説明

車両を運転する方法およびシステム

本発明は、燃焼エンジンに接続されかついくつかの異なる速度伝達比に設定可能である、車両の変速機を制御する方法に関し、本方法は、車両を推進させる出力の必要性が低下している状況で前記車両が、低速度伝達比で、かつ前記低伝達比のトルク平坦域が得られるエンジン速度よりも下のエンジン速度で走っているとき、前記車両の速度パラメータを決定するステップと、前記速度パラメータが第1の基準を満たすとき変速機を前記低伝達比よりも高い速度伝達比に切り換えるステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼エンジンに接続された変速機を制御する方法およびシステムに関する。特に、本発明は、変速機を制御する方法およびシステムに関し、その変速機は、車両を推進させる出力の必要性が低下している状況で、いくつかの異なる速度伝達比に設定することができる。
【背景技術】
【0002】
トラック、バスおよび同様なものなどの大型車両の運転では、その車両が使用される活動の利益性の点で車両経済性が次第にいっそう大きな要素になっている。調達費用は別として、大型車両の日常的な運転に含まれる主な費用は、通常、ドライバ、修理および保守の費用、および車両の推進に必要な燃料のための支払いを含む。
【0003】
車両の型に依存して、様々な要素の影響は変化する可能性があるが、一般に燃料消費が出費の主要な項目であり、さらに、大型車両の稼働率はしばしば高いので、大きな全体的な燃料消費を含めて燃料消費を減少させるあらゆる可能な方法が利益性に好ましい効果をもたらす。
【0004】
長距離走行では、燃料消費を最適化することが特に重要である。この目的のために、或る車両経済走行速度に対して典型的なエンジン経済走行速度を特徴とする長距離車両がある。典型的な車両経済走行速度は、地域または道路の型に依存して、例えば、80km/h、85km/hまたは89km/hであることがある。
【0005】
一般に大型車両では、様々な異なる伝動機構構成が利用可能であるが、そのような車両は、ドライバにとってできるだけ快適に運転できることがしばしば望ましいので、普通車両に組み込まれている制御システムによってギヤチェンジが制御されるように自動的に操作される変速機を備えることが多い。
【0006】
大型車両の自動ギヤチェンジシステムが、普通、制御システムによって制御されることによって、エンジンおよび変速機の制御が一部は車両ドライバからの指令に基づいて行われるがかなりの部分が同様に制御システムによって行われる制御装置を使用することが可能になり、しばしば利用される可能性である。そういうわけで、制御システムは、また、できるだけ燃料を節約するようなやり方でできる限りギヤチェンジおよびギヤ選択を行うことによって燃料消費を改善する機能を内蔵することが多い。
【0007】
そのような機能の例は、車両が下り勾配にあるとき、車両の速度を維持するためにトルクの寄与が必要でないとき動力輪からエンジンを切り離す機能である。その後、車両の伝動機構は、例えばドライバがアクセルペダルまたはブレーキペダルを押したとき、再び接続される。
【0008】
前述の切り離し機能は、多くの場合には申し分なく働くことができるが、燃焼エンジンによって動力を供給される車両の燃料消費をさらに減少させることができる状況がまだある。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、車両の変速機を制御する方法を提案することであり、この方法によって車両の燃料消費を減らすことができる。この目的は、請求項1に記載の方法によって実現される。
【0010】
本発明は、燃焼エンジンに接続されかついくつかの異なる速度伝達比に設定できる、車両の変速機を制御する方法に関連する。車両を推進させる出力の必要性が低下している状況で、前記車両が、低速度伝達比で、かつ前記低伝達比のトルク平坦域よりも下のエンジン速度で走っているとき、本方法は、
・前記車両の速度パラメータを決定するステップと、
・前記速度パラメータが第1の基準を満たすとき、前記変速機を前記低伝達比よりも高い速度伝達比に切り換えるステップと
を含む。
【0011】
このことは、前記速度パラメータが第1の基準を満たすまで車両をオーバードライブで走らせることができるという有利点を与え、それによって、より高い速度伝達比(より低速のギヤ)への下方ギヤチェンジが起こる前に、できるだけ長くまたは適切と考えられるだけ長くオーバードライブでの走行が起こることを可能にする。
【0012】
速度パラメータは、例えば、車両の速度の微分係数すなわち車両の加速度であることがあり、この場合、ギヤチェンジは、例えば(正または負の)加速度が閾値または基準値からずれたとき起こることがある。代わりに、速度パラメータは、例えば、車両の速度であることがあり、この場合、或る速度のずれ、例えば速度減少が許されることがある。例えば、速度減少が閾値に達したとき、ギヤチェンジが起こることがある。
【0013】
また、エンジンがそのときにその速度で供給することができる(低下した)推進力(出力)までの適切な推進力に寄与しそれによってオーバードライブの能力利用を高めるようにエンジンを準備することが、車両の走行中に可能である。例えば、車両は、出力の必要性低下をもたらす下り勾配で、オーバードライブが噛み合った状態で運転されることがあり、そうすることで、車両の速度を維持できるためにエンジンの寄与が必要とされることがあり、または、車両は、車両の速度が前記基準速度から余りにも大きくずれることなしにできるだけ長く運転されることがある。
【0014】
本発明は、また、可能であれば速度減少が余りにも大きくならない状態で、または速度減少が上のように閾値に達するまで、エンジントレーリングで車両を運転するために使用されることがある。すなわち、エンジンは、燃料噴射のスイッチがオフにされた状態でしたがって燃料消費のない状態で、車両によって「トレール」される。低エンジン速度でのエンジンのトレーリングは、より高いエンジン速度でのトレーリングと比べてエンジンのブレーキトルクを減少させるという有利点を与える。
【0015】
前記低速度伝達比(オーバードライブ)への上方ギヤチェンジおよび前記低速度伝達比(オーバードライブ)からの下方ギヤチェンジは、適切なギヤチェンジのタイミングを予測する機能によって、例えば、前記オーバードライブ(低速度伝達比)を最大限に利用するために車両の前方の道路地形を決定することによって、少なくとも部分的に制御されるように準備されることがある。
【0016】
本発明のさらに他の特徴および有利点は、以下で示される実施形態の例および添付の図面の詳細な説明によって示されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1a】本発明が有利に使用される可能性がある車両の伝動機構を示す図である。
【図1b】車両制御システム中の制御ユニットの例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態の例に従って変速機を制御する方法の例を示す流れ図である。
【図3】エンジンのトルク曲線を示す図であり、オーバードライブ作動範囲の限界が示されている。
【図4】エンジン速度の関数としてエンジンの摩擦損失を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
オーバードライブという用語は、通常、変速機の出力軸がエンジン軸よりも速く回転するギヤを意味すると解釈される。
【0019】
しかし、以下で示される説明および特許請求の範囲では、オーバードライブという用語は、車両が、ギヤのトルク平坦域に達するエンジン速度よりも下のエンジン速度で、経済走行速度で走るそのギヤを意味することに限定される。このことは、そのようなギヤでは最大トルクが利用できず、推進力の必要性が低下する状況以外ではそのギヤが使用できなくなることを意味する。
【0020】
図1aは、本発明の実施形態の例に従った、大型車両100、例えばトラック、バスまたは同様なものの伝動機構の例を示す。図1aに模式的に示された車両100は、動力輪113、114の付いたたった1つの車軸を備えているが、本発明は、また、動力輪の付いた2以上の車軸を持つ車両においても応用可能である。伝動機構は、燃焼エンジン101の出力軸102を介し、普通フライホイール(図示されない)を介し、クラッチ106を介して自動操作変速機103に従来のやり方で接続された燃焼エンジン101を備えている。
【0021】
しかし、農業または高速道路で主として使用される大型車両は、普通、従来の意味で自動変速機を備えないが、ギヤチェンジが制御システムによって制御される「手動」変速機を備えている。その理由の一部は、手動変速機が製造するのに実質的により安いからであるが、また、手動変速機の方がより効率が良く、したがって燃料消費が少ないためでもある。
【0022】
図示された実施形態のクラッチ106は、従来型、例えば円板型の自動制御クラッチの形を取っている。クラッチの開/閉は、車両の制御システムによって制御される。このことはまた、車両が動かされた後のギヤチェンジが、ギヤチェンジ中にエンジンを適切に制御することによって、クラッチが閉じた状態で行われるように、手動制御クラッチの場合には普通のことである。
【0023】
現代の車両の制御システムは、普通、いくつかの電子制御ユニット(ECU)または制御装置と車両に位置付けされた様々な部品を互いに接続する1つまたは複数の通信バスを含む通信バスシステムから成っている。そのような制御システムは、多数の制御ユニットを備えることがあり、特定の機能に対する責任が、2以上の制御ユニットの間で分担されることがある。簡単にするために、図1aは、たった2つのそのような電子制御ユニット115、116を示し、これらの制御ユニット115、116は、この実施形態で、エンジン101とクラッチ106(自動制御クラッチのある場合に)および変速機103をそれぞれ制御する(代わりに、エンジン、変速機およびクラッチのうちの2以上のものが、たった1つの制御ユニットによって制御されるように配置されることがある)。制御ユニット115、116によるエンジン、クラッチおよび変速機の制御は、通常、他の1つの制御ユニットからの信号だけでなく他の複数の制御ユニットからの信号に依存している。図示された型の制御ユニットは、通常、車両の様々な部分から、例えば変速機、エンジン、クラッチおよび/または車両の他の制御ユニットまたは部品からセンサ信号を受け取るように構成されている。制御ユニットは、さらに、車両の様々な部分および部品、例えばエンジン、クラッチおよび変速機に、これらの制御のために制御信号を供給するように構成されている。本発明は、上の制御ユニットのどれかに、または車両の制御システム中の或る他の適切な制御ユニットに実現されることがある。
【0024】
車両の様々な部分および部品の制御、例えばギヤの選択は、しばしばプログラム命令によって支配される。
【0025】
このプログラム命令は、一般に、コンピュータプログラムの形を取り、コンピュータプログラムは、コンピュータまたは制御ユニットで実行されたとき、制御作用の望ましい形、例えば本発明に従った方法のステップをコンピュータ/制御ユニットに達成させる。コンピュータプログラムは、普通、コンピュータプログラム製品109の形を取り、コンピュータプログラム製品109は、制御ユニットと組み合わせたまたは制御ユニット中のデジタル記憶媒体121(図1bを参照されたい)、例えば、ROM(読出し専用メモリ)、PROM(プログラム可能読出し専用メモリ)、EPROM(消去可能PROM)、フラッシュメモリ、EEPROM(電気的消去可能PROM)、ハードディスクユニットなどに格納され、制御ユニットによって実行される。したがって、特定の状況における車両の挙動は、コンピュータプログラムの命令を変えることによって調節することができる。
【0026】
制御ユニット(制御ユニット115)の例が、図1bに模式的に示され、計算ユニット120を含むことがあり、計算ユニット120は、実質的に任意の適切な型の処理装置またはマイクロコンピュータ、例えば、デジタル信号処理用の回路(デジタル信号処理装置、DSP)、または予め決められた特定の機能を持つ回路(用途特定集積回路、APIC)の形を取ることがある。計算ユニット120は、メモリユニット121に接続され、メモリユニット121は、制御ユニット115中に位置付けされて、例えば、計算ユニット120が計算を行うことができるために必要とする格納されたプログラムコードおよび/または格納されたデータを計算ユニット120に供給する。計算ユニット120は、また、計算の部分的または最終的な結果をメモリユニット121に格納するように構成されている。
【0027】
制御ユニット115は、さらに、入出力信号を送受信するためのデバイス122、123、124、125を備えている。これらの入出力信号は、入力信号受信デバイス122、125が情報として検出することができかつ計算ユニット120で処理可能な信号に変換することができる波形、パルスまたは他の特質を含むことがある。出力信号送信デバイス123、124は、信号が向けられることになっている車両の制御システムの他の部分および/または1つの部品/複数の部品に伝えることができる出力信号を、例えば変調することによって、生成するために、計算ユニット120から受け取られた信号を変換するように構成されている。
【0028】
入出力を送受信するためのデバイスへの各接続は、ケーブル、データバス、例えばCAN(コントローラエリアネットワーク)バス、MOST(Media Oriented System Transport)バスまたは或る他のバス構成、または無線接続のうちの1つまたは複数の形を取ることがある。
【0029】
車両100はさらに駆動軸104、105を備え、駆動軸104、105は、動力輪113、114に接続され、また最終ギヤ108例えば従来の差動ギヤを介して変速機103からの出力軸107によって駆動される。
【0030】
車両100の図示された変速機103は、上で説明されたように、車両の経済走行速度でオーバードライブギヤのトルク平坦域よりも下に作動範囲を持つように構成された少なくとも1つのオーバードライブギヤを備えている。このことは、そのような型のオーバードライブが噛み合った状態で車両を正常に運転することができないことを意味する。というのは、作動点でのエンジンの速度は、普通、低過ぎて十分なトルクを供給することができず、その上、推進力の必要性が増すや否や、エンジンは、なおいっそう少ない動力が利用可能なより低い速度に落ち、エンジン停止の危険があるからである。
【0031】
そうではなくて、そのようなオーバードライブの目的は、出力の必要性が低下しているか全くない作動条件で、寄生損失したがって燃料消費を最小限にすることである。このことが本発明によって利用され、本発明に従った方法の実施形態の例が、図2に示されている。
【0032】
図2は、本発明の方法200の例に従ってエンジンの制御中に行われるステップを示す流れ図である。ステップ201は、出力の必要性が低下しているかを決定する。車両をそのときその速度で推進するのに必要とされる出力が閾値よりも低い場合に、低いそのような必要性が決定されることがある。
【0033】
車両が例えば下り勾配で運転されている場合、下り勾配(上り勾配に対立するものとして)では重力による地球の引力は、車両を推進するためのエンジンの出力の必要性が著しく減少しまたはさらに全くなくなるように、前向き(前進)の推進力成分に寄与するので、車両を推進するのに必要な出力は低下する。したがって、オーバードライブによって引き出すことができる出力(利用可能なトルク)は、多くの場合に、低エンジン速度にもかかわらず変わらないか実質的に変わらない速度で車両を運転することを可能にするのに十分であることがある。
そのような状況では、ステップ202のオーバードライブへの変速機の切換えによって、エンジンの燃料必要性が低下して燃料節約となり、一方で同時に、エンジン速度が非常に低い値に下がり、さらにエンジンからの雑音のレベルが落ちる。
【0034】
図3は、上記のようなオーバードライブについてトルク曲線と作動範囲を示す。エンジン速度nは、車両の経済走行速度または最大許容速度が得られるエンジン速度を意味し、nで最大であり、したがってエンジンは、オーバードライブ噛み合い状態ではトルク平坦域(nとnの間)で、車両経済走行速度で決して作動せず、より低いエンジン速度したがってより低いトルクで常に作動する。このように、オーバードライブは、トルク曲線のトルク平坦域よりも下の作動点で使用される意図であり、作動点nは、基本的に、n(エンジンが前向きトルクを供給することができる点)とnの間の任意の望ましい点に移すことができる。
【0035】
従来のギヤチェンジを有する車両では、変速機の速度伝達比は、優れた運転しやすさを実現するために、車両の経済走行速度でのエンジン速度がトルク平坦域の上部(すなわち、nにより近いところ)または代わりにトルク平坦域の中間(nとnの中間)にあるように決められる。車両の経済走行速度は、地域の規則または道路の型に依存して変わる可能性があるが、例えば、80、85、または89km/hであることがある。
【0036】
トルクTおよび出力Pは、次式によって互いに関係付けられる。
P=Tω (1)
ここで、ωはエンジンの角速度、すなわち2π60/rpm(rpm=エンジン回転数/分)を表し、この式は、速度nまでの領域でエンジンから引き出すことができる出力Pが、エンジンが供給することができる最大よりも低い値に制限されることを意味する。というのは、エンジン速度とエンジンの供給可能最大トルクの両方がより低いからである。このように、オーバードライブが噛み合うとき、エンジンからの出力は制限される。
【0037】
車両が、例えば、80km/hの経済走行速度で運転され、かつ制御ユニット115(または116)が、例えば車両の走行抵抗の決定によって、出力の必要性が低いと決定した場合には、オーバードライブが噛み合わされて、結果としてエンジンが燃料を節約することになる。このときの走行抵抗は、車両の走行速度、エンジンの駆動トルク、車両の外形および他の環境データを知ることで計算されることがある。走行抵抗は、向かい風、追い風、転がり抵抗、摩擦および車両中のエネルギー消費物、および車両を加速する/ブレーキをかける重力の合成の総合的表現であるので、道路勾配の表現として使用することができる。
【0038】
上記のようにオーバードライブが噛み合うとき、エンジンは、図2に示されたトルク平坦域よりも下の範囲内の低速度で、すなわちnよりも下の速度で作動する。例えば、必要とされる出力は、或る閾値よりも低い場合に低いと見なされることがある。この閾値は、例えば、最大出力の或る割合、例えば10〜15%であることがあり、またはオーバードライブで走るときの最大利用可能出力の或る割合であることがある。
【0039】
車両を推進させるためにそのときに必要とされる出力に依存して、エンジンは、エンジンがそのときの速度で供給することができる最大を超えない限りで、必要な出力に寄与することができる。例えば、車両は、出力の必要性低下をもたらすが純粋に重力によって速度を加速/維持することができるほど十分に急でない下り勾配で、オーバードライブが噛み合った状態で運転されることがあり、この場合、車両速度が維持または実質的に維持されるために、エンジンからの或る寄与、例えば10〜50kWが必要とされる。
【0040】
オーバードライブが噛み合った状態でどんなに多くの出力がエンジンによって供給されるかは、動作点nがnとnの間の領域のどこにあるかに依存している。というのは、トルク(それ故に、上記のような出力)は、そのときの動作範囲内で、エンジン速度で大きく変わるからである。
【0041】
エンジンがエネルギーを供給するかわりに、車両の走行抵抗が負である場合には、すなわち、エンジンへの燃料供給なしに車両の速度が維持または実質的に維持されるような下り勾配に車両がある場合には、代替えの可能性は、燃料噴射のスイッチがオフにされた状態で、したがって燃料消費のない状態で、エンジンが「トレール」されることである。
【0042】
低エンジン速度でエンジンをトレールすることで、また、伝動機構が閉じているときエンジンが駆動軸に加えるブレーキトルクが、より高いエンジン速度でトレールするときよりも遥かに小さくなるという有利点が与えられる。このことは、燃焼エンジンの例について図4に例示され、エンジン摩擦がエンジン速度に対してプロットされている。エンジン摩擦は、少なくとも部分的に軸受および滑り面の摩擦に依存し、またエンジンに空気、油および水を送り込む際に消費されるエネルギーに依存している。
【0043】
図面で理解されるように、エンジンによって加えられるブレーキトルクは、約1800rpm(250Nm)では600rpm(130Nm)のほとんど2倍である。エンジンの出力は、エンジンのトルクとエンジンの速度の両方に依存するので、ブレーキ出力の差は、さらにいっそう大きい(8kWに対して47kW)。より低いエンジン速度でエンジンをトレールすることで、より小さなブレーキ抵抗で燃料消費なしに車両を運転することが可能になり、したがって車両を推進するために前向きトルクが再び必要とされる前により長い距離を走ることが可能になる。
【0044】
上で言及されたように、そのような状況での代替え解決策は、エンジンからブレーキトルクが全く加えられないようにエンジンを駆動軸から完全に切り離すことであり、その結果、転がり抵抗がさらにいっそう小さくなる。しかし、この解決策は、エンジンを動かし続けるためにその間ずっと燃料が消費されるという不利点をやはり含んでいる。
【0045】
図2に戻って、オーバードライブが噛み合わされたとき、本方法は、車両のための速度パラメータが第1の基準を満たすかどうかを決定するステップ203に進む。この決定は、例えば、そのときの車両の走行速度が速度基準Hrefからずれているかどうかを決定するという形を取ることがある。この決定は、例えば、速度基準Hrefに対する速度変化が閾値Hthres以上であるかどうか決定することよって行われることがある。Hthresは、例えば、速度基準Hrefの或るパーセンテージ、例えば1、2、または5%であることがある。
【0046】
閾値は、絶対的なもの、すなわち、速度差が増加であるか減少であるかに無関係であることがあり、または、閾値は、例えば減少だけであることがある。また、閾値は、例えば、実際の速度差、例えば1、2、または5km/hであることがある。
【0047】
代わりに、速度パラメータは、例えば、車両の走行速度の微分係数であることがあり、この場合には、速度変化(微分係数)が、閾値または基準値と比較されることがある。
【0048】
車両の速度が、前記差を超えて速度基準Hrefと違っていない場合には、または、例えば、微分係数の絶対量が閾値を超えていないか特定の量を超えて基準値からずれていない場合には、プロセスは、オーバードライブが噛み合った状態でステップ204に進む。
【0049】
ステップ204は、オーバードライブ噛み合い状態でもはや車両を運転しない原因が何か他にあるかどうかを決定する。そういった事情でなければ、プロセスはステップ203に戻り、そうでなければステップ205に進む。
【0050】
対照的に、ステップ203で速度差が閾値Hthresを超えている場合、または微分係数が閾値を超えるか特定の量を超えて基準値からずれている場合には、プロセスはステップ205に進み、そこで変速機は、より低速のギヤ(より高い速度伝達比)に変わってより多くの推進力を利用可能にし、それによって車両を再びより高速に加速することができ、または代わりに、完全に図4に従って、下方ギヤチェンジが、車両のエンジンブレーキに使用することができるより多くのトレーリング抵抗を引き起こす。
【0051】
車両の速度が基準速度Hrefよりも高いか低いかを決定することもできる。車両速度がより低い場合、すなわち車両速度が閾値Hthresを超えて下方へずれている場合には、依然としてオーバードライブが噛み合った状態で、さらなる出力をエンジンから引き出すことができるかどうかを決定することができる(図示されないステップで)。そうであれば、出力は増加しプロセスはステップ203に戻る。反対に、オーバードライブが噛み合った状態で、さらなる出力が利用できない場合には、プロセスはステップ205に進む。
【0052】
速度減少は、例えば、下り勾配が平らになること、またはさらに上り勾配に変わることによることがある。そのとき、プロセスは、再び推進力の必要性が低下した場合にもう一度元のオーバードライブまで戻ることができるために、ステップ201に戻る。
【0053】
車両速度が(前記閾値Hthresを超えて)基準速度を超えた場合には、プロセスは、例えば、車両の常用ブレーキを使用することによってまたは例えば排気ブレーキ、リターダブレーキなどを使用することによって、ブレーキトルクが加えられるステップ(図示されない)に進むことができ、それから、プロセスはステップ205に戻り、そこで、再び車両速度が基準速度と比較される。
【0054】
図2に示されたプロセスは、また、上位プロセス、ステップ204を含む。このプロセスによって、エンジンからの出力の必要性が増す何らかの他の原因があるかどうかを絶えず監視することができるようになる。例えば、より低速のギヤ(より高い速度伝達比)への変化は、例えば、次の基準のどれか、すなわち、車両速度が走行制御機能に設定されたレベルに増すこと、車両ドライバがアクセルペダルまたはブレーキペダルを動かすこと、車両が設定速度を超えて加速することのどれかが、満たされたとき起きることがある。
【0055】
上では、推進力の必要性低下があるかどうか決定するために走行抵抗が使用された。実施形態の代わりの例に従って、減らされた出力が車両を推進するのに十分であるかどうかを決定するために、車両の前方の道路についてのデータが使用される。例えば、ルックアヘッド(LA)機能からのデータが、減らされた出力が必要であるかどうかを決定するために使用されることがある。
【0056】
制御ユニット115および/または116が、車両の前方の道路に関して地形についてのデータ、例えば車両のナビゲーションシステムまたは前記LA機能からのデータにアクセスする場合には、これらのデータは、推進力の必要性が低いかどうかを決定する際に使用されることがある。例えば、道路の勾配についての情報は、LA機能を介して得ることができる。次に、これらのデータは、出力が必要とされているか間もなく必要とされるかを決定するために使用されることがある。このように、ステップ201で、出力の必要性が低下しているかどうかだけでなく出力の必要性が間もなく低下するかどうかも決定することができる。したがって、出力の必要性が低いと決定するためにエンジン信号を監視する必要なしに、最適なときにオーバードライブを噛み合わせることができる。例えば、とにかく車両がすぐ後の下り勾配で最大許容速度まで加速することを前もって決定することが前々から可能な場合には、例えば、車両が丘の頂上に達する前に、前々からオーバードライブが噛み合わされるように準備されることがある。
【0057】
同様に、車両が上り勾配に近づいていることが車両のLA機能によって決定される場合には、出力の必要性が実際に生じる前に下方ギヤチェンジが行われることがある。
【0058】
本発明は、上で、従来の変速機に関連して説明されている。しかし、その比のトルク平坦域の最低速度よりも低いエンジン速度で走行時に車両が走る速度伝達比で、車両が走ることができる限りで、本発明は、また、他の型の変速機、例えばCVT(連続可変伝達)変速機の場合にも応用可能である。
【0059】
上記の有利点の他に、本発明には、さらに大きな有利点がある。上記の型の車両は、普通、エンジンからの排出を減少させるための排気清浄システムを備えている。しかし、この排気清浄システムは、普通、それが望み通りに機能するために或る最低温度、例えば200℃を必要とする。トレールされるすなわち燃料を供給されないエンジンは、この温度を排気清浄システムに維持するように温排気ガスを供給しない。それどころか、ひっきりなしに空気がエンジンに送り出され、この比較的冷たい空気は、排気清浄システムを冷やす。
【0060】
この冷却は、エンジンを通過する空気の量に直接関係している。できるだけ低速でエンジンを動かすように前記オーバードライブを使用することによって、トレーリング中の空気の量が減少し、したがって排気清浄システムの冷却が減少し、その結果、排気清浄システムを補助的に温める必要がなくなる。
【0061】
しかし、本発明は、さらなる有利点を与える。上で説明されたように、排気清浄システム中の温度が少なくとも或るレベルに維持されて、システムが申し分なく機能することを保証できることが、排気清浄にとって重要である。上記のようなオーバードライブ時のトレーリングによって、結果として、より少ない冷空気がエンジンを通過することになり、したがって冷却がいっそう遅くなるが、排気清浄システムの温度が望ましくないほど低いレベルに下がって上昇を必要とすることが、例えば長い下り坂走行中に起こることが依然としてある。この温度上昇は、本発明に従ってオーバードライブで走るとき、実現するのが簡単である。
【0062】
上で説明されたように、P=Tωである。このことは、或る出力を生じさせるために、より低いエンジン速度ではより高いトルクを発生させることが必要であることを意味している。したがって、望ましいトルク、したがって出力を実現するために、より高速であるときよりも多い量の燃料が噴射されなければならない。このより多い量の燃料は、より高い排気温度につながって、排気清浄システム中の温度を上げ、さらにより効率的な後処理に寄与する。このことは、車両が運動量を失わないためにオーバードライブでの走行が或る出力をやはり必要とする状況で、特に、有利である。
【0063】
低エンジン速度のためにガス流が小さいということは、また、エンジンの効率が高くなって、排気清浄システムを費用効率の高いやり方で温めることができるようになることを意味している。このように、本発明の実施形態に従って、オーバードライブで走るとき供給される出力は、推進力の必要性だけでなく車両の排気清浄システムの加温の必要性によっても制御され、それによって他の費用効率の良くない加温手段を不要にする。
【0064】
車両の速度は、これまで絶対的な観点から説明されたが、留意されるべきことであるが、車両の速度は、また、他のやり方で、例えば、車両の制御システムで行われることがある車両の総運動エネルギーを決定することで、説明されることがある。この型の速度表現は、本説明および特許請求の範囲で「(車両)(走行)速度」という用語の中に含まれると考えられるので、また、添付の特許請求の範囲に含まれる。
【0065】
上で言及されたように、下り勾配で車両の速度を維持するためにトルクの寄与が必要でないとき、車両のエンジンは、車両の動力輪から切り離されることがある。本発明は、また、そのような手順とも組み合わされることがあり、この場合には、車両は、上記のようなオーバードライブかエンジンが車両の動力輪から切り離された状態かのどちらかで、どちらの方がより有利であるかに依存して運転される。
【0066】
その解決策は、本出願と同じ出願人で同じ出願日の並行スウェーデン特許出願「FORFARANDE OCH SYSTEM FOR FRAMFORANDE AV ETT FORDON II」(出願番号0950971−2)で詳細に説明されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼エンジンに接続され且ついくつかの異なる速度伝達比に設定可能である、車両の変速機を制御する方法であって、前記車両を推進させる出力の必要性が低下している状況で、前記車両が、低速度伝達比で、かつ前記低伝達比のトルク平坦域が得られるエンジン速度よりも下のエンジン速度で走っているとき、
前記車両の速度パラメータを決定するステップと
前記速度パラメータが第1の基準を満たすとき、前記変速機を前記低伝達比よりも高い速度伝達比に切り換えるステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記速度パラメータが、前記車両の速度を基準速度と比較することによって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
決定された前記速度が前記基準速度から第1の閾値だけずれたとき、前記変速機が、より高い速度伝達比に設定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
決定された前記速度が第1の速度よりも下であるとき、前記変速機が、より高い速度伝達比に設定される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記速度パラメータが、前記車両の速度の変化を決定することによって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記変化が、前記車両の前記速度の微分係数を決定することによって決定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
速度の前記変化が第1の閾値からずれたとき、前記変速機が、より高い速度伝達比に切り換えられる、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記車両を推進させるための出力が低下している、または特定の時間内に低下する状態の決定に基づいて、前記変速機が、前記低速度伝達比に設定される、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の方法であって、
前記車両を推進させるためのエンジン出力が第2の閾値よりも下になっている、または特定の時間内に下になる状態の決定と同時に、前記変速機を前記低速度伝達比に切り換えるステップ
をさらに含む方法。
【請求項10】
前記車両を推進させるための出力が低下している、または特定の時間内に低下するという決定が、前記車両の前方の道路の勾配に関するデータおよび/または前記車両の前方の道路の地形に関するデータを使用することによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記車両を推進させるための出力が低下している、または特定の時間内に低下するという決定が、エンジンへの制御信号および/またはエンジンからの制御信号を使用することによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
エンジンからの駆動力が必要とされているおよび/または必要になってくるかどうかを絶えず監視し、そのように必要とされているおよび/又は必要になってくる場合には、前記変速機をより高い速度伝達比に切り換えるステップをさらに含む、請求項1ないし11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記変速機が、いくつかの別個のギヤを含む変速機の形を取り、前記より低い/より高い速度伝達比への切換えが、より高速/より低速のギヤに変える形を取る、請求項1ないし12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記低速度伝達比は、車両の経済走行速度または最大許容速度での前記車両が、ギヤのトルク平坦域が得られるエンジン速度よりも低いエンジン速度で走る前記ギヤまたは変速機の速度伝達比設定の形を取る、請求項1ないし13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記車両のための速度パラメータの前記決定が、前記車両の制御システムによって行われ、さらに前記変速機を前記低伝達比よりも高い速度伝達比に設定するタイミングが、前記速度パラメータに基づいて前記制御システムによって決定される、請求項1ないし14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
プログラムコードを含み、コンピュータで実行されたとき、前記コンピュータに請求項1ないし15のいずれか一項に記載の方法を適用させる、コンピュータプログラム。
【請求項17】
コンピュータ読取り可能媒体および請求項16に記載のコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品であって、前記プログラムが、前記コンピュータ読取り可能媒体中に含まれている、コンピュータプログラム製品。
【請求項18】
燃焼エンジンに接続され且ついくつかの異なる速度伝達比に設定可能である、車両の変速機を制御するシステムであって、前記車両を推進させる出力の必要性が低下している状況で、前記車両が、低速度伝達比で、かつ前記低速度伝達比のトルク平坦域より下のエンジン速度で走っているとき、
前記車両の速度パラメータを決定する手段と、
前記速度パラメータが第1の基準を満たすとき、前記変速機を前記低伝達比よりも高い速度伝達比に切り換える手段と
を備えるシステム。
【請求項19】
請求項18に記載のシステムを備える車両。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2013−514505(P2013−514505A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544437(P2012−544437)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/SE2010/051401
【国際公開番号】WO2011/075067
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(594097848)スカニア シーブイ アクチボラグ (39)
【Fターム(参考)】