説明

車両用カップホルダ

【課題】車両の走行振動等で、カップホルダとこれに保持せしめた飲料容器類の間で発生する打音を低減するカップホルダを提供すること。
【解決手段】車室に設置され、飲料容器類C1を受ける底面部31と、上記飲料容器類C1の外周を囲む周面部251を備えたカップホルダ1において、上記底面部31の上面に、該底面部31の中心位置を横切るように直線状に延びる細幅の凸状ビード33を形成し、該凸状ビード33により上記飲料容器類C1の底面を線接触で支えるようになし、底面部31が上下振動したときに飲料容器類C1を揺動させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用カップホルダ、特に車両走行時の振動によりカップホルダの底面部とこれに支えられた飲料容器類との間で発する打音を抑えるカップホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用のカップホルダとしては、車室のコンソールボックスの上面に、円筒容器状の凹部を設け、飲料容器類の底面を受ける底面部と、飲料容器類の外周面を囲む周面部とを備えた固定式のカップホルダや、インストルメントパネル等に設けられて出し入れ可能な引き出し式のカップホルダなどがある。
【0003】
上記引き出し式のカップホルダは一般に、引き出し手前側に飲料容器類を挿入する開口が形成され、インストルメントパネル内に設置されたリテーナ(格納ケース)に保持され摺動案内されてインストルメントパネルの外に引き出される上板(トレイ)と、上板の下面に基端が支軸により上下回動可能に軸支され、上板に対して斜め下方のセット位置に回動可能な下板(支持バー)とを備え、引き出してセットしたときにほぼ水平面をなす下板の底面部に上板の開口に挿入した飲料容器類を支持させる基本構造を有している(例えば、下記特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平5−92734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで固定式および引き出し式のいずれのカップホルダにおいても一つの大きな問題は、車両振動に伴いカップホルダと飲料容器類との間で発生する打音である。車両が上下に振動すると飲料容器類は跳ね上げられ、特にスチール缶等の金属製容器類の底面とこれを支えるカップホルダの底面部との間に小刻みかつ連続的に乗員に耳障りな打音が発生する。
【0005】
この打音の発生を防止する対策として、カップホルダの底面部にウレタン等のクッション材を貼着する手段が考えられるが、クッション材を貼り付ける作業手間がかかり、またコストもかさむ。
【0006】
また上記特許文献1のカップホルダのように開口の内周縁に開口径を縮小する方向に付勢されてカップホルダに挿入された飲料容器類の側面に圧接する保持板を設け、カップホルダと飲料容器類の相対振動を防止するようにしたものがある。
【0007】
しかし、この対策には次のような問題がある。即ち、飲料容器類は径の大小や材質により様々のものがあり、スチール缶は一般に小径で、筒状の本体部と底面とは別体で、本体部の下端開口縁に底面の外周をU字状にヘミングした構造とされ、ヘミングした外周が下方へ突出する底面フランジを形成して、底面は底上げ状となり、ヘミング部の外周は本体部の側面よりも若干外方へ張り出している。かかるスチール缶を上記保持板を備えたカップホルダに挿入し、これをカップホルダから取り出す場合、スチール缶の下端の外方への張り出し部が上記保持板の先端に引っかかって取り出しにくく、スチール缶を傾斜させて取り出したり、保持板を手で押し戻して取り出さなければならない不具合があった。
【0008】
そこで本発明は、クッション材を用いることなく、また飲料容器類のカップホルダからの取り出しに支障がなく、車両振動時のカップホルダと飲料容器類の底面との打音を防止するカップホルダを提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、車室に設置されるカップホルダであって、飲料容器類を受ける底面部と、上記飲料容器類の外周を囲む周面部を備えたカップホルダにおいて、上記底面部の上面に、該底面部の中心位置を横切るように直線状に延びる細幅の凸状ビードを形成し、該凸状ビードにより上記飲料容器類の底面を支えるようになす(請求項1)。カップホルダの底面部に形成した細い凸状ビードにより支えられた飲料容器類は、カップホルダの底面部に上下方向の振動が加えられるとバランスを崩し、跳ね上がらずに凸状ビードを中心として前後に揺動する。飲料容器類の揺動数はカップホルダの底面部の振動数よりも少なく、衝撃的な底面部の振動に比べて緩やかに揺動するから、飲料容器類の側面がカップホルダの周面部に当接しても、打音の発生数は底面とカップホルダの底面部との跳ね上げによる打音よりも少なく、また打音も小さく、車両振動によるカップホルダと飲料容器類との間に発生する打音は低減される。
【0010】
上記凸状ビードは、その断面形状をほぼ三角形状ないし半円形状とする(請求項2)。凸状ビードの断面形状を三角形状ないし半円形状とすることで、飲料容器類の支持は実質的に線接触による支持となり、カップホルダの底面部の上下振動は直ちに飲料容器類において揺動に変換される。
【0011】
上記凸状ビードを、上記底面部の上面に沿って車幅方向に形成する(請求項3)。凸状ビードの延在方向を車両前後方向に近づけると、車両の急加減速時に、飲料容器類を凸状ビードに沿う前後方向に揺動させる力が作用すると、飲料容器類の底面と凸状ビードとの間にガタツキが生じるおそれがあり、従って凸状ビードは車幅方向に形成することが有利である。
【0012】
上記カップホルダは自動車のインストルメントパネルに出し入れ可能に設置される引き出し式のカップホルダであり、上記インストルメントパネルから引き出し可能な上板と、該上板の下面に一端を回動可能に軸支して上下方向回動可能な下板とを備え、上記上板にはほぼ円形の開口を設けてその開口縁で上記周面部を形成し、上記下板で上記底面部を形成し、該底面部に上記凸状ビードを形成する(請求項4)。引き出し式のカップホルダの打音を好適に低減できる。
【0013】
上記底面部には、上記下板を下げたときに上記開口の直下となる位置で、飲料容器類の底面よりも小径で、飲料容器類の底面外周のフランジ部よ低い台部を形成し、該台部のまわりに上記凸状ビードを形成する(請求項5)。台部を形成することで、底面の外周に下方へ突出するフランジ部を有する飲料容器類においては、カップホルダの底面部に対する飲料容器類のズレが防止される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のカップホルダによれば、飲料容器類を受ける底面部に凸状ビードを設ける簡素な構造で、飲料容器類の取り出しに支障がなく、車両走行時の振動等によりカップホルダに保持せしめた飲料容器類の跳ね上がりを防ぐことができ、カップホルダと飲料容器類との間で発生する打音を効果的に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
車両の引き出し式のカップホルダに本発明を適用した実施形態を説明する。図1、図2に示すようにカップホルダ1は、インストルメントパネル6の車幅方向中央位置でカーオーディオADなどの下方位置に設置され、インストルメントパネル6内に取付けたリテーナ5によりインストルメントパネル6に出し入れ自在に保持されている。
【0016】
リテーナ5は金属板からなり、平板状の上壁50の左右両側縁を断面コ字形に屈曲させてレール部51を形成した構造としてある。
【0017】
カップホルダ1は合成樹脂製の上板2と一端を上板2の下面に軸支した下板3を備えている。上板2はほぼ水平な板本体20の前縁に沿って細長い前縁板22が設けてあり、板本体20の左右の両側縁にもこれらい沿って細長い側縁板23が設けてある。上板2は車室側よりリテーナ5内に挿入してあり、左右の両側縁板23を、リテーナ5の左右両側のレール部51に摺動可能に嵌合してある。上板2は前縁板22がインストルメントパネル6とほぼ面一となる収納位置(図2の仮想線)と、該収納位置から車室側へ緩やかに斜め上方引き出した使用位置(図2の実線)とに移動可能である。尚、上記使用位置に引き出したとき、上板2の基端部が所定の範囲、リテーナ5内に残るように図略のストッパにより引き出し量が規制されて、上板2が引き出し姿勢を保つよう保持される。
【0018】
上板2の引き出し手前側には左右両側位置に、二つの飲料容器類を挿入する開口21が形成してある。各開口21の大きさは飲料容器類のうち、大径のペットボトル(容量500ml)等を挿入可能な寸法に形成してあり、開口形状は全体的に円形で、手前側はほぼ直線状で、飲料容器類の外周面を支える周面部211が形成してある。
【0019】
また、開口21には、上記周面部211と前後に対向して、開口径の前後長を可変する調整板25が設けてある。調整板25は合成樹脂板で、開口21内へ突出するようにセットされ、開口21の開口縁に支軸250により軸支されて上下方向に回動可能に設けられ、開口21内へ突出する水平位置と、下向き回動した垂直位置とに位置変換可能である。調整板25は図略のバネ部材により上記水平位置に付勢され、水平位置において、開口21の前後長を縮小する。調整板25により縮小された開口21の前後長は、上記ペットボトルよりも小径のスチール缶C1等の直径よりも若干大きめの寸法に調整される。調整板25には、スチール缶C1の外周面に沿う周面部251が形成してある。
【0020】
上板2の引き出し手前側の半部の下面には下板3が設けてある。下板3は合成樹脂の一体成形品で、横幅が上板2の横幅よりも若干狭く形成してあり、上板2の左右の側縁板23で囲まれた下面内に収納可能としてある。下板3はその基端が、上板2の下面の前後中間位置に、支軸30により軸支され、上板2の下面に沿う収納位置と、上板2に対して引き出し手前側に斜め下方へ突出するセット位置とに上下方向回動自在に設けてある。
【0021】
図1ないし図4に示すように、下板3は手前側の端部を残して中間部に切抜き34が形成してあり、手前側の端部には、上板2の左右の開口21に対応して左右両側位置に、各開口21に挿入された飲料容器類C1の底面を受ける2つの底面部31が設けてある。各底面部31は、下板3本体に対して手前側に向けて立ち上がる傾斜面としてあって、カップホルダ1を引き出して下板3を上記セット位置としたときに、底面部31は水平となるようにしてある。
【0022】
底面部31には中央部に、一段高くしたほぼ円形の台部32が形成してある。台部32の大きさは飲料容器類のスチール缶C1の底面よりも小さくしてあり、台部32の高さは約2.5mmとしてあり、スチール缶C1の底面外周縁の下方へ突出する底面フランジの高さよりも低くしてある。
【0023】
そして、底面部31には台部32の両脇にそれぞれ、底面部31の中心を通って左右方向(車幅方向)に直線状に延びる細幅の凸状ビード33が形成してある。各凸状ビード33は底面部31の側縁から台部32にかけてこれらを架けわたすように形成してある。凸状ビード33はそのビード幅および高さ寸法が約1.2mm前後に形成してある。更に凸状ビード33は断面形状がほぼ三角形状ないしほぼ半円形状として、ビード頂端に向けて細くなる形状としている。
【0024】
カップホルダ1で飲料容器類のスチール缶C1を保持させるには、上板2をインストルメントパネル6から引き出し、下板3を上記セット位置へ下げた状態で、飲料容器類のスチール缶C1を上方より上板2の開口21に挿入せしめ、下板3の底面部31に載置する。スチール缶C1を開口21に挿入するとき、スチール缶C1の直径よりも、調整板25で縮小された開口21の前後長が大きいので、スチール缶C1は調整板25に干渉することなく開口21内へ挿入できる。またスチール缶C1を取り出すときには、スチール缶C1の下端外周の張り出し部が調整板25に干渉せず取り出しに支障はない。
【0025】
スチール缶C1を挿入すると、スチール缶C1の底面外周の底面フランジが径方向の対称位置で底面部31の左右の凹状ビード33により支持され、台部32は底面フランジで囲まれたスチール缶C1の底面の下方に位置し、底面と台部32の上面との缶には隙間がある。スチール缶C1は凸状ビード33により支持されるとともに、スチール缶C1の外周面を囲む開口21の開口縁の前後の周面部251,211のうちのいずれかに支えられた状態でほぼ垂直な起立姿勢に保持される。
【0026】
車両走行時の振動で、下板3の底面部31が上下方向に小刻みかつ連続的に振動すると(図4の矢印Z)、スチール缶C1は、底面フランジの左右両側部が横方向に延びる左右の凸状ビード33に線接触ないしは点接触の状態で支えられており、スチール缶C1の底面はカップホルダ1の底面部31から浮いているので、凸状ビード33との接触点を中心に前後方向に揺動する(図4の矢印Y)。従ってスチール缶C1は跳ね上がらず、スチール缶C1の底面とカップホルダ1の底面部31との間の打音は発生しない。
【0027】
スチール缶C1が前後方向に揺動すると、外周面がカップホルダ1の前後の周面部251,211に当たるが、この場合、スチール缶C1の底面に作用する衝撃的な上下振動に対して高さのあるスチール缶C1の揺動は緩やかであり、外周面と周面部251,211との当接による打音は跳ね上がりによる底面の打音に比べて遙かに小さい。
【0028】
開口21に対して小径のスチール缶C1は、車両の急加減速等により前後に位置ズレしようとするが、スチール缶C1の底面フランジが台部32の外周に当接してスチール缶C1の位置ズレを極力小さくする。
【0029】
上記構造のカップホルダ1では、ペットボトル等の大径の飲料容器類を保持させた場合には、大径の飲料容器類を挿入したときに、容器類により調整板25が下方へ押し開かれて、底面部31に載置したときに飲料容器類の外周面を、バネにより復帰しようとする調整板25の周面部251とこれと対向する周面部211とで飲料容器類の外周面を前後に挟むので、底面部31が上下に振動しても大径の飲料容器類が跳ね上げられず、打音が生じない。
【0030】
凸状ビード33の形成方向は、これを前後方向に近づけると、車両走行時の急加減速で、凸状ビード33と飲料容器類の底面との間でガタツキが生じるおそれがある。凸状ビード33の形成方向は車両の車幅方向に近い方向、好ましくは車幅方向ないしは車幅方向に対してほぼ20°の傾斜範囲とすることが望ましい。またカップホルダ1の底面部31を平坦面とし、底面部31の中央を横切る凸状ビード33を形成し、飲料容器類を支持させる構造としてもよい。
【0031】
底面部に凸状ビード33を形成してこれに飲料容器類を支持させる本発明は、引き出し式のカップホルダに限らず固定式のカップホルダにも適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を適用した車両の引き出し式のカップホルダの斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う位置での断面図である。
【図3】本発明の要部を示すもので、カップホルダの飲料容器類を支持する底面部の拡大斜視図である。
【図4】本発明のカップホルダと飲料容器類との打音の抑制作用を示す断面図である。
【符号の説明】
【0033】
C1 スチール缶(飲料容器類)
1 カップホルダ
2 上板
21 開口
211,251 周面部
3 下板
31 底面部
32 台部
33 凸状ビード
6 インストルメントパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室に設置されるカップホルダであって、飲料容器類を受ける底面部と、上記飲料容器類の外周を囲む周面部を備えたカップホルダにおいて、
上記底面部の上面に、該底面部の中心位置を横切るように直線状に延びる細幅の凸状ビードを形成し、該凸状ビードにより上記飲料容器類の底面を支えるようになしたことを特徴とする車両用カップホルダ。
【請求項2】
上記凸状ビードは、その断面形状をほぼ三角形状ないし半円形状とした請求項1に記載の車両用カップホルダ。
【請求項3】
上記凸状ビードを、上記底面部の上面に沿って車幅方向に形成した請求項1ないし2に記載の車両用カップホルダ。
【請求項4】
上記カップホルダは自動車のインストルメントパネルに出し入れ可能に設置される引き出し式のカップホルダであり、
上記インストルメントパネルから引き出し可能な上板と、該上板の下面に一端を回動可能に軸支して上下方向回動可能な下板とを備え、
上記上板には円形の開口を設けてその開口縁で上記周面部を形成し、上記下板で上記底面部を形成し、該底面部に上記凸状ビードを形成した請求項1ないし3に記載の車両用カップホルダ。
【請求項5】
上記底面部には、上記下板を下げたときに上記開口の直下となる位置で、飲料容器類の底面よりも小径で、飲料容器類の底面周縁のフランジ部よ低い台部を形成し、該台部のまわりに上記凸状ビードを形成した請求項4に記載の車両用カップホルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−182082(P2006−182082A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375349(P2004−375349)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】