形することによりこの衝撃力Fに基づく衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収体56と、前後方向に延び、その前端部が上記前クロスメンバ54の後部下面に結合され、後端部が上記後クロスメンバ55に結合されるクレードル57とを備えている。
【0004】
車両51の前突時には、その衝撃力Fにより上記エネルギー吸収体56は塑性変形して(図5中一点鎖線)、この衝撃力Fに基づく衝突エネルギーが吸収される。この際、上記前クロスメンバ54は、上記のように衝撃力Fを受けるエネルギー吸収体56をその後側から支持し、上記後クロスメンバ55に支持されたクレードル57は、上記衝撃力Fにより上記前クロスメンバ54が過大に後方移動することを阻止するようこの前クロスメンバ54をその後側から支持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−94265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図5で示した従来の技術では、前クロスメンバ54は、その下面にクレードル57の前端部が結合されることにより、このクレードル57に支持されている。このため、上記前クロスメンバ54を構成する上、下部板58,59のうち、この前クロスメンバ54の下面を形成する下部板59の方が上部板58よりも上記クレードル57によってより強固に補強されがちとなる。
【0007】
従って、前突時に、その衝撃力Fが上記エネルギー吸収体56を介し上記前クロスメンバ54の上、下部板58,59に与えられるとき、下部板59に比べ、上部板58が後方に向けてより大きく塑性変形しがちとなる(図5中一点鎖線)。このため、上記前クロスメンバ54の上、下部板58,59は上記衝撃力Fによって互いに不均衡な意図していない状態に変形するおそれがあり、また、これに影響されて、この前クロスメンバ54に支持されている上記エネルギー吸収体56も意図していない状態に変形しがちとなって、このエネルギー吸収体56を所望状態に変形させることは困難となる。
【0008】
この結果、上記エネルギー吸収体56によれば、上記衝撃力Fに基づく衝突エネルギーを効果的に吸収させることが困難になるおそれがあると共に、前突時の衝突物が歩行者である場合において、車両51の下側への歩行者の巻き込みの防止の向上が不十分になるおそれもある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車体の前端部に設けられたエネルギー吸収体が、前突時に、その衝撃力により所望状態に塑性変形するようにして、このエネルギー吸収体により衝撃力に基づく衝突エネルギーが効果的に吸収されるようにすると共に、前突時の衝突物が歩行者である場合において、車両の下側への歩行者の巻き込みがより確実に防止されるようにすることである。
【0010】
請求項1の発明は、車体2の幅方向に延び、その長手方向の各部が閉断面構造とされて車体2の左右サイドメンバ7,7の前端部側にそれぞれ支持される前クロスメンバ9と、この前クロスメンバ9の後方で上記左右サイドメンバ7,7にそれぞれ支持される後クロスメンバ11と、上記前クロスメンバ9に取り付けられ、前突時の衝撃力Fに基づく衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収体37と、前後方向に延び、その前端部が上記前クロスメンバ9の後部の上、下面のうち、いずれか一方の面に結合され、後端部が上記後クロスメンバ11に結合されるクレードル42とを備えた車両の車体前下部構造において、
上記前クロスメンバ9への上記クレードル42の前端部の結合部45よりも前方、かつ、上記前クロスメンバ9の長手方向での上記結合部45近傍で、上記前クロスメンバ9を構成する上、下部板15,16のうち、いずれか一方の板を他方の板に向けて膨出させ、その膨出部46を上記他方の板に結合させたことを特徴とする車両の車体前下部構造である。
【0011】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0012】
本発明による効果は、次の如くである。
【0013】
請求項1の発明は、車体の幅方向に延び、その長手方向の各部が閉断面構造とされて車体の左右サイドメンバの前端部側にそれぞれ支持される前クロスメンバと、この前クロスメンバの後方で上記左右サイドメンバにそれぞれ支持される後クロスメンバと、上記前クロスメンバに取り付けられ、前突時の衝撃力に基づく衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収体と、前後方向に延び、その前端部が上記前クロスメンバの後部の上、下面のうち、いずれか一方の面に結合され、後端部が上記後クロスメンバに結合されるクレードルとを備えた車両の車体前下部構造において、
上記前クロスメンバへの上記クレードルの前端部の結合部よりも前方、かつ、上記前クロスメンバの長手方向での上記結合部近傍で、上記前クロスメンバを構成する上、下部板のうち、いずれか一方の板を他方の板に向けて膨出させ、その膨出部を上記他方の板に結合させている。
【0014】
このため、車両の前突時には、その衝撃力に基づく衝突エネルギーは上記エネルギー吸収体により吸収される。この際、上記前クロスメンバは、上記衝撃力を受けるエネルギー吸収体をその後側から支持し、上記後クロスメンバに支持されたクレードルは、上記衝撃力により上記前クロスメンバが過大に後方移動することを阻止するようこの前クロスメンバをその後側から支持する。
【0015】
ここで、上記前クロスメンバは、その下面(もしくは上面)にクレードルの前端部が結合されることにより、このクレードルに支持されている。このため、上記前クロスメンバを構成する上、下部板のうち、この前クロスメンバの下面(もしくは上面)を形成する下部板(もしくは上部板)の方が上部板(もしくは下部板)よりも上記クレードルによってより強固に補強されがちとなる。
【0016】
しかし、上記発明によれば、前クロスメンバの上、下部板は上記膨出部によって互いに結合されている。このため、上記下部板(もしくは上部板)は上記クレードルの直接の結合により強固に補強されるが、上記上部板(もしくは下部板)も上記膨出部を介し強固に補強されることから、上記上、下部板の間で強度と剛性とについて不均衡が生じることは防止される。しかも、上記膨出部は、上記前クロスメンバへの上記クレードルの前端部の結合部よりも前方、かつ、上記前クロスメンバの長手方向での上記結合部近傍に位置している。このため、前突時に、その衝撃力が上記エネルギー吸収体を介し上記前クロスメンバの上、下部板に与えられるとき、上記衝撃力は、主に、上記膨出部を含むその周辺部を介し上記結合部に伝達されて上記クレードルにより支持される。
【0017】
よって、上記衝撃力により上記前クロスメンバの上、下部板は互いにより均等に変形することから、この前クロスメンバに支持されている上記エネルギー吸収体を所望状態に変形させることが、より確実にできる。この結果、このエネルギー吸収体によれば、上記衝撃力に基づく衝突エネルギーを効果的に吸収させることができると共に、前突時の衝突物が歩行者である場合において、車両の下側への歩行者の巻き込みがより確実に防止され、つまり、脚払い性能の向上が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例を示し、図3のI−I線矢視拡大断面図である。
【図2】実施例を示し、車両の前下部の斜視図である。
【図3】実施例を示し、車両の前下部の平面図である。
【図4】上記実施例の変形例を示し、図1に相当する図である。
【図5】従来の技術を示し、図1に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の車両の車体前下部構造に関し、車体の前端部に設けられたエネルギー吸収体が、前突時に、その衝撃力により所望状態に塑性変形するようにして、このエネルギー吸収体により衝撃力に基づく衝突エネルギーが効果的に吸収されるようにすると共に、前突時の衝突物が歩行者である場合において、車両の下側への歩行者の巻き込みがより確実に防止されるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0020】
即ち、車両の車体前下部構造は、車体の幅方向に延び、その長手方向の各部が閉断面構造とされて車体の左右サイドメンバの前端部側にそれぞれ支持される前クロスメンバと、この前クロスメンバの後方で上記左右サイドメンバにそれぞれ支持される後クロスメンバと、上記前クロスメンバに取り付けられ、前突時の衝撃力に基づく衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収体と、前後方向に延び、その前端部が上記前クロスメンバの後部の上、下面のうち、いずれか一方の面に結合され、後端部が上記後クロスメンバに結合されるクレードルとを備える。
【0021】
上記前クロスメンバへの上記クレードルの前端部の結合部よりも前方、かつ、上記前クロスメンバの長手方向での上記結合部近傍で、上記前クロスメンバを構成する上、下部板のうち、いずれか一方の板を他方の板に向けて膨出させ、その膨出部を上記他方の板に結合させている。
【実施例】
【0022】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0023】
図1〜3において、符号1は、自動車で例示される車両であり、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。また、下記する左右とは、車両1の車体2の幅方向をいうものとする。
【0024】
上記車体2は、その骨格部材を構成する板金製の車体フレーム3と、この車体フレーム3上に支持されその内部が車室とされる車体本体4とを備えている。上記車体フレーム3は、この車体フレーム3の左右各側部を構成して車体2の前後方向に延びる左右一対のサイドメンバ7,7と、これら各サイドメンバ7の前端部にそれぞれ固着され、これら各前端部から下方に向かって突出する左右一対のブラケット8,8と、車体2の幅方向に延び、上記左右ブラケット8,8の突出端部にそれぞれ支持され、つまり、両端支持される前クロスメンバ9と、この前クロスメンバ9の後方で上記左右サイドメンバ7,7にそれぞれ締結具10により締結されて支持され、つまり、両端支持される後クロスメンバ11とを備えている。
【0025】
上記前クロスメンバ9は、ラジエータ14を支持するためのラジエータサポートである。上記前クロスメンバ9は、その長手方向の各部が閉断面構造とされて、上記ラジエータ14を支持する上で、十分な強度と剛性とを備えている。具体的には、上記前クロスメンバ9は、上下方向で互いに対面し、それぞれプレス加工により形成された上、下部板15,16を備えている。
【0026】
上記上部板15は、車体2の側面断面視(図1)でハット形状とされ、前後方向で互いに離れて対面する前、後面板17,18と、ほぼ水平に延び、これら前、後面板17,18の各上端縁を一体的に結合する上面板19と、上記前、後面板17,18の各下端縁にそれぞれ一体的に形成される前、後外向きフランジ20,21とを備えている。そして、これら前、後外向きフランジ20,21と上記下部板16の前、後端部とがスポット溶接S1,S2により結合されて、上記前クロスメンバ9が形成されている。
【0027】
上記後クロスメンバ11は、車体2に左右前車輪24,24を懸架させるための前懸架装置25におけるサスペンションメンバである。上記後クロスメンバ11は、全体として閉断面構造(箱形状)とされ、上記各前車輪24を懸架する上で、十分な強度と剛性とを備えている。具体的には、上記後クロスメンバ11の左右各側部には、それぞれ前、後枢支具28,28によりロアアーム29が上下揺動可能に枢支され、このロアアーム29と不図示の緩衝器とにより上記各前車輪24が上記後クロスメンバ11に懸架されている。
【0028】
上記前クロスメンバ9と後クロスメンバ11との間に配置されて、上記左右サイドメンバ7,7にそれぞれ弾性マウント31により支持される走行用駆動ユニット32が設けられている。この駆動ユニット32の主体はエンジンであり、このエンジンは上記ラジエータ14により水冷却される。また、上記駆動ユニット32を上記後クロスメンバ11に弾性的に支持させるトルクロッド33が設けられ、このトルクロッド33は車体2の幅方向の中央部34に配置されている。
【0029】
上記車体2の幅方向に延び、かつ、前クロスメンバ9の前方に配置されてこの前クロスメンバ9に取り付けられ、前突時の衝撃力Fを受けて塑性変形することによりこの衝撃力Fに基づく衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収体37が設けられている。具体的には、このエネルギー吸収体37は板金製で、車体2の側面断面視(図1)で、後方に向かって開口する横向きのU字形状とされている。上記エネルギー吸収体37の上後端部は、上記前クロスメンバ9の上部板15の上面板19の前端部にスポット溶接S3により結合されている。また、上記エネルギー吸収体37の下後端部は、上記前クロスメンバ9の上部板15の外向きフランジ20と下部板16の前端部とにスポット溶接S4により結合されている。この場合、スポット溶接S4は、前記したスポット溶接S1を兼用してもよい。
【0030】
上記各サイドメンバ7の前端部には、上記エネルギー吸収体37と同様の働きをする他のエネルギー吸収体39がそれぞれ取り付けられている。上記車体フレーム3の前端部と上記エネルギー吸収体37とをその前方から覆う樹脂製のバンパ40が設けられている。このバンパ40は、詳図しないが、上記左右他のエネルギー吸収体39,39に架設されたバンパ補強材と上記エネルギー吸収体37とによって、上記車体フレーム3の前端部に支持されている。
【0031】
車体2の平面視(図3)で、上記左右サイドメンバ7,7の間に配置され、それぞれ前後方向に直線的に延びて上記前クロスメンバ9を後クロスメンバ11に結合させる左右一対のクレードル42,42が設けられている。具体的には、これら各クレードル42は板金製で、その前端部は上記前クロスメンバ9の左右各側部における後部下面に締結具43により結合され、後端部は上記後クロスメンバ11の左右各側端部に他の締結具44により結合されている。
【0032】
上記構成において、前クロスメンバ9への上記クレードル42の前端部の結合部45よりも前方近傍、かつ、上記前クロスメンバ9の長手方向での上記結合部45近傍で、上記前クロスメンバ9を構成する上、下部板15,16のうち、いずれか一方の板の一部分が他方の板に向けて膨出させられ、その膨出部46の突出端が上記他方の板にスポット溶接S5により結合されている。具体的には、上記クレードル42の前端部は上記前クロスメンバ9の後部下面に結合されており、この前クロスメンバ9の下面を形成する下部板16の上記一部分にのみ、上記したように膨出部46が形成されている。このため、この膨出部46は、上記前クロスメンバ9の長手方向で短尺形状とされている。
【0033】
なお、図3中一点鎖線で示すように、上記各クレードル42の前端部の前方近傍に上記膨出部46をそれぞれ形成してもよく、この構成がより好ましい。
【0034】
また、以上は図示の例によるが、上記エネルギー吸収体37を樹脂製として、上記前クロスメンバ9に締結具により結合してもよい。また、上記前クロスメンバ9、エネルギー吸収体37およびクレードル42は、車体2の側面視断面で前記構成のものと上下が逆であってもよい。また、上記前クロスメンバ9の上部板15の上面板19の一部分を上記下部板16に向かって膨出させ、その膨出部と上記下部板16に形成した膨出部46とをスポット溶接S5により互いに結合させてもよい。また、この結合は、締結具によってもよい。
【0035】
図4は、上記実施例の変形例を示している。
【0036】
これによれば、エネルギー吸収体37の後端部は上記前クロスメンバ9の上部板15の前面板17にのみスポット溶接S3,S4により結合されている。また、上記前クロスメンバ9の上部板15の上面板19の一部分に膨出部46が形成され、この膨出部46が上記前クロスメンバ9の下部板16にスポット溶接S5により結合されている。
【0037】
上記構成によれば、車両1の前突時には、その衝撃力Fにより上記エネルギー吸収体37,39は塑性変形して、この衝撃力Fに基づく衝突エネルギーが吸収される。この際、上記前クロスメンバ9は、上記のように衝撃力Fを受けるエネルギー吸収体37をその後側から支持し、上記後クロスメンバ11に支持されたクレードル42は、上記衝撃力Fにより上記前クロスメンバ9が上記サイドメンバ7へのブラケット8の結合部48を中心として過大に回動(後方移動)することを阻止するようこの前クロスメンバ9をその後側から支持する。
【0038】
ここで、上記前クロスメンバは、その下面(もしくは上面)にクレードル42の前端部が結合されることにより、このクレードル42に支持されている。このため、上記前クロスメンバ9を構成する上、下部板15,16のうち、この前クロスメンバ9の下面(もしくは上面)を形成する下部板16(もしくは上部板15)の方が上部板15(もしくは下部板16)よりも上記クレードル42によってより強固に補強されがちとなる。
【0039】
しかし、上記構成によれば、前クロスメンバ9の上、下部板15,16は上記膨出部46によって互いに結合されている。このため、上記下部板16(もしくは上部板15)は上記クレードル42の直接の結合により強固に補強されるが、上記上部板15(もしくは下部板16)も上記膨出部46を介し強固に補強されることから、上記上、下部板15,16の間で強度と剛性とについて不均衡が生じることは防止される。しかも、上記膨出部46は、上記前クロスメンバ9への上記クレードル42の前端部の結合部45よりも前方、かつ、上記前クロスメンバ9の長手方向での上記結合部45近傍に位置している。このため、前突時に、その衝撃力Fが上記エネルギー吸収体37を介し上記前クロスメンバ9の上、下部板15,16に与えられるとき、上記衝撃力Fは、主に、上記膨出部46を含むその周辺部を介し上記結合部45に伝達されて上記クレードル42により支持される。
【0040】
よって、上記衝撃力Fにより上記前クロスメンバ9の上、下部板15,16は互いにより均等に変形することから、この前クロスメンバ9に支持されている上記エネルギー吸収体37を所望状態に変形させることが、より確実にできる。この結果、このエネルギー吸収体37によれば、上記衝撃力Fに基づく衝突エネルギーを効果的に吸収させることができると共に、前突時の衝突物が歩行者である場合において、車両1の下側への歩行者の巻き込みがより確実に防止され、つまり、脚払い性能の向上が達成される。
【0041】
また、前記したように、膨出部46は、上記下部板16(もしくは上部板15)の上記一部分にのみ形成している。
【0042】
ここで、仮に、上記膨出部46を上記前クロスメンバ9の長手方向で上記結合部45近傍を越えた長尺形状となるよう形成したとすると、この前クロスメンバ9において、上記上部板15(もしくは下部板16)と膨出部46との結合部(S5)も上記前クロスメンバ9の長手方向に向かって長く延びることとなる。この場合、上記結合部(S5)は、閉断面構造である前クロスメンバ9の他部分に比べ強度と剛性とが低下しがちな部分となる。
【0043】
このため、車両1の前突時の衝撃力Fが上記エネルギー吸収体37を介し上記前クロスメンバ9の前端部に与えられるとき、この前クロスメンバ9は上記結合部(S5)で容易に屈曲するおそれが生じる。そして、この場合には、この前クロスメンバ9に支持されている上記エネルギー吸収体37を所望状態に変形させることは困難となる。
【0044】
そこで、上記したように、前クロスメンバ9の長手方向での上記結合部45近傍で、上記下部板16(もしくは上部板15)の上記一部分にのみ、上記膨出部46を形成したのであり、これによれば、車両1の前突時の衝撃力Fが上記エネルギー吸収体37を介し上記前クロスメンバ9の前端部に与えられたとき、この前クロスメンバ9が上記結合部(S5)で容易に屈曲する、ということは防止される。
【0045】
なお、上記前クロスメンバ9の長手方向で、上記膨出部46以外の膨出部を断続的に複数形成して、これら膨出部を上記下部板16(もしくは上部板15)にそれぞれ結合するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 車両
2 車体
3 車体フレーム
4 車体本体
7 サイドメンバ
8 ブラケット
9 前クロスメンバ
10 締結具
11 後クロスメンバ
14 ラジエータ
15 上部板
16 下部板
17 前面板
18 後面板
19 上面板
20 外向きフランジ
21 外向きフランジ
37 エネルギー吸収体
42 クレードル
43 締結具
44 締結具
45 結合部
46 膨出部
S1〜S5 スポット溶接
F 衝撃力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の幅方向に延び、その長手方向の各部が閉断面構造とされて車体の左右サイドメンバの前端部側にそれぞれ支持される前クロスメンバと、この前クロスメンバの後方で上記左右サイドメンバにそれぞれ支持される後クロスメンバと、上記前クロスメンバに取り付けられ、前突時の衝撃力に基づく衝突エネルギーを吸収するエネルギー吸収体と、前後方向に延び、その前端部が上記前クロスメンバの後部の上、下面のうち、いずれか一方の面に結合され、後端部が上記後クロスメンバに結合されるクレードルとを備えた車両の車体前下部構造において、
上記前クロスメンバへの上記クレードルの前端部の結合部よりも前方、かつ、上記前クロスメンバの長手方向での上記結合部近傍で、上記前クロスメンバを構成する上、下部板のうち、いずれか一方の板を他方の板に向けて膨出させ、その膨出部を上記他方の板に結合させたことを特徴とする車両の車体前下部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−280238(P2010−280238A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132855(P2009−132855)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】