説明

車両暖機装置

【課題】暖機による排気ガスの排出量及び燃料の消費量を低減することができる車両暖機装置を提供する。
【解決手段】車両暖機システム1は、暖機制御部30、及び暖機対象の温度を検出する検出部としてのオイル温度センサ36、冷却水温度センサ37、車室用温度センサ38を有する車両2と、電子キー4とで構成されている。暖機制御部30は、オイル用ヒータ31及び冷却水用ヒータ32を制御するヒータ制御部300と、車室用エアコン33を制御するエアコン制御部301と、車室用ストーブ34を制御するストーブ制御部302と、暖機対象毎に定められた設定範囲を記憶する記憶部303とを備え、各センサ36〜38により検出された温度が設定範囲にないとき、暖機対象の温度が設定範囲内になるように、温度調節部としてのヒータ制御部、エアコン制御部301及びストーブ制御部302を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両暖機装置に関し、特に、エンジンを始動させずに暖機可能な車両暖機装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遠隔操作信号によりエンジンを始動して暖機運転を行うエンジン始動システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このエンジン始動システムは、遠隔操作信号により作動してエンジンを始動するエンジン始動装置と、遠隔操作信号に応じて車載機構に対する制御を行う制御手段とを有し、エンジン始動装置の作動に応じて暖機運転モードに移行して該暖機運転モード下における特定の暖機動作を実行し、エンジンの暖機運転が終了する所定時間の経過、あるいは暖機運転モードの解除操作により、暖機運転モードを解除する。これにより、遠隔操作によって暖機動作が行われ、車両の操作者に対する便益性を向上することができる。
【特許文献1】特開平10−16712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のエンジン始動システムは、暖機運転モード下における特定の暖機動作を実行するのにエンジンを始動させる必要があるため、エンジンの燃焼に伴って二酸化炭素や窒素酸化物等を含む排気ガスが排出される。また、暖機動作のためにエンジンが始動され、ガソリン・軽油等の燃料が消費されるので、燃料の消費量が増加するという問題があった。
【0005】
従って、本発明の目的は、暖機による排気ガスの排出量及び燃料の消費量を低減することができる車両暖機装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明は、上記の目的を達成するため、暖機対象の温度を検出する検出部と、車両に設置されたバッテリの電力又は前記車両に積載された燃料を動作源として、前記暖機対象の冷却又は加熱を行う温度調節部と、暖機命令信号を受け付けたとき、前記検出部により検出された前記暖機対象の温度が所定の設定範囲内になるように前記温度調節部を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする車両暖機装置を提供する。
【0007】
[2]また、前記温度調節部は、1つの前記暖機対象に対して前記電力を動作源とする第1の温度調節部と、前記燃料を動作源とする第2の温度調節部とを有し、
前記制御部は、前記第2の温度調節部より前記第1の温度調節部を優先して動作させることを特徴とする前記[1]に記載の車両暖機装置でもよい。
【0008】
[3]また、前記制御部は、前記暖機対象の温度が所定の設定範囲内になったとき、前記暖機対象の温度が所定の設定範囲内になった旨を通知する信号を前記暖機命令信号の送信元に送信することを特徴とする前記[1]に記載の車両暖機装置でもよい。
【0009】
[4]また、前記暖機対象は、オイル、冷却水又は車室内の雰囲気であることを特徴とする前記[1]から[3]のいずれか1つに記載の車両暖機装置でもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、暖機による排気ガスの排出量及び燃料の消費量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[本発明の実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る車両暖機システムの概略構成図である。この車両暖機システム1は、車両暖機装置を装備した車両2と、電子キー4とで構成されている。
【0012】
車両2は、この車両2全体を制御するメイン制御部20と、車両2の動力を制御する動力制御部21と、動力制御部21によって制御され、動力を発生するエンジン22及びモータ23と、エンジン22等に燃料を供給するタンク24と、モータ23等に電力を供給するバッテリ25と、車両2の暖機動作を制御する暖機制御部(制御部)30と、暖機制御部30によって制御される温度調節部としてのオイル用ヒータ31、冷却水用ヒータ32、車室用エアコン(エアーコンディショナー)33及び車室用ストーブ34と、電子キー4との間で通信を行う通信部35とを概略備えて構成されている。
【0013】
エンジン22は、エンジン内を循環して、内燃機関の潤滑及び冷却を行うエンジンオイル220と、エンジン22、ラジエータ及びリザーバタンク(いずれも図示せず))等を循環して、エンジン22を冷却する冷却水221とを有する。エンジン22は、タンク24から供給される燃料を燃焼することにより動力を発生するとともに排気ガスを排出する。
【0014】
バッテリ25には、モータ23による回生エネルギー、及びエンジン22により駆動されるエンジン駆動発電機(図示せず)によって発電される電力が充電される。なお、バッテリ25は、家庭用電源から充電するように構成してもよい。これにより、回生エネルギー及びエンジン駆動発電機によって発電されるよりも、発電効率が高く環境負荷の低い電力、例えば、太陽光、風力、原子力等によって発電された電力を家庭用電源を介して暖機動作に用いることができる。
【0015】
ここで、暖機動作とは、エンジン22が動作するのに適切な温度にエンジンオイル220及び冷却水221を暖めることと、操作者が快適な温度に車室内の雰囲気の温度を調整することの両方を含む。なお、本実施の形態では、エンジンオイル220、冷却水221、及び車室内の雰囲気の3つを暖機対象とするものであるが、例えば、車両の走行性能や操作者の快適性に影響を与えるものであれば、これらに限られない。車両の走行性能に関する他の例としては、例えば、ブレーキオイル等のオイル類が挙げられる。また、操作者の快適性に関する他の例としては、例えば、車室内の雰囲気の湿度若しくは清浄度、又はシートの表面温度等が挙げられる。
【0016】
オイル用ヒータ31は、バッテリ25から供給される電力を動作源として動作し、エンジンオイル220を加熱するヒータである。
【0017】
冷却水用ヒータ32は、バッテリ25から供給される電力によりを動作源として動作し、冷却水221を加熱するヒータである。
【0018】
車室用エアコン33は、バッテリ25から供給される電力によりを動作源として動作し、車室内の冷房及び暖房を行う装置である。車室用エアコン33には、気化圧縮型、気化吸収型等の各種空調方式を用いることができる。なお、ペルチェ素子等の熱交換素子を用いてもよい。
【0019】
車室用ストーブ34は、タンク24から供給される燃料を動作源として、その燃料を燃焼することによる燃焼熱を用いて車室内の暖房を行う装置である。なお、電力により動作する電気ストーブを用いてもよい。なお、本実施の形態では、エンジン22と車室用ストーブ34には、1つのタンク24から燃料が供給されるものであるが、例えば、2つのタンクを用意し、それら2つのタンクからエンジン22及び車室用ストーブ34にそれぞれ燃料を供給してもよい。その場合には、燃料の種類は同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0020】
電子キー4は、ドアロックの施解錠を指示するボタンであるドア施解錠ボタン40と、暖機動作の開始・停止を指示するボタンである暖機ボタン41と、暖機動作の完了を通知するLED等の表示部42と、指示されたボタンに応じた指示信号を車両2に送信するとともに、暖機動作の完了を示す完了信号を車両2から受信する通信部43とを有する。
【0021】
図2は、本発明の実施の形態に係る車両のブロック図の一例である。車両2のメイン制御部20には、上述の動力制御部21、エンジン22、モータ23、バッテリ25、暖機制御部30及び通信部35が接続されている。
【0022】
また、車両2は、メイン制御部20に接続されたドアロック機構を有するドアロック部26と、エンジンオイル220の温度を検出するオイル温度センサ36と、冷却水221の温度を検出する冷却水温度センサ37と、車室内の雰囲気の温度を検出する車室用温度センサ38とを備える。3つの各センサ36〜38は、暖機制御部30に接続され、検出した温度に関する検出温度情報を暖機制御部30に送る。なお、各センサ36〜38は、検出部を構成する。
【0023】
メイン制御部20は、電子キー4から送信される指示信号を通信部35を介して受信する。メイン制御部20は、その受信した指示信号がドア施解錠ボタン40によるドア施錠指示信号、又はドア解錠指示信号の場合には、ドアロック部26を制御して、ドアロックの施錠又は解錠を行う。
【0024】
また、メイン制御部20は、その指示信号が暖機ボタン41による暖機開始指示信号の場合には、暖機開始命令を暖機制御部30に送り、暖機停止指示信号の場合には、暖機停止命令を暖機制御部30に送る。
【0025】
暖機制御部30は、オイル用ヒータ31及び冷却水用ヒータ32を制御するヒータ制御部300と、車室用エアコン33を制御するエアコン制御部301と、車室用ストーブ34を制御するストーブ制御部302と、暖機対象毎に定められた設定温度の範囲を示す設定範囲を記憶する記憶部303とを備える。なお、記憶部303に記憶された設定範囲は、上限及び下限の両方が定められていてもよいし、上限及び下限の一方が定められていてもよい。また、設定範囲は、操作者により変更可能であってもよい。
【0026】
暖機制御部30は、メイン制御部20から暖機開始命令を受け取ると、バッテリ25の充電残量と、タンク24の燃料残量と、各センサ36〜38により検出された3つの暖機対象の検出温度と、記憶部303に記憶された暖機対象毎の設定範囲とに基づいて、暖機動作の内容を決定する。そして、暖機制御部30は、その内容に従って、ヒータ制御部300、エアコン制御部301、及びストーブ制御部302の各部を介して、それぞれに接続されたオイル用ヒータ31、冷却水用ヒータ32、車室用エアコン33、及び車室用ストーブ34を動作する。
【0027】
暖機動作の内容としては、例えば、エンジンオイル220の検出温度がエンジンオイル220の設定範囲の下限より低い場合には、暖機制御部30は、オイル用ヒータ31を動作すると決定し、さらに、オイル用ヒータ31の動作条件、例えば、加熱の強弱、消費電力の大小等を決定する。
【0028】
また、車両2には、車室内の暖房を行う温度調節部として、電力を動作源とする車室用エアコン(第1の温度調節部)33と、燃料を動作源とする車室用ストーブ(第2の温度調節部)34とが設けられているが、暖機制御部30は、充電残量及び燃料残量とから、車室用エアコン33及び車室用ストーブ34の一方又は両方を動作させるかどうかを決定する。例えば、燃料残量が少ない場合には、暖機制御部30は、車室用ストーブ34を動作させずに車室用エアコン33だけを動作させるように暖機動作の内容を決定する。
【0029】
また、暖機制御部30は、車室用ストーブ34より車室用エアコン33を優先して動作させることにより車室内の暖房を行う。具体的には、車室内の検出温度が、設定範囲の下限より低いが所定の制限温度より高い場合には、車室用ストーブ34を動作させるのを制限したり、車室用ストーブ34を動作させる時間を所定の時間以内に制限するように暖機動作の内容を決定する。これにより、燃料の消費量をさらに低減することができる。
【0030】
また、暖機制御部30は、検出温度が設定範囲内になったとき、その旨を通知する暖機完了信号をメイン制御部20及び通信部35を介して暖機開始指示信号の送信元である電子キー4に送信する。なお、暖機制御部30は、暖機動作において一定時間経過しても検出温度が設定範囲内に入らない場合や、充電残量及び燃料残量の不足により暖機動作が実行できない場合等のエラー状態を検出した際には、その旨を通知するエラー発生信号を電子キー4に送信するようにしてもよい。
【0031】
このような暖機制御部30は、例えば、ECU(Electric Control Unit)等により実現されている。また、メイン制御部20及び動力制御部21も同様に、ECU等により実現されているが、暖機制御部30、メイン制御部20及び動力制御部21が有する機能は、1つのECUに備えてられていてもよいし、複数のECUに分散して備えられていてもよい。
【0032】
(車両暖機システムの動作)
次に、本実施の形態に係る車両暖機システムの動作について、図3のフローチャートに従って説明する。
【0033】
まず、操作者が、車両2から離れた場所において、電子キー4の暖機ボタン41を押すと、電子キー4は、暖機開始指示信号を通信部43を介して車両2に送信する。車両2のメイン制御部20は、その暖機開始指示信号を通信部35を介して受信する(S1)。
【0034】
メイン制御部20は、その暖機開始指示信号を受信すると、暖機制御部30に暖機開始命令を送る。暖機制御部30は、その暖機開始命令を受け取ると、オイル用ヒータ31、冷却水用ヒータ32及び車室用エアコン33の動作源となるバッテリ25の充電残量を取得する(S2)。次に、暖機制御部30は、車室用ストーブ34の動作源となるタンク24の燃料残量を取得する(S3)。
【0035】
そして、暖機制御部30は、オイル温度センサ36、冷却水温度センサ37、及び車室用温度センサ38を介して、エンジンオイル220、冷却水221及び車室内の雰囲気からなる3つの暖機対象の温度をそれぞれ検出する(S10)。
【0036】
暖機制御部30は、検出した温度(検出温度)と、記憶部303の暖機対象毎に定められた設定範囲とを比較し、検出温度が設定範囲内にあるか否かを暖機対象毎に判定する(S20)。
【0037】
そして、暖機制御部30は、3つの暖機対象のうち少なくとも1つにおいて、検出温度が設定範囲内にない場合には(S20:No)、その設定範囲内にないと判定した暖機対象に対応する制御部、すなわち、ヒータ制御部300、エアコン制御部301及びストーブ制御部302の少なくとも1つに対して暖機動作の内容を決定する(S30)。次に、暖機制御部30は、その決定した暖機動作の内容に従って動作するように、ヒータ制御部300、エアコン制御部301及びストーブ制御部302の少なくとも1つに制御命令を送る。
【0038】
そして、ヒータ制御部300、エアコン制御部301及びストーブ制御部302の各部は、制御命令を受け取ると、その制御命令に従ってオイル用ヒータ31、冷却水用ヒータ32、車室用エアコン33及び車室用ストーブ34をそれぞれ動作し、設定範囲内となるように暖機対象に対して冷却又は加熱を行う(S31)。
【0039】
その後、暖機制御部30は、所定の時間間隔を空けて、各暖機対象の温度を再度検出し(S10)、検出温度が設定範囲内にあるか否かを判定する(S20)。
【0040】
そして、暖機制御部30は、全ての暖機対象の検出温度が設定範囲内にあると判定した場合には(S20:Yes)、暖機完了信号をメイン制御部20及び通信部35を介して電子キー4に送信する(S40)。このとき、暖機制御部30は、設定範囲内に検出温度を維持するように、暖機動作を継続してもよいし、停止してもよい。
【0041】
電子キー4は、暖機完了信号を通信部43を介して受信すると、表示部42を点灯する。操作者は、その表示部42の点灯を目視確認することにより暖機動作が完了したことを知る。
【0042】
(実施の形態の効果)
上記した実施の形態によれば、エンジン22を稼動することなく、電力及び燃料を動作源とする温度調節部を動作して暖機対象を設定範囲内に冷却又は加熱するので、暖機による排気ガスの排出量及び燃料の消費量を低減することができる。
【0043】
また、車室内の雰囲気も暖機対象に含まれるため、遠隔操作を行った操作者が車両に乗車するまでに車室内の温度が設定範囲に空調されるので、操作者の快適性を向上することができる。
【0044】
また、暖機動作を完了すると、車両2から電子キー4に暖機完了信号が送信され、表示部42が点灯するので、操作者は、暖機動作の完了を車両から離れた場所で知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る車両暖機システムの概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る車両のブロック図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態に係る車両暖機システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0046】
1…車両暖機システム、2…車両、4…電子キー、20…メイン制御部、
21…動力制御部、22…エンジン、23…モータ、24…タンク、25…バッテリ、
26…ドアロック部、30…暖機制御部、31…オイル用ヒータ、
32…冷却水用ヒータ、33…車室用エアコン、34…車室用ストーブ、35…通信部、
36…オイル温度センサ、37…冷却水温度センサ、38…車室用温度センサ、
40…ドア施解錠ボタン、41…暖機ボタン、42…表示部、43…通信部、
220…エンジンオイル、221…冷却水、300…ヒータ制御部、
301…エアコン制御部、302…ストーブ制御部、303…記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
暖機対象の温度を検出する検出部と、
車両に設置されたバッテリの電力又は前記車両に積載された燃料を動作源として、前記暖機対象の冷却又は加熱を行う温度調節部と、
暖機命令信号を受け付けたとき、前記検出部により検出された前記暖機対象の温度が所定の設定範囲内になるように前記温度調節部の動作を制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする車両暖機装置。
【請求項2】
前記温度調節部は、1つの前記暖機対象に対して前記電力を動作源とする第1の温度調節部と、前記燃料を動作源とする第2の温度調節部とを有し、
前記制御部は、前記第2の温度調節部より前記第1の温度調節部を優先して動作させることを特徴とする請求項1に記載の車両暖機装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記暖機対象の温度が所定の設定範囲内になったとき、前記暖機対象の温度が所定の設定範囲内になった旨を通知する信号を前記暖機命令信号の送信元に送信することを特徴とする請求項1に記載の車両暖機装置。
【請求項4】
前記暖機対象は、オイル、冷却水又は車室内の雰囲気であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両暖機装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−299615(P2009−299615A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156446(P2008−156446)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】