説明

車両挙動制御装置

【課題】ヨーレートセンサのゼロ補正ズレによる不適切な挙動制御を防止する車両挙動制御装置を提供すること。
【解決手段】ヨーレートセンサ5を用いて車両の挙動制御を行う車両挙動制御装置であって、車両の停止中にヨーレートセンサ5のゼロ点出力を演算し(S20)、車両の走行中にヨーレートセンサ5のゼロ点出力を演算し(S14)、停止中のゼロ点出力と走行中のゼロ点出力との差が所定値を超える場合には停止中のゼロ点出力と走行中のゼロ点出力との差が所定値を超えない場合に比べて挙動制御開始しきい値を高く設定する(S28)。これにより、ヨーレートセンサ5のゼロ点補正が適切に行われていないおそれのある場合には、挙動制御開始しきい値が高く設定され挙動制御に入りにくくなり、不適切に挙動制御が行われることを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨーレートセンサを用いて車両の挙動を制御する車両挙動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヨーレートセンサを用いて車両挙動を制御する装置として、特開平11−148828号公報に記載されるように、ヨーレートセンサのゼロ点補正を行うものであって、車両が停止状態にある期間中にヨーレートセンサの出力を微分し、その微分値に基づいて車両の回動を検出し、車両の回動期間中ではヨーレートのゼロ点補正を行わないようにするものが知られている。
【特許文献1】特開平11−148828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような装置にあっては、適切な挙動制御が行えないおそれがあるという問題点がある。例えば、上述した装置では、車両の停止中でしかヨーレートセンサのゼロ点補正が行えないため、補正頻度が少ない。このため、車両が連続走行している場合にはヨーレートセンサの補正が行えず、走行中にヨーレートセンサのゼロ点がドリフトした場合には適切な挙動制御が行えないこととなる。
【0004】
一方、車両の走行中にヨーレートセンサのゼロ点補正を行うとすると、補正頻度が多くなるが、走行状態や路面状態などにより補正精度が悪くなり、誤補正するおそれもある。このため、適切な挙動制御が行えないおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、ヨーレートセンサのゼロ補正ズレによる不適切な挙動制御を防止する車両挙動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る車両挙動制御装置は、少なくともヨーレートセンサを用いて車両の挙動制御を行う車両挙動制御装置において、前記車両の停止中に前記ヨーレートセンサのゼロ点出力を演算する停止中ゼロ点出力演算手段と、前記車両の走行中に前記ヨーレートセンサのゼロ点出力を演算する走行中ゼロ点出力演算手段と、停止中のゼロ点出力と走行中のゼロ点出力との差が所定値を超える場合には、停止中のゼロ点出力と走行中のゼロ点出力との差が所定値を超えない場合に比べて挙動制御開始しきい値を高く設定し前記挙動制御に入りにくくする挙動制御開始しきい値設定手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、停止中のゼロ点出力と走行中のゼロ点出力との差が所定値を超えており、ヨーレートセンサのゼロ点補正が適切に行われていないおそれのある場合に、挙動制御開始しきい値を高く設定して挙動制御に入りにくくすることにより、不適切に挙動制御が行われることを防止することができる。
【0008】
また本発明に係る車両挙動制御装置は、少なくともヨーレートセンサを用いて車両の挙動制御を行う車両挙動制御装置において、前記車両の停止中に前記ヨーレートセンサのゼロ点出力を演算する停止中ゼロ点出力演算手段と、前記車両の走行中に前記ヨーレートセンサのゼロ点出力を演算する走行中ゼロ点出力演算手段と、停止中のゼロ点出力と走行中のゼロ点出力との差が大きいほど、前記挙動制御開始しきい値を高く設定する挙動制御開始しきい値設定手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、停止中のゼロ点出力と走行中のゼロ点出力との差が大きいほど、前記挙動制御開始しきい値を高く設定する。このため、ヨーレートセンサのゼロ点補正ズレが大きいほど挙動制御に入りにくくすることができる。従って、不適切に挙動制御が行われることを防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヨーレートセンサのゼロ補正ズレにより不適切な挙動制御が行われることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
図1は本発明の実施形態に係る車両挙動制御装置の構成概要図である。図1に示されるように、本実施形態に係る車両挙動制御装置は、車両に設置され、その車両の挙動状態を検出し、車両挙動を制御する装置である。
【0013】
車両挙動制御装置には、ECU(Electronic Control Unit)1が設けられている。ECU1は、装置全体の制御を行う電子制御ユニットであり、例えばCPU、ROM、RAM、入力信号回路、出力信号回路、電源回路などにより構成される。
【0014】
また、車両挙動制御装置には、マスタシリンダ圧力センサ2、スロットル開度センサ3及び車輪速センサ4が設けられている。このマスタシリンダ圧力センサ2、スロットル開度センサ3及び車輪速センサ4は、それぞれECU1と接続され、検出信号をECU1に入力する。マスタシリンダ圧力センサ2は、マスタシリンダの圧力を検出するセンサである。スロットル開度センサ3は、スロットルバルブのスロットル開度を検出するセンサである。車輪速センサ4は、車両の車輪速を検出するセンサであり、各車輪の車輪速を検出する。
【0015】
また、車両挙動制御装置には、ヨーレートセンサ5、横加速度センサ6、前後加速度センサ7及び操舵角センサ8が設けられている。このヨーレートセンサ5、横加速度センサ6、前後加速度センサ7及び操舵角センサ8は、それぞれECU1と接続され、検出信号をECU1に入力する。ヨーレートセンサ5は、車両のヨーレートを検出するセンサである。横加速度センサ6は、車両の横方向の加速度を検出するセンサである。前後加速度センサ7は、車両の前後方向の加速度を検出するセンサである。操舵角センサ6は、ハンドルの操舵角を検出するセンサである。
【0016】
また、車両挙動制御装置には、ブレーキアクチュエータ10及びスロットルアクチュエータ20が設けられている。このブレーキアクチュエータ10及びスロットルアクチュエータ20は、それぞれECU1と接続され、ECU1から出力される制御信号に基づいて作動する。ブレーキアクチュエータ10は、ブレーキ油圧を調整するアクチュエータであり、マスタシリンダとホイルシリンダを接続する油圧配管の途中に設置されている。
【0017】
このブレーキアクチュエータ10は、例えば、油圧回路の接続を切り換えるソレノイド弁や油圧を上昇させるポンプ等を備えて構成され、各車輪のホイルシリンダに加わるブレーキ油圧を調整して各車輪にかかる制動力を調整可能とする。このブレーキアクチュエータ10としては、ホイルシリンダのブレーキ油圧を制御できるものであれば、いずれの構成、構造のものを用いてもよい。スロットアクチュエータ20は、スロットルバルブを開閉動作させるアクチュエータである。
【0018】
なお、この車両挙動制御装置において、スロットル開度センサ3及びスロットルアクチュエータ20を設けずに構成してもよい。
【0019】
次に、本実施形態の車両挙動制御装置の動作について説明する。
【0020】
本実施形態に係る車両挙動制御装置は、車両状態を検出し、その車両状態に基づいて挙動制御開始条件が成立するか否かを判断し、挙動制御開始条件が成立したと判断した場合には挙動制御を開始する。例えば、操舵角、車速、車両のヨーレート、車両の横加速度の情報を各種のセンサの検出信号に基づいて取得し、それらの操舵角、車速、車両のヨーレート、車両の横加速度によって車両状態を検出する。そして、車両状態が所定の横滑り状態となったと判断した場合、車両の駆動力を低下させると共に、車両に所定の制動力を与えて車両の横滑りを抑制する挙動制御を行う。
【0021】
また、この車両挙動制御装置では、ヨーレートセンサ5のゼロ点補正処理を実行する。ヨーレートセンサ5の出力は、周囲温度の変化や経時変化などによってドリフトする。これにより、車両のヨーレートがゼロであるときのヨーレートセンサ5のゼロ点出力値が変動する。ゼロ点補正処理は、車両が旋回走行していない場合のヨーレートセンサ5の出力値をゼロ点出力値として設定し、随時更新する処理である。
【0022】
図2は、本実施形態に係る車両挙動制御装置における挙動制御開始しきい設定処理のフローチャートである。図2の制御処理は、例えば、イグニッションオン時からECU1によって所定時間ごとに繰り返し実行される。
【0023】
まず、図2のS10に示すように、車両が停止中であるか否かが判断される。例えば、各車輪の車輪速センサ4におけるMAX値がゼロである場合に車両が停止中であると判断される。また、変速機のシフトレバーがP(パーキング)レンジに入っていることを検出して車両が停止中であると判断してもよい。
【0024】
このS10にて車両が停止中でないと判断されたときには、走行中ゼロ出力値YR0Mの演算条件が成立しているか否かが判断される(S12)。走行中ゼロ出力値YR0Mは、車両の走行中におけるヨーレートセンサ5のゼロ出力値である。例えば、ヨーレートセンサ5の出力が所定の出力値より大きくなく、操舵角が所定の操舵角値より大きくない場合に、走行中ゼロ出力値YR0Mの演算条件が成立していると判断される。また、横加速度が所定の横加速度値より大きいこと、左右の車輪速の差が所定値より大きくないことなどを演算条件の一部としてもよい。
【0025】
このS12において走行中ゼロ出力値YR0Mの演算条件が成立していると判断されたときには、走行中ゼロ出力値YR0Mの演算処理が行われる(S14)。この走行中ゼロ出力値YR0Mの演算処理は、車両の走行中におけるヨーレートセンサ5の出力値をゼロ出力値YR0Mとして設定する処理である。例えば、ヨーレートセンサ5の出力値を所定時間間隔で複数回読み込み、その出力値の平均値を演算しゼロ出力値YR0Mとして設定する。
【0026】
一方、S12において走行中ゼロ出力値YR0Mの演算条件が成立していないと判断されたときには、走行中ゼロ出力値YR0Mの前回値保持処理が行われる(S16)。この走行中ゼロ出力値YR0Mの前回値保持処理は、前回演算したゼロ出力値YR0Mを更新せずに保持する処理である。そして、S24に移行する。
【0027】
ところで、S10にて車両が停止中であると判断されたときには、停止中ゼロ出力値YR0Sの演算条件が成立しているか否かが判断される(S18)。停止中ゼロ出力値YR0Sは、車両の停止中におけるヨーレートセンサ5のゼロ出力値である。例えば、ヨーレートセンサ5が故障していないこと、ヨーレートセンサ5の出力値が所定の出力値より大きくないことが演算条件として設定され、ヨーレートセンサ5が故障しておらず、ヨーレートセンサ5の出力値が所定の出力値より大きくない場合に停止中ゼロ出力値YR0Sの演算条件が成立していると判断される。
【0028】
このS18において停止中ゼロ出力値YR0Sの演算条件が成立していると判断されたときには、停止中ゼロ出力値YR0Sの演算処理が行われる(S20)。この停止中ゼロ出力値YR0Sの演算処理は、車両の停止中におけるヨーレートセンサ5の出力値をゼロ出力値YR0Sとして設定する処理である。例えば、ヨーレートセンサ5の出力値を所定時間間隔で複数回読み込み、その出力値の平均値を演算しゼロ出力値YR0Sとして設定する。
【0029】
一方、S18において停止中ゼロ出力値YR0Sの演算条件が成立していないと判断されたときには、停止中ゼロ出力値YR0Sの前回値保持処理が行われる(S22)。この停止中ゼロ出力値YR0Sの前回値保持処理は、前回演算したゼロ出力値YR0Sを更新せずに保持する処理である。
【0030】
そして、S24に移行し、停止中ゼロ出力値YR0Sと走行中ゼロ出力値YR0Mとの差が所定値Aを超えているか否かが判断される。所定値Aは、ECU1に予め設定される設定値である。停止中ゼロ出力値YR0Sと走行中ゼロ出力値YR0Mとの差が所定値Aを超えていないと判断されたときには、挙動制御開始しきい値Thとして第一しきい値Th1が設定される(S26)。一方、停止中ゼロ出力値YR0Sと走行中ゼロ出力値YR0Mとの差が所定値Aを超えていると判断されたときには、挙動制御開始しきい値Thとして第一しきい値Th1と第二しきい値Th2を加算したもの(Th1+Th2)が設定される。
【0031】
第一しきい値Th1及び第二しきい値Th2は、ECU1に予め設定される設定値であり、例えばそれぞれ正の値が設定される。これにより、停止中のゼロ点出力値YR0Sと走行中のゼロ点出力値YR0Mとの差が所定値Aを超える場合には、停止中のゼロ点出力値YR0Sと走行中のゼロ点出力値YR0Mとの差が所定値Aを超えない場合に比べて挙動制御開始しきい値Thが高く設定され、挙動制御に入りにくくすることができる。
【0032】
そして、S30に移行し、挙動制御処理が行われる。挙動制御処理は、車両の挙動状態が挙動制御開始しきい値Thを超えた場合に車両の挙動状態を制御する処理である。例えば、車速と操舵角から推定される車両の推定ヨーレートとヨーレートセンサ5により検出される実ヨーレートとの差が挙動制御開始しきい値Thを超えた場合に、車両の制駆動力を制御することにより、車両挙動の安定化が図られる。
【0033】
以上のように、本実施形態に係る車両挙動制御装置によれば、停止中のゼロ点出力値YR0Sと走行中のゼロ点出力値YR0Mとの差が所定値Aを超えており、ヨーレートセンサ5のゼロ点補正が適切に行われていないおそれのある場合に、挙動制御開始しきい値Thを高く設定して挙動制御に入りにくくする。これにより、不適切に挙動制御が行われることを防止することができる。
【0034】
また、車両の走行中であっても、所定の演算条件が成立した場合には、ヨーレートセンサ5のゼロ出力値を新たに設定して補正することができる。このため、ヨーレートセンサ5のゼロ出力値の補正を頻繁に行うことができ、ヨーレートセンサ5の出力が急激にドリフトした場合でも対応することができ、適切な挙動制御を確保することができる。
【0035】
なお、本実施形態では、停止中のゼロ点出力値YR0Sと走行中のゼロ点出力値YR0Mとの差が所定値Aを超えた場合に挙動制御開始しきい値Thを高く設定して挙動制御に入りにくくしたが、停止中のゼロ点出力値YR0Sと走行中のゼロ点出力値YR0Mとの差に応じて挙動制御開始しきい値Thを設定してもよい。
【0036】
例えば、図3に示すように、停止中のゼロ点出力値YR0Sと走行中のゼロ点出力値YR0Mとの差(|YR0S−YR0M|)が大きくなるほど第二しきい値Th2を大きくする制御マップを設定しておき、この制御マップを用いて第二しきい値Th2を設定して挙動制御開始しきい値Thを設定する。この場合、停止中のゼロ点出力と走行中のゼロ点出力との差が大きいほど、挙動制御開始しきい値が高く設定され、挙動制御に入りにくくなる。これにより、不適切に挙動制御が行われることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係る車両挙動制御装置の構成概要図である。
【図2】図1の車両挙動制御装置における挙動制御開始しきい設定処理のフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係る車両挙動制御装置の変形例の説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1…ECU、2…マスタシリンダ圧力センサ、3…スロットル開度センサ、4…車輪速センサ、5…ヨーレートセンサ、6…横加速度センサ、7…前後加速度センサ、8…操舵角センサ、10…ブレーキアクチュエータ、20…スロットルアクチュエータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともヨーレートセンサを用いて車両の挙動制御を行う車両挙動制御装置において、
前記車両の停止中に前記ヨーレートセンサのゼロ点出力を演算する停止中ゼロ点出力演算手段と、
前記車両の走行中に前記ヨーレートセンサのゼロ点出力を演算する走行中ゼロ点出力演算手段と、
停止中のゼロ点出力と走行中のゼロ点出力との差が所定値を超える場合には、停止中のゼロ点出力と走行中のゼロ点出力との差が所定値を超えない場合に比べて挙動制御開始しきい値を高く設定し前記挙動制御に入りにくくする挙動制御開始しきい値設定手段と、
を備えたことを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項2】
少なくともヨーレートセンサを用いて車両の挙動制御を行う車両挙動制御装置において、
前記車両の停止中に前記ヨーレートセンサのゼロ点出力を演算する停止中ゼロ点出力演算手段と、
前記車両の走行中に前記ヨーレートセンサのゼロ点出力を演算する走行中ゼロ点出力演算手段と、
停止中のゼロ点出力と走行中のゼロ点出力との差が大きいほど、前記挙動制御開始しきい値を高く設定する挙動制御開始しきい値設定手段と、
を備えたことを特徴とする車両挙動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−168506(P2006−168506A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−363188(P2004−363188)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】