説明

車両制動装置

【課題】より適切な調圧を実現した上でコストダウンを図ることができる車両制動装置を提供すること
【解決手段】本発明による車両制動装置1は、ペダルの操作に応じて基礎油圧から操作油圧を発生するマスターシリンダ2と、操作油圧を増圧するポンプ3と、増圧された操作油圧を調圧して制御油圧を発生する調圧弁4と、操作油圧又は制御油圧を供給油圧としてホイールシリンダ5に供給する供給手段6、7と、調圧弁4の開単位時間をポンプ3の吐き出し流量の変動周期TQに設定して閉単位時間TCを制御して制御油圧を目標制御油圧に制御する制御手段10aを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペダルの操作に基づく踏力ブレーキと、増圧されたポンプアップブレーキとを組み合わせて車両の制動を行う車両制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に適用されて好適な車両制動装置としては、ペダルの操作に基づいてマスターシリンダで基礎油圧から操作油圧を発生して、操作油圧を増圧しないでそのまま供給油圧としてホイールシリンダに供給してホイールシリンダにより車輪のブレーキ装置のピストンをシリンダから押し出してパッドを車輪のディスクに押圧して制動動作を実行する踏力ブレーキと、操作油圧をポンプと差圧弁により増圧して制御油圧を発生してそれを供給油圧としてホイールシリンダに供給してホイールシリンダにより車輪のブレーキ装置のピストンをシリンダから押し出してパッドを車輪のディスクに押圧して制動動作を実行するポンプアップブレーキを適宜選択する、例えば特許文献1又は特許文献2に記載されているようなものが提案されている。
【0003】
このような踏力ブレーキとポンプアップブレーキの選択は制動力の選択の自由度を高めること、車両の姿勢制御を実現すること等を目的とすることはもちろん、ハイブリッド車や、電気自動車、燃料電池車等の回生ブレーキを利用する車両において、回生ブレーキによる制動力が十分得られる状況においては踏力ブレーキを選択し、回生ブレーキによる制動力がバッテリやインバータ、制御回路のフェールにより十分に得られない場合に、ポンプアップブレーキを選択して機械式のブレーキにより回生ブレーキの制動力不足を補うという意義をも有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−255017号公報
【特許文献2】特開2006−21745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような特許文献1又は特許文献2に示す車両制動装置においては、図5に示すポンプ51により加圧された制御油圧をマスターシリンダ52とホイールシリンダ53との間に配置された調圧弁54をデューティ比制御することに基づいて調圧するにあたって、安定した調圧を実現するために、ポンプ51と調圧弁54との間にダンパとアキュムレータを配設する、又は、モータの回転に対して吐き出し流量の変動が少ない複数ピストンを有するポンプやギヤ式ポンプを採用する必要が生じて、部品点数の増加とポンプ自体の高価格化に伴いコストアップを招くという問題を生じる。
【0006】
このようなコストアップを抑制することを目的として、図5に示すように、ポンプ51と調圧弁54との間にダンパ、アキュムレータ等を配設することを省略し、かつ、安価な単数ピストン方式のポンプを採用することも考えられる。
【0007】
ところが、図6で示すギヤポンプ式のポンプの吐き出し流量が時間経過に係わらずに比較的安定していることに較べて、安価な単数ピストン式のポンプの吐き出し流量は図7で示すように、正弦波又は余弦波の上半分のみが周期的に繰り返される波形を有しており変動が大きい。
【0008】
このため、ポンプ51の吐き出し容量の変動の周期と、図8で示すような調圧弁54のデューティ比制御のタイミングの協調を考慮しない場合には、ポンプ51の吐き出し口と調圧弁54の下流側に位置する保持弁55の間の配管容量は一般的に小さく蓄圧機能を十分に具備していないことから、図9に示すように、ポンプ51により吐き出された油圧が調圧弁54に有効に伝播されずに、制御油圧を所望の昇圧勾配で制御することつまり、制御油圧を適切に増圧し調圧することが困難となるという問題が生じる。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑み、より適切な調圧を実現した上でコストダウンを図ることができる車両制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題を解決するため、本発明に係る車両制動装置は、
ペダルの操作に応じて基礎油圧から操作油圧を発生するマスターシリンダと、
前記操作油圧を増圧するポンプと、
前記増圧された前記操作油圧を調圧して制御油圧を発生する調圧弁と、
前記操作油圧又は前記制御油圧を供給油圧としてホイールシリンダに供給する供給手段と、
前記調圧弁の開単位時間を前記ポンプの吐き出し流量の変動周期に設定して閉単位時間を制御して前記制御油圧を目標制御油圧に制御する制御手段を含むことを特徴とする。
【0011】
なお、前記供給手段は油圧配管及び保持弁、減圧弁により適宜構成される。
【0012】
本発明に係る前記車両制動装置によれば、前記調圧弁の開単位時間を前記ポンプの吐き出し流量の変動周期である基準周期に一致するように設定して基本的に固定して、前記開単位時間と前記変動周期を合致させることにより、前記ポンプが例えば安価な単数ピストン方式であって、前記変動周期中の変動が大きい場合においても、前記変動周期つまり一周期中に前記ポンプが発生した吐き出し流量に伴って、前記調圧弁を通過する流量を前記変動周期毎に一定として、前記吐き出し流量の変動を、前記調圧弁の前記開単位時間における開動作により吸収することができる。
【0013】
このため、ポンプの吐き出し口と前記調圧弁の下流側に位置する前記保持弁の間の油圧配管容量は一般的に小さく蓄圧機能を十分に具備しておらず、当該油圧配管にダンパやアキュムレータ等の別途の蓄圧機能を有する部品を有していない条件においても、前記制御油圧を所望の昇圧勾配で制御することが実現でき、前記制御油圧を適切に増圧し調圧することを可能なものとすることができる。
【0014】
ここで、前記車両制動装置において、
前記マスターシリンダと、前記ポンプと、前記調圧弁と、前記操作油圧又は前記制御油圧を供給油圧としてホイールシリンダに供給する供給手段とを複系統含み、
前記制御手段が前記複系統のうちいずれか一の単系統の選択と前記複系統の選択とを切り換えるとともに、
前記制御手段が前記単系統から前記複系統に選択を切り換えた後、前記制御を実行するにあたって用いる前記供給油圧の目標制御油圧及び目標昇圧勾配について、前記目標制御油圧が所定油圧以下であり、前記目標昇圧勾配が所定昇圧勾配以下である場合に、前記制御手段が前記目標制御油圧を基準圧から前記基準圧より低い低基準圧に変更することが好ましい。
【0015】
具体的には前記制御手段は前記調圧弁の前記閉単位時間を長くすることによりデューティ比を下げて、前記目標制御油圧を前記基準圧から前記低基準圧に変更する。また、前記基準圧は前記目標制御油圧の初期値である。
【0016】
前記車両制動装置によれば、前記目標制御油圧及び前記目標昇圧勾配がともに低い条件においては、前記閉単位時間を長くしてデューティ比を下げて、前記ポンプの増圧に係わる負担を低減して消費電力を低減し、作動音を低減することができる。
【0017】
さらに、前記車両制動装置において、
前記目標制御油圧が所定油圧より大きい、又は、前記目標昇圧勾配が所定昇圧勾配より大きい場合に、前記制御手段が前記目標制御油圧を基準圧に戻して、前記開単位時間を前記ポンプの吐き出し流量の変動周期よりも大きくすることが好ましい。
【0018】
具体的には前記制御手段は前記調圧弁の前記閉単位時間を短くすることにより前記目標制御油圧を前記基準圧に戻す。
【0019】
前記車両制動装置によれば、前記目標制御油圧及び前記目標昇圧勾配のいずれか一方が高い条件においては、前記閉単位時間を短くしてデューティ比を上げて、前記制御油圧を所望の昇圧勾配で制御することが実現でき、前記制御油圧を適切に増圧し調圧することを可能なものとすることができる。
【0020】
加えて、前記制御手段により前記複系統の選択が連続して実行されて、前記制御手段が、前記開単位時間を一旦前記ポンプの吐き出し流量の変動周期よりも大きくした後は、前記制御手段が前記目標制御油圧を前記基準値に保持し、前記開単位時間を保持することが好ましい。
【0021】
前記車両制動装置によれば、前記複系統が選択されることが連続して実行されて、前記目標制御油圧を前記基準圧に一旦戻し、前記開単位時間を前記ポンプの吐き出し流量の変動周期よりも大きく一旦変更した後においては、前記目標制御油圧及び前記開単位時間をそのまま保持することとして、前記保持弁の開動作タイミングと前記ポンプの吐き出し流量の変動周期の非同期に伴う、前記制御油圧の昇圧勾配の変動を低減することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の車両制動装置によれば、より適切な調圧を実現した上でコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る車両制動装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明に係る車両制動装置の一実施形態の制御内容を示す模式図である。
【図3】本発明に係る車両制動装置の一実施形態の制御内容を示す模式図である。
【図4】本発明に係る車両制動装置の制御内容を示すフローチャートである。
【図5】従来の車両制動装置の形態を示す模式図である。
【図6】従来の車両制動装置のポンプの吐き出し流量の変動を示す模式図である。
【図7】本発明に係る車両制動装置のポンプの吐き出し流量の変動を示す模式図である。
【図8】従来の車両制動装置の制御内容を示すタイムチャートである。
【図9】従来の車両制動装置の制御内容による昇圧勾配を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0025】
図1は、本発明に係る車両制動装置の一実施形態の油圧系統を主に示す模式図である。また、図2は、本発明に係る車両制動装置の一実施形態の調圧弁の開閉動作とポンプの吐き出し流量の変動周期との相対関係を示すタイムチャートである。図3は、本発明に係る車両制動装置の一実施形態の制御内容を示す模式図である。
【0026】
図1に示すように車両制動装置1の系統#1及び系統#2の油圧配管系統を有しており、系統毎に、マスターシリンダ2と、ポンプ3と、調圧弁4と、ホイールシリンダ5と、保持弁6と、減圧弁7と、リザーバ8と、モータ9と、ブレーキECU10(Electronic Control Unit)とを備えて構成される。
【0027】
ブレーキECU10は例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスと入出力インターフェースから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが所定の処理を行い、制御手段10aを構成するものである。
【0028】
図1に示すように、マスターシリンダ2は、ブレーキ用のペダルにより動作されるもので、図示しないエンジンの負圧を利用して負圧を生成する負圧生成パイプに連通された倍力装置により、ペダルに運転者により入力された踏力が倍力されて、その倍力された踏力に基づいて、マスターシリンダ2に付属するリザーバ内の基礎油圧から操作油圧を発生する機能を有しているものである。車両制動装置1の系統1及び系統2の入口には、操作油圧が提供される。
【0029】
車両において系統#1は例えば右前輪FRと左後輪RLを油圧制動し、系統#2は左前輪FLと右後輪RRを油圧制動するものであって、制御対象となる部位が異なるのみで両者の構成は同一であるため、系統#1のみを説明する。
【0030】
油圧配管は入口から下流側に向けて分岐点Aにおいてまず分岐され、油圧配管の分岐点Aから左側に分岐した後の下流側には差圧弁4が配置され、差圧弁4の下流側には分岐点Bが設けられて、分岐点Bの下流側の一方には右前輪FR用の保持弁6が、他方には左後輪RL用の保持弁6が設けられる。一方、差圧弁4の上流の分岐点Aから右側に分岐した油圧配管はポンプ3の吐き出し口にダンパとアキュムレータを介さずに連通されて、リザーバ8とポンプ3の吸込口とは油圧配管により連通される。
【0031】
系統#1の図1中最左の保持弁6の下流側には分岐点Cが設けられ分岐点Cの下流側の一方の油圧配管には右前輪FRのホイールシリンダ5が連通され、他方の配管の分岐点Cの下流は減圧弁7を介してリザーバ8に連通される。同様に、系統1の図1中右側の保持弁6の下流側には分岐点Dが設けられ分岐点Dの下流側の一方の油圧配管には左後輪RLのホイールシリンダ5が連通され、他方の配管の分岐点Dの下流は減圧弁7を介してリザーバ8に連通される。
【0032】
ポンプ3は単数ピストン式のポンプでありモータ9の駆動力により回転される。差圧弁4はリニアソレノイドバルブにより構成されてブレーキECU10の制御手段10aの指令に基づいて開単位時間TO及び閉単位時間TCが制御される。
【0033】
ポンプ3はブレーキECU10の制御手段10aの指令に基づいてモータ9が駆動されることにより回転されて操作油圧を増圧して、調圧弁4は増圧された操作油圧を調圧して制御油圧を発生する。保持弁6及び減圧弁7は制御手段10aの指令に基づいて適宜開閉動作がなされて、制御油圧を供給油圧としてホイールシリンダ5に供給する供給手段を構成するとともに、保持弁6が閉とされ減圧弁7が開とされるとホイールシリンダ5に供給された供給油圧はリザーバ8に排出されて、排出された供給油圧はリザーバ8を経由してマスターシリンダ2に環流する。
【0034】
ブレーキECU10の制御手段10aは、図2に示すように、調圧弁4の開単位時間TOをポンプ3の吐き出し流量Qの変動周期TQつまり基準周期TBに一致するように設定する設定処理を実行して、閉単位時間TCを制御して制御油圧を目標制御油圧に制御する。
【0035】
また、ブレーキECU10の制御手段10aは、マスターシリンダ2と、ポンプ3と、調圧弁4と、制御油圧を供給油圧としてホイールシリンダ5に供給する供給手段を構成する保持弁6及び減圧弁7をそれぞれ含む系統#1、系統#2の複系統のうちいずれか一の単系統の選択と複系統の選択とを、車両全体として要求されるペダルのストロークに基づく要求減速度に応じて切り換える。
【0036】
制御手段10aは単系統から複系統に選択を切り換えた後、要求減速度を実現する制動制御を実行するにあたって用いる供給油圧の目標制御油圧及び目標昇圧勾配について、閾値判定を行う。すなわち、制御手段10aは、目標制御油圧が所定油圧以下であり、目標昇圧勾配が所定昇圧勾配以下である場合に、調圧弁4の閉単位時間TCを長くすることによりデューティ比を下げて、目標制御油圧を基準圧PBから基準圧PBより低い低基準圧A_Mpaに変更する、変更処理を実行する。
【0037】
また、目標制御油圧が所定油圧より大きい、又は、目標昇圧勾配が所定昇圧勾配より大きい場合においては、制御手段10aは、閉単位時間TCを短くすることによりデューティ比を上げて目標制御油圧を基準圧PBに戻して、開単位時間TOをポンプ3の吐き出し流量の変動周期TQよりも大きいB_msecとする、再変更処理を実行する。
【0038】
さらに、制御手段10aにより系統#1及び系統#2の双方を含む複系統の選択が制御周期を跨いで連続して実行されて、制御手段10aが、前述したように開単位時間TOを一旦ポンプの吐き出し流量の変動周期TQよりも大きいB_msecとした後は、制御手段10aが目標制御油圧を基準値PBに保持し、開単位時間TOをB_msecに保持する、保持処理を実行する。
【0039】
つまり、制御手段10aは単系統から複系統に選択を切り換えた後、複系統の選択を連続して実行する場合には、要求減速度を実現する制動制御を実行するにあたって用いる供給油圧の目標制御油圧及び目標昇圧勾配について閾値判定を行わず、制御手段10aは、目標制御油圧が所定油圧以下であり、目標昇圧勾配が所定昇圧勾配以下となっても、調圧弁4の閉単位時間TCを長くすることによりデューティ比を下げて、目標制御油圧を基準圧PBから基準圧PBより低い低基準圧A_Mpaに変更する変更処理は実行しない。
【0040】
以下、本実施例の車両制動装置1の制御内容を、フローチャートとマップを用いて説明する。図4は、本発明による車両制動装置1の制御内容を示すフローチャートである。
【0041】
図4に示すステップS1において、ブレーキECU10の制御手段10aは、系統#1が今回の制御周期において選択されて制御されている状態であるか否かを判定し、肯定であれば、ステップS2にすすみ、否定であればステップS5にすすむ。
【0042】
ステップS2において、制御手段10aは系統#1が前回の制御周期において選択されて制御された状態であるか否かを判定して、肯定であればステップS3にすすみ、否定であれば、ステップS3をとばしてステップS4にすすむ。
【0043】
ステップS3において、制御手段10aはポンプ3の駆動数を+1加算して、ステップS4において、制御手段10aは、要求減速度より演算されてRAMに格納されている、目標制御油圧tag_pWC1R、tag_pWC1Lと、目標昇圧勾配tag_dpWC1R、tag_dpWC1Lを読み込む。
【0044】
ステップS1において、否定と判定された場合には、ステップS5にすすみ、制御手段10aは系統#1が前回の制御周期において選択されて制御された状態であるか否かを判定して、肯定であればステップS6にすすみ、否定であれば、ステップS6をとばしてステップS7にすすむ。
【0045】
ステップS6において、制御手段10aはポンプ3の駆動数を−1加算して、ステップS7において、制御手段10aは、要求減速度より演算されてRAMに格納されている、目標制御油圧tag_pWC1R、tag_pWC1Lと、目標昇圧勾配tag_dpWC1R、tag_dpWC1Lをリセットする。
【0046】
ステップ8において、ブレーキECU10の制御手段10aは、系統#2が今回の制御周期において選択されて制御されている状態であるか否かを判定し、肯定であれば、ステップS9にすすみ、否定であればステップS12にすすむ。
【0047】
ステップS9において、制御手段10aは系統#2が前回の制御周期において選択されて制御された状態であるか否かを判定して、肯定であればステップS10にすすみ、否定であれば、ステップS10をとばしてステップS11にすすむ。
【0048】
ステップS10において、制御手段10aはポンプ3の駆動数を+1加算して、ステップS11において、制御手段10aは、要求減速度より演算されてRAMに格納されている、目標制御油圧tag_pWC2R、tag_pWC2Lと、目標昇圧勾配tag_dpWC2R、tag_dpWC2Lを読み込む。
【0049】
ステップS8において、否定と判定された場合には、ステップS12にすすみ、制御手段10aは系統#2が前回の制御周期において選択されて制御された状態であるか否かを判定して、肯定であればステップS13にすすみ、否定であれば、ステップS13をとばしてステップS14にすすむ。
【0050】
ステップS13において、制御手段10aはポンプ3の駆動数を−1加算して、ステップS14において、制御手段10aは、要求減速度より演算されてRAMに格納されている、目標制御油圧tag_pWC2R、tag_pWC2Lと、目標昇圧勾配tag_dpWC2R、tag_dpWC2Lをリセットする。
【0051】
ステップS15において、制御手段10aは、ステップS3、S6、S10、S13において設定されたポンプ駆動数が2であるか否かを判定し、肯定であればステップS16にすすみ、否定であればステップS20にすすむ。ステップS20において、制御手段10aは、目標制御油圧を基準圧PBに設定し、開単位時間TOを変動周期TQである基準周期TBに設定する設定処理を実行する。
【0052】
ステップS16において、制御手段10aは、対象となる系統#1及び/又は系統#2の保持弁4の開単位時間TOが前回の制御周期においてB_msecに変更されているか否かを判定し、肯定であればリターンにすすむ保持処理を実行し、否定であればステップS17にすすむ。
【0053】
ステップS17において、目標制御油圧tag_pWC1R、tag_pWC1L、tag_pWC2R、tag_pWC2Lが全て所定油圧以下であり、目標昇圧勾配tag_dpWC1R、tag_dpWC1L、tag_dpWC2R、tag_dpWC2Lが全て所定昇圧勾配以下であるか否かを判定し、肯定である場合には、ステップS18にすすみ、否定である場合には、ステップS19にすすむ。
【0054】
ステップS18において、制御手段10aは、目標制御油圧をA_Mpaに変更する変更処理を実行し、ステップS19において制御手段10aは、目標制御油圧を基準圧PBに戻して、開単位時間TOをB_msecに変更する再変更処理を実行する。ステップS1からステップS20までの処理は制御周期毎に制御手段10aにより繰り返し実行される。
【0055】
以上述べた制御内容により実現される本実施例の車両制動装置1によれば、以下のような作用効果を得ることができる。すなわち、調圧弁4の開単位時間TOをポンプ3の吐き出し流量Qの変動周期TQ=基準周期TBに一致するように設定して基本的に固定して、開単位時間TOと変動周期TQを合致させることにより、本実施例のようにポンプ3を安価な単数ピストン方式により構成し、変動周期TQ中の変動が図2中下段に示すように大きい場合においても、変動周期TQ一周期中にポンプ3が発生した吐き出し流量Qが油圧配管を伝播することに伴って調圧弁4を通過する流量を、変動周期TQ毎に流量Qの位相と調圧弁4の開閉の位相の相互関係に係わらずに一定として、吐き出し流量Qの変動を、調圧弁4の開単位時間TOにおける開動作により吸収することができる。
【0056】
つまり、ポンプ3の吐き出し口と調圧弁4及び調圧弁4の下流側に位置する保持弁6の間の油圧配管容量は車両搭載上制限されて一般的に小さく蓄圧機能を十分に具備することができないが、本実施例に示した車両制動装置1によれば、このような制約条件においてもポンプ3と調圧弁4及び保持弁6との間の油圧配管にダンパやアキュムレータを具備することなく、制御油圧を所望の昇圧勾配で制御することができ、制御油圧を適切に増圧し調圧することができる。
【0057】
さらに、本実施例の車両制動装置1においては、制御手段10aが、目標制御油圧が所定油圧以下であり、目標昇圧勾配が所定昇圧勾配以下である場合に、調圧弁4の閉単位時間TCを長くすることによりデューティ比を下げて、目標制御油圧を基準圧PBから基準圧PBより低い低基準圧A_Mpaに変更するので、目標制御油圧及び目標昇圧勾配がともに低い条件において、閉単位時間TCを長くしてデューティ比を下げて、ポンプ3の増圧に係わるモータ9の負担を低減して消費電力を低減し、作動音を低減することができる。
【0058】
加えて、本実施例の車両制動装置1においては、目標制御油圧が所定油圧より大きい、又は、目標昇圧勾配が所定昇圧勾配より大きい場合においては、制御手段10aは、閉単位時間TCを短くすることによりデューティ比を上げて目標制御油圧を基準圧PBに戻して、開単位時間TOをポンプ3の吐き出し流量の変動周期TQである基準周期TBよりも大きいB_msecとすることにより、目標制御油圧及び前記目標昇圧勾配のいずれかが比較的高い条件においては、閉単位時間TCを短くしてデューティ比を上げて、制御油圧を所望の昇圧勾配で制御することができ、これによっても、制御油圧を適切に増圧し調圧することができる。
【0059】
加えて、制御手段10aにより系統#1及び系統#2の双方を含む複系統の選択が制御周期を跨いで連続して実行されて、制御手段10aが、前述したように開単位時間TOを一旦ポンプ3の吐き出し流量の変動周期TQよりも大きいB_msecとした後は、制御手段10aが目標制御油圧を基準値PBに保持し、開単位時間TOを基準周期TBより長いB_msecに保持することにより、複系統が選択されることが連続して実行されて、目標制御油圧を基準圧PBに一旦戻して、開単位時間TOをポンプ3の吐き出し流量Qの変動周期TQである基準周期TBよりも大きいB_msecに一旦変更した後においては、目標制御油圧及び開単位時間TOの双方について制御周期を跨いでそのまま保持することとしているので、保持弁4の開動作タイミングとポンプ3の吐き出し流量Qの変動周期TQの非同期が発生して、制御油圧の昇圧勾配が変動することを極力低減することができる。
【0060】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。
【0061】
例えば、系統#1又は系統#2の単系統から系統#1及び系統#2を含む複系統に選択が切り換えられた場合には、ポンプ3を駆動するモータ9の負担する全体油圧配管容量が増大するため、ポンプ3の吐き出し流量Qの変動周期TQは長くなり、これとは逆に、複系統から単系統に選択が切り換えられた場合には、ポンプ3を駆動するモータ9の負担する全体油圧配管容量が減少するため、ポンプ3の吐き出し流量の変動周期TQは短くなる。選択の切り換え前後の変動周期TQは予め実験又はシミュレーション等で求めることができ、制御手段10aが求められた変動周期TQを記憶しておいて、切り換えを実行する毎に開単位時間TOを単系統の変動周期TQ又は複系統それぞれに対応する変動周期TQに合致させて変更することとしてもよい。
【0062】
さらに、ポンプ3の吐き出し流量を検出する流量センサ又は圧力センサを油圧配管上に具備することができる場合には、吐き出し流量Qの変動周期TQをリアルタイムで検出して、調圧弁4の開単位時間TOを変動周期TQに一致するようにブレーキECU10の制御手段10aによりフィードバック制御することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、車両制動装置に関するものであり、調圧弁による調圧をより適切に制御した上で、ポンプをより安価な吐き出し流量の時間的な変動が大きい例えば単数ピストン式のものとして、ポンプと調圧弁との間の油圧配管にダンパやアキュムレータ等の蓄圧性能を補完する部品を追加することを廃し、さらに、ポンプと調圧弁との間の油圧配管を、蓄圧性能を確保するために大きいものとすることを廃することができる。このため、本発明によれば、車両制動装置を構成する部品の単価を低減し、部品点数を削減し、さらに油圧配管容量を低減することができるので、車両全体としてのコストダウンを図ることができる。このため、本発明は、乗用車、トラック、バス等の様々な車両に適用して有益なものである。
【符号の説明】
【0064】
1 車両制動装置
2 マスターシリンダ
3 ポンプ
4 調圧弁
5 ホイールシリンダ
6 保持弁
7 減圧弁
8 リザーバ
9 モータ
10 ブレーキECU
10a 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペダルの操作に応じて基礎油圧から操作油圧を発生するマスターシリンダと、前記操作油圧を増圧するポンプと、前記増圧された前記操作油圧を調圧して制御油圧を発生する調圧弁と、前記操作油圧又は前記制御油圧を供給油圧としてホイールシリンダに供給する供給手段と、前記調圧弁の開単位時間を前記ポンプの吐き出し流量の変動周期に設定して閉単位時間を制御して前記制御油圧を目標制御油圧に制御する制御手段を含むことを特徴とする車両制動装置。
【請求項2】
前記マスターシリンダと、前記ポンプと、前記調圧弁と、前記操作油圧又は前記制御油圧を供給油圧としてホイールシリンダに供給する供給手段とを複系統含み、前記制御手段が前記複系統のうちいずれか一の単系統の選択と前記複系統の選択とを切り換えるとともに、前記制御手段が前記単系統から前記複系統に選択を切り換えた後、前記制御を実行するにあたって用いる前記供給油圧の目標制御油圧及び目標昇圧勾配について、前記目標制御油圧が所定油圧以下であり、前記目標昇圧勾配が所定昇圧勾配以下である場合に、前記制御手段が前記目標制御油圧を基準圧から前記基準圧より低い低基準圧に変更することを特徴とする請求項1に記載の車両制動装置。
【請求項3】
前記目標制御油圧が所定油圧より大きい、又は、前記目標昇圧勾配が所定昇圧勾配より大きい場合に、前記制御手段が前記目標制御油圧を基準圧に戻して、前記開単位時間を前記ポンプの吐き出し流量の変動周期よりも大きくすることを特徴とする請求項2に記載の車両制動装置。
【請求項4】
前記制御手段により前記複系統の選択が連続して実行されて、前記制御手段が、前記開単位時間を一旦前記ポンプの吐き出し流量の変動周期よりも大きくした後は、前記制御手段が前記目標制御油圧を前記基準値に保持し、前記開単位時間を保持することを特徴とする請求項3に記載の車両制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−234855(P2010−234855A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82628(P2009−82628)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】