説明

車両用サスペンション装置

【課題】スプリング保持部に対する懸架スプリングの組付性と操縦安定性とを両立(調和)させること。
【解決手段】下側マウント部材36は、下側スプリングシート28の支持面44と懸架スプリング18との間に介装される板状部46と、略円筒状に形成された筒状部48とを有する。板状部46には、懸架スプリング18のスパイラル状の巻線の一部である下端部側を内周面で保持するスプリング保持部50と、懸架スプリング18に向けて突出する第1の凸部52と、下側スプリングシート28の支持面44に向けて所定長だけ突出する第2の凸部54と、板状部46の下面と下側スプリングシート28の支持面44との間でクリアランス56を形成する凹部58とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸架スプリングを保持するスプリング保持部が設けられた車両用サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用サスペンション装置では、振動抑制・衝撃吸収のために、コイルスプリング(サスペンションスプリング)をサスペンションアームやショックアブソーバと同軸状に設ける構成が知られている。
【0003】
この車両用サスペンション装置では、サスペンションアームやショックアブソーバに対してコイルスプリングを組み付ける際、サスペンションアームやショックアブソーバ側に設けられたスプリングシートとコイルスプリングの巻線端部との間に、コイルスプリングの脱落を防止するためのスプリングシートラバーが配置されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−118341号公報
【特許文献2】特開2005−155808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された構造では、規制凸部と内周側筒状部との間にコイルスプリングが配置され、規制凸部と内周側筒状部との間に、コイルスプリングの素線の直径(外径)よりも大きい幅の隙間(離間間隔)が形成されており、コイルスプリングの保持剛性が低下する。このため、サスペンションの揺動に応じてコイルスプリングに対して上下方向の荷重が入力される際、コイルスプリングが伸縮する前にスプリングシートラバーとの間で相対的な変位(ズレ)が発生し、コイルスプリングの意図した伸縮が遂行されない場合があり、車両の操縦安定性に悪影響を与えるおそれがある。
【0006】
また、特許文献1に開示された構造では、環状板部の下面に複数の肉抜き凹所を設けることが開示されているが、この肉抜き凹所は、環状板部のばね特性を調整するために設けられたものであり、コイルスプリングの保持剛性には寄与しない。
【0007】
さらに、特許文献2に開示された構造では、コイルスプリングの素線の直径よりも小さい幅(離間間隔)からなるスプリング保持部によってコイルスプリングが把持されている。このようにスプリング保持部の幅(離間間隔)をコイルスプリングの素線の直径(外径)よりも狭めてしまうと、コイルスプリングをスプリングシートラバーに対して取り付ける際、幅狭なスプリング保持部の幅(離間間隔)を押し広げながらコイルスプリングをスプリング保持部に対して装着する必要があり、取付時に大きな力が必要となって組付作業性に悪影響を与える。
【0008】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、スプリング保持部に対する懸架スプリングの組付性と操縦安定性とを両立(調和)させることが可能な車両用サスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明は、サスペンション又はショックアブソーバと車体側との間に配置される懸架スプリングと、前記サスペンション、前記ショックアブソーバ、又は、前記車体側のいずれかで前記懸架スプリングを支持するスプリングシートと、
前記懸架スプリングと前記スプリングシートとの間に介装されるマウント部材とを備える車両用サスペンション装置において、前記マウント部材は、前記懸架スプリングの巻線の一部を内周面で保持するスプリング保持部と、車両搭載状態で前記懸架スプリングから入力される荷重により、前記スプリング保持部の前記内周面の直径が縮径するように変形する変形部と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、スプリング保持部に対して懸架スプリングを組み付け易いようにスプリング保持部の内周面を、懸架スプリングの素線の外径よりも広く設定した場合であっても、車両搭載時には、懸架スプリングのばね荷重が入力されてスプリング保持部の内周面の直径が縮径するように変形する。このため、本発明では、変形部を介して、スプリング保持部の内周面の直径を狭めることができ、懸架スプリングをしっかりと保持して保持剛性を向上させると共に、サスペンション又はショックアブソーバの揺動に対応して懸架スプリングに対して意図した伸縮動作をさせることが可能となり、操縦安定性を向上させることができる。この結果、本発明では、組付性と操縦安定性とを両立させたサスペンション装置を得ることができる。
【0011】
また、本発明は、前記スプリングシートに、前記懸架スプリングが載置される側に平坦面が形成され、前記スプリング保持部は、板状に形成され、前記スプリングシートの前記平坦面と前記懸架スプリングとの間に介装される板状部を有し、前記変形部は、前記板状部の周縁部で前記懸架スプリングの外周側に設けられ、前記懸架スプリング側に向けて突出する第1の凸部と、前記周縁部の前記第1の凸部が設けられる箇所で、前記スプリングシートの前記平坦面に向けて突出する第2の凸部とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、このように構成することで、車両搭載前で懸架スプリングによるスプリング荷重が入力されていない状態のとき、第2の凸部の内側でスプリングシートの平坦面とスプリング保持部の板状部との間でクリアランスが形成される。
【0013】
そこで、懸架スプリングがスプリング保持部の内周面内に装着された車両搭載後、例えば、路面振動や車体の揺動等に伴なって懸架スプリングが伸縮すると、懸架スプリングの伸縮作用によって生じる上下方向の荷重が発生し、懸架スプリングは、その弾性力(ばね力)によって、板状部のスプリング保持部をスプリングシートの平坦面に向かって押圧する押圧力を発揮する。この結果、第2の凸部の内側でスプリングシートの平坦面とスプリング保持部の板状部との間のクリアランスが潰れて零又は零に近接した状態となる。
【0014】
この押圧力でクリアランスが零又は零に近接した状態となることによって、第1の凸部が内径側に弾性変形して、スプリング保持部の内周面の開口部の幅(離間間隔)が狭まる。換言すると、懸架スプリングのスプリング荷重が板状部のスプリング保持部に対して押圧力として作用すると、スプリングシート側のクリアランスが零又は零に近似した状態となり、周縁部の第1の凸部をスプリング保持部の開口部が閉じる方向へ向けて弾性変形させることで懸架スプリングを保持する保持力を高めることができる。
【0015】
同時に、懸架スプリングをしっかりと保持することができるため、サスペンション又はショックアブソーバの揺動に対応して懸架スプリングに対して意図した伸縮をさせることが可能となり、車両の操縦安定性を向上させることができる。
【0016】
このように本発明では、懸架スプリングを組み付け易いようにスプリング保持部の内周面の幅(離間間隔)を広く設定した場合であっても、車両搭載後に付与される懸架スプリングのスプリング荷重によって第1の凸部を弾性変形させ、スプリング保持部の内周面の直径を縮径させてスプリング保持力を増大させると共に、車両の操縦安定性を向上させることで、組付性と操縦安定性とを両立(調和)させることができる。
【0017】
さらに、本発明は、前記スプリングシートに、前記懸架スプリングが載置される側に平坦面が形成され、前記スプリング保持部は、板状に形成され、前記スプリングシートの前記平坦面と前記懸架スプリングとの間に介装される板状部を有し、前記変形部は、前記板状部の周縁部で前記懸架スプリングの外周側に設けられ、前記懸架スプリング側に向けて突出する第1の凸部と、前記周縁部の前記第1の凸部が設けられる箇所の径方向の内側で、前記板状部と前記スプリングシートの前記平坦面との間でクリアランスを形成する凹部とを有することを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、周縁部の前記第1の凸部が設けられる箇所の径方向の内側で、凹部を介して板状部とスプリングシートの平坦面との間で形成されるクリアランスが潰れて零又は零に近接した状態となる。
【0019】
この押圧力によってクリアランスが零又は零に近接した状態となることによって、第1の凸部が内径側に弾性変形して、スプリング保持部の内周面の開口部の幅(離間間隔)が狭まって懸架スプリングの保持剛性を向上させることができる。同時に、懸架スプリングをしっかりと保持することができるため、サスペンション又はショックアブソーバの揺動に対応して懸架スプリングに対して意図した伸縮をさせることが可能となり、車両の操縦安定性を向上させることができる。
【0020】
このように本発明では、懸架スプリングを組み付け易いようにスプリング保持部の内周面の幅(離間間隔)を広く設定した場合であっても、車両搭載後に付与される懸架スプリングのスプリング荷重によって第1の凸部を弾性変形させ、スプリング保持部の内周面の直径を縮径させてスプリング保持力を増大させると共に、車両の操縦安定性を向上させることで、組付性と操縦安定性とを両立(調和)させることができる。
【0021】
さらにまた、本発明は、前記マウント部材が、前記懸架スプリングの内周側に設けられ前記懸架スプリングに沿って突出する筒状部と、前記筒状部の外周面から半径外方向へ向けて延出することで前記第1の凸部と対向する延出部とを有することを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、筒状部の外周面に半径外方向に突出する延出部を設け、この延出部を第1の凸部と対向させることで、懸架スプリングのスプリング保持部からの脱落を確実に阻止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、スプリング保持部に対する懸架スプリングの組付性と操縦安定性とを両立(調和)させることが可能な車両用サスペンション装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るサスペンション装置の要部断面図である。
【図2】図1のサスペンション装置を構成する下側マウント部材及び上側マウント部材等の拡大縦断面図である。
【図3】前記下側マウント部材の斜視図である。
【図4】前記下側マウント部材の底面図である。
【図5】図4のA−A線に沿った拡大縦断面図である。
【図6】(a)は、懸架スプリングを下側マウント部材のスプリング保持部に対して組み付けるときの状態であって、懸架スプリングのスプリング荷重が入力される前の状態を示す部分拡大縦断面図、(b)は、懸架スプリングがスプリング保持部に対して組み付けられた車両搭載状態であって、懸架スプリングのスプリング荷重が入力された後の状態を示す部分拡大縦断面図である。
【図7】(a)は、上側マウント部材の平面図、(b)は、(a)のE−E線に沿った拡大縦断面図である。
【図8】(a)は、懸架スプリングを上側マウント部材のスプリング保持部に対して組み付けるときの状態であって、懸架スプリングのスプリング荷重が入力される前の状態を示す部分拡大縦断面図、(b)は、懸架スプリングがスプリング保持部に対して組み付けられた車両搭載状態であって、懸架スプリングのスプリング荷重が入力された後の状態を示す部分拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るサスペンション装置の要部断面図、図2は、図1のサスペンション装置を構成する下側マウント部材及び上側マウント部材等の拡大縦断面図、図3は、前記下側マウント部材の斜視図、図4は、前記下側マウント部材の底面図、図5は、図4のA−A線に沿った拡大縦断面図である。
【0026】
図1に示されるように、サスペンション装置10は、ストラット型サスペンションからなり、第1取付ブラケット12を介して図示しない車輪側(左右フロント車輪)に連結されると共に、第2取付ブラケット14を介して図示しない車体側に連結されるショックアブソーバ16と、前記ショックアブソーバ16の軸方向に沿って懸架される懸架スプリング18とを備えて構成されている。
【0027】
この場合、ショックアブソーバ16は、周知のように、車両が路面から受ける衝撃力を懸架スプリング18の弾発力により吸収するように伸縮動作し、その伸縮動作に伴なう図示しないピストンの上下動作時に、前記ピストンに設けられたピストンバルブ機構や、図示しないシリンダに設けられた図示しないバルブ機構等が発生する減衰力によって、その伸縮振動を抑制する機能を発揮するものである。
【0028】
ショックアブソーバ16は、円筒体からなり下方側に第1取付ブラケット12が設けられたアウタチューブ20と、一端部が前記アウタチューブ20内に収装された図示しないピストンに連結され他端部が前記アウタチューブ20の外部に露呈するピストンロッド22と、前記ピストンロッド22の先端部に連結され第2取付ブラケット14を含むマウントラバー組立体24とを備える。
【0029】
アウタチューブ20には、図示しないステアリング装置のタイロットエンドが取り付けられ、図示しないステアリング装置から出力される操舵力がアウタチューブ20を介して車輪側(左右フロント車輪)に伝達されることで転舵可能としている。
【0030】
また、ショックアブソーバ16は、アウタチューブ20の外周面に形成された環状段部26に係止される下側スプリングシート(スプリングシート)28と、第2取付ブラケット14に背面支持されたスラストベアリング30に固定される上側スプリングシート(スプリングシート)32と、前記下側スプリングシート28と前記上側スプリングシート32との間に懸架される懸架スプリング18と、前記下側スプリングシート28に支持されスパイラル状の懸架スプリング18の下端部(一端部)を保持する下側マウント部材34と、前記上側スプリングシート32に支持され懸架スプリング18の上端部(他端部)を保持する上側マウント部材36とを有する。
【0031】
具体的には、図2に示されるように、懸架スプリング18の下端部が、下側マウント部材34を介して下側スプリングシート28に支持されると共に、懸架スプリング18の上端部が、上側マウント部材36を介して上側スプリングシート32によって支持される。
【0032】
この場合、下側マウント部材34及び/又は上側マウント部材36は、懸架スプリング18とスプリングシート(下側スプリングシート28及び上側スプリングシート32)との間に介装されるマウント部材として機能するものである。
【0033】
図1に戻り、上側スプリングシート32の下方側には、カラー部材38に固定されると共に、ピストンロッド22に係着されたバンプストップラバー40と、蛇腹部を介してピストンロッド22の軸方向に沿って伸縮可能に設けられたダストカバー42とが配設される。
【0034】
なお、下側マウント部材34及び上側マウント部材36と接触して支持する下側スプリングシート28及び上側スプリングシート32の支持面44は、それぞれ平坦面によって形成される。
【0035】
図3に示されるように、下側マウント部材36は、円板状に形成され、下側スプリングシート28の支持面44(平坦面)と懸架スプリング18との間に介装される板状部46と、略円筒状に形成された筒状部48とを有し、前記板状部46と前記筒状部48とは一体的に構成される。なお、本実施形態では、板状部46と筒状部48とを、例えば、硬質ゴム等によって一体成形しているが、これに限定されるものではなく、板状部46と筒状部48とをそれぞれ別体で形成してもよい。
【0036】
図5に示されるように、板状部46には、懸架スプリング18のスパイラル状の巻線の一部である下端部側を内周面で保持するスプリング保持部50と、前記板状部46の周縁部で懸架スプリング18の外周側に設けられ、懸架スプリング18に向けて突出する第1の凸部52と、周縁部の第1の凸部52が設けられる箇所で、下側スプリングシート28の支持面44に向けて所定長だけ突出する第2の凸部54と、周縁部の第1の凸部52が設けられる箇所の径方向の内側で、板状部46の下面と下側スプリングシート28の支持面44(平坦面)との間でクリアランス56(後記する図6(a)も併せて参照)を形成する凹部58とを有する。
【0037】
スプリング保持部50の内周面は、図5に示されるように、筒状部48側に設けられ懸架スプリング18の外径面に対応して断面円弧状に形成された湾曲面60と、第1の凸部52側に設けられ前記湾曲面60に連続し断面直線状に形成された環状段部62とを有する。
【0038】
板状部46の第1の凸部52は、図5に示されるように、その縦断面が先端側に向かって幅狭となる台形状に形成される。さらに、第1の凸部52と第2の凸部54とは、図4に示されるように、板状部46の周縁部に沿った所定位置に平面視及び底面視してそれぞれ略円弧状に形成される。板状部46の周縁部の上面部側に形成される第1の凸部52と、板状部46の周縁部の下面部側に形成される第2の凸部54とは、板状部46の上下面で重畳する位置に配置される(図3及び図4参照)。
【0039】
この場合、板状部46の第1の凸部52、第2の凸部54及び凹部58は、懸架スプリング18が車両に組み付けられた状態で懸架スプリング18から入力される荷重により、スプリング保持部50の内周面の直径が縮径するように変形する変形部として機能するものである。この点については、後記で詳細に説明する。
【0040】
板状部46に近接する筒状部48の外周面の下部側には、半径外方向に向けて突出する突出片からなり、懸架スプリング18のスプリング保持部50からの脱落を防止する延出部が設けられる。この延出部は、図3に示されるように、筒状部48の高さ方向で最も低い位置に設定され、筒状部48の外周面から半径外方向へ向けて突出することで板状部46の第1の凸部52と対向する第1延出部64a(図5参照)と、前記第1延出部64aから周方向に沿って所定角度だけ離間し、第1延出部64aよりも筒状部48の高さ方向の位置が高く設定された第2延出部64bと、前記第2延出部64bから周方向に沿って所定角度だけ離間し、筒状部48の高さ方向で最も高い位置に設定された第3延出部64cとから構成される。
【0041】
なお、本実施形態では、スパイラル状に巻回された懸架スプリング16に対応して異なる高さ位置に配置された第1〜第3延出部64a〜64cからなる複数の延出部を例示しているが、板状部46の第1の凸部52と対向する第1延出部64aのみからなる単数の延出部であってもよい。
【0042】
本実施形態に係るサスペンション装置10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0043】
図6(a)は、懸架スプリングを下側マウント部材のスプリング保持部に対して組み付けるときの状態であって、懸架スプリングのスプリング荷重が入力される前の状態を示す部分拡大縦断面図、図6(b)は、懸架スプリングがスプリング保持部に対して組み付けられた車両搭載状態であって、懸架スプリングのスプリング荷重が入力された後の状態を示す部分拡大縦断面図である。
【0044】
なお、図6(a)では、車両搭載前で懸架スプリング18によるスプリング荷重が入力されていないため、第2の凸部54の内側で下側スプリングシート28の支持面44とスプリング保持部50の板状部46の下面との間(板状部46の凹部58と下側スプリングシート28の支持面44との間)でクリアランス56が形成されている。
【0045】
図6(a)に示されるように、スパイラル状に巻回された懸架スプリング18の下端部を下側マウント部材34のスプリング保持部50の内周面に対して組み付ける際、スプリング保持部50の内周面の開口部の幅F1(離間間隔)が、懸架スプリング18の素線の外径F2よりも大きく形成されているため(F1>F2)、懸架スプリング18の下端部をスプリング保持部50の内周面に対して容易に挿入して組み付けることができる。この結果、懸架スプリング18の組付性を向上させることができる。
【0046】
なお、図6(a)に示されるように、スプリング保持部50に対してスプリング荷重が付与される前の状態では、スプリング保持部50の内周面の直径(内周面における最大内径)は、縦断面においてD1となっている。
【0047】
懸架スプリング18がスプリング保持部50の内周面内に装着された車両搭載後、例えば、路面振動や車体の揺動等に伴なって懸架スプリング18が伸縮すると、懸架スプリング18の伸縮作用によって生じる上下方向の荷重が発生し、懸架スプリング18は、その弾性力(ばね力)によって、板状部46のスプリング保持部50を下側スプリングシート28の支持面44に向かって押圧する押圧力(矢印B参照)を発揮する。この結果、第2の凸部54の内側で下側スプリングシート28の支持面44とスプリング保持部50の板状部46の下面との間(換言すると、板状部46の凹部58と下側スプリングシート28の支持面44との間)のクリアランス56が潰れて零又は零に近接した状態となる。
【0048】
この押圧力(矢印B参照)でクリアランス56が零又は零に近接した状態となることによって、第2の凸部54の上部側に形成された第1の凸部52が内径側(矢印C参照)に弾性変形して、スプリング保持部50の内周面の開口部の幅F3(離間間隔)が狭まる(F2>F3)。この場合、図6(b)に示されるように、スプリング保持部50に対してスプリング荷重が付与された後の状態では、スプリング保持部50の内周面の直径(内周面における最大内径)が、縦断面においてD2となり、スプリング荷重が付与される前の内周面の直径D1と比較して縮径する(D1>D2)。
【0049】
換言すると、懸架スプリング18のスプリング荷重が板状部46のスプリング保持部50に対して押圧力として作用すると、下側スプリングシート28側のクリアランスが零又は零に近似した状態となり、周縁部の上部側の第1の凸部52をスプリング保持部50の開口部が閉じる方向へ向けて弾性変形させることで懸架スプリング18を保持する保持力を高めることができる。
【0050】
同時に、本実施形態では、懸架スプリング18をしっかりと保持することができるため、図示しないサスペンションアーム又はショックアブソーバ16の揺動に対応して懸架スプリング18に対して意図した伸縮をさせることが可能となり、車両の操縦安定性を向上させることができる。
【0051】
このように本実施形態では、懸架スプリング18を組み付け易いようにスプリング保持部50の内周面の幅F1(離間間隔)を広く設定した場合であっても、車両搭載後に付与される懸架スプリング18のスプリング荷重によって第1の凸部52を弾性変形させ、スプリング保持部50の内周面の直径を縮径させて(D1→D2)スプリング保持力を増大させると共に、車両の操縦安定性を向上させることで、組付性と操縦安定性とを両立(調和)させることができる。
【0052】
また、本実施形態では、組付性と操縦安定性との両立(調和)を、第1の凸部52及び第2の凸部54(凹部58)からなる簡素な構造で達成することができ、組付コスト及び製造コストを低減することができる。
【0053】
さらに、本実施形態では、筒状部48の外周面に半径外方向に突出する第1延出部64aを設け、この第1延出部64aを第1の凸部52と対向させることで、懸架スプリング18のスプリング保持部50からの脱落を確実に阻止することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、車両の左右フロント車輪に適用されるサスペンション装置10を用いて説明しているが、これに限定されるものではなく、左右リア側のサスペンションにも適用することが可能である。
【0055】
図7(a)は、上側マウント部材の平面図、図7(b)は、図7(a)のE−E線に沿った拡大縦断面図、図8(a)は、懸架スプリングを上側マウント部材のスプリング保持部に対して組み付けるときの状態であって、懸架スプリングのスプリング荷重が入力される前の状態を示す部分拡大縦断面図、図8(b)は、懸架スプリングがスプリング保持部に対して組み付けられた車両搭載状態であって、懸架スプリングのスプリング荷重が入力された後の状態を示す部分拡大縦断面図である。
【0056】
上側マウント部材36は、基本的に、下側マウント部材34と天地が逆転した略同一形状で形成され、同一構成要素には、同一の参照符号を付して詳細な説明を省略すると共に、作用効果についても、下側マウント部材34と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【符号の説明】
【0057】
10 サスペンション装置
16 ショックアブソーバ
18 懸架スプリング
28 下側スプリングシート(スプリングシート)
32 上側スプリングシート(スプリングシート)
34 下側マウント部材(マウント部材)
36 上側マウント部材(マウント部材)
44 支持面(平坦面)
46 板状部
48 筒状部
50 スプリング保持部
52 第1の凸部(変形部)
54 第2の凸部(変形部)
56 クリアランス
58 凹部(変形部)
64a 第1延出部(延出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンション又はショックアブソーバと車体側との間に配置される懸架スプリングと、
前記サスペンション、前記ショックアブソーバ、又は、前記車体側のいずれかで前記懸架スプリングを支持するスプリングシートと、
前記懸架スプリングと前記スプリングシートとの間に介装されるマウント部材とを備える車両用サスペンション装置において、
前記マウント部材は、
前記懸架スプリングの巻線の一部を内周面で保持するスプリング保持部と、
車両搭載状態で前記懸架スプリングから入力される荷重により、前記スプリング保持部の前記内周面の直径が縮径するように変形する変形部と、
を有することを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項2】
前記スプリングシートには、前記懸架スプリングが載置される側に平坦面が形成され、
前記スプリング保持部は、板状に形成され、前記スプリングシートの前記平坦面と前記懸架スプリングとの間に介装される板状部を有し、
前記変形部は、前記板状部の周縁部で前記懸架スプリングの外周側に設けられ、前記懸架スプリング側に向けて突出する第1の凸部と、前記周縁部の前記第1の凸部が設けられる箇所で、前記スプリングシートの前記平坦面に向けて突出する第2の凸部とを有することを特徴とする請求項1記載の車両用サスペンション装置。
【請求項3】
前記スプリングシートには、前記懸架スプリングが載置される側に平坦面が形成され、
前記スプリング保持部は、板状に形成され、前記スプリングシートの前記平坦面と前記懸架スプリングとの間に介装される板状部を有し、
前記変形部は、前記板状部の周縁部で前記懸架スプリングの外周側に設けられ、前記懸架スプリング側に向けて突出する第1の凸部と、前記周縁部の前記第1の凸部が設けられる箇所の径方向の内側で、前記板状部と前記スプリングシートの前記平坦面との間でクリアランスを形成する凹部とを有することを特徴とする請求項1記載の車両用サスペンション装置。
【請求項4】
前記マウント部材は、前記懸架スプリングの内周側に設けられ前記懸架スプリングに沿って突出する筒状部と、前記筒状部の外周面から半径外方向へ向けて延出することで前記第1の凸部と対向する延出部とを有することを特徴とする請求項2又は請求項3記載の車両用サスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−92219(P2013−92219A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235411(P2011−235411)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】