説明

車両用回転電機

【課題】スイッチング素子を有する複数のモジュールを備えた電力変換器の冷却性を向上させることができる車両用回転電機を提供すること。
【解決手段】車両用発電機1の電力変換器11は、それぞれがスイッチング素子と放熱用のヒートシンク56とを有する複数のスイッチングモジュール5X等を備える。複数のスイッチングモジュール5X等のそれぞれは、リヤフレーム24の軸方向端面に、この軸方向端面にヒートシンク56が対向する向きに取り付けられる。リヤフレーム24の軸方向端面には、周方向に隣接する2つのスイッチングモジュールの間に配置された凹部242が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車やトラック等に搭載される車両用回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スイッチング素子を有するパワー主回路がヒートシンクに実装され、このヒートシンクがリヤブラケット内に配置、固定された回転電機が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、従来から、中間ケースの端部から半径方向内方に突出した内向きフランジの外側面に、環状に配置した複数のインバータモジュールを搭載するようにしたモータ一体型電力変換装置が知られている(例えば、特許文献2参照。)。この電力変換装置を構成する複数のこれら複数のインバータモジュールは、内向きフランジの平坦な外側面に取り付けられており、それらの全体が後ケースによって覆われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−268558号公報
【特許文献2】特開2008−131794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した特許文献1に開示された回転電機では、パワー主回路が搭載されるヒートシンクとして十分な熱容量を確保することが難しいという問題があった。このため、バッテリの逆接続時に大電流が流れる場合などにおいて急激な温度上昇を防止することができないおそれがある。また、円盤状のヒートシンク上に6個のパワー主回路と1個の界磁回路が配置されており、この円盤状のヒートシンクの裏側にブラシ装置が配置されている。このため、リア方向からの吸気ができず、ブラシ装置等に十分な冷却風を送ってブラシの摩耗粉を排出して堆積を防止したり、ブラシを効率的に冷却することができないという問題があった。
【0006】
一方、上述した特許文献2に開示されたモータ一体型電力変換装置では、各インバータモジュールが内向きフランジの外側面に取り付けられているため、インバータモジュールが取り付けられるフランジとして充分な熱容量を確保することができるが、特許文献1の構造と特許文献2の構造とを組み合わせると、インバータモジュールを冷却するために吸入される冷却風の通風抵抗が大きくなって充分な冷却性が得られないという問題があった。具体的には、特許文献2の構造では、各インバータモジュールが内向きフランジの平坦な外側面に取り付けられており、各インバータモジュールの上部付近に冷却風を流すことになるため、各インバータモジュール全体あるいはその下の内向きフランジ(フレーム)の冷却効率が低下することになる。特に、特許文献2の構造では、周方向に隣接する2つのインバータモジュールの間に突出端子が配置されており、径方向に沿った冷却風の流れを遮っているため、冷却風量の低下を招き、さらに冷却性が低下する。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、スイッチング素子を有する複数のモジュールを備えた電力変換器の冷却性を向上させることができる車両用回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明の車両用回転電機は、界磁巻線への通電によって磁化される回転子と、回転子と対向配置された固定子と、回転子とともに回転して冷却風を発生させる冷却ファンと、回転子と固定子とを保持するフレームと、固定子に備わった固定子巻線に誘起される交流電流を直流電流に変換してバッテリに供給、または、バッテリから供給される直流電流を交流電流に変換して固定子巻線に供給する電力変換器とを備える車両用回転電機において、電力変換器は、それぞれがスイッチング素子と放熱用のヒートシンクとを有する複数のスイッチングモジュールを備え、複数のスイッチングモジュールのそれぞれは、フレームの軸方向端面に、この軸方向端面にヒートシンクが対向する向きに取り付けられ、フレームの軸方向端面には、周方向に隣接する2つのスイッチングモジュールの間に配置された凹部が形成されている。また、この凹部は、冷却ファンによって発生する冷却風の通路として用いられる。
【0009】
熱容量が大きいフレームに各スイッチングモジュールを取り付けることにより、スイッチング素子で発生した熱をヒートシンクを介してフレームに伝達することができるため、スイッチングモジュールおよびこのスイッチングモジュールを備えた電力変換器の冷却性を向上させることができる。これにより、仮にスイッチングモジュールにバッテリを逆接続して大電流が流れた場合であっても、スイッチングモジュールの温度が急激に上昇することを防止することができ、スイッチング素子の破損を回避することができる。また、各スイッチングモジュールの間のフレーム端面には凹部が形成されているため、この凹部を冷却風の通路として用いることが可能となり、スイッチングモジュールやフレームを直接冷却するとともにより多くの冷却風量を確保することができ、電力変換器の冷却性をさらに向上させることができる。
【0010】
また、上述した凹部は、底面にリブ形状部を有することが望ましい。これにより、フレームの軸方向端面の表面積が増すため、フレームの冷却性を向上させることができ、結果的にスイッチングモジュールや電力変換器の冷却性をさらに上げることができる。
【0011】
また、上述したフレームの軸方向端面には、ヒートシンクに対向する凸部が、回転子の回転軸を中心とした放射状に配置されていることが望ましい。これにより、回転子を回転可能に支持する軸受けを収納する軸受け収納部を各凸部を用いて強固に支えることができ、回転子の回転時のブレを防止したり、外部から振動が加わった際の回転子の振動を抑制することが可能となる。
【0012】
また、上述した複数のスイッチングモジュールのそれぞれに対応する凸部は、回転子の回転軸を中心とした円弧上に、均等な間隔で配置されていることが望ましい。凸部を均等に配置することにより、強度的なバランスがよくなり、回転子の回転時のブレや外部から振動が加わった際の回転子の振動をさらに低減することが可能となる。
【0013】
また、上述したフレームは、軸方向端面であって凹部の内径側に冷却風を通す第1の吸気口を有することが望ましい。内径側に吸気口を設けることにより、凹部内を流れる冷却風の風量を増すことができ、確実にフレームの冷却性を向上させることができる。
【0014】
また、上述した界磁巻線に通電するためのブラシ装置と、ブラシ装置および電力変換器を覆うリアカバーとをさらに備え、リアカバーは、ブラシ装置に対応する位置に、ブラシ装置に向けて冷却風を導入する第2の吸気口を有することが望ましい。これにより、リヤカバーの吸気口から取り込んでブラシ装置近傍に冷却風を流すことができるため、ブラシの冷却性を向上させるとともに、冷却風を利用したブラシ摩耗粉の排出を行う場合にはその排出を効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態の車両用発電機の構成を示す図である。
【図2】スイッチングモジュールの構成を示す図である。
【図3】車両用発電機をリヤ側斜め後方から見た外観斜視図である。
【図4】車両用発電機をリヤ側から見た図である。
【図5】リヤカバーを取り外した車両用発電機をリヤ側斜め後方から見た外観斜視図である。
【図6】リヤカバーを取り外した車両用発電機をリヤ側から見た図である。
【図7】車両用発電機のリヤ側の部分的な断面図である。
【図8】スイッチングモジュール内部の実装状態を示す平面図である。
【図9】スイッチングモジュールの平面図である。
【図10】スイッチングモジュールの斜視図である。
【図11】スイッチングモジュールの斜視図である。
【図12】スイッチングモジュールの部分的な拡大側面図である。
【図13】端子台の平面図である。
【図14】端子台の裏面図である。
【図15】端子台の斜視図である。
【図16】電力変換器の裏面図である。
【図17】リヤフレームの平面図である。
【図18】リヤフレームの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の車両用回転電機を適用した一実施形態の車両用発電機について、図面を参照しながら説明する。図1は、一実施形態の車両用発電機の構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態の車両用発電機1は、2つの固定子巻線2、3、界磁巻線4、2つのスイッチングモジュール群5、6、発電制御装置7、端子台10を含んで構成されている。
【0017】
一方の固定子巻線2は、多相巻線(例えばX相巻線、Y相巻線、Z相巻線からなる三相巻線)であって、固定子鉄心(図示せず)に巻装されている。同様に、他方の固定子巻線3は、多相巻線(例えばU相巻線、V相巻線、W相巻線からなる三相巻線)であって、上述した固定子鉄心に、固定子巻線2に対して電気角で30度ずらした位置に巻装されている。本実施形態では、これら2つの固定子巻線2、3と固定子鉄心によって固定子20(図3)が構成されている。
【0018】
界磁巻線4は、固定子鉄心の内周側に対向配置された界磁極(図示せず)に巻装されて回転子を構成している。この回転子と固定子20は同心状に対向配置されている。界磁巻線4に励磁電流を流すことにより、界磁極が磁化される。界磁極が磁化されたときに発生する回転磁界によって固定子巻線2、3が交流電圧を発生する。
【0019】
一方のスイッチングモジュール群5は、一方の固定子巻線2に接続されており、全体で三相全波整流回路(ブリッジ回路)が構成され、固定子巻線2に誘起される交流電流を直流電流に変換する。このスイッチングモジュール群5は、固定子巻線2の相数に対応する数(三相巻線の場合には3個)のスイッチングモジュール5X、5Y、5Zを備えている。スイッチングモジュール5Xは、固定子巻線2に含まれるX相巻線に接続されている。スイッチングモジュール5Yは、固定子巻線2に含まれるY相巻線に接続されている。スイッチングモジュール5Zは、固定子巻線2に含まれるZ相巻線に接続されている。
【0020】
他方のスイッチングモジュール群6は、他方の固定子巻線3に接続されており、全体で三相全波整流回路(ブリッジ回路)が構成され、固定子巻線3に誘起される交流電流を直流電流に変換する。このスイッチングモジュール群6は、固定子巻線3の相数に対応する数(三相巻線の場合には3個)のスイッチングモジュール6U、6V、6Wを備えている。スイッチングモジュール6Uは、固定子巻線3に含まれるU相巻線に接続されている。スイッチングモジュール6Vは、固定子巻線3に含まれるV相巻線に接続されている。スイッチングモジュール6Wは、固定子巻線3に含まれるW相巻線に接続されている。
【0021】
発電制御装置7は、F端子を介して接続された界磁巻線4に流す励磁電流を制御する励磁制御回路であって、励磁電流を調整することにより車両用発電機1の出力電圧(各スイッチングモジュールの出力電圧)VB が調整電圧Vreg になるように制御する。例えば、発電制御装置7は、出力電圧VB が調整電圧Vreg よりも高くなったときに界磁巻線4への励磁電流の供給を停止し、出力電圧VB が調整電圧Vreg よりも低くなったときに界磁巻線4に励磁電流の供給を行うことにより、出力電圧VB が調整電圧Vreg になるように制御する。また、発電制御装置7は、P端子(相電圧検出用の検出端子)に接続された固定子巻線のいずれかの相巻線(例えばW相)の電圧に基づいて回転子の回転数を検出し、回転停止を検出したときに界磁巻線4へ供給する励磁電流を停止あるいは低減する。さらに、発電制御装置7は、制御信号端子としてのERR端子および通信線を介してECU8(外部制御装置)と接続されており、ECU8との間で双方向のシリアル通信(例えば、LIN(Local Interconnect Network)プロトコルを用いたLIN通信)を行い、エラー情報等の通信メッセージを送信あるいは受信する。
【0022】
端子台10は、スイッチングモジュール5X、5Y、5Z相互の接続、スイッチングモジュール6U、6V、6W相互の接続、スイッチングモジュール5X等と他の部品(例えば発電制御装置7)との接続を行うものである。端子台10の具体例については後述する。この端子台10と2つのスイッチングモジュール群5、6によって電力変換器11が構成されている。
【0023】
本実施形態の車両用発電機1はこのような構成を有しており、次に、スイッチングモジュール5X等の詳細について説明する。
【0024】
図2は、スイッチングモジュール5Xの構成を示す図である。なお、他のスイッチングモジュール5Y、5Z、6U、6V、6Wも同じ構成を有している。図2に示すように、スイッチングモジュール5Xは、2つのMOSトランジスタ50、51、制御回路54を備えている。
【0025】
MOSトランジスタ50は、ソースがP端子を介して固定子巻線2のX相巻線に接続され、ドレインがBATT端子(バッテリ端子)を介して電気負荷18やバッテリ9の正極端子に接続された上アーム(ハイサイド側)のスイッチング素子である。MOSトランジスタ51は、ドレインがP端子を介してX相巻線に接続され、ソースがGND端子を介してバッテリ9の負極端子(アース)に接続された下アーム(ローサイド側)のスイッチング素子である。これら2つのMOSトランジスタ50、51からなる直列回路がバッテリ9の正極端子と負極端子の間に配置され、これら2つのMOSトランジスタ50、51の接続点にX相巻線が接続されている。また、MOSトランジスタ50、51のそれぞれのソース・ドレイン間にはダイオードが並列接続されている。このダイオードはMOSトランジスタ50、51の寄生ダイオード(ボディダイオード)によって実現されるが、別部品としてのダイオードをさらに並列接続するようにしてもよい。なお、上アームおよび下アームの少なくとも一方を、MOSトランジスタ以外のスイッチング素子を用いて構成するようにしてもよい。
【0026】
制御回路54は、整流動作を開始および終了するタイミングの判定動作、整流動作を実施するためのMOSトランジスタ50、51のオン/オフタイミングの設定動作、このオン/オフタイミングに対応したMOSトランジスタ50、51の駆動動作、電圧や電流あるいは温度を監視して異常発生の有無を判定する自己診断動作などを行う。
【0027】
例えば、スイッチングモジュール5Xに設けられた制御信号端子としてのF端子が発電制御装置7のF端子に接続されており、制御回路54は、発電制御装置7のF端子から界磁巻線4に供給されるPWM信号(励磁電流)の有無を監視し、PWM信号の出力が所定時間(例えば30μ秒間)継続したときに、MOSトランジスタ50、51をオン/オフして整流動作を開始する。また、制御回路54は、発電制御装置7のF端子から界磁巻線4に供給されるPWM信号の出力が所定時間(例えば1秒間)中断したときに、MOSトランジスタ50、51をオフして整流動作を終了する。さらに、制御回路54は、異常発生時には、制御信号端子としてのERR端子(エラー端子)から異常発生を知らせる信号を出力する。例えば、各スイッチングモジュール5X等のERR端子は1本の共通の信号線に接続されており、いずれかのスイッチングモジュール5X等からこの信号線に異常発生を知らせる信号が出力されると、発電制御装置7は、異常発生に対応して所定の処理(例えば、ECU8に対する通知)を行う。
【0028】
次に、車両用発電機1や電力変換器11、スイッチングモジュール5Xの具体的な構造について説明する。なお、スイッチングモジュール5X以外のスイッチングモジュール5Y、5Z、6U、6V、6Wも同じ構造を有しており、詳細な説明は省略する。
【0029】
図3は、車両用発電機1をリヤ側斜め後方から見た外観斜視図である。図4は、車両用発電機1をリヤ側から見た図である。図5は、リヤカバーを取り外した車両用発電機1をリヤ側斜め後方から見た外観斜視図である。図6は、リヤカバーを取り外した車両用発電機1をリヤ側から見た図である。図7は、車両用発電機1のリヤ側の部分的な断面図である。
【0030】
これらの図に示すように、車両用発電機1は、固定子20、回転子30(図7)、フロントフレーム22、リヤフレーム24、リヤカバー26、発電制御装置7、電力変換器11、ブラシ装置12を含んで構成されている。
【0031】
フロントフレーム22およびリヤフレーム24は、固定子20を両側から挟み込んで固定するとともに、この固定子20の内側に対向配置されている回転子30を回転可能に支持した状態で収容している。ブラシ装置12は、バッテリ9あるいは電力変換器11から回転子30の界磁巻線4に励磁電流を供給する。
【0032】
リヤカバー26は、リヤフレーム24の外側に取り付けられる発電制御装置7、電力変換器11、ブラシ装置12の全体を覆って、これらを保護する。このリヤカバー26には、軸方向端面であって、電力変換器11に対向する位置に放射状かつ同心状に配置された複数の吸気口27が、ブラシ装置12に対応する位置(図4に示す例ではブラシ装置12に隣接する位置であってブラシ装置12と電圧制御装置7の中間位置)に吸気口28が形成されている。
【0033】
また、リヤフレーム24の軸方向端面には、対向面が直接接触した状態で電力変換器11が搭載されており、リヤフレーム24が電力変換器11で発生した熱を放熱する放熱部材として用いられる。このため、リヤフレーム24の軸方向端面は、放熱に適した形状に形成されており、その詳細については後述する。
【0034】
回転子30は、軸方向端面に冷却ファン32を備えている。回転子30とともに冷却ファン32が回転すると、リヤカバー26に設けられた複数の吸気口27およびリヤカバー26とリヤフレーム24の間の隙間から冷却風が取り込まれる。この冷却風は、リヤフレーム24と電力変換器11の間(凹部242)を通った後、凹部242の内径側に形成された吸気口246を介してリヤフレーム24内に導かれ、固定子巻線2、3を冷却した後リヤフレーム24の外部に排出される。なお、回転子30とともに冷却ファン32が回転すると、リヤカバー26に設けられた吸気口28からもリヤカバー26内に冷却風が取り込まれる。この冷却風は、ブラシ装置12や電圧制御装置7の近傍を流れるため、これらを効率よく冷却するとともに、冷却風を利用したブラシ摩耗粉の排出を行う場合にはその排出効果を高めることができる。
【0035】
次に、スイッチングモジュール5X等の構造の詳細について説明する。図8は、スイッチングモジュール5X内部の実装状態を示す平面図である。図9は、スイッチングモジュール5Xの平面図である。図10、図11は、スイッチングモジュール5Xの斜視図である。図12は、スイッチングモジュール5Xの部分的な拡大側面図である。図8〜図12において示されている各端子に付された符号(P、BATT、GND、F、ERR)は、図2において同じ符号が付された各端子に対応している。
【0036】
図8において、ハイサイド側のMOSトランジスタ50およびローサイド側のMOSトランジスタ51のそれぞれは、同一の製造方法で同一のサイズに形成されている。また、これらのMOSトランジスタ50、51や制御回路54のそれぞれはリードフレーム上に搭載されており、発熱量が多いMOSトランジスタ50、51の直下には放熱用のヒートシンク56が備わっている。スイッチングモジュール5Xは、ヒートシンク56以外の構成部品全体がモールド樹脂で封止された半導体パッケージとして形成されており、ヒートシンク56が露出した状態で取り付けられたモジュール本体60からP端子、BATT端子、GND端子、F端子、ERR端子に対応する接続ターミナル58の一部が突出している。この中でGND端子に対応する接続ターミナル58は、ヒートシンク56と同じ端子形状を有しており、ヒートシンク56をリヤフレーム24にネジ固定する際に同時にねじ締めされてリヤフレーム24に対して電気的な接続が行われる。
【0037】
なお、図10あるいは図11に示すように、モジュール本体60の側面には、接続ターミナル58の他に、複数の電極59が露出している(以後、この電極59を「露出電極」と称する)。接続ターミナル58をインサート成型する際にその位置決めおよび固定用にモジュール本体60から突出する電極が用いられ、樹脂成型終了後に突出部分を切断した跡が一部の露出電極59として残っている。また、スイッチングモジュール5Xを製造した際にその機能試験等を行うためにモジュール本体60から突出する電極が用いられ、試験終了後に突出部分を切断した跡が他の露出電極59として残っている。
【0038】
ところで、モジュール本体60から突出するP端子に対応する接続ターミナル58は、固定子巻線2のX相巻線から引き出される引き出し線55を接続することにより発生する応力を緩和する形状を有する。以後、P端子に対応する接続ターミナル58を他の接続ターミナル58と区別するために「接続ターミナル58P」として説明を行う。
【0039】
図9〜図12に示すように、接続ターミナル58Pは、固定子巻線2のX相巻線から引き出される引き出し部としての引き出し線55との接続を行う接続部580と、この接続部580とモジュール本体60との間でこれらを連結する連結部582とを有する。接続部580と連結部582は、モジュール本体60内に埋設された部分を含んで、金属の板材をプレス成型することにより形成される。
【0040】
接続部580は、引き出し線55の延在方向に沿った長さが、この延在方向と垂直な向きに沿った長さの方が長い幅広の長方形形状を有している。図12において、接続部58の高さ方向を「縦方向」、高さ方向と垂直な方向を「横方向」とすると、引き出し線55の延在方向に沿った向きが縦方向であり、接続部580は、横長の長方形形状を有する。この接続部580の横方向の長さは、引き出し線55の幅の複数倍よりも長い値に設定されている。また、横長の長方形形状を有する平板状の接続部580を長手方向の途中で折り返して引き出し線55を挟み込んだ後に、これらの間が溶接される。
【0041】
連結部582は、接続部580の一部に連結された長方形形状を有しており、長手方向に沿ってS字状に折り曲げられたベンド構造を含んでいる。ベンド構造を備えることにより、主に引き出し線55の延在方向に加わる繰り返し応力を吸収して緩和することが可能となる。
【0042】
なお、上述した引き出し線55を接続ターミナル58Pに溶接する工程は、スイッチングモジュール5X等を端子台10に組み付けて電力変換器11を完成させた後に、電力変換器11をリヤフレーム24に組み付ける際に行われる。
【0043】
次に、端子台10の詳細形状および端子台10へスイッチングモジュール5X等を組み付ける具体例について説明する。図13は、端子台10の平面図である。図14は、端子台10の裏面図である。図15は、端子台10の斜視図である。図16は、電力変換器11の裏面図であって、図14に示した端子台10に6個のスイッチングモジュール5X等を組み付けた組立体としての電力変換器11が示されている。
【0044】
端子台10は、6個のスイッチングモジュール5X、5Y、5Z、6U、6V、6Wを組み付けたときにこれらを収容する6個の収納用凹部100を一方の面側(リヤフレーム24に電力変換器11を組み付けたときにリヤフレーム24の軸方向端面に対向する側)に有する。また、端子台10からは、各スイッチングモジュール5X等に対応して、内径側から1本の配線ターミナル102が、収納用凹部100の底面から2本の配線ターミナル104が突出している。
【0045】
上述したように、スイッチングモジュール5X等のモジュール本体60からは、P端子、BATT端子、GND端子、F端子、ERR端子に対応する接続ターミナル58が突出しており、BATT端子に対応する接続ターミナル58が配線ターミナル102に接続され、F端子、ERR端子に対応する接続ターミナル58が2本の配線ターミナル104のそれぞれに接続される。これらの接続は溶接によって行われるが、一部をはんだ付けによって行うようにしてもよい。
【0046】
ところで、端子台10に対するスイッチングモジュール5X等の組み付けは、各収納用凹部100にモジュール本体60を組み込んだ後に、対応する接続ターミナル58と配線ターミナル102、104を接合し、さらにモジュール本体60の周囲に形成された充填用凹部に熱硬化性の封止材を充填して硬化させることにより行われる。
【0047】
図14に示すように、端子台10の各収納用凹部100には、この収納用凹部100にスイッチングモジュール5X等のモジュール本体60を組み込んだ際にモジュール本体60の一部が当接する3箇所の位置決め部S1、S2、S3が含まれる。これら3箇所の位置決め部S1、S2、S3がモジュール本体60の一部に当接することにより、収納用凹部100内でのモジュール本体60の位置が拘束されるようになっている。これにより、接合対象となる接続ターミナル58と配線ターミナル102、104の位置合わせが行われ、次工程での溶接等が容易となる。
【0048】
また、このようにしてモジュール本体60が収納用凹部100に組み込まれた状態では、図16に示すように、モジュール本体60の側面と収納用凹部100の側面により2箇所に充填用凹部106、108が形成される。これら2箇所の充填用凹部106、108は、端子台10の3箇所の位置決め部S1、S2、S3をモジュール本体60の一部に当接した際に形成されるようになっている。
【0049】
一方の充填用凹部106の内部空間には、モジュール本体60の一の側面から突出するF端子、ERR端子に対応する接続ターミナル58と露出電極59(図11)とが含まれている。この充填用凹部106は、封止材を硬化前に保持可能な閉塞空間がモジュール本体60の側面と収納用凹部100の側面により形成されたものであって、封止材を充填した後に加熱して硬化させることにより、接続ターミナル58と配線ターミナル102、104の接合部を含む露出部分と露出電極59の両方が封止材によって覆われる。
【0050】
他方の充填用凹部108には、モジュール本体60の他の側面から突出する露出電極59(図10)が含まれている。この充填用凹部108は、充填用凹部106と同様に、封止材を硬化前に保持可能な閉塞空間がモジュール本体60の側面と収納用凹部100の側面により形成されたものであって、封止材を充填した後に加熱して硬化させることにより、露出電極59が封止材によって覆われる。
【0051】
このようにして6個のスイッチングモジュール5X等を端子台10に組み付けることにより電力変換器11が形成される。この電力変換器11をリヤフレーム24に組み付けた後に、固定子巻線2、3の各相巻線から引き出される引き出し線55が各スイッチングモジュール5X等のP端子に対応する接続ターミナル58に接続される。
【0052】
なお、上述した説明では、全てのスイッチングモジュール5X等を同じように配線するものとしたが、実際には、図16に示すように端部に配置されたスイッチングモジュール6WのP端子については特異な接続がなされている。具体的には、端子台10には内部で相互に接続された3つの配線ターミナル101A、101B、101Cが備わっている。この中で、配線ターミナル(第3の接続端子)101Aは、固定子巻線6のW相巻線から引き出される引き出し線55に接続される。また、配線ターミナル(第1の接続端子)101Bは、スイッチングモジュール6WのP端子に対応する接続ターミナル58に対応する位置に配置され、この接続ターミナル58に接続される。さらに、配線ターミナル101C(第2の接続端子)は、発電制御装置7が組み付けられた際に発電制御装置7のP端子に接続される。
【0053】
このような配線ターミナル101A、101B、101Cを用いることにより、固定子巻線6のW相の相電圧をスイッチングモジュール6Wと発電制御装置7の両方に取り込むことができ、しかも、スイッチングモジュール6Wのターミナル形状および配置を他のスイッチングモジュール5X等と同じにすることができ、部品点数の削減が可能となる。
【0054】
次に、電力変換器11が組み付けられるリヤフレーム24の軸方向端面の放熱に適した形状について説明する。図17は、リヤフレーム24の平面図である。図18は、リヤフレーム24の斜視図である。これらの図に示すように、リヤフレーム24は、周方向に所定の間隔で配置された6箇所の凸部240と、周方向に隣接する2つの凸部240の間に形成された凹部242と、凹部242の底面に形成されたリブ形状部244とを軸方向端面に有する。
【0055】
凸部240は、平坦な上面部分が、電力変換器11を組み付けた際に6個のスイッチングモジュール5X等のヒートシンク56と全面で対向して接触する。また、凹部242は、周方向に隣接する2つのスイッチングモジュール5X等の間に配置されている。この凹部242は、冷却ファン32(図7)によって発生する冷却風の通路として用いられる。この通路内にリブ形状部244を配置することにより、通路内でのリヤフレーム24の表面積を増大させている。上述した凸部240、凹部242およびリブ形状部244は、延在方向が回転子30の回転軸(図7)を中心とした放射状になるように配置されている。凸部240を放射状に配置することにより、回転子30を回転可能に支持する軸受け36を収納するリヤフレーム24の軸受け収納部248を各凸部240を用いて強固に支えている。また、各凸部240は、回転子30の回転軸を中心とした円弧上に均等な間隔で配置されていることが望ましい。
【0056】
このように、本実施形態の車両用発電機1では、熱容量が大きいリヤフレーム24に各スイッチングモジュール5X等を取り付けることにより、MOSトランジスタ50、51で発生した熱をヒートシンク56を介してリヤフレーム24に伝達することができるため、スイッチングモジュール5X等およびこのスイッチングモジュール5X等を備えた電力変換器11の冷却性を向上させることができる。これにより、仮にスイッチングモジュール5X等にバッテリ9を逆接続して大電流が流れた場合であっても、スイッチングモジュール5X等の温度が急激に上昇することを防止することができ、MOSトランジスタ50、51の破損を回避することができる。また、各スイッチングモジュール5X等の間のリヤフレーム24の軸方向端面には凹部242が形成されているため、この凹部242を冷却風の通路として用いることが可能となり、スイッチングモジュール5X等やリヤフレーム24を直接冷却するとともにより多くの冷却風量を確保することができ、電力変換器11の冷却性をさらに向上させることができる。
【0057】
また、凹部242の底面にリブ形状部244を形成することにより、リヤフレーム24の軸方向端面の表面積が増すため、リヤフレーム24の冷却性を向上させることができ、結果的にスイッチングモジュール5X等や電力変換器11の冷却性をさらに上げることができる。
【0058】
また、リヤフレーム24の軸方向端面には、スイッチングモジュール5X等のヒートシンク56に対向する凸部240が、回転子30の回転軸を中心とした放射状に配置されており、回転子30を回転可能に支持する軸受け36を収納する軸受け収納部248を各凸部240を用いて強固に支えることができ、回転子30の回転時のブレを防止したり、外部から振動が加わった際の回転子30の振動を抑制することが可能となる。
【0059】
また、これらの各凸部240は、回転子30の回転軸を中心とした円弧上に、均等な間隔で配置されているため、強度的なバランスがよくなり、回転子30の回転時のブレや外部から振動が加わった際の回転子30の振動をさらに低減することが可能となる。
【0060】
また、リヤフレーム24には、軸方向端面であって凹部242の内径側に冷却風を通す吸気口246が設けられているため、凹部242内を流れる冷却風の風量を増すことができ、確実にリヤフレーム24の冷却性を向上させることができる。
【0061】
また、リアカバー26にはブラシ装置12に対応する位置にブラシ装置12に向けて冷却風を導入する吸気口28が設けられており、この吸気口28からリヤカバー26内に冷却風を取り込んでブラシ装置12近傍に冷却風を流すことができるため、ブラシ装置12に備わったブラシの冷却性を向上させるとともに、冷却風を利用したブラシ摩耗粉の排出を行う場合にはその排出を効果を高めることができる。
【0062】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。例えば、上述した実施形態では、2つの固定子巻線2、3と2つのスイッチングモジュール群5、6を備えるようにしたが、一方の固定子巻線2と一方のスイッチングモジュール群5を備える車両用発電機についても本発明を適用することができる。また、上述した実施形態では、2つのスイッチングモジュール群5、6のそれぞれに3つのスイッチングモジュールを含ませるようにしたが、スイッチングモジュールの数は3以外であってもよい。また、上述した実施形態では、Y結線された2つの固定子巻線2、3を備えた車両用発電機1について説明したが、Δ結線された固定子巻線を備える車両用発電機についても本発明を適用することができる。
【0063】
また、上述した実施形態では、各スイッチングモジュール5X等を用いて整流動作(発電動作)を行う場合について説明したが、MOSトランジスタ50、51のオン/オフタイミングを変更することにより、バッテリ9から印加される直流電流を交流電流に変換して固定子巻線2、3に供給して電動動作を行わせる車両用回転電機に本発明を適用することができる。
【0064】
また、上述した実施形態では、スイッチングモジュール5X等を端子台10に組み付けて組立体としての電力変換器11を形成し、この電力変換器11をリヤフレーム24の軸方向端面に組み付けるようにしたが、各スイッチングモジュール5X等のそれぞれを別々にリヤフレーム24の軸方向端面に取り付ける場合にも本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
上述したように、本発明によれば、熱容量が大きいフレームに各スイッチングモジュールを取り付けることにより、スイッチング素子で発生した熱をヒートシンクを介してフレームに伝達することができるため、スイッチングモジュールおよびこのスイッチングモジュールを備えた電力変換器の冷却性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 車両用発電機
2、3 固定子巻線
4 界磁巻線
5、6 スイッチングモジュール群
5X、5Y、5Z、6U、6V、6W スイッチングモジュール
7 発電制御装置
9 バッテリ
10 端子台
11 電力変換器
12 ブラシ装置
24 リヤフレーム
26 リヤカバー
27、28、246 吸気口
30 回転子
32 冷却ファン
50、51 MOSトランジスタ
54 制御回路
55 引き出し線
56 ヒートシンク
58 接続ターミナル
60 モジュール本体
100 収納用凹部
102、104 配線ターミナル
106、108 充填用凹部
580 接続部
582 連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界磁巻線への通電によって磁化される回転子と、前記回転子と対向配置された固定子と、前記回転子とともに回転して冷却風を発生させる冷却ファンと、前記回転子と前記固定子とを保持するフレームと、前記固定子に備わった固定子巻線に誘起される交流電流を直流電流に変換してバッテリに供給、または、バッテリから供給される直流電流を交流電流に変換して前記固定子巻線に供給する電力変換器とを備える車両用回転電機において、
前記電力変換器は、それぞれがスイッチング素子と放熱用のヒートシンクとを有する複数のスイッチングモジュールを備え、
前記複数のスイッチングモジュールのそれぞれは、前記フレームの軸方向端面に、この軸方向端面に前記ヒートシンクが対向する向きに取り付けられ、
前記フレームの軸方向端面には、周方向に隣接する2つの前記スイッチングモジュールの間に配置された凹部が形成されていることを特徴とする車両用回転電機。
【請求項2】
請求項1において、
前記凹部は、前記冷却ファンによって発生する冷却風の通路として用いられることを特徴とする車両用回転電機。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記凹部は、底面にリブ形状部を有することを特徴とする車両用回転電機。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記軸方向端面には、前記ヒートシンクに対向する凸部が、前記回転子の回転軸を中心とした放射状に配置されていることを特徴とする車両用回転電機。
【請求項5】
請求項4において、
前記複数のスイッチングモジュールのそれぞれに対応する前記凸部は、前記回転子の回転軸を中心とした円弧上に、均等な間隔で配置されていることを特徴とする車両用回転電機。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記フレームは、前記軸方向端面であって前記凹部の内径側に冷却風を通す第1の吸気口を有することを特徴とする車両用回転電機。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記界磁巻線に通電するためのブラシ装置と、前記ブラシ装置および前記電力変換器を覆うリアカバーとをさらに備え、
前記リアカバーは、前記ブラシ装置に対応する位置に、前記ブラシ装置に向けて冷却風を導入する第2の吸気口を有することを特徴とする車両用回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−110780(P2013−110780A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251484(P2011−251484)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】