車両用変速機の前後進切換装置
【課題】入力軸から出力軸に伝達される内燃機関のトルク変動に伴う捩じり振動を前後進切換装置に既存の遊星歯車機構によって低減することができ、車両用変速機が大型化したり重量が増加してしまうのを抑制することができる車両用変速機の前後進切換装置を提供すること。
【解決手段】前後進切換装置33に遊星歯車機構51とダンパ機構62からなるプラネタリダンパを設け、このプラネタリダンパを、入力要素であるリングギヤ54Rとキャリア54Cとの間にバネ剛性K1のダンパ機構62を介装し、出力要素をサンギヤ54Sとしたものから構成する。
【解決手段】前後進切換装置33に遊星歯車機構51とダンパ機構62からなるプラネタリダンパを設け、このプラネタリダンパを、入力要素であるリングギヤ54Rとキャリア54Cとの間にバネ剛性K1のダンパ機構62を介装し、出力要素をサンギヤ54Sとしたものから構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機の前後進切換装置に関し、特に、遊星歯車機構を利用して車両の進行方向の正逆回転切換えを行う車両用変速機の前後進切換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車等の車両においては、様々な振動が発生する。例えば、車両に発生する振動は、内燃機関であるエンジンの周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うエンジンのトルク変動による回転変動が強制源となり、そのエンジントルクを伝達するクランクシャフトから駆動輪までの捩じり振動が生じ、NV(ノイズ・アンド・バイブレーション)が大きくなる懸念がある。
【0003】
エンジンと変速機との間にトルクコンバータ等の流体伝動装置が組み込まれる場合には、エンジンのトルク変動をトルクコンバータによって低減して変速機側に伝達することができる反面、流体を介在させることによる損失が発生し、燃費の低下を招来してしまう。
【0004】
このため、トルク変動の少ないエンジンの高回転領域において、エンジンと変速機とを一体的に連結することができるロックアップクラッチをトルクコンバータに組み込むことが一般的に行われている。
【0005】
ところで、ロックアップクラッチによってエンジンと変速機とを直結状態にした場合には、エンジンのトルク変動に伴う捩じり振動が変速機に伝わり、NVが大きくなる懸念がある。このため、ロックアップクラッチによってエンジンと変速機とを直結したときに、エンジンのトルク変動に伴う捩じり振動が変速機に伝達するのを抑制するために、通常、ダンパ機構をロックアップクラッチに組み込んでいる。
【0006】
従来のこの種のダンパ機構を有するロックアップクラッチを備えた動力伝達装置としては、図29に示すようなものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
図29において、内燃機関としてのエンジン1の出力軸であるクランクシャフト1aは、トルクコンバータ2に連結されており、エンジン1の出力は、トルクコンバータ2から前後進切換装置3、ベルト式無段変速機4および減速歯車装置5を介して差動歯車装置6に伝達され、左右の駆動輪7L、7Rに分配されるようになっている。なお、図29において、前後進切換装置3およびベルト式無段変速機4が車両用変速機を構成している。
【0008】
トルクコンバータ2は、入力側のポンプインペラ8、出力側のタービンランナ9およびトルク増幅機能を有するステータ10を含んで構成されており、ポンプインペラ8とタービンランナ9との間で流体を介して動力伝達を行うようになっている。
【0009】
また、ポンプインペラ8は、フロントカバー15を介してエンジン1のクランクシャフト1aに連結されており、タービンランナ9は、タービンシャフト11を介して前後進切換装置3に連結されている。
【0010】
トルクコンバータ2にはトルクコンバータ2の入力側と出力側とを直結するロックアップクラッチ12が設けられており、ロックアップクラッチ12は、フロントカバー15の内面に対向して設置されるようにしてタービンランナ9に取付けられている。
【0011】
このロックアップクラッチ12は、係合側油室13内の油圧と解放側油室14内の油圧との差圧を制御することにより、フロントカバー15に完全係合および半係合(スリップ状態での係合)したり、フロントカバー15から解放されるようになっている。
【0012】
そして、ロックアップクラッチ12がフロントカバー15に完全係合されると、ポンプインペラ8とタービンランナ9とが一体回転する。また、ロックアップクラッチ12は、トーションバネを備えたダンパ機構12aを備えており、このダンパ機構12aは、ロックアップクラッチ12がフロントカバー15に完全係合されてポンプインペラ8とタービンランナ9とを一体回転するときに、エンジン1のクランクシャフト1aからトルクコンバータ2を介してタービンシャフト11に伝達される捩じり振動を低減するようになっている。
【0013】
また、前後進切換装置3は、サンギヤ16S、キャリア17C、リングギヤ18Rからなる遊星歯車機構19、前進用クラッチCおよび後進用逆転ブレーキBを備えており、リングギヤ18Rは、トルクコンバータ2のタービンシャフト11に一体的に連結されているとともに、サンギヤ16Sは、ベルト式無段変速機4の入力軸20に一体的に連結されている。
【0014】
また、キャリア17Cとリングギヤ18Rとは、前進用クラッチCを介して選択的に連結されており、キャリア17Cは、後進用逆転ブレーキBを介してベルト式無段変速機4および前後進切換装置3を収納するハウジング21に選択的に固定されるようになっている。
【0015】
そして、前進用クラッチCが係合され、後進用逆転ブレーキBが解放されると、前後進切換装置3が一体回転状態となって前進用動力伝達経路が成立し、この状態で、前進方向の駆動力がベルト式無段変速機4側に伝達される。
【0016】
また、後進用逆転ブレーキBが係合され、前進用クラッチCが解放されると、前後進切換装置3によって後進用動力伝達経路が成立し、この状態で、入力軸20は、タービンシャフト11に対して逆方向に回転し、この後進方向の駆動力がベルト式無段変速機4側に伝達される。
【0017】
また、ベルト式無段変速機4は、入力軸20に取付けられたプライマリプーリ22、出力軸27に取付けられたセカンダリプーリ23およびプライマリプーリ22とセカンダリプーリ23とに巻き掛けられたベルト24を備えており、プライマリプーリ22およびセカンダリプーリ23のV溝22a、23aの幅を変化させてベルト24の掛かり径(有効径)を変更することにより、変速比(=入力軸20の回転数/出力軸27の回転数)が連続的に変化する。
【0018】
また、出力軸27は、減速歯車装置5を介して差動歯車装置6に連結されており、差動歯車装置6は、ドライブシャフト28L、28Rを介して駆動輪7L、7Rに連結されている。
【0019】
ここで、ロックアップクラッチ12を直結してエンジン1とベルト式無段変速機4とを直結したときの2自由度の捩じり振動伝達系の簡易モデルを図30に示す。
図30において、エンジン1からトルクコンバータ2の1次側(ロックアップクラッチ12のダンパ機構12aの上流側)までの慣性をI1、トルクコンバータ2の2次側(ダンパ機構12aの下流側)から前後進切換装置3、ベルト式無段変速機4および差動歯車装置6までの慣性をI2、ダンパ機構12aのバネ剛性をK1、ドライブシャフト28L、28Rのバネ剛性をK2、駆動輪7L、7RをB、慣性I1の回転角θ1、慣性I2の回転角をθ2としたときの捩じり振動伝達系の運動方程式は、下記の式(1)で表される。
【数1】
また、慣性I1に入力されるトルク変動Tinに対して慣性I1から駆動輪7L、7Rに伝達されるトルク変動Tk2の伝達感度は、下記の式(2)で表される。
【数2】
【0020】
したがって、エンジン1とベルト式無段変速機4とをダンパ機構12aを介して直結状態にしたときに、エンジン1から駆動輪7L、7Rに伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減して車両のNVが大きくなるのを防止するためには、上記の式(2)から明らかなように、ダンパ機構12aのバネ剛性K1およびドライブシャフト28L、28Rのバネ剛性K2を低減する方法と、慣性I1、I2を増大させる方法とが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2007−2920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
このような従来のダンパ機構12aを備えた車両用変速機にあっては、ダンパ機構12aのバネ剛性K1を低減するには、例えば、ばね定数が小さく、捩じり量の大きいバネを用いる必要があるが、ダンパ機構12aの捩じり量を大きくするにはダンパ機構12aの搭載スペース等を考慮すると限界があるため、ダンパ機構12aの低剛性化を図ることは困難である。
【0023】
また、ドライブシャフト28L、28Rのバネ剛性K2を大幅に下げることは、車両の運転性が低下してしまうとともに、NVが大きくなるため、事実上不可能である。さらに、慣性I1、I2を増大させると、慣性I1、I2が増大する分だけ、車両用変速機が大型化してしまい、結果的に動力伝達装置が大型化してしまう。
【0024】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、入力軸から出力軸に伝達される内燃機関のトルク変動に伴う捩じり振動を前後進切換装置に既存の遊星歯車機構によって低減することができ、車両用変速機が大型化したり重量が増加してしまうのを抑制することができる車両用変速機の前後進切換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置は、上記目的を達成するため、(1)サンギヤと、リングギヤと、前記サンギヤおよび前記リングギヤの間で動力伝達を行う1つまたは2つのピニオンギヤを回転自在に支持したキャリアとの3要素からなる遊星歯車機構と、後進用逆転ブレーキと、直結クラッチとを備え、前記3要素のうちの1要素を内燃機関から動力が伝達される入力軸に連結される入力要素とし、別の1要素を前記内燃機関の動力を出力する出力軸に連結される出力要素とし、残りの1要素を前記後進用逆転ブレーキで固定することにより前記入力軸への回転を逆転して前記出力軸に伝達し、前記3要素のうちの2要素を相互に前記直結クラッチで結合することにより、前記入力軸の回転を前記入力軸の回転方向と同一回転方向に前記出力軸に伝達するようにした車両用変速機の前後進切換装置において、前記直結クラッチに結合される前記2要素の間にダンパ機構を介装したものから構成されている。
【0026】
このように、リングギヤ、キャリアおよびサンギヤの各要素の中で、直結クラッチに結合される2要素の間にダンパ機構を介装したので、例えば、入力要素と出力要素の捩じり角に対してダンパ機構の捩じり角が小さくなるように、直結クラッチに結合される入力要素および出力要素のいずれか一方と残りの1要素との間にダンパ機構を介装すれば、ダンパ機構の捩じり角を小さくすることができる分だけ、ダンパ機構のトルク反力を小さくすることができる。
このため、前後進切換装置の遊星歯車機構を低剛性のバネと等価なものにすることができ、内燃機関のトルク変動に伴う入力軸から出力軸に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0027】
本発明では、このように、新たな遊星歯車機構を用いることなく、前後進切換装置の既存の遊星歯車機構を用いて内燃機関のトルク変動に伴う入力軸から出力軸に伝達される捩じり振動を低減することができるため、前後進切換装置が搭載される車両用変速機が大型化するのを抑制することができるとともに、車両用変速機の重量が増加するのを抑制することができる。
【0028】
上記(1)に記載の車両用変速機の前後進切換装置において、(2)前記サンギヤの歯数を前記リングギヤの歯数で除した歯数比ρを1以下に設定するとともに、前記3要素のうちの入力要素と出力要素の捩じり角に対して前記ダンパ機構の捩じり角が小さくなるように、前記直結クラッチに結合される前記入力要素および前記出力要素のいずれか一方と前記残りの1要素との間に前記ダンパ機構を介装したものから構成されている。
【0029】
この構成により、入力要素と出力要素の相対的な捩じり角に対してダンパ機構の捩じり角を小さくすることができる分だけ、入力要素に入力される捩じり振動に対してダンパ機構のトルク反力を小さくすることができる。
【0030】
このため、前後進切換装置の遊星歯車機構を低剛性のバネと等価なものにすることができ、入力軸から出力軸に伝達される内燃機関の捩じり振動をダンパ機構によってより効率良く低減することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、入力要素から出力要素に伝達されるトルク変動を前後進切換装置の遊星歯車機構によって低減することができ、変速機の大型化および重量の増加を抑制することができる車両用変速機の前後進切換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第1の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図2】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第1の実施の形態を示す図であり、2自由度の捩じり振動伝達系の簡易モデルである。
【図3】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第1の実施の形態を示す図であり、一般的な1自由度の捩じり振動伝達系の簡易モデルである。
【図4】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第1の実施の形態を示す図であり、プラネタリダンパの簡易モデルである。
【図5】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第1の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図6】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第1の実施の形態を示す図であり、入力要素から出力要素に伝達されるトルク変動のトルク変動伝達率と、エンジンの回転変動周波数の関係を示した図である。
【図7】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第2の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図8】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第2の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図9】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第3の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図10】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第3の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図11】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第4の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図12】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第4の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図13】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第5の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図14】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第5の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図15】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第6の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図16】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第6の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図17】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第7の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図18】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第7の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図19】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第8の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図20】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第8の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図21】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第9の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図22】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第9の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図23】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第10の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図24】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第10の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図25】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第11の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図26】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第11の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図27】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第12の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図28】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第12の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図29】従来の車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図30】従来の2自由度の捩じり振動伝達系の簡易モデルである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の実施の形態について、図面を用いて説明する。
(第1の実施の形態)
図1〜図6は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第1の実施の形態を示す図である。
まず、構成を説明する。
図1の動力伝達装置30は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものである。この動力伝達装置30は、内燃機関としてのエンジン31、トルクコンバータ32、前後進切換装置33、ベルト式無段変速機(CVT)34、減速歯車装置35および差動歯車装置36を備えており、エンジン31の出力は、トルクコンバータ32から前後進切換装置33、ベルト式無段変速機34および減速歯車装置35を介して差動歯車装置36に伝達された後、左右の駆動輪37L、37Rに分配される。
【0034】
なお、本実施の形態では、前後進切換装置33およびベルト式無段変速機34が車両用変速機を構成しており、ベルト式無段変速機34は、前後進切換装置33を備えて構成されている。また、本実施の形態では、トルクコンバータ32、前後進切換装置33、ベルト式無段変速機34、減速歯車装置35および差動歯車装置36によって動力伝達装置30が構成されている。
【0035】
トルクコンバータ32は、流体(フルード)を介して動力伝達を行う流体伝動装置であり、エンジン31のクランクシャフト31aが連結されたフロントカバー38に一体的に設けられるポンプインペラ39と、このポンプインペラ39に対向してフロントカバー38の内面に隣接して設けられるとともに、入力軸としてのタービンシャフト40を介して前後進切換装置33に連結されるタービンランナ41とを備えている。
【0036】
具体的に、ポンプインペラ39とタービンランナ41とには、図示しない多数のブレードが設けられており、ポンプインペラ39が回転することによりフルードの螺旋流を生じさせ、その螺旋流をタービンランナ41に送ることによりタービンランナ41にトルクを与えて回転させるようになっている。
【0037】
ポンプインペラ39とタービンランナ41との内周側の部分には、タービンランナ41から送り出されたフルードの流動方向を変化させてポンプインペラ39に流入させるステータ42が配置されている。
【0038】
このステータ42は、一方向クラッチ43を介して中空軸44に連結されている。また、ポンプインペラ39には図示しない油圧制御回路に作動油を供給するためのオイルポンプ45が設けられており、このオイルポンプ45は、エンジン31により回転駆動されることによって油圧を発生するようになっている。
また、トルクコンバータ32は、ロックアップクラッチ46を備えており、このロックアップクラッチ46は、ポンプインペラ39、タービンランナ41およびステータ42からなるトルクコンバータ32に対して並列に配置され、フロントカバー38の内面に対向した状態でタービンランナ41に保持されている。
【0039】
そして、ロックアップクラッチ46は、油圧によってフロントカバー38の内面に押し付けられることにより、フロントカバー38からタービンランナ41に直接的にトルクを伝達するようになっている。
【0040】
具体的には、ロックアップクラッチ46は、油圧制御回路により、係合側油圧室47に供給されるロックアップ係合油圧と解放側油圧室48に供給されるロックアップ解放油圧との差圧を制御することによって、フロントカバー38に完全係合および半係合(スリップ状態での係合)または解放されるようになっている。
【0041】
ロックアップクラッチ46をフロントカバー38に完全係合させることにより、フロントカバー38、ポンプインペラ39およびタービンランナ41が一体回転する。また、ロックアップクラッチ46を所定のスリップ状態(半係合状態)でフロントカバー38に係合させることにより、駆動時には所定のスリップ量でタービンランナ41がポンプインペラ39に追従して回転する。一方、ロックアップ差圧を負に設定することにより、ロックアップクラッチ46はフロントカバー38に対して解放状態となる。
【0042】
前後進切換装置33は、シングルピニオンギヤ型の遊星歯車機構51と、直結クラッチとしての前進用クラッチ52Cと、後進用逆転ブレーキとしての後進用逆転ブレーキ53Bとを備えている。
【0043】
遊星歯車機構51のサンギヤ54Sは、ベルト式無段変速機34の入力軸(出力軸)61に一体的に連結されており、リングギヤ54Rは、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に一体的に連結されている。
【0044】
キャリア54Cおよびリングギヤ54Rは、前進用クラッチ52Cを介して選択的に連結されるようになっており、キャリア54Cは、後進用逆転ブレーキ53Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0045】
サンギヤ54Sとリングギヤ54Rとの間には、サンギヤ54Sおよびリングギヤ54Rに噛合するピニオンギヤ54Pが配置されており、このピニオンギヤ54Pは、キャリア54Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0046】
前進用クラッチ52Cおよび後進用逆転ブレーキ53Bは、いずれも油圧アクチュエータによって係合および解放される油圧式の走行用摩擦係合要素である。前進用クラッチ52Cが係合されるとともに後進用逆転ブレーキ53Bが解放されることにより、前後進切換装置33は一体回転状態となり、前後進切換装置33において前進用動力伝達経路が成立する。この状態では、入力軸61は、タービンシャフト40に対して同方向に回転し、この前進方向の駆動力がベルト式無段変速機34側に伝達される。
【0047】
一方、後進用逆転ブレーキ53Bが係合されるとともに前進用クラッチ52Cが解放されることにより、前後進切換装置33において後進用動力伝達経路が成立する。この状態では、入力軸61はタービンシャフト40に対して逆方向に回転し、この後進方向の駆動力がベルト式無段変速機34側に伝達される。
【0048】
また、前進用クラッチ52Cおよび後進用逆転ブレーキ53Bが共に解放されると、前後進切換装置33は、エンジン31とベルト式無段変速機34との間の動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)になる。
【0049】
すなわち、本実施の形態の前後進切換装置33は、サンギヤ54Sと、リングギヤ54Rと、サンギヤ54Sおよびリングギヤ54Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ54Pを回転自在に支持したキャリア54Cとの3要素から遊星歯車機構51が構成されている。
【0050】
これら3要素のうちのリングギヤ54Rをエンジン31からの動力が伝達されるタービンシャフト40に連結された入力要素とし、サンギヤ54Sを、エンジン31からの動力を出力する入力軸61に連結された出力要素とし、前進用クラッチ52Cを解放してキャリア54Cを後進用逆転ブレーキ53Bで固定することにより、タービンシャフト40およびリングギヤ54Rの回転を逆転してサンギヤ54Sおよび入力軸61に伝達し、後進用逆転ブレーキ53Bを解放してリングギヤ54Rとキャリア54Cとを相互に前進用クラッチ52Cで結合することにより、タービンシャフト40およびリングギヤ54Rの回転をタービンシャフト40およびサンギヤ54Sの回転方向と同一回転方向にサンギヤ54Sおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0051】
また、本実施の形態では、前進用クラッチ52Cによって結合されるリングギヤ54Rとキャリア54Cとの間にはダンパ機構62が介装されており、このダンパ機構62は、遊星歯車機構51に対してトルクコンバータ32のタービンシャフト40側(エンジン31側)に設けられている。
【0052】
ダンパ機構62は、前進用クラッチ52Cに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ52Cに係合されたときにリングギヤ54Rと一体回転する円板状のプレート63と、キャリア54Cに取付けられ、キャリア54Cと一体回転する円板状のプレート64と、プレート63およびプレート64の間に介装され、遊星歯車機構51の回転方向に伸縮自在なトーションバネ65とから構成されており、プレート63とプレート64が相対回転したときにトーションバネ65を撓ませることにより、プレート63とプレート64とを一体的に回転させるようになっている。このように、リングギヤ54Rおよびキャリア54Cは、ダンパ機構62を介して弾性的に連結される。
【0053】
また、本実施の形態の遊星歯車機構51は、サンギヤ54Sの歯数をリングギヤ54Rの歯数で除した歯数比ρを1以下に設定するとともに、入力要素であるリングギヤ54Rと出力要素であるサンギヤ54Sの捩じり角に対してダンパ機構62の捩じり角が小さくなるように、前進用クラッチ52Cに結合されるリングギヤ54Rとキャリア54Cとの間にダンパ機構62を介装している。
なお、トーションバネ65は、プレート63およびプレート64の円周方向に離隔して複数個設けられている。
【0054】
ベルト式無段変速機34は、油圧により伝動ベルト66を挟圧して動力を伝達するとともにその伝動ベルト66の掛かり径を変更して変速比を変化させるものである。ベルト式無段変速機34は、入力軸61に設けられたプライマリプーリ67と、出力軸69に設けられたセカンダリプーリ68と、プライマリプーリ67およびセカンダリプーリ68に巻き掛けられた金属製の伝動ベルト66とを備えている。
そして、ベルト式無段変速機34は、プライマリプーリ67およびセカンダリプーリ68と伝動ベルト66との間の摩擦力を介して動力伝達が行われるように構成されている。
【0055】
プライマリプーリ67は、有効径が可変な可変プーリであって、入力軸61に固定された固定シーブ67aと、入力軸61に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ67bとによって構成されている。
セカンダリプーリ68は、有効径が可変な可変プーリであって、出力軸69に固定された固定シーブ68aと、出力軸69に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ68bとによって構成されている。
【0056】
プライマリプーリ67の可動シーブ67b側には、固定シーブ67aと可動シーブ67bとの間のV溝72の幅を変更するための油圧アクチュエータ70が設けられている。また、セカンダリプーリ68の可動シーブ68b側には、固定シーブ68aと可動シーブ68bとの間のV溝73の幅を変更するための油圧アクチュエータ71が設けられている。
【0057】
そして、ベルト式無段変速機34において、プライマリプーリ67の油圧アクチュエータ70の油圧(変速油圧)を制御することにより、プライマリプーリ67およびセカンダリプーリ68のV溝72、73の幅を変化させて伝動ベルト66の掛かり径(有効径)を変更し、変速比(=入力軸61の回転数/出力軸69の回転数)を連続的に変化させることができる。
【0058】
また、セカンダリプーリ68の油圧アクチュエータ71の油圧(挟圧油圧)は、伝動ベルト66の滑りが生じない範囲で伝達トルクを伝達する所定のベルト挟圧力(摩擦力)を発生させるように制御される。
【0059】
また、出力軸69は、減速歯車装置35を介して差動歯車装置36に連結されており、差動歯車装置36は、ドライブシャフト74L、74Rを介して駆動輪37L、37Rに連結されている。
【0060】
次に、前進用クラッチ52Cによってリングギヤ54Rとキャリア54Cとを連結したときの2自由度の捩じり振動伝達系の簡易モデルを図2に示す。
図2において、エンジン31およびトルクコンバータ32の二次側(エンジン31からトルクコンバータ32のタービンランナ41まで)の慣性をI1、ベルト式無段変速機34のプライマリプーリ67から差動歯車装置36までの慣性をI2、ダンパ機構62および遊星歯車機構51(以下、ダンパ機構62と遊星歯車機構51をプラネタリダンパ76ともいう)のバネ剛性をK1、ドライブシャフト28L、28Rのバネ剛性をK2、駆動輪をB、慣性I1の回転角θ1、慣性I2の回転角をθ2としたときの動力伝達装置の運動方程式は、下記の式(3)で表される。
【数3】
したがって、プラネタリダンパ76のバネ剛性K1´は、等価的に下記の式(4)で示すものになる。
【0061】
【数4】
プラネタリダンパ76のバネ剛性が等価的に上記の式(4)に示すようになるのは、以下の理由による。
【0062】
一般的なバネ剛性は、図3で示すように慣性I1がθだけ回転したとき、剛性Kのバネのトルク反力Tは、T=−K・θで表される。
【0063】
次に、本実施の形態のプラネタリダンパ76のバネ剛性を図4、図5(a)に基づいて説明する。図4、図5(a)は、プラネタリダンパ76を模式的に示す図である。図4、図5(a)において、本実施の形態のプラネタリダンパ76は、入力要素であるリングギヤ54Rとキャリア54Cとの間にバネ剛性K1のダンパ機構62を介装し、出力要素をサンギヤ54Sとしたものから構成されており、バネ剛性K1のダンパ機構62を有するプラネタリダンパ76のバネ剛性がK1´となる。
なお、ダンパ機構62のバネ剛性K1は、実際にはトーションバネ65のバネ剛性であるが、説明の便宜上、バネ剛性は、ダンパ機構62のバネ剛性として表現する。また、ダンパ機構62の変位角(捩じり角)は、実際にはトーションバネ65の捩じり角であるが、説明の便宜上、捩じり角は、ダンパ機構62の捩じり角として表現する。
【0064】
図4において、慣性I1が回転角θ1で回転したときの遊星歯車機構51のサンギヤ54S、リングギヤ54R、キャリア54Cのそれぞれの回転角をθs、θr、θcと表現すると、遊星歯車機構のサンギヤ54Sおよびリングギヤ54Rの変位角は、θr=θ1,θs=0であるため、ダンパ機構62の変位角(捩じり角)θ1´は、下記の式(5)で表される。ここで、ρ=(Zs/Zr)であり、Zsは、サンギヤ54Sの歯数、Zrは、リングギヤ54Rの歯数を表す。また、本実施の形態では、歯数比ρをρ<1に設定している。
【数5】
このとき、ダンパ機構62の両端、すなわち、トーションバネ65のリングギヤ54R側とキャリア54C側とに発生するトルクTkは、下記の式(6)で表される。
【数6】
したがって、慣性I1に発生するトルク反力Tは、下記の式(7)のように表される。
【数7】
したがって、プラネタリダンパ76のバネ剛性K1´は、下記の式(8)のようになるのである。
【数8】
また、このプラネタリダンパ76の共線図は、図5(b)のように表され、ダンパ機構62の変位角(捩じり角)に着目すると、ダンパ機構62の変位角(捩じり角)θ1´は、下記の式(9)で表される。
【数9】
【0065】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ76は、ρ<1に設定するとともに、前進用クラッチ52Cによってリングギヤ54Rとキャリア54Cとを直結したときに、入力要素であるリングギヤ54Rと出力要素であるサンギヤ54Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構62の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ54Rと残りの1要素であるキャリア54Cとの間にダンパ機構62を介装することにより、ダンパ機構62の捩じり角θ1´を小さくすることができる分だけ、リングギヤ54Rに入力される捩じり振動に対してダンパ機構62のトルク反力を小さくすることができる。
このため、プラネタリダンパ76のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができるのである。
【0066】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32および入力軸61からリングギヤ54Rに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構62で吸収することができ、キャリア54Cからサンギヤ54Sを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、NV(ノイズ・アンド・バイブレーション)が大きくなるのを防止することができる。
【0067】
このように、本実施の形態では、前後進切換装置33に設けられた既存の遊星歯車機構51を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0068】
また、本実施の形態では、車両の後進時には、後進用逆転ブレーキ53Bを介してキャリア54Cを動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定することができるため、前後進切換装置33の本来の機能を損なうことがない。
【0069】
また、本実施の形態では、プラネタリダンパ76を低剛性のバネと等価にすることができるため、従来のようにロックアップクラッチにダンパ機構を設けるのを不要にできる。 また、本実施の形態のプラネタリダンパ76は、振動特性の実験を行った結果、ロックアップクラッチに設けられた従来のダンパ機構に対して捩じり振動を20dB程度低減することが分かった。
【0070】
図6は、入力要素であるリングギヤ54Rに入力されるトルク変動と出力要素であるサンギヤ54Sから出力されるトルク変動のトルク変動伝達率と、エンジンの回転変動周波数の関係を示したものである。
【0071】
通常の4気筒エンジンの場合には、従来のダンパ機構を有するロックアップクラッチのロックアップ回転数が1000rpm以上(エンジンの回転変動周波数帯域は、33Hz以上)となるのに対して、本実施の形態のプラネタリダンパ76は、トルク変動伝達率を20dB以上低減することができることが確認された。
【0072】
このため、本実施の形態では、ロックアップ回転数のエンジン回転変動周波数を22Hz程度に下げてエンジン回転数を660rpm程度の低回転数に設定することができ、エンジン31の燃費を低減することができる。
【0073】
(第2の実施の形態)
図7、図8は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第2の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図7において、前後進切換装置81は、シングルピニオンギヤ型の遊星歯車機構82と、直結クラッチとしての前進用クラッチ83Cと、後進用逆転ブレーキとしての後進用逆転ブレーキ84Bとを備えている。
【0074】
遊星歯車機構82のサンギヤ85Sは、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に一体的に連結されており、サンギヤ85Sにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。また、リングギヤ85Rは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に一体的に連結されており、リングギヤ85Rは、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0075】
キャリア85Cおよびリングギヤ85Rは、前進用クラッチ83Cを介して選択的に連結されるようになっており、キャリア85Cは、後進用逆転ブレーキ84Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0076】
サンギヤ85Sとリングギヤ85Rとの間には、サンギヤ85Sおよびリングギヤ85Rに噛合するピニオンギヤ85Pが配置されており、ピニオンギヤ85Pは、キャリア85Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0077】
本実施の形態の前後進切換装置81は、サンギヤ85Sと、リングギヤ85Rと、サンギヤ85Sおよびリングギヤ85Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ85Pを回転自在に支持したキャリア85Cとの3要素から遊星歯車機構82が構成されている。
【0078】
これら3要素のうちのサンギヤ85Sをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、リングギヤ85Rをエンジン31からの動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、キャリア85Cを後進用逆転ブレーキ84Bで固定することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ85Sの回転を逆転してリングギヤ85Rおよび入力軸61に伝達し、リングギヤ85Rとキャリア85Cを相互に前進用クラッチ83Cで結合することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ85Sの回転をタービンシャフト40およびサンギヤ85Sの回転方向と同一回転方向にリングギヤ85Rおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0079】
また、前進用クラッチ83Cによって結合されるリングギヤ85Rとキャリア85Cとの間にはダンパ機構86が介装されており、このダンパ機構86は、遊星歯車機構82に対してベルト式無段変速機34の入力軸61側に設けられている。
【0080】
このダンパ機構86は、前進用クラッチ83Cに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ83Cに係合されたときにリングギヤ85Rと一体回転する円板状のプレート86aと、キャリア85Cに取付けられ、キャリア85Cと一体回転するプレート86bと、プレート86aおよびプレート86bの間に介装され、遊星歯車機構82の回転方向に伸縮自在なトーションバネ86cとから構成されており、プレート86aとプレート86bが相対回転したときにトーションバネ86cを撓ませることにより、プレート86aとプレート86bとを一体的に回転させるようになっている。このように、リングギヤ85Rおよびキャリア85Cは、ダンパ機構86を介して弾性的に連結される。
【0081】
図8(a)に示すように、遊星歯車機構82とダンパ機構86によって構成されるプラネタリダンパ87のバネ剛性K1´は、等価的に第1の実施の形態の上記の式(8)で示すものと同様のものとなり、このプラネタリダンパ87の共線図は、図8(b)のように表される。
また、図8(b)から明らかなように、ダンパ機構62の変位角(捩じり角)θ1´は、第1の実施の形態の上記の式(9)と同様のものとなる。
【0082】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ87は、ρ<1に設定し、図8(b)に示すように、前進用クラッチ83Cによってリングギヤ85Rとキャリア85Cとを直結したときに、入力要素であるサンギヤ85Sと出力要素であるリングギヤ85Rの捩じり角θ1に対してダンパ機構86の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ85Rとキャリア85Cとの間にダンパ機構86を介装することにより、ダンパ機構86の捩じり角θ1´を小さくすることができる分だけ、サンギヤ85Sに入力される捩じり振動に対してダンパ機構86のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ87のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0083】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からサンギヤ85Sに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構86で吸収することができ、キャリア85Cからリングギヤ85Rを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0084】
このように、本実施の形態では、前後進切換装置81に設けられた既存の遊星歯車機構82を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0085】
(第3の実施の形態)
図9、図10は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第3の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図9において、前後進切換装置91は、シングルピニオンギヤ型の遊星歯車機構92と、直結クラッチとしての前進用クラッチ93Cと、後進用逆転ブレーキとしての後進用逆転ブレーキ94Bとを備えている。
【0086】
遊星歯車機構92のキャリア95Cは、前進用クラッチ93Cを介してタービンシャフト40に係合および解放自在に設けられている。タービンシャフト40にはフランジ部98が設けられており、キャリア95Cが前進用クラッチ93Cに係合されると、キャリア95Cは、フランジ部98を介してタービンシャフト40に連結されることにより、キャリア95Cにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0087】
また、サンギヤ95Sは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に一体的に連結されており、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。また、キャリア95Cおよびリングギヤ95Rは、前進用クラッチ93Cを介して選択的に連結されるようになっており、キャリア95Cは、後進用逆転ブレーキ94Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0088】
サンギヤ95Sとリングギヤ95Rとの間には、サンギヤ95Sおよびリングギヤ95Rに噛合するピニオンギヤ95Pが配置されており、ピニオンギヤ95Pは、キャリア95Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0089】
本実施の形態の前後進切換装置91は、サンギヤ95Sと、リングギヤ95Rと、サンギヤ95Sおよびリングギヤ95Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ95Pを回転自在に支持したキャリア95Cとの3要素から遊星歯車機構92が構成されている。
【0090】
これら3要素のうちのキャリア95Cを、エンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、サンギヤ95Sを、エンジン31からの動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、キャリア95Cを後進用逆転ブレーキ94Bで固定することにより、タービンシャフト40およびリングギヤ95Rの回転を逆転してサンギヤ95Sおよび入力軸61に伝達し、リングギヤ95Rとキャリア95Cを相互に前進用クラッチ93Cで結合することにより、タービンシャフト40およびキャリア95Cの回転をタービンシャフト40およびキャリア95Cの回転方向と同一回転方向にサンギヤ95Sおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0091】
また、本実施の形態では、前進用クラッチ93Cによって結合されるリングギヤ95Rとキャリア95Cとの間にはダンパ機構96が介装されており、このダンパ機構96は、遊星歯車機構92に対してトルクコンバータ32のタービンシャフト40側(エンジン31側)に設けられている。
【0092】
このダンパ機構96は、リングギヤ95Rに取付けられ、リングギヤ95Rと一体的に回転する円板状のプレート96aと、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に取付けられてタービンシャフト40と一体的に回転する円板状のプレート96bと、プレート96aおよびプレート96bの間に介装され、遊星歯車機構92の回転方向に伸縮自在なトーションバネ96cとから構成されており、プレート96aとプレート96bが相対回転したときにトーションバネ96cを撓ませることにより、プレート96aとプレート96bとを一体的に回転させるようになっている。このように、リングギヤ95Rおよびキャリア95Cは、ダンパ機構96を介して弾性的に連結される。
【0093】
また、本実施の形態の遊星歯車機構92は、入力要素であるキャリア95Cと出力要素であるサンギヤ95Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構96の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア95Cと残りの1要素であるリングギヤ95Rとの間にダンパ機構96を介装している。
【0094】
このため、図10(a)に示すように、遊星歯車機構92とダンパ機構96とによって構成されるプラネタリダンパ97のバネ剛性K1´は、K1´=ρ2・K1と等価なものとなり、このプラネタリダンパ97の共線図は、図10(b)のように表される。
図10(b)から明らかなように、ダンパ機構96の捩じり角θ1´は、
(数10)
θ1´=ρ・θ1.........(10)
となる。
【0095】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ97は、ρ<1に設定し、図10(b)に示すように、前進用クラッチ93Cによってリングギヤ95Rとキャリア95Cとを直結したときに、入力要素であるキャリア95Cと出力要素であるサンギヤ95Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構96の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア95Cとリングギヤ95Rとの間にダンパ機構96を介装することにより、ダンパ機構96の捩じり角を小さくすることができる分だけ、キャリア95Cに入力される捩じり振動に対してダンパ機構96のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ97のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0096】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からリングギヤ95Rに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構96で吸収することができ、キャリア95Cからサンギヤ95Sを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0097】
このように、本実施の形態では、前後進切換装置81に設けられた既存の遊星歯車機構82を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0098】
(第4の実施の形態)
図11、図12は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第4の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図11において、前後進切換装置101は、シングルピニオンギヤ型の遊星歯車機構102と、直結クラッチとしての前進用クラッチ103Cと、後進用逆転ブレーキとしての後進用逆転ブレーキ104Bとを備えている。
【0099】
遊星歯車機構102のサンギヤ105Sは、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に一体的に連結されており、エンジン31からの動力が入力されるようになっている。
【0100】
キャリア105Cは、前進用クラッチ103Cを介して入力軸61に係合および解放自在に設けられている。入力軸61にはフランジ部108が設けられており、キャリア105Cが前進用クラッチ103Cに係合されると、キャリア105Cは、フランジ部108を介して入力軸61に連結されることにより、キャリア105Cから入力軸61にエンジン31の動力が出力されるようになっている。
【0101】
キャリア105Cおよびリングギヤ105Rは、前進用クラッチ103Cを介して選択的に連結されるようになっており、キャリア105Cは、後進用逆転ブレーキ104Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0102】
サンギヤ105Sとリングギヤ105Rとの間には、サンギヤ105Sおよびリングギヤ105Rに噛合するピニオンギヤ105Pが配置されており、ピニオンギヤ105Pは、キャリア105Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0103】
本実施の形態の前後進切換装置101は、サンギヤ105Sと、リングギヤ105Rと、サンギヤ105Sおよびリングギヤ105Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ105Pを回転自在に支持したキャリア105Cとの3要素から遊星歯車機構102が構成されている。
【0104】
これら3要素のうちのサンギヤ105Sをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、キャリア105Cをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、キャリア105Cを後進用逆転ブレーキ104Bで固定することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ105Sの回転を逆転してリングギヤ105Rおよび入力軸61に伝達し、リングギヤ105Rとキャリア105Cを相互に前進用クラッチ103Cで結合することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ105Sの回転をタービンシャフト40およびサンギヤ105Sの回転方向と同一回転方向にキャリア105Cおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0105】
また、前進用クラッチ103Cによって結合されるリングギヤ105Rとキャリア105Cとの間にはダンパ機構106が介装されており、このダンパ機構106は、遊星歯車機構102に対してベルト式無段変速機34の入力軸61側に設けられている。
【0106】
このダンパ機構106は、リングギヤ105Rに取付けられ、リングギヤ105Rと一体的に回転する円板状のプレート106aと、入力軸61に取付けられて入力軸61と一体的に回転する円板状のプレート106bと、プレート106aおよびプレート106bの間に介装され、遊星歯車機構102の回転方向に伸縮自在なトーションバネ106cとから構成されており、プレート106aとプレート106bが相対回転したときにトーションバネ106cを撓ませることにより、プレート106aとプレート106bとを一体的に回転させるようになっている。このように、リングギヤ105Rおよびキャリア105Cは、ダンパ機構106を介して弾性的に連結される。
【0107】
また、本実施の形態の遊星歯車機構102は、入力要素であるサンギヤ105Sと出力要素であるキャリア105Cの捩じり角θ1に対してダンパ機構106の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア105Cと残りの1要素であるリングギヤ105Rとの間にダンパ機構106を介装している。
【0108】
このため、図12(a)に示すように、遊星歯車機構102とダンパ機構106とによって構成されるプラネタリダンパ107のバネ剛性K1´は、K1´=ρ2・K1と等価なものとなり、このプラネタリダンパ107の共線図は、図12(b)のように表される。
図12(b)から明らかなように、ダンパ機構106の捩じり角θ1´は、
(数11)
θ1´=ρ・θ1.........(11)
となる。
【0109】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ107は、ρ<1に設定し、図12(b)に示すように、前進用クラッチ103Cによってリングギヤ105Rとキャリア105Cとを直結したときに、入力要素であるサンギヤ105Sと出力要素であるキャリア105Cの捩じり角θ1に対してダンパ機構106の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア105Cとリングギヤ105Rとの間にダンパ機構106を介装することにより、ダンパ機構106の捩じり角を小さくすることができる分だけ、サンギヤ105Sに入力される捩じり振動に対してダンパ機構106のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ107のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0110】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からリングギヤ105Rに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構106で吸収することができ、サンギヤ105Sからキャリア105Cを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0111】
このように、本実施の形態では、前後進切換装置101に設けられた既存の遊星歯車機構102を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0112】
(第5の実施の形態)
図13、図14は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第5の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図13において、前後進切換装置111は、シングルピニオンギヤ型の遊星歯車機構112と、直結クラッチとしての前進用クラッチ113Cと、後進用逆転ブレーキとしての後進用逆転ブレーキ114Bとを備えている。
【0113】
遊星歯車機構112のサンギヤ115Sは、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に一体的に連結されており、サンギヤ115Sにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0114】
また、リングギヤ115Rは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に一体的に連結されており、リングギヤ115Rは、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0115】
サンギヤ115Sおよびキャリア115Cは、前進用クラッチ113Cを介して選択的に連結されるようになっており、キャリア115Cは、後進用逆転ブレーキ114Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0116】
サンギヤ115Sとリングギヤ115Rとの間には、サンギヤ115Sおよびリングギヤ115Rに噛合するピニオンギヤ115Pが配置されており、ピニオンギヤ115Pは、キャリア115Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0117】
本実施の形態の前後進切換装置111は、サンギヤ115Sと、リングギヤ115Rと、サンギヤ115Sおよびリングギヤ115Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ115Pを回転自在に支持したキャリア115Cとの3要素から遊星歯車機構112が構成されている。
【0118】
これら3要素のうちのサンギヤ115Sをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、リングギヤ115Rをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、キャリア115Cを後進用逆転ブレーキ114Bで固定することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ115Sの回転を逆転してリングギヤ115Rおよび入力軸61に伝達し、サンギヤ115Sとキャリア115Cを相互に前進用クラッチ113Cで結合することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ115Sの回転をタービンシャフト40およびサンギヤ115Sの回転方向と同一回転方向にリングギヤ115Rおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0119】
また、本実施の形態では、前進用クラッチ113Cによって結合されるサンギヤ115Sとキャリア115Cとの間にはダンパ機構116が介装されており、このダンパ機構116は、遊星歯車機構112に対してトルクコンバータ32のタービンシャフト40側(エンジン31側)に設けられている。
【0120】
このダンパ機構116は、トルクコンバータ32のタービンシャフト40を介してサンギヤ115Sに取付けられ、サンギヤ115Sと一体的に回転する円板状のプレート116aと、前進用クラッチ113Cに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ113Cに係合したときにキャリア115Cと一体回転する円板状のプレート116bと、プレート116aおよびプレート116bの間に介装され、遊星歯車機構112の回転方向に伸縮自在なトーションバネ116cとから構成されており、プレート116aとプレート116bが相対回転したときにトーションバネ116cを撓ませることにより、プレート116aとプレート116bとを一体的に回転させるようになっている。このように、サンギヤ115Sおよびキャリア115Cは、ダンパ機構116を介して弾性的に連結される。
【0121】
また、本実施の形態の遊星歯車機構112は、入力要素であるサンギヤ115Sと出力要素であるリングギヤ115Rの捩じり角θ1に対してダンパ機構116の捩じり角θ1´が小さくなるように、サンギヤ115Sと残りの1要素であるキャリア115Cとの間にダンパ機構116を介装している。
【0122】
このため、図14(a)に示すように、遊星歯車機構112とダンパ機構116とによって構成されるプラネタリダンパ117のバネ剛性K1´は、下記の式(12)に示すものと等価なものとなり、このプラネタリダンパ117の共線図は、図14(b)のように表される。
【数12】
図14(b)から明らかなように、ダンパ機構116の捩じり角θ1´は、下記の式(13)に示されるものとなる。
【数13】
【0123】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ117は、ρ<1に設定し、図14(b)に示すように、前進用クラッチ113Cによってサンギヤ115Sとキャリア115Cとを直結したときに、入力要素であるサンギヤ115Sと出力要素であるリングギヤ115Rの捩じり角θ1に対してダンパ機構116の捩じり角θ1´が小さくなるように、サンギヤ115Sとキャリア115Cとの間にダンパ機構116を介装することにより、ダンパ機構116の捩じり角を小さくすることができる分だけ、サンギヤ115Sに入力される捩じり振動に対してダンパ機構116のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ117のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0124】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からサンギヤ115Sに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構116で吸収することができ、サンギヤ115Sからリングギヤ115Rを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0125】
このように、本実施の形態では、前後進切換装置111に設けられた既存の遊星歯車機構112を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0126】
(第6の実施の形態)
図15、図16は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第6の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図15において、前後進切換装置121は、シングルピニオンギヤ型の遊星歯車機構122と、直結クラッチとしての前進用クラッチ123Cと、後進用逆転ブレーキ124Bとを備えている。
【0127】
遊星歯車機構122のリングギヤ125Rは、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に一体的に連結されており、リングギヤ125Rにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0128】
また、サンギヤ125Sは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に一体的に連結されており、サンギヤ125Sは、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0129】
サンギヤ125Sおよびキャリア125Cは、前進用クラッチ123Cを介して選択的に連結されるようになっており、キャリア125Cは、後進用逆転ブレーキ124Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0130】
サンギヤ125Sとリングギヤ125Rとの間には、サンギヤ125Sおよびリングギヤ125Rに噛合するピニオンギヤ125Pが配置されており、ピニオンギヤ125Pは、キャリア125Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0131】
本実施の形態の前後進切換装置121は、サンギヤ125Sと、リングギヤ125Rと、サンギヤ125Sおよびリングギヤ125Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ125Pを回転自在に支持したキャリア125Cとの3要素から遊星歯車機構122が構成されている。
【0132】
これら3要素のうちのリングギヤ125Rをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、サンギヤ125Sをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、キャリア125Cを後進用逆転ブレーキ124Bで固定することにより、タービンシャフト40およびリングギヤ125Rの回転を逆転してサンギヤ125Sおよび入力軸61に伝達し、サンギヤ125Sとキャリア125Cを相互に前進用クラッチ123Cで結合することにより、タービンシャフト40およびリングギヤ125Rの回転をタービンシャフト40およびリングギヤ125Rの回転方向と同一回転方向にサンギヤ125Sおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0133】
また、前進用クラッチ123Cによって結合されるサンギヤ125Sとキャリア125Cとの間にはダンパ機構126が介装されており、このダンパ機構126は、遊星歯車機構122に対してベルト式無段変速機34の入力軸61側に設けられている。
【0134】
このダンパ機構126は、入力軸61を介してサンギヤ125Sに取付けられ、サンギヤ125Sと一体的に回転する円板状のプレート126aと、前進用クラッチ123Cに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ123Cに係合したときにキャリア125Cと一体回転する円板状のプレート126bと、プレート126aおよびプレート126bの間に介装され、遊星歯車機構122の回転方向に伸縮自在なトーションバネ126cとから構成されており、プレート126aとプレート126bが相対回転したときにトーションバネ126cを撓ませることにより、プレート126aとプレート126bとを一体的に回転させるようになっている。このように、サンギヤ125Sおよびキャリア125Cは、ダンパ機構126を介して弾性的に連結される。
【0135】
また、本実施の形態の遊星歯車機構122は、入力要素であるリングギヤ125Rと出力要素であるサンギヤ125Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構126の捩じり角θ1´が小さくなるように、サンギヤ125Sと残りの1要素であるキャリア125Cとの間にダンパ機構126を介装している。
【0136】
このため、図16(a)に示すように、遊星歯車機構122とダンパ機構126とによって構成されるプラネタリダンパ127のバネ剛性K1´は、下記の式(14)に示すものと等価なものとなり、プラネタリダンパ127の共線図は、図16(b)のように表される。
【数14】
図16(b)から明らかなように、ダンパ機構126の捩じり角θ1´は、下記の式(15)に示されるものとなる。
【数15】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ127は、ρ<1に設定し、図16(b)に示すように、前進用クラッチ123Cによってサンギヤ125Sとキャリア125Cとを直結したときに、入力要素であるリングギヤ125Rと出力要素であるサンギヤ125Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構126の捩じり角θ1´が小さくなるように、サンギヤ125Sとキャリア125Cとの間にダンパ機構126を介装することにより、ダンパ機構126の捩じり角θ1´を小さくすることができる分だけ、リングギヤ125Rに入力される捩じり振動に対してダンパ機構126のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ127のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0137】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からリングギヤ125Rを介してキャリア125Cに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構126で吸収することができ、キャリア125Cからサンギヤ125Sを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0138】
さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0139】
このように、本実施の形態では,前後進切換装置121に設けられた既存の遊星歯車機構122を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0140】
(第7の実施の形態)
図17、図18は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第7の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図17において、前後進切換装置131は、ダブルピニオンギヤ型の遊星歯車機構132と、直結クラッチとしての前進用クラッチ133Cと、後進用逆転ブレーキ134Bとを備えている。
【0141】
遊星歯車機構132のキャリア135Cは、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に連結されており、キャリア135Cにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0142】
また、サンギヤ135Sは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に一体的に連結されており、サンギヤ135Sは、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0143】
キャリア135Cおよびリングギヤ135Rは、前進用クラッチ133Cを介して選択的に連結されるようになっており、リングギヤ135Rは、後進用逆転ブレーキ134Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0144】
サンギヤ135Sとリングギヤ135Rとの間にはサンギヤ135Sに噛合する内側のピニオンギヤ135P1と、ピニオンギヤ135P1およびリングギヤ135Rに噛合する外側のピニオンギヤ135P2とが配置されており、ピニオンギヤ135P1、135P2は、キャリア135Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0145】
本実施の形態の前後進切換装置131は、サンギヤ135Sと、リングギヤ135Rと、サンギヤ135Sおよびリングギヤ135Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ135P1、135P2を回転自在に支持したキャリア135Cとの3要素から遊星歯車機構132が構成されている。
【0146】
これら3要素のうちのキャリア135Cをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、サンギヤ135Sをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、リングギヤ135Rを後進用逆転ブレーキ134Bで固定することにより、タービンシャフト40およびキャリア135Cの回転を逆転してサンギヤ135Sおよび入力軸61に伝達し、キャリア135Cとリングギヤ135Rを相互に前進用クラッチ133Cで結合することにより、タービンシャフト40およびキャリア135Cの回転をタービンシャフト40およびキャリア135Cの回転方向と同一回転方向にサンギヤ135Sおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0147】
また、本実施の形態では、前進用クラッチ133Cによって結合されるリングギヤ135Rとキャリア135Cとの間にダンパ機構136が介装されており、このダンパ機構136は、遊星歯車機構132に対してトルクコンバータ32のタービンシャフト40側(エンジン31側)に設けられている。
【0148】
このダンパ機構136は、リングギヤ135Rに取付けられ、リングギヤ135Rと一体的に回転する円板状のプレート136aと、前進用クラッチ133Cに取付けられるとともに前進用クラッチ133Cを介してキャリア135Cに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ133Cに係合したときにキャリア135Cと一体回転する円板状のプレート136bと、プレート136aおよびプレート136bの間に介装され、遊星歯車機構132の回転方向に伸縮自在なトーションバネ136cとから構成されており、プレート136aとプレート136bが相対回転したときにトーションバネ136cを撓ませることにより、プレート136aとプレート136bとを一体的に回転させるようになっている。また、プレート136bは、後進用逆転ブレーキ134Bに係合および解放自在に設けられている。このように、リングギヤ135Rおよびキャリア135Cは、ダンパ機構136を介して弾性的に連結される。
【0149】
また、本実施の形態の遊星歯車機構132は、入力要素であるキャリア135Cと出力要素であるサンギヤ135Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構136の捩じり角θ1´が小さくなるように、サンギヤ135Sと残りの1要素であるキャリア135Cとの間にダンパ機構136を介装している。
【0150】
このため、図18(a)に示すように、遊星歯車機構132とダンパ機構136とによって構成されるプラネタリダンパ137のバネ剛性K1´は、K1´=ρ2・K1と等価なものとなり、このプラネタリダンパ137の共線図は、図18(b)のように表される。
図18(b)から明らかなようにダンパ機構136の捩じり角θ1´は、
(数16)
θ1´=ρ・θ1.........(16)
となる。
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ137は、ρ<1に設定し、図18(b)に示すように、前進用クラッチ133Cによってキャリア135Cとリングギヤ135Rとを直結したときに、入力要素であるキャリア135Cと出力要素であるサンギヤ135Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構136の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア135Cとリングギヤ135Rとの間にダンパ機構136を介装することにより、ダンパ機構136の捩じり角を小さくすることができる分だけ、キャリア135Cに入力される捩じり振動に対してダンパ機構136のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ137のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0151】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からキャリア135Cに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構136で吸収することができ、キャリア135Cからサンギヤ135Sを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0152】
さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0153】
このように、本実施の形態では,前後進切換装置131に設けられた既存の遊星歯車機構132を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0154】
(第8の実施の形態)
図19、図20は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第8の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
【0155】
図19において、前後進切換装置141は、ダブルピニオンギヤ型の遊星歯車機構142と、直結クラッチとしての前進用クラッチ143Cと、後進用逆転ブレーキ144Bとを備えている。
【0156】
遊星歯車機構142のサンギヤ145Sは、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に一体的に連結されており、サンギヤ145Sにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0157】
また、キャリア145Cは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に一体的に連結されており、キャリア145Cは、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0158】
キャリア145Cおよびリングギヤ145Rは、前進用クラッチ143Cを介して選択的に連結されるようになっており、リングギヤ145Rは、後進用逆転ブレーキ144Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0159】
サンギヤ145Sとリングギヤ145Rとの間にはサンギヤ145Sに噛合する内側のピニオンギヤ145P1と、ピニオンギヤ145P1およびリングギヤ145Rに噛合する外側のピニオンギヤ145P2とが配置されており、ピニオンギヤ145P1、145P2は、キャリア145Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0160】
本実施の形態の前後進切換装置141は、サンギヤ145Sと、リングギヤ145Rと、サンギヤ145Sおよびリングギヤ145Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ145P1、145P2を回転自在に支持したキャリア145Cとの3要素から遊星歯車機構142が構成されている。
【0161】
これら3要素のうちのサンギヤ145Sをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、キャリア145Cをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、リングギヤ145Rを後進用逆転ブレーキ144Bで固定することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ145Sの回転を逆転してキャリア145Cおよび入力軸61に伝達し、キャリア145Cとリングギヤ145Rを相互に前進用クラッチ143Cで結合することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ145Sの回転をタービンシャフト40およびサンギヤ145Sの回転方向と同一回転方向にキャリア145Cおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0162】
また、本実施の形態では、前進用クラッチ143Cによって結合されるリングギヤ145Rとキャリア145Cとの間にはダンパ機構146が介装されており、このダンパ機構146は、遊星歯車機構142に対してトルクコンバータ32のタービンシャフト40側(エンジン31側)に設けられている。
【0163】
このダンパ機構146は、リングギヤ145Rに取付けられ、リングギヤ145Rと一体的に回転する円板状のプレート146aと、前進用クラッチ143Cに取付けられるとともに前進用クラッチ143Cを介してキャリア145Cに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ143Cに係合したときにキャリア145Cと一体回転する円板状のプレート146bと、プレート146aおよびプレート146bの間に介装され、遊星歯車機構142の回転方向に伸縮自在なトーションバネ146cとから構成されており、プレート146aとプレート146bが相対回転したときにトーションバネ146cを撓ませることにより、プレート146aとプレート146bとを一体的に回転させるようになっている。また、プレート146bは、後進用逆転ブレーキ144Bに係合および解放自在に設けられている。このように、リングギヤ145Rおよびキャリア145Cは、ダンパ機構146を介して弾性的に連結される。
【0164】
また、本実施の形態の遊星歯車機構142は、入力要素であるサンギヤ145Sと出力要素であるキャリア145Cの捩じり角θ1に対してダンパ機構146の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア145Cと残りの1要素であるリングギヤ145Rとの間にダンパ機構146を介装している。
【0165】
このため、図20(a)に示すように遊星歯車機構142とダンパ機構146とによって構成されるプラネタリダンパ147のバネ剛性K1´は、K1´=ρ2・K1となり、このプラネタリダンパ147の共線図は、図20(b)のように表される。
図20(b)から明らかなように、ダンパ機構146の捩じり角θ1´は、
(数17)
θ1´=ρ・θ1.........(17)
となる。
【0166】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ147は、ρ<1に設定し、図20(b)に示すように、前進用クラッチ143Cによってキャリア145Cとリングギヤ145Rとを直結したときに、入力要素であるサンギヤ145Sと出力要素であるキャリア145Cの捩じり角θ1に対してダンパ機構146の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア145Cとリングギヤ145Rとの間にダンパ機構146を介装することにより、ダンパ機構146の捩じり角を小さくすることができる分だけ、サンギヤ145Sに入力される捩じり振動に対してダンパ機構146のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ147のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0167】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からサンギヤ145Sを介してキャリア145Cに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構146で吸収することができ、キャリア145Cから入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0168】
さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0169】
このように、本実施の形態では,前後進切換装置141に設けられた既存の遊星歯車機構142を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0170】
(第9の実施の形態)
図21、図22は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第9の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図21において、前後進切換装置151は、ダブルピニオンギヤ型の遊星歯車機構152と、直結クラッチとしての前進用クラッチ153Cと、後進用逆転ブレーキ154Bとを備えている。
【0171】
遊星歯車機構152のキャリア155Cは、ロックアップクラッチ46のタービンシャフト40に一体的に設けられた円板状のプレート156aに連結されており、キャリア155Cにはプレート156aおよびタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0172】
また、サンギヤ155Sは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に一体的に連結されており、サンギヤ155Sは、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0173】
キャリア155Cおよびリングギヤ155Rは、ダンパ機構156を介して前進用クラッチ153Cに選択的に連結されるようになっており、リングギヤ155Rは、後進用逆転ブレーキ154Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0174】
サンギヤ155Sとリングギヤ155Rとの間にはサンギヤ155Sに噛合する内側のピニオンギヤ155P1と、ピニオンギヤ155P1およびリングギヤ155Rに噛合する外側のピニオンギヤ155P2とが配置されており、ピニオンギヤ155P1、155P2は、キャリア155Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0175】
本実施の形態の前後進切換装置151は、サンギヤ155Sと、リングギヤ155Rと、サンギヤ155Sおよびリングギヤ155Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ155P1、155P2を回転自在に支持したキャリア155Cとの3要素から遊星歯車機構152が構成されている。
【0176】
これら3要素のうちのリングギヤ155Rをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、サンギヤ155Sをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、リングギヤ155Rを後進用逆転ブレーキ154Bで固定することにより、タービンシャフト40およびリングギヤ155Rの回転を逆転してサンギヤ155Sおよび入力軸61に伝達し、キャリア155Cとリングギヤ155Rとをダンパ機構156を介して前進用クラッチ153Cで結合することにより、タービンシャフト40およびリングギヤ155Rの回転をタービンシャフト40およびリングギヤ155Rの回転方向と同一回転方向にサンギヤ155Sおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0177】
また、本実施の形態では、前進用クラッチ153Cによって結合されるリングギヤ155Rとキャリア155Cとの間に介装されるダンパ機構156は、遊星歯車機構152に対してトルクコンバータ32のタービンシャフト40側(エンジン31側)に設けられている。
【0178】
このダンパ機構156は、タービンシャフト40に取付けられるとともに、前進用クラッチ153Cを介してリングギヤ155Rに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ153Cに係合されたときにタービンシャフト40およびリングギヤ155Rと一体的に回転する円板状のプレート156aと、キャリア155Cに取付けられ、キャリア155Cと一体的に回転する円板状のプレート156bと、プレート156aおよびプレート156bの間に介装され、遊星歯車機構152の回転方向に伸縮自在なトーションバネ156cとから構成されており、プレート156aとプレート156bが相対回転したときにトーションバネ156cを撓ませることにより、プレート156aとプレート156bとを一体的に回転させるようになっている。このように、リングギヤ155Rおよびキャリア155Cは、ダンパ機構156を介して弾性的に連結される。
【0179】
また、本実施の形態の遊星歯車機構152は、入力要素であるリングギヤ155Rと出力要素であるサンギヤ155Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構156の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ155Rと残りの1要素であるキャリア155Cとの間にダンパ機構156を介装している。
【0180】
このため、図22(a)に示すように、遊星歯車機構152とダンパ機構156とによって構成されるプラネタリダンパ157のバネ剛性K1´は、下記の式(18)に示すものと等価なものとなり、このプラネタリダンパ127の共線図は、図22(b)のように表される。
【数18】
また、図22(b)から明らかなように、ダンパ機構156の捩じり角θ1´は、下記の式(19)に示されるものとなる。
【数19】
【0181】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ157は、ρ<1に設定し、図22(b)に示すように、前進用クラッチ153Cによってキャリア155Cとリングギヤ155Rとを直結したときに、入力要素であるリングギヤ155Rと出力要素であるサンギヤ155Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構156の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ155Rとキャリア155Cとの間にダンパ機構156を介装することにより、ダンパ機構156の捩じり角を小さくすることができる分だけ、リングギヤ155Rに入力される捩じり振動に対してダンパ機構156のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ157のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0182】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からリングギヤ155Rに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構156で吸収することができ、キャリア155Cからサンギヤ155Sを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0183】
さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0184】
このように、本実施の形態では,前後進切換装置151に設けられた既存の遊星歯車機構152を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0185】
(第10の実施の形態)
図23、図24は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第10の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図23において、前後進切換装置161は、ダブルピニオンギヤ型の遊星歯車機構162と、直結クラッチとしての前進用クラッチ163Cと、後進用逆転ブレーキ164Bとを備えている。
【0186】
遊星歯車機構162のサンギヤ165Sは、ロックアップクラッチ46のタービンシャフト40に一体的に設けられており、サンギヤ165Sにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0187】
また、ベルト式無段変速機34の入力軸61にはダンパ機構166の円板状のプレート166aが一体的に連結されており、このプレート166aは、前進用クラッチ163Cに係合および解放自在となっている。また、リングギヤ165Rは、前進用クラッチ163Cに係合および解放自在となっており、前進用クラッチ163Cによってプレート166aおよびリングギヤ165Rが係合されると、リングギヤ165Rは、プレート166aを介してエンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0188】
キャリア165Cおよびリングギヤ165Rは、ダンパ機構166を介して前進用クラッチ163Cに選択的に連結されるようになっており、リングギヤ165Rは、後進用逆転ブレーキ164Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0189】
サンギヤ165Sとリングギヤ165Rとの間にはサンギヤ165Sに噛合する内側のピニオンギヤ165P1と、ピニオンギヤ165P1およびリングギヤ165Rに噛合する外側のピニオンギヤ165P2とが配置されており、ピニオンギヤ165P1、165P2は、キャリア165Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0190】
本実施の形態の前後進切換装置161は、サンギヤ165Sと、リングギヤ165Rと、サンギヤ165Sおよびリングギヤ165Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ165P1、165P2を回転自在に支持したキャリア165Cとの3要素から遊星歯車機構162が構成されている。
【0191】
これら3要素のうちのサンギヤ165Sをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、リングギヤ165Rをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、リングギヤ165Rを後進用逆転ブレーキ164Bで固定することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ165Sの回転を逆転してリングギヤ165Rおよび入力軸61に伝達し、キャリア165Cとリングギヤ165Rとをダンパ機構166を介して前進用クラッチ163Cで結合することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ165Sの回転をタービンシャフト40およびサンギヤ165Sの回転方向と同一回転方向にリングギヤ165Rおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0192】
また、前進用クラッチ163Cによって結合されるリングギヤ165Rとキャリア165Cとの間に介装されるダンパ機構166は、遊星歯車機構162に対してベルト式無段変速機34の入力軸61側に設けられている。
【0193】
このダンパ機構166は、入力軸61に取付けられるとともに、前進用クラッチ163Cを介してリングギヤ165Rに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ163Cに係合されたときに入力軸61およびリングギヤ165Rと一体的に回転する円板状のプレート166aと、キャリア165Cに取付けられ、キャリア165Cと一体的に回転する円板状のプレート166bと、プレート166aおよびプレート166bの間に介装され、遊星歯車機構162の回転方向に伸縮自在なトーションバネ166cとから構成されており、プレート166aとプレート166bが相対回転したときにトーションバネ166cを撓ませることにより、プレート166aとプレート166bとを一体的に回転させるようになっている。このように、リングギヤ165Rおよびキャリア165Cは、ダンパ機構166を介して弾性的に連結される。
【0194】
また、本実施の形態の遊星歯車機構162は、入力要素であるサンギヤ165Sと出力要素であるリングギヤ165Rの捩じり角θ1に対してダンパ機構166の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ165Rと残りの1要素であるキャリア165Cとの間にダンパ機構166を介装している。
【0195】
このため、図24(a)に示すように、遊星歯車機構162とダンパ機構166とによって構成されるプラネタリダンパ167のバネ剛性K1´は、下記の式(20)に示すものと等価なものとなり、このプラネタリダンパ127の共線図は、図24(b)のように表される。
【数20】
図24(b)から明らかなように、ダンパ機構166の捩じり角θ1´は、下記の式(21)に示されるものとなる。
【数21】
【0196】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ167は、ρ<1に設定し、図24(b)に示すように、前進用クラッチ163Cによってキャリア165Cとリングギヤ165Rとを直結したときに、入力要素であるサンギヤ165Sと出力要素であるリングギヤ165Rの捩じり角θ1に対してダンパ機構166の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ165Rとキャリア165Cとの間にダンパ機構166を介装することにより、ダンパ機構166の捩じり角を小さくすることができる分だけ、サンギヤ165Sに入力される捩じり振動に対してダンパ機構166のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ167のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0197】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からサンギヤ165Sを介してキャリア165Cに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構166で吸収することができ、キャリア165Cからリングギヤ165Rを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0198】
さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0199】
このように、本実施の形態では,前後進切換装置161に設けられた既存の遊星歯車機構162を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0200】
(第11の実施の形態)
図25、図26は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第11の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図24において、前後進切換装置171は、ダブルピニオンギヤ型の遊星歯車機構172と、直結クラッチとしての前進用クラッチ173Cと、後進用逆転ブレーキ174Bとを備えている。
【0201】
遊星歯車機構172のサンギヤ175Sは、ロックアップクラッチ46のタービンシャフト40に一体的に設けられており、サンギヤ175Sにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0202】
また、キャリア175Cは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に連結されており、キャリア165Cは、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0203】
また、タービンシャフト40にはフランジ部178が一体的に設けられており、このフランジ部178は、前進用クラッチ173Cおよびダンパ機構176を介してリングギヤ175Rに係合および解放自在に設けられている。
【0204】
そして、フランジ部178が前進用クラッチ173Cおよびダンパ機構176を介してリングギヤ175Rに係合されると、リングギヤ175Rは、フランジ部178を介してサンギヤ175Sに連結される。
【0205】
また、リングギヤ175Rは、ダンパ機構176および後進用逆転ブレーキ174Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
サンギヤ175Sとリングギヤ175Rとの間にはサンギヤ175Sに噛合する内側のピニオンギヤ175P1と、ピニオンギヤ175P1およびリングギヤ175Rに噛合する外側のピニオンギヤ175P2とが配置されており、ピニオンギヤ175P1、175P2は、キャリア175Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0206】
本実施の形態の前後進切換装置171は、サンギヤ175Sと、リングギヤ175Rと、サンギヤ175Sおよびリングギヤ175Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ175P1、175P2を回転自在に支持したキャリア175Cとの3要素から遊星歯車機構172が構成されている。
【0207】
これら3要素のうちのサンギヤ175Sをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、キャリア175Cをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、リングギヤ175Rを後進用逆転ブレーキ174Bで固定することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ175Sの回転を逆転してキャリア175Cおよび入力軸61に伝達し、サンギヤ175Sとリングギヤ175Rとをダンパ機構176およびフランジ部178を介して前進用クラッチ173Cで結合することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ175Sの回転をタービンシャフト40およびサンギヤ175Sの回転方向と同一回転方向にキャリア175Cおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0208】
また、本実施の形態では、前進用クラッチ173Cによって結合されるリングギヤ175Rとサンギヤ175Sとの間に介装されるダンパ機構176は、トルクコンバータ32のタービンシャフト40側(エンジン31側)に設けられている。
【0209】
このダンパ機構176は、前進用クラッチ173Cに取付けられるとともに、前進用クラッチ173Cがタービンシャフト40のフランジ部178に係合されたときにタービンシャフト40およびサンギヤ175Sと一体的に回転する円板状のプレート176aと、リングギヤ175Rに取付けられ、リングギヤ175Rと一体的に回転する円板状のプレート176bと、プレート176aおよびプレート176bの間に介装され、遊星歯車機構172の回転方向に伸縮自在なトーションバネ176cとから構成されており、プレート176aとプレート176bが相対回転したときにトーションバネ176cを撓ませることにより、プレート176aとプレート176bとを一体的に回転させるようになっている。また、プレート176bは、後進用逆転ブレーキ174Bに係合および解放自在に設けられている。このように、リングギヤ175Rおよびサンギヤ175Sは、ダンパ機構176を介して弾性的に連結される。
【0210】
また、本実施の形態の遊星歯車機構172は、入力要素であるサンギヤ175Sと出力要素であるキャリア175Cの捩じり角θ1に対してダンパ機構176の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ175Rと残りの1要素であるサンギヤ175Sとの間にダンパ機構176を介装している。
【0211】
このため、図26(a)に示すように、遊星歯車機構172とダンパ機構176とによって構成されるプラネタリダンパ177のバネ剛性K1´は、K1´=(1−ρ)2・Kと等価なものとなり、このプラネタリダンパ177の共線図は、図26(b)のように表される。
また、図26(b)から明らかなように、ダンパ機構176の捩じり角θ1´は、
(数22)
θ1´=(1−ρ)・θ1.........(22)
となる。
【0212】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ177は、ρ<1に設定し、図26(b)に示すように、前進用クラッチ173Cによってサンギヤ175Sとリングギヤ175Rとを直結したときに、入力要素であるリングギヤ175Rと出力要素であるキャリア175Cの捩じり角θ1に対してダンパ機構176の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ175Rとサンギヤ175Sとの間にダンパ機構176を介装することにより、ダンパ機構176の捩じり角を小さくすることができる分だけ、サンギヤ175Sに入力される捩じり振動に対してダンパ機構176のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ177のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0213】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からサンギヤ175Sに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構176で吸収することができ、キャリア175Cから入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0214】
さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0215】
このように、本実施の形態では,前後進切換装置171に設けられた既存の遊星歯車機構172を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0216】
(第12の実施の形態)
図27、図28は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第12の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図27において、前後進切換装置181は、ダブルピニオンギヤ型の遊星歯車機構182と、直結クラッチとしての前進用クラッチ183Cと、後進用逆転ブレーキ184Bとを備えている。
【0217】
遊星歯車機構182のキャリア185Cは、ロックアップクラッチ46のタービンシャフト40に一体的に設けられており、キャリア185Cにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0218】
また、入力軸61にはフランジ部188が一体的に設けられており、このフランジ部188は、前進用クラッチ183Cおよびダンパ機構186を介してリングギヤ185Rに係合および解放自在に設けられている。
【0219】
そして、フランジ部188が前進用クラッチ183Cおよびダンパ機構186を介してリングギヤ185Rに係合されると、リングギヤ185Rは、フランジ部188を介してサンギヤ185Sに連結されるとともにフランジ部188を介してエンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
また、リングギヤ185Rは、ダンパ機構186および後進用逆転ブレーキ184Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0220】
サンギヤ185Sとリングギヤ185Rとの間にはサンギヤ185Sに噛合する内側のピニオンギヤ185P1と、ピニオンギヤ185P1およびリングギヤ185Rに噛合する外側のピニオンギヤ185P2とが配置されており、ピニオンギヤ185P1、185P2は、キャリア185Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0221】
本実施の形態の前後進切換装置181は、サンギヤ185Sと、リングギヤ185Rと、サンギヤ185Sおよびリングギヤ185Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ185P1、185P2を回転自在に支持したキャリア185Cとの3要素から遊星歯車機構182が構成されている。
【0222】
これら3要素のうちのキャリア185Cをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、サンギヤ185Sをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、リングギヤ185Rを後進用逆転ブレーキ184Bで固定することにより、タービンシャフト40およびキャリア185Cの回転を逆転してサンギヤ185Sおよび入力軸61に伝達し、サンギヤ185Sとリングギヤ185Rとをダンパ機構186およびフランジ部188を介して前進用クラッチ183Cで結合することにより、タービンシャフト40およびキャリア185Cの回転をタービンシャフト40およびキャリア185Cの回転方向と同一回転方向にサンギヤ185Sおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0223】
また、前進用クラッチ183Cによって結合されるリングギヤ185Rとサンギヤ185Sとの間に介装されるダンパ機構186は、遊星歯車機構182に対してベルト式無段変速機34の入力軸61側に設けられている。
【0224】
このダンパ機構186は、前進用クラッチ183Cに取付けられるとともに、前進用クラッチ183Cが入力軸61のフランジ部188に係合されたときに入力軸61およびサンギヤ185Sと一体的に回転する円板状のプレート186aと、リングギヤ185Rに取付けられ、リングギヤ185Rと一体的に回転する円板状のプレート186bと、プレート186aおよびプレート186bの間に介装され、遊星歯車機構182の回転方向に伸縮自在なトーションバネ186cとから構成されており、プレート186aとプレート186bが相対回転したときにトーションバネ186cを撓ませることにより、プレート186aとプレート186bとを一体的に回転させるようになっている。このように、リングギヤ185Rおよびサンギヤ185Sは、ダンパ機構186を介して弾性的に連結される。
【0225】
また、本実施の形態の遊星歯車機構182は、入力要素であるキャリア185Cと出力要素であるサンギヤ185Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構186の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア185Cと残りの1要素であるリングギヤ185Rとの間にダンパ機構186を介装している。
【0226】
このため、図28(a)に示すように、遊星歯車機構182とダンパ機構186とによって構成されるプラネタリダンパ187のバネ剛性K1´は、K1´=(1−ρ)2・Kと等価なものとなり、このプラネタリダンパ187の共線図は、図28(b)のように表される。
また、図28(b)から明らかなように、ダンパ機構186の捩じり角θ1´は、
(数23)
θ1´=(1−ρ)・θ1.........(23)
となる。
【0227】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ187は、ρ<1に設定し、図28(b)に示すように、前進用クラッチ183Cによってサンギヤ185Sとリングギヤ185Rとを直結したときに、入力要素であるキャリア185Cと出力要素であるサンギヤ185Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構186の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ185Rとキャリア185Cとの間にダンパ機構186を介装することにより、ダンパ機構186の捩じり角を小さくすることができる分だけ、キャリア185Cに入力される捩じり振動に対してダンパ機構186のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ187のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0228】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からキャリア185Cに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構186で吸収することができ、キャリア185Cからサンギヤ185Sを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0229】
さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0230】
このように、本実施の形態では、前後進切換装置181に設けられた既存の遊星歯車機構182を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0231】
なお、上記各実施の形態では、前後進切換装置33、81、91、101、111、121、131、141、151、161、171、181をプライマリプーリ67とトルクコンバータ32の間に設けているが、セカンダリプーリ68と減速歯車装置35との間に設けてもよい。
【0232】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0233】
以上のように、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置は、入力軸から出力軸に伝達される内燃機関のトルク変動に伴う捩じり振動を前後進切換装置に既存の遊星歯車機構によって低減することができ、車両用変速機が大型化したり重量が増加してしまうのを防止することができるという効果を有し、遊星歯車機構を利用して車両の進行方向の正逆回転切換えを行う車両用変速機の前後進切換装置等として有用である。
【符号の説明】
【0234】
31 エンジン(内燃機関)
33、81、91、101、111、121、131、141、151、161、171、181 前後進切換装置
34 ベルト式無段変速機
40 タービンシャフト(入力軸)
51、82、92、102、112、122、132、142、152、162、172、182 遊星歯車機構
52C、83C、93C、103C、113C、123C、133C、143C、153C、163C、173C、183C 前進用クラッチ(直結クラッチ)
53B、84B、94B、104B、114B、124B、134B、144B、154B、164B、174B、184B 後進用逆転ブレーキ
54C、85C、95C、105C、115C、125C、135C、145C、155C、165C、175C、185C キャリア
54P、85P、95P、105P、115P、125P、135P1、135P2、145P1、145P2、155P1、155P2、165P1、165P2、175P1、175P2、185P1、185P2 ピニオンギヤ
54R、85R、95R、105R、115R、125R、135R、145R、155R、165R、175R、185R リングギヤ
54S、85S、95S、105S、115S、125S、135S、145S、155S、165S、175S、185S サンギヤ
61 入力軸(出力軸)
62、86、96、106、116、126、136、146、156、166、176、186 ダンパ機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機の前後進切換装置に関し、特に、遊星歯車機構を利用して車両の進行方向の正逆回転切換えを行う車両用変速機の前後進切換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車等の車両においては、様々な振動が発生する。例えば、車両に発生する振動は、内燃機関であるエンジンの周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うエンジンのトルク変動による回転変動が強制源となり、そのエンジントルクを伝達するクランクシャフトから駆動輪までの捩じり振動が生じ、NV(ノイズ・アンド・バイブレーション)が大きくなる懸念がある。
【0003】
エンジンと変速機との間にトルクコンバータ等の流体伝動装置が組み込まれる場合には、エンジンのトルク変動をトルクコンバータによって低減して変速機側に伝達することができる反面、流体を介在させることによる損失が発生し、燃費の低下を招来してしまう。
【0004】
このため、トルク変動の少ないエンジンの高回転領域において、エンジンと変速機とを一体的に連結することができるロックアップクラッチをトルクコンバータに組み込むことが一般的に行われている。
【0005】
ところで、ロックアップクラッチによってエンジンと変速機とを直結状態にした場合には、エンジンのトルク変動に伴う捩じり振動が変速機に伝わり、NVが大きくなる懸念がある。このため、ロックアップクラッチによってエンジンと変速機とを直結したときに、エンジンのトルク変動に伴う捩じり振動が変速機に伝達するのを抑制するために、通常、ダンパ機構をロックアップクラッチに組み込んでいる。
【0006】
従来のこの種のダンパ機構を有するロックアップクラッチを備えた動力伝達装置としては、図29に示すようなものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
図29において、内燃機関としてのエンジン1の出力軸であるクランクシャフト1aは、トルクコンバータ2に連結されており、エンジン1の出力は、トルクコンバータ2から前後進切換装置3、ベルト式無段変速機4および減速歯車装置5を介して差動歯車装置6に伝達され、左右の駆動輪7L、7Rに分配されるようになっている。なお、図29において、前後進切換装置3およびベルト式無段変速機4が車両用変速機を構成している。
【0008】
トルクコンバータ2は、入力側のポンプインペラ8、出力側のタービンランナ9およびトルク増幅機能を有するステータ10を含んで構成されており、ポンプインペラ8とタービンランナ9との間で流体を介して動力伝達を行うようになっている。
【0009】
また、ポンプインペラ8は、フロントカバー15を介してエンジン1のクランクシャフト1aに連結されており、タービンランナ9は、タービンシャフト11を介して前後進切換装置3に連結されている。
【0010】
トルクコンバータ2にはトルクコンバータ2の入力側と出力側とを直結するロックアップクラッチ12が設けられており、ロックアップクラッチ12は、フロントカバー15の内面に対向して設置されるようにしてタービンランナ9に取付けられている。
【0011】
このロックアップクラッチ12は、係合側油室13内の油圧と解放側油室14内の油圧との差圧を制御することにより、フロントカバー15に完全係合および半係合(スリップ状態での係合)したり、フロントカバー15から解放されるようになっている。
【0012】
そして、ロックアップクラッチ12がフロントカバー15に完全係合されると、ポンプインペラ8とタービンランナ9とが一体回転する。また、ロックアップクラッチ12は、トーションバネを備えたダンパ機構12aを備えており、このダンパ機構12aは、ロックアップクラッチ12がフロントカバー15に完全係合されてポンプインペラ8とタービンランナ9とを一体回転するときに、エンジン1のクランクシャフト1aからトルクコンバータ2を介してタービンシャフト11に伝達される捩じり振動を低減するようになっている。
【0013】
また、前後進切換装置3は、サンギヤ16S、キャリア17C、リングギヤ18Rからなる遊星歯車機構19、前進用クラッチCおよび後進用逆転ブレーキBを備えており、リングギヤ18Rは、トルクコンバータ2のタービンシャフト11に一体的に連結されているとともに、サンギヤ16Sは、ベルト式無段変速機4の入力軸20に一体的に連結されている。
【0014】
また、キャリア17Cとリングギヤ18Rとは、前進用クラッチCを介して選択的に連結されており、キャリア17Cは、後進用逆転ブレーキBを介してベルト式無段変速機4および前後進切換装置3を収納するハウジング21に選択的に固定されるようになっている。
【0015】
そして、前進用クラッチCが係合され、後進用逆転ブレーキBが解放されると、前後進切換装置3が一体回転状態となって前進用動力伝達経路が成立し、この状態で、前進方向の駆動力がベルト式無段変速機4側に伝達される。
【0016】
また、後進用逆転ブレーキBが係合され、前進用クラッチCが解放されると、前後進切換装置3によって後進用動力伝達経路が成立し、この状態で、入力軸20は、タービンシャフト11に対して逆方向に回転し、この後進方向の駆動力がベルト式無段変速機4側に伝達される。
【0017】
また、ベルト式無段変速機4は、入力軸20に取付けられたプライマリプーリ22、出力軸27に取付けられたセカンダリプーリ23およびプライマリプーリ22とセカンダリプーリ23とに巻き掛けられたベルト24を備えており、プライマリプーリ22およびセカンダリプーリ23のV溝22a、23aの幅を変化させてベルト24の掛かり径(有効径)を変更することにより、変速比(=入力軸20の回転数/出力軸27の回転数)が連続的に変化する。
【0018】
また、出力軸27は、減速歯車装置5を介して差動歯車装置6に連結されており、差動歯車装置6は、ドライブシャフト28L、28Rを介して駆動輪7L、7Rに連結されている。
【0019】
ここで、ロックアップクラッチ12を直結してエンジン1とベルト式無段変速機4とを直結したときの2自由度の捩じり振動伝達系の簡易モデルを図30に示す。
図30において、エンジン1からトルクコンバータ2の1次側(ロックアップクラッチ12のダンパ機構12aの上流側)までの慣性をI1、トルクコンバータ2の2次側(ダンパ機構12aの下流側)から前後進切換装置3、ベルト式無段変速機4および差動歯車装置6までの慣性をI2、ダンパ機構12aのバネ剛性をK1、ドライブシャフト28L、28Rのバネ剛性をK2、駆動輪7L、7RをB、慣性I1の回転角θ1、慣性I2の回転角をθ2としたときの捩じり振動伝達系の運動方程式は、下記の式(1)で表される。
【数1】
また、慣性I1に入力されるトルク変動Tinに対して慣性I1から駆動輪7L、7Rに伝達されるトルク変動Tk2の伝達感度は、下記の式(2)で表される。
【数2】
【0020】
したがって、エンジン1とベルト式無段変速機4とをダンパ機構12aを介して直結状態にしたときに、エンジン1から駆動輪7L、7Rに伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減して車両のNVが大きくなるのを防止するためには、上記の式(2)から明らかなように、ダンパ機構12aのバネ剛性K1およびドライブシャフト28L、28Rのバネ剛性K2を低減する方法と、慣性I1、I2を増大させる方法とが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2007−2920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
このような従来のダンパ機構12aを備えた車両用変速機にあっては、ダンパ機構12aのバネ剛性K1を低減するには、例えば、ばね定数が小さく、捩じり量の大きいバネを用いる必要があるが、ダンパ機構12aの捩じり量を大きくするにはダンパ機構12aの搭載スペース等を考慮すると限界があるため、ダンパ機構12aの低剛性化を図ることは困難である。
【0023】
また、ドライブシャフト28L、28Rのバネ剛性K2を大幅に下げることは、車両の運転性が低下してしまうとともに、NVが大きくなるため、事実上不可能である。さらに、慣性I1、I2を増大させると、慣性I1、I2が増大する分だけ、車両用変速機が大型化してしまい、結果的に動力伝達装置が大型化してしまう。
【0024】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、入力軸から出力軸に伝達される内燃機関のトルク変動に伴う捩じり振動を前後進切換装置に既存の遊星歯車機構によって低減することができ、車両用変速機が大型化したり重量が増加してしまうのを抑制することができる車両用変速機の前後進切換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置は、上記目的を達成するため、(1)サンギヤと、リングギヤと、前記サンギヤおよび前記リングギヤの間で動力伝達を行う1つまたは2つのピニオンギヤを回転自在に支持したキャリアとの3要素からなる遊星歯車機構と、後進用逆転ブレーキと、直結クラッチとを備え、前記3要素のうちの1要素を内燃機関から動力が伝達される入力軸に連結される入力要素とし、別の1要素を前記内燃機関の動力を出力する出力軸に連結される出力要素とし、残りの1要素を前記後進用逆転ブレーキで固定することにより前記入力軸への回転を逆転して前記出力軸に伝達し、前記3要素のうちの2要素を相互に前記直結クラッチで結合することにより、前記入力軸の回転を前記入力軸の回転方向と同一回転方向に前記出力軸に伝達するようにした車両用変速機の前後進切換装置において、前記直結クラッチに結合される前記2要素の間にダンパ機構を介装したものから構成されている。
【0026】
このように、リングギヤ、キャリアおよびサンギヤの各要素の中で、直結クラッチに結合される2要素の間にダンパ機構を介装したので、例えば、入力要素と出力要素の捩じり角に対してダンパ機構の捩じり角が小さくなるように、直結クラッチに結合される入力要素および出力要素のいずれか一方と残りの1要素との間にダンパ機構を介装すれば、ダンパ機構の捩じり角を小さくすることができる分だけ、ダンパ機構のトルク反力を小さくすることができる。
このため、前後進切換装置の遊星歯車機構を低剛性のバネと等価なものにすることができ、内燃機関のトルク変動に伴う入力軸から出力軸に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0027】
本発明では、このように、新たな遊星歯車機構を用いることなく、前後進切換装置の既存の遊星歯車機構を用いて内燃機関のトルク変動に伴う入力軸から出力軸に伝達される捩じり振動を低減することができるため、前後進切換装置が搭載される車両用変速機が大型化するのを抑制することができるとともに、車両用変速機の重量が増加するのを抑制することができる。
【0028】
上記(1)に記載の車両用変速機の前後進切換装置において、(2)前記サンギヤの歯数を前記リングギヤの歯数で除した歯数比ρを1以下に設定するとともに、前記3要素のうちの入力要素と出力要素の捩じり角に対して前記ダンパ機構の捩じり角が小さくなるように、前記直結クラッチに結合される前記入力要素および前記出力要素のいずれか一方と前記残りの1要素との間に前記ダンパ機構を介装したものから構成されている。
【0029】
この構成により、入力要素と出力要素の相対的な捩じり角に対してダンパ機構の捩じり角を小さくすることができる分だけ、入力要素に入力される捩じり振動に対してダンパ機構のトルク反力を小さくすることができる。
【0030】
このため、前後進切換装置の遊星歯車機構を低剛性のバネと等価なものにすることができ、入力軸から出力軸に伝達される内燃機関の捩じり振動をダンパ機構によってより効率良く低減することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、入力要素から出力要素に伝達されるトルク変動を前後進切換装置の遊星歯車機構によって低減することができ、変速機の大型化および重量の増加を抑制することができる車両用変速機の前後進切換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第1の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図2】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第1の実施の形態を示す図であり、2自由度の捩じり振動伝達系の簡易モデルである。
【図3】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第1の実施の形態を示す図であり、一般的な1自由度の捩じり振動伝達系の簡易モデルである。
【図4】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第1の実施の形態を示す図であり、プラネタリダンパの簡易モデルである。
【図5】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第1の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図6】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第1の実施の形態を示す図であり、入力要素から出力要素に伝達されるトルク変動のトルク変動伝達率と、エンジンの回転変動周波数の関係を示した図である。
【図7】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第2の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図8】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第2の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図9】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第3の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図10】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第3の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図11】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第4の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図12】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第4の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図13】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第5の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図14】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第5の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図15】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第6の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図16】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第6の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図17】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第7の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図18】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第7の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図19】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第8の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図20】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第8の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図21】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第9の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図22】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第9の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図23】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第10の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図24】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第10の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図25】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第11の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図26】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第11の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図27】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第12の実施の形態を示す図であり、車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図28】本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第12の実施の形態を示す図であり、(a)は、プラネタリダンパの構成図、(b)は、プラネタリダンパの共線図である。
【図29】従来の車両用変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図30】従来の2自由度の捩じり振動伝達系の簡易モデルである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の実施の形態について、図面を用いて説明する。
(第1の実施の形態)
図1〜図6は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第1の実施の形態を示す図である。
まず、構成を説明する。
図1の動力伝達装置30は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものである。この動力伝達装置30は、内燃機関としてのエンジン31、トルクコンバータ32、前後進切換装置33、ベルト式無段変速機(CVT)34、減速歯車装置35および差動歯車装置36を備えており、エンジン31の出力は、トルクコンバータ32から前後進切換装置33、ベルト式無段変速機34および減速歯車装置35を介して差動歯車装置36に伝達された後、左右の駆動輪37L、37Rに分配される。
【0034】
なお、本実施の形態では、前後進切換装置33およびベルト式無段変速機34が車両用変速機を構成しており、ベルト式無段変速機34は、前後進切換装置33を備えて構成されている。また、本実施の形態では、トルクコンバータ32、前後進切換装置33、ベルト式無段変速機34、減速歯車装置35および差動歯車装置36によって動力伝達装置30が構成されている。
【0035】
トルクコンバータ32は、流体(フルード)を介して動力伝達を行う流体伝動装置であり、エンジン31のクランクシャフト31aが連結されたフロントカバー38に一体的に設けられるポンプインペラ39と、このポンプインペラ39に対向してフロントカバー38の内面に隣接して設けられるとともに、入力軸としてのタービンシャフト40を介して前後進切換装置33に連結されるタービンランナ41とを備えている。
【0036】
具体的に、ポンプインペラ39とタービンランナ41とには、図示しない多数のブレードが設けられており、ポンプインペラ39が回転することによりフルードの螺旋流を生じさせ、その螺旋流をタービンランナ41に送ることによりタービンランナ41にトルクを与えて回転させるようになっている。
【0037】
ポンプインペラ39とタービンランナ41との内周側の部分には、タービンランナ41から送り出されたフルードの流動方向を変化させてポンプインペラ39に流入させるステータ42が配置されている。
【0038】
このステータ42は、一方向クラッチ43を介して中空軸44に連結されている。また、ポンプインペラ39には図示しない油圧制御回路に作動油を供給するためのオイルポンプ45が設けられており、このオイルポンプ45は、エンジン31により回転駆動されることによって油圧を発生するようになっている。
また、トルクコンバータ32は、ロックアップクラッチ46を備えており、このロックアップクラッチ46は、ポンプインペラ39、タービンランナ41およびステータ42からなるトルクコンバータ32に対して並列に配置され、フロントカバー38の内面に対向した状態でタービンランナ41に保持されている。
【0039】
そして、ロックアップクラッチ46は、油圧によってフロントカバー38の内面に押し付けられることにより、フロントカバー38からタービンランナ41に直接的にトルクを伝達するようになっている。
【0040】
具体的には、ロックアップクラッチ46は、油圧制御回路により、係合側油圧室47に供給されるロックアップ係合油圧と解放側油圧室48に供給されるロックアップ解放油圧との差圧を制御することによって、フロントカバー38に完全係合および半係合(スリップ状態での係合)または解放されるようになっている。
【0041】
ロックアップクラッチ46をフロントカバー38に完全係合させることにより、フロントカバー38、ポンプインペラ39およびタービンランナ41が一体回転する。また、ロックアップクラッチ46を所定のスリップ状態(半係合状態)でフロントカバー38に係合させることにより、駆動時には所定のスリップ量でタービンランナ41がポンプインペラ39に追従して回転する。一方、ロックアップ差圧を負に設定することにより、ロックアップクラッチ46はフロントカバー38に対して解放状態となる。
【0042】
前後進切換装置33は、シングルピニオンギヤ型の遊星歯車機構51と、直結クラッチとしての前進用クラッチ52Cと、後進用逆転ブレーキとしての後進用逆転ブレーキ53Bとを備えている。
【0043】
遊星歯車機構51のサンギヤ54Sは、ベルト式無段変速機34の入力軸(出力軸)61に一体的に連結されており、リングギヤ54Rは、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に一体的に連結されている。
【0044】
キャリア54Cおよびリングギヤ54Rは、前進用クラッチ52Cを介して選択的に連結されるようになっており、キャリア54Cは、後進用逆転ブレーキ53Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0045】
サンギヤ54Sとリングギヤ54Rとの間には、サンギヤ54Sおよびリングギヤ54Rに噛合するピニオンギヤ54Pが配置されており、このピニオンギヤ54Pは、キャリア54Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0046】
前進用クラッチ52Cおよび後進用逆転ブレーキ53Bは、いずれも油圧アクチュエータによって係合および解放される油圧式の走行用摩擦係合要素である。前進用クラッチ52Cが係合されるとともに後進用逆転ブレーキ53Bが解放されることにより、前後進切換装置33は一体回転状態となり、前後進切換装置33において前進用動力伝達経路が成立する。この状態では、入力軸61は、タービンシャフト40に対して同方向に回転し、この前進方向の駆動力がベルト式無段変速機34側に伝達される。
【0047】
一方、後進用逆転ブレーキ53Bが係合されるとともに前進用クラッチ52Cが解放されることにより、前後進切換装置33において後進用動力伝達経路が成立する。この状態では、入力軸61はタービンシャフト40に対して逆方向に回転し、この後進方向の駆動力がベルト式無段変速機34側に伝達される。
【0048】
また、前進用クラッチ52Cおよび後進用逆転ブレーキ53Bが共に解放されると、前後進切換装置33は、エンジン31とベルト式無段変速機34との間の動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)になる。
【0049】
すなわち、本実施の形態の前後進切換装置33は、サンギヤ54Sと、リングギヤ54Rと、サンギヤ54Sおよびリングギヤ54Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ54Pを回転自在に支持したキャリア54Cとの3要素から遊星歯車機構51が構成されている。
【0050】
これら3要素のうちのリングギヤ54Rをエンジン31からの動力が伝達されるタービンシャフト40に連結された入力要素とし、サンギヤ54Sを、エンジン31からの動力を出力する入力軸61に連結された出力要素とし、前進用クラッチ52Cを解放してキャリア54Cを後進用逆転ブレーキ53Bで固定することにより、タービンシャフト40およびリングギヤ54Rの回転を逆転してサンギヤ54Sおよび入力軸61に伝達し、後進用逆転ブレーキ53Bを解放してリングギヤ54Rとキャリア54Cとを相互に前進用クラッチ52Cで結合することにより、タービンシャフト40およびリングギヤ54Rの回転をタービンシャフト40およびサンギヤ54Sの回転方向と同一回転方向にサンギヤ54Sおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0051】
また、本実施の形態では、前進用クラッチ52Cによって結合されるリングギヤ54Rとキャリア54Cとの間にはダンパ機構62が介装されており、このダンパ機構62は、遊星歯車機構51に対してトルクコンバータ32のタービンシャフト40側(エンジン31側)に設けられている。
【0052】
ダンパ機構62は、前進用クラッチ52Cに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ52Cに係合されたときにリングギヤ54Rと一体回転する円板状のプレート63と、キャリア54Cに取付けられ、キャリア54Cと一体回転する円板状のプレート64と、プレート63およびプレート64の間に介装され、遊星歯車機構51の回転方向に伸縮自在なトーションバネ65とから構成されており、プレート63とプレート64が相対回転したときにトーションバネ65を撓ませることにより、プレート63とプレート64とを一体的に回転させるようになっている。このように、リングギヤ54Rおよびキャリア54Cは、ダンパ機構62を介して弾性的に連結される。
【0053】
また、本実施の形態の遊星歯車機構51は、サンギヤ54Sの歯数をリングギヤ54Rの歯数で除した歯数比ρを1以下に設定するとともに、入力要素であるリングギヤ54Rと出力要素であるサンギヤ54Sの捩じり角に対してダンパ機構62の捩じり角が小さくなるように、前進用クラッチ52Cに結合されるリングギヤ54Rとキャリア54Cとの間にダンパ機構62を介装している。
なお、トーションバネ65は、プレート63およびプレート64の円周方向に離隔して複数個設けられている。
【0054】
ベルト式無段変速機34は、油圧により伝動ベルト66を挟圧して動力を伝達するとともにその伝動ベルト66の掛かり径を変更して変速比を変化させるものである。ベルト式無段変速機34は、入力軸61に設けられたプライマリプーリ67と、出力軸69に設けられたセカンダリプーリ68と、プライマリプーリ67およびセカンダリプーリ68に巻き掛けられた金属製の伝動ベルト66とを備えている。
そして、ベルト式無段変速機34は、プライマリプーリ67およびセカンダリプーリ68と伝動ベルト66との間の摩擦力を介して動力伝達が行われるように構成されている。
【0055】
プライマリプーリ67は、有効径が可変な可変プーリであって、入力軸61に固定された固定シーブ67aと、入力軸61に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ67bとによって構成されている。
セカンダリプーリ68は、有効径が可変な可変プーリであって、出力軸69に固定された固定シーブ68aと、出力軸69に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ68bとによって構成されている。
【0056】
プライマリプーリ67の可動シーブ67b側には、固定シーブ67aと可動シーブ67bとの間のV溝72の幅を変更するための油圧アクチュエータ70が設けられている。また、セカンダリプーリ68の可動シーブ68b側には、固定シーブ68aと可動シーブ68bとの間のV溝73の幅を変更するための油圧アクチュエータ71が設けられている。
【0057】
そして、ベルト式無段変速機34において、プライマリプーリ67の油圧アクチュエータ70の油圧(変速油圧)を制御することにより、プライマリプーリ67およびセカンダリプーリ68のV溝72、73の幅を変化させて伝動ベルト66の掛かり径(有効径)を変更し、変速比(=入力軸61の回転数/出力軸69の回転数)を連続的に変化させることができる。
【0058】
また、セカンダリプーリ68の油圧アクチュエータ71の油圧(挟圧油圧)は、伝動ベルト66の滑りが生じない範囲で伝達トルクを伝達する所定のベルト挟圧力(摩擦力)を発生させるように制御される。
【0059】
また、出力軸69は、減速歯車装置35を介して差動歯車装置36に連結されており、差動歯車装置36は、ドライブシャフト74L、74Rを介して駆動輪37L、37Rに連結されている。
【0060】
次に、前進用クラッチ52Cによってリングギヤ54Rとキャリア54Cとを連結したときの2自由度の捩じり振動伝達系の簡易モデルを図2に示す。
図2において、エンジン31およびトルクコンバータ32の二次側(エンジン31からトルクコンバータ32のタービンランナ41まで)の慣性をI1、ベルト式無段変速機34のプライマリプーリ67から差動歯車装置36までの慣性をI2、ダンパ機構62および遊星歯車機構51(以下、ダンパ機構62と遊星歯車機構51をプラネタリダンパ76ともいう)のバネ剛性をK1、ドライブシャフト28L、28Rのバネ剛性をK2、駆動輪をB、慣性I1の回転角θ1、慣性I2の回転角をθ2としたときの動力伝達装置の運動方程式は、下記の式(3)で表される。
【数3】
したがって、プラネタリダンパ76のバネ剛性K1´は、等価的に下記の式(4)で示すものになる。
【0061】
【数4】
プラネタリダンパ76のバネ剛性が等価的に上記の式(4)に示すようになるのは、以下の理由による。
【0062】
一般的なバネ剛性は、図3で示すように慣性I1がθだけ回転したとき、剛性Kのバネのトルク反力Tは、T=−K・θで表される。
【0063】
次に、本実施の形態のプラネタリダンパ76のバネ剛性を図4、図5(a)に基づいて説明する。図4、図5(a)は、プラネタリダンパ76を模式的に示す図である。図4、図5(a)において、本実施の形態のプラネタリダンパ76は、入力要素であるリングギヤ54Rとキャリア54Cとの間にバネ剛性K1のダンパ機構62を介装し、出力要素をサンギヤ54Sとしたものから構成されており、バネ剛性K1のダンパ機構62を有するプラネタリダンパ76のバネ剛性がK1´となる。
なお、ダンパ機構62のバネ剛性K1は、実際にはトーションバネ65のバネ剛性であるが、説明の便宜上、バネ剛性は、ダンパ機構62のバネ剛性として表現する。また、ダンパ機構62の変位角(捩じり角)は、実際にはトーションバネ65の捩じり角であるが、説明の便宜上、捩じり角は、ダンパ機構62の捩じり角として表現する。
【0064】
図4において、慣性I1が回転角θ1で回転したときの遊星歯車機構51のサンギヤ54S、リングギヤ54R、キャリア54Cのそれぞれの回転角をθs、θr、θcと表現すると、遊星歯車機構のサンギヤ54Sおよびリングギヤ54Rの変位角は、θr=θ1,θs=0であるため、ダンパ機構62の変位角(捩じり角)θ1´は、下記の式(5)で表される。ここで、ρ=(Zs/Zr)であり、Zsは、サンギヤ54Sの歯数、Zrは、リングギヤ54Rの歯数を表す。また、本実施の形態では、歯数比ρをρ<1に設定している。
【数5】
このとき、ダンパ機構62の両端、すなわち、トーションバネ65のリングギヤ54R側とキャリア54C側とに発生するトルクTkは、下記の式(6)で表される。
【数6】
したがって、慣性I1に発生するトルク反力Tは、下記の式(7)のように表される。
【数7】
したがって、プラネタリダンパ76のバネ剛性K1´は、下記の式(8)のようになるのである。
【数8】
また、このプラネタリダンパ76の共線図は、図5(b)のように表され、ダンパ機構62の変位角(捩じり角)に着目すると、ダンパ機構62の変位角(捩じり角)θ1´は、下記の式(9)で表される。
【数9】
【0065】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ76は、ρ<1に設定するとともに、前進用クラッチ52Cによってリングギヤ54Rとキャリア54Cとを直結したときに、入力要素であるリングギヤ54Rと出力要素であるサンギヤ54Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構62の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ54Rと残りの1要素であるキャリア54Cとの間にダンパ機構62を介装することにより、ダンパ機構62の捩じり角θ1´を小さくすることができる分だけ、リングギヤ54Rに入力される捩じり振動に対してダンパ機構62のトルク反力を小さくすることができる。
このため、プラネタリダンパ76のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができるのである。
【0066】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32および入力軸61からリングギヤ54Rに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構62で吸収することができ、キャリア54Cからサンギヤ54Sを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、NV(ノイズ・アンド・バイブレーション)が大きくなるのを防止することができる。
【0067】
このように、本実施の形態では、前後進切換装置33に設けられた既存の遊星歯車機構51を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0068】
また、本実施の形態では、車両の後進時には、後進用逆転ブレーキ53Bを介してキャリア54Cを動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定することができるため、前後進切換装置33の本来の機能を損なうことがない。
【0069】
また、本実施の形態では、プラネタリダンパ76を低剛性のバネと等価にすることができるため、従来のようにロックアップクラッチにダンパ機構を設けるのを不要にできる。 また、本実施の形態のプラネタリダンパ76は、振動特性の実験を行った結果、ロックアップクラッチに設けられた従来のダンパ機構に対して捩じり振動を20dB程度低減することが分かった。
【0070】
図6は、入力要素であるリングギヤ54Rに入力されるトルク変動と出力要素であるサンギヤ54Sから出力されるトルク変動のトルク変動伝達率と、エンジンの回転変動周波数の関係を示したものである。
【0071】
通常の4気筒エンジンの場合には、従来のダンパ機構を有するロックアップクラッチのロックアップ回転数が1000rpm以上(エンジンの回転変動周波数帯域は、33Hz以上)となるのに対して、本実施の形態のプラネタリダンパ76は、トルク変動伝達率を20dB以上低減することができることが確認された。
【0072】
このため、本実施の形態では、ロックアップ回転数のエンジン回転変動周波数を22Hz程度に下げてエンジン回転数を660rpm程度の低回転数に設定することができ、エンジン31の燃費を低減することができる。
【0073】
(第2の実施の形態)
図7、図8は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第2の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図7において、前後進切換装置81は、シングルピニオンギヤ型の遊星歯車機構82と、直結クラッチとしての前進用クラッチ83Cと、後進用逆転ブレーキとしての後進用逆転ブレーキ84Bとを備えている。
【0074】
遊星歯車機構82のサンギヤ85Sは、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に一体的に連結されており、サンギヤ85Sにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。また、リングギヤ85Rは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に一体的に連結されており、リングギヤ85Rは、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0075】
キャリア85Cおよびリングギヤ85Rは、前進用クラッチ83Cを介して選択的に連結されるようになっており、キャリア85Cは、後進用逆転ブレーキ84Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0076】
サンギヤ85Sとリングギヤ85Rとの間には、サンギヤ85Sおよびリングギヤ85Rに噛合するピニオンギヤ85Pが配置されており、ピニオンギヤ85Pは、キャリア85Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0077】
本実施の形態の前後進切換装置81は、サンギヤ85Sと、リングギヤ85Rと、サンギヤ85Sおよびリングギヤ85Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ85Pを回転自在に支持したキャリア85Cとの3要素から遊星歯車機構82が構成されている。
【0078】
これら3要素のうちのサンギヤ85Sをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、リングギヤ85Rをエンジン31からの動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、キャリア85Cを後進用逆転ブレーキ84Bで固定することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ85Sの回転を逆転してリングギヤ85Rおよび入力軸61に伝達し、リングギヤ85Rとキャリア85Cを相互に前進用クラッチ83Cで結合することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ85Sの回転をタービンシャフト40およびサンギヤ85Sの回転方向と同一回転方向にリングギヤ85Rおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0079】
また、前進用クラッチ83Cによって結合されるリングギヤ85Rとキャリア85Cとの間にはダンパ機構86が介装されており、このダンパ機構86は、遊星歯車機構82に対してベルト式無段変速機34の入力軸61側に設けられている。
【0080】
このダンパ機構86は、前進用クラッチ83Cに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ83Cに係合されたときにリングギヤ85Rと一体回転する円板状のプレート86aと、キャリア85Cに取付けられ、キャリア85Cと一体回転するプレート86bと、プレート86aおよびプレート86bの間に介装され、遊星歯車機構82の回転方向に伸縮自在なトーションバネ86cとから構成されており、プレート86aとプレート86bが相対回転したときにトーションバネ86cを撓ませることにより、プレート86aとプレート86bとを一体的に回転させるようになっている。このように、リングギヤ85Rおよびキャリア85Cは、ダンパ機構86を介して弾性的に連結される。
【0081】
図8(a)に示すように、遊星歯車機構82とダンパ機構86によって構成されるプラネタリダンパ87のバネ剛性K1´は、等価的に第1の実施の形態の上記の式(8)で示すものと同様のものとなり、このプラネタリダンパ87の共線図は、図8(b)のように表される。
また、図8(b)から明らかなように、ダンパ機構62の変位角(捩じり角)θ1´は、第1の実施の形態の上記の式(9)と同様のものとなる。
【0082】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ87は、ρ<1に設定し、図8(b)に示すように、前進用クラッチ83Cによってリングギヤ85Rとキャリア85Cとを直結したときに、入力要素であるサンギヤ85Sと出力要素であるリングギヤ85Rの捩じり角θ1に対してダンパ機構86の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ85Rとキャリア85Cとの間にダンパ機構86を介装することにより、ダンパ機構86の捩じり角θ1´を小さくすることができる分だけ、サンギヤ85Sに入力される捩じり振動に対してダンパ機構86のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ87のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0083】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からサンギヤ85Sに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構86で吸収することができ、キャリア85Cからリングギヤ85Rを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0084】
このように、本実施の形態では、前後進切換装置81に設けられた既存の遊星歯車機構82を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0085】
(第3の実施の形態)
図9、図10は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第3の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図9において、前後進切換装置91は、シングルピニオンギヤ型の遊星歯車機構92と、直結クラッチとしての前進用クラッチ93Cと、後進用逆転ブレーキとしての後進用逆転ブレーキ94Bとを備えている。
【0086】
遊星歯車機構92のキャリア95Cは、前進用クラッチ93Cを介してタービンシャフト40に係合および解放自在に設けられている。タービンシャフト40にはフランジ部98が設けられており、キャリア95Cが前進用クラッチ93Cに係合されると、キャリア95Cは、フランジ部98を介してタービンシャフト40に連結されることにより、キャリア95Cにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0087】
また、サンギヤ95Sは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に一体的に連結されており、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。また、キャリア95Cおよびリングギヤ95Rは、前進用クラッチ93Cを介して選択的に連結されるようになっており、キャリア95Cは、後進用逆転ブレーキ94Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0088】
サンギヤ95Sとリングギヤ95Rとの間には、サンギヤ95Sおよびリングギヤ95Rに噛合するピニオンギヤ95Pが配置されており、ピニオンギヤ95Pは、キャリア95Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0089】
本実施の形態の前後進切換装置91は、サンギヤ95Sと、リングギヤ95Rと、サンギヤ95Sおよびリングギヤ95Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ95Pを回転自在に支持したキャリア95Cとの3要素から遊星歯車機構92が構成されている。
【0090】
これら3要素のうちのキャリア95Cを、エンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、サンギヤ95Sを、エンジン31からの動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、キャリア95Cを後進用逆転ブレーキ94Bで固定することにより、タービンシャフト40およびリングギヤ95Rの回転を逆転してサンギヤ95Sおよび入力軸61に伝達し、リングギヤ95Rとキャリア95Cを相互に前進用クラッチ93Cで結合することにより、タービンシャフト40およびキャリア95Cの回転をタービンシャフト40およびキャリア95Cの回転方向と同一回転方向にサンギヤ95Sおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0091】
また、本実施の形態では、前進用クラッチ93Cによって結合されるリングギヤ95Rとキャリア95Cとの間にはダンパ機構96が介装されており、このダンパ機構96は、遊星歯車機構92に対してトルクコンバータ32のタービンシャフト40側(エンジン31側)に設けられている。
【0092】
このダンパ機構96は、リングギヤ95Rに取付けられ、リングギヤ95Rと一体的に回転する円板状のプレート96aと、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に取付けられてタービンシャフト40と一体的に回転する円板状のプレート96bと、プレート96aおよびプレート96bの間に介装され、遊星歯車機構92の回転方向に伸縮自在なトーションバネ96cとから構成されており、プレート96aとプレート96bが相対回転したときにトーションバネ96cを撓ませることにより、プレート96aとプレート96bとを一体的に回転させるようになっている。このように、リングギヤ95Rおよびキャリア95Cは、ダンパ機構96を介して弾性的に連結される。
【0093】
また、本実施の形態の遊星歯車機構92は、入力要素であるキャリア95Cと出力要素であるサンギヤ95Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構96の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア95Cと残りの1要素であるリングギヤ95Rとの間にダンパ機構96を介装している。
【0094】
このため、図10(a)に示すように、遊星歯車機構92とダンパ機構96とによって構成されるプラネタリダンパ97のバネ剛性K1´は、K1´=ρ2・K1と等価なものとなり、このプラネタリダンパ97の共線図は、図10(b)のように表される。
図10(b)から明らかなように、ダンパ機構96の捩じり角θ1´は、
(数10)
θ1´=ρ・θ1.........(10)
となる。
【0095】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ97は、ρ<1に設定し、図10(b)に示すように、前進用クラッチ93Cによってリングギヤ95Rとキャリア95Cとを直結したときに、入力要素であるキャリア95Cと出力要素であるサンギヤ95Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構96の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア95Cとリングギヤ95Rとの間にダンパ機構96を介装することにより、ダンパ機構96の捩じり角を小さくすることができる分だけ、キャリア95Cに入力される捩じり振動に対してダンパ機構96のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ97のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0096】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からリングギヤ95Rに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構96で吸収することができ、キャリア95Cからサンギヤ95Sを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0097】
このように、本実施の形態では、前後進切換装置81に設けられた既存の遊星歯車機構82を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0098】
(第4の実施の形態)
図11、図12は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第4の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図11において、前後進切換装置101は、シングルピニオンギヤ型の遊星歯車機構102と、直結クラッチとしての前進用クラッチ103Cと、後進用逆転ブレーキとしての後進用逆転ブレーキ104Bとを備えている。
【0099】
遊星歯車機構102のサンギヤ105Sは、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に一体的に連結されており、エンジン31からの動力が入力されるようになっている。
【0100】
キャリア105Cは、前進用クラッチ103Cを介して入力軸61に係合および解放自在に設けられている。入力軸61にはフランジ部108が設けられており、キャリア105Cが前進用クラッチ103Cに係合されると、キャリア105Cは、フランジ部108を介して入力軸61に連結されることにより、キャリア105Cから入力軸61にエンジン31の動力が出力されるようになっている。
【0101】
キャリア105Cおよびリングギヤ105Rは、前進用クラッチ103Cを介して選択的に連結されるようになっており、キャリア105Cは、後進用逆転ブレーキ104Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0102】
サンギヤ105Sとリングギヤ105Rとの間には、サンギヤ105Sおよびリングギヤ105Rに噛合するピニオンギヤ105Pが配置されており、ピニオンギヤ105Pは、キャリア105Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0103】
本実施の形態の前後進切換装置101は、サンギヤ105Sと、リングギヤ105Rと、サンギヤ105Sおよびリングギヤ105Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ105Pを回転自在に支持したキャリア105Cとの3要素から遊星歯車機構102が構成されている。
【0104】
これら3要素のうちのサンギヤ105Sをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、キャリア105Cをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、キャリア105Cを後進用逆転ブレーキ104Bで固定することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ105Sの回転を逆転してリングギヤ105Rおよび入力軸61に伝達し、リングギヤ105Rとキャリア105Cを相互に前進用クラッチ103Cで結合することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ105Sの回転をタービンシャフト40およびサンギヤ105Sの回転方向と同一回転方向にキャリア105Cおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0105】
また、前進用クラッチ103Cによって結合されるリングギヤ105Rとキャリア105Cとの間にはダンパ機構106が介装されており、このダンパ機構106は、遊星歯車機構102に対してベルト式無段変速機34の入力軸61側に設けられている。
【0106】
このダンパ機構106は、リングギヤ105Rに取付けられ、リングギヤ105Rと一体的に回転する円板状のプレート106aと、入力軸61に取付けられて入力軸61と一体的に回転する円板状のプレート106bと、プレート106aおよびプレート106bの間に介装され、遊星歯車機構102の回転方向に伸縮自在なトーションバネ106cとから構成されており、プレート106aとプレート106bが相対回転したときにトーションバネ106cを撓ませることにより、プレート106aとプレート106bとを一体的に回転させるようになっている。このように、リングギヤ105Rおよびキャリア105Cは、ダンパ機構106を介して弾性的に連結される。
【0107】
また、本実施の形態の遊星歯車機構102は、入力要素であるサンギヤ105Sと出力要素であるキャリア105Cの捩じり角θ1に対してダンパ機構106の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア105Cと残りの1要素であるリングギヤ105Rとの間にダンパ機構106を介装している。
【0108】
このため、図12(a)に示すように、遊星歯車機構102とダンパ機構106とによって構成されるプラネタリダンパ107のバネ剛性K1´は、K1´=ρ2・K1と等価なものとなり、このプラネタリダンパ107の共線図は、図12(b)のように表される。
図12(b)から明らかなように、ダンパ機構106の捩じり角θ1´は、
(数11)
θ1´=ρ・θ1.........(11)
となる。
【0109】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ107は、ρ<1に設定し、図12(b)に示すように、前進用クラッチ103Cによってリングギヤ105Rとキャリア105Cとを直結したときに、入力要素であるサンギヤ105Sと出力要素であるキャリア105Cの捩じり角θ1に対してダンパ機構106の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア105Cとリングギヤ105Rとの間にダンパ機構106を介装することにより、ダンパ機構106の捩じり角を小さくすることができる分だけ、サンギヤ105Sに入力される捩じり振動に対してダンパ機構106のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ107のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0110】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からリングギヤ105Rに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構106で吸収することができ、サンギヤ105Sからキャリア105Cを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0111】
このように、本実施の形態では、前後進切換装置101に設けられた既存の遊星歯車機構102を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0112】
(第5の実施の形態)
図13、図14は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第5の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図13において、前後進切換装置111は、シングルピニオンギヤ型の遊星歯車機構112と、直結クラッチとしての前進用クラッチ113Cと、後進用逆転ブレーキとしての後進用逆転ブレーキ114Bとを備えている。
【0113】
遊星歯車機構112のサンギヤ115Sは、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に一体的に連結されており、サンギヤ115Sにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0114】
また、リングギヤ115Rは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に一体的に連結されており、リングギヤ115Rは、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0115】
サンギヤ115Sおよびキャリア115Cは、前進用クラッチ113Cを介して選択的に連結されるようになっており、キャリア115Cは、後進用逆転ブレーキ114Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0116】
サンギヤ115Sとリングギヤ115Rとの間には、サンギヤ115Sおよびリングギヤ115Rに噛合するピニオンギヤ115Pが配置されており、ピニオンギヤ115Pは、キャリア115Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0117】
本実施の形態の前後進切換装置111は、サンギヤ115Sと、リングギヤ115Rと、サンギヤ115Sおよびリングギヤ115Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ115Pを回転自在に支持したキャリア115Cとの3要素から遊星歯車機構112が構成されている。
【0118】
これら3要素のうちのサンギヤ115Sをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、リングギヤ115Rをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、キャリア115Cを後進用逆転ブレーキ114Bで固定することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ115Sの回転を逆転してリングギヤ115Rおよび入力軸61に伝達し、サンギヤ115Sとキャリア115Cを相互に前進用クラッチ113Cで結合することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ115Sの回転をタービンシャフト40およびサンギヤ115Sの回転方向と同一回転方向にリングギヤ115Rおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0119】
また、本実施の形態では、前進用クラッチ113Cによって結合されるサンギヤ115Sとキャリア115Cとの間にはダンパ機構116が介装されており、このダンパ機構116は、遊星歯車機構112に対してトルクコンバータ32のタービンシャフト40側(エンジン31側)に設けられている。
【0120】
このダンパ機構116は、トルクコンバータ32のタービンシャフト40を介してサンギヤ115Sに取付けられ、サンギヤ115Sと一体的に回転する円板状のプレート116aと、前進用クラッチ113Cに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ113Cに係合したときにキャリア115Cと一体回転する円板状のプレート116bと、プレート116aおよびプレート116bの間に介装され、遊星歯車機構112の回転方向に伸縮自在なトーションバネ116cとから構成されており、プレート116aとプレート116bが相対回転したときにトーションバネ116cを撓ませることにより、プレート116aとプレート116bとを一体的に回転させるようになっている。このように、サンギヤ115Sおよびキャリア115Cは、ダンパ機構116を介して弾性的に連結される。
【0121】
また、本実施の形態の遊星歯車機構112は、入力要素であるサンギヤ115Sと出力要素であるリングギヤ115Rの捩じり角θ1に対してダンパ機構116の捩じり角θ1´が小さくなるように、サンギヤ115Sと残りの1要素であるキャリア115Cとの間にダンパ機構116を介装している。
【0122】
このため、図14(a)に示すように、遊星歯車機構112とダンパ機構116とによって構成されるプラネタリダンパ117のバネ剛性K1´は、下記の式(12)に示すものと等価なものとなり、このプラネタリダンパ117の共線図は、図14(b)のように表される。
【数12】
図14(b)から明らかなように、ダンパ機構116の捩じり角θ1´は、下記の式(13)に示されるものとなる。
【数13】
【0123】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ117は、ρ<1に設定し、図14(b)に示すように、前進用クラッチ113Cによってサンギヤ115Sとキャリア115Cとを直結したときに、入力要素であるサンギヤ115Sと出力要素であるリングギヤ115Rの捩じり角θ1に対してダンパ機構116の捩じり角θ1´が小さくなるように、サンギヤ115Sとキャリア115Cとの間にダンパ機構116を介装することにより、ダンパ機構116の捩じり角を小さくすることができる分だけ、サンギヤ115Sに入力される捩じり振動に対してダンパ機構116のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ117のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0124】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からサンギヤ115Sに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構116で吸収することができ、サンギヤ115Sからリングギヤ115Rを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0125】
このように、本実施の形態では、前後進切換装置111に設けられた既存の遊星歯車機構112を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0126】
(第6の実施の形態)
図15、図16は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第6の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図15において、前後進切換装置121は、シングルピニオンギヤ型の遊星歯車機構122と、直結クラッチとしての前進用クラッチ123Cと、後進用逆転ブレーキ124Bとを備えている。
【0127】
遊星歯車機構122のリングギヤ125Rは、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に一体的に連結されており、リングギヤ125Rにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0128】
また、サンギヤ125Sは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に一体的に連結されており、サンギヤ125Sは、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0129】
サンギヤ125Sおよびキャリア125Cは、前進用クラッチ123Cを介して選択的に連結されるようになっており、キャリア125Cは、後進用逆転ブレーキ124Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0130】
サンギヤ125Sとリングギヤ125Rとの間には、サンギヤ125Sおよびリングギヤ125Rに噛合するピニオンギヤ125Pが配置されており、ピニオンギヤ125Pは、キャリア125Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0131】
本実施の形態の前後進切換装置121は、サンギヤ125Sと、リングギヤ125Rと、サンギヤ125Sおよびリングギヤ125Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ125Pを回転自在に支持したキャリア125Cとの3要素から遊星歯車機構122が構成されている。
【0132】
これら3要素のうちのリングギヤ125Rをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、サンギヤ125Sをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、キャリア125Cを後進用逆転ブレーキ124Bで固定することにより、タービンシャフト40およびリングギヤ125Rの回転を逆転してサンギヤ125Sおよび入力軸61に伝達し、サンギヤ125Sとキャリア125Cを相互に前進用クラッチ123Cで結合することにより、タービンシャフト40およびリングギヤ125Rの回転をタービンシャフト40およびリングギヤ125Rの回転方向と同一回転方向にサンギヤ125Sおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0133】
また、前進用クラッチ123Cによって結合されるサンギヤ125Sとキャリア125Cとの間にはダンパ機構126が介装されており、このダンパ機構126は、遊星歯車機構122に対してベルト式無段変速機34の入力軸61側に設けられている。
【0134】
このダンパ機構126は、入力軸61を介してサンギヤ125Sに取付けられ、サンギヤ125Sと一体的に回転する円板状のプレート126aと、前進用クラッチ123Cに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ123Cに係合したときにキャリア125Cと一体回転する円板状のプレート126bと、プレート126aおよびプレート126bの間に介装され、遊星歯車機構122の回転方向に伸縮自在なトーションバネ126cとから構成されており、プレート126aとプレート126bが相対回転したときにトーションバネ126cを撓ませることにより、プレート126aとプレート126bとを一体的に回転させるようになっている。このように、サンギヤ125Sおよびキャリア125Cは、ダンパ機構126を介して弾性的に連結される。
【0135】
また、本実施の形態の遊星歯車機構122は、入力要素であるリングギヤ125Rと出力要素であるサンギヤ125Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構126の捩じり角θ1´が小さくなるように、サンギヤ125Sと残りの1要素であるキャリア125Cとの間にダンパ機構126を介装している。
【0136】
このため、図16(a)に示すように、遊星歯車機構122とダンパ機構126とによって構成されるプラネタリダンパ127のバネ剛性K1´は、下記の式(14)に示すものと等価なものとなり、プラネタリダンパ127の共線図は、図16(b)のように表される。
【数14】
図16(b)から明らかなように、ダンパ機構126の捩じり角θ1´は、下記の式(15)に示されるものとなる。
【数15】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ127は、ρ<1に設定し、図16(b)に示すように、前進用クラッチ123Cによってサンギヤ125Sとキャリア125Cとを直結したときに、入力要素であるリングギヤ125Rと出力要素であるサンギヤ125Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構126の捩じり角θ1´が小さくなるように、サンギヤ125Sとキャリア125Cとの間にダンパ機構126を介装することにより、ダンパ機構126の捩じり角θ1´を小さくすることができる分だけ、リングギヤ125Rに入力される捩じり振動に対してダンパ機構126のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ127のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0137】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からリングギヤ125Rを介してキャリア125Cに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構126で吸収することができ、キャリア125Cからサンギヤ125Sを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0138】
さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0139】
このように、本実施の形態では,前後進切換装置121に設けられた既存の遊星歯車機構122を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0140】
(第7の実施の形態)
図17、図18は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第7の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図17において、前後進切換装置131は、ダブルピニオンギヤ型の遊星歯車機構132と、直結クラッチとしての前進用クラッチ133Cと、後進用逆転ブレーキ134Bとを備えている。
【0141】
遊星歯車機構132のキャリア135Cは、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に連結されており、キャリア135Cにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0142】
また、サンギヤ135Sは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に一体的に連結されており、サンギヤ135Sは、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0143】
キャリア135Cおよびリングギヤ135Rは、前進用クラッチ133Cを介して選択的に連結されるようになっており、リングギヤ135Rは、後進用逆転ブレーキ134Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0144】
サンギヤ135Sとリングギヤ135Rとの間にはサンギヤ135Sに噛合する内側のピニオンギヤ135P1と、ピニオンギヤ135P1およびリングギヤ135Rに噛合する外側のピニオンギヤ135P2とが配置されており、ピニオンギヤ135P1、135P2は、キャリア135Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0145】
本実施の形態の前後進切換装置131は、サンギヤ135Sと、リングギヤ135Rと、サンギヤ135Sおよびリングギヤ135Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ135P1、135P2を回転自在に支持したキャリア135Cとの3要素から遊星歯車機構132が構成されている。
【0146】
これら3要素のうちのキャリア135Cをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、サンギヤ135Sをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、リングギヤ135Rを後進用逆転ブレーキ134Bで固定することにより、タービンシャフト40およびキャリア135Cの回転を逆転してサンギヤ135Sおよび入力軸61に伝達し、キャリア135Cとリングギヤ135Rを相互に前進用クラッチ133Cで結合することにより、タービンシャフト40およびキャリア135Cの回転をタービンシャフト40およびキャリア135Cの回転方向と同一回転方向にサンギヤ135Sおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0147】
また、本実施の形態では、前進用クラッチ133Cによって結合されるリングギヤ135Rとキャリア135Cとの間にダンパ機構136が介装されており、このダンパ機構136は、遊星歯車機構132に対してトルクコンバータ32のタービンシャフト40側(エンジン31側)に設けられている。
【0148】
このダンパ機構136は、リングギヤ135Rに取付けられ、リングギヤ135Rと一体的に回転する円板状のプレート136aと、前進用クラッチ133Cに取付けられるとともに前進用クラッチ133Cを介してキャリア135Cに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ133Cに係合したときにキャリア135Cと一体回転する円板状のプレート136bと、プレート136aおよびプレート136bの間に介装され、遊星歯車機構132の回転方向に伸縮自在なトーションバネ136cとから構成されており、プレート136aとプレート136bが相対回転したときにトーションバネ136cを撓ませることにより、プレート136aとプレート136bとを一体的に回転させるようになっている。また、プレート136bは、後進用逆転ブレーキ134Bに係合および解放自在に設けられている。このように、リングギヤ135Rおよびキャリア135Cは、ダンパ機構136を介して弾性的に連結される。
【0149】
また、本実施の形態の遊星歯車機構132は、入力要素であるキャリア135Cと出力要素であるサンギヤ135Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構136の捩じり角θ1´が小さくなるように、サンギヤ135Sと残りの1要素であるキャリア135Cとの間にダンパ機構136を介装している。
【0150】
このため、図18(a)に示すように、遊星歯車機構132とダンパ機構136とによって構成されるプラネタリダンパ137のバネ剛性K1´は、K1´=ρ2・K1と等価なものとなり、このプラネタリダンパ137の共線図は、図18(b)のように表される。
図18(b)から明らかなようにダンパ機構136の捩じり角θ1´は、
(数16)
θ1´=ρ・θ1.........(16)
となる。
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ137は、ρ<1に設定し、図18(b)に示すように、前進用クラッチ133Cによってキャリア135Cとリングギヤ135Rとを直結したときに、入力要素であるキャリア135Cと出力要素であるサンギヤ135Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構136の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア135Cとリングギヤ135Rとの間にダンパ機構136を介装することにより、ダンパ機構136の捩じり角を小さくすることができる分だけ、キャリア135Cに入力される捩じり振動に対してダンパ機構136のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ137のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0151】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からキャリア135Cに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構136で吸収することができ、キャリア135Cからサンギヤ135Sを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0152】
さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0153】
このように、本実施の形態では,前後進切換装置131に設けられた既存の遊星歯車機構132を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0154】
(第8の実施の形態)
図19、図20は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第8の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
【0155】
図19において、前後進切換装置141は、ダブルピニオンギヤ型の遊星歯車機構142と、直結クラッチとしての前進用クラッチ143Cと、後進用逆転ブレーキ144Bとを備えている。
【0156】
遊星歯車機構142のサンギヤ145Sは、トルクコンバータ32のタービンシャフト40に一体的に連結されており、サンギヤ145Sにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0157】
また、キャリア145Cは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に一体的に連結されており、キャリア145Cは、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0158】
キャリア145Cおよびリングギヤ145Rは、前進用クラッチ143Cを介して選択的に連結されるようになっており、リングギヤ145Rは、後進用逆転ブレーキ144Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0159】
サンギヤ145Sとリングギヤ145Rとの間にはサンギヤ145Sに噛合する内側のピニオンギヤ145P1と、ピニオンギヤ145P1およびリングギヤ145Rに噛合する外側のピニオンギヤ145P2とが配置されており、ピニオンギヤ145P1、145P2は、キャリア145Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0160】
本実施の形態の前後進切換装置141は、サンギヤ145Sと、リングギヤ145Rと、サンギヤ145Sおよびリングギヤ145Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ145P1、145P2を回転自在に支持したキャリア145Cとの3要素から遊星歯車機構142が構成されている。
【0161】
これら3要素のうちのサンギヤ145Sをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、キャリア145Cをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、リングギヤ145Rを後進用逆転ブレーキ144Bで固定することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ145Sの回転を逆転してキャリア145Cおよび入力軸61に伝達し、キャリア145Cとリングギヤ145Rを相互に前進用クラッチ143Cで結合することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ145Sの回転をタービンシャフト40およびサンギヤ145Sの回転方向と同一回転方向にキャリア145Cおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0162】
また、本実施の形態では、前進用クラッチ143Cによって結合されるリングギヤ145Rとキャリア145Cとの間にはダンパ機構146が介装されており、このダンパ機構146は、遊星歯車機構142に対してトルクコンバータ32のタービンシャフト40側(エンジン31側)に設けられている。
【0163】
このダンパ機構146は、リングギヤ145Rに取付けられ、リングギヤ145Rと一体的に回転する円板状のプレート146aと、前進用クラッチ143Cに取付けられるとともに前進用クラッチ143Cを介してキャリア145Cに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ143Cに係合したときにキャリア145Cと一体回転する円板状のプレート146bと、プレート146aおよびプレート146bの間に介装され、遊星歯車機構142の回転方向に伸縮自在なトーションバネ146cとから構成されており、プレート146aとプレート146bが相対回転したときにトーションバネ146cを撓ませることにより、プレート146aとプレート146bとを一体的に回転させるようになっている。また、プレート146bは、後進用逆転ブレーキ144Bに係合および解放自在に設けられている。このように、リングギヤ145Rおよびキャリア145Cは、ダンパ機構146を介して弾性的に連結される。
【0164】
また、本実施の形態の遊星歯車機構142は、入力要素であるサンギヤ145Sと出力要素であるキャリア145Cの捩じり角θ1に対してダンパ機構146の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア145Cと残りの1要素であるリングギヤ145Rとの間にダンパ機構146を介装している。
【0165】
このため、図20(a)に示すように遊星歯車機構142とダンパ機構146とによって構成されるプラネタリダンパ147のバネ剛性K1´は、K1´=ρ2・K1となり、このプラネタリダンパ147の共線図は、図20(b)のように表される。
図20(b)から明らかなように、ダンパ機構146の捩じり角θ1´は、
(数17)
θ1´=ρ・θ1.........(17)
となる。
【0166】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ147は、ρ<1に設定し、図20(b)に示すように、前進用クラッチ143Cによってキャリア145Cとリングギヤ145Rとを直結したときに、入力要素であるサンギヤ145Sと出力要素であるキャリア145Cの捩じり角θ1に対してダンパ機構146の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア145Cとリングギヤ145Rとの間にダンパ機構146を介装することにより、ダンパ機構146の捩じり角を小さくすることができる分だけ、サンギヤ145Sに入力される捩じり振動に対してダンパ機構146のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ147のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0167】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からサンギヤ145Sを介してキャリア145Cに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構146で吸収することができ、キャリア145Cから入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0168】
さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0169】
このように、本実施の形態では,前後進切換装置141に設けられた既存の遊星歯車機構142を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0170】
(第9の実施の形態)
図21、図22は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第9の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図21において、前後進切換装置151は、ダブルピニオンギヤ型の遊星歯車機構152と、直結クラッチとしての前進用クラッチ153Cと、後進用逆転ブレーキ154Bとを備えている。
【0171】
遊星歯車機構152のキャリア155Cは、ロックアップクラッチ46のタービンシャフト40に一体的に設けられた円板状のプレート156aに連結されており、キャリア155Cにはプレート156aおよびタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0172】
また、サンギヤ155Sは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に一体的に連結されており、サンギヤ155Sは、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0173】
キャリア155Cおよびリングギヤ155Rは、ダンパ機構156を介して前進用クラッチ153Cに選択的に連結されるようになっており、リングギヤ155Rは、後進用逆転ブレーキ154Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0174】
サンギヤ155Sとリングギヤ155Rとの間にはサンギヤ155Sに噛合する内側のピニオンギヤ155P1と、ピニオンギヤ155P1およびリングギヤ155Rに噛合する外側のピニオンギヤ155P2とが配置されており、ピニオンギヤ155P1、155P2は、キャリア155Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0175】
本実施の形態の前後進切換装置151は、サンギヤ155Sと、リングギヤ155Rと、サンギヤ155Sおよびリングギヤ155Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ155P1、155P2を回転自在に支持したキャリア155Cとの3要素から遊星歯車機構152が構成されている。
【0176】
これら3要素のうちのリングギヤ155Rをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、サンギヤ155Sをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、リングギヤ155Rを後進用逆転ブレーキ154Bで固定することにより、タービンシャフト40およびリングギヤ155Rの回転を逆転してサンギヤ155Sおよび入力軸61に伝達し、キャリア155Cとリングギヤ155Rとをダンパ機構156を介して前進用クラッチ153Cで結合することにより、タービンシャフト40およびリングギヤ155Rの回転をタービンシャフト40およびリングギヤ155Rの回転方向と同一回転方向にサンギヤ155Sおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0177】
また、本実施の形態では、前進用クラッチ153Cによって結合されるリングギヤ155Rとキャリア155Cとの間に介装されるダンパ機構156は、遊星歯車機構152に対してトルクコンバータ32のタービンシャフト40側(エンジン31側)に設けられている。
【0178】
このダンパ機構156は、タービンシャフト40に取付けられるとともに、前進用クラッチ153Cを介してリングギヤ155Rに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ153Cに係合されたときにタービンシャフト40およびリングギヤ155Rと一体的に回転する円板状のプレート156aと、キャリア155Cに取付けられ、キャリア155Cと一体的に回転する円板状のプレート156bと、プレート156aおよびプレート156bの間に介装され、遊星歯車機構152の回転方向に伸縮自在なトーションバネ156cとから構成されており、プレート156aとプレート156bが相対回転したときにトーションバネ156cを撓ませることにより、プレート156aとプレート156bとを一体的に回転させるようになっている。このように、リングギヤ155Rおよびキャリア155Cは、ダンパ機構156を介して弾性的に連結される。
【0179】
また、本実施の形態の遊星歯車機構152は、入力要素であるリングギヤ155Rと出力要素であるサンギヤ155Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構156の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ155Rと残りの1要素であるキャリア155Cとの間にダンパ機構156を介装している。
【0180】
このため、図22(a)に示すように、遊星歯車機構152とダンパ機構156とによって構成されるプラネタリダンパ157のバネ剛性K1´は、下記の式(18)に示すものと等価なものとなり、このプラネタリダンパ127の共線図は、図22(b)のように表される。
【数18】
また、図22(b)から明らかなように、ダンパ機構156の捩じり角θ1´は、下記の式(19)に示されるものとなる。
【数19】
【0181】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ157は、ρ<1に設定し、図22(b)に示すように、前進用クラッチ153Cによってキャリア155Cとリングギヤ155Rとを直結したときに、入力要素であるリングギヤ155Rと出力要素であるサンギヤ155Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構156の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ155Rとキャリア155Cとの間にダンパ機構156を介装することにより、ダンパ機構156の捩じり角を小さくすることができる分だけ、リングギヤ155Rに入力される捩じり振動に対してダンパ機構156のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ157のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0182】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からリングギヤ155Rに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構156で吸収することができ、キャリア155Cからサンギヤ155Sを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0183】
さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0184】
このように、本実施の形態では,前後進切換装置151に設けられた既存の遊星歯車機構152を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0185】
(第10の実施の形態)
図23、図24は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第10の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図23において、前後進切換装置161は、ダブルピニオンギヤ型の遊星歯車機構162と、直結クラッチとしての前進用クラッチ163Cと、後進用逆転ブレーキ164Bとを備えている。
【0186】
遊星歯車機構162のサンギヤ165Sは、ロックアップクラッチ46のタービンシャフト40に一体的に設けられており、サンギヤ165Sにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0187】
また、ベルト式無段変速機34の入力軸61にはダンパ機構166の円板状のプレート166aが一体的に連結されており、このプレート166aは、前進用クラッチ163Cに係合および解放自在となっている。また、リングギヤ165Rは、前進用クラッチ163Cに係合および解放自在となっており、前進用クラッチ163Cによってプレート166aおよびリングギヤ165Rが係合されると、リングギヤ165Rは、プレート166aを介してエンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0188】
キャリア165Cおよびリングギヤ165Rは、ダンパ機構166を介して前進用クラッチ163Cに選択的に連結されるようになっており、リングギヤ165Rは、後進用逆転ブレーキ164Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0189】
サンギヤ165Sとリングギヤ165Rとの間にはサンギヤ165Sに噛合する内側のピニオンギヤ165P1と、ピニオンギヤ165P1およびリングギヤ165Rに噛合する外側のピニオンギヤ165P2とが配置されており、ピニオンギヤ165P1、165P2は、キャリア165Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0190】
本実施の形態の前後進切換装置161は、サンギヤ165Sと、リングギヤ165Rと、サンギヤ165Sおよびリングギヤ165Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ165P1、165P2を回転自在に支持したキャリア165Cとの3要素から遊星歯車機構162が構成されている。
【0191】
これら3要素のうちのサンギヤ165Sをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、リングギヤ165Rをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、リングギヤ165Rを後進用逆転ブレーキ164Bで固定することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ165Sの回転を逆転してリングギヤ165Rおよび入力軸61に伝達し、キャリア165Cとリングギヤ165Rとをダンパ機構166を介して前進用クラッチ163Cで結合することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ165Sの回転をタービンシャフト40およびサンギヤ165Sの回転方向と同一回転方向にリングギヤ165Rおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0192】
また、前進用クラッチ163Cによって結合されるリングギヤ165Rとキャリア165Cとの間に介装されるダンパ機構166は、遊星歯車機構162に対してベルト式無段変速機34の入力軸61側に設けられている。
【0193】
このダンパ機構166は、入力軸61に取付けられるとともに、前進用クラッチ163Cを介してリングギヤ165Rに係合および解放自在に設けられ、前進用クラッチ163Cに係合されたときに入力軸61およびリングギヤ165Rと一体的に回転する円板状のプレート166aと、キャリア165Cに取付けられ、キャリア165Cと一体的に回転する円板状のプレート166bと、プレート166aおよびプレート166bの間に介装され、遊星歯車機構162の回転方向に伸縮自在なトーションバネ166cとから構成されており、プレート166aとプレート166bが相対回転したときにトーションバネ166cを撓ませることにより、プレート166aとプレート166bとを一体的に回転させるようになっている。このように、リングギヤ165Rおよびキャリア165Cは、ダンパ機構166を介して弾性的に連結される。
【0194】
また、本実施の形態の遊星歯車機構162は、入力要素であるサンギヤ165Sと出力要素であるリングギヤ165Rの捩じり角θ1に対してダンパ機構166の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ165Rと残りの1要素であるキャリア165Cとの間にダンパ機構166を介装している。
【0195】
このため、図24(a)に示すように、遊星歯車機構162とダンパ機構166とによって構成されるプラネタリダンパ167のバネ剛性K1´は、下記の式(20)に示すものと等価なものとなり、このプラネタリダンパ127の共線図は、図24(b)のように表される。
【数20】
図24(b)から明らかなように、ダンパ機構166の捩じり角θ1´は、下記の式(21)に示されるものとなる。
【数21】
【0196】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ167は、ρ<1に設定し、図24(b)に示すように、前進用クラッチ163Cによってキャリア165Cとリングギヤ165Rとを直結したときに、入力要素であるサンギヤ165Sと出力要素であるリングギヤ165Rの捩じり角θ1に対してダンパ機構166の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ165Rとキャリア165Cとの間にダンパ機構166を介装することにより、ダンパ機構166の捩じり角を小さくすることができる分だけ、サンギヤ165Sに入力される捩じり振動に対してダンパ機構166のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ167のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0197】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からサンギヤ165Sを介してキャリア165Cに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構166で吸収することができ、キャリア165Cからリングギヤ165Rを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0198】
さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0199】
このように、本実施の形態では,前後進切換装置161に設けられた既存の遊星歯車機構162を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0200】
(第11の実施の形態)
図25、図26は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第11の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図24において、前後進切換装置171は、ダブルピニオンギヤ型の遊星歯車機構172と、直結クラッチとしての前進用クラッチ173Cと、後進用逆転ブレーキ174Bとを備えている。
【0201】
遊星歯車機構172のサンギヤ175Sは、ロックアップクラッチ46のタービンシャフト40に一体的に設けられており、サンギヤ175Sにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0202】
また、キャリア175Cは、ベルト式無段変速機34の入力軸61に連結されており、キャリア165Cは、エンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
【0203】
また、タービンシャフト40にはフランジ部178が一体的に設けられており、このフランジ部178は、前進用クラッチ173Cおよびダンパ機構176を介してリングギヤ175Rに係合および解放自在に設けられている。
【0204】
そして、フランジ部178が前進用クラッチ173Cおよびダンパ機構176を介してリングギヤ175Rに係合されると、リングギヤ175Rは、フランジ部178を介してサンギヤ175Sに連結される。
【0205】
また、リングギヤ175Rは、ダンパ機構176および後進用逆転ブレーキ174Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
サンギヤ175Sとリングギヤ175Rとの間にはサンギヤ175Sに噛合する内側のピニオンギヤ175P1と、ピニオンギヤ175P1およびリングギヤ175Rに噛合する外側のピニオンギヤ175P2とが配置されており、ピニオンギヤ175P1、175P2は、キャリア175Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0206】
本実施の形態の前後進切換装置171は、サンギヤ175Sと、リングギヤ175Rと、サンギヤ175Sおよびリングギヤ175Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ175P1、175P2を回転自在に支持したキャリア175Cとの3要素から遊星歯車機構172が構成されている。
【0207】
これら3要素のうちのサンギヤ175Sをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、キャリア175Cをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、リングギヤ175Rを後進用逆転ブレーキ174Bで固定することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ175Sの回転を逆転してキャリア175Cおよび入力軸61に伝達し、サンギヤ175Sとリングギヤ175Rとをダンパ機構176およびフランジ部178を介して前進用クラッチ173Cで結合することにより、タービンシャフト40およびサンギヤ175Sの回転をタービンシャフト40およびサンギヤ175Sの回転方向と同一回転方向にキャリア175Cおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0208】
また、本実施の形態では、前進用クラッチ173Cによって結合されるリングギヤ175Rとサンギヤ175Sとの間に介装されるダンパ機構176は、トルクコンバータ32のタービンシャフト40側(エンジン31側)に設けられている。
【0209】
このダンパ機構176は、前進用クラッチ173Cに取付けられるとともに、前進用クラッチ173Cがタービンシャフト40のフランジ部178に係合されたときにタービンシャフト40およびサンギヤ175Sと一体的に回転する円板状のプレート176aと、リングギヤ175Rに取付けられ、リングギヤ175Rと一体的に回転する円板状のプレート176bと、プレート176aおよびプレート176bの間に介装され、遊星歯車機構172の回転方向に伸縮自在なトーションバネ176cとから構成されており、プレート176aとプレート176bが相対回転したときにトーションバネ176cを撓ませることにより、プレート176aとプレート176bとを一体的に回転させるようになっている。また、プレート176bは、後進用逆転ブレーキ174Bに係合および解放自在に設けられている。このように、リングギヤ175Rおよびサンギヤ175Sは、ダンパ機構176を介して弾性的に連結される。
【0210】
また、本実施の形態の遊星歯車機構172は、入力要素であるサンギヤ175Sと出力要素であるキャリア175Cの捩じり角θ1に対してダンパ機構176の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ175Rと残りの1要素であるサンギヤ175Sとの間にダンパ機構176を介装している。
【0211】
このため、図26(a)に示すように、遊星歯車機構172とダンパ機構176とによって構成されるプラネタリダンパ177のバネ剛性K1´は、K1´=(1−ρ)2・Kと等価なものとなり、このプラネタリダンパ177の共線図は、図26(b)のように表される。
また、図26(b)から明らかなように、ダンパ機構176の捩じり角θ1´は、
(数22)
θ1´=(1−ρ)・θ1.........(22)
となる。
【0212】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ177は、ρ<1に設定し、図26(b)に示すように、前進用クラッチ173Cによってサンギヤ175Sとリングギヤ175Rとを直結したときに、入力要素であるリングギヤ175Rと出力要素であるキャリア175Cの捩じり角θ1に対してダンパ機構176の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ175Rとサンギヤ175Sとの間にダンパ機構176を介装することにより、ダンパ機構176の捩じり角を小さくすることができる分だけ、サンギヤ175Sに入力される捩じり振動に対してダンパ機構176のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ177のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0213】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からサンギヤ175Sに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構176で吸収することができ、キャリア175Cから入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0214】
さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0215】
このように、本実施の形態では,前後進切換装置171に設けられた既存の遊星歯車機構172を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0216】
(第12の実施の形態)
図27、図28は、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置の第12の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図27において、前後進切換装置181は、ダブルピニオンギヤ型の遊星歯車機構182と、直結クラッチとしての前進用クラッチ183Cと、後進用逆転ブレーキ184Bとを備えている。
【0217】
遊星歯車機構182のキャリア185Cは、ロックアップクラッチ46のタービンシャフト40に一体的に設けられており、キャリア185Cにはタービンシャフト40を介してエンジン31からの動力が伝達されるようになっている。
【0218】
また、入力軸61にはフランジ部188が一体的に設けられており、このフランジ部188は、前進用クラッチ183Cおよびダンパ機構186を介してリングギヤ185Rに係合および解放自在に設けられている。
【0219】
そして、フランジ部188が前進用クラッチ183Cおよびダンパ機構186を介してリングギヤ185Rに係合されると、リングギヤ185Rは、フランジ部188を介してサンギヤ185Sに連結されるとともにフランジ部188を介してエンジン31からの動力を入力軸61に出力するようになっている。
また、リングギヤ185Rは、ダンパ機構186および後進用逆転ブレーキ184Bを介して動力伝達装置30のハウジング57に選択的に固定されるようになっている。
【0220】
サンギヤ185Sとリングギヤ185Rとの間にはサンギヤ185Sに噛合する内側のピニオンギヤ185P1と、ピニオンギヤ185P1およびリングギヤ185Rに噛合する外側のピニオンギヤ185P2とが配置されており、ピニオンギヤ185P1、185P2は、キャリア185Cによって自転かつ公転自在に保持されている。
【0221】
本実施の形態の前後進切換装置181は、サンギヤ185Sと、リングギヤ185Rと、サンギヤ185Sおよびリングギヤ185Rの間で動力伝達を行うピニオンギヤ185P1、185P2を回転自在に支持したキャリア185Cとの3要素から遊星歯車機構182が構成されている。
【0222】
これら3要素のうちのキャリア185Cをエンジン31からの動力がタービンシャフト40を介して伝達される入力要素とし、サンギヤ185Sをエンジン31の動力をベルト式無段変速機34の入力軸61に出力する出力要素とし、リングギヤ185Rを後進用逆転ブレーキ184Bで固定することにより、タービンシャフト40およびキャリア185Cの回転を逆転してサンギヤ185Sおよび入力軸61に伝達し、サンギヤ185Sとリングギヤ185Rとをダンパ機構186およびフランジ部188を介して前進用クラッチ183Cで結合することにより、タービンシャフト40およびキャリア185Cの回転をタービンシャフト40およびキャリア185Cの回転方向と同一回転方向にサンギヤ185Sおよび入力軸61に伝達するようにしている。
【0223】
また、前進用クラッチ183Cによって結合されるリングギヤ185Rとサンギヤ185Sとの間に介装されるダンパ機構186は、遊星歯車機構182に対してベルト式無段変速機34の入力軸61側に設けられている。
【0224】
このダンパ機構186は、前進用クラッチ183Cに取付けられるとともに、前進用クラッチ183Cが入力軸61のフランジ部188に係合されたときに入力軸61およびサンギヤ185Sと一体的に回転する円板状のプレート186aと、リングギヤ185Rに取付けられ、リングギヤ185Rと一体的に回転する円板状のプレート186bと、プレート186aおよびプレート186bの間に介装され、遊星歯車機構182の回転方向に伸縮自在なトーションバネ186cとから構成されており、プレート186aとプレート186bが相対回転したときにトーションバネ186cを撓ませることにより、プレート186aとプレート186bとを一体的に回転させるようになっている。このように、リングギヤ185Rおよびサンギヤ185Sは、ダンパ機構186を介して弾性的に連結される。
【0225】
また、本実施の形態の遊星歯車機構182は、入力要素であるキャリア185Cと出力要素であるサンギヤ185Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構186の捩じり角θ1´が小さくなるように、キャリア185Cと残りの1要素であるリングギヤ185Rとの間にダンパ機構186を介装している。
【0226】
このため、図28(a)に示すように、遊星歯車機構182とダンパ機構186とによって構成されるプラネタリダンパ187のバネ剛性K1´は、K1´=(1−ρ)2・Kと等価なものとなり、このプラネタリダンパ187の共線図は、図28(b)のように表される。
また、図28(b)から明らかなように、ダンパ機構186の捩じり角θ1´は、
(数23)
θ1´=(1−ρ)・θ1.........(23)
となる。
【0227】
すなわち、本実施の形態のプラネタリダンパ187は、ρ<1に設定し、図28(b)に示すように、前進用クラッチ183Cによってサンギヤ185Sとリングギヤ185Rとを直結したときに、入力要素であるキャリア185Cと出力要素であるサンギヤ185Sの捩じり角θ1に対してダンパ機構186の捩じり角θ1´が小さくなるように、リングギヤ185Rとキャリア185Cとの間にダンパ機構186を介装することにより、ダンパ機構186の捩じり角を小さくすることができる分だけ、キャリア185Cに入力される捩じり振動に対してダンパ機構186のトルク反力を小さくすることができる。このため、プラネタリダンパ187のバネ剛性K1´を低剛性なバネと等価にすることができる。
【0228】
したがって、エンジン31の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うトルク変動による回転変動がクランクシャフト31a、トルクコンバータ32のタービンシャフト40からキャリア185Cに伝達されたときに、エンジン31のトルク変動に伴うタービンシャフト40の捩じり振動をダンパ機構186で吸収することができ、キャリア185Cからサンギヤ185Sを介して入力軸61に伝達される捩じり振動を低減することができる。
【0229】
さらに、入力軸61から駆動輪37L、37Rに伝達される捩じり振動を低減することができるため、結果的に、車両のNVが大きくなるのを防止することができる。
【0230】
このように、本実施の形態では、前後進切換装置181に設けられた既存の遊星歯車機構182を用いてエンジン31からベルト式無段変速機34に伝達されるトルク変動に伴う捩じり振動を低減することができるため、ベルト式無段変速機34が大型化したり重量が増加するのを抑制することができ、結果的に動力伝達装置30が大型化したり重量が増加するのを抑制することができる。
【0231】
なお、上記各実施の形態では、前後進切換装置33、81、91、101、111、121、131、141、151、161、171、181をプライマリプーリ67とトルクコンバータ32の間に設けているが、セカンダリプーリ68と減速歯車装置35との間に設けてもよい。
【0232】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0233】
以上のように、本発明に係る車両用変速機の前後進切換装置は、入力軸から出力軸に伝達される内燃機関のトルク変動に伴う捩じり振動を前後進切換装置に既存の遊星歯車機構によって低減することができ、車両用変速機が大型化したり重量が増加してしまうのを防止することができるという効果を有し、遊星歯車機構を利用して車両の進行方向の正逆回転切換えを行う車両用変速機の前後進切換装置等として有用である。
【符号の説明】
【0234】
31 エンジン(内燃機関)
33、81、91、101、111、121、131、141、151、161、171、181 前後進切換装置
34 ベルト式無段変速機
40 タービンシャフト(入力軸)
51、82、92、102、112、122、132、142、152、162、172、182 遊星歯車機構
52C、83C、93C、103C、113C、123C、133C、143C、153C、163C、173C、183C 前進用クラッチ(直結クラッチ)
53B、84B、94B、104B、114B、124B、134B、144B、154B、164B、174B、184B 後進用逆転ブレーキ
54C、85C、95C、105C、115C、125C、135C、145C、155C、165C、175C、185C キャリア
54P、85P、95P、105P、115P、125P、135P1、135P2、145P1、145P2、155P1、155P2、165P1、165P2、175P1、175P2、185P1、185P2 ピニオンギヤ
54R、85R、95R、105R、115R、125R、135R、145R、155R、165R、175R、185R リングギヤ
54S、85S、95S、105S、115S、125S、135S、145S、155S、165S、175S、185S サンギヤ
61 入力軸(出力軸)
62、86、96、106、116、126、136、146、156、166、176、186 ダンパ機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンギヤと、リングギヤと、前記サンギヤおよび前記リングギヤの間で動力伝達を行う1つまたは2つのピニオンギヤを回転自在に支持したキャリアとの3要素からなる遊星歯車機構と、後進用逆転ブレーキと、直結クラッチとを備え、
前記3要素のうちの1要素を内燃機関から動力が伝達される入力軸に連結される入力要素とし、別の1要素を前記内燃機関の動力を出力する出力軸に連結される出力要素とし、残りの1要素を前記後進用逆転ブレーキで固定することにより前記入力軸への回転を逆転して前記出力軸に伝達し、前記3要素のうちの2要素を相互に前記直結クラッチで結合することにより、前記入力軸の回転を前記入力軸の回転方向と同一回転方向に前記出力軸に伝達するようにした車両用変速機の前後進切換装置において、
前記直結クラッチに結合される前記2要素の間にダンパ機構を介装したことを特徴とする車両用変速機の前後進切換装置。
【請求項2】
前記サンギヤの歯数を前記リングギヤの歯数で除した歯数比ρを1以下に設定するとともに、前記3要素のうちの入力要素と出力要素の捩じり角に対して前記ダンパ機構の捩じり角が小さくなるように、前記直結クラッチに結合される前記入力要素および前記出力要素のいずれか一方と前記残りの1要素との間に前記ダンパ機構を介装したことを特徴とする請求項1に記載の車両用変速機の前後進切換装置。
【請求項1】
サンギヤと、リングギヤと、前記サンギヤおよび前記リングギヤの間で動力伝達を行う1つまたは2つのピニオンギヤを回転自在に支持したキャリアとの3要素からなる遊星歯車機構と、後進用逆転ブレーキと、直結クラッチとを備え、
前記3要素のうちの1要素を内燃機関から動力が伝達される入力軸に連結される入力要素とし、別の1要素を前記内燃機関の動力を出力する出力軸に連結される出力要素とし、残りの1要素を前記後進用逆転ブレーキで固定することにより前記入力軸への回転を逆転して前記出力軸に伝達し、前記3要素のうちの2要素を相互に前記直結クラッチで結合することにより、前記入力軸の回転を前記入力軸の回転方向と同一回転方向に前記出力軸に伝達するようにした車両用変速機の前後進切換装置において、
前記直結クラッチに結合される前記2要素の間にダンパ機構を介装したことを特徴とする車両用変速機の前後進切換装置。
【請求項2】
前記サンギヤの歯数を前記リングギヤの歯数で除した歯数比ρを1以下に設定するとともに、前記3要素のうちの入力要素と出力要素の捩じり角に対して前記ダンパ機構の捩じり角が小さくなるように、前記直結クラッチに結合される前記入力要素および前記出力要素のいずれか一方と前記残りの1要素との間に前記ダンパ機構を介装したことを特徴とする請求項1に記載の車両用変速機の前後進切換装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2011−43195(P2011−43195A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190819(P2009−190819)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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