説明

車両用内燃機関の制御装置

【課題】空燃比制御に係る制御パラメータ値を現在よりも所定の先読み時間だけ将来のスロットル開度に基づいて求める車両用内燃機関の制御装置において、将来のスロットル開度の予測精度を犠牲にすることなくスロットルの遅延制御における遅延時間を先読み時間よりも短縮可能にする。
【解決手段】目標開度を遅延時間TDだけ遅延させたものを開度指令値としてスロットルに出力する。同時に、遅延させる前の目標開度に基づいて現在から遅延時間TDが経過した時点でのスロットル開度とスロットル変化角とを予測する。そして、予測したTD経過後のスロットル変化角に基づいてTD経過からTFWD経過までのスロットル開度の予測変化量を計算する。TD後の予測スロットル開度に予測変化量を加算したスロットル開度がTFWD後の先読み開度となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内燃機関の制御装置に関し、詳しくは、電子制御式のスロットルを備えた車両用内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子制御式のスロットルを備えた車両用内燃機関では、ドライバのアクセル操作量等に基づいてスロットルの目標開度を設定し、設定した目標開度に従ってスロットルに出力する開度指令値を決定している。このとき、目標開度の設定から開度指令値の出力タイミングまでに遅延時間が設けられていると、実際のスロットル開度は目標開度に対して遅延時間分だけ遅れて変化することになる。以下、開度指令値の出力タイミングを遅延させる制御のことをスロットルの遅延制御という。スロットルの遅延制御を行うことで、その遅延時間分だけ将来のスロットル開度を目標開度(遅延前の開度指令値)から予測することが可能になる。
【0003】
予測した将来のスロットル開度は内燃機関の空燃比制御に係る制御パラメータ値に反映させることができる。例えば、特開2002−201998号公報には、吸気バルブの閉タイミングにおけるスロットル開度を予測し、その予測スロットル開度から求められる筒内充填空気量に基づいて燃料噴射量を演算する技術が開示されている。吸気バルブの閉タイミングのスロットル開度を精度良く予測することができれば、筒内充填空気量を精度良く予測することが可能となり、過渡時の空燃比制御精度を向上させることができる。上記公報に開示された技術では、遅延前の開度指令値に基づいて電子スロットルモデルによりスロットル開度の予測変化量を演算し、予測変化量を現在のスロットル開度に加算して、吸気バルブの閉タイミングにおけるスロットル開度を予測している。
【特許文献1】特開2002−201998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように開度指令値の出力タイミングに遅延時間を設ける遅延制御を行うことで、将来のスロットル開度を目標開度から予測することができるようになる。しかし、その一方で、運転者からのトルク要求に対する内燃機関のトルク応答に時間遅れが発生することにもなる。したがって、ドライバビリティの観点からは、上記の遅延時間は可能なかぎり短いことが望ましい。また、トルク制御はVSC(Vehicle Stability Control system)等の車両制御においても用いられるが、それら車両制御における不都合を防止するためにも上記の遅延時間は可能なかぎり短いことが望ましい。
【0005】
しかし、上記公報に開示された技術では、筒内充填空気量の正確な予測に基づいた燃料噴射量の演算のためには、少なくとも燃料噴射量の演算タイミングから吸気バルブの閉タイミングまでの時間は遅延時間として確保する必要が有る。このため、単純に遅延時間を短縮してしまうと、吸気バルブ閉タイミングでのスロットル開度を正確に予測することができなくなり、過渡時の空燃比制御精度が低下してしまうことになる。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、空燃比制御に係る制御パラメータ値を現在よりも所定の先読み時間だけ将来のスロットル開度に基づいて求める車両用内燃機関の制御装置において、将来のスロットル開度の予測精度を犠牲にすることなくスロットルの遅延制御における遅延時間を先読み時間よりも短縮可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、現在よりも所定の先読み時間だけ将来のスロットル開度を予測し、予測したスロットル開度に基づいて内燃機関の空燃比制御に係る所定の制御パラメータ値を演算する車両用内燃機関の制御装置において、
所定のトルク要求発生源から出力されるトルク要求に基づいてスロットルの目標開度を設定する目標開度設定手段と、
設定された目標開度を前記先読み時間よりも短い所定の遅延時間だけ遅延させてスロットルへ出力し、遅延させた目標開度に従ってスロットルを動作させるスロットル遅延制御手段と、
遅延させる前の目標開度に基づいて現在から前記遅延時間が経過した時点でのスロットルの動作状態を予測する第1の予測手段と、
前記第1の予測手段で予測されたスロットルの動作状態に基づいて現在よりも前記先読み時間だけ将来のスロットル開度を予測する第2の予測手段と、
を備えることを特徴としている。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、
前記第2の予測手段は、前記遅延時間が経過した時点でのスロットル開度の変化速度及び/又は変化加速度の予測値を取得し、取得したスロットル開度の変化速度及び/又は変化加速度の予測値に基づいて前記遅延時間が経過してから前記先読み時間が経過するまでのスロットル開度の予測変化量を設定することを特徴としている。
【0009】
第3の発明は、第2の発明において、
前記第2の予測手段は、遅延させる前の目標開度の変化速度及び/又は変化加速度を取得し、取得した目標開度の変化速度及び/又は変化加速度が小さいほど前記予測変化量をを小さい値に設定することを特徴としている。
【0010】
第4の発明は、第2又は第3の発明において、
遅延させる前の目標開度と前記遅延時間が経過した時点でのスロットル開度の予測値とを比較し、その差が大きいほど前記予測変化量を増大させる予測補正手段、
をさらに備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明では、トルク要求に基づいて設定した目標開度を所定の遅延時間だけ遅延させてスロットルへ出力することにより、現在よりも遅延時間だけ将来のスロットル開度を目標開度(遅延させる前の目標開度)に基づいて予測することができる。しかし、遅延時間が先読み時間よりも短い場合、遅延時間が経過してから先読み時間が経過するまでの間にスロットル開度はさらに変化する可能性がある。この点に関して第1の発明では、遅延時間が経過した時点でのスロットルの動作状態を予測し、予測したスロットルの動作状態に基づいてより遠い将来のスロットル開度を予測している。これによれば、スロットル開度の予測精度を犠牲にすることなく遅延制御における遅延時間を短縮することが可能であり、遅延時間の短縮によってトルク要求に対する応答性を向上させることができる。
【0012】
第2の発明によれば、遅延時間が経過した時点でのスロットル開度の変化速度や変化加速度の予測値に基づいてその後のスロットル開度の予測変化量を設定することで、遅延時間が経過した時点でのスロットルの動作状態をより遠い将来のスロットル開度の予測に確実に反映させることができる。
【0013】
第3の発明によれば、遅延時間が経過した時点でのスロットル開度の変化速度や変化加速度の予測値だけでなく、遅延させる前の目標開度の変化速度や変化加速度も考慮にいれることで、遅延時間の経過後のより遠い将来のスロットル開度をより正確に予測することができる。
【0014】
また、遅延時間が経過した時点でのスロットル開度の予測値と目標開度との差が大きいときには、その後、スロットル開度の変化速度や変化加速度が目標開度の変化に追従して急増する可能性が高い。この点に関して第4の発明によれば、遅延時間が経過してから先読み時間が経過するまでのスロットル開度の予測変化量を増大側に補正することで、先読み時間が経過した時点での予測スロットル開度と実際のスロットル開度とのずれを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1について図1乃至図4を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態1としての車両用内燃機関の制御装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態の制御装置は、車両用の内燃機関(以下、単にエンジンという)に適用され、そのアクチュエータであるスロットル38及び燃料噴射装置54の動作を制御する制御装置として構成されている。以下、図1を用いて本実施の形態の制御装置の構成について説明する。
【0017】
まずはスロットル38の動作を制御するための制御装置の構成について説明する。本実施の形態にかかるスロットル38は電子制御式であり、スロットルモータによって動作している。スロットル38の動作の制御は直接的にはスロットル遅延制御部36により行われる。スロットル遅延制御部36は、上流の計算要素からスロットル38の目標開度を受信し、目標開度を所定の遅延時間TDだけ遅らせたものを開度指令値としてスロットル38に出力する。スロットル38は開度指令値に従って動作するので、スロットル38によって実際に実現されるスロットル開度は目標開度に対して遅延時間TDだけ遅れて変化することになる。
【0018】
スロットル38の目標開度は目標開度計算部34で計算される。目標開度計算部34は、上流の目標吸入空気量計算部32で計算されたエンジンの目標吸入空気量に基づいて目標開度を計算する。目標開度の計算にはエアモデルの逆モデルが用いられる。エアモデルは、スロットル38の動作に対する吸入空気量の応答を流体力学等に基づいてモデル化し、それを数式で表したものである。エアモデルの逆モデルに吸入空気量を入力することで、その吸入空気量を実現するためのスロットル開度が算出される。目標開度計算部34は、目標吸入空気量から変換されたスロットル開度をスロットル38の目標開度として設定し、それをスロットル遅延制御部36に出力する。
【0019】
目標吸入空気量計算部32は、エンジンの目標トルクを取得し、目標トルクの実現に必要な吸入空気量を計算する。この計算には目標トルクを吸入空気量に変換するための空気量マップを使用する。空気量マップには点火時期、エンジン回転数、A/F、バルブタイミング等、トルクと吸入空気量との関係に影響する各種の運転条件がパラメータとして用いられている。目標吸入空気量計算部32は、目標トルクから変換された吸入空気量をエンジンの目標吸入空気量とし、それを目標開度計算部34に出力する。
【0020】
エンジンの目標トルクは、トルク調停部30にて設定される。トルク調停部30は、エンジンに対する各種のトルク要求を集約して1つの値に調停し、その調停したトルク値をエンジンの目標トルクとして出力する。ここでいう調停とは、予め定められた計算規則に従って複数の数値から1つの数値を得る動作である。計算規則には例えば最大値選択、最小値選択、平均、或いは重ね合わせ等が含まれる。それら複数の計算規則を適宜に組み合わせたものとしてもよい。
【0021】
調停されるトルク要求には、ドライバが要求するトルクの他、VSC(Vehicle Stability Control system)等の車両制御に必要なトルクも含まれる。このうちドライバが要求するトルクはドライバ要求トルク計算部20で計算され、VSCが要求するトルクはVSC要求トルク計算部22で計算される。ドライバ要求トルク計算部20は、アクセルセンサ10で計測されるアクセルペダル操作量に基づいてドライバ要求トルクを計算する。VSC要求トルク計算部22は、ヨーレートセンサ12で計測される車両のヨーレートに基づいてVSC要求トルクを計算する。
【0022】
以上のように、本実施の形態の制御装置は、ドライバやVSC等の複数のトルク要求発生源から発せられるトルク要求に基づいてスロットル38の目標開度を設定し、設定した目標開度を遅延時間TDだけ遅延させたものに従ってスロットル38を動作させる構造になっている。なお、目標開度の演算は一定の演算周期(例えば8msec)で行われる。
【0023】
次に燃料噴射装置54の動作を制御するための制御装置の構成について説明する。燃料噴射装置54の動作の制御は直接的には燃料噴射制御部52により行なわれる。燃料噴射制御部52は、上流の計算要素から燃料噴射量を受信し、燃料噴射量に基づいて燃料噴射装置54の駆動時間と駆動開始タイミング又は終了タイミングとを計算する。そして、計算した駆動時間と駆動開始タイミング又は終了タイミングとに従って燃料噴射装置54を動作させる。なお、燃料噴射装置54は吸気ポートに燃料を噴くものでも気筒内に直接燃料を噴くものでもよい。或いは、必要な量の燃料の一部を吸気ポートに噴射して残りの燃料を気筒内に直接噴射するものであってもよい。
【0024】
燃料噴射装置54による燃料噴射量は燃料噴射量計算部50で計算される。燃料噴射量計算部50は、上流の吸入空気量計算部48で計算されたエンジンの吸入空気量と、燃料噴射により実現される筒内空燃比の目標値(目標空燃比)とに基づいて燃料噴射量を計算する。排気ガスの空燃比が目標空燃比になるように燃料噴射量を補正する空燃比フィードバック制御が行われている場合には、そのフィードバック補正係数も燃料噴射量の計算に反映されるようになっている。
【0025】
エンジンの吸入空気量の計算は吸入空気量計算部48にて行われる。吸入空気量計算部48は、吸気バルブの閉タイミング、すなわち、吸入空気量の確定タイミングにおけるスロットル開度を取得し、そのスロットル開度で達成される吸入空気量をエアモデルによって計算する。このエアモデルでは、エンジン回転数、大気圧、吸入空気温度、エアフローメータで計測される空気流量等、スロットル開度と吸入空気量との関係に影響する運転条件をパラメータして設定することができるようになっている。
【0026】
吸入空気量の計算に使用されるスロットル開度は、先読み開度計算部44にて計算される。筒内吸入空気量の正確な計算のためには、上述のように、吸気バルブの閉タイミングにおけるスロットル開度が情報として求められる。しかし、適正なタイミングで燃料噴射を実行するためには、燃料噴射量の演算は吸気バルブが閉弁する前には完了していなければならない。このため、燃料噴射の演算タイミングでは、将来値である吸気バルブ閉タイミングにおける実際のスロットル開度を取得することはできない。そこで、先読み開度計算部44は、現時点、すなわち、燃料噴射量の演算タイミングから吸気バルブ閉タイミングまでの時間(以下、先読み時間と言う)TFWDだけ将来のスロットル開度を予測し、予測したスロットル開度を吸気バルブの閉タイミングにおけるスロットル開度(以下、先読み開度とも言う)として出力する。
【0027】
先読み開度計算部44は、先読み開度の計算において先読み時間TFWDと遅延時間TDとの長短関係を考慮する。先読み時間TFWDはエンジン回転が低回転になるほど長くなり、また、バルブタイミング制御によって吸気バルブの閉タイミングが進角されることによっても変化する。一方、遅延時間TDは任意に設定することができるが、エンジンのトルク応答性を考慮すると可能な限りに短い時間にしたい。このため、エンジンの運転状態によっては、先読み時間TFWDが遅延時間TDよりも長くなることもあれば、逆に短くなることもある。
【0028】
図2は先読み開度計算部44にて実行される先読み開度演算ルーチンを示すフローチャートである。このルーチンでは、最初のステップS110にて先読み時間TFWDと遅延時間TDとが比較される。先読み開度計算部44は、先読み時間TFWDが遅延時間TDよりも長いか短いかによって異なる計算方法で先読み開度を計算する。ステップS100の比較の結果、先読み時間TFWDが遅延時間TDよりも短い場合には、ステップS110の処理が選択される。
【0029】
ステップS110では、現在時刻から先読み時間TFWD後の予測スロットル開度がメモリから読み込まれ、それが先読み開度として算出される。ここで、予測スロットル開度とは、スロットル38がスロットル遅延制御部36からの開度指令値に従って動作することで実現される実際のスロットル開度の予測値のことである。予測スロットル開度の計算にはスロットルモデル40が用いられる。スロットルモデル40は、入力値に対するスロットル38の応答をモデル化し、それを数式で表したものである。前述のように、スロットル遅延制御部36はトルク要求に基づき設定された目標開度を遅延時間TDだけ遅延させてスロットル38に出力する。したがって、遅延させる前の目標開度を目標開度計算部34からスロットルモデル40に入力することで、現在から遅延時間TDだけ将来のスロットル開度を予測することができる。先読み開度計算部44のメモリには、現在から遅延時間TDだけ将来までの各演算タイミングにおける予測スロットル開度が記憶され、1演算周期ごとに更新されていくようになっている。
【0030】
ステップS110の処理をタイムチャートで示したのが図3である。図3において、破線は目標開度(遅延される前の目標開度)の時間変化を、一点鎖線は目標開度から計算される予測スロットル開度の時間変化を、二点鎖線は開度指令値(遅延後の目標開度)の時間変化を、そして、実線は実際のスロットル開度の時間変化をそれぞれ示している。この図に示すように、目標開度を所定の遅延時間TDだけ遅延させてスロットル38へ出力することにより、現在時刻から遅延時間TDだけ将来までのスロットル開度を目標開度(遅延させる前の目標開度)に基づいて予測することができるようになる。したがって、先読み時間TFWDが遅延時間TDよりも短い場合には、遅延時間TDと先読み時間TFWDとの差分時間だけ前の目標開度から予測したスロットル開度をメモリから読み出すことで、それをそのまま先読み開度として用いることができる。
【0031】
しかし、遅延時間TDが先読み時間TFWDよりも短い場合には、遅延時間TDが経過してから先読み時間TFWDが経過するまでの間に実際のスロットル開度はさらに変化する可能性がある。そこでステップS100の比較の結果、先読み時間TFWDが遅延時間TDよりも長い場合には、ステップS120,S130の処理が選択される。
【0032】
まず、ステップS120では、次の式1によって定義されるTD後のスロットル変化推定角が計算される。
TD後のスロットル変化推定角=a×TD後のスロットル変化角+b×TD後の目標開度変化角 ・・・式1
【0033】
上記式1において、“TD後のスロットル変化角”は現在からTD後におけるスロットル開度の変化速度(1演算周期当たりの変化角、以下、単にスロットル変化角という)を意味する。また、“TD後の目標開度変化角”は現在からTD後における開度指令値、すなわち、遅延させる前の目標開度の変化速度(1演算周期当たりの変化角、以下、単に目標開度変化角という)を意味する。TD後のスロットル変化角はスロットル変化角計算部42から取り込まれる。スロットル変化角計算部42は、スロットルモデル40で計算された今回の予測スロットル開度(現時点からTD後の予測スロットル開度)と前回の予測スロットル開度との差分をTD後のスロットル変化角として算出している。一方、TD後の目標開度変化角は目標開度変化角計算部46から取り込まれる。目標開度変化角計算部46は、遅延させる前の現在の目標開度と前回の目標開度との差分を目標開度変化角として算出している。なお、式1で用いられている“a”と“b”は係数である。係数a,bの合計値は1であり、それぞれエンジンの運転条件(例えば、エンジン回転数やスロットル開度)に応じて調整されるようになっている。
【0034】
次のステップS120では、ステップS120で計算されたTD後のスロットル変化推定角を用いて、次の式2によって現在時刻から先読み時間TFWD後の予測スロットル開度が計算される。式2の右辺第2項は、TDの経過からさらにTFWDが経過するまでのスロットル開度の予測変化量である。先読み開度計算部44は、式2で計算した予測スロットル開度を先読み開度として吸入空気量計算部48に出力する。
TFWD後の予測スロットル開度=TD後の予測スロットル開度+TD後のスロットル変化推定角×(TFWD−TD) ・・・式2
【0035】
ステップS120,S130の処理をタイムチャートで示したのが図4である。この図に示すように、先読み時間TFWDが遅延時間TDよりも長い場合には、まず、遅延させる前の目標開度に基づいて遅延時間TDが経過した時点でのスロットル38の動作状態を予測する。そして、予測したTD後のスロットル38の動作状態に基づいて先読み時間TFWDと遅延時間TDとの差分時間だけさらに将来のスロットル開度を予測する。これによれば、吸気バルブ閉タイミングでのスロットル開度の予測精度を犠牲にすることなく遅延制御における遅延時間TDを短縮することが可能であり、遅延時間TDの短縮によってトルク要求に対する応答性を向上させることができる。
【0036】
また、遅延時間TDが経過してからのスロットル開度の予測変化量の計算において、TD後のスロットル変化角だけでなくTD後の目標開度変化角も用いることで、吸気バルブ閉タイミングでのスロットル開度をより正確に予測することができるようになる。例えば、図4に示すようにTD後のスロットル変化角に比較して目標開度変化角が小さい場合、TDの経過からさらにTFWDが経過するまでの間に実際のスロットル変化角は徐々に減少していくものと考えられる。この場合、TD後のスロットル変化角のみを基準に予測変化量を計算すると、先読み開度が実際のスロットル開度から大きく外れてしまう可能性がある。これに対し、上記式1によって得られるTD後のスロットル変化推定角を基準にして予測変化量を計算する場合には、目標開度変化角が反映されることによって先読み開度と実際開度とのずれを抑えることができる。
【0037】
以上、本発明の実施の形態1としての制御装置について説明した。実施の形態1と本発明との対応関係は次の通りである。
【0038】
図1に示す構成において、ドライバ要求トルク計算部20とVSC要求トルク計算部22は第1の発明の「トルク要求発生源」に相当し、トルク調停部30,目標吸入空気量計算部32及び目標開度計算部34により第1の発明の「目標開度設定手段」が構成されている。スロットル遅延制御部36は第1の発明の「スロットル遅延制御手段」に相当している。また、スロットルモデル40及びスロットル変化角計算部42は第1の発明の「第1の予測手段」に相当し、先読み開度計算部44は第1乃至第3の各発明の「第2の予測手段」に相当する。また、吸入空気量計算部48で計算される吸入空気量と燃料噴射量計算部50で計算される燃料噴射量の少なくとも一方が第1の発明の「空燃比制御に係る所定の制御パラメータ値」に相当する。
【0039】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2について図5乃至図7を参照して説明する。
【0040】
図5は、本発明の実施の形態2としての車両用内燃機関の制御装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態の制御装置と実施の形態1の制御装置との違いは、TD後の予測スロットル開度と目標開度との偏差を先読み開度の計算に反映させる機能が追加されたことにある。なお、図5に示す構成において、実施の形態1のものと共通する要素については同一の符号を付している。
【0041】
本実施の形態では、先読み開度計算部56は、次の式3によって現在時刻から先読み時間TFWD後の予測スロットル開度を計算する。式3の右辺第2項の“en”は補正係数であって、補正係数設定部58で設定される。
TFWD後の予測スロットル開度=TD後の予測スロットル開度+TD後のスロットル変化推定角/en×(TFWD−TD) ・・・式3
【0042】
補正係数設定部58は目標開度計算部34で設定された目標開度とスロットルモデル40で計算されたスロットル開度との偏差を計算し、その偏差に基づいて補正係数enを設定する。補正係数設定部58が設定した補正係数enは先読み開度計算部56に取り込まれ、先読み開度計算部56は取り込んだ補正係数enを用いて上記式3の計算を行う。そして、上記式3で計算した予測スロットル開度を先読み開度として吸入空気量計算部48に出力する。
【0043】
図6は本実施の形態で実行される先読み開度演算ルーチンを示すフローチャートである。実施の形態1で実行される先読み開度演算ルーチンと共通する処理については同一のステップ番号を付している。このルーチンでは、ステップS100において遅延時間TDが先読み時間TFWDよりも短いと判定された場合、さらにステップS200の判定が行われる。そして、その判定結果を踏まえて補正係数enの値が設定される。
【0044】
ステップS200では、遅延させる前の目標開度(TD後の目標開度)とスロットルモデル40で計算されたTD後の予測スロットル開度との偏差が計算され、その開度偏差の絶対値と所定の閾値γとが比較される。比較の結果、開度偏差の絶対値が閾値γ以下である場合にはステップS210の処理が選択され、補正係数設定部58は補正係数enの値を1に設定する。一方、開度偏差の絶対値が閾値γよりも大きい場合にはステップS220の処理が選択され、補正係数設定部58は補正係数enの値を1よりも小さい所定値xに設定する。
【0045】
ステップS230では、上記式1に従ってTD後のスロットル変化推定角が計算される。次のステップS240では、ステップS210若しくはS220で設定された補正係数enを用いて、上記式3に従ってTFWD後の予測スロットル開度、すなわち、先読み開度の計算が行なわれる。式3において補正係数enはスロットル変化推定角の修正に用いられる。
【0046】
以上のような手順にて先読み開度を求めることによって、先読み開度の予測精度をより高めることができる。例えば、図7に示すようにTD後の目標開度とTD後の予測スロットル開度との間に大きな差がある場合、TDの経過からさらにTFWDが経過するまでの間にスロットル変化角は目標開度の変化に追従して増大する可能性が高い。このようなとき、本実施の形態では補正係数enの値が1よりも小さい値に設定される(上述のステップS220の処理)。そして、この補正係数enにより修正したスロットル変化推定角を基準にして先読み開度が計算される。図7に示すように、修正スロットル変化推定角を基準にして予測変化量を計算することで、予測変化量をTD後のスロットル変化推定角から求まる量よりも大きくとることができ、ひいては先読み開度と実際開度とのずれを抑えることができる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態2としての制御装置について説明した。図4に示す構成において、補正係数設定部58は第4の発明の「予測補正手段」に相当している。実施の形態2と本発明とのその他の対応関係に関しては、実施の形態1と本発明との対応関係に共通している。
【0048】
その他.
本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、以下のように変形して実施してもよい。
【0049】
上述の実施の形態2において、補正係数enを開度偏差の絶対値の連続関数として定義してもよい。ただし、開度偏差の絶対値が閾値γよりも大きいほど補正係数enの値は1よりも小さい値とする。
【0050】
実施の形態1及び2では、TD後のスロットル変化角と目標開度変化角とから計算したスロットル変化推定角を用いて予測変化量を計算しているが、TD後のスロットル変化角のみを用いて予測変化量を計算することもできる。また、スロットル変化推定角の計算においては、TD後のスロットル変化角速度、すなわち、TD後の予測スロットル開度の変化加速度を用いてもよい。さらに、TD後の目標開度の変化角速度をスロットル変化推定角の計算に用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態1としての車両用内燃機関の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1で実行される先読み開度演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態1で採られているスロットル開度の先読み方法を説明するためのタイムチャートである。
【図4】本発明の実施の形態1で採られているスロットル開度の先読み方法を説明するためのタイムチャートである。
【図5】本発明の実施の形態2としての車両用内燃機関の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態2で実行される先読み開度演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態2で採られているスロットル開度の先読み方法を説明するためのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0052】
10 アクセルセンサ
12 ヨーレートセンサ
20 ドライバ要求トルク計算部
22 VSC要求トルク計算部
30 トルク調停部
32 目標吸入空気量計算部
34 目標開度計算部
36 スロットル遅延制御部
38 スロットル
40 スロットルモデル
42 スロットル変化角計算部
44,56 先読み開度計算部
46 目標開度変化角計算部
48 吸入空気量計算部
50 燃料噴射量計算部
52 燃料噴射制御部
54 燃料噴射装置
58 開度偏差演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
現在よりも所定の先読み時間だけ将来のスロットル開度を予測し、予測したスロットル開度に基づいて内燃機関の空燃比制御に係る所定の制御パラメータ値を演算する車両用内燃機関の制御装置において、
所定のトルク要求発生源から出力されるトルク要求に基づいてスロットルの目標開度を設定する目標開度設定手段と、
設定された目標開度を前記先読み時間よりも短い所定の遅延時間だけ遅延させてスロットルへ出力し、遅延させた目標開度に従ってスロットルを動作させるスロットル遅延制御手段と、
遅延させる前の目標開度に基づいて現在から前記遅延時間が経過した時点でのスロットルの動作状態を予測する第1の予測手段と、
前記第1の予測手段で予測されたスロットルの動作状態に基づいて現在よりも前記先読み時間だけ将来のスロットル開度を予測する第2の予測手段と、
を備えることを特徴とする車両用内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記第2の予測手段は、前記遅延時間が経過した時点でのスロットル開度の変化速度及び/又は変化加速度の予測値を取得し、取得したスロットル開度の変化速度及び/又は変化加速度の予測値に基づいて前記遅延時間が経過してから前記先読み時間が経過するまでのスロットル開度の予測変化量を設定することを特徴とする請求項1記載の車両用内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記第2の予測手段は、遅延させる前の目標開度の変化速度及び/又は変化加速度を取得し、取得した目標開度の変化速度及び/又は変化加速度が小さいほど前記予測変化量をを小さい値に設定することを特徴とする請求項2記載の車両用内燃機関の制御装置。
【請求項4】
遅延させる前の目標開度と前記遅延時間が経過した時点でのスロットル開度の予測値とを比較し、その差が大きいほど前記予測変化量を増大させる予測補正手段、
をさらに備えることを特徴とする請求項2又は3記載の車両用内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−197688(P2009−197688A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40582(P2008−40582)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】