説明

車両の駆動制御装置

【課題】動力源の燃費や加速性能を向上することの可能な車両の駆動制御装置を提供する装置を提供する。
【解決手段】動力源と駆動輪との間に設けられたトルクコンバータと、動力源とトルクコンバータとの間に設けられた第1変速機構と、トルクコンバータと駆動輪との間に設けられた第2変速機構とを有する車両の駆動制御装置において、車両の加速度要求の度合を判断する加速度要求判断手段(ステップS2,S4)と、判断された加速度要求の度合に基づいて、第1変速機構の変速比を相対的に大きくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に小さくする変速制御と、第1変速機構の変速比を相対的に小さくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に大きくする変速制御とを選択的に切り替える変速制御選択手段(ステップS3,S5,S6)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原動機から駆動輪に至る動力伝達経路にトルクコンバータが設けられており、そのトルクコンバータの上流および下流にそれぞれ変速機が設けられている車両の駆動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原動機から駆動輪に至る動力伝達経路にトルクコンバータが設けられており、そのトルクコンバータの上流および下流にそれぞれ変速機が設けられている車両の動力伝達装置の一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された車両においては、エンジンのクランクシャフトとトルクコンバータとの間に、第1変速機構として遊星ギヤユニットが設けられている。この遊星ギヤユニットは、同軸上に配置されたサンギヤおよびリングギヤと、このサンギヤおよびリングギヤに噛合されたピニオンギヤを保持したキャリヤとを有している。このキャリヤがトルクコンバータの入力部材に連結されている。また、リングギヤがエンジンのクランクシャフトに連結され、サンギヤには回転質量体が取り付けられている。さらに、サンギヤの回転方向を一方向に規制する一方向クラッチが設けられているとともに、サンギヤとクランクシャフトとを選択的に連結および解放するクラッチが設けられている。一方、トルクコンバータの下流には、第2変速機構として、入力側プーリおよび出力側プーリにベルトを巻き掛けて構成されたベルト型無段変速機が設けられており、その入力側プーリがトルクコンバータの出力部材に連結されている。
【0003】
この特許文献1に記載された車両においては、クラッチが係合されるとサンギヤおよびリングギヤおよびキャリヤが一体で回転する一方、自動変速機での変速時に、クラッチが解放されるとリングギヤに対してサンギヤが減速状態で連結されているので、キャリヤに対してリングギヤの回転速度が増大し、キャリヤに対してサンギヤの回転速度が減少する。ここで、自動変速機での変速時にキャリヤの回転速度は、下流の回転要素が生じさせる回転抵抗の作用により減少する傾向にあるが、サンギヤに取り付けられた回転質量体が慣性エネルギを保持しており、これがキャリヤの運動エネルギに変換されることにより、キャリヤの回転速度の低下が抑制され、加速度の「引け」が抑制されるものとされている。なお、トルクコンバータの上流および下流に変速機がそれぞれ設けられた動力伝達装置は特許文献2にも記載されており、トルクコンバータの下流に自動変速機が設けられた車両の一例が特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−75688号公報
【特許文献2】特開2008−239063号公報
【特許文献3】特開平8−326904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された動力伝達装置においては、トルクコンバータの入力側回転部材と出力側回転部材との間の速度比をどのように設定するかについては記載が無く、そのトルクコンバータの作用に起因する車両の加速性能およびエンジンの燃費について改善の余地があった。
【0006】
この発明は上記課題を解決するためになされたもので、動力源の燃費や車両の加速性能を向上することの可能な駆動制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために請求項1の発明は、動力源から駆動輪に至る動力の経路に設けられたトルクコンバータと、前記動力源とトルクコンバータとの間に設けられた第1変速機構と、前記トルクコンバータと前記駆動輪との間に設けられた第2変速機構とを有する車両の駆動制御装置において、前記車両の加速度要求の度合を判断する加速度要求判断手段と、この加速度要求判断手段により判断された加速度要求の度合に基づいて、前記第1変速機構の変速比を相対的に大きくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に小さくする変速制御と、前記第1変速機構の変速比を相対的に小さくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に大きくする変速制御とを選択的に切り替える変速制御選択手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記変速制御選択手段は、前記加速度要求の度合が相対的に大きいと判断された場合は、前記第1変速機構の変速比を相対的に大きくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に小さくする変速制御を選択し、前記加速度要求の度合が相対的に小さいと判断された場合は、前記第1変速機構の変速比を相対的に小さくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に大きくする変速制御を選択する手段を含むことを特徴とする車両の駆動制御装置である。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2の構成に加えて、前記第1変速機構の出力要素と第2変速機構の入力要素とを機械的に係合および解放するロックアップクラッチが設けられており、前記トルクコンバータは、前記ロックアップクラッチが解放されているときにトルクを増幅するように構成されており、前記加速度要求判断手段は、前記加速度要求の度合が相対的に大きく、かつ、前記ロックアップクラッチが解放されているか否かを判断する手段を含み、前記変速制御選択手段は、前記加速度要求の度合が相対的に大きく、かつ、前記ロックアップクラッチが解放されていると判断された場合に、前記第1変速機構の変速比を相対的に大きくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に小さくする変速制御を選択する手段を含むことを特徴とする車両の駆動制御装置である。
【0010】
請求項4の発明は、請求項2の構成に加えて、前記第1変速機構の出力要素と第2変速機構の入力要素とを機械的に係合および解放するロックアップクラッチが設けられており、前記トルクコンバータは、前記ロックアップクラッチが解放されているときにトルクを増幅するように構成されており、前記加速度要求判断手段は、前記加速度要求の度合が相対的に小さく、かつ、前記ロックアップクラッチが係合されているか否かを判断する手段を含み、前記変速制御選択手段は、前記加速度要求の度合が相対的に小さく、かつ、前記ロックアップクラッチが係合されていると判断された場合に、前記第1変速機構の変速比を相対的に小さくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に大きくする変速制御を選択する手段を含むことを特徴とする車両の駆動制御装置である。
【0011】
請求項5の発明は、請求項2の構成に加えて、前記第1変速機構の出力要素と第2変速機構の入力要素とを機械的に係合および解放するロックアップクラッチが設けられており、前記トルクコンバータは、前記ロックアップクラッチが解放されているときにトルクを増幅するように構成されており、前記加速度要求判断手段は、前記加速度要求の度合が相対的に大きいか否かを判断する手段を含み、前記変速制御選択手段は、前記加速度要求の度合が相対的に大きいと判断された場合に、前記第1変速機構の変速比を相対的に大きくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に小さくする変速制御を選択する一方、前記ロックアップクラッチを解放させる手段を含むことを特徴とする車両の駆動制御装置である。
【0012】
請求項6の発明は、請求項2の構成に加えて、前記第1変速機構の出力要素と第2変速機構の入力要素とを機械的に係合および解放するロックアップクラッチが設けられており、前記トルクコンバータは、前記ロックアップクラッチが解放されているときにトルクを増幅するように構成されており、前記加速度要求判断手段は、前記加速度要求の度合が相対的に小さいか否かを判断する手段を含み、前記変速制御選択手段は、前記加速度要求の度合が相対的に小さいと判断された場合に、前記第1変速機構の変速比を相対的に小さくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に大きくする変速制御を選択する一方、前記ロックアップクラッチを係合させる手段を含むことを特徴とする車両の駆動制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、車両における加速度要求の度合に基づいて、第1変速機構の変速比を相対的に大きくするかまたは相対的に小さくする制御をおこなう一方、第2変速機構の変速比を相対的に小さくするか相対的に大きくする制御をおこなうことにより、全体としての変速比の変化を抑制し、かつ、動力源の回転数変化を抑制し、トルクコンバータのトルク比を任意に設定することができる。したがって、車両の加速性能を向上できる一方、動力源の燃費を向上することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、加速度要求の度合が相対的に大きい場合は、第1変速機構の変速比を相対的に大きくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に小さくする変速制御を選択する。一方、加速度要求の度合が相対的に小さい場合は、前記第1変速機構の変速比を相対的に小さくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に大きくする変速制御を選択することができる。したがって、加速度要求が相対的に大きい場合は、トルクコンバータによりトルクを増幅させて車両の加速性能を向上できる一方、加速度要求が相対的に小さい場合は、トルクコンバータに入力されるトルクを相対的に低くし、動力源の燃費を向上することができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明と同様の効果を得られる他に、加速度要求の度合が相対的に大きく、かつ、ロックアップクラッチが解放されている場合は、第1変速機構の変速比を相対的に大きくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に小さくする変速制御を選択する。したがって、加速度要求が相対的に大きい場合は、トルクコンバータによりトルクが増幅される。
【0016】
請求項4の発明によれば、請求項2の発明と同様の効果を得られる他に、加速度要求の度合が相対的に小さく、かつ、ロックアップクラッチが係合されている場合は、第1変速機構の変速比を相対的に小さくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に大きくする変速制御をおこなう。したがって、ロックアップクラッチのトルク容量を相対的に低くすることができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、請求項2の発明と同様の効果を得られる他に、加速度要求の度合が相対的に大きい場合は、第1変速機構の変速比を相対的に大きくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に小さくする変速制御を選択する一方、ロックアップクラッチが解放されてトルクコンバータによりトルク増幅がおこなわれる。
【0018】
請求項6の発明によれば、請求項2の発明と同様の効果を得られる他に、加速度要求の度合が相対的に小さい場合は、第1変速機構の変速比を相対的に小さくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に大きくする変速制御を選択する一方、ロックアップクラッチを係合させるため、ロックアップクラッチのトルク容量を相対的に低くすることができ、燃費が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明における駆動制御装置の具体的な制御例を示すフローチャートである。
【図2】この発明における駆動制御装置を適用した車両の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、この発明における駆動制御装置を図面に基づいて説明する。図2には、この発明における駆動制御装置を適用した車両が示されている。図2に示された車両1においては、原動機2の動力が駆動輪3に伝達されるように構成されている。この原動機2は駆動輪3に伝達されるトルクを発生する装置であり、従来から知られているエンジンおよび電動モータのうちの少なくとも1つを用いることが可能である。ここでは、原動機として燃料を燃焼させてその熱エネルギを運動エネルギに変換するエンジン、特に内燃機関が用いられているものとし、以下、原動機2をエンジン2と記す。このエンジン2から駆動輪3に至る動力の伝達経路には、トルクコンバータ4が設けられている。このトルクコンバータ4は、流体の運動エネルギにより動力伝達をおこなう機構であるとともに、入力側回転部材と出力側回転部材との間で伝達されるトルクを増幅することができるように構成されている。このトルクコンバータ4は、例えばステータの作用によりトルク増幅をおこなうことができる。
【0021】
また、エンジン2とトルクコンバータ4との間に第1変速機構5が設けられ、流体伝動装置4と駆動輪3との間に第2変速機構6が設けられている。つまり、エンジン2から駆動輪3に至る動力伝達経路に、第1変速機構5およびトルクコンバータ4ならびに第2変速機構6が直列に設けられている。この第1変速機構5および第2変速機構6は、従来から知られている変速機構と同様に入力要素と出力要素との間の回転速度の比である変速比を変更可能に構成された伝動装置であり、有段変速機または無段変速機のいずれであってもよい。ここで、有段変速機とは変速比を段階的(不連続)に変更可能な変速機であり、例えば、選択歯車式変速機、常時噛み合い式変速機、遊星歯車式変速機などを用いることができる。これに対して、無段変速機とは変速比を無段階(連続的)に変更可能な変速機であり、例えば、ベルト型無段変速機、トロイダル型無段変速機を用いることができる。また、第1変速機構5および第2変速機構6は、従来から知られている油圧式アクチュエータまたは電磁式アクチュエータにより、変速比が制御されるように構成されている。このため、第1変速機構5および第2変速機構6は同時に、もしくは並行して変速比を変更することができることに加えて、異なる時期に変速比を変更すること、または単独で変速比を変更することも可能である。
【0022】
前記トルクコンバータ4は、第1変速機構5の出力要素にトルク伝達可能に連結されたポンプインペラ7と、第2変速機構6の入力要素にトルク伝達可能に連結されたタービンランナ8と、一方向クラッチにより回転方向が限定されたステータ9とを有する。このステータ9により、ポンプインペラ7とタービンランナ8との間で行き来するオイルに方向性が与えられる。また、ポンプインペラ7およびタービンランナ8と並列にロックアップクラッチ10が設けられている。このロックアップクラッチ10は、ポンプインペラ7と一体回転するフロントカバー11と、第2変速機構6の出力要素との間で摩擦力により動力伝達をおこなう機構であり、例えば、油圧式アクチュエータによりロックアップクラッチ10の係合および解放が制御されるように構成されている。この油圧式アクチュエータに供給する油圧の油圧源はオイルポンプ(図示せず)であり、そのオイルポンプはエンジン2により駆動される。
【0023】
そして、ロックアップクラッチ10が解放されており、トルクコンバータ4の速度比が「1」未満の所定値以下(トルクコンバータレンジ)であると、ポンプインペラ7とタービンランナ8との間で伝達されるトルクが増幅される。ここで、トルクコンバータ4は、速度比が相対的に小さいほどトルク比が相対的に大きくなる特性を有する。これに対して、ロックアップクラッチ10が解放されており、速度比が所定値を超える(流体継手レンジ)と、トルクコンバータ4によるトルク増幅はおこなわれない。なお、トルクコンバータ4の速度比は、出力回転速度を入力回転速度で除算した値であり、トルク比は出力トルクを入力トルクで除算した値である。さらに、ロックアップクラッチ10が係合されていると、ポンプインペラ7とタービンランナ8とが一体回転するため、トルクコンバータ4によるトルク増幅はおこなわれない。
【0024】
さらに、前記第1変速機構5および第2変速機構6の変速比を制御し、また、エンジン出力を制御し、さらにはロックアップクラッチ10の係合および解放を制御する電子制御装置12が設けられており、この電子制御装置12には各種のスイッチおよびセンサの信号が入力される。この電子制御装置12に入力させる信号に基づいて、車速、アクセルペダルの操作状態、ブレーキペダルの操作状態、ロックアップクラッチの係合(ロックアップ検出)および解放、エンジン回転数、第1変速機構5の入力回転数および出力回転数、第1変速機構5の入力回転数および出力回転数などが検出もしくは判断される。この電子制御装置12には、車速およびアクセルペダルの操作状態に基づいて車両1における要求駆動力(目標駆動力)を求めるマップもしくは演算式が記憶されている。この要求駆動力に基づいて、エンジン出力、第1変速機構5および第2変速機構6の変速比を制御するマップ、車速およびアクセル開度に基づいてロックアップクラッチ10を制御するマップなどが電子制御装置12に記憶されている。このロックアップクラッチ制御マップには、所定車速以下ではアクセル開度に関わりなくロックアップクラッチ10を解放する領域が設定されている。これに対して、所定車速を超えると、アクセル開度が所定値未満ではロックアップクラッチ10が係合され、アクセル開度が所定値以上であるとロックアップクラッチ10が解放される領域が設定されている。さらに、この実施例においては、要求駆動力(目標駆動力)に基づきロックアップクラッチ10の運転状態を任意の状態とするために、第1変速機構5の変速比および第2変速機構6の変速比を制御するマップもしくは演算式が、電子制御装置12に記憶されている。
【0025】
上記のような構成を有する車両1においては、エンジントルクが第1変速機構5、およびトルクコンバータ4、さらに第2変速機構6を経由して駆動輪3に伝達されて、駆動力が発生する。ここで、前記ロックアップクラッチ10が係合されていると、トルクコンバータ4における動力損失が抑制されてエンジン2の燃費を向上することができる一方、エンジン2のトルク変動がトルクコンバータ4を経由して駆動輪3に伝達され易い。これに対して、ロックアップクラッチ10が解放されていると、ポンプインペラ7とタービンランナ8とに滑りが生じるため、トルクコンバータ4において動力損失が生じるが、エンジン2のトルク変動が駆動輪3には伝達されにくくなる。
【0026】
また、車両1においては、第1の変速機構5および第2の変速機構6が直列に配置されているため、要求駆動力に基づいて第1変速機構5の入力回転速度と第2変速機構6の出力回転速度の間における目標総合変速比を求め、第1変速機構5の入力回転速度と第2変速機構6の出力回転速度の間における実際の総合変速比を目標総合変速比に近づけるにあたり、第1変速機構5の変速比および第2変速機構構6の変速比を、それぞれ独立して制御することができる。さらに、第1変速機構5の変速比および第2変速機構構6の変速比を、それぞれ独立して制御するにあたり、トルクコンバータ4の振動を抑制できる周波数あるいは速度比となるように、第1変速機構5および第2変速機構構6の変速比を決定することもできる。
【0027】
つぎに、図2に示された車両1の制御例を図1のフローチャートに基づいて説明する。この図1のフローチャートは、ロックアップクラッチ10の係合および解放が、車速およびアクセル開度をパラメータとするロックアップクラッチ制御マップを用いておこなわれていることが前提である。まず、車両1における加速度要求Xが検出される(ステップS1)。この加速度要求は、車両1に対する運転者の加速意図を表すパラメータであり、加速度要求が相対的に大きいほど、運転者の加速意図が高いことを示す。この加速度要求は、電子制御装置12で検知される信号のうち、アクセルペダルの操作状態、具体的にはアクセル開度、アクセル開度の変化速度、アクセル開度の変化割合などから判断することができる。例えば、アクセル開度が相対的に大きいほど加速度要求が相対的に大きいと判断され、アクセル開度の変化速度が相対的に大きいほど加速度要求が相対的に大きいと判断され、アクセル開度の変化割合が相対的に大きいほど加速度要求が相対的に大きいと判断される。また、ステップS1では加速度要求に基づいて、車両1に対する要求駆動力(目標駆動力)が算出され、その要求駆動力に基づいて、第1変速機構5の入力回転速度と第2変速機構6の出力回転速度の間における目標総合変速比が求められる。
【0028】
このステップS1についで、加速度要求Xが所定値c以上であり、かつ、ロックアップクラッチ10が解放されているか否かが判断される(ステップS2)。この所定値cは電子制御装置12に予め記憶されている閾値であり、加速度要求が所定値c以上であるということは、車両1に対する運転者の加速度要求が相対的に大きいことになる。また、ロックアップクラッチ10が解放されているか係合されているかは、電子制御装置12に記憶されているロックアップクラッチ制御マップから判断してもよいし、第1変速機構5の出力回転数および第2変速機構6の入力回転数から判断してもよい。
【0029】
そして、ステップS2で肯定的に判断された場合は、第1変速機構5の変速比、および第2変速機構6の変速比を別々に制御して、第1変速機構5の入力回転速度と第2変速機構6の出力回転速度との間における実際の総合変速比を、ステップS1で求めた目標総合変速比に近づけるにあたり、第1変速機構5の変速比を相対的に大きくするダウンシフト(減速)をおこない、かつ、第2変速機構6の変速比を相対的に小さくするアップシフト(増速)をおこない(ステップS3)、スタートに戻る。このように、第1変速機構5でダウンシフトがおこなわれると、第1変速機構5に入力されるトルクに対して出力されるトルクが増幅される。また、ロックアップクラッチ10が解放されて、速度比が相対的に小さい領域(トルク増幅をおこなうことができる領域)でトルクコンバータ4を運転することができる。したがって、ステップS3の制御をおこなうと、車両1の加速応答性が向上する。
【0030】
これに対して、前記ステップS2で否定的に判断された場合は、加速度要求Xが所定値a以上であり、かつ、所定値b以下であるか否かが判断される(ステップS4)。ここで、所定値bは所定値c未満であり、かつ、所定値aは所定値b未満である。この所定値a,bは、運転者が車両1を定常走行させようとしているか否かを判断するための閾値であり、この所定値a,bは共に電子制御装置12に予め記憶されている。このステップS4で肯定的に判断された場合、つまり、運転者が車両1を定常走行させようとしている場合は、ロックアップクラッチ10が係合(ON)されているか否かが判断される(ステップS5)。
【0031】
このステップS5で肯定的に判断された場合は、第1変速機構5の変速比、および第2変速機構6の変速比を別々に制御して、第1変速機構5の入力回転速度と、第2変速機構6の出力回転速度との間における実際の総合変速比を、ステップS1で求めた目標総合変速比に近づけるにあたり、第1の変速機構5の変速比を相対的に小さくする増速をおこない、かつ、第2変速機構6の変速比を相対的に大きくする減速がおこなわれ(ステップS6)、スタートに戻る。このステップS6の制御をおこなうと、トルクコンバータ4に入力されるトルクが相対的に低くなり、ロックアップクラッチ10の係合圧を低下させることができる。このため、オイルポンプの吐出油圧を低下させることができ、そのオイルポンプを駆動するエンジントルクの増加を抑制でき、エンジン2の燃費が向上する。なお、ステップS5で否定的に判断された場合、またはステップS4で否定的に判断された場合はステップS1に戻る。
【0032】
このように、図1のフローチャートを実行すると、加速度要求の度合、およびロックアップクラッチが係合または解放されているかに基づいて、第1変速機5の変速比を制御し、かつ、第2変速機6の変速比を制御している。したがって、加速度要求の度合が相対的に大きい場合は車両の加速応答性を向上させることができる。一方、加速度要求の度合が相対的に小さく、かつ、ロックアップクラッチ10が係合されている場合は、そのロックアップクラッチ10のトルク容量を低下させ、さらに、エンジン2の燃費を向上することができる。なお、ステップS3またはステップS6のいずれの制御が実行された場合においても、全体としての変速比の変化が抑制され、また、エンジン回転数の変化が抑制される。上記した図1のフローチャートは、請求項1ないし4の発明に対応する制御例であり、ステップS2、S4が、この発明の加速度要求判断手段に相当し、ステップS3、S5、S6が、この発明の変速制御選択手段に相当する。また、図2に基づいて説明された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、エンジン2が、この発明の動力源に相当する。
【0033】
つぎに、図1のフローチャートの変更例を説明する。この変更例は、加速度要求の度合に基づいて、トルクコンバータ4のトルク比を目標値とするように、第1変速機構5の変速比および第2の変速機構6の変速比を制御するものである。このためロックアップクラッチ10の係合および解放を制御するにあたり、車速およびアクセル開度をパラメータとするロックアップクラッチ制御マップは用いない。具体的には、ステップS2で加速度要求Xが所定値c以上であるか否かを判断し、ロックアップクラッチ10が解放されているか否かは判断しない。このステップS2で肯定的に判断された場合は、ステップS3に進み、第1変速機構5の変速比を相対的に大きくする減速をおこない、かつ、第2変速機構6の変速比を相対的に小さくする増速をおこない、さらに、ロックアップクラッチ10を解放させる制御をおこなう。これは、加速度要求の度合が相対的に大きいことに基づいて、ロックアップクラッチ10を解放させてトルクコンバータ4でトルク増幅をおこなうための制御である。
【0034】
このステップS2,S3の変更に伴い、ステップS4で肯定的に判断された場合は、前記ステップS5を省略してステップS6に進み、第1変速機構5の変速比を相対的に小さくする増速をおこない、かつ、第2変速機構6の変速比を相対的に大きくする減速をおこない、さらに、ロックアップクラッチ10を係合させる制御をおこなう。この変更例においては、ステップS3およびステップS6の制御をおこなうために、加速度要求の度合に基づいて、トルクコンバータ4のトルク比および速度比と、第1変速機構5および第2変速機構6の変速比とを求めるマップもしくは演算式が、電子制御装置12に予め記憶されている。特に、ステップS3でロックアップクラッチ10を解放させる際には、トルクコンバータ4における振動を抑制できるような速度比およびトルク比が選択される。
【0035】
このように、図1のフローチャートの各ステップの制御内容を変更すると、加速度要求の度合に基づいて、トルクコンバータ4の速度比およびトルク比として、振動を抑制できる目標値に設定することができる。具体的には、加速度要求の度合が相対的に大きいときは、ロックアップクラッチ10を解放させてトルクコンバータ4によりトルク増幅をおこない、車両1の加速性能を向上することができる。一方、加速度要求の度合が相対的に小さいときは、ロックアップクラッチ10のトルク容量を低下させ、かつ、エンジン2の燃費を向上することができる。この変更例は、請求項1、請求項2、5、6の発明に対応する制御例であり、ステップS2、S4が、この発明の加速度要求判断手段に相当し、ステップS3、S6が、この発明の変速制御選択手段に相当する。この発明において「車両の加速度要求の度合」とは、「車両に対する運転者の加速度要求の度合」である。この発明において「第1変速機構の出力要素と第2変速機構の入力要素とを機械的に係合」とは、摩擦力により動力伝達可能に接続することである。
【符号の説明】
【0036】
1…車両、 2…エンジン、 3…駆動輪、 4…トルクコンバータ、 5…第1変速機構、 6…第2変速機構、 7…ポンプインペラ、 8…タービンランナ、 10…ロックアップクラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源から駆動輪に至る動力の経路に設けられたトルクコンバータと、前記動力源とトルクコンバータとの間に設けられた第1変速機構と、前記トルクコンバータと前記駆動輪との間に設けられた第2変速機構とを有する車両の駆動制御装置において、
前記車両の加速度要求の度合を判断する加速度要求判断手段と、この加速度要求判断手段により判断された加速度要求の度合に基づいて、前記第1変速機構の変速比を相対的に大きくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に小さくする変速制御と、前記第1変速機構の変速比を相対的に小さくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に大きくする変速制御とを選択的に切り替える変速制御選択手段とを備えていることを特徴とする車両の駆動制御装置。
【請求項2】
前記変速制御選択手段は、前記加速度要求の度合が相対的に大きいと判断された場合は、前記第1変速機構の変速比を相対的に大きくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に小さくする変速制御を選択し、前記加速度要求の度合が相対的に小さいと判断された場合は、前記第1変速機構の変速比を相対的に小さくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に大きくする変速制御を選択する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項3】
前記第1変速機構の出力要素と第2変速機構の入力要素とを機械的に係合および解放するロックアップクラッチが設けられており、前記トルクコンバータは、前記ロックアップクラッチが解放されているときにトルクを増幅するように構成されており、前記加速度要求判断手段は、前記加速度要求の度合が相対的に大きく、かつ、前記ロックアップクラッチが解放されているか否かを判断する手段を含み、前記変速制御選択手段は、前記加速度要求の度合が相対的に大きく、かつ、前記ロックアップクラッチが解放されていると判断された場合に、前記第1変速機構の変速比を相対的に大きくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に小さくする変速制御を選択する手段を含むことを特徴とする請求項2に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項4】
前記第1変速機構の出力要素と第2変速機構の入力要素とを機械的に係合および解放するロックアップクラッチが設けられており、前記トルクコンバータは、前記ロックアップクラッチが解放されているときにトルクを増幅するように構成されており、前記加速度要求判断手段は、前記加速度要求の度合が相対的に小さく、かつ、前記ロックアップクラッチが係合されているか否かを判断する手段を含み、前記変速制御選択手段は、前記加速度要求の度合が相対的に小さく、かつ、前記ロックアップクラッチが係合されていると判断された場合に、前記第1変速機構の変速比を相対的に小さくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に大きくする変速制御を選択する手段を含むことを特徴とする請求項2に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項5】
前記第1変速機構の出力要素と第2変速機構の入力要素とを機械的に係合および解放するロックアップクラッチが設けられており、前記トルクコンバータは、前記ロックアップクラッチが解放されているときにトルクを増幅するように構成されており、前記加速度要求判断手段は、前記加速度要求の度合が相対的に大きいか否かを判断する手段を含み、前記変速制御選択手段は、前記加速度要求の度合が相対的に大きいと判断された場合に、前記第1変速機構の変速比を相対的に大きくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に小さくする変速制御を選択する一方、前記ロックアップクラッチを解放させる手段を含むことを特徴とする請求項2に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項6】
前記第1変速機構の出力要素と第2変速機構の入力要素とを機械的に係合および解放するロックアップクラッチが設けられており、前記トルクコンバータは、前記ロックアップクラッチが解放されているときにトルクを増幅するように構成されており、前記加速度要求判断手段は、前記加速度要求の度合が相対的に小さいか否かを判断する手段を含み、前記変速制御選択手段は、前記加速度要求の度合が相対的に小さいと判断された場合に、前記第1変速機構の変速比を相対的に小さくし、かつ、第2変速機構の変速比を相対的に大きくする変速制御を選択する一方、前記ロックアップクラッチを係合させる手段を含むことを特徴とする請求項2に記載の車両の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−226512(P2011−226512A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94962(P2010−94962)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】