説明

車両用ブレーキ液圧発生装置

【課題】 回生協調ブレーキ制御に適用し得る安価なブレーキ液圧発生装置を提供する。
【解決手段】 液圧式倍力装置HBを備え、液圧源PSの出力液圧を調圧弁RGによってブレーキ操作に応じた液圧に調圧して出力し、調圧弁の出力液圧をパワー室C8に導入することによりブレーキ操作力を助勢して出力する。調圧弁とパワー室との間に液圧調整手段を介装し、調圧弁の出力液圧を電気的手段(比例電磁弁SV1及びSV2)により調圧してパワー室に供給する。更に、ブレーキ液吸収装置ABを備え、調圧弁の出力液圧とパワー室の出力液圧との差圧に応じて、マスタシリンダMCの出力ブレーキ液を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ液圧発生装置に関し、特に、回生協調ブレーキ制御に適用し得る車両用ブレーキ液圧発生装置に係る。
【背景技術】
【0002】
車両用ブレーキ液圧発生装置として、例えば、下記の特許文献1には、マスタシリンダに加え補助液圧源、調圧手段及びパワーピストンを備えた液圧ブレーキ装置が開示されている。また、下記の特許文献2には、更に、回生協調ブレーキ制御時に補助ピストンが不必要に前進作動されにくい、若しくは前進作動されない車両用液圧ブレーキ装置が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−37052号公報
【特許文献2】特開2003−81081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前掲の特許文献1に記載の液圧ブレーキ装置は、ブレーキ操作とは無関係に所定の液圧を発生し出力する液圧源と、該液圧源の出力液圧を調圧弁によってブレーキ操作に応じた液圧に調圧して出力し、前記調圧弁の出力液圧をパワー室に導入することによりブレーキ操作力を助勢して出力する液圧式倍力装置と、該液圧式倍力装置の出力により駆動され、当該液圧式倍力装置の出力に応じたブレーキ液圧を発生し出力するマスタシリンダとを備えているということができる。しかし、この装置はブレーキ操作に応じたブレーキ液圧を発生するのみであり、回生協調ブレーキ制御を行うことはできない。
【0005】
一方、前掲の特許文献2に記載においては、上記の液圧式倍力装置等に加え、ブレーキ操作部材の操作力に応じたストロークをブレーキ操作部材に付与する所謂ストロークシミュレータを備え、更に、ブレーキ操作に応じて調圧した液圧を液圧調整装置によって調圧して出力室に導入するように構成された装置が開示されており、この装置によれば回生協調ブレーキ制御を行うことができる。
【0006】
一般的に、エンジンと電気モータを併用するハイブリッド車に適用される回生協調ブレーキ制御においては、回生制動力を利用しているときには、この制動力に相当するブレーキ液圧が付与されないように液圧調整を行なう必要があるが、その液圧調整必要範囲はブレーキ液圧制御の一部である。然し乍ら、特許文献2に記載の装置によれば、ブレーキ操作開始時から、高い制動力を発生させるために高い液圧を出力するまでのブレーキ操作フィーリングをストロークシミュレータでつくり出すこととしているので、ストロークシミュレータが大掛かりなものとなり、必然的に高価な装置となる。
【0007】
そこで、本発明は、回生協調ブレーキ制御に適用し得る安価な車両用ブレーキ液圧発生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を達成するため、本発明は、請求項1に記載のように、ブレーキ操作とは無関係に所定の液圧を発生し出力する液圧源と、該液圧源の出力液圧を調圧弁によってブレーキ操作に応じた液圧に調圧して出力し、前記調圧弁の出力液圧をパワー室に導入することによりブレーキ操作力を助勢して出力する液圧式倍力装置と、該液圧式倍力装置の出力により駆動され、当該液圧式倍力装置の出力に応じたブレーキ液圧を発生し出力するマスタシリンダとを備えた車両用ブレーキ液圧発生装置において、前記調圧弁と前記パワー室との間に介装され、前記調圧弁の出力液圧を電気的手段により調圧して前記パワー室に供給する液圧調整手段と、前記調圧弁の出力液圧と前記パワー室の出力液圧との差圧に応じて、前記マスタシリンダの出力ブレーキ液を吸収するブレーキ液吸収手段とを備えることとしたものである。
【0009】
上記車両用ブレーキ液圧発生装置において、前記ブレーキ液吸収手段は、請求項2に記載のように、ブレーキ液吸収ピストンと、前記マスタシリンダの出力ブレーキ液が導入され、前記ブレーキ液吸収ピストンの移動に応じて容積が増減するブレーキ液吸収室と、前記パワー室の出力液圧が導入され、前記ブレーキ液吸収室を圧縮する方向に前記ブレーキ液吸収ピストンを付勢する第1液圧室と、前記調圧弁の出力液圧が導入され、前記ブレーキ液吸収室を拡張する方向に前記ブレーキ液吸収ピストンを付勢する第2液圧室とを備えたものとするとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、請求項1に記載の装置においては、調圧弁の出力液圧とパワー室の出力液圧との差圧に応じて、マスタシリンダの出力ブレーキ液を吸収するブレーキ液吸収手段を備えており、このブレーキ液吸収手段により、最大回生制動力を発生させる程度のブレーキ操作ストロークを作り出すことができるので、装置が大掛かりなものとならず、安価なものとなる。
【0011】
更に、前記ブレーキ液吸収手段は、請求項2に記載のように構成すれば、簡単且つ安価な装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態における車両用ブレーキ液圧発生装置は、図1に示すように、ブレーキペダルBPによるブレーキ操作とは無関係に所定の液圧を発生し出力する液圧源PSと、この液圧源PSの出力液圧を調圧弁RGによってブレーキ操作に応じた液圧に調圧して出力し、調圧弁RGの出力液圧をパワー室C8に導入することによりブレーキ操作力を助勢して出力する液圧式倍力装置HBと、この出力に応じたブレーキ液圧を発生し出力するマスタシリンダMCとを備えている。尚、マスタシリンダMCの出力ブレーキ液圧は、二つのブレーキ液圧系統H1及びH2の各車輪に装着されたホイールシリンダ(図示せず)に供給される。
【0013】
更に、調圧弁RGとパワー室C8との間に、液圧調整手段を構成する電気的手段たる比例電磁弁SV1及びSV2が介装され、これらの比例電磁弁SV1及びSV2によって調圧弁RGの出力液圧が調圧されるように構成されている。このように、本実施形態のブレーキ液圧発生装置は、液圧調整手段によってブレーキ液圧を電気的に制御し得るもので、特にエンジン(図示せず)と電気モータ(図示せず)を併用するハイブリッド車の回生協調ブレーキ制御に好適である。この回生協調ブレーキ制御においては、回生制動力を利用しているときには、回生制動力に相当するブレーキ液圧が付与されないように液圧調整を行なう必要があり、そうすると、この液圧低減分に相当するブレーキペダルBPのストロークが少なくなる。このような場合にも、回生制動力分を含めたブレーキペダルBPのストロークを確保すべく、マスタシリンダMCの出力ブレーキ液を吸収するブレーキ液吸収手段が設けられ、本実施形態では、後述するブレーキ液吸収装置ABが配設されている。
【0014】
マスタシリンダMCについては、図1に示すように、シリンダハウジングHS(以下、単にハウジングHSという)内に、マスタピストンMP1が摺動自在に収容されている。更に、ハウジングHS内に、マスタピストンMP2が摺動自在に収容され、マスタピストンMP1との間に第1マスタ液圧室C1が形成されると共に、ハウジングHSの前端部との間に第2マスタ液圧室C2が形成されている。また、マスタピストンMP1の後端に当接するように、パワーピストンPPがハウジングHS内に摺動自在に収容され、ハウジングHSの後方に液圧式倍力装置HBが構成されている。更に、第1マスタ液圧室C1には上記のブレーキ液吸収装置ABが連通接続されている。
【0015】
ハウジングHSは前方(図1の左方)が閉塞された有底筒体で、凹部B1が形成されると共に、小径孔B2、(段付)中径孔B3、小径孔B4及び大径孔B5に大別される段付孔から成るシリンダ孔(シリンダボア)が形成され、後方に小径の開口B6が形成されている。このシリンダ孔の内面には、断面カップ形状の環状のシール部材S1乃至S4を収容するための環状溝が形成されており、シール部材S1とS2との間に大気圧室C3が形成され、シール部材S3とS4との間に大気圧室C4が形成されるように構成されている。尚、図1では、ハウジングHSは単一の部材で示しているが、実際には複数の部材が組み合わされて成る。
【0016】
マスタピストンMP1は、前方に開口する凹部M1が形成されると共に、マスタピストンMP1の側面には、凹部M1に開口するポートPm1が形成されている。また、マスタピストンMP2は、前方に開口する凹部M2が形成されると共に、マスタピストンMP2の側面には、凹部M2に開口するポートPm2が形成されている。これらのポートPm1及びPm2は、マスタピストンMP1及びMP2が初期位置にあるときには、図1に示すように、夫々大気圧室C4及びC3に開口するように形成されている。
【0017】
そして、図1に示すように、マスタピストンMP1とMP2との間には、復帰スプリングとして機能する圧縮スプリングE1がリテーナRT1を介して装着されており、マスタピストンMP2の凹部M2内にも復帰スプリングとして機能する圧縮スプリングE2がリテーナRT2を介して装着されている。
【0018】
次に、液圧式倍力装置HBは、パワーピストンPPを有し、その外面には複数のランド部が形成されており、これらに夫々シール部材S5乃至S7が配置されている。そして、シール部材S5乃至S7を介して大径孔B5内に液密的摺動自在に嵌合されている。また、パワーピストンPPは、後方に延出する小径部を有し、シール部材S8を介してハウジングHSの開口部B6に液密的摺動自在に支持されている。而して、大径孔B5内の、パワーピストンPPの前端面とマスタピストンMP1との間に大気圧室C5が形成されると共に、シール部材S5とシール部材S6との間に、環状の空間及び中空孔から成る調圧室C6が形成されている。更に、シール部材S6とシール部材S7との間に圧力導入室C7が形成され、シール部材S7とシール部材S8との間にパワー室C8が形成されている。
【0019】
パワーピストンPP内には、本実施形態の調圧弁RGを構成するスプール弁機構が収容されており、その構成部材であるスプール弁RVの前方に調圧室C6(の一部)が形成され、この調圧室C6内には、スプール弁RVを後方に付勢する圧縮スプリングE3が収容されている。更に、スプール弁RVの後方のパワーピストンPP内に、シール部材S9を介して入力ロッドIRが液密的摺動自在に嵌合されており、入力ロッドIRの後端は、ブレーキ操作部材たるブレーキペダルBPに連結されている。
【0020】
尚、ハウジングHSの側面には、第1マスタ液圧室C1に開口するポートP1、第2マスタ液圧室C2に開口するポートP2、大気圧室C3に開口するポートP3、大気圧室C4に開口するポートP4、大気圧室C5に開口するポートP5が形成されており、ポートP3、P4及びP5は大気圧リザーバRSに連通接続されている。更に、液圧式倍力装置HBを構成する部分には、調圧室C6に開口するポートP6、圧力導入室C7に開口するポートP7、パワー室C8に開口するポートP8が形成されている。
【0021】
一方、液圧源PSは、電子制御装置ECUによって制御される電動モータMと、この電動モータMによって駆動される液圧ポンプHPを備え、その入力側が大気圧リザーバRSに連通接続され、出力側がアキュムレータACに連通接続されると共に、圧力導入室C7に接続されている。本実施形態では液圧ポンプHPの出力側に圧力センサSpsが接続されており、電子制御装置ECUによって圧力センサSpsの検出圧力が監視される。この監視結果に基づき、アキュムレータACの液圧が所定の上限値と下限値の間の圧力に維持されるように、電子制御装置ECUにより電動モータMが制御される。
【0022】
而して、図1に示すようにスプール弁RVが後端の初期位置にあるときには、調圧室C6はスプール弁RVを介して大気圧室C5に連通し、大気圧リザーバRS内と同様略大気圧となっている。入力ロッドIRが前方に移動し、これに伴いスプール弁RVが前進して調圧室C6が大気圧室C5と遮断された状態となると、調圧室C6内は出力保持状態となる。更にスプール弁RVが前進すると、調圧室C6は、スプール弁RV、パワーピストンPP及び圧力導入室C7を介して液圧源PSと連通するので、液圧源PSの出力液圧が調圧室C6内に供給されて昇圧し、出力増加状態となる。このように、パワーピストンPPに対するスプール弁RVの相対移動の繰り返しによって、調圧室C6内の液圧が所定の圧力に調圧され、ポートP6を介して、本発明の液圧調整手段を構成する電気的手段の比例電磁弁SV1に出力されるように構成されている。
【0023】
上記のように形成される第1マスタ液圧室C1及び第2マスタ液圧室C2は、夫々ポートP1及びP2から夫々液圧系H1及びH2を介して、図示しないホイールシリンダに連通するように構成されている。そして、マスタピストンMP1及びMP2が図1に示す初期位置にあるときには、第1マスタ液圧室C1及び第2マスタ液圧室C2はポートPm1及びPm2を介して大気圧室C4及びC3に連通し、ひいてはポートP4及びP3を介して大気圧リザーバRSに連通する。
【0024】
また、マスタピストンMP1が図1に示す初期位置にあるときには、大気圧下の第1マスタ液圧室C1はポートP1(及びP10)を介してブレーキ液吸収装置ABの吸収室C10に連通している。そして、マスタピストンMP2が初期位置からポートアイドル分以上前方に移動したときにはポートPm2の開口部がシール部材S1によって遮蔽され、第2マスタ液圧室C2と大気圧室C3との連通が遮断される。同様に、マスタピストンMP1が初期位置からポートアイドル分以上前方に移動するとポートPm1の開口部がシール部材S3によって遮蔽され、第1マスタ液圧室C1と大気圧室C4との連通が遮断される。
【0025】
更に、調圧弁RGの調圧室C6とパワー室C8との間には、前述のように比例電磁弁SV1及びSV2が介装されている。具体的には、調圧室C6とパワー室C8とを連通する液圧路に常開型の比例電磁弁SV1が配設されると共に、パワー室C8と大気圧リザーバRSとを連通する液圧路に常閉型の比例電磁弁SV2が配設され、これらの比例電磁弁SV1及びSV2、電子制御装置ECU、並びに後述のセンサ等によって液圧調整手段が構成されている。而して、調圧弁RGの出力液圧が比例電磁弁SV1を介してパワー室C8に供給されると共に、比例電磁弁SV2によって減圧され、パワー室C8内の液圧が所定の圧力に調整される。尚、パワー室C8内の液圧(パワー液圧)とマスタシリンダMCの出力液圧(マスタシリンダ液圧)とが略一対一の関係となるようにパワー室C8、調圧弁RG、第1マスタ液圧室C1の有効面積等が設定されている。
【0026】
本実施形態においては、マスタシリンダMCの出力液圧を検出する圧力センサSmcが配設されると共に、調圧弁RGの出力圧を検出する圧力センサSrcが配設されており、これらの検出信号が電子制御装置ECUに入力するように構成されている。これらのセンサにより、第1マスタ液圧室C1及び調圧弁RGの出力液圧が監視される。尚、本実施形態では、圧力センサSmcは液圧系H1に配設されているが、液圧系H2側に設けてもよいし、両液圧系に設けることとしてもよい。パワー室C8にも圧力センサSpcが接続されているが、圧力センサSpc及びSmcの何れか一方のみとしてもよい。また、ブレーキペダルBPには、そのストロークを検出するストロークセンサBSが配置される。更に、アンチロック制御等の種々の制御に供される車輪速度センサ、加速度センサ等のセンサ(代表してSNで表わす)が設けられており、これらの検出信号も電子制御装置ECUに入力するように構成されている。
【0027】
そして、図1に示すように、第1マスタ液圧室C1のブレーキ液を吸収するブレーキ液吸収装置ABが設けられている。ブレーキ液吸収装置ABは、シリンダ状のハウジングAH内に、ピストン部材APがシール部材を介して液密的摺動自在に収容され、ピストン部材APを介して吸収室C10、第1液圧室C11及び第2液圧室C12が形成され、第1液圧室C11内に収容された弾性部材たる圧縮スプリングE4によって、ピストン部材APが吸収室C10側に(即ち、吸収室C10を縮小する方向に)付勢されるように構成されたものである。更に、ハウジングAHには、吸収室C10を第1マスタ液圧室C1に連通するポートP10が形成されると共に、第1液圧室C11をパワー室C8に連通するポートP11が形成され、第2液圧室C12を調圧室C6に連通するポートP12が形成されている。
【0028】
具体的には、吸収室C10内の液圧(マスタシリンダ液圧)がピストン部材APの小径部APaの端面に付与され、第1液圧室C11内の液圧(パワー液圧)がピストン部材APの大径部APbの端面に付与されるように構成されており、しかも、前述のようにマスタシリンダ液圧とパワー液圧が略一対一の関係となるように設定されているので、ピストン部材APには、第2液圧室C12内の液圧(調圧弁RGの出力液圧)と第1液圧室C11内の液圧(パワー液圧)との差圧を(大径部APbと小径部APaとの差である環状部の)有効面積に乗じた力が付与される。このようにピストン部材APに付与される力によって、圧縮スプリングE4の付勢力に抗してピストン部材APが右方に移動すると吸収室C10が拡張し、第1マスタ液圧室C1内のブレーキ液が吸収室C10内に導入される。この結果、マスタピストンMP1ひいてはパワーピストンPPが前進し、(当該差圧に応じて)ブレーキペダルBPがストロークすることになる。
【0029】
而して、本実施形態においては、ブレーキ液吸収ピストンたるピストン部材APと、マスタシリンダMCの出力ブレーキ液が導入され、ピストン部材APの移動に応じて容積が増減する吸収室C10と、パワー室C8の出力液圧が導入され、吸収室C10を圧縮する方向にピストン部材APを付勢する第1液圧室C11と、調圧弁RGの出力液圧が導入され、吸収室C10を拡張する方向にピストン部材APを付勢する第2液圧室C12とを備えたブレーキ液吸収装置ABが構成されている。
【0030】
上記の構成に成る本実施形態の車両用ブレーキ液圧発生装置の全体作動に関し、先ず、回生制動が行なわれない状態でのブレーキ操作について説明する。ブレーキペダルBPが操作されると、調圧弁RGが作動し、パワー室C8内のパワー液圧が上昇する。これによりパワーピストンPPが前進し、これに応じてマスタピストンMP1及びMP2が前進する。この結果、大気圧リザーバRSと連通しているポートPm1及びPm2が遮断され、マスタシリンダMCに液圧が発生し出力される。このとき、前述のようにパワー液圧とマスタシリンダ液圧は同等の割合(略一対一の関係)で上昇するように設定されており、ブレーキ液吸収装置ABのピストン部材APは移動しない。
【0031】
一方、回生制動が行なわれる場合には、例えば、ブレーキペダルBPの操作に応じて発生した調圧弁RGの出力液圧に基づき、ブレーキ操作力が検出される。このブレーキ操作力に応じて回生制動力が付与されると、その回生制動力に応じてマスタシリンダ液圧が非回生時に比して低くなるように、比例電磁弁SV1及びSV2によって調圧弁RGの出力液圧が調整(減圧)されてパワー室C8に供給される。このとき、マスタシリンダMCと大気圧リザーバRSとを連通しているポートPm1及びPm2が遮断された状態に設定するため、例えばマスタシリンダ液圧の下限値は0.1MPaとなるように制御される。図2において、最大回生制動力を発生しているときのブレーキ操作力―マスタシリンダ液圧特性を一点鎖線で示し、回生制動力が全く得られない場合の同特性を実線で示している。
【0032】
この結果、調圧弁RGの出力液圧とパワー室C8の出力液圧との差圧に第2液圧室C12内のピストン部材APの有効面積を乗じた力により、ブレーキ液吸収装置ABのピストン部材APが図1の右方に移動し、これに伴いマスタピストンMP1が左方に移動してブレーキペダルBPがストロークする。この場合において、弾性部材たる圧縮スプリングE4の付勢力や第2液圧室C2の有効面積等は、ブレーキペダルBPが非回生時と同様にストロークするように設定されている。
【0033】
一方、車体速度が低速になった場合や、電気モータの電源たるバッテリ(図示せず)の充電が充分で(所謂フル充電の状態)回生制動力が減少しあるいは回生制動力が得られない場合には、比例電磁弁SV1及びSV2の電流値を減少させて調圧弁RGの出力液圧とパワー室C8への供給液圧との差圧を減少させ、回生制動力の減少に応じてマスタシリンダ液圧が(図2の実線に向かって)上昇するように制御される。このとき、ブレーキ液吸収装置ABのピストン部材APは図1の左方に移動するため、マスタピストンMP1はほとんど移動せず、ブレーキペダルBPもほとんど移動しない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用ブレーキ液圧発生装置の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるブレーキ操作力―マスタシリンダ液圧特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
BP ブレーキペダル
HS シリンダハウジング
MP1,MP2 マスタピストン
C1 第1マスタ液圧室
C2 第2マスタ液圧室
C3,C4,C5 大気圧室
C6 調圧室
C7 圧力導入室
C8 パワー室
E1,E2,E3,E4 圧縮スプリング
AB ブレーキ液吸収装置
AP ピストン部材
C10 吸収室
C11 第1液圧室
C12 第2液圧室
SV1,SV2 比例電磁弁
PS 液圧源
RS 大気圧リザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作とは無関係に所定の液圧を発生し出力する液圧源と、該液圧源の出力液圧を調圧弁によってブレーキ操作に応じた液圧に調圧して出力し、前記調圧弁の出力液圧をパワー室に導入することによりブレーキ操作力を助勢して出力する液圧式倍力装置と、該液圧式倍力装置の出力により駆動され、当該液圧式倍力装置の出力に応じたブレーキ液圧を発生し出力するマスタシリンダとを備えた車両用ブレーキ液圧発生装置において、前記調圧弁と前記パワー室との間に介装され、前記調圧弁の出力液圧を電気的手段により調圧して前記パワー室に供給する液圧調整手段と、前記調圧弁の出力液圧と前記パワー室の出力液圧との差圧に応じて、前記マスタシリンダの出力ブレーキ液を吸収するブレーキ液吸収手段とを備えたことを特徴とする車両用ブレーキ液圧発生装置。
【請求項2】
前記ブレーキ液吸収手段は、ブレーキ液吸収ピストンと、前記マスタシリンダの出力ブレーキ液が導入され、前記ブレーキ液吸収ピストンの移動に応じて容積が増減するブレーキ液吸収室と、前記パワー室の出力液圧が導入され、前記ブレーキ液吸収室を圧縮する方向に前記ブレーキ液吸収ピストンを付勢する第1液圧室と、前記調圧弁の出力液圧が導入され、前記ブレーキ液吸収室を拡張する方向に前記ブレーキ液吸収ピストンを付勢する第2液圧室とを備えたことを特徴とする請求項1記載の車両用ブレーキ液圧発生装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−264358(P2006−264358A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81052(P2005−81052)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】