説明

車両用動力伝達装置

【課題】 駆動力を間欠的に伝達する往復動式の変速機のトルク変動を効果的に吸収して振動や騒音の発生を抑制する。
【解決手段】 往復動式の無段変速機の出力軸12は、内側出力軸12aおよび外側出力軸12bで構成され、外側出力軸12bの一端が内側出力軸12aの一端に接続され、内側出力軸12aの他端がディファレンシャルギヤDのデフケース33に接続され、ディファレンシャルギヤDのサンギヤ39,39′が左右のドライブシャフトS,Sの一端にそれぞれ接続されるので、捩じりバネとして機能する外側出力軸12bおよび内側出力軸12aと、質量体として機能するディファレンシャルギヤDと、捩じりバネとして機能する左右のドライブシャフトS,Sとを直列に接続してダンパーを構成することで、エンジンの常用運転回転数の範囲内で往復動式の変速機Tのトルク変動が共振点を跨がないようにし、振動や騒音を効果的に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源と、前記駆動源に接続された入力軸の回転を変速して出力軸に伝達する変速機と、前記出力軸の駆動力が入力されるディファレンシャルギヤと、前記ディファレンシャルギヤから車体左右方向に延びる左右のドライブシャフトとを備える車両用動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンに接続された入力軸の回転を複数のコネクティングロッドの相互に位相が異なる往復運動に変換し、前記複数のコネクティングロッドの往復運動を複数のワンウエイクラッチによって出力軸の回転運動に変換する無段変速機が、下記特許文献1により公知である。
【0003】
またエンジンの駆動力をダンパ機構、ベルト式無段変速機およびディファレンシャルギヤを介して駆動輪に伝達するとともに、ベルト式無段変速機およびディファレンシャルギヤ間の駆動力伝達経路にモータ・ジェネレータを接続したハイブリッド駆動装置が、下記特許文献2により公知である。
【0004】
また自動変速機のピニオンシャフト(動力伝達軸)を外側軸および内側軸の二重構造にし、外側軸に入力された駆動力を内側軸、ディファレンシャルギヤおよびドライブシャフトを介して駆動輪に伝達するものにおいて、外側軸および内側軸の一方の捩じり剛性を低くすることでギヤの噛み合い起振力を吸収してギヤノイズを低減するものが、下記特許文献3により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【特許文献2】特開2009−1126号公報
【特許文献3】特開平5−272604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたものは、コネクティングロッドの往復運動をワンウエイクラッチを介して出力軸の回転運動に変換する無段変速機を備えるため、出力軸のトルク変動がタイヤに伝達されて車体振動の原因となる問題があった。
【0007】
また上記特許文献2に記載されたものは、エンジンとベルト式無段変速機との間に配置されたダンパ機構で吸収できないエンジン振動が、ドライブシャフトからタイヤに伝達されて車体振動の原因となる可能性があった。
【0008】
また上記特許文献3に記載されたものは、ディファレンシャルギヤの上流側の外側軸および内側軸の捩じり剛性を低くして捩じりバネとして機能させることは可能であるが、ディファレンシャルギヤの下流側のドライブシャフトが短いため、その捩じり剛性が高くなって捩じりバネとして機能させることができず、ギヤの噛み合い起振力を充分に吸収できない可能性があった。
【0009】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、駆動力を間欠的に伝達する往復動式の変速機のトルク変動を効果的に吸収して振動や騒音の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、駆動源と、前記駆動源に接続された入力軸の回転を変速して出力軸に伝達する変速機と、前記出力軸の駆動力が入力されるディファレンシャルギヤと、前記ディファレンシャルギヤから車体左右方向に延びる左右のドライブシャフトとを備え、前記変速機は、前記入力軸の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸と共に回転する入力側支点と、前記出力軸に接続されたワンウェイクラッチと、前記ワンウェイクラッチの入力部材に設けられた出力側支点と、前記入力側支点および前記出力側支点に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッドとを備える車両用動力伝達装置であって、前記出力軸は、左右一方の前記ドライブシャフトの外周に嵌合する管状の内側出力軸と、前記内側出力軸の外周に同軸に嵌合して前記ワンウエイクラッチの出力部材に接続された管状の外側出力軸とで構成され、前記外側出力軸の一端が前記内側出力軸の一端に接続され、前記内側出力軸の他端が前記ディファレンシャルギヤの入力部材に接続され、前記ディファレンシャルギヤの左右の出力部材が前記左右のドライブシャフトの一端にそれぞれ接続されることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0011】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記変速機は、前記入力側支点、前記出力側支点、前記コネクティングロッドおよび前記ワンウェイクラッチを備えて該コネクティングロッドの往復運動の位相が相互に異なる複数の変速ユニットで構成されることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0012】
尚、実施の形態の偏心ディスク18は本発明の入力側支点に対応し、実施の形態のピン19cは本発明の出力側支点に対応し、実施の形態のアウター部材22は本発明のワンウェイクラッチの入力部材に対応し、実施の形態のインナー部材23は本発明のワンウェイクラッチの出力部材に対応し、実施の形態のデフケース33は本発明のディファレンシャルギヤの入力部材に対応し、実施の形態の第1、第2サンギヤ39,39′は本発明のディファレンシャルギヤの出力部材に対応し、実施の形態のエンジンEは本発明の駆動源に対応し、実施の形態の無段変速機Tは本発明の変速機に対応する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、駆動源の駆動力は入力軸および出力軸を備える変速機とディファレンシャルギヤとを介して左右のドライブシャフトに伝達される。変速機は、入力軸の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸と共に回転する入力側支点と、出力軸に接続されたワンウェイクラッチと、ワンウェイクラッチの入力部材に設けられた出力側支点と、入力側支点および出力側支点に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッドとを備えるので、入力側支点の偏心量を変化させてコネクティングロッドの往復ストロークを変化させることで、出力軸の回転数を増減することができる。
【0014】
変速機の出力軸は、左右一方のドライブシャフトの外周に嵌合する管状の内側出力軸と、内側出力軸の外周に同軸に嵌合してワンウエイクラッチの出力部材に接続される管状の外側出力軸とで構成され、外側出力軸の一端が内側出力軸の一端に接続され、内側出力軸の他端がディファレンシャルギヤの入力部材に接続され、ディファレンシャルギヤの出力部材が左右のドライブシャフトの一端にそれぞれ接続されるので、捩じりバネとして機能する外側出力軸および内側出力軸と、質量体として機能するディファレンシャルギヤと、捩じりバネとして機能するドライブシャフトとを直列に接続してダンパーを構成することで、駆動源の常用運転回転数の範囲内で往復動式の変速機のトルク変動が共振点を跨がないようにし、振動や騒音を効果的に抑制することができる。
【0015】
また請求項2の構成によれば、変速機は入力側支点、出力側支点、コネクティングロッドおよびワンウェイクラッチよりなる複数の変速ユニットを備えており、複数の変速ユニットのコネクティングロッドの往復運動の位相が相互に異なるので、出力軸を滑らかに連続回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】車両用の走行用動力装置のスケルトン図。
【図2】図1の2部詳細図。
【図3】図2の3−3線断面図(TOP状態)。
【図4】図2の3−3線断面図(LOW状態)。
【図5】TOP状態での作用説明図。
【図6】LOW状態での作用説明図。
【図7】図1の7部詳細図。
【図8】図7の8部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1〜図8に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
図1に示すように、車両の左右の駆動輪W,Wを駆動する車両用動力伝達装置は、エンジンEと、無段変速機Tと、ドグクラッチCと、ディファレンシャルギヤDと、左右のドライブシャフトS,Sとを備える。
【0019】
次に、図2〜6に基づいて無段変速機Tの構造を説明する。
【0020】
図2および図3に示すように、本実施の形態の無段変速機Tは同一構造を有する複数個(実施の形態では4個)の変速ユニット10…を軸方向に重ね合わせたもので、それらの変速ユニット10…は平行に配置された共通の入力軸11および共通の出力軸12を備えており、入力軸11の回転が減速または増速されて出力軸12に伝達される。
【0021】
以下、代表として一つの変速ユニット10の構造を説明する。エンジンEに接続されて回転する入力軸11は、電動モータのような変速アクチュエータ14の中空の回転軸14aの内部を相対回転自在に貫通する。変速アクチュエータ14のロータ14bは回転軸14aに固定されており、ステータ14cはケーシングに固定される。変速アクチュエータ14の回転軸14aは、入力軸11と同速度で回転可能であり、かつ入力軸11に対して異なる速度で相対回転可能である。
【0022】
変速アクチュエータ14の回転軸14aを貫通した入力軸11には第1ピニオン15が固定されており、この第1ピニオン15を跨ぐように変速アクチュエータ14の回転軸14aにクランク状のキャリヤ16が接続される。第1ピニオン15と同径の2個の第2ピニオン17,17が、第1ピニオン15と協働して正三角形を構成する位置にそれぞれピニオンピン16a,16aを介して支持されており、これら第1ピニオン15および第2ピニオン17,17に、円板形の偏心ディスク18の内部に偏心して形成されたリングギヤ18aが噛合する。偏心ディスク18の外周面に、コネクティングロッド19のロッド部19aの一端に設けたリング部19bがボールベアリング20を介して相対回転自在に嵌合する。
【0023】
出力軸12の外周に設けられたワンウェイクラッチ21は、コネクティングロッド19のロッド部19aにピン19cを介して枢支されたリング状のアウター部材22と、アウター部材22の内部に配置されて出力軸12に固定されたインナー部材23と、アウター部材22の内周の円弧面とインナー部材23の外周の平面との間に形成された楔状の空間に配置されてスプリング24…で付勢されたローラ25…とを備える。
【0024】
図2から明らかなように、4個の変速ユニット10…はクランク状のキャリヤ16を共有しているが、キャリヤ16に第2ピニオン17,17を介して支持される偏心ディスク18の位相は各々の変速ユニット10で90°ずつ異なっている。例えば、図2において、左端の変速ユニット10の偏心ディスク18は入力軸11に対して図中上方に変位し、左から3番目の変速ユニット10の偏心ディスク18は入力軸11に対して図中下方に変位し、左から2番目および4番目の変速ユニット10,10の偏心ディスク18,18は上下方向中間に位置している。
【0025】
次に、図7および図8に基づいて、出力軸12、ドグクラッチC、ディファレンシャルギヤDおよび左側のドライブシャフトSの周辺の構造を説明する。
【0026】
遊星歯車式のディファレンシャルギヤDは、ミッションケース31に一対のボールベアリング32,32で回転自在に支持されたデフケース33を備える。デフケース33は、右側のケースボディ34と左側のケースカバー35とをボルト36…で一体に結合して構成される。デフケース33は遊星歯車機構のキャリヤを構成するもので、そこに複数の第1ピニオン37…および複数の第2ピニオン37′…が回転自在に支持される。第1ピニオン37…は左ドライブシャフトSの右端にスプライン結合aされた第1サンギヤ39に噛合し、また第2ピニオン37′…は右ドライブシャフトSの左端にスプラインa結合された第2サンギヤ39′に噛合する。
【0027】
出力軸12は、左ドライブシャフトSの外周に同軸に嵌合する管状の内側出力軸12aと、内側出力軸12aの外周に同軸に嵌合する管状の外側出力軸12bとで構成される。外周に4個のワンウエイクラッチ21のインナー部材23…が結合された外側出力軸12bの左端がボールベアリング40でミッションケース31に回転自在に支持される。外側出力軸12bの左端と内側出力軸12aの左端とがスプライン結合bされ、内側出力軸12aの右端にスプライン結合cされたクラッチハウジング41が左側のボールベアリング42を介してミッションケース31に回転自在に支持され、かつデフケース33のケースボディ34が右側のボールベアリング42を介してミッションケース31に回転自在に支持される。
【0028】
クラッチハウジング41の内部にスプライン結合dされたピストンガイド43の内部に、クラッチピストン44が軸方向摺動自在かつ相対回転不能にスプライン結合eされる。クラッチピストン44が油室45に供給される油圧で右動すると、そのドグ歯44aがデフケース33のドグ歯33a…に噛合し、出力軸12がクラッチハウジング41およびクラッチピストン44を介してデフケース33に結合される。
【0029】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0030】
先ず、無段変速機Tの一つの変速ユニット10の作用を説明する。変速アクチュエータ14の回転軸14aを入力軸11に対して相対回転させると、入力軸11の軸線L1まわりにキャリヤ16が回転する。このとき、キャリヤ16の中心O、つまり第1ピニオン15および2個の第2ピニオン17,17が成す正三角形の中心は入力軸11の軸線L1まわりに回転する。
【0031】
図3および図5は、キャリヤ16の中心Oが第1ピニオン15(つまり入力軸11)に対して出力軸12と反対側にある状態を示しており、このとき入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量が最大になって無段変速機TのレシオはTOP状態になる。図4および図6は、キャリヤ16の中心Oが第1ピニオン15(つまり入力軸11)に対して出力軸12と同じ側にある状態を示しており、このとき入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量が最小になって無段変速機TのレシオはLOW状態になる。
【0032】
図5に示すTOP状態で、エンジンEで入力軸11を回転させるとともに、入力軸11と同速度で変速アクチュエータ14の回転軸14aを回転させると、入力軸11、回転軸14a、キャリヤ16、第1ピニオン15、2個の第2ピニオン17,17および偏心ディスク18が一体になった状態で、入力軸11を中心に反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。図5(A)から図5(B)を経て図5(C)の状態へと回転する間に、偏心ディスク18の外周にリング部19bをボールベアリング20を介して相対回転自在に支持されたコネクティングロッド19は、そのロッド部19aの先端にピン19cで枢支されたアウター部材22を反時計方向(矢印B参照)に回転させる。図5(A)および図5(C)は、アウター部材22の前記矢印B方向の回転の両端を示している。
【0033】
このようにしてアウター部材22が矢印B方向に回転すると、ワンウェイクラッチ21のアウター部材22およびインナー部材23間の楔状の空間にローラ25…が噛み込み、アウター部材22の回転がインナー部材23を介して出力軸12に伝達されるため、出力軸12は反時計方向(矢印C参照)に回転する。
【0034】
入力軸11および第1ピニオン15が更に回転すると、第1ピニオン15および第2ピニオン17,17にリングギヤ18aを噛合させた偏心ディスク18が反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。図5(C)から図5(D)を経て図5(A)の状態へと回転する間に、偏心ディスク18の外周にリング部19bをボールベアリング20を介して相対回転自在に支持されたコネクティングロッド19は、そのロッド部19aの先端にピン19cで枢支されたアウター部材22を時計方向(矢印B′参照)に回転させる。図5(C)および図5(A)は、アウター部材22の前記矢印B′方向の回転の両端を示している。
【0035】
このようにしてアウター部材22が矢印B′方向に回転すると、アウター部材22とインナー部材23との間の楔状の空間からローラ25…がスプリング24…を圧縮しながら押し出されることで、アウター部材22がインナー部材23に対してスリップして出力軸12は回転しない。
【0036】
以上のように、アウター部材22が往復回転したとき、アウター部材22の回転方向が反時計方向(矢印B参照)のときだけ出力軸12が反時計方向(矢印C参照)に回転するため、出力軸12は間欠回転することになる。
【0037】
図6は、LOW状態で無段変速機Tを運転するときの作用を示すものである。このとき、入力軸11の位置は偏心ディスク18の中心に一致しているので、入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量はゼロになる。この状態でエンジンEで入力軸11を回転させるとともに、入力軸11と同速度で変速アクチュエータ14の回転軸14aを回転させると、入力軸11、回転軸14a、キャリヤ16、第1ピニオン15、2個の第2ピニオン17,17および偏心ディスク18が一体になった状態で、入力軸11を中心に反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。しかしながら、偏心ディスク18の偏心量がゼロであるため、コネクティングロッド19の往復運動のストロークもゼロになり、出力軸12は回転しない。
【0038】
従って、変速アクチュエータ14を駆動してキャリヤ16の位置を図3のTOP状態と図4のLOW状態との間に設定すれば、ゼロレシオおよび所定レシオ間の任意のレシオでの運転が可能になる。
【0039】
無段変速機Tは、並置された4個の変速ユニット10…の偏心ディスク18…の位相が相互に90°ずつずれているため、4個の変速ユニット10…が交互に駆動力を伝達することで、つまり4個のワンウェイクラッチ21…の何れかが必ず係合状態にあることで、出力軸12を連続回転させることができる。
【0040】
さて、ドグクラッチCの油室45に油圧を供給するとクラッチピストン44が図中右動し、そのドグ歯44a…がデフケース33のドグ歯33a…に係合することで、出力軸12の回転がクラッチハウジング41、ピストンガイド43およびクラッチピストン44を介してディファレンシャルギヤDのデフケース33に伝達される。デフケース33の回転は、第1ピニオン37…および第1サンギヤ39を介して左ドライブシャフトSに伝達されるとともに、第2ピニオン37′…および第2サンギヤ39′を介して右ドライブシャフトS′に伝達されて左右の駆動輪W,Wが駆動される。また左ドライブシャフトSは、第1サンギヤ39、第1ピニオン37…、デフケース33、第2ピニオン37′…および第2サンギヤ39′を介して右ドライブシャフトSに接続されているため、左右の駆動輪W,Wの差動が許容される。
【0041】
ところで、上記無段変速機Tは、複数のコネクティングロッド19…の位相が異なる往復運動を複数のワンウエイクラッチ21…を介して外側出力軸12bの回転運動に変換しているので、コネクティングロッド19…の数に応じた高周波のトルク変動が発生し、エンジンEの常用回転数で無段変速機Tの共振点を通過して振動や騒音が増加する可能性がある。
【0042】
しかしながら、本実施の形態によれば、エンジンEの駆動力が無段変速機Tから駆動輪W,Wに伝達される経路には、外側出力軸12b、内側出力軸12a、ディファレンシャルギヤDおよび左右のドライブシャフトS,Sが介在しており、外側出力軸12b、内側出力軸12aおよび左右のドライブシャフトS,Sは全長に亙って捩じれ変形可能な捩じりバネとして機能するため、駆動力の伝達方向上流側の捩じりバネ(外側出力軸12bおよび内側出力軸12a)と駆動力の伝達方向下流側の捩じりバネ(ドライブシャフトS,S)との間に質量体(ディファレンシャルギヤD)を接続したダンパーが構成される。
【0043】
このダンパーにより、無段変速機Tに特有のトルク変動の共振点をエンジンEの常用回転数の外側に移動させ、共振の発生を抑制して振動や騒音を低減することができる。特に、二つの捩じりバネの間に質量体を配置したことで、単独の捩じりバネを有するダンパーに比べて良好なトルク変動の減衰特性を得ることができる。しかも出力軸12への駆動力の伝達は、その外周を囲むワンウエイクラッチ21…を介して行われるので、出力軸12には捩じり荷重だけが入力して曲げ荷重は入力しない。よって内側出力軸12aおよび外側出力軸12bを薄肉の管状に形成することができ、その捩じり剛性を低くしてトルク変動の減衰特性を更に良好にすることができる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0045】
例えば、本発明の変速機は実施の形態の往復動式の無段変速機Tに限定されず、ベルト式無段変速機のような他種の無段変速機であっても良く、一般的な有段変速機であっても良い。
【符号の説明】
【0046】
10 変速ユニット
11 入力軸
12 出力軸
12a 内側出力軸
12b 外側出力軸
18 偏心ディスク(入力側支点)
19 コネクティングロッド
19c ピン(出力側支点)
21 ワンウェイクラッチ
22 アウター部材(ワンウェイクラッチの入力部材)
23 インナー部材(ワンウェイクラッチの出力部材)
33 デフケース(ディファレンシャルギヤの入力部材)
39 第1サンギヤ(ディファレンシャルギヤの出力部材)
39′ 第2サンギヤ(ディファレンシャルギヤの出力部材)
D ディファレンシャルギヤ
E エンジン(駆動源)
S ドライブシャフト
T 無段変速機(変速機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源(E)と、
前記駆動源(E)に接続された入力軸(11)の回転を変速して出力軸(12)に伝達する変速機(T)と、
前記出力軸(12)の駆動力が入力されるディファレンシャルギヤ(D)と、
前記ディファレンシャルギヤ(D)から車体左右方向に延びる左右のドライブシャフト(S)とを備え、
前記変速機(T)は、
前記入力軸(11)の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸(11)と共に回転する入力側支点(18)と、
前記出力軸(12)に接続されたワンウェイクラッチ(21)と、
前記ワンウェイクラッチ(21)の入力部材(22)に設けられた出力側支点(19c)と、
前記入力側支点(18)および前記出力側支点(19c)に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッド(19)とを備える車両用動力伝達装置であって、
前記出力軸(12)は、左右一方の前記ドライブシャフト(S)の外周に嵌合する管状の内側出力軸(12a)と、前記内側出力軸(12a)の外周に同軸に嵌合して前記ワンウエイクラッチ(21)の出力部材(23)に接続された管状の外側出力軸(12b)とで構成され、
前記外側出力軸(12b)の一端が前記内側出力軸(12a)の一端に接続され、前記内側出力軸(12a)の他端が前記ディファレンシャルギヤ(D)の入力部材(33)に接続され、前記ディファレンシャルギヤ(D)の左右の出力部材(39,39′)が前記左右のドライブシャフト(S)の一端にそれぞれ接続されることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項2】
前記変速機(T)は、前記入力側支点(18)、前記出力側支点(19c)、前記コネクティングロッド(19)および前記ワンウェイクラッチ(21)を備えて該コネクティングロッド(19)の往復運動の位相が相互に異なる複数の変速ユニット(10)で構成されることを特徴とする、請求項1に記載の車両用動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−1049(P2012−1049A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136176(P2010−136176)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】