車両用シート空調装置
【課題】 脈波よりも検知が確実かつ容易な乗員体温に基づいて、着座する乗員に特化した条件にて適切な空調制御を行なうことができる車両用シート空調装置を提供する。
【解決手段】 空調装置10A,10Bを車両のシート1に設け、そのシート1に着座する乗員のために局所空調を行なう。そして、該シート1に着座する乗員の体温情報を取得し、その体温に応じて、空調装置10A,10Bの制御温度範囲を変更可能に設定する。
【解決手段】 空調装置10A,10Bを車両のシート1に設け、そのシート1に着座する乗員のために局所空調を行なう。そして、該シート1に着座する乗員の体温情報を取得し、その体温に応じて、空調装置10A,10Bの制御温度範囲を変更可能に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用シート空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特許第3301109号公報
【特許文献2】特開2002−233431号公報
【特許文献3】特開2004−291868号公報
【0003】
自動車の車室内空間は、一般住居等に比較すると空間容積が小さく、また、窓を閉めきると密閉空間となり、例えば、ガラス越しに漏入する熱線により駐車中の車内温度は夏季には異常に上昇する。しかし、一般の自動車用空調装置は集中型であり、車室内の空間全体の空気温度を下げるべく設計されているので、どうしても温度調節に時間がかかる問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1、2には、ペルチェモジュールをシートバックや座部に組み込み、シートに着座する乗員近傍を局所冷却あるいは局所加温する方式が提案されている。また、特許文献3には、シート座部に設置された脈波センサにより運転者の疲労度を検出し、その疲労度に応じて車両前方のインパネ部に配置された車両空調装置の吹出設定温度を変更する方式が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1、2の構成では、シートに着座する乗員の体温によりペルチェモジュールによる空調温度の変更が行われないため、例えば、カゼや疲れによるほてりにより、若干体温が高い状態で例えば暖房設定温度がさらに上昇すると、その温熱が体温を一層上昇させたり熱がこもったりすることもあり、いわゆる頭ののぼせ感が増して集中力が低下する場合がある。例えば運転者がこのような状態に置かれた場合には、運転能力の低下につながるし、あるいは病状が却って悪化することもあり得る。また、上記特許文献3の構成では、車両全体の空調温度がシートに着座する特定乗員の体調により変更されてしまうので、変更後の空調温度が、体調の良好な乗員にとっては不快に感じられてしまう惧れがある。また、疲労が検知された場合は、暖房/冷房の区別なく空調温度を一律に上昇させて血行促進を図る処理がなされるようになっており、空調温度の変更が状況によって必ずしも奏効しないケースが生じうるので、特許文献1、2と同様の問題が発生し得る。
【0006】
本発明の課題は、乗員の体温に基づいて、着座する乗員に特化した条件にて適切な空調制御を行なうことができる車両用シート空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の車両用シート空調装置は、
車両のシートに設けられた空調装置と、
シートに着座する乗員の体温情報を取得する体温情報取得手段と、
取得された体温情報に反映される体温に応じ、空調装置の制御温度範囲を変更可能に設定する制御温度範囲変更設定手段と、
設定された制御温度範囲にて空調装置の作動を制御する空調制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
上記本発明の構成によると、空調装置を車両のシートに設け、そのシートに着座する乗員のために局所空調を行なう。そして、該シートに着座する乗員の体温情報を取得し、その体温に応じて、空調装置の制御温度範囲を変更可能に設定する。また、シート空調の制御温度範囲をその体温に応じて変更することで、制御温度(設定温度)自体が検出された体温に応じてめまぐるしく変化することがなくなり、空調制御の安定化を図ることができる。
【0009】
シートに設ける空調装置は、ペルチェモジュールと送風機とが導風通路部とともに一体的にシートに埋設されたものとすることができる。ペルチェモジュールの採用により、シートへ冷媒配管等を引き込む必要がなくなり、構成を大幅に簡略化できる。さらに、シート毎に独立してペルチェモジュールを設けることで、乗員毎に異なる条件で空調制御することも容易である。なお、ペルチェ素子は通電断面積(電流導通方向と直交する断面積)の大きい金属導体として構成されるので、PWM等により入力電流をスイッチングにより制御すると、波形エッジでの電流遮断時に大きな渦電流が発生し、目的の極性と逆方向の電圧が供給されて冷却効率を低下させるジュール熱が多量に発生するので好ましくない。そこで、空調制御手段は、該空調装置の吹出温度が設定入力された制御温度値に近づくように、ペルチェモジュールの駆動電流をレベル制御するように構成することが望ましい。
【0010】
次に、体温情報取得手段は、乗員の体温を検出する体温検出手段と、検出された体温が、予め定められた平熱域と該平熱域よりも中心温度(本明細書において、ある温度域(温度範囲)の「中心温度」とは、当該温度域ないし温度範囲の下限温度と上限温度との平均値のことを意味するものとする)の高い発熱域とのいずれに属するかを判定する発熱判定手段とを有するものとして構成できる。この場合、制御温度範囲変更設定手段は、体温が平熱域に属する場合に温度制御範囲を予め定められた平熱時適性範囲に設定し、体温が発熱域に属する場合に温度制御範囲を平熱時適性範囲とは異なる発熱時適性範囲に設定するものとして構成できる。身体が不調の時、その不調が体温の上昇に反映されることが多いので、検出した体温が平熱であるか、平熱よりも高いかを判定することは、体調不良を特定する上で極めて有効である。そして、不調温度制御範囲として、平熱時適性範囲と発熱時適性範囲とのいずれかが採用されるように定めておけば、平熱かそれよりも高いかによって温度制御範囲が上記2つのいずれかに択一的に切り替わり、制御温度(設定温度)が体温に応じてめまぐるしく変化する不具合を一層効果的に防止でき、空調制度のさらなる安定化を図ることができる。
【0011】
例えば、平時は制御温度範囲が平熱時適性範囲に設定され、(発熱していない正常状態の)乗員は、その適性範囲内にて好みの温度に設定を行なう。しかし、その乗員が不調により発熱した場合は、発熱時適性範囲に切り替わり、発熱時に適した空調温度へ自動的にシフトさせることができる。これにより、乗員の発熱による不快感が和らげられ、発熱の症状も軽減される。そして、当該発熱時適性範囲での空調制御をしばらく行なうことにより、体温が平熱域に復帰すれば、これを検出し、空調装置の制御温度範囲を平熱時適性範囲に戻すことで、その乗員が平時快適と感じる設定温度からの逸脱を防止することができる。
【0012】
空調装置を暖房動作が可能なものとして構成する場合、温度制御範囲は、発熱時適性範囲の中心温度が、平熱時適性範囲の中心温度よりも低くなるように設定しておくことが望ましい。これにより、体温が高い状態で暖房温度がさらに上昇し、その温熱が体温を一層上昇させる悪循環を回避することができ、ひいては車内に熱がこもったりして、頭ののぼせ感が増し、集中力が低下する等の不具合も生じにくくなる。この場合、温度制御範囲は、具体的には、発熱時適性範囲の上限温度と下限温度を、平熱時適性範囲の上限温度と下限温度よりもそれぞれ低く設定しておくとよい。
【0013】
一方、空調装置は冷房動作が可能なものとしても構成することができる。この場合、夏場にて同じ冷房設定温度であっても、カゼを引いて発熱している場合には寒く感ずることがある。そこで、温度制御範囲は、発熱時適性範囲の中心温度が、平熱時適性範囲の中心温度よりも高くなるように設定しておくと、このため冷房時の冷熱が身体の熱を奪い体調悪化を助長してしまう不具合を効果的に抑制することができる。温度制御範囲は、具体的には、発熱時適性範囲の上限温度と下限温度を、平熱時適性範囲の上限温度と下限温度よりもそれぞれ高く設定しておくとよい。
【0014】
本発明においてセンサ体温検出手段は、シートに着座した乗員の皮膚温度を検出する赤外線温度検出装置とするのがよい。(人体露出部の)皮膚温度を赤外線温度検出装置にて測定することで、着衣を介した脈動検出と比較して、体調が反映される体温の検出を正確かつ非接触にて実施することが可能となり、より適正なシート空調制御が可能となる。また、非接触式なので温度平衡のための待ち時間が生じず、速やかに体温検知できるので、空調制御にも速やかに反映させることができる。この場合、赤外線温度検出装置は、乗員の上半身の皮膚露出部をサーモグラフィー撮影するサーモグラフィー撮影装置とすることができる。この構成によると、皮膚露出部の温度測定によりユーザーの体温をより正確に知ることができる。また、サーモグラフィー撮影装置は皮膚面の領域別に温度特定が可能であり、例えば、皮膚露出部の特定部位(例えば高体温で外気温の影響を受けにくい首筋領域など)での温度測定により、再現性の良好な体温測定が可能である。また、乗員の上半身を主たる撮影対象として視野を定めておけば、皮膚露出部全体の体温分布情報を平均体温情報に変換したり、あるいは最も高温の領域(例えば上記の首筋領域)の体温情報で代表させたりするなど、測定ばらつきを軽減するための種々の手法を講ずることも可能となる。
【0015】
ところで、車両利用時には、シートに着座した乗員が停車時にシートから離れ、再び戻ってきて車中滞在を再開したり、シートベルトを外して着衣を改めたりすることもしばしば発生する。例えば、体温上昇に伴い暑さを感じてシートから離れ、外へ涼みに出たり、上着を脱いでシートに戻ったりするようなケースを具体例として挙げることができる。このように、シートへの着座状態に途切れが確認された場合は、その前後で乗員の体温状態にも変化を生じている可能性が高くなる。そこで、これに対応するために、シートへの乗員の着座の有無を検出する着座検出手段を設け、さらに、該着座検出手段が着座検知状態から着座非検知状態に移行し、その後着座検知状態に復帰した場合に、着座非検知状態へ移行前に設定されていた制御温度範囲を、該着座検知状態への復帰後に取得した体温情報に基づいて更新するように構成しておくとよい。このようにすると、着座途切れの前後での検知体温変化に対応して制御温度範囲の設定状態が更新されるので、より適切な空調制御が実現する。
【0016】
着座検出手段は、例えば、シートに設けられたシートベルトのバックルに組み込むことができ、該バックルの締結及び締結解除と連動して乗員の着座の有無を検出するバックル締結検知スイッチとすることができる。近年、後部座席も含めてシートベルトの着用が義務付けられており、着用励行も進んでいるので、バックル締結検知スイッチを着座検出手段として用いれば、バックル締結検知スイッチの付勢状態により着座途切れを確実に検知することができる。なお、乗員がシートに着座した状態でシートベルトを外したのみの状態(つまり、バックル締結検知スイッチが非付勢となる状態)も、広義に「非着座状態」に属するものとして考える。これにより、例えば、着座したままシートベルトを外して着替えを行なったり、上着等を脱いだりした場合にも、シートベルトの再着用に伴い体温検知が行なわれ、検知結果に応じて制御温度範囲の更新設定を確実に行なうことができる。
【0017】
体温検出手段として、シートに着座した乗員の皮膚温度を検出する赤外線温度検出装置を用いる場合、赤外線温度検出装置の検出動作には一定の電力が消費される。他方、着座した乗員の体温が短期間に急変動することは生理的には稀であり、ある程度時間をかけて緩やかに変化することの方が多い点に鑑みれば、体温検出の頻度を過度に増加させることは、赤外線温度検出装置を不必要に頻繁に動作させることにつながり、電力消費(特に車載バッテリー)の無駄を招く問題がある。そこで、着座検出手段が着座検出していることを条件として赤外線温度検出装置を検出動作させ、着座検出していない場合は赤外線温度検出装置の検出動作を停止させる赤外線温度検出装置作動制御手段を設けておけば、着座検出によりートに乗員が不存在であることが明確な場合は赤外線温度検出装置の検出動作が停止するので、電力消費の無駄を省くことができる。
【0018】
上記の方式では、着座直後に一旦体温検出を行なえば、その後の体温変動がそれほど急激には起こらないと考えられるから、赤外線温度検出装置作動制御手段は、着座検出手段が着座非検出状態から着座検出状態へ移行した場合にこれをトリガとして赤外線温度検出装置による皮膚温度の検出動作を開始させる一方、該検出動作の最大継続時間が定められており、該最大継続時間の満了と、着座検出状態の着座非検出状態への移行とのいずれかが成立した場合に、赤外線温度検出装置の検出動作を停止させるものとすることができる。検出動作の最大継続時間は、例えば1回の体温特定に必要十分な期間を考慮して決めておけばよく、当該体温特定が完了後は赤外線温度検出装置の動作を遮断することで節電を図ることができる。一方、該最大継続時間が満了する前に着座検出状態から着座非検出状態へ移行した場合は、赤外線温度検出装置の動作を直ちに遮断することで、同様に節電を図ることができる。この場合、制御温度範囲変更設定手段は、赤外線温度検出装による検出動作が停止状態から復帰再開される毎に、該検出される皮膚温度に基づき空調装置の制御温度範囲を設定更新するように構成することで、着座途切れ後(及び、初回時)の体温検知と制御温度範囲の更新設定を確実に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面を用いて説明する。 図1は本発明の車両用シート空調装置の一例を示す全体概要図である。該車両用シート空調装置50は、自動車のシート1に組み込まれている。該シート1は、乗員の臀部を乗せる座部101と、背中を当てる背もたれ部102と、背もたれ部102の頂部に取り付けられたヘッドレスト2とを有する。そして、座部101及び背もたれ部102の各表皮106には噴出口104が形成されている。
【0020】
座部101及び背もたれ部102の各内部には空気ダクト105が形成されている。この空気ダクト105は車室内に一端が開口し、他端が上記噴出口104に開口している。そして、各空気ダクト105の途中にペルチェモジュール3が介装されている。ペルチェモジュール3は、一方の面が吸熱面、他方の面が放熱面となるように、厚さ方向に直流通電駆動される周知のペルチェ素子と、順方向通電時に冷却側、逆方向通電時に発熱側となる面に密着配置される金属製のヒートブロックと、同じく空調熱交換側となる面に密着配置される金属製のヒートシンクとを有し、ヒートシンクの裏面に熱交換を促進するためのフィンが一体化された周知の構成を有するものである(例えば特開2005−280710号公報参照)。
【0021】
空気ダクト105の途中におけるペルチェモジュール3の上流側には、該ペルチェモジュール3の放熱フィンに車室内の空気を圧送する送風機4が設けられている。送風機4は放熱フィンに周囲の空気を吹き付けることにより温度調整された空気を生成し、この温度調整された空気が空気ダクト105を介して吹出口104から吹き出される。このように、空気ダクト105、ペルチェモジュール3及び送風機4を有した空調装置10Aが背もたれ部102に、また、同様の構成の空調装置10Bが座部101に、それぞれ個別に組み込まれた構造となっている。上記のような構造の空調装置10A,10Bの組(以下、両者を総称する場合には、空調装置10と記載する)を有した車両用シート空調装置が、図2に示すように、自動車の各シート(具体的には、運転席1(A)、助手席1(B),右後部座席1(C)、左後部座席1(D))に独立して組み込まれ、各座席に乗員検知センサ114(本実施形態では、後述のごとくバックル締結検知スイッチ)が設けられている。
【0022】
次に、図3は、上記車両用シート空調装置50の電気的構成の一例を示すブロック図である。要部をなすのはマイクロプロセッサとして構成されたECU106(空調制御手段)を主体とする制御回路100であり、サーモグラフィーカメラ111がドライバ回路111Dを介して、乗員検知センサ114及び内気温センサ115がそれぞれアンプ124,125を介して、温度入力設定手段をなす手元操作スイッチ(温調設定スイッチ)112と手元電源スイッチ113が温調入力インターフェース122を介して、それぞれECU106に接続されている。
【0023】
次に、サーモグラフィーカメラ111は、シート1に着座した乗員の皮膚温度を検出する赤外線温度検出装置として機能し、体温検出手段を構成する。構造的には公知のものであり、露光部に設けた赤外線センサにより、物体から放射される遠赤外線の波長分布を二次元測定し、その測定結果に基づいて温度マッピングデータ(サーモグラフィー)を生成するものである。具体的には、図5Bに示すように、シート1に着座したユーザーHKの、首より上の皮膚露出部のサーモグラフィーTGを撮影するものであり、特に首筋部分が周囲よりも高温の領域HTとして現われるので、その領域HTをサーモグラフィー画像上で温度とともに特定することができる。例えば、体温測定値を首筋領域HTの平均温度として決定することができる。
【0024】
図6に示すように、シートベルトのバックル51に組み込まれたバックル締結検知スイッチ114は着座検出手段を構成する。バックル51は、周知のごとくベルト金具51Mと金具ソケット51Sとを有し、金具ソケット51Sにベルト金具51Mを挿入することで、ベルト金具51Mの係合孔51hに、ばね付勢されたソケット内の締結爪51eが嵌まり込んで締結状態になる。そして、金具ソケット51S側の図示しない締結解除ボタンを押圧すると締結爪51eが係合孔51h外に退避して締結解除状態となり、ベルト金具51Mを金具ソケット51Sから引き抜くことができる。バックル締結検知スイッチ114は金具ソケット51S内に設けられ、ベルト金具51Mを金具ソケット51S内に差し込むことで付勢状態となり、ベルト金具51Mを金具ソケット51Sから引き抜けば付勢解除状態となる。本実施形態では、ECU106は、後述の図14の処理流れに従い、バックル締結検知スイッチ114が付勢状態となっていれば乗員がシート1に着座した着座状態であると判定し、ECU106のメモリ内に形成される着座フラグを「1」に設定する。同じくバックル締結検知スイッチ114が非付勢状態となっていれば非着座状態であると判定し、着座フラグを「0」に設定する。
【0025】
図3に戻り、ECU106には、各々ペルチェモジュール3、送風機4、及びそれらの駆動制御を司る駆動ユニット121の組からなる空調装置10A(背もたれ側)及び10B(座部側)が接続されている。駆動ユニット121は、ペルチェモジュール3を冷房使用時と暖房使用時とで互いに異なる極性にて通電駆動するものである。そして、ECU106は、乗員の検出の有無に基づき、空調装置10A,10Bの動作を、乗員検出時の動作モードである通常モードと、乗員非検出時の動作モードであって通常モードよりも動作出力が制限される制限モードとの間で切り替えつつ制御することが可能である。例えば、制限モードにおいて空調装置10の動作を停止することができる。
【0026】
また、この実施形態では、制限モードにおいては、サーモグラフィーカメラ(赤外線温度検出装置)111の検知動作も停止するようになっている。具体的には、ECU106は、バックル締結検知スイッチ114(着座検出手段)が着座非検出状態から着座検出状態へ移行した場合には、これをトリガとしてサーモグラフィーカメラ111による皮膚温度の検出動作を開始させる一方、該検出動作の最大継続時間が定められており、該最大継続時間の満了と、着座検出状態の着座非検出状態への移行(つまり、バックル締結解除)とのいずれかが成立した場合に、サーモグラフィーカメラ111の検出動作を停止させる。検出動作の最大継続時間は、例えば1回の体温特定に必要十分な期間を考慮して適宜決定され、当該体温特定が完了後にサーモグラフィーカメラ111の動作が遮断される。なお、体温特定処理の完了を受けてサーモグラフィーカメラ111の動作遮断信号を出力するようにしてもよい。なお、上記の最大継続時間が満了する前にバックル締結検知スイッチ114が着座検出状態から着座非検出状態へ移行した場合は、サーモグラフィーカメラ111の動作は直ちに遮断される。
【0027】
ECU106は、各シートの乗員検出センサ114による乗員検出内容に基づいて、個々のシート1の空調装置10の動作を独立に制御する。なお、各シートの空調装置10A,10Bに対し、独立した個別のECU106が設けられているが、単一のECU106を各シート間で共用化し、これに各シートの空調装置10A,10Bを一括接続して制御を行なうようにしてもよい。
【0028】
次に、車載バッテリー+Bにつながる電源ラインとして、車両のイグニッションスイッチ120と連動して電源電圧の供給/遮断が切り替わる第一電源ラインPL1と、イグニッションスイッチの状態とは無関係に常時電源電圧が供給される第二電源ラインPL2とが設けられている。イグニッションスイッチ120は、前述のアクセサリ系負荷とエンジン電装系負荷のいずれにも電源電圧が供給されないオフ位置(OFF)と、同じくアクセサリ系負荷にのみ供給されるアクセサリ・オン位置(ACC−ON)と、アクセサリ系負荷とエンジン電装系負荷との双方に供給されるイグニッション・オン位置(IG−ON)との間で切り替えを行なう。そして、車両用シート空調装置50のECU106及び空調装置10が第二電源ラインPL2に接続されている。
【0029】
図1に戻り、各シート1には、乗員が操作するための空調装置用の手元操作スイッチ112が設けられている。ECU106は、該手元電源スイッチ113がオフ状態のとき、乗員検出手段114による乗員検出内容とは無関係に空調装置10の動作を停止する。また、手元電源スイッチ113がオン状態のとき、乗員検出センサ114による乗員検出内容に基づき通常モードと制限モードとの間で切り替えつつ空調装置10A,10Bの動作を制御する。
【0030】
図1に示すように、手元操作スイッチ112はプッシュ機能付のロータリースイッチであり、1回押圧すると引っ込んで手元電源スイッチ113(図3)をオフ状態とする。一方、さらに押圧すると飛び出して電源スイッチ113をオン状態とし、設定温度変更のための回転操作が可能となる。つまり、手元操作スイッチ112は制御温度値設定入力部をなすアナログ操作部として構成されている。
【0031】
手元操作スイッチ112は、例えばロータリーボリュームないしポテンショメータが回転検出部として組み込まれている。そして、中立位置NTLに関して第一方向(図1では右側)に回転させると暖房モードでの温度設定となり、中立位置NTLから離れるほど設定温度は高くなるとともに、当該第一方向の限界位置αx’まで回転させると暖房での最高温度(最大出力)の設定状態となる。また、中立位置NTLに関して第二方向(図1では左側)に回転させると冷房モードでの温度設定となり、中立位置NTLから離れるほど設定温度が低くなるとともに、当該第二方向の限界位置αxまで回転させると冷房での最低温度(最大出力)の設定状態となる。なお、中立位置NTLを中心として両側一定角度範囲内は不感帯区間とされ、操作位置がこの不感帯区間内にある場合は冷房及び暖房ともに動作を停止する。そして、操作位置が暖房側の不感帯区間末端をなす起点位置α1’に到達すると、暖房での最低温度(最小出力)の設定状態となる。また、操作位置が冷房側の不感帯区間末端をなす起点位置α1に到達すると、冷房での最高温度(最小出力)の設定状態となる。
【0032】
図7は、駆動ユニット121の回路構成例を示すものである。駆動電源は、ペルチェ素子への過電圧印加防止を考慮して、絶縁型に構成されている。具体的には、車載バッテリー電圧+Bを入力電圧として受電する入力側DC電源150を有し、そのDC出力電圧が、昇圧用発振回路153により駆動される昇圧スイッチング用トランジスタ152(本実施形態ではパワーFETにて構成され、昇圧スイッチング周波数は10〜30kHz:例えば、15kHz)によりスイッチングされつつ、昇圧用のトランス151の1次側に入力される。該トランス151の2次側昇圧出力電圧は8〜15V(例えば12V)である。なお、昇圧用発振回路153は、トランス151の一次側インダクタンスの一部を流用した自励式発振回路として構成されている。
【0033】
トランス151の2次側昇圧出力電圧は、ダイオード154Dにより半波整流され、さらにコンデンサ154Cにより平滑化された後、PWMスイッチング用トランジスタ155に入力される。PWMスイッチング用トランジスタ155はパワーFETにて構成され、ECU106が決定するデューティ比(例えば50〜100%)にてPWMスイッチングされる。PWMスイッチング用トランジスタ155は、ゲート駆動用トランジスタ156を介してフォトカプラ165によりスイッチングされる。
【0034】
ペルチェ素子は導通断面積の大きい金属導体として構成されているので、PWMスイッチング電圧波形をペルチェ素子へ直接入力すると、波形エッジでの電流遮断時に渦電流が発生し、目的の極性と逆方向の電圧が供給されて冷却効率を低下させるジュール熱が多量に発生するので好ましくない。そこで、本実施形態では、コイル158とコンデンサ159とを有した駆動平滑化回路201により、上記PWMスイッチング電圧波形をディーティ比に応じた直流駆動電圧(出力電圧範囲は、例えば6〜12V:出力電流範囲は、例えば3〜6A)として平滑化し、極性切替スイッチ160を介してペルチェモジュール3に供給するようにしている。つまり、ペルチェモジュール3の出力は、駆動電流のレベル制御により実施される。なお、PWMスイッチング周波数は例えば1〜5kHzであり、昇圧スイッチング周波数よりも小さく設定される。
【0035】
極性切替スイッチ160は、本実施形態ではリレースイッチとして構成され、リレー駆動トランジスタ162を介してフォトカプラ163により動作制御される(ここでは、リレー駆動トランジスタ162がOFFのとき、端子160Aが電源入力/端子160Bが接地となり(順方向極性)、同じくオンのときは端子160Aが接地/端子160Bが電源入力となるよう(逆方向極性)、スイッチ160が切り替わる)。また、送風機4へのモータ駆動出力は、トランス151の2次側にてPWMスイッチング用トランジスタ155の前段より、電圧安定化用のレギュレータIC164を介して非スイッチング状態で取り出される。
【0036】
なお、本実施形態では車載バッテリー電圧+Bの変動を補償するために昇圧回路を組み込んでいるが、ペルチェ素子の動作が保障できる場合、例えば、ペルチェ素子への駆動出力電圧範囲が車載バッテリー電圧+Bの変動範囲よりも常時小さいことが保障できる場合には、この昇圧回路を省略することも可能である。この場合、ペルチェ素子への出力段に電圧モニタリング部を追加し、PWMスイッチングのデューティ比制御にこれをフィードバックして電圧を安定化するレギュレータ部を追加すればよい。また、ペルチェ素子への駆動出力電圧が車載バッテリー電圧+Bの変動範囲を若干上回る場合にあっても、該レギュレータ部を周知の昇圧型ステップアップ回路として構成すれば、昇圧回路は同様に省略できる。
【0037】
電源スイッチ113のオン/オフ状態、及び手元操作スイッチ112の操作位置情報は温調入力インターフェース122を介してECU106に入力される。電源スイッチ113がオフ状態のとき、ECU106は、入力側DC電源150へのバッテリー受電系路上に設けられた電源スイッチ150sをオフにし、ペルチェモジュール3と送風機4とを双方ともに停止させる。一方、電源スイッチ113がオン状態のときは、通常モードでは電源スイッチ150sをオンにする。そして、手元操作スイッチ112が冷房側に回転していればリレー駆動トランジスタ162をオフとし、通電極性を順方向とする。また、暖房側に回転していればリレー駆動トランジスタ162をオンとし、通電極性を逆方向とする。
【0038】
冷房側及び暖房側のいずれにおいても、手元操作スイッチ112の操作角度は、前述の回転検出部の出力として温調入力インターフェース122に入力され、読み取られる。操作角度は前述のごとく、冷房側では起点位置α1から限界位置αxに至る操作角度区間(操作ストローク範囲)にて、暖房側では起点位置α1’から限界位置αx’に至る操作角度区間(操作ストローク範囲)にてそれぞれ任意に設定可能であり、図8に示すように、暖房側の各操作角度(操作位置)と設定温度との関係が、ECU106内のメモリに制御温度範囲テーブルとして記憶されている。また、図9に示すように、冷房側の各操作角度(操作位置)と設定温度との関係も、図3のECU106内のメモリに制御温度範囲テーブルとして記憶されている。
【0039】
図8及び図9において、制御温度範囲テーブルは、操作角度範囲に対応する設定温度範囲(制御温度範囲)を異ならせる形で、平熱時用と発熱時用との2通り用意されている。これは、図3のサーモグラフィーカメラ111(赤外線温度検出装置)によりシート1に着座した乗員の体温を皮膚温度から検出し、図10(暖房時)及び図11(冷房時)に示すごとく、検出された体温が平熱域(本実施形態では35℃以上37℃未満)に属する場合には温度制御範囲を平熱時適性範囲Aに設定し、体温が発熱域(本実施形態では37℃以上40℃未満)に属する場合には温度制御範囲を平熱時適性範囲Aとは異なる発熱時適性範囲Bに設定するためである。
【0040】
図10に示すごとく、暖房時には、発熱時適性範囲Bの上限温度θbx’と下限温度θb1’が、平熱時適性範囲Aの上限温度θax’と下限温度θa1’よりもそれぞれ高く設定されている。具体的には、縦軸が設定温度(シート1の噴出口104から吹き出される温風の吹出し温度)を示し、横軸は乗員の体温(体温)を示している。検出された乗員の体温が35℃以上37℃未満のいわゆる平熱時では、暖房吹出し温度は44℃(θa1’)以上52℃(θax’)以下の平熱時適性範囲A内での設定が可能となり、体温が37℃以上40℃未満の発熱時では、暖房吹出し温度は40℃(θb1’)以上44℃(θbx’)以下の発熱時適性範囲Bでの設定が可能となる。手元操作スイッチ112の暖房モードでの操作角度範囲は[α1’,αx’]にて不変であり、図8に示すように、平熱時適性範囲Aではα1’に下限温度θa1’(ここでは44℃)が、αx’に下限温度θax’(ここでは52℃)が割り振られる形で、個々の操作角度での設定温度を示す制御温度範囲テーブルが用意されている。操作角度と設定温度との関係は線形に設定することもできるし、非線形に設定することもできる。
【0041】
また、図11に示すごとく、冷房時には、発熱時適性範囲Bの上限温度θbxと下限温度θb1が、平熱時適性範囲Aの上限温度θaxと下限温度θa1よりもそれぞれ低く設定されている。具体的には、縦軸が設定温度(シート1の噴出口104から吹出される冷風の吹出し温度)を示し、横軸は乗員の体温(体温)を示している。検出された乗員の体温が35℃以上37℃未満のいわゆる平熱時では、冷房吹出し温度は34℃(θa1)以上36℃(θax)以下の平熱時適性範囲A内での設定が可能となり、体温が37℃以上40℃未満の発熱時では、冷房吹出し温度は37℃(θb1)以上39℃(θbx)以下の発熱時適性範囲Bでの設定が可能となる。手元操作スイッチ112の冷房モードでの操作角度範囲は[α1,αx]にて不変であり、図9に示すように、平熱時適性範囲Aではα1に下限温度θa1(ここでは34℃)が、αxに下限温度θax(ここでは36℃)が割り振られる形で、個々の操作角度での設定温度を示す制御温度範囲テーブルが用意されている。操作角度と設定温度との関係は線形に設定することもできるし、非線形に設定することもできる。
【0042】
さて、上記の車両用シート空調装置50においては空調設定温度(制御温度)は、制御温度設定入力部、具体的には手元操作スイッチ112により設定入力される。そして、該制御温度値設定入力部への入力操作がなされない状態で制御温度範囲が変更されたとき、制御温度値の制御温度範囲フルスケール上での相対入力位置が不変となるように、該制御温度の設定絶対値が、変更前の制御温度範囲における相対入力位置に対応する値から、変更後の制御温度範囲における相対入力位置に対応する値に更新されるようになっている。これにより、制御温度範囲の変更に伴い温度設定変更入力を敢えて行なわずとも、相対入力位置を不変として変更後の制御温度範囲に対応した値に制御温度値が自動変更され、設定変更の手間を省くことができる。
【0043】
具体的に説明すれば、制御温度設定入力部には、設定可能な最低温度から最高温度に至るフルスケールが存在し、乗員は、そのフルスケールの範囲内で温度設定入力を行なうとともに、そのフルスケール上での相対入力位置を定めることができる。例えば、暖房時を例にとると、平熱時制御温度範囲では、最低温度θa1’=44℃、最高温度θax’=52℃、フルスケール範囲が52−44=8(℃)である。そして、設定入力温度が48℃であれば、相対入力位置は、最低温度θa1’側から見て4℃の位置、すなわち50%の位置である。この状態で、発熱時制御温度範囲に切り替わると、最低温度θb1’=40℃、最高温度θbx’=44℃であり、フルスケール範囲は44−40=4℃である。そして、相対入力位置は最低温度側から見て50%の位置に固定されるので、4℃×0.5=2℃であり、変更後の設定温度は40+2=42℃に自動変更される。つまり、平熱時制御温度範囲から発熱時制御温度範囲に切り替わることで、手元操作スイッチ112の操作位置を変更していないにもかかわらず、設定温度は48℃から6℃低い42℃に自動的に切り替わることを意味する。
【0044】
本実施形態では、図10及び図11に示すように、暖房モードと冷房モードとのいずれにおいても、熱時制御温度範囲と発熱時制御温度範囲とは重なり範囲を有しておらず、平熱時制御温度範囲と発熱時制御温度範囲の切替えに対し、設定温度をホールドすることは本来的に不可能である。しかし、平熱時制御温度範囲と発熱時制御温度範囲とに重なりを持たせることも可能であり、この場合は、その重なり区間に制御温度が設定されていれば、設定温度をホールドすることは原理的には不可能でなくなる。
【0045】
しかし、本実施形態の手元操作スイッチ112のように、制御温度値設定入力部が、固定された機械操作ストローク範囲(すなわち、操作角度範囲)を持つアナログ操作部である場合、設定温度はアナログ操作部の操作位置として機械的に記憶されているに過ぎない。従って、これをホールドするためには、変更前の制御温度範囲に対応する操作位置から、変更後の制御温度範囲に対応する操作位置へアナログ操作部を駆動する機構を考慮しなければならないが、制御温度値設定入力部の高価格化と機構の複雑化を招くことはいうまでもない。アナログ操作部の場合は、平熱時制御温度範囲と発熱時制御温度範囲の切替えに伴い、その操作位置をホールドし、設定温度を自動変更することが構成上も簡単であり、かつ、体温変化に合わせて空調出力が適度にシフトするので望ましいといえる。
【0046】
なお、制御温度値設定入力部は、設定温度をデジタル入力するデジタル温度設定部として構成することも可能である。デジタル温度設定部の場合、制御温度範囲の変更に対し、上記と同様に操作フルスケール上での相対入力位置をホールドすることもできるし、他方、設定温度をホールドすることも、入力された設定温度のメモリ値をそのまま保持すればよいので比較的容易である。
【0047】
以上のごとく、図3のECU106は、温調入力インターフェース122から手元操作スイッチ112の操作位置を受け取り、さらに、サーモグラフィーカメラ111が検出する体温に応じて適正は制御温度範囲テーブルを参照することで、取得した操作位置を冷房設定温度θないし暖房設定温度θ’に変換する。そして、内気温センサ115の温度検出値Tを取得し、暖房時は図12のデューティ比(電流値)テーブルを、冷房時は図13のデューティ比テーブルをそれぞれ参照して、適正なデューティ比ηを読み取り、PWMスイッチング用トランジスタ155をそのデューティ比ηでスイッチング駆動して、ペルチェ素子の出力調整を行なう(前述の通り、ECU106から駆動ユニット121への制御入力信号はPWMパルス信号であるが、駆動ユニット121から出力されるペルチェモジュールへの駆動出力は電流レベル信号となる)。暖房時はθ−Tが大きくなるほどデューティ比(電流値)ηは高く設定され、冷房時はT−θが大きくなるほどデューティ比(電流値)ηが高く設定されている。なお、図12及び図13のデューティ比テーブルの設定温度θ,θ’の範囲は、図8及び図10の平熱時設定温度範囲と発熱時設定温度範囲の和集合範囲として定められている。
【0048】
以下、フローチャートを用いて、上記車両用シート空調装置50の動作説明を行なう。制御内容は図2の4つのシートについてそれぞれ同様であり、かつ、独立した駆動制御が実施される。図14はECU106による体温検知制御処理の流れを示すフローチャートである(この処理は所定時間間隔で反復実行される)。まず、S1で着座フラグの内容を読み取る(着座フラグはIGオン時に初期化される)。また、S2ではバックル締結検知スイッチ114(乗員検出部)の状態を読み取り、S3でその読み取り結果に基づき現在乗員が着座しているかどうかを確認する。
【0049】
S3で「乗員あり」の場合はS4に進む。着座フラグが「0」であれば、シートに乗員が新たに着座したことを意味する。この場合はS5に進んでタイマーを起動し、さらにS6に進んでサーモグラフィーカメラ111による体温検知処理を開始するとともに、S7で着座フラグを「1」に変更する。一方、S4で着座フラグが「1」であれば、シートに乗員がすでに着座済であり、その着座を継続していることを意味する。この場合はS8に進んでタイマーの値を読み取り、タイムアップしていなければS10に進んで体温検知処理を継続する。また、タイムアップしていれば体温検知処理を停止し、サーモグラフィーカメラ111の電源を遮断する。
【0050】
次に、S3で乗員の着座が検出されていない場合はS12に進む。着座フラグが「1」であれば、シートに乗員が着座していた状態から非着座状態に変化したことを意味する。この場合はS13に進んで体温検知処理を停止し、サーモグラフィーカメラ111の電源を遮断するとともに、S14でタイマーをリセットし、さらにS15で着座フラグを「0」に変更する。一方、S4で着座フラグが「0」であれば、シートの非着座状態が継続されていることを意味し、この場合は何もせずにリターンする。
【0051】
図15は、設定温度範囲の切替処理の流れを示すフローチャートであり、S51では体温検知中であるかどうかを確認する。体温検知中であればS52に進み、体温が平熱域か発熱域かを判定するとともに、S54及びS55では、その判定結果に応じて、図8ないし図9の対応する制御温度範囲テーブルを選択する。以下は、手元操作スイッチ112の操作位置から設定温度(及び冷暖房のモード)を読み取り、前述のごとく、図12ないし図13のテーブルを参照して設定デューティ比(電流値)ηを読み取り、当該デューティ比でペルチェモジュール3を駆動する処理となる。
【0052】
なお、以上説明した実施形態では、サーモグラフィーカメラにより体温検出を行なったが、例えばハンドル表面に設けられた温度センサ(例えば熱電対やサーミスタ)により、体温を接触検知することも可能である。また、体温を、例えば皮膚抵抗センサによる発汗検出や、指先での鼓動検出による心拍数増加等により間接的に検出する方法も採用可能である。また、サーモグラフィー撮影装置に替えて、IRセンサや放射温度計など、他の非接触式温度測定手段を採用してもよい。
【0053】
また、着座検出手段は、図4に示すように、着座する乗員を撮影するカメラ110とすることもできる。カメラ110は、図5Aに示すように、シート1を正面から撮影するものとでき、ユーザーHKの上半身(少なくとも首から上の部分)が包含されるように撮影視野110Fを定め、その撮影画像から、ユーザーHKの着座の有無を特定することができる。なお、シート1の座面に感圧センサを組み込んで着座検出手段としてもよく、これをカメラ110と併用して着座検知を行なうようにしてもよい。例えば、感圧センサが荷重検知し、かつ、カメラ110の撮影視野110FにユーザーHKの顔画像が検出された場合に着座ありと検出する方式を採用することにより、シートへの荷物載置や外乱光等による誤検出防止を図ることができる。また、感圧センサの併用により、顔画像の特定精度を多少低くしても着座検知の精度を確保することができ、アルゴリズムの軽量化に寄与する。なお、カメラ110を用いる場合には、撮影視野をサーモグラフィーカメラ111の撮影視野と一致させておくことで、カメラ110の画像も参照することにより、図4の首筋領域Nの特定をより高精度に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の車両用シート空調装置を組み込んだ自動車用シートの一例を示す側面断面図。
【図2】車内のシートレイアウトと車両用シート空調装置の設置例を示す平面模式図。
【図3】本発明の車両用シート空調装置の電気的構成の一例を示す全体ブロック図。
【図4】赤外線温度検出装置としてのサーモグラフィーカメラの取付例を示す模式図。
【図5A】カメラにより着座検知を行なう例を示す説明図。
【図5B】サーモグラフィーカメラによる乗員上半身の撮影画像の模式図。
【図6】乗員検知センサをバックル締結検知スイッチとして構成する例を示す説明図。
【図7】ペルチェモジュールの駆動ユニットの電気的構成の一例を示す回路図。
【図8】暖房時に使用する制御温度範囲テーブルの概念図。
【図9】冷房時に使用する制御温度範囲テーブルの概念図。
【図10】暖房時の平熱時制御温度範囲と発熱時制御温度範囲との設定例を示す図。
【図11】冷房時の平熱時制御温度範囲と発熱時制御温度範囲との設定例を示す図。
【図12】暖房時に使用するデューティ比テーブルの模式図。
【図13】冷房時に使用するデューティ比テーブルの模式図。
【図14】体温検知制御処理の流れを示すフローチャート。
【図15】制御温度範囲切替処理の流れを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0055】
1 シート
3 ペルチェモジュール
4 送風機
10A,10B 空調装置
106 ECU(制御温度範囲変更設定手段、空調制御手段、赤外線温度検出装置作動制御手段)
111 サーモグラフィーカメラ(体温情報取得手段、体温検出手段、赤外線温度検出装置)
112 手元操作スイッチ(制御温度値設定入力部)
113 手元電源スイッチ
114 バックル締結検知スイッチ(着座検出手段、乗員検出手段)
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用シート空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特許第3301109号公報
【特許文献2】特開2002−233431号公報
【特許文献3】特開2004−291868号公報
【0003】
自動車の車室内空間は、一般住居等に比較すると空間容積が小さく、また、窓を閉めきると密閉空間となり、例えば、ガラス越しに漏入する熱線により駐車中の車内温度は夏季には異常に上昇する。しかし、一般の自動車用空調装置は集中型であり、車室内の空間全体の空気温度を下げるべく設計されているので、どうしても温度調節に時間がかかる問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1、2には、ペルチェモジュールをシートバックや座部に組み込み、シートに着座する乗員近傍を局所冷却あるいは局所加温する方式が提案されている。また、特許文献3には、シート座部に設置された脈波センサにより運転者の疲労度を検出し、その疲労度に応じて車両前方のインパネ部に配置された車両空調装置の吹出設定温度を変更する方式が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1、2の構成では、シートに着座する乗員の体温によりペルチェモジュールによる空調温度の変更が行われないため、例えば、カゼや疲れによるほてりにより、若干体温が高い状態で例えば暖房設定温度がさらに上昇すると、その温熱が体温を一層上昇させたり熱がこもったりすることもあり、いわゆる頭ののぼせ感が増して集中力が低下する場合がある。例えば運転者がこのような状態に置かれた場合には、運転能力の低下につながるし、あるいは病状が却って悪化することもあり得る。また、上記特許文献3の構成では、車両全体の空調温度がシートに着座する特定乗員の体調により変更されてしまうので、変更後の空調温度が、体調の良好な乗員にとっては不快に感じられてしまう惧れがある。また、疲労が検知された場合は、暖房/冷房の区別なく空調温度を一律に上昇させて血行促進を図る処理がなされるようになっており、空調温度の変更が状況によって必ずしも奏効しないケースが生じうるので、特許文献1、2と同様の問題が発生し得る。
【0006】
本発明の課題は、乗員の体温に基づいて、着座する乗員に特化した条件にて適切な空調制御を行なうことができる車両用シート空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の車両用シート空調装置は、
車両のシートに設けられた空調装置と、
シートに着座する乗員の体温情報を取得する体温情報取得手段と、
取得された体温情報に反映される体温に応じ、空調装置の制御温度範囲を変更可能に設定する制御温度範囲変更設定手段と、
設定された制御温度範囲にて空調装置の作動を制御する空調制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
上記本発明の構成によると、空調装置を車両のシートに設け、そのシートに着座する乗員のために局所空調を行なう。そして、該シートに着座する乗員の体温情報を取得し、その体温に応じて、空調装置の制御温度範囲を変更可能に設定する。また、シート空調の制御温度範囲をその体温に応じて変更することで、制御温度(設定温度)自体が検出された体温に応じてめまぐるしく変化することがなくなり、空調制御の安定化を図ることができる。
【0009】
シートに設ける空調装置は、ペルチェモジュールと送風機とが導風通路部とともに一体的にシートに埋設されたものとすることができる。ペルチェモジュールの採用により、シートへ冷媒配管等を引き込む必要がなくなり、構成を大幅に簡略化できる。さらに、シート毎に独立してペルチェモジュールを設けることで、乗員毎に異なる条件で空調制御することも容易である。なお、ペルチェ素子は通電断面積(電流導通方向と直交する断面積)の大きい金属導体として構成されるので、PWM等により入力電流をスイッチングにより制御すると、波形エッジでの電流遮断時に大きな渦電流が発生し、目的の極性と逆方向の電圧が供給されて冷却効率を低下させるジュール熱が多量に発生するので好ましくない。そこで、空調制御手段は、該空調装置の吹出温度が設定入力された制御温度値に近づくように、ペルチェモジュールの駆動電流をレベル制御するように構成することが望ましい。
【0010】
次に、体温情報取得手段は、乗員の体温を検出する体温検出手段と、検出された体温が、予め定められた平熱域と該平熱域よりも中心温度(本明細書において、ある温度域(温度範囲)の「中心温度」とは、当該温度域ないし温度範囲の下限温度と上限温度との平均値のことを意味するものとする)の高い発熱域とのいずれに属するかを判定する発熱判定手段とを有するものとして構成できる。この場合、制御温度範囲変更設定手段は、体温が平熱域に属する場合に温度制御範囲を予め定められた平熱時適性範囲に設定し、体温が発熱域に属する場合に温度制御範囲を平熱時適性範囲とは異なる発熱時適性範囲に設定するものとして構成できる。身体が不調の時、その不調が体温の上昇に反映されることが多いので、検出した体温が平熱であるか、平熱よりも高いかを判定することは、体調不良を特定する上で極めて有効である。そして、不調温度制御範囲として、平熱時適性範囲と発熱時適性範囲とのいずれかが採用されるように定めておけば、平熱かそれよりも高いかによって温度制御範囲が上記2つのいずれかに択一的に切り替わり、制御温度(設定温度)が体温に応じてめまぐるしく変化する不具合を一層効果的に防止でき、空調制度のさらなる安定化を図ることができる。
【0011】
例えば、平時は制御温度範囲が平熱時適性範囲に設定され、(発熱していない正常状態の)乗員は、その適性範囲内にて好みの温度に設定を行なう。しかし、その乗員が不調により発熱した場合は、発熱時適性範囲に切り替わり、発熱時に適した空調温度へ自動的にシフトさせることができる。これにより、乗員の発熱による不快感が和らげられ、発熱の症状も軽減される。そして、当該発熱時適性範囲での空調制御をしばらく行なうことにより、体温が平熱域に復帰すれば、これを検出し、空調装置の制御温度範囲を平熱時適性範囲に戻すことで、その乗員が平時快適と感じる設定温度からの逸脱を防止することができる。
【0012】
空調装置を暖房動作が可能なものとして構成する場合、温度制御範囲は、発熱時適性範囲の中心温度が、平熱時適性範囲の中心温度よりも低くなるように設定しておくことが望ましい。これにより、体温が高い状態で暖房温度がさらに上昇し、その温熱が体温を一層上昇させる悪循環を回避することができ、ひいては車内に熱がこもったりして、頭ののぼせ感が増し、集中力が低下する等の不具合も生じにくくなる。この場合、温度制御範囲は、具体的には、発熱時適性範囲の上限温度と下限温度を、平熱時適性範囲の上限温度と下限温度よりもそれぞれ低く設定しておくとよい。
【0013】
一方、空調装置は冷房動作が可能なものとしても構成することができる。この場合、夏場にて同じ冷房設定温度であっても、カゼを引いて発熱している場合には寒く感ずることがある。そこで、温度制御範囲は、発熱時適性範囲の中心温度が、平熱時適性範囲の中心温度よりも高くなるように設定しておくと、このため冷房時の冷熱が身体の熱を奪い体調悪化を助長してしまう不具合を効果的に抑制することができる。温度制御範囲は、具体的には、発熱時適性範囲の上限温度と下限温度を、平熱時適性範囲の上限温度と下限温度よりもそれぞれ高く設定しておくとよい。
【0014】
本発明においてセンサ体温検出手段は、シートに着座した乗員の皮膚温度を検出する赤外線温度検出装置とするのがよい。(人体露出部の)皮膚温度を赤外線温度検出装置にて測定することで、着衣を介した脈動検出と比較して、体調が反映される体温の検出を正確かつ非接触にて実施することが可能となり、より適正なシート空調制御が可能となる。また、非接触式なので温度平衡のための待ち時間が生じず、速やかに体温検知できるので、空調制御にも速やかに反映させることができる。この場合、赤外線温度検出装置は、乗員の上半身の皮膚露出部をサーモグラフィー撮影するサーモグラフィー撮影装置とすることができる。この構成によると、皮膚露出部の温度測定によりユーザーの体温をより正確に知ることができる。また、サーモグラフィー撮影装置は皮膚面の領域別に温度特定が可能であり、例えば、皮膚露出部の特定部位(例えば高体温で外気温の影響を受けにくい首筋領域など)での温度測定により、再現性の良好な体温測定が可能である。また、乗員の上半身を主たる撮影対象として視野を定めておけば、皮膚露出部全体の体温分布情報を平均体温情報に変換したり、あるいは最も高温の領域(例えば上記の首筋領域)の体温情報で代表させたりするなど、測定ばらつきを軽減するための種々の手法を講ずることも可能となる。
【0015】
ところで、車両利用時には、シートに着座した乗員が停車時にシートから離れ、再び戻ってきて車中滞在を再開したり、シートベルトを外して着衣を改めたりすることもしばしば発生する。例えば、体温上昇に伴い暑さを感じてシートから離れ、外へ涼みに出たり、上着を脱いでシートに戻ったりするようなケースを具体例として挙げることができる。このように、シートへの着座状態に途切れが確認された場合は、その前後で乗員の体温状態にも変化を生じている可能性が高くなる。そこで、これに対応するために、シートへの乗員の着座の有無を検出する着座検出手段を設け、さらに、該着座検出手段が着座検知状態から着座非検知状態に移行し、その後着座検知状態に復帰した場合に、着座非検知状態へ移行前に設定されていた制御温度範囲を、該着座検知状態への復帰後に取得した体温情報に基づいて更新するように構成しておくとよい。このようにすると、着座途切れの前後での検知体温変化に対応して制御温度範囲の設定状態が更新されるので、より適切な空調制御が実現する。
【0016】
着座検出手段は、例えば、シートに設けられたシートベルトのバックルに組み込むことができ、該バックルの締結及び締結解除と連動して乗員の着座の有無を検出するバックル締結検知スイッチとすることができる。近年、後部座席も含めてシートベルトの着用が義務付けられており、着用励行も進んでいるので、バックル締結検知スイッチを着座検出手段として用いれば、バックル締結検知スイッチの付勢状態により着座途切れを確実に検知することができる。なお、乗員がシートに着座した状態でシートベルトを外したのみの状態(つまり、バックル締結検知スイッチが非付勢となる状態)も、広義に「非着座状態」に属するものとして考える。これにより、例えば、着座したままシートベルトを外して着替えを行なったり、上着等を脱いだりした場合にも、シートベルトの再着用に伴い体温検知が行なわれ、検知結果に応じて制御温度範囲の更新設定を確実に行なうことができる。
【0017】
体温検出手段として、シートに着座した乗員の皮膚温度を検出する赤外線温度検出装置を用いる場合、赤外線温度検出装置の検出動作には一定の電力が消費される。他方、着座した乗員の体温が短期間に急変動することは生理的には稀であり、ある程度時間をかけて緩やかに変化することの方が多い点に鑑みれば、体温検出の頻度を過度に増加させることは、赤外線温度検出装置を不必要に頻繁に動作させることにつながり、電力消費(特に車載バッテリー)の無駄を招く問題がある。そこで、着座検出手段が着座検出していることを条件として赤外線温度検出装置を検出動作させ、着座検出していない場合は赤外線温度検出装置の検出動作を停止させる赤外線温度検出装置作動制御手段を設けておけば、着座検出によりートに乗員が不存在であることが明確な場合は赤外線温度検出装置の検出動作が停止するので、電力消費の無駄を省くことができる。
【0018】
上記の方式では、着座直後に一旦体温検出を行なえば、その後の体温変動がそれほど急激には起こらないと考えられるから、赤外線温度検出装置作動制御手段は、着座検出手段が着座非検出状態から着座検出状態へ移行した場合にこれをトリガとして赤外線温度検出装置による皮膚温度の検出動作を開始させる一方、該検出動作の最大継続時間が定められており、該最大継続時間の満了と、着座検出状態の着座非検出状態への移行とのいずれかが成立した場合に、赤外線温度検出装置の検出動作を停止させるものとすることができる。検出動作の最大継続時間は、例えば1回の体温特定に必要十分な期間を考慮して決めておけばよく、当該体温特定が完了後は赤外線温度検出装置の動作を遮断することで節電を図ることができる。一方、該最大継続時間が満了する前に着座検出状態から着座非検出状態へ移行した場合は、赤外線温度検出装置の動作を直ちに遮断することで、同様に節電を図ることができる。この場合、制御温度範囲変更設定手段は、赤外線温度検出装による検出動作が停止状態から復帰再開される毎に、該検出される皮膚温度に基づき空調装置の制御温度範囲を設定更新するように構成することで、着座途切れ後(及び、初回時)の体温検知と制御温度範囲の更新設定を確実に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面を用いて説明する。 図1は本発明の車両用シート空調装置の一例を示す全体概要図である。該車両用シート空調装置50は、自動車のシート1に組み込まれている。該シート1は、乗員の臀部を乗せる座部101と、背中を当てる背もたれ部102と、背もたれ部102の頂部に取り付けられたヘッドレスト2とを有する。そして、座部101及び背もたれ部102の各表皮106には噴出口104が形成されている。
【0020】
座部101及び背もたれ部102の各内部には空気ダクト105が形成されている。この空気ダクト105は車室内に一端が開口し、他端が上記噴出口104に開口している。そして、各空気ダクト105の途中にペルチェモジュール3が介装されている。ペルチェモジュール3は、一方の面が吸熱面、他方の面が放熱面となるように、厚さ方向に直流通電駆動される周知のペルチェ素子と、順方向通電時に冷却側、逆方向通電時に発熱側となる面に密着配置される金属製のヒートブロックと、同じく空調熱交換側となる面に密着配置される金属製のヒートシンクとを有し、ヒートシンクの裏面に熱交換を促進するためのフィンが一体化された周知の構成を有するものである(例えば特開2005−280710号公報参照)。
【0021】
空気ダクト105の途中におけるペルチェモジュール3の上流側には、該ペルチェモジュール3の放熱フィンに車室内の空気を圧送する送風機4が設けられている。送風機4は放熱フィンに周囲の空気を吹き付けることにより温度調整された空気を生成し、この温度調整された空気が空気ダクト105を介して吹出口104から吹き出される。このように、空気ダクト105、ペルチェモジュール3及び送風機4を有した空調装置10Aが背もたれ部102に、また、同様の構成の空調装置10Bが座部101に、それぞれ個別に組み込まれた構造となっている。上記のような構造の空調装置10A,10Bの組(以下、両者を総称する場合には、空調装置10と記載する)を有した車両用シート空調装置が、図2に示すように、自動車の各シート(具体的には、運転席1(A)、助手席1(B),右後部座席1(C)、左後部座席1(D))に独立して組み込まれ、各座席に乗員検知センサ114(本実施形態では、後述のごとくバックル締結検知スイッチ)が設けられている。
【0022】
次に、図3は、上記車両用シート空調装置50の電気的構成の一例を示すブロック図である。要部をなすのはマイクロプロセッサとして構成されたECU106(空調制御手段)を主体とする制御回路100であり、サーモグラフィーカメラ111がドライバ回路111Dを介して、乗員検知センサ114及び内気温センサ115がそれぞれアンプ124,125を介して、温度入力設定手段をなす手元操作スイッチ(温調設定スイッチ)112と手元電源スイッチ113が温調入力インターフェース122を介して、それぞれECU106に接続されている。
【0023】
次に、サーモグラフィーカメラ111は、シート1に着座した乗員の皮膚温度を検出する赤外線温度検出装置として機能し、体温検出手段を構成する。構造的には公知のものであり、露光部に設けた赤外線センサにより、物体から放射される遠赤外線の波長分布を二次元測定し、その測定結果に基づいて温度マッピングデータ(サーモグラフィー)を生成するものである。具体的には、図5Bに示すように、シート1に着座したユーザーHKの、首より上の皮膚露出部のサーモグラフィーTGを撮影するものであり、特に首筋部分が周囲よりも高温の領域HTとして現われるので、その領域HTをサーモグラフィー画像上で温度とともに特定することができる。例えば、体温測定値を首筋領域HTの平均温度として決定することができる。
【0024】
図6に示すように、シートベルトのバックル51に組み込まれたバックル締結検知スイッチ114は着座検出手段を構成する。バックル51は、周知のごとくベルト金具51Mと金具ソケット51Sとを有し、金具ソケット51Sにベルト金具51Mを挿入することで、ベルト金具51Mの係合孔51hに、ばね付勢されたソケット内の締結爪51eが嵌まり込んで締結状態になる。そして、金具ソケット51S側の図示しない締結解除ボタンを押圧すると締結爪51eが係合孔51h外に退避して締結解除状態となり、ベルト金具51Mを金具ソケット51Sから引き抜くことができる。バックル締結検知スイッチ114は金具ソケット51S内に設けられ、ベルト金具51Mを金具ソケット51S内に差し込むことで付勢状態となり、ベルト金具51Mを金具ソケット51Sから引き抜けば付勢解除状態となる。本実施形態では、ECU106は、後述の図14の処理流れに従い、バックル締結検知スイッチ114が付勢状態となっていれば乗員がシート1に着座した着座状態であると判定し、ECU106のメモリ内に形成される着座フラグを「1」に設定する。同じくバックル締結検知スイッチ114が非付勢状態となっていれば非着座状態であると判定し、着座フラグを「0」に設定する。
【0025】
図3に戻り、ECU106には、各々ペルチェモジュール3、送風機4、及びそれらの駆動制御を司る駆動ユニット121の組からなる空調装置10A(背もたれ側)及び10B(座部側)が接続されている。駆動ユニット121は、ペルチェモジュール3を冷房使用時と暖房使用時とで互いに異なる極性にて通電駆動するものである。そして、ECU106は、乗員の検出の有無に基づき、空調装置10A,10Bの動作を、乗員検出時の動作モードである通常モードと、乗員非検出時の動作モードであって通常モードよりも動作出力が制限される制限モードとの間で切り替えつつ制御することが可能である。例えば、制限モードにおいて空調装置10の動作を停止することができる。
【0026】
また、この実施形態では、制限モードにおいては、サーモグラフィーカメラ(赤外線温度検出装置)111の検知動作も停止するようになっている。具体的には、ECU106は、バックル締結検知スイッチ114(着座検出手段)が着座非検出状態から着座検出状態へ移行した場合には、これをトリガとしてサーモグラフィーカメラ111による皮膚温度の検出動作を開始させる一方、該検出動作の最大継続時間が定められており、該最大継続時間の満了と、着座検出状態の着座非検出状態への移行(つまり、バックル締結解除)とのいずれかが成立した場合に、サーモグラフィーカメラ111の検出動作を停止させる。検出動作の最大継続時間は、例えば1回の体温特定に必要十分な期間を考慮して適宜決定され、当該体温特定が完了後にサーモグラフィーカメラ111の動作が遮断される。なお、体温特定処理の完了を受けてサーモグラフィーカメラ111の動作遮断信号を出力するようにしてもよい。なお、上記の最大継続時間が満了する前にバックル締結検知スイッチ114が着座検出状態から着座非検出状態へ移行した場合は、サーモグラフィーカメラ111の動作は直ちに遮断される。
【0027】
ECU106は、各シートの乗員検出センサ114による乗員検出内容に基づいて、個々のシート1の空調装置10の動作を独立に制御する。なお、各シートの空調装置10A,10Bに対し、独立した個別のECU106が設けられているが、単一のECU106を各シート間で共用化し、これに各シートの空調装置10A,10Bを一括接続して制御を行なうようにしてもよい。
【0028】
次に、車載バッテリー+Bにつながる電源ラインとして、車両のイグニッションスイッチ120と連動して電源電圧の供給/遮断が切り替わる第一電源ラインPL1と、イグニッションスイッチの状態とは無関係に常時電源電圧が供給される第二電源ラインPL2とが設けられている。イグニッションスイッチ120は、前述のアクセサリ系負荷とエンジン電装系負荷のいずれにも電源電圧が供給されないオフ位置(OFF)と、同じくアクセサリ系負荷にのみ供給されるアクセサリ・オン位置(ACC−ON)と、アクセサリ系負荷とエンジン電装系負荷との双方に供給されるイグニッション・オン位置(IG−ON)との間で切り替えを行なう。そして、車両用シート空調装置50のECU106及び空調装置10が第二電源ラインPL2に接続されている。
【0029】
図1に戻り、各シート1には、乗員が操作するための空調装置用の手元操作スイッチ112が設けられている。ECU106は、該手元電源スイッチ113がオフ状態のとき、乗員検出手段114による乗員検出内容とは無関係に空調装置10の動作を停止する。また、手元電源スイッチ113がオン状態のとき、乗員検出センサ114による乗員検出内容に基づき通常モードと制限モードとの間で切り替えつつ空調装置10A,10Bの動作を制御する。
【0030】
図1に示すように、手元操作スイッチ112はプッシュ機能付のロータリースイッチであり、1回押圧すると引っ込んで手元電源スイッチ113(図3)をオフ状態とする。一方、さらに押圧すると飛び出して電源スイッチ113をオン状態とし、設定温度変更のための回転操作が可能となる。つまり、手元操作スイッチ112は制御温度値設定入力部をなすアナログ操作部として構成されている。
【0031】
手元操作スイッチ112は、例えばロータリーボリュームないしポテンショメータが回転検出部として組み込まれている。そして、中立位置NTLに関して第一方向(図1では右側)に回転させると暖房モードでの温度設定となり、中立位置NTLから離れるほど設定温度は高くなるとともに、当該第一方向の限界位置αx’まで回転させると暖房での最高温度(最大出力)の設定状態となる。また、中立位置NTLに関して第二方向(図1では左側)に回転させると冷房モードでの温度設定となり、中立位置NTLから離れるほど設定温度が低くなるとともに、当該第二方向の限界位置αxまで回転させると冷房での最低温度(最大出力)の設定状態となる。なお、中立位置NTLを中心として両側一定角度範囲内は不感帯区間とされ、操作位置がこの不感帯区間内にある場合は冷房及び暖房ともに動作を停止する。そして、操作位置が暖房側の不感帯区間末端をなす起点位置α1’に到達すると、暖房での最低温度(最小出力)の設定状態となる。また、操作位置が冷房側の不感帯区間末端をなす起点位置α1に到達すると、冷房での最高温度(最小出力)の設定状態となる。
【0032】
図7は、駆動ユニット121の回路構成例を示すものである。駆動電源は、ペルチェ素子への過電圧印加防止を考慮して、絶縁型に構成されている。具体的には、車載バッテリー電圧+Bを入力電圧として受電する入力側DC電源150を有し、そのDC出力電圧が、昇圧用発振回路153により駆動される昇圧スイッチング用トランジスタ152(本実施形態ではパワーFETにて構成され、昇圧スイッチング周波数は10〜30kHz:例えば、15kHz)によりスイッチングされつつ、昇圧用のトランス151の1次側に入力される。該トランス151の2次側昇圧出力電圧は8〜15V(例えば12V)である。なお、昇圧用発振回路153は、トランス151の一次側インダクタンスの一部を流用した自励式発振回路として構成されている。
【0033】
トランス151の2次側昇圧出力電圧は、ダイオード154Dにより半波整流され、さらにコンデンサ154Cにより平滑化された後、PWMスイッチング用トランジスタ155に入力される。PWMスイッチング用トランジスタ155はパワーFETにて構成され、ECU106が決定するデューティ比(例えば50〜100%)にてPWMスイッチングされる。PWMスイッチング用トランジスタ155は、ゲート駆動用トランジスタ156を介してフォトカプラ165によりスイッチングされる。
【0034】
ペルチェ素子は導通断面積の大きい金属導体として構成されているので、PWMスイッチング電圧波形をペルチェ素子へ直接入力すると、波形エッジでの電流遮断時に渦電流が発生し、目的の極性と逆方向の電圧が供給されて冷却効率を低下させるジュール熱が多量に発生するので好ましくない。そこで、本実施形態では、コイル158とコンデンサ159とを有した駆動平滑化回路201により、上記PWMスイッチング電圧波形をディーティ比に応じた直流駆動電圧(出力電圧範囲は、例えば6〜12V:出力電流範囲は、例えば3〜6A)として平滑化し、極性切替スイッチ160を介してペルチェモジュール3に供給するようにしている。つまり、ペルチェモジュール3の出力は、駆動電流のレベル制御により実施される。なお、PWMスイッチング周波数は例えば1〜5kHzであり、昇圧スイッチング周波数よりも小さく設定される。
【0035】
極性切替スイッチ160は、本実施形態ではリレースイッチとして構成され、リレー駆動トランジスタ162を介してフォトカプラ163により動作制御される(ここでは、リレー駆動トランジスタ162がOFFのとき、端子160Aが電源入力/端子160Bが接地となり(順方向極性)、同じくオンのときは端子160Aが接地/端子160Bが電源入力となるよう(逆方向極性)、スイッチ160が切り替わる)。また、送風機4へのモータ駆動出力は、トランス151の2次側にてPWMスイッチング用トランジスタ155の前段より、電圧安定化用のレギュレータIC164を介して非スイッチング状態で取り出される。
【0036】
なお、本実施形態では車載バッテリー電圧+Bの変動を補償するために昇圧回路を組み込んでいるが、ペルチェ素子の動作が保障できる場合、例えば、ペルチェ素子への駆動出力電圧範囲が車載バッテリー電圧+Bの変動範囲よりも常時小さいことが保障できる場合には、この昇圧回路を省略することも可能である。この場合、ペルチェ素子への出力段に電圧モニタリング部を追加し、PWMスイッチングのデューティ比制御にこれをフィードバックして電圧を安定化するレギュレータ部を追加すればよい。また、ペルチェ素子への駆動出力電圧が車載バッテリー電圧+Bの変動範囲を若干上回る場合にあっても、該レギュレータ部を周知の昇圧型ステップアップ回路として構成すれば、昇圧回路は同様に省略できる。
【0037】
電源スイッチ113のオン/オフ状態、及び手元操作スイッチ112の操作位置情報は温調入力インターフェース122を介してECU106に入力される。電源スイッチ113がオフ状態のとき、ECU106は、入力側DC電源150へのバッテリー受電系路上に設けられた電源スイッチ150sをオフにし、ペルチェモジュール3と送風機4とを双方ともに停止させる。一方、電源スイッチ113がオン状態のときは、通常モードでは電源スイッチ150sをオンにする。そして、手元操作スイッチ112が冷房側に回転していればリレー駆動トランジスタ162をオフとし、通電極性を順方向とする。また、暖房側に回転していればリレー駆動トランジスタ162をオンとし、通電極性を逆方向とする。
【0038】
冷房側及び暖房側のいずれにおいても、手元操作スイッチ112の操作角度は、前述の回転検出部の出力として温調入力インターフェース122に入力され、読み取られる。操作角度は前述のごとく、冷房側では起点位置α1から限界位置αxに至る操作角度区間(操作ストローク範囲)にて、暖房側では起点位置α1’から限界位置αx’に至る操作角度区間(操作ストローク範囲)にてそれぞれ任意に設定可能であり、図8に示すように、暖房側の各操作角度(操作位置)と設定温度との関係が、ECU106内のメモリに制御温度範囲テーブルとして記憶されている。また、図9に示すように、冷房側の各操作角度(操作位置)と設定温度との関係も、図3のECU106内のメモリに制御温度範囲テーブルとして記憶されている。
【0039】
図8及び図9において、制御温度範囲テーブルは、操作角度範囲に対応する設定温度範囲(制御温度範囲)を異ならせる形で、平熱時用と発熱時用との2通り用意されている。これは、図3のサーモグラフィーカメラ111(赤外線温度検出装置)によりシート1に着座した乗員の体温を皮膚温度から検出し、図10(暖房時)及び図11(冷房時)に示すごとく、検出された体温が平熱域(本実施形態では35℃以上37℃未満)に属する場合には温度制御範囲を平熱時適性範囲Aに設定し、体温が発熱域(本実施形態では37℃以上40℃未満)に属する場合には温度制御範囲を平熱時適性範囲Aとは異なる発熱時適性範囲Bに設定するためである。
【0040】
図10に示すごとく、暖房時には、発熱時適性範囲Bの上限温度θbx’と下限温度θb1’が、平熱時適性範囲Aの上限温度θax’と下限温度θa1’よりもそれぞれ高く設定されている。具体的には、縦軸が設定温度(シート1の噴出口104から吹き出される温風の吹出し温度)を示し、横軸は乗員の体温(体温)を示している。検出された乗員の体温が35℃以上37℃未満のいわゆる平熱時では、暖房吹出し温度は44℃(θa1’)以上52℃(θax’)以下の平熱時適性範囲A内での設定が可能となり、体温が37℃以上40℃未満の発熱時では、暖房吹出し温度は40℃(θb1’)以上44℃(θbx’)以下の発熱時適性範囲Bでの設定が可能となる。手元操作スイッチ112の暖房モードでの操作角度範囲は[α1’,αx’]にて不変であり、図8に示すように、平熱時適性範囲Aではα1’に下限温度θa1’(ここでは44℃)が、αx’に下限温度θax’(ここでは52℃)が割り振られる形で、個々の操作角度での設定温度を示す制御温度範囲テーブルが用意されている。操作角度と設定温度との関係は線形に設定することもできるし、非線形に設定することもできる。
【0041】
また、図11に示すごとく、冷房時には、発熱時適性範囲Bの上限温度θbxと下限温度θb1が、平熱時適性範囲Aの上限温度θaxと下限温度θa1よりもそれぞれ低く設定されている。具体的には、縦軸が設定温度(シート1の噴出口104から吹出される冷風の吹出し温度)を示し、横軸は乗員の体温(体温)を示している。検出された乗員の体温が35℃以上37℃未満のいわゆる平熱時では、冷房吹出し温度は34℃(θa1)以上36℃(θax)以下の平熱時適性範囲A内での設定が可能となり、体温が37℃以上40℃未満の発熱時では、冷房吹出し温度は37℃(θb1)以上39℃(θbx)以下の発熱時適性範囲Bでの設定が可能となる。手元操作スイッチ112の冷房モードでの操作角度範囲は[α1,αx]にて不変であり、図9に示すように、平熱時適性範囲Aではα1に下限温度θa1(ここでは34℃)が、αxに下限温度θax(ここでは36℃)が割り振られる形で、個々の操作角度での設定温度を示す制御温度範囲テーブルが用意されている。操作角度と設定温度との関係は線形に設定することもできるし、非線形に設定することもできる。
【0042】
さて、上記の車両用シート空調装置50においては空調設定温度(制御温度)は、制御温度設定入力部、具体的には手元操作スイッチ112により設定入力される。そして、該制御温度値設定入力部への入力操作がなされない状態で制御温度範囲が変更されたとき、制御温度値の制御温度範囲フルスケール上での相対入力位置が不変となるように、該制御温度の設定絶対値が、変更前の制御温度範囲における相対入力位置に対応する値から、変更後の制御温度範囲における相対入力位置に対応する値に更新されるようになっている。これにより、制御温度範囲の変更に伴い温度設定変更入力を敢えて行なわずとも、相対入力位置を不変として変更後の制御温度範囲に対応した値に制御温度値が自動変更され、設定変更の手間を省くことができる。
【0043】
具体的に説明すれば、制御温度設定入力部には、設定可能な最低温度から最高温度に至るフルスケールが存在し、乗員は、そのフルスケールの範囲内で温度設定入力を行なうとともに、そのフルスケール上での相対入力位置を定めることができる。例えば、暖房時を例にとると、平熱時制御温度範囲では、最低温度θa1’=44℃、最高温度θax’=52℃、フルスケール範囲が52−44=8(℃)である。そして、設定入力温度が48℃であれば、相対入力位置は、最低温度θa1’側から見て4℃の位置、すなわち50%の位置である。この状態で、発熱時制御温度範囲に切り替わると、最低温度θb1’=40℃、最高温度θbx’=44℃であり、フルスケール範囲は44−40=4℃である。そして、相対入力位置は最低温度側から見て50%の位置に固定されるので、4℃×0.5=2℃であり、変更後の設定温度は40+2=42℃に自動変更される。つまり、平熱時制御温度範囲から発熱時制御温度範囲に切り替わることで、手元操作スイッチ112の操作位置を変更していないにもかかわらず、設定温度は48℃から6℃低い42℃に自動的に切り替わることを意味する。
【0044】
本実施形態では、図10及び図11に示すように、暖房モードと冷房モードとのいずれにおいても、熱時制御温度範囲と発熱時制御温度範囲とは重なり範囲を有しておらず、平熱時制御温度範囲と発熱時制御温度範囲の切替えに対し、設定温度をホールドすることは本来的に不可能である。しかし、平熱時制御温度範囲と発熱時制御温度範囲とに重なりを持たせることも可能であり、この場合は、その重なり区間に制御温度が設定されていれば、設定温度をホールドすることは原理的には不可能でなくなる。
【0045】
しかし、本実施形態の手元操作スイッチ112のように、制御温度値設定入力部が、固定された機械操作ストローク範囲(すなわち、操作角度範囲)を持つアナログ操作部である場合、設定温度はアナログ操作部の操作位置として機械的に記憶されているに過ぎない。従って、これをホールドするためには、変更前の制御温度範囲に対応する操作位置から、変更後の制御温度範囲に対応する操作位置へアナログ操作部を駆動する機構を考慮しなければならないが、制御温度値設定入力部の高価格化と機構の複雑化を招くことはいうまでもない。アナログ操作部の場合は、平熱時制御温度範囲と発熱時制御温度範囲の切替えに伴い、その操作位置をホールドし、設定温度を自動変更することが構成上も簡単であり、かつ、体温変化に合わせて空調出力が適度にシフトするので望ましいといえる。
【0046】
なお、制御温度値設定入力部は、設定温度をデジタル入力するデジタル温度設定部として構成することも可能である。デジタル温度設定部の場合、制御温度範囲の変更に対し、上記と同様に操作フルスケール上での相対入力位置をホールドすることもできるし、他方、設定温度をホールドすることも、入力された設定温度のメモリ値をそのまま保持すればよいので比較的容易である。
【0047】
以上のごとく、図3のECU106は、温調入力インターフェース122から手元操作スイッチ112の操作位置を受け取り、さらに、サーモグラフィーカメラ111が検出する体温に応じて適正は制御温度範囲テーブルを参照することで、取得した操作位置を冷房設定温度θないし暖房設定温度θ’に変換する。そして、内気温センサ115の温度検出値Tを取得し、暖房時は図12のデューティ比(電流値)テーブルを、冷房時は図13のデューティ比テーブルをそれぞれ参照して、適正なデューティ比ηを読み取り、PWMスイッチング用トランジスタ155をそのデューティ比ηでスイッチング駆動して、ペルチェ素子の出力調整を行なう(前述の通り、ECU106から駆動ユニット121への制御入力信号はPWMパルス信号であるが、駆動ユニット121から出力されるペルチェモジュールへの駆動出力は電流レベル信号となる)。暖房時はθ−Tが大きくなるほどデューティ比(電流値)ηは高く設定され、冷房時はT−θが大きくなるほどデューティ比(電流値)ηが高く設定されている。なお、図12及び図13のデューティ比テーブルの設定温度θ,θ’の範囲は、図8及び図10の平熱時設定温度範囲と発熱時設定温度範囲の和集合範囲として定められている。
【0048】
以下、フローチャートを用いて、上記車両用シート空調装置50の動作説明を行なう。制御内容は図2の4つのシートについてそれぞれ同様であり、かつ、独立した駆動制御が実施される。図14はECU106による体温検知制御処理の流れを示すフローチャートである(この処理は所定時間間隔で反復実行される)。まず、S1で着座フラグの内容を読み取る(着座フラグはIGオン時に初期化される)。また、S2ではバックル締結検知スイッチ114(乗員検出部)の状態を読み取り、S3でその読み取り結果に基づき現在乗員が着座しているかどうかを確認する。
【0049】
S3で「乗員あり」の場合はS4に進む。着座フラグが「0」であれば、シートに乗員が新たに着座したことを意味する。この場合はS5に進んでタイマーを起動し、さらにS6に進んでサーモグラフィーカメラ111による体温検知処理を開始するとともに、S7で着座フラグを「1」に変更する。一方、S4で着座フラグが「1」であれば、シートに乗員がすでに着座済であり、その着座を継続していることを意味する。この場合はS8に進んでタイマーの値を読み取り、タイムアップしていなければS10に進んで体温検知処理を継続する。また、タイムアップしていれば体温検知処理を停止し、サーモグラフィーカメラ111の電源を遮断する。
【0050】
次に、S3で乗員の着座が検出されていない場合はS12に進む。着座フラグが「1」であれば、シートに乗員が着座していた状態から非着座状態に変化したことを意味する。この場合はS13に進んで体温検知処理を停止し、サーモグラフィーカメラ111の電源を遮断するとともに、S14でタイマーをリセットし、さらにS15で着座フラグを「0」に変更する。一方、S4で着座フラグが「0」であれば、シートの非着座状態が継続されていることを意味し、この場合は何もせずにリターンする。
【0051】
図15は、設定温度範囲の切替処理の流れを示すフローチャートであり、S51では体温検知中であるかどうかを確認する。体温検知中であればS52に進み、体温が平熱域か発熱域かを判定するとともに、S54及びS55では、その判定結果に応じて、図8ないし図9の対応する制御温度範囲テーブルを選択する。以下は、手元操作スイッチ112の操作位置から設定温度(及び冷暖房のモード)を読み取り、前述のごとく、図12ないし図13のテーブルを参照して設定デューティ比(電流値)ηを読み取り、当該デューティ比でペルチェモジュール3を駆動する処理となる。
【0052】
なお、以上説明した実施形態では、サーモグラフィーカメラにより体温検出を行なったが、例えばハンドル表面に設けられた温度センサ(例えば熱電対やサーミスタ)により、体温を接触検知することも可能である。また、体温を、例えば皮膚抵抗センサによる発汗検出や、指先での鼓動検出による心拍数増加等により間接的に検出する方法も採用可能である。また、サーモグラフィー撮影装置に替えて、IRセンサや放射温度計など、他の非接触式温度測定手段を採用してもよい。
【0053】
また、着座検出手段は、図4に示すように、着座する乗員を撮影するカメラ110とすることもできる。カメラ110は、図5Aに示すように、シート1を正面から撮影するものとでき、ユーザーHKの上半身(少なくとも首から上の部分)が包含されるように撮影視野110Fを定め、その撮影画像から、ユーザーHKの着座の有無を特定することができる。なお、シート1の座面に感圧センサを組み込んで着座検出手段としてもよく、これをカメラ110と併用して着座検知を行なうようにしてもよい。例えば、感圧センサが荷重検知し、かつ、カメラ110の撮影視野110FにユーザーHKの顔画像が検出された場合に着座ありと検出する方式を採用することにより、シートへの荷物載置や外乱光等による誤検出防止を図ることができる。また、感圧センサの併用により、顔画像の特定精度を多少低くしても着座検知の精度を確保することができ、アルゴリズムの軽量化に寄与する。なお、カメラ110を用いる場合には、撮影視野をサーモグラフィーカメラ111の撮影視野と一致させておくことで、カメラ110の画像も参照することにより、図4の首筋領域Nの特定をより高精度に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の車両用シート空調装置を組み込んだ自動車用シートの一例を示す側面断面図。
【図2】車内のシートレイアウトと車両用シート空調装置の設置例を示す平面模式図。
【図3】本発明の車両用シート空調装置の電気的構成の一例を示す全体ブロック図。
【図4】赤外線温度検出装置としてのサーモグラフィーカメラの取付例を示す模式図。
【図5A】カメラにより着座検知を行なう例を示す説明図。
【図5B】サーモグラフィーカメラによる乗員上半身の撮影画像の模式図。
【図6】乗員検知センサをバックル締結検知スイッチとして構成する例を示す説明図。
【図7】ペルチェモジュールの駆動ユニットの電気的構成の一例を示す回路図。
【図8】暖房時に使用する制御温度範囲テーブルの概念図。
【図9】冷房時に使用する制御温度範囲テーブルの概念図。
【図10】暖房時の平熱時制御温度範囲と発熱時制御温度範囲との設定例を示す図。
【図11】冷房時の平熱時制御温度範囲と発熱時制御温度範囲との設定例を示す図。
【図12】暖房時に使用するデューティ比テーブルの模式図。
【図13】冷房時に使用するデューティ比テーブルの模式図。
【図14】体温検知制御処理の流れを示すフローチャート。
【図15】制御温度範囲切替処理の流れを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0055】
1 シート
3 ペルチェモジュール
4 送風機
10A,10B 空調装置
106 ECU(制御温度範囲変更設定手段、空調制御手段、赤外線温度検出装置作動制御手段)
111 サーモグラフィーカメラ(体温情報取得手段、体温検出手段、赤外線温度検出装置)
112 手元操作スイッチ(制御温度値設定入力部)
113 手元電源スイッチ
114 バックル締結検知スイッチ(着座検出手段、乗員検出手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートに設けられた空調装置と、
前記シートに着座する乗員の体温情報を取得する体温情報取得手段と、
取得された前記体温情報に反映される体温に応じ、前記空調装置の制御温度範囲を変更可能に設定する制御温度範囲変更設定手段と、
設定された前記制御温度範囲にて前記空調装置の作動を制御する空調制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両用シート空調装置。
【請求項2】
前記空調装置は、前記ペルチェモジュールと前記送風機とが前記導風通路部とともに一体的に前記シートに埋設されたものであり、
前記空調制御手段は、該空調装置の吹出温度が設定入力された前記制御温度値に近づくように、前記ペルチェモジュールの駆動電流をレベル制御するものである請求項1記載の車両用シート空調装置。
【請求項3】
前記体温情報取得手段は、前記乗員の体温を検出する体温検出手段と、検出された前記体温が、予め定められた平熱域と該平熱域よりも中心温度の高い発熱域とのいずれに属するかを判定する発熱判定手段とを有し、
前記制御温度範囲変更設定手段は、前記体温が平熱域に属する場合に前記温度制御範囲を予め定められた平熱時適性範囲に設定し、前記体温が発熱域に属する場合に前記温度制御範囲を前記平熱時適性範囲とは異なる発熱時適性範囲に設定する請求項1又は請求項2に記載の車両用シート空調装置。
【請求項4】
前記空調装置は暖房動作が可能なものとされ、
前記温度制御範囲は、前記発熱時適性範囲の中心温度が、前記平熱時適性範囲の中心温度よりも低く設定されている請求項3記載の車両用シート空調装置。
【請求項5】
前記温度制御範囲は、前記発熱時適性範囲の上限温度と下限温度が、前記平熱時適性範囲の上限温度と下限温度よりもそれぞれ低く設定されている請求項4記載の車両用シート空調装置。
【請求項6】
前記空調装置は冷房動作が可能なものとされ、
前記温度制御範囲は、前記発熱時適性範囲の中心温度が、前記平熱時適性範囲の中心温度よりも高く設定されている請求項3記載の車両用シート空調装置。
【請求項7】
前記温度制御範囲は、前記発熱時適性範囲の上限温度と下限温度が、前記平熱時適性範囲の上限温度と下限温度よりもそれぞれ高く設定されている請求項6記載の車両用シート空調装置。
【請求項8】
前記体温検出手段は、前記シートに着座した前記乗員の皮膚温度を検出する赤外線温度検出装置である請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の車両用シート空調装置。
【請求項9】
前記赤外線温度検出装置は、前記乗員の上半身の皮膚露出部をサーモグラフィー撮影するサーモグラフィー撮影装置である請求項8記載の車両用シート空調装置。
【請求項10】
前記シートへの前記乗員の着座の有無を検出する着座検出手段と、
該着座検出手段が着座検知状態から着座非検知状態に移行し、その後着座検知状態に復帰した場合に、前記着座非検知状態へ移行前に設定されていた前記制御温度範囲を、該着座検知状態への復帰後に取得した体温情報に基づいて更新する請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の車両用シート空調装置。
【請求項11】
前記着座検出手段は、前記シートに設けられたシートベルトのバックルに組み込まれ、該バックルの締結及び締結解除と連動して前記乗員の着座の有無を検出するバックル締結検知スイッチである請求項10記載の車両用シート空調装置。
【請求項12】
前記体温検出手段は、前記シートに着座した前記乗員の皮膚温度を検出する赤外線温度検出装置であり、
前記着座検出手段が着座検出していることを条件として前記赤外線温度検出装置を検出動作させ、着座検出していない場合は前記赤外線温度検出装置の検出動作を停止させる赤外線温度検出装置作動制御手段を有する請求項10又は請求項11に記載の車両用シート空調装置。
【請求項13】
前記赤外線温度検出装置作動制御手段は、前記着座検出手段が着座非検出状態から着座検出状態へ移行した場合にこれをトリガとして前記赤外線温度検出装置による前記皮膚温度の検出動作を開始させる一方、該検出動作の最大継続時間が定められており、該最大継続時間の満了と、前記着座検出状態の前記着座非検出状態への移行とのいずれかが成立した場合に、前記赤外線温度検出装置の検出動作を停止させるものとされ、
前記制御温度範囲変更設定手段は、前記赤外線温度検出装による検出動作が停止状態から復帰再開される毎に、該検出される皮膚温度に基づき前記空調装置の前記制御温度範囲を設定更新する請求項12記載の車両用シート空調装置。
【請求項1】
車両のシートに設けられた空調装置と、
前記シートに着座する乗員の体温情報を取得する体温情報取得手段と、
取得された前記体温情報に反映される体温に応じ、前記空調装置の制御温度範囲を変更可能に設定する制御温度範囲変更設定手段と、
設定された前記制御温度範囲にて前記空調装置の作動を制御する空調制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両用シート空調装置。
【請求項2】
前記空調装置は、前記ペルチェモジュールと前記送風機とが前記導風通路部とともに一体的に前記シートに埋設されたものであり、
前記空調制御手段は、該空調装置の吹出温度が設定入力された前記制御温度値に近づくように、前記ペルチェモジュールの駆動電流をレベル制御するものである請求項1記載の車両用シート空調装置。
【請求項3】
前記体温情報取得手段は、前記乗員の体温を検出する体温検出手段と、検出された前記体温が、予め定められた平熱域と該平熱域よりも中心温度の高い発熱域とのいずれに属するかを判定する発熱判定手段とを有し、
前記制御温度範囲変更設定手段は、前記体温が平熱域に属する場合に前記温度制御範囲を予め定められた平熱時適性範囲に設定し、前記体温が発熱域に属する場合に前記温度制御範囲を前記平熱時適性範囲とは異なる発熱時適性範囲に設定する請求項1又は請求項2に記載の車両用シート空調装置。
【請求項4】
前記空調装置は暖房動作が可能なものとされ、
前記温度制御範囲は、前記発熱時適性範囲の中心温度が、前記平熱時適性範囲の中心温度よりも低く設定されている請求項3記載の車両用シート空調装置。
【請求項5】
前記温度制御範囲は、前記発熱時適性範囲の上限温度と下限温度が、前記平熱時適性範囲の上限温度と下限温度よりもそれぞれ低く設定されている請求項4記載の車両用シート空調装置。
【請求項6】
前記空調装置は冷房動作が可能なものとされ、
前記温度制御範囲は、前記発熱時適性範囲の中心温度が、前記平熱時適性範囲の中心温度よりも高く設定されている請求項3記載の車両用シート空調装置。
【請求項7】
前記温度制御範囲は、前記発熱時適性範囲の上限温度と下限温度が、前記平熱時適性範囲の上限温度と下限温度よりもそれぞれ高く設定されている請求項6記載の車両用シート空調装置。
【請求項8】
前記体温検出手段は、前記シートに着座した前記乗員の皮膚温度を検出する赤外線温度検出装置である請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の車両用シート空調装置。
【請求項9】
前記赤外線温度検出装置は、前記乗員の上半身の皮膚露出部をサーモグラフィー撮影するサーモグラフィー撮影装置である請求項8記載の車両用シート空調装置。
【請求項10】
前記シートへの前記乗員の着座の有無を検出する着座検出手段と、
該着座検出手段が着座検知状態から着座非検知状態に移行し、その後着座検知状態に復帰した場合に、前記着座非検知状態へ移行前に設定されていた前記制御温度範囲を、該着座検知状態への復帰後に取得した体温情報に基づいて更新する請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の車両用シート空調装置。
【請求項11】
前記着座検出手段は、前記シートに設けられたシートベルトのバックルに組み込まれ、該バックルの締結及び締結解除と連動して前記乗員の着座の有無を検出するバックル締結検知スイッチである請求項10記載の車両用シート空調装置。
【請求項12】
前記体温検出手段は、前記シートに着座した前記乗員の皮膚温度を検出する赤外線温度検出装置であり、
前記着座検出手段が着座検出していることを条件として前記赤外線温度検出装置を検出動作させ、着座検出していない場合は前記赤外線温度検出装置の検出動作を停止させる赤外線温度検出装置作動制御手段を有する請求項10又は請求項11に記載の車両用シート空調装置。
【請求項13】
前記赤外線温度検出装置作動制御手段は、前記着座検出手段が着座非検出状態から着座検出状態へ移行した場合にこれをトリガとして前記赤外線温度検出装置による前記皮膚温度の検出動作を開始させる一方、該検出動作の最大継続時間が定められており、該最大継続時間の満了と、前記着座検出状態の前記着座非検出状態への移行とのいずれかが成立した場合に、前記赤外線温度検出装置の検出動作を停止させるものとされ、
前記制御温度範囲変更設定手段は、前記赤外線温度検出装による検出動作が停止状態から復帰再開される毎に、該検出される皮膚温度に基づき前記空調装置の前記制御温度範囲を設定更新する請求項12記載の車両用シート空調装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−248688(P2009−248688A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97400(P2008−97400)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]