車両制御システムおよび車両制御方法
【課題】運転者のアクセル操作量に対する最適な要求値を決定することにより、運転者の感性に即した加速を十分に実現しつつ、ドライバビリティの悪化を抑制することができる車両制御システムおよび車両制御方法を提案すること。
【解決手段】車両制御システムは、車両に加速度を発生する加速度発生装置(エンジン、T/M)と、運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル開度Paと、車両の車速vとに基づいて加速度発生装置を制御する車両制御装置とを備える。アクセル開度Paと要求加速度Gxとの関係は、加速度発生装置により発生可能な加速度である最小発生加速度Gxminに基づいて所定の特性を維持しつつ変更される。
【解決手段】車両制御システムは、車両に加速度を発生する加速度発生装置(エンジン、T/M)と、運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル開度Paと、車両の車速vとに基づいて加速度発生装置を制御する車両制御装置とを備える。アクセル開度Paと要求加速度Gxとの関係は、加速度発生装置により発生可能な加速度である最小発生加速度Gxminに基づいて所定の特性を維持しつつ変更される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システム、車両制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両制御においては、例えば特許文献1に示すように、車両の車速と、運転者がアクセルペダルを操作した際のアクセル操作量(アクセル開度、踏力等)とに基づいて運転者の要求する加速度である目標加速度を決定し、決定された目標加速度に基づいて例えばエンジンのスロットル開度、燃料噴射量、点火時期等を制御する、いわゆるトルクディマンド制御が行われている。トルクディマンド制御としては、例えば特許文献2〜5に示すように、ウェーバー・フェヒナーの法則(Weber-Fechner)を利用したものがある。ウェーバー・フェヒナーの法則によれば、「人間の感覚量は与えられた刺激量の物理量の対数に比例する。」とされており、ウェーバー・フェヒナーの法則を利用したトルクディマンド制御では、車速と、アクセル操作量と、ウェーバー・フェヒナーの法則を利用した指数関数とに基づいて要求値を決定し、要求値に基づいてエンジン等の出力制御が行われている。上記従来のトルクディマンド制御では、車速の上昇によって加速度の落ち込みが速くなったり、同一のアクセル操作量でなかなか定常状態にいたらず車速が上昇したりするため、運転者にとって違和感が発生する虞があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−025342号公報
【特許文献2】特開2008−254600号公報
【特許文献3】特開2009−057874号公報
【特許文献4】特開2009−057875号公報
【特許文献5】特開2009−083542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、トルクディマンド制御を行う車両制御システムにおいても、アイドルのオン時に例えばエンジンとトランスミッションとで発生可能な加速度に対応する値、例えば駆動力は、現在の車速v、変速比γ、ロックアップ付きトルクコンバータを備える場合はロックアップ係合状態、フューエルカット状態などによって限定される。従って、アイドルのオン時にトルクディマンド制御により決定された駆動力と実際に発生可能な駆動力とに差が生じることとなり、運転者がアクセル操作を行い、アイドルがオンからオフに切り替わった場合に、発生する駆動力に段差が生じたり、運転者がアクセルを踏み込んでも駆動力が発生しない不感帯が生じたりし、ドライバビリティが悪化する虞があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、運転者のアクセル操作量に対する最適な要求値を決定することにより、運転者の感性に即した加速を十分に実現することができ、ドライバビリティの悪化を抑制することができる車両制御システムおよび車両制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明では、車両に加速度を発生する加速度発生装置と、運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル操作量と、前記車両の車速とに基づいて前記加速度発生装置を制御する車両制御装置と、を備える車両制御システムであって、前記車両制御装置は、前記アクセル操作量と前記加速度に対応する要求値との関係に基づいて決定された要求値に基づいて前記加速度発生装置を制御するものであり、前記アクセル操作量と前記要求値との関係は、前記加速度発生装置により発生可能な前記加速度である発生加速度に基づいて所定の特性を維持しつつ変更されることを特徴とする。
【0007】
上記車両制御システムにおいて、前記発生加速度は、アイドルがオンからオフに切り替わる際に前記加速度発生装置により発生可能な前記加速度である最小発生加速度であることが好ましい。
【0008】
上記車両制御システムにおいて、前記アクセル操作量と前記要求値との関係は、前記アイドルがオンからオフに切り替わった場合における加速度である最小加速度を条件とするものであり、前記アイドルがオン時の前記最小加速度は、前記車速に応じて決定された値であり、前記アイドルがオンからオフに切り替わる場合における前記最小加速度は、前記最小発生加速度であることが好ましい。
【0009】
上記車両制御システムにおいて、前記アイドルがオン時の前記最小加速度は、前記最小発生加速度であることが好ましい。
【0010】
上記車両制御システムにおいて、前記所定の特性には、前記アクセル操作量の一定時における前記車速と前記加速度との関係により定められたアクセル一定時加速度に対応する値が前記アクセル操作量の一定時における要求値となることが含まれることが好ましい。
【0011】
上記車両制御システムにおいて、前記所定の特性には、前記アクセル操作量最大時に前記加速度発生装置により発生可能な前記加速度である最大発生加速度に対応する値が前記アクセル操作量最大時における要求値となることが含まれることが好ましい。
【0012】
また、本発明では、運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル操作量と、前記車両の車速とに基づいて車両に加速度を発生する加速度発生装置を制御する車両制御方法において、前記アクセル操作量と前記加速度に対応する要求値との関係に基づいて決定された要求値に基づいて前記加速度発生装置を制御するものであり、前記アクセル操作量と前記要求値との関係は、前記加速度発生装置により発生可能な発生加速度に基づいて所定の特性を維持しつつ変更されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る車両制御システムおよび車両制御方法では、アクセル操作量と要求値との関係は、加速度発生装置により発生可能な加速度である発生加速度に基づいて所定の特性を維持しつつ変更されるので、運転者のアクセル操作量に対する最適な要求値を決定することにより、運転者の感性に即した加速を十分に実現することができ、要求値に基づく加速度と発生加速度との差を抑制することが可能となり、ドライバビリティの悪化を抑制することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る車両制御システムは、アイドルがオンからオフに切り替わる場合における最小加速度を最小発生加速度とするので、アクセルがオンされた直後から車両に駆動力を発生することができる。従って、アクセルのオフからオンでの駆動力のつながりを補償でき、車両に発生する加速度が連続的に変化し、車両の発進や再加速を滑らかに実現することができる。
【0015】
また、本発明に係る車両制御システムでは、アクセル操作量と要求値との関係は、運転者のアクセル操作量が少なくとも一定時におけるアクセル操作量よりも大きい領域となると、さらに最大発生加速度を条件としているので、アクセル操作量の大きい領域において同一アクセル操作量での車両に発生する加速度と加速度発生装置が発生することができる加速度との差が大きくなることを抑制することができる。従って、最大発生加速度を考慮することにより、運転者の感性に即した加速を十分に実現することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る車両制御システムは、アクセル操作量最大時の要求値がアクセル操作量最大時の最大発生加速度に対応する値に決定されるので、最大発生加速度が車両に発生することとなり、加速度発生装置の最大出力を保証することができ、運転者の感性に即した加速を十分に実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施形態に係る車両制御システムの概略構成例を示す図である。
【図2】図2は、要求加速度とアクセル開度との関係を示す図である。
【図3】図3は、実施形態に係る車両制御システムによる車両制御方法を示す制御フロー図である。
【図4】図4は、実施形態に係る車両制御システムによる車両制御方法の一部を示す制御フロー図である。
【図5】図5は、一定アクセル開度における加速度と車速との関係を示す図である。
【図6】図6は、加速度とアクセル開度と車速との関係を示す図である。
【図7】図7は、加速度とアクセル開度と車速との関係を示す図である。
【図8】図8は、アクセル開度一定時における要求加速度と車速との関係を示す図である。
【図9】図9は、車速一定時における要求加速度とアクセル開度との関係を示す図である。
【図10】図10は、アクセル開度と時間との関係を示す図である。
【図11】図11は、要求加速度と時間との関係を示す図である。
【図12】図12は、スロットル開度と時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。また、下記の実施形態における加速度には、車両を加速させる方向の加速度のみならず、車両を減速させる方向の加速度も含まれる。
【0019】
図1は、実施形態に係る車両制御システムの概略構成例を示す図である。また、図2は、車速一定時における要求加速度とアクセル開度との関係を示す図である。
【0020】
運転者が搭乗する車両(以下、単に「車両CA」と称する)は、図1に示すように、少なくとも車両制御システム1が搭載されている。車両制御システム1は、アクセルセンサ2と、車速センサ3と、エンジン4と、トランスミッション(以下、単に「T/M」と称する。)5と、ECU6とにより構成されている。車両制御システム1は、アクセルセンサ2から出力されるアクセル操作量と、車速センサ3から出力される車速vとを入力値として、ECU6において要求値が決定され、決定された要求値に基づいてエンジン4およびT/M5が制御され、車両CAに要求値に応じた加速度G〔m/s2〕を発生させるものである。つまり、車両制御システム1は、要求値ディマンド制御を行うものである。ここで、車両制御システム1は、アクセル操作量と車速vとを入力値として要求値を決定するものであり、車両1に対する周辺車両や障害物との位置関係を入力値として要求値を決定することはない。また、要求値は、実施形態では、要求加速度Gx〔m/s2〕であるがこれに限定されるものではなく車両CAに発生する加速度Gに対応するものであれば良く、例えば要求駆動力Fo〔N〕であっても良い。なお、車両制御システム1は、アクセル操作量と車速v〔km/h〕とを入力値として要求車速を決定することはない。
【0021】
アクセルセンサ2は、運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル操作量を検出するものである。アクセルセンサ2は、実施形態では、運転者が操作する図示しないアクセルペダルの操作に応じたアクセル開度Pa〔%〕を検出するものである。アクセルセンサ2は、ECU6と接続されており、アクセル開度Paに係る信号がECU6に出力され、アクセル開度Paが入力値としてECU6により取得される。取得されたアクセル開度Paは、要求加速度Gx〔m/s2〕を決定する際に用いられる。
【0022】
車速センサ3は、車両CAの車速vを検出するものである。車速センサ3は、ECU6と接続されており、車速vに係る信号がECU6に出力され、車速vが入力値としてECU6により取得される。取得された車速vは、要求加速度Gxを決定する際に用いられる。ここで、車速センサ3は、車両CAの各車輪に取り付けられている車輪速センサ、エンジン4から図示しない駆動輪までの経路における回転体の回転数を検出するセンサなどに限られず、GPSに代表される車両CAの位置データを検出するセンサなどであっても良い。この場合は出力された位置データに基づいてECU6が車速vを算出する。
【0023】
エンジン4は、車両CAに加速度Gを発生する加速度発生装置を構成するものである。エンジン4は、動力源であり、燃料を燃焼させることにより燃料のエネルギを機械的仕事に変換して出力する熱機関であり、ピストン往復動機関である。エンジン4は図示しない燃料噴射装置、エンジン4の図示しない吸気系統に設けられたスロットル弁、エンジン4の図示しない燃焼室に設けられた点火プラグ及び各種センサ等を有しており、これら装置はECU6により制御される。エンジン4の図示しない出力軸は、T/M5の入力軸と連結されており、エンジン4が出力する機械的動力がT/M5を介して、図示しない駆動輪に伝達され、車両CAに加速度Gが発生する。エンジン4が発生するエンジントルクTは、ECU6により決定された要求加速度Gxに基づいて決定された目標エンジントルクToに基づいて制御される。なお、エンジン4には、出力軸の回転角位置(以下、「クランク角」と記す)を検出する図示しないクランク角センサが設けられており、クランク角に係る信号がECU6に出力され、クランク角が入力値としてECU6により取得される。
【0024】
T/M5は、車両CAに加速度Gを発生する加速度発生装置を構成するものである。T/M5は、エンジン4と駆動輪との間に設けられているものであり、エンジン4が発生した機械的動力を駆動輪に伝達するとともに、エンジントルクTを変換する図示しない自動変速機を備える動力伝達機構である。T/M5は、図示しないトルクコンバータ、自動変速機および各種センサ等を有しており、これら装置は、ECU6により制御される。T/M5の図示しない出力軸は、駆動輪と連結されている。T/M5の自動変速機の変速比γは、ECU6により決定された要求加速度Gxに基づいて決定された目標変速比γoに基づいて制御される。T/M5に伝達されたエンジントルクTは、変速比γに応じて変換され、駆動輪に伝達されることから、変速比γに応じて車両CAに発生する加速度Gが変化する。ここで、自動変速機は、有段変速機、無段変速機のいずれであっても良い。なお、有段変速機の場合は、目標変速比γoが目標変速段となる。
【0025】
ECU6は、運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル操作量と、車両CAの車速vとに基づいて加速度発生装置であるエンジン4およびT/M5を制御する車両制御装置である。つまり、ECU6は、エンジンECUおよびトランスミッションECUとしての機能を有する。ECU6は、算出された目標エンジントルクToに基づいて、噴射信号、点火信号、開度信号などをエンジン4に出力し、これらの出力信号によりエンジン4に供給される燃料の燃料供給量や噴射タイミングなどの燃料噴射制御、図示しない点火プラグの点火制御、スロットル弁の開度制御などが行われる。また、ECU6は、算出された目標変速比γoに基づいて、各種油圧制御信号などをT/M5に出力し、これらの出力信号によりT/M5の自動変速機の変速制御などが行われる。なお、ECU6のハード構成は、主に演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)、プログラムや情報を格納するメモリ(SRAMなどのRAM、EEPROMなどのROM(Read Only Memory))、入出力インターフェースなどから構成され、既知の車両に搭載されるECUと同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0026】
ECU6は、実施形態では、アクセル開度Paと、車両CAの車速vとに基づいて要求加速度Gxを決定し、決定された要求加速度Gxに基づいて動的要求加速度Gyを決定し、決定された動的要求加速度Gyに基づいて要求駆動力Foを決定し、決定された要求駆動力Foに基づいて目標エンジントルクToおよび目標変速比γoを決定し、決定された目標エンジントルクToおよび目標変速比γoに基づいてエンジン4およびT/M5を制御する。ECU6は、静的要求加速度算出部61と、動的要求加速度算出部62と、要求駆動力算出部63と、目標値算出部64とにより構成されている。
【0027】
静的要求加速度算出部61は、アクセル操作量の一定時における車速vと加速度Gとの関係(以下、単に「v−G関係」と称する。)により定められたアクセル操作量一定時加速度を条件とするアクセル操作量と要求値との関係に基づいて要求値である要求加速度Gxを決定するものである。静的要求加速度算出部61は、アクセル開度Paと車速vとに基づいて、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係により定められたアクセル一定時加速度Gx1を条件とするアクセル開度Paと要求加速度Gxとの関係(以下、単に「Pa−Gx関係」と称する。)に基づいて静的要求加速度である要求加速度Gxを算出し、動的要求加速度算出部62に出力する。静的要求加速度算出部61は、アクセル開度Paと、車速vと、ウェーバー・フェヒナー(Weber-Fechner)の法則に基づく指数関数(以下、単に「WF指数関数」と称する。)とに基づいて要求加速度Gxを算出する。WF指数関数は、任意の車速vにおいてアクセル開度Paが一定アクセル開度Pa1であると、任意の車速vにおけるアクセル一定時加速度Gx1が要求加速度Gxとして算出されるように定められている。従って、静的要求加速度算出部61は、同一車速vであり、かつ一定アクセル開度Pa1であると、同じアクセル一定時加速度Gx1が要求加速度Gxとして算出される。つまり、実施形態に係るPa−Gx関係は、WF指数関数に基づいて要求加速度Gxを算出するという所定の特性を有する。また、実施形態に係るPa−Gx関係は、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係により定められたアクセル一定時加速度Gx1を一定アクセル開度Pa1における要求加速度Gxとして算出するという所定の特性を有する。なお、一定アクセル開度Pa1は、実施形態では60%とするがこれに限定されるものではなく、車種、搭載される加速度発生装置の構成、車両CAの諸元などの諸条件で適宜設定されるものである。また、一定アクセル開度Pa1は、最大アクセル開度Pamaxに近くならない程度の大きいアクセル開度Paが好ましい。これは、一定アクセル開度Pa1が最大アクセル開度Pamaxに近づくと後述する関係線X2の傾きが大きくなるためである。
【0028】
ここで、Pa−Gx関係は、アクセル一定時加速度Gx1とともに、アイドルがオンからオフに切り替わった場合における加速度Gである最小加速度Gx0を条件とする。ここで、アイドルがオンとはアクセル開度Paが0%、すなわち全閉アクセル開度Pa0の状態(アクセルがオフ)をいい、アイドルがオフとは全閉アクセル開度Pa0以外である状態(アクセルがオン)をいう。WF指数関数は、アイドルがオン時、すなわち全閉アクセル開度Pa0であると、最小加速度Gx0が要求加速度Gxとして算出されるように定められている。実施形態では、アイドルがオンからオフに切り替わる際に加速度発生装置であるエンジン4およびT/M5により発生可能な加速度Gである最小発生加速度Gxmin、あるいは車速v応じて決定された値、すなわち設定最小加速度Gx0´のいずれかが最小加速度Gx0に決定される。最小発生加速度Gxminは、現在の車速v、変速比γ、ロックアップ付きトルクコンバータを備える場合はロックアップ係合状態、燃料流量学習値、燃料流量に対するフィードバック補正量、燃料流量に対する始動時における補正量、フューエルカット状態、エンジン水温、エアコンプレッサ負荷、オルタネータ負荷(電気負荷)、燃料流量に対する排気系統に備えられる触媒暖機補正量、燃料流量に対するエンジンストップ回避補正量、燃料流量に対するパージによる補正量、燃料流量に対する減速過渡時補正量などの要素に基づいて算出される。設定最小加速度Gx0´は、車速vとの関係で予め設定されているものであり、例えば図5に示すように、車速vの増加に伴い減少するように設定されている。
【0029】
静的要求加速度算出部61は、実施形態では、アイドルがオン時に設定最小加速度Gx0´を最小加速度Gx0に決定し、アイドルがオンからオフに切り替わった場合に、アイドルがオンからオフに切り替わる際の設定最小加速度Gx0´が算出された最小発生加速度Gxminと異なる場合は、最小発生加速度Gxminを最小加速度Gx0に決定し、さらにアイドルがオフ時に最小加速度Gx0を車速vに拘わらず上記最小発生加速度Gxminに維持する。つまり、アイドルがオン時、すなわちアクセル開度Paが全閉アクセル開度Pa0以外では、最小発生加速度Gxminを最小加速度Gx0とする。
【0030】
また、Pa−Gx関係は、アクセル開度Paが少なくとも一定アクセル開度Pa1よりも大きい領域となると、実施形態では、アクセル開度Paが一定アクセル開度Pa1よりも大きい境界アクセル開度Pa2(>Pa1)を超えると、アクセル開度Paが最大の100%(アクセル操作量最大)の場合、すなわち最大アクセル開度Pamax時にエンジン4およびT/M5により発生可能な加速度Gである最大発生加速度Gxmaxを条件とする。静的要求加速度算出部61は、任意の車速vにおいてアクセル開度Paが境界アクセル開度Pa2を超える場合、任意の車速vと境界アクセル開度Pa2とWF指数関数とにより基づいて算出された境界要求加速度Gx2を任意の車速vにおける最大発生加速度Gxmaxに基づいて補完することで要求加速度Gxを算出する。具体的には、静的要求加速度算出部61は、境界要求加速度Gx2および最大発生加速度Gxmaxに基づき線形補間を行うことで、要求加速度Gxを算出する。ここで、静的要求加速度算出部61は、任意の車速vにおいてアクセル開度Paが最大アクセル開度Pamaxである場合、任意の車速vにおける最大発生加速度Gxmaxを要求加速度Gxとして算出する。つまり、Pa−Gx関係は、最大アクセル開度Pamax時に要求加速度Gxが最大発生加速度Gxmaxとなるように定められる。従って、Pa−Gx関係は、図2に示すように、車速vにかかわらず、アクセル一定時加速度Gx1を含むアクセル開度Paと要求加速度Gxとの関係線X1(WF指数関数に基づく関係線)と、最大発生加速度Gxmaxを含むアクセル開度Paと要求加速度Gxとの関係線X2(境界要求加速度Gx2と最大発生加速度Gxmaxとの間を線形補間する関係線)とを組み合わせたものとなる。要求加速度Gxは、アクセル開度Paが0、すなわちアイドルがオンからアクセル一定時加速度Gx1、最小加速度Gxを条件とするWF指数関数に基づいて算出されるが、アクセル開度Paが少なくとも一定アクセル開度Pa1よりも大きい領域となると、加速度発生装置の最大出力特性を考慮して最大発生加速度Gxmaxにより補完される。つまり、実施形態に係るPa−Gx関係は、アクセル開度Paが少なくとも一定アクセル開度Pa1よりも大きい領域となると、要求加速度Gxが最大発生加速度Gxmaxにより補完されるという所定の特性を有する。また、実施形態に係るPa−Gx関係は、最大発生加速度Gxmaxが最大アクセル開度Pamaxにおける要求加速度Gxとなるという所定の特性を有する。なお、境界アクセル開度Pa2は、実施形態では80%とするがこれに限定されるものではなく、車種、搭載される加速度発生装置の構成、車両CAの諸元などの諸条件で適宜設定される。また、補完方法は、線形補間に限定されるものではなく、他の多項式補間などがある。
【0031】
動的要求加速度算出部62は、動的要求加速度Gy〔m/s2〕を決定するものである。動的要求加速度算出部62は、静的要求加速度算出部61において算出された要求加速度Gxに基づいて動的要求加速度Gyを算出し、要求駆動力算出部63に出力する。動的要求加速度算出部62は、動的フィルタを用いて車両CAに発生する加速度Gが決定された要求加速度Gxに至るまでの変化(カーブ)を決定する。従って、動的要求加速度算出部62は、アクセル開度Paに対する加速度Gに影響を与えるスロットル開度Saの応答性を変化させることができる。例えば、車両CAの発進時などは、加速度Gの応答性が低くなるように、動的フィルタによりなまし度合いを大きくして動的要求加速度Gyを算出し、滑らかな発進を可能とする。また、運転者によるアクセルの操作速度が速い場合などでは、加速度Gの応答性が高くなるように、動的フィルタによりなまし度合いを小さくして動的要求加速度Gyを算出し、エンジン4のスロットル弁を一時的に過剰に開かせて、高応答な加速度Gを車両CAに発生させる。つまり、ECU6は、静的要求加速度算出部61と動的要求加速度算出部62とを別々に設けることにより、静的要求加速度算出部61により決定されるアクセル開度Paに対するスロットル開度Saの非線形、すなわちアクセル開度Paに対する加速度Gの非線形と、動的要求加速度算出部62により決定されるアクセル開度に対するスロットル開度Saの応答性、すなわちアクセル開度Paに対する加速度Gの応答性を分離することができる。
【0032】
要求駆動力算出部63は、要求駆動力Foを決定するものである。要求駆動力算出部63は、動的要求加速度算出部62において算出された動的要求加速度Gyに基づいて要求駆動力Foを算出し、目標値算出部64に出力する。要求駆動力算出部63は、車両CAの諸元と走行抵抗とに基づいて算出される。要求駆動力算出部63は、例えば、動的要求加速度Gyと車両CAの質量とに基づいた駆動力と走行抵抗に基づいた駆動力とを加えた駆動力を要求駆動力Foとして算出する。
【0033】
目標値算出部64は、加速度発生装置を制御するための目標値を決定するものである。目標値算出部64は、要求駆動力算出部63において算出された要求駆動力Foに基づいて、目標エンジントルクToおよび目標変速比γoを算出する。なお、ECU6は、エンジン4が発生するエンジントルクTおよび変速比γが目標エンジントルクToおよび目標変速比γoとなるようにエンジン4およびT/M5を制御する。
【0034】
次に、車両制御システム1による車両制御方法について説明する。ここでは、アクセル開度Paおよび車速vに基づいて要求加速度Gxを決定する方法を説明する。なお、決定された要求加速度Gxに基づいてエンジン4およびT/M5を制御する方法は上記に説明したのでここでは省略する。図3は、実施形態に係る車両制御システムによる車両制御方法を示す制御フロー図である。図4は、実施形態に係る車両制御システムによる車両制御方法の一部を示す制御フロー図である。図5は、一定アクセル開度における加速度と車速との関係を示す図である。図6は、加速度とアクセル開度と車速との関係を示す図である。図7は、加速度とアクセル開度と車速との関係を示す図である。図8は、アクセル開度一定時における要求加速度と車速との関係を示す図である。図9は、車速一定時における要求加速度とアクセル開度との関係を示す図である。図10は、アクセル開度と時間との関係を示す図である。図11は、要求加速度と時間との関係を示す図である。図12は、スロットル開度と時間との関係を示す図である。
【0035】
まず、車両制御システム1のECU6は、図3に示すように、上述のように、アクセル開度Pa、車両CAの車速vを取得する(ステップST1)。
【0036】
次に、ECU6は、最小加速度Gx0を算出する(ステップST2)。まず、ECU6は、図4に示すように、アイドルがオンであるか否かを判断する(ステップST21)。ここでは、ECU6は、アクセル開度Paが全閉アクセル開度Pa0であるか否かを判断する。
【0037】
次に、ECU6は、アイドルがオンであると判断する(ステップST21肯定)と、アイドルがオンからオフに切り替わったか否かを判断する(ステップST22)。ここでは、ECU6は、アクセル開度Paが全閉アクセル開度Pa0から全閉アクセル開度Pa0以外になったか否かを判断することで、最小加速度Gx0を最小発生加速度Gxminに決定するか、設定最小加速度Gx0´に決定するかを判断する。
【0038】
次に、ECU6は、アイドルがオンからオフに切り替わったと判断する(ステップST22肯定)と、最小発生加速度Gxminを算出し、最小加速度Gx0を算出された最小発生加速度Gxminに決定(Gx0=Gxmin)する(ステップST23)。
【0039】
次に、ECU6は、動的フィルタをリセットする(ステップST24)。ここでは、ECU6は、アイドルがオンからオフに切り替わり、運転者が操作を開始する際に、動的フィルタをリセットするので、最小加速度Gx0である最小発生加速度Gxminに基づいて算出される要求加速度Gxに基づいて動的要求加速度算出部62が新たな動的フィルタを用いて動的要求加速度Gyを算出することができる。これにより、要求加速度Gxを最小加速度Gx0の変更に基づいて変更する場合に、動的フィルタをリセットしないことによる補正前の要求駆動力Foの影響を受けることを抑制することができる。
【0040】
次に、ECU6は、決定された最小加速度Gx0を前回最小加速度Gx0lastに決定(Gx0=Gx0last)する(ステップST25)。
【0041】
また、ECU6は、アイドルがオンからオフに切り替わっていないと判断する(ステップST22否定)と、車速vに基づいて設定最小加速度Gx0´を設定し、最小加速度Gx0を設定された設定最小加速度Gx0´に決定(Gx0=Gx0´)する(ステップST26)。
【0042】
また、ECU6は、アイドルがオフであると判断する(ステップST21否定)と、決定された前回最小加速度Gx0lastを最小加速度Gx0に決定(Gx0last=Gx0)する(ステップST27)。ここでは、ECU6は、アクセル開度Paが全閉アクセル開度Pa0から全閉アクセル開度Pa0以外となり、再度全閉アクセル開度Pa0となるまで、最小加速度Gx0をアイドルがオンからオフに切り替わった際に算出された最小発生加速度Gxminとする。
【0043】
次に、ECU6は、図3に示すように、アクセル一定時加速度Gx1を算出する(ステップST3)。ここでは、ECU6は、取得されたアクセル開度Paと、車速vと、下記の式(1)とによりアクセル一定時加速度Gx1を算出する。ここで、Aは、0より大きく、車速vが0のときの要求加速度Gxを定めるものである。Bは、0より小さく、車速vの増加に伴う要求加速度Gxの減速具合を定めるものである。AおよびBは、車種、搭載される加速度発生装置の構成、車両CAの諸元などの諸条件で適宜設定されるものであり、例えばA=5、B=−0.02であったり、A=6、B=−0.015であったりする。つまり、下記の式(1)にからアクセル開度Paの一定時におけるv−G関係が定められる。
Gx1=A×eB・v …(1)
【0044】
次に、ECU6は、C(v)を算出する(ステップST4)。ここでは、ECU6は、算出された最小加速度Gx0と、算出されたアクセル一定時加速度Gx1と、一定アクセル開度Pa1と、ウェーバー比kと、下記の式(2)とによりC(v)を算出する。ここで、ウェーバー比kは、例えば、車両CAの発進時や再加速時のコントロール性を考慮して適宜設定されるものであり、例えばk=1.2であったりする。
C(v)=(Gx1−Gx0)/Pa1k …(2)
【0045】
次に、ECU6は、アクセル開度Paが境界アクセル開度Pa2を超えるか否かを判断する(ステップST5)。ここでは、ECU6は、アクセル開度Paが境界アクセル開度Pa2を超えるか否かを判断することで、要求加速度GxをWF指数関数により算出するか、最大発生加速度Gxmaxに基づいた補完により算出するかを判断する。つまり、ECU6は、要求加速度Gxをアクセル一定時加速度Gx1を含むアクセル開度Paと要求加速度Gxとの関係線X1に基づいて決定するか、最大発生加速度Gxmaxを含むアクセル開度Paと要求加速度Gxとの関係線X2に基づいて決定するかを判断する。
【0046】
次に、ECU6は、アクセル開度Paが境界アクセル開度Pa2以下であると判断する(ステップST5否定)と、要求加速度Gxを算出する(ステップST6)。ここで、ECU6は、要求加速度GxをWF指数関数に基づいて算出する。ECU6は、アクセル開度Paと、算出されたC(v)と、算出された最小加速度Gx0と、下記の式(3)とにより要求加速度Gxを算出する。
Gx=C(v)Pak+Gx0 …(3)
【0047】
また、ECU6は、アクセル開度Paが境界アクセル開度Pa2を超えると判断する(ステップST5肯定)と、境界要求加速度Gx2を算出する(ステップST7)。ここで、ECU6は、境界アクセル開度Pa2と、算出されたC(v)と、算出された最小加速度Gx0と、下記の式(4)とにより境界要求加速度Gx2を算出する。
Gx2=C(v)Pa2k+Gx0 …(4)
【0048】
次に、ECU6は、要求加速度Gxを算出する(ステップST8)。ここで、ECU6は、要求加速度Gxを最大発生加速度Gxmaxに基づいて算出する。ECU6は、アクセル開度Paと、最大アクセル開度Pamaxと、境界アクセル開度Pa2と、最大発生加速度Gxmaxと、算出された境界要求加速度Gx2と、下記の式(5)とにより要求加速度Gxを算出する。
Gx=(Gxmax−Gx2)/(Pamax−Pa2)Pa+Gx2 …(5)
【0049】
以上のように、実施形態に係る車両制御システム1においては、要求加速度Gxを決定するに際して、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係が影響を与える。実施形態では、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係は、式(1)により図5に示す実線のように設計することができる。同図における一点鎖線は、アクセル開度Paの全域にウェーバー・フェヒナーの法則を適用した場合(以下、「全域WF領域」と称する)の一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係である。上記WF指数関数は、任意の車速vにおいてアクセル開度Paが全閉アクセル開度Pa0であると任意の車速vにおける最小加速度Gx0が、最大アクセル開度Pamaxであると任意の車速vにおける最大発生加速度Gxmaxが要求加速度Gxとして算出されるように定められている。同図に示すように、実施形態における一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係は、全域WF領域の場合と比較して、車速vの増加に伴い車両CAに発生する加速度Gが全体的に緩やかに減少するように設計されている。つまり、実施形態における一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係は、車速vと加速度Gとの傾きが均一に近くなるように設計されている。従って、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係は、全域WF領域の場合では最大発生加速度Gxmaxの影響を受けて決定されるが、実施形態では最大発生加速度Gxmaxの影響を受け難くなる。これにより、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係を条件とするPa−Gx関係では、一定アクセル開度Pa1に保ったときの車速方向の車両CAに発生する加速度Gを設計することができる。
【0050】
例えば、全域WF領域の場合におけるアクセル開度Paと加速度Gの関係(以下、単に「Pa−G関係」と称する。)では、一定アクセル開度Pa1において、図6に示す実線の0〔km/h〕における加速度Gと同図に示す一点鎖線の50〔km/h〕における加速度Gとの加速度変化ΔG1と、50〔km/h〕における加速度Gと同図に示す二点鎖線の100〔km/h〕における加速度Gとの加速度変化ΔG2とでは、加速度変化ΔG1が加速度変化ΔG2よりも著しく大きくなる。従って、一定アクセル開度Pa1でも、車速vによって加速度Gが大きく変化することとなる。このように、全域WF領域の場合におけるPa−G関係では、一定アクセル開度Pa1における車速方向の加速度Gの設計をすることが困難である。しかしながら、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係を条件とするPa−Gx関係(Pa−G関係)では、一定アクセル開度Pa1において、図7に示す実線の0〔km/h〕における加速度Gと同図に示す一点鎖線の50〔km/h〕における加速度Gとの加速度変化ΔG3と、50〔km/h〕における加速度Gと同図に示す二点鎖線の100〔km/h〕における加速度Gとの加速度変化ΔG4との差が、加速度変化ΔG1と加速度変化ΔG2との差と比較して小さくなっている。従って、一定アクセル開度Pa1でも、車速vによって加速度Gが大きく変化することを抑制することができている。このように、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係を条件とするPa−Gx関係では、一定アクセル開度Pa1における車速方向の加速度Gの設計をすることができる。以上のことから、運転者のアクセル開度Paに対する最適な要求加速度Gxを決定することにより、運転者の感性に即した加速を十分に実現することができる。また、同じアクセル開度Paであれば、車速vに関わらず運転者に近似した加速感を与えることができる。
【0051】
また、最小加速度Gx0と一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係とを条件とするだけのPa−Gx関係では、アクセル開度Paが最大アクセル開度Pamaxとなっても、要求加速度Gxが最大発生加速度Gxmaxよりも小さくなる。従って、アクセル開度Paが最大アクセル開度Pamaxに近づくにつれ、加速度Gと加速度発生装置であるエンジン4およびT/M5により発生可能な加速度Gとの差が広がる虞がある。そこで、実施形態に係る車両制御システム1におけるPa−Gx関係は、アクセル開度Paが一定アクセル開度Pa1よりも大きい境界アクセル開度Pa2を超えると、最小加速度Gx0と一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係と最大発生加速度Gxmaxとを条件とする。実施形態に係るPa−Gx関係は、ウェーバー・フェヒナーの法則に基づいたPa−Gx関係である第1Pa−Gx関係(上記式(3))と、最大アクセル開度Pamax時に要求加速度Gxが最大発生加速度Gxmaxとなるように最大発生加速度Gxmaxに基づいて補完を行うPa−Gx関係である第2Pa−Gx関係(上記式(5))とにより構成されている。図8に示すように、アクセル開度Paが境界アクセル開度Pa2以下のときには、第1Pa−Gx関係が適用される(WF領域)。また、アクセル開度Paが境界アクセル開度Pa2を超えるときには、第2Pa−Gx関係が適用される(補完領域)。従って、アクセル開度Paの大きい領域において同一アクセル開度Paでの車両CAに発生する加速度Gと加速度発生装置であるエンジン4およびT/M5が発生することができる加速度Gとの差が大きくなることを抑制することができる。これにより、最大発生加速度Gxmaxを考慮することにより、運転者の感性に即した加速を十分に実現することができる。
【0052】
また、第2Pa−Gx関係では、最大アクセル開度Pamax時に要求加速度Gxが最大発生加速度Gxmaxとなるので、最大アクセル開度Pamax時に最大発生加速度Gxmaxが車両CAに発生することとなる。従って、エンジン4の最大出力を保証することができ、運転者の感性に即した加速を十分に実現することができる。
【0053】
そこで、実施形態に係る車両制御システム1におけるPa−Gx関係は、アイドルがオンからオフに切り替わった場合における最小加速度Gx0をアイドルがオンからオフに切り替わる際の設定最小加速度Gx0´が算出された最小発生加速度Gxminと異なる場合に最小発生加速度Gxminを最小加速度Gx0に決定する。従って、図9に示す一点鎖線のように、アイドルがオンからオフに切り替わる際の最小加速度Gx0を最小発生加速度Gxminよりも大きい設定最小加速度Gx0´とした場合(Gxmin<Gx0)や、同図に示す二点鎖線のように、アイドルがオンからオフに切り替わる際の最小加速度Gx0を最小発生加速度Gxminよりも小さい設定最小加速度Gx0´とした場合(Gxmin>Gx0)であっても、同図に示す実線のように、アイドルがオンからオフに切り替わる際の最小加速度Gx0が最小発生加速度Gxminに決定される(Gxmin=Gx0)。これにより、アクセル開度Paが全閉アクセル開度Pa0から全閉アクセル開度Pa0以外に変化したとき、すなわちアイドルがオンからオフに切り替わったとき(図10参照)に、最小加速度Gx0が最小発生加速度Gxminとなる(図11参照)。図12に示す一点鎖線のように、Gxmin<Gx0では要求加速度GxをGxminからGx0に変化させることとなるため、アクセル開度Paに対するスロットル開度Saはアクセルがオンされた時から著しく上昇するので、車両CAに発生する駆動力に段差が生じてしまう。また、図12に示す二点鎖線のように、Gxmin>Gx0では要求加速度GxがGx0からGxminとなるまで、車両CAに発生する加速度Gが変化しないこととなるため、アクセル開度Paに対するスロットル開度Saはアクセルがオンされてからしばらくの間変化しないので、車両CAに駆動力が発生しない不感帯が生じてしまう。しかしながら、図12に示す実線のように、Gxmin=Gx0ではアクセルがオンされた直後の要求加速度GxがGxminであるので、アクセルがオンされた直後におけるアクセル開度Paに対するスロットル開度SaはGxmin<Gx0とGxmin>Gx0との間となり、アクセルがオンされた直後から車両CAに駆動力を発生することができる。従って、アクセルのオフからオンでの駆動力のつながりを補償でき、車両CAに発生する加速度Gが連続的に変化し、車両CAの発進や再加速を滑らかに実現することができる。また、アイドルがオンからオフに切り替わる場合に、最小加速度Gx0を最小発生加速度Gxminとするので、運転者によるアクセル操作中、例えばアクセル開度Paが一定の状態で要求加速度Gxが最小加速度Gx0の変更に基づいて変更されることによる加速度Gの変動を抑制することができる。
【0054】
また、実施形態に係る車両制御システム1におけるPa−Gx関係は、加速度発生装置であるエンジン4およびT/M5により発生可能な発生加速度、実施の形態では、最小発生加速度Gxminに基づいて所定の特性を維持しつつ変更されることとなる。従って、運転者の感性に即した加速を十分に実現しつつ、車両CAの発進や再加速を滑らかに実現することができ、要求加速度Gxと発生加速度との差を抑制することが可能となり、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。
【0055】
なお、上記実施形態では、Pa−Gx関係において最大発生加速度Gxmaxを条件としたが本発明はこれに限定されるものではなく、最大発生加速度Gxmaxを条件としなくても良い。つまり、アクセル開度Paの全域において、WF指数関数に基づいて要求加速度Gxを算出しても良い。この場合は、Pa−Gx関係における条件であるアクセル操作量の一定時におけるv−G関係を最大アクセル開度Pamax時に要求加速度Gxが最大発生加速度Gxmaxに近づくように設計することが好ましい。
【0056】
また、要求駆動力Foを算出する際に、走行抵抗を考慮したが、走行抵抗は考慮しなくても良い。また、上記実施形態では、加速度発生装置をエンジン4とT/M5としたがこれに限定されるものではなく、動力源としてモータと、モータの出力であるモータトルクを変換することができる動力伝達機構により構成されていても良い。また、T/M5がロックアップクラッチを有している場合は、ロックアップクラッチも加速度発生装置を構成する。これは、ロックアップクラッチのクラッチ状態によって、ロックアップクラッチの下流側に伝達されるエンジン4が発生するエンジントルクTが変化し、車両CAに発生する加速度Gが変化するためである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上のように、車両制御システムおよび車両制御方法は、運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル操作量と、車両の車速とに基づいて車両に作用する加速度に対応する要求値を決定する車両制御システムおよび車両制御方法に有用であり、特に、運転者のアクセル操作量に対する最適な目標加速度を決定することにより、運転者の感性に即した加速を十分に実現するのに適している。
【符号の説明】
【0058】
1 車両制御システム
2 アクセルセンサ
3 車速センサ
4 エンジン
5 トランスミッション(T/M)
6 ECU
61 静的要求加速度算出部
62 動的要求加速度算出部
63 要求駆動力算出部
64 目標値算出部
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システム、車両制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両制御においては、例えば特許文献1に示すように、車両の車速と、運転者がアクセルペダルを操作した際のアクセル操作量(アクセル開度、踏力等)とに基づいて運転者の要求する加速度である目標加速度を決定し、決定された目標加速度に基づいて例えばエンジンのスロットル開度、燃料噴射量、点火時期等を制御する、いわゆるトルクディマンド制御が行われている。トルクディマンド制御としては、例えば特許文献2〜5に示すように、ウェーバー・フェヒナーの法則(Weber-Fechner)を利用したものがある。ウェーバー・フェヒナーの法則によれば、「人間の感覚量は与えられた刺激量の物理量の対数に比例する。」とされており、ウェーバー・フェヒナーの法則を利用したトルクディマンド制御では、車速と、アクセル操作量と、ウェーバー・フェヒナーの法則を利用した指数関数とに基づいて要求値を決定し、要求値に基づいてエンジン等の出力制御が行われている。上記従来のトルクディマンド制御では、車速の上昇によって加速度の落ち込みが速くなったり、同一のアクセル操作量でなかなか定常状態にいたらず車速が上昇したりするため、運転者にとって違和感が発生する虞があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−025342号公報
【特許文献2】特開2008−254600号公報
【特許文献3】特開2009−057874号公報
【特許文献4】特開2009−057875号公報
【特許文献5】特開2009−083542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、トルクディマンド制御を行う車両制御システムにおいても、アイドルのオン時に例えばエンジンとトランスミッションとで発生可能な加速度に対応する値、例えば駆動力は、現在の車速v、変速比γ、ロックアップ付きトルクコンバータを備える場合はロックアップ係合状態、フューエルカット状態などによって限定される。従って、アイドルのオン時にトルクディマンド制御により決定された駆動力と実際に発生可能な駆動力とに差が生じることとなり、運転者がアクセル操作を行い、アイドルがオンからオフに切り替わった場合に、発生する駆動力に段差が生じたり、運転者がアクセルを踏み込んでも駆動力が発生しない不感帯が生じたりし、ドライバビリティが悪化する虞があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、運転者のアクセル操作量に対する最適な要求値を決定することにより、運転者の感性に即した加速を十分に実現することができ、ドライバビリティの悪化を抑制することができる車両制御システムおよび車両制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明では、車両に加速度を発生する加速度発生装置と、運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル操作量と、前記車両の車速とに基づいて前記加速度発生装置を制御する車両制御装置と、を備える車両制御システムであって、前記車両制御装置は、前記アクセル操作量と前記加速度に対応する要求値との関係に基づいて決定された要求値に基づいて前記加速度発生装置を制御するものであり、前記アクセル操作量と前記要求値との関係は、前記加速度発生装置により発生可能な前記加速度である発生加速度に基づいて所定の特性を維持しつつ変更されることを特徴とする。
【0007】
上記車両制御システムにおいて、前記発生加速度は、アイドルがオンからオフに切り替わる際に前記加速度発生装置により発生可能な前記加速度である最小発生加速度であることが好ましい。
【0008】
上記車両制御システムにおいて、前記アクセル操作量と前記要求値との関係は、前記アイドルがオンからオフに切り替わった場合における加速度である最小加速度を条件とするものであり、前記アイドルがオン時の前記最小加速度は、前記車速に応じて決定された値であり、前記アイドルがオンからオフに切り替わる場合における前記最小加速度は、前記最小発生加速度であることが好ましい。
【0009】
上記車両制御システムにおいて、前記アイドルがオン時の前記最小加速度は、前記最小発生加速度であることが好ましい。
【0010】
上記車両制御システムにおいて、前記所定の特性には、前記アクセル操作量の一定時における前記車速と前記加速度との関係により定められたアクセル一定時加速度に対応する値が前記アクセル操作量の一定時における要求値となることが含まれることが好ましい。
【0011】
上記車両制御システムにおいて、前記所定の特性には、前記アクセル操作量最大時に前記加速度発生装置により発生可能な前記加速度である最大発生加速度に対応する値が前記アクセル操作量最大時における要求値となることが含まれることが好ましい。
【0012】
また、本発明では、運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル操作量と、前記車両の車速とに基づいて車両に加速度を発生する加速度発生装置を制御する車両制御方法において、前記アクセル操作量と前記加速度に対応する要求値との関係に基づいて決定された要求値に基づいて前記加速度発生装置を制御するものであり、前記アクセル操作量と前記要求値との関係は、前記加速度発生装置により発生可能な発生加速度に基づいて所定の特性を維持しつつ変更されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る車両制御システムおよび車両制御方法では、アクセル操作量と要求値との関係は、加速度発生装置により発生可能な加速度である発生加速度に基づいて所定の特性を維持しつつ変更されるので、運転者のアクセル操作量に対する最適な要求値を決定することにより、運転者の感性に即した加速を十分に実現することができ、要求値に基づく加速度と発生加速度との差を抑制することが可能となり、ドライバビリティの悪化を抑制することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る車両制御システムは、アイドルがオンからオフに切り替わる場合における最小加速度を最小発生加速度とするので、アクセルがオンされた直後から車両に駆動力を発生することができる。従って、アクセルのオフからオンでの駆動力のつながりを補償でき、車両に発生する加速度が連続的に変化し、車両の発進や再加速を滑らかに実現することができる。
【0015】
また、本発明に係る車両制御システムでは、アクセル操作量と要求値との関係は、運転者のアクセル操作量が少なくとも一定時におけるアクセル操作量よりも大きい領域となると、さらに最大発生加速度を条件としているので、アクセル操作量の大きい領域において同一アクセル操作量での車両に発生する加速度と加速度発生装置が発生することができる加速度との差が大きくなることを抑制することができる。従って、最大発生加速度を考慮することにより、運転者の感性に即した加速を十分に実現することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る車両制御システムは、アクセル操作量最大時の要求値がアクセル操作量最大時の最大発生加速度に対応する値に決定されるので、最大発生加速度が車両に発生することとなり、加速度発生装置の最大出力を保証することができ、運転者の感性に即した加速を十分に実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施形態に係る車両制御システムの概略構成例を示す図である。
【図2】図2は、要求加速度とアクセル開度との関係を示す図である。
【図3】図3は、実施形態に係る車両制御システムによる車両制御方法を示す制御フロー図である。
【図4】図4は、実施形態に係る車両制御システムによる車両制御方法の一部を示す制御フロー図である。
【図5】図5は、一定アクセル開度における加速度と車速との関係を示す図である。
【図6】図6は、加速度とアクセル開度と車速との関係を示す図である。
【図7】図7は、加速度とアクセル開度と車速との関係を示す図である。
【図8】図8は、アクセル開度一定時における要求加速度と車速との関係を示す図である。
【図9】図9は、車速一定時における要求加速度とアクセル開度との関係を示す図である。
【図10】図10は、アクセル開度と時間との関係を示す図である。
【図11】図11は、要求加速度と時間との関係を示す図である。
【図12】図12は、スロットル開度と時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。また、下記の実施形態における加速度には、車両を加速させる方向の加速度のみならず、車両を減速させる方向の加速度も含まれる。
【0019】
図1は、実施形態に係る車両制御システムの概略構成例を示す図である。また、図2は、車速一定時における要求加速度とアクセル開度との関係を示す図である。
【0020】
運転者が搭乗する車両(以下、単に「車両CA」と称する)は、図1に示すように、少なくとも車両制御システム1が搭載されている。車両制御システム1は、アクセルセンサ2と、車速センサ3と、エンジン4と、トランスミッション(以下、単に「T/M」と称する。)5と、ECU6とにより構成されている。車両制御システム1は、アクセルセンサ2から出力されるアクセル操作量と、車速センサ3から出力される車速vとを入力値として、ECU6において要求値が決定され、決定された要求値に基づいてエンジン4およびT/M5が制御され、車両CAに要求値に応じた加速度G〔m/s2〕を発生させるものである。つまり、車両制御システム1は、要求値ディマンド制御を行うものである。ここで、車両制御システム1は、アクセル操作量と車速vとを入力値として要求値を決定するものであり、車両1に対する周辺車両や障害物との位置関係を入力値として要求値を決定することはない。また、要求値は、実施形態では、要求加速度Gx〔m/s2〕であるがこれに限定されるものではなく車両CAに発生する加速度Gに対応するものであれば良く、例えば要求駆動力Fo〔N〕であっても良い。なお、車両制御システム1は、アクセル操作量と車速v〔km/h〕とを入力値として要求車速を決定することはない。
【0021】
アクセルセンサ2は、運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル操作量を検出するものである。アクセルセンサ2は、実施形態では、運転者が操作する図示しないアクセルペダルの操作に応じたアクセル開度Pa〔%〕を検出するものである。アクセルセンサ2は、ECU6と接続されており、アクセル開度Paに係る信号がECU6に出力され、アクセル開度Paが入力値としてECU6により取得される。取得されたアクセル開度Paは、要求加速度Gx〔m/s2〕を決定する際に用いられる。
【0022】
車速センサ3は、車両CAの車速vを検出するものである。車速センサ3は、ECU6と接続されており、車速vに係る信号がECU6に出力され、車速vが入力値としてECU6により取得される。取得された車速vは、要求加速度Gxを決定する際に用いられる。ここで、車速センサ3は、車両CAの各車輪に取り付けられている車輪速センサ、エンジン4から図示しない駆動輪までの経路における回転体の回転数を検出するセンサなどに限られず、GPSに代表される車両CAの位置データを検出するセンサなどであっても良い。この場合は出力された位置データに基づいてECU6が車速vを算出する。
【0023】
エンジン4は、車両CAに加速度Gを発生する加速度発生装置を構成するものである。エンジン4は、動力源であり、燃料を燃焼させることにより燃料のエネルギを機械的仕事に変換して出力する熱機関であり、ピストン往復動機関である。エンジン4は図示しない燃料噴射装置、エンジン4の図示しない吸気系統に設けられたスロットル弁、エンジン4の図示しない燃焼室に設けられた点火プラグ及び各種センサ等を有しており、これら装置はECU6により制御される。エンジン4の図示しない出力軸は、T/M5の入力軸と連結されており、エンジン4が出力する機械的動力がT/M5を介して、図示しない駆動輪に伝達され、車両CAに加速度Gが発生する。エンジン4が発生するエンジントルクTは、ECU6により決定された要求加速度Gxに基づいて決定された目標エンジントルクToに基づいて制御される。なお、エンジン4には、出力軸の回転角位置(以下、「クランク角」と記す)を検出する図示しないクランク角センサが設けられており、クランク角に係る信号がECU6に出力され、クランク角が入力値としてECU6により取得される。
【0024】
T/M5は、車両CAに加速度Gを発生する加速度発生装置を構成するものである。T/M5は、エンジン4と駆動輪との間に設けられているものであり、エンジン4が発生した機械的動力を駆動輪に伝達するとともに、エンジントルクTを変換する図示しない自動変速機を備える動力伝達機構である。T/M5は、図示しないトルクコンバータ、自動変速機および各種センサ等を有しており、これら装置は、ECU6により制御される。T/M5の図示しない出力軸は、駆動輪と連結されている。T/M5の自動変速機の変速比γは、ECU6により決定された要求加速度Gxに基づいて決定された目標変速比γoに基づいて制御される。T/M5に伝達されたエンジントルクTは、変速比γに応じて変換され、駆動輪に伝達されることから、変速比γに応じて車両CAに発生する加速度Gが変化する。ここで、自動変速機は、有段変速機、無段変速機のいずれであっても良い。なお、有段変速機の場合は、目標変速比γoが目標変速段となる。
【0025】
ECU6は、運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル操作量と、車両CAの車速vとに基づいて加速度発生装置であるエンジン4およびT/M5を制御する車両制御装置である。つまり、ECU6は、エンジンECUおよびトランスミッションECUとしての機能を有する。ECU6は、算出された目標エンジントルクToに基づいて、噴射信号、点火信号、開度信号などをエンジン4に出力し、これらの出力信号によりエンジン4に供給される燃料の燃料供給量や噴射タイミングなどの燃料噴射制御、図示しない点火プラグの点火制御、スロットル弁の開度制御などが行われる。また、ECU6は、算出された目標変速比γoに基づいて、各種油圧制御信号などをT/M5に出力し、これらの出力信号によりT/M5の自動変速機の変速制御などが行われる。なお、ECU6のハード構成は、主に演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)、プログラムや情報を格納するメモリ(SRAMなどのRAM、EEPROMなどのROM(Read Only Memory))、入出力インターフェースなどから構成され、既知の車両に搭載されるECUと同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0026】
ECU6は、実施形態では、アクセル開度Paと、車両CAの車速vとに基づいて要求加速度Gxを決定し、決定された要求加速度Gxに基づいて動的要求加速度Gyを決定し、決定された動的要求加速度Gyに基づいて要求駆動力Foを決定し、決定された要求駆動力Foに基づいて目標エンジントルクToおよび目標変速比γoを決定し、決定された目標エンジントルクToおよび目標変速比γoに基づいてエンジン4およびT/M5を制御する。ECU6は、静的要求加速度算出部61と、動的要求加速度算出部62と、要求駆動力算出部63と、目標値算出部64とにより構成されている。
【0027】
静的要求加速度算出部61は、アクセル操作量の一定時における車速vと加速度Gとの関係(以下、単に「v−G関係」と称する。)により定められたアクセル操作量一定時加速度を条件とするアクセル操作量と要求値との関係に基づいて要求値である要求加速度Gxを決定するものである。静的要求加速度算出部61は、アクセル開度Paと車速vとに基づいて、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係により定められたアクセル一定時加速度Gx1を条件とするアクセル開度Paと要求加速度Gxとの関係(以下、単に「Pa−Gx関係」と称する。)に基づいて静的要求加速度である要求加速度Gxを算出し、動的要求加速度算出部62に出力する。静的要求加速度算出部61は、アクセル開度Paと、車速vと、ウェーバー・フェヒナー(Weber-Fechner)の法則に基づく指数関数(以下、単に「WF指数関数」と称する。)とに基づいて要求加速度Gxを算出する。WF指数関数は、任意の車速vにおいてアクセル開度Paが一定アクセル開度Pa1であると、任意の車速vにおけるアクセル一定時加速度Gx1が要求加速度Gxとして算出されるように定められている。従って、静的要求加速度算出部61は、同一車速vであり、かつ一定アクセル開度Pa1であると、同じアクセル一定時加速度Gx1が要求加速度Gxとして算出される。つまり、実施形態に係るPa−Gx関係は、WF指数関数に基づいて要求加速度Gxを算出するという所定の特性を有する。また、実施形態に係るPa−Gx関係は、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係により定められたアクセル一定時加速度Gx1を一定アクセル開度Pa1における要求加速度Gxとして算出するという所定の特性を有する。なお、一定アクセル開度Pa1は、実施形態では60%とするがこれに限定されるものではなく、車種、搭載される加速度発生装置の構成、車両CAの諸元などの諸条件で適宜設定されるものである。また、一定アクセル開度Pa1は、最大アクセル開度Pamaxに近くならない程度の大きいアクセル開度Paが好ましい。これは、一定アクセル開度Pa1が最大アクセル開度Pamaxに近づくと後述する関係線X2の傾きが大きくなるためである。
【0028】
ここで、Pa−Gx関係は、アクセル一定時加速度Gx1とともに、アイドルがオンからオフに切り替わった場合における加速度Gである最小加速度Gx0を条件とする。ここで、アイドルがオンとはアクセル開度Paが0%、すなわち全閉アクセル開度Pa0の状態(アクセルがオフ)をいい、アイドルがオフとは全閉アクセル開度Pa0以外である状態(アクセルがオン)をいう。WF指数関数は、アイドルがオン時、すなわち全閉アクセル開度Pa0であると、最小加速度Gx0が要求加速度Gxとして算出されるように定められている。実施形態では、アイドルがオンからオフに切り替わる際に加速度発生装置であるエンジン4およびT/M5により発生可能な加速度Gである最小発生加速度Gxmin、あるいは車速v応じて決定された値、すなわち設定最小加速度Gx0´のいずれかが最小加速度Gx0に決定される。最小発生加速度Gxminは、現在の車速v、変速比γ、ロックアップ付きトルクコンバータを備える場合はロックアップ係合状態、燃料流量学習値、燃料流量に対するフィードバック補正量、燃料流量に対する始動時における補正量、フューエルカット状態、エンジン水温、エアコンプレッサ負荷、オルタネータ負荷(電気負荷)、燃料流量に対する排気系統に備えられる触媒暖機補正量、燃料流量に対するエンジンストップ回避補正量、燃料流量に対するパージによる補正量、燃料流量に対する減速過渡時補正量などの要素に基づいて算出される。設定最小加速度Gx0´は、車速vとの関係で予め設定されているものであり、例えば図5に示すように、車速vの増加に伴い減少するように設定されている。
【0029】
静的要求加速度算出部61は、実施形態では、アイドルがオン時に設定最小加速度Gx0´を最小加速度Gx0に決定し、アイドルがオンからオフに切り替わった場合に、アイドルがオンからオフに切り替わる際の設定最小加速度Gx0´が算出された最小発生加速度Gxminと異なる場合は、最小発生加速度Gxminを最小加速度Gx0に決定し、さらにアイドルがオフ時に最小加速度Gx0を車速vに拘わらず上記最小発生加速度Gxminに維持する。つまり、アイドルがオン時、すなわちアクセル開度Paが全閉アクセル開度Pa0以外では、最小発生加速度Gxminを最小加速度Gx0とする。
【0030】
また、Pa−Gx関係は、アクセル開度Paが少なくとも一定アクセル開度Pa1よりも大きい領域となると、実施形態では、アクセル開度Paが一定アクセル開度Pa1よりも大きい境界アクセル開度Pa2(>Pa1)を超えると、アクセル開度Paが最大の100%(アクセル操作量最大)の場合、すなわち最大アクセル開度Pamax時にエンジン4およびT/M5により発生可能な加速度Gである最大発生加速度Gxmaxを条件とする。静的要求加速度算出部61は、任意の車速vにおいてアクセル開度Paが境界アクセル開度Pa2を超える場合、任意の車速vと境界アクセル開度Pa2とWF指数関数とにより基づいて算出された境界要求加速度Gx2を任意の車速vにおける最大発生加速度Gxmaxに基づいて補完することで要求加速度Gxを算出する。具体的には、静的要求加速度算出部61は、境界要求加速度Gx2および最大発生加速度Gxmaxに基づき線形補間を行うことで、要求加速度Gxを算出する。ここで、静的要求加速度算出部61は、任意の車速vにおいてアクセル開度Paが最大アクセル開度Pamaxである場合、任意の車速vにおける最大発生加速度Gxmaxを要求加速度Gxとして算出する。つまり、Pa−Gx関係は、最大アクセル開度Pamax時に要求加速度Gxが最大発生加速度Gxmaxとなるように定められる。従って、Pa−Gx関係は、図2に示すように、車速vにかかわらず、アクセル一定時加速度Gx1を含むアクセル開度Paと要求加速度Gxとの関係線X1(WF指数関数に基づく関係線)と、最大発生加速度Gxmaxを含むアクセル開度Paと要求加速度Gxとの関係線X2(境界要求加速度Gx2と最大発生加速度Gxmaxとの間を線形補間する関係線)とを組み合わせたものとなる。要求加速度Gxは、アクセル開度Paが0、すなわちアイドルがオンからアクセル一定時加速度Gx1、最小加速度Gxを条件とするWF指数関数に基づいて算出されるが、アクセル開度Paが少なくとも一定アクセル開度Pa1よりも大きい領域となると、加速度発生装置の最大出力特性を考慮して最大発生加速度Gxmaxにより補完される。つまり、実施形態に係るPa−Gx関係は、アクセル開度Paが少なくとも一定アクセル開度Pa1よりも大きい領域となると、要求加速度Gxが最大発生加速度Gxmaxにより補完されるという所定の特性を有する。また、実施形態に係るPa−Gx関係は、最大発生加速度Gxmaxが最大アクセル開度Pamaxにおける要求加速度Gxとなるという所定の特性を有する。なお、境界アクセル開度Pa2は、実施形態では80%とするがこれに限定されるものではなく、車種、搭載される加速度発生装置の構成、車両CAの諸元などの諸条件で適宜設定される。また、補完方法は、線形補間に限定されるものではなく、他の多項式補間などがある。
【0031】
動的要求加速度算出部62は、動的要求加速度Gy〔m/s2〕を決定するものである。動的要求加速度算出部62は、静的要求加速度算出部61において算出された要求加速度Gxに基づいて動的要求加速度Gyを算出し、要求駆動力算出部63に出力する。動的要求加速度算出部62は、動的フィルタを用いて車両CAに発生する加速度Gが決定された要求加速度Gxに至るまでの変化(カーブ)を決定する。従って、動的要求加速度算出部62は、アクセル開度Paに対する加速度Gに影響を与えるスロットル開度Saの応答性を変化させることができる。例えば、車両CAの発進時などは、加速度Gの応答性が低くなるように、動的フィルタによりなまし度合いを大きくして動的要求加速度Gyを算出し、滑らかな発進を可能とする。また、運転者によるアクセルの操作速度が速い場合などでは、加速度Gの応答性が高くなるように、動的フィルタによりなまし度合いを小さくして動的要求加速度Gyを算出し、エンジン4のスロットル弁を一時的に過剰に開かせて、高応答な加速度Gを車両CAに発生させる。つまり、ECU6は、静的要求加速度算出部61と動的要求加速度算出部62とを別々に設けることにより、静的要求加速度算出部61により決定されるアクセル開度Paに対するスロットル開度Saの非線形、すなわちアクセル開度Paに対する加速度Gの非線形と、動的要求加速度算出部62により決定されるアクセル開度に対するスロットル開度Saの応答性、すなわちアクセル開度Paに対する加速度Gの応答性を分離することができる。
【0032】
要求駆動力算出部63は、要求駆動力Foを決定するものである。要求駆動力算出部63は、動的要求加速度算出部62において算出された動的要求加速度Gyに基づいて要求駆動力Foを算出し、目標値算出部64に出力する。要求駆動力算出部63は、車両CAの諸元と走行抵抗とに基づいて算出される。要求駆動力算出部63は、例えば、動的要求加速度Gyと車両CAの質量とに基づいた駆動力と走行抵抗に基づいた駆動力とを加えた駆動力を要求駆動力Foとして算出する。
【0033】
目標値算出部64は、加速度発生装置を制御するための目標値を決定するものである。目標値算出部64は、要求駆動力算出部63において算出された要求駆動力Foに基づいて、目標エンジントルクToおよび目標変速比γoを算出する。なお、ECU6は、エンジン4が発生するエンジントルクTおよび変速比γが目標エンジントルクToおよび目標変速比γoとなるようにエンジン4およびT/M5を制御する。
【0034】
次に、車両制御システム1による車両制御方法について説明する。ここでは、アクセル開度Paおよび車速vに基づいて要求加速度Gxを決定する方法を説明する。なお、決定された要求加速度Gxに基づいてエンジン4およびT/M5を制御する方法は上記に説明したのでここでは省略する。図3は、実施形態に係る車両制御システムによる車両制御方法を示す制御フロー図である。図4は、実施形態に係る車両制御システムによる車両制御方法の一部を示す制御フロー図である。図5は、一定アクセル開度における加速度と車速との関係を示す図である。図6は、加速度とアクセル開度と車速との関係を示す図である。図7は、加速度とアクセル開度と車速との関係を示す図である。図8は、アクセル開度一定時における要求加速度と車速との関係を示す図である。図9は、車速一定時における要求加速度とアクセル開度との関係を示す図である。図10は、アクセル開度と時間との関係を示す図である。図11は、要求加速度と時間との関係を示す図である。図12は、スロットル開度と時間との関係を示す図である。
【0035】
まず、車両制御システム1のECU6は、図3に示すように、上述のように、アクセル開度Pa、車両CAの車速vを取得する(ステップST1)。
【0036】
次に、ECU6は、最小加速度Gx0を算出する(ステップST2)。まず、ECU6は、図4に示すように、アイドルがオンであるか否かを判断する(ステップST21)。ここでは、ECU6は、アクセル開度Paが全閉アクセル開度Pa0であるか否かを判断する。
【0037】
次に、ECU6は、アイドルがオンであると判断する(ステップST21肯定)と、アイドルがオンからオフに切り替わったか否かを判断する(ステップST22)。ここでは、ECU6は、アクセル開度Paが全閉アクセル開度Pa0から全閉アクセル開度Pa0以外になったか否かを判断することで、最小加速度Gx0を最小発生加速度Gxminに決定するか、設定最小加速度Gx0´に決定するかを判断する。
【0038】
次に、ECU6は、アイドルがオンからオフに切り替わったと判断する(ステップST22肯定)と、最小発生加速度Gxminを算出し、最小加速度Gx0を算出された最小発生加速度Gxminに決定(Gx0=Gxmin)する(ステップST23)。
【0039】
次に、ECU6は、動的フィルタをリセットする(ステップST24)。ここでは、ECU6は、アイドルがオンからオフに切り替わり、運転者が操作を開始する際に、動的フィルタをリセットするので、最小加速度Gx0である最小発生加速度Gxminに基づいて算出される要求加速度Gxに基づいて動的要求加速度算出部62が新たな動的フィルタを用いて動的要求加速度Gyを算出することができる。これにより、要求加速度Gxを最小加速度Gx0の変更に基づいて変更する場合に、動的フィルタをリセットしないことによる補正前の要求駆動力Foの影響を受けることを抑制することができる。
【0040】
次に、ECU6は、決定された最小加速度Gx0を前回最小加速度Gx0lastに決定(Gx0=Gx0last)する(ステップST25)。
【0041】
また、ECU6は、アイドルがオンからオフに切り替わっていないと判断する(ステップST22否定)と、車速vに基づいて設定最小加速度Gx0´を設定し、最小加速度Gx0を設定された設定最小加速度Gx0´に決定(Gx0=Gx0´)する(ステップST26)。
【0042】
また、ECU6は、アイドルがオフであると判断する(ステップST21否定)と、決定された前回最小加速度Gx0lastを最小加速度Gx0に決定(Gx0last=Gx0)する(ステップST27)。ここでは、ECU6は、アクセル開度Paが全閉アクセル開度Pa0から全閉アクセル開度Pa0以外となり、再度全閉アクセル開度Pa0となるまで、最小加速度Gx0をアイドルがオンからオフに切り替わった際に算出された最小発生加速度Gxminとする。
【0043】
次に、ECU6は、図3に示すように、アクセル一定時加速度Gx1を算出する(ステップST3)。ここでは、ECU6は、取得されたアクセル開度Paと、車速vと、下記の式(1)とによりアクセル一定時加速度Gx1を算出する。ここで、Aは、0より大きく、車速vが0のときの要求加速度Gxを定めるものである。Bは、0より小さく、車速vの増加に伴う要求加速度Gxの減速具合を定めるものである。AおよびBは、車種、搭載される加速度発生装置の構成、車両CAの諸元などの諸条件で適宜設定されるものであり、例えばA=5、B=−0.02であったり、A=6、B=−0.015であったりする。つまり、下記の式(1)にからアクセル開度Paの一定時におけるv−G関係が定められる。
Gx1=A×eB・v …(1)
【0044】
次に、ECU6は、C(v)を算出する(ステップST4)。ここでは、ECU6は、算出された最小加速度Gx0と、算出されたアクセル一定時加速度Gx1と、一定アクセル開度Pa1と、ウェーバー比kと、下記の式(2)とによりC(v)を算出する。ここで、ウェーバー比kは、例えば、車両CAの発進時や再加速時のコントロール性を考慮して適宜設定されるものであり、例えばk=1.2であったりする。
C(v)=(Gx1−Gx0)/Pa1k …(2)
【0045】
次に、ECU6は、アクセル開度Paが境界アクセル開度Pa2を超えるか否かを判断する(ステップST5)。ここでは、ECU6は、アクセル開度Paが境界アクセル開度Pa2を超えるか否かを判断することで、要求加速度GxをWF指数関数により算出するか、最大発生加速度Gxmaxに基づいた補完により算出するかを判断する。つまり、ECU6は、要求加速度Gxをアクセル一定時加速度Gx1を含むアクセル開度Paと要求加速度Gxとの関係線X1に基づいて決定するか、最大発生加速度Gxmaxを含むアクセル開度Paと要求加速度Gxとの関係線X2に基づいて決定するかを判断する。
【0046】
次に、ECU6は、アクセル開度Paが境界アクセル開度Pa2以下であると判断する(ステップST5否定)と、要求加速度Gxを算出する(ステップST6)。ここで、ECU6は、要求加速度GxをWF指数関数に基づいて算出する。ECU6は、アクセル開度Paと、算出されたC(v)と、算出された最小加速度Gx0と、下記の式(3)とにより要求加速度Gxを算出する。
Gx=C(v)Pak+Gx0 …(3)
【0047】
また、ECU6は、アクセル開度Paが境界アクセル開度Pa2を超えると判断する(ステップST5肯定)と、境界要求加速度Gx2を算出する(ステップST7)。ここで、ECU6は、境界アクセル開度Pa2と、算出されたC(v)と、算出された最小加速度Gx0と、下記の式(4)とにより境界要求加速度Gx2を算出する。
Gx2=C(v)Pa2k+Gx0 …(4)
【0048】
次に、ECU6は、要求加速度Gxを算出する(ステップST8)。ここで、ECU6は、要求加速度Gxを最大発生加速度Gxmaxに基づいて算出する。ECU6は、アクセル開度Paと、最大アクセル開度Pamaxと、境界アクセル開度Pa2と、最大発生加速度Gxmaxと、算出された境界要求加速度Gx2と、下記の式(5)とにより要求加速度Gxを算出する。
Gx=(Gxmax−Gx2)/(Pamax−Pa2)Pa+Gx2 …(5)
【0049】
以上のように、実施形態に係る車両制御システム1においては、要求加速度Gxを決定するに際して、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係が影響を与える。実施形態では、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係は、式(1)により図5に示す実線のように設計することができる。同図における一点鎖線は、アクセル開度Paの全域にウェーバー・フェヒナーの法則を適用した場合(以下、「全域WF領域」と称する)の一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係である。上記WF指数関数は、任意の車速vにおいてアクセル開度Paが全閉アクセル開度Pa0であると任意の車速vにおける最小加速度Gx0が、最大アクセル開度Pamaxであると任意の車速vにおける最大発生加速度Gxmaxが要求加速度Gxとして算出されるように定められている。同図に示すように、実施形態における一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係は、全域WF領域の場合と比較して、車速vの増加に伴い車両CAに発生する加速度Gが全体的に緩やかに減少するように設計されている。つまり、実施形態における一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係は、車速vと加速度Gとの傾きが均一に近くなるように設計されている。従って、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係は、全域WF領域の場合では最大発生加速度Gxmaxの影響を受けて決定されるが、実施形態では最大発生加速度Gxmaxの影響を受け難くなる。これにより、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係を条件とするPa−Gx関係では、一定アクセル開度Pa1に保ったときの車速方向の車両CAに発生する加速度Gを設計することができる。
【0050】
例えば、全域WF領域の場合におけるアクセル開度Paと加速度Gの関係(以下、単に「Pa−G関係」と称する。)では、一定アクセル開度Pa1において、図6に示す実線の0〔km/h〕における加速度Gと同図に示す一点鎖線の50〔km/h〕における加速度Gとの加速度変化ΔG1と、50〔km/h〕における加速度Gと同図に示す二点鎖線の100〔km/h〕における加速度Gとの加速度変化ΔG2とでは、加速度変化ΔG1が加速度変化ΔG2よりも著しく大きくなる。従って、一定アクセル開度Pa1でも、車速vによって加速度Gが大きく変化することとなる。このように、全域WF領域の場合におけるPa−G関係では、一定アクセル開度Pa1における車速方向の加速度Gの設計をすることが困難である。しかしながら、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係を条件とするPa−Gx関係(Pa−G関係)では、一定アクセル開度Pa1において、図7に示す実線の0〔km/h〕における加速度Gと同図に示す一点鎖線の50〔km/h〕における加速度Gとの加速度変化ΔG3と、50〔km/h〕における加速度Gと同図に示す二点鎖線の100〔km/h〕における加速度Gとの加速度変化ΔG4との差が、加速度変化ΔG1と加速度変化ΔG2との差と比較して小さくなっている。従って、一定アクセル開度Pa1でも、車速vによって加速度Gが大きく変化することを抑制することができている。このように、一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係を条件とするPa−Gx関係では、一定アクセル開度Pa1における車速方向の加速度Gの設計をすることができる。以上のことから、運転者のアクセル開度Paに対する最適な要求加速度Gxを決定することにより、運転者の感性に即した加速を十分に実現することができる。また、同じアクセル開度Paであれば、車速vに関わらず運転者に近似した加速感を与えることができる。
【0051】
また、最小加速度Gx0と一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係とを条件とするだけのPa−Gx関係では、アクセル開度Paが最大アクセル開度Pamaxとなっても、要求加速度Gxが最大発生加速度Gxmaxよりも小さくなる。従って、アクセル開度Paが最大アクセル開度Pamaxに近づくにつれ、加速度Gと加速度発生装置であるエンジン4およびT/M5により発生可能な加速度Gとの差が広がる虞がある。そこで、実施形態に係る車両制御システム1におけるPa−Gx関係は、アクセル開度Paが一定アクセル開度Pa1よりも大きい境界アクセル開度Pa2を超えると、最小加速度Gx0と一定アクセル開度Pa1におけるv−G関係と最大発生加速度Gxmaxとを条件とする。実施形態に係るPa−Gx関係は、ウェーバー・フェヒナーの法則に基づいたPa−Gx関係である第1Pa−Gx関係(上記式(3))と、最大アクセル開度Pamax時に要求加速度Gxが最大発生加速度Gxmaxとなるように最大発生加速度Gxmaxに基づいて補完を行うPa−Gx関係である第2Pa−Gx関係(上記式(5))とにより構成されている。図8に示すように、アクセル開度Paが境界アクセル開度Pa2以下のときには、第1Pa−Gx関係が適用される(WF領域)。また、アクセル開度Paが境界アクセル開度Pa2を超えるときには、第2Pa−Gx関係が適用される(補完領域)。従って、アクセル開度Paの大きい領域において同一アクセル開度Paでの車両CAに発生する加速度Gと加速度発生装置であるエンジン4およびT/M5が発生することができる加速度Gとの差が大きくなることを抑制することができる。これにより、最大発生加速度Gxmaxを考慮することにより、運転者の感性に即した加速を十分に実現することができる。
【0052】
また、第2Pa−Gx関係では、最大アクセル開度Pamax時に要求加速度Gxが最大発生加速度Gxmaxとなるので、最大アクセル開度Pamax時に最大発生加速度Gxmaxが車両CAに発生することとなる。従って、エンジン4の最大出力を保証することができ、運転者の感性に即した加速を十分に実現することができる。
【0053】
そこで、実施形態に係る車両制御システム1におけるPa−Gx関係は、アイドルがオンからオフに切り替わった場合における最小加速度Gx0をアイドルがオンからオフに切り替わる際の設定最小加速度Gx0´が算出された最小発生加速度Gxminと異なる場合に最小発生加速度Gxminを最小加速度Gx0に決定する。従って、図9に示す一点鎖線のように、アイドルがオンからオフに切り替わる際の最小加速度Gx0を最小発生加速度Gxminよりも大きい設定最小加速度Gx0´とした場合(Gxmin<Gx0)や、同図に示す二点鎖線のように、アイドルがオンからオフに切り替わる際の最小加速度Gx0を最小発生加速度Gxminよりも小さい設定最小加速度Gx0´とした場合(Gxmin>Gx0)であっても、同図に示す実線のように、アイドルがオンからオフに切り替わる際の最小加速度Gx0が最小発生加速度Gxminに決定される(Gxmin=Gx0)。これにより、アクセル開度Paが全閉アクセル開度Pa0から全閉アクセル開度Pa0以外に変化したとき、すなわちアイドルがオンからオフに切り替わったとき(図10参照)に、最小加速度Gx0が最小発生加速度Gxminとなる(図11参照)。図12に示す一点鎖線のように、Gxmin<Gx0では要求加速度GxをGxminからGx0に変化させることとなるため、アクセル開度Paに対するスロットル開度Saはアクセルがオンされた時から著しく上昇するので、車両CAに発生する駆動力に段差が生じてしまう。また、図12に示す二点鎖線のように、Gxmin>Gx0では要求加速度GxがGx0からGxminとなるまで、車両CAに発生する加速度Gが変化しないこととなるため、アクセル開度Paに対するスロットル開度Saはアクセルがオンされてからしばらくの間変化しないので、車両CAに駆動力が発生しない不感帯が生じてしまう。しかしながら、図12に示す実線のように、Gxmin=Gx0ではアクセルがオンされた直後の要求加速度GxがGxminであるので、アクセルがオンされた直後におけるアクセル開度Paに対するスロットル開度SaはGxmin<Gx0とGxmin>Gx0との間となり、アクセルがオンされた直後から車両CAに駆動力を発生することができる。従って、アクセルのオフからオンでの駆動力のつながりを補償でき、車両CAに発生する加速度Gが連続的に変化し、車両CAの発進や再加速を滑らかに実現することができる。また、アイドルがオンからオフに切り替わる場合に、最小加速度Gx0を最小発生加速度Gxminとするので、運転者によるアクセル操作中、例えばアクセル開度Paが一定の状態で要求加速度Gxが最小加速度Gx0の変更に基づいて変更されることによる加速度Gの変動を抑制することができる。
【0054】
また、実施形態に係る車両制御システム1におけるPa−Gx関係は、加速度発生装置であるエンジン4およびT/M5により発生可能な発生加速度、実施の形態では、最小発生加速度Gxminに基づいて所定の特性を維持しつつ変更されることとなる。従って、運転者の感性に即した加速を十分に実現しつつ、車両CAの発進や再加速を滑らかに実現することができ、要求加速度Gxと発生加速度との差を抑制することが可能となり、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。
【0055】
なお、上記実施形態では、Pa−Gx関係において最大発生加速度Gxmaxを条件としたが本発明はこれに限定されるものではなく、最大発生加速度Gxmaxを条件としなくても良い。つまり、アクセル開度Paの全域において、WF指数関数に基づいて要求加速度Gxを算出しても良い。この場合は、Pa−Gx関係における条件であるアクセル操作量の一定時におけるv−G関係を最大アクセル開度Pamax時に要求加速度Gxが最大発生加速度Gxmaxに近づくように設計することが好ましい。
【0056】
また、要求駆動力Foを算出する際に、走行抵抗を考慮したが、走行抵抗は考慮しなくても良い。また、上記実施形態では、加速度発生装置をエンジン4とT/M5としたがこれに限定されるものではなく、動力源としてモータと、モータの出力であるモータトルクを変換することができる動力伝達機構により構成されていても良い。また、T/M5がロックアップクラッチを有している場合は、ロックアップクラッチも加速度発生装置を構成する。これは、ロックアップクラッチのクラッチ状態によって、ロックアップクラッチの下流側に伝達されるエンジン4が発生するエンジントルクTが変化し、車両CAに発生する加速度Gが変化するためである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上のように、車両制御システムおよび車両制御方法は、運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル操作量と、車両の車速とに基づいて車両に作用する加速度に対応する要求値を決定する車両制御システムおよび車両制御方法に有用であり、特に、運転者のアクセル操作量に対する最適な目標加速度を決定することにより、運転者の感性に即した加速を十分に実現するのに適している。
【符号の説明】
【0058】
1 車両制御システム
2 アクセルセンサ
3 車速センサ
4 エンジン
5 トランスミッション(T/M)
6 ECU
61 静的要求加速度算出部
62 動的要求加速度算出部
63 要求駆動力算出部
64 目標値算出部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に加速度を発生する加速度発生装置と、
運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル操作量と、前記車両の車速とに基づいて前記加速度発生装置を制御する車両制御装置と、
を備える車両制御システムであって、
前記車両制御装置は、前記アクセル操作量と前記加速度に対応する要求値との関係に基づいて決定された要求値に基づいて前記加速度発生装置を制御するものであり、
前記アクセル操作量と前記要求値との関係は、前記加速度発生装置により発生可能な前記加速度である発生加速度に基づいて所定の特性を維持しつつ変更されることを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
前記発生加速度は、アイドルがオンからオフに切り替わる際に前記加速度発生装置により発生可能な前記加速度である最小発生加速度であることを特徴とする請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記アクセル操作量と前記要求値との関係は、前記アイドルがオンからオフに切り替わった場合における加速度である最小加速度を条件とするものであり、
前記アイドルがオン時の前記最小加速度は、前記車速に応じて決定された値であり、
前記アイドルがオンからオフに切り替わる場合における前記最小加速度は、前記最小発生加速度であることを特徴とする請求項2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記アイドルがオン時の前記最小加速度は、前記最小発生加速度であることを特徴とする請求項3に記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記所定の特性には、前記アクセル操作量の一定時における前記車速と前記加速度との関係により定められたアクセル一定時加速度に対応する値が前記アクセル操作量の一定時における要求値となることが含まれることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の車両制御システム。
【請求項6】
前記所定の特性には、前記アクセル操作量最大時に前記加速度発生装置により発生可能な前記加速度である最大発生加速度に対応する値が前記アクセル操作量最大時における要求値となることが含まれることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の車両制御システム。
【請求項7】
運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル操作量と、前記車両の車速とに基づいて車両に加速度を発生する加速度発生装置を制御する車両制御方法において、
前記アクセル操作量と前記加速度に対応する要求値との関係に基づいて決定された要求値に基づいて前記加速度発生装置を制御するものであり、
前記アクセル操作量と前記要求値との関係は、前記加速度発生装置により発生可能な発生加速度に基づいて所定の特性を維持しつつ変更されることを特徴とする車両制御方法。
【請求項1】
車両に加速度を発生する加速度発生装置と、
運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル操作量と、前記車両の車速とに基づいて前記加速度発生装置を制御する車両制御装置と、
を備える車両制御システムであって、
前記車両制御装置は、前記アクセル操作量と前記加速度に対応する要求値との関係に基づいて決定された要求値に基づいて前記加速度発生装置を制御するものであり、
前記アクセル操作量と前記要求値との関係は、前記加速度発生装置により発生可能な前記加速度である発生加速度に基づいて所定の特性を維持しつつ変更されることを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
前記発生加速度は、アイドルがオンからオフに切り替わる際に前記加速度発生装置により発生可能な前記加速度である最小発生加速度であることを特徴とする請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記アクセル操作量と前記要求値との関係は、前記アイドルがオンからオフに切り替わった場合における加速度である最小加速度を条件とするものであり、
前記アイドルがオン時の前記最小加速度は、前記車速に応じて決定された値であり、
前記アイドルがオンからオフに切り替わる場合における前記最小加速度は、前記最小発生加速度であることを特徴とする請求項2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記アイドルがオン時の前記最小加速度は、前記最小発生加速度であることを特徴とする請求項3に記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記所定の特性には、前記アクセル操作量の一定時における前記車速と前記加速度との関係により定められたアクセル一定時加速度に対応する値が前記アクセル操作量の一定時における要求値となることが含まれることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の車両制御システム。
【請求項6】
前記所定の特性には、前記アクセル操作量最大時に前記加速度発生装置により発生可能な前記加速度である最大発生加速度に対応する値が前記アクセル操作量最大時における要求値となることが含まれることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の車両制御システム。
【請求項7】
運転者によるアクセルの操作に応じたアクセル操作量と、前記車両の車速とに基づいて車両に加速度を発生する加速度発生装置を制御する車両制御方法において、
前記アクセル操作量と前記加速度に対応する要求値との関係に基づいて決定された要求値に基づいて前記加速度発生装置を制御するものであり、
前記アクセル操作量と前記要求値との関係は、前記加速度発生装置により発生可能な発生加速度に基づいて所定の特性を維持しつつ変更されることを特徴とする車両制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−143915(P2011−143915A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207160(P2010−207160)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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