説明

車両用ブレーキ装置の制御装置

【課題】マスタシリンダ圧に加圧されるポンプアップ圧を発生させるポンプの容量を抑制しつつ、急減速の要求に対応できる車両用ブレーキ装置の制御装置を提供する。
【解決手段】マスタバックの倍力限界点までは、マスタシリンダ圧をホイールシリンダに供給し、前記倍力限界点以降は、ポンプによって発生させたポンプアップ圧のホイールシリンダに対する供給を制御することで、目標のホイールシリンダ圧が得られるようにする。ここで、非制動要求時で、マスタバックの負圧室の負圧が所定の負圧に達しておらず、前記倍力限界点が低下する条件の場合には、ポンプを駆動させて予めポンプアップ圧を発生させておくことで、ポンプ容量が比較的小さくても、倍力限界点以降においてポンプアップ圧による昇圧を応答良く行えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負圧式倍力手段で倍力されたブレーキ操作力に応じて液圧を発生させる車両用ブレーキ装置に適用される制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マスタバック(負圧式倍力手段)で倍力されたブレーキ操作力に応じてマスタシリンダ液圧を発生させるマスタシリンダを備える一方、制動時に要求制動力に対してマスタシリンダ液圧が不足している場合に、ポンプ駆動により発生させたアシスト液圧を前記マスタシリンダ液圧に加圧するブレーキ液圧制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−192945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示されるブレーキ液圧制御装置では、マスタバック(負圧式倍力手段)の負圧が充分に確保されていない状態で急減速の要求が発生すると、マスタシリンダ液圧のみでは要求の減速度(ブレーキ液圧)を実現できないために、アシスト液圧を応答良く立ち上げてマスタシリンダ液圧に加圧する必要が生じる。
【0005】
しかし、アシスト液圧を応答良く立ち上げるためには、容量の大きなポンプを使用する必要があり、これによって、ポンプの大型化,重量増,コスト増加などが生じるという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、ポンプの容量を抑制しつつ、急減速の要求に対応できる車両用ブレーキ装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのため、本発明では、負圧式倍力手段で倍力されたブレーキ操作力に応じて第1液圧を発生させると共に、ポンプによって第2液圧を発生させる車両用ブレーキ装置において、要求制動力の増大に対し、前記1液圧から前記第2液圧に切り替えて車輪のホイールシリンダに供給すると共に、非制動要求時において前記負圧式倍力手段の負圧が所定の負圧に満たない場合に、前記ポンプを駆動させて前記第2液圧の発生状態で待機させるようにした。
【発明の効果】
【0008】
上記発明によると、負圧式倍力手段の負圧が所定の負圧に満たない場合には、倍力限界点が低下するため、係る状態から急制動の要求が発生すると、倍力限界点の低下を補うだけの第2液圧を速やかに立ち上げて昇圧させる必要が生じるので、予めポンプを駆動させて第2液圧の発生状態で待機させることで、応答良く第2液圧で昇圧できるようにした。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態におけるエンジンの構成図である。
【図2】本発明の実施形態における可変バルブリフト機構VELを示す断面図(図3のA−A断面図)。
【図3】上記可変バルブリフト機構VELの側面図。
【図4】上記可変バルブリフト機構VELの平面図。
【図5】上記可変バルブリフト機構VELに使用される偏心カムを示す斜視図。
【図6】上記可変バルブリフト機構VELの低リフト時の作用を示す断面図(図3のB−B断面図)。
【図7】上記可変バルブリフト機構VELの高リフト時の作用を示す断面図(図3のB−B断面図)。
【図8】上記可変バルブリフト機構VELにおける揺動カムの基端面とカム面に対応したバルブリフト特性図。
【図9】上記可変バルブリフト機構VELのバルブリフトの特性図。
【図10】上記可変バルブリフト機構VELにおける制御軸の回転駆動機構を示す斜視図。
【図11】本発明の実施形態における可変バルブタイミング機構VTCを示す断面図。
【図12】本発明の実施形態におけるブレーキ装置の油圧回路図である。
【図13】本発明の実施形態におけるマスタバックの倍力作用を説明するための線図である。
【図14】本発明の実施形態におけるポンプのスタンバイ制御を示すフローチャートである。
【図15】本発明の実施形態におけるスタンバイ状態での指令液圧を設定する処理を示すフローチャートである。
【図16】本発明の実施形態におけるスタンバイ状態での指令液圧の増大補正処理の詳細を示すフローチャートである
【図17】本発明に係るポンプのスタンバイ制御の第2実施形態を示すフローチャートである。
【図18】本発明の実施形態におけるスタンバイ制御によるポンプアップ圧の変化を、マスタシリンダ圧、マスタバック負圧、吸気負圧、ブレーキ操作量、アクセル開度などと共に示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、実施形態における車両用エンジン及び車両用ブレーキ装置の構成を示す図である。
【0011】
図1に示すエンジン101は、火花点火式のガソリン内燃機関である。
前記エンジン101の吸気管102には、スロットルモータ103aでスロットルバルブ103bを開閉駆動する電子制御スロットル104が介装される。
【0012】
そして、前記電子制御スロットル104及び吸気バルブ105を介して、燃焼室106内に空気が吸入される。
燃料は、各気筒の吸気ポート102Aに配設された燃料噴射弁130から噴射される。
【0013】
燃焼室106内の燃料は、点火プラグ172による火花点火によって着火燃焼し、燃焼排気は、燃焼室106から排気バルブ107を介して排出され、フロント触媒コンバータ108及びリア触媒コンバータ109で浄化された後、大気中に放出される。
【0014】
前記排気バルブ107は、排気カムシャフト110に一体的に形成されたカム111によって一定のバルブリフト量,バルブ作動角及びバルブタイミングを保って開閉駆動される。
【0015】
一方、吸気バルブ105は、可変バルブリフト機構(VEL)112及び可変バルブタイミング機構(VTC)113によって、バルブリフト量及びバルブ作動角、更に、バルブ作動角の中心位相が連続的に変えられるようになっている。
【0016】
また、前記点火プラグ172それぞれには、パワートランジスタと点火コイルとからなる点火モジュール171が直付けされている。
マイクロコンピュータを内蔵するエンジンコントロールユニット(ECU)114は、目標吸入空気量及び目標吸気負圧が得られるように、スロットルバルブ103bの目標開度及び吸気バルブ105の目標開特性を設定し、これらの目標に基づいて前記電子制御スロットル104,可変バルブリフト機構112及び可変バルブタイミング機構113を制御する。
【0017】
具体的には、前記可変バルブリフト機構112及び可変バルブタイミング機構113による吸気バルブ105の開特性の制御によって、エンジン101の吸入空気量を制御し、前記電子制御スロットル104で吸気負圧の発生を制御する。
【0018】
即ち、前記電子制御スロットル104による吸気負圧の発生は、吸入空気量を制御するためのものではなく、エンジン101の吸気負圧(吸気管負圧)を負圧源として用いる機器(後述するマスタバック132aや蒸発燃料処理装置やブローバイガス処理装置など)に対して負圧を供給するためのものである。
【0019】
従って、上記エンジン101によると、吸気負圧の小さい(大気圧に近い)条件下で運転し、ポンピングロスの低下によって燃費性能・出力性能の向上を図ることができる。
また、前記電子制御スロットル104,燃料噴射弁130,点火モジュール113も、エンジンコントロールユニット(ECU)114によって制御される。
【0020】
前記エンジンコントロールユニット114には、運転者が操作するアクセルペダル111の開度APOを検出するアクセルペダルセンサ116、エンジン101の吸入空気量QAを検出するエアフローセンサ115、クランクシャフト120の角度信号POSを出力するクランク角センサ117、スロットルバルブ103bの開度TVOを検出するスロットルセンサ118、エンジン101の冷却水温度TWを検出する水温センサ119、前記エンジン101の出力トルクを車両の駆動輪に伝達する動力伝達系を構成する自動変速機181の出力軸回転181Aから車両の走行速度(車速)VSPを検出する車速センサ182、排気中の酸素濃度に基づいてエンジン101の混合気の空燃比AFを検出する空燃比センサ129、エンジン101の吸気管負圧PBを検出する吸気圧センサ142等からの検出信号が入力される。
【0021】
前記クランク角センサ117からの角度信号POSに基づいて、前記エンジンコントロールユニット114でエンジン回転速度NEが算出される。
また、前記エンジン101には、燃料タンク133にて発生した蒸発燃料を、蒸発燃料通路134を介してキャニスタ135に一時的に吸着させ、キャニスタ135から脱離させた蒸発燃料を、パージ制御弁136を備えたパージ通路137を介してスロットルバルブ103b下流の吸気通路に吸引させる、蒸発燃料処理装置が備えられている。
【0022】
更に、前記エンジン101には、クランクケース内に溜まるブローバイガスを、PCV(ポジティブ・クランクケースベンチレーテッド・バルブ)138が介装されるブローバイガスパージ通路139を介してスロットルバルブ103b下流の吸気通路に吸引させ、スロットルバルブ103b上流の新気を、新気通路140を介してシリンダヘッドを経由してクランクケース内に導入するブローバイガス処理装置が備えられている。
【0023】
また、負圧源として前記エンジン101の吸気管負圧を利用し、ブレーキ操作力を倍力するマスタバック132aを含んでなるブレーキ油圧回路(ブレーキ装置)が設けられている。
【0024】
前記ブレーキ油圧回路は、ブレーキペダル131の操作力(ブレーキ操作力)を倍力するマスタバック132a(ブレーキブースタ)と、該マスタバック132aで倍力されたブレーキ操作力に応じてマスタシリンダ圧(第1液圧)を発生するマスタシリンダ203(第1液圧発生手段)と、前記マスタシリンダ圧を各車輪(4輪)のホイールシリンダ204〜207に供給する油圧ユニット202とから構成される。
【0025】
前記マスタバック132aの負圧室には、前記スロットルバルブ103b下流の吸気負圧が、負圧導入管132cを介して導入されるようになっており、前記負圧導入管132cの途中には、スロットルバルブ103b下流の圧力がマスタバック132a内の圧力よりも低くなった場合に開弁する機械式のチェックバルブ(一方向弁)210が介装されている。
【0026】
即ち、前記マスタバック132aは、負圧源としてエンジン101の吸気負圧を用い、負圧によってブレーキ操作力を倍力する負圧式倍力手段である。
前記油圧ユニット202に含まれる後述の電磁弁及びモータを制御する、マイクロコンピュータを内蔵するブレーキコントロールユニット(BCU)201が設けられている。
【0027】
前記ブレーキコントロールユニット(BCU)201には、前記マスタバック132aの負圧室の負圧(ブースタ負圧)BNPを検出する負圧センサ132b(負圧検出手段)、前記ブレーキペダル131のストローク量BS(ブレーキペダルの踏込量)を検出するブレーキペダルセンサ208、前記マスタシリンダ圧MCPを検出する液圧センサ209、前記ブレーキペダル131の踏力(ブレーキ操作力F)を検出する操作力センサ217などからの信号が入力される。
【0028】
前記エンジンコントロールユニット114とブレーキコントロールユニット201とは、通信回路211によって相互通信可能に接続されており、各種センサの検出結果などを相互に送受信する。
【0029】
図2〜図4は、前記可変バルブリフト機構(VEL)112の構造を詳細に示すものである。
図2〜図4に示す可変バルブリフト機構は、一対の吸気バルブ105,105と、シリンダヘッド11のカム軸受14に回転自在に支持された中空状の吸気カムシャフト13と、該吸気カムシャフト13に軸支された回転カムである2つの偏心カム15,15(駆動カム)と、前記吸気カムシャフト13の上方位置に同じカム軸受14に回転自在に支持された制御軸16と、該制御軸16に制御カム17を介して揺動自在に支持された一対のロッカアーム18,18と、各吸気バルブ105,105の上端部にバルブリフター19,19を介して配置された一対のそれぞれ独立した揺動カム20,20と、を備えている。
【0030】
前記偏心カム15,15とロッカアーム18,18とは、リンクアーム25,25によって連係され、ロッカアーム18,18と揺動カム20,20とは、リンク部材26,26によって連係されている。
【0031】
上記ロッカアーム18,18,リンクアーム25,25,リンク部材26,26が伝達機構を構成する。
前記偏心カム15は、図5に示すように、略リング状を呈し、小径なカム本体15aと、該カム本体15aの外端面に一体に設けられたフランジ部15bとからなり、内部軸方向にカム軸挿通孔15cが貫通形成されていると共に、カム本体15aの軸心Xが吸気カムシャフト13の軸心Yから所定量だけ偏心している。
【0032】
また、前記偏心カム15は、吸気カムシャフト13に対し前記バルブリフター19に干渉しない両外側にカム軸挿通孔15cを介して圧入固定されていると共に、カム本体15aの外周面15dが同一のカムプロフィールに形成されている。
【0033】
前記ロッカアーム18は、図4に示すように、略クランク状に屈曲形成され、中央の基部18aが制御カム17に回転自由に支持されている。
また、基部18aの外端部に突設された一端部18bには、リンクアーム25の先端部と連結するピン21が圧入されるピン孔18dが貫通形成されている一方、基部18aの内端部に突設された他端部18cには、各リンク部材26の後述する一端部26aと連結するピン28が圧入されるピン孔18eが形成されている。
【0034】
前記制御カム17は、円筒状を呈し、制御軸16外周に固定されていると共に、図2に示すように軸心P1位置が制御軸16の軸心P2からαだけ偏心している。
前記揺動カム20は、図2及び図6,図7に示すように略横U字形状を呈し、略円環状の基端部22に吸気カムシャフト13が嵌挿されて回転自在に支持される支持孔22aが貫通形成されていると共に、ロッカアーム18の他端部18c側に位置する端部23にピン孔23aが貫通形成されている。
【0035】
また、揺動カム20の下面には、基端部22側の基円面24aと該基円面24aから端部23端縁側に円弧状に延びるカム面24bとが形成されており、該基円面24aとカム面24bとが、揺動カム20の揺動位置に応じて各バルブリフター19の上面所定位置に当接するようになっている。
【0036】
即ち、図8に示すバルブリフト特性からみると、図2に示すように基円面24aの所定角度範囲θ1がベースサークル区間になり、カム面24bの前記ベースサークル区間θ1から所定角度範囲θ2が所謂ランプ区間となり、更に、カム面24bのランプ区間θ2から所定角度範囲θ3がリフト区間になるように設定されている。
【0037】
また、前記リンクアーム25は、円環状の基部25aと、該基部25aの外周面所定位置に突設された突出端25bとを備え、基部25aの中央位置には、前記偏心カム15のカム本体15aの外周面に回転自在に嵌合する嵌合穴25cが形成されている一方、突出端25bには、前記ピン21が回転自在に挿通するピン孔25dが貫通形成されている。
【0038】
更に、前記リンク部材26は、所定長さの直線状に形成され、円形状の両端部26a,26bには前記ロッカアーム18の他端部18cと揺動カム20の端部23の各ピン孔18d,23aに圧入した各ピン28,29の端部が回転自在に挿通するピン挿通孔26c,26dが貫通形成されている。尚、各ピン21,28,29の一端部には、リンクアーム25やリンク部材26の軸方向の移動を規制するスナップリング30,31,32が設けられている。
【0039】
上記構成において、制御軸16の軸心P2と制御カム17の軸心P1との位置関係によって、図6,7に示すように、バルブリフト量が変化することになり、前記制御軸16を回転駆動させることで、制御カム17の軸心P1に対する制御軸16の軸心P2の位置を変化させる。
【0040】
前記制御軸16は、図10に示すような構成により、DCサーボモータ(アクチュエータ)121によって所定回転角度範囲内で回転駆動されるようになっており、前記制御軸16の角度を前記アクチュエータ121で変化させることで、吸気バルブ105のバルブ作動角がバルブリフト量と共に連続的に変化する(図9参照)。
【0041】
図10において、DCサーボモータ121は、その回転軸が制御軸16と平行になるように配置され、回転軸の先端には、傘歯車122が軸支されている。
一方、前記制御軸16の先端に一対のステー123a,123bが固定され、一対のステー123a,123bの先端部を連結する制御軸16と平行な軸周りに、ナット124が揺動可能に支持される。
【0042】
前記ナット124に噛み合わされるネジ棒125の先端には、前記傘歯車122に噛み合わされる傘歯車126が軸支されており、DCサーボモータ121の回転によってネジ棒125が回転し、該ネジ棒125に噛み合うナット124の位置が、ネジ棒125の軸方向に変位することで、制御軸16が回転されるようになっている。
【0043】
ここで、ナット124の位置を傘歯車126に近づける方向が、バルブ作動角(バルブリフト量)が小さくなる方向で、逆に、ナット124の位置を傘歯車126から遠ざける方向が、バルブ作動角(バルブリフト量)が大きくなる方向となっている。
【0044】
前記制御軸16の先端には、図10に示すように、制御軸16の角度位置APを検出する角度センサ127が設けられており、該角度センサ127で検出される実際の角度位置が目標角度位置に一致するように、前記エンジンコントロールユニット114が前記DCサーボモータ121の通電操作量をフィードバック制御する。
【0045】
尚、吸気バルブ105のバルブ作動角及びバルブリフト量を可変とする可変バルブリフト機構(VEL)112の構造は、上記のものに限定されず、公知の種々の構造のものを適宜採用することができる。
【0046】
図11は、前記可変バルブタイミング機構(VTC)113の構造を示す。
本実施形態の可変バルブタイミング機構113は油圧式機構であり、クランクシャフト120によりタイミングチェーンを介して回転駆動されるカムスプロケット51(タイミングスプロケット)と、吸気カムシャフト13の端部に固定されてカムスプロケット51内に回転自在に収容された回転部材53と、該回転部材53をカムスプロケット51に対して相対的に回転させる油圧回路54と、カムスプロケット51と回転部材53との相対回転位置を所定位置で選択的にロックするロック機構60とを備えている。
【0047】
前記カムスプロケット51は、外周にタイミングチェーン(又はタイミングベルト)が噛合する歯部を有する回転部(図示省略)と、該回転部の前方に配置されて前記回転部材53を回転自在に収容するハウジング56と、該ハウジング56の前後開口を閉塞するフロントカバー,リアカバー(図示省略)とから構成される。
【0048】
前記ハウジング56は、前後両端が開口形成された円筒状を呈し、内周面には、横断面台形状を呈する4つの隔壁部63が、それぞれハウジング56の周方向に沿って90°間隔で突設されている。
【0049】
前記回転部材53は、吸気カムシャフト13の前端部に固定されており、円環状の基部77の外周面に90°間隔で4つのベーン78a,78b,78c,78dが設けられている。
【0050】
前記第1〜第4ベーン78a〜78dは、それぞれ断面が略逆台形状を呈し、各隔壁部63間の凹部に配置され、前記凹部を回転方向の前後に隔成し、ベーン78a〜78dの両側と各隔壁部63の両側面との間に、進角側油圧室82と遅角側油圧室83を構成する。
【0051】
前記ロック機構60は、ロックピン84が、回転部材53の最大遅角側の回動位置(基準作動状態)において係合孔(図示省略)に係入するようになっている。
前記油圧回路54は、進角側油圧室82に対して油圧を給排する第1油圧通路91と、遅角側油圧室83に対して油圧を給排する第2油圧通路92との2系統の油圧通路を有し、この両油圧通路91,92には、供給通路93とドレン通路94a,94bとがそれぞれ通路切り換え用の電磁切換弁95を介して接続されている。
【0052】
前記供給通路93には、オイルパン96内の油を圧送する機関駆動のオイルポンプ97が設けられている一方、ドレン通路94a,94bの下流端がオイルパン96に連通している。
【0053】
前記第1油圧通路91は、回転部材53の基部77内に略放射状に形成されて各進角側油圧室82に連通する4本の分岐路91dに接続され、第2油圧通路92は、各遅角側油圧室83に開口する4つの油孔92dに接続される。
【0054】
前記電磁切換弁95は、内部のスプール弁体が各油圧通路91,92と供給通路93及びドレン通路94a,94bとを相対的に切り換え制御するようになっている。
前記ECU114は、前記電磁切換弁95を駆動する電磁アクチュエータ99に対する通電量を、デューティ制御信号に基づいて制御することで、クランクシャフト120に対する吸気カムシャフト13の回転位相を変更し、吸気バルブ105の作動角の中心位相を進・遅角制御する。
【0055】
例えば、電磁アクチュエータ99にオンデューティ0%の制御信号(OFF信号)を出力すると、オイルポンプ47から圧送された作動油は、第2油圧通路92を通って遅角側油圧室83に供給されると共に、進角側油圧室82内の作動油が、第1油圧通路91を通って第1ドレン通路94aからオイルパン96内に排出される。
【0056】
従って、遅角側油圧室83の内圧が高、進角側油圧室82の内圧が低となって、回転部材53は、ベーン78a〜78bを介して最大遅角側に回転し、この結果、吸気バルブ105のバルブ作動角の中心位相が遅角される。
【0057】
一方、電磁アクチュエータ99にオンデューティ100%の制御信号(ON信号)を出力すると、作動油は、第1油圧通路91を通って進角側油圧室82内に供給されると共に、遅角側油圧室83内の作動油が第2油圧通路92及び第2ドレン通路94bを通ってオイルパン96に排出され、遅角側油圧室83が低圧になる。
【0058】
このため、回転部材53は、ベーン78a〜78dを介して進角側へ最大に回転し、これによって、吸気バルブ105のバルブ作動角の中心位相が進角される。
このように、ベーン78a〜78dがハウジング56内で相対回転できる範囲で、吸気カムシャフト13のクランクシャフト120に対する位相が最遅角位置から最進角位置までの間で連続的に変化し、吸気バルブ105の作動角の中心位相が連続的に変化するものである。
【0059】
尚、可変バルブタイミング機構113としては、上記のように油圧を用いる機構の他、特開2003−129806号公報や特開2001−241339号公報に開示されるように、カムシャフトにブレーキトルクを作用させる可変バルブタイミング機構を用いることができ、更に、特開2007−262914号公報に開示されるような電動モータを駆動源とする可変バルブタイミング機構であってもよい。
【0060】
図12は、前記ブレーキ油圧回路(ブレーキ装置)における油圧ユニット202の詳細を示す図である。
図12に示す油圧ユニット202では、前記マスタシリンダ203から左右の前輪FR,FLそれぞれのホイールシリンダ204,205に接続される、2つの独立したマスタシリンダ圧供給配管2001A,2001Bが設けられている。
【0061】
前記マスタシリンダ圧供給配管2001A,2001Bには、それぞれに遮断弁2002A,2002Bが介装されている。
また、モータ2003で駆動されるポンプ2004(第2液圧発生手段)が設けられ、該ポンプ2004は、吸込口からリザーバタンク2018内のブレーキ液を吸い込み、吸い込んだブレーキ液を昇圧して吐出する。
【0062】
ここで、ポンプ2004から吐出される液圧を、ポンプアップ圧(第2液圧)と称するものとする。
前記ポンプ2004の吐出口と、ホイールシリンダ204,205,206,207それぞれへのポンプアップ圧の供給を制御するIN弁2005A〜2005Dの一方のポートとが、ポンプアップ圧供給配管2006によって接続されている。
【0063】
前記ポンプアップ圧供給配管2006は、前記ポンプ2004の吐出口の下流側で2つに分岐し、分岐後の配管が更に2つに分岐して、IN弁2005A〜2005Dの一方のポートにそれぞれ接続される。
【0064】
前記ポンプアップ圧供給配管2006の最初の分岐点Xの下流側には、IN弁2005A〜2005Dに向けての流れのみを許容する機械式のチェックバルブ(一方向弁)2007A,2007Bが介装されている。
【0065】
前記IN弁2005A〜2005Dの他方のポートと、ホイールシリンダ204,205,206,207からの液圧のリリーフを制御するOUT弁2020A〜2020Dの一方のポートとが、それぞれに第1給排配管2008A〜2008Dによって接続されている。
【0066】
そして、前記OUT弁2020A〜2020Dの他方のポートは、前記ポンプ2004吸込口とリザーバタンク2018とを接続するリザーバ配管2009に接続されている。
更に、第1給排配管2008A,2008Bの途中と、前記遮断弁2002A,2002Bの下流側の前記マスタシリンダ圧供給配管2001A,2001Bとをそれぞれに接続する第2給排配管2010A,2010Bが設けられる。
【0067】
また、給排配管2008C,2008Dの途中と、左右の後輪RR,RLそれぞれのホイールシリンダ206,207とを接続するポンプアップ圧給排配管2011A,2011Bが設けられている。
【0068】
また、前記ポンプ2004の吐出口の直後のポンプアップ圧供給配管2006と、前記ポンプ2004の吸込口の直前の前記リザーバ配管2009とを接続するリリーフ配管2012が設けられ、前記リリーフ配管2012には、ポンプ吐出側の液圧が設定圧を超えたときに開弁する機械式のリリーフバルブ2013が介装されている。
【0069】
尚、前記遮断弁2002A,2002B及びOUT弁2020C,2020Dは、スプリングによって開弁方向に付勢され、電磁コイルへの通電によって閉弁する電磁弁であり、前記IN弁2005A〜2005D及びOUT弁2020A,2020Bは、スプリングによって閉弁方向に付勢され、電磁コイルへの通電によって開弁する電磁弁である。
【0070】
前記ホイールシリンダ204,205,206,207には、ホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ2015A〜2015Dがそれぞれに設けられており、前記ホイールシリンダ圧センサ2015A〜2015Dの検出信号(ホイールシリンダ圧信号)は、前記ブレーキコントロールユニット201に入力される。
【0071】
上記構成において、左右の後輪RR,RLそれぞれのホイールシリンダ206,207に対して、マスタシリンダ圧を供給する経路は設けられておらず、後輪RR,RLのホイールシリンダ206,207に対しては、ポンプ2004によって生成されるポンプアップ圧(第2液圧)が供給される。
【0072】
ホイールシリンダ206,207に対するポンプアップ圧の給排を制御するIN弁2005C,2005D及びOUT弁2020C,2020Dに対する非通電状態では、IN弁2005C,2005Dが閉状態、OUT弁2020C,2020Dが開状態となる。
【0073】
この場合、ポンプ2004からのポンプアップ圧は、前記IN弁2005C,2005Dで遮断される一方、OUT弁2020C,2020Dが開状態であるため、ホイールシリンダ206,207とリザーバタンク2018とがOUT弁2020C,2020Dを介して連通するようになり、ホイールシリンダ206,207の液圧は、リザーバタンク2018にリリーフされて、ホイールシリンダ206,207の液圧(ホイールシリンダ圧)が低下する。
【0074】
一方、IN弁2005C,2005D及びOUT弁2020C,2020Dに対する通電状態では、IN弁2005C,2005Dが開状態、OUT弁2020C,2020Dが閉状態となる。
【0075】
この場合、ポンプ2004からのポンプアップ圧は、前記IN弁2005C,2005D及びポンプアップ圧給排配管2011A,2011Bを介してホイールシリンダ206,207に供給される一方、ホイールシリンダ206,207とリザーバタンク2018との接続がOUT弁2020C,2020Dで遮断されるため、ホイールシリンダ206,207の液圧(ホイールシリンダ圧)が増加する。
【0076】
更に、IN弁2005C,2005Dを非通電とし、OUT弁2020C,2020Dに対して通電すると、IN弁2005C,2005Dが閉状態となり、OUT弁2020C,2020Dも閉状態となるから、ホイールシリンダ206,207に対するポンプアップ圧の供給が止められ、かつ、ホイールシリンダ206,207からのリリーフも停止されるため、ホイールシリンダ圧が保持されることになる。
【0077】
従って、IN弁2005C,2005D及びOUT弁2020C,2020Dの通電・非通電を制御することで、後輪RR,RLのホイールシリンダ206,207の液圧(ホイールシリンダ圧)を制御することができる。
【0078】
一方、左右の前輪FR,FLそれぞれのホイールシリンダ204,205に対しては、マスタシリンダ圧とポンプアップ圧とを供給できるようになっている。
即ち、前記IN弁2005A,2005B及びOUT弁2020A,2020Bに対する非通電状態では、前記IN弁2005A,2005B及びOUT弁2020A,2020Bが共に閉状態となり、このときに、遮断弁2002A及び2002Bも非通電とすれば、マスタシリンダ圧がホイールシリンダ204,205に対して供給されることになる。
【0079】
一方、遮断弁2002A及び2002Bに通電すれば、遮断弁2002A及び2002Bが閉状態になって、ホイールシリンダ204,205に対するマスタシリンダ圧の供給が断たれる。
【0080】
この遮断弁2002A,2002Bへの通電状態(閉弁状態)で、OUT弁2020A,2020Bを非通電、IN弁2005A,2005Bを通電状態にすると、OUT弁2020A,2020Bが閉弁し、IN弁2005A,2005Bが開弁することで、ポンプアップ圧がホイールシリンダ204,205に供給されるようになる。
【0081】
また、遮断弁2002A,2002Bへの通電状態(閉弁状態)で、IN弁2005A,2005Bを非通電、OUT弁2020A,2020Bを通電状態にすると、IN弁2005A,2005Bが閉弁し、OUT弁2020A,2020Bが開弁することで、ポンプアップ圧がホイールシリンダ204,205からリリーフされる。
【0082】
更に、遮断弁2002A,2002Bへの通電状態(閉弁状態)で、IN弁2005A,2005B及びOUT弁2020A,2020Bを非通電とすれば、ホイールシリンダ204,205に対するポンプアップ圧の供給が止められ、かつ、ホイールシリンダ204,205からのリリーフが停止されることで、ホイールシリンダ圧が保持される。
【0083】
従って、遮断弁2002A,2002Bへの通電状態(閉弁状態)で、IN弁2005A,2005B及びOUT弁2020A,2020Bの通電・非通電を制御することで、前輪FR,FLのホイールシリンダ204,205の液圧(ホイールシリンダ圧)を制御することができる。
【0084】
前記ブレーキコントロールユニット201は、ホイールシリンダ圧の目標(要求制動力)を、前輪FR,FLについては、前記マスタバック132aがブレーキ操作力を所定の倍力比で倍力することで得られるマスタシリンダ圧に相当する値として設定し、後輪RR,RLについては、前輪FR,FLの目標よりも低い値に設定する。
【0085】
そして、後輪RR,RLについては、前記目標に実際のホイールシリンダ圧が近づくように、IN弁2005C,2005D及びOUT弁2020C,2020Dを制御して、ポンプアップ圧の供給・ホイールシリンダ圧の保持・ホイールシリンダ圧のリリーフを制御する。
【0086】
一方、後輪に比べてより高い制動力が要求される前輪FR,FLについては、前記マスタバック132aがブレーキ操作力を所定の倍力比で倍力しなくなる倍力限界点以前では、マスタシリンダ圧(第1液圧)をホイールシリンダ204,205に供給し、前記倍力限界点以降では、マスタシリンダ圧の供給を断ち、代わりにポンプアップ圧をホイールシリンダ204,205に供給することで、前記倍力限界点以降も前記倍力比に応じたホイールシリンダ圧(ブレーキ液圧)が得られるようにする。
【0087】
即ち、前輪FR,FLの制動力制御においては、前記マスタバック132aがブレーキ操作力を所定の倍力比で倍力する、要求制動力が閾値よりも小さい領域では、マスタシリンダ圧によって制動力を発生させ、要求制動力が前記閾値以上となる領域では、マスタシリンダ圧の供給を断ち、より高い制動力の要求に対しては、ポンプアップ圧の供給でホイールシリンダ圧を昇圧させるようにする。
【0088】
上記のマスタシリンダ圧からポンプアップ圧に切り替えるブレーキコントロールユニット201の制御機能が、液圧供給手段に相当する。
尚、前記倍力限界点は、マスタシリンダ圧とブレーキペダル131の踏力(ブレーキ操作力F)との比を順次演算し、この比が前回値に比べて変化した時点として検出することができる。
【0089】
図13は、前記マスタシリンダ圧とブレーキペダル131の踏力(ブレーキ操作力F)との相関を、前記マスタバック132aの負圧室の負圧(ブースタ負圧)BNP毎に示すものである。
【0090】
前記倍力限界点以降では、倍力比に応じたブレーキ液圧PWCをマスタシリンダ圧が下回るため、ポンプアップ圧を供給してブレーキ液圧PWCが得られるようにするが、図13に示すように、ブースタ負圧BNPが小さいと(マスタバック132aの負圧室の圧力が高いと)、前記倍力限界点が低下するため、早期にポンプアップ圧に切り替えることが要求されるようになる。
【0091】
特に、急制動要求時には、制動開始から、マスタシリンダ圧からポンプアップ圧に切り替えるタイミング(倍力限界点)になるまでの時間が短くなり、かつ、ポンプアップ圧に切り替わってからの目標ホイールシリンダ圧の増大変化が速くなる。
【0092】
従って、ブースタ負圧BNPが小さい状態からの急制動要求時であっても、目標ホイールシリンダ圧の変化に実際のホイールシリンダ圧を応答良く追従させるためには、ポンプ2004として容量(吐出流量)の大きなものを用いることが要求されることになる。
【0093】
しかし、容量の大きなポンプ2004を用いるようにすると、ポンプが大型化して、重量が重くなり、更に、コスト高になってしまう。
そこで、本実施形態では、制動要求の発生前(ブレーキペダルが踏まれる前)から次の制動に備えて予めポンプ2004を駆動させてポンプアップ圧を発生させておくスタンバイ制御を、所定条件の成立時に実行させることで、ポンプ2004の容量を低下させても所期の応答が得られるようにしており、以下では、係るスタンバイ制御を詳細に説明する。
【0094】
上記のように、本実施形態におけるスタンバイ制御手段としての機能は、ブレーキコントロールユニット201が、図14のフローチャートに示すようにソフトウエアとして備えている。
【0095】
図14のフローチャートは、前記スタンバイ制御の実行判断を行うルーチンを示し、このルーチンは、一定の微小時間毎に割り込み実行されるようになっている。
まず、ステップS501では、車速VSP、エンジン回転速度NE、マスタシリンダ圧MCP、ブレーキペダル131のストローク量BS(ブレーキペダルの踏込量)、マスタバック132aの負圧室の負圧(ブースタ負圧)BNPなど、車両・エンジン・ブレーキ装置の状態を示す信号を読み込む。
【0096】
ステップS502では、マスタバック132aの負圧室の負圧(ブースタ負圧)BNPが所定値(1)よりも小さいか否か、換言すれば、マスタバック132aの負圧室の圧力が所定値(1)よりも高いか否かを判別する。
【0097】
尚、本願では、負圧を、大気圧を0mmHgとしたときのマイナスの圧力として示し、負圧が大きいとは、マイナスの値として示される負圧の絶対値が大きく、大気圧に対してより低い状態を示すものとする。
【0098】
前記所定値(1)は、大気圧よりも低い圧力(負圧)であり、標準的なブレーキペダル操作によるマスタシリンダ圧MCPの発生によって、車両を所定の減速度(例えば1G程度)で減速させる制動力を発生させることができる値として、予め実験やシミュレーションによって適合されている。
【0099】
ステップS502で、マスタバック132aの負圧室の負圧が前記所定値(1)以上であると判断された場合(所定値(1)よりも圧力として低いと判断された場合)には、マスタバック132aにおける倍力限界点が充分に高いものと判断して、ステップS510へ進む。
【0100】
ステップS510では、非制動要求時に、前記ポンプ2004(モータ2003)を駆動してポンプアップ圧の発生状態で待機させる制御(スタンバイ制御)を禁止する。
即ち、マスタバック132aにおける倍力限界点が高い場合には、制動開始から倍力限界点に達するまでの時間が長くなり、制動開始時からポンプ2004の駆動を開始させれば、その間で吐出圧を増大させておくことができ、これによって要求制動力の増大変化に追従したポンプアップ圧の供給が可能となる。
【0101】
従って、非制動要求時からポンプ2004を駆動させておく必要はなく、ステップS510でスタンバイ制御を禁止することで、非制動要求時に無用にポンプ2004が駆動されて、電力が無駄に消費されることを抑制できる。
【0102】
一方、マスタバック132aの負圧室の負圧が所定値(1)未満である(マスタバック132aの負圧室の圧(ブースタ負圧)BNPが所定値(1)よりも大気圧に近い)と判断された場合には、この状態のまま急減速(急制動)の要求が発生すると、倍力限界点が低い分だけ早期にポンプアップ圧に切り替えられることになり、制動開始からポンプ2004を駆動させたのでは、ポンプアップ圧によってブレーキ圧を応答良く昇圧させることができなくなる可能性がある。
【0103】
そこで、ステップS502で、マスタバック132aの負圧室の圧(ブースタ負圧)BNPが所定値(1)よりも大気圧に近いと判断されると、更にステップS503以降へ進んで、前記スタンバイ制御の必要性の有無を判断する。
【0104】
ステップS503では、前記自動変速機181のシフト位置が、パーキングレンジ(Pレンジ)であるか否かを判断する。
シフト位置がPレンジである場合には、現時点で運転者に走行の意思がなく、従って、急制動の要求も発生しないものと見なして、前記ステップS510へ進み、スタンバイ制御を禁止する。
【0105】
これにより、制動要求の発生が見込まれない状態でのポンプ2004の駆動が回避され、無用なポンプ駆動による電力消費を抑制できる。
尚、後退レンジ(Rレンジ)である場合は、後退走行していたとしても一般的の車速が低く、また、ニュートラルレンジ(Nレンジ)で走行している場合には、惰力での走行であって緩減速が要求されており、途中から急制動が要求されるようになることが少ないので、Pレンジ、Rレンジ,Nレンジのいずれかである場合に、ステップS510へ進み、スタンバイ制御を禁止することができる。
【0106】
一方、ステップS503で、前記自動変速機181のシフト位置がPレンジではないと判断された場合、換言すれば、ドライブレンジ(Dレンジ)等の前進レンジである場合には、ステップS504へ進む。
【0107】
変速機として、マニュアル変速機が組み合わされる場合には、シフト位置がニュートラルレンジ(Nレンジ)である場合に、急制動の要求は発生しないものと見なして、前記ステップS510へ進んでスタンバイ制御を禁止することができ、更に、クラッチペダルが踏み込まれている状態では、ニュートラルレンジ(Nレンジ)である場合と同様に、前記ステップS510へ進み、スタンバイ制御を禁止することができる。
【0108】
ステップS504では、制動要求時であるか否かを、ブレーキペダル131のストローク量BS(ブレーキペダルの踏込量)や踏力Fが閾値以上であるか否かに基づいて判断する。
【0109】
そして、制動要求時である場合には、ステップS510へ進み、非制動状態で制動に向けて準備する制御であるスタンバイ制御を禁止し、非制動要求時である場合には、ステップS505へ進む。
【0110】
尚、制動要求時であるか否かの判断は、ブレーキスイッチのオン・オフに基づいて行わせることができる。
また、制動要求時であって、ステップS510に進んだ場合、制動要求の発生時からポンプ2004を駆動させたり、要求制動力が閾値以上になってからポンプ2004を駆動させたりする。
【0111】
更に、制動要求時であってマスタシリンダ圧をホイールシリンダに供給している状態で、マスタバック負圧が小さいと、スタンバイ制御時と同様にポンプ2004を比較的低い吐出圧で駆動させておき、ポンプアップ圧をホイールシリンダに供給する条件に切り替わった時点(倍力限界点)でポンプ2004の吐出圧を制動時の目標値にまで昇圧させることができる。
【0112】
ステップS505では、そのときの車速VSPが所定値(2)よりも高いか否かを判別する。
車速VSPが所定値(2)よりも高い場合には、ステップS506へ進み、車速VSPが所定値(2)以下であれば、スタンバイ制御は不要と判断し、ステップS510へ進む。
【0113】
前記車速VSPが低いと、それだけ制動力の要求が小さいから、マスタバック132aにおける倍力限界点が低いとしても、ポンプアップ圧によるブレーキ液圧の昇圧要求が低く、ポンプ2004の駆動は、ブレーキ操作されてからで充分であるものと判断する。
【0114】
前記所定値(2)は、マスタバック132aの負圧室の負圧が前記所定値(1)よりも小さい状態で、ポンプ2004の駆動を制動要求が発生してから開始させても、所定の減速度を得られる最大車速VSP付近に設定される。
【0115】
従って、前記所定値(2)を、マスタバック132aの負圧室の圧力が高いほど(負圧室の負圧が小さいほど)より低い車速に設定させることができる。
ステップS506では、アクセル開度APOが所定値(3)未満であるか否かを判断する。
【0116】
アクセル開度APOが所定値(3)以上である場合には、運転者に減速の意思がないものと判断し、ステップS510へ進み、スタンバイ制御を禁止し、アクセル開度APOが所定値(3)未満である場合には、ステップS507へ進む。
【0117】
即ち、アクセル開度APOが所定値(3)以上である場合には、少なくとも現時点から直ちに急減速状態に移行することはなく、現時点からスタンバイ制御を実施しなくても、後からスタンバイ制御を開始させることで、実際の減速運転前にポンプアップ圧の発生させることができると判断し、ステップS510へ進み、スタンバイ制御を禁止する。
【0118】
従って、前記所定値(3)は、アクセルペダルを踏んでいる状態からブレーキペダルに踏み替えて制動力が発生するまでの時間内で、ポンプアップ圧の発生状態に移行させることができるか否かに基づいて設定させることができ、ポンプアップ圧の発生状態に移行させるのに要する時間が長いほどより高い開度に設定する。
【0119】
ステップS506で、アクセル開度APOが所定値(3)未満であると判断されてステップS507へ進むと、アクセル開度APOの今回値から所定時間前の前回値を減算して求めた単位時間当たりの変化量ΔAPO(ΔAPO=今回値APO−前回値APO)が、所定値(4)以上であるか否かを判断する。
【0120】
即ち、アクセル開度APOが所定値(3)未満であっても、アクセル開度APOが増大変化している場合や、たとえアクセル開度APOが減少変化していてもその変化速度が遅い場合には、運転者に減速の意思がなく、前記スタンバイ制御は不要であると判断できる。
【0121】
そこで、運転者の減速意思を判断できるように、前記所定値(4)として0以上の値を設定し、アクセル開度APOが一定であるか又は増大変化している状態を判断させるようにするか、減速を意図してアクセルから足を離す場合を含まないように絶対値を適合させたマイナスの値を前記所定値(4)とし、アクセル開度APOが一定であるか又は増大変化しているか又は僅かに減少変化している状態を判断させるようにする。
【0122】
ステップS507で、前記変化量ΔAPOが所定値(4)以上であると判断された場合には、運転者に減速の意思がないものと判断し、ステップS510へ進んでスタンバイ制御を禁止し、前記変化量ΔAPOが所定値(4)未満である場合には、運転者に減速の意思がある(少なくとも加速の意思はない)ものと判断してステップS508へ進む。
【0123】
ステップS508では、モータ温度センサ215によって検出される、前記ポンプ2004を回転駆動するモータ2003の温度TMが所定値(5)未満であるか否かを判断する。
【0124】
前記所定値(5)は、モータ2004(ポンプシステム)の許容温度に基づいて設定されており、モータ2003の温度TMが所定値(5)以上である場合には、モータ温度TMを更なる上昇を避け、温度低下を図るべく、ステップS510へ進んでスタンバイ制御を禁止する。
【0125】
尚、ステップS508に進んだ場合には、本来、スタンバイ制御の実行が望まれる条件であるので、モータ温度が高くスタンバイ制御を実行させることができない場合には、代わりの対策としてエンジンの吸気負圧を高める制御を行わせることができる。
【0126】
例えば、本実施形態のように、スロットルバルブを全開付近に開いておいて、吸気バルブ105の閉時期やバルブリフト量などの開特性を変化させることで吸入空気量を制御するシステムにおいて、前記吸気バルブ105の開特性を基準値に固定し、スロットルバルブによる吸入空気量制御に切り替えることで、より高い吸気負圧を発生させるようにすることができる。
【0127】
また、エンジンの空燃比をリーンに設定する一方、スロットル開度を開いて吸入空気量を増やして要求トルクを発生させるリーンバーン運転を行っている場合には、空燃比をリッチ化させ(例えば理論空燃比に切り替え)、その分スロットル開度を絞ることで、より高い吸気負圧を発生させるようにすることができる。
【0128】
一方、モータ2003の温度TMが所定値(5)未満である場合には、モータ2003駆動を許可できる温度条件であると判断して、ステップS509へ進み、スタンバイ制御を実行する。
【0129】
上記実施形態では、ステップS502〜ステップS508の条件が全て成立した場合に、スタンバイ制御を実行させる構成としたが、例えば、非制動要求時(ブレーキペダルが踏まれていない状態)で、前記マスタバック132aの負圧室の負圧(ブースタ負圧)BNPが小さいときに、スタンバイ制御を実行させたり、非制動及び負圧条件に、シフト位置、車速VSP、アクセル開度APO、モータ温度のうちの1つ又は複数を組み合わせ、その条件が成立したときにスタンバイ制御を実行させたりすることができる。
【0130】
上記のように、制動要求が発生する条件であるか否か、所定以上の制動力が要求される条件であるかを判断させることで、無用にポンプ2004が駆動されることを抑制でき、ポンプ2004の駆動による電力消費を抑制できる。
【0131】
また、モータ温度が高いときにスタンバイ制御によってモータ2003が駆動され、モータ温度が許容温度を超えてしまうことを抑制でき、高温条件下でのモータ2003の保護を図ることができる。
【0132】
次に、前記ステップS509におけるスタンバイ制御の詳細を、図15のフローチャートに従って説明する。
ステップS601では、そのときの車速VSPに応じて、スタンバイ状態でのポンプアップ圧の基準指令液圧(ポンプ駆動量)を設定する。
【0133】
車速VSPが高い場合には、それだけ大きな制動力が要求される可能性が高いので、車速VSPが高いほど前記基準指令液圧を高くする。
尚、ステップS601で設定される指令液圧は、ポンプアップ圧をホイールシリンダに供給する制動時より低い値に設定され、非制動時(待機状態)におけるモータ2003の電力消費・温度上昇を抑制しつつ、制動が開始された場合には制動時の指令液圧にまでの応答良く昇圧できるようにしてある。
【0134】
ステップS602では、高減速G(急減速)の発生頻度が高いか否か、即ち、急減速が頻繁に行われる可能性が高い条件であるか否かを判断する。
急減速が頻繁に行われる可能性が高い場合には、急減速が行われる可能性が低い場合に比べて、スタンバイ状態でのポンプアップ圧をより高く補正すべく、ステップS603に進み、前記ステップS601で設定した基準指令液圧を増大補正し、次いで、ステップS604へ進んで、ステップS603での補正結果を、最終的な指令液圧に決定する。
【0135】
一方、急減速が頻繁に行われる可能性が高い条件ではない場合には、ステップS603を迂回してステップS604へ進み、ステップS601で設定した基準指令液圧をそのまま最終的な指令液圧に決定する。
【0136】
そして、実際のポンプアップ圧が前記最終的な指令液圧になるように、ポンプ2004とチェックバルブ(一方向弁)2007A,2007Bとの間のポンプアップ圧供給配管2006内の圧力を検出するポンプアップ圧センサ216の検出圧と、前記最終的な指令液圧とに基づいて、前記モータ2003の通電量(ポンプ2004の駆動量)をフィードバック制御する。
【0137】
前記指令液圧は、ポンプアップ圧によるブレーキ液圧の昇圧応答として所期の応答が得られる範囲内でなるべく低くすることが望まれ、これによってスタンバイ状態でのモータ2003での電力消費を低く抑えることができる。
【0138】
尚、前記スタンバイ制御は、非制動要求時(ブレーキペダルが踏まれていない状態)で行われる制御であり、前記IN弁2005A〜2005Dは、閉弁状態に保持されるので、スタンバイ制御で発生させたポンプアップ圧がホイールシリンダ204〜207に供給され、制動力が発生することはない。
【0139】
但し、非制動要求時に予めポンプ2004を駆動させてポンプアップ圧を発生させておけば、前記マスタバック132aの負圧室の負圧(ブースタ負圧)BNPが小さいために、制動要求が発生したときにマスタシリンダ圧からポンプアップ圧に早期に切り替える要求が生じた場合に、速やかにポンプアップ圧の供給によってブレーキ液圧を昇圧させることができ、これによって、所望の制動力を応答良く発生させることができる。
【0140】
制動要求が発生した後にポンプ2004の駆動を開始させる場合、応答良くポンプアップ圧での昇圧を行わせるためには、ポンプ2004として容量の大きなものを備える必要があるが、非制動要求時から予めポンプ2004を駆動してポンプアップ圧を発生させておくようにすれば、ポンプ容量の要求が低下し、容量の小さいものを使用できることになる。
【0141】
そして、ポンプ容量を小さくできれば、ポンプ2004が小型化し、また、ポンプ2004の重量が軽くなり、更に、ポンプ2004の部品単価を低く抑えることができ、更に、モータ2003の起動時の突入電流が小さくなることで、駆動回路の素子やフューズの容量を小さくできる。
【0142】
また、非制動要求状態で、常時ポンプ2004を駆動させることによっても、応答性を確保しつつ、ポンプ2004として容量の比較的小さいものを用いることができるが、この場合、ポンプ2004として常時駆動に耐える耐久性を備えたポンプを使用することが必要となり、また、バッテリを電源とするモータ2003の消費電力が多くなり、バッテリ充電のためにエンジンの燃費性能が低下してしまう。
【0143】
これに対し、本実施形態では、マスタバック132aの負圧室の圧力が高い(負圧が小さい)などの条件が成立した場合にのみ、スタンバイ制御を実行させるから、無用にポンプ2004が駆動されることを抑制して、燃費性能の低下を抑制できる。
【0144】
尚、ステップS603における高減速Gの発生頻度に応じた指令液圧の補正設定において、急減速が頻繁に行われる可能性がより高いほど、基準指令液圧の増大補正代をより大きくすることができ、逆に、急減速が行われる可能性が小さい場合に、基準指令液圧を減少補正することもできる。
【0145】
ここで、前記ステップS602における高減速G(急減速)の発生頻度の判定処理を、前記図16のフローチャートに従って詳細に説明する。
ステップS701では、車両がスポーツ走行状態であるか否かを、エンジン回転速度NE、アクセル開度APO、変速頻度などから判断する。
【0146】
即ち、エンジン回転速度NEの履歴から、過去の所定期間における高回転域での運転割合やエンジン回転速度NEの最大値などを判断して、高回転域での運転割合が多い場合や、最高回転速度が高い場合に、スポーツ走行状態であると判断することができる。
【0147】
同様に、アクセル開度APOの履歴から、過去の所定期間における高アクセル開度域での運転割合やアクセル開度の最大値やアクセル開度の変化速度などを判断して、高アクセル開度域での運転割合が多い場合や、アクセル開度の最大値が高い場合や、アクセル開度の変化速度が平均的に速い場合に、スポーツ走行状態であると判断することができる。
【0148】
更に、シフトレバーによるシフト位置の切り替え頻度などを判断し、これらの変速頻度が高い場合に、スポーツ走行状態であると判断することができる。
また、自動変速のモードとして、シフトアップのタイミングがより高車速側にシフトされるスポーツモードが選択されている場合に、スポーツ走行状態であると判断することができる。
【0149】
また、車速VSPの変化、車両の前後G・横G、操舵速度などから、スポーツ走行状態を判断させることができる。
また、車両がスポーツ走行状態であるか否かを、運転者が操作するスポーツモードスイッチから判断することができる。
【0150】
上記のようにして、急加速・急減速が運転者の意思で行われるスポーツ走行状態であると判断された場合には、高減速Gの発生頻度が高いから、ステップS603へ進み、基準指令液圧の増大補正を実施させる。
【0151】
一方、ステップS701でスポーツ走行状態ではないと判断された場合には、ステップS702へ進む。
尚、スポーツ走行状態であると判断された後、エンジン回転速度NE、アクセル開度APO、変速頻度などからスポーツ走行状態でないと判断されても、既定の時間が過ぎるまでは、スポーツ走行状態の判断を維持し、基準指令液圧の増大補正を実施させることが好ましい。
【0152】
これは、スポーツ走行は運転者の意思によるものであり、運転者の意思に反して一時的にスポーツ走行を行えなくなっている場合があるためである。
ステップS702では、運転者の視界が良好であるか否かを判断する。
【0153】
運転者の視界が不良である場合、即ち、夜間走行状態であったり、雨・雪・霧・砂などの天候条件によって視界が妨げられている場合には、車両の進行方向における障害物の認識(発見)が遅れることで、急制動が行われる可能性が高くなるので、ステップS603へ進み、基準指令液圧の増大補正を実施させる。
【0154】
ここで、運転者の視界の良・不良の判断(夜間走行・天候などの判断)は、車載カメラによって撮影された画像の解析に基づいて判断したり、ヘッドライト・フォグランプの点灯、雨滴センサの信号、ワイパーの作動、外部から受信した天気情報や道路交通情報、車載レーダーによる探知結果などから判断したりすることができる。
【0155】
尚、雨や霧などの天候条件は強弱を繰り返す場合があるので、運転者の視界が不良であると判断された場合には、視界良好の判断に切り替わっても、所定時間は視界不良の最終判断を維持させ、基準指令液圧の増大補正を実施させることが好ましい。
【0156】
一方、運転者の視界が良好であると判断された場合には、ステップS703へ進み、車両前方の障害物に対する衝突を回避のための急制動要求を判断する。
具体的には、車載カメラによって撮影された画像の解析や、車載レーダーによる探知結果や、外部から受信した道路交通情報や、GPSなどによる車両の位置情報などから、車両進行方向における障害物(前を走行している車両など)の有無を判断すると共に、現在の車速と障害物までの距離から衝突回避に急制動が要求されるか否かを判断する。
【0157】
そして、衝突回避のために急制動が要求される可能性が高いと判断すると、ステップS603へ進み、基準指令液圧の増大補正を実施させる。
前方に障害物がなく、衝突回避のための急制動が行われる可能性が低い場合、更に、障害物を回避・通過した後は、ステップS704へ進む。
【0158】
ステップS704では、車両の進行方向に交差点や事故多発地点があるか否かを、GPSを用いた車両の位置情報や道路交通情報などから判断する。
車両の進行方向に交差点や事故多発地点がある場合には、交差点や事故多発地点でない場合に比べて、急制動(高減速G)が発生する頻度が高いと考えられるので、ステップS607へ進み、基準指令液圧の増大補正を実施させる。
【0159】
一方、車両の進行方向に交差点や事故多発地点などがない場合には、急制動(高減速G)が発生する頻度が低いので、ステップS603を迂回してステップS604へ進み、ステップS601で設定した基準指令液圧をそのまま最終的な指令液圧に決定する。
【0160】
即ち、スポーツ走行・視界不良・衝突回避・交差点又は事故多発地点のいずれかを判断した場合に、急制動(高減速G)が発生する頻度が高いと判断して基準指令液圧の増大補正を実施させ、スポーツ走行・視界不良・衝突回避・交差点又は事故多発地点のいずれでもない場合には、急制動(高減速G)が発生する頻度が低いと判断して基準指令液圧をそのまま最終的な指令液圧とする。
【0161】
この他、車両が下り勾配を走行している場合には、勾配が急であると、急制動(高減速G)が発生する頻度が高くなるものと見込まれるので、急勾配を降坂走行している場合に、基準指令液圧の増大補正を実施させることができ、急勾配の降坂走行状態は、車両の位置情報や傾斜センサの検出結果から判断することができる。
【0162】
図17のフローチャートは、図14のフローチャートに示したスタンバイ制御に代わる、スタンバイ制御の第2実施形態を示す。
ステップS801では、車速VSP、エンジン回転速度NE、マスタシリンダ圧MCP、ブレーキペダル131のストローク量BS(ブレーキペダルの踏込量)、マスタバック132aの負圧室の負圧(ブースタ負圧)BNPなど、車両・エンジン・ブレーキ装置の状態を示す情報を読み込む。
【0163】
次のステップS802では、マスタバック132aの負圧室の負圧が所定値(1)以上であるか否かを判別する。
ここで、所定値(1)は、ステップS502における所定値(1)と同じ値であって、大気圧よりも低い圧力(負圧)であり、標準的なブレーキペダル操作によるマスタシリンダ圧MCPの発生によって、車両を所定の減速度(例えば1G程度)で減速させる制動力を発生させることができる値として、予め実験やシミュレーションによって適合されている。
【0164】
そして、マスタバック132aの負圧室の負圧が前記所定値(1)よりも小さい場合(マスタバック132aの負圧室の圧力が、所定値(1)よりも大気圧に近い場合)には、マスタバック132aの倍力限界点が低下し、ポンプアップ圧による昇圧により高い応答性が要求されることになるので、ポンプアップ圧による昇圧に備えて予めポンプ2004を駆動させる(ポンプアップ圧を発生させる)べく、ステップS806へ進んでスタンバイ制御を実施させる。
【0165】
尚、ステップS806におけるスタンバイ制御の詳細は、前述の図15及び図16のフローチャートに示した通りである。
一方、マスタバック132aの負圧室の負圧が所定値(1)以上(負圧室の圧が所定値(1)よりも低い)であって、マスタバック132aに蓄えられている負圧が充分であり、マスタバック132aの倍力限界点が高く、制動要求が発生してからポンプ2004を駆動させても、倍力限界点以降におけるポンプアップ圧による昇圧を応答良く行わせることができる場合は、負圧条件からはスタンバイ制御は不要であると判断してステップS803へ進む。
【0166】
ステップS803では、車両の横方向加速度(横G)が所定値以上であるか否かを判断することで、横Gの発生状態(車両の旋回状態)であるか否かを判断し、横Gの発生状態(車両の旋回状態)であれば、ステップS806へ進んでスタンバイ制御を実施させる。
【0167】
ステップS803へ進んだ場合、マスタバック132aに充分な負圧が蓄えられており、制動要求が発生してからポンプ2004を駆動させても、倍力限界点以降におけるポンプアップ圧による昇圧を応答良く行わせることができるが、横Gの発生は、車両挙動制御(VDC)の実施可能性を示す。
【0168】
前記車両挙動制御とは、滑りやすい路面や障害物の緊急回避などに伴って、車両が横滑りや尻振りを起こしそうになると、ブレーキ制御とエンジン出力制御によって横滑りや尻振りの発生を抑制し、車両の安定性を向上させる制御であり、車両挙動制御におけるブレーキ制御においては、ポンプアップ圧によって制動力を発生させる。
【0169】
そこで、横Gが発生していて車両挙動制御によってブレーキ制御が行われる可能性がある場合には、予めポンプアップ圧を発生させた状態で待機させ、車両挙動制御によるブレーキ制御が行われる場合に、応答良く制動力を発生させることができるようにする。
【0170】
車両挙動制御による制動力の発生要求があってから、ポンプアップ圧を発生させるようにする場合、応答良くポンプアップ圧を発生させるためには、容量の大きな(最大吐出量の大きな)ポンプを用いる必要があるが、横Gの発生状態で車両挙動制御の実行を予測して予めポンプアップ圧を発生させておけば、比較的容量の小さいポンプを用いてもブレーキ液圧制御の応答性を確保できる。
【0171】
そして、ポンプ容量を小さくできれば、ポンプの小型化、ポンプ重量の軽減、ポンプコストの低下が得られ、更に、モータの起動時の突入電流が小さくなることで、駆動回路の素子やフューズの容量を小さくできる。
【0172】
ステップS803で横Gの発生なしと判断された場合には、ステップS804へ進み、モータ作動の開始要求(ポンプアップ圧による昇圧要求)が見込まれるか否かを判断する。
【0173】
前記モータ作動の開始要求が見込まれる状態とは、例えば以下のいずれかの条件が成立している場合を示す。
(a)マスタバック132a内の負圧が倍力に使われて所定値以下にまで低下している。
【0174】
(b)マスタバック132a内の負圧が倍力に使われ、負圧の減少速度が所定値よりも速くなっている。
(c)車両の減速度(車速の減少速度)が増加している。
【0175】
(d)車両の減速度の変化が大きい。
ステップS804でモータ作動が見込まれると判断された場合には、ステップS806へ進んでスタンバイ制御を実施させる。
【0176】
これにより、実際にポンプアップ圧の加圧が開始される前からポンプ2004を駆動させておくことができ、応答良くポンプアップ圧を加圧させることができる。
尚、モータ作動の開始要求(ポンプアップ圧の加圧要求)の見込みは、上記条件の他、ブレーキペダルのストローク量、マスタシリンダ圧、車速、吸気負圧、マスタバック負圧、アクセル開度などから判断させることもできる。
【0177】
また、モータ2003の温度が作動禁止温度に達しているなどにより、モータ2003を作動させることができない場合には、ポンプアップ圧による昇圧なしで減速要求を満足させるべく、必要なマスタバック負圧を生成させるように負圧源としてのエンジンを制御したり、回生ブレーキを備えた車両では回生量を増やすなどの対策を施すことができる。
【0178】
図18は、前記スタンバイ制御を実行した場合のポンプアップ圧を、マスタシリンダ圧、マスタバック負圧、吸気負圧、ブレーキ操作量、アクセル開度などと共に示すタイムチャートである。
【0179】
この図18に示す例では、時刻t1でアクセルペダルから足を離してブレーキペダルを踏み、マスタバック132aの倍力作用でブレーキ操作力を倍力してマスタシリンダ圧を発生させ、制動が行われる。
【0180】
時刻t2では、一旦ブレーキペダルから足が離され、これによって低下傾向にあったマスタシリンダ負圧が吸気負圧の導入によって上昇傾向に転じるが、時刻t3で再度ブレーキペダルが踏み込まれることで、マスタシリンダ負圧は再び減少変化した後、ブレーキペダルが踏み込まれた位置で一定に保持されることで、今度は、上昇傾向を示すようになる。
【0181】
しかし、マスタバック負圧が充分に回復していない時刻t4において、ブレーキペダルからアクセルペダルへの踏み替えがなされ、吸気負圧がマスタバック負圧よりも小さくなる(吸気圧がマスタバックの圧力よりも高くなる)ことで、アクセルペダルの踏込中は、マスタバック負圧は一定値を保持する。
【0182】
アクセルペダルの踏込中(非制動時)におけるマスタバック負圧が所定値に満たない場合には、次の制動に備えてポンプ2004を予め駆動しておくスタンバイ制御が実行される。
【0183】
そして、時刻t5では、アクセルペダルからブレーキペダルへの踏み替えがなされるが、マスタバック負圧が小さい状態のままブレーキペダルが踏まれたことで、マスタバック132aの倍力限界点Lに直ぐに達してしまい、マスタシリンダ圧からポンプアップ圧への切り替えが要求されることになる。
【0184】
しかし、本実施形態では、前述のように予めポンプ2004を駆動しポンプアップ圧の発生状態で待機させるので、ポンプアップ圧の発生状態で待機させない場合に比較して、ポンプ容量が小さくても、ポンプアップ圧を応答良く要求圧にまで立ち上げることができる。
【0185】
これに対し、スタンバイ制御を行わない場合には、時刻t5以前のアクセルペダルの踏込中(非制動時)には、ポンプ2004が駆動されず、時刻t5以降でポンプ2004の駆動が開始されることになる。
【0186】
従って、時刻t5から倍力限界点Lになるまでの時間が短い場合にも、倍力限界点L以降でポンプアップ圧による昇圧を応答遅れなく行わせるためには、容量の大きなポンプ2004を使用する必要が生じる。
【0187】
ポンプ容量が大きくなると、それだけポンプが大型化し、ポンプ重量が重くなり、更に、ポンプのコストが増大すると共に、ポンプを駆動するモータの起動時の突入電流が大きくなり、モータ駆動回路の素子やフューズの容量を大きくする必要が生じる。
【0188】
図18に示す例では、制動中であってもマスタシリンダ負圧が小さい場合には、ポンプを駆動させてポンプアップ圧を発生させるようにした場合を示してある。
時刻t6では、目標ホイールシリンダ圧にマスタシリンダ圧が追い付いたために、ポンプアップ圧からマスタシリンダ圧への切替えがなされている。
【0189】
尚、上記実施形態では、後輪のホイールシリンダには、マスタシリンダ圧が供給されずに、ポンプアップ圧が供給されるシステムとしたが、前輪及び後輪のホイールシリンダにマスタシリンダ圧が供給され、マスタバック132aの倍力限界点Lの達した後は、前輪及び後輪のホイールシリンダにポンプアップ圧が加圧されるシステムに対しても、上記のスタンバイ制御を適用して同様な効果を得ることができる。
【0190】
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
(イ)請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両用ブレーキ装置の制御装置において、
前記スタンバイ制御手段が、急制動の発生頻度の予測に基づいて、非制動要求時における前記ポンプの駆動量を設定することを特徴とする車両用ブレーキ装置の制御装置。
【0191】
係る構成によると、無用にポンプが駆動されることを抑制して、燃費性能の低下を抑制できる。
(ロ)請求項(イ)記載の車両用ブレーキ装置の制御装置において、
前記スタンバイ制御手段が、天候,障害物,道路交通情報のうちの少なくとも1つに基づいて急制動の発生頻度を予測することを特徴とする車両用ブレーキ装置の制御装置。
【0192】
係る構成によると、天候,障害物,道路交通情報のうちの少なくとも1つに基づいて急制動の発生頻度を予測することで、急制動の発生頻度を的確に予測でき、これによって無用にポンプが駆動されることを抑制して、燃費性能の低下を抑制できる。
【符号の説明】
【0193】
101…内燃機関、112…可変バルブリフト機構(VEL)、113…可変バルブタイミング機構(VTC)、114…エンジンコントロールユニット(ECU)、115…エアフローセンサ、116…アクセルペダルセンサ、117…クランク角センサ、118…スロットルセンサ、131…ブレーキペダル、132a…マスタバック(負圧倍力手段)、132b…負圧センサ(負圧検出手段)、201…ブレーキコントロールユニット(BCU)、202…油圧ユニット、203…マスタシリンダ(第1液圧発生手段)、204〜207…ホイールシリンダ、208…ブレーキペダルセンサ、209…液圧センサ、217…操作力センサ、2002A,2002B…遮断弁、2003…モータ、2004…ポンプ(第2液圧発生手段)、2005A〜2005D…IN弁、2020A〜2020D…OUT弁、2015A〜2015D…ホイールシリンダ圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負圧を用いてブレーキ操作力を倍力する負圧式倍力手段と、
前記負圧式倍力手段で倍力されたブレーキ操作力に応じて第1液圧を発生させる第1液圧発生手段と、
ポンプによって第2液圧を発生させる第2液圧発生手段と、
を含む車両用ブレーキ装置に適用される制御装置であって、
要求制動力の増大に対し、前記1液圧から前記第2液圧に切り替えて車輪のホイールシリンダに供給する液圧供給手段と、
前記負圧式倍力手段の負圧を検出する負圧検出手段と、
非制動要求時において前記負圧式倍力手段の負圧が所定の負圧に満たない場合に、前記ポンプを駆動させて前記第2液圧の発生状態で待機させるスタンバイ制御手段と、
を含んで構成されたことを特徴とする車両用ブレーキ装置の制御装置。
【請求項2】
前記スタンバイ制御手段における前記負圧式倍力手段の負圧が所定の負圧に満たない状態が、制動要求が発生した場合に所定の減速度を生じさせることができない状態であることを特徴とする請求項1記載の車両用ブレーキ装置の制御装置。
【請求項3】
前記スタンバイ制御手段が、非制動要求時において前記負圧式倍力手段の負圧が所定の負圧に満たない場合であって、かつ、変速機のシフト位置,車速,アクセル開度,アクセル開度変化,前記ポンプを駆動するモータ温度のうちの少なくとも1つが所定のスタンバイ実行条件を満たす場合に、前記ポンプを駆動させて前記第2液圧の発生状態で待機させることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ブレーキ装置の制御装置。
【請求項4】
前記スタンバイ制御手段が、車速,エンジン回転速度,アクセル開度、アクセル開度変化、変速頻度のうちの少なくとも1つに応じて、非制動要求時における前記ポンプの駆動量を設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両用ブレーキ装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−173470(P2010−173470A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18258(P2009−18258)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】